(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】コンパウンド樹脂及び人体模型
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20220428BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20220428BHJP
C08K 3/014 20180101ALI20220428BHJP
G09B 23/28 20060101ALI20220428BHJP
G09B 23/30 20060101ALI20220428BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L91/00
C08K3/014
G09B23/28
G09B23/30
G09B19/00 Z
(21)【出願番号】P 2020213001
(22)【出願日】2020-12-22
(62)【分割の表示】P 2018553016の分割
【原出願日】2017-11-28
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2016230268
(32)【優先日】2016-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 勝
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-323553(JP,A)
【文献】特開2004-323552(JP,A)
【文献】特開2004-323598(JP,A)
【文献】「デコルテ・フェイスエステ練習用マネキン」,2015年08月09日,online, URL:https://web.archive.org/web/20150809011807/http://www.kiraribeauty.jp/manekin-f/mf03.html
【文献】「シリコンパッド(2個セット(専用カバー4枚セット))」,2016年10月21日,online, URL:https://web.archive.org/web/20161021135716/https://www.cecile.co.jp/detail/BT-16/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/02
C08L 91/00
C08K 3/014
G09B 23/28
G09B 23/30
G09B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(B)とを有し、少なくとも1つの末端が該重合体ブロック(A)で構成されているブロック共重合体(X’)の水素添加物である水添ブロック共重合体(X)と、40℃における動粘度が25mm
2/s以下のオイル(Y)と
、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、及び結晶核剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤とからなる人体模型成型用コンパウンド樹脂であって、該水添ブロック共重合体(X)100質量部に対する該オイル(Y)の含有量が450~1500質量部であり(但し、20℃で液体である炭素数8~22の脂肪酸トリグリセリドの含有量が60~1000質量部である場合を除く)、成型後において25℃における比重が0.85~1.05である、人体模型成型用コンパウンド樹脂。
【請求項2】
前記芳香族ビニル化合物がスチレンである、請求項1に記載のコンパウンド樹脂。
【請求項3】
前記共役ジエン化合物がブタジエン及びイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のコンパウンド樹脂。
【請求項4】
前記オイル(Y)がパラフィン系プロセスオイルである、請求項1~3のいずれか1項に記載のコンパウンド樹脂。
【請求項5】
前記添加剤
として、紫外線吸収剤を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のコンパウンド樹脂。
【請求項6】
前記コンパウンド樹脂の25℃における比重が、0.85~1.05である、請求項1~5のいずれか1項に記載のコンパウンド樹脂。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のコンパウンド樹脂を用い、25℃における比重が0.85~1.05である人体模型。
【請求項8】
前記コンパウンド樹脂を用い、皮膚、脂肪、臓器、筋肉、及び血管からなる群から選ばれる少なくとも1つの部位を含む、請求項7に記載の人体模型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパウンド樹脂及びこれを含む人体模型に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、各種緩衝材、制振材シーリング材、グリップ類、粘着剤、玩具などに成形されて利用されている。さらに近年、熱可塑性エラストマーの質感を利用して、熱可塑性エラストマーを医療用ファントムや医療用シミュレータなどに搭載する内蔵模型や人体模型に用いることが検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、所定の構造を有するリビングポリマーとカップリング剤とを反応させて得られるブロック共重合体を水素添加(以下、水添と略称することがある)し得られる水添ブロック共重合体、及び、該水添ブロック共重合体と非芳香族系ゴム用軟化剤とを含み、流動性、圧縮永久ひずみ性、柔軟性、耐候性に優れる熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。また、熱可塑性エラストマー組成物の用途として医療用途、試験用人工皮膚等が挙げられている。
特許文献2には、ウレタンからなる人体模型であって、乳房及び臀部など、人体において他の部分よりも比較的柔らかい部分に低反発ウレタンを用い、前記以外の部分に硬質ウレタンを用いて、実際の人体において柔らかい部分の質感を人体に近いものとした人体模型が開示されている。さらに、人体模型として、マネキン人形、医療用(触診や看護)の訓練用の人体模型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/024382号
【文献】特開2015-112270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例においては、熱可塑性エラストマー組成物を柔らかくするために、非芳香族系ゴム用軟化剤として高粘度のオイル(PW-32)を使用している。しかしながら当該組成物は、混錬後にベタツキ感が生じる上に硬い組成物となるため人肌のような質感を得にくく、人体模型に使用する場合には質感の向上が望まれる。また前記オイルは熱可塑性エラストマーに対する配合比率を高めるにつれて均一に混錬しにくくなり、熱可塑性エラストマーの分散性の悪い樹脂となる。
【0006】
特許文献2に記載のウレタンからなる人体模型は、実際の人体に近い質感であり、皮膚が形成されたような質感があることが記載されている。しかしながらポリウレタンの比重は1.2であり、人体又は臓器の比重に比べて高いため、人体及び臓器の実際の重量感が再現できない。
また、医療行為及び診療行為などの練習台として人体模型を使用する場合において、繰り返し人体模型を使用することから、耐久性を向上する要求も高まっている。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、比重が人体に近く、人肌や内臓に近い質感を有し、さらに高い耐久性を有する、人体模型の製造に適したコンパウンド樹脂、及び人体模型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、所定の構成の水添ブロック共重合体に対し、所定のオイルを所定量配合したコンパウンド樹脂とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
本発明は、下記[1]~[8]に関する。
[1]芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(B)とを有し、少なくとも1つの末端が該重合体ブロック(A)で構成されているブロック共重合体(X’)の水素添加物である水添ブロック共重合体(X)と、40℃における動粘度が25mm2/s以下のオイル(Y)とを含有し、該水添ブロック共重合体(X)100質量部に対する該オイル(Y)の含有量が450~1500質量部である、コンパウンド樹脂。
[2]前記芳香族ビニル化合物がスチレンである、上記[1]に記載のコンパウンド樹脂。
[3]前記共役ジエン化合物がブタジエン及びイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]又は[2]に記載のコンパウンド樹脂。
[4]前記オイル(Y)がパラフィン系プロセスオイルである、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のコンパウンド樹脂。
[5]さらに紫外線吸収剤を含有する、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のコンパウンド樹脂。
[6]上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のコンパウンド樹脂を含む人体模型。
[7]前記コンパウンド樹脂により構成された、皮膚、脂肪、臓器、筋肉、及び血管からなる群から選ばれる少なくとも1つの部位を含む、上記[6]に記載の人体模型。
[8]医療用ファントム用途又は医療用シミュレータ用途である、上記[6]又は[7]に記載の人体模型。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンパウンド樹脂は比重が人体に近く、人肌や内臓に近い質感を有し、さらに高い耐久性を有するため、人体模型への用途展開、特に医療用ファントム用途又は医療用シミュレータに搭載する擬似生体素材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[コンパウンド樹脂]
本発明のコンパウンド樹脂は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(B)とを有し、少なくとも1つの末端が該重合体ブロック(A)で構成されているブロック共重合体(X’)の水素添加物である水添ブロック共重合体(X)と、40℃における動粘度が25mm2/s以下のオイル(Y)とを含有し、該水添ブロック共重合体(X)100質量部に対する該オイル(Y)の含有量が450~1500質量部である。
本発明のコンパウンド樹脂は上記所定の水添ブロック共重合体(X)を含有することで優れた伸縮性と耐久性とを発現する。また水添ブロック共重合体(X)に対し所定量のオイル(Y)を含有することで、当該コンパウンド樹脂の比重が人体の比重(約1.0)に近くなり、かつ、人肌や内臓に近い質感を得ることができる。そのため本発明のコンパウンド樹脂を含む人体模型では、実際の人体の比重及び質感の両方を忠実に再現できる。
またオイル(Y)の含有量を水添ブロック共重合体(X)100質量部に対し450~1500質量部の範囲としてコンパウンド樹脂の質感を制御することができるので、本発明のコンパウンド樹脂により、人体の外皮のように硬さのある質感から、小腸、大腸のような高伸縮性かつ軟質な質感までを再現することができる。
【0012】
<水添ブロック共重合体(X)>
本発明に用いる水添ブロック共重合体(X)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(B)とを有し、少なくとも1つの末端が該重合体ブロック(A)で構成されているブロック共重合体(X’)の水素添加物である水添ブロック共重合体である。本発明のコンパウンド樹脂は上記特定の水添ブロック共重合体(X)を含有することで、伸縮性と耐久性とを備えた、エラストマー特性を有するコンパウンド樹脂となる。以下、ブロック共重合体(X’)を構成する重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)について順に説明する。
【0013】
(重合体ブロック(A))
重合体ブロック(A)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主体とする。ここで言う「主体とする」とは、重合体ブロック(A)の合計質量に基づいて芳香族ビニル化合物由来の構造単位を50質量%以上含むことをいう。該重合体ブロック(A)中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量は、得られるコンパウンド樹脂の透明性及び機械的強度の観点から、重合体ブロック(A)の合計質量に基づいて、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。上限は100質量%である。
上記芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-、m-又はp-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。
中でも、製造コストと物性バランスの観点から、スチレン及びα-メチルスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0014】
但し、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(A)は芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体由来の構造単位を含有していてもよい。該他の不飽和単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、イソブチレン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、及び2-メチレンテトラヒドロフランから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。重合体ブロック(A)が該他の不飽和単量体単位を含有する場合の結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
重合体ブロック(A)中の芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体由来の構造単位の含有量は、重合体ブロック(A)の合計質量に基づいて、通常は好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0015】
重合体ブロック(A)の数平均分子量は特に制限されないが、好ましくは2,500~100,000であり、より好ましくは5,000~50,000、さらに好ましくは5,000~40,000である。上記数平均分子量は、重合体ブロック1つあたりの数平均分子量である。なお、本明細書に記載の「数平均分子量」は全て、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0016】
また、ブロック重合体(X’)における重合体ブロック(A)の含有量は、引張特性及び柔軟性の観点から、5~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましく、15~35質量%であることがさらに好ましい。ブロック重合体(X’)における重合体ブロック(A)の含有量は、1H-NMRスペクトルにより求めた値である。またブロック重合体(X’)が重合体ブロック(A)を複数有する場合、上記「重合体ブロック(A)の含有量」とは、複数の重合体ブロック(A)の合計含有量である。
【0017】
(重合体ブロック(B))
重合体ブロック(B)は、共役ジエン化合物由来の構造単位を主体とする。ここで言う「主体とする」とは、重合体ブロック(B)の合計質量に基づいて共役ジエン化合物に由来する構造単位を50質量%以上含むことをいう。該重合体ブロック(B)中の共役ジエン化合物に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロック(B)の合計質量に基づいて、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。上限は100質量%である。
重合体ブロック(B)を構成する共役ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。中でも、ブタジエン及びイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ブタジエン及びイソプレンの混合物であることがより好ましい。重合体ブロック(B)を構成する共役ジエン化合物がブタジエン及びイソプレンの混合物である場合、その混合比率には特に制限はないが、好ましくはブタジエンとイソプレンとのモル比が1/99~99/1、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは30/70~70/30の範囲である。
また、重合体ブロック(B)が2種以上の共役ジエン化合物(例えば、ブタジエンとイソプレン)に由来する構造単位から構成されている場合は、それらの結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー、完全交互、一部ブロック状、ブロック、又はそれらの2種以上の組合せからなることができる。
【0018】
重合体ブロック(B)の数平均分子量は特に制限されないが、得られるコンパウンド樹脂の柔軟性の観点から、好ましくは10,000~300,000であり、より好ましくは20,000~270,000、さらに好ましくは40,000~240,000である。上記数平均分子量は、重合体ブロック1つあたりの数平均分子量である。
重合体ブロック(B)においては、ビニル結合構造単位(例えば、ブタジエン単量体の場合は1,2-結合構造単位であり、イソプレン単量体の場合は1,2-結合構造単位と3,4-結合構造単位の合計)の含有量が好ましくは50モル%以下である。ビニル結合構造単位の含有量は、0~30モル%であるのがより好ましく、0~20モル%であるのがさらに好ましく、0~10モル%であるのがよりさらに好ましい。
【0019】
さらに、重合体ブロック(B)は、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。該他の重合性の単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン及びビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N-ビニルカルバゾール、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン等から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。重合体ブロック(B)が共役ジエン化合物以外の他の重合体の単量体に由来する構造単位を含有する場合、その結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
重合体ブロック(B)中の共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロック(B)の合計質量に基づいて、通常は好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0020】
ブロック重合体(X’)における重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。上限は100質量%である。
【0021】
(重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の結合様式)
水添ブロック共重合体(X)は重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とを有し、少なくとも1つの末端が重合体ブロック(A)で構成されているブロック共重合体(X’)の水素添加物である。ブロック共重合体(X’)の少なくとも1つの末端が重合体ブロック(A)で構成されていると、ブロック共重合体(X’)の水素添加物である水添ブロック共重合体(X)を用いて得られるコンパウンド樹脂は引張強度等の機械的強度が高くなり、人肌や内臓などの質感を忠実に再現することができる。上記効果を得る観点からは、ブロック共重合体(X’)のすべての末端が重合体ブロック(A)で構成されていることがより好ましい。例えばブロック共重合体(X’)が直鎖状のブロック重合体である場合、その両末端が重合体ブロック(A)で構成されていることがより好ましい。
前記ブロック共重合体(X’)の末端が前記重合体ブロック(B)のみで構成されている場合、得られる水添ブロック共重合体は後述するオイル(Y)とのなじみが悪く、コンパウンド樹脂の機械的強度が十分に発現しないため質感が低下する傾向がある。
【0022】
ブロック重合体(X’)においては、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とが上記態様で結合している限り、その結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はこれらの2つ以上が組み合わさった結合様式のいずれでもよい。中でも、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の結合形式は直鎖状であることが好ましく、その例としては重合体ブロック(A)をAで、また重合体ブロック(B)をBで表したときに、A-B-Aで示されるトリブロック共重合体、A-B-A-Bで示されるテトラブロック共重合体、A-B-A-B-Aで示されるペンタブロック共重合体、(A-B)nZ型共重合体(Zはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)等を挙げることができる。中でも、トリブロック共重合体(A-B-A)が、ブロック共重合体の製造の容易性、柔軟性等の点から好ましく用いられる。
ここで、本明細書においては、同種の重合体ブロックが二官能のカップリング剤等を介して直線状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は一つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、上記例示も含め、本来厳密にはQ-Z-Q(Zはカップリング残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、特に単独の重合体ブロックQと区別する必要がある場合を除き、全体としてQと表示される。本明細書においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱うので、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはA-B-Z-B-A(Zはカップリング残基を表す)と表記されるべきブロック共重合体はA-B-Aと表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
また、ブロック共重合体(X’)には、本発明の目的を損なわない範囲内で、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)以外の、他の重合性単量体からなる重合体ブロック(C)が存在していてもよい。この場合、重合体ブロック(C)をCで表したとき、ブロック共重合体(X’)の構造としては、A-B-C型トリブロック共重合体、A-B-C-A型テトラブロック共重合体、A-B-A-C型テトラブロック共重合体等が挙げられる。
【0023】
本発明のコンパウンド樹脂に用いる水添ブロック共重合体(X)は、前記ブロック共重合体(X’)の水素添加物である。耐熱性及び耐候性の観点から、水添ブロック共重合体(X)においては、ブロック共重合体(X’)中の重合体ブロック(B)が有する炭素-炭素二重結合の80モル%以上が水素添加されたものであることが好ましく、90モル%以上が水添されたものであることがより好ましい。なお、上記の水素添加率は、重合体ブロック(B)中の共役ジエン化合物に由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後において、1H-NMRスペクトルを用いて算出した値である。
【0024】
水添ブロック共重合体(X)の数平均分子量は、好ましくは20,000~600,000であり、35,000~400,000であるのがより好ましく、40,000~300,000であるのがさらに好ましい。水添ブロック共重合体(X)の数平均分子量が20,000以上であれば、得られるコンパウンド樹脂の耐熱性が良好であり、一方、500,000以下であればコンパウンド樹脂の成形加工性が良好である。
【0025】
水添ブロック共重合体(X)は、温度30℃における5質量%トルエン溶液の粘度が好ましくは1,000mPa・s以下であり、より好ましくは5~800mPa・s、さらに好ましくは10~500mPa・sの範囲である。また、温度30℃における10質量%トルエン溶液の粘度が好ましくは50,000mPa・s以下であり、より好ましくは20~25,000mPa・s、さらに好ましくは10~10,000mPa・sの範囲である。
水添ブロック共重合体(X)は、温度30℃における5質量%トルエン溶液の粘度が1,000mPa・s以下であれば、又は温度30℃における10質量%トルエン溶液の粘度が50,000mPa・s以下であれば、得られるコンパウンド樹脂の成形加工性が良好である。
【0026】
水添ブロック共重合体(X)は、本発明の目的及び効果を損なわない限り、分子鎖中及び/又は分子末端に、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基等の官能基を1種以上有していてもよい。
【0027】
水添ブロック共重合体(X)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。水添ブロック共重合体(X)を2種以上併用すると、得られるコンパウンド樹脂の粘度を調節できるため、成形加工性等を向上させることができる点で好ましい。
なお、水添ブロック共重合体(X)として市販のブロック共重合体を用いることができる。例えば、株式会社クラレ製の「セプトン1001」、「セプトン1020」、「セプトン2002」、「セプトン2004」、「セプトン2005」、「セプトン2006」、「セプトン2063」、「セプトン2104」、「セプトン4033」、「セプトン4055」、「セプトン4077」、「セプトン4099」、「セプトンHG252」、「セプトン8004」、「セプトン8006」、「セプトン8007」、「セプトン8076」(いずれも商品名)が好ましいものとして挙げられる。
【0028】
(水添ブロック共重合体(X)の製造方法)
水添ブロック共重合体(X)の水素添加前のブロック共重合体(X’)は、溶液重合法、乳化重合法又は固相重合法等により製造することができる。中でも溶液重合法が好ましく、例えば、アニオン重合やカチオン重合等のイオン重合法、ラジカル重合法等の公知の方法を適用できる。中でも、アニオン重合法が好ましい。アニオン重合法を用いた水添ブロック共重合体(X)の製造では、例えば、溶媒、アニオン重合開始剤、及び必要に応じてルイス塩基の存在下、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を逐次添加して、ブロック共重合体(X’)を得、次いでブロック共重合体(X’)を水素添加することにより、水添ブロック共重合体(X)を得ることができる。
【0029】
上記方法において重合開始剤として用いられる有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、ペンチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム等のモノリチウム化合物及びテトラエチレンジリチウム等のジリチウム化合物等が挙げられる。
溶媒としては、アニオン重合反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ペンタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。また、重合反応は、通常、0~100℃で0.5~50時間行う。
ルイス塩基は共役ジエン化合物由来の構造単位におけるミクロ構造を制御する役割がある。かかるルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ピリジン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、N-メチルモルフォリン等が挙げられる。ルイス塩基は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記した方法により重合を行った後、アルコール類、カルボン酸類、水等の活性水素化合物を添加して重合反応を停止させ、公知の方法にしたがって不活性有機溶媒中で水添触媒の存在下に水添して、水素添加物である水添ブロック共重合体(X)とすることができる。前述の通り、本発明においては、ブロック共重合体(X’)における前記重合体ブロック(B)が有する炭素-炭素二重結合の80モル%以上が水素添加された水添ブロック共重合体(X)が好ましい。
【0031】
水添反応は、水添触媒の存在下に、反応温度20~100℃、水素圧力0.1~10MPaの条件下で行うことができる。
水添触媒としては、例えば、ラネーニッケル;白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)等の金属をカーボン、アルミナ、硅藻土等の担体に担持させた不均一触媒;ニッケル、コバルト等の第8族の金属からなる有機金属化合物とトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物又は有機リチウム化合物等の組み合わせからなるチーグラー系の触媒;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の遷移金属のビス(シクロペンタジエニル)化合物とリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛又はマグネシウム等の有機金属化合物の組み合わせからなるメタロセン系触媒等が挙げられる。
【0032】
このようにして得られた水添ブロック共重合体(X)は、重合反応液をメタノールなどに注ぐことにより凝固させた後、加熱又は減圧乾燥させるか、重合反応液を沸騰水中に注ぎ、溶媒を共沸させて除去するいわゆるスチームストリッピングを施した後、加熱又は減圧乾燥することにより取得することができる。
【0033】
<オイル(Y)>
本発明のコンパウンド樹脂は、40℃における動粘度が25mm2/s以下のオイル(Y)(以下、単に「オイル(Y)」ともいう)を含有する。オイル(Y)の40℃における動粘度が25mm2/s以下であることにより、これを配合して得られるコンパウンド樹脂はベタツキ感がなく人肌に近い質感を有し、さらに引張応力を与えても破断し難く、形状戻り性も良好で高い耐久性を有する。当該動粘度が25mm2/sを超えるオイルを用いた場合、得られるコンパウンド樹脂は人肌に近い質感が得られず、耐久性も低下する。
上記効果を得る観点から、オイル(Y)の40℃における動粘度は好ましくは20mm2/s以下、より好ましくは15mm2/s以下、さらに好ましくは12mm2/s以下である。オイル(Y)の40℃における動粘度の下限は特に制限はないが、好ましくは0.1mm2/s以上である。
オイルの40℃における動粘度はJIS K8803:2011に準拠した方法で測定できる。
【0034】
オイル(Y)としては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等の鉱物油;落花生油、ロジン等の植物油;アロマ系オイル;リン酸エステル;低分子量ポリエチレングリコール;流動パラフィン;低分子量エチレン、エチレン-α-オレフィン共重合オリゴマー、液状ポリブテン、液状ポリイソプレン又はその水素添加物、液状ポリブタジエン又はその水素添加物等の合成油;等が挙げられる。これらの中でも、水添ブロック共重合体(X)との相溶性の点からはパラフィン系プロセスオイル及びナフテン系プロセスオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、パラフィン系プロセスオイルがより好ましい。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明のコンパウンド樹脂におけるオイル(Y)の含有量は、水添ブロック共重合体(X)100質量部に対して450~1500質量部である。コンパウンド樹脂中の水添ブロック共重合体(X)100質量部に対するオイル(Y)の含有量が450質量部未満の場合には人肌に近い質感が得られず、またコンパウンド樹脂成形品を伸長した後の形状戻り性に劣る。またオイル(Y)の含有量が1500質量部を超えると、コンパウンド樹脂成形品の引張耐久性が低下する。また成形性も低下することがある。
上記観点から、コンパウンド樹脂におけるオイル(Y)の含有量は、水添ブロック共重合体(X)100質量部に対して、好ましくは450~1200質量部、より好ましくは500~1100質量部、さらに好ましくは600~1000質量部、よりさらに好ましくは700~1000質量部である。
【0036】
また、本発明のコンパウンド樹脂における水添ブロック共重合体(X)とオイル(Y)との合計含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上である。当該合計含有量が60質量%以上であれば本発明の効果を有効に発現することができ、得られるコンパウンド樹脂の成形性も良好である。当該合計含有量の上限は100質量%である。
【0037】
<その他の成分>
本発明のコンパウンド樹脂は、前記水添ブロック共重合体(X)、オイル(Y)以外に、本発明の効果が損なわれない範囲において、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、結晶核剤等の添加剤;水添クマロン・インデン樹脂、水添ロジン系樹脂、水添テルペン樹脂、脂環族系水添石油樹脂等の水添系樹脂;オレフィン及びジオレフィン重合体からなる脂肪族系樹脂等の粘着付与樹脂;水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン、水添スチレン-ブタジエンランダム共重合体、水添スチレン-イソプレンランダム共重合体、ブチルゴム、ポリイソブチレン、ポリブテン等の他の重合体を含有していてもよい。
上記の中でも、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、着色剤、及び充填材からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有させることが好ましい。また本発明のコンパウンド樹脂は、人体模型に用いる観点からは少なくとも紫外線吸収剤、老化防止剤、及び着色剤を含有することが好ましい。
【0038】
成形品の紫外線劣化を防止するために、本発明のコンパウンド樹脂に紫外線吸収剤を含有させることができる。
紫外線吸収剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニルサリシレート、p-t-ブチルフェニルサリシレート、p-オクチルフェニルサリシレート等のサリチル酸系紫外線吸収剤;2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、ビス(2-メトキシ-4-ヒドロキシ-5-ベンゾイルフェニル)メタン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2-メチレンビス〔4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール〕、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス〔4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-〔(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール〕〕等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、〔2,2’-チオビス(4-t-オクチルフェノラート)〕-n-ブチルアミンニッケル、ニッケルコンプレックス-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル-リン酸モノエチレート、ニッケル-ジブチルジチオカルバメート等のニッケル系紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
紫外線吸収剤の添加量は、コンパウンド樹脂中、通常0.1~10質量%、好ましくは0.2~5質量%の範囲である。
【0039】
光安定剤としては特に限定されるものではないが、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、SanolLS-770(三共(株)製)、アデカスタブLA-77((株)ADEKA製)、スミソープ577(住友化学工業(株)製)、バイオソーブ04(共同薬品(株)製)、Chimassorb944LD(BASF社製)、Tinuvin144(BASF社製)、アデカスタブLA-52、アデカスタブLA-57、アデカスタブLA-67、アデカスタブLA-68、アデカスタブLA-77、アデカスタブLA-87(以上(株)ADEKA製)、GoodriteUV-3034(グッドリッチ(Goodrich)社製)等のヒンダードアミン系光安定剤(HALS)等が挙げられる。
これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
光安定剤の添加量は、コンパウンド樹脂中、通常0.1~5質量%、好ましくは0.2~3質量%の範囲である。
【0040】
老化防止剤としては特に限定されるものではないが、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系老化防止剤;2,2-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-〔β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のビスフェノール系老化防止剤;1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ビス〔3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、トコフェロール類等の高分子型フェノール系老化防止剤;ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート等の硫黄系老化防止剤;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等のリン系老化防止剤;ジエチル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、エチル ジ(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェフィン等のフェノールリン系老化防止剤が挙げられる。
また、その他の老化防止剤として、ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、1-(N-フェニルアミノ)-ナフタレン、スチレン化ジフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、サンノック(大内新興化学(株)製)、サンタイト(精工化学(株)製)、オゾガードG(川口化学(株)製)等が挙げられる。
これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、老化防止剤としてはフェノールリン系老化防止剤が好ましい。
老化防止剤の添加量は、コンパウンド樹脂中、通常0.1~10質量%、好ましくは0.5~5質量%の範囲である。
【0041】
着色剤としては、顔料及び染料等を用途及び着色目的に応じて適宜選択することができるが、耐候性の観点からは顔料が好ましい。顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれも用いることができる。
本発明のコンパウンド樹脂を人体模型に使用する場合は、例えば、肌色の顔料を含有させることができる。
着色剤の添加量は、コンパウンド樹脂中、通常0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%の範囲であり、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
充填材としては特に限定されるものではないが、例えば、木粉、パルプ、木綿チップ、アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、クルミ殻粉、もみ殻粉、グラファイト、ケイソウ土、白土、シリカ(ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、ドロマイト、無水ケイ酸、含水ケイ酸等)、カーボンブラック等の補強性充填材;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、べんがら、アルミニウム微粉末、フリント粉末、酸化亜鉛、活性亜鉛華、亜鉛末、炭酸亜鉛及びシラスバルーン等の充填材;石綿、ガラス繊維及びガラスフィラメント、炭素繊維、ケブラー繊維、ポリエチレンファイバー等の繊維状充填材等が挙げられる。上記の中でも、炭酸カルシウムが好ましい。
これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
充填材の添加量は、コンパウンド樹脂中、通常0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%の範囲である。
【0043】
本発明のコンパウンド樹脂の25℃における比重は、人体に近い重量感を有する人体模型を得る観点から、好ましくは0.85~1.05であり、より好ましくは0.85~1.00、さらに好ましくは0.85~0.95の範囲である。コンパウンド樹脂の比重はJIS Z8807:2012に準拠した方法で測定できる。
【0044】
<コンパウンド樹脂の製造方法>
本発明のコンパウンド樹脂の製造方法は特に制限されず、上記した水添ブロック共重合体(X)、オイル(Y)、及び必要に応じ添加剤を、ミキシングロール、ニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、一軸又は二軸押出機等の混練装置を用いて溶融混練することにより行うことができる。混練は一般に100~250℃で行われる。
上記溶融混練を行った後、公知の方法で成形することにより、本発明のコンパウンド樹脂からなる成形体を製造できる。成形方法としては特に制限はなく、製造される成形体の大きさ、形状等に応じて適宜選択することができるが、例えば、射出成形、圧縮成形、注型成形、押出成形、キャスト成形、プレス成形などの成形方法を用いることができる。
【0045】
<用途>
本発明のコンパウンド樹脂は後述する人体模型に対し好適であるが、そのエラストマー特性や耐久性を利用して、その他の用途にも使用することができる。例えば、緩衝材、制振材、シーリング材、粘着材、放熱材、封止材、伸縮材、断熱材、防音材、遮音材、導光材、包装材、シューズ、ジャケット、プロテクター、ヘルメット、義肢、義足、マット、パッド、ベッド、マットレス、枕、車椅子、チャイルドシート、ベビーカー、携帯電話、デジタルカメラ、パソコン、ゲーム機、ナビゲーションシステム、家電、電動工具、産業用機器、ロボット、自動車、船舶、航空機、モーター、発電機、太陽電池、光ファイバーケーブル、光ファイバーコネクター、家具、文具、玩具、シューズ用中敷、窓枠、キャンドル、食品模型など、幅広い分野において有効に使用することができる。
【0046】
[人体模型]
本発明の人体模型は、前述した本発明のコンパウンド樹脂を含むことを特徴とする。当該コンパウンド樹脂は比重が人体に近く、人肌や内臓に近い質感を有し、さらに高い耐久性を有するため、人体模型に好適に用いられる。
本発明の人体模型は当該コンパウンド樹脂からなる人体模型でもよく、その一部が本発明のコンパウンド樹脂により構成された人体模型でもよい。また、本明細書における人体模型は人体の全身に係るものに限られず、人体の一部にかかる模型も包含する。
特に、本発明のコンパウンド樹脂は人肌や内臓に近い質感を有していることから、本発明の人体模型は上記コンパウンド樹脂により構成された、皮膚、脂肪、臓器、筋肉、及び血管からなる群から選ばれる少なくとも1つの部位を含むものであることが好ましい。
人体模型の製造方法には特に制限はなく、例えば、前述の方法で製造したコンパウンド樹脂を、所望の形状を有する鋳型を用いて成形することにより製造できる。
本発明の人体模型は、より人体に近い質感及び重量感を有し、さらに高い耐久性を有していることから、医療用ファントム用途又は医療用シミュレータ用途の人体模型として好適である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、実施例及び比較例中の各物性は、以下の方法により測定又は評価した。
【0048】
<水素添加率、スチレン由来の構造単位の含有量>
1H-NMR測定によって求めた。
・装置:核磁気共鳴装置「Lambda-500」(日本電子株式会社製)
・溶媒:重水素化クロロホルム
【0049】
<オイルの粘度(40℃)>
JIS K8803:2011に準拠した方法で、40℃におけるオイルの動粘度(mm2/s)を測定した。
【0050】
<比重>
各例で得られたコンパウンド樹脂の比重は、JIS Z8807:2012に準拠した方法で25℃において測定した。
【0051】
<成形性>
各例で得られたコンパウンド樹脂の射出成形シート(横×縦×厚みが100mm×30mm×1mm)をサンプルとして、横×縦のサンプル表面を観察して、クレーターの有無で評価した。
成形性の判定基準は下記である。
◎:クレーター無し(表面が綺麗)
○:クレーター1~3か所
△:クレーター4か所以上
【0052】
<引張耐久試験>
各例で得られたコンパウンド樹脂の射出成形シート(横×縦×厚みが100mm×30mm×1mm)をサンプルとして使用し、横の長さが200mmになるまで伸長(200%伸長)した後、元のサイズまで戻す操作を1回とし、この操作を100回、300回及び500回繰り返し行った時の、サンプル破断の有無及びサンプルの伸長幅を測定した。評価結果は、3つのサンプルで測定した値の平均値とした。
総合評価の判定基準は下記である。
◎:500回試験後のサンプルの伸長幅が0.1mm以下
○:500回試験後のサンプルの伸長幅が0.1mm超、0.2mm以下
△:500回試験後のサンプルの伸長幅が0.2mm超、0.3mm以下
×:500回試験後のサンプルの伸長幅が0.3mm超
【0053】
<形状戻り試験>
各例で得られたコンパウンド樹脂の射出成形シート(横×縦×厚みが100mm×30mm×1mm)をサンプルとして使用し、横100mmに対して150%(150mm)及び200%(200mm)となるように伸長した状態で48時間放置した後、元のサイズまで戻した時のサンプル幅を測定した。評価結果は、3つのサンプルで測定した値の平均値とした。判定基準は下記である。
○:100mm(元の状態)
△:100mm超105mm以下(伸長幅が5mm以内)
×:105mm超(伸長幅が5mm超)
【0054】
<官能評価>
各例で得られたコンパウンド樹脂の射出成形シート(横×縦×厚みが100mm×30mm×1mm)について、下記3点について官能評価を行った。官能評価は、モニター10人の評価点数を集計し、その平均値を評価結果とした。
評価点数は次の通りである;非常に優れる(5点)、優れる(4点)、普通(3点)、あまりよくない(2点)、よくない(1点)。
(人肌感)
上記射出成形シートを指で押した反発力が人肌に近いか評価した。
(外観)
肌色の顔料を練り込んだ上記シートに対して、発色のよさを評価した。
(伸び)
上記シートを200%まで引っ張り、伸びやすさを評価した。
上記の中でも「人肌感」の評価が重要である。人肌感の評価については、4.0点以上を合格点とする。
【0055】
[実施例で使用したコンパウンド樹脂原料]
以下に、各例で用いた各成分の詳細を示す。
〔水添ブロック共重合体(X)〕
セプトン4055(商品名)、株式会社クラレ製、ポリスチレン-ポリ(1,3-ブタジエン/イソプレン)-ポリスチレン[スチレン由来の重合体ブロック含有量:30質量%]の水素添加物である水添トリブロック共重合体、5質量%トルエン溶液粘度(30℃):90mPa・s
セプトン4033(商品名)、株式会社クラレ製、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン[スチレン由来の重合体ブロック含有量:30質量%]の水素添加物である水添トリブロック共重合体、10質量%トルエン溶液粘度(30℃):50mPa・s
セプトン4077(商品名)、株式会社クラレ製、ポリスチレン-ポリ(1,3-ブタジエン/イソプレン)-ポリスチレン[スチレン由来の重合体ブロック含有量:30質量%]の水素添加物である水添トリブロック共重合体、5質量%トルエン溶液粘度(30℃):300mPa・s
セプトン4099(商品名)、株式会社クラレ製、ポリスチレン-ポリ(1,3-ブタジエン/イソプレン)-ポリスチレン[スチレン由来の重合体ブロック含有量:30質量%]の水素添加物である水添トリブロック共重合体、5質量%トルエン溶液粘度(30℃):670mPa・s
【0056】
〔オイル(Y)〕
CARNATION(商品名)、sonneborn社製、パラフィン系プロセスオイル、動粘度(40℃):11mm2/s
KF-50(商品名)、SEOJIN CHEMICAL社製、パラフィン系プロセスオイル、動粘度(40℃):7.5mm2/s
PW-32(商品名)、出光興産株式会社製、パラフィン系プロセスオイル、動粘度(40℃):30mm2/s
PW-90(商品名)、出光興産株式会社製、パラフィン系プロセスオイル、動粘度(40℃):90mm2/s
【0057】
実施例1(コンパウンド樹脂及びその成形品の製造)
二軸押出機(口径46mm、L/D=46)を使用して、表1に示す配合の水添ブロック共重合体(X)及びオイル(Y)、並びに、添加剤として紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、充填剤(炭酸カルシウム)、顔料を混合して、200℃で溶融混練し、コンパウンド樹脂を得た。添加剤の合計量はコンパウンド樹脂の10質量%とした。
このコンパウンド樹脂を用いて、射出成形機(200℃)で、横×縦×厚みが100mm×30mm×1mmとなるように金型で成形し、射出成形シートを作製した。
作製したシートを用いて、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
実施例2~13、比較例1~6
水添ブロック共重合体(X)及びオイル(Y)の配合を表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でコンパウンド樹脂及び射出成形シートを作製し、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
比較例7
旭化成ワッカーシリコン株式会社製のシリコーン樹脂を、横×縦×厚みが100mm×30mm×1mmとなるように金型で成形し、射出成形シートを作製した。作製したシートを用いて、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
比較例8
エッチ・アンド・ケー株式会社製のウレタン樹脂を横×縦×厚みが100mm×30mm×1mmとなるように金型で成形し、射出成形シートを作製した。作製したシートを用いて、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
比較例9
株式会社コバヤシ製の軟質塩化ビニル樹脂を横×縦×厚みが100mm×30mm×1mmとなるように金型で成形し、射出成形シートを作製した。作製したシートを用いて、前記評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
表1に示すように、本発明のコンパウンド樹脂からなる成形品(シート)は引張耐久性が高く、伸長後の形状戻り性も良好であり、質感や外観が人肌と近い(実施例1~13)。特に、従来人体模型に用いられているシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、軟質塩化ビニル樹脂(比較例7~9)と比較するとその効果は顕著である。比較例7~9の樹脂は比重が人肌よりも遥かに高く、官能評価においても低い結果となった。
水添ブロック共重合体(X)100質量部に対するオイル(Y)の含有量が450質量部未満である比較例1では、形状戻り性、人肌感が低下し、オイル(Y)の含有量が1500質量部を超える比較例2では引張耐久性が不十分であった。また、オイルの粘度が高い比較例3~6では引張耐久性、200%伸長後の形状戻り性が低下し、人肌感などの官能評価も実施例より低い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のコンパウンド樹脂は比重が人体に近く、人肌や内臓に近い質感を有し、さらに高い耐久性を有するため、人体模型への用途展開、特に医療用ファントム用途又は医療用シミュレータに搭載する擬似生体素材として有用である。