(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】複素環含有樹脂、動的共有結合性樹脂および樹脂成形体の表面改質方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/14 20060101AFI20220502BHJP
C08J 7/12 20060101ALI20220502BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C08G59/14
C08J7/12 A CFC
C08G59/50
(21)【出願番号】P 2018039874
(22)【出願日】2018-03-06
【審査請求日】2021-01-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年9月6日発行 高分子学会予稿集 66巻2号 発表番号2ESA15にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)、「超薄膜化・強靱化「しなやかなタフポリマー」の実現」、「タフポリマーを指向した基盤的合成技術と評価技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】大塚 英幸
(72)【発明者】
【氏名】青木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由実子
(72)【発明者】
【氏名】木田 淳平
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237781(JP,A)
【文献】特表2012-500208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08G 61/00-61/12
C08J 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に一般式(I)で表される構造単位を少なくとも1種類含
み、
ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリラクトン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアルキレンオキシド、ポリメチレン、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、エポキシ樹脂、ポリアセチレン、又はポリビニルのいずれかである、複素環含有樹脂。
【化1】
(一般式(I)中、R
1は水素原子又は1価の有機基であり、R
2は1価の有機基である。)
【請求項2】
前記R
2は、一般式(I)で表されるホウ素原子にアリール基が直結する1価の有機基である請求項1に記載の複素環含有樹脂。
【請求項3】
エポキシ樹脂である請求項1又は2に記載の複素環含有樹脂。
【請求項4】
主鎖に一般式(II)で表されるジエタノールアミン骨格の構造単位を少なくとも1種類含むポリマーAと、
-B(OH)
2を少なくとも一つ有する化合物Bとの反応によって得られる請求項1~3のいずれかに記載の複素環含有樹脂。
【化2】
【請求項5】
主鎖に一般式(α)で表される少なくとも1種類の複素環および一般式(β)で表される少なくとも1種類のジエタノールアミン構造の少なくとも一方を含む動的共有結合性樹脂であって、
ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリラクトン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアルキレンオキシド、ポリメチレン、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、エポキシ樹脂、ポリアセチレン、又はポリビニルのいずれかであり、
前記複素環
の量比を増やすときには、-B(OH)
2
を少なくとも一つ有する化合物Bと外部刺激により、
前記ジエタノールアミン構造
の量比を増やすときには、外部刺激により調整する動的共有結合性樹脂。
【化3】
(一般式(α)中、R
1は水素原子又は1価の有機基であり、R
2は1価の有機基である。)
【化4】
(一般式(β)中、R
1は水素原子又は1価の有機基である。)
【請求項6】
前記R
2は、-B(OH)
2を1又は複数有していてもよく、前記複素環のホウ素原子の少なくとも1つにアリール基が直結している請求項5に記載の動的共有結合性樹脂。
【請求項7】
エポキシ樹脂である請求項5又は6に記載の動的共有結合性樹脂。
【請求項8】
主鎖に一般式(α)で表される少なくとも1種類の複素環および一般式(β)で表される少なくとも1種類のジエタノールアミン構造の少なくとも一方を含む、
ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリラクトン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアルキレンオキシド、ポリメチレン、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、エポキシ樹脂、ポリアセチレン、又はポリビニルのいずれかである樹脂を含有する樹脂成形体の表面を改質するために、
当該樹脂成形体表面の、
前記複素環
の量比を増やすときには、-B(OH)
2
を少なくとも一つ有する化合物Bと外部刺激により、
前記ジエタノールアミン構造
の量比を増やすときには、外部刺激により、調整する樹脂成形体の表面改質方法。
【化5】
(一般式(α)中、R
1は水素原子又は1価の有機基であり、R
2は1価の有機基である。)
【化6】
(一般式(β)中、R
1は水素原子又は1価の有機基である。)
【請求項9】
前記R
2は、-B(OH)
2を1又は複数有していてもよく、前記複素環のホウ素原子の少なくとも1つにアリール基が直結している請求項8に記載の樹脂成形体の表面改質方法。
【請求項10】
前記樹脂はエポキシ樹脂である請求項8又は9に記載の樹脂成形体の表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素を含む複素環含有樹脂および、動的共有結合性樹脂に関する。また、樹脂成形体の表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、重合に供される単量体の種類やポリマーの分子量等に応じて、得られる強度や耐久性等の物理的特性を変えることが可能であり様々な用途に応用展開されている。例えば、熱硬化性樹脂に代表されるエポキシ樹脂(例えば、特許文献1~3)は、電気絶縁性、誘電特性に優れ、金属や非金属材料との接着性にも優れ、硬度が高くて硬化収縮率も小さいので、工業的用途を中心に多様な分野で使用されている。
【0003】
近年、高分子材料の更なる高機能化を実現するために、周辺の環境に応じて特性を変えられる外部刺激応答性を示す機能性材料の開発が精力的に行われている。
【0004】
外部刺激応答性を示す機能性材料として、非共有結合性の分子間相互作用に基づいて形成される超分子ポリマーが注目されている。超分子ポリマーは、低分子の自己組織化とその解離とが可逆的であり、ポリマー形成後にその構造変化を外部因子によって制御することが可能である。しかし、ポリマー形成の駆動力に非共有結合を利用しているため、総じて超分子ポリマーの強度および安定性が充分とはいえず、材料としての利用が制限されているのが現状である。
【0005】
物理的強度および安定性の観点からは、共有結合を用いた外部刺激応答性を示す高分子材料の開発が望まれる。このような材料として、ボロン酸の担持、放出を可能にした高分子材料が報告されている(非特許文献1)。また、ボロン酸エステル結合の生成を高分子架橋の駆動力や、集合体としての機能発現に利用した例が報告されている(非特許文献2,3)。
【0006】
なお、高分子の機能性材料への応用に関する文献ではないが、非特許文献4には、後述する課題を解決するための手段で記載する反応に関連するボロン酸エステルの合成法やその特性についての報告がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2017-500388号公報
【文献】特表2014-507377号公報
【文献】特表2004-536196号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Tony D. James, et al., Tetrahedron Letters, 41, 10291-10294 (2000)
【文献】Kazuhiko Ishihara, et al., Macromol. Symp., 354, 104-110 (2015)
【文献】Guocan Yu, et al., RSC Adv., 6, 47281-47284 (2016)
【文献】H.Bonin et al., Org. Biomol. Chem., 9, 4714-4724 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
エポキシ樹脂は、前述したように種々の優れた特性を有するが、その一方で、合成後あるいは硬化後にその物理的性質を制御することは容易ではないという問題がある。エポキシ樹脂に外部刺激応答性を付与できれば、これまでにはない新たな機能を有するエポキシ樹脂を提供できる可能性がある。なお、上記においてはエポキシ樹脂における課題について述べたが、樹脂全般においても同様の課題がある。
【0010】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、その第1の目的とするところは、共有結合でありながら可逆的な解離-付加を実現できる動的共有結合を主鎖に有する複素環含有樹脂および動的共有結合性樹脂を提供することである。また、第2の目的とするところは、共有結合でありながら可逆的な解離-付加を実現できる動的共有結合を用いて表面を化学的に改質する樹脂成形体の表面改質方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]: 主鎖に一般式(I)で表される構造単位を少なくとも1種類含む複素環含有樹脂。
【化7】
(一般式(I)中、R
1は水素原子又は1価の有機基であり、R
2は1価の有機基である。)
[2]: 前記R
2は、一般式(I)で表されるホウ素原子にアリール基が直結する1価の有機基である[1]に記載の複素環含有樹脂。
[3]: エポキシ樹脂である[1]又は[2]に記載の複素環含有樹脂。
なお、本明細書において「エポキシ樹脂」とは、アミンを有する単量体とエポキシ基を有する単量体を重合して得られた樹脂を少なくとも一部に含む樹脂をいい、得られた樹脂中にエポキシ基を有するか否かは問わない。
[4]: 主鎖に一般式(II)で表されるジエタノールアミン骨格の構造単位を少なくとも1種類を含むポリマーAと 、
-B(OH)
2を少なくとも一つ有する化合物Bとの反応によって得られる[1]~[3]のいずれかに記載の複素環含有樹脂。
【化8】
【0012】
[5]: 主鎖に一般式(α)で表される少なくとも1種類の複素環および一般式(β)で表される少なくとも1種類のジエタノールアミン構造の少なくとも一方を含む樹脂動的共有結合性樹脂であって、
前記複素環および前記ジエタノールアミン構造の量比を、外部刺激により調整する動的共有結合性樹脂。
【化9】
(一般式(α)中、R
1は水素原子又は1価の有機基であり、R
2は1価の有機基である。)
【化10】
(一般式(β)中、R
1は水素原子又は1価の有機基である。)
[6]: 前記R
2は、-B(OH)
2を1又は複数有していてもよく、前記複素環のホウ素原子の少なくとも1つにアリール基が直結している[5]に記載の動的共有結合性樹脂。
[7]: エポキシ樹脂である[5]又は[6]に記載の動的共有結合性樹脂。
【0013】
[8]: 主鎖に一般式(α)で表される少なくとも1種類の複素環および一般式(β)で表される少なくとも1種類のジエタノールアミン構造の少なくとも一方を含む樹脂を含有する樹脂成形体の表面を改質するために、
当該樹脂成形体表面の、前記複素環および前記ジエタノールアミン構造の量比を、外部刺激により調整する樹脂成形体の表面改質方法。
【化11】
(一般式(α)中、R
1は水素原子又は1価の有機基であり、R
2は1価の有機基である。)
【化12】
(一般式(β)中、R
1は水素原子又は1価の有機基である。)
[9]: 前記R
2は、-B(OH)
2を1又は複数有していてもよく、前記複素環のホウ素原子の少なくとも1つにアリール基が直結している[8]に記載の樹脂成形体の表面改質方法。
[10]: 前記樹脂はエポキシ樹脂を含む[8]又は[9]に記載の樹脂成形体の表面改質方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、共有結合でありながら可逆的な解離-付加を実現できる動的共有結合を主鎖に有する複素環含有樹脂および動的共有結合性樹脂を提供できるという優れた効果を有する。また、共有結合でありながら可逆的な解離-付加を実現できる動的共有結合を用いて表面を化学的に改質する樹脂成形体の表面改質方法を提供できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る複素環含有樹脂の解離-付加による構造変換を説明するための模式図。
【
図2】例1に係る化合物の
1H-NMRスペクトル。
【
図3】例1に係る化合物の
13C-NMRスペクトル。
【
図4】例2に係る化合物の温度条件による
1H-NMRスペクトル。
【
図5】例3に係る化合物の含水条件による
1H-NMRスペクトル。
【
図6】例4に係る化合物の
1H-NMRスペクトル。
【
図7】例5に係るサンプルのボロン酸滴下前後の写真(図中の右側が滴下前、左側が滴下後)。
【
図8】例6に係る化合物の
1H-NMRスペクトル。
【
図12】例9に係る樹脂成形体の写真(図中の右側がボロン酸滴下前、左側がボロン酸滴下後)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、本願明細書でいう「アリール基」は、単環または多環式化合物からなるものの他、ヘテロアリール基も含むものとする。
【0017】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る複素環含有樹脂は、主鎖に一般式(I)で表される構造単位を少なくとも1種類含むものである。
【化13】
但し、一般式(I)中、R
1は水素原子又は1価の有機基であり、R
2は1価の有機基である。
【0018】
R1およびR2は、一般式(I)に示すボロン酸エステル構造を含む複素環の形成を妨げない限りにおいて限定されない。R1およびR2の1価の有機基は、それぞれ独立に、一般式(I)の複素環を構成するホウ素原子または窒素原子に直結する原子は炭素原子であり、ヘテロ原子、金属原子、炭素-炭素二重結合および三重結合を有していてもよい、置換基を有していてもよい炭化水素基である。炭化水素基は、鎖状、環状(アリール基を含む)および両者を含む構造のいずれでもよい。置換基はハロゲン原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキニル基、アルケニル基、チオール基、カルボキシル基、エステル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、ハロゲン化アルキル基およびイソシアネート基が例示できる。また、樹脂中のR1はそれぞれ独立に同一の基であっても異なっていてもよい。樹脂中のR2についても同様である。
【0019】
式(I)中の複素環における窒素原子とホウ素原子は錯体を形成している。ここで、主鎖とは、単量体が重合により伸びていく骨格鎖をいい、直鎖状ポリマーの他、架橋ポリマー、グラフトポリマー、環状ポリマー等を含む。換言すると、主鎖は側鎖を除く部分であり、樹脂中に複数有していてもよい。R1およびR2の分子量はそれぞれ独立に、低分子の基でも高分子の基でもよい。
【0020】
R1の好適な例としては、炭素数が1~50のアルキル基、炭素数が1~50のアルキレン基、炭素数が1~50のアルキニル基等がある。また、アリール基、-CmH2m(mは例えば3~50の整数である)の脂環式炭化水素基が例示できる。これらはいずれも置換基を有していてもよい。これらのうち特に好ましくはアルキル基である。
【0021】
R1としては、例えば、水素原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル等のアルキル基、カルボニルメチル、2-カルボニルエチル、ヒドロキシメチル、メルカプトメチル、メチルチオエチル、置換または無置換のベンジル、4-ヒドロキシベンジル、イミダゾールメチル、置換または無置換のフェニル、1-ヒドロキシエチル、またはパラボロノフェニルが挙げられる。
【0022】
R
2の好適な例としては、一般式(I)で表される複素環のホウ素原子にアリール基が直結する基が挙げられる。このアリール基は、例えばフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、チオフェン基、フリル基等が挙げられる。これらのアリール基には、更に他の基が結合していてもよく、置換基を有していてもよい。例えばR
2がフェニル基の場合、一般式(IV)に示すような置換基が例示できる。
【化14】
R
3~R
7は、それぞれ独立に、水素原子、官能基または有機基であり、互いに結合して環を形成していてもよい。好適な例としては、水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキニル基、アルケニル基、チオール基、カルボキシル基、エステル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、ハロゲン化アルキル基およびイソシアネート基が例示できる。また、低分子量の基に限定されず、高分子量の基も含む。
【0023】
R
2の好適な例としては、以下の式(V)に示す基が例示できる。
【化15】
【0024】
R2に、-B(OH)2が1つ又は複数有していてもよい。また、R2中に一般式(I)に示す複素環が含まれていてもよい。
【0025】
第1実施形態に係る複素環含有樹脂は、主鎖に一般式(II)で表されるジエタノールアミン骨格を含むポリマーAと、-B(OH)
2を少なくとも一つ有する有機化合物である化合物Bとの反応によって得られる。
【化16】
即ち、一般式(III)の反応により複素環含有樹脂を得ることができる。
【化17】
【0026】
上記一般式(III)の反応に示すように、ジエタノールアミン骨格で表される構造単位を少なくとも1種類含むポリマーAのジエタノールアミン骨格を起点として、主鎖骨格内にボロン酸エステルを形成することにより主鎖に複素環を形成することができる。
【0027】
第1実施形態のジエタノールアミン骨格を有するポリマーAと化合物Bとの反応は、液体、ペーストまたは固体中で混合することで進行する。温度や環境は、特に限定されるものではないが、例えば0℃~100℃の範囲で進行することが可能であり、好ましくは0℃~50℃である。また、空気中で反応を進行させることができる。液体で行う場合の溶媒の種類は問わないが、複素環含有樹脂側にその平衡を偏らせるためには、非水系の溶媒が好ましい。添加する化合物Bのボロン酸のモル比も限定されるものではなく、用途に応じて適宜設計できる。化合物Bのボロン酸は、ジエタノールアミン骨格に対して不足していても過剰でもよい。
【0028】
ポリマーAの種類は特に限定されるものではないが、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリラクトン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド)、ポリメチレン、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、エポキシ樹脂、ポリアセチレン、又はポリビニルを挙げることができる。
【0029】
ポリマーA中のジエタノールアミン骨格は、エポキシ基とアミンとの縮合反応によって形成される骨格であり、エポキシ樹脂の主鎖骨格中に見出すことのできる結合である。例えば、一般式(VI)に示すように、ジエポキシ化合物と1級アミン化合物の縮合反応によって得ることができる。
【化18】
但し、Xはヘテロ原子を含んでいてもよい2価の有機基である。
【0030】
上記一般式(VI)に示すように、ジエタノールアミン骨格を有する単量体を容易に得る観点から、本実施形態に係る複素環含有樹脂はエポキシ樹脂に特に好適である。
【0031】
主鎖に一般式(I)で表される構造単位を少なくとも1種類含む複素環含有樹脂を合成するために、単量体の少なくとも一部として、一般式(I)の複素環を有する単量体を重合する方法も例示できる。このような単量体として、例えば、一般式(VII)によって得られる単量体を例示できる。
【化19】
但し、Xはヘテロ原子を含んでいてもよい2価の有機基で有り、Yは重合性官能基またはその誘導体である。
【0032】
第1実施形態の複素環含有樹脂の分子量は特に限定されず、重量平均分子量が500以上であればよい。高分子の特性を効果的に引き出す観点からは、重量平均分子量は10,000以上であることが好ましい。硬化性樹脂の硬化剤に用いる場合には、1,000以上、10,000未満のプレポリマーも好適である。また、ポリマーAの分子量についても同様に、重量平均分子量が500以上であればよい。
【0033】
一般式(III)中の化合物Bは、-B(OH)
2を1つのみならず複数有していてもよい。また、繰り返しユニットで-B(OH)
2基を導入することができる。例えば、一般式(VIII)に示す構造単位を少なくとも1種類含む基を有することができる。
【化20】
但し、nは任意の整数であり、好ましくは1以上、1000以下の整数である。また、Zはメタクリル基、ビニル基、アクリル基等の2価の有機基が例示できる。
【0034】
一般式(III)の化合物Bの具体例としては、以下の式(IX)の化合物が例示できる。
【化21】
【0035】
化合物Bとして、-B(OH)
2を2つ以上有する化合物を架橋剤として用いることにより、
図1の模式図に示すように、樹脂中の架橋密度を制御することが可能となる。このような反応として、例えば以下のような式(X)の反応が例示できる。
【化22】
【0036】
複素環含有樹脂は一般式(III)に示すように可逆性を示す。このため、外部刺激により、平衡状態を自在に制御することができる。つまり、複素環の解離-付加を可逆的に行うことができる。そして、これに連動して樹脂の物理的性質(例えば、ガラス転移温度、粘性、集合状態等)の制御が可能となる。即ち、周辺の環境に応じて構造並びに性質が変化する外部刺激応答性を有する樹脂を提供することができる。
【0037】
ここでいう外部刺激とは、温度調整、水の添加、光照射および化学種添加等が挙げられる。複素環とジエタノールアミン構造の量比を変更することにより、Tg,粘度、機械的強度等の物理的特性を可逆的に変換することが可能となる。
【0038】
第1実施形態に係る複素環含有樹脂によれば、ボロン酸エステル結合の生成を駆動力として、高分子そのものの特性変換を可能にする。例えば、従来の手法ではその特性改変が困難なエポキシ樹脂において、主鎖中に含まれるジエタノールアミン骨格を足がかりとしたボロン酸エステル結合の生成により主鎖の運動性(Tg)や、表面特性を改質することができる。また、これまで高分子合成後に、主鎖骨格に簡便に複素環を導入する手法はほとんど例がなかったが、第1実施形態に係る合成法によれば、容易に複素環を主鎖骨格に導入することが可能である。
【0039】
第1実施形態に係る複素環含有樹脂は、前述したようにエポキシ樹脂に好適に適用できる。このように、エポキシ樹脂の主鎖中に一般式(I)の複素環を導入することにより、従来のエポキシ樹脂の優れた特性を有しながら、更に外部刺激応答性を付与することができる。このため、エポキシ樹脂に可逆的な解離-付加特性を付与することができる。また、ポリマー合成後や硬化後に構造変換を促して特性を制御することも可能となる。
【0040】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る動的共有結合性樹脂は、主鎖に一般式(α)で表される少なくとも1種類の複素環(以下、単に「複素環」ともいう)および一般式(β)で表される少なくとも1種類のジエタノールアミン構造(以下、単に「ジエタノールアミン構造」ともいう)の少なくとも一方を含む。そして、前記主鎖中の、複素環およびジエタノールアミン構造の量比を、外部刺激により可逆的に調整することができる動的共有結合性樹脂に関する。
【化23】
但し、一般式(α)中、R
1は水素原子又は1価の有機基であり、R
2は1価の有機基である。
【化24】
但し、一般式(β)中、R
1は水素原子又は1価の有機基である。
【0041】
この動的共有結合性樹脂は、外部刺激に応じて、一般式(α)で表される複素環を一般式(β)で表されるジエタノールアミン構造と一般式(γ)で表される化合物Bとに解離させることができる。同様に、外部刺激に応じて、一般式(γ)で表される化合物Bの存在下、一般式(β)で表されるジエタノールアミン構造を一般式(α)で表される複素環に変換することができる。後者は、ジエタノールアミン構造と化合物Bとの付加反応でありボロン酸エステル形成反応である。なお、式中のR
1,R
2の好適な例は、第1実施形態と同様であるのでここでは割愛する。
【化1】
但し、一般式(γ)中、R
2は1価の有機基である。
【0042】
ここでいう外部刺激とは、ジエタノールアミン構造と複素環の量比を変更可能な外部刺激全般を含む。一般式(α)で表される複素環を形成するための外部刺激の一つとして、一般式(β)で表されるジエタノールアミン構造に、化合物Bを加える工程も含む。他の外部刺激の例として、温度調整、水の添加、光照射、化学種添加等が挙げられる。主鎖中の複素環とジエタノールアミン構造の量比を変更することにより、Tg,粘度、機械的強度等の物理的特性を可逆的に変換することが可能となる。
【0043】
第2実施形態に係る動的共有結合性樹脂は、例えば、溶液、ペースト、フィルム、シート等の様々な形態で利用できる。例えば、ペースト状で用いる場合、動的共有結合の状態、即ちジエタノールアミン構造および複素環の量比により、粘度やゲルの状態などの特性を大きく変更することができる。また、複素環を含むフィルムを形成し、フィルムに熱等を加えることによって、複素環を解離させてジエタノールアミン構造を得ることができる。
【0044】
また、第2実施形態の動的共有結合性樹脂によれば、ジエタノールアミン構造の水酸基の保護基として利用することもできる。例えば、イソシアネート硬化剤とジアミノエタノール骨格の水酸基の架橋反応を所望のタイミングまで抑制するために、複素環含有樹脂でジエタノールアミンを保護し、適切なタイミングで、複素環をジエタノールアミン構造に誘導して硬化反応を行うこともできる。また、ジアミノエタノール構造の水酸基に所望のタイミングで化学修飾することも可能である。
【0045】
また、―B(OH)2を同一分子内に2つ以上含む化合物Bを用いた場合には、外部刺激に応じて樹脂の架橋密度を制御することができる。また、含水量、熱、光などの外部刺激によって元の性質に復元可能な樹脂をベースとした機能性材料を提供することができる。
【0046】
エポキシ樹脂は、硬化剤と併用して硬化性樹脂として利用されることが多い。第2実施形態の動的共有結合性樹脂はエポキシ樹脂であるか否かを問わず、硬化性樹脂として用いてもよい。硬化性樹脂として用いる場合、第2実施形態に係る動的共有結合性樹脂は、硬化反応前の樹脂および硬化反応後の樹脂いずれも含む。また、硬化性樹脂として用いる他、硬化剤として用いてもよい。第2実施形態に係る動的共有結合性樹脂によれば、硬化後の樹脂に対しても、上記一般式(III)の可逆性を誘起することが可能である。
【0047】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る樹脂成形体の表面改質方法は、主鎖に一般式(α)で表される少なくとも1種類の複素環および一般式(β)で表される少なくとも1種類のジエタノールアミン構造の少なくとも一方を含む樹脂を含有する樹脂成形体の表面を改質する方法に関する。詳細には、当該樹脂成形体表面の、前記主鎖中の複素環およびジエタノールアミン構造の量比を、外部刺激により可逆的に調整する樹脂成形体の表面改質方法に関する。
【化25】
但し、一般式(α)中、R
1は水素原子又は1価の有機基であり、R
2は1価の有機基である。
【化26】
但し、一般式(β)中、R
1は水素原子又は1価の有機基である。
【0048】
外部刺激としては、第2実施形態と同様の手段が例示できる。例えば、一般式(β)のジエタノールアミン構造に、ボロン酸を含む化合物Bを添加する方法、水を添加する方法、熱を加える方法、光を照射する方法がある。樹脂成形体を化合物Bが溶解した液体に浸漬させてもよいし、スプレーなどにより樹脂成形体表面に化合物Bが溶解した液体を塗布してもよい。
【0049】
樹脂成形体の形状は特に限定されない。例えば、フィルム、シート、基板、任意の形状の成形体がある。積層体のうちの一層に適用することもできる。一般式(β)のジエタノールアミン構造を含む樹脂を含むフィルムを形成し、フィルム全面に化合物Bを塗布することにより、フィルム表面に複素環を導入することができる。複素環の導入割合を制御することにより、所望の表面特性になるように制御することが可能となる。
【0050】
第3実施形態に係る樹脂成形体によれば、成形体を形成後であっても、外部刺激を調整することによって、構造変換を行い、表面改質を行うことが可能である。第3実施形態に係る樹脂成形体の表面改質方法は、エポキシ樹脂をはじめとする種々の樹脂成形体の表面改質に好適である。樹脂成形体中の、主鎖に一般式(α)で表される少なくとも1種類の複素環および一般式(β)で表される少なくとも1種類のジエタノールアミン構造の少なくとも一方を含む樹脂の含有量は、求められる特性変換の程度に応じて設計すればよい。表面改質硬化をより効果的に引き出す観点からは、主鎖に一般式(α)で表される複素環および一般式(β)で表されるジエタノールアミン構造の少なくとも一方を含む樹脂が、樹脂成形体における主成分であることが好ましく、樹脂成形体の全てが前記樹脂から構成されていてもよい。なお、ここでいう主成分とは、配合量(質量部)がもっとも多い成分をいう。
【0051】
第3実施形態によれば、樹脂成形体の表面に含まれるジエタノールアミン構造を足がかりとしたボロン酸エステル結合の生成により、樹脂成形体の表面特性を改質することができる。或いは、樹脂成形体の表面に含まれる複素環の解離を誘起して、樹脂成形体の表面特性を改質することができる。
【0052】
また、主鎖に一般式(β)で表されるジエタノールアミン構造を少なくとも1種類含む樹脂に、多官能の-B(OH)2基を有する化合物Bを反応させることによって3次元網目構造からなる複素環含有樹脂を合成することができる。また、この3次元網目構造を樹脂成形体に含有させた後、外部刺激を加えることによって、当該樹脂成形体の表面の複素環を解離させ、樹脂成形体の表面の改質を行うこともできる。
【0053】
<実施例>
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
[例1]
下記式(E1)に基づき、化合物(1)、(2)を合成した。
【化27】
【0055】
(化合物(1)の合成)
反応容器にグリシジルフェニルエーテル2.23g(14.9mmol)を取り、凍結脱気を3回行なった。そこへn-オクチルアミン0.800ml(4.99mmol)を加え、80℃にて20時間攪拌した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=80:1)により無色透明の粘性液体である化合物を単離した(収量1.13g、収率52.6%)。以下、この化合物をDEAと表記する。
【0056】
得られた化合物DEAの測定結果は以下の通りであり、上記化合物(1)と一致することを確認した。
1H NMR (500 MHz DMSO-d6):δ/ppm 0.80-0.84 (m, 3H, CH3), 1.14-1.22 (m, 10H, CH2), 1.33-1.36 (m, 2H, CH2), 2.41-2.66 (m, 6H, NCH2), 3.81-3.86 (m, 4H, OCH2), 3.92-3.99 (m, 2H, CH), 4.81, 4.82, 4.84, 4.85 (dd, J = 3.90, 2H, OH), 6.84-6.92 (m, 6H, aromatic), 7.22-7.27 (m, 4H, aromatic); 13C NMR (125 MHz, DMSO-d6): δ/ppm 14.42, 22.56, 27.28, 27.33, 27.35, 29.22, 29.44, 31.72, 55.92, 56.07, 58.31, 58.9, 67.72, 68.05, 70.76, 70.91, 114.7, 114.80, 120.79, 120.81, 129.85, 129.86, 159.17, 159.18.; FT-IR (NaCl, cm-1): 3391, 3063, 3040, 2925, 2855, 1600, 1588, 1496, 1456, 1377, 1336, 1301, 1245, 1173, 1153, 1078, 1042, 996, 956, 881, 814, 752, 691, 614, 506.
以降、同様にして目的とする化合物の特性評価の結果を示す。
【0057】
(化合物(2)の合成)
DEA58.5mg(136μmol)と4-メチルフェニルボロン酸(BA)18.5mg(136μmol)の混合DMSO-d
6溶液を調製した。この溶液の
1Hおよび
13C-NMRスペクトル測定を行なったところ、ボロン酸付加体である化合物(2)の生成が確認された。以下、この化合物をDOABと表記する。
図2に
1H-NMRスペクトル測定の結果を、
図3に
13C-NMRスペクトル測定の結果を示す。
【0058】
[例2]
化合物DEA8.46mg(1.97μmol)と4-メチルフェニルボロン酸0.268mg(1.97μmol)の混合DMSO-d
6溶液を調製した。そして、温度条件に対するDEAとDOABの割合を、
1H-NMRスペクトル測定により求めた(下記式(E2)参照)。その結果を
図4に示す。
【化28】
【0059】
図4に示すように、温度昇温に伴って、平衡がDEA側に傾くことを確認した。また、加熱後の溶液を25℃に冷却すると、再び平衡がDOAB側に傾くことを確認した。これらの結果から、DOABの生成反応は25℃から100℃の温度範囲において25℃において最も進行しやすいこと、また熱により可逆的に解離-付加することがわかる。
【0060】
[例3]
化合物DEA5.06mg(1.18μmol)と4-メチルフェニルボロン酸1.60mg(1.18μmol)の混合DMSO-d
6溶液を調製した。そして、25℃においてジエタノールアミン骨格に対して0、10、50、150、250等量の重水を加えて
1H-NMRスペクトル測定を行なった。また、さらに、重水を加えた混合溶液を一度乾燥させ、再びにDMSO-d
6を加えて
1H-NMRスペクトル測定を行なった(下記式(E3)参照)。これらの結果を
図5に示す。
【化29】
【0061】
図5に示すように、重水を加えるにつれて平衡がDEA側に傾くことを確認した。また、重水を加えた混合溶液を一度乾燥させてから、再びDMSO-d
6を加えた場合には、重水を加える前と同様に平衡がDOAB側に傾くことを確認した。これらの結果から、DOABは水によって可逆的に加水分解-付加することがわかる。
【0062】
[例4]
下記式(E4)に基づき、化合物(3)、(4)を合成した。
【0063】
(化合物(3)の合成)
反応容器に2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン0.820g(2.41mmol)と1-プロピルアミン0.200mL(2.43mmol)を取り、N,N-ジメチルホルムアミド0.900mLを加えた。100℃で3時間撹拌した後、アセトン/ヘキサン(v/v=3/2)に沈殿させ、白色固体の化合物(3)を得た(収量0.617g、収率64%)。以下、この化合物をEPと表記する。
【0064】
得られた化合物EPの測定結果は以下の通りであり、上記化合物(3)と一致することを確認した。
1H NMR (500 MHz DMSO-d6):δ/ppm, 0.73-0.77 (m, 3H, CH2CH3), 1.35-1.39 (m, 2H, CH2CH3), 1.53 (br, 6H, CCH3), 2.40-2.62 (m, 6H, NCH2), 3.78-3.93 (m, 6H, OCH2CHOH), 4.81-4.84 (m, 2H, OH), 6.74-6.78 (m, 4H, aromatic), 7.03-7.05 (m, 4H, aromatic). FT-IR (NaCl, cm-1): 3383, 2962, 1607, 1509, 1461, 1296, 1248, 1182, 1038, 827, 755, 663, 629, 593, 577, 560, 539.
【0065】
(化合物(4)の合成)
化合物EP5.03mg(ジエタノールアミン骨格約12.6μmol)と4-メチルフェニルボロン酸1.20mg(8.81μmol)の混合DMSO-d
6溶液を調製した。この溶液の
1H-NMRスペクトル測定を行なったところ、化合物(4)の生成が確認された。
図6に
1H-NMRスペクトル測定の結果を示す。
【0066】
[例5]
下記式(E5)に基づき、化合物(5)を合成した。
【0067】
化合物EP0.278g(ジエタノールアミン骨格約0.696mmol)をジメチルホルムアミド0.80mLに溶解させたEP溶液および4,4’-ビフェニルジボロン酸72.4mg(0.299mmol)をジメチルホルムアミド0.70mLに溶解させたジボロン酸溶液(総重量0.737g)を調製した。次に、スターラーでEP溶液を撹拌しながらジボロン酸溶液を滴下したところ、ジボロン酸溶液が滴下された部分で直ちにゲルが生成し、化合物EPがジボロン酸で架橋されたことが確認できた。
図7にジボロン酸滴下前後の様子を示す。同図より、ボロン酸滴下前は、液体であったが、ボロン酸滴下後はゲル状になっていることがわかる。
【0068】
[例6]
化合物(6)を合成し、これを用いて下記式(E6)に基づき化合物(7)を合成した。
【0069】
(化合物(6)の合成)
20mLサンプル菅に9-アントリルメチルアミン0.253g(1.22mmol)を加え、90℃で溶解させた。そこへアセトンを加えて粘度を下げた2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン0.424g(1.25mmol)を加えて撹拌し、120℃で11時間加熱した。硬化した透明茶褐色の生成物をクロロホルムに溶解させ、エタノール/ヘキサン混合溶液(v/v=1/9)に投下することで析出した黄土色の固体を得た(収量0.643g、収率96.1%)。以下、この化合物をEPaと表記する。
【0070】
(化合物(7)の合成)
直鎖エポキシポリマー(6)5.00mg(ジエタノールアミン骨格約8.01μmol)と4-メチルフェニルボロン酸1.07mg(7.85μmol)の混合重クロロホルム溶液を調製した。この溶液の
1H-NMRスペクトル測定の結果を
図8に、蛍光強度測定の結果を
図9に示す。
【0071】
図8より、ボロン酸付加体である化合物(7)由来の新たなシグナルが観測されることを確認した。また、
図9より、化合物(6)に対して4-メチルフェニルボロン酸を添加することにより、ボロン酸エステル形成に由来する蛍光強度が増大することを確認した。これらの結果から、エポキシポリマー中のジエタノールアミン骨格とボロン酸との縮合反応が進行していることがわかる。
【0072】
[例7]
下記式(E7)に基づき、化合物(8)を用いて直鎖エポキシポリマーのグラフト化を行った。なお化合物(9)中のPSは、化合物(8)のホウ素原子に直結するフェニル基に結合するポリスチレン側の残基である。
【化30】
【0073】
ボロン酸を末端に有するポリスチレン(8)を合成した。次いで、ポリスチレン(8)と化合物EPaの混合重クロロホルム溶液を調製した。この溶液のDOSYスペクトル測定を行なったところ、新たなシグナルが観測され、グラフトポリマーである化合物(9)の生成を確認した。
【0074】
[例8]
下記式(E8)に基づき、化合物(10)を用いて直鎖エポキシポリマーのグラフト化を行った。なお化合物(11)中のPBAは、化合物(10)のホウ素原子に直結するフェニル基に結合するn-ブチルアクリレート側の残基である。
【化31】
ボロン酸を末端に有するポリ(n-ブチルアクリレート)(10)を合成した。次いで、ポリ(n-ブチルアクリレート)(10)と化合物EPaの混合重クロロホルム溶液を調製した。この溶液のDOSYスペクトル測定を行なったところ、新たなシグナルが観測され、グラフトポリマーである化合物(11)の生成が確認できた。
【0075】
図10に例7の合成に用いた化合物および生成物の、
図11に例8の合成に用いた化合物および生成物のDOSYスペクトル測定の結果を示す。なお、化合物(8)をBA
PS、化合物(9)をBA
PBA、化合物(10)をEPa-BA
PS、化合物(11)をEPa-BA
PBAと表記する。
【0076】
[例9]
下記式(E9)に基づき、化合物(13)を合成した。
【化32】
【0077】
蛍光分子を含むエポキシ樹脂(12)を合成した。次いで、4-メチルフェニルボロン酸のクロロホルム溶液に浸漬した。1時間後、この試料をクロロホルムで3回洗浄して紫外光(365nm)を照射すると、EPaの表面にボロン酸の付加反応に由来する蛍光強度の増加が見られ、架橋体表面においてジエタノールアミン骨格とボロン酸との縮合反応が進行したことが確認できた。
図12にボロン酸溶液へ浸漬する前後の試料の様子を、
図13に浸漬前後の固体蛍光スペクトルの様子を示す。ボロン酸溶液への浸漬後に蛍光強度が目視により増加することを確認できた。