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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】磁気式エンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20220428BHJP
   G01D 5/245 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
G01D5/244 A
G01D5/245 110M
G01D5/245 110B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018107423
(22)【出願日】2018-06-05
(65)【公開番号】P2019211327
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】川手 浩
(72)【発明者】
【氏名】森山 克也
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-004986(JP,A)
【文献】特開2007-271608(JP,A)
【文献】特開2001-165700(JP,A)
【文献】特開2016-194486(JP,A)
【文献】特開2017-143206(JP,A)
【文献】特開2007-198847(JP,A)
【文献】特開平01-244314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0091554(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/244-5/245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気スケールと、
前記磁気スケールの移動を検出する磁気センサと、を有し、
前記磁気スケールは、前記磁気スケールと前記磁気センサとの相対移動方向において予め定めた原点を境にN極とS極とが並ぶ第1着磁パターンと、前記相対移動方向と直交する直交方向で前記第1着磁パターンの隣に接して設けられ、前記相対移動方向で前記原点を境にS極とN極とが並び、前記直交方向において前記第1着磁パターンのN極の隣にS極が位置し、前記第1着磁パターンのS極の隣にN極が位置する第2着磁パターンと、を備え、
前記磁気センサは、前記磁気スケールの原点を検出するための原点検出用の磁気抵抗素子を備え、
前記原点検出用の磁気抵抗素子は、前記相対移動方向に感磁方向を向け、前記第1着磁パターンと前記第2着磁パターンとの境界を跨いで前記磁気スケールに対向することを特徴とする磁気式エンコーダ。
【請求項2】
前記磁気スケールは、前記相対移動方向に沿ってN極とS極とが交互に複数配列された第1磁気トラックを有し、
前記第1磁気トラックは、前記直交方向で前記第1着磁パターンの前記第2着磁パターンとは反対側に、前記第1着磁パターンと隙間を開けて設けられており、
前記第1着磁パターンのN極の着磁領域は、前記相対移動方向で前記原点の一方側に位置し、前記相対移動方向を前記原点から前記第1磁気トラックの前記一方側の端まで延びており、
前記第1着磁パターンのS極の着磁領域は、前記相対移動方向で前記原点の他方側に位置し、前記相対移動方向を前記原点から前記第1磁気トラックの前記他方側の端まで延びており、
前記第2着磁パターンのS極の着磁領域は、前記相対移動方向で前記原点の一方側に位置し、前記相対移動方向を前記原点から前記第1磁気トラックの前記一方側の端まで延びており、
前記第2着磁パターンのN極の着磁領域は、前記相対移動方向で前記原点の他方側に位置し、前記相対移動方向を前記原点から前記第1磁気トラックの前記他方側の端まで延びていることを特徴とする請求項1に記載の磁気式エンコーダ。
【請求項3】
前記第1磁気トラックは、直線状に延びており、
前記第1着磁パターンのN極の着磁領域では、残留磁束密度は一定であり、
前記第1着磁パターンのS極の着磁領域では、残留磁束密度は一定であり、
前記第2着磁パターンのS極の着磁領域では、残留磁束密度は一定であり、
前記第2着磁パターンのN極の着磁領域では、残留磁束密度は一定であることを特徴とする請求項2に記載の磁気式エンコーダ。
【請求項4】
前記第1着磁パターンのN極の着磁領域では、前記原点から前記相対移動方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下し、
前記第1着磁パターンのS極の着磁領域では、前記原点から前記相対移動方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下し、
前記第2着磁パターンのS極の着磁領域では、前記原点から前記相対移動方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下し、
前記第2着磁パターンのN極の着磁領域では、前記原点から前記相対移動方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下することを特徴とする請求項2に記載の磁気式エンコーダ。
【請求項5】
前記第1着磁パターンのN極の着磁領域では、前記相対移動方向の一方側の端で残留磁束密度がゼロであり、
前記第1着磁パターンのS極の着磁領域では、前記相対移動方向の他方側の端で残留磁束密度がゼロであり、
前記第2着磁パターンのS極の着磁領域では、前記相対移動方向の一方側の端で残留磁束密度がゼロであり、
前記第2着磁パターンのN極の着磁領域では、前記相対移動方向の他方側の端で残留磁束密度がゼロであることを特徴とする請求項4に記載の磁気式エンコーダ。
【請求項6】
前記第1磁気トラックは、円環状であり、
前記第1着磁パターンのN極の着磁領域の前記相対移動方向の一方側の端と、前記第1着磁パターンのS極の着磁領域の前記相対移動方向の他方側の端とが連続しており、
前記第2着磁パターンのS極の着磁領域の前記相対移動方向の一方側の端と、前記第2着磁パターンのN極の着磁領域の前記相対移動方向の他方側の端とが連続していることを特徴とする請求項5に記載の磁気式エンコーダ。
【請求項7】
前記第1着磁パターンの前記直交方向の幅と、前記第2着磁パターンの前記直交方向の幅とは同一であることを特徴とする請求項2から6のうちのいずれか一項に記載の磁気式エンコーダ。
【請求項8】
前記磁気スケールは、前記第1磁気トラックの前記第1着磁パターンとは反対側に当該第1磁気トラックと接して設けられ当該第1磁気トラックと平行に延びる第2磁気トラック、および、前記第2磁気トラックの前記第1磁気トラックとは反対側に当該第2磁気トラックと接して設けられ当該第2トラックと平行に延びる第3磁気トラック、を備え、
前記第2磁気トラックでは、前記相対移動方向に沿ってS極とN極とが交互に複数配列され、前記直交方向において前記第1磁気トラックのN極の隣にS極が位置し、前記第1磁気トラックのS極の隣にN極が位置し、
前記第3磁気トラックでは、前記相対移動方向に沿ってS極とN極とが交互に複数配列され、前記直交方向において前記第2磁気トラックのN極の隣にS極が位置し、前記第2磁気トラックのS極の隣にN極が位置することを特徴とする請求項2から7のうちのいずれか一項に記載の磁気式エンコーダ。
【請求項9】
前記磁気センサは、90°の位相差をもって前記磁気スケールの移動を検出するA相の磁気抵抗パターンおよびB相の磁気抵抗パターンを備え、
前記A相の磁気抵抗パターンは、180°の位相差を持って前記磁気スケールの移動を検出する+a相の磁気抵抗パターンおよび-a相の磁気抵抗パターンを備え、
前記B相の磁気抵抗パターンは、180°の位相差を持って前記磁気スケールの移動を検出する+b相の磁気抵抗パターンおよび-b相の磁気抵抗パターンを備え、
前記+a相の磁気抵抗パターンと、前記+b相の磁気抵抗パターンおよび前記-b相の磁気抵抗パターンの一方とは、前記相対移動方向に感磁方向を向け、前記第1磁気トラックと前記第2磁気トラックとの境界を跨いで前記磁気スケールと対向し、
前記-a相の磁気抵抗パターンと、前記+b相の磁気抵抗パターンおよび前記-b相の磁気抵抗パターンの他方とは、前記相対移動方向に感磁方向を向け、前記第2磁気トラックと前記第3磁気トラックとの境界を跨いで前記磁気スケールと対向することを特徴とする請求項8に記載の磁気式エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気スケールの原点を検出可能な磁気式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気式エンコーダは特許文献1、2に記載されている。特許文献1の磁気式エンコーダは、磁気スケールと、磁気スケールの移動を検出する磁気センサと、を有する。磁気スケールは、磁気スケールと磁気センサとの相対移動方向に延びる第1磁気トラックと、相対移動方向と直交する直交方向で第1磁気トラックに接して第1磁気トラックと平行に延びる第2磁気トラックと、直交方向で第2磁気トラックに接して第2磁気トラックと平行に延びる第3磁気トラックとを備える。磁気センサは、感磁方向を相対移動方向に向けて第1磁気トラックと第2磁気トラックとの境界に対向する第1磁気抵抗パターンと、感磁方向を相対移動方向に向けて第2磁気トラックと第3磁気トラックとの境界に対向する第2磁気抵抗パターンとを備える。磁気センサは、第1磁気抵抗パターンからの信号と第2磁気抵抗パターンからの信号に基づいて、磁気スケールの移動を検出する。第1磁気抵抗パターンおよび第2磁気抵抗パターンは、磁気スケールの表面で面内方向の向きが変化する回転磁界を検出する。
【0003】
特許文献2に記載の磁気式エンコーダは、円環状の磁気スケールと、磁気スケールの回転を検出する磁気センサと、を有する。磁気スケールは、磁気スケールと磁気センサとの相対移動方向である円周方向で交互に異なる磁極が着磁された磁気トラックを備える。また、磁気スケールは、予め設定した原点でN極またはS極に着磁された着磁部分を備える。磁気センサは、磁気トラックに対向する第1センサ素子と、着磁パターンに対向可能な第2センサ素子と、を備える。磁気センサは、第1センサ素子からの信号に基づいて磁気スケールの回転を検出する。また、磁気センサは、第2センサ素子からの信号に基づいて、磁気スケールの原点を検出する。第2センサ素子は、磁気スケールに設けられた着磁部分の強弱磁界を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-271608号公報
【文献】特開2007-198847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の磁気式エンコーダにおいても、磁気スケールに設定した原点を検出することが考えられる。しかし、磁気スケールの原点に着磁部分を設け、磁気センサによって着磁部分の強弱磁界を検出して原点を検出する場合には、外部磁界により、原点の検出精度が低下するという問題がある。すなわち、磁気式エンコーダに外部磁界が印加されると、磁気抵抗素子からの信号の振幅が変動してしまい、磁気抵抗素子からの信号に基づいて原点を正確に検出できない場合が発生する。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、外部磁界が印加された場合でも磁気スケールの原点を精度よく検出できる磁気式エンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の磁気式エンコーダは、磁気スケールと、前記磁気スケールの移動を検出する磁気センサと、を有し、前記磁気スケールは、前記磁気スケー
ルと前記磁気センサとの相対移動方向において予め定めた原点を境にN極とS極とが並ぶ第1着磁パターンと、前記相対移動方向と直交する直交方向で前記第1着磁パターンの隣に接して設けられ、前記相対移動方向で前記原点を境にS極とN極とが並び、前記直交方向において前記第1着磁パターンのN極の隣にS極が位置し、前記第1着磁パターンのS極の隣にN極が位置する第2着磁パターンと、を備え、前記磁気センサは、前記磁気スケールの原点を検出するための原点検出用の磁気抵抗素子を備え、前記原点検出用の磁気抵抗素子は、前記相対移動方向に感磁方向を向け、前記第1着磁パターンと前記第2着磁パターンとの境界を跨いで前記磁気スケールに対向することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、磁気スケールに設定した原点の周囲に設けられた第1着磁パターンおよび第2着磁パターンにより、磁気スケールの表面には面内方向の向きが変化する回転磁界が発生する。また、磁気センサが備える原点検出用の磁気抵抗素子は、第1着磁パターンと第2着磁パターンとの境界を跨いで磁気スケールに対向するので、回転磁界を検出できる。ここで、回転磁界を検出すれば、強弱磁界を検出する場合と比較して、外部磁界による影響を抑制できる。従って、磁気式エンコーダに外部磁界が印加された場合でも、原点を検出しやすい。
【0009】
本発明において、前記磁気スケールは、前記相対移動方向に沿ってN極とS極とが交互に複数配列された第1磁気トラックを有し、前記第1磁気トラックは、前記直交方向で前記第1着磁パターンの前記第2着磁パターンとは反対側に、前記第1着磁パターンと隙間を開けて設けられており、前記第1着磁パターンのN極の着磁領域は、前記相対移動方向で前記原点の一方側に位置し、前記相対移動方向を前記原点から前記第1磁気トラックの前記一方側の端まで延びており、前記第1着磁パターンのS極の着磁領域は、前記相対移動方向で前記原点の他方側に位置し、前記相対移動方向を前記原点から前記第1磁気トラックの前記他方側の端まで延びており、前記第2着磁パターンのS極の着磁領域は、前記相対移動方向で前記原点の一方側に位置し、前記相対移動方向を前記原点から前記第1磁気トラックの前記一方側の端まで延びており、前記第2着磁パターンのN極の着磁領域は、前記相対移動方向で前記原点の他方側に位置し、前記相対移動方向を前記原点から前記第1磁気トラックの前記他方側の端まで延びていることを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、第1磁気トラックの磁界を検出することにより、スケールの移動を検出できる。また、第1着磁パターンおよび第2着磁パターンは、相対移動方向で第1磁気トラックの全長に渡って設けられている。従って、第1磁気トラックの磁界の検出によりスケールの移動を検出する間に、第1着磁パターンおよび第2着磁パターンに起因する強弱磁界が発生することを防止できる。よって、磁気抵抗パターンからの信号に強弱磁界に起因する信号が含まれて、原点の検出精度が低下することを防止できる。すなわち、第1着磁パターンが第1磁気トラックよりも短い場合には、相対移動方向において第1着磁パターンの隣に無着磁領域が設けられる。この結果、第1着磁パターンと無着磁領域との境界で強弱磁界が発生するので、磁気抵抗パターンからの信号に強弱磁界に起因する成分が含まれて、歪みが発生する。同様に、第2着磁パターンが第1磁気トラックよりも短い場合には、相対移動方向において第2着磁パターンの隣に無着磁領域が設けられる。この結果、第2着磁パターンと無着磁領域との境界で強弱磁界が発生するので、磁気抵抗パターンからの信号に強弱磁界に起因する成分が含まれて、歪みが発生する。これに対して、第1着磁パターンを第1磁気トラックの全長に渡って設ければ、相対移動方向で第1着磁パターンの隣に無着磁領域が形成されないので、強弱磁界が発生しない。同様に、第2着磁パターンを第1磁気トラックの全長に渡って設ければ、相対移動方向で第2着磁パターンの隣に無着磁領域が形成されないので、強弱磁界が発生しない。これにより、磁気抵抗パターンからの信号に強弱磁界に起因する成分が含まれることはなく、磁気抵抗パターンからの信号に歪みが発生することがない。よって、原点の検出精度が低下することを防止できる。
【0011】
ここで、第1着磁パターンや第2着磁パターンの相対移動方向の端に強弱磁界が発生する場合には、第1着磁パターンや第2着磁パターンの着磁を強くすると、強弱磁界が大きくなる。この結果、磁気抵抗パターンからの信号に、強弱磁界に起因する成分が含まれやすなり、信号の歪みが増大する。よって、強弱磁界が発生する場合には、第1着磁パターンや第2着磁パターンの着磁を強くて、これらの残留磁束密度を高めることが困難である。これに対して、第1着磁パターンおよび第2着磁パターンは第1磁気トラックの全長に渡って設ければ、第1着磁パターンおよび第2着磁パターンの相対移動方向の端で強弱磁界が発生しない。従って、第1着磁パターンや第2着磁パターンの着磁を強くした場合でも、磁気抵抗パターンからの信号に歪みが発生することはない。よって、第1着磁パターンおよび第2着磁パターンの着磁を比較的強くて残留磁束密度を高めることができる。ここで、第1着磁パターンおよび第2着磁パターンの残留磁束密度が高ければ、磁気抵抗パターンからの信号の振幅を比較的大きくすることができる。従って、磁気スケールと磁気センサとのギャップが増大した場合でも、磁気抵抗パターンからの信号の振幅が小さくなることを抑制できる。よって、磁気スケールと磁気センサとのギャップの変動に拘わらず磁気抵抗パターンからの信号に基づいて原点を検出しやすくなる。
【0012】
本発明において、磁気スケールをリニアスケールとする場合には、前記第1磁気トラックは、直線状に延びており、前記第1着磁パターンのN極の着磁領域では、残留磁束密度は一定であり、前記第1着磁パターンのS極の着磁領域では、残留磁束密度は一定であり、前記第2着磁パターンのS極の着磁領域では、残留磁束密度は一定であり、前記第2着磁パターンのN極の着磁領域では、残留磁束密度は一定であるものとすることができる。
【0013】
本発明において、前記第1着磁パターンのN極の着磁領域では、前記原点から前記相対移動方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下し、前記第1着磁パターンのS極の着磁領域では、前記原点から前記相対移動方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下し、前記第2着磁パターンのS極の着磁領域では、前記原点から前記相対移動方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下し、前記第2着磁パターンのN極の着磁領域では、前記原点から前記相対移動方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下するものとすることができる。
【0014】
本発明において、前記第1着磁パターンのN極の着磁領域では、前記相対移動方向の一方側の端で残留磁束密度がゼロであり、前記第1着磁パターンのS極の着磁領域では、前記相対移動方向の他方側の端で残留磁束密度がゼロであり、前記第2着磁パターンのS極の着磁領域では、前記相対移動方向の一方側の端で残留磁束密度がゼロであり、前記第2着磁パターンのN極の着磁領域では、前記相対移動方向の他方側の端で残留磁束密度がゼロであるものとすることができる。
【0015】
本発明において、磁気スケールをロータリスケールとする場合には、前記第1磁気トラックは、円環状であり、前記第1着磁パターンのN極の着磁領域の前記相対移動方向の一方側の端と、前記第1着磁パターンのS極の着磁領域の前記相対移動方向の他方側の端とが連続しており、前記第2着磁パターンのS極の着磁領域の前記相対移動方向の一方側の端と、前記第2着磁パターンのN極の着磁領域の前記相対移動方向の他方側の端とが連続しているものとすることができる。
【0016】
本発明において、前記第1着磁パターンの前記直交方向の幅と、前記第2着磁パターンの前記直交方向の幅とは同一であることが望ましい。このようにすれば、第1着磁パターンおよび第2着磁パターンにより形成される回転磁界が均一なものとなる。従って、外部磁界が印加される方向に拘わらず、外部磁界が第1着磁パターンおよび第2着磁パターンの表面の回転磁界に及ぼす影響を低減できる。
【0017】
本発明において、前記磁気スケールは、前記第1磁気トラックの前記第1着磁パターンとは反対側に当該第1磁気トラックと接して設けられ当該第1磁気トラックと平行に延びる第2磁気トラック、および、前記第2磁気トラックの前記第1磁気トラックとは反対側に当該第2磁気トラックと接して設けられ当該第2トラックと平行に延びる第3磁気トラック、を備え、前記第2磁気トラックでは、前記相対移動方向に沿ってS極とN極とが交互に複数配列され、前記直交方向において前記第1磁気トラックのN極の隣にS極が位置し、前記第1磁気トラックのS極の隣にN極が位置し、前記第3磁気トラックでは、前記相対移動方向に沿ってS極とN極とが交互に複数配列され、前記直交方向において前記第2磁気トラックのN極の隣にS極が位置し、前記第2磁気トラックのS極の隣にN極が位置することを特徴とする。このようにすれば、第1磁気トラック、第2磁気トラック、および第3磁気トラックにより、磁気スケールの表面に、磁気スケールの移動を検出するための回転磁界を発生させることができる。
【0018】
本発明において、前記磁気センサは、90°の位相差をもって前記磁気スケールの移動を検出するA相の磁気抵抗パターンおよびB相の磁気抵抗パターンを備え、前記A相の磁気抵抗パターンは、180°の位相差を持って前記磁気スケールの移動を検出する+a相の磁気抵抗パターンおよび-a相の磁気抵抗パターンを備え、前記B相の磁気抵抗パターンは、180°の位相差を持って前記磁気スケールの移動を検出する+b相の磁気抵抗パターンおよび-b相の磁気抵抗パターンを備え、前記+a相の磁気抵抗パターンと、前記+b相の磁気抵抗パターンおよび前記-b相の磁気抵抗パターンの一方とは、前記相対移動方向に感磁方向を向け、前記第1磁気トラックと前記第2磁気トラックとの境界を跨いで前記磁気スケールと対向し、前記-a相の磁気抵抗パターンと、前記+b相の磁気抵抗パターンおよび前記-b相の磁気抵抗パターンの他方とは、前記相対移動方向に感磁方向を向け、前記第2磁気トラックと前記第3磁気トラックとの境界を跨いで前記磁気スケールと対向するものとすることができる。このようにすれば、第1磁気トラック、第2磁気トラック、および第3磁気トラックにより磁気スケールの表面に発生している回転磁界を検出して、磁気スケールの移動を検出できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁気スケールの表面の回転磁界を検出することにより、磁気スケールの原点を検出できる。回転磁界は、強弱磁界と比較して外部磁界による影響が少ないので、本発明によれば、外部磁界が印加された場合でも原点を検出しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を適用した実施例1の磁気式エンコーダの説明図である。
図2】磁気スケールの磁気トラックと磁気センサのセンサ基板の説明図である。
図3】A相の磁気抵抗パターンの各磁気抵抗パターンが構成する回路図、および、B相の磁気抵抗パターンの各磁気抵抗パターンが構成する回路図である。
図4】Z相の磁気抵抗パターンの各磁気抵抗パターンが構成する回路図である。
図5】実施例1の磁気式エンコーダにより得られる原点信号を示す図である。
図6】比較例の磁気式エンコーダの磁気スケールの説明図である。
図7】比較例の磁気式エンコーダにより得られる原点信号を示す図である。
図8】本例と比較例とにおいて、印加する外部磁界を増大させた場合の原点信号の振幅の変化を示すグラフである。
図9】変形例1の磁気式エンコーダの磁気スケールの説明図である。
図10】変形例1の磁気式エンコーダにより得られる原点信号の図である。
図11】実施例2磁気式エンコーダの説明図である。
図12】実施例3磁気式エンコーダの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した磁気式エンコーダを説明する。
【0022】
(実施例1)
図1は、本発明を適用した磁気式エンコーダの説明図である。図2(a)は磁気スケールの説明図であり、図2(b)は磁気センサのセンサ基板の説明図である。図2(b)ではセンサ基板を磁気スケールの側から見た場合を示す。
【0023】
本例の磁気式エンコーダ1はリニアエンコーダである。図1に示すように、磁気式エンコーダ1は、直線状に延びる磁気スケール2と、磁気スケール2を読み取る磁気センサ3と、を備える。磁気スケール2は、当該磁気スケール2と磁気センサ3との相対移動方向に延びるインクリメンタル信号用の磁気トラック5を備える。また、磁気スケール2は、相対移動方向と直交する直交方向でインクリメンタル信号用の磁気トラック5の隣に設けられた原点信号用の着磁パターン6を備える。
【0024】
以下の説明では、相対移動方向との直交方向をX方向、相対移動方向をY方向、X方向およびY方向と直交する方向をZ方向とする。Z方向は、磁気スケール2と磁気センサ3とが対向する方向である。X方向において、原点信号用の着磁パターン6からインクリメンタル信号用の磁気トラック5に向かう方向を+X方向、その反対方向を-X方向とする。Y方向の一方側を+Y方向、他方側を-Y方向とする。Z方向において、磁気スケール2から磁気センサ3に向かう方向を+Z方向、その反対方向を-Z方向とする。
【0025】
図1に示すように、磁気センサ3は、非磁性材料からなるホルダ7と、ホルダ7に収容されたセンサ基板8と、ホルダ7から+Y方向に延びるケーブル9を備える。ケーブル9はセンサ基板8に接続されている。ホルダ7は磁気スケール2と対向する対向面7aに開口部10を備える。センサ基板8は開口部10を介して磁気スケール2に対向する。図2(b)に示すように、センサ基板8において磁気スケール2に対向する基板面8aには、インクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子11と、原点検出用の磁気抵抗素子12とが設けられている。
【0026】
磁気式エンコーダ1は、磁気スケール2および磁気センサ3の一方が固定体の側に配置され、他方が移動体の側に配置される。本例では、磁気スケール2が移動体の側に配置され、磁気センサ3が固定体の側に配置される。磁気スケール2は、磁気センサ3とZ方向で所定のギャップを開けた状態で、Y方向に移動する。
【0027】
(磁気スケール)
図2(a)に示すように、磁気スケール2は、Y方向に延びるインクリメンタル信号用の磁気トラック5と、X方向でインクリメンタル信号用の磁気トラック5の隣に設けられた原点信号用の着磁パターン6を備える。インクリメンタル信号用の磁気トラック5と原点信号用の着磁パターン6との間には隙間14が設けられている。従って、インクリメンタル信号用の磁気トラック5は、原点信号用の着磁パターン6とX方向で離間する。
【0028】
(インクリメンタル信号用の磁気トラック)
インクリメンタル信号用の磁気トラック5は、並列に配置された第1磁気トラック15、第2磁気トラック16、および、第3磁気トラック17を備える。より具体的には、インクリメンタル信号用の磁気トラック5は、Y方向に延びる第1磁気トラック15と、第1磁気トラック15の+X方向に第1磁気トラック15と接して設けられて第1磁気トラック15と平行に延びる第2磁気トラック16と、第2磁気トラック16の+X方向に第2磁気トラック16と接して設けられて第2トラックと平行に延びる第3磁気トラック17、を備える。
【0029】
第1磁気トラック15では、Y方向に沿ってN極とS極とが一定のピッチPで交互に複数配列されている。第2磁気トラック16では、Y方向に沿ってS極とN極とが一定のピッチPで交互に複数配列されている。第2磁気トラック16では、X方向において第1磁気トラック15のN極の隣にS極が位置し、第1磁気トラック15のS極の隣にN極が位置する。第3磁気トラック17では、Y方向に沿ってS極とN極とが一定のピッチPで交互に複数配列されている。第3磁気トラック17では、X方向において第2磁気トラック16のN極の隣にS極が位置し、第2磁気トラック16のS極の隣にN極が位置する。本例では、第2トラックのX方向の幅は、第1磁気トラック15のX方向の幅と比較して広い。また、第2トラックのX方向の幅は、第3磁気トラック17のX方向の幅と比較して広い。
【0030】
(原点信号用の着磁パターン)
原点信号用の着磁パターン6は、Y方向において予め定めた原点Oを境にN極とS極とが並ぶ第1着磁パターン21を備える。本例では、原点Oは、Y方向におけるインクリメンタル信号用の磁気トラック5の中央に設定されている。第1着磁パターン21におけるN極とS極との間の着磁分極線は原点Oに位置する。また、原点信号用の着磁パターン6は、-X方向で第1着磁パターン21の隣に接して設けられた第2着磁パターン22を備える。第2着磁パターン22では、Y方向において予め定めた原点Oを境にS極とN極とが並ぶ。第2着磁パターン22では、X方向において第1着磁パターン21のN極の隣にS極が位置し、第1着磁パターン21のS極の隣にN極が位置する。第2着磁パターン22におけるN極とS極との間の着磁分極線は、原点Oに位置する。
【0031】
ここで、インクリメンタル信号用の各磁気トラック5(第1磁気トラック15、第2磁気トラック16、および第3磁気トラック17)におけるS極とN極との間の着磁分極線と原点Oとは、X方向から見た場合に重なっていない。インクリメンタル信号用の各磁気トラック5において、原点Oに最も近い着磁分極線は、原点OからY方向に1/2ピッチずれている。
【0032】
第1着磁パターン21のS極の着磁領域は、Y方向で原点Oの-Y方向に位置し、Y方向を原点Oからインクリメンタル信号用の磁気トラック5の-Y方向の端まで延びる。第1着磁パターン21のN極の着磁領域は、Y方向で原点Oの+Y方向に位置し、Y方向を原点Oからインクリメンタル信号用の磁気トラック5の+Y方向の端まで延びる。従って、第1着磁パターン21は、磁気センサ3が磁気スケール2の移動を検出する検出ストロークの全域に形成されている。第2着磁パターン22のN極の着磁領域は、Y方向で原点Oの-Y方向に位置し、Y方向を原点Oからインクリメンタル信号用の磁気トラック5の-Y方向の端まで延びる。第2着磁パターン22のS極の着磁領域は、Y方向で原点Oの+Y方向に位置し、Y方向を原点Oからインクリメンタル信号用の磁気トラック5の+Y方向の端まで延びる。従って、第2着磁パターン22は、磁気センサ3が磁気スケール2の移動を検出する検出ストロークの全域に形成されている。
【0033】
第1着磁パターン21のX方向の幅D1と第2着磁パターン22のX方向の幅D2は同一である。また、第1着磁パターン21のX方向の幅D1と、第1着磁パターン21と第1着磁トラックとの間の隙間14の寸法Eとは同一である。
【0034】
(磁気センサ)
センサ基板8は、ガラス或いはシリコンからなる。図2(b)に示すように、センサ基板8は、磁気スケール2と対向する基板面8aにインクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子11と、原点検出用の磁気抵抗素子12とを備える。インクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子11と、原点検出用の磁気抵抗素子12とは、X方向に配列されている。イ
ンクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子11は原点検出用の磁気抵抗素子12の+X方向に位置する。
【0035】
(インクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子)
インクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子11は、90°の位相差をもって磁気スケール2の移動を検出するA相の磁気抵抗パターン31およびB相の磁気抵抗パターン32を備える。A相の磁気抵抗パターン31は、180°の位相差を持って磁気スケール2の移動を検出する+a相の磁気抵抗パターン31(+a)および-a相の磁気抵抗パターン31(-a)を備える。B相の磁気抵抗パターン32は、180°の位相差を持って磁気スケール2の移動を検出する+b相の磁気抵抗パターン32(+b)および-b相の磁気抵抗パターン32(-b)を備える。+a相の磁気抵抗パターン31(+a)、+b相の磁気抵抗パターン32(+b)、-a相の磁気抵抗パターン31(-a)、および、-b相の磁気抵抗パターン32(-b)は、いずれも感磁方向をY方向に向けて設けられている。本例では、+a相の磁気抵抗パターン31(+a)と+b相の磁気抵抗パターン32(+b)とがX方向に配列されている。また、-a相の磁気抵抗パターン31(-a)と-b相の磁気抵抗パターン32(-b)とがX方向に配列されている。+a相の磁気抵抗パターン31(+a)と-b相の磁気抵抗パターン32(-b)とはY方向で隣り合う。-a相の磁気抵抗パターン31(-a)と+b相の磁気抵抗パターン32(+b)とはY方向で隣り合う。+a相の磁気抵抗パターン31(+a)、+b相の磁気抵抗パターン32(+b)、-b相の磁気抵抗パターン32(-b)、および、-a相の磁気抵抗パターン31(-a)は、基板面8aの互いに重ならない領域に単層で形成されている。
【0036】
磁気センサ3を磁気スケール2に対向させたときに、-a相の磁気抵抗パターン31(-a)と+b相の磁気抵抗パターン32(+b)とは、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の第1磁気トラック15と第2磁気トラック16との境界を跨いで磁気スケール2と対向する。これにより、-a相の磁気抵抗パターン31(-a)と+b相の磁気抵抗パターン32(+b)は、磁気スケール2において、X方向で隣り合う第1磁気トラック15と第2磁気トラック16の境界部分で発生する回転磁界を検出する。また、磁気センサ3を磁気スケール2に対向させたときに、+a相の磁気抵抗パターン31(+a)と-b相の磁気抵抗パターン32(-b)とは、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の第2磁気トラック16と第3磁気トラック17との境界を跨いで磁気スケール2と対向する。これにより、+a相の磁気抵抗パターン31(+a)と-b相の磁気抵抗パターン32(-b)は、X方向で隣り合う第2磁気トラック16と第3磁気トラック17の境界部分で発生する回転磁界を検出する。
【0037】
また、インクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子11は、その飽和感度領域を利用して回転磁界を検出する。すなわち、インクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子11は、+a相の磁気抵抗パターン31(+a)、+b相の磁気抵抗パターン32(+b)、-b相の磁気抵抗パターン32(-b)および-a相の磁気抵抗パターン31(-a)に電流を流し、かつ、抵抗値が飽和する磁界強度を印加して、境界部分で面内方向の向きが変化する回転磁界を検出する。
【0038】
図3(a)はA相の磁気抵抗パターン31の各磁気抵抗パターンが構成する回路図であり、図3(b)はB相の磁気抵抗パターン32の各磁気抵抗パターンが構成する回路図である。+a相の磁気抵抗パターン31(+a)および-a相の磁気抵抗パターン31(-a)は、図3(a)に示すように、ブリッジ回路を構成しており、いずれも一方端が電源端子(Vcc)に接続され、他方端がグランド端子(GND)に接続されている。また、+a相の磁気抵抗パターン31(+a)の中点位置には、+a相が出力される端子+aが設けられ、-a相の磁気抵抗パターン31(-a)の中点位置には、-a相が出力される端子-aが設けられる。従って、端子+a、端子-aからの出力を減算器に入力すれば歪
の少ない正弦波の差動出力を得ることができる。
【0039】
同様に、+b相の磁気抵抗パターン32(+b)および-b相の磁気抵抗パターン32(-b)は、図3(b)に示すように、ブリッジ回路を構成しており、いずれも一方端が電源端子(Vcc)に接続され、他方端がグランド端子(GND)に接続されている。+b相の磁気抵抗パターン32(+b)の中点位置には、+b相が出力される端子+bが設けられ、-b相の磁気抵抗パターン32(-b)の中点位置には、-b相が出力される端子-bが設けられる。従って、端子+b、端子-bからの出力を減算器に入力すれば歪の少ない正弦波の差動出力を得ることができる。
【0040】
(原点検出用の磁気抵抗素子)
原点検出用の磁気抵抗素子12は、180°の位相差を持って磁気スケール2の移動を検出する+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)を備える。+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)は、いずれも感磁方向をY方向に向けて設けられている。
【0041】
磁気センサ3を磁気スケール2に対向させたときに、+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)は、原点信号用の着磁パターン6の第1着磁パターン21と第2着磁パターン22の境界を跨いで磁気スケール2と対向する。+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)は、磁気スケール2において、X方向で隣り合う第1着磁パターン21と第2着磁パターン22の境界部分で発生する回転磁界を検出する。ここで、原点検出用の磁気抵抗素子12は、その飽和感度領域を利用して回転磁界を検出する。すなわち、+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)に電流を流し、かつ、抵抗値が飽和する磁界強度を印加して、境界部分で面内方向の向きが変化する回転磁界を検出する。
【0042】
図4は+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)が構成する回路図である。+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)は、図4に示すように、ブリッジ回路を構成しており、いずれも一方端が電源端子(Vcc)に接続され、他方端がグランド端子(GND)に接続されている。また、+z相の磁気抵抗パターン35(+z)の中点位置には、+z相が出力される端子+zが設けられ、-z相の磁気抵抗パターン35(-z)の中点位置には、-z相が出力される端子-zが設けられる。従って、端子+z、端子-zからの出力を減算器に入力すれば、原点Oにおいて振幅が大となる原点信号Sを得ることができる。図5は原点信号Sを示す図である。
【0043】
(作用効果)
本例の磁気式エンコーダ1によれば、磁気スケール2に設定した原点Oを境に設けられた第1着磁パターン21および第2着磁パターン22により、磁気スケール2の表面には面内方向の向きが変化する回転磁界が発生する。また、磁気センサ3が備える原点検出用の磁気抵抗素子は、第1着磁パターン21と第2着磁パターン22との境界を跨いで磁気スケール2に対向するので、この回転磁界を検出する。ここで、回転磁界を検出すれば、強弱磁界を検出する場合と比較して、外部磁界による影響を抑制できる。
【0044】
また、本例では、原点信号用の着磁パターン6(第1着磁パターン21および第2着磁パターン22)は、Y方向(相対移動方向)でインクリメンタル信号用の磁気トラック5(第1磁気トラック15、第2磁気トラック16および第3磁気トラック17)の全長に渡って設けられている。従って、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の磁界の検出により磁気スケール2の移動を検出する検出ストロークの全域において、第1着磁パター
ン21および第2着磁パターン22に起因する強弱磁界が発生することを防止できる。よって、磁気抵抗パターンからの信号に強弱磁界に起因する信号が含まれて、原点Oの検出精度が低下することを防止できる。
【0045】
すなわち、第1着磁パターン21がインクリメンタル信号用の磁気トラック5よりも短い場合には、Y方向において第1着磁パターン21の隣に無着磁領域が設けられる。この結果、第1着磁パターン21と無着磁領域との境界で強弱磁界が発生するので、磁気抵抗パターンからの信号に強弱磁界に起因する信号が含まれ、歪みが発生する。同様に、第2着磁パターン22がインクリメンタル信号用の磁気トラック5よりも短い場合には、Y方向において第2着磁パターン22の隣に無着磁領域が設けられる。この結果、第2着磁パターン22と無着磁領域との境界で強弱磁界が発生するので、磁気抵抗パターンからの信号に強弱磁界に起因する信号が含まれ、歪みが発生する。これに対して、第1着磁パターン21をインクリメンタル信号用の磁気トラック5の全長に渡って設ければ、Y方向で第1着磁パターン21の隣に無着磁領域が形成されないので、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の磁界の検出により磁気スケール2の移動を検出する検出ストロークの全域において、強弱磁界が発生しない。同様に、第2着磁パターン22をインクリメンタル信号用の磁気トラック5の全長に渡って設ければ、Y方向で第2着磁パターン22の隣に無着磁領域が形成されないので、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の磁界の検出により磁気スケール2の移動を検出する検出ストロークの全域において、強弱磁界が発生しない。これにより、磁気抵抗パターンからの信号に強弱磁界に起因する歪みが発生することを防止できるので、原点Oの検出精度が低下することを防止できる。
【0046】
また、第1着磁パターン21や第2着磁パターン22のY方向の端に強弱磁界が発生する場合には、第1着磁パターン21や第2着磁パターン22の着磁を強くすると、強弱磁界が大きくなる。この結果、磁気抵抗パターンからの信号に、強弱磁界に起因する成分が含まれやすなり、信号の歪みが増大する。よって、強弱磁界が発生する場合には、第1着磁パターン21や第2着磁パターン22の着磁を強くて、これらの残留磁束密度を高めることが困難である。これに対して、第1着磁パターン21および第2着磁パターン22はインクリメンタル信号用の磁気トラック5の全長に渡って設けられていれば、第1着磁パターン21および第2着磁パターン22のY方向の端で強弱磁界が発生しない。従って、第1着磁パターン21や第2着磁パターン22の着磁を強くした場合でも、磁気抵抗パターンからの信号に歪みが発生することはない。よって、第1着磁パターン21および第2着磁パターン22の着磁を比較的強くて残留磁束密度を高めることができる。
【0047】
さらに、第1着磁パターン21および第2着磁パターン22の残留磁束密度を高くすることができれば、磁気抵抗パターンからの信号の振幅を比較的大きくすることができる。従って、磁気スケール2と磁気センサ3とのギャップが増大した場合でも、磁気抵抗パターンからの信号の振幅が小さくなることを抑制できる。よって、磁気スケール2と磁気センサ3とのギャップの変動に拘わらず、磁気抵抗パターンからの信号に基づいて原点Oを検出しやすくなる。
【0048】
ここで、図5(a)では、磁気式エンコーダ1に対して外部磁界が印加されていない場合の原点信号S(0mT)と、0.4mTの外部磁界が+Y方向に印加されている場合の原点信号S(0.4mTY)と、0.4mTの外部磁界が+Y方向に対して45°傾斜している方向に印加されている場合の原点信号S(0.4mT45°)と、0.4mTの外部磁界が+X方向に印加されている場合の原点信号S(0.4mTX)と、を重ねて示している。また、図5(b)では、磁気式エンコーダ1に対して外部磁界が印加されていない場合の原点信号S(0mT)と、2.0mTの外部磁界が+Y方向に印加されている場合の原点信号S(2mTY)と、2.0mTの外部磁界が+Y方向に対して45°傾斜している方向に印加されている場合の原点信号S(2mT45°)と、2.0mTの外部磁
界が+X方向に印加されている場合の原点信号S(2mTX)と、を重ねて示している。原点信号Sはシミュレーションにより取得したものである。図5に示す例において、原点信号用の着磁パターン6(第1着磁パターン21および第2着磁パターン22)の残留磁束密度は4mTである。
【0049】
図5(a)および図5(b)に示すように、磁気式エンコーダ1に対して外部磁界が印加されていない場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号S(0mT)は、原点Oにおいて一つの大きなピークが現れている。従って、本例の磁気式エンコーダ1によれば、原点信号Sのピークに基づいて原点Oを正確に検出できる。
【0050】
ここで、図5(a)に示すように、磁気式エンコーダ1に0.4mTの外部磁界が印加されている場合に磁気抵抗素子12からの出力により取得できる原点信号S(0.4mT)、原点信号S(0.4mTY)、原点信号S(0.4mT45°)、原点信号S(0.4mTX)と、磁気式エンコーダ1に外部磁界が印加されていない場合に磁気抵抗素子12からの出力により取得できる原点信号S(0mT)とは、ほぼ一致している。すなわち、本例の磁気式エンコーダ1では、0.4mTの外部磁界が印加された場合でも、原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号Sの振幅は、変化せず、原点信号Sの波形に歪みも発生しない。従って、磁気式エンコーダ1によれば、磁気スケール2に0.4mTの外部磁界が印加された場合でも、原点信号Sに基づいて、原点Oを正確に取得できる。
【0051】
また、図5(b)に示すように、磁気式エンコーダ1に2.0mTの外部磁界が印加された場合に磁気抵抗素子12からの出力により取得できる原点信号(2mTY)、原点信号S(2mT45°)、原点信号S(2mTX)は、外部磁界が印加されていない場合に磁気抵抗素子12からの出力により取得できる原点信号S(0mT)と比較して、振幅の減少が認められる。しかし、図5(b)に示すように、原点信号S(0mT)に対する原点信号(2mTY)、原点信号S(2mT45°)および原点信号S(2mTX)の振幅の減少はごく僅かである。また、外部磁界が印加された場合でも、原点信号Sの波形に歪みは発生していない。従って、本例の磁気式エンコーダ1によれば、磁気スケール2に2.0mTの外部磁界が印加された場合でも、原点信号Sに基づいて、原点Oを正確に取得できる。
【0052】
(比較例)
ここで、比較例として、強弱磁界を利用して原点Oを検出する磁気式エンコーダを説明する。図6は比較例の磁気式エンコーダの磁気スケールの説明図である。なお、比較例の磁気式エンコーダ50は磁気式エンコーダ1と対応する構成を備えるので、対応する構成には同一の符号を付して説明する。
【0053】
図6に示すように、比較例の磁気式エンコーダ50の磁気スケール2は、本例の磁気スケール2と同一のインクリメンタル信号用の磁気トラック5を備える。また、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の-X方向に、原点信号用の着磁パターン51を備える。原点信号用の着磁パターン51は、Y方向において予め定めた原点Oを境にN極とS極とが並ぶ。着磁パターン51におけるN極とS極との間の着磁分極線は原点Oに位置する。原点信号用の着磁パターン51のN極の着磁領域のY方向の長さは、インクリメンタル信号用の着磁トラックにおける各極のピッチPの1/2である。原点信号用の着磁パターン51のS極の着磁領域のY方向の長さも、インクリメンタル信号用の着磁トラックにおける各極の着磁ピッチPの1/2である。
【0054】
磁気センサ3は、磁気センサ3と同一である。磁気センサ3を磁気スケール2に対向させたときに、-a相の磁気抵抗パターン31(-a)と+b相の磁気抵抗パターン32(
+b)とは、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の第1磁気トラック15と第2磁気トラック16との境界を跨いで磁気スケール2と対向する。-a相の磁気抵抗パターン31(-a)と+b相の磁気抵抗パターン32(+b)は、磁気スケール2において、X方向で隣り合う第1磁気トラック15と第2磁気トラック16の境界部分で発生する回転磁界を検出する。また、磁気センサ3を磁気スケール2に対向させたときに、+a相の磁気抵抗パターン31(+a)と-b相の磁気抵抗パターン32(-b)とは、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の第2磁気トラック16と第3磁気トラック17との境界を跨いで磁気スケール2と対向する。+a相の磁気抵抗パターン31(+a)と-b相の磁気抵抗パターン32(-b)は、X方向で隣り合う第2磁気トラック16と第3磁気トラック17の境界部分で発生する回転磁界を検出する。
【0055】
また、インクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子11は、その飽和感度領域を利用して回転磁界を検出する。すなわち、+a相の磁気抵抗パターン31(+a)、-b相の磁気抵抗パターン32(-b)、+b相の磁気抵抗パターン32(+b)および-a相の磁気抵抗パターン31(-a)に電流を流し、かつ、抵抗値が飽和する磁界強度を印加して、境界部分で面内方向の向きが変化する回転磁界を検出する。
【0056】
一方、比較例の磁気式エンコーダ50では、磁気センサ3を磁気スケール2に対向させたときに、+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)は、原点信号用の着磁パターン51の着磁部分に対向する。+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)は、原点信号用の着磁パターン51が発生させる強弱磁界を検出する。なお、+z相の磁気抵抗パターン35(+z)および-z相の磁気抵抗パターン35(-z)に基づいて、原点信号Sを取得する構成は磁気式エンコーダ1と同一である。
【0057】
図7は比較例の磁気式エンコーダ50において原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号S1の説明図である。図7では、磁気式エンコーダ50に対して外部磁界が印加されていない場合の原点信号S1(0mT)と、0.4mTの外部磁界が+Y方向に印加されている場合の原点信号S1(0.4mTY+)と、0.4mTの外部磁界が-Y方向に印加されている場合の原点信号S1(0.4mTY-)と、0.4mTの外部磁界が+X方向に印加されている場合の原点信号S1(0.4mTX)と、を重ねて示す。各原点信号S1のグラフはシミュレーションにより取得される。原点信号用の着磁パターン51の残留磁束密度は2mTである。
【0058】
図7に示すように、比較例において、磁気式エンコーダ50に対して外部磁界が印加されていない場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号S1(0mT)は、原点Oにおいてピークが現れている。従って、かかるピークに基づいて原点Oを取得できる。
【0059】
しかし、磁気式エンコーダ50に0.4mTの外部磁界が印加された場合には、磁気抵抗素子12からの出力により取得できる原点信号S1(0.4mTY+)、原点信号S1(0.4mTY-)、および原点信号S1(0.4mTX)の振幅は、外部磁界が印加されていない場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号Sと比較して、変動している。また、磁気スケール2に0.4mTの外部磁界が印加された場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号S1(0.4mTY+)、原点信号S1(0.4mTY-)、および原点信号S1(0.4mTX)の波形は、外部磁界が印加されていない場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号S1(0mT)の波形と比較して歪んでいる。ここで、図5に示される本例の磁気式エンコーダ1の原点信号Sと図7に示される比較例の磁気式エンコーダ50に原点信号S1とを比較すれば、本例の磁気式エンコーダ1が、外部磁界の影響を受けず
に、原点Oを精度良く検出できることが明らかである。
【0060】
なお、比較例の磁気式エンコーダ50では、2mTの外部磁界を印加した場合の原点信号S1をシミュレーションにより得ることは困難である。換言すれば、比較例の磁気式エンコーダ50において、2mTの外部磁界を印加した場合には、原点を検出することが困難である。
【0061】
次に、図8は、本例の磁気式エンコーダ50に印加する外部磁界を増大させた場合の原点信号Sの振幅の変化と、比較例の磁気式エンコーダ50に印加する外部磁界を増大させた場合の原点信号S1の振幅の変化とを示すグラフである。図8では、外部磁界を+X方向、+Y方向、-Y方向、+Z方向に印加した場合の振幅の変化をそれぞれ示す。
【0062】
図8に示すように、本例では、印加する外部磁界を増大させた場合でも、原点信号Sの振幅の低下は、ほとんどない。また、外部磁界の印加の方向に拘わらず、原点信号Sの振幅の低下は、ほとんどない。一方、比較例では、外部磁界の印加の方向に拘わらず、印加する外部磁界を増大させるのに伴って原点信号S1の振幅が顕著に低下する。従って、本例の磁気式エンコーダ50によれば、外部磁界の影響を受けずに、原点Oを精度良く検出できることが判る。
【0063】
ここで、本例では、第1着磁パターン21の幅寸法D1と、第2着磁パターン22の直交方向の幅とは同一である。これにより、第1着磁パターン21および第2着磁パターン22により形成される回転磁界が均一なものとなる。従って、外部磁界が印加される方向に拘わらず、外部磁界が第1着磁パターン21および第2着磁パターン22の表面の回転磁界に及ぼす影響を低減できる。
【0064】
また、本例では、インクリメンタル信号用の磁気トラック5は、並列に延びる第1磁気トラック15、第2磁気トラック16、および第3磁気トラック17を備え、磁気スケール2の表面に、磁気スケール2の移動を検出するための回転磁界を発生させる。一方、インクリメンタル信号検出用の磁気抵抗素子は、第1磁気トラック15、第2磁気トラック16、および第3磁気トラック17により磁気スケール2の表面に発生している回転磁界を検出する。また、インクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子11は、その飽和感度領域を利用して回転磁界を検出する。従って、インクリメンタル信号についても、外部磁界の影響を受けずに、取得できる。
【0065】
(変形例1)
図9は変形例1の磁気式エンコーダ1Aの磁気スケール2の説明図である。図9では、第1着磁パターン21および第2着磁パターン22における残留磁束密度の強弱を、濃淡で示す。なお、変形例1の磁気式エンコーダ1Aは、磁気スケール2における第1着磁パターン21のN極の着磁領域の着磁方法およびS極の着磁領域の着磁方法、並びに、第2着磁パターン22のN極の着磁領域の着磁方法およびS極の着磁領域の着磁方法が上記の磁気式エンコーダ1Aと相違する。しかし、他の構成は、磁気式エンコーダ1Aと同一である。従って、第1着磁パターン21のN極の着磁領域およびS極の着磁領域、並びに、第2着磁パターン22のN極の着磁領域およびS極の着磁領域について説明して、他の説明は省略する。
【0066】
本例では、第1着磁パターン21のN極の着磁領域では、原点Oから+Y方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下している。また、第1着磁パターン21のS極の着磁領域では、原点Oから-Y方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下している。同様に、第2着磁パターン22のS極の着磁領域では、原点Oから+Y方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下している。また、第2着磁パターン22のN極の着磁領域では、原点Oか
ら-Y方向に離れるのに伴って残留磁束密度が低下している。
【0067】
さらに、本例では、第1着磁パターン21のN極の着磁領域では、+Y方向の端で残留磁束密度がゼロである。また、第1着磁パターン21のS極の着磁領域では、-Y方向の他方側の端で残留磁束密度がゼロである。同様に、第2着磁パターン22のS極の着磁領域では、+Y方向の端で残留磁束密度がゼロである。第2着磁パターン22のN極の着磁領域では、-Y方向の端で残留磁束密度がゼロである。
【0068】
図10は変形例1の磁気式エンコーダ1Aにより得られる原点信号Sの説明図である。図10(a)では、磁気式エンコーダ1Aに対して外部磁界が印加されていない場合の原点信号S(0mT)と、0.4mTの外部磁界が+Y方向に印加されている場合の原点信号S(0.4mTY)と、0.4mTの外部磁界が+Y方向に対して45°傾斜している方向に印加されている場合の原点信号S(0.4mT45°)と、0.4mTの外部磁界が+X方向に印加されている場合の原点信号S(0.4mTX)と、を重ねて示している。また、図10(b)では、磁気式エンコーダ1Aに対して外部磁界が印加されていない場合の原点信号S(0mT)と、2.0mTの外部磁界が+Y方向に印加されている場合の原点信号S(2mTY)と、2.0mTの外部磁界が+Y方向に対して45°傾斜している方向に印加されている場合の原点信号S(2mT45°)と、2.0mTの外部磁界が+X方向に印加されている場合の原点信号S(2mTX)と、を重ねて示している。原点信号Sの波形はシミュレーションにより取得した。図10に示す例において、原点信号用の着磁パターン6(第1着磁パターン21および第2着磁パターン22)の残留磁束密度は4mTである。
【0069】
図10(a)に示すように、磁気式エンコーダ1Aに対して外部磁界が印加されていない場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号S(0mT)は、原点Oにおいて一つの大きなピークが現れている。従って、本例の磁気式エンコーダ1Aによれば、原点信号Sのピークに基づいて原点Oを正確に検出できる。
【0070】
また、図10(a)に示すように、磁気式エンコーダ1Aに0.4mTの外部磁界が印加された場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号S(0.4mTY)、原点信号S(0.4mT45°)、原点信号S(0.4mTX)は、外部磁界が印加されていない場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号S(0mT)とほぼ一致している。すなわち、磁気スケール2に0.4mTの外部磁界が印加された場合でも、原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号Sの振幅は、変化せず、原点信号Sの波形に歪みも発生していない。従って、本例の磁気式エンコーダ1Aによれば、磁気スケール2に0.4mTの外部磁界が印加された場合でも、原点信号Sに基づいて、原点Oを正確に取得できる。
【0071】
また、図10(b)に示すように、磁気式エンコーダ1Aに対して2.0mTの外部磁界が印加された場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号S(2mT45°)、原点信号S(2mTX)は、外部磁界が印加されていない場合に原点検出用の磁気抵抗素子12からの出力により得られる原点信号Sと比較して、振幅の減少が認められる。しかし、図10(b)に示すように、原点信号Sの振幅の減少はごく僅かである。また、外部磁界が印加された場合でも、原点信号Sの波形に歪みは発生していない。従って、本例の磁気式エンコーダ1Aによれば、磁気スケール2に2.0mTの外部磁界が印加された場合でも、原点信号Sに基づいて、原点Oを正確に取得できる。
【0072】
このように、変形例1の磁気式エンコーダ1Aにいても、上記の磁気式エンコーダ1と同一の作用効果を得ることができる。
【0073】
(実施例2)
図11は実施例2の磁気式エンコーダの説明図である。図11では、磁気スケール2における第1着磁パターン21および第2着磁パターン22における残留磁束密度の強弱を、濃淡で示す。実施例2の磁気式エンコーダ1Bは、ロータリコンコーダである。本例の磁気式エンコーダ1Bは、実施例1の磁気式エンコーダ1と対応する構成を備えるので、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0074】
磁気式エンコーダ1Bの磁気スケール2は円筒形状である。磁気スケール2の外周面には、インクリメンタル信号用の磁気トラック5と原点信号用の着磁パターン6が設けられている。磁気センサ3は、磁気スケール2の径方向の外側から磁気スケール2に対向する。磁気スケール2と磁気センサ3とは、磁気スケール2の軸線L回りの周方向で相対回転する。ここで、磁気センサ3は実施例1と同一である。
【0075】
本例では、インクリメンタル信号用の磁気トラック5は環状である。また、原点信号用の着磁パターン6も環状である。原点信号用の着磁パターン6における第1着磁パターン21のN極の着磁領域では、原点Oから相対回転方向の一方側に離れるのに伴って残留磁束密度が低下している。第1着磁パターン21のS極の着磁領域では、原点Oから相対回転方向の他方側に離れるのに伴って残留磁束密度が低下している。同様に、原点信号用の着磁パターン6における第2着磁パターン22のS極の着磁領域では、原点Oから相対回転方向の一方側に離れるのに伴って残留磁束密度が低下している。第2着磁パターン22のN極の着磁領域では、原点Oから相対回転方向の他方側に離れるのに伴って残留磁束密度が低下している。
【0076】
また、第1着磁パターン21のN極の着磁領域では、相対回転方向の一方側の端で残留磁束密度がゼロである。第1着磁パターン21のS極の着磁領域では、相対回転方向の他方側の他方側の端で残留磁束密度がゼロである。そして、第1着磁パターン21のN極の着磁領域の一方側の端と、第1着磁パターン21のS極の着磁領域の他方側の端とは、連続している。同様に、第2着磁パターン22のS極の着磁領域では、相対回転方向の一方側の端で残留磁束密度がゼロである。第2着磁パターン22のN極の着磁領域では、相対回転方向の他方側の端で残留磁束密度がゼロである。そして、第2着磁パターン22のS極の着磁領域の一方側の端と、第2着磁パターン22のN極の着磁領域の他方側の端とは、連続している。
【0077】
本例の磁気式エンコーダ1Bにおいても、実施例1の磁気式エンコーダ1Bと同様の作用効果を得ることができる。
【0078】
(実施例3)
図12は実施例3の磁気式エンコーダの説明図である。図12では、第1着磁パターン21および第2着磁パターン22における残留磁束密度の強弱を、濃淡で示す。実施例3の磁気式エンコーダ1Cは、ロータリコンコーダである。本例の磁気式エンコーダ1Cは、実施例2の磁気式エンコーダ1と対応する構成を備えるので、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0079】
本例では、磁気スケール2を円盤状として、その軸線L方向の一方の面に、環状のインクリメンタル信号用の磁気トラック5を設ける。また、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の外周側、或いは、内周側に、インクリメンタル信号用の磁気トラック5と隙間14を開けて環状の原点信号用の着磁パターン6を設ける。磁気センサ3は、軸線L方向から磁気スケール2に対向させる。
【0080】
本例の磁気式エンコーダ1Cにおいても、実施例1の磁気式エンコーダ1Bと同様の作
用効果を得ることができる。
【0081】
(その他の実施の形態)
上記の例では、磁気スケール2と磁気センサ3との相対移動方向において、原点信号用の着磁パターン6をインクリメンタル信号用の磁気トラック5の全域に設けているが、原点信号用の着磁パターン6をインクリメンタル信号用の磁気トラック5の全長より短くしてもよい。この場合でも、磁気センサ3によって原点信号用の着磁パターン6の回転磁界を検出して原点を取得すれば、比較例の磁気式エンコーダ50のように強弱磁界を検出して原点を取得する場合と比較して、外部磁界の影響が少ない。
【0082】
ここで、原点信号用の着磁パターン6を、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の全長よりも短くする場合には、実施例2の磁気式エンコーダ1Aの磁気スケールと同様に、原点信号用の着磁パターン6における第1着磁パターン21のN極の着磁領域では、原点Oから相対回転方向の一方側に離れるのに伴って残留磁束密度を低下させる。第1着磁パターン21のS極の着磁領域では、原点Oから相対回転方向の他方側に離れるのに伴って残留磁束密度を低下させる。同様に、原点信号用の着磁パターン6における第2着磁パターン22のS極の着磁領域では、原点Oから相対回転方向の一方側に離れるのに伴って残留磁束密度を低下させる。第2着磁パターン22のN極の着磁領域では、原点Oから相対回転方向の他方側に離れるのに伴って残留磁束密度を低下させる。このようにすれば、原点信号用の着磁パターン6Yにおける相対移動方向の両端で強弱時間が発生することを防止或いは抑制できる。
【0083】
また、原点信号用の着磁パターン6を、インクリメンタル信号用の磁気トラック5の全長よりも短くする場合には、相対移動方向で磁気スケール2に複数の原点0を設定し、各原点0に原点信号用の着磁パターン6を設けることができる。このようにすれば、磁気式エンコーダにより複数の原点を検出できる。
【0084】
なお、上記の例では、インクリメンタル信号の取得に回転磁界を利用しているが、インクリメンタル信号の取得に強弱磁界を利用してもよい。この場合には、磁気スケール2に設けるインクリメンタル信号用の磁気トラック5は、第1磁気トラック15のみとすることができる。
【0085】
また、センサ基板8の基板面8aに、インクリメンタル信号検出用の磁気抵抗素子の+a相の磁気抵抗パターン、-a相の磁気抵抗パターン、+b相の磁気抵抗パターン、および、-b相の磁気抵抗パターンを積層して設けてもよい。この場合には、インクリメンタル信号用の磁気トラック5は、例えば、第1磁気トラック15と第2磁気トラック16の2本とすることができる。また、この場合には、センサ基板8上に積層したインクリメンタル信号検出用の磁気抵抗素子が、第1磁気トラック15と第2磁気トラック16との境界を跨いで磁気スケール2に対向するものとする。
【符号の説明】
【0086】
1・1A・1B・1C…磁気式エンコーダ、2…磁気スケール、3…磁気センサ、5…インクリメンタル信号用の磁気トラック、6…原点信号用の磁気パターン、7…ホルダ、7a…対向面、8…センサ基板、8a…基板面、9…ケーブル、10…開口部、11…インクリメンタル信号取得用の磁気抵抗素子、12…原点検出用の磁気抵抗素子、14…隙間、15…第1磁気トラック、16…第2磁気トラック、17…第3磁気トラック、21…第1着磁パターン、22…第2着磁パターン、31…A相の磁気抵抗パターン、31(+a)…+a相の磁気抵抗パターン、31(-a)…-a相の磁気抵抗パターン、32…B相の磁気抵抗パターン、32(+b)…+b相の磁気抵抗パターン、32(-b)…-b相の磁気抵抗パターン、35…Z相の磁気抵抗パターン、35(+z)…+z相の磁気抵
抗パターン、35(-z)…-z相の磁気抵抗パターン、50…比較例の磁気式エンコーダ、51…比較例における原点信号用の着磁パターン、S・S1…原点信号
図1
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