(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/76 20060101AFI20220428BHJP
【FI】
C02F1/76 B
(21)【出願番号】P 2020526296
(86)(22)【出願日】2018-12-13
(86)【国際出願番号】 IB2018060006
(87)【国際公開番号】W WO2019116297
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-07-07
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/057927
(32)【優先日】2017-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス・レイバ,パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】メネンデス・デルミロ,バネサ
(72)【発明者】
【氏名】パディリャ・ビバス,ベアトリス
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第00759109(GB,A)
【文献】特開2017-104802(JP,A)
【文献】特開2001-026827(JP,A)
【文献】特開2013-056328(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083903(WO,A1)
【文献】米国特許第05106508(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0069462(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70- 1/78、
1/58- 1/64、
9/00- 9/14
B01D 53/34-53/85、
53/92、53/96
F27D 17/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化合物及び金属化合物を含む廃水の処理方法であって、該廃水は、シアン化合物が二酸化炭素及び窒素に変換される単一の酸化ステップに供され、この酸化ステップは、混合物を得るために廃水を塩素溶液及びアルカリ剤と混合することを含み、アルカリ剤は、混合物のpHを8.8~9.5の間に維持するような量で添加され、塩素溶液は、混合物のオキシド還元電位を150~450mVの間に維持するような量で添加される、方法。
【請求項2】
塩素溶液が、次亜塩素酸ナトリウム溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ剤が石灰である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
混合物のpHが、8.9~9.1の間に維持される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
混合物のオキシド還元電位が、350mV~400mVの間に維持される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
混合物のオキシド還元電位が、180mV~230mVの間に維持される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
廃水が当初以下のものを含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法
1~10重量ppmの間の弱酸解離性シアン化物を含む1.5重量ppm~15重量ppmの間のシアン化物、
0.8~3重量ppmの間の亜鉛、
8重量ppmまでの鉄、及び
0.05~0.5重量ppmの間の鉛。
【請求項8】
廃水は高炉ガス洗浄から生じる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
酸化工程の後、混合物を浄化水と汚泥とに分離する浄化工程にさらに供する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン化合物及び金属化合物を含む廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼プラント内では、粉塵を含んだ大量のガスが排出される。これらのガスは浄化される必要があり、洗浄処理では一般的に水が使用され、排出される必要がある廃水を生じる。これらの廃水は、ガス粉塵中に存在する汚染物質を含有し、特に、健康及び環境にとって有害なシアン化物、アンモニウム、フッ化物及び金属を含有することがある。
【0003】
シアン化物は、環境に有害な非常に毒性の化合物であり、水を排出及び/又はリサイクルさせる前に無毒成分に変換する必要がある。これらのシアン化物は各種の形態で存在し、すなわち、それらはシアン化物多原子アニオン及びアルカリ土類金属からなる単純なシアン化合物(NaCN、KCN・・・)であり得るが、弱酸環境(pH4、5~6)に曝されると遊離シアン化物及び遷移金属に分解する傾向を有する錯体金属シアン化物(Zn(CN)-2
4、Cd(CN)-1
3、Cd(CN)-2
4・・)である弱酸解離性シアン化物(WAD)であることもある。遊離シアン化物は、生物学的に利用可能であり、生命体に対するその毒性作用で知られているシアン化物の形態である。シアン化物に加えて、ある種のチオシアン酸塩(SCN)が存在することがあり、それらはシアン化物種ではないが、場合によってはそれらのための効率的な処理が関心を引くことがあるものである。
【0004】
例として、目標排出限界はシアン化物0.4mg/L、亜鉛2mg/L、鉄5mg/L、鉛0.5mg/L及びアンモニア窒素30mg/Lである。
【0005】
1つの知られた方法は、シアン化物(CN-)をシアン酸塩(OCN-)に変換するために酸化剤として過酸化水素を用い(1)、シアン酸塩はすぐに炭酸塩とアンモニアに加水分解することができる(2)。
CN-+H2O2→OCN-+H2O(1)
OCN-+H2O+OH-→CO3+NH3(2)
【0006】
いくつかの文献(US3,970,554号、US4,416,786号、US5,246,598号)に開示されているように、この方法は銅又は銀をベースとする触媒等の触媒の使用を必要とし、触媒はさらに除去する必要がある。また、この方法は、WADシアン化物の除去を可能にするが、廃水中に存在するシアン化物全体を除去するわけではない。
【0007】
別の知られた方法は、文献GB759109号に例示されているように、アルカリ塩素法である。この方法は次亜塩素酸塩を使用し、2ステップで実施される。シアン化物(CN-)はまずシアン酸(OCN-)に酸化され、次に二酸化炭素と窒素になる。次亜塩素酸(ClO-)は、塩素(Cl2)と水酸化ナトリウム(NaOH)とを接触させることにより生成する(式3及び3’)。この反応は可逆的で、溶液中には遊離塩素がいくらか残る。シアン化物変換において、次亜塩素酸塩(ClO-)はシアン化物(CN-)と反応して塩化シアン(CNCl)を形成する(式4)。塩化シアン(CNCl)は、利用可能な水酸化物(OH-)と反応してシアン酸塩(CNO-)を生成する(式5)。次にシアン酸塩(CNO-)はより無害な二酸化炭素と窒素に変換される(式6)。
2NaOH+Cl2⇔NaClO+NaCl+H2O(3)
NaClO⇔Na++ClO-(3’)
CN-+H2O+ClO-→CNCl(g)+2OH-(4)
CNCl(g)+2OH-→CNO-+Cl-+H2O(5)
2CNO-+3ClO-+H2O→2CO2+N2+3Cl-+2OH-(6)
塩化シアン(CNCl(g))は、毒性の高い化合物であり、大気中に放出されるのを避けるために迅速に分解されなければならない。式3~5の第1のステップは、シアン化物のシアン酸塩への変換を最適化すべく、pHが10~12の間に保たれる第1の反応器中で行われ、CNClを直ちにシアン酸塩に変換し、溶液からのその放出を防止する。この高いpHにより金属化合物の酸化も可能になる。一般にこれは40~60分の間、ある種の金属シアン化物錯体が存在する場合は12時間まで続く。第2のステップは、pHが7.5~8.5に低下する第2の反応器で行われる。第1段階の反応が完了しなければ、毒性の強いシアン化水素が生成される可能性があるため、第2の反応器は決してpH7を下回ってはならない。この第二ステップでは、pH7.5~8.5で30~60分の間の反応時間が必要である。石灰(Ca(OH)2)は通常、水酸化物(OH-)をもたらし、pHを必要な範囲内に保つために用いられる。この方法では、異なるpHで異なるステップを行うためにいくつかのタンクを使用する必要がある。さらに、この方法は反応性物質、すなわち次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)及び石灰(Ca(OH)2)の大量消費を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第3,970,554号明細書
【文献】米国特許第4,416,786号明細書
【文献】米国特許第5,246,598号明細書
【文献】英国特許出願公開第759109号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
実際、シアン化合物及び金属化合物を含む廃水の改善された処理方法であって、特に反応性物質の消費及び処理時間に関して、より効率的に全ての種類のシアン化物を無毒性化合物に変換することができる処理方法が必要である。好ましい実施形態では、このような方法は、チオシアン酸塩化合物を処理してその含有量を減少させることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、シアン化合物及び金属化合物を含む廃水の処理方法によって解決され、該廃水は、シアン化合物が二酸化炭素及び窒素に変換される単一の酸化ステップに供され、この酸化ステップは、混合物を得るために廃水を塩素溶液及びアルカリ剤と混合することを含み、アルカリ剤は、混合物のpHを8.8~9.5の間に維持するような量で添加され、塩素溶液は、混合物のオキシド還元電位を150~450mVの間に維持するような量で添加される。
【0011】
これらの特別な操作条件は、一段階で、したがって単一装置において、廃水中に存在するいくつかのシアン化物種及び金属化合物の前記酸化を可能にする。
【0012】
本発明の方法はまた、別個に、又は可能性のある全ての技術的組み合わせに従って考えられる以下の任意の特徴を含むことができる。
- 塩素溶液は次亜塩素酸ナトリウム溶液であり、
- アルカリ剤は石灰であり、
- 混合物のpHは8.9~9.1の間に維持され、
- 混合物のオキシド還元電位は350~400mVの間に維持され、
- 混合物のオキシド還元電位は150~200mVの間に維持され、
- 混合物のオキシド還元電位は180~230mVの間に維持され、
- 廃水は最初に1.5重量ppm~15重量ppmの間のシアン化物(該シアン化物は1~10重量ppmの間の弱酸解離性シアン化物を含む。)、0.8~3重量ppmの間の亜鉛、8重量ppmまでの鉄、0.05~0.5重量ppmの間の鉛を含み、
- 廃水は高炉ガス洗浄から生じ、
- 酸化ステップの後、混合物は浄化水と汚泥に分離される浄化工程にさらに供され、
- 清浄水は0.4mg/L未満のシアン化物、2mg/L未満の亜鉛、5mg/L未満の鉄、0.5mg/L未満の鉛及び30mg/L未満のアンモニア窒素を含み、
- 廃水1m3を処理するために使用する塩素溶液の量が6リットル以下であり、
-廃水1m3を処理するために使用するアルカリ剤の量が10リットル以下である。
【0013】
本発明は、以下の添付図を参照しながら、以下の記載を読むことにより、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明による処理方法を実施するための装置の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明に従った方法を実施するための装置1を図示している。シアン化合物と金属化合物を含む廃水WWは、ミキサー3を備えたタンク2に送られる。塩素溶液CS及び少なくとも1種のアルカリ剤AAもタンクに注入され、廃水WWと一緒に混合されて混合物4を形成する。
【0016】
塩素溶液CSは次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)又は次亜塩素酸カルシウム(CaClO)であることができる。塩素溶液は、溶液のオキシド還元電位(ORP)を150mV~400mVの間に保つような量で加えられる。処理中にCSを定期的に追加して、ORPが所定の範囲に留まるようにしてもよい。溶液のオキシド還元電位は、新しい種の導入によって変化する時に、溶液が電子を獲得したり失ったりする傾向の尺度である。新種よりも高い(より正の)還元電位を持つ溶液は、新種から電子を獲得する傾向があり(すなわち、新種を酸化することによって還元される)、より低い(より負の)還元電位を持つ溶液は、電子を失って新種に与える傾向がある(すなわち、新種を還元することによって酸化される)。化学種間の水素イオンの移動によって、水溶液のpHが決定されるのと同じように、化学種間の電子の移動によって、水溶液の還元電位が決定される。pHと同様に、還元電位は、溶液中で電子が種に、あるいは種から電子がどれくらい強く移動するかを表す。好ましい実施形態では、ORPは、150mV~250mVの間、最も好ましい実施形態では、180~200mVの間に含まれる。別の実施形態では、ORPは350~400mVの間に含まれる。ORPのこの最後の特定の範囲により、混合物からアンモニア窒素(N-NH3)を除去することが可能になる。アンモニア窒素(N-NH3)は、多すぎると生態系の平衡を崩す可能性がある化合物であり、廃水中の当初の量によっては、その含有量を低下させる必要がある。ORPは、シアン化合物による妨害を避けるための特異性を有する、好ましくは金ORPセンサである第1のセンサ11によって連続的に測定することができる。
【0017】
アルカリ剤AAは、水中の石灰の懸濁液である乳状石灰(Ca(OH)2)、又は水酸化ナトリウム(NaOH)等である。アルカリ剤AAはpHを8.5~9.5の間に保つような量で添加され、より好ましくは、pHは8.9~9.1の間に含まれる。ORPが所定の範囲に留まるように、処理中にAAの定期的な追加を実施してもよい。pHは、標準的な市販のpHセンサであってもよい第2のセンサ12によって連続的に測定することができる。
【0018】
シアン化合物と金属化合物を含む廃水WWは、高炉排ガスの洗浄から流出する廃水等の製鉄工場から出る廃水であることができる。処理前には、廃水は、例えば1~10重量ppmの間のWADを含む1.5~15重量ppmの間のシアン化物、0.8~3重量ppmの間の亜鉛、8重量ppmまでの鉄、0.05~0.5重量ppmの間の鉛を含む。
【0019】
この方法は、所定量の廃水を逐次処理するか、又は廃水の連続的流入流及び処理された廃水の連続的排出流を有することのいずれかによって実施することができる。いずれの場合も、上記のpH及びORP条件に到達するためには、アルカリ剤AA及び塩素溶液CSを必要量で混合物4に加えなければならない。
【0020】
処理後、固体粒子を除去するために、混合物は浄化ステップに供される。そのために、処理された廃水を、TRIENXIS社のTeColのような凝集剤を加えたデカンター(図示なし)に送り、金属化合物のような水中に存在するコロイド粒子、及び懸濁固体粒子の沈殿を促進することができる。その目的は清浄水を回収することである。固体粒子を含む汚泥は、このような浄化処理の副産物である。
【実施例】
【0021】
<結果>
高炉ガスの浄化から生じる廃水を、先行技術(方法1)に従った処理方法、本発明の第1の実施形態(方法2)に従った方法、及び本発明の第2の実施形態(方法3)に従った処理方法に供する。廃水は当初1.5~15重量ppmの間のシアン化物(そのうちWADは1~10重量ppm)、0.8~3重量ppmの間の亜鉛、8重量ppmの鉄、0.05~0.5重量ppmの間の鉛を含んでいた。結果を表1に示す。
【0022】
最終処理水中の以下の含有量を測定した。
- 分光光度法(規格EN ISO14403に従う)を用いたWAD含有量
- 分光光度法(規格EN ISO14403:2002に従う)を用いた総シアン化物量
- 分光光度法(標準的な方法4500-CN-M)によるSCN含有量
- 電位差測定法(標準的な方法4500-NH3-D)を用いたN-NH3含有量
- 誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)を用いたZn、Pb、Fe含有量(規格EN ISO11885:2010)
【0023】
方法1では、pHが約10.5になるように第1の酸化タンクで廃水を乳状石灰の溶液及びNaClOと混合する。ORPを測定したところ、325~400mVの間であった。このタンクでは、前述の反応3~5が、金属化合物の酸化、例えば亜鉛については以下の反応に従う酸化と同様に起こる。
Zn2++OH-→Zn(OH)2
【0024】
次に塩酸(HCl)を加えてpHを7.5まで低下させ、NaClOを該溶液と混合する第2の酸化タンク内で第2の酸化工程(前述の反応6)を行う。ORPを測定したところ、600~800mVの間であった。その後、処理水を凝集タンクに送り、そこで凝集剤(TRIENXIS社のTeCol)と混合した後、浄化タンクに送り、そこで固体粒子を汚泥から分離する。
【0025】
方法2では、廃水をタンクに送り、そこでNaClO及び乳状石灰と混合する。適量の乳状石灰を添加してpHを9に維持し、適量のNaClOを添加してORPを150mVに維持した。その後、処理水を凝集タンクに送り、そこで凝集剤(TRIENXIS社のTeCol)と混合した後、浄化タンクに送り、そこで固体粒子を水から分離する。
【0026】
方法3では、方法2と同じステップを同じpHで行うが、NaClOの適切な添加によりORPを350mVに維持した。
【0027】
【0028】
表1からわかるように、本発明による方法により、汚染物質の効率的な除去を可能にしながら、このNaClO及び乳状石灰の場合において、使用される反応性物質の消費の減少が可能になる。また、本発明による方法により、汚泥の発生、リサイクル又は埋立のいずれかを必要とする汚泥の低減が可能になる。方法3による本発明の実施形態により、アンモニア窒素の処理が可能になる。処理時間も本発明による処理方法で短縮される。
【0029】
第2段階の試験では、高炉の廃水の約1.5~5m3/時間の連続的な水流を反応タンクに送り、そこで乳状石灰と塩素と混合した。表2に示すORP及びpHに達するように両方の反応物の量を選択した。その後、処理水を凝集タンクに送り、そこで凝集剤(TRIENXIS社のTeCol)と混合してから浄化タンクに送り、そこで固形粒子を水から分離した。これらの試験の結果を表2に示す。工業廃水を使用する場合、試験ごとにその組成が変化し、このことは得られた結果にある程度のばらつきが生じることを説明し得る。
【0030】
【0031】
表2から分かるように、本発明に従った方法を用いることにより、汚泥発生及び反応剤消費を制限しながら、廃水を処理することが可能である。