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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】赤外線遮蔽フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20220428BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020194551
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2021135484
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】109106145
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(74)【代理人】
【識別番号】100201938
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 静可
(72)【発明者】
【氏名】楊文政
(72)【発明者】
【氏名】廖▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】蕭嘉▲彦▼
(72)【発明者】
【氏名】曹俊哲
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-231869(JP,A)
【文献】特開2015-003853(JP,A)
【文献】特開2013-159553(JP,A)
【文献】特表2012-513364(JP,A)
【文献】特開2015-214684(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151344(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/167897(WO,A1)
【文献】特開2018-124363(JP,A)
【文献】特開2015-011271(JP,A)
【文献】特開2019-117228(JP,A)
【文献】特表2013-540623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一に分布した複数の複合酸化タングステン粒子を含有する赤外線吸収層と、
前記赤外線吸収層の一方の表面に設置され、均一に分布した複数の複合酸化チタン粒子を含有する第1の赤外線反射層と、を含み、
複数の前記複合酸化タングステン粒子は、前記赤外線吸収層の総重量に対して0.1wt%~10wt%を占めて、下記一般式(1)で表され、複数の前記酸化チタン粒子は、前記第1の赤外線反射層の総重量に対して0.1wt%~10wt%を占め
前記赤外線吸収層における前記複合酸化タングステン粒子の各々の粒径は、1nm~50nmであり、前記第1の赤外線反射層における前記酸化チタン粒子の各々の粒径は、30nm~80nmである、ことを特徴とする透明赤外線遮蔽フィルム。
CsWO3-z (1)
(ただし、式(1)において、Csはセシウム、Mは錫(Sn)、アンチモン(Sb)、もしくはビスマス(Bi)、Wはタングステン、Oは酸素、Nは弗素(F)、もしくは臭素(Br)を表し、x、y、z、cはすべて正数であり、x≦1.0、y≦1.0、y/x≦1.0、z≦0.6、及びc≦0.1を満たす。)
【請求項2】
前記赤外線遮蔽フィルムの厚さは12μm~50μmであり、前記第1の赤外線反射層の厚さは前記赤外線遮蔽フィルムの厚さの3%~20%である、請求項に記載の透明赤外線遮蔽フィルム。
【請求項3】
前記第2の赤外線反射層の総重量に対して0.1wt%~10wt%を占める均一に分布した複数の酸化チタン粒子を含有すると共に、前記赤外線吸収層の他方の表面に設置される第2の赤外線反射層、をさらに含む、請求項1に記載の透明赤外線遮蔽フィルム。
【請求項4】
前記赤外線吸収層における前記複合酸化タングステン粒子の各々の粒径は、1nm~50nmであり、前記第1の赤外線反射層における前記酸化チタン粒子の各々の粒径は、30nm~80nmであり、前記第2の赤外線反射層における前記酸化チタン粒子の各々の粒径は、30nm~80nmである、請求項に記載の透明赤外線遮蔽フィルム。
【請求項5】
前記赤外線遮蔽フィルムの厚さは12μm~50μmであり、前記第1の赤外線反射層及び前記第2の赤外線反射層の厚さの合計は前記赤外線遮蔽フィルムの厚さの6%~40%である、請求項に記載の透明赤外線遮蔽フィルム。
【請求項6】
JIS R3106に準拠して測定された前記赤外線遮蔽フィルムの赤外線カット率は30%~99%であり、JIS K7705に準拠して測定された前記赤外線遮蔽フィルムのヘイズ度は0.05%~2%である、請求項1に記載の透明赤外線遮蔽フィルム。
【請求項7】
複数の複合酸化タングステン粒子を含む第1の遮熱スラリー及び複数の酸化チタン粒子を含む少なくとも一つの第2の遮熱スラリーを提供するステップと、
多層共押出によって複数のポリエステルペレットを多層構造に形成し、押出過程において、前記第1の遮熱スラリー及び少なくとも一つの前記第2の遮熱スラリーは、それぞれ、互いに積み重ねられる第1の熱溶融層及び少なくとも一つの第2の熱溶融層に添加され、それによって前記多層構造に少なくとも赤外線吸収層及び前記赤外線吸収層の一方の表面に形成される第1の赤外線反射層を含ませるステップと、を含み、
複数の前記複合酸化タングステン粒子は前記赤外線吸収層の総重量に対して0.1wt%~10wt%であり、下記一般式(1)で表され、複数の前記酸化チタン粒子は前記第1の赤外線反射層の総重量に対して0.1wt%~10wt%であり、
それぞれの前記複合酸化タングステン粒子の粒径は1nm~50nmであり、それぞれの前記酸化チタン粒子の粒径は30nm~80nmである、ことを特徴とする透明赤外線遮蔽フィルムの製造方法。
CsWO3-z (1)
(ただし、式(1)において、Csはセシウム、Mは錫(Sn)、アンチモン(Sb)、もしくはビスマス(Bi)、Wはタングステン、Oは酸素、Nは弗素(F)、もしくは臭素(Br)を表し、x、y、z、cはすべて正数であり、x≦1.0、y≦1.0、y/x≦1.0、z≦0.6、及びc≦0.1を満たす。)
【請求項8】
前記多層構造を形成するステップにおいて、少なくとも一つの前記第2の遮熱スラリーは前記多層構造の前記赤外線吸収層の他方の表面に添加され、それによって前記多層構造に前記赤外線吸収層の相対的な別の表面に形成される第2の赤外線反射層をさらに含ませ、複数の前記酸化チタン粒子は前記第2の赤外線反射層の総重量に対して0.1wt%~10wt%である、請求項に記載の透明赤外線遮蔽フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記第1の遮熱スラリーにおける複数の前記複合酸化タングステン粒子の含有量は0.01wt%~30wt%であり、少なくとも一つの前記第2の遮熱スラリーにおける複数の前記酸化チタン粒子の含有量は0.01wt%~30wt%である、請求項に記載の透明赤外線遮蔽フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮熱構造に関し、特に、赤外線遮蔽フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の影響により、遮熱を行い電力を節約する需要が高まってきている。例えば、太陽光がガラスを透過して室内に入った時、太陽光中の赤外線は室内の温度を上昇させる。そうなると、風通しまたは降温装置により高温による不快感を緩和する必要がある。統計結果によると、夏にガラス窓から室内に入った太陽放射は空調の電力消費を増加させていることが明らかとなる。よって、建築物のガラス窓の遮熱性能は室内温度に対する影響が大きい。類似的に、車用ガラスの遮熱性能も車内温度に影響する主な要素の一つである。
【0003】
今、よく見られる遮熱方式は、対象物に金属赤外線反射層または染色層を設置することにほかならない。金属赤外線反射層は赤外線及び紫外線を反射できるが、関連製品は光害を発生させる。また、染色層は赤外線を吸収できるが、遮熱効果が悪く、色が褪せやすい。また、金属メッキ層(例えば、銀メッキ層)に誘電体層を組み合わせることによって、多層薄膜構造を形成する遮熱方式もあり、該遮熱方式によれば、光の干渉作用により選択的に可視光を透過させると共に赤外線を遮蔽する効果を達成させることができる。しかし、この方式は設備投資が大きく、原料のコストが高く、歩留まりが低めである。また、既有のLow-Eガラスは遮熱効果に改善点が残っており、装飾性がない。一方、ガラス製品自身は砕けやすく、リワークできないため、応用には不便が多い。
【0004】
また、既存の赤外線遮蔽フィルムの作製は遮熱粒子を重合原料に混入して造粒し、形成されたポリエステルペレットをフィルムに溶融押出する。このやり方は、重合または混練造粒の段階でも熱環境にあるため、熱履歴時間が長い。また、既有の赤外線遮蔽フィルムは、通常、遮熱効果を向上させるために、中に大量の遮熱粒子が添加される。そのため、フィルム外観のヘイズ度が高い。
【0005】
現代建築物へのガラス窓及びガラス外観(例えば、ガラスカーテンウォール)の大量採用、及び自動車使用率の快速な成長に伴い、新規の遮熱電力節約材料の開発は十分に重要で切迫な問題となった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来技術の不足に対し、赤外線反射・赤外線吸収の二つの機能を有する赤外線遮蔽フィルム、並びに、熱履歴を減少させるこの赤外線遮蔽フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的問題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、赤外線遮蔽フィルムを提供することである。該赤外線遮蔽フィルムは、赤外線吸収層及び第1の赤外線反射層を含む。前記赤外線吸収層は、均一に分布した複数の複合酸化タングステン粒子を含有する。なかでも、複数の前記複合酸化タングステン粒子は、前記赤外線吸収層の総重量に対して0.1wt%~10wt%を占めて、一般式CsWO3-zで表され、Csはセシウム、Mは錫(Sn)、アンチモン(Sb)、もしくはビスマス(Bi)、Wはタングステン、Oは酸素、Nは弗素(F)、塩素(Cl)もしくは臭素(Br)を表し、x、y、z、cはすべて正数であり、x≦1.0、y≦1.0、y/x≦1.0、z≦0.6、及びc≦0.1を満たす。前記第1の赤外線反射層は、前記赤外線吸収層の表面に設置され、均一に分布した複数の複合酸化チタン粒子を含有する。なかでも、複数の前記酸化チタン粒子は、前記第1の赤外線反射層の総重量に対して0.1wt%~10wt%を占める。
【0008】
本発明の一実施形態において、前記赤外線吸収層におけるそれぞれの前記複合酸化タングステン粒子の粒径は、1nm~50nmであり、前記第1の赤外線反射層におけるそれぞれの前記酸化チタン粒子の粒径は、30nm~80nmである。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記赤外線遮蔽フィルムの厚さは、12μm~50μmであり、前記第1の赤外線反射層の厚さは、前記赤外線遮蔽フィルムの厚さの3%~20%である。
【0010】
本発明の一実施形態において、均一に分布した複数の酸化チタン粒子を含有すると共に前記赤外線吸収層の相対的な別の表面に設置される第2の赤外線反射層を、前記赤外線遮蔽フィルムはさらに含み、複数の前記酸化チタン粒子は、前記第2の赤外線反射層の総重量に対して0.1wt%~10wt%を占める。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記赤外線吸収層におけるそれぞれの前記複合酸化タングステン粒子の粒径は、1nm~50nmであり、前記第1の赤外線反射層におけるそれぞれの前記酸化チタン粒子の粒径は、30nm~80nmであり、前記第2の赤外線反射層におけるそれぞれの前記酸化チタン粒子の粒径は、30nm~80nmである。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記赤外線遮蔽フィルムの厚さは12μm~50μmであり、前記第1の赤外線反射層及び前記第2の赤外線反射層の厚さの合計は、前記赤外線遮蔽フィルムの厚さの6%~40%である。
【0013】
本発明の一実施形態において、JIS R3106に準拠して測定された前記赤外線遮蔽フィルムの赤外線カット率は、30%~99%であり、JIS K7705に準拠して測定された前記赤外線遮蔽フィルムのヘイズ度は、0.05%~2%である、請求項1に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【0014】
上述した技術的問題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、赤外線遮蔽フィルムの製造方法を提供することである。該赤外線遮蔽フィルムの製造方法は、複数の複合酸化タングステン粒子を含む第1の遮熱スラリーと複数の酸化チタン粒子を含む少なくとも一つの第2の遮熱スラリーとを提供するステップと、多層共押出によって複数のポリエステルペレットを多層構造に形成するステップであって、なかでも、押出過程において、前記第1の遮熱スラリーは前記多層構造の内層に添加され、少なくとも一つの前記第2の遮熱スラリーは前記多層構造の少なくとも一方の外層に添加され、それによって、前記多層構造に、少なくとも赤外線吸収層及び前記赤外線吸収層の表面に形成される第1の赤外線反射層を含ませるステップと、を含む。複数の前記複合酸化タングステン粒子は前記赤外線吸収層の総重量に対して0.1wt%~10wt%を占め、複数の前記酸化チタン粒子は前記第1の赤外線反射層の総重量に対して0.1wt%~10wt%を占める。なかでも、複数の前記複合酸化タングステン粒子は一般式CsWO3-zで表され、Csはセシウム、Mは錫(Sn)、アンチモン(Sb)、もしくはビスマス(Bi)、Wはタングステン、Oは酸素、Nは弗素(F)、塩素(Cl)もしくは臭素(Br)を表し、x、y、z、cはすべて正数であり、x≦1.0、y≦1.0、y/x≦1.0、z≦0.6、及びc≦0.1を満たす。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記多層構造を形成するステップにおいて、少なくとも一つの前記第2の遮熱スラリーは前記多層構造の他方の外層に添加され、それによって前記多層構造に前記赤外線吸収層と相対的な表面に形成される第2の赤外線反射層をさらに含ませ、複数の前記酸化チタン粒子は前記第2の赤外線反射層の総重量に対して0.1wt%~10wt%を占める。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記第1の遮熱スラリーにおける複数の前記複合酸化タングステン粒子の含有量は0.01wt%~30wt%であり、それぞれの前記複合酸化タングステン粒子の粒径は1nm~50nmであり、少なくとも一つの前記第2の遮熱スラリーにおける複数の前記酸化チタン粒子の含有量は0.01wt%~30wt%であり、それぞれの前記酸化チタン粒子の粒径は30nm~80nmである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一つの有利な効果として、本発明の赤外線遮蔽フィルムは、「赤外線吸収層は、均一に分布した複数の複合酸化タングステン粒子を含有し、少なくとも一つの赤外線反射層は赤外線吸収層の表面に設置され、均一に分布した複数の複合酸化チタン粒子を含有する」という技術的手段により、赤外線反射・赤外線吸収の二つの機能を有し、並びに高い光透過率及び低いヘイズ度などの光学的特性を兼有することによって、高い遮熱性及び十分な可視性に対する遮熱製品の応用需要を満たす。試験結果から、赤外線遮蔽フィルムの可視光透過率は88%に達することができ、赤外線遮蔽フィルムのヘイズ度は少なくとも2%未満であり、0.05%まで低減することができ、赤外線カット率は少なくとも90%であり、99%に達することができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る赤外線遮蔽フィルムの一つの構造を示す模式図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る赤外線遮蔽フィルムの別の構造を示す模式図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る赤外線遮蔽フィルムの一つの構造を示す模式図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る赤外線遮蔽フィルムの別の構造を示す模式図である。
図5】本発明の赤外線遮蔽フィルムの製造方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、所定の具体的な実施態様によって本発明が開示した「赤外線遮蔽フィルム及びその製造方法」に係る実施形態を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行又は適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際な寸法に基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容は本発明の保護範囲を制限するためのものではない。
【0020】
理解すべきことは、本文には、「第1」、「第2」、「第3」という用語を使用して各種の素子又は信号を記述する可能性があるが、これらの素子又は信号は、これらの用語によって制限されないことである。これらの用語は主に、1つの素子ともう1つの素子、又は1つの信号ともう1つの信号を区別するためのものである。また、本文に使用される「又は」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つ又は複数の組み合わせを含む可能性がある。
【0021】
本文に使用される全ての技術及び科学用語は、別に定義しない限り、当業者が通常に理解する意味と同じ意味を有する。単数の形で現れる用語は、この用語の複数の形を含む。
【0022】
本文に言及される「%」は、別に指示しない限り、いずれも重量%である。一連の上限、下限の範囲が与えられる場合、各組み合わせを明らかに挙げるように、言及される範囲の全ての組み合わせを含むようになる。
[第1の実施形態]
【0023】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態は赤外線遮蔽フィルムZを提供する。該赤外線遮蔽フィルムZは赤外線反射・赤外線吸収の二つの機能を有する。赤外線遮蔽フィルムZは多層構造であり、主要に赤外線吸収層1及び赤外線反射層2を含む。赤外線吸収層1は赤外線遮蔽フィルムZの内層として、均一に分布した複数の複合酸化タングステン粒子P1を含有する。赤外線反射層2は赤外線遮蔽フィルムZの外層として、赤外線吸収層1の表面(例えば、上面)に設置され、均一に分布した複数の酸化チタン(TiO)粒子P2を含有する。
【0024】
使用時、赤外線遮蔽フィルムZを、透明可視及び遮熱效果を兼有する必要がある対象物(未表示)に貼り付けることができ、それによって、赤外線吸収層1及び赤外線反射層2によって、それぞれ、太陽光中の赤外線を吸収する及び反射する。また、赤外線吸収層1及び赤外線反射層2のそれぞれに可視光が透過することができ、対象物は、例えば、建築物のガラス窓及びガラス外観、自動車のフロント、リアガラス及び左右両側のサイドガラスである。それによって、自然光の伝導に影響しない状況において、日射による室内環境への昇温影響を減少させることができ、それによって空調の電力消費を効果的に減少させる。
【0025】
さらに、赤外線吸収層1及び赤外線反射層2の材質はポリエステルであり、それによって赤外線吸収層1及び赤外線反射層2自身は高い透明性及び良好な剛性を有する。ポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(PCT)、ポリカーボネート(PC)及びポリアリレートが挙げられる。好ましいポリエステルはPETである。
【0026】
本実施形態において、赤外線吸収層1及び赤外線反射層2は二軸延伸処理によって良好な柔軟延展性を有し、それによって赤外線遮蔽フィルムZの使用柔軟性を高められる。例えば、赤外線遮蔽フィルムZは対象物の異なる立体形状に適応でき、即ち、平らに対象物の表面に貼り付けることができる。
【0027】
赤外線吸収能力及び光透過性を兼有するために、赤外線吸収層1における複合酸化タングステン粒子P1の含有量は、赤外線吸収層1の総重量に基づいて、0.1wt%~10wt%であり、複合酸化タングステン粒子P1の粒径は1nm~50nmである。また、赤外線反射能力及び光透過性を兼有するために、酸化チタン粒子P2の含有量は、赤外線反射層2の総重量に基づいて、0.1wt%~10wt%であり、酸化チタン粒子P2の粒径は30nm~80nmである。しかし、これらの詳細は本実施形態が提供する可能な実施方式であり、本発明を限定するためのものではない。本実施形態において、赤外線反射層2の厚さは、赤外線遮蔽フィルムZの厚さの3%~20%であり、赤外線遮蔽フィルムZの厚さは、12μm~50μmであってもよいが、これに制限されない。
【0028】
特定の実施形態において、複合酸化タングステン粒子P1の含有量は、1wt%、2wt%、3wt%、4wt%、5wt%、6wt%、7wt%、8wt%、もしくは9wt%であってもよく、複合酸化タングステン粒子P1の粒径は、5nm、10nm、15nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、もしくは45nmであってもよく、酸化チタン粒子P2の含有量は、1wt%、2wt%、3wt%、4wt%、5wt%、6wt%、7wt%、8wt%、もしくは9wt%であってもよく、酸化チタン粒子P2の粒径は、30nm、40nm、50nm、60nm、70nmもしくは80nmであってもよい。
【0029】
本実施形態において、複合酸化タングステン粒子P1は一般式:CsWO3-zで表され、Csはセシウムを表し、Mは錫(Sn)、アンチモン(Sb)もしくはビスマス(Bi)を表し、Wはタングステンを表し、Oは酸素を表し、Nは弗素(F)、塩素(Cl)、もしくは臭素(Br)を表し、好ましくは、Nは弗素(F)、もしくは臭素(Br)を表す。x、y、z、cはすべて正数であり、x≦1.0、y≦1.0、y/x≦1.0、z≦0.6、及びc≦0.1の関係を満たす。また、複合酸化タングステン粒子P1に特定の金属元素及び特定の非金属元素がドープされていることが特筆に値する。なかでも、ドープされた金属元素は、例えば、波長範囲が850nm~2500nmの赤外線の吸収能力を高め、ドープされた非金属元素は赤外線吸収層1の耐候性を高める等、酸化タングステン分子の赤外線吸収能力の不足を補えることができる。
【0030】
試験結果から、赤外線遮蔽フィルムZの可視光透過率は88%に達することができ、赤外線遮蔽フィルムZのヘイズ度は少なくとも2%未満であり、0.05%まで低減することができ、赤外線カット率は少なくとも90%であり、99%に達することができることが分かった。
【0031】
可視光透過率及びヘイズ度試験:日本東京電色社の測定裝置(モデル:TC-HIII DPK)を使用し、JIS K7705試験規格に準拠して、赤外線遮蔽フィルムZの可視光透過率及びヘイズ度を測定し、可視光透過率が高く、ヘイズ度が低いほど、赤外線遮蔽フィルムZの透明性がより良好である。
【0032】
赤外線カット率(IRカット%)試験:日本HOYA社の試験装置(モデル:LT-3000)を使用し、JIS R3106試験規格に準拠して、赤外線遮蔽フィルムZの赤外線通過率を測定し、得られた赤外線通過率を100%で引く。赤外線カット率が高いほど、ポリエステルフィルムZは、遮熱がより効果的である。
【0033】
図2に示すように、実際の需要に応じて、赤外線遮蔽フィルムZは、キャリア層3、接合層4及び一時的コート層5をさらに含んでもよく、キャリア層3及び接合層4は、順に、赤外線吸収層1の相対的な別の表面(例えば、下面)に設置され、一時的コート層5は接合層4の表面に覆われる。キャリア層3は赤外線吸収層1及び赤外線反射層2に良好な支持を提供することができ、それによって、それらの所期の効果を発揮させ、接合層4は、貼り付けを通して、赤外線吸収層1及び赤外線反射層2を対象物表面の特定領域に配置することができ、一時的コート層5は、貼り付けの前に、接合層4の表面が汚れに接触し接合力が低下することを防止できる。
【0034】
本実施形態において、キャリア層3の材質はポリエステルであってもよく、その具体例は上述した通りであり、好ましいポリエステルはPETであり、キャリア層3の厚さは20μm~125μmであってもよい。接合層4の材質はポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアセテート、もしくはそれらの任意の組み合わせであってもよく、接合層4の厚さは10μm~50μmであってもよい。一時的コート層5の材質及び厚さは特に制限されず、安定に接合層4の表面に付着できればよい。しかし、これらの詳細は本実施形態が提供する可能な実施方式であり、本発明を限定するためのものではない。
[第2の実施形態]
【0035】
図3に示すように、本発明の第2の実施形態は赤外線遮蔽フィルムZを提供する。該赤外線遮蔽フィルムZは、主要に、赤外線吸収層1、第1の赤外線反射層2a及び第2の赤外線反射層2bを含む。赤外線吸収層1は相対する第1の表面11及び第2の表面12を有し、第1の表面11は、例えば、赤外線吸収層1の上面であり、第2の表面12は、例えば、赤外線吸収層1の下面であり、なかでも、赤外線吸収層1は均一に分布した複数の複合酸化タングステン粒子P1を含む。第1の赤外線反射層2aは赤外線吸収層1の第1の表面11に設置され、第2の赤外線反射層2bは赤外線吸収層1の第2の表面12に設置され、なかでも、第1の赤外線反射層2a及び第2の赤外線反射層2bは、共に、均一に分布した複数の酸化チタン粒子P2を含有する。
【0036】
本実施形態において、赤外線吸収層1における複合酸化タングステン粒子P1の含有量は、赤外線吸収層1の総重量に基づいて、0.1wt%~10wt%であり、複合酸化タングステン粒子P1の粒径は1nm~50nmである。第1の赤外線の反射層2aにおける酸化チタン粒子P2の含有量は、第1の赤外線反射層2aの総重量に基づいて、0.1wt%~10wt%であり、第1の赤外線反射層2aにおける酸化チタン粒子P2の粒径は1nm~50nmである。第2の赤外線反射層2bにおける酸化チタン粒子P2の含有量は、第2の赤外線反射層2bの総重量に基づいて、0.1wt%~10wt%であり、第2の赤外線反射層2bにおける酸化チタン粒子P2の粒径は30nm~80nmである。また、第1の赤外線反射層2a及び第2の赤外線反射層2bの厚さの合計は赤外線遮蔽フィルムZの厚さの6%~40%であり、赤外線遮蔽フィルムZの厚さは12μm~50μmであってもよい。
【0037】
図4に示すように、赤外線遮蔽フィルムZはキャリア層3、接合層4及び一時的コート層5をさらに含んでもよく、キャリア層3の位置は、赤外線吸収層1の第2の表面12に対応し、第2の赤外線反射層2bに連なり、接合層4は、キャリア層3に設置され、一時的コート層5は接合層4の表面に覆われる。未図示の一実施形態において、キャリア層3の位置は赤外線吸収層1の第2の表面12に対応することができ、第1の赤外線反射層2aに連なる。本実施形態に係る赤外線遮蔽フィルムZの他の実施詳細は、上述した第1の実施形態を参考しても良いため、ここで説明を省略する。
[第3の実施形態]
【0038】
図5に示すように、本発明の第3の実施形態は赤外線遮蔽フィルムの製造方法を提供し、該赤外線遮蔽フィルムの製造方法は、主要に、ステップS100及びステップ102を含む。前記ステップS100は、複数の複合酸化タングステン粒子を含む第1の遮熱スラリー及び複数の酸化チタン粒子を含む少なくとも一つの第2の遮熱スラリーを提供し、前記ステップS102は、多層共押出(co-extrusion)によって複数のポリエステルペレットを多層構造に形成し、なかでも、押出過程において、第1の遮熱スラリー及び第2の遮熱スラリーは、それぞれ、互いに積み重ねられる第1の熱溶融層及び少なくとも一つの第2の熱溶融層に添加される。実際の需要に応じて、この製造方法は多層構造に二軸延伸処理を行うステップS104をさらに含んでもよい。
【0039】
図1及び図3に示すように、ステップS102の完了後は、図1に示すように、赤外線吸収層1及び赤外線吸収層1の表面に形成される赤外線反射層2を得ることができる。あるいは、図3に示すように、赤外線遮蔽フィルムZは赤外線吸収層1、赤外線吸収層1の表面に形成される第1の赤外線反射層2a及び赤外線吸収層1の相対的な別の表面に形成される第2の赤外線反射層2bを含んでもよい。赤外線遮蔽フィルムZ及び赤外線遮蔽フィルムZ(第1及び第2の赤外線反射層)の技術的詳細は、第1及び第2の実施形態の説明を参考してもよいため、ここでは説明を省略する。
【0040】
さらに、第1の遮熱スラリーは以下のステップを通して作製されても良い。まず、前記一般式で表される複合酸化タングステン粒子をアルコール溶媒(例えば、グリコール)に加え、充分に攪拌した後、しばらく静置し、第1の遮熱粒子分散液を得、分散液における複合酸化タングステン粒子の分散性をより良くするために、第1の遮熱粒子分散液に適量の分散剤を加えてもよい。その後、第1の遮熱粒子分散液が適当な粘度を有し、且つ複合酸化タングステン粒子が1nm~50nmの粒径を有するまで、第1の遮熱粒子分散液を湿式粉砕する。類似的に、第2の遮熱スラリーは以下のステップを通して作製されても良い。まず、酸化チタン粒子をアルコール溶媒(例えば、グリコール)に加え、充分に攪拌した後、しばらく静置し、第2の遮熱粒子分散液を得、分散液における複合酸化チタン粒子の分散性をより良くするために、第2の遮熱粒子分散液に適量の分散剤を加えてもよい。その後、第2の遮熱粒子分散液が適当な粘度を有し、且つ複合酸化チタン粒子が30nm~80nmの粒径を有するまで、第2の遮熱粒子分散液を湿式粉砕する。
【0041】
分散剤としては、アニオン型分散剤、ノニオン型分散剤及び高分子分散剤が挙げられる。アニオン型分散剤はアクリル酸系アニオン分散剤であっても良く、その具体例として、ポリアクリル酸アンモニウム(共)重合物、ポリアクリル酸ナトリウム(共)重合物、スチレン - アクリル酸(共)重合物及びカルボン酸ナトリウム共重合物が挙げられる。ノニオン型分散剤の具体例として、脂肪アルコールエトキシレート及びポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられ、高分子分散剤は複数の固定基を有する共重合物であっても良く、その具体例として、ポリカルボン酸エステル、スルホン酸型ポリエステルポリオール、ポリリン酸エステル、ポリウレタン及び変性ポリアクリレート系重合物が挙げられる。
【0042】
前記二軸延伸処理は、50C~150Cの延伸温度において未延伸の赤外線遮蔽フィルムZを予熱し、異なる延伸比例に従って、未延伸の赤外線遮蔽フィルムZの幅方向(もしくは、横方向、TDと称される)に2.0倍~5.0倍、好ましくは3.0倍~4.0倍の延伸加工を行い、赤外線遮蔽フィルムZの長さ方向(もしくは、縱方向、MDと称される)に1.0倍~2.5倍、好ましくは1.0倍~1.5倍の延伸加工を行うことであってもよい。
[実施形態による有利な效果]
【0043】
本発明の一つの有利な効果として、本発明の赤外線遮蔽フィルムは、「赤外線吸収層は、均一に分布した複数の複合酸化タングステン粒子を含有し、少なくとも一つの赤外線反射層は赤外線吸収層の表面に設置され、均一に分布した複数の複合酸化チタン粒子を含有する」という技術的手段により、赤外線反射・赤外線吸収の二つの機能を有し、並びに高い光透過率及び低いヘイズ度などの光学的特性を兼有することによって、高い遮熱性及び十分な可視性に対する遮熱製品の応用需要を満たす。試験結果から、赤外線遮蔽フィルムの可視光透過率は88%に達することができ、赤外線遮蔽フィルムのヘイズ度は少なくとも2%未満であり、0.05%まで低減することができ、赤外線カット率は少なくとも90%であり、99%に達することができることが分かった。
【0044】
従来技術は、複合酸化タングステン粒子・酸化チタン粒子を重合原料(例えば、ジカルボン酸及びグリコール)に混入して造粒し、形成されたポリエステルペレットを溶融押出して成膜するが、本発明の赤外線遮蔽フィルムの製造方法は、従来技術とは異なり、溶融押出の段階において、複合酸化タングステン粒子・酸化チタン粒子をスラリーとして熱溶融層に添加して分散させ、それによって熱履歴を効果的に減少させることができる。
【0045】
本発明の赤外線遮蔽フィルムは、強い太陽照射において、室内温度に対する外部環境の影響を減少させ、電力を節約し、二酸化炭素排出を減少させることに大きく寄与する。さらに、本発明に係る赤外線遮蔽フィルムは施工しやすい及びリワークしやすい利点を兼有する。
【0046】
以上に開示される内容は、好ましい本発明の実施形態に過ぎず、発明の範囲を限定することを意図していない。そのため、本発明の明細書及び図面でなされた均等的な技術的変形は、全て本発明の請求の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0047】
1:赤外線吸収層
11:第1の表面
12:第2の表面
2、2a、2b:赤外線反射層
3:キャリア層
4:接合層
5:一時的コート層
P1:複合酸化タングステン粒子
P2:酸化チタン粒子
Z:赤外線遮蔽フィルム
図1
図2
図3
図4
図5