(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】抄紙装置、古紙再生処理装置及び湿紙の形成方法
(51)【国際特許分類】
D21F 1/02 20060101AFI20220502BHJP
D21F 7/02 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
D21F1/02
D21F7/02
(21)【出願番号】P 2017159501
(22)【出願日】2017-08-22
【審査請求日】2020-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2016173692
(32)【優先日】2016-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390002129
【氏名又は名称】デュプロ精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138014
【氏名又は名称】東山 香織
(72)【発明者】
【氏名】奥野 将人
(72)【発明者】
【氏名】太田 竜一
(72)【発明者】
【氏名】東本 佳久
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】実公昭08-011922(JP,Y1)
【文献】特開2011-149120(JP,A)
【文献】特開平08-246371(JP,A)
【文献】実公昭49-027764(JP,Y1)
【文献】国際公開第2012/081444(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドボックスから供給されるパルプ懸濁液を濾過して湿紙を形成する抄紙ワイヤーと、
前記抄紙ワイヤーに対し近接離間する近接部材と
、
抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で湿紙を形成するよう制御する制御部とを備えた抄紙装置。
【請求項2】
近接部材は、ヘッドボックスから抄紙ワイヤーに供給されるパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める堰き止め部を構成する請求項1に記載の抄紙装置。
【請求項3】
抄紙ワイヤーを走行させるワイヤー駆動部を備え、
制御部は、湿紙の先端領域を形成するときの抄紙ワイヤーの走行速度を、抄紙本領域を形成するときより遅くするよう前記ワイヤー駆動部を制御する請求項1または請求項2に記載の抄紙装置。
【請求項4】
抄紙ワイヤーを走行させるワイヤー駆動部を備え、
制御部は、ヘッドボックスから抄紙ワイヤー上へパルプ懸濁液の供給を開始し、湿紙の先端領域を形成するときに抄紙ワイヤーの走行を所定時間停止するよう制御する請求項
1乃至請求項3のいずれか一項に記載の抄紙装置。
【請求項5】
制御部は、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域を、脱墨未処理のパルプ懸濁液により形成するよう制御する請求項
1乃至請求項4のいずれか一項に記載の抄紙装置。
【請求項6】
近接部材は、抄紙ワイヤーの上面に接触するよう構成される請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の抄紙装置。
【請求項7】
古紙を離解してパルプ懸濁液を製造する再生パルプ製造部と、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の抄紙装置とを備えた古紙再生処理装置。
【請求項8】
ヘッドボックスからパルプ懸濁液を供給し、抄紙ワイヤー上で濾過して湿紙を形成する際、前記抄紙ワイヤーに対し近接部材を近接及び離間させ、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で形成する湿紙の形成方法。
【請求項9】
ヘッドボックスから抄紙ワイヤー上へパルプ懸濁液の供給を開始し、抄紙ワイヤー上で濾過して湿紙の先端領域を形成する際、前記抄紙ワイヤーに対し近接部材を近接させ、前記ヘッドボックスから前記抄紙ワイヤーに供給されたパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める請求項8に記載の湿紙の形成方法。
【請求項10】
ヘッドボックスからパルプ懸濁液を供給し、抄紙ワイヤー上で濾過して湿紙を形成する際、抄紙ワイヤーに近接されるよう付勢部材によって付勢された近接部材を、付勢部材による付勢力に抗して抄紙ワイヤーから離間させる請求項8または請求項9に記載の湿紙の形成方法。
【請求項11】
湿紙の先端領域を形成するときの方が、前記先端領域に続く抄紙本領域を形成するときより抄紙ワイヤーの走行速度を遅くする請求項8乃至請求項10のいずれか一項に記載の湿紙の形成方法。
【請求項12】
湿紙の先端領域を形成するときに、抄紙ワイヤーの走行を所定時間停止する請求項8乃至請求項11のいずれか一項に記載の湿紙の形成方法。
【請求項13】
抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域を、脱墨未処理のパルプ懸濁液により形成する請求項8乃至請求項12のいずれか一項に記載の湿紙の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抄紙装置及び古紙再生処理装置及び湿紙の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、抄紙装置では、ヘッドボックスから抄紙ワイヤーにパルプ懸濁液が供給され、湿紙が形成される。下記特許文献1には、パルプ懸濁液の供給開始直後に、抄紙ワイヤーの走行速度を他の領域を抄紙するときより遅くすることが記載されている。これにより湿紙の先端領域の紙の厚さを他の領域より厚くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
湿紙の形成開始後、抄紙ワイヤーの走行速度を変更し、湿紙の先端領域を厚くする場合に、該湿紙の厚さを大幅に厚くすることはできず、抄紙ワイヤーから湿紙を剥離するのが困難となる場合があった。
【0005】
本発明は上記した課題を解決するものであり、抄紙ワイヤーから湿紙を剥離しやすい抄紙装置及び古紙再生処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明にかかる抄紙装置は、ヘッドボックスから供給されるパルプ懸濁液を濾過して湿紙を形成する抄紙ワイヤーと、前記抄紙ワイヤーに対し近接離間する近接部材と、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で湿紙を形成するよう制御する制御部とを備えた。また、前記構成において、近接部材は、ヘッドボックスから抄紙ワイヤーに供給されるパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める堰き止め部を構成する。
【0007】
また、前記構成において、近接部材は、抄紙ワイヤーの上面に接触するよう構成される。
【0010】
更に、前記構成において、抄紙ワイヤーを走行させるワイヤー駆動部を備え、制御部は、湿紙の先端領域を形成するときの抄紙ワイヤーの走行速度を、抄紙本領域を形成するときより遅くするよう前記ワイヤー駆動部を制御する。
【0011】
更に、前記構成において、抄紙ワイヤーを走行させるワイヤー駆動部を備え、制御部は、ヘッドボックスから抄紙ワイヤー上へパルプ懸濁液の供給を開始し、湿紙の先端領域を形成するときに抄紙ワイヤーの走行を所定時間停止するよう制御する。
【0012】
更に、前記構成において、制御部は、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域を、脱墨未処理のパルプ懸濁液により形成するよう制御する。
【0013】
更に、本発明にかかる古紙再生処理装置は、古紙を離解してパルプ懸濁液を製造する再生パルプ製造部と、前記各構成の抄紙装置とを備えた。
【0014】
更に、本発明にかかる湿紙の形成方法は、ヘッドボックスからパルプ懸濁液を供給し、抄紙ワイヤー上で濾過して湿紙を形成する際、前記抄紙ワイヤーに対し近接部材を近接及び離間させ、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で形成する。また、前記構成において、ヘッドボックスから抄紙ワイヤー上へパルプ懸濁液の供給を開始し、抄紙ワイヤー上で濾過して湿紙の先端領域を形成する際、前記抄紙ワイヤーに対し近接部材を近接させ、近前記ヘッドボックスから前記抄紙ワイヤーに供給されたパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める。
【0015】
更に、前記構成において、ヘッドボックスからパルプ懸濁液を供給し、抄紙ワイヤー上で濾過して湿紙を形成する際、抄紙ワイヤーに近接されるよう付勢部材によって付勢された近接部材を、付勢部材による付勢力に抗して抄紙ワイヤーから離間させる。
【0019】
更に、前記各構成において、湿紙の先端領域を形成するときの方が、前記先端領域に続く抄紙本領域を形成するときより抄紙ワイヤーの走行速度を遅くする。
【0020】
更に、前記各構成において、湿紙の先端領域を形成するときに、抄紙ワイヤーの走行を所定時間停止する。
【0021】
更に、前記各構成において、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域を、脱墨未処理のパルプ懸濁液により形成する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で湿紙を形成するよう制御する制御部を備えたので、抄紙本領域厚と抄紙先端領域厚とが同じである場合や抄紙本領域厚よりも抄紙先端領域厚の方が薄い場合に比較して、抄紙ワイヤーから湿紙を剥離しやすくなる。また、近接部材は、ヘッドボックスから抄紙ワイヤーに供給されるパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める堰き止め部を構成する場合は、ヘッドボックスから抄紙ワイヤー上へパルプ懸濁液の供給を開始し、湿紙の先端領域を形成するとき、近接部材によってパルプ懸濁液の下流側への流れを容易に堰き止めることができ、湿紙の先端領域の厚さを厚くすることができる。よって、抄紙ワイヤーから湿紙を剥離しやすくできる。
【0023】
また、近接部材は、抄紙ワイヤーの上面に接触するよう構成される場合は、湿紙に接触した跡をよりはっきりと残すことができる。
【0026】
更に、抄紙ワイヤーを走行させるワイヤー駆動部を備え、制御部は、湿紙の先端領域を形成するときの抄紙ワイヤーの走行速度を、抄紙本領域を形成するときより遅くするよう前記ワイヤー駆動部を制御する場合は、容易に湿紙の先端領域の厚さを厚くすることができる。
【0027】
更に、抄紙ワイヤーを走行させるワイヤー駆動部を備え、制御部は、ヘッドボックスから抄紙ワイヤー上へパルプ懸濁液の供給を開始し、湿紙の先端領域を形成するときに抄紙ワイヤーの走行を所定時間停止するよう制御する場合は、湿紙の先端領域の厚みを厚くすることができ、抄紙ワイヤーから下流側のベルト等への湿紙の転写をより確実に実行できる。
【0028】
更に、制御部は、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域を、脱墨未処理のパルプ懸濁液により形成するよう制御する場合は、湿紙の先端領域を形成する繊維の量を安定させることができる。
【0029】
更に、本発明の古紙再生処理装置は、古紙を離解してパルプ懸濁液を製造する再生パルプ製造部と、前記各構成の抄紙装置とを備えたので、湿紙の先端領域の厚さを厚くすることができる。よって、抄紙ワイヤーから湿紙を剥離しやすくできる。
【0030】
本発明の湿紙の形成方法は、ヘッドボックスからパルプ懸濁液を供給し、抄紙ワイヤー上で濾過して湿紙を形成する際、前記抄紙ワイヤーに対し近接部材を近接及び離間させ、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で形成するので、抄紙本領域厚と抄紙先端領域厚とが同じである場合や抄紙本領域厚よりも抄紙先端領域厚の方が薄い場合に比較して、抄紙ワイヤーから湿紙を剥離しやすくなる。また、ヘッドボックスから抄紙ワイヤー上へパルプ懸濁液の供給を開始し、抄紙ワイヤー上で濾過して湿紙の先端領域を形成する際、前記抄紙ワイヤーに対し近接部材を近接させ、前記ヘッドボックスから前記抄紙ワイヤーに供給されたパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める場合は、湿紙の先端領域の厚さを厚くすることができる。よって、抄紙ワイヤーから湿紙を剥離しやすくできる。
【0031】
また、ヘッドボックスからパルプ懸濁液を供給し、抄紙ワイヤー上で濾過して湿紙を形成する際、抄紙ワイヤーに近接されるよう付勢部材によって付勢された近接部材を、付勢部材による付勢力に抗して抄紙ワイヤーから離間させる場合は、付勢部材によって近接部材を適正に抄紙ワイヤーに近接させることができるとともに、近接部材を簡単な構造によって容易に抄紙ワイヤーから離間させることができる。
【0035】
湿紙の先端領域を形成するときの方が、前記先端領域に続く抄紙本領域を形成するときより抄紙ワイヤーの走行速度を遅くする場合は、容易に湿紙の先端領域の厚さを厚くすることができる。
【0036】
湿紙の先端領域を形成するときに、抄紙ワイヤーの走行を所定時間停止する場合は、湿紙の先端領域の厚さをかなり厚くすることが可能となる。
【0037】
更に、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域を、脱墨未処理のパルプ懸濁液により形成する場合は、湿紙の先端領域を形成する繊維の量を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の一実施形態に係る古紙再生処理装置の構成概略図である。
【
図2】前記古紙再生処理装置の抄紙装置の概略構成を示す縦断面図である。
【
図3】前記抄紙装置の近接部材設置位置周辺の部分拡大断面図である。
【
図4】前記近接部材周辺を供給方向上流側から見た図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る抄紙装置の近接部材設置位置周辺の部分拡大断面図である。
【
図6】前記近接部材周辺を供給方向上流側から見た図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る抄紙装置の概略構成を示す部分縦断面図である。
【
図8】本発明の更に他の実施形態に係る抄紙装置の一部の概略構成を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、第1の実施形態にかかる抄紙装置を備えた古紙再生処理装置の構成概略図である。
図1において、古紙再生処理装置100は、再生パルプ製造部1、脱墨部2、抄紙部3、仕上部4及び各部を制御する制御部8を備えてなる。
【0040】
尚、以下では、本発明の抄紙装置を、古紙10を原料として再生紙7を製造する古紙再生処理装置100の抄紙部3に用いた場合について記載するが、必ずしもこれに限定されず、木材等の他のパルプ原料を用いた製紙装置の抄紙部に用いても構わない。
【0041】
再生パルプ製造部1は、古紙10を離解してパルプ懸濁液を製造する。脱墨部2は、再生パルプ製造部1において製造されたパルプ懸濁液を脱墨する。抄紙部3は、脱墨部2において得られた脱墨後のパルプ懸濁液を抄紙して湿紙を形成し、得られた湿紙を脱水し、乾燥する。仕上部4は、抄紙部3において得られた仕上げ前の再生紙7を裁断等することにより仕上げを行って定型サイズの再生紙7を得る。制御部8は古紙再生処理装置100全体の動作を制御する。再生パルプ製造部1及び脱墨部2は、それぞれ公知の再生パルプ製造装置及び脱墨装置を利用可能である。
【0042】
図2は、抄紙部3を構成する抄紙装置Sの縦断面図である。尚、以下では、
図2に示す抄紙装置Sの右側を「前側」、左側を「後側」、
図2の紙面の手前を「右側」、紙面の奥側を「左側」として説明することとする。抄紙部3は、湿紙形成部11、脱水部14及び乾燥部15が筐体41内に収容されてなる。筐体41内には、左右一対の図示しない側板が配設されており、この側板が各部を構成するほとんどのローラを、回動自在に軸支している。
【0043】
湿紙形成部11では、湿紙が形成される。湿紙形成部11は、ヘッドボックス12と、ワイヤー部13と、近接部材67とを備える。ヘッドボックス12は、脱墨後のパルプ懸濁液を抄紙ワイヤー23上に均一に供給するためのものである。ヘッドボックス12は、パルプ懸濁液を貯留する貯留部18と、貯留部18に貯留するパルプ懸濁液を抄紙ワイヤー23上に供給する供給部19と、貯留部18の底部に形成されたパルプ懸濁液の流入部20とを備える。
【0044】
供給部19は、供給板33と規制部材34とを備える。供給板33は貯留部18の端部から上側を走行する抄紙ワイヤー23にかけて設置される。供給板33は貯留部18から抄紙ワイヤー23上へ供給されるパルプ懸濁液を案内する。規制部材34は、上側を走行する抄紙ワイヤー23の上面に摺接し、パルプ懸濁液の供給方向に沿って延在する。規制部材34はパルプ懸濁液の供給方向に直交する幅方向に所定量離間して左右一対設置される。規制部材34は抄紙ワイヤー23上に供給されたパルプ懸濁液の幅方向への拡散を規制するとともに、湿紙の幅方向長さを規定する。
【0045】
流入部20は、脱墨部2から脱墨後のパルプ懸濁液を取出し、貯留部18へ送るための図示しない輸送ポンプが接続されている。
【0046】
ワイヤー部13は、抄紙ワイヤー23と、抄紙ワイヤー23を走行させる図示しないワイヤー駆動部とを備える。抄紙ワイヤー23は複数のローラ24に掛け渡され、展張され、無端状に形成される。抄紙ワイヤー23は、ヘッドボックス12から供給されるパルプ懸濁液を濾過して湿紙を形成する。抄紙ワイヤー23の上側の往路軌道の下方には、パルプ懸濁液を水切りする複数の水切り板26が、抄紙ワイヤー23の走行方向に所定間隔で配置されている。各水切り板26は抄紙ワイヤー23の走行方向と交差する方向に向けて設置され、且つ、抄紙ワイヤー23の下面に摺接される。これにより、水切り板26が抄紙ワイヤー23の網目から流下する白水を下方へと導くようになっている。
【0047】
また、水切り板26の下方には、該水切り板26より、または抄紙ワイヤー23の網目から直接流下する白水を受ける受水部27を設けている。受水部27は図示しない配管、ガイド等により下方に設置された白水タンク29に接続されている。白水タンク29は、内部に収容する白水を再生パルプ製造部1及び脱墨部2に送るための図示しない配管及び白水循環用ポンプを備え、受水部27において回収した白水を再利用可能に構成している。
【0048】
図3は、近接部材67設置位置周辺の部分拡大断面図である。
図4は、近接部材67周辺を供給方向上流側から見た図である。近接部材67は、抄紙ワイヤー23に対し近接離間する。近接部材67は、抄紙ワイヤー23の上面に接触可能に構成される。近接部材67は、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23に供給されるパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める堰き止め部35を構成することができる。堰き止め部35は、ヘッドボックス12の供給部19から抄紙ワイヤー23に供給されるパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止め、抄紙ワイヤー23上でパルプ懸濁液を所定時間滞留させることが可能である。堰き止め部35は、抄紙ワイヤー23の上面に接触する堰き止め板36を備える。堰き止め板36は、抄紙ワイヤー23の上方に設置され抄紙ワイヤー23に対し接離自在に構成される。
【0049】
堰き止め板36は、パルプ懸濁液を堰き止める際、上側を走行する抄紙ワイヤー23の所定位置に上方より接触する。堰き止め板36の幅方向長さLは、左右一対の規制部材34の間の距離と略等しく形成される。堰き止め板36が抄紙ワイヤー23上面に接触すると、該堰き止め板36と左右一対の規制部材34とによってパルプ懸濁液を下流側へ漏れ出ないようにして堰き止めることができる。
【0050】
近接部材67は、合成樹脂または金属によって板状に形成される。近接部材67が堰き止め板36を構成するときは、堰き止め板36が抄紙ワイヤー23上面に接触したとき、抄紙ワイヤー23を破損する危険性が低い点で、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル等の合成樹脂により構成されることが好ましい。
【0051】
近接部材67は、支持部37によって支持されている。支持部37は、近接部材67を上方より支持する。支持部37は、側枠体38、架設部材39、昇降部40を備える。側枠体38は、パルプ懸濁液のヘッドボックス12からの供給方向に直交する幅方向Wに所定量離間して左右一対設置される。側枠体38は、該側枠体38の上方のフレーム42より下方に向けて垂設される。架設部材39は、左右の側枠体38の間に架設される。
【0052】
昇降部40は、近接部材67を昇降する。昇降部40は、屈曲部材69、付勢部材70、カム71、架設軸73、プーリ74 ベルト75、及び近接駆動部77を備える。屈曲部材69は、幅方向に所定長さで延在し、縦断面視逆L字状に屈曲して形成される。屈曲部材69は、縦板80及びカム当接部81を備える。縦板80は、上下方向に延在する。縦板80の下部には、近接部材67の上部が複数の螺子82によって固定される。縦板80は昇降される際、パルプ懸濁液のヘッドボックス11からの供給方向下流側面が架設部材39に摺接する。
【0053】
縦板80の幅方向W両端部近傍位置には、それぞれ上下方向に長い案内穴84が形成されている。案内穴84には、案内軸85が挿通されている。案内軸85はビスによって構成される。案内軸85の先端部は架設部材39に螺合され固定されている。案内軸85の頭部は、案内軸85の案内穴84からの抜け止め用となっている。屈曲部材69がカム71の回転によって架設部材39に対して昇降される際、案内穴84及び案内軸85によって上下方向に案内される。
【0054】
屈曲部材69は、前記一対の案内穴84の内側に設定された左右一対の付勢部材70によって下方の抄紙ワイヤー23に向けて付勢されている。付勢部材70は、圧縮ばねにより構成される。付勢部材70は、パルプ懸濁液の供給方向Fに直交する幅方向Wに所定量離間して左右一対設置される。
【0055】
縦板80の左右一対の案内穴84より幅方向W内側に、付勢部材70の下端部が係止される下端係止部87が設けられる。付勢部材70の上端部は架設部材39の上端係止部88に係止されている。
【0056】
カム当接部81は、縦板80の上端部よりパルプ懸濁液の流出方向上流側に向けて延在する。カム当接部81の幅方向略中央部には下方に設置されたカム71に下方より接触される。カム71は、架設軸73の回転に伴って回転される。架設軸73の両端部は、側枠体38に回動自在に軸支される。
図4において側枠体38より左側の外方に突出した架設軸73の一方の端部にはプーリ74が固定される。該プーリ74はベルト75によって近接駆動部77の駆動軸78に連結されている。
【0057】
近接部材67は、昇降部40によって堰き止め位置、近接位置及び待機位置の間で昇降される。近接部材67の先端部と抄紙ワイヤー23と間の距離は、近接量検出部89によって検出される。近接量検出部89は、本第1の実施形態では、ステッピングモータ等の近接駆動部77によって兼ねて構成され、近接駆動部77の駆動量を制御部8が把握することによって近接部材67と抄紙ワイヤー23との距離が検出される。
【0058】
堰き止め位置において、近接部材67の下部は抄紙ワイヤー23の上面に接触する。そして、堰き止め位置において近接部材67は付勢部材70によって抄紙ワイヤー23に向けて付勢される。近接部材67としての堰き止め板36が堰き止め位置にあるとき、堰き止め板36と、左右一対の規制部材34とによって抄紙ワイヤー23上に供給されたパルプ懸濁液が下流側へ供給されず滞留する滞留部68が形成される。
【0059】
近接位置では、近接部材67は抄紙ワイヤー23に近接した所定位置に位置する。待機位置では、近接部材67は抄紙ワイヤー23から近接位置より更に離間した位置に位置する。
【0060】
その際、近接駆動部77が所定のタイミングで駆動され、ベルト75及びプーリ74を介して架設軸73が回転し、カム71が所定量回転される。付勢部材70の付勢力に抗してカム71がカム当接部81を押上げると、堰き止め板36は堰き止め位置から近接位置及び待機位置へ移動させる。
【0061】
脱水部14は、脱水用ベルト31と、複数のローラ32と、脱水ローラ部43とを備えている。脱水用ベルト31は湿潤状態にある湿紙を搬送する無端状の搬送ベルトを構成する。脱水用ベルト31は、フェルト、毛布等の吸水性の素材により形成され、複数のローラ32の間に掛け渡されてなる。脱水用ベルト31は下方に配設された抄紙ワイヤー23及び上方に配設された乾燥部15の乾燥用ベルト47に所定箇所でそれぞれ当接しており、この当接部分において、順次湿紙を転移するようになっている。
【0062】
脱水ローラ部43は、脱水用ベルト31と乾燥用ベルト47との当接箇所に設置されている。脱水ローラ部43は脱水用ベルト31と乾燥用ベルト47を表裏方向に挟持し、両ベルト間の湿紙を押圧して脱水しつつ、湿紙を脱水用ベルト31から乾燥用ベルト47に転移させるものである。脱水ローラ部43は脱水用ベルト31の内方に設置された第1脱水ローラ45と、乾燥用ベルト47の内方であって、第1脱水ローラ45の上方対向位置に設置された第2脱水ローラ46とからなる。
【0063】
第2脱水ローラ46は図示しない駆動部に連結され、駆動部の駆動により、第2脱水ローラ46が回転駆動される。第2脱水ローラ46の回転によって、脱水用ベルト31及び乾燥用ベルト47を走行させるとともに、脱水用ベルト31及び乾燥用ベルト47を介して、第2脱水ローラ46に所定圧力で転接する第1脱水ローラ45を従動回転させる。
【0064】
乾燥部15は、乾燥用ベルト47、挟持用ベルト48、乾燥手段44、先端剥がし部52、カレンダー部54及び、スクレーパ55を備えている。乾燥用ベルト47は、脱水部14での脱水後、湿潤状態にある湿紙を搬送する無端状の搬送ベルトを構成する。乾燥用ベルト47は、乾燥手段44を構成する乾燥ドラム50及び複数のローラ51の間に掛け渡されている。挟持用ベルト48は、搬送ベルトとの間で湿紙を挟持して走行する。挟持用ベルト48は、無端状に形成され、乾燥ドラム50及び複数のローラ49に掛け渡されている。
【0065】
乾燥用ベルト47と挟持用ベルト48とは、乾燥ドラム50に巻回された範囲を含む所定箇所で重ね合わされて走行し、この乾燥用ベルト47と挟持用ベルト48との間で、湿潤状態にある湿紙を挟持して搬送する。乾燥用ベルト47及び挟持用ベルトの材質は特に限定されず、例えば、金属、ポリエステルやポリフェニレンサルファィド等の化学繊維、麻や木綿等の天然繊維が用いられる。挟持用ベルト48は、経糸と緯糸を織り込んだ織物によって形成されることが湿紙の乾燥効率が高い点で好ましい。
【0066】
乾燥手段44は、乾燥ドラム50を備える。乾燥ドラム50は、中空円筒状に形成された筒体58を備え、該筒体58の筒心に直交する左右の側面は、円盤形状の蓋体59により閉塞されている。また、筒体58は、3個の支持ローラ61により回転自在に支持されている。筒体58の内周面には、加熱手段62を備えている。加熱手段62は、柔軟で可撓性を有し、シート状に形成されたシリコンラバーヒータ等の加熱体により構成され、該加熱体が、乾燥ドラム50の内周面に全周に亘って貼着されている。
【0067】
また、
図2に示すように、乾燥ドラム50の前側には、筒体58の表面温度を検出する温度センサ66を設けている。本実施形態では、温度センサ66が、筒体58の表面に摺接し、筒体58の温度を検出する構成としたが、筒体58に非接触のセンサを用いてもよい。
【0068】
筒体58は、後側の略半円部分に、乾燥用ベルト47及び挟持用ベルト48が重ね合わされた状態で巻回されている。そして、筒体58は、乾燥用ベルト47が第2脱水ローラ46を回転駆動する図示しない駆動部によって走行され、また挟持用ベルト48が図示しない挟持用ベルト駆動部によって走行されることにより、従動して回転するようになっている。
【0069】
先端剥がし部52は、乾燥用ベルト47に接触して、湿紙の先端部分を乾燥用ベルト47から剥離させる。先端剥がし部52は、乾燥ドラム50の下方位置に設置される。先端剥がし部52は、剥離板56と揺動部57とを備える。剥離板56は、所定のタイミングで揺動部57によって揺動される。
【0070】
カレンダー部54は、乾燥ドラム50の下方やや後側よりの位置に設けられている。カレンダー部54は、乾燥ドラム50の外周面に対向して設置される。カレンダー部54は乾燥用ベルト47との間で湿紙を挟持し搬送するカレンダーローラ63を有する。カレンダーローラ63は、湿紙に当接するプレス位置と、湿紙から離間する退避位置とに亘って変位可能に構成されている。
【0071】
スクレーパ55は、乾燥用ベルト47から乾燥後の再生紙を剥がし、再生紙を仕上部4へと案内する。
【0072】
(仕上部)
図1に示す仕上部4は、帯状の再生紙を所定のシートサイズにカットする裁断刃(図示省略)を備えている。裁断刃は、左右一対のスリッターとカッターとを備える。スリッターは、丸刃により構成される。カッターは、幅方向に沿って延在する上下一対の直刃により構成される。裁断刃の下方には、裁断により生じた端材を回収する図示しない端材回収箱が設置されている。
【0073】
(制御部)
制御部8は、古紙再生処理装置100全体の動作を制御する。制御部8は、抄紙ワイヤー23上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で湿紙を形成するよう制御する。また、制御部8は、湿紙の先端領域を形成するときの抄紙ワイヤー23走行速度を、抄紙本領域を形成するときより遅くするよう前記ワイヤー駆動部を制御する。そして、制御部8は、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23上へパルプ懸濁液の供給を開始し、湿紙の先端領域を形成するときに抄紙ワイヤー23の走行を所定時間停止するよう制御する。
【0074】
(作用)
本実施形態にかかる古紙再生処理装置100の作用につき以下に説明する。まず、再生パルプ製造部1において所定量の古紙10を所定量の水とともに所定時間攪拌することで、パルプ懸濁液を製造する。次に、得られたパルプ懸濁液を脱墨部2へ送り、脱墨処理を行って、脱墨後のパルプ懸濁液を得る。脱墨後のパルプ懸濁液に対し、脱墨部2においてまたは脱墨部2から抄紙部3への流通経路の途中位置で加水し、抄紙に適する所定のパルプ濃度に調製し、抄紙部3のヘッドボックス12へ送る。
【0075】
抄紙部3では、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23上へパルプ懸濁液が供給され湿紙が形成される。制御部8は、ヘッドボックス12からパルプ懸濁液を供給し、抄紙ワイヤー23上で濾過して湿紙を形成する際、抄紙ワイヤー23に対し近接部材67を近接及び離間させる。そして、制御部8は、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23上へパルプ懸濁液の供給を開始し、湿紙の先端領域を形成するとき、近接部材67を抄紙ワイヤー23に近接させ、待機位置から堰き止め位置へ移動させる。その際、制御部8は、パルプ懸濁液のヘッドボックス12への輸送を開始するタイミングに合わせて、近接駆動部77を駆動する。近接駆動部77の駆動により駆動軸78が回転し、ベルト75及びプーリ74を介して架設軸73が回転される。これより、カム71は所定量回転する。
【0076】
図3において、二点鎖線で示すように、カム71がカム当接部81を下方より支持した状態から解放され、実線で示すようにカム当接部81に接触しなくなる。屈曲部材69は、カム当接部81がカム71に支持されなくなったために付勢部材70の付勢力によって下方へ移動する。縦板80の下部に固定された近接部材67を構成する堰き止め板36は、縦板80の移動に伴って下方へ移動する。
【0077】
堰き止め板36の下端縁は抄紙ワイヤー23の上面に接触する。堰き止め板36は、付勢部材70によって抄紙ワイヤー23へ向けて付勢され、押し付けられた状態となる。
【0078】
パルプ懸濁液は、ヘッドボックス12の流入部20から貯留部18に流入する。そして、供給板33上を流通し、抄紙ワイヤー23上に供給される。尚、このとき制御部8は、抄紙ワイヤー23の周回走行を未だ開始しておらず、抄紙ワイヤー23は停止したままである。
【0079】
抄紙ワイヤー23上に供給されたパルプ懸濁液は、堰き止め板36と左右一対の規制部材34とで囲まれた空間に滞留し、液体分が抄紙ワイヤー23の網目を通り抜ける。このようにして近接部材67を抄紙ワイヤー23に接触させ、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23に供給されたパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める。パルプ懸濁液の液体分は、抄紙ワイヤー23の内方位置で水切り板26により下方の受水部27へと導かれ、受水部27で受水された後、白水タンク29内に収容される。白水タンク29内の白水は、再生パルプ製造部1や脱墨部2等へ送られ、再利用される。
【0080】
抄紙ワイヤー23上に残存した再生パルプは、水分を比較的多く含んだ繊維の層である湿紙として形成される。制御部8は、貯留部18から抄紙ワイヤー23上へ所定量のパルプ懸濁液を所定の供給時間かけて供給した後、流入部20からのヘッドボックス12へのパルプ懸濁液の供給を停止する。これにより、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23上へのパルプ懸濁液の供給が停止される。制御部8は、この状態で所定の滞留時間かけてパルプ懸濁液を滞留部68で滞留させ、液体分を下方へ導き、湿紙の含水率を低下させる。
【0081】
その後、制御部8は、近接駆動部77を駆動する。近接駆動部77の駆動によりカム71が所定量回転され、カム71の上部がカム当接部81に接触し、付勢部材70による付勢力に抗してカム当接部81を押上げる。これより、堰き止め位置にあった堰き止め板36は、上方へ移動し、待機位置に位置される。堰き止め板36の下端縁は抄紙ワイヤー23の上面から離間する。
【0082】
抄紙ワイヤー23上の繊維は、所定の滞留時間だけ抄紙ワイヤー23上に滞留され、放置されることで含水率が低下しているとともに、先端部分が所定高さまで分厚く形成されているので、堰き止め板36が抄紙ワイヤー23から離間しても、下流側へ流れ出でしまうことなく滞留部68に留まる。一方、液体分については、パルプ懸濁液の繊維濃度、滞留時間、抄紙ワイヤー23上への供給速度等により、ヘッドボックス12からの供給方向下流側へ比較的多くの量がわずかに流れ出ることもあり、僅かに流れ出ることもあり、ほとんど流れないこともある。
【0083】
そして、制御部8はワイヤー駆動部を駆動する。ワイヤー駆動部の駆動により、抄紙ワイヤー23が走行し、湿紙の先端部分が抄紙ワイヤー23と脱水ベルト31との当接部30に至る。
【0084】
抄紙ワイヤー23上の湿紙が脱水用ベルト31との当接部30に至ると、湿紙は抄紙ワイヤー23から脱水用ベルト31へと転移される。脱水用ベルト31は、湿潤状態にある湿紙を担持しつつ走行する。脱水ローラ部43の設置位置では、湿紙を挟持押圧し、脱水するとともに、乾燥用ベルト47に転移する。
【0085】
脱水用ベルト31から乾燥用ベルト47に転移された湿紙は、乾燥用ベルト47に担持されつつ搬送される。湿紙の先端部分が、先端剥がし部52の設置位置に近づくと、制御部8によって揺動部57が駆動され、剥離板56が
図2において二点鎖線で示すよう反時計回りに揺動する。そして、剥離板56の前側端縁が乾燥用ベルト47に接触し、乾燥用ベルト47の下面に担持された湿紙を、乾燥用ベルト47から剥離させる。このように、湿紙の先端部分が乾燥用ベルト47から剥がされた後、制御部8は、再び揺動部57を駆動する。そして、先ほどとは逆の
図2において時計回りに剥離板56を揺動して剥離板56を乾燥用ベルト47に対し非接触となる位置に揺動させる。
【0086】
制御部8は、乾燥用ベルト47から剥離された湿紙の先端部分がカレンダー部54を通過した後に、カレンダーローラ63を退避位置からプレス位置へ移動する。そして、カレンダーローラ63によって湿紙を乾燥用ベルト47及び乾燥ドラム50に押し当ててプレスする。これより、得られる再生紙7の平坦度を高める。
【0087】
湿紙が、乾燥用ベルト47と挟持用ベルト48との当接位置に至ると、湿紙は、乾燥用ベルト47と挟持用ベルト48の間に挟持される。そして、湿紙は、加熱手段62によって加熱された乾燥ドラム50に、乾燥用ベルト47を介し当接される。これより、湿潤状態にある湿紙は、乾燥され、仕上げ前の帯状の再生紙7が得られる。尚、乾燥ドラム50は、温度センサ66によって温度が検出され、所定温度に維持されている。
【0088】
乾燥部15で得られた仕上げ前の帯状の再生紙7は、スクレーパ55によって乾燥用ベルト47から剥離され、図示しないガイドに案内されつつ仕上部4に送られる。仕上部4に送られた帯状の再生紙7は、裁断刃で所定のシートサイズに裁断されて再生紙7が完成する。その際、スリッターは、帯状の再生紙の幅方向両端部を長手方向に沿って裁断する。カッターは、上直刃が下直刃に対し、上下動し、再生紙を幅方向に沿って裁断する。裁断刃により裁断された再生紙7の端材は、端材回収箱に回収される。端材回収箱内の端材は、
図1に示すように再生パルプ製造部1に戻され、再度古紙原料として再生紙7の製造に利用される。
【0089】
制御部は、湿紙の先端領域に続く抄紙本領域を形成するとき、近接駆動部77を駆動して近接部材67を抄紙ワイヤー23に対し近接させ、その後離間するよう制御してもよい。これより、抄紙ワイヤー23上に形成された抄紙本領域の湿紙に近接部材67を接触させることができ、湿紙に近接部材67が接触した跡を残すことができる。その際、制御部は近接量検出部89によって近接部材67と抄紙ワイヤー23との距離を把握し、近接部材67を所望する位置に位置させることができる。
【0090】
また、制御部8は、湿紙の形成開始後、抄紙本領域を形成している途中の段階で、乾燥後得られる紙の厚さを変更したい場合には、ワイヤー駆動部の駆動量を変更し、抄紙ワイヤー23の走行速度を変更するよう制御する。制御部8は、輸送ポンプの輸送量を変更することによっても、得られる紙の厚さを変更可能である。このような場合、制御部8は、抄紙ワイヤー23の走行速度を変更するタイミングまたは輸送ポンプによるパルプ懸濁液の輸送量を変更するタイミングの少なくともいずれかに合わせて、近接駆動部77を駆動し、近接部材67を近接位置または堰き止め位置に移動させる。
【0091】
制御部8は、近接部材67を湿紙に接触させる。そして、制御部8は、近接駆動部77を制御し、近接部材67の位置及び湿紙への接触時間を調整する。これにより、乾燥後得られる紙に、目視により確認できる程度の目印を形成可能となる。再生紙のどの時点から抄紙ワイヤー23の走行速度または輸送ポンプの輸送量を変更し、厚さを変更したのか容易に確認することができる。
【0092】
更に制御部8は、抄紙本領域の湿紙を形成中に乾燥後得られる再生紙の厚さを変更する際に、近接部材67によってパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止めるよう制御することも可能である。この場合、先行する湿紙と、後続の湿紙とは連続せず、切り離される。抄紙本領域で堰き止められたパルプ懸濁液は新たな湿紙の先端領域として形成される。抄紙本領域を形成中に近接部材67によってパルプ懸濁液を堰き止めることで、紙の厚さの変更時点を明らかにすることができる。
【0093】
以上より、本実施形態に係る抄紙装置Sは、ヘッドボックス12から供給されるパルプ懸濁液を濾過して湿紙を形成する抄紙ワイヤー23と、抄紙ワイヤー23に対し近接離間する近接部材67とを備えたので、抄紙ワイヤー23上に形成された湿紙に近接部材67を接触させることで湿紙に近接部材67の接触した跡を残すことができる。これより、湿紙の乾燥によって得られる再生紙に目印を形成できる。抄紙開始から所定時間経過したときや、所定長さ、所定サイズの再生紙を所定枚数だけ抄紙するとき等といった所定のタイミングで、近接部材67を抄紙ワイヤー67に近接させると、得られる再生紙に目印をつけられるので、製造された再生紙を容易に管理できる。
【0094】
また、近接部材67は、抄紙ワイヤー23の上面に接触するよう構成されるので、湿紙に接触した跡をよりはっきりと残すことができる。
【0095】
そして、近接部材67は、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23に供給されるパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める堰き止め部35を構成するので、湿紙を形成する際に近接部材67によってパルプ懸濁液を抄紙ワイヤー23上で堰き止めることができる。これより、湿紙の厚さを部分的に厚く形成することができる。
【0096】
近接部材67は、幅方向の長さLが左右一対の規制部材34の間の距離と略等しく形成された堰き止め板36を備えるので、堰き止め板36と左右一対の規制部材34とによってパルプ懸濁液を下流側へ漏れ出ないように堰き止め、抄紙ワイヤー23上の湿紙の先端部を直線状に形成することができる。これより、制御部8は、抄紙ワイヤー23、脱水用ベルト31、乾燥用ベルト47へと順次転写して搬送される湿紙の先端部の位置を把握することができる。脱水ローラ部43の加圧開始タイミングや、先端剥がし部52の剥離板56を揺動させ、乾燥用ベルト47へ接触させるタイミング、カレンダーローラ63をプレス位置へ移動するタイミング等を適正な時点とすることができる。
【0097】
剥離板56を、乾燥用ベルト47へ接触させるタイミングが早すぎると、湿紙の先端部が先端剥がし部52に到着する前に剥離板56が乾燥用ベルト47から離れてしまう。この場合、湿紙の先端領域を乾燥用ベルト47から剥離させることができず、乾燥用ベルト47で搬送された乾燥後の再生紙を仕上部4へと送るのが困難となる。
【0098】
逆に、剥離板56を、乾燥用ベルト47へ接触させるタイミングが遅すぎ、湿紙の先端部が先端剥がし部52に到着した後に剥離板56が乾燥用ベルト47に接触する場合にも、やはり湿紙の先端領域を乾燥用ベルト47から適切に剥離させることが困難となる。
【0099】
また、仮に堰き止め板36によってパルプ懸濁液が堰き止められない場合には、抄紙ワイヤー23上に形成される湿紙の先端部は直線状とならず、ギザギザ状に形成される。その際抄紙ワイヤー23へ供給されたパルプ懸濁液は、高速で下流側へ流出される箇所と低速で流出される箇所が幅方向で隣り合わせとなり、ギザギザの振り幅が大きい。また、湿紙の先端部の厚さは、堰き止め板36で堰き止められる場合より薄く形成される。この場合、制御部8が、抄紙ワイヤー23や脱水用ベルト31、乾燥用ベルト47の走行速度を基にして湿紙の先端部の位置を予測し、これに対応する制御を行っても必ずしも適正な動作とならないこともある。
【0100】
本第1の実施形態では、堰き止め板36でパルプ懸濁液を堰き止め湿紙の先端部を直線状とすることで、制御部8は、湿紙の先端部の位置を精度よく算出することができ、これを基に適正な動作とするよう制御できる。
【0101】
更に、抄紙ワイヤー23上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で湿紙を形成するよう制御する制御部8を備えたので、抄紙本領域厚と抄紙先端領域厚とが同じである場合や抄紙本領域厚よりも抄紙先端領域厚の方が薄い場合に比較して、抄紙ワイヤー23から脱水用ベルト31へより確実に湿紙を転移させることができる。また、同様に脱水ローラ部43の設置位置においても、湿紙を脱水用ベルト31から乾燥用ベルト47へより確実に転移させることができる。そして、先端剥がし部52においては乾燥用ベルト47の下面に担持された湿紙を、乾燥用ベルト47からより確実に剥離させることができる。
【0102】
更に、抄紙ワイヤー23を走行させるワイヤー駆動部を備え、制御部8は、湿紙の先端領域を形成するときの抄紙ワイヤー23の走行速度を、抄紙本領域を形成するときより遅くするようワイヤー駆動部を制御するので、容易に湿紙の先端領域の厚さを厚くすることができる。
【0103】
制御部8は、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23上へパルプ懸濁液の供給を開始し、湿紙の先端領域を形成するときに抄紙ワイヤー23の走行を所定時間停止するよう制御するので、湿紙の先端領域の厚みを厚くすることができる。よって、抄紙ワイヤー23から脱水用ベルト31、乾燥用ベルト47へと順次行われる湿紙の転写をより確実に実行できる。また、先端剥がし部52において乾燥用ベルト47から湿紙の先端領域をより確実に剥離することができる。
【0104】
更に、古紙再生処理装置100は、古紙を離解してパルプ懸濁液を製造する再生パルプ製造部1と、抄紙ワイヤー23に対し近接離間する近接部材67が設けられた抄紙装置とを備えたので、近接部材を抄紙ワイヤー23に近接させることで、湿紙の乾燥によって得られる再生紙に目印を形成でき、再生紙を容易に管理できる。
【0105】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では、湿紙の先端領域を形成する際、抄紙ワイヤー23を走行させずに、堰き止め板36を降下して供給部19から供給するパルプ懸濁液の下流側への流出を堰き止めた状態で、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23上へパルプ懸濁液を所定の供給時間だけ供給し、その後所定の滞留時間だけパルプ懸濁液を滞留部68内で滞留させる動作を1回のみ行った。本第2の実施形態では、この動作を繰り返し行う。
【0106】
即ち、制御部8は、抄紙ワイヤー23を走行させないままで、制御部8は、脱墨部2から脱墨後のパルプ懸濁液を取出し、貯留部18へ送るための輸送ポンプを駆動開始するのと同じタイミングで、堰き止め板36を降下して付勢部材70で付勢し、滞留部68を形成する。そして、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23上へパルプ懸濁液を所定の供給時間に渡り供給する。その後、制御部8は、輸送ポンプを停止し、流入部20から貯留部18へのパルプ懸濁液の流入を停止する。すると、供給部19から抄紙ワイヤー23上へ供給されるパルプ懸濁液の供給が停止される。滞留部18内の液体分は網目から流下し、水切りされる。輸送ポンプの停止から所定の滞留時間経過後、制御部8は、輸送ポンプを再度駆動開始し、所定の供給時間だけ流入部20からパルプ懸濁液を流入させ、これより、供給部19から抄紙ワイヤー23上へパルプ懸濁液を再度供給する。
【0107】
更に、制御部8は、輸送ポンプを停止し、パルプ懸濁液の供給を所定の滞留時間経過だけ停止してパルプ懸濁液を滞留させる。その後、再度輸送ポンプを所定の供給時間だけ駆動し、所定の滞留時間だけパルプ懸濁液を滞留部68に滞留させる。このように、パルプ懸濁液の抄紙ワイヤー23への供給及び滞留の動作を3回行った後、制御部8は近接駆動部77を駆動し堰き止め板35を上昇させる。
【0108】
1、2、3回の各供給時間及び各滞留時間はいずれも同じ長さであってもよく、異なっていてもよい。パルプ懸濁液の抄紙ワイヤー23への供給及び滞留の動作を繰り返し複数回行うことによって、1回しか行わないときより湿紙の先端領域の厚さを更に厚くすることができる。これより、抄紙ワイヤー23から脱水用ベルト31、乾燥用ベルト47へと湿紙をより確実に転移及び、乾燥用ベルト47からの剥離をより確実に実行可能である。
【0109】
(第3の実施形態)
図5は第3の実施形態にかかる抄紙部3aを構成する抄紙装置Saの部分縦断面図である。
図6は第3の実施形態にかかる抄紙部3aの一部を上流側から見た図である。本第3の実施形態に係る抄紙装置Saの近接部材67aは、抄紙ワイヤー23aに対し近接離間する際、揺動軸91を軸心として揺動するよう構成される。近接部材67aを支持する支持部37aは、側枠体38a及び揺動部90を備える。側枠体38aは、フレーム42aより下方に向けて垂設される。
【0110】
揺動部90は、近接部材67aを揺動させる。揺動部90は、揺動軸91、揺動支持部92、摺接部93、付勢部材70a、近接量検出部89a、プーリ74a ベルト75a、及び近接駆動部77aを備える。
図6に示すように、揺動軸91は、左右の側枠体38aの間に架設され、該一対の側枠体38aに回動自在に軸支される。側枠体38aより外方に突出した揺動軸91の一方の端部にはプーリ74aが固定される。該プーリ74aはベルト75aによって近接駆動部77aの駆動軸78aに連結されている。
【0111】
揺動支持部92は、幅方向Wに所定長さで延在し、揺動軸91に複数の螺子95により固定されている。揺動支持部92は、近接駆動部77aの駆動による揺動軸91の回動に伴って
図5において実線で示す鉛直方向に延在した堰き止め位置と、ヘッドボックスからのパルプ懸濁液の供給方向F下流側へ向けて揺動され、傾斜した
図5において二点鎖線で示す待機位置、及び堰き止め位置と待機位置との間の近接位置で揺動される。
【0112】
摺接部93は、揺動支持部92と幅方向Wの長さがほぼ同じに形成され、揺動支持部92に対して摺接可能に延在する。摺接部93の下部には、近接部材67aを構成する堰き止め板36aの上部が複数の螺子82aによって固定される。摺接部93は、パルプ懸濁液の供給方向上流側面が揺動支持部92の供給方向下流側面に接触している。
【0113】
摺接部93の幅方向W両端部近傍位置には、それぞれ上下方向に長い案内穴84aが形成されている。案内穴84aには、ビスによって構成される案内軸85aが挿通されている。案内軸85aの先端部851aは揺動支持部92に固定される。
【0114】
摺接部93は、前記一対の案内穴84aの幅方向W内側に設定された左右一対の付勢部材70aによって下方の抄紙ワイヤー23aに向けて付勢されている。付勢部材70aは、圧縮ばねにより構成される。付勢部材70aは、パルプ懸濁液の供給方向Fに直交する幅方向Wに所定量離間して左右一対設置される。付勢部材70aの下端部は摺接部93に設けられた下端係止部87aに係止され、付勢部材70aの上端部は揺動支持部92に設けられた上端係止部88aに係止されている。
【0115】
堰き止め位置において、堰き止め板36aが抄紙ワイヤー23a上面に接触し、付勢部材70aに付勢されて抄紙ワイヤー23aから押し上げる力を受けるとき、摺接部93は案内穴84a及び案内軸85aによって案内され、摺接部93が揺動支持部92に対して揺動円の半径方向に摺接される。
【0116】
堰き止め板36aが堰き止め位置にあるとき、堰き止め板36aと、左右一対の規制部材34aとによって抄紙ワイヤー23a上に供給されたパルプ懸濁液が下流側へ供給されず滞留する滞留部68aが形成される。待機位置では、堰き止め板36は
図5において反時計回りに揺動し、抄紙ワイヤー23aから所定量離間する。
【0117】
近接量検出部89aは、本第3の実施形態では、遮光部材97と検出部材98とを備える。近接量検出部89aは、一方の側枠体38aの外方に設置される。遮光部材97は半月状に形成され、揺動軸91の端部に固定される。検出部材98は、遮光部材97の供給方向F下流側に設置される。検出部材98は、発光素子及び受光素子を有する光学式センサにより構成される。揺動軸91が回動することで、近接部材67aの揺動量を検出し、近接部材67aが堰き止め位置または待機位置のいずれにあるのかを検出する。遮光部材97に替えてエンコーダを用いることもできる。エンコーダを用いた場合には、揺動部90の揺動量を詳細に把握することができ、近接部材67aと抄紙ワイヤー23aとの間の距離を制御することができ、近接位置における抄紙ワイヤー23aと近接部材67aの距離を調整可能である。
【0118】
本第3の実施形態に係る抄紙装置Saの作用は、ヘッドボックス12からパルプ懸濁液を供給し、抄紙ワイヤー23a上で濾過して湿紙を形成する際、抄紙ワイヤー23aに対し近接部材67aを近接及び離間させるために近接部材67aを揺動部90によって揺動させる。制御部8が、近接駆動部77aを駆動すると、駆動軸78aが回動し、ベルト75a及びプーリ74aを介して揺動軸91が所定量回動される。これより、揺動支持部92は所定量回動し、摺接部93を介し近接部材67aが待機位置、近接位置及び堰き止め位置の間で揺動される。
【0119】
近接量検出部89aは、遮光部材97によって検出部材98が遮光から通光へ変更されることで近接部材67aが待機位置または近接位置から揺動し、堰き止め位置に至ったことを検出する。逆に、検出部材98が通光から遮光に変更されると、堰き止め位置から近接位置または待機位置に揺動され、移動されたことを検出する。遮光部材97がエンコーダによって構成される場合には、近接部材67aと抄紙ワイヤー23aとの距離、近接速度等を検出することができる。
【0120】
制御部は近接駆動部77aの駆動量を制御することで、近接部材67aを抄紙ワイヤー23aに対し所定量離間させた位置に停止させることができる。これより、抄紙ワイヤー23a上に形成された湿紙に近接部材67aを接触させることで湿紙に近接部材67aが接触した跡を残すことができる。制御部8が近接駆動部77aの駆動量を制御することによって、近接部材67aの先端と抄紙ワイヤー23aとの距離、近接するときの速度や近接時間等を調整することができ、湿紙に形成する近接部材67aの跡の大きさや深さ、または鮮明さを自由に変更し、所望するものとすることができる。
【0121】
また、近接部材67aは揺動部90によってヘッドボックス12からのパルプ懸濁液の供給方向Fに移動して抄紙ワイヤー23aから離間する。よって、揺動部90によって近接部材67aが抄紙ワイヤー23aから離間する速度を抄紙ワイヤー23aの走行速度と一致させることで、湿紙に不要な損傷を与えることなく鮮明な跡を形成できる。
【0122】
また、第3の実施形態では、近接部材67aが揺動部90で揺動させるので、簡単な構造で、近接部材67aを抄紙ワイヤー23aに対し近接離間することができる。
【0123】
(第4の実施形態)
図7は第4の実施形態にかかる抄紙部3bを構成する抄紙装置Sbの部分縦断面図である。本第4の実施形態に係る抄紙部3bは、第1の実施形態の脱水用ベルト31及び乾燥用ベルト47を備えていない。また、
図2に示す抄紙装置Sでは湿紙形成部11の上方位置に乾燥ドラム50が設置されたが、これに替えて、
図7では乾燥ドラム50bが湿紙形成部11bを構成するヘッドボックス12b及びワイヤー部13bと略同じ高さ位置に並設される。
【0124】
また、
図7では、脱水部14bを構成する脱水ローラ部43bが、上側を走行する往路軌道の抄紙ワイヤー23bの下流側端部近傍に設置される。脱水ローラ部43bでは抄紙ワイヤー23bを表裏方向に挟持し、抄紙ワイヤー23b上の湿紙を押圧して脱水する。脱水ローラ部43bは、抄紙ワイヤー23bの内方に設置された第1脱水ローラ45bと、該第1脱水ローラ45bに抄紙ワイヤー23bを介して対向し上方に設置される第2脱水ローラ46bとからなる。
【0125】
図7では、挟持用ベルト48bは、乾燥ドラム50bの前側の略半円部分に巻回される。挟持用ベルト48bは、乾燥ドラム50bの下部で乾燥ドラム50bから離れ、抄紙ワイヤー23bの下方位置にまで延びて設置される。そして、挟持用ベルト23bがかけられる複数のローラ49aのうち最も後方に位置するローラ491aは、上側を走行する抄紙ワイヤー23bが走行方向を転換し下側を走行する転換位置Pの真下より後方のヘッドボックス12b設置側、即ち
図7において左方に位置する。
【0126】
第4の実施形態に係る抄紙部3bでは、近接部材67bによってヘッドボックス12bから抄紙ワイヤー23bに供給されるパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止め、制御部8bによって抄紙ワイヤー23b上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で湿紙を形成するよう制御することで、湿紙の先端部分が抄紙ワイヤー23sの転換位置Pに至り、抄紙ワイヤー23bの走行方向が前方から後方へ転換されても、湿紙は転換前と同じ方向である
図7における右方、または湿紙の自重によって下方へ進行しようとする。この結果、湿紙の先端部分は抄紙ワイヤー23から分離され、独立した状態で移動し、その後下方に設置された挟持用ベルト48によって支持され搬送される。
【0127】
更に、湿紙の先端部分が、挟持用ベルト48bと乾燥ドラム50bとの当接部に至り、挟持用ベルト48bと乾燥ドラム50bとの間で挟持され、水分が脱水され、乾燥される。これより、第4の実施形態に係る抄紙装置Sbは、抄紙ワイヤー23bの下方に挟持用ベルト48bが設置され、湿紙の先端部分が抄紙ワイヤー23bから挟持用ベルト48bへ受け渡されるので、湿紙先端部分が厚く形成されることで、先端部分を確実に受け渡すことができる。
【0128】
(第5の実施形態)
図8は第5の実施形態にかかる抄紙部3cを構成する抄紙装置Scの部分縦断面図である。本第5の実施形態に係る抄紙部3cは、第4の実施形態と同様に、脱水用ベルト31及び乾燥用ベルト47を備えていない。第5の実施形態に係る抄紙装置Scは、脱水部14cを構成する脱水ローラ部43cが、抄紙ワイヤー23cの上面に接触するよう設置された第1脱水ローラ45cのみで構成される。第1脱水ローラ45cは、抄紙ワイヤー23cとの間で湿紙を挟持し脱水する。
【0129】
また、
図8では、抄紙ワイヤー23cが、往路軌道の下流側端部近傍に設けられた脱水ローラ部43cにおいて、上方へ向けて湾曲して走行するようローラ24cに掛け渡されている。更に、挟持用ベルト48cが乾燥ドラム50cの略4分の3の部分に巻回され、上方へ湾曲して走行する抄紙ワイヤー23cに対向するようローラ49cに掛け渡されている。抄紙ワイヤー23cと挟持用ベルト49cとは当接することなく、所定量離間して設置されている。
【0130】
第5の実施形態に係る抄紙装置Scは、上方へ向けて走行する抄紙ワイヤー23cと第1脱水ローラ45cとの間で湿紙を挟持して脱水する。そして、抄紙ワイヤー23cの上方に向けた走行に伴い、
図8に示すように湿紙の先端領域は上方へ向けて搬送される。近接部材67cを用い、または抄紙ワイヤー23cの走行速度を停止または低速とし、または輸送ポンプの輸送量を調節する等何らかの方法によって湿紙の先端部分が厚く形成された場合、脱水ロール部43cで脱水されることで、ある程度のコシを有することとなる。これより、抄紙ワイヤー23cの往路軌道から復路軌道への転換位置Pcに至ったときに、抄紙ワイヤー23cから分離され、
図8において実線で示すように斜め右上方へ向けて独立して搬送される。
【0131】
抄紙ワイヤー23cから上方へ伸びた湿紙の先端領域Mcの長さが、所定長さに至ると、二点鎖線で示すように、湿紙の先端領域Mcは自重によって座屈する。そして、抄紙ワイヤー23cに対向する挟持用ベルト48cによって支持される。湿紙の先端領域は挟持用ベルト48cと乾燥ドラム50cの間に入り込み、これらの当接部分において挟持用ベルト48cと乾燥ドラム50cとの間で挟持され搬送される。
【0132】
第5の実施形態に係る抄紙装置Scでは、脱水ローラ部43cが抄紙ワイヤー23cと第1脱水ローラ45cの間で湿紙を脱水するので、比較的小さい押圧力で湿紙を脱水でき地合を改善できる。また、往路軌道の下流側端部より所定量手前の脱水ローラ部43c設置位置で、抄紙ワイヤー23cが上方に向けて湾曲して走行するので、抄紙ワイヤー23cの第1脱水ローラ45cに対する巻き掛け量が長くなり、第1脱水ローラ45cと抄紙ワイヤー23cの接触される面積が多くなる。よって、第1脱水ローラ45cと抄紙ワイヤー23cによって湿紙が挟持され、脱水される長さを第1~3実施形態よりも長くすることができる。湿紙を小さい押圧力で長く押圧し、脱水することができる。
【0133】
(第6の実施形態)
上記各実施形態では、湿紙の先端領域を、脱墨部2で脱墨処理を施したパルプ懸濁液を用いて形成した。脱墨処理では、脱墨泡の作用により、印刷成分とともにパルプ懸濁液中の繊維の一部が他の繊維から分離され、外部へ取り出される。脱墨処理の際にパルプ懸濁液から取り出される繊維の量は、原料である古紙の印字率や混合されている添加剤の種類や量等に影響を受ける。このため、再生パルプ製造部1において、原料である古紙の重量を計測し、当該計測値に応じた量の加水を行うことで、パルプ懸濁液中の繊維濃度を所定値に調整した場合であっても、脱墨処理を施したのちには繊維濃度の値が変動してしまうことがある。
【0134】
仮に、脱墨後のパルプ懸濁液の繊維濃度が、通常想定される値より低い状態のとき、形成される湿紙の先端領域の厚さが薄くなる可能性がある。湿紙の先端領域を下流側へ転写する工程では、先端領域の厚さが厚い方が薄いときより安定して該湿紙を転写させることができる。このため、本第6の実施形態では、湿紙の先端領域を、脱墨処理を全くしていないかまたはほとんどしていないパルプ懸濁液を用いて形成することで、パルプ懸濁液中の繊維濃度の変動を抑制した。これより、湿紙の先端領域を形成する繊維の量を安定させることができ、抄紙ワイヤー13から下流側のベルト等への湿紙の転写をより確実に実行できる。
【0135】
脱墨処理を全くしていないパルプ懸濁液を用いて湿紙の先端領域を形成するには、再生パルプ製造部1から脱墨部2を経ることなくヘッドボックス12へ直接パルプ懸濁液を送るための図示しない直送配管を別途設ける方法がある。この直送配管には、必要によりパルプ懸濁液を先端領域の抄紙に適する繊維濃度まで希釈するための希釈部を設けてもよい。そして、先端領域の形成に必要となる量のパルプ懸濁液を、この直送配管により供給し、貯留部18に一旦貯留する。
【0136】
次に、再生パルプ製造部1から脱墨部2へパルプ懸濁液を輸送するための図示しないバルブを切り替え、パルプ懸濁液を脱墨部2に送り、脱墨処理を実行する。そして、脱墨部2からヘッドボックス12へ脱墨処理後のパルプ懸濁液を送る。また、近接部材67を堰き止め位置に移動する。脱墨部2からのパルプ懸濁液の供給により、貯留部18に貯留しておいた脱墨処理していないパルプ懸濁液が抄紙ワイヤー13上へ供給され、先端領域が形成される。脱墨処理を全く行っていないパルプ懸濁液を用いる場合、脱墨処理によって繊維の一部を印刷成分とともに分離し、廃棄するといったことがなく全ての繊維をヘッドボックス12へ送ることができ、原料となる古紙を有効に利用できる。
【0137】
所定厚さの先端領域が形成されると、引き続き脱墨処理後のパルプ懸濁液を用いて後続の湿紙が形成される。これより、脱墨処理していないパルプ懸濁液に続けて脱墨処理を行ったパルプ懸濁液を抄紙ワイヤー13上へ連続して供給することができる。
【0138】
脱墨処理を全くしていないパルプ懸濁液を用いて湿紙の先端領域を形成する他の方法としては、上記第1、2の実施形態と同様に、脱墨処理前のパルプ懸濁液を、再生パルプ製造部1から脱墨部2へ送り、脱墨部2の図示しない脱墨槽内で図示しない空気供給部からパルプ懸濁液中に脱墨処理を行うときより少ない量だけ供給する。このときの空気供給部からパルプ懸濁液中に供給される空気の量は、パルプ懸濁液中の繊維を水とともに撹拌し、脱墨槽底部付近に繊維が沈殿しない最低限の量とすることが好ましい。
【0139】
また、脱墨処理前のパルプ懸濁液を、再生パルプ製造部1から脱墨部2へ送り、通常の脱墨処理と同じ量の空気を空気供給部からパルプ懸濁液中に供給するとともに、脱墨処理に要する時間を短くしてもよい。これらより、繊維を溢流させないようにしつつ脱墨槽を通過させることで、脱墨処理を全くしていない場合と同様に、一部の繊維を廃棄することなく全ての繊維を用いて湿紙の先端領域を形成できる。また、印刷成分とともに溢流される繊維の量を少なくし、脱墨処理をほとんどせずに先端領域を形成することができる。
【0140】
そして、脱墨処理を全くまたはほとんど行っていないパルプ懸濁液を、脱墨部2からヘッドボックス12へ送る。湿紙先端領域を形成すると、抄紙部3の動作を一旦停止し、脱墨処理を開始する。脱墨槽内に貯留するパルプ懸濁液の脱墨処理が完了するための所定時間経過後に、抄紙部3の動作を再開するとともに、脱墨部2からヘッドボックス12へ脱墨処理後のパルプ懸濁液を開始する。
【0141】
尚、上記各実施形態では、近接部材67,67a~67cは、抄紙ワイヤー23,23a~23cの上面に接触するよう構成されたが、これに限定されず、近接部材が抄紙ワイヤーに近接離間するだけで接触しないよう構成してもよい。また、近接部材67,67a~67cは、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23,23a~23cに供給されるパルプ懸濁液の下流側への流れを堰き止める堰き止め部35,35a~35cを構成したが、近接部材によってパルプ懸濁液の流れを堰き止められない構成としてもよい。近接部材が抄紙ワイヤーに接触しないなどの理由で、パルプ懸濁液を堰き止められない場合であっても、抄紙ワイヤーの走行速度を遅くするかまたは抄紙ワイヤーの走行を停止することによって湿紙先端領域の紙厚を厚くすることが可能である。
【0142】
また、制御部8は、抄紙ワイヤー上で形成される湿紙の先端領域の紙厚を、前記先端領域に続く抄紙本領域に設定される抄紙本領域厚より厚い抄紙先端領域厚で湿紙を形成するよう制御したが、湿紙先端領域の紙厚を抄紙本領域と同じ厚さとしてもよく、湿紙本領域より薄くしてもよい。また、制御部8は、ヘッドボックス12から抄紙ワイヤー23,23a~23c上へパルプ懸濁液の供給を開始し、湿紙の先端領域を形成するときに抄紙ワイヤーの走行を、1回または複数回所定時間に渡り停止するよう制御したが、湿紙の先端領域を形成するときの抄紙ワイヤーの走行速度を、抄紙本領域を形成するときより遅くするよう制御してもよい。更に、制御部は、湿紙の先端領域を形成するとき輸送ポンプの輸送量を多くするよう制御してもよい。これらのいずれの場合も、湿紙先端領域の紙厚を厚くすることができ、抄紙ワイヤーや吸水用ベルト、乾燥用ベルトや乾燥ドラム等から湿紙を剥離しやすくでき、必要な転写や剥離の処理をより確実にできる。また、古紙再生処理装置100に脱墨部2を設けたが、脱墨部2を省略しても構わない。
【符号の説明】
【0143】
S,Sa,Sb,Sc 抄紙装置
1 再生パルプ製造部
11 湿紙形成部
12 ヘッドボックス
23、23a,23b、23c 抄紙ワイヤー
67,67a 近接部材
77,77a 付勢部材
100 古紙再生処理装置