(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】ワックス組成物及び電子写真用トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/097 20060101AFI20220428BHJP
【FI】
G03G9/097 365
(21)【出願番号】P 2020532421
(86)(22)【出願日】2019-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2019028916
(87)【国際公開番号】W WO2020022351
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2018137991
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014557
【氏名又は名称】ボーソー油脂株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小出 真維
(72)【発明者】
【氏名】久米田 淳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 盛之
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄大
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-041465(JP,A)
【文献】特開2006-276063(JP,A)
【文献】特開2012-047914(JP,A)
【文献】特開平06-041570(JP,A)
【文献】特開2008-156245(JP,A)
【文献】特開昭49-092235(JP,A)
【文献】特開2009-084489(JP,A)
【文献】特開平05-320560(JP,A)
【文献】特開平07-188590(JP,A)
【文献】特開昭59-171691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和直鎖モノカルボン酸と
飽和直鎖モノアルコールとのモノエステルを含むワックス(a)、並びに
水酸基1個を有する炭素数12~24の
飽和直鎖モノカルボン酸及び炭素数12~24の
飽和直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)を含み、
前記
飽和直鎖モノカルボン酸と
飽和直鎖モノアルコールとのモノエステルを含むワックス(a)は、水酸基価が30以下であ
り、直鎖状モノエステルを80重量%以上含む、
ワックス組成物。
【請求項2】
前記
飽和直鎖モノカルボン酸と
飽和直鎖モノアルコールとのモノエステルにおいて、
前記
飽和直鎖モノカルボン酸の炭素数が20~24であり、前記
飽和直鎖モノアルコールの炭素数が22~38である、
請求項1に記載のワックス組成物。
【請求項3】
前記ワックス(a)、並びに、前記エステル(b)を、質量比1:4~4:1で含有する、請求項1又は2に記載のワックス組成物。
【請求項4】
水酸基価が30以上かつヨウ素価が13以下である、請求項1から3の何れか1項に記載のワックス組成物。
【請求項5】
請求項1から
4の何れか1項に記載のワックス組成物を含有する、電子写真用トナー。
【請求項6】
前記ワックス組成物の添加量が2~20質量%である、請求項
5に記載の電子写真用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス組成物及び該ワックス組成物を含有する電子写真用トナーに関する。
【0002】
より好ましくは、本発明は、トナーに低温定着性を付与することができるとともに、トナーに含有される着色剤の分散性に優れたトナーに好適に使用できるワックス組成物及び該ワックス組成物を含有する電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0003】
電子写真方式のプリンタ、ファクシミリ、およびこれらの機能を有する複写機などの電子写真装置に用いるトナーは、主成分となる熱可塑性樹脂(バインダー樹脂)の他に、着色剤(カーボンブラック、磁性粉、顔料など)、荷電制御剤、ワックスを含み、必要に応じて、流動性付加剤、クリーニング助剤、転写助剤を含む。
【0004】
トナーは、定着工程において定着ロールによる加熱を受けて軟化し、且つ定着ロールによる圧力を受けることにより印刷媒体表面に定着して画像が形成される。トナーに含まれるトナー用ワックスの作用としては2つあり、一つは、定着特性改善効果である。これは、染み出しが低温から起こり、低温時には記録用紙への密着性を強く維持して低温オフセットを防止するアンカー効果である。もう一つは、高温時での染み出しにより、定着ローラ表面をワックスが覆うことによりトナーと定着ローラとの間にワックスが入り込んでトナーと定着ローラの付着力を下げ、高温オフセットを防止する離型剤効果である。
【0005】
近年、プリンタ、ファクシミリ、および複写機などの電子写真装置に求められる性能は高度化しており、装置の改良に加え、これらの装置に使用されるトナーについても高機能化が要求される。これに伴い、高画質のためにトナーの着色剤、ワックスは分散性のよいものが要求されてきている。又、立ち上がりの高速化、待機電力の節減などから定着温度が低く、耐オフセット性にすぐれ、且つ定着強度の優れたものが望まれている。
【0006】
また、フルカラー画像は、一般に、マゼンダ、シアン、イエローおよびブラックの4種のトナーをそれぞれ複数回に分けて転写材に加熱融解して転写し、画像を形成する。ここで用いられるトナーは加熱した際の溶融性および混色性が良いことが求められ、それ故に軟化点および溶融粘度が低いことが要求される。特にカラートナーは着色剤の濃度が高く、分散性が悪いと溶融時の粘度が高くなり溶融時の流動性が低下して、ドラムからの剥離性が悪くなり、いわゆるオフセット性が低下してしまう。また、溶融時の流動性低下により重ね合わせられたトナーの溶融による混色性が悪化してしまう。
【0007】
また、着色剤やワックスの分散性が悪いと透明性が損なわれるので、原稿に忠実なカラー画像を得るためにも着色剤やワックスの分散性の良いものが求められていた。
【0008】
特許文献1には、低温定着性を発現する方法として、カルナウバワックスやライスワックスの天然ワックス等を離型剤として使用する方法が開示されている。これらのワックスを用いると、低温定着性は発現することができるが、離型性が不十分となり耐オフセット性が十分発現できない場合がある。更にこれらの天然ワックスは、着色剤の分散性が悪く高品位画像のものが得られなかった。
【0009】
特許文献2には、特定の複素粘度を有するモノエステルが記載されている。この複素粘度のモノエステルワックスは、定着性は良好であるものの、モノエステルワックスを合成する際に硫酸を触媒として用い、240℃の高温で反応を行っていることから、得られるエステルワックスが顕著な着色を起こし、カラー印刷時の色再現性や着色剤分散性の点などで問題となることがある。
【0010】
特許文献3には、離型剤としてカルナウバワックスと無極性パラフィンワックスとの混合物を用いたトナーについての開示がなされている。
【0011】
この技術によると、離型剤としてカルナウバワックスと無極性パラフィンワックスとの混合物を用い、結着樹脂としては多価アルコール成分であるシクロヘキサンジメタノールを必須成分とし、酸価が5~20mgKOH/gであれば、定着装置において定着オイルを塗布することなく、良好な定着性、光沢性、透明性、離型性を有するカラートナーを提供することができるとしている。
【0012】
しかしながら、無極性のパラフィンワックスは、樹脂の酸価を上記のように高くしても、良好な分散性を確保することは困難であるという問題を有している。
【0013】
このように、低温定着性を有するトナー用ワックス組成物において、ワックス及び着色剤の分散性に優れるトナー用ワックス組成物が求められていた。また、高温条件でも凝集しないトナーが求められている。すなわち、耐熱保管性を改善することができるトナー用ワックス組成物が必要であった。
[先行技術文献]
[特許文献]
【0014】
[特許文献1]特開平4-362953号公報
[特許文献2]特開2013-015673号公報
[特許文献3]特開2004-287218号公報
【解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、トナーに好適に耐熱保管性及び低温定着性を付与することができ、更に、樹脂の帯電性に左右されず、着色剤の分散性に優れたトナー用ワックス組成物の提供を目的とする。
【一般的開示】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、直鎖モノカルボン酸及び直鎖モノアルコールとで構成されるモノエステルワックス(a)と特定のエステル(b)とで構成された組成物をトナー用ワックスとして使用することによって、着色剤の分散性を向上できるとともに、耐熱保管性及び低温定着性を付与する事を見出した。
【0017】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する:
【0018】
<1>直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールとのモノエステルを含むワックス(a)、並びに水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸及び炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)を含むトナー用ワックス組成物。ここで、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールとのモノエステルを含むワックス(a)は、水酸基価が30以下である。
【0019】
<2>上記直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールとのモノエステルにおいて、直鎖モノカルボン酸が炭素数20~24であり、直鎖モノアルコールが炭素数22~38である、<1>に記載のトナー用ワックス組成物。
【0020】
<3>ワックス(a)並びにエステル(b)を質量比1:4~4:1で含有する<1>~<2>の何れかに記載のトナー用ワックス組成物。
【0021】
<4>水酸基価が30以上かつヨウ素価が13以下である<1>~<3>の何れかに記載のトナー用ワックス組成物。
【0022】
<5>直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールとのモノエステルは、飽和直鎖モノカルボン酸と飽和直鎖モノアルコールとのモノエステルである<1>~<4>の何れかに記載のトナー用ワックス組成物。更に、混合カルボン酸は、水酸基1個を有する炭素数12~24の飽和直鎖モノカルボン酸及び炭素数12~24の飽和直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸であってよい。
【0023】
<6>ワックス(a)は、直鎖状モノエステルを60重量%以上含む、<1>~<5>の何れかに記載のワックス組成物。
【0024】
<7><1>~<6>の何れかに記載のトナー用ワックス組成物を含有する、電子写真用トナー。
【0025】
<8>上記トナー用ワックス組成物の添加量が2~20質量%である、<7>に記載の電子写真用トナー。
【0026】
[発明の効果]
本発明のトナー用ワックス組成物をトナーと混合することによって、トナーに含有される着色剤の分散性に優れ、トナーに優れた低温定着性及び耐熱保管性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0028】
本発明のワックス組成物は、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス(a)と、水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)とを含有する。以下、各成分について説明する。
【0029】
[ワックス(a)]
本発明において、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールとのモノエステルを含むワックス(a)は、水酸基価が30以下であることが望ましい。ワックス(a)の水酸基価はモノエステル中の水酸基だけでなく、遊離アルコールや樹脂分等に由来する。そのため水酸基価が30を超えると耐熱安定性が低下し、帯電性が低下する事により画質が低下する恐れがある。また水酸基価が30を超えるとエステル(b)との相溶性が低くなり、ワックス組成物の水酸基価を高めてもワックス(a)のみが凝集し、分散性が低下する。また、当該モノエステルは、炭素数42以上の直鎖状モノエステルであることが望ましい。炭素鎖が分岐構造を有すると、トナーに含まれる結着樹脂との相溶性が上がってしまい定着離型効果が小さくなるので、直鎖状モノエステルを用いる必要がある。更に、ワックス(a)は、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールとのモノエステルとして、直鎖状飽和モノエステルを含むことが望ましい。モノエステルが飽和していることにより、酸化を受けにくく、耐熱安定性も向上する。ワックス(a)は、直鎖状飽和モノエステルに代えて/加えて、直鎖状不飽和モノエステルを含んでいてもよい。
【0030】
ワックス(a)における直鎖状モノエステルの含有量は、好ましくは40質量%以上含み、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。含有量が多いほど定着離型性がよく、排紙口への離型剤の付着による汚染が少ない。40質量%未満の場合、定着離型性が劣り、排紙口への離型剤の付着による汚染が発生してしまう可能性がある。直鎖状モノエステルの含有量は、例えばガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0031】
本発明で用いる直鎖状モノエステルの例としては、合成エステル化合物、天然エステルワックス等が挙げられる。
【0032】
合成エステル化合物は、直鎖状高級アルコールと直鎖状高級カルボン酸又は直鎖状高級カルボン酸ハロゲン化物とのエステル化反応により得られる。
【0033】
直鎖状高級アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、テトラコサノール、ヘキサコサノール、オクタコサノール、トリアコンタノール等が挙げられる。
【0034】
直鎖状高級カルボン酸としては、例えば、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。
【0035】
合成エステル化合物の作製方法としては、例えば、まず直鎖状高級アルコール成分に対して直鎖状高級カルボン酸を過剰に用いてエステル化反応(縮合反応)を行い、過剰の直鎖状高級カルボン酸を、アルカリ水溶液を用いた脱酸により除去する方法が挙げられる。この反応において、必要に応じて触媒を使用しても良い。また、エステル化反応は脱水を伴う平衡反応であるため、系中の水を留去しながら行うとよい。反応は系中の水が留去でき、反応原材料が系から脱出しない程度の高温で行う。
【0036】
天然エステルワックスは、動植物から採取したワックスを分離及び精製して得られる。
【0037】
その例としては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、蜜蝋、ラノリンワックス、モンタンワックス、サンフラワーワックスなどが挙げられる。しかし、天然エステルワックスは多種類の化合物からなる混合物であるため、場合によっては分離及び精製して用いる必要がある。これらの中でも、ライスワックス、サンフラワーワックスは炭素数20~24飽和直鎖脂肪酸と炭素数22~38飽和直鎖アルコールのモノエステル含有量が多く水酸基価が30以下であるため好ましい。水酸基価は1~30が好ましく、1~20がより好ましい。なお、カルナウバワックスは遊離アルコールや樹脂を含有しており水酸基価が35以上と高い。この観点からは、ワックス(a)は、カルナウバワックス以外のものであることが望ましい。
【0038】
〔ライスワックス製造方法〕
ライスワックスは、コメヌカから抽出されたコメヌカ油(コメ原油)の精製工程で副生する粗ワックスを精蝋(精製)することにより得られるものである。この粗ワックス中にはワックス分(エステルワックス)が55~65質量%程度、遊離脂肪酸が20~30質量%程度、トリグリセリドが5~15質量%程度含まれている。粗ワックス中の遊離脂肪酸及びトリグリセリドからなるソフトワックスを除去する事により、炭素数22~24程度の飽和直鎖モノカルボン酸と炭素数24~38程度の飽和直鎖モノアルコールからなる脂肪酸アルコールエステルを主成分とするライスワックスが得られる。主成分とは、ライスワックス組成物中に占める飽和直鎖エステルワックスの配合比が高いことを示し、例えば、ライスワックス100質量部における飽和直鎖エステルの含有量が60質量部以上、99質量部以下、さらには、75質量部以上、98質量部以下ということができる。また、ライスワックスは樹脂等の極性物質が少ない為、水酸基価は30以下である。粗ワックス中の遊離脂肪酸やトリグリセリドからなるソフトワックスを除去する方法としては、有機溶媒を使用し再結晶法で得る方法や精製時にエステル化を促進させる方法、ライスワックスに多価アルコールを添加してエステル化せしめる方法、ライスワックスを加熱減圧下で融解させる方法等、公知のライスワックスの精製方法を繰り返すこと、精製方法を組み合わせること等によって遊離脂肪酸と不純物の低融点のトリグリセリド類及び脂肪族炭化水素を除去、低減することで得ることができる。また、米ぬかから抽出される粗ワックスとエタノールとの混合物を加温下で攪拌することにより、ワックスを含むコロイド粒子と、ソフトワックスを含むエタノール分とに分離した後、上記コロイド含有液からワックスを含むコロイド粒子を回収する精製方法なども好適に適用できる。
【0039】
[エステル(b)]
本発明のトナー用ワックス組成物を構成する水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)は、その調製方法に限定はなく、上記の要件を満たせばよい。水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸は、飽和直鎖モノカルボン酸であってよく、炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸も飽和直鎖モノカルボン酸であってよい。これにより、ワックス組成物が酸化を受けにくく、耐熱安定性も向上する。なお、エステル(b)を構成する直鎖モノカルボン酸のうち少なくとも一部は、不飽和であってもよい。
【0040】
エステル(b)として、例えば、天然に存在するひまし油等の油脂を硬化、抽出、蒸留、ろ過、晶析、カラムクロマトグラフィー等の精製処理を単独もしくは複数組み合わせて行うことにより、分離したエステルを使用してもよい。また、単一組成のカルボン酸とグリセリンとを原料として、エステルを合成した後に、上記のカルボン酸組成を持つように各エステルを配合して調製する方法や、合成したエステルが上記のカルボン酸組成となるように、あらかじめ原料であるモノカルボン酸を調製した後に、エステル化して調製する方法等がある。エステル化を行う場合には、例えば、酸化反応による合成法、カルボン酸およびその誘導体からの合成、カルボン酸化合物とアルコール化合物からの脱水縮合反応を利用する方法、酸ハロゲン化物とアルコール化合物からの反応、エステル交換反応等の製造方法が挙げられる。反応の際には、触媒を使用してもよく、触媒としては、酸性またはアルカリ性触媒、例えば酢酸亜鉛、チタン化合物が挙げられる。反応する際には、原料カルボン酸と原料アルコールとの同量のモル比の反応、あるいは1成分を過剰に添加し反応させる。その後、再結晶法、蒸留法、溶剤抽出法などにより精製を行ってもよい。
【0041】
水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸は、化学式
CH3-[CH2]x-CHOH-[CH2]y-COOH
(式中、上式のx、yは、9≦x+y≦21(すなわち、x+y=(炭素数)-3である)を満足する0以上の整数である。)
で示されるものであってよく、例えばヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキジン酸、ヒドロキシベヘニン酸等が挙げられ、これらの中でも炭素数18であるヒドロキシステアリン酸がより好ましい。水酸基の位置は特に限定されないが、水酸基が12位についた12-ヒドロキシステアリン酸が好ましい。
【0042】
炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸は、化学式
CH3-[CH2]z-COOH
(式中、上式のzは、10≦z≦22(すなわち、z=(炭素数)-2である)を満足する整数である。)で示されるものであってよく、例えば、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、テトラコサン酸等が挙げられる。
【0043】
エステル(b)を構成するカルボン酸は、水酸基を有する炭素数18の直鎖飽和モノカルボン酸が60質量%以上で構成されていることが好ましく、65~95質量%の範囲であれば更に好ましい。水酸基を有する炭素数18の直鎖飽和モノカルボン酸が60質量%以上であれば、トナーの離型性が良好となり、印刷画像において巻き付きや低温オフセットが発生しにくくなり好ましい。
【0044】
エステル(b)において、水酸基を有する直鎖モノカルボン酸および水酸基を含まない直鎖モノカルボン酸の骨格を構成する炭素数が12以上の場合には、トナーを温度50℃程度の温度環境で保存してもトナー粒子のブロッキングが発生しにくく、該炭素数が24以下の場合には、トナーの離型性が良好となり、印刷画像において巻き付きや低温オフセットが発生しにくくなり好ましい。さらに水酸基を有する直鎖モノカルボン酸および水酸基を含まない直鎖モノカルボン酸の骨格を構成する炭素数14~22の直鎖モノカルボン酸が、印刷画像において用紙の定着ロールへの巻き付き防止や低温オフセットの防止効果が顕著となるので好ましい。
【0045】
エステル(b)の酸価は、3mgKOH/g以下が好ましく、2mgKOH/g以下が更に好ましい。酸価が3mgKOH/g以下の場合には、帯電性や、高温保存時の安定性の点で好ましい。
【0046】
〔ワックス組成物〕
本発明のワックス組成物は、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス(a)と水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)が質量比1:4~4:1であることが好ましく、より好ましくは2:3~3:2である。水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)の含有量を上記下限値以上とすることが、着色剤の分散性及び保存安定性の観点から好ましい。一方、水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)の含有量を上記上限値以下とすることが、離形性及び耐揮発性の観点から好ましい。
【0047】
なお、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス(a)は、それぞれ1種または2種以上を、水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)の1種または2種以上と配合することができる。
【0048】
このように、上記の直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス(a)と水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)とを、必要に応じて一定の比率で、混合することによって得られたワックス組成物は、トナー組成物中のワックス及び着色剤の分散性を向上させる事が可能となる。この機構については、以下のように考えられる。
【0049】
直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス単体の場合には、極性が低く、結晶性が高い為、ワックスが一度溶解後固化する際に、ワックスのみが凝集、結晶化する為、ワックスの分散性が低下し印字不良が発生する可能性がある。一方水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)は、極性高い水酸基を有することから、着色剤との親和性が高く、バインダー樹脂中での着色剤の分散性に寄与するが、ワックスの分散性が悪く、単体でトナーに配合した場合には、着色剤の分散性は向上するが、離形不良や保存性の悪化が発生する可能性がある。
【0050】
直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス(a)と水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)を組み合わせることで、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックスの結晶性や結晶化挙動、極性に変化を与えることにより、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス単体での凝集や結晶化による分散性の低下を著しく改善すると共に、水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)単体での離形不良や保存性悪化も大きく改善でき、トナー組成中でのワックスや着色剤の分散性が向上されると推測される。なお、エステル(b)は分子内に水酸基を有することから、ワックス(a)とは異なり、水酸基が多く存在したとしても遊離アルコール等により耐熱安定性を害することは生じない。むしろ、エステル(b)の水酸基は、ワックス組成物の分散性の向上等に寄与する。
【0051】
本発明のワックス組成物は、示差走査熱量計(DSC)により測定される吸熱曲線において、最大吸熱ピークのピークトップ温度が60℃以上100℃以下であることが好ましく、より好ましくは70℃以上90℃以下である。本発明に用いるワックス組成物のピークトップ温度が上記下限温度以上であると、トナー中での結晶化度が低くならず、保存性や現像性を低下させないため好ましい。また、上記上限温度以下であると、トナーの定着温度が高まらないため、好ましい。
【0052】
本発明のワックス組成物は、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス(a)と水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)は水酸基価が30以上かつヨウ素価が13以下であることが好ましい。
【0053】
ワックス組成物の水酸基価が低すぎる場合には、極性が低く、着色剤への親和性が低い為、バインダー樹脂中での着色剤の分散性が低下し印字不良が発生する可能性がある為、30mgKOH/g以上、160mgKOH/g以下が好ましい。更に、ワックス組成物のヨウ素価が高すぎる場合には、ワックスが単体で凝集し分散性が低下し、印刷画像において、巻き付きや低温オフセットが発生しやすくなる為、13以下が望ましい。なお、ヨウ素価の下限値は、通常、0.01mgである。更にワックス組成物は、酸価が10mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が10mgKOH/g以上であると、極性が低くなり、分散性が悪化する可能性がある為、酸価は10mgKOH/g以下である事が好ましく、本発明のワックス組成物を含有するトナー帯電性が更に良好となる。なお、ワックス(a)の酸価の下限値は、通常、0.01mgKOH/gである。
【0054】
ここで、ワックス組成物のヨウ素価は、日本油化学会の「2003年版基準油脂分析試験法」のJOCS 2.3.4.1-2013に準拠の方法により測定した値である。同様に酸価はJOCS 2.3.1-2013に準拠して測定することができる。ワックス組成物及びワックス(a)の水酸基価はJOCS 2.3.6.2-2013に準拠して測定することができる。
【0055】
〔ワックス組成物の製造方法〕
発明のワックス組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス(a)を製造後、水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)を配合して、更に後述する結着樹脂等を配合することで製造しても良い。
【0056】
直鎖モノカルボン酸と直鎖モノアルコールのモノエステルを含むワックス(a)と水酸基1個を有する炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸および炭素数12~24の直鎖モノカルボン酸からなる混合カルボン酸と、グリセリンとのエステル(b)を融点以上に加熱した上で、均一に混合した後に、ろ過、冷却、微粒子化等を行うことが、品質のばらつきの観点から好ましい。
【0057】
このようにして得られた本発明のワックス組成物は、トナーに低温定着性を付与することができるとともに、着色剤が良好に分散することによる高画質化を達成することができる。従って、本発明はトナー用ワックス組成物として好適に使用することができる。
【0058】
本発明のワックス組成物は、結着樹脂(バインダー樹脂ともいう)、着色剤、荷電制御剤などとともに配合され、通常の製法によってトナーが製造される。トナー中における本発明のトナー用ワックス組成物の配合量(添加量)は、トナー全体100重量部に対して通常、1~20質量部であり、好ましくは2~20質量部、さらに好ましくは8~20質量部、特に好ましくは12~20質量部である。下限値が上記範囲内であることで、トナーの耐熱保管性が良好に発現し、上限値が上記範囲内であることで、トナーの低温定着性が良好に発現できる。本発明のワックス組成物はトナーにおける分散性に優れるため、添加量を高めても塊状になることなくトナー内で存在できる。トナー中には、本発明のトナー用ワックス組成物が単独、あるいは2種類以上混合して配合される。トナーがワックス組成物を含有するか否かの確認方法は特に限定されないが、例えばトナー中のワックス成分が選択的に溶解する有機溶剤とトナーを攪拌する方法を用いてよい。攪拌により得られた抽出液を乾燥していくと残渣物中に白い固形物(ワックス)が得られる。
【0059】
当該抽出物を、例えば赤外分光分析装置(FT-IR),(示差走査熱量分析装置(DSC)、熱分解(GC/MS)装置を用いて測定する。各種のワックス及びエステル(b)の水酸基の標準ピークと比較することで、ワックス(a)およびエステル(b)の各構造を特定可能である。さらには、ワックス(a)のエステルを構成する高級アルコールのピークと、エステル(b)を構成する水酸基を有するカルボン酸のピークとを定量分析することでワックス(a)とエステル(b)との質量比率を算出できる。
【0060】
なお、結着樹脂、着色剤、及び、荷電制御剤の具体例としては以下の通りであり、公知の材料を適宜使用可能である。
【0061】
(結着樹脂)
結着樹脂としては、ポリエステル系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体樹脂、熱可塑性エラストマー、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα-オレフィン樹脂など)、ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなど)、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、テルペンフェノール樹脂、ポリ乳酸樹脂、水添ロジン、環化ゴム、シクロオレフィン共重合体樹脂等が挙げられる。これらは、単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも、トナーの画質特性、耐久性、生産性などの要求をバランスよく満たすことができるという観点から、ポリエステル系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体樹脂が好ましい。
【0062】
(着色剤)
着色剤は、ブラック用顔料、マゼンダ用顔料、シアン用顔料、イエロー用顔料、又はその他の色の顔料であってよい。ブラック用顔料としてはランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、ニグロシン染料等が、マゼンタ用顔料としてはローズベンガル、デュポンオイルレッド、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、41、48、49、50、51、52、53、54、55、57、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、163、202、206、207、209;C.I.ピグメントバイオレット19;C.I.バイオレット1、2、10、13、15、23、29、35等が、シアン用顔料としてはアニリンブルー、カルコオイルブルー、ウルトラマリンブルー、メチレンブルークロールイド、フタロシアニンブルー、C.I.ピグメントブルー2、3、15、16、17;C.I.バットブルー6;C.I.アシッドブルー45等が、イエロー用顔料としてはクロムイエロー、キノリンイエロー、C.I.ピグメントイエロ-1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、23、65、73、74、83、93、97、128、155、180が単独もしくは混合されて用いられる。特に混色性が良く色の再現性に優れているためにフルカラー用として好ましい着色剤としては、マゼンタはC.I.ピグメントレッド57、122、シアンはC .I.ピグメントブルー15 、イエローはC.I.ピグメントイエロー17、93、155、180が挙げられる。
【0063】
(帯電制御剤)
正帯電性の帯電制御剤としては、例えば、ニグロシンおよび脂肪酸金属塩等による変性物;トリブチルベンジルアンモニウム-1-ヒドロキシ-4-ナフトスルフォン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート等の第四級アンモニウム塩;ジブチルスズオキサイド、ジオクチルスズオキサイド、ジシクロヘキシルスズオキサイド等のジオルガノスズオキサイド;ジブチルスズボレート、ジオクチルスズボレート、ジシクロヘキシルスズボレート等のジオルガノスズボレート;ピリジウム塩、アジン、トリフェニルメタン系化合物、カチオン性官能基を有する低分子量ポリマー等が挙げられる。これらの正帯電性の帯電制御剤は、単独で、または2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの正帯電性の帯電制御剤の中でも、ニグロシン系化合物、第四級アンモニウム塩が好ましく用いられる。負帯電性の帯電制御剤としては、例えば、アセチルアセトン金属錯体、モノアゾ金属錯体、ナフトエ酸あるいはサリチル酸系の金属錯体または塩等の有機金属化合物、キレート化合物、アニオン性官能基を有する低分子量ポリマー等が挙げられる。
【0064】
これらの負帯電性の帯電制御剤は、単独で、または2種類以上組み合わせて用いることができる。これらの負帯電性の帯電制御剤の中でも、サリチル酸系金属錯体、モノアゾ金属錯体が好ましく用いられる。帯電制御剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、通常、0.1~5.0重量部の範囲であり、好ましくは0.5~3.0重量部である。
【実施例】
【0065】
以下に本発明のトナー用ワックス組成物の製造例、およびその評価方法を示すことで、本発明を更に具体的に説明する。
【0066】
〔トナー用ワックス組成物〕
以下に示す処方にてトナー用ワックス組成物(C-1)~(C-5)および比較用のワックス組成物を調製し、得られたワックス組成物の着色剤の分散性を表1に示した。なお、(C-1)~(C-5)は、実施例1~5に対応する。
【0067】
〔トナー用ワックス組成物(C-1)の調製〕
温度計、窒素導入管、攪拌羽および冷却管を取り付けた4つ口フラスコにライスワックス(直鎖状モノエステル含有率90%)を480g、硬化ヒマシ油を120g[(a):(b)=4:1]採取し、窒素下、100℃で加熱溶融して、内容物が均一になるように30分間加熱攪拌した。この混合物を室温で放冷して固化させて、ワックス組成物(C-1)を得た。ライスワックスの水酸基価は8であった。
【0068】
なお、直鎖状モノエステルの含有量の測定は、ガスクロマトグラフィー装置(島津サイエンス社製GC-2025)及びカラム(アジレント製DB-1HT)を使用し、気化室条件380℃、150℃から370℃へ昇温(5℃/分)、10分ホールドにてガスクロマトグラフィー測定を行い、総ピーク面積に対する直鎖状モノエステルのピーク面積の割合を算出することにより行った。以下のC-2~C-4及びD-1~D-5においても同様の方法で測定を行った。
【0069】
〔トナー用ワックス組成物(C-2)〕
ライスワックス:硬化ヒマシ油の質量比を1:1[(a):(b)=1:1]に調整した以外は(C-1)と同様の方法でトナー用ワックス組成物(C-2)を得た。ワックス組成中のライスワックスの水酸基価は8であった。
【0070】
〔トナー用ワックス組成物(C-3)〕
ライスワックス:硬化ヒマシ油の質量比を1:4[(a):(b)=1:4]に調整した以外は(C-1)と同様の方法でトナー用ワックス組成物(C-3)を得た。ワックス組成中のライスワックスの水酸基価は8であった。
【0071】
〔トナー用ワックス組成物(C-4)〕
ライスワックスとして水酸基価が25で直鎖モノエステル含有率78%のものを使用した以外は(C-2)と同様の方法でトナー用ワックス組成物(C-4)を得た。
【0072】
〔比較例1~5用のワックス組成物〕
トナー用ワックス組成物(D-1~D-5)において以下の変更点以外は、(C-1)と同様の方法にてトナー用ワックス組成物を得た。なお、(D-1)~(D-5)は、比較例1~5に対応する。
〔ワックス組成物(D-1)の調製〕
(D-1)では、(C-1)の硬化ヒマシ油の代わりにポリエチレンワックス(三井化学社製 三井ハイワックス320P)を使用した。ワックス組成中のライスワックスの水酸基価は8であった。
【0073】
〔ワックス組成物(D-2)の調製〕
(D-2)では、硬化ヒマシ油を使用せず、ライスワックス単体を用いた。ワックス組成中のライスワックスの水酸基価は8であった。
【0074】
〔ワックス組成物(D-3)の調製〕
(D-3)では(C-3)の硬化ヒマシ油の代わりにモノカルボン酸単体を用いた。ワックス組成中のライスワックスの水酸基価は8であった。
【0075】
〔ワックス組成物(D-4)の調製〕
(D-4)ではライスワックスを使用せず、硬化ヒマシ油単体を用いた。。
【0076】
〔ワックス組成物(D-5)の調製〕
(D-5)では(C-2)のライスワックスの代わりにカルナウバワックスを使用した。ワックス組成中のエステルワックスの水酸基価は38であった。
【0077】
〔ワックス組成物の評価方法〕
(C-1)~(C-5)及び(D-1)~(D-5)のワックス組成物の酸価、ヨウ素価、及び、水酸基価を下記の方法により評価した。
(1)ワックス組成物の酸価;JOCS(日本油化学会)2.3.1-2013に準拠した。
【0078】
(2)ワックス組成物のヨウ素価;JOCS(日本油化学会)2.3.1-2013に準拠した。
【0079】
(3)ワックス組成物及びワックス(a)の水酸基価;JOCS(日本油化学会)2.3.6.2-2013に準拠した。
【0080】
(4)ワックス組成物の熱特性
(C-1)~(C-4)及び(D-1)~(D-5)のワックス組成物の熱特性を評価した。ワックス組成物の熱特性の測定には、島津サイエンス社製の「DSC-50」を使用した。測定は、約20mgのワックス組成物C-1~C-3及びD-1~D-3をそれぞれアルミ製の試料ホルダーに入れ、リファレンス材料としてアルミナを用いて行い、窒素雰囲気下(200ml/min)、5℃/minで常温℃から120℃まで昇温後、再度-5℃/minで0℃まで冷却後、再度5℃/minで120℃まで昇温した際の熱特性を確認した。その結果を後述する表2~3に示す。
【0081】
〔ワックス組成物を用いた着色剤分散性評価〕
[実施例1]
実施例1において(C-1)に係るワックス組成物をそれぞれ樹脂(ポリエステル、着色剤(ピグメントレッド)、電荷調整剤(カチオン性官能基を有する低分子量ポリマー)等とミキサーにて十分撹拌混合した後、二軸の溶融押し出し式混練機で130~140℃の温度で加熱混練をした。混練物は分散状態を評価した。混練後、冷却し、カッター粉砕機で粗粉砕後、ジェットミルにて微粉砕を行い、分級をして各色相のトナーを得た。なお、トナーにおけるワックス組成物の添加量(含有量)を10質量%とした。
【0082】
また、混練混合物の一部を、光学顕微鏡を用いて断面観察を行い、着色剤および離型剤の分散性を評価した。具体的には、着色剤及びワックスの分散性は、着色剤の最も大きい塊のドメイン径を測定して3μm未満であれば○、3μm以上6μm未満であれば△、6μm以上であれば×と評価した。また、離型剤の分散性は、着色剤の最も大きい塊のドメイン径を測定して5μm未満であれば○、5μm以上10μm未満であれば△、10μm以上であれば×と評価した。
○:着色剤粒子が凝集することなく均一に分散している。
△:僅かな凝集が認められる。
×:凝集して空隙がみられる。
【0083】
〔耐熱保管性〕
実施例及び比較例に係るワックス組成物を含有したトナーの凝集度を、以下の方法で測定し、トナーの耐熱保管性を評価した。詳しくは、トナー20gを、容量200mLのポリ容器に投入し、50℃に設定された恒温恒湿器(エスペック株式会社製「PH-3KT」)に48時間静置させ取り出した。次に、目開き150μm、目開き75μm、目開き45μmの3種類の篩を順にパウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製 PT-S )に取り付けた。目開き150μmの篩上に耐熱保存性評価用のトナー2gを投入した。レオスタッド目盛り2、時間10秒の条件で、耐熱保存性評価用のトナーを篩別した。篩上に残留したトナーの質量を測定した。測定したトナーの質量から下記式に従い、トナーの凝集度(質量%)を算出した。凝集度が20質量%未満であるトナーを、トナーの耐熱保存性が良好であると評価した。
【0084】
凝集度(質量%)=a+b+c
a=(目開き150μmの篩上の残存トナー重量/2)×100
b=(目開き75μmの篩上の残存トナー重量/2)×100×(3/5)
c=(目開き45μmの篩上の残存トナー重量/2)×100×(1/5)
【0085】
〔低温定着性〕
実施例及び比較例で得たトナーを測定対象とし、市販の複写機(ミノルタ社製 商品名;EP-870Z)の熱定着ロールの設定温度を120℃に設定し、未定着画像を有した転写紙のトナー像の定着を行った。そして、形成された定着画像に対して綿パッドによる摺擦を施し、下記式によって定着強度を算出し低エネルギー定着性の指標とした。
定着強度=(摺擦後の定着画像の画像濃度/摺擦前の定着画像の画像濃度)×100(%)定着強度が80%以上、70%以上80%未満、60%以上~70%未満、60%未満の場合、それぞれ、低温定着性が◎、○、△、×と評価した。
【0086】
[実施例2~5]
(C-1)の代わりに(C-2)~(C-4)に係るワックス組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によりトナーを得た。ただし、実施例5ではポリエステルの代わりにスチレン-アクリル酸系共重合体を用いた。実施例2~5においても、実施例1と同様に、分散性、耐熱保管性、低温定着性の評価を行った。
【0087】
[比較例1~5]
(C-1)の代わりに(D-1)~(D-5)に係るワックス組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によりトナーを得た。比較例1~5においても、実施例1と同様に、分散性、耐熱保管性、低温定着性の評価を行った。実施例1~5及び比較例1~5の評価の結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
実施例1~5のワックス組成物(C-1)~(C-4)は、表1に示すように、いずれも酸価が低く、水酸基価が高い為、極性が高い水酸基と着色剤との親和性が高まり、良好な着色剤の分散性を示した。
【0092】
表2~3は、ワックス組成物(C-1)~(C-4)及び(D-1)~(D-5)の示差走査熱量計(DSC)による吸熱曲線を示す。表2の結果よりワックスの結晶性を低下させる事により良好な分散性を示し、更に吸熱ピークが60~100℃の範囲を示し、低温定着性に優れる結果であった。これら組成物をトナー用ワックスとして使用すると、バインダー樹脂中で着色剤が高分散され、高画質化に寄与することができる。
【0093】
表1~表3より比較例1~2は酸価が著しく低いこと、さらに吸熱ピークがシャープであり、ワックスが一度溶解後固化する際に、ワックスのみが凝集、結晶化し、ワックスの分散性及び着色剤の分散性が低い結果となった。また、比較例3では水酸基価が低いが酸価が高いため、極性が高く、分散性は良好な結果であるが、耐熱保管性が劣る結果となった。比較例4ではライスワックスを含有せず硬化ヒマシ油単体を用いた為、ワックスの分散性が悪化した。比較例5はライスワックスの代わりにカルナウバワックスを用いた。カルナバワックスは直鎖状モノエステルの含有率が低く、更に樹脂等も多く含有している為、ワックス組成物中の水酸基価が実施例4と近い値であっても分散性が劣っていた。
【0094】
表1~表3の結果から、本発明のトナーは着色剤の分散性が良好かつ低温定着性が良好であり、さらに耐熱保管性に優れ、印字特性も良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明により、着色剤の分散性に優れ、透明性が高く、高品位画像特性を有し、かつ耐熱保管性に優れたワックス及び該ワックスを用いたトナーを提供することが出来る。