IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リグナイト株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-複合炭素材料の製造方法 図1
  • 特許-複合炭素材料の製造方法 図2
  • 特許-複合炭素材料の製造方法 図3
  • 特許-複合炭素材料の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】複合炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/318 20170101AFI20220502BHJP
   C01B 32/348 20170101ALI20220502BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20220502BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C01B32/318
C01B32/348
B01J20/20 A
B01J20/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018075263
(22)【出願日】2018-04-10
(65)【公開番号】P2019182703
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】312005186
【氏名又は名称】リグナイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085604
【弁理士】
【氏名又は名称】森 厚夫
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇
(72)【発明者】
【氏名】大西 慶和
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-188366(JP,A)
【文献】特開2014-055381(JP,A)
【文献】特開平05-105414(JP,A)
【文献】特表2001-506059(JP,A)
【文献】国際公開第2017/034905(WO,A1)
【文献】大西慶和他,フェノール樹脂とセルロースナノファイバーの複合炭素材料の充放電特性に及ぼす凍結乾燥処理の影響,日本木材学会大会研究発表要旨集,日本,2018年03月05日,第68回,P14-08-1400
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/318
C01B 32/348
B01J 20/20
B01J 20/30
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状のフェノール樹脂を調製すると共に、セルロースナノファイバーとKOHを水に混合した混合水をこの液状フェノール樹脂に混合し、これを加熱乾燥した後、焼成処理して炭化すると共にKOHを賦活剤として賦活することを特徴とする複合炭素材料の製造方法。
【請求項2】
一段階の焼成処理で炭化と賦活を同時に進行させて複合炭素材料を製造することを特徴とする請求項1に記載の複合炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比表面積を有し、吸着性能等に優れた複合炭素材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高比表面積を有する炭素材料は、地球温暖化やエネルギー問題を解決するための材料の一つして、近年注目されている。例えば、地球温暖化の原因となっているCOガスを吸着して封じ込めるための吸着剤、太陽光発電などから得られた電気エネルギーを貯蔵するための蓄電デバイス用電極材料など、炭素材料の用途は多岐にわたる。いずれの場合においても、高比表面積を有する炭素材料が持つ細孔の微細構造が重要な役割を果たしているものであり、COガスの吸着にはミクロ孔が適しており、また蓄電デバイスの用途では、吸着物質が細孔内にスムーズに拡散し易くするためにミクロ孔だけでなくメソ孔の発達も必要である。
【0003】
本出願人は、熱硬化性樹脂の一つであるフェノール樹脂を炭素前駆体に用いた炭素材料の開発を従前から行なっている。フェノール樹脂は炭素化収率が高い、不純物が少なく高純度な材料である、炭素化しても元の形状が保持される、微細構造を制御し易い、等の特徴を有するために、炭素材料の炭素前駆体として優れているものである(例えば特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5246728号公報
【文献】特許第5246729号公報
【文献】特許第5536384号公報
【文献】特許第5829456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、フェノール樹脂を炭素前駆体として用い、これを加熱処理して焼成することによって優れた特性を有する炭素材料を得ることができるが、ガス吸着能など吸着能力をさらに高めるべく日々努力することを求められているのが現況である。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ガス吸着能などの吸着能力を一層向上した複合炭素材料の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る複合炭素材料の製造方法は、液状のフェノール樹脂を調製すると共に、セルロースナノファイバーとKOHを水に混合した混合水をこの液状フェノール樹脂に混合し、これを加熱乾燥した後、焼成処理して炭化すると共にKOHを賦活剤として賦活することを特徴とするものである。そしてこのようにして得られた複合炭素材料は、フェノール樹脂の賦活された炭素化物からなる粒子内に、セルロースナノファイバーの賦活された炭素化物が含有されて成るものである。
【0008】
賦活されたフェノール樹脂の炭素化物には主としてメソ孔に相当する比較的大きな細孔が発達すると共に、賦活されたセルロースナノファイバーの炭素化物には主としてミクロ孔に相当するより小さな細孔が発達し、フェノール樹脂を単独で炭素前駆体として賦活した炭素化物よりも高比表面積の複合炭素材料を得ることができるものであり、ガス吸着能などの吸着能力を一層向上させることができるものである。
【0010】
そして本発明に係る上記の製造方法によれば、液状に調製したフェノール樹脂にセルロースナノファイバーを混合し、これを加熱乾燥することによって、フェノール樹脂の固化乃至硬化したマトリクス内にセルロースナノファイバーが分散した炭素前駆体を調製することができるものであり、この炭素前駆体を焼成して炭化及び賦活することによって、フェノール樹脂の炭素化物に形成される細孔とセルロースナノファイバーの炭素化物に形成される細孔とが分布した微細構造の複合炭素材料を得ることができると共に、さらにフェノール樹脂よりも低温で熱分解し易いセルロースナノファイバーが焼成の際に消失した箇所においてフェノール樹脂の炭素化物の表面にマクロな細孔が形成され、比表面積が高い複合炭素材料を得ることができるものである。
【0012】
また上記のように賦活剤としてKOHを用いて賦活を行なうことによって、フェノール樹脂やセルロースナノファイバーの炭素化物に形成される細孔をミクロ化して、細孔構造を発達させることができるものであり、比表面積がより高い複合炭素材料を得ることができるものである。しかも賦活剤としてKOHを用いると、炭化と賦活を同時に進行させて一段階で焼成処理することが可能になり、省工程、省エネルギーで複合炭素材料を得ることができるものである。そして上記のようにセルロースナノファイバーとKOHを水に混合した混合水を液状フェノール樹脂に混合することによって、液状フェノール樹脂にセルロースナノファイバーとKOHを同時に混合することができ、賦活剤であるKOHをフェノール樹脂とセルロースナノファイバーの両方に均一に作用させることができるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって製造される複合炭素材料は、フェノール樹脂の炭素化物やセルロースナノファイバーの炭素化物に形成されたメソ孔やミクロ孔に相当する細孔が分布する微細構造を有するものであり、フェノール樹脂単独の炭素化物よりも高比表面積となった複合炭素材料を得ることができ、ガス吸着能などの吸着能力が一層向上した複合炭素材料を得ることができるものである。
【0014】
また本発明に係る複合炭素材料の製造方法によれば、フェノール樹脂の炭素化物に形成される細孔とセルロースナノファイバーの炭素化物に形成される細孔とが分布した微細構造の複合炭素材料を得ることができ、またセルロースナノファイバーが焼成の際に消失した箇所においてフェノール樹脂の炭素化物の表面にマクロな細孔が形成され、比表面積が高い複合炭素材料を得ることができるものである。
【0015】
また賦活剤としてKOHを用いて賦活することによって、フェノール樹脂やセルロースナノファイバーの炭素化物に形成される細孔をミクロ化して、細孔構造を発達させることができ、比表面積がより高い複合炭素材料を得ることができるものである。しかもセルロースナノファイバーとKOHを水に混合した混合水を液状フェノール樹脂に混合することによって、賦活剤であるKOHをフェノール樹脂とセルロースナノファイバーの両方に均一に作用させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1参考例1で得られたフェノール樹脂とセルロースナノファイバーの複合炭素化物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】比較例1で得られたフェノール樹脂の炭素化物の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例で得られたフェノール樹脂とセルロースナノファイバーの複合炭素化物の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】比較例2で得られたフェノール樹脂の炭素化物の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
本発明に係る複合炭素材料の炭素前駆体はフェノール樹脂とセルロースナノファイバーを主成分とするものである。
【0019】
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を反応触媒の存在下で反応させることによって調製したものを用いることができる。フェノール類はフェノール及びフェノールの誘導体を意味するものであり、例えばフェノールの他にm-クレゾール、レゾルシノール、3,5-キシレノールなどの3官能性のもの、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o-クレゾール、p-クレゾール、p-ter-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、p-クミルフェノール、p-ノニルフェノール、2,4又は2,6-キシレノールなどの2官能性のo-又はp-置換のフェノール類を挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなども用いることができる。勿論、これらから一種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0020】
またアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンの他、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものも用いることもでき、その他、ホルムアルデヒドの一部を2-フルアルデヒドやフルフリルアルコールに置き換えて使用することも可能である。
【0021】
上記のフェノール類とアルデヒド類の配合比率は、モル比で1:0.5~1:3.5の範囲になるように設定するのが好ましい。また反応触媒としては、レゾール型フェノール樹脂を調製する場合は、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物を用いることができ、さらにジメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、ジシアンジアミドなどの脂肪族の第一級、第二級、第三級アミン、N,N-ジメチルベンジルアミンなどの芳香環を有する脂肪族アミン、アニリン、1,5-ナフタレンジアミンなどの芳香族アミン、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミンなどや、その他二価金属のナフテン酸や二価金属の水酸化物を用いることもできる。ノボラック型フェノール樹脂を調製する場合は、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、あるいはシュウ酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸などの有機酸、さらに酢酸亜鉛などを用いることができる。
【0022】
本発明においてフェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂あるいはノボラック型フェノール樹脂を単独で使用してもよく、また両者を任意の割合で混合して使用してもよい。さらにシリコン変性、ゴム変性、硼素変性などの各種の変性フェノール樹脂を使用することもできる。レゾール型フェノール樹脂は例えば100℃以上に加熱することで硬化するが、硬化剤を使用することもできるものであり、硬化剤として、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、有機エステル、アルキレンカーボネートなどを用いることができる。またレゾール型フェノール樹脂の硬化触媒として、塩酸、硫酸等の無機酸や、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等の無機化合物や、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の有機酸などを用いることができる。ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤としては、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、ヘキサメチレンテトラミン、トリオキサン、テトラオキサンなどを用いることができる。
【0023】
本発明において使用するセルロースナノファイバー(CNF)は、径4~100nm、長さ5~100μmの、高アスペクト比で超極細の植物繊維であり、セルロース繊維を機械的解繊等の処理を施してナノサイズまでほぐすことによって得られる。セルロースナノファイバーは大きな比表面積を有するものであり、低温で熱分解して多孔質化し易いという特長を有する。また植物由来の再生可能な材料であり、持続型資源であって、環境負荷が小さいということがいえる。
【0024】
そしてフェノール樹脂にセルロースナノファイバーを混合することによって、フェノール樹脂のマトリクス内にセルロースナノファイバーが分散した炭素前駆体を調製することができる。
【0025】
フェノール樹脂にセルロースナノファイバーを混合するにあたっては、フェノール樹脂を液状に調製しておき、この液状フェノール樹脂にセルロースナノファイバーを添加して攪拌混合するのが、フェノール樹脂にセルロースナノファイバーを均一に分散させるうえで好ましい。ここで液状フェノール樹脂としては、フェノール樹脂自体が液体のものあってもよいが、フェノール樹脂を水やアルコール等の溶剤に分散乃至溶解して液状にしたものであるのが一般的である。例えばフェノール類とアルデヒド類を水中で、反応触媒の存在下で反応させると、フェノール類とアルデヒド類が縮合反応して生成されるフェノール樹脂の初期縮合物が水中に溶解乃至分散した液が得られるものであり、この液を所定の濃度まで脱液することによって、液状のフェノール樹脂を得ることができる。
【0026】
上記の液状のフェノール樹脂にセルロースナノファイバーを添加して混合し、この混合物を加熱して乾燥することによって、フェノール樹脂が硬化した樹脂マトリクス内にセルロースナノファイバーが分散した状態で混在する炭素前駆体を得ることができるものである。この炭素前駆体において、フェノール樹脂とセルロースナノファイバーとの混合比率は、任意に設定できるものであって特に限定されるものではないが、フェノール樹脂100質量部に対してセルロースナノファイバー10~100質量部の範囲が好ましい。
【0027】
本発明では上記のようにフェノール樹脂を液状に調製して、液状フェノール樹脂にセルロースナノファイバーを混合するようにしたが、フェノール類とアルデヒド類を縮合反応させてフェノール樹脂を調製する際にセルロースナノファイバーを混合することも可能である。すなわち、フェノール類とアルデヒド類を反応触媒の存在下で反応させる際に、反応系にセルロースナノファイバーを添加することによって、フェノール樹脂のマトリクス内にセルロースナノファイバーが混入された状態でフェノール樹脂を調製することができるものである。
【0028】
そして、上記の炭素前駆体を所定の粒度に粉砕した後、これを酸素を遮断した雰囲気で加熱して焼成して、フェノール樹脂とセルロースナノファイバーを炭化させると共に賦活させることによって、本発明に係る複合炭素材料を得ることができるものである。粉砕する粒度は複合炭素材料の用途に応じて任意に設定されるものである。
【0029】
ここで、炭素前駆体を焼成して炭化させることによって炭素化物を得た後に、炭素化物をさらに焼成して賦活させるというように、炭化の処理と賦活の処理を二段階の焼成で行なって本発明に係る複合炭素材料を得るようにしてもよく、あるいは炭化と賦活を同時に進行させて一段階の焼成で本発明に係る複合炭素材料を得るようにしてもよい。酸素を遮断した雰囲気は、炭素前駆体が酸化されない雰囲気であればよく、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスや窒素ガス雰囲気にすることが好ましいが、炭素前駆体をコークスで囲んだ状態で焼成することで酸素を遮断する雰囲気を作ることも可能である。
【0030】
賦活は水蒸気や二酸化炭素などの賦活ガスを用いたガス賦活法で行なうことも可能であるが、本発明では賦活剤として水酸化カリウム(KOH)を用いた薬品賦活法で行なうのが好ましい。賦活剤としてKOHを用いて炭素前駆体を焼成する場合、炭化と賦活を同時に進行させて一段階で焼成の処理することが可能になるものである。そしてこのように賦活剤としてKOHを用いることによって、細孔のメソ孔を発達させて比表面積をより増加させた複合炭素材料を得ることができるものである。
【0031】
賦活剤としてKOHを用いる場合、上記の液状フェノール樹脂にKOHを混合することによって、炭素前駆体にKOHを含有させることができる。この場合、液状フェノール樹脂にKOHの粉末を添加することも可能であるが、本発明では予めセルロースナノファイバーとKOHの粉末とを水に混合して分散させておき、この混合水を液状フェノール樹脂に添加するようにして、液状フェノール樹脂にセルロースナノファイバーとKOHを同時に混合するものである。後者の方法が、フェノール樹脂とセルロースナノファイバーの両方に均一に作用することになるので、好ましい。KOHの添加量は、特に限定されるものではないが、炭素前駆体中のフェノール樹脂とセルロースナノファイバーの合計100質量部(固形分)に対して50~600質量部の範囲が好ましい。特に好ましくは100~400質量部の範囲が良い。
【0032】
炭素前駆体の焼成条件は、フェノール樹脂とセルロースナノファイバーの比率などに応じて変動するが、炭化と賦活を一段階の焼成で行なう場合は、加熱温度を400~1000℃の範囲、加熱時間を0.5~3時間の範囲に設定するのが望ましい。また炭化と賦活を二段階の焼成で行なう場合は、炭化処理の段階での焼成条件は、加熱温度を200~800℃の範囲、加熱時間を0.5~3時間の範囲に、賦活処理での段階の焼成条件は、加熱温度を500~1000℃の範囲、加熱時間を0.5~3時間の範囲に設定するのが望ましい。
【0033】
上記のようにフェノール樹脂とセルロースナノファイバーからなる炭素前駆体を焼成して、炭化すると共に賦活することによって、活性炭として使用できる複合炭素材料を得ることができるものである。そしてこの複合炭素材料にあって、賦活したフェノール樹脂の炭素化物には主としてメソ孔に相当する比較的大きな細孔が発達すると共に、賦活したセルロースナノファイバーの炭素化物には主としてミクロ孔に相当するより小さな細孔が発達するものであり、しかもフェノール樹脂よりも低温で熱分解し易いセルロースナノファイバーが焼成の際に消失した箇所において、フェノール樹脂の炭素化物の表面にマクロな細孔が形成される。従って、フェノール樹脂を単独で炭素前駆体として賦活した炭素化物よりも高比表面積の複合炭素材料を得ることができるものであり、ガス吸着能などの吸着能力を一層向上させることができるものである。
【0034】
従って、この複合炭素材料を、乾電池、鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池などの二次電池の電極を形成する炭素材料として使用することができるものである。複合炭素材料を電極用炭素材料として用いて電極を作製するにあたっては、例えば、複合炭素材料をバインダーと共に溶剤等に分散してスラリー状にし、銅箔等の金属箔にこのスラリーを塗布して乾燥し、プレス成形等することによって行なうことができるものである。さらに、この電極を分極性電極として用い、電解液の界面で形成される電気二重層を形成する電気二重層キャパシタを形成することもできる。このように、本発明の複合炭素材料を用いて二次電池用電極や、電気二重層キャパシタ分極性電極を作製することによって、充・放電容量が高い二次電池や電気二重層キャパシタを得ることができるものである。
【0035】
この複合炭素材料は、その高い吸着作用によって水の浄化などに用いることもでできる。さらに、消化管内で速やかに有害な吸着対象物質を吸着しないと有害物質が体内に吸収されるので、吸着速度の速い吸着剤が求められているが、複合炭素材料は賦活処理によって、単位質量当りの比表面積及び細孔容積を大きくして物理的化学的吸着性能が向上しているのでこれを医薬用の経口吸着炭素剤として使用することができるものである。例えば慢性腎不全治療薬、クローン病など胃腸疾患治療薬、潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群などの治療薬として使用することができる。
【実施例
【0036】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0037】
参考例1)
フェノール150g、92%パラホルムアルデヒド51g、ヘキサメチレンテトラミン20g、水道水700gを2Lの4つ口フラスコに仕込み、フラスコ内を85℃まで上昇させ、その後85℃の温度で1時間反応させた。次にフラスコ内を13kPaに減圧しながら脱液し、室温まで冷却することによって、粘度10Pa・sの液状フェノール樹脂を得た。
【0038】
一方、25%セルロースナノファイバーペースト180g、蒸留水300gを混合した。尚、25%セルロースナノファイバーペースト180gはセルロースナノファイバー45gと水135gからなるものである。そしてこのセルロースナノファイバーと上記液状フェノール樹脂150gに添加して均一に分散されるように混合した。
【0039】
上記のフェノール樹脂とセルロースナノファイバーの混合物を120℃で15時間加熱することによって、乾燥すると共にフェノール樹脂を硬化させ、さらに粒径が0.001~0.1mm程度になるように粉砕することによって、フェノール樹脂とセルロースナノファイバーからなる炭素前駆体を得た。
【0040】
上記のようにして得た炭素前駆体200gを坩堝の中に入れて蓋をし、さらに坩堝を耐熱容器の中に入れてコークスで隙間を埋めた。そしてこれを加熱炉に入れて、10℃/分の昇温速度で800℃まで昇温させ、800℃の加熱温度で1時間保持することによって焼成し、炭化処理を行なった。このようにして得られた複合炭素材料の質量は70gであり、焼成後の収率は35質量%であった。
【0041】
(比較例1)
参考例1と同様にして調製した液状フェノール樹脂を120℃で15時間加熱することによって、フェノール樹脂を硬化させて、フェノール樹脂からなる炭素前駆体を得た。そしてこの炭素前駆体200gを用い、参考例1と同様に焼成を行なった後、粉砕することによって、炭素材料を得た。この炭素材料の質量は100gであり、焼成後の収率は50質量%であった。
【0042】
上記の参考例1で得た複合炭素材料の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1に、比較例1で得た炭素材料の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。図1にみられるように、参考例1の複合炭素材料は細孔が多く生成されていることが確認される。
【0043】
また上記のようにして得た参考例1及び比較例1の炭素材料について、窒素吸着測定を行い、比表面積、全細孔容積、ミクロ孔容積、メソ孔容積を算出した。ここで、窒素吸着測定は、マイクロトラック・ベル(株)製「Belsorp-MaxII」を用い、-196℃の温度条件下で行った。尚、窒素吸着測定に用いる試料は、測定を行う前に300℃で3時間脱気しながら乾燥させ、試料に付着している水分を完全に除去した。
【0044】
そして比表面積は、窒素吸着測定で得られた窒素吸着等温線からBrunauer-Emmet-Teller(BET)法に基づいて算出した。全細孔容積は、窒素吸着等温線において、相対圧0.99における窒素吸着量から算出した。ミクロ孔容積は、t-plot法に基づいて算出した。メソ孔容積はBarrett-Joyner-Halenda(BJH)法に基づいて算出した。尚、すべての解析は、比表面積と細孔容積の解析ソフトBELMaster(マイクロトラック・ベル(株)の登録商標)を用いて行った。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1にみられるように、参考例1の方が比較例1よりも比表面積やミクロ孔容積が増加している。これは、フェノール樹脂中に含まれているセルロースナノファイバーが熱処理によって消失することにより、複合炭素化物の空隙が増加しているためであると考えられる。その結果、フェノール樹脂とセルロースナノファイバーの複合化により、ガス吸着性能の向上が見られるものであった。
【0047】
(実施例
25%セルロースナノファイバーペースト180g、KOH水溶液450gを混合した。尚、KOH水溶液450gは水300gに対して、KOH150gを溶解させたものである。そしてこのセルロースナノファイバーとKOHの混合物を上記液状フェノール樹脂150gに添加して均一に分散されるように混合した。
【0048】
あとは参考例1と同様にして、上記のフェノール樹脂とセルロースナノファイバーの混合物を120℃で15時間加熱し、フェノール樹脂を硬化させることによって炭素前駆体を得た。そしてこの炭素前駆体350gを用い、参考例1と同様に焼成を行なった後、室温まで冷却し、得られた炭素化物を取り出して1mol/L濃度のHCL水溶液で中和し、さらに蒸留水で5回洗浄することによって、残存するカリウム混合物を除去した。そして120℃で15時間乾燥した後、粉砕することによって、複合炭素材料を得た。この複合炭素材料の質量は88gであり、焼成後の収率は25質量%であった。
【0049】
(比較例2)
参考例1と同様にして調製した液状フェノール樹脂150gにKOH水溶液450gを混合し、120℃で15時間加熱してフェノール樹脂を硬化させることによって炭素前駆体を得た。そしてこの炭素前駆体350gを用い、実施例と同様に焼成して炭素化処理した。次いで実施例と同様に洗浄・乾燥した後、粉砕することによって、炭素材料を得た。この炭素材料の質量は105gであり、焼成後の収率は30質量%であった。
【0050】
上記の実施例で得た複合炭素材料の走査型電子顕微鏡写真を図3に、比較例2で得た炭素材料の走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。図3図4の比較から判別されるように、実施例の複合炭素材料は比較例2の炭素材料よりも、ミクロ孔がより発達していることが確認される。
【0051】
また上記のようにして得た実施例及び比較例2の炭素材料について、上記と同様に窒素吸着測定を行い、比表面積、全細孔容積、ミクロ孔容積、メソ孔容積を算出した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2にみられるように、実施例と比較例2とを比較すると、実施例の方が比表面積やミクロ孔容積が増加している。これは、フェノール樹脂の炭素化物を直接KOHで賦活するよりも、セルロースナノファイバーを添加してKOHで賦活した方が、より多孔質な炭素材料を得ることができ、ガス吸着特性が向上するということを示している。KOHの賦活効果とセルロースナノファイバーの分解が相乗効果をもたらすことにより、高比表面積且つ多孔質炭素の調製が可能であると予想される。
図1
図2
図3
図4