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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】回転伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/118 20060101AFI20220428BHJP
   F16D 27/112 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
F16D27/118
F16D27/112 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018173779
(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公開番号】P2020045946
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-187249(JP,A)
【文献】実開平01-117928(JP,U)
【文献】実公昭33-016807(JP,Y1)
【文献】実開昭58-052333(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/02-27/118
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に配置される第一軸と第二軸との相互間で回転の伝達と遮断とを行う回転伝達装置であって、
前記第二軸に一体回転可能に設けられ、軸方向を向く噛合部を有する外方部材と、
前記第一軸に一体回転可能に設けられ、前記外方部材の内側で前記外方部材に対して相対回転可能に支持される内方部材と、
前記内方部材に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動可能に設けられ、前記外方部材の噛合部に向かって軸方向に突き出す係合突部を有する筒状のスライダと、
前記スライダの外方に前記内方部材に対して回転可能に配置され、前記スライダを、その係合突部が前記外方部材の噛合部に係合する係合位置と、前記外方部材の噛合部との係合が解除される係合解除位置との間で、軸方向に移動可能に保持する環状の保持器と、
前記内方部材に取り付けられ、前記内方部材に対する前記保持器の相対回転により弾性変形し、その復元弾性により前記スライダが前記係合解除位置にある状態へ前記保持器を復帰回転させるスイッチばねと、
前記内方部材に対して相対回転可能に、かつ前記保持器と一体回転するアーマチュアと、
前記外方部材に対して一体回転し、前記アーマチュアと軸方向に対向するロータと、
前記ロータと軸方向で対向し、通電により前記アーマチュアをロータに吸着させる電磁石とを有し、
前記保持器と前記アーマチュアは、それぞれ別体であり、前記保持器は軸方向の移動が規制されており、前記アーマチュアは軸方向に移動可能とされており、
前記内方部材に対する前記保持器の相対回転により、前記スライダが前記内方部材に対して前記係合位置へ軸方向に移動するようにした回転伝達装置。
【請求項2】
前記保持器および前記スライダのうち、前記保持器にガイド経路が形成され、前記スライダに前記ガイド経路に沿って移動するピンが設けられ、前記ガイド経路は、中間部から周方向の両方向に向かうに従い、軸方向の前記噛合部側に向かって延び出して第一端部および第二端部に至る状態に形成され、
前記ピンが前記ガイド経路の中間部に位置する状態で、前記スライダが前記係合解除位置に軸方向へ移動し、前記ピンが前記ガイド経路の第一端部または第二端部に位置する状態で、前記スライダが前記係合位置に軸方向へ移動する請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記外方部材の噛合部が、前記第二軸の軸心を中心として、放射状に等間隔に設けられる複数の溝からなる請求項1または2に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記スライダが内方部材に対して内周部に軸方向の内周スプライン部を有し、前記内方部材が外周部に前記内周スプライン部に嵌り合う外周スプライン部を有する請求項1から3のいずれかに記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記スライダの内周部および前記内方部材の外周部に跨って形成される軸方向に延びるキー溝と、前記キー溝に嵌合するキー部材とを有する請求項1から4のいずれかに記載の回転伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力伝達経路において動力の伝達と遮断の切り換えに用いられる回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の回転伝達装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。この回転伝達装置は、入力側部材としての内方部材の外側に出力側部材としての外方部材を設け、その内方部材と外方部材間に2方向クラッチを組込み、その2方向クラッチのオン、オフを電磁クラッチにより制御するようにしている。
【0003】
ここで、2方向クラッチは、内方部材の外周に外方部材の内周に形成された円筒面との間でくさび形空間を形成するカム面を設け、そのカム面と円筒面との間に組込まれたローラを内方部材と外方部材との間に組込まれた保持器で保持し、その保持器にスイッチばねのばね力を付与して、ローラがカム面および円筒面に対して係合解除される中立位置に保持器を弾性保持している。
【0004】
一方、電磁クラッチは、フィールドコアに巻付けられた電磁コイルを有し、そのコイルに対する通電により、保持器に対して回り止めされ、かつ軸方向に移動可能なアーマチュアを外方部材に回り止めされたロータに吸着して、保持器を外方部材に連結するようにしている。
【0005】
上記の構成から成る回転伝達装置において、電磁石の電磁コイルに対する通電によりロータにアーマチュアを吸着すると、その吸着面に作用する摩擦抵抗により、保持器が内方部材に対し相対回転し、ローラが円筒面およびカム面に係合して、内方部材の回転がローラを介して外方部材に伝達される。
【0006】
また、電磁石の電磁コイルに対する通電を解除すると、スイッチばねのばね力(復元弾性)により保持器が中立位置に戻されて、ローラの円筒面およびカム面に対する係合が解除され、内方部材が空転する。この電磁石の電磁コイルに対する通電によって、係合状態と係合解除状態を速やかに切り替えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-090678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された回転伝達装置において、内方部材が高速で回転する空転時に、その内方部材と保持器に保持されたローラが共に回転し、ローラに作用する遠心力によりローラが半径方向外方に移動して外方部材の円筒面に接触し、その接触部に引き摺りトルクが作用する。
【0009】
この引き摺りトルクにより、内方部材と保持器が相対回転してローラがカム面および円筒面に対して係合位置に移動する、いわゆるミス係合するおそれがあった。このため、内方部材と外方部材との間の回転伝達が安定せず、空転時の信頼性が低いという問題がある。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、内方部材と外方部材との係合解除状態での引き摺りトルクの低減を図るようにした回転伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、この発明では、同軸上に配置される第一軸と第二軸との相互間で回転の伝達と遮断とを行う回転伝達装置であって、前記第二軸に一体回転可能に設けられ、軸方向を向く噛合部を有する外方部材と、前記第一軸に一体回転可能に設けられ、前記外方部材の内側で前記外方部材に対して相対回転可能に支持される内方部材と、前記内方部材に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動可能に設けられ、前記外方部材の噛合部に向かって軸方向に突き出す係合突部を有する筒状のスライダと、前記スライダの外方に前記内方部材に対して回転可能に配置され、前記スライダを、その係合突部が前記外方部材の噛合部に係合する係合位置と、前記外方部材の噛合部との係合が解除される係合解除位置との間で、軸方向に移動可能に保持する環状の保持器と、前記内方部材に取り付けられ、前記内方部材に対する前記保持器の相対回転により弾性変形し、その復元弾性により前記スライダが前記係合解除位置にある状態へ前記保持器を復帰回転させるスイッチばねと、前記内方部材に対して相対回転可能に、かつ前記保持器と一体回転するアーマチュアと、前記外方部材に対して一体回転し、前記アーマチュアと軸方向に対向するロータと、前記ロータと軸方向で対向し、通電により前記アーマチュアをロータに吸着させる電磁石とを有し、前記内方部材に対する前記保持器の相対回転により、前記スライダが前記内方部材に対して前記係合位置へ軸方向に移動するようにした構成を採用することができる。
【0012】
この構成では、スライダは、内方部材に対する保持器の相対回転で、保持器に対して係合位置へ軸方向に移動し、外方部材の軸方向を向く噛合部に係合する。このため、内方部材の空転時では、スライダが外方部材の内周面に接触することがない。
【0013】
前記保持器および前記スライダのうち、一方にガイド経路が形成され、他方に前記ガイド経路に沿って移動するピンが設けられ、前記ガイド経路は、中間部から周方向の両方向に向かうに従い、軸方向の前記噛合部側に向かって延び出して第一端部および第二端部に至る状態に形成され、前記他方のピンが前記ガイド経路の中間部に位置する状態で、前記スライダが前記係合解除位置に軸方向へ移動し、前記他方にピンが前記ガイド経路の第一端部または第二端部に位置する状態で、前記スライダが前記係合位置に軸方向へ移動する構成を採用することができる。
【0014】
この構成によると、スライダは、保持器のガイド経路内でのピンの移動によって、保持器に対して、係合位置と係合解除位置との間で軸方向に移動可能に保持させることができる。
【0015】
前記外方部材の噛合部が、前記第二軸の軸心を中心として、放射状に等間隔に設けられる複数の溝からなる構成を採用することができる。この構成では、スライダが係合位置に軸方向へ移動すると、係合突部が噛合部の溝内に嵌合する。この嵌合により、例えば、内方部材が回転する場合、内方部材の回転を外方部材へ効果的に伝達することが可能となる。
【0016】
また、前記スライダが前記内方部材に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動可能に設けられる手段としては、様々なものを採用することができる。
【0017】
例えば、前記スライダが内方部材に対して内周部に軸方向の内周スプライン部を有し、前記内方部材が外周部に前記内周スプライン部に嵌り合う外周スプライン部を有するもの、前記スライダの内周部および前記内方部材の外周部に跨って形成される軸方向に延びるキー溝と、前記キー溝に嵌合するキー部材とを有するものを採用することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の回転伝達装置は、内方部材が高速で回転する空転時、内方部材に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動可能に設けられるスライダが、外方部材と非接触状態であるので、内方部材の空転時での引き摺りトルクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明に係る実施形態の回転伝達装置を示す縦断面図
図2図1中のII-II線における断面図
図3】同上の要部を示す分解斜視図
図4】同上のスライダと外方部材との係合状態での回転伝達装置を示す縦断面図
図5図4中のV-V線における断面図
図6図4中のVI-VI線における断面図
図7】(a)同上のスライダと外方部材との係合解除状態を示す拡大断面図、(b)図7(a)におけるVIIB-VIIB線における断面図
図8】(a)同上のスライダと外方部材との係合状態を示す拡大断面図、(b)図8(a)中のVIIIB-VIIIB線における断面図
図9】(a)同上のスライダと内方部材との他の嵌合手段を示す縦断面図、(b)図9(a)中のIX-IX線における断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態に係る回転伝達装置を図面に基づいて説明する。図1図3に示すように、回転伝達装置1は、同軸上に配置される第一軸S1と第二軸S2との相互間で回転の伝達と遮断とを行うものである。
【0021】
この回転伝達装置1は、第一軸S1に一体回転可能に設けられる内方部材11と、第二軸S2に一体回転可能に設けられ、内方部材11の外周に配置される環状の外方部材12とを有する。
【0022】
また、回転伝達装置1は、内方部材11に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動可能に設けられる環状のスライダ13と、スライダ13の外方に配置され、内方部材11に対して回転可能に設けられる環状の保持器14と、内方部材11に取り付けられ、保持器14を内方部材11に対して弾性保持するスイッチばね15とを有する。
【0023】
内方部材11は、第一軸S1に対して軸方向一端寄りに一体に形成され、軸方向一端側に位置する大径部11aと、軸方向他端側に位置する小径部11bとを有する。内方部材11は、軸方向一端部で外方部材12の内部に組み込まれた軸受30により外方部材12と相対回転可能に支持されている。
【0024】
大径部11aおよび小径部11bの外周面は、第一軸S1と同軸上の円筒面となっている。大径部11aは、外周面に軸方向に沿って形成される外周スプライン部11cと、軸方向他端面に形成されるばね嵌合凹部16とを有している。
【0025】
図2、3に示すように、ばね嵌合凹部16は、第一軸S1の軸心を中心とする円形に形成されており、その外周壁の一部に形成されて大径部11aの外周面に達する切欠部16aを有する。
【0026】
外方部材12は、図3に示すように、内方部材11の外周に配置される筒部17と、筒部17の軸方向一端部を閉塞する閉塞端部18とを有する。筒部17は、外周面が第二軸S2と同軸上の円筒面となっている。
【0027】
筒部17は、軸方向一端側に位置する第一内周面17aと、軸方向他端側に位置する第二内周面17bとを有する。第一内周面17aおよび第二内周面17bは、第二軸S2と同軸上の円筒面をなし、第一内周面17aが第二内周面17bよりも内径寸法が小さく形成されている。
【0028】
閉塞端部18は、軸方向一端部が第二軸S2と一体に形成されており、軸方向他端部の中央に軸受30が圧入固定される軸受用穴部18aが形成されている。閉塞端部18は、軸方向他端面の軸受用穴部18aの外周部分に形成され、軸方向他方を向く噛合部19を有する。
【0029】
図5に示すように、噛合部19は、第二軸S2の軸心を中心として、放射状に等間隔に設けられる複数の平行溝19aからなり、それぞれの平行溝19aは、両溝側面が第二軸S2の軸心に直交する平面に対して直交し、かつ相互に平行となる平面をなしている。それぞれの平行溝19aの溝幅(両溝側面間の間隔)は、同じ溝幅Wを有している。
【0030】
噛合部19の平行溝19aは、スライダ13の係合突部13aの数の四倍となる12個形成されている(図5参照)。なお、平行溝19aは、係合突部13aの数に対して、複数倍(二倍、三倍、五倍・・)となる数に形成されていればよい。
【0031】
図3に示すように、スライダ13は、円筒状部材から形成されており、軸方向他端面から軸方向一方に突出する複数の係合突部13aと、内周面に形成される内周スプライン部13bと、径方向に貫通する複数のピン孔13cとを有する。
【0032】
図5に示すように、係合突部13aは、スライダ13の軸方向他端面の周方向の三箇所に等間隔に形成されている。それぞれの係合突部13aは、その周方向を臨む両側面が、第一軸S1の軸心に直交する平面に対して直交し、かつ相互に平行となる平面をなすものである。係合突部13aの周方向を臨む両側面の間隔は、平行溝19aの溝幅Wと同じかわずかに小さく形成されている。
【0033】
係合突部13aは、噛合部19の平行溝19aに軸方向一方へ向かって嵌合可能となっている。なお、係合突部13aは、噛合部19の平行溝19aに嵌合可能であれば、スライダ13の軸方向他端面に対して周方向に二つ、四つ、五つ・・・と複数形成してもよく、また、一つのみ形成してもよい。
【0034】
内周スプライン部13bは、軸方向に沿って形成され、大径部11aの外周スプライン部11cに嵌合するようになっている。これらのスプライン部の嵌合により、スライダ13が内方部材11に対して一体回転可能に、かつ軸方向に移動可能に設けられる。
【0035】
なお、スライダ13と内方部材11の大径部11aとの嵌合は、図9(a)、(b)に示すように、スライダ13の内周部および大径部11aの外周部にまたがって形成される軸方向に延びるキー溝31とキー部材32との嵌合により行ってもよい。
【0036】
ピン孔13cは、スライダ13の周方向三箇所に等間隔に形成されている。図2に示すように、それぞれのピン孔13cにピン20が圧入固定されている。ピン20はその一部がスライダ13の外周面からわずかに突出する状態となっている。
【0037】
図1に示すように、スライダ13は、ピン孔13cにピン20が圧入固定された状態において、ピン20が内方部材の第一内周面17aに非接触状態となっている。
【0038】
保持器14は、スライダ13の外側に配置される円筒部14aと、円筒部14aの軸方向他端部に形成される径方向内向きのフランジ部14bとを有する。図3に示すように、円筒部14aは、径方向に貫通する複数のガイド経路21と、ばね係合孔部22とを有する。
【0039】
ガイド経路21は、円筒部14aに対して周方向三箇所に等間隔に配置されている。それぞれのガイド経路21は、軸方向他端部寄りに位置する中間部21aから周方向の両方向のそれぞれに向かうに従って、軸方向一方へ向かって延び出して第一端部21bおよび第二端部21cに至る状態に形成されている。
【0040】
ガイド経路21は、スライダ13のピン20が、中間部21aと第一端部21bとの間、または、中間部21aと第二端部21cとの間を円滑に移動可能となっている。ガイド経路21は、保持器14に対して、中間部21aが最も軸方向他端部寄りに位置し、第一端部21bおよび第二端部21cが中間部21aに対して軸方向一端部寄りに位置している。
【0041】
第一端部21bおよび第二端部21cは、保持器14における軸方向に同じ位置にあり、中間部21aまでの長さが同じ長さとなるように配置されている。なお、ガイド経路21は、径方向外向きに凹む溝状であってもよく、スライダ13のピン20がガイド経路21に沿って移動可能であればよい。
【0042】
ばね係合孔部22は、周方向に延びる長孔状であり、円筒部14aに対し軸方向他端部の一箇所に設けられ、隣り合うガイド経路21の周方向中央に配置されている。
【0043】
フランジ部14bは、内方部材11の小径部11bが挿通される円環状をなし、その外周部の二箇所に形成される固定孔14cを有している。固定孔14cは、フランジ部14bの直径方向両端部に配置されている。
【0044】
この保持器14は、内方部材11の小径部11bに回転可能に挿通され、それぞれのガイド経路21にスライダ13のピン20が係合されている状態で、スライダ13を軸方向移動可能に保持している。
【0045】
保持器14は、スライダ13のピン20がガイド経路21の第一端部21bまたは第二端部21cに位置する状態のとき、スライダ13を、その係合突部13aが外方部材12の噛合部19に係合する係合位置に軸方向に移動させるものである。
【0046】
また、保持器14は、スライダ13のピン20がガイド経路21の中間部21aに位置する状態のとき、スライダ13を、その係合突部13aが外方部材12の噛合部19との係合が解除される係合解除位置に軸方向に移動させるものである。
【0047】
すなわち、保持器14は、スライダ13を、その係合突部13aが外方部材12の噛合部19に係合する係合位置と、外方部材12の噛合部19との係合が解除される係合解除位置との間で、軸方向に移動可能に保持している。
【0048】
スイッチばね15は、周方向の一部に切り離し部を有し、その切り離し部の両端から外方に向く一対の押圧片15aを有している。スイッチばね15は、図2に示すように、ばね嵌合凹部16内に収容され、一対の押圧片15aが、ばね嵌合凹部16の欠部16aから保持器14のばね係合孔部22内に挿入される状態となっている。
【0049】
また、一対の押圧片15aが切欠部16aおよびばね係合孔部22の周方向で対向する両端を押圧してスイッチばね15を弾性変形させている。そのスイッチばね15の復元弾性によってスライダ13が係合解除位置にある状態に保持器14を小径部11bに対して復帰回転させている。
【0050】
保持器14の軸方向他端側に、連結プレート23が内方部材11の小径部11bに挿通されている。図3に示すように、連結プレート23は、円環状部材からなり、外縁部に対して径方向外側に設けられる四つの係合片を有する。
【0051】
それぞれの係合片は、周方向等間隔に配置され、直径方向に対向する一対の第一係合片23aと、一対の第二係合片23bとからなる。第一係合片23aは、先端が軸方向一方へ折り曲げられ、保持器14の固定孔14cに係合する。
【0052】
第二係合片23bは、先端が軸方向他方へ折り曲げられ、後述するアーマチュア24に係合している。連結プレート23は、アーマチュア24と保持器14とを一体回転可能に連結している。連結プレート23および保持器14は、小径部11bに取り付けられる止め輪33により、軸方向の移動が規制されている。
【0053】
図1に示すように、回転伝達装置1は、スライダ13を係合解除位置から係合位置へ移動させるための手段として、連結プレート23の軸方向他端側に配置され、内方部材11に対して相対回転可能に設けられるアーマチュア24と、外方部材12に対して一体回転し、アーマチュア24と軸方向に対向するロータ25と、ロータ25と軸方向で対向し、通電によりアーマチュア24をロータ25に吸着させる電磁石26とを有する。
【0054】
アーマチュア24は、円環状の板部材であって内方部材11に挿通され、直径方向の両側に設けられる一対の固定孔24aを有する。アーマチュア24は、連結プレート23の第二係合片23bが固定孔24aに係合し、保持器14に対して一体回転可能に連結され、かつ軸方向に移動可能とされている。
【0055】
このアーマチュア24とロータ25との間に離反ばね27が組込まれ、その離反ばね27によってアーマチュア24はロータ25から軸方向一方側へ向かって離反する方向に付勢されている。
【0056】
ロータ25は径方向の断面形状をコの字形とされている。このロータ25は外方部材12の筒部17の第二内周面17b内に圧入され、外方部材12に対して一体回転可能となっている。
【0057】
電磁石26は固定部材Aに支持されてロータ25内に配置され、その電磁石26の電磁コイル26aに対する通電によりアーマチュア24はロータ25に吸着されるようになっている。
【0058】
この実施形態に係る回転伝達装置1は上記の構成からなり、図1は、電磁コイル26aへの通電の遮断状態を示す。このとき、保持器14内のスライダ13は、その係合突部13aが外方部材12の噛合部19に対して係合解除位置に保持され、第一軸S1と第二軸S2との相互間での回転伝達が遮断されている。
【0059】
この実施形態の回転伝達装置1は、図1に示す第一軸S1と第二軸S2のいずれを入力軸として使用してもよい。例えば、第一軸S1を入力軸として使用する場合において、第一軸S1と第二軸S2との相互間での回転伝達が遮断されている状態で、第一軸S1が周方向の一方向に回転すると、その回転は第二軸S2に伝達されず、第一軸S1および内方部材11がフリー回転(空転)する。
【0060】
このとき、内方部材11の回転は、大径部11aの外周スプライン部11cおよびスライダ13の内周スプライン部13bの嵌合により、スライダ13に伝達される。また、内方部材11の回転は、スイッチばね15を介して、保持器14に伝達される。
【0061】
ここで、図7(a)(b)に示すように、保持器14は、スイッチばね15の復元弾性によって、スライダ13を、ピン20が保持器14のガイド経路21の中間部21aに位置する係合解除位置に保持している。
【0062】
内方部材11の回転が伝達され、スライダ13および保持器14が回転すると、連結プレート23によりアーマチュア24が回転する。
【0063】
このような、第一軸S1および内方部材11の空転時、図7(a)に示すように、回転するスライダ13および保持器14は、外方部材12の筒部17の第一内周面17aに非接触状態となっている。
【0064】
この非接触状態では、第一軸S1および内方部材11の空転時、従来のような径方向の接触部分が存在しないことから、引き摺りトルクを低減することができる。
【0065】
第一軸S1の空転状態において、電磁コイル26aに通電すると、アーマチュア24に磁気吸引力が作用し、アーマチュア24が軸方向他端側に移動してロータ25に吸着される(図8(a))。
【0066】
ロータ25は筒部17を介して外方部材12と一体回転可能となっているため、アーマチュア24の吸着により保持器14は外方部材12と連結し、保持器14と内方部材11とが相対回転する。
【0067】
保持器14と内方部材11との相対回転により、図8(a)、(b)に示すように、スライダ13のピン20が、保持器14のガイド経路21の中間部21aから第二端部21cへ移動する。このピン20の移動に伴って、スライダ13は、保持器14に対して軸方向一方へ移動し、係合位置にある状態となる。
【0068】
スライダ13は、保持器14に対して係合位置にある状態では、係合突部13aが外方部材12の噛合部19の平行溝19aに噛み合い、内方部材11の回転が外方部材12に伝達されて、第二軸S2が回転する。
【0069】
ここで、保持器14と内方部材11との相対回転により、図6に示すように、ばね係合孔部22とばね嵌合凹部16の切欠部16aとが周方向に位置がずれ、両方の押圧片15aが周方向に接近し、スイッチばね15が縮径する。
【0070】
このため、電磁コイル26aに対する通電を解除すると、縮径するスイッチばね15の復元弾性により保持器14が復帰回転し、スライダ13のピン20が保持器14のガイド経路21の中間部21aに移動する。そのピン20の移動に伴って、スライダ13は、保持器14に対して軸方向他方へ移動し、係合解除位置にある状態となる。
【0071】
スライダ13が保持器14に対して係合解除位置にある状態では、内方部材11と外方部材12との係合が解除されて、第一軸S1から第二軸S2への回転の伝達が遮断される。
【0072】
なお、第一軸S1と第二軸S2との相互間での回転伝達が遮断されている状態で、第一軸S1が周方向の他方向に回転すると、第一軸S1および内方部材11が周方向の他方向に空転する。
【0073】
この第一軸S1の空転状態で、電磁コイル26aに通電すると、アーマチュア24が軸方向他端側に移動してロータ25に吸着され、保持器14は外方部材12に連結し、保持器14と内方部材11とが相対回転する。
【0074】
保持器14と内方部材11との相対回転により、スライダ13のピン20が、保持器14のガイド経路21の中間部21aから第一端部21bへ移動する。そのピン20の移動に伴って、スライダ13は、保持器14に対して軸方向一方へ移動し、係合位置にある状態となる。
【0075】
スライダ13は、保持器14に対して係合位置にある状態では、上述した第一軸S1が周方向の一方向に回転する場合と同様、係合突部13aが外方部材12の噛合部19の平行溝19aに噛み合い、内方部材11の回転が外方部材12に伝達されて、第二軸S2が回転する。
【0076】
また、図1に示す第二軸S2を入力軸として使用する場合、第一軸S1と第二軸S2との相互間での回転伝達が遮断されている状態で、第二軸S2が回転すると、その第二軸S2と外方部材12、筒部17およびロータ25が共にフリー回転(空転)する。
【0077】
第二軸S2の空転状態において、電磁コイル26aに通電すると、アーマチュア24に磁気吸引力が作用し、アーマチュア24が軸方向他端側に移動してロータ25に吸着される。
【0078】
ロータ25に吸着されているアーマチュア24は、連結プレート23により保持器14と一体回転可能に連結されているため、保持器14がアーマチュア24と一体回転し、内方部材11と保持器14が相対回転する。
【0079】
その相対回転により、スライダ13のピン20が、保持器14のガイド経路21の中間部21aから第一端部21bまたは第二端部21cへ移動する。そのピン20の移動に伴って、スライダ13は、保持器14に対して軸方向一方へ移動し、係合位置にある状態となる。
【0080】
係合位置にあるスライダ13の係合突部13aは、外方部材12の噛合部19の平行溝19aに噛み合い、外方部材12の回転が内方部材11に伝達されて、第一軸S1が回転する。
【0081】
第二軸S2および外方部材12の空転時であっても、回転するスライダ13および保持器14は、外方部材12の筒部17の第一内周面17aに非接触状態となっている。このため、第二軸S2および外方部材12の空転時、従来のような径方向の接触部分が存在しないことから、引き摺りトルクを低減することができる。
【0082】
また、この実施形態では、上述のように、第一軸S1の空転状態で電磁コイル26aに通電すると、アーマチュア24が軸方向他端側に移動する。しかしながら、このアーマチュア24の軸方向の移動距離は小さく、スライダ13の係合突部13aを、外方部材12の噛合部19の平行溝19aに必要な軸方向長さ分だけ噛み合せることが難しい。
【0083】
そこで、この実施形態では、保持器14がアーマチュア24と一体回転し、回転する保持器14は、ガイド経路21内のピン20を軸方向に移動させるようにした。ここで、図3に示すように、ガイド経路21は、保持器14に対して、軸方向他端部寄りに位置する中間部21aから周方向の両方向のそれぞれに向かうに従って、軸方向一方へ向かって延び出して形成されている。
【0084】
このため、保持器14の回転により、ガイド経路21に係合するピン20を介して、スライダ13は、アーマチュア24の軸方向の移動距離よりも大きく軸方向一方へ移動する。軸方向一方へ移動するスライダ13の係合突部13aは、外方部材12の噛合部19の平行溝19aに必要な軸方向長さ分だけ噛み合せることができる。
【0085】
なお、この実施形態では、保持器14にガイド経路21が形成され、スライダ13にガイド経路21に沿って移動するピン20が設けられているが、これに限られない。スライダ13にガイド経路21が形成され、保持器14にガイド経路21に沿って移動するピン20が設けられていてもよい。
【0086】
また、外方部材12の噛合部19は、第二軸S2の軸心を中心として、放射状に等間隔に設けられる複数の平行溝19aから構成されているが、スライダ13の係合突部13aが軸方向に嵌合可能な溝であればよい。
【0087】
外方部材12の噛合部19が複数の平行溝19aであれば、スライダ13の係合突部13aが嵌合することで、例えば、内方部材11が回転する場合、内方部材11の回転を外方部材12へ効果的に伝達することが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
1 回転伝達装置
11 内方部材
11a 大径部
11b 小径部
11c 外周スプライン部
12 外方部材
13 スライダ
13a 係合突部
13b 内周スプライン部
13c ピン孔
14 保持器
15 スイッチばね
15a 押圧片
16 ばね嵌合凹部
16a 切欠部
17 筒部
18 閉塞端部
19 噛合部
19a 平行溝
20 ピン
21 ガイド経路
21a 中間部
21b 第一端部
21c 第二端部
22 ばね係合孔部
23 連結プレート
24 アーマチュア
25 ロータ
26 電磁石
26a 電磁コイル
S1 第一軸
S2 第二軸
A 固定部材
W 溝幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9