(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】固体試料の位置の調整用治具、その調整用治具を用いる装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2204 20180101AFI20220502BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
G01N23/2204
H01J37/20 D
(21)【出願番号】P 2017121227
(22)【出願日】2017-06-21
【審査請求日】2019-11-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【氏名又は名称】江口 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【氏名又は名称】岸本 雅之
(72)【発明者】
【氏名】小野 卓男
【合議体】
【審判長】井上 博之
【審判官】樋口 宗彦
【審判官】▲高▼見 重雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-2242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-23/2276
G01N21/84-21/958
H01J37/00-37/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略球体の試料の観察又は分析の対象部分の探索とその位置調整に用いられる調整用治具と、
前記試料が前記調整
用治具により位置調整された位置で保持された状態で載置される試料ホルダと、
前記試料ホルダ上の前記調整用治具に保持された試料の観察又は分析を行なう観察又は分析部と、
を備えた装置であって、
前記調整
用治具は、上面から下面に通じる貫通孔をもち、少なくとも前記貫通孔の設けられている部分が、上面側の前記貫通孔の縁の全周で接しながら保持した前記試料が当該調整用治具の下面に当接する厚みを有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記調整用治具は導電性を有する材料により構成されている、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体試料の観察や分析を行なう装置、特に電子線マイクロアナライザ(EPMA)や走査型電子顕微鏡(SEM)、光学顕微鏡など、微小な固体試料の観察や分析を行なう装置によって観察又は分析される試料の表面における観察又は分析の対象位置を調整するための治具と、その調整用治具を用いる装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体試料の表面の観察又は分析を行なう装置として、EPMAやSEMが知られている。EPMAやSEMは、電子線を試料の特定部分に照射し、それによって試料から放出される二次電子等を検出する(特許文献1参照。)。EPMAやSEMなどの装置では、対象となる試料を装置に設置する前に試料の表面のうち観察又は分析の対象部分を探索し、その部分が装置によって観察又は分析しやすい位置にくるように試料の姿勢を整え、その姿勢を保ったまま装置の試料ホルダに固定するということが行われることがある。
【0003】
EPMAやSEMのような装置では、観察又は分析の対象部分が電子線源から照射される電子線に対して垂直に配置されることが臨まれる。試料の観察又は分析の対象部分が入射する電子線に対して垂直になっていない場合、観察又は分析の際の検出器の信号強度が低下したり、検出器の設置場所による方向性に依存して極端に検出器の信号強度が大きくなったり小さくなったりすることがあるからである。
【0004】
一方で、試料の観察又は分析の対象部分は必ずしも平坦な面であるとは限らない。凸凹のある面であったり球状の面であったりする場合もある。そのような場合もできるだけ観察又は分析の対象部分がなるべく平均的に平坦になるように、試料を試料ホルダ上に載置する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
観察又は分析の対象試料が微小な(例えば、Φ1~2mm程度)ものであった場合、作業者はその試料を装置に設置する前に、光学顕微鏡などを用いて試料の表面を拡大視して観察又は分析の対象部分を探索する必要がある。このとき、試料の表面状態を維持するために、作業者は試料を素手で触らないように清潔な手袋をして試料を手で動かしたり、ピンセット等で掴んで試料を動かしたりすることが一般的である。
【0007】
しかし、試料が微小であるため、手袋をした手やピンセットによって試料を動かしながら試料の表面における観察又は分析の対象部分を探索することは容易ではない。さらに、試料が球体のように転がりやすい形状であった場合には、作業者が観察又は分析の対象部分を光学顕微鏡等によって見つけ出して試料の姿勢を調整したとしても、試料をその姿勢のままEPMAやSEMなどの装置へ移動させることは容易でない。
【0008】
光学顕微鏡等によって試料の姿勢を調整した後、テープ等によって仮固定するという方法もあるが、そうすると試料の表面が接着成分で汚染されてしまう恐れがある。また、ピンセットやその他の挟み込むような治具で試料を挟むと、試料の表面状態が変わったり、試料の表面に新たなキズを加えてしまったりする虞もある。
【0009】
そこで、本発明は、EPMAやSEMのような装置で観察又は分析する試料の観察又は分析の対象部分の探索とその位置調整を容易に行なうことができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る調整用治具は、略球体の試料の観察又は分析の対象部分の探索とその位置調整に用いられるものである。当該調整用治具は、上面から下面に通じる貫通孔をもち、少なくとも前記貫通孔の設けられている部分が、上面側の前記貫通孔の縁で保持した前記試料が当該調整用治具の下面に達する厚みを有する。
【0011】
ここで、略球体とは、平坦面上を回転しながら転がるような形状を有するものを意味し、完全な球体だけを意味するものではない。
【0012】
当該調整用治具は導電性を有する材料により構成されていてもよい。そうすれば、電子線を試料に照射して試料の観察又は分析を行なう装置に試料を保持した状態の調整用治具を設置したときに、試料と試料ホルダとが直接的に接触しないことによって電気的な導通がないような場合でも、試料と調整用治具とが接触していれば、調整用治具を介して試料の電荷を逃がすことができる。
【0013】
本発明に係る装置は、観察又は分析の対象である試料を載置するための試料ホルダと、前記試料ホルダ上に載置される上述の調整用治具と、前記試料ホルダ上の前記調整用治具に保持された試料の観察又は分析を行なう観察又は分析部と、を備えたものである。
【0014】
本発明に係る方法は、上述の調整用治具で観察又は分析の対象である略球体の試料を保持し、前記調整用治具を平坦な平面上でスライドさせることによって前記試料を回転させ、前記試料の表面の観察又は分析の対象部分が所定位置にくるように前記試料の姿勢を調整する調整ステップを少なくとも備えている。
【0015】
本発明に係る方法は、上記の調整ステップで観察又は分析の対象部分が所定位置にくるように姿勢が調整された試料を本発明の装置の試料ホルダに設置する設置ステップと、前記試料ホルダに設置された試料の観察又は分析を行なう観察又は分析ステップと、をさらに備えていてもよい。
【0016】
上記の設置ステップでは、前記調整ステップにおいて姿勢が調整された試料を保持した前記調整用治具を前記装置の前記試料ホルダ上に設置することができる。このようにすれば、観察又は分析の対象部分の位置を変化させることなく装置の試料ホルダへ試料を移動させることが容易である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る調整用治具は、上面から下面に通じる貫通孔をもち、少なくとも貫通孔の設けられている部分が、上面側の貫通孔の縁で保持した略球体の試料が当該調整用治具の下面にまで達する厚みを有するので、略球体の試料を保持した調整用治具を平坦面上でスライドさせることで試料を転がすことができる。これにより、試料が微小な略球体のものであっても、試料の表面の観察又は分析の対象部分の位置を、作業者が手やピンセットで試料に触れることなく、調整用治具をスライドさせながら探索することができるので、観察又は分析の対象部分の位置の探索が容易である。
【0018】
そして、作業者は、試料の観察又は分析の対象部分の位置を探索し、その位置を調整した後で、調整用治具ごと観察又は分析を行なう装置へ移動させることもできるので、観察又は分析の対象部分の位置を変化させることなく装置の試料ホルダへ試料を移動させることが容易である。
【0019】
本発明に係る装置は上記の調整用治具を用いるので、微小な略球体の試料であっても、その試料の表面の観察又は分析の対象部分の探索とその探索によって姿勢が調整された試料の試料ホルダへの設置が容易である。
【0020】
本発明に係る方法は、上述の調整用治具を用いて略球体の試料の観察又は分析の対象部分の探索とその位置調整を行なうので、試料の観察又は分析の対象部分の探索とその位置調整が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】調整用治具の一実施例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のX-X位置における平面図である。
【
図2】試料を保持した調整用治具の状態を示す断面図である。
【
図3】サイズの異なる貫通孔を備えた複数の調整用治具を示す平面図である。
【
図4】試料の観察又は分析の対象部分の探索の手順を示す図であり、(A)は観察又は分析の対象部分の探索中の状態、(B)は観察又は分析の対象部分の位置を調整した後の状態、(C)は観察又は分析の対象部分の位置を調整した状態で調整用治具を移動させるときの状態、をそれぞれ示す断面図である。
【
図5】試料の観察又は分析の対象部分の位置を調整した後の状態の調整用治具を装置に設置した状態を示す概略断面構成図である。
【
図6】調整用治具を用いて装置による試料の観察又は分析のを行なうための手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る調整用治具、その調整用治具を用いる装置及び方法の実施例について説明する。
【0023】
調整用治具の一実施例について説明する。
【0024】
図1に示されているように、この実施例の調整用治具2は板状の部材であり、その中央部に貫通孔4を有する。貫通孔4は、
図2に示されているように、略球体の試料Sを上面側の縁で保持するためのものであり、試料Sの直径よりも小さい内径をもつ。また、調整用治具2の厚みは、貫通孔4の上面側の縁によって保持された試料Sが調整用治具2の下面にまで達するように試料Sの半径よりも薄く設計されている。これにより、
図2に示されているように、貫通孔4で試料Sを保持した調整用治具2を平面上でスライドさせると、試料Sが回転する。
【0025】
なお、この実施例では、調整用治具2自体の厚みを試料Sが調整用治具2の下面にまで達するような厚みにしているが、貫通孔4が設けられている部分のみをそのような厚みにしてもよい。要は、調整用治具2を平坦面上でスライドさせたときに試料Sが平坦面と接触して転がるようになっていればよい。
【0026】
試料には種々の大きさをもったものがある。このため、調整用治具2としては、
図3に示されているように、種々の大きさの貫通孔4をもつ複数の調整用治具2を用意しておくことが好ましい。そうすれば、試料の大きさに応じた最適な大きさの貫通孔4をもつ調整用治具2を用いて試料Sの観察又は分析の対象部分の探索とその位置調整を行なうことができる。
【0027】
試料Sの観察又は分析の対象部分の探索は、
図4(A)に示されているように、ガラスやプラスチックなど、試料Sに触れても汚染させたり傷つけたりしない材質からなるなるべく水平な平面上で、調整用治具2をスライドさせることによって行なう。このとき、試料Sが微小なものである場合には、光学顕微鏡等6を用いて試料Sの表面を拡大視しながら調整用治具2をスライドさせて観察又は分析の対象部分を探索する。
【0028】
試料Sを転がして観察又は分析の対象部分が確認できたときは、
図4(B)に示されているように、その観察又は分析の対象部分が所定位置(例えば、鉛直上方を向く位置)にくるように試料Sの姿勢を調整する。観察又は分析の対象部分の位置を所定位置に調整した後は、作業者が清潔な手袋をした手やピンセットで試料Sを保持することによって、EPMAやSEMなどの装置の試料ホルダ上に設置してもよいが、
図4(C)に示されているように、調整用治具2を持ち上げて調整用治具2ごと装置へ移動させることもできる。調整用治具2ごと装置へ移動させれば、調整用治具2に保持された試料Sの姿勢を維持したまま試料Sを装置へ設置することが容易である。
【0029】
図5は、試料Sを調整用治具2ごと装置1の試料ホルダ8に設置した状態を示している。この実施例の装置1はEPMAやSEMなどのような電子線を利用して試料の観察を行なうものであり、試料ホルダ8上に設置された試料Sに照射する電子線源10と、電子線を照射された試料Sから放出される二次電子や反射電子、透過電子、X線、蛍光等を検出する検出部12と、を備えている。検出部12は、試料の観察又は分析を行なう観察又は分析部を実現するものである。
【0030】
試料ホルダ8上における試料Sの姿勢を確実に固定するために、調整用治具2を試料ホルダ8に載置する前に両面に粘着性を有するカーボンテープ等の接着部材14を試料ホルダ8の上面に貼り付けておくことで、試料Sの下面を試料ホルダ8に固定することができる。接着部材14による接着力が弱い場合には、調整用治具2を試料ホルダ8上に載置した後で試料Sをピンセット等で接着部材14に押し付けてもよいし、調整用治具2を試料ホルダ8上に載置した後、調整用治具2のように試料Sの直径よりも小さい穴をもつプレート等を用いて、観察対象部分に触れないようにしながら試料Sの下面を接着部材14へ押し付けてもよい。
【0031】
接着部材14としては、カーボンテープのほか、溶剤にカーボン等を混ぜたドータイトを乾燥させたものなど種々のものを用いることもできる。
【0032】
接着部材14が導電性を有しないような場合など、試料Sと試料ホルダ8との間の導通がない場合でかつ試料Sが調整用治具2と接する場合には、調整用治具2が導電性を有し揮発性のない材質であることが好ましい。そうすれば、試料Sの電荷を調整用治具2へ逃がすことができる。
【0033】
調整用治具2を用いた試料Sの観察手順の一例を
図6のフローチャートに示す。
【0034】
まず、試料Sの大きさに適した調整用治具2を選択し(ステップS1)、その調整用治具2の上面の貫通孔6の位置に試料Sを載置することによって調整用治具2に試料Sを保持させる(ステップS2)。そして、試料Sの表面を光学顕微鏡等によって拡大視しながら調整用治具2を平坦面上でスライドさせ、装置1によって観察又は分析すべき部分(観察又は分析の対象部分)を探索し、その観察又は分析の対象部分が所定位置にくるように調整する(ステップS3)。その後、試料Sの観察又は分析の対象部分の位置が変わらないように調整用治具2を持ち上げ、そのまま装置1の試料ホルダ8の所定の位置に調整用治具2を載置する(ステップS4)。これにより、装置1による試料Sの観察又は分析の対象部分の観察又は分析を正確に行なうことができる(ステップS5)。
【0035】
なお、以上において説明した実施例では、調整用治具2を装置1から独立したものとして説明したが、調整用治具2を装置1の試料ホルダ8の一部として設けてもよい。
【0036】
また、実施例では、試料の観察又は分析を行なうための装置としてEPMAやSEMなど電子線を利用するものを挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、走査型プローブ顕微鏡(SPM)や非破壊検査装置(NDI)などの微小部位観察装置に対しても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 装置
2 調整用治具
4 貫通孔
6 光学顕微鏡等
8 試料ホルダ
10 電子線源
12 検出部
14 接着部材
S 試料