(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】旅行時間推定方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20220428BHJP
【FI】
G08G1/00 C
(21)【出願番号】P 2021195929
(22)【出願日】2021-12-02
【審査請求日】2021-12-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593153428
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521527440
【氏名又は名称】日下部 貴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】日下部 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 潤
(72)【発明者】
【氏名】細江 雅希
【審査官】秋山 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-194361(JP,A)
【文献】特開2021-018697(JP,A)
【文献】特開2019-159831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深層学習を用いた第一のモデルと第二のモデルを使用し、
前記第一のモデルにより自動車専用道路における所定の連続区間の上流側流入交通量の増減を予測し、
前記第二のモデルにより、前記第一のモデルで予測された前記上流側流入交通量に基づき前記連続区間の旅行時間を予測し、
一時点の入力情報に対する出力情報を他の時点の入力情報としてフィードバック
し、前記上流側交通量の増減の予測値と前記旅行時間の予測値を、予測を開始する時刻以降、所定の時間間隔で算出することを特徴とする旅行時間予測方法。
【請求項2】
前記第一のモデルの入力情報に、時刻、曜日、月、気象情報、及び、前記上流側流入交通量が含まれる請求項1に記載の旅行時間予測方法。
【請求項3】
前記第一のモデルの入力情報に、長期休暇の情報、集中工事の情報、及び、連休の情報が更に含まれる請求項2に記載の旅行時間予測方法。
【請求項4】
前記第二のモデルの入力情報に、前記上流側流入交通量の前記第一のモデルによる予測値、前記所定の連続区間の下流側流出交通量、及び、予測時刻直近の旅行時間が含まれる請求項1、2又は3に記載の旅行時間予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車専用道路を使用する車両が所定の地点まで移動するために要する旅行時間を推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車専用道路を使用する車両が所定の地点まで移動するために要する旅行時間は、熟練者の知識と経験に基づいて予測されていた。しかしながら、熟練者の知識と経験に基づいた予測は、予測主体により結果が変わる可能性がある。そこで、深層学習(ディープラーニング)を利用した予測手法が提案されている。
【0003】
例えば、特開平9-62979号公報には、予測用ニューラルネットワークの入力を各区間における所定周期の各交通流データとし、出力を各区間のうち予測対象範囲における車両旅行時間変化の傾きの予測値とし、予測対象範囲における実証された実績旅行時間変化の傾きを教師信号として予測ニューラルネットワーク内の重み係数を学習させ修正し、旅行時間変化の傾きの予測値に基づいて渋滞の増加減少傾向を判定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、深層学習を利用した従来の予測手法では、道路に対する車両の流出入の生じる区間において精度の高い予測を行うことが難しかった。また、予測対象時に応じた、例えば、現在時刻から数時間後の状況を予測する場合と将来の祝祭日における状況を予測する場合とでは、異なるモデルを構築する必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、自動車専用道路を使用する車両が所定の地点まで移動するために要する旅行時間を、道路に対する車両の流出入の生じる区間であっても、様々な予測対象時に対し、演算処理により高い精度で予測すること可能とする旅行時間推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る旅行時間推定方法では、深層学習を用いた第一のモデルと第二のモデルを使用し、前記第一のモデルにより自動車専用道路における所定の連続区間の上流側流入交通量の増減を予測し、前記第二のモデルにより、前記第一のモデルで予測された前記上流側流入交通量に基づき前記連続区間の旅行時間を予測する。また、一時点の入力情報に対する出力情報を他の時点の入力情報としてフィードバックし、前記上流側交通量の増減の予測値と前記旅行時間の予測値を、予測を開始する時刻以降、所定の時間間隔で算出する。
【0008】
前記第一のモデルの入力情報に、時刻、曜日、月、気象情報、及び、前記上流側流入交通量が含まれていてもよい。
【0009】
前記第一のモデルの入力情報に、長期休暇の情報、集中工事の情報、及び、連休の情報が更に含まれていてもよい。
【0010】
前記第二のモデルの入力情報に、前記上流側流入交通量の前記第一のモデルによる予測値、前記所定の連続区間の下流側流出交通量、及び、前記旅行時間が含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る旅行時間推定方法によれば、自動車専用道路における所定の連続区間の上流側流入交通量の増減を予測する第一のモデルと、第一のモデルで予測された上流側流入交通量に基づき前記連続区間の旅行時間を予測する第二のモデルを用いることにより、道路に対する車両の流出入の生じる区間の旅行時間を推定することができる。また、一時点の入力情報に対する出力情報を他の時点の入力情報としてフィードバックすることにより、様々な予測対象時に対する旅行時間の推定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る旅行時間推定方法の実施形態の処理フロー図である。
【
図2】渋滞減少時における渋滞と流入交通量及び流出交通量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照しながら、本発明に係る旅行時間推定方法の実施形態を説明する。
この実施形態は、自動車専用道路の所定区間において、利用者の車両がその区間を移動するために要する旅行時間を推定するものであり、予測対象区間の上流側流入交通量の増減を予測する需要予測モデル1と、予測対象区間の旅行時間を予測する交通状況予測モデル2が使用されている。
【0014】
需要予測モデル1は本発明の第一のモデルに、交通状況予測モデル2は本発明の第二のモデルに相当し、何れも、LSTM(Long Short Term Memory)モデルをベースとして、以下に示す項目のデータで構成される学習データを使用した深層学習により得られたモデルである。
【0015】
「天候データ」
自動車専用道路を利用する者の行動に影響を与えていると考えられることから、学習データを構成するデータ項目とされている。気象庁からホームページを介して公に提供されている統計データを利用してもよい。この実施形態では、旅行時間の予測対象となる区間に存在する気象台やアメダス設置地点の降水量、降雪量及び積雪深のデータが想定されている。
【0016】
「カレンダーデータ」
交通需要は、一般に、季節及び時刻による周期性を持っていることから、学習データを構成するデータ項目とされている。この実施形態では、次のフラグが設定されている。なお、フラグの値は0または1とされる。
・長期休暇フラグ:年末年始/ゴールデンウィーク/お盆/シルバーウィーク
・集中工事フラグ:自動車専用道路での集中工事日
・曜日フラグ:祝日を日曜日とみなした七曜日毎
・週末連休フラグ:土曜日/日曜日/連休前日の平日
・連休初日フラグ
・連休中日フラグ
・連休最終日フラグ
【0017】
「交通量データ」
旅行時間の推定対象となる区間において計測された通過車両数のデータである。この実施形態では、旅行時間の推定対象となる区間に設置されたトラフィックカウンタにより得られたデータが採用されている。
【0018】
「所要時間データ」
旅行時間の推定対象となる区間において観測された所要時間のデータである。この実施形態では、旅行時間の推定対象となる区間に設置されたトラフィックカウンタにより得られた、車両走行速度データに基づき、タイムスライス法で算出されたデータが採用されている。対象区間全体及び対象区間を二分割した各々の区間の三区間について、出発時刻(区間上流端)ベースと、到着時刻(区間下流端)ベースの所要時間が算出されている。
【0019】
なお、深層学習は、以下に示す学習試行パタンにより実施されている。
「入力時系列長」
学習時及び予測時に入力として与えるシーケンスデータの長さを指し、予測時点の交通状況はどれほど前の交通状況から影響を受けていると見做すか、という意味合いとなる。長く設定すればより以前の交通状況を勘案できる一方、それらの影響が直近の交通状況に比して相対的に小さい場合にはモデルの予測性能を低下させる原因ともなり得るため、適切な長さの設定が重要となる。この実施形態では、需要予測モデル1については二時間、六時間、十二時間の3パタンが試行されている。交通状況予測モデル2については、元となっている交通工学モデルから、対象区間を車両が通過する所要時間分の長さがあれば十分と考えられるため、二時間固定とされている。
【0020】
「予測時系列長」
モデルが予測結果として出力するシーケンスデータの長さを指す。モデル学習時にはこのシーケンスデータ全体の誤差を最小化するよう働くため、長く設定すればより先の将来の交通状況も予測できる一方、短く設定したモデルと比較すると直近の将来の精度が良くならない可能性がある。従ってバランスの取れた設定が重要となる。この実施形態では、需要予測モデル1、交通状況予測モデル2ともに、一時間、三時間、六時間の3パタンが試行されている。
【0021】
「特徴量」
モデルに入力として与える数値情報を指す。結果に大きく寄与するような特徴量を採用しなければ当然に予測精度は低くなる一方、些末な特徴量を過度に与えると、学習にかかる計算時間の増加や、汎用的な予測性能が低下する過学習等が発生するため、過不足のない特徴量選択が重要となる。また、運用時には将来時点の値(予報値等)を入力に与える必要もあることから、予報値の入手可能性も考慮する必要がある。
【0022】
需要予測モデル1では、予測時点より前の交通量を元に予測時点の交通量を推定するため、「交通量」が特徴量となる。なお、将来の交通量はモデル自身が予測した結果を用いる。また、交通需要は一般に季節及び時刻による周期性を持っているため、「月」及び「時刻」を特徴量とした。さらに、利用者の行動に影響を与えていると考えられる「曜日フラグ」「長期休暇フラグ」「集中工事フラグ」「天候(降水量)」を特徴量に加えた。更に、入力時系列長が二時間の場合において「AM4:00からの累積交通量」を加えるパタンを追加した。将来交通量は現在までの累積交通量の影響を受けると考えられ、これを加えることで入力時系列長が短くても交通量に関して十分遡った時刻からの状況を考慮できる点から、試行パタンの一つとした。
【0023】
交通状況予測モデル2では、流入出交通量及び旅行時間の関係性によって一定の精度を得ることとされている。従って、「流入交通量」、「流出交通量」及び「旅行時間」を特徴量とした。
【0024】
需要予測モデル1は、
図1に示すように、カレンダーデータ11、天候データ12及び上流側流入交通量データ13を入力情報とし、これら入力情報に基づき、所定時間後における予測対象区間の上流側流入交通量予測値3を算出する。また、上流側流入交通量予測値3を入力情報としてフィードバックすることにより、予測を開始する時刻以降、所定の時間間隔で、上流側流入交通量予測値3を算出する。そして、算出された上流側流入交通量予測値3が、交通状況予測モデル2の入力情報とされる。
【0025】
なお、上流側流入交通量予測値3が入力情報としてフィードバックされる際、カレンダーデータ11及び天候データ12が初期値から変化している場合は、例えば、日付や天候が変わる場合や工事が終了する場合は、変化後の値が入力される。ただし、予測期間の継続時間は、通常、数時間程度であるため、多くの場合、カレンダーデータ11及び天候データ12の初期値からの変動は無いものとみなすことができる。
【0026】
交通状況予測モデル2は、上流側流入交通量予測値3、所要時間データ14及び下流側流出交通量データ15を入力情報とし、これら入力情報に基づき、所定の時間後における予測対象区間の旅行時間予測値4と予測対象区間の下流側流出交通量予測値5を算出する。また、旅行時間予測値4と下流側流出交通量予測値5を入力情報としてフィードバックすることにより、予測を開始する時刻以降、所定の時間間隔で、旅行時間予測値4と下流側流出交通量予測値5を算出する。
【0027】
この実施形態において、需要予測モデル1及び交通状況予測モデル2が予測値を算出する時間間隔は五分とされているが、学習データの内容や予測値の算出条件等を考慮し、適切な時間間隔に設定することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 需要予測モデル
2 交通状況予測モデル
3 上流側流入交通量予測値
4 旅行時間予測値
5 下流側流出交通量予測値
11 カレンダーデータ
12 天候データ
13 上流側流入交通量データ
14 所要時間データ
15 下流側流出交通量データ
【要約】 (修正有)
【課題】自動車専用道路を使用する車両が所定の地点まで移動するために要する旅行時間を、道路に対する車両の流出入の生じる区間であっても、様々な予測対象時に対し、演算処理により高い精度で予測することを可能とする旅行時間推定方法を提供する。
【解決手段】深層学習を用いた第一のモデルと第二のモデルを使用し、前記第一のモデルにより自動車専用道路における所定の連続区間の上流側流入交通量の増減を予測し、前記第二のモデルにより、前記第一のモデルで予測された前記上流側流入交通量に基づき前記連続区間の旅行時間を予測する。また、一時点の入力情報に対する出力情報を他の時点の入力情報としてフィードバックする。
【選択図】
図1