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特許7065439結晶性ZrO2膜の製造方法および結晶性ZrO2膜
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  • 特許-結晶性ZrO2膜の製造方法および結晶性ZrO2膜 図1
  • 特許-結晶性ZrO2膜の製造方法および結晶性ZrO2膜 図2
  • 特許-結晶性ZrO2膜の製造方法および結晶性ZrO2膜 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】結晶性ZrO2膜の製造方法および結晶性ZrO2膜
(51)【国際特許分類】
   C30B 25/02 20060101AFI20220502BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20220502BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20220502BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C30B25/02 Z
C01G25/02
C30B29/16
C23C16/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2016216766
(22)【出願日】2016-11-04
(65)【公開番号】P2018070437
(43)【公開日】2018-05-10
【審査請求日】2019-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(72)【発明者】
【氏名】藤田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴博
(72)【発明者】
【氏名】人羅 俊実
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-305233(JP,A)
【文献】特開2012-089836(JP,A)
【文献】特開平04-311571(JP,A)
【文献】Thin Solid Films,1999年,340,p.72-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00/-35/00
C01G 25/00-25/06
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ZrO膜の前駆体溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を用いて、基体上に結晶性ZrO膜を製造する方法であって、前記前駆体溶液が、ジルコニウムの有機金属錯体および有機溶媒を含み、前記の霧化または液滴化後、前記ミストまたは前記液滴をキャリアガスを用いて前記基体近傍まで搬送し、ついで、前記ミストまたは前記液滴を熱反応させることにより、前記基体がX線回折線のピークを有する基板であり、前記基体上に、立方晶の結晶構造を有する非粒状の結晶性ZrO膜を形成することを特徴とする結晶性ZrO膜の製造方法。
【請求項2】
前記熱反応を、大気圧下で行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱反応を、500℃以下の温度で行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱反応を、前記搬送後、前記ミストまたは液滴を加熱することにより行う請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
熱安定化ドーパントを用いずに熱的に安定化された結晶性ZrO膜であって、非粒状膜であり、立方晶の結晶構造を有することを特徴とする結晶性ZrO膜。
【請求項6】
室温において立方晶の結晶構造を有する請求項5記載の結晶性ZrO膜。
【請求項7】
多結晶膜である請求項5または6に記載の結晶性ZrO膜。
【請求項8】
膜厚が0.5μm以上である請求項5~7のいずれかに記載の結晶性ZrO膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品、電気機器、電子部品、燃料電池、太陽電池、車両、産業用機器などに有用な結晶性ZrO膜の製造方法および結晶性ZrO膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア(酸化ジルコニウム)膜は、高い耐熱性及び耐食性、低い熱及び電気伝導性等の特性を有し、耐熱用保護膜、耐食用保護膜、光学薄膜等として利用される。その形成方法としては、金属酸化物の薄膜形成方法として何れも従来から良く知られているプラズマスプレー法や真空蒸着法が一般に用いられる。
ジルコニアは、常温では単斜晶系であるが、温度を上げていくとその結晶系が正方晶系に相転移する。この相転移は可逆的なものであるが、単斜晶系から正方晶系への相転移は、約4%の体積収縮を伴うので、昇降温を繰り返すことによってジルコニアが破壊に至る場合がある。この破壊を防ぐために、ジルコニアに酸化イットリウム等の熱安定化ドーパントを固溶させ、熱的に安定化させたのが安定化ジルコニアである。
【0003】
特許文献1には、エアロゾル化ガスデポジション法を用いて、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子を基材上に堆積させることにより、ジルコニア膜を作製することが記載されている。また特許文献2には、スカンジア安定化ジルコニア膜の前駆体を焼成することによって、スカンジア安定化ジルコニア膜を作製することが記載されている。しかしながら、特許文献1および特許文献2のように、熱安定化ドーパントをドーピングすることによってジルコニア膜を熱的に安定化させた場合には、ジルコニア膜の機械的な特性の低下などが生じ、ジルコニア及びジルコニア膜が本来有しているはずの特性を十分に発揮することができないなどの問題があった。
【0004】
一方、YSZのように熱安定化ドーパントを添加することなく、熱的に安定化されたジルコニアを作製する方法が検討されている。非特許文献1には、エアロゾル化したジルコニアの原料溶液を、筒状の反応炉を通過させることによって、熱安定化ドーピングを行うことなく、正方晶の結晶構造を有する結晶性ZrOナノ粒子を製造することが記載されている。しかしながら、非特許文献1に記載されている方法では、溶媒が急激に蒸発するのを防ぐために、反応炉の長さを十分にとらなければならず、さらに、段階的に温度を上げて加熱するように構成する必要があるなど、製造プロセスが複雑となる問題があった。また、成膜が困難であり、粒子状になってしまう問題があった。そのため、成膜が可能であり、結晶性ジルコニア本来の性能を生かし、且つ工業上利用価値の高い結晶性ジルコニア膜が待ち望まれていた。
【0005】
また、非特許文献2には、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法を用いて、熱安定化ドーピングを行うことなく、ナノ結晶によって安定化されたZrOのナノ粒子膜を作製することが記載されている。しかしながら、非特許文献2に記載の方法で作製されたZrOのナノ粒子膜は、粒子径が10nm程度の単相の結晶粒と非晶質部分とからなる粒状混相膜であり、さらに、アルゴン等の気泡が膜中に混入するなど、結晶性ZrO相によって構成された膜ではなかった。さらに、IBAD法は、真空装置等の大掛かりな設備を用いる必要があるなど、非特許文献2に記載の方法では、工業的な課題が多く、また、結晶性ZrOの非粒状膜を得ることができず、良好な非粒状の結晶性ZrO膜を製造することが困難であった。そのため、熱安定化ドーピングを行うことなく、簡単且つ容易に、熱的に安定した非粒状の結晶性ZrO膜を作製する方法が求められており、結晶性ZrOの非粒状膜であって、膜質が良好である、工業的に有用な結晶性ZrO膜が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-84787号公報
【文献】特開2016-108165号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Djurado, E., and E. Meunier. "Synthesis of doped and undoped nanopowders of tetragonal polycrystalline zirconia (TPZ) by spray-pyrolysis." Journal of Solid State Chemistry 141.1 (1998): 191-198.
【文献】Zhang, Yanwen, et al. "Grain growth and phase stability of nanocrystalline cubic zirconia under ion irradiation." Physical Review B 82.18 (2010): 184105.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、工業的有利に、熱安定化ドーピングを行うことなく、熱的に安定化された結晶性ZrO膜を製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、スプレー熱分解法などによれば、アモルファスのZrO膜が得られていたが(基板に対して原料ミストを噴射するため、基板との衝突やその際の衝突エネルギー等がアモルファス形成に影響していたのかもしれないが)、ミストCVD法を用いて結晶性ZrO膜を成膜すると、驚くべきことに、熱安定化ドーパントを用いなくても熱的に安定化されており、室温においても相転移しない非粒状膜が得られることを見出し、特に、熱的に安定な、立方晶の結晶構造を有する結晶性ZrO膜が簡便に得られることを見出し、このような製造方法が上記従来の問題を一挙に解決できるものであることを知見した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 結晶性ZrO膜の前駆体溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を用いて、基体上に結晶性ZrO膜を製造する方法であって、前記前駆体溶液が、ジルコニウムの有機金属錯体および有機溶媒を含み、前記の霧化または液滴化後、前記ミストまたは前記液滴をキャリアガスを用いて前記基体近傍まで搬送し、ついで、前記ミストまたは前記液滴を熱反応させることにより、前記基体上に、立方晶の結晶構造を有する非粒状の結晶性ZrO膜を形成することを特徴とする結晶性ZrO膜の製造方法。
[2] 前記熱反応を、大気圧下で行う前記[1]記載の製造方法。
[3] 前記熱反応を、500℃以下の温度で行う前記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 前記熱反応を、前記搬送後、前記ミストまたは液滴を加熱することにより行う前記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 熱安定化ドーパントを用いずに熱的に安定化された結晶性ZrO 膜であって、非粒状膜であり、立方晶の結晶構造を有することを特徴とする結晶性ZrO 膜。
[6] 室温において立方晶の結晶構造を有する前記[5]記載の結晶性ZrO 膜。
[7] 多結晶膜である前記[5]または[6]に記載の結晶性ZrO 膜。
[8] 膜厚が0.5μm以上である前記[5]~[7]のいずれかに記載の結晶性ZrO 膜。
[9] 立方晶の結晶構造を有する結晶性ZrO 膜を熱安定化させる方法であって、前記結晶性ZrO 膜の成膜にミストCVD法を用いることを特徴とする結晶性ZrO 膜の熱安定化方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、工業的有利に、熱安定化ドーピングを行うことなく、熱的に安定した非粒状の結晶性ZrO膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明において用いられる成膜装置(ミストCVD)の概略構成図である。
図2】実施例1におけるXRDの測定結果を示す図である。
図3】実施例1におけるTEM観察の結果(TEM断面図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の結晶性ZrO膜は、熱安定化ドーパントを用いずに熱的に安定化された結晶性ZrO膜であって、立方晶の結晶構造を有する非粒状膜であることを特長とする。前記結晶性ZrO膜は、ZrO結晶またはその混晶を主成分として含む膜であればそれでよく、「主成分」とは、例えば前記結晶性ZrO膜がZrO結晶である場合、膜中の金属元素中のZrの原子比が0.5以上の割合でZrO結晶が含まれていればそれでよい。本発明においては、前記膜中の金属元素中のZrの原子比が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であるのがより好ましい。
【0014】
本発明において、「熱的に安定化された」とは、室温だけでなく、加熱しても、結晶性ZrO膜が相転移しないことをいい、より具体的には、例えば、室温(例えば、25℃)~500℃においても結晶性ZrO膜が相転移しないことをいう。「相転移」とは、固相間の相転移のうち、結晶構造が変化する構造相転移をいう。通常、相転移の有無の確認は、X線回析法を用いて行う。
【0015】
また、本発明において、「熱安定化ドーパントを用いずに熱的に安定化された」とは、熱安定化ドーパントによって熱的に安定化されていないことを意味し、形式的にドーパントが含まれていてもよく、熱安定化の目的以外の目的でドーパント(非熱安定化ドーパント)が含まれていてもよい。例えば、電気特性を付与する目的で、n型ドーパントやp型ドーパントが非熱安定化ドーパントとして含まれていてもよい。非熱安定化ドーパントが含まれている場合には、その含有量などは特に限定されないが、本発明においては、膜中の非熱安定化ドーパント濃度が、0.01原子%以下であるのが好ましい。「形式的にドーパントが含まれている」とは、ドーパントが含まれている場合であっても、含まれていない場合であっても、前記結晶性ZrO膜が熱的に安定化されていることをいう。前記非熱安定化ドーパントとしては、特に限定されないが、例えば、ニオブ、バナジウムなどが挙げられる。
【0016】
本発明において、「非粒状膜」とは、粒状ではない膜を意味し、例えばTEM観察において、粒界の確認や平均粒径の算出が困難である場合の膜をいう。また、前記結晶性ZrO膜は、通常、層状膜であり、単層状膜であってもよいし、2以上の結晶性ZrO層からなる多層状膜であってもよいが、本発明においては、多層状膜であるのが好ましい。また、前記結晶性ZrO膜は、単相膜であってもよいし、2以上の結晶相を有する多相膜であってもよい。前記単相膜は、単一の結晶構造を有するZrO相によって構成されている結晶性ZrO膜をいう。前記多相膜は、2以上の異なる結晶構造を有するZrO相によって構成されている結晶性ZrO膜をいう。前記結晶構造の種類は、立方晶がより好ましい。また、前記結晶性ZrO膜は、単結晶からなる膜であってもよいし、多結晶からなる膜であってもよい。

【0017】
前記結晶性ZrO膜の膜厚は、特に限定されないが、本発明においては、膜厚が約0.1μm以上であるのが好ましく、約0.5μm以上であるのがより好ましい。また膜厚の上限は特に限定されないが、約100μmであるのが好ましく、約50μmであるのがより好ましい。
【0018】
本発明においては、前記結晶性ZrO膜がミストCVD法によって、熱安定化ドーピングせずに基体上に形成されたものであるのが好ましく、さらに、立方晶の結晶構造を有するものであるのがより好ましい。以下、前記結晶性ZrO膜製造の好適な態様を説明する。
【0019】
前記結晶性ZrO膜は、結晶性ZrO膜の前駆体溶液を霧化または液滴化し(霧化・液滴化工程)、得られたミストまたは液滴をキャリアガスを用いて基体近傍まで搬送し(搬送工程)、ついで、前記ミストまたは液滴を熱反応させることにより前記基体上に前記結晶性ZrO膜を成膜する(成膜工程)ことにより、好適に得られる。
【0020】
(霧化・液滴化工程)
霧化・液滴化工程は、前記前駆体溶液を霧化または液滴化する。霧化手段または液滴化手段は、前記前駆体溶液を霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段または液滴化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミストまたは液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストが、衝突エネルギーによる損傷がないためにより好ましい。液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは1~10μmである。
【0021】
(前駆体溶液)
前記結晶性ZrO膜の前駆体溶液は、ジルコニウムを含み、且つ霧化または液滴化が可能な溶液または分散液であれば、特に限定されない。前記前駆体溶液としては、例えば、ジルコニウムの有機金属錯体(例えばアセチルアセトナート錯体等)やハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物等)を含む溶液または分散液などが挙げられる。本発明においては、立方晶の結晶構造を有する結晶性ZrO膜を作製する場合には、前記前駆体溶液が、ジルコニウムの有機金属錯体を含むのが好ましい。ジルコニウムの有機金属錯体は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記有機金属錯体としては、例えば、シアノ錯体、カルボニル錯体、シクロペンタジエン錯体、アセチルアセトナート錯体、アセチル錯体などが挙げられるが、本発明においては、前記有機金属錯体が、アセチルアセトナート錯体であるのが、より優れた膜状の立方晶ZrOが得られるため、好ましい。また、正方晶の結晶性ZrO膜を作製する場合には、前記前駆体溶液が、例えば、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムなどの水溶性ジルコニウム化合物を含むのが好ましい。前駆体溶液中のジルコニウムの含有量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは、0.001モル%~50モル%であり、より好ましくは0.01モル%~50モル%である。
【0022】
また、前駆体溶液は、さらに、酸や塩基等のその他添加剤が含まれていてもよい。前記酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などが挙げられる。
前駆体溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、立方晶の結晶構造を有する結晶性ZrO膜を作製する場合には、前記溶媒が有機溶媒を含むのが好ましく、アルコールを含むのがより好ましく、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)を含むのが最も好まししい。また、正方晶の結晶構造を有する結晶性ZrO膜を作製する場合には、前記溶媒が水であるのが好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。
【0023】
(基体)
前記基体は、前記膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されない。
【0024】
前記基板は、板状であって、前記結晶性ZrO膜の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、導電性基板であってもよい。前記基板としては、例えば、ガラス基板、高分子基板、金属基板、サファイア基板、YSZ基板などが挙げられるが、本発明においては、前記基板が、c面サファイア基板またはYSZ基板であるのが好ましい。
【0025】
(搬送工程)
搬送工程では、キャリアガスでもって前記ミストまたは前記液滴を成膜室内に設置されている基体近傍まで搬送する。前記キャリアガスとしては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが好適な例として挙げられる。本発明においては、前記キャリアガスが不活性ガスであるのが好ましい。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、流量を下げた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~2L/分であるのが好ましく、0.1~1L/分であるのがより好ましい。
【0026】
(成膜工程)
成膜工程では、成膜室内に設置されている基体近傍で前記ミストまたは液滴を熱反応させることによって、前記基体上に前記結晶性ZrO膜を成膜する。熱反応は、熱でもって前記ミストまたは前記液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。通常、前記熱反応を、前記搬送後、前記ミストまたは液滴を加熱することにより行う。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、高すぎない温度(例えば1000℃)以下が好ましく、650℃以下がより好ましく、500℃以下が最も好ましい。なお、下限は、特に限定されないが、通常、50℃以上であり、好ましくは、100℃以上であり、より好ましくは、300℃以上である。本発明の製造方法によれば、例えば、原料溶液として、アセチルアセトナート錯体を用いる場合であって、立方晶の結晶構造を有する結晶性ZrO膜を作製する場合には、500℃以下の温度であっても良質な結晶性ZrO膜を得ることができる。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は、成膜時間を調整することにより、設定することができる。
【0027】
また、本発明においては、前記基体上にバッファ層や応力緩和層等の他の層を設けもよい。他の層の形成手段は特に限定されず、上記した結晶性ZrO膜の形成手段と同様であってもよいし、スパッタリング、蒸着、CVDなどの公知の手段を用いてもよい。
【0028】
上記のようにして結晶性ZrO膜を製造することで、熱安定化ドーピングを行うことなく、簡単且つ容易に、熱的に安定した非粒状の結晶性ZrO膜を得ることができる。また、上記のような好適な成膜手段によれば、立方晶の結晶構造を有する非粒状の結晶性ZrO膜を得ることができる。
【0029】
本発明の結晶性ZrO膜は、結晶性酸化膜が用いられる、あらゆる分野において用いることができ、従来のZrO膜(YSZも含む)と同様にして、光学物品、電気機器、電子部品、燃料電池、太陽電池、車両、産業用機器などの種々の用途に、好適に用いることができる。
【実施例
【0030】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
1.成膜装置
図1を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置1を説明する。ミストCVD装置1は、キャリアガスを供給するキャリアガス源2aと、キャリアガス源2aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3aと、前駆体溶液4aが収容されるミスト発生源4と、水5aが入れられる容器5と、容器5の底面に取り付けられた超音波振動子6と、成膜室7と、ミスト発生源4から成膜室7までをつなぐ供給管9と、成膜室7内に設置されたホットプレート8と、熱反応後のミスト、液滴および排気ガスを排出する排気口11とを備えている。なお、ホットプレート8上には、基板10が設置されている。
【0032】
2.前駆体溶液の作製
メタノール溶媒に、ジルコニウムアセチルアセトナートを0.05モル/Lの濃度となるように混合して前駆体溶液を調整した。
【0033】
3.成膜準備
上記2.で得られた前駆体溶液4aをミスト発生源4内に収容した。次に、基板10として、サファイア基板をホットプレート8上に設置し、ホットプレート8を作動させて成膜室7内の温度を500℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁3aを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段2aからキャリアガスを成膜室7内に供給し、成膜室7の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を3.0L/分に調節した。なお、キャリアガスとして窒素を用いた。
【0034】
4.ZrO膜の形成
次に、超音波振動子6を2.4MHzで振動させ、その振動を、水5aを通じて前駆体井溶液4aに伝播させることによって、前駆体溶液4aを霧化させてミスト4bを生成させた。このミスト4bが、キャリアガスによって、供給管9内を通って、成膜室7内に導入され、大気圧下、500℃にて、成膜室7内でミストが熱反応して、基板10上にZrO膜が形成された。なお、膜厚は0.5μmであり、成膜時間は15分間であった。
【0035】
5.評価
上記4.にて得られた膜は、透明な結晶膜であった。また、X線回折装置を用いて膜の同定を実施したところ、得られた膜は、立方晶の結晶構造を有する結晶性ZrO膜であった。X線回析結果を図2に示す。また、得られた結晶性ZrO膜をTEM観察した。このTEM断面写真を図3に示す。図3からも明らかなとおり、得られた結晶性ZrO膜は多層状の非粒状膜であった。
【0036】
(実施例2)
成膜時間を25分としたこと以外は、実施例1と同様にして結晶性ZrO膜を得た。得られた膜の膜厚は1.1μmであった。また、実施例1と同様にして、X線回析装置を用いて膜の同定を実施したところ、得られた膜は立方晶の結晶構造を有する結晶性ZrO膜であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の結晶性ZrO膜は、従来のZrO膜(YSZも含む)と同様、光学物品、電気機器、電子部品、燃料電池、太陽電池、車両、産業用機器等に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 ミストCVD装置
2a キャリアガス源
3a 流量調節弁
4 ミスト発生源
4a 前駆体溶液
4b ミスト
5 容器
5a 水
6 超音波振動子
7 成膜室
8 ホットプレート
9 供給管
10 基板
11 排気口

図1
図2
図3