(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】ドーパミンで官能化させた硫酸化ヒアルロン酸
(51)【国際特許分類】
C08B 37/08 20060101AFI20220428BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20220428BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
A61K31/728
A61K47/36
(21)【出願番号】P 2019521055
(86)(22)【出願日】2017-11-13
(86)【国際出願番号】 IB2017057070
(87)【国際公開番号】W WO2018092013
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】102016000117042
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519138449
【氏名又は名称】フィディア ファルマチェウティチ エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】グアライズ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】プルダ,ステーファノ
(72)【発明者】
【氏名】ギャレッソ,デーヴィス
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/130468(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/037349(WO,A2)
【文献】中国特許出願公開第102702539(CN,A)
【文献】Polymers for advanced technologies ,2004年,Vol.15,pp.329-334,DOI 10.1002/pat.468
【文献】Small,2014年,Vol.10, No.12,pp.2459-2469,DOI 10.1002/smll.201303568
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A61K 38/15
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~60%のモル濃度を有するカルボキシル基グレード2硫酸化ヒアルロン酸であって、前記カルボキシル基が、アミド結合を介して直接、またはヒアルロン酸のカルボキシル基とアミド結合を形成するためのアミノ基、およびドーパミンのアミノ基とアミド結合を形成するためのカルボキシル基を有するスペーサーを介して共役されたドーパミンにより官能化されている、グレード2硫酸化ヒアルロン酸。
【請求項2】
ドーパミンが、15~40%
の前記硫酸化ヒアルロン酸カルボキシル基へのアミド結合を介して直接共役されている、請求項1に記載の硫酸化ヒアルロン酸。
【請求項3】
ドーパミンが、2~20%の前記硫酸化ヒアルロン酸のカルボキシル基とアミド結合を形成するためのアミノ基、および前記ドーパミンのアミノ基とアミド結合を形成するためのカルボキシル基を有するスペーサーを介して、硫酸化ヒアルロン酸と共役される、請求項1に記載の硫酸化ヒアルロン酸。
【請求項4】
前記スペーサーが式HOOC-(CH
2)n-NH
2(式中、nは5~10
の整数である)の化合物である、請求項3に記載の硫酸化ヒアルロン酸。
【請求項5】
前記スペーサーが式HOOC-(CH
2)n-O-[(CH
2)
2-O]m-(CH
2)
2-NH
2(式中、nは1または2であり、mは1または2である)の化合物である、請求項3に記載の硫酸化ヒアルロン酸。
【請求項6】
100,000~250,000Da
の重量平均分子量を有するヒアルロン酸から調製されたグレード2の硫酸化ヒアルロン酸の官能化によって得られる、請求項1~5のいずれか一項に記載の硫酸化ヒアルロン酸。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の硫酸化ヒアルロン酸と正電荷を有する医薬品との塩。
【請求項8】
前記正電荷を有する医薬品が、抗生物質、成長因子、および酸形態のジクロフェナクから選択される、請求項7に記載の塩。
【請求項9】
前記正電荷を有する医薬品が、アミノグリコシド系抗生物質、ダプトマイシン、シプロフロキサシン、メロペネム、バンコマイシン、ポリミキシン、コリスチン、およびバシトラシンから選択される、請求項8に記載の塩。
【請求項10】
前記アミノグリコシド系抗生物質が、アミカシン、ゲンタマイシン、およびトブラマイシンから選択される、請求項9に記載の塩。
【請求項11】
前記正電荷を有する医薬品が、ゲンタマイシン、ダプトマイシン、ポリミキシン、またはコリスチンである、請求項7に記載の塩。
【請求項12】
医薬品用の担体として使用するための、請求項1~6に記載の硫酸化ヒアルロン酸。
【請求項13】
生物医学的物品のコーティングに使用するための、請求項1~6に記載の硫酸化ヒアルロン酸。
【請求項14】
請求項7~11に記載の塩でコーティングされたチタン製体内プロテーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド結合によってドーパミンで官能化させた硫酸化ヒアルロン酸に関し、これは直接または、好適なスペーサー基を介し得る。本発明の化合物は、正電荷を有するイオン化可能基を有する医薬品、特に抗生物質と共に塩を形成する。本発明のさらなる目的は、生物または一般的に生物医学的装置に移植可能なチタン製体内プロテーゼをコーティングするための塩およびそれらの使用である。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸(HA)は、D-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンの交互の残基からなるヘテロ多糖類であり、直鎖を有し、かつ入手する供給源および使用する調製方法に応じて、50000~13x106Daの範囲の分子量を有する。
【0003】
ヒアルロン酸は、実際に人体に広く存在しており、特に、皮膚、腱、筋肉および軟骨などの多くの組織の細胞の機械的支持体として、重要な役割を果たしている。HAとそのCD44膜受容体およびオピオイド受容体との相互作用も公知である。
【0004】
-OH基が硫酸によりエステル化されているO-硫酸化HA誘導体が公知である。O-硫酸化は、公知の技術によって実施できる(例えば、特許文献1および特許文献2を参照されたい)。「硫酸化度」は、HA二量体1モル当たりの硫酸基のモル数(DSmol)を意味する。具体的には、
グレード1硫酸化の定義は、0.5~1.5の範囲のDSmolとする。
グレード2硫酸化の定義は、1.5~2.5の範囲のDSmolとする。
グレード3硫酸化の定義は、2.5~3.5の範囲のDSmolとする。
【0005】
一般に、HASは、皮膚バリアを容易に通過し、このため、皮膚バリアに関連する物質の通過が容易になることから、薬理学的および生物学的に活性な分子を皮膚吸収するための優れた担体である。
【0006】
HASが薬理学的性質を有することもまた発見されており(特許文献3、特許文献4)、このHASは、強力な抗炎症剤であり、多数の前炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの活性を有効に調節することによって、その作用を発揮する。したがって、HASは、サイトカインレベルが変化することによって媒介される障害(関節リウマチ、喘息、全身性および皮膚性自己免疫疾患、ウイルス感染症、アトピー性皮膚炎、湿疹、白斑、リンパ腫など)の治療に使用するのに好適である。
【0007】
ドーパミンの合成においてアミノ酸中間体であるDOPA(1-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)は、公知の神経伝達物質であり、近年では、接着性物質としても研究された。かなりの濃度のDOPA残基が、「ムラサキイガイ脚タンパク質(Mytilus edulis foot protein)(Mefp、特にMefp-3およびMefp-5)と呼ばれるタンパク質のアミノ酸組成中に見出されている。これは、茎を構成するものであり、これにより、イガイとして一般に知られているムラサキイガイが表面に付着する。DOPAの重要な特徴はカテコール基であり、これは、高濃度のカテコール単位が、ガラス、プラスチック、セラミック、ならびに金属および金属酸化物をベースにした表面など、複数の表面への接着を促進するのに重要な役割を果たすことを示唆している。こうした接着が生じるメカニズムはまだ完全には理解されていないが、カテコール基がキノンの形態をとるときに、接着が酸性媒体(pH=5)およびアルカリ性媒体(pH=8)の両方で生じることがわかっている。ドーパミン誘導体もまた同一の特徴を有するため、DOPAおよびドーパミンは、接着活性の観点から科学文献において、無差別に定義され、使用されている。
【0008】
HAは、「そのまま」およびその硫酸化形態の両方で、生体適合性および血液適合性を促進するための金属(通常チタン)およびポリマー(例えばPU)プロテーゼのコーティングにおいて、他のポリマーと組み合わせて使用されてきた(特許文献5)。
【0009】
DOPAは、また、金属コアを有する他の分子(通常はポリマー)との結合を促進するための接着剤としても既に使用されている(非特許文献1)。
【0010】
最後に、金属プロテーゼが、抗生物質に結合でき、それによって細菌増殖の可能性を低下させ得るポリマーと共役させたDOPAでコーティングされている例がある。例えば、Leeら(非特許文献2)は、チタン歯科用プロテーゼの骨結合を促進するために、ヘパリンと共役させ、抗生物質およびBMP2によりさらに官能化させたDOPAについて記載している。ヘパリンは、抱合体を全体的に負に電荷し、そのため、正に電荷した抗生物質に結合させ得る硫酸基を含むために、選択される。しかし、ヘパリンの存在は非常に重要である。なぜなら、そのよく知られている抗凝固活性が問題であり、移植中および移植後に異常な出血を引き起こす可能性があるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】欧州特許出願公開第702699号明細書
【文献】欧州特許出願公開第940410号明細書
【文献】国際公開第2010/130468号
【文献】国際公開第2010/130466号
【文献】欧州特許出願公開第1060204号明細書
【文献】欧州特許出願公開第138572号明細書
【文献】国際公開第2012/032154号
【文献】欧州特許出願公開第0702699号
【文献】イタリア国特許第102015000073016号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Leeら、Adv Mat、2008、20、4154-4157
【文献】Leeら、Bone、2012、50、974-982
【文献】Terbojevichら、Carbohydr.Res.,1986,363-377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
現在では、硫酸化ヒアルロン酸(HAS)およびドーパミンの抱合体が、静電気的相互作用によって、正に電荷した生物学的および/または薬理学的に活性な抗生物質または分子を吸着するのに有利に使用できることが見出されている。医薬品または他の活性化合物で官能化されたHASおよびドーパミンの抱合体は、一般に生物医学的物品、特にチタンプロテーゼをコーティングして、これらを生体適合性にするのに、特にチタンプロテーゼの場合には、それらが移植される骨基質との統合を改善するのに有用である。本明細書に記載の硫酸化ヒアルロン酸(HAS)とドーパミンとの抱合体は、コンパクトな構造を有する古典的なチタンプロテーゼ、または多孔質(小柱)架橋構造を有し、骨と完全に統合できる最新世代のプロテーゼのいずれかと共に使用される場合に特に有効である。移植後、本明細書に記載の抱合体で処理された小柱状プロテーゼは、生体適合性であるのみでなく、その特定の構造のために、細胞によってコロニー形成され、かつ骨と完全に一体化する。
【0014】
本発明の目的を形成する硫酸化ヒアルロン酸(HAS)とドーパミンとの抱合体もまた、インプラントから生じ得る感染症を減少させることにおいて主要な役割を果たす。こうした抱合体の態様は特に重要であり、プロテーゼの最初の検討後など、細菌の増殖およびそれに続くバイオフィルム形成が主な合併症となるため(人工膝、股関節などの一次移植の段階ではそれほど多くないが)、症例のうち5~40%において、除去する必要が生じる。プロテーゼを除去することとなる感染症のうちの約80%が、細菌性バイオフィルムの形成に起因するものと推定されている。
【0015】
バイオフィルムは、微生物(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、ブドウ球菌など)が蓄積したものであり、高い細菌密度を有し、多糖類マトリックス内に被包され、かつ通常は抗生物質による全身的処理に耐性のある固体の生物学的表面または非生物学的表面に付着する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に従って使用される硫酸化ヒアルロン酸は、グレード2(HAS2)、すなわちHA二量体1モル当たりの硫酸基のモル数(DSmol)が1.5~2.5の範囲であるHASである。
【0017】
直接またはスペーサーを介して結合した、ドーパミンによるHAS2のカルボキシル基の官能化率は、直接結合および間接結合のいずれにおいても、2~60モル%の範囲であり、直接結合の場合、好ましくは15~40%、さらにより好ましくは20~32%の範囲であり、間接結合の場合には、好ましくは2~20%の範囲である。
【0018】
ドーパミンとHAS2との間の結合はアミド型であり、スキームAに示されるように直接(ドーパミンのHA-NH2のCOOH)であるか、またはスペーサーがドーパミンとHASとの間に挿入される場合は、常にアミド結合を介して結合される、間接的であってもよく、これにより、官能化されるチタン表面とドーパミンの相互作用が最大化し、それによってHAS2の立体効果が減少するようになる。使用されるスペーサーは、5~10メチレン単位、好ましくは5または10メチレン単位の範囲の長さを有するアルキル鎖(スキームB)であるか、または式HOOC-(CH2)n-O-[(CH2)2-O]m-(CH2)2-NH2(スキームC)のポリエチレングリコール鎖であり得る。
スキームA
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
したがって、スペーサーは、ヒアルロン酸のカルボキシル基とアミド結合を形成するためのアミノ基、およびドーパミンのアミノ基とアミド結合を形成するためのカルボキシル基を有する。
【0023】
本発明のグレード2の硫酸化ヒアルロン酸の調製に使用するのに好適であるスペーサー化合物は次式を有する:
-HOOC-(CH2)n-NH2(式中、nは5~10の整数であり、好ましくは5または10である)。
-HOOC-CH2-(O-CH2-CH2)m-O-CH2-CH2-NH2(式中、mは、1または2である)。
【0024】
本化合物は、既知であるかまたは既知の方法により調製できる。
【0025】
HAS2とドーパミンとの間の反応は、例えばカルボニルジイミダゾール(CDI)またはジイミドなどの縮合剤の存在下で、アミド結合を形成するための既知の条件を使用して生じる。
【0026】
ドーパミンがスペーサーを介して硫酸化ヒアルロン酸に結合する誘導体を調製するためには、最初にドーパミン-スペーサー中間体を合成し、次に中間体をHAS2と共役させることが好ましい。アミノ基で好適に保護されているスペーサーは、従来の縮合剤および塩基の存在下で塩酸ドーパミンと反応させることができる。結果として得られた中間体は、保護基を除去した後、アミド結合の形成に関して上述の条件下で、HAS2と反応させる。
【0027】
出発ヒアルロン酸は、例えば、雄鶏のとさかからの抽出物(特許文献6)、発酵または生合成(Bacillus、特許文献7)による、任意の既知の供給源から誘導できる。この特定の場合には、100,000~250,000Da、特に180,000~230,000Daの範囲の重量平均MWを有するHAから調製された、以下「MW200kDa」と呼ばれるグレード2のHASが使用される。調製は既知の方法(特許文献8、特許文献9)により行われ、実施例に報告されている。
【0028】
「平均分子量」(MW)は、「固有粘度」法(非特許文献3)によって算出される重量平均MWを意味する。
【0029】
本発明の化合物は、薬物担体として使用でき、また体内プロテーゼのコーティングに使用できる。
【0030】
主にチタン系金属でできており、コンパクト構造、または小柱状構造を有する移植可能なプロテーゼは、本発明の化合物の溶液をプロテーゼ上に噴霧することによって単純にコーティングされ、続いて、バイオフィルム形成に対する抑制効果がわかっている抗生物質、または成長因子(BMP-2;TGF1β;IGF)または合成分子など、生物学的もしくは薬理学的に活性な物質(酸形態のジクロフェナクなど)の溶液を選択的に噴霧することによって、正電荷を有するように好適に処理される。
【0031】
使用可能な抗生物質は、正に電荷可能であるもの、特にゲンタマイシン、ダプトマイシン、バンコマイシン、シプロフロキサシン、メロペネム、アミカシン、トブラマイシン、ポリミキシン、コリスチン、およびバシトラシン、好ましくはゲンタマイシン、コリスチン、およびダプトマイシンである。
【0032】
本抗生物質は、ドーパミンで官能化されたグレード2の硫酸化ヒアルロン酸と塩を形成する。この塩およびこれらの塩が吸着されているプロテーゼは、本発明のさらなる目的である。
【0033】
本発明のHAS2-ドーパミン化合物は、先行技術に対して次の利点を有する:
-噴霧可能である。従来技術では、「接着性」ポリマーを含有する溶液中に、時には長期間(数時間)プロテーゼを浸漬することを必要としているが、本発明は、簡単な噴霧によって(手術室であれば直接)塗布され、むらなく、均一な被覆さえも確実に行い、無菌性を完全に維持し、とりわけプロテーゼを移植する前の接着時間および乾燥時間を大幅に短縮させ、さらには不要にすることさえある。
-金属プロテーゼに完全に接着する。
-生体適合性である。
-骨基質との統合を促進するために必要とされるプロテーゼの表面粗さを保持する。
-最も周知されている技術(ベータ線またはガンマ線の照射)によって滅菌可能であり、滅菌後に、その構造的特徴をそのまま維持し(ドーパミンの酸化的分解なし)、かつこのために、抗生物質と共役後も、その生物学的効果を維持する(不変の抗菌活性)。これは、必要に応じて、植え込まれるプロテーゼを手術室で使用するかなり前に保管した滅菌済みのHAS2-DOPAでコーティングし、使用時に抗生物質を噴霧できることを意味し、この場合、手術室において、プロテーゼの接着時間および乾燥時間が終わるまで待つ必要がない。このことは、手術が長時間である場合に特に重要である。
-骨芽細胞の再生を促進する。
-正電荷を有する抗生物質(または一般に活性分子)との静電相互作用に好適である一連の負電荷を生成する。このようにして、細菌性バイオフィルムの形成が妨げられるか、または強く制限されるため、感染症の発症はかなり減少する。
-硫酸基を含むが、事実上ヘパリン様作用を有さない。このため異常出血が引き起こされることはない。
-非常に有効であり、迅速、かつ持続的な方法で作用する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】未処理のチタン製シリンダ表面のESEM像およびそれに対応する強調表示した領域のXPSスペクトルを示す図である。
【
図2】実施例3の誘導体でコーティングされたチタン製シリンダの表面のESEM像およびそれに対応する強調表示した領域のXPSスペクトルを示す図である。
【
図3】実施例3の誘導体で処理し、その後洗浄したシリンダ表面のESEM像を示す図である。
【
図4】曲線が、実施例3のHAS2-DOPAまたは実施例12のHA-DOPAで官能化され、ゲンタマイシンがコーティングされた、チタン製シリンダ上での黄色ブドウ球菌の増殖の阻害を示す図である。
【
図5】ゲンタマイシンに結合した実施例11のヘパリン-DOPA(HEPA-DOPA)抱合体と比較した、実施例3のHAS2-DOPA抱合体の抗菌活性(CFU/mL)を示す図である。
【
図6】実施例11のHEPA-DOPAとの比較による、実施例6のHAS2-DOPAの抗凝固作用を示す図である。
【
図7】実施例3および12のHAS2-DOPAの骨芽細胞増殖に対する影響をフィブロネクチンと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
グレード2の硫酸化ヒアルロン酸とドーパミンの抱合体(以下、HAS2-DOPAと称する)は、HAS2の合成およびHAS2とドーパミンとの反応の2段階で合成される。次に、HAS2は、テトラブチルアンモニウム(TBA;特許文献8)で塩化したHAまたはナトリウムで塩化したHA(特許文献9)から調製できる。
【実施例1】
【0036】
HA-TBAからのHAS2の調製
【0037】
2.0g d.m.(3.22×10-3モル;1当量)のHA-TBA+(MW200kDa)を200mLのDMSOに溶解した。溶解完了時に、3.59gのPyr・SO3(8当量)を加えた。室温で一晩放置した後、生成物をEtOHで沈殿させ、得られた沈殿物を濾過し、EtOHで2回洗浄し、150mLの脱イオン水に再溶解させた。8mLのNaCl飽和溶液および115mLのDMSOを添加して、pHを3M NaOHにより3.4±0.1に補正した。生成物を440mLのEtOHで沈殿させ、得られた沈殿物を濾過し、EtOH/H2O混合物(80:20)およびEtOHで洗浄し、最後に37℃で真空乾燥させた。
【実施例2】
【0038】
HA-NaからのHAS2の調製
【0039】
4.0g d.m.(9.96×10-3mol;1当量)のHA-Na+(平均分子量200kDa)を220mLのDMSO中に分散させた。3.6mLのメタンスルホン酸(5当量)を加え、混合物を室温で24時間撹拌下に放置した。溶解完了時に、12.8gのPyr・SO3(8当量)を加えた。室温で一晩放置した後、生成物をEtOHで沈殿させ、得られた沈殿物をグーチで濾過し、EtOHで2回洗浄し、150mLの脱イオン水に再溶解させた。8mLのNaCl飽和溶液および115mLのDMSOを添加して、pHを3M NaOHにより3.4±0.1に補正した。生成物を440mLのEtOHで沈殿させ、得られた沈殿物を濾過し、EtOH/H2O混合物(80:20)およびEtOHで洗浄し、最後に37℃で真空乾燥させた。
【実施例3】
【0040】
23%の誘導体化を有するHAS2-DOPA抱合体の合成(直接結合)
【0041】
実施例2のように調製した2.0g d.m.(3.3×10-3mol、1当量)のHAS2ナトリウム塩を100mLの脱イオン水に溶解し、3.0gの塩化ベンザルコニウム(BA+Cl-)を100mLの脱イオン水に別々に溶解させた。可溶化完了時に、BA+Cl-溶液をHAS2溶液に添加して、これにより沈殿物を得て、これを濾過し、H2O中、EtOH中、次いでアセトン中で洗浄し、高真空下においてロータリーエバポレーター中で乾燥させた。単離した沈殿物を160mLのDMSOに溶解した。次いで、0.267g(0.5当量)のCDIおよび0.1mLのメタンスルホン酸(0.5当量)を加えた。30分後、40℃で攪拌しながら、0.5g(0.8当量)の塩酸ドーパミンを添加し、40℃でゆっくり攪拌しながら反応を一晩継続させた。翌日、16mLの飽和NaCl溶液を添加し、生成物をEtOHで沈殿させた。得られた沈殿物を濾過し、EtOH/H2O(85:15)からなる2容量の混合物で、次にEtOHで、最後にアセトンで洗浄した。得られた生成物を50mLの脱イオンH2Oに溶解し、0.05M酢酸緩衝液(pH5)中で3日間、1MのHClを添加することによってpHを5に調整したH2O中において1日間透析した(Spectra/Por(登録商標)透析膜、カットオフ値=12,000~14,000Da)。
【0042】
透析時間を調整し、GPCにより透析膜中の遊離ドーパミンの消失を確認した。最後に、透析した生成物を凍結させ、凍結乾燥させた。
【実施例4】
【0043】
55%の誘導体化を有するHAS2-DOPA抱合体の合成(直接結合)
【0044】
2gのHAS2ナトリウム塩から出発し、BAで塩化し、1.34g(2.5当量)のCDIおよび2.5g(4.0当量)の塩酸ドーパミンと反応させて、誘導体を実施例3に記載のように合成し、特徴付けた。
【実施例5】
【0045】
31%の誘導体化を有するHAS2-DOPA抱合体の合成(直接結合)
【0046】
2gのHAS2ナトリウム塩から出発し、BAで塩化し、0.801g(1.5当量)のCDIおよび1.25g(2.0当量)の塩酸ドーパミンと反応させて、誘導体を実施例3に記載のように合成し、特徴付けた。
【実施例6】
【0047】
21%の誘導体化を有するHAS2-DOPA抱合体の合成(直接結合)
【0048】
2gのHAS2ナトリウム塩から出発し、BAで塩化し、0.134g(0.25当量)のCDIおよび0.25g(0.4当量)の塩酸ドーパミンと反応させて、誘導体を実施例3に記載のように合成し、特徴付けた。
【実施例7】
【0049】
6%の誘導体化を有するHAS2-DOPA抱合体の合成(直接結合)
【0050】
2gのHAS2ナトリウム塩から出発し、BAで塩化し、0.067g(0.125当量)のCDIおよび0.25g(0.4当量)の塩酸ドーパミンと反応させて、誘導体を実施例3に記載のように合成し、特徴付けた。
【実施例8】
【0051】
5%の誘導体化を有するHAS2-CONH-(CH2)10-CONH-ドーパミン抱合体の合成(10個の炭素原子を有するアルキルスペーサーを介した間接結合)
【0052】
間接結合は、2つのステップ、ドーパミン-スペーサー種を合成すること、およびその後、HAS2によりドーパミン-スペーサーを合成することを含む。
-8.1:ドーパミン-スペーサーの合成:NH2-(CH2)10-CONH-ドーパミン
【0053】
0.55gの11-(Boc-アミノ)ウンデカン酸を10mLのDMFに溶解し、カルボキシルを0.56gのEDC(N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)塩酸カルボジイミド)で活性化し、0℃で攪拌しながら、三級塩基(TEA、0.31mL)の存在下でDMAP(0.07g)を加えた。10分後に0.4gの塩酸ドーパミンを加え、混合物を室温で一晩撹拌下に放置した。次いで40mLのジクロロメタンおよび40mLのH2Oを添加し、有機相を抽出し、水中で洗浄し、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。BOC保護基は、5mLの酸混合物TFA15%/H2O5%/DCM80%を加えることによって放出させ、得られた混合物を室温で20分間撹拌下に放置した。次いで溶媒を蒸発させて、生成物を乾燥させた。
-8.2:HAS2-CONH-(CH2)10-CONH-DOPAの合成
【0054】
1gのHAS2ナトリウム塩から出発し、BAで塩化し、0.45gのCDIおよび0.5gの実施例8.1と同様にして得られたNH2-(CH2)10-CONH-DOPAと反応させて、誘導体を実施例3に記載のとおりに合成し、特徴付けた。
【実施例9】
【0055】
5%の誘導体化を有するHAS2-CONH-(CH2)5-CONH-ドーパミン抱合体の合成(5個の炭素原子を有するアルキルスペーサーを介した間接結合)
【0056】
ドーパミンスペーサーは、試薬として6-(Boc-アミノ)カプロン酸を使用し、実施例8.1に記載の手順に従って得た。
【0057】
生成物HAS2-CONH-(CH2)5-CONH-ドーパミンは、実施例8.2に記載の手順に従って得た。
【実施例10】
【0058】
5%の誘導体化を有するHAS2-CONH-(CH2)2-O-(CH2)2-O-CH2-CONH-DOPA抱合体の合成(ポリエチレングリコールスペーサーによる間接結合)。
【0059】
間接結合は、2つのステップ、DOPAスペーサー種を合成すること、およびその後、HAS2によりDOPAスペーサーを合成することを含む。
-DOPA-スペーサーの合成:NH2-(CH2)2-O-(CH2)2-O-CH2-CONH-DOPA
【0060】
0.64gのBoc-NH-(PEG)-COOH.DCHA(9つの原子)を10mLのDMFに溶解し、カルボキシルを0.56gのEDC(N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)塩酸カルボジイミド)で活性化し、0℃で攪拌しながら、三級塩基(TEA、0.31mL)の存在下でDMAP(0.07g)を加えた。10分後、DOPA(塩酸ドーパミン)を加え、室温で一晩撹拌下に放置した。次いで40mLのジクロロメタンおよび40mLのH2Oを添加し、有機相を抽出し、水中で洗浄し、ロータリーエバポレーターで乾燥させた。BOC保護基は、5mLの酸混合物TFA15%/H2O5%/DCM80%を加えることによって放出させ、室温で20分間撹拌下に放置した。次いで溶媒を蒸発させて、生成物を乾燥させた。0.5gの生成物を得た(収率83%)。
-HAS2-CONH-(CH2)2-O-(CH2)2-O-CH2-CONH-DOPAの合成
【0061】
この誘導体は、HAS2-DOPA誘導体について前述したように、HAS2ナトリウム塩1gから出発し、BAで塩化し、0.45gのCDIおよび0.5gのNH2-(CH2)2-O-(CH2)2-O-CH2-CONH-DOPAと反応させて合成した。
【実施例11】
【0062】
(比較例)
【0063】
21%の誘導体化を有するヘパリン(HEPA)-DOPA抱合体の合成(Leeら、2012に従って調製した)
【0064】
1.0g d.m.(3.3×10-3mol、1当量)のヘパリンナトリウム(HEPA)を50mLの脱イオン水に溶解し、1.5gの塩化ベンザルコニウム(BA+Cl-)を100mLの脱イオン水に別々に溶解させた。可溶化完了時に、BA+Cl-溶液をHEPA溶液に添加して、これにより沈殿物を得て、これを濾過し、H2O中、EtOH中、次いでアセトン中で洗浄し、高真空下においてロータリーエバポレーター中で乾燥させた。単離した沈殿物を80mLのDMSOに溶解した。次いで、0.134g(0.5当量)のCDIおよび0.05mLのメタンスルホン酸(0.5当量)を加えた。30分後、40℃で攪拌しながら、0.25g(0.8当量)の塩酸ドーパミンを添加し、40℃でゆっくり攪拌しながら反応を一晩継続させた。翌日、8mLの飽和NaCl溶液を添加し、生成物をEtOHで沈殿させた。得られたpptを濾過し、EtOH/H2O(85:15)からなる2容量の混合物で、次にEtOHで、最後にアセトンで洗浄した。得られた生成物を50mLの脱イオンH2Oに溶解し、0.05M酢酸緩衝液(pH5)中で3日間、1MのHClを添加することによってpHを5に調整したH2O中において1日間透析した(Spectra/Por(登録商標)透析膜(カットオフ値=3,000Da))。
【0065】
透析時間を調整し、GPCにより透析膜中の遊離ドーパミンの消失を確認した。
【実施例12】
【0066】
(比較例)
【0067】
23%の誘導体化を有するHA-DOPA抱合体の合成。
【0068】
実施例3に記載の手順により、HAナトリウム塩200kDa 1.32g(0.0033モル)から出発し、BAで塩化し、0.267g(0.5当量)のCDIおよび0.5g(0.8当量)の塩酸ドーパミンと反応させて、HA-DOPA誘導体を合成した。
【実施例13】
【0069】
HAS2-DOPA誘導体の接着試験
【0070】
ドーパミンは、さまざまなpH値において、接着剤として機能するため、2つの最も代表的なpH値、すなわち5および8でPBSに溶解させて、HAS2-DOPA抱合体(実施例5に記載のとおり調製された)をコーティングする能力の試験を行った:
-溶液A:20mgのHAS2-DOPA(31%)を含む4mLの0.1M MES(pH5)。
-溶液B:20mgのHAS2-DOPA(31%)を含む4mLの0.1M PBS(pH8)。
【0071】
この試験には、任意のpHで正電荷を有する蛍光プローブ(塩酸サンギナリン)を使用して、生理的pHにおいて、誘導体と正電荷を帯びた抗生物質との相互作用をシミュレートした。
【0072】
2つのチタン製シリンダ(d=15×h=17mm)に、それぞれ溶液Aと溶液Bを均一に噴霧し、脱イオン水で洗浄し、気流中で乾燥させ、0.1M MES(pH5)中、0.5mg/mLの濃度のサンギナリン溶液の入った異なるバイアル内に浸漬させた。シリンダを室温で一晩穏やかに撹拌しながら放置した。翌日、シリンダを脱イオン水で再び洗浄し、N2気流下で乾燥させ、360nmのUVランプで照射し、目視検査を行った。
【0073】
処理されたシリンダが発する蛍光を評価して、pH8のドーパミン誘導体(溶液B)が表面に最もよく付着していることが推定された。この所見は、溶液Bが、本発明を具体化する目的のための理想的なアプローチであることを実証している。
13.1:チタン表面コーティングの電子顕微鏡(ESEM)分析
【0074】
この試験では、シリンダの表面に噴霧することによって堆積させたHAS2-DOPA誘導体は、Tiに均一に接着するのみでなく、プロテーゼと骨基質との骨結合を促進するのに必要な表面粗さを維持することが証明された。25mg/mLのHAS2-DOPAを含む0.1M PBS(pH8)(23%;実施例3)溶液を調製し、この溶液1mlをTiシリンダ上に噴霧し、風燥させて放置し、表面をESEM下で観察し、未処理シリンダと比較した(
図1および
図2)。写真によるスキャンに加えて、定性的XPS分析(光電子X線分光、分析対象表面上での有機物の存在の検出)を行った。次いで、処理されたシリンダを洗浄して、インビボでの移植後など、生理学的流体の流れと接触している状況であっても、誘導体が表面に付着し続けるかを確認した(
図3)。
【0075】
処理された表面の画像には、XPS分析によって確認されたとおり、材料の存在が明確に示されている。さらに、乾燥させた誘導体では、表面に粗い質感を与える表面の凹凸が作り出されており、これは、インプラントと骨基質との一体化を促進する上で重要なパラメータである。
【0076】
洗浄後、誘導体残留物は依然として表面に見られ、誘導体がTiと活発に相互作用し、かつ洗浄後も引き続き接着していることが確認された。
【0077】
このことは、HAS2-DOPA抱合体が以下であることを示している:
-特にpH=8の溶液で調製した場合には、チタン表面に完全に接着する、
-洗浄後は、表面に結合したままである、
および
-金属表面に、プロテーゼの骨統合を促進するのに必要とされる粗い質感を付与する。
【実施例14】
【0078】
黄色ブドウ球菌の細菌増殖抑制のインビトロ試験(HAS2-DOPAまたはHA-DOPAおよびゲンタマイシンにより官能化させたチタン製シリンダ)
【0079】
以下を調製した:
HAS2-DOPA(23%、実施例3)を含む0.1M PBS(pH=8)溶液。
HA-DOPA(23%、実施例12)を含む0.1M PBS(pH=8)溶液。
ゲンタマイシン溶液(25mg/5mlの0.25M MES、pH=5.2)。
0.1MのPBS溶液、pH=8(対照)。
【0080】
2つのチタン製シリンダ(d=15×h=17mm)にHAS2-DOPA溶液を噴霧し、15分間放置して風乾させ、ゲンタマイシン溶液を噴霧し、15分間再び放置して、風乾させた。
【0081】
同じサイズの他の2つのチタン製シリンダにも同一の処理を施し、上記の手順により、最初にHA-DOPA誘導体溶液を、次にゲンタマイシン溶液を噴霧した。
【0082】
最後に、上記手順により、同一サイズの他の2つのチタン製シリンダにPBS溶液を噴霧し、次いでゲンタマイシン溶液を噴霧した。
【0083】
次いで、各シリンダ(合計6個)を5秒間MQ水中に1回浸漬し、15分間放置して風乾させ、培養ブロス(緩衝ペプトン水、ペプトン10.0g/L、塩化ナトリウム5.0g/L、無水リン酸ニナトリウム3.6g/L、リン酸カリウム1.5g/L、Biokar Diagnostics)に入れ、黄色ブドウ球菌600,000,000CFU/mLを播種した。ブロスを37℃で培養し、予め設定した時間(6時間、12時間、24時間、48時間、144時間)に1mLの上清を取り、プレート播種のために(PCA-プレートカウント寒天:トリプトン5.0g/L、酵母エキス2.5g/L、グルコース1.0g/L、バクテリア寒天12.0g/L、Biokar Diagnostics製)、滅菌食塩水を用いて、1:10にスカラー希釈した(細菌の成長に応じて)。次にCFU/mLのカウントを行った。
【0084】
図4には、600,000,000CFU/mLの黄色ブドウ球菌の初期種菌と比較した、経時的な細菌増殖阻害率のデータを示す。
【0085】
グラフは、以下を明確に示している:
-HAS2-DOPAは、対照(PBS)よりはるかに効果的に作用する。これは、HAS2-DOPAが時間の経過とともに制御された一定の様式でゲンタマイシンを放出していることを意味するものである。
-HAS2-DOPAは、HA-DOPAよりもはるかに有意な様式で作用する。
-驚くべきことに、最初の24時間の総抗菌作用に加えて、HAS2-DOPAは、最大144時間、すなわち接種後7日までの間、長期間の抗菌被覆を維持し、一方で、HA-DOPAは、黄色ブドウ球菌の増殖をわずか48時間後に再開する。
【0086】
同じ濃度のダプトマイシンを用いて同様の実験を行い、同一の活性プロファイルを得た。
【実施例15】
【0087】
比較試験:ゲンタマイシンに結合したヘパリン-DOPA(HEPA-DOPA)抱合体と比較したHAS2-DOPA抱合体の抗菌活性
【0088】
実施例6のように、HAS2-DOPA抱合体を調製し、実施例11と同様にHEPA-DOPA誘導体を調製した(誘導体化度:21%)。
【0089】
2つのチタン製シリンダ(d=15×h=17mm)に、それぞれpH8のPBS中20mg/mLの濃度で、それぞれHAS2-DOPAまたはHEPA-DOPAを噴霧し、続いて、MES(pH5.2)中、5mg/mLのゲンタマイシンを噴霧した。次いで、MQ水中で3回連続浸漬洗浄(5秒間)を行った。繰り返し洗浄する目的は、試験対象の種に実際に静電的に結合していないすべてのゲンタマイシンを除去するためである。次に、シリンダを黄色ブドウ球菌の種菌(600,000,000CFU/mL)と共に試験管に入れ、予め設定した時間に1mLの上清を取り、その後、プレート播種(PCA-プレートカウント寒天:トリプトン5.0g/L、酵母エキス2.5g/L、グルコース1.0g/L、細菌寒天12.0g/L(Biokar Diagnostics))のために滅菌生理食塩水で1:10(細菌の増殖に応じて)にスカラー希釈した。その後、
図5に示すように、CFU/mLをカウントした。
【0090】
この結果は、HAS2-DOPA生成物が黄色ブドウ球菌増殖の抑制、誘導体化の程度、および濃度が同等であることにおいて、はるかに高い活性であり、こうした活性が、少なくとも36時間持続していることを示すものである。この結果は、HEPA-DOPA誘導体がその抗菌活性を徐々にかつ急速に失い、36時間後には、「対照」(抗菌活性を持たない)と等しいことを考慮すると、特に重要である。
【実施例16】
【0091】
HAS2-DOPAおよびHEPA-DOPAの抗凝固作用の比較
【0092】
実施例6のHAS2-DOPA抱合体および実施例11のHEPA-DOPA誘導体を調製した。
【0093】
抗凝固作用は、純粋なヘパリンを標準として用いて評価した。比色法を使用するキット(Hyphen BioMed、Biophen Heparin AT+Ref 221007)(ヘパリンもしくは試験ポリマーによって複合体を形成していないかまたはこれらによって阻害されていない凝固因子Xaを測定する)を使用した。405nmでの吸光度は、遊離Xa因子に正比例し、したがって試験対象の種のヘパリン様活性に反比例する(
図6)。
【0094】
HAS2-DOPAの抗凝固作用は、濃度が等しい場合、HEPA-DOPAの抗凝固作用よりはるかに少なく、HAS2-DOPA系と同じ作用(Absが50%低下)を得るためには、約50倍高い濃度が必要であることが明白である。このことは、HAS2-DOPA抱合体は、ヘパリンとまったく同じように、硫酸化ポリマーを含んでいるが、既知の生成物よりも低い抗凝固作用を呈することを意味する。
【0095】
ゲンタマイシンまたは同様の抗菌剤に結合したHAS2-DOPA抱合体は、噴霧により塗布できることに加えて、非常に短時間で使用することができ、ヘパリン様効果は実質的に有さず、このため、異常な出血を引き起こすことはなく、また既知の同等物よりもはるかに効果的であり、かつ迅速に、持続的な様式で作用するため、有利である。
【実施例17】
【0096】
インビトロでの骨芽細胞増殖に対するHAS2-DOPAおよびHA-DOPAの作用の評価
【0097】
以下を調製した:
-HAS2-DOPAの水溶液(23%、実施例3)10mg/mL
-HA-DOPAの水溶液(23%、実施例12)10mg/mL
-フィブロネクチン水溶液20μg/ml(陽性対照)。
【0098】
2つのチタン製シリンダ(d=15×h=17mm)の円形上面にHAS2-DOPA溶液を噴霧し、15分間放置して風乾させ、同じサイズの他の2つのチタン製シリンダにも同じ処理を施し、これに上記の手順に従ってHA-DOPA溶液を噴霧した。最後に、同一の大きさの他の2つのチタン製シリンダに、上記の手順に従って、フィブロネクチンを含む水溶液を噴霧した。フィブロネクチンは、細胞接着、増殖および遊走を刺激するので、インビトロでの細胞増殖実験における参照標準として広く使用されている。
【0099】
次いで、各シリンダ(合計6個)をミリQ水に5秒間1回浸漬し、15分間放置して風乾させて、ウェルプレートに入れた。0.10mLの骨芽細胞(Saos-2細胞系、骨肉腫由来)を含む培地(マッコイの5A+10%FBS)(チタン約50000細胞/cm2の量)をその後、各シリンダの表面に堆積させた。細胞をチタン上において37℃(5% CO2)で4時間培養して接着させ、次に、シリンダが浸漬するまで培地を加え、同じ条件下で一晩培養を継続した。
【0100】
翌日、培地を除去し、シリンダをPBSで洗浄して、非接着細胞を除去し、次いで、等容量の同じ培地を10%アラマーブルーの入った各シリンダに添加し、シリンダを37℃(5% CO2)で24時間放置して培養した。培養後、蛍光読み取りを実施し(λ励起:530nmおよび発光:590nm)、蛍光強度は、細胞代謝、したがって、生存骨芽細胞数に比例していた。
【0101】
この結果(
図7)から、誘導体化の程度と濃度が等しいこと、HAS2-DOPAが、フィブロネクチンとほぼ同等であり、驚くべきことにHA-DOPAのほぼ2倍である、非常に高い骨結合活性を有することがわかる。これらの値は、統計的に有意である。
【0102】
C-骨芽細胞の播種を伴わない、陰性対照、すなわち「そのまま」のチタン製シリンダを表す。
【実施例18】
【0103】
実施例3のように調製した23% HAS2-DOPA粉末のベータ線およびガンマ線滅菌に対する安定性の評価
【0104】
実施例3に記載したように、1gの23% HAS2-DOPA粉末サンプルを調製した。サンプルはそれぞれ、以下に曝露させた:
-ベータ線による滅菌、
-ガンマ線による滅菌、
-滅菌なし(対照)。
【0105】
次いで、サンプルを異なる既知の方法、すなわち重水(D2O)中に粉末を溶解させた後に、1H-NMR(プロトン核磁気共鳴分光法)での構造分析によって、次いでIR分析(KBrペレット)を用いて、最後に、水に溶解後に可視UV分析(UV-Vis)を用いて分析した。
【0106】
分析結果により、滅菌サンプルのシグナルが同一であり、とりわけ、これらのシグナルと非滅菌対照のシグナルとの間に差がないことが確認された。特に、副生成物の形成(NMRおよびIR分析)によるシグナル、または例えばドーパミン酸化によるUV-Vis吸収シグナルシフトのシグナルは、観察されなかった。
【0107】
したがって、HAS2-DOPAポリマーは安定しており、ベータ線またはガンマ線滅菌に適合する。
【実施例19】
【0108】
HAS2-DOPAで官能化し、ベータ線により滅菌し、その後バンコマイシンで処理したチタン製シリンダにおける黄色ブドウ球菌の細菌増殖の抑制のインビトロ試験
【0109】
以下を調製した:
HAS2-DOPA(23%、実施例3)を含む10mg/mLの水溶液、
バンコマイシンを含む5mg/mlの水溶液。
【0110】
1つのチタン製シリンダ(d=15×h=17mm)(サンプルA、対照)はいかなる処理も施していないが、同じ寸法の第2のチタン製シリンダ(サンプルB)にはHAS2-DOPA溶液を噴霧し、15分間放置して風乾させた。
【0111】
両方のシリンダにベータ線の照射による滅菌を施し、続いて調製したバンコマイシン溶液を噴霧し、最後に15分間放置して風乾させた。
【0112】
次いで、両方のシリンダを、存在している過剰の抗生物質を除去するために、5秒間異なるMQ水溶液に10回浸漬し、15分間放置して風乾させた。黄色ブドウ球菌懸濁液(200μL、650nmでのO.D.>0.5)をプレート内においてMueller-Hinton寒天(BD Biosciences)の表面に均一に分配し、2つのチタン製シリンダのそれぞれを寒天表面の中央に配置し、播種させた。このプレートを35℃で18時間培養した後、抗生物質によって細菌の増殖が抑制された表面の直径を測定した。
【0113】
HAS2-DOPAで処理し、滅菌したサンプルBは、滅菌のみを行った対照サンプルよりもはるかに効果的に細菌増殖を阻害することが証明された。
【0114】
これは、滅菌することにより、HAS2-DOPAの構造または性質が変化しなかったことを意味するものであり、つまり引き続きTiに固定されたままであり、その結果、バンコマイシンに結合した後、それを放出する能力を保持している。
【0115】
同様の実験を同じ濃度でゲンタマイシンを用いて行い、同じ条件、同じ濃度で架橋チタンサンプルにバンコマイシンを用いて行い、上記のものと同一の細菌増殖阻害プロファイルを得た。
【0116】
したがって、β線滅菌は、
チタンへのHAS2-DOPAの付着を変化させるものではない、
HAS2-DOPAの構造的特性を変化させるものではない、
および、このために、HAS2-DOPAが抗生物質に結合して、所望の抗菌効果を発揮する能力を変化させるものではない。