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特許7065564CAS9ニッカーゼ活性を用いて正確なDNA切断をもたらすための方法
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  • 特許-CAS9ニッカーゼ活性を用いて正確なDNA切断をもたらすための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】CAS9ニッカーゼ活性を用いて正確なDNA切断をもたらすための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220502BHJP
   A01H 1/00 20060101ALN20220502BHJP
   A01K 67/027 20060101ALN20220502BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALN20220502BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20220502BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20220502BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20220502BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220502BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220502BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20220502BHJP
【FI】
C12N15/09 110
A01H1/00 A
A01K67/027
A61K31/7105
A61P43/00 105
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10 ZNA
C12N9/16 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2016516169
(86)(22)【出願日】2014-05-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2016-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2014061178
(87)【国際公開番号】W WO2014191518
(87)【国際公開日】2014-12-04
【審査請求日】2017-04-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-29
(31)【優先権主張番号】PA201370295
(32)【優先日】2013-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】512213549
【氏名又は名称】セレクティス
【氏名又は名称原語表記】CELLECTIS
【住所又は居所原語表記】8 rue de la Croix Jarry, 75013 Paris, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】デュシャトー フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ベルトナシ クラウディア
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/093595(WO,A1)
【文献】Science,2013年2月15日,Vol.339,p.819-823+Supplementary Materials
【文献】Genome Research,2012年7月,Vol.22,p.1327-1333
【文献】Science,2012年,Vol.337,p.816-821
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
PubMed
CAPlus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内で遺伝子配列における核酸切断を正確に誘導するためのインビトロの方法であって、
(a)該遺伝子配列における第1および第2の二本鎖標的核酸を選択する段階であって、各標的核酸が一方の鎖において1つの3'末端に1つのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含み、該2つのPAMモチーフが、向かい合う核酸鎖上に存在する、段階;
(b)以下をそれぞれ含む2種のCRISPR標的化RNA(crRNA)を設計する段階:
- 該PAMモチーフを含まない該標的核酸の逆鎖の一部分と相補的な配列、および
- 3'伸長配列;
(c)(b)の下で該crRNAの該3'伸長配列の一部分と相補的な配列を含む、少なくとも1種のトランス活性化CRISPR標的化RNA(tracrRNA)を提供する段階;
(d)非機能的なRuvC様ヌクレアーゼドメインまたは非機能的なHNHヌクレアーゼドメインのいずれかを有し、かつ該PAMモチーフを認識する、Cas9ヌクレアーゼであるcas9ニッカーゼを提供する段階;
(e)該crRNA、該tracrRNA、および該Cas9ニッカーゼを該細胞内に導入する段階
を含み、ここで、該細胞は細胞治療のためのT細胞であり、その結果、該遺伝子配列を該第1の標的核酸と該第2の標的核酸の間で切断するために各Cas9-tracrRNA:crRNA複合体が二本鎖標的核酸においてニック事象を誘導する、前記方法。
【請求項2】
前記Cas9ニッカーゼが前記RuvCドメインにおける少なくとも1つの変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Cas9ニッカーゼが前記HNHドメインにおける少なくとも1つの変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各crRNAが12~20ヌクレオチドの相補的配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
段階(b)において、各標的核酸配列の一部分と相補的な2種の配列を含む1種のcrRNAを設計することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記crRNAおよび前記tracrRNAが融合されて一本鎖のガイドRNAを形成する、請求項請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第1および第2の標的核酸配列が、1~300 bpのスペーサー領域によって互いに間隔を空けられている、請求項請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1および第2の標的核酸配列が、3~250 bpのスペーサー領域によって互いに間隔を空けられている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子配列の少なくとも一部分と相同な少なくとも1種の配列を含む外因性核酸配列を導入する段階をさらに含み、その結果、該外因性核酸配列と遺伝子配列との間で相同組換えが起こる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記T細胞が初代T細胞である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、II型CRISPRシステムに基づくゲノム操作の方法に関する。具体的には、本発明は、関心対象の遺伝子配列において核酸切断を正確に誘導するため、およびオフサイト切断を防止するための方法に関する。本方法は、オフサイト切断が生じるリスクを低下させる2つの異なる標的を持つ単一または複数のcrRNAおよびCas9のニッカーゼ構造体の使用に基づく。本発明はまた、本明細書に記載の方法に関連するポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、組成物、治療への応用にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
部位特異的ヌクレアーゼは、複雑なゲノム内のDNA配列を特異的かつ効率的に標的化および修飾するための強力な試薬である。部位特異的ヌクレアーゼによるゲノム工学の応用は数多く存在し、基礎研究から生物工業的応用およびヒト治療法にまで及ぶ。この目的のためにDNA結合タンパク質を再操作することは、天然に存在するLADLIDADGホーミングエンドヌクレアーゼ(LHE)、人工亜鉛フィンガータンパク質(ZFP)、および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALE-ヌクレアーゼ)などのタンパク質のデザインおよび作出に主に限定されてきた。
【0003】
最近、原核生物のII型CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short palindromic Repeats)獲得免疫系に由来する、RNA誘導型のCas9ヌクレアーゼ(Gasiunas, Barrangou et al. 2012; Jinek, Chylinski et al. 2012)に基づく新規のゲノム工学ツールが開発された。CRISPR関連(Cas)システムは、細菌において最初に発見されたものであり、ウイルスまたはプラスミドのいずれかの外来DNAに対する防御として機能する。これまでに、3つの異なる細菌CRISPRシステムが特定され、I型、II型、およびIII型と呼ばれている。II型システムは、利用可能な現行のゲノム工学技術の基礎であり、単にCRISPRと呼ばれることが多い。II型CRISPR/Cas遺伝子座は、タンパク質Cas9、Cas1、Cas2、およびCsn2a、Csn2、またはCas4(Chylinski, Le Rhun et al. 2013)をコードする遺伝子のオペロン、リーダー配列とその後ろの複数の同一のリピートと当該リピート間に挿入されている特有のゲノム標的化スペーサーとからなるCRISPRアレイ、ならびにtrans-activating tracrRNAを一般的にコードする配列から構成される。
【0004】
CRISPRを介する獲得免疫は、3つの異なる段階: 外来DNAの獲得、CRISPR RNA(crRNA)生合成、および標的の干渉で進行する(総説(Sorek, Lawrence et al. 2013)を参照のこと)。まず第一に、CRISPR/Cas機構は、CRISPR遺伝子座への組み込みのための特異的配列を標的化するものと思われる。組み込みのために選択された外来DNAにおける配列は、スペーサーと呼ばれ、これらの配列には多くの場合、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる短い配列モチーフが隣接している。II型システムにおけるcrRNA生合成は、trans-activating crRNA(tracrRNA)を要するという点で独特である。CRISPR遺伝子座は、初めは、リーダー中のプロモーター配列から長いcrRNA前駆体(プレcrRNA)として転写される。Cas9は分子アンカーとして作用し、後の宿主RNase IIIによるプレcrRNAリピートの認識と切断のために、tracrRNAとプレcrRNAとの塩基対形成を促進する(Deltcheva, Chylinski et al. 2011)。プロセッシング事象の後、tracrRNAは、crRNAと対形成したままであり、Cas9タンパク質に結合したままである。この三者複合体において、tracrRNA:crRNA二本鎖構造体は、エンドヌクレアーゼCas9を同種の標的DNAへと誘導するガイドRNAとして作用する((Jinek, Chylinski et al. 2012)。Cas9-tracrRNA:crRNA複合体による標的認識は、標的DNA中のプロトスペーサー配列と、crRNA中のスペーサー由来配列との間の相同性について侵入性DNA分子をスキャンすることによって開始される。DNAプロトスペーサー・crRNAスペーサー相補性に加えて、DNA標的化には、プロトスペーサーに隣接した短いモチーフ(プロトスペーサー隣接モチーフ:PAM)の存在が必要になる。二本鎖RNAとプロトスペーサー配列との間の対形成の後、Cas9はその後、PAMモチーフの3塩基上流に平滑な二本鎖切断を導入する(Garneau, Dupuis et al. 2010)。
【0005】
大きなCas9タンパク質(アミノ酸1200超)は、予測される2つのヌクレアーゼドメイン、すなわち当該タンパク質の中央に位置するHNH(McrA様)ヌクレアーゼドメインと、分割されたRuvC様ヌクレアーゼドメイン(RNase Hフォールド)とを含む(Haft, Selengut et al. 2005; Makarova, Grishin et al. 2006)。HNHヌクレアーゼドメインおよびRuv-Cドメインは、二本鎖切断活性に不可欠であることが分かった。これらのドメインに導入された変異は、二本鎖切断活性の代わりにニッカーゼ活性を示すCas9タンパク質をそれぞれもたらした。RuvC様ドメインにおける触媒残基のさまざまな不活性化変異は、PAM位置に対して+3 bp(vs 3'末端)の位置で一方の鎖を切断できるニッカーゼをもたらす。HNHドメインの触媒残基の変異は、+3 bp(vs 5'末端)の位置で他方の鎖を切断できるニッカーゼをもたらす(Jinek, Chylinski et al. 2012)(図1)。
【0006】
原核生物のII型CRISPRシステムは、その3'末端の特異的PAMモチーフの前にある12~20ヌクレオチドの任意の潜在的な標的配列を認識することができる。しかしながら、標的認識の特異性は、わずか12個の核酸に依存しており(Jiang, Bikard et al. 2013; Qi, Larson et al. 2013)、これは統計的基礎に基づき原核生物ゲノムにおける特有の切断部位を確実とするのには十分であるが、12個の核酸配列が何度も見出されうる、真核細胞の場合のような、さらに大きなゲノムの場合には危険である。それゆえ、II型CRISPRシステムを用いる場合の特異性の改善および潜在的オフサイトの低減のための戦略を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本明細書において、本発明者らは、特異性の改善および潜在的オフサイトの低減のためのII型CRISPRシステムへのさまざまな改変について調べた。予想外なことに、本発明者らは、切断活性の代わりにニッカーゼ活性を有する変異型Cas9を用いて、所与のDNA標的で切断をもたらし、同時に特異性を増大させうることを見出した。本方法は、オフサイト切断を生じるリスクを低下させる特異的標的と相補的な異なる2種の配列を持つsgRNAならびにCas9(RuvCドメインおよび/またはHNHドメイン)のニッカーゼ構造体の同時使用に基づく。特異的標的と相補的な異なる2種の配列を持つ少なくとも1種のガイドRNAまたは少なくとも2種のガイドRNAの組み合わせを用いることにより、特異性の要件は12~24ヌクレオチドに渡り、そして、互いの距離がオフサイト切断を生じさせるのに効率的な、Cas9の2つの別の結合部位(2種のsgRNAにコードされるものとは異なる)を見出す確率は実際に低下する。本発明は、この方法を実施するためにデザインされたcrRNA、tracrRNA、およびCas変異体にまで及び、得られた改変されたII型CRISPRシステムでトランスフェクションされた細胞にまで及ぶ。
[本発明1001]
細胞内で遺伝子配列における核酸切断を正確に誘導するための方法であって、
(a)該遺伝子配列における第1および第2の二本鎖標的核酸を選択する段階であって、各標的核酸が一方の鎖において1つの3'末端に1つのPAMモチーフを含む、段階;
(b)以下をそれぞれ含む2種のcrRNAを設計する段階:
- 該PAMモチーフを含まない該標的核酸の逆鎖の一部分と相補的な配列、および
- 3'伸長配列;
(c)(b)の下で該crRNAの該3'伸長配列の一部分と相補的な配列を含む少なくとも1種のtracrRNAを提供する段階;
(d)該PAMモチーフを特異的に認識する少なくとも1種のcas9ニッカーゼを提供する段階;
(e)該crRNA、該tracrRNA、および該Cas9ヌクレアーゼを該細胞内に導入する段階
を含み、その結果、該遺伝子配列を該標的核酸の間で切断するために各Cas9-tracrRNA:crRNA複合体が二本鎖標的核酸においてニック事象を誘導する、前記方法。
[本発明1002]
前記2つのPAMモチーフが、向かい合う核酸鎖上に存在する、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記2つのPAMモチーフが、同じ核酸鎖上に存在する、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記第1および第2の二本鎖標的核酸が、2つの異なるCas9ニッカーゼによって特異的に認識される異なるPAMモチーフを含む、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
前記第1のCas9ニッカーゼが非機能的なRuvC様ヌクレアーゼドメインを持ち、かつ前記第2のCas9ニッカーゼが非機能的なHNHヌクレアーゼドメインを持つ、本発明1004の方法。
[本発明1006]
Cas9ニッカーゼが前記RuvCドメインにおける少なくとも1つの変異を含む、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
Cas9ヌクレアーゼが前記HNHドメインにおける少なくとも1つの変異を含む、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1008]
各crRNAが12~20ヌクレオチドの相補的配列を含む、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
段階(b)において、各標的核酸配列の一部分と相補的な2種の配列を含む1種のcrRNAを設計することを含む、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
前記crRNAおよび前記tracrRNAが融合されて一本鎖のガイドRNAを形成する、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
第1および第2の標的核酸配列が、1~300 bp、好ましくは3~250 bpのスペーサー領域によって互いに間隔を空けられている、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
前記遺伝子配列の少なくとも一部分と相同な少なくとも1種の配列を含む外因性核酸配列を導入する段階をさらに含み、その結果、該外因性核酸配列と遺伝子配列との間で相同組換えが起こる、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
前記細胞が植物細胞である、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
前記細胞が哺乳類細胞である、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1015]
以下を含む、単離された細胞:
- 第1および第2の二本鎖標的核酸配列と相補的な配列を含みかつ3'伸長配列を有する、2種のcrRNA;
- 該crRNAの該3'伸長配列と相補的な配列を含む少なくとも1種のtracrRNA;
- 少なくとも1種のcas9ニッカーゼまたはそれをコードするポリヌクレオチド。
[本発明1016]
以下を含む、細胞内で遺伝子配列における核酸切断を正確に誘導するためのキット:
- 3'伸長配列を有する、第1および第2の二本鎖標的核酸配列と相補的な配列を含む2種のcrRNA;
- 該crRNAの該3'伸長配列と相補的な配列を含む少なくとも1種のtracrRNA;
- 少なくとも1種のcas9ニッカーゼまたはそれをコードするポリヌクレオチド。
[本発明1017]
以下の段階を含む、動物を作出するための方法:
(a)遺伝子修飾を導入することが望まれる遺伝子配列を含む真核細胞を提供する段階;
(b)本発明1001~1014のいずれかの方法により該遺伝子配列内で切断を誘導する段階; および
(c)核酸切断が起こった該細胞またはその子孫から動物を作出する段階。
[本発明1018]
前記標的核酸配列の少なくとも一部分と相同な配列を含む外因性核酸を前記細胞内に導入する段階、および相同組換えが起こった該細胞またはその子孫から動物を作出する段階をさらに含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
以下の段階を含む、植物を作出するための方法:
(d)遺伝子修飾を導入することが望まれる遺伝子配列を含む植物細胞を提供する段階;
(e)本発明1001~1014のいずれかの方法により、該遺伝子配列内で核酸切断を誘導する段階; および
(f)核酸切断が起こった該細胞またはその子孫から植物を作出する段階。
[本発明1020]
前記標的核酸配列の少なくとも一部分と相同な配列を含む外因性核酸を前記植物細胞内に導入する段階; および相同組換えが起こった該細胞またはその子孫から植物を作出する段階をさらに含む、本発明1019の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】II型CRISPR/CasシステムによるDNA二本鎖切断の概略図。II型CRISPR/Casシステムにおいて、Cas9は、二本鎖標的核酸(dsDNA)を切断するためにcrRNAおよびtracRNAによって形成されるガイドRNA(gRNA)と名付けられた2つのRNAからなる構造体によってガイドされる。Cas9 RuvCドメインは、PAM位置に対して+3 bp(vs 3'末端)の位置で一方の鎖におけるニック事象(矢印)を誘導し、Cas9 HNHドメインは、+3 bp(vs 5'末端)の位置で他方の鎖におけるニック事象(矢印)を誘導する。より良く理解するために、図ではCRISPR/Casシステムによる二本鎖切断の1つの局面だけが図示されている。
図2】Cas9ニッカーゼを用いる新規のII型CRISPR/Casシステムの概略図。A~B:関心対象の遺伝子配列内で、それぞれ一方の鎖の3'端にPAMモチーフを含む2つの標的核酸が選択される。当該2つの標的核酸は、距離「d」だけ間隔を空けられている。非機能的なRuvCドメインまたはHNHドメイン(それぞれRuvC(-)(A-C)または(HNH(-)(B-D))を持つCas9は、第1および第2の標的核酸の相補的PAMモチーフに隣接する少なくとも12ヌクレオチドと相補的な配列をそれぞれが含む2種の設計されたgRNAによってガイドされる。A~B:2つの標的の各PAMモチーフが異なる鎖に存在している。Cas9ニッカーゼは、異なる鎖においてニック(矢印)を誘導し、関心対象の遺伝子配列内で二本鎖切断をもたらす。C~D:2つの標的の各PAMモチーフが同じ鎖に存在している。Cas9ニッカーゼは、関心対象の遺伝子配列の同じ鎖においてニックを誘導し、当該2つのニック事象の間の一本鎖核酸配列の欠失をもたらす。図ではCas9ニッカーゼを用いるCRISPR/Casシステムのいくつかの局面だけが図示されている。
図3】2つの異なるCas9ニッカーゼを用いた新規のII型CRISPR/Casシステムの概略図。A~B:関心対象の遺伝子配列内で、2つの異なるPAMモチーフ(PAM1およびPAM2)を3'末端に含む2つの標的核酸が選択される。当該2つの標的核酸は、距離「d」だけ間隔を空けられている。非機能的RuvCを持つ第1のCas9は、第1の相補的PAMモチーフに隣接する少なくとも12ヌクレオチドと相補的な配列を含む設計されたgRNAによってガイドされる。非機能的HNHを持つ第2のCas9は、第2の相補的PAMモチーフに隣接する少なくとも12ヌクレオチドと相補的な配列を含む設計された第2のgRNAによってガイドされる。A:2つの標的の各PAMモチーフが異なる鎖に存在している。2つのCas9ニッカーゼは、関心対象の遺伝子配列の同じ鎖において2つのニック(矢印)を誘導し、2つのニック事象の間の一本鎖核酸配列の欠失をもたらす。B:2つの標的の各PAMモチーフが同じ鎖に存在している。Cas9ニッカーゼは、異なる鎖において2つのニック事象(矢印)を誘導し、関心対象の遺伝子配列内で二本鎖切断をもたらす。図ではCas9ニッカーゼを用いるCRISPR/Casシステムのいくつかの局面だけが図示されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の開示
本明細書において具体的に定義されない限り、用いられる全ての技術的および科学的用語は、遺伝子療法、生化学、遺伝学、分子生物学および免疫学の分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0010】
本明細書において記述されているものと類似または同等の全ての方法および材料を、本明細書において記述されている適当な方法および材料とともに、本発明の実施または試験において用いることができる。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合、定義を含めて、本明細書が優先する。さらに、材料、方法および実施例は例示にすぎず、特別の定めのない限り、限定することを意図するものではない。
【0011】
本発明の実施では、別段の指示がない限り、当技術分野の技術の範囲内である細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来技術を利用するであろう。そのような技法は、文献において十分に説明されている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Frederick M. AUSUBEL, 2000, Wiley and son Inc, Library of Congress, USA); Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition,(Sambrook et al, 2001, Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press); Oligonucleotide Synthesis(M. J. Gait ed., 1984); Mullis et al. U.S. Pat. No. 4,683,195; Nucleic Acid Hybridization(B. D. Harries & S. J. Higgins eds. 1984); Transcription And Translation(B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984); Culture Of Animal Cells(R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987); Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning(1984); the series, Methods In ENZYMOLOGY(J. Abelson and M. Simon, eds. -in-chief, Academic Press, Inc., New York)、特に154巻および155巻(Wu et al. eds.)ならびに185巻, 「Gene Expression Technology」(D. Goeddel, ed.); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV(D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986); ならびにManipulating the Mouse Embryo,(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986)を参照されたい。
【0012】
遺伝子配列において核酸切断を正確に誘導するための方法
したがって、本発明は、二本鎖標的核酸において切断を正確に誘導するためのCRISPR/Casシステムに基づく新規の方法に関する。この方法は、RNAによってガイドされるCas9ヌクレアーゼに基づいて開発されたゲノム操作CRISPR獲得免疫系ツールに由来する(Gasiunas, Barrangou et al. 2012; Jinek, Chylinski et al. 2012)。
【0013】
より具体的な態様において、本発明は、細胞内で遺伝子配列における核酸切断を正確に誘導するための方法であって、
(a)該遺伝子配列における第1および第2の二本鎖標的核酸を選択する段階であって、各標的核酸が一方の鎖において1つの3'末端に1つのPAMモチーフを含む、段階;
(b)以下をそれぞれ含む2種のcrRNAを設計する段階:
- 該PAMモチーフを含まない該標的核酸の逆鎖の一部分と相補的な配列、および
- 3'伸長配列;
(c)(b)の下で該crRNAの3'伸長配列の一部分と相補的な配列を含む少なくとも1種のtracrRNAを提供する段階;
(d)該PAMモチーフを特異的に認識する少なくとも1種のcas9ニッカーゼを提供する段階;
(e)該crRNA、該tracrRNA、および該Cas9ヌクレアーゼを細胞内に導入する段階
のうちの1つを含み、その結果、該遺伝子配列を該標的核酸の間で切断するために各Cas9-tracrRNA:crRNA複合体が二本鎖標的核酸においてニック事象を誘導する、前記方法に関する。
【0014】
切断は、1つの核酸鎖における少なくとも1つのニック事象、好ましくは同じ核酸鎖における2つのニック事象、またはより好ましくは向かい合う核酸鎖上での2つのニック事象から生じうる。
【0015】
Csn1(COG3513 - SEQ ID NO:1)とも名付けられているCas9は、crRNA生合成および侵入性DNAの破壊の両方に関与する大きなタンパク質である。Cas9は、サーモフィラス菌(S. thermophilus)(Sapranauskas, Gasiunas et al. 2011)、リステリア菌(listeria innocua)(Gasiunas, Barrangou et al. 2012; Jinek, Chylinski et al. 2012)および化膿性連鎖球菌(S. Pyogenes)(Deltcheva, Chylinski et al. 2011)などのさまざまな細菌種において記述されている。大きなCas9タンパク質(アミノ酸1200個超)は、予測される2つのヌクレアーゼドメイン、すなわち当該タンパク質の中央に位置するHNH(McrA様)ヌクレアーゼドメインと、分割されたRuvC様ヌクレアーゼドメイン(RNase Hフォールド)とを含む(Haft, Selengut et al. 2005; Makarova, Grishin et al. 2006)。
【0016】
HNHモチーフは、コリシン、制限酵素およびホーミングエンドヌクレアーゼを含む、二本鎖DNAに作用する多くのヌクレアーゼに特有である。ドメインHNH(SMART ID: SM00507, SCOP命名法:HNHファミリー)は、種々の結合機能および切断機能を行う様々なDNA結合タンパク質と関連している(Gorbalenya 1994; Shub, Goodrich-Blair et al. 1994)。これらのタンパク質のいくつかは、機能が明確に定義されていない仮定上または推定上のタンパク質である。機能が知られているものは、細菌毒性、I群・II群イントロンおよびインテインにおけるホーミング機能、組換え、発生的に制御されたDNA再構成、ファージパッケージング、ならびに制限エンドヌクレアーゼ活性を含む、様々な細胞プロセスに関与している(Dalgaard, Klar et al. 1997)。これらのタンパク質は、ウイルス、古細菌、真正細菌および真核生物において見出される。興味深いことに、LAGLI-DADGおよびGIY-YIGモチーフと同様、HNHモチーフは、インテイン、I群およびII群イントロンのような自己増殖エレメントのエンドヌクレアーゼドメインと関連していることが多い(Gorbalenya 1994; Dalgaard, Klar et al. 1997)。HNHドメインは、保存されたHis(アミノ末端)およびHis/Asp/Glu(カルボキシ末端)残基がある程度の距離で隣接している保存されたAsp/His残基の存在によって特徴付けることができる。これらのタンパク質の相当な数のものがまた、中央のAsp/His残基の両側にCX2Cモチーフを持ちうる。構造的に、HNHモチーフは、αヘリックスが両側に隣接しているねじれたβ鎖の中央のヘアピンとして現れる(Kleanthous, Kuhlmann et al. 1999)。他のCRISPR触媒ドメインであるRuvC様RNaseH(RuvCとも名付けられている)は、RNAに対してもDNAに対しても作用する、広範囲の核酸分解機能を示すタンパク質(RNaseH、RuvC、DNAトランスポザーゼおよびレトロウイルスインテグラーゼならびにアオイガイ(Argonaut)タンパク質のPIWIドメイン)において見出されている。
【0017】
最近になって、HNHドメインは標的二本鎖DNAの一方の鎖のニッキングに関与しており、RuvC様RNase Hフォールドドメインは二本鎖標的核酸の他方の鎖(PAMモチーフを含む)のニッキングに関わっていることが実証された(Jinek, Chylinski et al. 2012)。しかしながら、野生型Cas9において、これらの2つのドメインは、PAMのすぐ近くの同じ標的配列(プロトスペーサー)内での侵入DNAの平滑切断をもたらす(Jinek, Chylinski et al. 2012)。本発明において、Cas9はニッカーゼであり、異なる標的配列内でニック事象を誘導する。非限定的な例として、Cas9はHNHドメインまたはRuvC様ドメインのいずれかの触媒ドメインにおける変異を含み、異なる標的配列内でニック事象を誘導することができる。非限定的な例として、コンパクトなCas9タンパク質の触媒残基は、SEQ ID NO:1のアミノ酸D10、D31、H840、H868、N882およびN891、またはCLUSTALW法を用いてCasファミリーメンバーの複数の相同体についてアライメントされた部位に対応する。これらの残基のいずれかを任意の他のアミノ酸によって、好ましくはアラニン残基によって置き換えることができる。触媒残基における変異は、cas9の触媒ドメインの少なくとも1つの不活性化を誘導する、別のアミノ酸による置換、またはアミノ酸の欠失もしくは付加のいずれかを意味する(Sapranauskas, Gasiunas et al. 2011; Jinek, Chylinski et al. 2012参照)。具体的な態様において、Cas9は上記の変異の1つまたはいくつかを含みうる。別の具体的な態様において、Cas9は2つのRuvCおよびHNH触媒ドメインのうちの1つのみを含みうる。本発明において、異なる種のCas9、Cas9相同体、操作されたCas9およびその機能的変異体を用いることができる。本発明は、関心対象の遺伝子配列における核酸切断を行うためにそのようなCas9変異体の使用を想定している。当該Cas9変異体は、異なる種のCas9、Cas9相同体、操作されたCas9およびそれらの機能的変異体と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、およびさらにより好ましくは95%の同一性を共有するアミノ酸配列を有する。好ましくは、当該Cas9変異体は、SEQ ID NO:1と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、およびさらにより好ましくは95%の同一性を共有するアミノ酸配列を有する。
【0018】
部位特異的ヌクレアーゼによって引き起こされる核酸切断は、通常は、異なるメカニズムである相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)によって修復される。相同組換えでは、典型的には、遺伝子座の完全な修復を行うために損傷DNAの姉妹染色分体を外因性核酸配列として用いるが、NHEJは、切断の部位でDNA配列に変化をもたらすことが多い不完全な修復プロセスである。メカニズムには、残存している2つのDNA末端の直接再ライゲーション(Critchlow and Jackson 1998)またはいわゆるマイクロホモロジー媒介末端結合(Ma, Kim et al. 2003)による再連結が含まれる。また、非相同末端結合(NHEJ)による修復は、多くの場合、わずかな挿入または欠失を生じ、特異的な遺伝子ノックアウトの作出に用いられることができる。したがって、本発明の1つの局面は、ノックアウトの誘導、または相同組換えによる外因性遺伝子配列の特定の遺伝子座への導入である。
【0019】
関心対象の遺伝子配列とは、標的切断および/または標的相同組換えにより修飾することが望ましい任意の内因性核酸配列(例えば、遺伝子、または遺伝子内の非コード配列もしくは遺伝子に隣接する非コード配列など)を意味する。関心対象の配列は、染色体内、エピソーム内、オルガネラゲノム(例えば、ミトコンドリアゲノムもしくは葉緑体ゲノム)内、または遺伝物質の本体とは独立して存在できる遺伝物質(例えば、感染性ウイルスゲノム、プラスミド、エピソーム、トランスポゾンなど)内に存在することができる。関心対象の配列は、遺伝子のコード配列内、転写される非コード配列(例えば、リーダー配列、トレーラー配列もしくはイントロンなど)内、または非転写配列(コード配列の上流もしくは下流のいずれか)内にあってもよい。
【0020】
第1および第2の二本鎖標的核酸は、切断、ひいては遺伝子修飾の導入が望まれる関心対象の遺伝子配列内に含まれる。修飾は、遺伝物質の欠失、遺伝物質におけるヌクレオチドの挿入、またはヌクレオチドの欠失および挿入の両方の組み合わせでありうる。「標的核酸配列」、「二本鎖標的核酸」または「DNA標的」とは、本発明によるCas9-tracrRNA:crRNA複合体によってプロセッシングされうるポリヌクレオチドを意図する。二本鎖標的核酸配列は、当該標的の一本鎖の5'→3'配列によって定義される。これらの用語は、関心対象の遺伝子配列内の特定のDNA位置をいう。2つの標的は、1~500ヌクレオチド、好ましくは3~300ヌクレオチド、より好ましくは3~50ヌクレオチド、さらにより好ましくは1~20ヌクレオチド互いに間隔を空けられうる。
【0021】
本発明における任意の潜在的な選択標的二本鎖DNAは、その3'末端に、プロトスペーサー隣接モチーフまたはプロトスペーサー関連モチーフ(PAM)と名付けられた、特異的配列を有していてもよい。PAMは、crRNAと相補的ではない標的核酸配列の鎖に存在する。好ましくは、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)は、3'末端におけるプロト・スペーサーの直近または近傍で始まる2~5ヌクレオチドに相当しうる。特異的なCas9によって認識されるPAMモチーフの配列および位置は、種々のシステムの間で異なる。PAMモチーフは、非限定的な例として、例えばNNAGAA、NAG、NGG、NGGNG、AWG、CC、CCN、TCN、TTCであることができる(Shah, Erdmann et al. 2013)。種々のII型システムは、異なるPAM要件を有する。例えば、化膿性連鎖球菌のシステムは、NGG配列(該配列中、Nは任意のヌクレオチドであることができる)を必要とする。サーモフィラス菌のII型システムは、NGGNG(Horvath and Barrangou 2010)およびNNAGAAW(Deveau, Barrangou et al. 2008)を必要とするが、異なる変異体(S. mutant)のシステムは、NGGまたはNAARを許容する(van der Ploeg 2009)。PAMは、プロトスペーサーに隣接する領域に限られるのではなく、プロトスペーサーの一部であってもよい(Mojica, Diez-Villasenor et al. 2009)。具体的な態様において、Cas9タンパク質は、非天然PAMモチーフを認識するように操作されていてもよい。この場合、選択された標的配列は、アミノ酸の任意の組み合わせを有するより小さなまたはより大きなPAMモチーフを含みうる。非限定的な例として、2つの標的核酸の2つのPAMモチーフは、同じ核酸鎖上に存在することができ、そのため、非機能的なRuvCまたはHNHヌクレアーゼドメインを持つCas9ニッカーゼは、同じ鎖上で2つのニック事象を誘導する(図2CおよびD)。この場合、第1のニックと第2のニックとの間に位置する結果として生じる一本鎖核酸が欠失されうる。この欠失は、NHEJまたは相同組換え機序によって修復されうる。本発明の別の局面において、2つの標的核酸の2つのPAMモチーフは、向かい合う核酸鎖上に存在することができ、そのため、非機能的なRuvCまたはHNHヌクレアーゼドメインを持つCas9ニッカーゼは、関心対象の遺伝子配列の各鎖上で2つのニック事象を誘導し(図2AおよびB)、関心対象の遺伝子配列内で二本鎖切断をもたらす。
【0022】
具体的な態様において、本発明の方法では、それぞれが2つの標的核酸内の異なるPAMモチーフを認識できる、2つのCas9ニッカーゼを用いた。非限定的な例として、第1のCas9はNGG PAMモチーフを認識することができ、第2のCas9はNNAGAAW PAMモチーフを認識することができる。
【0023】
具体的には、本発明は、以下の段階のうちの1つまたはいくつかを含む方法に関する:
(a)それぞれ一方の鎖の3'端に異なるPAMモチーフを含む、第1および第2の二本鎖標的核酸配列を選択する段階;
(b)それぞれが第1および第2の二本鎖標的核酸の他方の鎖の一部分と相補的な配列を含みかつ3'伸長配列を有する2種のcrRNAを設計する段階;
(c)該crRNAの該3'伸長配列の一部分と相補的な配列を含む少なくとも1種のtracrRNAを提供する段階;
(d)第1の標的のPAMモチーフを特異的に認識し、かつ非機能的なRuvC様またはHNHヌクレアーゼドメインを持つ第1のcas9ヌクレアーゼを提供する段階;
(e)第2の標的のPAMモチーフを特異的に認識し、かつ非機能的なRuvC様またはHNHヌクレアーゼドメインを持つ第2のCas9を提供する段階;
(f)各Cas9-tracrRNA:crRNA複合体が二本鎖標的核酸においてニック事象を誘導するように、該crRNA、該tracrRNA、該Cas9ヌクレアーゼを細胞内に導入する段階。
【0024】
非限定的な例として、それぞれ第1の標的核酸配列中のNGG PAMモチーフおよび第2の標的核酸配列中のNNAGAAW PAMモチーフを特異的に認識するように、機能的なRuvCまたはHNH触媒ドメインを欠く化膿性連鎖球菌(S. pyogenes)Cas9および機能的なRuvCまたはHNH触媒ドメインを欠くサーモフィラス菌(S. thermophilus)Cas9を細胞内に導入する。具体的な態様において、2つの標的核酸の2つの異なるPAMモチーフは、同じ核酸鎖上に存在することができ、そのため、非機能的なRuvCまたはHNHヌクレアーゼドメインを持つCas9ニッカーゼは、同じ鎖上で2つのニック事象を誘導する。この場合、第1のニックと第2のニックとの間に位置する結果的に得られる一本鎖核酸が欠失されうる。別の態様において、2つの標的核酸の2つの異なるPAMモチーフは、向かい合う核酸鎖上に存在することができ、そのため、非機能的なRuvC様またはHNHヌクレアーゼドメインを持つCas9ニッカーゼは、関心対象の遺伝子配列の各鎖上で2つのニック事象を誘導し、関心対象の遺伝子配列内で二本鎖切断をもたらす。
【0025】
別の具体的な態様において、第1のCas9ニッカーゼは非機能的なRuvC様ヌクレアーゼドメインを持ち、かつ第2のCas9ニッカーゼは非機能的なHNHヌクレアーゼドメインを持つ。2つの標的核酸の異なるPAMモチーフは、同じ鎖上に存在することができ、そのため2つのCas9ニッカーゼは各鎖上でニック事象を誘導し(図3A)、関心対象の遺伝子配列内で二本鎖切断をもたらす。2つのPAMモチーフはまた、向かい合う鎖上に存在することができ、そのため2つのCas9ニッカーゼは関心対象の遺伝子配列の同じ鎖上でニック事象を誘導する(図3B)。この場合、第1のニックと第2のニックとの間に位置する結果的に得られる一本鎖核酸が欠失されうる。この欠失は、NHEJまたは相同組換え機序によって修復されうる。
【0026】
本発明の方法は、各標的核酸に対して相補的な異なる領域を有する2種のcrRNAを設計する段階を含む。天然のII型CRISPRシステムにおいて、CRISPR標的化RNA(crRNA)標的化配列は、プロトスペーサーとして知られるDNA配列から転写される。プロトスペーサーは、細菌ゲノムにおいてCRISPRアレイと呼ばれる群となってクラスタ形成されている。プロトスペーサーは、短い回文型のリピートによって分離されており、かつ将来の遭遇に対する記録のように保持された、既知の外来DNAの短い配列である。crRNAを作出するため、CRISPRアレイが転写され、RNAがプロセッシングされて、リピート間の個々の認識配列が分離される。スペーサーを含むCRISPR遺伝子座が、長いプレcrRNAとして転写される。個々のcrRNAへのCRISPRアレイ転写産物(プレcrRNA)のプロセッシングは、回文型のリピートと相補的な配列を有するtrans-activating crRNA(tracrRNA)の存在に依存する。tracrRNAは、プレcrRNAのスペーサーを分離しているリピート領域とハイブリダイズし、内因性RNase IIIによるdsRNA切断が惹起され、その後にCas9による各スペーサー内での第2の切断事象が生じ、Cas9およびtracrRNAと相互作用したままの成熟crRNAが産生され、Cas9-tracrRNA:crRNA複合体が形成される。設計されたcrRNAはtracrRNAと共に、選択された核酸配列を標的化することが可能であり、一般にcrRNAプロセッシングおよびRNase IIIの必要性をなくす(Jinek, Chylinski et al. 2012)。
【0027】
本発明において、2種のcrRNAは、該crRNAが標的化を可能とするように、好ましくは各標的核酸におけるニック事象の誘導を可能とするように、2つの標的核酸の一方の鎖の一部分と相補的な異なる配列を含むように設計される。具体的な態様において、2つの標的核酸は、1~300 bp、好ましくは3~250 bp、好ましくは3~200 bp、より好ましくは3~150 bp、3~100 bp、3~50 bp、3~25 bp、3~10 bp互いに間隔を空けられている。
【0028】
crRNA配列は標的核酸の1つの鎖と相補的であり、この鎖は3'末端にPAMモチーフを含まない(図1)。具体的な態様において、各crRNAは、標的核酸配列と相補的な5~50ヌクレオチド、好ましくは8~20ヌクレオチド、より好ましくは12~20ヌクレオチドの配列を含む。より具体的な態様において、crRNAは、標的核酸配列と相補的な少なくとも10ヌクレオチド、好ましくは12ヌクレオチドを含む少なくとも30ヌクレオチドの配列である。具体的には、各crRNAは、標的化の効率を改善するために5'末端において4~10ヌクレオチドの前に相補的配列を含みうる(Cong, Ran et al. 2013; Mali, Yang et al. 2013; Qi, Larson et al. 2013)。好ましい態様において、crRNAの相補的配列の後ろには、3'末端における反復配列または3'伸長配列という名の核酸配列が続く。
【0029】
本発明によるcrRNAを改変して、その二次構造安定性および/またはCas9に対するその結合親和性を増加させることもできる。具体的な態様において、crRNAは2',3'-環状リン酸エステルを含むことができる。2',3'-環状リン酸エステル末端は、多くの細胞プロセス、すなわちtRNAサイレンシング、いくつかのリボヌクレアーゼによるエンドヌクレアーゼ的切断、RNAリボザイムによる自己切断に関与するようであり、小胞体における折り畳まれていないタンパク質の蓄積および酸化ストレスを含むさまざまな細胞ストレスに応答するようである(Schutz, Hesselberth et al. 2010)。本発明者らは、2',3'-環状リン酸エステルが、crRNAの安定性またはCas9に対する親和性/特異性を増強すると推測した。したがって、本発明は、2',3'-環状リン酸エステルを含む改変crRNA、および改変crRNAを用いる段階を含むCRISPR/casシステム(Jinek, Chylinski et al. 2012; Cong, Ran et al. 2013; Mali, Yang et al. 2013)に基づくゲノム操作のための方法に関する。
【0030】
具体的な態様において、crRNAは、少なくとも2種の標的核酸配列を同時に認識するように設計されることができる。この場合、同じcrRNAが、当該2種の標的核酸配列の一部と相補的な少なくとも2種の配列を含む。好ましい態様において、当該相補的な配列は、リピート配列によって間隔を空けられている。
【0031】
本発明によるTrans-activating CRISPR RNAは、ガイドRNA(gRNA)とも名付けられたtracrRNA:crRNAを形成するようにcrRNAの3'伸長配列の少なくとも一部分と塩基対を形成できるアンチリピート配列によって特徴付けられる。TracrRNAは、crRNAのある領域と相補的な配列を含む。
【0032】
tracrRNA-crRNA複合体を模倣するヘアピンを形成するcrRNAおよびtracrRNAの融合体を含む合成一本鎖ガイドRNA(sgRNA)(Cong, Ran et al. 2013; Mali, Yang et al. 2013)を用いて、Cas9エンドヌクレアーゼを介する標的核酸の切断を誘導することができる。このシステムは、ヒト、ゼブラフィッシュおよび酵母を含む、種々の真核細胞において機能することが明らかにされた。sgRNAは、好ましくはリピート配列によって間隔を空けられた、2つの標的核酸配列の一部分と相補的な2種の異なる配列を含みうる。
【0033】
本発明の方法は、crRNA、tracrRNA、sgRNA、およびCas9を細胞内に導入する段階を伴う。crRNA、tracrRNA、sgRNA、またはCas9は、RNAまたはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内への導入の結果として、細胞内でインサイチューで合成されてもよい。あるいは、crRNA、tracrRNA、sgRNA、Cas9 RNAまたはCas9ポリペプチドは、細胞外で産生され、その後に細胞内に導入されることができよう。細菌、植物、真菌および動物にポリヌクレオチドコンストラクトを導入するための方法は、当技術分野において公知であり、非限定的な例として、ポリヌクレオチドコンストラクトが細胞のゲノムに組み込まれる安定形質転換法、ポリヌクレオチドコンストラクトが細胞のゲノムに組み込まれない一過性形質転換法およびウイルス媒介性の方法を含む。ポリヌクレオチドは、例えば組換えウイルスベクター(例えばレトロウイルス、アデノウイルス)、リポソームなどにより、細胞内に導入されうる。例えば、一過性形質転換法は、例えばマイクロインジェクション、エレクトロポレーション、または粒子衝突を含む。ポリヌクレオチドは、原核細胞または真核細胞において発現されることを考慮して、ベクター、より具体的にはプラスミドまたはウイルスに含まれてもよい。
【0034】
本発明は、前述のポリペプチドおよびタンパク質をコードするポリヌクレオチド、具体的にはDNAまたはRNAにも関係する。これらのポリヌクレオチドは、原核細胞または真核細胞において発現されることを考慮して、ベクター、より具体的にはプラスミドまたはウイルスに含まれてもよい。
【0035】
本発明は、Cas9ポリヌクレオチド配列を、当該配列が導入される生物のコドン使用頻度に最適化されるように改変することを企図している。したがって、例えば、化膿性連鎖球菌またはサーモフィラス菌に由来するCas9ポリヌクレオチド配列の、ヒトでの使用のために最適化されたコドンが、(Cong, Ran et al. 2013; Mali, Yang et al. 2013)に記載されている。
【0036】
具体的な態様において、本発明によるCas9ポリヌクレオチドは、少なくとも1つの細胞内局在化モチーフを含むことができる。細胞内局在化モチーフは、核、細胞質、原形質膜、小胞体、ゴルジ装置、エンドソーム、ペルオキシソームおよびミトコンドリアの少なくとも1つを含む規定の細胞内位置にタンパク質を輸送するまたは限定することを促進する配列をいう。細胞内局在化モチーフは、当技術分野において周知である。細胞内局在化モチーフは、特定の向き(例えばタンパク質のN末端側および/またはC末端側)であることが必要である。非限定的な例として、サルウイルス40大型T抗原の核局在化シグナル(NLS)は、N末端および/またはC末端に向けられうる。NLSは、核膜孔複合体を通じてタンパク質を細胞核へ標的化するように、かつ新たに合成されたタンパク質を核へ、サイトゾル核輸送受容体によるその認識を介して方向付けるように作用するアミノ酸配列である。典型的には、NLSは、リジンまたはアルギニンなどの正電荷アミノ酸の1つまたは複数の短い配列からなる。
【0037】
本発明は、宿主細胞内でさらなる触媒ドメインを発現させる段階をさらに含む、関心対象の遺伝子配列を修飾する方法にも関する。より好ましい態様において、本発明は、さらなる触媒ドメインがDNA末端プロセッシング酵素である、突然変異誘発を増強する方法に関する。DNA末端プロセッシング酵素の非限定的な例としては、5-3'エキソヌクレアーゼ、3-5'エキソヌクレアーゼ、5-3'アルカリエキソヌクレアーゼ、5'フラップエンドヌクレアーゼ、ヘリカーゼ、ホスファターゼ、ヒドロラーゼ、および鋳型非依存性DNAポリメラーゼが挙げられる。そのような触媒ドメインの非限定的な例には、hExoI(EXO1_HUMAN)、酵母ExoI(EXO1_YEAST)、大腸菌ExoI、ヒトTREX2、マウスTREX1、ヒトTREX1、ウシTREX1、ラットTREX1、TdT(末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ)、ヒトDNA2、酵母DNA2(DNA2_YEAST)からなる群より選択されるタンパク質ドメインまたはタンパク質ドメインの触媒的に活性な誘導体が含まれる。好ましい態様において、さらなる触媒ドメインは3'-5'-エキソヌクレアーゼ活性を有し、より好ましい態様において、さらなる触媒ドメインは、TREXエキソヌクレアーゼ活性、より好ましくはTREX2活性を有する。別の好ましい態様において、触媒ドメインは単鎖TREXポリペプチドによってコードされる。
【0038】
エンドヌクレアーゼ的切断は、相同組換え率を刺激することが知られている。それゆえ、別の好ましい態様において、本発明は、関心対象の遺伝子配列と外因性核酸との間で相同組換えが起こるように、関心対象の遺伝子配列の一部分に相同な配列を少なくとも含む外因性核酸を細胞に提供する段階をさらに含む、関心対象の遺伝子配列における相同遺伝子標的化を誘導するための方法に関する。
【0039】
具体的な態様において、外因性核酸は、関心対象の遺伝子配列の5'側および3'側の領域にそれぞれ相同な第1および第2の部分を含む。これらの態様における外因性核酸は、第1の部分と第2の部分との間に位置する、関心対象の遺伝子配列の5'側および3'側の領域との相同性を含まない第3の部分を含んでもよい。関心対象の遺伝子配列の切断後、標的核酸配列と外因性核酸との間で相同組換え事象が誘発される。好ましくは、少なくとも50 bpの、好ましくは100 bp超の、より好ましくは200 bp超の相同な配列が前記外因性核酸において用いられる。それゆえ、外因性核酸は、好ましくは200 bp~6000 bp、より好ましくは1000 bp~2000 bpである。実際に、共有される核酸相同性は、誘導される切断の上流および下流に隣接する領域に位置し、導入される核酸配列は、これら2つのアームの間に位置すべきである。
【0040】
切断事象が起こった関心対象の遺伝子配列の位置に応じて、そのような外因性核酸は、ある遺伝子をノックアウトするため(例えば該外因性核酸が該遺伝子の読み取り枠内に配置される場合)、または関心対象の新規の配列もしくは遺伝子を導入するために、用いることができる。そのような外因性核酸を用いることによる配列挿入は、既存の標的遺伝子を、該遺伝子の修正もしくは置換(非限定的な例として対立遺伝子交換)により修飾するために、または、標的遺伝子の発現の上方制御もしくは下方制御を、該標的遺伝子の修正もしくは置換(非限定的な例としてプロモーター交換)により実施するために用いることができる。
【0041】
改変細胞およびキット
本発明による方法で用いるために種々の細胞が適している。細胞は、任意の原核生物または真核生物の生細胞、これらの生物に由来するインビトロ培養用の細胞株、動物または植物由来の初代細胞であることができる。
【0042】
「初代細胞」とは、集団倍加をほとんど起こしていない、生きている組織(すなわち生検材料)から直接採取され、かつインビトロ増殖用に樹立された細胞を意図しており、それゆえ、腫瘍形成性の継代細胞株または人工不死化細胞株と比較して、それらが由来する組織の主要な機能的構成要素および特徴をより忠実に代表する。したがって、これらの細胞は言及するインビボ状態にとっていっそう価値あるモデルである。
【0043】
本発明の構成において、「真核細胞」とは、真菌、植物、藻類もしくは動物の細胞、または下記に列挙する生物に由来しかつインビトロ培養用に樹立された細胞株をいう。より好ましくは、真菌は、アスペルギルス属(Aspergillus)、ペニシリウム属(Penicillium)、アクレモニウム属(Acremonium)、トリコデルマ属(Trichoderma)、クリソスポリウム属(Chrysoporium)、モルティエレラ属(Mortierella)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)またはピキア属(Pichia)のものである; より好ましくは、真菌は、アスぺルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)、アクレモニウム・クリソゲナム(Acremonium Chrysogenum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、モルティエレラ・アルピン(Mortierella alpine)、クリソスポリウム・ルクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)またはピキア・シフェリイ(Pichia ciferrii)の種のものである。より好ましくは、植物は、アラビドプシス属(Arabidospis)、タバコ属(Nicotiana)、ナス属(Solanum)、アキノノゲシ属(lactuca)、アブラナ属(Brassica)、イネ属(Oryza)、アスパラガス属(Asparagus)、エンドウ属(Pisum)、ウマゴヤシ属(Medicago)、トウモロコシ属(Zea)、オオムギ属(Hordeum)、ライムギ属(Secale)、コムギ属(Triticum)、トウガラシ属(Capsicum)、キュウリ属(Cucumis)、カボチャ属(Cucurbita)、スイカ属(Citrullis)、ミカン属(Citrus)、モロコシ属(Sorghum)のものである; より好ましくは、植物は、シロイヌナズナ(Arabidospis thaliana)、タバコ(Nicotiana tabaccum)、トマト(Solanum lycopersicum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ナス(Solanum melongena)、トマト(Solanum esculentum)、レタス(Lactuca saliva)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、ヤセイカンラン(Brassica oleracea)、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)、アフリカイネ(Oryza glaberrima)、イネ(Oryza sativa)、アスパラガス(Asparagus officinalis)、エンドウ(Pisum sativum)、ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa)、トウモロコシ(zea mays)、オオムギ(Hordeum vulgare)、ライムギ(Secale cereal)、パンコムギ(Triticuma estivum)、デュラムコムギ(Triticum durum)、カプシカム・サティバス(Capsicum sativus)、ペポカボチャ(Cucurbita pepo)、スイカ(Citrullus lanatus)、メロン(Cucumis melo)、ライム(Citrus aurantifolia)、ザボン(Citrus maxima)、シトロン(Citrus medica)、マンダリン(Citrus reticulata)の種のものである。より好ましくは、動物細胞は、ヒト属(Homo)、クマネズミ属(Rattus)、ハツカネズミ属(Mus)、イノシシ属(Sus)、ウシ属(Bos)、ダニオ属(Danio)、イヌ属(Canis)、ネコ属(Felis)、ウマ属(Equus)、タイセイヨウサケ属(Salmo)、タイヘイヨウサケ属(Oncorhynchus)、ヤケイ属(Gallus)、シチメンチョウ属(Meleagris)、ショウジョウバエ属(Drosophila)、カエノラブディティス属(Caenorhabditis)のものである; より好ましくは、動物細胞は、ヒト(Homo sapiens)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)、ハツカネズミ(Mus musculus)、イノシシ(Sus scrofa)、ウシ(Bos taurus)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、タイリクオオカミ(Canis lupus)、イエネコ(Felis catus)、ウマ(Equus caballus)、タイセイヨウサケ(Salmo salar)、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、セキショクヤケイ(Gallus gallus)、シチメンチョウ(Meleagris gallopavo)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)の種のものである。
【0044】
本発明において、細胞は、好ましくは、植物細胞、哺乳類細胞、魚細胞、昆虫細胞、あるいはこれらの生物に由来するインビトロ培養用の細胞株または生きている組織から直接採取されてインビトロ増殖用に樹立された初代細胞である。非限定的な例として、細胞株は、CHO-K1細胞; HEK293細胞; Caco2細胞; U2-OS細胞; NIH3T3細胞; NSO細胞; SP2細胞; CHO-S細胞; DG44細胞; K-562細胞, U-937細胞; MRC5細胞; IMR90細胞; Jurkat細胞; HepG2細胞; HeLa細胞; HT-1080細胞; HCT-116細胞; Hu-h7細胞; Huvec細胞; Molt 4細胞からなる群より選択されうる。本発明の範囲において、幹細胞、胚性幹細胞、および人工多能性幹細胞(iPS)も包含される。
【0045】
これらの全ての細胞株は、本発明の方法により、関心対象の遺伝子またはタンパク質を産生し、発現し、定量し、検出し、研究するための細胞株モデルを提供するように改変されうる; これらのモデルは、研究および生産ならびに非限定的な例として化学、バイオ燃料、治療学および農学などの種々の分野において、関心対象の生物学的に活性な分子をスクリーニングするためにも用いられうる。本発明の特定の局面は、本発明による方法によって得られた、既述の単離された細胞に関する。典型的には、当該単離された細胞は、Cas9ニッカーゼ、crRNAおよびtracrRNA、またはsgRNAを含む。結果的に得られる単離された細胞は、切断が起こった、修飾された関心対象の遺伝子配列を含む。結果的に生じる改変細胞を、生物学的生産、動物遺伝子組換え(例えば幹細胞の使用による)、植物遺伝子組換え(例えばプロトプラストの使用による)から細胞治療(例えばT細胞の使用による)に及ぶ多様な応用のための細胞株として用いることができる。本発明の方法は、ゲノムを操作するのに、および細胞、とりわけiPS細胞およびES細胞を再プログラム化するのに有用である。本発明の別の局面は、既述の本発明による改変されたII型CRISPRシステムの1つまたは複数の構成因子を含む、細胞形質転換のためのキットである。このキットはより具体的には以下を含む:
- 第1および第2の二本鎖標的核酸配列の一方の鎖(これらの二本鎖標的核酸配列は他方の鎖においてはPAMモチーフを含む)と相補的な配列を含み、かつ3'伸長配列を有する、2種のcrRNA;
- 該crRNAの該3'伸長配列と相補的な配列を含む少なくとも1種のtracrRNA;
- 非機能的なRuvC様もしくはHNHヌクレアーゼドメインを持つ少なくとも1種のcas9ヌクレアーゼまたはそれをコードするポリヌクレオチド。
【0046】
別の態様において、当該キットは以下を含む:
- 第1および第2の二本鎖標的核酸配列の一方の鎖(これらの二本鎖標的核酸配列は他方の鎖においては異なるPAMモチーフを含む)と相補的な配列を含み、かつ3'伸長配列を有する、2種のcrRNA;
- 該crRNAの該3'伸長配列と相補的な配列を含む少なくとも1種のtracrRNA;
- 第1の標的核酸のPAMモチーフを特異的に認識し、かつ非機能的なRuvC様ヌクレアーゼドメインを持つ第1のCas9ヌクレアーゼまたはそれをコードするポリヌクレオチド;
- 第2の標的核酸のPAMモチーフを特異的に認識し、かつ非機能的なHNHヌクレアーゼドメインを持つ第2のCas9ヌクレアーゼまたはそれをコードするポリヌクレオチド。
【0047】
動物/植物を作出するための方法
本発明は、上記の方法によって修飾された関心対象の標的遺伝子配列を含む、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物も包含する。上記の方法を細胞または胚に対して実施することにより動物が作出されうる。具体的には、本発明は、遺伝子修飾を導入することが望まれる関心対象の遺伝子配列を含む真核細胞を提供する段階;本発明の方法のうちいずれか1つによって関心対象の遺伝子配列内に切断を生じさせる段階;および切断が起こった細胞またはその子孫から動物を作出する段階を含む、動物を作出するための方法に関する。典型的には、当該胚は、受精した1細胞期胚である。当該方法の構成要素は、胚の核または細胞質へのマイクロインジェクションを含む当技術分野において公知の方法のいずれかにより細胞内に導入されうる。具体的な態様において、動物を作出するための方法は、所望の外因性核酸を導入する段階をさらに含む。当該外因性核酸は、例えば、相同組換え後に遺伝子を破壊する核酸配列、相同組換え後に遺伝子を置換する核酸配列、相同組換え後に遺伝子に変異を導入する核酸配列、または相同組換え後に調節部位を導入する核酸配列を含むことができる。その後、当該胚を培養して動物を発生させる。本発明の1つの局面において、少なくとも関心対象の遺伝子配列が操作されている動物が提供される。例えば、操作された遺伝子は、それが転写されないかもしくは正しく翻訳されないように、または当該遺伝子の他の形態が発現するように、不活性になりうる。動物は、当該操作された遺伝子についてホモ接合性またはヘテロ接合性でありうる。
【0048】
本発明は、遺伝子修飾を導入することが望まれる関心対象の遺伝子配列を含む植物細胞を提供する段階;本発明の方法のいずれか1つによって関心対象の遺伝子配列内に切断を生じさせる段階;および切断が起こった細胞またはその子孫から植物を作出する段階を含む、植物を作出するための方法にも関する。当該子孫には、特定の植物または植物系の後代が含まれる。具体的な態様において、植物を作出するための方法は、所望の外因性核酸を導入する段階をさらに含む。この方法を用いて産生された植物細胞を増殖させて、そのゲノム中に修飾された関心対象の遺伝子座を有する植物を作出することができる。そのような植物由来の種子を用いて、例えば、修飾されていない植物と比べて改変された増殖特性、改変された外観、または改変された組成などの表現型を有する植物を作出することができる。
【0049】
治療への応用
本明細書において開示される方法には、種々の応用がありうる。1つの態様において、本方法は、臨床または治療への応用に用いることができる。本方法は、例えば鎌状赤血球病における単一ヌクレオチド変化のような疾患原因遺伝子を修復または修正するために用いることができる。本方法は、特定の疾患または疾患状態に関与している他の遺伝子または染色体配列におけるスプライス部位変異、欠失、挿入などを修正するために用いることができる。
【0050】
そのような方法は、iPS細胞または初代細胞(例えばT細胞)を、そのような細胞が疾患または感染の治療のために患者に注射されることを考慮して、遺伝的に修飾するために用いることもできる。そのような細胞療法スキームは、より具体的には、がん、CMVもしくはHIVによって引き起こされるようなウイルス感染、または自己免疫疾患を治療するために開発される。
【0051】
定義
上記の説明のなかで、いくつかの用語が広く使われている。以下の定義は、本態様の理解を容易にするために提供される。
【0052】
本明細書において、「a」または「an」は1つまたは1つより多くを意味し得る。
【0053】
ポリペプチド配列中のアミノ酸残基は、本明細書においては一文字コードにより示され、一文字コードにおいては、例えば、QはGlnまたはグルタミン残基を意味し、RはArgまたはアルギニン残基を意味し、DはAspまたはアスパラギン酸残基を意味する。
【0054】
アミノ酸置換は、あるアミノ酸残基の別のアミノ酸残基による置き換えを意味し、例えば、あるペプチド配列におけるアルギニン残基のグルタミン残基による置き換えはアミノ酸置換である。
【0055】
ヌクレオチドは次のように示される: ヌクレオシドの塩基を示すために一文字コードが用いられる: aはアデニンであり、tはチミンであり、cはシトシンであり、gはグアニンである。縮重ヌクレオチドの場合、rはgまたはa(プリンヌクレオチド)を表し、kはgまたはtを表し、sはgまたはcを表し、wはaまたはtを表し、mはaまたはcを表し、yはtまたはc(ピリミジンヌクレオチド)を表し、dはg、aまたはtを表し、vはg、aまたはcを表し、bはg、tまたはcを表し、hはa、tまたはcを表し、nはg、a、tまたはcを表す。
【0056】
本明細書において用いられる場合、「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって作出された断片、ならびにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用、およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって作出された断片などの、ヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチドをいう。核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド(DNAおよびRNAなど)、または天然に存在するヌクレオチドの類似体(例えば、天然に存在するヌクレオチドの鏡像異性体)、またはその両方の組み合わせである単量体から構成されうる。修飾ヌクレオチドは、糖部分における改変および/またはピリミジンもしくはプリン塩基部分における改変を有しうる。糖修飾は、例えば、1つまたは複数のヒドロキシル基の、ハロゲン、アルキル基、アミン、およびアジド基による置換を含み、または糖は、エーテルもしくはエステルとして官能化されることができる。さらに、糖部分全体を、アザ糖および炭素環式糖類似体などの、立体的および電子的に類似の構造で置換することができる。塩基部分の修飾の例としては、アルキル化プリンおよびピリミジン、アシル化プリンもしくはピリミジン、または他の周知の複素環式置換基が挙げられる。核酸単量体は、ホスホジエステル結合またはそのような結合に類似する結合によって連結されることができる。核酸は、一本鎖または二本鎖のいずれであってもよい。
【0057】
「相補的配列」とは、標準的な低ストリンジェント条件下で別のポリヌクレオチド部分(例えば、それぞれ標的核酸配列またはcrRNA)とハイブリダイズしうるポリヌクレオチドの配列部分(例えば、crRNAまたはtracrRNAの一部分)を意味する。そのような条件は、例えば、25%ホルムアミド、4×SSC、50 mM NaH2PO4/Na2HPO4緩衝液; pH 7.0、5×デンハルト、1 mM EDTA、1 mg/ml DNA + 20~200 ng/mlの試験されるプローブ(およそ20~200 ng/ml)を含有する緩衝液を用いることによっては室温で2時間でありうる。これは、文献において提供されているように、室温での配列内の相補的塩基の数およびG-Cの含量を用いるハイブリダイゼーションの標準的な計算によって予測することもできる。優先的には、配列は、鎖間のワトソン・クリック塩基対形成(すなわち、アデニンとチミン(A-T)ヌクレオチドの間およびグアニンとシトシン(G-C)ヌクレオチドの間の固有の塩基対形成)に依る2つの核酸鎖間の相補性に従って互いに相補的である。ワトソン・クリック塩基対形成と同一視される正確な塩基対形成には、標準ヌクレオシドと修飾ヌクレオシドとの間の塩基対形成および修飾ヌクレオシド間の塩基対形成が含まれ、ここで修飾ヌクレオシドは、ワトソン・クリック対形成による適切な標準ヌクレオシドに置き換わることができる。一本鎖オリゴヌクレオチドの相補的配列は、反応条件下での2つの一本鎖オリゴヌクレオチド間の特異的かつ安定なハイブリダイゼーションを支える任意の長さでありうる。相補的配列は一般に、3 bp超、好ましくは5 bp超、好ましくは10 bp超にわたりハイブリダイズされる2つのオリゴヌクレオチド間の部分的な二本鎖重複部分を認める。相補的配列は、好都合には、オフターゲット組換えまたはドナー基質全体を伴わない(すなわち1つのオリゴヌクレオチドだけの)組換えを回避するために、ゲノム中の任意の配列と相同ではないように選択される。
【0058】
「相同な核酸配列」とは、より具体的には少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは98%の同一性を有する、配列間の相同組換えをもたらすのに十分な、別の核酸配列との同一性を有する核酸配列を意味する。「同一性」は、2つの核酸分子またはポリペプチド間の配列同一性をいう。同一性は、比較の目的のためにアライメントされうる各配列における位置を比較することによって決定することができる。比較される配列中の位置が同じ塩基により占められるなら、分子はその位置で同一である。核酸またはアミノ酸配列間の類似性または同一性の程度は、核酸配列により共有される位置での同一なまたは一致するヌクレオチドの数の関数である。GCG配列解析パッケージ(University of Wisconsin, Madison, Wis.)の一部として利用可能なFASTAまたはBLASTを含む、さまざまなアライメント・アルゴリズムおよび/またはプログラムを、2つの配列間の同一性を計算するために、例えばデフォルト設定で、用いることができる。
【0059】
「ベクター」という用語は、それに連結された別の核酸を輸送できる核酸分子をいう。本発明において「ベクター」には、ウイルスベクター、プラスミド、RNAベクター、または染色体核酸、非染色体核酸、半合成核酸もしくは合成核酸からなりうる線状もしくは環状のDNAもしくはRNA分子が含まれるが、これらに限定されることはない。好ましいベクターは、それらが連結されている核酸の自律複製能力を有するもの(エピソームベクター)および/または発現能力を有するもの(発現ベクター)である。多数の適当なベクターが当業者に知られており、市販されている。ウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えばアデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、オルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病および水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば麻疹およびセンダイ)のようなマイナス鎖RNAウイルス、ピコルナウイルスおよびアルファウイルスのようなプラス鎖RNAウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘およびカナリア痘)を含む二本鎖DNAウイルスが含まれる。他のウイルスには、例えばノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルスおよび肝炎ウイルスが含まれる。レトロウイルスの例としては、トリ白血病肉腫、哺乳類C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV- BLV群、レンチウイルス、スプマウイルスが挙げられる(Coffin, J. M., Retroviridae: The viruses and their replication, In Fundamental Virology, Third Edition, B. N. Fields, et al., Eds., Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996)。
【0060】
本発明を一般的に記述してきたが、さらなる理解は、例示のみの目的で本明細書において提供され、特別の定めのない限り、限定することを意図するものではない、ある特定の実施例を参照することによって得ることができる。
【0061】
参考文献
図1
図2
図3
【配列表】
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