(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】CD6のリン酸化を低減させるためのイトリズマブの使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20220428BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220428BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220428BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220428BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220428BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220428BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220428BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220428BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 N
A61P19/02
A61P29/00
A61P35/00
A61P37/06
C12N15/13
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2019520731
(86)(22)【出願日】2017-10-16
(86)【国際出願番号】 IB2017056403
(87)【国際公開番号】W WO2018073721
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】201641035602
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】506292941
【氏名又は名称】バイオコン・リミテッド
【住所又は居所原語表記】20th KM,Hosur Road,Electronic City,Karnataka Bangalore 560 100,India
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ナーイル,プラディプ
(72)【発明者】
【氏名】サーハー,アリンダム
(72)【発明者】
【氏名】サダシヴァラオ,ラヴィンドラ,ベラビナコディジ
(72)【発明者】
【氏名】ブガーニ,ウシャ
(72)【発明者】
【氏名】メラーコーデ,ラマクリシュナン
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】mAbs,2014年,Vol.6, No.3,p.782-792
【文献】Clinical and Experimental Immunology,Vol.162,2010年,p.116-130
【文献】Molecular and Cellular Biology,2006年,Vol.26, No.17,p.6727-6738
【文献】Nat Immunol,2014年,15(4),P.1-32, Supplementary Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファターゼSHP1およびSHP2の発現を阻害する方法における使用のための、配列番号1および2にそれぞれ記述されたとおりの重鎖および軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗CD6抗体を含む組成物であって、
方法は、宿主細胞を、配列番号1および2にそれぞれ記述されたとおりの重鎖および軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗CD6抗体と接触させることを含み、CD6上のD1受容体へのモノクローナル抗CD6抗体の結合が、CD6-ALCAM複合体のCD6受容体のリン酸化の低減を引き起こし、それによってホスファターゼSHP1およびSHP2の発現を低減させるものである、
前記組成物。
【請求項2】
ホスファターゼSHP1およびSHP2の発現を阻害するための、配列番号1および2にそれぞれ記述されたとおりの重鎖および軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗CD6抗体を含む組成物。
【請求項3】
モノクローナル抗CD6
抗体がイトリズマブである、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
CD6-ALCAM複合体のCD6のリン酸化の低減が、ZAP70とSLP-76とのドッキングの低減をもまた引き起こす、請求項
1に記載の組成物。
【請求項5】
宿主細胞がヒト対象におけるものである、請求項1
~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
イトリズマブ抗体が、CD6へのD3でのALCAMの結合を阻害しないが、免疫シナプスでの立体障害に起因して、形成されたCD6-ALCAM複合体
の相互作用を阻害する、請求項
3に記載の組成物。
【請求項7】
免疫シナプスでの立体障害に起因して、形成されたCD6-ALCAM複合体の相互作用が阻害される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年10月18日にインド特許庁に出願されたインド仮特許出願第201641035602号の利益および優先権を主張するものである。2016年10月18日に出願された当該出願の内容は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書中に組み込まれ、これは、PCTの規則4.18の規定による、PCTの規則20.5(a)において言及された、本明細書に含まれない明細書、請求の範囲または図面のあらゆる要素または部分を包含する。
【0002】
技術分野
本発明は、胸腺上皮細胞、単球、活性化T細胞および種々の他の細胞種の表面に存在するCD6のスカベンジャー受容体システインリッチ(SRCR)ドメイン1(D1)に結合するヒト化IgG1アイソタイプ抗CD6モノクローナル抗体(T1h)に関する。本発明は、TヘルパーおよびTリンパ球細胞によって媒介される疾患状態の防止を包含する処置のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
T細胞活性化、分化および機能は、多様な発現、構造および機能を有する共刺激および共阻害受容体によって制御され、大きく状況に依存する。TCRの活性化およびその後のZAP70のリン酸化は、TCR複合体へのCD6の会合(ここでCD6は、アダプターまたはドッキングタンパク質であるLATとは独立してSLP-76およびグアニンヌクレオチド因子Vav1のリクルートを許容するスキャフォールドタンパク質のように作用する)を促進した(Roncagalli R et al, 2016)。加えて、CD6の細胞質尾部上のチロシン、セリンおよびトレオニン残基での過剰なリン酸化が、SLP-76などのアダプター分子へのCD6の結合をもたらし、これに続いて時間および用量依存的なMAPK活性化が起こる(Nair P et al, 2010)。
【0004】
CD6は、その単独の発現のみで、すなわち、リガンド関与の非存在下においてさえも、T細胞におけるシグナル伝達を抑制するのに充分である、シグナル伝達アテニュエーターとして同定された(Oliveira L et al, 2012)。さらに最近、Orta-Mascaro M et al., 2016は、CD6が無効化されたマウスでは、胸腺における負の選択と、末梢における自己または環境抗原に応答した活性化の増大があることを示していた。この知見は、メモリーおよび制御性の表現型を持つT細胞サブセットの拡大によって示唆され、CD6について阻害機能を示唆している。
【0005】
CD6は、T細胞の調節と関連し、複数の自己免疫疾患に関係している。WO/2009/113083は、ヒト化IgG1アイソタイプ抗CD6抗体(T1h)が、胸腺上皮細胞、単球、活性化T細胞および種々の他の細胞種の表面に存在するCD6のスカベンジャー受容体システインリッチ(SRCR)ドメイン1(D1)に結合することを示した。両方ともスカベンジャー受容体システインリッチドメインスーパーファミリー(SRCR-SF)のメンバーであり相当の構造上および機能上の相同性を共有するCD6およびCD5は、それぞれ個別に、ナイーブT細胞をプライミングしてTh17細胞へと分化させるための古典的なCD28媒介性の抗CD3との共刺激よりも優れていることが見出された。
【0006】
WO/2015/011658は、CD6ドメイン1特異的なヒト化モノクローナル抗体であるイトリズマブが、抗CD3抗体で刺激されたかまたはALCAMと共刺激されたときに、Tリンパ球の増殖およびサイトカイン生産を、阻害したことを実証した。イトリズマブはまた、IL-17が引き金となる発病機序を有することが知られているヒトの疾患における有効性をも実証している。
【0007】
イトリズマブは、ALCAMとCD6ドメイン3の結合を妨げることなくCD6のドメイン1に結合する、ヒト化IgG1の非枯渇型(non-depleting)モノクローナル抗体(mAb)である。最近のイトリズマブでの臨床試験は、乾癬および関節リウマチの患者における有効性を実証しており、この薬物は、インドにおいて乾癬の処置のために承認されている(Krupashankar DS et al, 2014)。しかしながら、この薬物の作用機序は明確には理解されていない。ゆえに、イトリズマブについての作用機序を発見することが有益となる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、CD6の過剰なリン酸化を直接低減させること、および、T細胞シグナル伝達、活性化および増殖と関連する主要な分子のドッキングを防止することによる、活性化ALCAM-CD6共刺激シグナルの減少を伴う、イトリズマブの作用の主要なメカニズムを開示する。
【0009】
1つの側面において、本発明は、CD6-ALCAM複合体のリン酸化を低減させる方法を提供し、方法は:
宿主細胞を、配列番号1および2にそれぞれ記述されたとおりの重鎖および軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗CD6抗体と接触させることを含み、ここで、CD6上のD1受容体へのモノクローナル抗CD6抗体の結合は、活性化白血球細胞接着分子(ALCAM)とCD6のD3受容体との相互作用にとっての立体障害を引き起こし、それによってCD6-ALCAM複合体のCD6受容体のリン酸化の低減を引き起こす。好ましくは、モノクローナル抗CD6は、イトリズマブである。
【0010】
重要なことに、CD6-ALCAM複合体のCD6のリン酸化の低減は、ZAP70(T細胞応答を開始させるのに不可欠な役割を担う細胞質タンパク質チロシンキナーゼ)とSLP-76(ドッキング分子)とのドッキングの低減をもまた引き起こし、それによってホスファターゼSHP1およびSHP2の発現を低減させる。
【0011】
さらに別の側面において、本発明は、免疫シナプスでの立体障害に起因して、形成されたCD6-ALCAM複合体の完全相互作用を阻害する方法を提供し、方法は:
宿主細胞を、配列番号1および2にそれぞれ記述されたとおりの重鎖および軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗CD6抗体と接触させることを含み、ここで、CD6上のD1受容体へのモノクローナル抗CD6抗体の結合は、ALCAMとCD6のD3受容体との相互作用にとっての立体障害を引き起こし、それによってCD6-ALCAM複合体のCD6受容体のリン酸化の低減を引き起こす。好ましくは、モノクローナル抗CD6は、イトリズマブである。
【0012】
さらなる側面において、本発明は、CD6のD3へのALCAMの結合によって誘導されるCD6受容体のリン酸化の低減を提供し、方法が:
宿主細胞を、CD6のD1に結合する抗CD6抗体と接触させることを含み、ここで、抗CD6抗体は、配列番号1および2にそれぞれ記述されたとおりの重鎖および軽鎖可変領域を含み、ここで、CD6上のD1受容体へのモノクローナル抗CD6抗体の結合は、CD6-ALCAM複合体のCD6受容体のリン酸化の低減を引き起こさせる。
【0013】
またさらなる側面において、本発明は、ホスファターゼSHP1およびSHP2の発現を阻害する方法を提供し、方法は:
宿主細胞を、配列番号1および2にそれぞれ記述されたとおりの重鎖および軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗CD6抗体と接触させることを含み、ここで、CD6上のD1受容体へのモノクローナル抗CD6抗体の結合は、CD6-ALCAM複合体のCD6受容体のリン酸化の低減を引き起こし、それによってホスファターゼSHP1およびSHP2の発現を低減させる。
【0014】
上で論じた方法における宿主細胞は、好ましくは、乾癬、関節リウマチ、または、患者における自己免疫反応、例えば多発性硬化症または移植拒絶反応と関連する有害反応、移植片対宿主病、I型およびII型糖尿病、皮膚T細胞性リンパ腫、甲状腺炎および他のT細胞媒介性自己免疫疾患のような、炎症状態を調整するための処置を必要とする、ヒト対象におけるものである。
【0015】
本発明の他の側面、目的、特徴および利点は、本発明の好ましい態様を説明する下記の詳細な説明から当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、イトリズマブがCD6-ALCAM共刺激シグナル変換経路を阻害することを示す。ヒトPBMCを、ALCAM(10μg/ml)で被覆されたプレート上に、40分間、イトリズマブまたはIso Abとともにプレーティングした。(A)CD6を、イトリズマブまたはIso Abのいずれかとともに免疫沈降させ、CD6、p-Tyr、Zap70およびSLP-76について免疫ブロッティングした(上部のパネル)。下部のパネルは、CD6、ZAP70、およびSLP-76についての対応する10%のインプット対照試料を示す。代表的なブロットは、少なくとも3つの独立した、異なるドナーからの実験からのものである。(B-D)3つの独立した実験からの、
図Aに表したとおりのp-Tyr、Zap70およびSLP-76の強度の全体的な定量化が、棒グラフとして示されている。結果は、平均値±SDで表現されている。(E)(A)に記載されたものと同様の実験を、今度は、CD6、p-Tyrについて、およびホスファターゼp-SHP1、SHP1、pSHP2およびSHP2について免疫ブロッティングして行った。ブロットは、少なくとも3つの独立した、異なるドナーからの実験の代表的なものである。(FおよびG)3つの独立した実験からの、
図Eに表したとおりのp-SHP1およびp-SHP2の強度の全体的な定量化が、棒グラフとして示されている。結果は、平均値±SDで表現されている。
【0017】
【
図2】
図2は、MEM-98抗体を使用してCD6で免疫沈降した試料のCD6ウェスタンブロットを示す。
【
図3】
図3は、(A)ヒトPBMCを、0.5ng/mlの抗CD3抗体(OKT3)で24時間、イトリズマブまたはIso Abの存在下または非存在下で処置したところを示す。CD6を、イトリズマブとともに免疫沈降させ、CD6、p-Tyr、Zap70およびSLP-76について免疫ブロッティングした。対応する10%のインプット試料を、陰性対照としてランした。代表的なブロットは、2つの独立した実験からである。(B-D)p-Tyr、Zap70、SLP-76の相対強度の定量化(平均値±SD)。グラフは、異なる実験条件において倍率の違いを算出するために、2つの独立した実験から導き出された。
【0018】
【
図4】
図4は、提唱されるイトリズマブの作用のメカニズムを描いた絵を示す。ここには、ALCAM-CD6の最適相互作用が、イトリズマブにより引き起こされる立体障害によって阻害されることが示されている。ALCAM-CD6相互作用の阻害は、CD6の、その細胞質ドメインにおけるリン酸化を減少させ、T細胞活性化シグナル伝達カスケードの下方制御をもたらす。
【
図5】
図5は、イトリズマブ抗体の軽鎖可変アミノ酸配列(配列番号1)、重鎖可変アミノ酸配列(配列番号2)、重鎖可変および定常アミノ酸配列(配列番号5)および軽鎖可変および定常アミノ酸配列(配列番号6)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の詳細な記載
本発明は、CD6のドメイン1(D1)に結合し、ALCAMによって誘導されるCD6受容体のリン酸化を直接阻害し又は低減させ、その後の関連するZAP70(キナーゼ)とドッキングタンパク質SLP76とのドッキングを減少させることを可能とする、抗CD6モノクローナル抗体を提供する。さらに、CD6のリン酸化および関連するシグナル伝達分子の、かかる阻害および/または低減は、T細胞活性化および分化の減少をもたらす。
【0020】
本発明の実施は、他に指示しない限り、当分野の技術の範囲内である免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学および組換えDNAの、従来技術を採用する。例として、Sambrook, et al. MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 第2版 (1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F. M. Ausubel, et al. eds., (1987));METHODS IN ENZYMOLOGYのシリーズ (Academic Press, Inc.): PCR 2: A PRACTICAL APPROACH (M. J. MacPherson、B. D. HamesおよびG. R. Taylor eds. (1995)), HarlowおよびLane, eds. (1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL, およびANIMAL CELL CULTURE (R. I. Freshney, ed. (1987))を参照。
【0021】
定義
本明細書中において他に定義しない限り、本発明に関して使用する科学および技術用語は、当業者に普通に理解されている意味を有するものとする。さらに、別様に文脈から要求されない限り、単数形の用語は複数形を包含するものとし、複数形の用語は単数形を包含するものとする。
本発明を記載およびクレームすることにおいては、以下の専門用語を、本明細書中に定めた定義に従って使用する。
【0022】
本明細書中において使用する「抗CD6抗体」は、一般的に、ヒトCD6(hCD6)のSRCRドメイン1(D1)に特異的に結合する抗体である。本発明の好ましい側面において、ネイティブおよび人工的に改変された抗体および抗体フラグメントを包含する、抗体およびその他の免疫グロブリンであって、CD6のヒトSRCRドメイン1に特異的に結合するが、CD6に活性化白血球細胞接着分子(ALCAM)が結合することを妨げないものが提供される。
【0023】
本明細書中において使用する「モノクローナル抗体」(mAb)は、実質的に同質である抗体の集団の抗体を指し;つまり、その集団中における個々の抗体は、少量存在し得る自然発生突然変異以外では同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原決定基「エピトープ」に対して向けられている。したがって、修飾語句「モノクローナル」は、同一のエピトープに向けられた実質的に同質である抗体の集団を意味するが、いかなる特定の方法による抗体の生産を要求すると解されるものでもない。当技術分野において知られているあらゆる手法または方法論によってモノクローナル抗体を作ることができることが理解されるべきであり;例として、当技術分野において知られている組換えDNA法、またはファージ抗体ライブラリーを使用して組換え技術により生産されたモノクローナルの単離の方法が包含される。
【0024】
本明細書中において使用する「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するための、必要な投薬量及び期間での、有効な量を指す。
本明細書中において記載された本発明の側面は、「からなる」および「から本質的になる」という側面もまた包含することが理解される。
【0025】
本発明は、配列番号1および配列番号2を含む、CD6へのALCAMの結合を妨げることなくCD6のD1ドメインに特異的に結合することを可能とする抗CD6モノクローナル抗体を提供する。抗CD6モノクローナル抗体をコードするヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号3および配列番号4を包含するか、または、ヌクレオチド配列は、それらと少なくとも90%同一性を有し、配列番号1および配列番号2をコードする。
【0026】
本発明の抗CD6モノクローナル抗体を生産するための方法
本発明はさらに、開示されている抗CD6抗体を生産するための方法を提供する。これらの方法は、本発明の抗体をコードする単離された核酸(単数または複数)を含有する宿主細胞を培養することを網羅する。当業者には当然認識される通り、これは、抗体の性質に応じて種々のやり方によって行うことができる。
【0027】
一般に、本発明の抗体をコードする、核酸が提供される。ポリヌクレオチドは、RNAまたはDNAの形とすることができる。DNA、cDNA、ゲノムDNA、核酸類似体、および合成DNAの形でのポリヌクレオチドは、本発明の範囲内にある。DNAは、二重鎖または一重鎖であり得、一重鎖であれば、コード(センス)鎖または非コード(アンチセンス)鎖であり得る。抗CD6モノクローナル抗体をコードするコード配列は、本明細書中において提供されるコード配列と同一であり得、または、その配列が、遺伝子コードの重複もしくは縮退の結果として、本明細書中において提供されるDNAと同じポリペプチドをコードする、異なるコード配列であり得る。
【0028】
いくつかの態様において、本発明の抗CD6モノクローナル抗体をコードする核酸(単数または複数)は、染色体外であるかまたはそれが導入される宿主細胞のゲノム中へと組み入れられるように設計されたものであり得る、発現ベクター中へと組み込まれている。発現ベクターは、いくつもの適切な調節配列(転写および翻訳制御配列、プロモーター、リボソーム結合部位、エンハンサー、複製の起点等を包含するが、これに限られない)または他の構成成分(選択遺伝子等)を含有することができ、それらの全てが、当技術分野においてよく知られているとおりに作動可能に(operably)連結している。
【0029】
いくつかの場合において、2つの核酸が使用され、および各々が異なる発現ベクター中に(例として、重鎖が第1の発現ベクター中に、軽鎖が第2の発現ベクター中に)入れられるか、またはこれに代えて、それらが同じ発現ベクター中に入れられることができる。調節配列の選択を包含する、発現ベクター(単数または複数)の設計は、宿主細胞の選定、所望のタンパク質の発現のレベル等の、かかる因子に依存し得ることが、当業者には当然認識される。
【0030】
一般に、核酸および/または発現は、選択された宿主細胞に適切なあらゆる方法(例として、形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーション、感染)を使用して組換え宿主細胞を作り出すために、核酸分子(単数または複数)が1つ以上の発現制御エレメントに(例として、ベクター中において、細胞中のプロセスによって作り出されるコンストラクト中、宿主細胞ゲノム中へと組み入れられて)作動可能に連結するように、適切な宿主細胞中へと導入されることができる。結果として生じる組換え宿主細胞は、発現に適切である環境下(例として、インデューサーの存在下で、適切な非ヒト動物中において、適当な塩、増殖因子、抗生物質、栄養補助剤等を補充された適切な培地中において)で維持されることができ、これにより、コードされているポリペプチド(単数または複数)が生産される。いくつかの場合において、1つの細胞中で重鎖が生産され、別の1つの中で軽鎖が生産される。
【0031】
組換え宿主細胞中においてモノクローナル抗体の合成が得られるように、発現ベクターを、E. coli細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のシミアンCOS細胞などの哺乳動物細胞、Bacillus、StreptomycesおよびSaccharomycesなどの宿主細胞中へとトランスフェクトすることができる。酵母、昆虫、および植物細胞もまた、組換え抗体を発現するために使用することができる。いくつかの態様において、抗体は、ウシまたはニワトリなどのトランスジェニック動物において生産することができる。
【0032】
抗体分子生物学、発現、精製、およびスクリーニングについての、一般的な方法は、例えば、Antibody Engineering、Kontermann & Dubel, Springer, Heidelbergによって編集、2001および2010年、において記載されている。
【0033】
投与方法
以下に記載される使用の方法における投与のために、抗CD6モノクローナル抗体は、かかる処置を必要とするヒト対象への投与の前に、非毒性の薬学的に許容し得る担体物質(例として、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水)と混合されてもよく、あらゆる医学上適当な手順、例として、非経口投与(例として、注入)、例えば静脈内または動脈内注入などによって投与されることとなる。
【0034】
本発明に従って使用される抗CD6モノクローナル抗体の処方物は、所望の純度を有する抗体を、任意に、凍結乾燥製剤または水溶液のいずれかの形での薬学的に許容し得る担体、賦形剤または安定化剤とともに、混合することによって調製し得る。
【0035】
許容し得る担体、賦形剤または安定化剤は、採用される投薬量および濃度でレシピエントに対して非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンなどを包含する抗酸化物質;塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムなどの保存料;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノールおよびm-クレゾール;低分子(約10よりも少ない残基の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノースまたはデキストリンを包含する単糖類、二糖類、およびその他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例として、Zn-タンパク質錯体);および/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤、を包含する。
【0036】
抗CD6モノクローナル抗体はまた、コアセルベーション手法により、または界面重合により、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリラート)マイクロカプセルで、それぞれ、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)中においてまたはマイクロエマルジョン中において、調製されたマイクロカプセル中に封入されてもよい。かかる手法は、当技術分野においてよく知られている。
【0037】
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の適切な例は、抗CD6モノクローナル抗体を含有する固体の疎水性ポリマーの半透過性のマトリックスであって、そのマトリックスが、成形品、例として、フィルムまたはマイクロカプセルの形であるものを包含する。徐放性マトリックスの例は、ポリエステル、ヒドロゲル、L-グルタミン酸のコポリマー、非分解性酢酸エチレンビニルおよび分解性乳酸-グリコール酸コポリマーを包含する。
【0038】
抗CD6モノクローナル抗体は、処置を必要とするヒト対象などの哺乳動物に、ボーラスでまたはある期間にわたる持続注入によっての静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳髄腔内、皮下、関節内、滑液内、クモ膜下腔内、または経口経路などの知られている方法に沿って投与され得る。抗CD6モノクローナル抗体の静脈内または皮下投与が、好ましい。
【0039】
投薬レジメンは、最適な所望の応答(例として、治療反応)を提供するように加減される。例えば、単回のボーラスが投与されてもよく、複数の分割用量が時間をかけて投与されてもよく、または用量が、治療状況の緊急事態により示唆されるとおりに比例的に低減させられるかもしくは増大させられてもよい。本発明において使用される抗CD6モノクローナル抗体のための効率的な投薬量および投薬レジメンは、狼瘡型疾患の重症度に依存し、および当業者によって決定され得る。
【0040】
本発明において使用する抗CD6モノクローナル抗体の治療有効量の、例示の、限定されない範囲は、対象の体重あたり約0.01~100mg/kg、例えば約0.01~50mg/kgなど、例えば、約0.01~25mg/kgである。当技術分野における通常の技術を有する医療専門家は、要求される医薬組成物の有効量を容易に決定し、処方し得る。例えば、医師は、抗CD6モノクローナル抗体の用量を、所望の治療効果を達成するために必要なそれよりも低いレベルで始めて、所望の効果が達成されるまで投薬量を徐々に増大させることができる。
【0041】
1つの態様において、抗CD6モノクローナル抗体は、対象の体重あたり1~500mg/kg、例えば20~200mg/kgなどの週間投薬量で、注入により投与される。かかる投与は、繰り返されてもよく、例として、1~8回、例えば3~5回などである。代替において、投与は、2~24時間の、例えば2~12時間などの期間にわたる、持続注入により行われてもよい。
【0042】
別の態様において、抗CD6モノクローナル抗体は、10mg~200mgの週間投薬量で、7回まで、例えば4~6回など、投与される。投与は、2~24時間の、例えば2~12時間などの期間にわたる、持続注入により行われてもよい。かかるレジメンは、例えば6か月または12か月後に、必要に応じて1回以上繰り返されてもよい。
【0043】
以下の例は、本発明の理解を補助するために記述されているが、いかなるやり方でもその範囲を限定するものと意図するものではなく、またそのように解されてはならない。例は、アッセイ手順において採用されている従来型の方法についての詳細な記載を含んでいない。かかる方法は、当業者によく知られており、ほんの例として包含する多数の刊行物において記載されている。
【0044】
例
今回の発明者らによる以前の研究は、イトリズマブ(配列番号3および4によってコードされている配列番号1~2)の添加が、CD6のドメイン1に結合して、活性化およびT細胞のTh17への分化を低減させ、IL-17の生産を減少させることを描いた。これらの効果は、主要な転写因子pSTAT3およびRORγTの低減と関連する。今回の例においては、阻害のメカニズムを理解するために、ALCAM-CD6に媒介されるT細胞活性化へのイトリズマブの影響を評価した。
【0045】
イトリズマブおよびニモツズマブ(ヒト化抗EGFRであり、Fc領域がイトリズマブと同一)mAbの、両方のモノクローナル抗体を、Biocon Ltd(Bangalore, India)にて生産し、全ての実験において、可溶の形で使用した。ニモツズマブは、全ての実験において、非特異的アイソタイプ対照抗体として使用した(Iso Ab)。
【0046】
イトリズマブはCD6-ALCAMに媒介される共刺激シグナル変換経路を阻害する
イトリズマブに媒介されるT細胞活性化の阻害の生理学的基礎を理解するために、活性化CD6-ALCAM相互作用を阻害することにおいて、イトリズマブの役割を調査した。CD6の下流のシグナル変換を評価するために、プレートに結合されたALCAMの存在下で、PBMCをイトリズマブありおよびなしで処置した。
【0047】
この実験において、6ウェルプレートを、TSM緩衝液(20mMのTris、150mMのNaCl、1mMのCaCl2、2mMのMgCl2、1×プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤を添加済)中のFc-ALCAM(10μg/ml)で終夜被覆した。実験当日に、被覆されたプレートを、TSM緩衝液中の1%BSAでブロッキングした。ヒトPBMC(6ウェルプレート中5×106/ウェル)をプレーティングし、40分間、イトリズマブまたはIso Abで処置した。
【0048】
この技術を使用して、ALCAM依存のCD6のリン酸化、および免疫沈降したCD6タンパク質からのCD6相互作用分子について調査した。イトリズマブによる等しいCD6のプルダウンを、イトリズマブおよびMEM-98の2つの異なる抗体を使用したCD6免疫ブロットによって確認した(
図1および
図2)。プルダウンされたCD6タンパク質のチロシンリン酸化を調査し、結果は、ALCAM-CD6相互作用がCD6のチロシンリン酸化を、2.5倍を超えて増大させたことを示した。このリン酸化の増大は、イトリズマブによって阻害された。既知のCD6の結合パートナーであるZap70(キナーゼ)およびSLP-76(シグナル伝達および/またはドッキングタンパク質)を、免疫沈降したCD6とのそれらの会合について検査した。ALCAM-CD6相互作用は、SLP-76およびZap70のCD6との会合を3~4倍増大させ、および、先と同様に、これはイトリズマブによって阻害された(
図1)。
【0049】
受容体のリン酸化は、ホスファターゼの発現によって制御される。SHP1およびSHP2は、受容体タンパク質と関連し、それらのリン酸化を制御し、それによってシグナル伝達を調整することが知られている主要なホスファターゼである。免疫沈降したCD6との、これらのタンパク質の会合およびリン酸化を、イトリズマブに媒介される阻害について調査した。
【0050】
図2に示すとおり、ALCAM-CD6相互作用の結合複合体は、CD6に関連するSHP1およびSHP2のリン酸化を3~4倍増大させた。しかしながら、しかも驚くべきことに、イトリズマブの使用は、CD6と関連する全体のおよびリン酸化した(活性化した)SHP1およびSHP2の両方を阻害し、それによってそれらの発現をベースラインのレベルまで持っていった(
図1)。これらの結果は、イトリズマブによるT細胞活性化の阻害が、ホスファターゼの過剰発現または活性化を通じてではなく、SHP1およびSHP2とは独立した、CD6の過剰なリン酸化の直接的な減少によってであるということを提案する。
【0051】
ALCAM-CD6の効果をより生理学的に適した条件で証明するために、TCR活性化の実験を使用した。これらの実験において、PBMCを0.5ng/mlの抗CD3抗体(OKT3)で24時間、イトリズマブまたはIso Ab抗体の存在下または非存在下で処置した。細胞を収穫し、CD6をイトリズマブまたはIso Abとともに免疫沈降させた。10%の全ライセートは、インプット対照試料として用いられた。免疫沈降した試料およびインプット対照試料の両方を、免疫ブロッティングして分析した。
【0052】
ここに、結果は、抗CD3によって媒介される活性化は、CD6のリン酸化、Zap70およびSLP-76のCD6との会合を、それぞれ2.5~3倍増大させたことを示す。
図3に示すとおり、全ての場合において、これらの活性化シグナルはイトリズマブの存在下で完全に阻害された。これらの結果は、全体として、イトリズマブの作用の主要なメカニズムは、CD6の過剰なリン酸化を直接低減させることおよびT細胞シグナル伝達、活性化および増殖と関連する主要な分子のドッキングを防止することによる、活性化ALCAM-CD6共刺激シグナルの減少を伴うものであるということを示唆する。
【0053】
本発明は、分子レベルで、イトリズマブが、T細胞活性化にとって不可欠であるCD6-ALCAMの最適な関与を防止するということを示す。かかる相互作用についての理論モデルは、
図4に示されている。クラスター化とは、T細胞の膜上のCD6受容体の蓄積を指す。
【0054】
免疫シナプスでのCD6の蓄積(クラスター化)は、抗原提示細胞上のALCAMと相互作用することによるCD6受容体の活性化を開始させ、それによってCD6-ALCAM複合体を形成する。このモデルにおいて、イトリズマブは、CD6のドメイン1に結合すると、立体障害を提供し、CD6のドメイン3(D3)とのALCAMの最適な相互作用を防止するということが提案される。この立体障害は、この共刺激分子CD6により媒介されるT細胞シグナル伝達の減弱を、結果としてもたらす。CD6がクラスター化されていない、他の状況下では、先に報告されたとおり、イトリズマブはALCAM-CD6相互作用を防止も妨げもしない。これは、それによって活性化ALCAM-CD6相互作用がブロックされる、イトリズマブの作用の主要なメカニズムを説明づける。
【0055】
参考
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【0056】
【配列表】