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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】p型酸化物半導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/365 20060101AFI20220502BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 29/24 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 21/337 20060101ALI20220502BHJP
   H01L 29/808 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
H01L21/365
H01L21/368 Z
H01L29/86 301D
H01L29/86 301E
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 655A
H01L29/24
H01L29/80 H
H01L29/80 V
H01L29/80 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018525323
(86)(22)【出願日】2017-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2017024275
(87)【国際公開番号】W WO2018004009
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2016131156
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(72)【発明者】
【氏名】藤田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】人羅 俊実
(72)【発明者】
【氏名】谷川 幸登
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-025256(JP,A)
【文献】特開2011-204814(JP,A)
【文献】金子健太郎,コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性(Dissertation_全文),京都大学博士論文,日本,京都大学,2014年01月31日,p.27-30,https://doi.org/10.14989/doctor.k17573
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/365
H01L 21/368
H01L 29/872
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 29/739
H01L 29/24
H01L 21/338
H01L 21/337
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 29/808
H01L 21/336
H01L 29/06
H01L 29/47
H01L 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表の第9族金属及び周期律表の第13族金属を含む金属酸化物を主成分とするp型半導体層と周期律表第13族金属を含む酸化物半導体を主成分とするn型半導体層と、電極とを少なくとも備えることを特徴とする半導体装置
【請求項2】
前記第9族金属がロジウム、イリジウム又はコバルトである請求項記載の半導体装置
【請求項3】
前記第13族金属が、インジウム、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属である請求項1または2に記載の半導体装置
【請求項4】
前記第13族金属が、インジウム、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属である請求項1~3のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
請求項のいずれかに記載の半導体装置を含むシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型酸化物半導体及びその製造方法並びに前記p型酸化物半導体を用いた半導体装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。当該酸化ガリウムは非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはInAlGa(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5~2.5)を示し、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0003】
そして、近年においては、酸化ガリウム系のp型半導体が検討されており、例えば、特許文献1には、β-Ga系結晶を、MgO(p型ドーパント源)を用いてFZ法により形成したりすると、p型導電性を示す基板が得られることが記載されている。また、特許文献2には、MBE法により形成したα-(AlGa1-x単結晶膜にp型ドーパントをイオン注入してp型半導体を形成することが記載されている。しかしながら、これらの方法では、p型半導体の作製は実現困難であり(非特許文献2)、実際に、これらの方法でp型半導体の作製に成功したとの報告はなされていない。そのため、実現可能なp型酸化物半導体及びその製造方法が待ち望まれていた。
【0004】
また、非特許文献3や非特許文献4に記載されているように、例えばRhやZnRh等をp型半導体に用いることも検討されているが、Rhは、製膜時に特に原料濃度が薄くなってしまい、製膜に影響する問題があり、有機溶媒を用いても、Rh単結晶が作製困難であった。また、ホール効果測定を実施してもp型とは判定されることがなく、測定自体もできていない問題もあり、また、測定値についても、例えばホール係数が測定限界(0.2cm/C)以下しかなく、使いものには到底ならなかった。また、ZnRhは移動度が低く、バンドギャップも狭いため、LEDやパワーデバイスに用いることができない問題があり、これらは必ずしも満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-340308号公報
【文献】特開2013-58637号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】金子健太郎、「コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性」、京都大学博士論文、平成25年3月
【文献】竹本達哉、EE Times Japan&#8246;パワー半導体 酸化ガリウム″熱伝導率、P型……課題を克服して実用化へ、[online]、2014年2月27日、アイティメディア株式会社、[平成28年6月21日検索]、インターネット〈URL:http://eetimes.jp/ee/articles/1402/27/news028_2.html〉
【文献】F.P.KOFFYBERG et al., "optical bandgaps and electron affinities of semiconducting Rh2O3(I) and Rh2O3(III)", J. Phys. Chem. Solids Vol.53, No.10, pp.1285-1288, 1992
【文献】細野秀雄、”酸化物半導体の機能開拓”、物性研究・電子版 Vol.3、No.1、031211(2013年11月・2014年2月合併号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、良好な導電性を有する新規且つ有用なp型酸化物半導体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、周期律表のdブロック金属及び周期律表の第13族金属を含む原料溶液を霧化してミストを生成する霧化工程と、キャリアガスを用いて、基体の表面近傍まで前記ミストを搬送する搬送工程と、前記ミストを前記基体表面近傍にて酸素雰囲気下で熱反応させることにより、前記基体上に製膜すると、良好な導電性を有するp型酸化物半導体を形成できることを見出し、このようにして得られたp型酸化物半導体によれば、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga)等を用いた半導体装置に有用であること等を知見し、前記p型酸化物半導体及びその製造方法が、上記した従来の課題を一挙に解決できるものであることを知見した。
【0009】
また、本発明者らは、上記知見を得たのち、さらに検討を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の発明に関する。
【0010】
[1] 周期律表のdブロック金属及び周期律表の第13族金属を含む原料溶液を霧化してミストを生成し、キャリアガスを用いて、基体の表面近傍まで前記ミストを搬送した後、前記ミストを前記基体表面近傍にて酸素雰囲気下で熱反応させることにより、前記基体上にp型酸化物半導体を形成するp型酸化物半導体の製造方法において、前記p型酸化物半導体は、前記周期律表のdブロック金属及び前記周期律表の第13族金属を含む金属酸化物を主成分とし、前記金属酸化物の酸素を除く主成分中、前記dブロック金属が原子比で10%以上含まれていることを特徴とするp型酸化物半導体の製造方法。
[2] 前記dブロック金属が遷移金属である前記[1]記載の製造方法。
[3] 前記dブロック金属が周期律表の第9族金属である前記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記第9族金属がロジウム、イリジウム又はコバルトである前記[3]記載の製造方法。
[5] 前記第13族金属が、インジウム、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属である前記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記熱反応を、750℃以下の温度にて行う前記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 金属酸化物を主成分とするp型酸化物半導体であって、前記金属酸化物が、周期律表のdブロック金属及び周期律表の第13族金属を含み、前記金属酸化物の酸素を除く主成分中、前記dブロック金属が原子比で10%以上含まれていることを特徴とするp型酸化物半導体。
[8] 前記dブロック金属が遷移金属である前記[7]記載のp型酸化物半導体。
[9] 前記dブロック金属が周期律表の第9族金属である前記[7]又は[8]に記載のp型酸化物半導体。
[10] 前記第9族金属がロジウム、イリジウム又はコバルトである前記[9]記載のp型酸化物半導体。
[11] 前記第13族金属が、インジウム、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属である前記[7]~[10]のいずれかに記載のp型酸化物半導体。
[12] 半導体層及び電極を少なくとも備える半導体装置であって、前記半導体層が、前記[7]~[11]のいずれかに記載のp型酸化物半導体を含むことを特徴とする半導体装置。
[13] さらに、n型半導体層を備えており、前記n型半導体層は、周期律表の第13族金属を含む酸化物半導体を主成分とする前記[12]記載の半導体装置。
[14] 前記第13族金属が、インジウム、アルミニウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属である前記[13]記載の半導体装置。
[15] 前記[12]~[14]のいずれかに記載の半導体装置を含むシステム。
【発明の効果】
【0011】
本発明のp型酸化物半導体は、良好な導電性を有しており、p型半導体としての半導体特性に優れている。また、本発明の製造方法は、このようなp型酸化物半導体を工業的有利に製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例において用いられる製膜装置(ミストCVD装置)の概略構成図である。
図2】実施例におけるXRD測定結果を示す図である。横軸が回析角(deg.)、縦軸が回析強度(arb.unit)を示す。
図3】ショットキーバリアダイオード(SBD)の好適な一例を模式的に示す図である。
図4】高電子移動度トランジスタ(HEMT)の好適な一例を模式的に示す図である。
図5】金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の好適な一例を模式的に示す図である。
図6】接合電界効果トランジスタ(JFET)の好適な一例を模式的に示す図である。
図7】絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)の好適な一例を模式的に示す図である。
図8】発光素子(LED)の好適な一例を模式的に示す図である。
図9】発光素子(LED)の好適な一例を模式的に示す図である。
図10】電源システムの好適な一例を模式的に示す図である。
図11】システム装置の好適な一例を模式的に示す図である。
図12】電源装置の電源回路図の好適な一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0014】
本発明のp型酸化物半導体は、金属酸化物を主成分とするp型酸化物半導体であって、前記金属酸化物が、周期律表のdブロック金属及び周期律表の第13族金属を含むことを特長とする。「p型酸化物半導体」は、酸化物半導体であって、p型半導体であるものをいい、結晶であってもよいし、アモルファスであってもよい。本発明においては、前記p型酸化物半導体が混晶であるのが好ましい。「金属酸化物」は、金属元素と酸素とを含むものをいう。「主成分」とは、前記金属酸化物が、原子比で、p型酸化物半導体の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。「周期律表」は、国際純正応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry)(IUPAC)にて定められた周期律表を意味する。「dブロック」は、3d、4d、5d、および6d軌道を満たす電子を有する元素をいう。
【0015】
前記dブロック金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、水銀(Hg)、ローレンシウム(Lr)、ラザホージウム(Rf)、ドブニウム(Db)、シーボーギウム(Sg)、ボーリウム(Bh)、ハッシウム(Hs)、マイトネリウム(Mt)、ダームスタチウム(Ds)、レントゲニウム(Rg)、コペルニシウム(Cn)及びこれらの2種以上の金属などが挙げられる。本発明においては、前記dブロック金属が、遷移金属であるのが好ましく、周期律表の第9族金属であるのがより好ましく、ロジウム、イリジウム又はコバルトであるのが最も好ましい。また、バンドギャップを広くすることができるため、前記dブロック金属が、Cr又はCuを含むのが好ましい。前記dブロック金属は、前記金属酸化物の酸素を除く主成分中、原子比で10%以上であるのが好ましく、20%~95%であるのがより好ましい。
【0016】
前記第13族金属としては、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)及びこれらの2種以上の金属などが挙げられる。本発明においては、前記第13族金属が、インジウム(In)、アルミニウム(Al)及びガリウム(Ga)から選ばれる1種又は2種以上の金属であるのが好ましく、ガリウム又はアルミニウムを含む金属であるのがより好ましい。なお、前記第13族金属にGaを用いる場合には、バンドギャップが広い方が好ましい。本発明においては、前記第13族金属が、前記金属酸化物の酸素を除く主成分中、原子比で1%以上であるのが好ましく、5%以上であるのがより好ましい。
また、本発明においては、前記第13金属が、インジウム(In)、アルミニウム(Al)及びガリウム(Ga)から選ばれる1種又は2種以上の金属である場合には、前記dブロック金属が第4族金属~第9族金属であるのが、p型半導体特性がより優れたものとなるので好ましく、第9族金属であるのがより好ましい。
【0017】
前記p型酸化物半導体は、好適には、周期律表のdブロック金属及び周期律表の第13族金属を含む原料溶液を霧化してミストを生成し(霧化工程)、キャリアガスを用いて、基体の表面近傍まで前記ミストを搬送した(搬送工程)後、前記ミストを前記基体表面近傍にて酸素雰囲気下で熱反応させること(製膜工程)により、前記基体上にp型酸化物半導体を形成することで得ることができる。
【0018】
(霧化工程)
霧化工程は、前記原料溶液を霧化する。霧化手段は、原料溶液を霧化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミストは、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。ミストの液滴のサイズは、特に限定されず、数mm程度であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは100nm~10μmである。
【0019】
(原料溶液)
前記原料溶液は、周期律表のdブロック金属及び周期律表の第13族金属を含んでいれば特に限定されず、無機材料が含まれていても、有機材料が含まれていてもよいが、本発明においては、周期律表のdブロック金属及び周期律表の第13族金属を錯体又は塩の形態で有機溶媒または水に溶解又は分散させたものを原料溶液として好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、有機金属塩(例えば金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属クエン酸塩等)、硫化金属塩、硝化金属塩、リン酸化金属塩、ハロゲン化金属塩(例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等)などが挙げられる。なお、本発明のミストCVD法によれば、原料濃度が低くても、好適に製膜することができる。
【0020】
前記原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒の混合溶液であってもよい。本発明においては、他の従来の製膜方法とは異なり、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水と酸の混合溶媒であるのも好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。また、前記酸としては、より具体的には、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の有機酸などが挙げられる。
【0021】
(基体)
前記基体は、前記p型酸化物半導体を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されない。
【0022】
前記基板は、板状であって、前記p型酸化物半導体の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいが、前記基板が、絶縁体基板であるのが好ましく、また、表面に金属膜を有する基板であるのも好ましい。前記基板としては、例えば、コランダム構造を有する基板材料を主成分として含む下地基板などが挙げられる。ここで、「主成分」とは、前記特定の結晶構造を有する基板材料が、原子比で、基板材料の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。
【0023】
基板材料は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のものであってよい。前記のコランダム構造を有する基板材料を主成分とする下地基板としては、サファイア基板(好ましくはc面サファイア基板)やα型酸化ガリウム基板などが好適な例として挙げられる。
【0024】
(搬送工程)
搬送工程では、前記キャリアガスによって前記ミストを基体へ搬送する。キャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられるが、本発明においては、キャリアガスとして酸素を用いるのが好ましい。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~2L/分であるのが好ましく、0.1~1L/分であるのがより好ましい。
【0025】
(製膜工程)
製膜工程では、前記ミストを前記基体表面近傍で反応させて、前記基体表面の一部または全部に製膜する。前記熱反応は、前記ミストから膜が形成される熱反応であれば特に限定されず、熱でもって前記ミストが反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、あまり高すぎない温度以下が好ましい。本発明においては、前記熱反応を、750℃以下で行うのが好ましく、500℃~750℃の温度で行うのがより好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、酸素雰囲気下で行われるのが好ましく、大気圧下で行われるのも好ましく、酸素雰囲気下でかつ大気圧下で行われるのがより好ましい。なお、膜厚は、製膜時間を調整することにより、設定することができ、本発明においては、膜厚を1μm以上であってもよいし、1μm以下であってもよい。1μm以下である場合には、500nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのがより好ましく、50nm~100nmであるのが最も好ましい。また、膜厚が1μm以上である場合には、3μm以上であるのが好ましく、3μm~100μmであるのがより好ましい。
【0026】
本発明においては、前記基体上にそのまま製膜してもよいが、前記基体上に、前記p型酸化物半導体からなる半導体層とは異なる半導体層(例えば、n型半導体層、n+型半導体層、n-型半導体層等)や絶縁体層(半絶縁体層も含む)、バッファ層等の他の層を積層したのち、前記基体上に他の層を介して製膜してもよい。半導体層や絶縁体層としては、例えば、前記第13族金属を含む半導体層や絶縁体層等が挙げられる。バッファ層としては、例えば、コランダム構造を含む半導体層、絶縁体層または導電体層などが好適な例として挙げられる。前記のコランダム構造を含む半導体層としては、例えば、α―Fe、α―Ga、α―Alなどが挙げられる。前記バッファ層の積層手段は特に限定されず、前記p型酸化物半導体の形成手段と同様であってよい。
【0027】
上記のようにして得られるp型酸化物半導体は、p型半導体層として半導体装置に用いることができる。とりわけ、パワーデバイスに有用である。また、半導体装置は、電極が半導体層の片面側に形成された横型の素子(横型デバイス)と、半導体層の表裏両面側にそれぞれ電極を有する縦型の素子(縦型デバイス)に分類することができ、本発明においては、横型デバイスにも縦型デバイスにも好適に用いることができるが、中でも、縦型デバイスに用いることが好ましい。前記半導体装置としては、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)または発光ダイオードなどが挙げられる。
【0028】
前記p型酸化物半導体をp型半導体層に用いた例を図3~9に示す。なお、n型半導体は、p型酸化物半導体と同じ主成分であってn型ドーパントを含むものであってもよいし、p型酸化物半導体とは主成分等が異なるn型半導体であってもよい。また、前記n型半導体は、n型ドーパントの含有量を調整すること等の公知の手段を用いることにより、n-型半導体層、n+型半導体層などとして適宜用いられる。
【0029】
図3は、n-型半導体層101a、n+型半導体層101b、p型半導体層102、金属層103、絶縁体層104、ショットキー電極105aおよびオーミック電極105bを備えているショットキーバリアダイオード(SBD)の好適な一例を示す。なお、金属層103は、例えばAl等の金属からなり、ショットキー電極105aを覆っている。図4は、バンドギャップの広いn型半導体層121a、バンドギャップの狭いn型半導体層121b、n+型半導体層121c、p型半導体層123、ゲート電極125a、ソース電極125b、ドレイン電極125cおよび基板129を備えている高電子移動度トランジスタ(HEMT)の好適な一例を示す。
【0030】
ショットキー電極およびオーミック電極の材料は、公知の電極材料であってもよく、前記電極材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ-ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0031】
ショットキー電極およびオーミック電極の形成は、例えば、真空蒸着法またはスパッタリング法などの公知の手段により行うことができる。より具体的に例えば、ショットキー電極を形成する場合、Moからなる層とAlからなる層を積層させ、Moからなる層およびAlからなる層に対して、フォトリソグラフィの手法を利用したパターニングを施すことにより行うことができる。
【0032】
絶縁体層の材料としては、例えば、GaO、AlGaO、InAlGaO、AlInZnGaO、AlN、Hf、SiN、SiON、Al、MgO、GdO、SiOまたはSiなどが挙げられるが、本発明においては、コランダム構造を有するものであるのが好ましい。絶縁体層の形成は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法などの公知の手段により行うことができる。
【0033】
図5は、n-型半導体層131a、第1のn+型半導体層131b、第2のn+型半導体層131c、p型半導体層132、p+型半導体層132a、ゲート絶縁膜134、ゲート電極135a、ソース電極135bおよびドレイン電極135cを備えている金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の好適な一例を示す。なお、p+型半導体層132aは、p型半導体層であってもよく、p型半導体層132と同じであってもよい。図6は、n-型半導体層141a、第1のn+型半導体層141b、第2のn+型半導体層141c、p型半導体層142、ゲート電極145a、ソース電極145bおよびドレイン電極145cを備えている接合電界効果トランジスタ(JFET)の好適な一例を示す。図7は、n型半導体層151、n-型半導体層151a、n+型半導体層151b、p型半導体層152、ゲート絶縁膜154、ゲート電極155a、エミッタ電極155bおよびコレクタ電極155cを備えている絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)の好適な一例を示す。
【0034】
(LED)
本発明の半導体装置が発光ダイオード(LED)である場合の一例を図8に示す。図8の半導体発光素子は、第2の電極165b上にn型半導体層161を備えており、n型半導体層161上には、発光層163が積層されている。そして、発光層163上には、p型半導体層162が積層されている。p型半導体層162上には、発光層163にて発生する光を透過する透光性電極167を備えており、透光性電極167上には、第1の電極165aが積層されている。発光層に用いられる発光体は公知のものであってもよい。なお、図8の半導体発光素子は、電極部分を除いて保護層で覆われていてもよい。
【0035】
透光性電極の材料としては、インジウム(In)またはチタン(Ti)を含む酸化物の導電性材料などが挙げられる。より具体的には、例えば、In、ZnO、SnO、Ga、TiO、CeOまたはこれらの2以上の混晶またはこれらにドーピングされたものなどが挙げられる。これらの材料を、スパッタリング等の公知の手段で設けることによって、透光性電極を形成できる。また、透光性電極を形成した後に、透光性電極の透明化を目的とした熱アニールを施してもよい。
【0036】
図8の半導体発光素子によれば、第1の電極165aを正極、第2の電極165bを負極とし、両者を介してp型半導体層162、発光層163およびn型半導体層161に電流を流すことで、発光層163が発光するようになっている。
【0037】
第1の電極165a及び第2の電極165bの材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ-ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。電極の製膜法は特に限定されることはなく、印刷方式、スプレー法、コ-ティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から前記材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って前記基板上に形成することができる。
【0038】
なお、発光素子の別の態様を図9に示す。図9の発光素子では、基板169上にn型半導体層161が積層されており、p型半導体層162、発光層163およびn型半導体層161の一部を切り欠くことによって露出したn型半導体層161の半導体層露出面上の一部に第2の電極165bが積層されている。
【0039】
前記半導体装置は、例えば電源装置を用いたシステム等に用いられる。前記電源装置は、公知の手段を用いて、前記半導体装置を配線パターン等に接続するなどして作製することができる。図10に電源システムの例を示す。図10は、複数の前記電源装置と制御回路を用いて電源システムを構成している。前記電源システムは、図11に示すように、電子回路と組み合わせてシステム装置に用いることができる。なお、電源装置の電源回路図の一例を図12に示す。図12は、パワー回路と制御回路からなる電源装置の電源回路を示しており、インバータ(MOSFETA~Dで構成)によりDC電圧を高周波でスイッチングしACへ変換後、トランスで絶縁及び変圧を実施し、整流MOSFET(A~B’)で整流後、DCL(平滑用コイルL1,L2)とコンデンサにて平滑し、直流電圧を出力する。この時に電圧比較器で出力電圧を基準電圧と比較し、所望の出力電圧となるようPWM制御回路でインバータ及び整流MOSFETを制御する。
【実施例
【0040】
1.製膜装置
図1を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置を説明する。ミストCVD装置19は、基板20を載置するサセプタ21と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給手段22aと、キャリアガス供給手段22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)供給手段22bと、キャリアガス(希釈)供給手段22bから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる供給管27と、供給管27の周辺部に設置されたヒーター28とを備えている。サセプタ21は、石英からなり、基板20を載置する面が水平面から傾斜している。製膜室となる供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0041】
2.原料溶液の作製
ロジウムアセチルアセトナート(ロジウム濃度0.001mol/L)75モル%とガリウムアセチルアセトナート(ガリウム濃度0.001mol/L)25モル%とを混合し、これを原料溶液とした。
【0042】
3.製膜準備
上記2.で得られた原料溶液24aミスト発生源24内に収容した。次に、基板20として、c面サファイア基板をサセプタ21上に設置し、ヒーター28の温度を500℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23a、23bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段22a、22bからキャリアガスを供給管27内に供給し、供給管27内の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5.0L/分に、キャリアガス(希釈)の流量を0.5L/分にそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。
【0043】
4.膜形成
次に、超音波振動子を振動させ、その振動を、水25を通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを霧化させてミストを生成させた。このミストが、キャリアガスによって、供給管27に搬送され、大気圧下、500℃にて、基板20表面近傍でミストが熱反応して基板20上に膜が形成された。なお、製膜時間は2時間であり、膜厚は100nmであった。
【0044】
上記4.にて得られた膜について、X線回析装置を用いて膜の同定をしたところ、得られた膜は、(Rh0.92Ga0.08膜であった。なお、XRDの結果を図2に示す。また、得られた(Rh0.92Ga0.08膜についてホール効果測定を行ったところ、p型半導体であることがわかり、キャリア密度は7.6×1017(/cm)であり、移動度は1.01(cm/V・s)であった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のp型酸化物半導体は、半導体(例えば化合物半導体電子デバイス等)、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、工業部材などあらゆる分野に用いることができるが、p型の半導体特性に優れているため、特に、半導体装置等に有用である。
【符号の説明】
【0046】
19 ミストCVD装置
20 基板
21 サセプタ
22a キャリアガス供給手段
22b キャリアガス(希釈)供給手段
23a 流量調節弁
23b 流量調節弁
24 ミスト発生源
24a 原料溶液
25 容器
25a 水
26 超音波振動子
27 供給管
28 ヒーター
29 排気口
101a n-型半導体層
101b n+型半導体層
102 p型半導体層
103 金属層
104 絶縁体層
105a ショットキー電極
105b オーミック電極
121a バンドギャップの広いn型半導体層
121b バンドギャップの狭いn型半導体層
121c n+型半導体層
123 p型半導体層
125a ゲート電極
125b ソース電極
125c ドレイン電極
128 緩衝層
129 基板
131a n-型半導体層
131b 第1のn+型半導体層
131c 第2のn+型半導体層
132 p型半導体層
134 ゲート絶縁膜
135a ゲート電極
135b ソース電極
135c ドレイン電極
138 緩衝層
139 半絶縁体層
141a n-型半導体層
141b 第1のn+型半導体層
141c 第2のn+型半導体層
142 p型半導体層
145a ゲート電極
145b ソース電極
145c ドレイン電極
151 n型半導体層
151a n-型半導体層
151b n+型半導体層
152 p型半導体層
154 ゲート絶縁膜
155a ゲート電極
155b エミッタ電極
155c コレクタ電極
161 n型半導体層
162 p型半導体層
163 発光層
165a 第1の電極
165b 第2の電極
167 透光性電極
169 基板


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12