(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】アリールジアミン化合物及び有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
C07C 211/61 20060101AFI20220428BHJP
C07C 211/54 20060101ALI20220428BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C07C211/61 CSP
C07C211/54
H05B33/14 B
H05B33/22 D
(21)【出願番号】P 2018538463
(86)(22)【出願日】2017-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2017032239
(87)【国際公開番号】W WO2018047899
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2016176349
(32)【優先日】2016-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛史
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】望月 俊二
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-157454(JP,A)
【文献】特開2016-12676(JP,A)
【文献】特開2008-133225(JP,A)
【文献】特開平8-286398(JP,A)
【文献】特開2006-156635(JP,A)
【文献】特開2009-170810(JP,A)
【文献】特表2018-529629(JP,A)
【文献】JOURNAL OF POLYMER SCIENCE, PART A: POLYMER CHEMISTRY,2006年,Vol. 44, No. 8,pp. 2587-2603
【文献】JOURNAL OF PHYSICAL ORGANIC CHEMISTRY,2006年,Vol. 19, No. 4,pp. 238-241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 211/61
C07C 211/54
H01L 51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1-1b)又は一般式(1-2b)で表されることを特徴とするアリールジアミン化合物;
【化1】
式中、Ar
9及びAr
10は、
無置換もしくは置換基を有するフルオレニル基を表し、
R
13は、水素原子または重水素原子を表し、
R
14-18は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18を示し、
R
19-22は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
19、R
20、R
21及びR
22を示し、
R
23-26は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
23、R
24、R
25及びR
26を示し、
R
27-31は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
27、R
28、R
29、R
30及びR
31を示し、
前記R
14~R
31は、水素原子、重水素原子または
無置換もしくは置換基を有する芳香族炭化水素基を表す。
【化2】
式中、
Ar
15及びAr
16は、無置換もしくは置換基を有するフルオレニル基を表し、
R
42及びR
43は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数1~6のアルキル基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数5~10のシクロアルキル基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数2~6のアルケニル基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数1~6のアルキルオキシ基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、
無置換もしくは置換基を有する芳香族炭化水素基、
無置換もしくは置換基を有する芳香族複素環基、または
無置換もしくは置換基を有するアリールオキシ基を表し、
R
44-48は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
44、R
45、R
46、R
47及びR
48を示し、
R
49-52は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
49、R
50、R
51及びR
52を示し、
R
53-56は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
53、R
54、R
55及びR
56を示し、
R
57-61は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
57、R
58、R
59、R
60及びR
61を示し、
前記R
44~R
61は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数1~6のアルキル基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数5~10のシクロアルキル基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数2~6のアルケニル基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数1~6のアルキルオキシ基、
無置換もしくは置換基を有する炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、
無置換もしくは置換基を有する芳香族炭化水素基、
無置換もしくは置換基を有する芳香族複素環基、または
無置換もしくは置換基を有するアリールオキシ基を表す。
【請求項2】
一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、請求項1に記載のアリールジアミン化合物が、少なくとも1層の有機層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記有機層が正孔輸送層である請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記有機層が電子阻止層である請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記有機層が正孔注入層である請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記有機層が発光層である請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記正孔輸送層が、第一正孔輸送層および第二正孔輸送層からなる2層構造を有している請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の表示装置に好適な自発光素子である有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と呼ぶことがある)に適した化合物と有機EL素子に関するものであり、詳しくは特定のアリールジアミン化合物と該化合物を用いた有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は自己発光性素子であるため、液晶素子に比べて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であることから、活発な研究がなされてきた。
【0003】
1987年にイーストマン・コダック社のC.W.Tangらは各種の役割を各材料に分担した積層構造素子を開発し、有機材料を用いた有機EL素子を実用的なものにした。有機EL素子は、電子を輸送することのできる蛍光体と正孔を輸送することのできる有機物とを積層して形成される。両方の電荷を蛍光体の層の中に注入して発光させることにより、10V以下の電圧で1000cd/m2以上の高輝度が得られるようになった(特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
現在まで、有機EL素子の実用化のために多くの改良がなされている。例えば、積層構造の各種の役割をさらに細分化して、基板上に順次に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極を設けた電界発光素子によって高効率と耐久性が達成されるようになってきた。
【0005】
また、発光効率の更なる向上を目的として三重項励起子の利用が試みられ、燐光発光性化合物の利用が検討されている。更に、熱活性化遅延蛍光(TADF)による発光を利用する素子も開発されている。2011年に九州大学の安達らは、熱活性化遅延蛍光材料を用いた素子によって5.3%の外部量子効率を実現させた。
【0006】
発光層は、一般的にホスト材料と称される電荷輸送性の化合物に、蛍光性化合物、燐光発光性化合物または遅延蛍光を放射する材料をドープして作製することができる。有機材料の選択は、有機EL素子の効率や耐久性など諸特性に大きな影響を与える。
【0007】
有機EL素子においては、両電極から注入された電荷が発光層で再結合して発光が得られる。そのため、有機EL素子では正孔、電子の両電荷を如何に効率良く発光層に受け渡すかが重要であり、キャリアバランスに優れた素子とする必要がある。また、正孔注入性を高め、陰極から注入された電子をブロックする電子阻止性を高めることによって、正孔と電子が再結合する確率を向上させ、更には発光層内で生成した励起子を閉じ込めることによって、高発光効率を得ることができる。そのため、正孔輸送材料の果たす役割は重要であり、正孔注入性が高く、正孔の移動度が大きく、電子阻止性が高く、さらには電子に対する耐久性が高い正孔輸送材料が求められている。
【0008】
また、素子の寿命の観点からは、材料の耐熱性やアモルファス性も重要である。耐熱性が低い材料では、素子駆動時に生じる熱により、低い温度でも熱分解が起こり、材料が劣化する。アモルファス性が低い材料では、短い時間でも薄膜の結晶化が起こり、素子が劣化する。そのため使用する材料には耐熱性が高く、アモルファス性が良好な性質が求められる。
【0009】
これまで有機EL素子用の正孔輸送材料としては、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(α-ナフチル)ベンジジン(NPD)や種々の芳香族アミン誘導体が知られていた(特許文献1および特許文献2参照)。NPDは良好な正孔輸送能力を持っているが、耐熱性の指標となるガラス転移点(Tg)が96℃と低く、高温条件下では結晶化による素子特性の低下が起こる。また、前記特許文献1および特許文献2に記載の芳香族アミン誘導体の中には、正孔の移動度が10-3cm2/Vs以上と優れた移動度を有する化合物があるが、電子阻止性が不十分である。そのため、かかる芳香族アミン誘導体を用いて形成された有機ELでは、電子の一部が発光層を通り抜けてしまい、発光効率の向上が期待できない。従って、更なる高効率化のため、より電子阻止性が高く、薄膜状態でより安定で耐熱性の高い材料が求められていた。
【0010】
耐熱性、正孔注入性、正孔輸送性、電子阻止性などの特性を改良した化合物として、下記式で表される芳香族三級アミン化合物が提案されている(特許文献3および特許文献4参照)。
【0011】
【0012】
しかしながら、これらの化合物を正孔注入層、正孔輸送層または電子阻止層に用いた素子では、耐熱性や発光効率などの改良はされているものの、未だ十分とはいえず、更なる低駆動電圧化や高発光効率化が求められている。
【0013】
また、有機EL素子の素子特性を改善させるために、正孔注入性、正孔輸送性、電子注入性、電子輸送性、薄膜状態の安定性または耐久性に優れた材料を組み合わせることで、キャリアバランスのとれた高効率、低駆動電圧および長寿命である有機EL素子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第3828595号公報
【文献】特許第3194657号公報
【文献】特許第4770033号公報
【文献】国際公開第2014/060526号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、高効率、高耐久性の有機EL素子用の材料として、(1)正孔輸送性に優れ、(2)薄膜状態が安定であり、(3)耐熱性に優れたアリールジアミン化合物を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、前記アリールジアミン化合物に、正孔注入性、正孔輸送性、電子注入性、電子輸送性、電子阻止性、薄膜状態での安定性または耐久性に優れた有機EL素子用の各種材料を、それぞれの材料が有する特性が効果的に発現できるように組み合わせることで、(1)発光効率および電力効率が高く、(2)実用駆動電圧が低く、特に(3)長寿命である有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、特定構造を有するアリールジアミン系材料が正孔注入性や正孔輸送性、薄膜の安定性、耐久性に優れていることに着目した。そこで、種々のアリールジアミン化合物を設計して合成し、特性評価を鋭意行った。その結果、特定の位置をアリール基で置換したアリールジアミン化合物が正孔輸送性、薄膜状態の安定性および耐熱性に優れるという知見を見出した。
【0018】
さらに、前記アリールジアミン化合物を用いて種々の有機EL素子を作製し、素子の特性評価を鋭意行った。その結果、本発明の完成に至った。
【0019】
即ち、本発明によれば、下記一般式(1)で表されるアリールジアミン化合物が提供される。
【化2】
式中、
m及びnは、0または1であり、
Ar
1~Ar
4は、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、
m+nが0または1であり且つAr
2が無置換のフェニル基の場合、
Ar
3及びAr
4はいずれも無置換のフェニル基でなく、
L
1及びL
2は、単結合、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香
族複素環基を表し、
R
1~R
3は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シア
ノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10のシクロ
アルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアルキルオ
キシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化水素基
、芳香族複素環基、またはアリールオキシ基を表す。
【0020】
本発明のアリールジアミン化合物の好適な態様は以下の通りである。
1)m及びnが何れも0であり、且つ下記一般式(1-1a)で表される。
【化3】
式中、
Ar
5及びAr
8は、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、
Ar
6及びAr
7は、前記一般式(1)におけるAr
2およびAr
3に
相当する基であり、
Ar
6が無置換のフェニル基の場合、Ar
7は無置換のフェニル基で
なく、
R
4は、前記一般式(1)におけるR
3に相当する基であり、
R
5-8は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
5
、R
6、R
7およびR
8を示し、
R
9-12は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R
9
、R
10、R
11およびR
12を示し、
前記R
5~R
12は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子
、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10の
シクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアル
キルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化
水素基、芳香族複素環基、またはアリールオキシ基を表す。
2)m及びnが何れも0であり、且つ下記一般式(1-1b)で表される。
【化4】
式中、
Ar
9及びAr
10は、前記一般式(1)におけるAr
2およびAr
3
に相当する基であり、
Ar
9が無置換のフェニル基の場合、Ar
10は無置換のフェニル基
でなく、
R
13は、前記一般式(1)におけるR
3に相当する基であり、
R
14-18は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18を示し、
R
19-22は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
19、R
20、R
21及びR
22を示し、
R
23-26は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
23、R
24、R
25及びR
26を示し、
R
27-31は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
27、R
28、R
29、R
30及びR
31を示し、
前記R
14~R
31は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子
、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10の
シクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアル
キルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化
水素基、芳香族複素環基、またはアリールオキシ基を表す。
3)m=1及びn=0であり、且つ下記一般式(1-2a)で表される。
【化5】
式中、
Ar
11及びAr
14は、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表
し、
Ar
12及びAr
13は、前記一般式(1)におけるAr
2及びAr
3
に相当する基であり、
Ar
12が無置換のフェニル基の場合、Ar
13は無置換のフェニル基
でなく、
R
32は、前記一般式(1)におけるR
1に相当する基であり、
R
33は、前記一般式(1)におけるR
3に相当する基であり、
R
34-37は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
34、R
35、R
36およびR
37を示し、
R
38-41は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
38、R
39、R
40およびR
41を示し、
前記R
34~R
41は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子
、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10の
シクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアル
キルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化
水素基、芳香族複素環基、またはアリールオキシ基を表す。
4)m=1及びn=0であり、且つ下記一般式(1-2b)で表される。
【化6】
式中、
Ar
15及びAr
16は、前記一般式(1)におけるAr
2及びAr
3
に相当する基であり、
Ar
15が無置換のフェニル基の場合、Ar
16は無置換のフェニル基
でなく、
R
42は、前記一般式(1)におけるR
1に相当する基であり、
R
43は、前記一般式(1)におけるR
3に相当する基であり、
R
44-48は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
44、R
45、R
46、R
47及びR
48を示し、
R
49-52は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
49、R
50、R
51及びR
52を示し、
R
53-56は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
53、R
54、R
55及びR
56を示し、
R
57-61は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
57、R
58、R
59、R
60及びR
61を示し、
前記R
44~R
61は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子
、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10の
シクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアル
キルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化
水素基、芳香族複素環基、またはアリールオキシ基を表す。
5)m及びnが何れも1であり、且つ下記一般式(1-3a)で表される。
【化7】
式中、
Ar
17及びAr
20は、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表
し、
Ar
18及びAr
19は、前記一般式(1)におけるAr
2及びAr
3
に相当する基であり、
R
62およびR
63は、前記一般式(1)におけるR
1およびR
2に相
当する基であり、
R
64は、前記一般式(1)におけるR
3に相当する基であり、
R
65-68は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
65、R
66、R
67およびR
68を示し、
R
69-72は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
69、R
70、R
71およびR
72を示し、
前記R
65~R
72は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子
、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10の
シクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアル
キルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化
水素基、芳香族複素環基、またはアリールオキシ基を表す。
6)m及びnが何れも1であり、且つ下記一般式(1-3b)で表される。
【化8】
式中、
Ar
21及びAr
22は、前記一般式(1)におけるAr
2およびAr
3に相当する基であり、
R
73およびR
74は、前記一般式(1)におけるR
1およびR
2に相
当する基であり、
R
75は、前記一般式(1)におけるR
3に相当する基であり、
R
76-80は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
76、R
77、R
78、R
79及びR
80を示し、
R
81-84は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
81、R
82、R
83及びR
84を示し、
R
85-88は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
85、R
86、R
87及びR
88を示し、
R
89-93は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基
R
89、R
90、R
91、R
92及びR
93を示し、
前記R
76~R
93は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子
、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10の
シクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアル
キルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化
水素基、芳香族複素環基、またはアリールオキシ基を表す。
【0021】
本明細書では、特記しない限り、Ar1~Ar22、L1、L2およびR1~R93で表される芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、2価の芳香族炭化水素基、2価の芳香族複素環基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基およびアリールオキシ基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。
【0022】
同一分子内に存在するAr1~Ar22、L1とL2、またはR1~R93は、同一の構造を有してもよく異なった構造を有してもよい。
【0023】
また、本明細書では、アルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基等の脂肪族炭化水素基は、特記しない限り、直鎖状でも分岐状でもよい。芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、特記しない限り、単環構造であっても多環構造であってもよく、さらには、縮合多環構造であってもよい。同様に、2価の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基も、特記しない限り、単環構造であっても多環構造であってもよく、さらには、縮合多環構造であってもよい。
【0024】
また、本発明によれば、一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記アリールジアミン化合物が、少なくとも1つの有機層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【0025】
本発明の有機EL素子においては、
7)前記有機層が正孔輸送層であること、
8)前記有機層が電子阻止層であること、
9)前記有機層が正孔注入層であること、
10)前記有機層が発光層であること、
11)前記正孔輸送層が、第一正孔輸送層および第二正孔輸送層からなる2層構造を有していること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のアリールジアミン化合物は、新規化合物であり、下記特性を有する。
(1)正孔注入性が高い。
(2)正孔移動度が大きい。
(3)電子阻止能力に優れる。
(4)薄膜状態が安定である。
(5)耐熱性に優れる。
【0027】
また、本発明の有機EL素子は、下記特性を有する。
(6)発光効率が高い。
(7)電力効率が高い。
(8)発光開始電圧が低い。
(9)実用駆動電圧が低い。
(10)長寿命である。
【0028】
本発明のアリールジアミン化合物は、有機EL素子の正孔輸送層または正孔注入層の構成材料として好適に使用される。係るアリールジアミン化合物は、従来の材料に比べて正孔注入性が高く、正孔の移動度が大きく、電子阻止性が高く、しかも電子に対する安定性が高いからである。本発明のアリールジアミン化合物を用いて作成された正孔輸送層または正孔注入層を有する有機EL素子においては、発光層内で生成した励起子を閉じ込めることができ、更に正孔と電子が再結合する確率が向上し、高発光効率を得ることができると共に、駆動電圧が低下して、耐久性が向上する。
【0029】
また、本発明のアリールジアミン化合物は、有機EL素子の電子阻止層の構成材料としても好適に使用される。係るアリールジアミン化合物は、従来の材料に比べて電子の阻止能力に優れ、正孔輸送性に優れ、かつ薄膜状態の安定性の高いからである。本発明のアリールジアミン化合物を用いて作成された電子阻止層を有する有機EL素子は、発光効率が高く、駆動電圧が低く、電流耐性が高く、最大発光輝度が高い。
【0030】
さらに、本発明のアリールジアミン化合物は、有機EL素子の発光層の構成材料としても好適に使用される。係るアリールジアミン化合物は、従来の材料に比べて正孔輸送性に優れ、かつバンドギャップが広い。そのため、本発明のアリールジアミン化合物を発光層のホスト材料として用い、ドーパントと呼ばれている蛍光発光体や燐光発光体を担持させて、発光層を形成することにより、駆動電圧が低く、発光効率が改善された有機EL素子を実現できる。
【0031】
以上より、本発明のアリールジアミン化合物は、有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層あるいは発光層の構成材料として有用であり、正孔の移動度が大きく、優れた電子の阻止能力を有し、薄膜状態が安定で、耐熱性に優れている。本発明の有機EL素子は発光効率および電力効率が高く、このことにより素子の実用駆動電圧を低くさせることができ、発光開始電圧を低くさせることができる。加えて、高耐久性、長寿命を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例1の化合物1-2の
1H-NMRチャート図である。
【
図2】実施例2の化合物2-1の
1H-NMRチャート図である。
【
図3】実施例3の化合物2-4の
1H-NMRチャート図である。
【
図4】素子実施例1~3、素子比較例1~4の有機EL素子構成を示した図である。
【
図5】アリールジアミン化合物である化合物1-1~1-8の構造式を示す図である。
【
図6】アリールジアミン化合物である化合物1-9~1-14の構造式を示す図である。
【
図7】アリールジアミン化合物である化合物1-15~1-22の構造式を示す図である。
【
図8】アリールジアミン化合物である化合物1-23~1-30の構造式を示す図である。
【
図9】アリールジアミン化合物である化合物1-31~1-32の構造式を示す図である。
【
図10】アリールジアミン化合物である化合物2-1~2-8の構造式を示す図である。
【
図11】アリールジアミン化合物である化合物2-9~2-16の構造式を示す図である。
【
図12】アリールジアミン化合物である化合物2-17~2-22の構造式を示す図である。
【
図13】アリールジアミン化合物である化合物2-23~2-30の構造式を示す図である。
【
図14】アリールジアミン化合物である化合物2-31~2-36の構造式を示す図である。
【
図15】アリールジアミン化合物である化合物3-1~3-10の構造式を示す図である。
【
図16】アリールジアミン化合物である化合物3-11~3-14の構造式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<アリールジアミン化合物>
本発明は、2つのアミノ基が特定のフェニレン基、ビフェニレン基またはトリフェニレン基で連結された、新規アリールジアミン化合物であり、下記一般式(1)で表される。
【化9】
【0034】
上記一般式(1)で表されるアリールジアミン化合物は、下記一般式(1-1a)、(1-2a)または(1-3a)で表される3態様を含む。かかる3態様は、いずれも、一般式(1)におけるmおよびnの値並びにL
1、L
2、Ar
1及びAr
4の構造を特定した態様である。
【化10】
上記一般式(1-1a)で表される態様は、一般式(1)におけるmが0であり、nが0であり、L
1が単結合であり、L
2が単結合であり、Ar
1がAr
5及びR
5~R
8で置換されたフェニル基であり、Ar
4がAr
8及びR
9~R
12で置換されたフェニル基である態様である。
【化11】
上記一般式(1-2a)で表される態様は、一般式(1)におけるmが1であり、nが0であり、L
1が単結合であり、L
2が単結合であり、Ar
1がAr
11及びR
34~R
37で置換されたフェニル基であり、Ar
4がAr
14及びR
38~R
41で置換されたフェニル基である態様である。
【化12】
上記一般式(1-3a)で表される態様は、一般式(1)におけるmが1であり、nが1であり、L
1が単結合であり、L
2が単結合であり、Ar
1がAr
17及びR
65~R
68で置換されたフェニル基であり、Ar
4がAr
20及びR
69~R
72で置換されたフェニル基である態様である。
【0035】
上記一般式(1-1a)におけるAr6及びAr7は、前記一般式(1)におけるAr2およびAr3に相当する基である。
上記一般式(1-2a)におけるAr12及びAr13は、前記一般式(1)におけるAr2およびAr3に相当する基である。
上記一般式(1-3a)におけるAr18及びAr19は、前記一般式(1)におけるAr2およびAr3に相当する基である。
上記一般式(1-1a)におけるR4は、前記一般式(1)におけるR3に相当する基である。
上記一般式(1-2a)におけるR32は、前記一般式(1)におけるR1に相当する基である。
上記一般式(1-2a)におけるR33は、前記一般式(1)におけるR3に相当する基である。
上記一般式(1-3a)におけるR62およびR63は、前記一般式(1)におけるR1およびR2に相当する基である。
上記一般式(1-3a)におけるR64は、前記一般式(1)におけるR3に相当する基である。
上記一般式(1-1a)においてR5-8は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R5、R6、R7およびR8を示し、R9-12は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R9、R10、R11およびR12を示す。
上記一般式(1-2a)においてR34-37は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R34、R35、R36およびR37を示し、R38-41は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R38、R39、R40およびR41を示す。
上記一般式(1-3a)においてR65-68は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R65、R66、R67およびR68を示し、R69-72は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R69、R70、R71およびR72を示す。
【0036】
上記一般式(1-1a)、(1-2a)または(1-3a)で表されるアリールジアミン化合物は、それぞれ、下記一般式(1-1b)、(1-2b)または(1-3b)で表される3態様を含む。かかる3態様は、いずれも、前記一般式(1)におけるAr
1及びAr
4の構造を更に特定した態様である。
【化13】
上記一般式(1-1b)で表される態様は、一般式(1)におけるAr
1がR
14~R
22で置換されたビフェ二リル基であり、Ar
4がR
23~R
31で置換されたビフェニリル基である態様である。
【化14】
上記一般式(1-2b)で表される態様は、一般式(1)におけるAr
1がR
44~R
52で置換されたビフェニリル基であり、Ar
4がR
53~R
61で置換されたビフェニリル基である態様である。
【化15】
上記一般式(1-3b)で表される態様は、一般式(1)におけるAr
1がR
76~R
84で置換されたビフェニリル基であり、Ar
4がR
85~R
93で置換されたビフェニリル基である態様である。
【0037】
上記一般式(1-1b)におけるAr9及びAr10は、前記一般式(1)におけるAr2およびAr3に相当する基であって、かつ前記一般式(1-1a)におけるAr6およびAr7に相当する基である。
上記一般式(1-2b)におけるAr15及びAr16は、前記一般式(1)におけるAr2およびAr3に相当する基であって、かつ前記一般式(1-2a)におけるAr12およびAr13に相当する基である。
上記一般式(1-3b)におけるAr21及びAr22は、前記一般式(1)におけるAr2およびAr3に相当する基であって、かつ前記一般式(1-3a)におけるAr18およびAr19に相当する基である。
上記一般式(1-1b)におけるR13は、前記一般式(1)におけるR3に相当する基であって、かつ前記一般式(1-1a)におけるR4に相当する基ある。
上記一般式(1-2b)におけるR42は、前記一般式(1)におけるR1に相当する基であって、かつ前記一般式(1-2a)におけるR32に相当する基である。
上記一般式(1-2b)におけるR43は、前記一般式(1)におけるR3に相当する基であって、かつ前記一般式(1-2a)におけるR33に相当する基である。
上記一般式(1-3b)におけるR73およびR74は、前記一般式(1)におけるR1およびR2に相当する基であって、かつ前記一般式(1-3a)におけるR62およびR63に相当する基である。
上記一般式(1-3b)におけるR75は、前記一般式(1)におけるR3に相当する基であって、かつ前記一般式(1-3a)におけるR64に相当する基である。
上記一般式(1-1b)においてR14-18は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R14、R15、R16、R17及びR18を示し、R19-22は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R19、R20、R21及びR22を示し、R23-26は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R23、R24、R25及びR26を示し、R27-31は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R27、R28、R29、R30及びR31を示す。
上記一般式(1-2b)においてR44-48は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R44、R45、R46、R47及びR48を示し、R49-52は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R49、R50、R51及びR52を示し、R53-56は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R53、R54、R55及びR56を示し、R57-61は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R57、R58、R59、R60及びR61を示す。
上記一般式(1-3b)においてR76-80は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R76、R77、R78、R79及びR80を示し、R81-84は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R81、R82、R83及びR84を示し、R85-88は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R85、R86、R87及びR88を示し、R89-93は、ベンゼン環の異なる位置に結合している複数の基R89、R90、R91、R92及びR93を示す。
【0038】
(m、n)
m及びnは、0または1の整数である。
【0039】
(Ar1~Ar22)
Ar1~Ar22は、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0040】
ただし、前記一般式(1)においてAr2が無置換のフェニル基かつm+nが0または1の場合、Ar3及びAr4はいずれも無置換のフェニル基でない。
従って、前記一般式(1-1a)においてAr6が無置換のフェニル基の場合、Ar7は無置換のフェニル基でない。前記一般式(1-1b)においてAr9がフェニル基の場合、Ar10は無置換のフェニル基でない。
同様に、前記一般式(1-2a)においてAr12が無置換のフェニル基の場合、Ar13は無置換のフェニル基でない。前記一般式(1-2b)においてAr15が無置換のフェニル基の場合、Ar16は無置換のフェニル基でない。
【0041】
Ar1~Ar22で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基としては、具体的に、炭素数6~30のアリール基または炭素数2~20のヘテロアリール基、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、アクリジニル基、カルボリニル基などを挙げることができる。
【0042】
Ar1~Ar22で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、無置換でもよいが置換基を有していてもよい。置換基としては、重水素原子、シアノ基、ニトロ基の他に、例えば以下の基を挙げることができる。
ハロゲン原子、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子;
炭素数1~6のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル
基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基
、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基;
炭素数1~6のアルキルオキシ基、例えばメチルオキシ基、エチルオキ
シ基、プロピルオキシ基;
アルケニル基、例えばビニル基、アリル基;
アリールオキシ基、例えばフェニルオキシ基、トリルオキシ基;
アリールアルキルオキシ基、例えばベンジルオキシ基、フェネチルオキ
シ基;
芳香族炭化水素基、例えばフェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリ
ル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニ
ル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、
トリフェニレニル基;
芳香族複素環基、例えばピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基
、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベ
ンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベ
ンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイ
ミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基
、カルボリニル基;
アリールビニル基、例えばスチリル基、ナフチルビニル基;
アシル基、例えばアセチル基、ベンゾイル基;
尚、これらの置換基は、独立して存在して環を形成していなくてもよいが、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0043】
(L1、L2)
L1及びL2は、単結合、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基を表す。
【0044】
L1及びL2で表される2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基は、芳香族炭化水素または芳香族複素環から水素原子を2個取り除いてできる2価基を表す。
【0045】
L1及びL2に関し、芳香族炭化水素または芳香族複素環としては、例えばベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、スピロビフルオレン、インダン、ピレン、ペリレン、フルオランテン、トリフェニレン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、フラン、ピロール、チオフェン、キノリン、イソキノリン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドリン、カルバゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、キノキサリン、ベンゾイミダゾール、ピラゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ナフチリジン、アクリジンなどを挙げることができる。
【0046】
L1及びL2で表される2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基は、無置換でもよいが置換基を有していてもよい。置換基としては、Ar1~Ar22で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が有していてもよい置換基として示したものと同様のものを挙げることができる。置換基がとりうる態様も、同様である。
【0047】
(R1~R93)
R1~R93は、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、またはアリールオキシ基を表す。
【0048】
R1~R93で表される炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基などを挙げることができる。
【0049】
R1~R93で表される炭素数1~6のアルキルオキシ基または炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基としては、具体的に、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基、2-アダマンチルオキシ基などを挙げることができる。
【0050】
R1~R93で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基としては、上記Ar1~Ar22で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基として例示した基と同じ基を挙げることができる。
【0051】
R1~R93で表されるアリールオキシ基としては、具体的に、フェニルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、ターフェニリルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラセニルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、フルオレニルオキシ基、インデニルオキシ基、ピレニルオキシ基、ペリレニルオキシ基などを挙げることができる。
【0052】
R1~R93で表される炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基またはアリールオキシ基は、無置換でもよいが置換基を有していてもよい。置換基としては、Ar1~Ar22で表される芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が有していてもよい置換基として示したものと同様のものを挙げることができる。置換基がとりうる態様も、同様である。
【0053】
(好適な態様)
以下、アリールジアミン化合物の好適な態様を説明する。
アリールジアミン化合物としては、前記一般式(1-1a)、(1-2a)または(1-3a)で表されるアリールジアミン化合物が好ましく用いられ、前記一般式(1-1b)、(1-2b)または(1-3b)で表されるアリールジアミン化合物がより好ましく用いられる。
【0054】
また、アリールジアミン化合物は、対称性を持つことが好ましい。
対称性を持つとは、具体的には、前記一般式(1-1a)では、Ar6とAr7とが置換基の位置および種類も含めて同一の構造を有し、且つ、Ar5及びR5~R8で置換されたフェニル基とAr8及びR9~R12で置換されたフェニル基とが、置換基の位置および種類も含めて同一の構造を有することを指す。前記一般式(1-1b)についても同様である。
【0055】
前記一般式(1-2a)では、Ar12とAr13とが置換基の位置および種類等も含めて同一の構造を有し、Ar11及びR34~R37で置換されたフェニル基とAr14及びR38~R41で置換されたフェニル基とが、置換基の位置および種類も含めて同一の構造を有し、さらに、R32とR33とが同一の基であって、それぞれの結合するベンゼン環上でのアミノ基に対する位置関係が同一であることを指す。前記一般式(1-2b)についても同様である。
【0056】
前記一般式(1-3a)では、Ar18とAr19とが置換基の位置および種類も含めて同一の構造を有し、Ar17及びR65~R68で置換されたフェニル基とAr20及びR69~R72で置換されたフェニル基とが、置換基の位置および種類も含めて同一の構造を有し、さらに、R62とR64とが同一の基であって、それぞれの結合するベンゼン環上でのアミノ基に対する位置関係が同一であることを指す。前記一般式(1-3b)についても同様である。
【0057】
Ar2、Ar3としては、芳香族炭化水素基が好ましく、2以上の芳香族環を有する芳香族炭化水素基がより好ましい。具体的には、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、スピロビフルオレニル基またはフルオレニル基が好ましい。ここで、ビフェニリル基、ターフェニリル基、トリフェニレニル基、スピロビフルオレニル基は無置換であることが好ましい。ナフチル基は無置換であるか、置換基として芳香族炭化水素基を有することが好ましく、無置換であることがより好ましい。ナフチル基の置換基である芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニリル基またはターフェニリル基が好ましい。フルオレニル基は置換基を有することが好ましい。フルオレニル基の置換基としては、メチル基またはフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0058】
Ar6、Ar7、Ar9、Ar10としては、芳香族炭化水素基が好ましく、2以上の芳香族環を有する芳香族炭化水素基がより好ましい。具体的には、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、スピロビフルオレニル基またはフルオレニル基が好ましい。ここで、ビフェニリル基、ターフェニリル基、トリフェニレニル基、スピロビフルオレニル基は無置換であることが好ましい。ナフチル基は置換基を有していてもよい。ナフチル基の置換基としては、芳香族炭化水素基が好ましく、フェニル基、ビフェニリル基またはターフェニリル基がより好ましい。フルオレニル基は置換基を有することが好ましい。フルオレニル基の置換基としては、メチル基またはフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0059】
Ar12、Ar13、Ar15、Ar16としては、芳香族炭化水素基が好ましく、2以上の芳香族環を有する芳香族炭化水素基、例えばビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、スピロビフルオレニル基またはフルオレニル基がより好ましい。耐熱性の観点からは、2以上の芳香族環を有し且つ縮合多環構造を有する芳香族炭化水素基、例えばトリフェニレニル基、スピロビフルオレニル基またはフルオレニル基が特に好ましく、発光効率および長寿命の観点からは、2以上の芳香族環を有し且つ縮合多環構造を有さない芳香族炭化水素基、例えばビフェニリル基またはターフェニリル基が特に好ましい。ここで、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、スピロビフルオレニル基は無置換であることが好ましい。フルオレニル基は置換基を有することが好ましい。フルオレニル基の置換基としては、メチル基またはフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0060】
Ar18、Ar19、Ar21、Ar22としては、芳香族炭化水素基が好ましく、2以上の芳香族環を有する芳香族炭化水素基がより好ましい。具体的には、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、スピロビフルオレニル基またはフルオレニル基が好ましい。ここで、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、スピロビフルオレニル基は無置換であることが好ましい。フルオレニル基は置換基を有することが好ましい。フルオレニル基の置換基としては、メチル基またはフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0061】
Ar1、Ar4としては、芳香族炭化水素基が好ましく、縮合多環構造を有さない芳香族炭化水素基がより好ましい。具体的には、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、トリフェニレニル基またはフルオレニル基が好ましく、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基がより好ましく、ビフェニリル基が特に好ましい。Ar1、Ar4で表される基は、無置換であるか、芳香族複素環基以外の置換基を有することが好ましく、無置換であることがより好ましい。芳香族複素環基以外の置換基としては、フェニル基、ナフチル基またはメチル基が好ましい。
【0062】
Ar5、Ar8としては、芳香族炭化水素基が好ましく、縮合多環構造を有さない芳香族炭化水素基がより好ましい。具体的には、フェニル基またはナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。Ar5、Ar8で表される基は、無置換であることが好ましい。
【0063】
Ar11、Ar14としては、芳香族炭化水素基が好ましく、縮合多環構造を有さない芳香族炭化水素基がより好ましい。具体的には、フェニル基、ビフェニリル基またはナフチル基が好ましく、フェニル基またはビフェニリル基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。Ar11、Ar14で表される基は、無置換であることが好ましい。
【0064】
Ar17、Ar20としては、芳香族炭化水素基が好ましく、縮合多環構造を有さない芳香族炭化水素基がより好ましい。具体的には、フェニル基またはビフェニリル基が好ましい。Ar17、Ar20で表される基は、無置換であるか、芳香族複素環基以外の置換基を有することが好ましく、無置換であることがより好ましい。
【0065】
L1、L2としては、単結合であることが好ましい。
【0066】
R1~R4、R13、R32、R33、R42、R43、R62~R64、R73~R75としては、水素原子、重水素原子またはフェニル基が好ましく、水素原子または重水素原子がより好ましい。
【0067】
R5~R12、R14~R31、R34~R41、R44~R61、R65~R72、R76~R93としては、水素原子、重水素原子または芳香族炭化水素基が好ましく、水素原子、重水素原子またはフェニル基がより好ましく、水素原子または重水素原子が特に好ましい。
【0068】
本発明のアリールジアミン化合物の好適な具体例を
図5~
図16に示すが、アリールジアミン化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0069】
具体例中、フェニレン基で2つのアミノ基が連結されている化合物1-1~1-32において、紙面上、各窒素原子の上側に描かれる2つの置換基が上記一般式(1)における-L1-Ar1および-L2-Ar4に該当し、各窒素原子の下側に描かれる2つの置換基が上記一般式(1)におけるAr2およびAr3に該当する。
ビフェニレン基で2つのアミノ基が連結されている化合物2-1~2-36において、紙面上、左側の窒素原子の下側に描かれる置換基及び右側の窒素原子の上側に描かれる置換基が上記一般式(1)における-L1-Ar1および-L2-Ar4に該当し、左側の窒素原子の上側に描かれる置換基及び右側の窒素原子の下側に描かれる置換基が上記一般式(1)におけるAr2およびAr3に該当する。
トリフェニレン基で2つのアミノ基が連結されている化合物3-1~3-14において、紙面上、各窒素原子の下側に描かれる2つの置換基が上記一般式(1)における-L1-Ar1および-L2-Ar4に該当し、各窒素原子の上側に描かれる2つの置換基が上記一般式(1)におけるAr2およびAr3に該当する。
【0070】
化合物1-1~1-19、1-21、1-22、1-27及び1-32は上記一般式(1-1a)および(1-1b)に該当する。化合物1-25および1-26は上記一般式(1-1a)に該当する。
【0071】
化合物2-1~2-5、2-9~2-12、2-15~2-21、2-23~2-26及び2-28~2-31は、上記一般式(1-2a)および(1-2b)に該当し、化合物2-7、2-8および2-27は、上記一般式(1-2a)に該当する。
【0072】
化合物3-1及び3-3~3-8は、上記一般式(1-3a)および(1-3b)に該当し、化合物3-12は、上記一般式(1-3a)に該当する。
【0073】
<製造方法>
本発明のアリールジアミン化合物は、公知の方法によって製造することができる。例えば、アリールジアミン化合物の2つのアミノ基を連結するフェニレン、ビフェニレンまたはターフェニレン骨格を有する化合物のジハロゲン化物と芳香族炭化水素基または芳香族複素環基が窒素原子に結合した2級アミンとの銅触媒下でのクロスカップリング反応により製造することができる。
【0074】
アリールジアミン化合物の精製は、カラムクロマトグラフによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土等による吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行うことができる。昇華精製法などによる精製を行ってもよい。化合物の同定は、NMR分析によって行うことができる。物性値として、融点、ガラス転移点(Tg)、仕事関数等の測定を行うことができる。
【0075】
融点は蒸着性の指標となる。融点は、粉体を用いて高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)により測定することができる。
【0076】
ガラス転移点(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となる。ガラス転移点(Tg)は、融点と同様の方法により測定することができる。
【0077】
仕事関数は正孔輸送性や正孔阻止性の指標となる。仕事関数は、ITO基板の上に100nmの薄膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社、PYS-202)によって求めることができる。
【0078】
<有機EL素子>
本発明の有機EL素子は、一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層が設けられた構造を有している。
【0079】
このような構造を有している限り、本発明の有機EL素子の層構造は種々の態様を採ることができる。例えば、基板上に順次に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層および陰極を設けた層構造とすることができる。また、正孔輸送層と発光層の間に電子阻止層を設けること、発光層と電子輸送層の間に正孔阻止層を設けることまたは電子輸送層と陰極の間に電子注入層を設けることが可能である。更に、有機層を何層か省略あるいは兼ねることが可能である。例えば、正孔注入層と正孔輸送層を兼ねた構成とすること、電子注入層と電子輸送層を兼ねた構成とすることなども可能である。また、同一の機能を有する有機層を2層以上積層した構成とすることが可能である。例えば、正孔輸送層を2層積層した構成、発光層を2層積層した構成、電子輸送層を2層積層した構成なども可能である。本発明の有機EL素子の構造として、正孔輸送層が第一正孔輸送層と第二正孔輸送層の2層が積層した構成とすることが好ましい。
図4には、後述する実施例で採用された層構成が示されており、即ち、ガラス基板1上に透明陽極2、正孔注入層3、第一正孔輸送層4、第二正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8および陰極9がこの順に形成された層構成が示されている。
【0080】
各層の詳細な説明は後述するが、本発明では、少なくとも1つの有機層に本発明のアリールジアミン化合物を含有する点に特徴を有する。
【0081】
<陽極>
陽極2は、それ自体公知の電極材料で構成されてよく、例えばITOや金のような仕事関数の大きな電極材料が用いられる。
【0082】
<正孔注入層>
正孔注入層3には、本発明のアリールジアミン化合物を好適に用いることができる。その他、公知の材料を本発明のアリールジアミン化合物に代え、または本発明のアリールジアミン化合物と混合して若しくは同時に使用してもよい。
【0083】
公知の材料としては、例えば、スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体、種々のトリフェニルアミン4量体などの材料;銅フタロシアニンに代表されるポルフィリン化合物;ヘキサシアノアザトリフェニレンのようなアクセプター性の複素環化合物;塗布型の高分子材料;などを用いることができる。
【0084】
また、正孔注入層に通常使用される材料に対し、さらにトリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモン、ラジアレン誘導体(国際公開2014/009310号参照)などをPドーピングしたものや、TPDなどのベンジジン誘導体の構造をその部分構造に有する高分子化合物などを用いることもできる。
【0085】
これらの材料を用いて蒸着法、スピンコート法、インクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことにより、正孔注入層3を得ることができる。以下に述べる各層も同様に、蒸着法、スピンコート法、インクジェット法などの公知の方法により薄膜形成を行うことで得ることができる。
【0086】
<正孔輸送層>
正孔注入層3の上には、正孔輸送層が設けられている。正孔輸送層は単層でもよいが、正孔注入層側に位置する第一正孔輸送層4と、発光層側に位置する第二正孔輸送層5とからなる積層構造を有することが好ましい。
【0087】
正孔輸送層には、本発明のアリールジアミン化合物を用いることが好ましい。正孔輸送層が2層構造を有する場合、両層の組成が違っているという条件の下、どちらの層に本発明のアリールジアミン化合物を用いてもよく、両方の層に用いてもよい。
【0088】
その他、以下に例示される公知の材料を本発明のアリールジアミン化合物に代え、または本発明のアリールジアミン化合物と混合して若しくは同時に使用してもよい。
ベンジジン誘導体、例えば
N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(T
PD)、
N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(α-ナフチル)ベンジジン(
NPD)、
N,N,N’,N’-テトラビフェニリルベンジジン;
1,1-ビス[4-(ジ-4-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサ
ン(TAPC);
種々のトリフェニルアミンの3量体および4量体;
【0089】
正孔輸送層は、単独で成膜しても良いが、他の材料とともに混合して成膜しても良い。また、単独で成膜した層同士を積層した構造、混合して成膜した層同士を積層した構造または単独で成膜した層と混合して成膜した層を積層した構造を有していてもよい。正孔輸送層以外の他の有機層も同様の構造とすることができる。
【0090】
また、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)/ポリ(スチレンスルフォネート)(PSS)などの塗布型の高分子材料を用い、正孔注入層兼正孔輸送層を形成することができる。
【0091】
また、正孔輸送層に通常使用される材料に対し、さらにトリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモン、ラジアレン誘導体(国際公開2014/009310号参照)などをPドーピングしたものや、TPDなどのベンジジン誘導体の構造をその部分構造に有する高分子化合物などを用いることもができる。
【0092】
<電子阻止層>
電子阻止層(図示せず)には、本発明のアリールジアミン化合物を好適に用いることができる。その他、例えば以下に例示される公知の電子阻止作用を有する化合物を用いることができる。
カルバゾール誘導体、例えば、
4,4’,4’’-トリ(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(
TCTA)、
9,9-ビス[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]フルオレ
ン、
1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン(mCP)、
2,2-ビス(4-カルバゾール-9-イルフェニル)アダマンタン
(Ad-Cz);
トリフェニルシリル基を有するトリアリールアミン化合物、例えば
9-[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]-9-[4-(ト
リフェニルシリル)フェニル]-9H-フルオレン;
【0093】
<発光層>
発光層6には、本発明のアリールジアミン化合物が好適に用いられる。また、公知の発光材料を用いてもよい。公知の材料としては、Alq3をはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体;各種の金属錯体;アントラセン誘導体;ビススチリルベンゼン誘導体;ピレン誘導体;オキサゾール誘導体;ポリパラフェニレンビニレン誘導体;などを用いることができる。
【0094】
また、発光層6をホスト材料とドーパント材料とで構成しても良い。
ホスト材料として、本発明のアリールジアミン化合物と前記発光材料に加え、インドール環を縮合環の部分構造として有する複素環化合物;カルバゾール環を縮合環の部分構造として有する複素環化合物;カルバゾール誘導体;チアゾール誘導体;ベンズイミダゾール誘導体;ポリジアルキルフルオレン誘導体;アントラセン誘導体;などを用いることができる。
ドーパント材料としては、フルオレン環を縮合環の部分構造として有するアミン誘導体;キナクリドン、クマリン、ルブレン、ペリレン、ピレンおよびそれらの誘導体;ベンゾピラン誘導体;インデノフェナントレン誘導体;ローダミン誘導体;アミノスチリル誘導体;などを用いることができる。
【0095】
また、発光材料として燐光発光体を使用することも可能である。燐光発光体としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光発光体を使用することができる。具体的には、Ir(ppy)3などの緑色の燐光発光体;FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体;Btp2Ir(acac)などの赤色の燐光発光体;などが用いられる。
【0096】
このときのホスト材料としては、例えば以下の正孔注入・輸送性のホスト材料を用いることができる。
カルバゾール誘導体、例えば
4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(CBP)、TCTA
、mCP;
また、例えば以下の電子輸送性のホスト材料を用いることができる。
p-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(UGH2)、
2,2’,2’’-(1,3,5-フェニレン)-トリス(1-フェニ
ル-1H-ベンズイミダゾール)(TPBI);
このようなホスト材料を用いると、高性能の有機EL素子を作製することができる。
【0097】
燐光性の発光材料のホスト材料へのドープは濃度消光を避けるため、発光層全体に対して1~30重量パーセントの範囲で、共蒸着によってドープすることが好ましい。
【0098】
発光材料としてPIC-TRZ、CC2TA、PXZ-TRZ、4CzIPNなどのCDCB誘導体などの遅延蛍光を放射する材料を使用することも可能である。
【0099】
<正孔阻止層>
発光層5の上には、正孔阻止層(図示せず)を設けることができる。正孔阻止層には、公知の正孔阻止作用を有する化合物を用いることができる。公知の正孔阻止作用を有する化合物としては、バソクプロイン(BCP)などのフェナントロリン誘導体;アルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-キノリナート)-4-フェニルフェノレート(BAlq)などのキノリノール誘導体の金属錯体;各種の希土類錯体;トリアゾール誘導体;トリアジン誘導体;オキサジアゾール誘導体;などを挙げることができる。これらの材料は電子輸送層の材料を兼ねてもよい。
【0100】
<電子輸送層>
電子輸送層7には、公知の電子輸送性材料を使用することができる。公知の電子輸送性材料としては、Alq3、BAlqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体;各種金属錯体;トリアゾール誘導体;トリアジン誘導体;オキサジアゾール誘導体;ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体;ベンズイミダゾール誘導体;チアジアゾール誘導体;アントラセン誘導体;カルボジイミド誘導体;キノキサリン誘導体;ピリドインドール誘導体;フェナントロリン誘導体;シロール誘導体;などを用いることができる。
【0101】
<電子注入層>
電子注入層8としては、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属塩;フッ化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩;酸化アルミニウムなどの金属酸化物;などを用いることができるが、電子輸送層と陰極の好ましい選択においては、これを省略することができる。
【0102】
<陰極>
陰極9としては、アルミニウムのような仕事関数の低い電極材料や、マグネシウム銀合金、マグネシウムインジウム合金、アルミニウムマグネシウム合金のような、より仕事関数の低い合金が電極材料として用いられる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0104】
<実施例1:化合物1-2>
1,2-ビス[ビフェニルー4-イル(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)アミノ]ベンゼンの合成;
窒素置換した反応容器に、
ビフェニルー4-イル(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-
イル)アミン 24.1g、
1,2-ジヨードベンゼン 10.0g、
銅粉 0.2g、
炭酸カリウム 10.5gおよび
ドデシルベンゼン 10ml
を加えて加熱還流下にて72時間撹拌して反応液を得た。反応液を冷却し、トルエンを加え、抽出および濾過によって不溶物を除き、濾液を濃縮した。濃縮物をカラムクロマトグラフ(担体:シリカゲル、溶離液:トルエン/n-ヘプタン)により精製した後、CH2Cl2/アセトン混合溶媒で再結晶精製を行った。その結果、化合物1-2の白色粉体15.7g(収率65.0%)を得た。
【0105】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(DMSO-d
6)で以下の48個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=7.65(4H)
7.49-7.18(24H)
6.86-6.78(8H)
1.29(12H)
【化16】
【0106】
<実施例2:化合物2-1>
2,2’-ビス[ジ-(4-ビフェニリル)アミノ]ビフェニルの合成;
窒素置換した反応容器に、
ビス(4-ビフェニリル)アミン 13.9g、
2,2’-ジヨードビフェニル 8.0g、
銅粉 0.1g、
炭酸カリウム 6.8gおよび
ドデシルベンゼン 10ml
を加えて加熱還流下にて72時間撹拌し、反応液を得た。反応液を冷却し、トルエンを加え、抽出および濾過によって不溶物を除き、濾液を濃縮した。トルエン/アセトン混合溶媒で再結晶精製を行った。その結果、化合物2-1の白色粉体10.9g(収率70.0%)を得た。
【0107】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(DMSO-d
6)で以下の44個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=7.50(8H)
7.39-7.30(14H)
7.28-7.25(10H)
6.96(4H)
6.76(8H)
【化17】
【0108】
<実施例3:化合物2-4>
2,2’-ビス[ビフェニル-4-イル-(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)アミノ]ビフェニルの合成;
窒素置換した反応容器に、
ビフェニル-4-イル-(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2
-イル)アミン 15.7g、
2,2’-ジヨードビフェニル 8.0g、
銅粉 0.1g、
炭酸カリウム 6.8gおよび
ドデシルベンゼン 10ml
を加えて加熱還流下にて1週間撹拌し、反応液を得た。反応液を冷却し、トルエンを加え、抽出および濾過によって不溶物を除き、濾液を濃縮した。アセトン溶媒を用いて再結晶精製を行った。その結果、化合物2-4の白色粉体12.7g(収率73.8%)を得た。
【0109】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(DMSO-d
6)で以下の52個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=7.66(2H)
7.57(2H)
7.48-7.14(24H)
7.02(2H)
6.83-6.64(10H)
1.29(6H)
1.02(6H)
【化18】
【0110】
高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によって、各実施例で得られた化合物の融点とガラス転移点を測定した。
融点(℃) ガラス転移点(℃)
実施例1の化合物1-2 ND 126
実施例2の化合物2-1 248 123
実施例3の化合物2-4 ND 146
【0111】
本発明のアリールジアミン化合物は100℃以上のガラス転移点を有しており、薄膜状態が安定であった。
【0112】
各実施例で得られた化合物を用いて、ITO基板の上に膜厚100nmの蒸着膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202)によって仕事関数を測定した。
仕事関数(eV)
実施例1の化合物1-2 5.62
実施例2の化合物2-1 5.71
実施例3の化合物2-4 5.69
【0113】
本発明のアリールジアミン化合物はNPD、TPDなどの一般的な正孔輸送材料がもつ仕事関数5.4eVと比較して、好適なエネルギー準位を示しており、良好な正孔輸送能力を有していた。
【0114】
<素子実施例1>
有機EL素子は、
図4に示すように、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔注入層3、第一正孔輸送層4、第二正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極(アルミニウム電極)9をこの順に蒸着して作製した。
【0115】
具体的には、膜厚150nmのITOを成膜したガラス基板1をイソプロピルアルコール中にて20分間超音波洗浄した。次いで、200℃に加熱したホットプレート上にて10分間乾燥した。次いで、UVオゾン処理を15分間行った。その後、このITO付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け、0.001Pa以下まで減圧した。
続いて、透明陽極2を覆うように下記構造式の化合物HIM-1を蒸着し、膜厚5nmの正孔注入層3を形成した。
【化19】
正孔注入層3の上に、下記構造式のトリフェニルアミン誘導体HTM-1を蒸着し、膜厚60nmの第一正孔輸送層4を形成した。
【化20】
第一正孔輸送層4の上に、実施例1の化合物1-2を蒸着し、膜厚5nmの第二正孔輸送層5を形成した。
【化21】
第二正孔輸送層5の上に、下記構造式のイリジウム錯体EMD-1と下記構造式のカルバゾール誘導体EMH-1を、蒸着速度比がEMD-1:EMH-1=5:95となる蒸着速度で二元蒸着し、膜厚20nmの発光層6を形成した。
【化22】
発光層6の上に、下記構造式のピリミジン化合物ETM-1と下記構造式の化合物ETM-2を、蒸着速度比がETM-1:ETM-2=50:50となる蒸着速度で二元蒸着し、膜厚30nmの電子輸送層7を形成した。
【化23】
電子輸送層7の上に、フッ化リチウムを蒸着し、膜厚1nmの電子注入層8を形成した。
最後に、電子注入層8の上にアルミニウムを蒸着し、膜厚100nmの陰極9を形成した。
【0116】
<素子実施例2>
素子実施例1において、実施例1の化合物1-2に代えて実施例2の化合物2-1を用いて第二正孔輸送層5を形成した以外は、同様の条件で有機EL素子を作製した。
【化24】
【0117】
<素子実施例3>
素子実施例1において、実施例1の化合物1-2に代えて実施例3の化合物2-4を用いて第ニ正孔輸送層5を形成した以外は、同様の条件で有機EL素子を作製した。
【化25】
【0118】
<素子比較例1>
比較のために、素子実施例1において、実施例1の化合物1-2に代えて下記構造式のHTM-2を用いて第二正孔輸送層5を形成した以外は、同様の条件で有機EL素子を作製した。
【化26】
【0119】
<素子比較例2>
比較のために、素子実施例2において、実施例2の化合物2-1に代えて下記構造式のHTM-3を用いて第二正孔輸送層5を形成した以外は、同様の条件で有機EL素子を作製した。
【化27】
【0120】
<素子比較例3>
比較のために、素子実施例2において、実施例2の化合物2-1に代えて下記構造式のHTM-4を用いて第二正孔輸送層5を形成した以外は、同様の条件で有機EL素子を作製した。
【化28】
【0121】
<素子比較例4>
比較のために、素子実施例2において、実施例2の化合物2-1に代えて下記構造式のHTM-5を用いて第二正孔輸送層5を形成した以外は、同様の条件で有機EL素子を作製した。
【化29】
【0122】
素子実施例1~3および素子比較例1~4で作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行った。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1に示した。
【0123】
素子実施例1~3および素子比較例1~4で作製した有機EL素子を用いて、素子寿命を測定した。具体的には、発光開始時の発光輝度(初期輝度)を9000cd/m2として定電流駆動を行った時、発光輝度が8550cd/m2(初期輝度を100%とした時の95%に相当:95%減衰)に減衰するまでの時間を測定した。結果を表1に示した。
【0124】
【0125】
2つのアミノ基を連結するフェニレン基の種類以外は同じ構造を有するアリールジアミン化合物を用いて第二正孔輸送層5を形成した素子実施例1と素子比較例1との比較において、電流密度10mA/cm2の電流を流したときの発光効率は、素子比較例1の有機EL素子では69.95cd/Aであったのに対し、素子実施例1の有機EL素子では72.05cd/Aと高効率であった。
【0126】
電力効率においても、素子比較例1の有機EL素子で52.33lm/Wであったのに対し、素子実施例1の有機EL素子では54.95lm/Wと同等以上に高効率であった。
【0127】
素子寿命(95%減衰)においては、素子比較例1の有機EL素子で111時間であったのに対し、素子実施例1の有機EL素子では200時間と、大きく長寿命化していた。
【0128】
同様に、2つのアミノ基を連結するビフェニレン基の種類以外は同じ構造を有するアリールジアミン化合物を用いて第二正孔輸送層5を形成した素子実施例2と素子比較例2~4との比較において、電流密度10mA/cm2の電流を流したときの発光効率は、素子比較例2~4の有機EL素子で70.70~74.31cd/Aであったのに対し、素子実施例2の有機EL素子では77.77cd/Aと高効率であった。
【0129】
電力効率においても、素子比較例2~4の有機EL素子で52.47~53.59lm/Wであったのに対し、素子実施例2の有機EL素子では56.82lm/Wと同等以上に高効率であった。
【0130】
素子寿命(95%減衰)においては、素子比較例2~4の有機EL素子で200~305時間であったのに対し、素子実施例2の有機EL素子では340時間と、長寿命化していた。
【0131】
同様に、式(1)におけるAr2およびAr3以外は同じ構造を有するアリールジアミン化合物を用いて第二正孔輸送層5を形成した素子実施例2と素子実施例3を比べると、式(1)におけるAr2およびAr3が縮合多環構造を有する芳香族炭化水素基である素子実施例2のほうが、式(1)におけるAr2およびAr3が縮合多環構造を有さない芳香族炭化水素基である素子実施例3よりも発光効率が高く、長寿命であった。
【0132】
以上の結果から、本発明のアリールジアミン化合物を用いた有機EL素子は、従来の有機EL素子と比較して、高発光効率、長寿命の有機EL素子を実現できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
上述の通り、本発明のアリールジアミン化合物は、正孔輸送能力が高く、電子阻止能力に優れており、薄膜状態が安定であるため、有機EL素子用の化合物として優れている。該化合物を用いて作成した本発明の有機EL素子は、発光効率および電力効率が高く、実用駆動電圧が低く、耐久性に優れている。そのため、例えば、家庭電化製品や照明の用途への展開が可能である。
【0134】
1 ガラス基板
2 透明陽極
3 正孔注入層
4 第一正孔輸送層
5 第二正孔輸送層
6 発光層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極