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  • 特許-再付着防止剤及び洗剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】再付着防止剤及び洗剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 3/37 20060101AFI20220428BHJP
   D06L 1/12 20060101ALI20220428BHJP
   D06M 15/59 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C11D3/37
D06L1/12
D06M15/59
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020511136
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014206
(87)【国際公開番号】W WO2019189837
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2018067483
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 朗理
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532763(JP,A)
【文献】特表平10-502108(JP,A)
【文献】特開平05-148495(JP,A)
【文献】特開平07-011295(JP,A)
【文献】特開平09-087680(JP,A)
【文献】特開2017-048292(JP,A)
【文献】特開平6-298930(JP,A)
【文献】特開平8-176297(JP,A)
【文献】特表平9-506661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
C08L 79/08
D06L 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)で表される多分散度が1.4以上1.70以下であり且つポリアスパラギン酸リチウム、ポリアスパラギン酸カリウム及びポリアスパラギン酸ナトリウムからなる群から選択される固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩からなる再付着防止剤を含む、洗剤組成物。
【請求項2】
pHが6以上9未満である、請求項1に記載の洗剤組成物。
【請求項3】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩がポリアスパラギン酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸カリウム、又はその両方を含む、請求項1又は請求項2に記載の洗剤組成物。
【請求項4】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4以上1.69以下である、請求項1~3のうちいずれか一項に記載の洗剤組成物。
【請求項5】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4~1.63である、請求項1~4のうちいずれか一項に記載の洗剤組成物。
【請求項6】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が16000~120000である、請求項1~5のうちいずれか一項に記載の洗剤組成物。
【請求項7】
さらに界面活性剤を含む、請求項1~6のうちいずれか一項に記載の洗剤組成物。
【請求項8】
衣料用洗剤組成物である、請求項1~7のうちいずれか一項に記載の洗剤組成物。
【請求項9】
重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)で表される多分散度が1.4以上1.70以下であり且つポリアスパラギン酸リチウム、ポリアスパラギン酸カリウム及びポリアスパラギン酸ナトリウムからなる群から選択される固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩からなる、再付着防止剤。
【請求項10】
pHが6以上9未満である洗剤組成物において用いられる、請求項9に記載の再付着防止剤。
【請求項11】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩がポリアスパラギン酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸カリウム、又はその両方を含む、請求項9又は請求項10に記載の再付着防止剤。
【請求項12】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4以上1.69以下である、請求項9~11のうちいずれか一項に記載の再付着防止剤。
【請求項13】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4~1.63である、請求項9~12のうちいずれか一項に記載の再付着防止剤。
【請求項14】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が1000~120000である、請求項9~13のうちいずれか一項に記載の再付着防止剤。
【請求項15】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が4000~80000である、請求項9~14のうちいずれか一項に記載の再付着防止剤。
【請求項16】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が1000~80000である、請求項9~14のうちいずれか一項に記載の再付着防止剤。
【請求項17】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が4000~50000である、請求項9~16のうちいずれか一項に記載の再付着防止剤。
【請求項18】
前記固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が16000~120000である、請求項9~14のうちいずれか一項に記載の再付着防止剤。
【請求項19】
pHが6以上9未満である衣料用洗剤組成物において用いられる、請求項9~18のうちいずれか一項に記載の再付着防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、再付着防止剤及び洗剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルダーは、洗剤中の界面活性剤の性能を改良する任意の成分であって、各々のビルダーは、アルカリ緩衝作用、分散作用、金属封鎖作用などのうち1つ以上の機能を有している。このような洗剤ビルダーとしては、かつてはトリポリリン酸ナトリウムが広く使用されていたが、排水中のリン酸が環境に負荷をかけるため、ゼオライトAなどに代替されてきている。
【0003】
ビルダーに関連する技術として、特開平5-148495号公報は、ポリマー1g当り0モル~5×10-4モルのCOO電荷を有し且つ洗濯槽中でポリマー1g当り少なくとも10-3モルのCOO電荷密度を得ることの出来るアスパラギン酸若しくはグルタミン酸又は前記の酸の先駆物質の重縮合から得られる、ポリイミドバイオポリマーを含む洗剤組成物を記載している。特開平7-11295号公報は、重量平均分子量が5,000~100,000であり、β体含量が50%以上であるポリアスパラギン酸塩を配合することを特徴とする洗剤組成物を記載している。また、特開平9-87680号公報は、(a)分子量1,000以上、かつ生分解率が50%以上であるポリカルボン酸及び/又はその塩と、(b)分子量600以下、かつカルシウムイオン安定度定数pKcaが3.5以上であるポリカルボン酸及び/又はその塩を含有してなるビルダーを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-148495号公報
【文献】特開平7-11295号公報
【文献】特開平9-87680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
再付着防止能はビルダーに関する性能の一つであって、洗浄によって洗浄対象物から一旦除去された汚れが再び洗浄対象物に付かない様にする能力である。再付着防止剤としては、従来、ポリアルキレングリコール系物質やセルロース系物質が用いられてきた。
【0006】
一方、特開平5-148495号公報は、生物分解可能なポリペプチドビルダーを生じることの出来るポリイミドバイオポリマーを含む洗剤組成物を提供することを記載している。特開平7-11295号公報はβ体の含有量が50%以上であるポリアスパラギン酸塩をビルダーとして用いることを記載し、該ポリアスパラギン酸塩を含む洗剤組成物の洗浄力を測定している。しかし、特開平7-11295号公報はポリアスパラギン酸塩の再付着防止能については記載しておらず、ポリアスパラギン酸塩の重量平均分子量と数平均分子量との間の比についても着目していない。特開平9-87680号公報は(a)分子量1,000以上、かつ生分解率が50%以上であるポリカルボン酸及び/又はその塩と、(b)分子量600以下、かつカルシウムイオン安定度定数pKcaが3.5以上であるポリカルボン酸及び/又はその塩を含有してなる洗剤ビルダーを記載しており、分子量1,000以上、かつ生分解率が50%以上であるポリカルボン酸及び/又はその塩の一例としてポリアスパラギン酸を記載している。しかし、特開平9-87680号公報も、上記成分(b)と必ずしも組み合わせない場合のポリアスパラギン酸塩単独での再付着防止能については記載しておらず、ポリアスパラギン酸塩の重量平均分子量と数平均分子量との間の比についても着目していない。
【0007】
本発明者等は、鋭意検討の結果、重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn、以下多分散度ともいう)が特定の範囲の範囲内にあり、且つポリアスパラギン酸リチウム、ポリアスパラギン酸カリウム及びポリアスパラギン酸ナトリウムからなる群から選択されるポリアスパラギン酸アルカリ金属塩が良好な再付着防止能を有することを発見した。この発見に基づいて、本発明の一実施形態においては、優れた再付着防止能を有する新たな再付着防止剤及び洗剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は以下の態様を含む。
<1> 重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)で表される多分散度が1.4以上であり且つポリアスパラギン酸リチウム、ポリアスパラギン酸カリウム及びポリアスパラギン酸ナトリウムからなる群から選択されるポリアスパラギン酸アルカリ金属塩からなる再付着防止剤を含む、洗剤組成物。
<2> pHが6以上9未満である、<1>に記載の洗剤組成物。
<3> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩がポリアスパラギン酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸カリウム、又はその両方を含む、<1>又は<2>に記載の洗剤組成物。
<4> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4以上2.1未満である、<1>~<3>のうちいずれか一つに記載の洗剤組成物。
<5> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4~1.9である、<1>~<4>のうちいずれか一つに記載の洗剤組成物。
<6> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が1000~120000である、<1>~<5>のうちいずれか一つに記載の洗剤組成物。
<7> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が4000~80000である、<1>~<6>のうちいずれか一つに記載の洗剤組成物。
<8> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が1000~80000である、<1>~<7>のうちいずれか一つに記載の洗剤組成物。
<9> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が4000~50000である、<1>~<8>のうちいずれか一つに記載の洗剤組成物。
<10> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩が、固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩である、<1>~<9>のうちいずれか一つに記載の洗剤組成物。
<11> さらに界面活性剤を含む、<1>~<10>のうちいずれか一つに記載の洗剤組成物。
<12> 衣料用洗剤組成物である、<1>~<11>のうちいずれか一つに記載の洗剤組成物。
<13> 重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)で表される多分散度が1.4以上であり且つポリアスパラギン酸リチウム、ポリアスパラギン酸カリウム及びポリアスパラギン酸ナトリウムからなる群から選択されるポリアスパラギン酸アルカリ金属塩からなる、再付着防止剤。
<14> pHが6以上9未満である洗剤組成物において用いられる、<13>に記載の再付着防止剤。
<15> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩がポリアスパラギン酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸カリウム、又はその両方を含む、<13>又は<14>に記載の再付着防止剤。
<16> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4以上2.1未満である、<13>~<15>のうちいずれか一つに記載の再付着防止剤。
<17> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4~1.9である、<13>~<16>のうちいずれか一つに記載の再付着防止剤。
<18> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が1000~120000である、<13>~<17>のうちいずれか一つに記載の再付着防止剤。
<19> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が4000~80000である、<13>~<18>のうちいずれか一つに記載の再付着防止剤。
<20> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が1000~80000である、<13>~<19>のうちいずれか一つに記載の再付着防止剤。
<21> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が4000~50000である、<13>~<20>のうちいずれか一つに記載の再付着防止剤。
<22> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩が、固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩である、<13>~<21>のうちいずれか一つに記載の再付着防止剤。
<23> pHが6以上9未満である衣料用洗剤組成物において用いられる、<13>~<22>のうちいずれか一つに記載の再付着防止剤。
<24> 界面活性剤及び<13>~<23>のうちいずれか一つに記載の再付着防止剤を含む、洗剤組成物。
<25> 重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)で表される多分散度が1.4以上であり且つポリアスパラギン酸リチウム、ポリアスパラギン酸カリウム及びポリアスパラギン酸ナトリウムからなる群から選択されるポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の、洗浄における汚れの再付着防止のための使用。
<26> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩が、pHが6以上9未満である洗剤組成物において用いられる、<25>に記載の使用。
<27> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩がポリアスパラギン酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸カリウム、又はその両方を含む、<25>又は<26>に記載の使用。
<28> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4以上2.1未満である、<25>~<27>のうちいずれか一つに記載の使用。
<29> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4~1.9である、<25>~<28>のうちいずれか一つに記載の使用。
<30> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が1000~120000である、<25>~<29>のうちいずれか一つに記載の使用。
<31> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が4000~80000である、<25>~<30>のうちいずれか一つに記載の使用。
<32> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が1000~80000である、<25>~<31>のうちいずれか一つに記載の使用。
<33> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が4000~50000である、<25>~<32>のうちいずれか一つに記載の使用。
<34> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩が、固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩である、<25>~<33>のうちいずれか一つに記載の使用。
<35> pHが6以上9未満である衣料用洗剤組成物における使用である、<25>~<34>のうちいずれか一つに記載の使用。
<36> 前記洗剤組成物が界面活性剤を含む、<26>又は<35>に記載の使用。
<37> 重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)で表される多分散度が1.4以上であり且つポリアスパラギン酸リチウム、ポリアスパラギン酸カリウム及びポリアスパラギン酸ナトリウムからなる群から選択されるポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を、洗剤組成物に含ませることを含む、洗剤組成物に再付着防止能を付与する方法。
<38> 前記洗剤組成物のpHが6以上9未満である、<37>に記載の方法。
<39> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩がポリアスパラギン酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸カリウム、又はその両方である、<37>又は<38>に記載の方法。
<40> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4以上2.1未満である、<37>~<39>のうちいずれか一つに記載の方法。
<41> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度が1.4~1.9である、<37>~<40>のうちいずれか一つに記載の方法。
<42> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が1000~120000である、<37>~<41>のうちいずれか一つに記載の方法。
<43> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)が4000~80000である、<37>~<42>のうちいずれか一つに記載の方法。
<44> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が1000~80000である、<37>~<43>のうちいずれか一つに記載の方法。
<45> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)が4000~50000である、<37>~<44>のうちいずれか一つに記載の方法。
<46> 前記ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩が、固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩である、<37>~<45>のうちいずれか一つに記載の方法。
<47> 前記洗剤組成物がpHが6以上9未満である衣料用洗剤組成物である、<37>~<46>のうちいずれか一つに記載の方法。
<48> 前記洗剤組成物が界面活性剤を含む、<37>~<47>のうちいずれか一つに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、優れた再付着防止能を有する新たな再付着防止剤及び洗剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ポリアスパラギン酸ナトリウムおよびポリアスパラギン酸カリウムの多分散度(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))と再付着防止能との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
更に、本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。
【0013】
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。本開示において含有成分量を示す「%」は、特に断らない限り質量基準である。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
<再付着防止剤>
本開示に係る再付着防止剤は、重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)で表される多分散度が1.4以上であり且つポリアスパラギン酸リチウム、ポリアスパラギン酸カリウム及びポリアスパラギン酸ナトリウムからなる群から選択されるポリアスパラギン酸アルカリ金属塩(以下、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩とも称する)からなる再付着防止剤(以下、本開示に係る再付着防止剤とも称する)である。
再付着防止剤とは、洗浄によって洗浄対象物から一旦除去された汚れが再び洗浄対象物に付着することを低減する物質である。本開示に係る「再付着防止剤」は、当該用途に用いられるかぎり他の名称で表される剤であってもよく、例えば、再汚染防止剤、分散剤、移染防止剤等の名称で表現される物質を含む概念を表す。再付着防止剤としては、従来、ポリアルキレングリコール系物質やセルロース系物質が一般的に用いられてきたが、本開示においては多分散度(Mw/Mn)が1.4以上のポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を用いることにより高い再付着防止効果を実現することが可能となった。ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩は、ポリアスパラギン酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸カリウム、又はその両方であることが好ましい。
【0015】
(pHの測定方法)
本開示において、洗剤組成物のpHとは、以下のようにして測定したpHを意味する。まず、測定する洗剤組成物(固体でも液体でもよい)を0.1質量%含む水溶液を調製する。該水溶液は、洗剤組成物を終濃度0.1質量%となるように純水に溶解又は希釈させることで得られる。
堀場製作所製のpHメーターD-52のpH電極(型式 9680)をあらかじめフタル酸緩衝液(pH4.01)、リン酸標準液(pH6.86)、ホウ酸塩標準液(pH9.18)で校正し、イオン交換水で十分すすいでおく。温度を30℃に調整した前記水溶液に、上記の通り校正、洗浄したpH電極を入れ、pHメーターのAUTO HOLDモードを用いて、測定値が一定になるまで測定する。本開示において、洗剤組成物のpHとは、30℃で測定する洗剤組成物を含む前記水溶液のpHを意味する。
【0016】
(再付着防止率の測定方法)
再付着防止能は、以下のようなやり方で再付着防止率を測定することによって評価できる。
2.5cm×2.5cmの白色綿布(WFK10A(WFK製))を5枚重ねたものの表面の反射率を1枚ずつ測定し、5枚の白色綿布の表面反射率の平均値を算出した。なお、測定には分光色差計(SE-7700(日本電色工業株式会社製)、光源:C/2(C光源、視野2°)、波長:500nm、直径10mmの見口)を用いた。洗浄前の綿布の表面反射率を測定後、試験用洗剤組成物(表1に記載の成分のうち塩化カルシウム及び酸化鉄以外の物質)、泥汚れモデルとしての着色用酸化鉄(トダカラー100ED(戸田工業株式会社製、BET平均粒径:0.10μm))、及び硬度を調整するための塩化カルシウムを、精製水に添加し、表1に記載の組成を有する分散液200mLを作製した。なお、分散液の成分のうち、カルシウムイオンは一般的に水中に含まれて水に硬度を与える成分である。また、洗剤組成物は適当な酸またはアルカリを適宜添加することで、任意のpHに調整することができる。
【0017】
【表1】
【0018】
その後、前記分散液中に綿布を添加し、30℃で30分間攪拌し、50ppmのCa2+水溶液(138.7ppmのCaCl水溶液)による3分間の攪拌すすぎを2回実施した。得られた綿布を60℃で1時間乾燥し、アイロンでしわを伸ばしたのちに、それぞれの綿布(5枚)の表面の反射率を測定し、その平均値を求めた。試験液での洗浄前後の綿布表面の反射率の平均値から次式により再付着防止率を算出した。
再付着防止率(%)=(洗浄後の綿布表面の反射率の平均値/洗浄前の綿布の反射率の平均値)×100%
【0019】
(多分散度)
本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の分子量の多分散度(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.4以上である。多分散度をこの範囲内の値とすることで、再付着防止能を向上させることができる。ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の分子量の多分散度は1.45以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。また、多分散度は、1.9以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましい。このため、ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の分子量の多分散度は、例えば1.4~1.9であることが好ましい。また、多分散度は、例えば、1.65以下の値であってもよく、また、例えば1.55以上の値であってもよい。上述の多分散度の下限値の値と、上限値の値とは、自由に選択して組み合わせることで多分散度の数値範囲を作ることができる。
【0020】
(分子量測定方法)
なお、本開示において、ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び多分散度(Mw/Mn)は、それぞれ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、測定された値を指す。
解析装置としてLC-Solution(株式会社島津製作所製)、
検出器としてRID-10A(株式会社島津製作所製)、
デガッサーとしてDGU-20A(株式会社島津製作所製)、
ポンプとしてLC-20AD(株式会社島津製作所製)、
オートサンプラーとしてSIL-20A(株式会社島津製作所製)、
送液ユニットとしてCTO-20A(株式会社島津製作所製)、
カラムとしてShodex Asahipak GF-7M HQ×1(昭和電工株式会社製)、
ガードカラムとしてShodex Asahipak GF-1G7B(昭和電工株式会社製)
を用いた。カラムオーブンの温度は45℃とした。標品は、プルラン(Shodex STANDARD P-82(昭和電工株式会社製の標品群キット))であり、そのうちP-5、P-10、P-20、P-50、P-100及びP-200を用いて3次式の検量線を作成した。移動相としては0.1mol/L食塩水を使用した。得られた溶出曲線のうち、ポリマーのメインピークからMw及びMnを算出した。
【0021】
(ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の製法)
ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩は、例えば、特許3384420号公報に記載のように、アスパラギン酸を非水溶性溶媒中200℃~230℃に加熱してポリコハク酸イミドを得ること、及び得られたポリコハク酸イミドをアルカリ金属含有アルカリ水溶液中で加水分解してポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を製造すること、を含む方法によって得てもよい。非水溶性溶媒としては、水と混合したときに分層する溶媒であって沸点が200℃以上の溶媒が使用可能である。例えば、n-パラフィン、流動パラフィン等の飽和炭化水素化合物、シリコーン系オイル、フッ素系オイル等の中で、200℃以上、好ましくは230℃以上の沸点を有し、さらにその25℃での粘度が100cP以下、好ましくは20cP以下の溶媒を使用することができる。アルカリ金属含有アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが使用可能である。
前駆体としてのポリコハク酸イミドは、マレアミド酸を160℃~330℃の温度で加熱して得ることもできる。また、無水マレイン酸を水溶媒中でアンモニア水と反応させ、その後少なくとも170℃の温度に加熱してポリコハク酸イミドを得ることもできる。あるいは、国際公開公報第2011/102293号に記載のように、無水マレイン酸とアンモニアの反応物及びマレアミド酸から選択される少なくとも1種をモノマーとして用いて重合を行ってポリアスパラギン酸前駆体ポリマーを調製すること、及び得られたポリアスパラギン酸前駆体ポリマーを水酸化アルカリ金属塩水溶液で処理してポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を得ること、を含む方法によりポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を製造することもできる。これらの方法を、多分散度が1.4以上となるように条件設定して用いることができる。
【0022】
より具体的には、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩は以下の方法によって得ることができる。すなわち、ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の製造方法Aは、
SUS製のバットに、L-アスパラギン酸を敷き、窒素雰囲気の常圧下において230℃で4時間オーブン内に静置することで、粉体のポリコハク酸イミドを得ること、
得られた粉体のポリコハク酸イミドに蒸留水を加え、溶液の温度が45℃~55℃となるように制御しながら水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を少量ずつ滴下すること、
反応マスが流動性を獲得したところで、pH測定を開始し、pHを測定しながら水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を滴下すること、及び
pH=10~10.5の範囲でpHが変動しなくなった時に滴下を終了すること
を含む。なお、本開示において溶液の濃度を表すのに使用される%は質量%を意味する。
【0023】
ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の製造方法Bは、
2Lフラスコ中に、L-アスパラギン酸、スルホラン、キシレン、及び35%塩酸を仕込み、窒素雰囲気の常圧下において室温で撹拌混合すること、
得られた混合物を113℃で3時間加熱することで造塩させること、
形成された塩をさらに117℃~168℃で47時間共沸脱水及び縮合させることで、固体状反応混合物を得ること、
得られた固体状反応混合物を80℃まで放冷し、アセトニトリルにて晶析及び洗浄を行うこと、
その後、懸濁物を濾取し、70℃、5mmHgで一晩減圧乾燥することで、粉体のポリコハク酸イミドを得ること、
得られたポリコハク酸イミドに蒸留水を加え、溶液の温度が45℃~55℃となるように制御しながら水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を少量ずつ滴下すること、
反応マスが流動性を獲得したところで、pH測定を開始し、pHを測定しながら水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を滴下すること、及び
pH=10~10.5の範囲でpHが変動しなくなった時に滴下を終了すること、
を含む。
なお、ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の製造方法A及びポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の製造方法B並びに後述の実施例の記載においては、最後にpH=10~10.5の範囲でポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を得る記載となっているが、終点pHは10~10.5の範囲に限定されるものではなく、弱アルカリ性以上のアルカリ性pH範囲内であれば任意のpHを終点とすることができる。また、得られたポリアスパラギン酸アルカリ金属塩水溶液のpHを、その後、弱アルカリ性以上のアルカリ性pH範囲内で任意に変更してもよい。つまり、ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩水溶液のpHは、弱アルカリ性以上のアルカリ性pH範囲内であればよい。
上記の方法において、アルカリ金属含有アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などが使用可能である。水酸化ナトリウム水溶液の使用により、ポリアスパラギン酸ナトリウムが、水酸化カリウム水溶液の使用によりポリアスパラギン酸カリウムが、水酸化リチウム水溶液の使用によりポリアスパラギン酸リチウムを得ることができる。製造方法A又は製造方法Bなどを用いることにより、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を得ることができる。もちろん、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の製造方法はこの方法に限定されない。
【0024】
ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩をポリコハク酸イミドの加水分解によって得る場合、ポリマー中には、一部、加水分解されなかったコハク酸イミド構造単位が残留してもよい。言い換えると、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩はコハク酸イミド構造単位を一部(例えば全構成単位数の10%以下、又は5%以下、又は1%以下)含有していても、コハク酸イミド構造単位を全く含有していなくてもよい。
【0025】
本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩は、固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩であることが好ましい。ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を得るための固相重合については、特開2000-239379号公報、特開2000-239380号公報などを参照することができる。固相重合ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩は、分子量の点で、溶融重合など他の重合により得られたポリアスパラギン酸アルカリ金属塩とは異なる特徴を有する傾向にある。
【0026】
本開示に係る再付着防止剤においては、ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、汚れを包み込みつつ、包み込んだ汚れ同士の凝集を抑制する観点から好ましい重量平均分子量としては、例えば、1000~120000である。ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の重量平均分子量(Mw)は4000~80000であってもよく、8000~60000であってもよく、12000~40000であってもよく、16000~35000であってもよく、20000~27000であってもよい。
【0027】
本開示に係る再付着防止剤においては、ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、例えば、1000~80000である。ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の数平均分子量(Mn)は4000~50000であってもよく、7000~30000であってもよく、12000~20000であってもよく、13000~16000であってもよい。
【0028】
ポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の多分散度は、例えば製造方法Bでは、ポリコハク酸イミド製造時の酸触媒である35%塩酸の添加量によって任意に制御することができる。35%塩酸の添加量を減らすことで多分散度は減少し、添加量を増やすことで多分散度は増大する。
【0029】
上述の範囲内の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量の多分散度を有するポリアスパラギン酸アルカリ金属塩は、例えば、前述のポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の製法を適切に用いることで得ることができる。
【0030】
(再付着防止能)
本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の再付着防止率は、94%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、96%以上であることが一層好ましい。
【0031】
<洗剤組成物>
本開示に係る洗剤組成物は、界面活性剤及び本開示に係る再付着防止剤を含む洗剤組成物である。前記洗剤組成物は、本開示に係る再付着防止剤を界面活性剤と共に含むことにより、洗浄に用いられた場合に洗浄能力を発揮すると共に汚れの再付着を効果的に減少させることができる。
【0032】
本開示に係る洗剤組成物は、水などの溶媒に溶かして使用する粉末組成物の形態であってもよいし、水などの溶媒によって希釈して使用する濃縮液体組成物の形態であってもよいし、洗浄対象物の洗浄に使用される溶液そのものであってもよい。
【0033】
洗剤組成物における界面活性剤は、水などの溶媒中において界面活性作用を発揮して洗浄対象物を洗浄する作用を有するものであれば特に限定されないが、環境負荷を低減する観点から生分解性が高いものが好ましい。陰イオン型界面活性剤の例としては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩(MES)、α-オレフィンスルホン酸塩(AOS)、硫酸のモノ長鎖アルキルエステルのナトリウム塩(例えばドデシル硫酸ナトリウムなど)、石鹸が挙げられる。非イオン型界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが挙げられる。その他、当業界として洗剤中の界面活性剤として用いられている陽イオン型界面活性剤及び両イオン型界面活性剤も使用可能である。
界面活性剤の分子量は1000以下であってもよく、150以上1000以下であってもよく、200以上500以下であってもよい。
【0034】
洗剤組成物は、界面活性剤及び本開示に係る再付着防止剤以外にも、種々の追加的成分を含んでいてもよい。追加的成分の例としては、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ剤、クエン酸ナトリウムなどのpH調整剤、ゼオライトなどの水軟化剤、エチドロン酸などの金属封鎖剤、ポリエチレングリコール、ブチルカルビトール若しくは亜硫酸ナトリウムなどの安定化剤、セルラーゼ、プロテアーゼ若しくはリパーゼなどの酵素、ウンベリフェロンなどの蛍光増白剤、亜硫酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム若しくは過酸化水素などの漂白剤、硫酸ナトリウムなどのミセル増強剤、香料などが挙げられる。洗剤組成物が衣料用洗剤組成物である場合、該衣料用洗剤組成物は、酵素、亜硫酸ナトリウムなどの漂白剤、及び蛍光増白剤から成る群から選択される一種以上を含んでいてもよい。上記の追加的成分として例示されている化合物を洗剤組成物に含有させる目的は、上記の用途に限定されない。つまり、各物質は複数の機能を有しうるので、例えば、クエン酸ナトリウムがpH調整剤として例示されていたとしても、クエン酸ナトリウムは他の用途で(例えば金属封鎖剤として)用いられてもよく、他の物質についても同様にその用途は限定されない。
【0035】
洗剤組成物の溶媒を除いた固形分中、界面活性剤の含有量は例えば10質量%~60質量%であり、アルカリ剤の含有量は例えば5質量%~40質量%である。また、洗剤組成物の溶媒を除いた固形分中、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の含有量は0.01質量%~10質量%であってもよく、0.05質量%~1質量%であってもよく、0.1質量%~0.8質量%であってもよい。本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩は、上記範囲のような低い含有量であっても再付着防止能を効果的に発揮できる。
【0036】
洗浄対象物の洗浄に用いられる溶液(本明細書中では、洗浄液とも称する)中において、界面活性剤の濃度は例えば50ppm~1000ppm、又は100ppm~500ppmであってもよく、アルカリ剤の濃度は例えば20ppm~3000ppm、又は50ppm~2000ppmであってもよい。洗浄液中において、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩(本開示に係る再付着防止剤)の濃度は例えば0.1ppm~50ppmであり、又は0.5ppm~5ppmであり、又は0.5ppm~10ppmであり、又は1ppm~10ppmであってもよい。本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩は、上記範囲のような低い濃度であっても再付着防止能を効果的に発揮する。洗浄液は、例えば水に洗浄組成物を溶解又は分散した洗浄水であってもよく、水と共に水混和性有機溶媒(例えばエタノールなどのアルコール類)を含む混合溶媒に洗浄組成物を溶解又は分散した洗浄液であってもよい。
【0037】
本開示に係る洗剤組成物のpHは6以上9未満であることが好ましい。上述のとおり、洗剤組成物のpHとは、30℃で測定する洗剤組成物を0.1質量%含む水溶液のpHを意味する。一般に、洗剤のpHはアルカリ性が強い(例えばpH9.5以上)の方が洗浄力は強いとされ、食器洗浄機などにおいてはこのように高いpHの洗剤が用いられている。しかし、アルカリ性が強い洗剤は、例えば衣類の洗濯に用いた場合に衣類を傷めてしまったり、洗剤が手に接触するような使用状況においては手の皮膚を荒れさせたりする。本開示に係る再付着防止剤を用いる場合には、pHが6以上9未満といった弱酸性から弱アルカリ性の洗剤において使用された場合であっても、再付着防止剤の再付着防止能により洗浄性能を向上させる。このため、pHが6以上9未満の洗剤において本開示に係る再付着防止剤を用いることで、再付着防止剤による効果がより顕著に得られる。
また、上述のpHの差異のように、洗剤組成物はその用途に応じて設計されているものであるため、特定の洗浄用途のための洗剤組成物を他の洗浄用途にそのまま転用しても実用上の要求性能を満たさないことが一般的である。本開示に係る洗剤組成物は、その使用用途に応じて適切に設計することができる。
【0038】
本開示に係る洗剤組成物のpHは6以上9未満であることが好ましく、6.5以上8.8以下であることがより好ましく、7.0以上8.5以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本開示によれば、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の、洗浄における汚れの再付着防止のための使用も提供することができる。これは、言い換えれば、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の、再付着防止剤としての使用が提供される、ということである。本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の詳細、及び、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩が用いられる洗剤組成物の詳細については、上述のとおりである。
【0040】
本開示によれば、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を、洗剤組成物に含ませることを含む、洗剤組成物に再付着防止能を付与する方法も提供される。これは、言い換えれば、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を再付着防止剤として洗剤組成物中にとりこませることを含む、洗剤組成物に再付着防止能を付与する方法が提供される、ということである。本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩の詳細、及び、本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を取り込んだ洗剤組成物の詳細については、上述のとおりである。前記洗剤組成物を任意に水等の溶媒で希釈して洗浄液を作製し、該洗浄液を用いて衣類等の洗浄対象物を洗浄することで、洗浄対象物を洗浄することができる。洗浄の際には、洗浄対象物を洗浄液に浸漬する、洗浄対象物を浸漬した洗浄液を撹拌する、洗浄対象物に洗浄液を繰り返しかける等の手法を用いることができる。
【0041】
本開示に係る洗剤組成物は、衣料用洗剤組成物であっても、食器用洗剤組成物であっても、機器洗浄用洗剤組成物であっても、住宅用洗剤組成物であってもよい。材質を傷めない弱酸性から弱アルカリ性であっても、本開示に係る再付着防止剤により優れた洗浄力が発揮されることから、本開示に係る洗剤組成物は衣料用洗剤組成物であることが好ましい。
【0042】
本開示に係る再付着防止剤又は洗剤組成物を衣類等の繊維製品の洗浄に適用する場合、繊維製品の素材は特に制限されず、その例としては、ウール、シルク、木綿(綿)等の天然素材、ポリエステル、ポリアミド等の化学繊維、及びこれらの組合せが挙げられる。本開示に係る再付着防止剤又は洗剤組成物を衣類等の繊維製品の洗浄に適用する場合、繊維製品の種類によらず、繊維製品一般に対して優れた再付着防止能、洗浄性能が発揮される。
【0043】
上述のとおり、本開示に係る再付着防止剤及び洗浄組成物によれば、優れた再付着防止能を得ることができる。本開示に係る再付着防止剤及び洗浄組成物は、衣類の洗濯、機器の洗浄などの幅広い洗浄用途に使用することができる。
【実施例
【0044】
以下の実施例により実施形態を更に説明するが、本開示は以下の実施例によって何等限定されるものではない。また、実施例の組成物における含有成分量を示す「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0045】
<実施例1: Mw/Mn=1.55のポリアスパラギン酸ナトリウムの調製>
SUS製のバットに、L-アスパラギン酸318.8gを敷き、窒素雰囲気の常圧下において230℃で4時間オーブン内に静置することで、粉体のポリコハク酸イミドを得た。得られたポリコハク酸イミドの量は231.6gであった。これに蒸留水を162.1g加え、溶液の温度が45℃~55℃となるように制御しながら水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ滴下した。次第に反応マスが流動性を獲得したところで、pH測定を開始した。以後、pHを測定しながら水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH=10~10.5の範囲でpHが変動しなくなった時に滴下を終了した。この結果、均一な褐色透明のポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液が得られた。得られたポリアスパラギン酸ナトリウムの分子量測定をGPCで行ったところ、重量平均分子量(Mw)は2.23万、数平均分子量(Mn)は1.44万であり、多分散度(Mw/Mn)は1.55であった。
【0046】
<実施例2:Mw/Mn=1.63のポリアスパラギン酸カリウムの調製>
実施例1の記載方法において、ポリコハク酸イミドの加水分解に用いた水酸化ナトリウム水溶液を同濃度の水酸化カリウム水溶液に変更することでポリアスパラギン酸カリウムを得た。すなわち、実施例1と同様にして得られた粉体のポリコハク酸イミド231.6gに蒸留水を162.1g加え、溶液の温度が45℃~55℃となるように制御しながら水酸化カリウム水溶液を少量ずつ滴下した。次第に反応マスが流動性を獲得したところで、pH測定を開始した。以後、pHを測定しながら水酸化カリウム水溶液を滴下し、pH=10~10.5の範囲でpHが変動しなくなった時に滴下を終了した。この結果、均一な褐色透明のポリアスパラギン酸カリウム水溶液が得られた。得られたポリアスパラギン酸カリウムの分子量測定をGPCで行ったところ、重量平均分子量(Mw)は2.14万、数平均分子量(Mn)は1.31万であり、多分散度(Mw/Mn)は1.63であった。
【0047】
<実施例3:Mw/Mn=1.74のポリアスパラギン酸ナトリウムの調製>
2Lフラスコ中に、L-アスパラギン酸236.0g、スルホラン472.0g、キシレン197.2g、及び35%塩酸157.5gを仕込み、窒素雰囲気の常圧下において室温で撹拌混合した。次いで、得られた混合物を113℃で3時間加熱することで造塩させた。形成された塩をさらに117℃~168℃で47時間共沸脱水及び縮合させることで、固体状反応混合物を得た。得られた固体状反応混合物を80℃まで放冷し、アセトニトリルにて晶析及び洗浄を行った。その後、懸濁物を濾取し、70℃、5mmHgで一晩減圧乾燥することで、粉体のポリコハク酸イミドを得た。得られたポリコハク酸イミドは171.4gであった。これに蒸留水を120.0g加え、溶液の温度が45℃~55℃となるように制御しながら水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ滴下した。次第に反応マスが流動性を獲得したところで、pH測定を開始した。以後、pHを測定しながら水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH=10~10.5の範囲でpHが変動しなくなった時に滴下を終了した。この結果、均一な黄色透明のポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液が得られた。得られたポリアスパラギン酸ナトリウムの分子量測定をGPCで行ったところ、重量平均分子量(Mw)は7.87万、数平均分子量(Mn)は4.53万であり、多分散度(Mw/Mn)は1.74であった。
【0048】
<実施例4~実施例6>
実施例1に記載の方法において、条件を適宜変更することにより実施例4~実施例6のポリアスパラギン酸ナトリウムを調製した。
実施例4のポリアスパラギン酸ナトリウムの分子量測定をGPCで行ったところ、重量平均分子量(Mw)は1.72万、数平均分子量(Mn)は1.10万であり、多分散度(Mw/Mn)は1.56であった。
実施例5のポリアスパラギン酸ナトリウムの分子量測定をGPCで行ったところ、重量平均分子量(Mw)は2.46万、数平均分子量(Mn)は1.55万であり、多分散度(Mw/Mn)は1.59であった。
実施例6のポリアスパラギン酸ナトリウムの分子量測定をGPCで行ったところ、重量平均分子量(Mw)は4.90万、数平均分子量(Mn)は2.90万であり、多分散度(Mw/Mn)は1.69であった。
【0049】
<比較例1:Mw/Mn=1.30のポリアスパラギン酸ナトリウムの調製>
特許第3384420号公報の実施例1の方法に従い、ポリアスパラギン酸ナトリウムを得た。具体的には以下のとおりである、1Lフラスコ中に、L-アスパラギン酸133.0g及びn-パラフィン(H)200gを加えた。これを220℃で4時間反応させ、50℃まで冷却した。さらに、14%水酸化ナトリウム水溶液を286.0g加え1時間攪拌した。反応マスを水層と有機層に分層させ、水層を取り出した。得られた水層は、残留n-パラフィンにより濁っていた。水層をセライト及び活性炭を添加して処理することにより、均一な黄色透明のポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液を得た。得られたポリアスパラギン酸ナトリウムの重量平均分子量(Mw)は0.961万、数平均分子量(Mn)は0.739万であり、多分散度(Mw/Mn)は1.30であった。
【0050】
上記の実施例及び比較例において、GPCによる分子量測定及び多分散度の測定は、上述の「分子量測定方法」の欄に記載した方法及び装置で行った。
【0051】
実施例1~実施例6及び比較例1で作製したポリアスパラギン酸ナトリウム及びポリアスパラギン酸カリウムの再付着防止率を測定した。再付着防止率は、上述の「再付着防止率の測定方法」に記載した方法により測定した。再付着防止率の測定に用いた分散液(30℃)のpHは、いずれの実施例又は比較例においても、約8であった。再付着防止率測定の結果を以下の表2及び図1に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2及び図1に示した結果から分かるように、多分散度(Mw/Mn)が1.4以上である本開示に係るポリアスパラギン酸アルカリ金属塩を用いることにより、向上した再付着防止率を実現できることが分かる。
図1