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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】ビスユニット
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/04 20060101AFI20220502BHJP
   E04D 5/14 20060101ALI20220502BHJP
   F16B 25/10 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
F16B37/04 U
E04D5/14 J
F16B25/10 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018102595
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019207003
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000178619
【氏名又は名称】アーキヤマデ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大西 裕之
(72)【発明者】
【氏名】野元 裕正
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅史
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-044107(JP,A)
【文献】実開平06-018717(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0239384(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 25/10, 25/04
F16B 37/04
E04D 5/00- 12/00
F16B 25/08
F16B 29/00
F16B 13/00- 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の防水下地に用いられるビスユニットであって、
前記防水下地に穿孔するビス部材と、
前記ビス部材よりも短く構成され、前記ビス部材を径方向外側から包み込む筒状の鞘管部材と、が備えられ、
前記ビス部材におけるビス頭部とは反対側の先端部に、前記鞘管部材から突出した状態で設けられ、前記防水下地に前記鞘管部材の外径よりも大径の貫通孔を穿孔可能な第一ネジ部が備えられ、かつ、前記ビス部材における前記第一ネジ部よりも前記ビス頭部側の部分に、前記第一ネジ部よりも小径の第二ネジ部が備えられ、
前記鞘管部材における前記第二ネジ部と対応する部分の内周部に、前記第二ネジ部と螺合する内ネジ部が備えられ、
前記鞘管部材における前記内ネジ部が形成された部分よりも前記ビス頭部の側の部分に、周方向における剪断よりも軸芯方向における座屈を促進する座屈促進部が備えられているビスユニット。
【請求項2】
前記ビス部材における前記第一ネジ部と前記第二ネジ部との間に、ネジが形成されていない状態で、前記第二ネジ部よりも小径の軸部が備えられ、
前記鞘管部材における前記内ネジ部を含む端部の軸芯方向の長さは、前記軸部の軸芯方向の長さよりも短く設定され、
前記ビス部材及び前記鞘管部材の初期状態において、前記端部は、前記ビス部材のうち、前記軸部によって形成される段差に嵌り込んで、前記軸部を径方向外側から包み込んでいる請求項1に記載のビスユニット。
【請求項3】
前記鞘管部材に、前記防水下地に係止して回り止めされる係止部が備えられている請求項1または2に記載のビスユニット。
【請求項4】
前記鞘管部材は、金属素材で構成され、
前記座屈促進部は、周方向に間隔を空けた状態で軸芯方向に沿って延びるように前記鞘管部材に形成された複数のスリットである請求項1から3の何れか一項に記載のビスユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の防水下地に用いられるビスユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防水シートを金属製の防水下地(折板屋根やデッキプレート等)に固定する手法として、特許文献1のように、まず、ディスク状の固定具をビスで防水下地に固定し、そして、防水下地及び固定具の上から防水シートを敷設し、防水シートの上面から誘導加熱装置を用いて固定具の上面の溶融層を溶かし、固定具の上面と防水シートの裏面とを固着する工法等が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-122330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、屋上等においては風が吹いているため、その風による揚力等によって防水シートがバタつく、いわゆるフラッタリングが生じ、防水シートのバタつきに追従して固定具も揺らされたり、ネジを中心として回転しようとしたりすることがある。そうすると、従来の技術では、ビスが防水下地に捻じ込まれる力によって固定具が防水下地に固定されているため、固定具の揺れや回転によって、ビスが、金属下地への捻じ込み箇所を支点としてグラついたり、回転したりする。この現象が繰り返されると、防水下地におけるネジ貫通箇所が押し広げられたり、ネジが緩んだりする。この結果、ネジ頭が固定具よりも突出して防水シートが破れたり、ネジが防水下地から抜けて固定具の固定が外れたりする可能性がある。
【0005】
その一方で、内周側のビスを回転させることで外周側の鞘管を径方向外側に座屈させる仕組みのビスユニット(いわゆる、ボードアンカー)を用いれば、防水下地へのビスの係止力を高められる。しかし、このようなビスユニットであると、最初に防水下地の裏側にビスユニットを落とし込むための貫通穴を穿孔してから、ビスユニットを防水下地に係止させる作業を行うことになり、道具を持ち換えたりする手間がかかる。
【0006】
上記実情に鑑み、金属製の防水下地への係止力が高く、かつ、施工手間のかからないビスユニットが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による金属製の防水下地に用いられるビスユニットは、
前記防水下地に穿孔するビス部材と、
前記ビス部材よりも短く構成され、前記ビス部材を径方向外側から包み込む筒状の鞘管部材と、が備えられ、
前記ビス部材におけるビス頭部とは反対側の先端部に、前記鞘管部材から突出した状態で設けられ、前記防水下地に前記鞘管部材の外径よりも大径の貫通孔を穿孔可能な第一ネジ部が備えられ、かつ、前記ビス部材における前記第一ネジ部よりも前記ビス頭部側の部分に、前記第一ネジ部よりも小径の第二ネジ部が備えられ、
前記鞘管部材における前記第二ネジ部と対応する部分の内周部に、前記第二ネジ部と螺合する内ネジ部が備えられ、
前記鞘管部材における前記内ネジ部が形成された部分よりも前記ビス頭部の側の部分に、周方向における剪断よりも軸芯方向における座屈を促進する座屈促進部が備えられていることを特徴とする。
【0008】
本発明であれば、ビスユニットをセットしてビス部材を捻じ込み始めると、第一ネジ部によって鞘管部材の外径よりも大きな内径の貫通孔が穿孔され、続いてビスユニットの先端側部分が貫通孔に落ち込んで防水下地の裏側に抜け出す。ビス部材と供回りしないように鞘管部材を保持した状態にしてさらにビス部材を捻じ込み続けると、ビス頭部と鞘管部材とが接してビス部材と鞘管部材との軸芯方向での相対移動が阻止された状態となり、その状態でさらにビス部材を捻じ込み続けると、内ネジ部と第二ネジ部との螺合力(内ネジ部がネジ頭部側へ螺進しようする力)が軸力に変換され、鞘管部材のうち防水下地の裏側に抜け出している部分が座屈して径方向外側へ圧し潰され、貫通孔よりも大径になり、防水下地に係止する。この結果、ビス頭部と鞘管部材の圧し潰された部分とで、固定具と防水下地とを強く挟持することになり、かつ、鞘管部材が貫通孔から抜け出すことがなくなる。
【0009】
このように、本発明であれば、ビス部材を捻じ込み続けるだけで、防水下地への穿孔から鞘管部材の防水下地への係止までの一連の作業を行うことができるとともに、フラッタリングが生じても、ビスユニットが緩んだり、防水下地から抜けてしまったりすることがなくなる。つまり、本発明であれば、金属製の防水下地への係止力が高く、かつ、施工手間のかからないビスユニットが実現できる。
【0010】
本発明においては、
前記ビス部材における前記第一ネジ部と前記第二ネジ部との間に、ネジが形成されていない状態で、前記第二ネジ部よりも小径の軸部が備えられ、
前記鞘管部材における前記内ネジ部を含む端部の軸芯方向の長さは、前記軸部の軸芯方向の長さよりも短く設定され、
前記ビス部材及び前記鞘管部材の初期状態において、前記端部は、前記ビス部材のうち、前記軸部によって形成される段差に嵌り込んで、前記軸部を径方向外側から包み込んでいると好適である。
【0011】
本発明の構成に鑑みると、第一ネジ部は内ネジ部よりも大径となるため、ビス部材と鞘管部材とを螺合することでビスユニットを組み上げることはできない。ビスユニットは、鞘管部材をビス部材に対して外径側から包み込むようにして組み上げる必要がある。この場合、初期状態において内ネジ部と第二ネジ部とが螺合するようにビス部材と鞘管部材とをセットするには、高精度の組み上げ技術が要求される。
【0012】
しかし、本構成によれば、鞘管部材における内ネジ部を含む端部を、ネジがない軸部によって形成される段差に嵌め込めば良く、ネジユニットの組み上げ作業が容易になる。また、貫通孔にネジユニットの先端部が落ち込んで第二ネジ部と内ネジ部とが螺合し始めるまで、ビス部材と鞘管部材とは回転方向において相対回転自在であるため、第一ネジ部によって防水下地に穿孔する際等に、ビス部材の回転力が鞘管部材にほとんど作用しないようにすることができ、不測に鞘管部材が座屈等の変形をすることを避けることができ、誤作動の少ないビスユニットとすることができる。
【0013】
本発明においては、
前記鞘管部材に、前記防水下地に係止して回り止めされる係止部が備えられていると好適である。
【0014】
一般的に、ビスによって金属板に穿孔すると、貫通孔の外周部はギザギザの凹凸を持った形状となる。本構成によれば、鞘管部材の外周部に係止部が備えられているため、鞘管部材を貫通孔に落とし込むだけで係止部が貫通孔の外周部に係止し、特別な治具等を要することなく、鞘管部材を回り止めすることができ、簡素な構成で、ビスユニットの正常動作を確保することができる。即ち、本構成によれば、防水下地が金属製であることを生かして第一ネジ部による穿孔によって防水下地に被係止部を形成し、一連の流れで、簡単に鞘管部材の回り止めを実現できる。
【0015】
本発明においては、
前記鞘管部材は、金属素材で構成され、
前記座屈促進部は、周方向に間隔を空けた状態で軸芯方向に沿って延びるように前記鞘管部材に形成された複数のスリットであると好適である。
【0016】
本構成によれば、鞘管部材が金属素材であるため、防水下地への係止の耐久性が確保でき、かつ、鞘管部材への複数のスリットの形成という簡単な構成によって、剪断耐力よりも座屈耐力を小さくすることができ、かつ、スリットの幅や長さや本数によって、比較的簡単に座屈耐力の設定や変更が容易となり、作業環境に応じてスペックの異なるビスユニットを製造しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のビスユニットの全体側面図である。
図2】ビス部材の全体側面図である。
図3】鞘管部材の全体側面図である。
図4】ビスユニット及び固定具をセットした状態を示す屋上縦断側面図である。
図5】ビスユニットが貫通孔に落ち込んだ状態を示す屋上縦断側面図である。
図6】ビス部材を鞘管部材に完全に捻じ込んだ状態を示す屋上縦断側面図である。
図7】鞘管部材が座屈して径方向外側に広がって圧し潰され、防水下地に係止した状態を示す屋上縦断側面図である。
図8】別の固定具にビスユニットを用いた状態を示す屋上縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一例である実施形態を図面に基づいて説明する。本発明に係るビスユニット1は、図4から図7に示すように、例えば、屋上や屋根において、塩化ビニル系等の合成樹脂製の防水シートSを、折板屋根やデッキプレートのような金属製の防水下地Bに設置する際に用いられる。本実施形態においては、防水下地Bの上に硬質ウレタンフォームなどの断熱材Cを設置し、断熱材Cの上に防水シートSを設置する断熱工法による防水構造を例にとって説明する。
【0019】
〔ビスユニットについて〕
ビスユニット1は、金属製のビス部材2と、ビス部材2を径方向外側から包み込む薄肉の円筒形状(筒状の一例)の金属製の鞘管部材3と、を備えている。ビス部材2は、防水下地Bに穿孔するものであり、鞘管部材3は、径方向外側に向けて座屈して、防水下地Bに係止するものである。
【0020】
〔ビス部材について〕
図2に示すように、ビス部材2に、捻じ込み側の先端部に形成された第一ネジ部21と、第一ネジ部21に対してビス頭部25の側に隣接する軸部22と、軸部22に対してビス頭部25の側に隣接する第二ネジ部23と、が備えられている。ビス頭部25に、インパクトドライバ等の工具を係合させることが可能なレンチ孔26(多角形状)が形成されている。
【0021】
第一ネジ部21は、先端部にドリル部24を有するドリルネジであり、第一ネジ部21によって防水下地Bに、鞘管部材3の外径PR1よりも大径の貫通孔Aを穿孔可能である。軸部22はネジが形成されていない円柱形状部であり、ビス部材2の先端部側寄りに形成されている。第二ネジ部23は、ビス部材2の大半の部分を占めており、ビス頭部25まで至っている。第二ネジ部23の外周部には、第一ネジ部21よりもリード角の小さなネジが形成されている。第二ネジ部23の外径DR2は、第一ネジ部21の外径DR1よりも小さく設定され、軸部22の外径は、第二ネジ部23の外径DR2よりも小さく設定され、軸部22によって、第一ネジ部21と第二ネジ部23との間に段差が形成されている。
【0022】
本実施形態では、第一ネジ部21の長さLa1、軸部22の長さLa2、第二ネジ部23の長さLa3は、La2<La1<La3となるように設定されている。
【0023】
〔鞘管部材について〕
図3に示すように、鞘管部材3に、捻じ込み側の先端部に形成され、内周部にネジが形成された内ネジ部31と、内ネジ部31に対して、ビス部材2のビス頭部25に対応する側に隣接する筒部32と、捻じ込み側の先端部とは反対側の端部に形成された筒頭部33と、が備えられている。筒部32が、本発明における「鞘管部材における内ネジ部が形成された部分よりもビス頭部の側の部分」に相当する。
【0024】
内ネジ部31は、鞘管部材3の縁部から形成し始められている。内ネジ部31に形成されたネジは、第二ネジ部23のネジと螺合するように構成されている。筒部32は、鞘管部材3の大半の部分を占めており、筒頭部33まで至っている。筒部32の内周部に、ネジは形成されていない。筒部32の内径PR3は、内ネジ部31の内径PR2よりも大きく設定されている。筒頭部33は、ビス頭部25の形状に沿ったラッパ状の形状であり、ビス頭部25が筒頭部33に当接するまでビス部材2を鞘管部材3に挿入すると、ビス部材2をそれ以上は鞘管部材3に挿入することはできない。
【0025】
本実施形態では、内ネジ部31の長さLb1、筒部32の長さLb2は、Lb1<Lb2となるように設定されている。また、内ネジ部31の長さLB1は、軸部22の長さLa2以下となるように設定されている。本実施形態では、内ネジ部31の長さLB1は、軸部22の長さLa2と同じか、少しだけ短くなるように設定されている。
【0026】
筒部32の外周部には、周方向に間隔を空けた状態で軸芯方向に沿って延びるように、複数のスリット34が形成されている。本実施形態において、スリット34は、周方向に90度毎に、4本形成されている。スリット34は、内ネジ部31に近い位置から、筒部32の大半に亘っているが、筒頭部33の近くまでは延びていない。スリット34の両端部と中間部とには、スリット34幅よりも大きな径の丸穴が形成されている。スリット34を形成することで、鞘管部材3のうちスリット34が形成された部分32aの座屈耐力が減少されている。スリット34は、周方向における剪断よりも軸芯方向における座屈を促進するものであり、本発明の「座屈促進部」に相当する。
【0027】
図示はしないが、筒部32の外周部には、部分的に径方向外側へ突出する係止部が形成されている。金属製の防水下地Bに、第一ビス部によって穿孔すると、貫通孔Aの縁部がギザギザの凹凸を有する形状となりがちであり、係止部は貫通孔Aに係止可能である。
【0028】
〔ビスユニットの初期状態について〕
図1及び図4等に示すように、ビス部材2に鞘管部材3をセットした状態(初期状態)において、ビス部材2のうち、第一ネジ部21と、ビス頭部25及び第二ネジ部23におけるビス頭部25の側の部分と、が、鞘管部材3の軸芯方向両縁部(内ネジ部31の縁部、筒頭部33)から突出している。このように、鞘管部材3の長さLB(図3参照)は、ビス部材2の長さLA(図2参照)よりも短く設定されている。初期状態において、ビス頭部25は筒頭部33を離間しており、初期状態におけるビス頭部25と筒頭部33との軸芯方向における離間距離をhとする(図4参照)。
【0029】
また、初期状態において、第二ネジ部23は筒部32の内周に収容され、内ネジ部31は軸部22によって形成される段差に位置しており、第二ネジ部23と内ネジ部31とは螺合していない。即ち、鞘管部材3のビス部材2に対する相対回転が阻止された状態にて、第二ネジ部23の端部(図4では下端部)のネジ端が、内ネジ部31の端部(図4では上端部)のネジ端に係止して初めて、第二ネジ部23と内ネジ部31とは螺合し始める。
【0030】
上述した構成がゆえに、ビス部材2は、鞘管部材3に対して、軸芯方向に沿って挿入することはできない。したがって、例えば、鞘管部材3を板状体で構成し、ビス部材2に巻き付けて、巻き付け端部同士を接合するような構成を採用している。その際に、スリット34の延長線上の部分に境界部を設けると、接合長を短くすることが可能になる。鞘管部材3をビス部材2に外装する製法については、各種の製法が考えられる。
【0031】
〔ビスユニットに使用態様について〕
始めに、防水シートSを設置する屋根構造や、防水シートSを防水下地Bに固定するための固定具D等について説明する。
【0032】
図4から図7に示すように、防水下地Bには断熱材Cが敷設されている。そして、断熱材Cの上に、円盤状かつ金属製の固定具Dが配置される。固定具Dの上面には、塩ビ被覆やホットメルト層等の接着層が設けられている。固定具Dの中心部に開口が形成されており、その開口に筒状の樹脂製ワッシャTWが挿入係合されている。ワッシャTWは、人力によって断熱材Cに差し込まれても構わないし、予め断熱材Cの所望の位置に穿孔された孔に挿入されても構わない。ビスユニット1は、ワッシャTWの内部に挿入され、先端部が防水下地Bに締結される。この結果、固定具Dが防水下地Bに固定され、断熱材Cも、固定具Dによって押さえ付けられて防水下地Bに固定される。そして、図7に示すように、固定具D及び断熱材Cの上に、防水シートSが敷設される。その後、防水シートSにおける固定具Dの真上に位置する部分に対して上側から誘導加熱装置が押し当てられ、誘導加熱装置によって固定具Dが誘導加熱され、固定具Dの接着層と防水シートSの裏面とが融着される。
【0033】
ワッシャTWが樹脂製であるため、固定具Dとの係合部における摩擦係数が小さくなり、フラッタリングによって防水シートSが波打ったりしても、ワッシャTWが固定具Dと供回りしにくくなって、その結果、ワッシャTWを留めるビスユニット1の固定具Dとの供回りも防止できる。
【0034】
続いて、図4から図7を用いて、ビスユニット1によって、ワッシャTWがセットされた固定具Dを、防水下地Bに固定する作業の流れを説明する。
【0035】
図4に示すように、ワッシャTWにビスユニット1を挿入し、工具によってビス部材2を下方に押し付けながら回転させると、ドリル部24が防水下地Bを削り始め、孔が開き、第一ネジ部21のネジによってその孔が広げられ、結果的に、防水下地Bに貫通孔Aが穿孔される。この段階において、ビス部材2と鞘管部材3とは供回りしていない。
【0036】
貫通孔Aが開くと、貫通孔Aは鞘管部材3よりも大径であるため、図5に示すように、工具による押し込み力によってビスユニット1(ビス部材2と鞘管部材3との両方)は、筒頭部33がワッシャTWの先端部の絞り部分に当接する位置(レベルH1)まで、一気に、防水下地Bの裏側(室内側)へ落ち込む。このとき、鞘管部材3の先端側部分のうち、筒部32におけるスリット34が形成された部分32aの一部が、防水下地Bの裏側へ落ち込み、鞘管部材3の外周部に備えられた係止部が貫通孔Aに係止し、鞘管部材3の回り止めがされる。
【0037】
そして、工具によってビス部材2をさらに回転させると、鞘管部材3が回り止めされているため、図6に示すように、第二ビス部が内ビス部に螺合し始め、ビス頭部25が筒頭部33に当接する位置(レベルH2)まで、ビス部材2は螺進する。鞘管部材3の高さ位置は維持されたままである。なお、ビス部材2が螺進した距離(H2-H1)は、初期状態(図4の状態)におけるビス頭部25と筒頭部33との距離hと等しい。また、本実施形態では、図6の状態において、第二ネジ部23の下端部と内ネジ部31の下端部とが同位置となっており、軸部22は鞘管部材3から完全に下方に露出している。即ち、軸部22の長さLa2と内ネジ部31の長さLB1は、距離hと等しい。
【0038】
さらに、この状態から、工具によってビス部材2をさらに回転させると、ビス頭部25が筒頭部33と接触してビス部材2が螺進できず、かつ、鞘管部材3が回転しないように保持されているため、内ネジ部31と第二ネジ部23との螺合力(内ネジ部31がビス頭部25側へ螺進しようする力)が軸力に変換される。そして、スリット34の働きにより、図7に示すように、鞘管部材3のうちスリット34が形成された部分32aにおいて、防水下地Bの裏側に抜け出している部分が座屈して径方向外側へ圧し潰され、貫通孔Aよりも大径になり、防水下地Bに係止する。この結果、ビス頭部25と鞘管部材3の圧し潰された部分とで、固定具Dと防水下地Bとを強く挟持することになり、かつ、鞘管部材3が貫通孔Aから抜け出すことがなくなる。
【0039】
〔別実施形態〕
以下、上記実施形態に変更を加えた別実施形態を例示する。以下の別実施形態は、矛盾が生じない限り、複数組み合わせて上記実施形態に適用してよい。なお、本発明の範囲は、各実施形態の内容に限定されるものではない。
【0040】
(1)上記実施形態では、固定具Dとビスユニット1との間に、ワッシャTWを介装した例を示したが、これに限られるものではない。例えば、図8に示すように、ワッシャTWを介さずに、ビスユニット1によって直接固定具Dを防水下地Bに固定するような構成であっても良い。
【0041】
(2)上記実施形態では、軸部22と内ネジ部31とがほぼ同じ長さである例を示したが、これに限られるものではない。例えば、内ネジ部31が軸部22よりもかなり短く構成されていても良い。
【0042】
(3)上記実施形態では、ビスユニット1の初期状態において、ビス部材2に軸部22を備えて、軸部22が内ネジ部31によって包み込まれるように構成された例を示したが、これに限られるものではない。例えば、ビス部材2に、軸部22を備えず、初期状態において、内ネジ部31が第二ネジ部23に螺合しているように構成しても良い。
【0043】
(4)上記実施形態では、内ネジ部31が鞘管部材3の先端部(下部側の縁部)に至っている例を示したが、これに限られるものではない。例えば、内ネジ部31よりも先端部側に、ネジが形成されていない部分が備えられていても良い。
【0044】
(5)上記実施形態では、ビス部材2において、第二ネジ部23が、ビス頭部25まで延ばされている例を示したが、第二ネジ部23は、全てを使用するものではないので、もっと短いものとし、第二ネジ部23とビス頭部25との間にネジのない部分が形成されていても良い。
【0045】
(6)上記実施形態では、座屈促進部として、筒部32の外周部に設けられたスリット34を例示したが、これに限られるものではない。筒部32において部分的に肉厚を変更することなどでも、周方向における剪断よりも軸芯方向における座屈を促進することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、屋上や屋根において、金属製の防水下地Bに防水シートSを施工する場合だけでなく、壁において、金属製の防水下地Bに防水シートSを施工する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 ビスユニット
2 ビス部材
3 鞘管部材
21 第一ネジ部
22 軸部
23 第二ネジ部
25 ビス頭部
31 内ネジ部
32 筒部(鞘管部材における内ネジ部が形成された部分よりもビス頭部の側の部分)
34 スリット(座屈促進部)
A 貫通孔
B 防水下地

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8