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  • 特許-リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20220502BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220502BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220502BHJP
   H01M 50/178 20210101ALI20220502BHJP
   H01M 50/54 20210101ALI20220502BHJP
   H01M 50/548 20210101ALI20220502BHJP
   H01M 50/59 20210101ALI20220502BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0566
H01M50/178
H01M50/54
H01M50/548 301
H01M50/59
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017253529
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2019121442
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】國川 智輝
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-189300(JP,A)
【文献】特開2011-009182(JP,A)
【文献】特開2018-181461(JP,A)
【文献】特開2018-181521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 50/531
H01M 50/572
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 50/548
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極およびセパレータを備える積層体が電解液とともに外装体で封止され、該正極と負極それぞれが、該外装体の外部に突出する正極端子と負極端子を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極を構成する負極シートは前記負極端子が接合された部位において平面視略矩形状の第1の負極シートと第2の負極シートとに二股に分岐し、該第1の負極シートに負極活物質層が設けられ、該第2の負極シートと前記正極を構成する正極シートとの間に変性部材が介挿され、
前記変性部材は、熱硬化性樹脂からなる多孔質部材あるいは結晶質部材であり、当該変性部材に外部応力が印加された場合に脆性破壊して、前記第2の負極シートと前記正極シートとを電気的に短絡させることが可能であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記外部応力は、前記セパレータの引張強度以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
正極、負極およびセパレータを備える積層体が電解液とともに外装体で封止され、該正極と負極それぞれが、該外装体の外部に突出する正極端子と負極端子を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極を構成する負極シートは、前記負極端子が接合された部位において平面視略矩形状の第1の負極シートと第2の負極シートとに二股に分岐し、該第1の負極シートに負極活物質層が設けられ、該第2の負極シートと前記正極を構成する正極シートとの間に第1の変性部材が介挿され、
前記正極シートは前記正極端子が接合された部位において二股に分岐した平面視略矩形状の第1の正極シートと第2の正極シートからなり、前記第1の正極シートに正極活物質層が設けられ、前記第2の正極シートと前記第1の負極シートとの間に第2の変性部材が介挿され、
前記第1の変性部材と前記第2の変性部材は、熱硬化性樹脂からなる多孔質部材あるいは結晶質部材であり、
前記第1の変性部材は、当該第1の変性部材に外部応力が印加された場合に脆性破壊して、前記第2の負極シートと前記正極シートとを電気的に短絡させ、
前記第2の変性部材は、当該第2の変性部材に外部応力が印加された場合に脆性破壊して、前記第2の正極シートと前記第1の負極シートとを電気的に短絡させることが可能となる部材であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記外部応力は、前記セパレータの引張強度以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば外部応力等の付加に対して安全対策を施したリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における情報通信技術の進展により、携帯電話機に代表される可搬型の情報端末等における二次電池としてリチウムイオン電池が多用されている。また、リチウムイオン電池は、電気自動車(EV)等の車両の動力電源である電池モジュールを構成するセル電池として汎用化されている。リチウムイオン電池には、破裂、発火等が生じない安全性が要求される。
【0003】
例えば特許文献1は、リチウムイオン二次電池における電気的衝撃による発火や爆発の危険性を低減させるため、リチウムイオン二次電池用単位セル内の特定層の間に一つ以上の導電性シート層を追加的に備えた構成を開示している。この導電性シート層は、物理的、電気的な衝撃等により電池内で短絡が発生した場合、短絡電流を電極積層体の外側に通電させ、発熱を最小化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-9182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した公的な安全規格に対しては、リチウムイオン電池における内部短絡の評価が十分でない点が指摘されている。特許文献1は、金属製(鋼鉄)の針状体がリチウムイオン二次電池を貫通して陽極電極と陰極電極間の分離膜(セパレータ)が損傷されることによる電極間の短絡を想定している。そのため、貫通とは異なる、電池外部からの機械的な衝撃等によるセパレータの破損等に伴う内部短絡を考慮すると、そのような衝撃等によってセパレータが破損等に至るには時間を要することから、特許文献1の構成では、内部短絡に起因する発熱等に迅速に対応できない。
【0006】
また、特許文献1の構成において内部短絡が発生した場合、その短絡箇所が導電性シート上において限定的となり、導通抵抗の高い部位に短絡電流が集中することになる。そのため、高抵抗の部位に発生したジュール熱により電池の温度が上昇するという問題がある。その結果、温度上昇によってリチウムイオン二次電池に発火、発煙等が生じることが想定される。
【0007】
なお、リチウムイオン二次電池の内部に異物が混入することでセパレータが破損し、正極活物質と負極活物質間、正極活物質と負極集電箔間、あるいは負極活物質と正極集電箔間で内部短絡する異常モードにおいても、上記のような短絡電流の集中が起こるが、特許文献1を含む従来技術において、セパレータが破損に至る前段階で内部短絡による発熱に対処する構成は提案されていない。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、外部環境の昇温や外部応力に対応してリチウムイオン二次電池の安全性を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち第1発明は、正極、負極およびセパレータを備える積層体が電解液とともに外装体で封止され、該正極と負極それぞれが、該外装体の外部に突出する正極端子と負極端子を有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極を構成する負極シートは前記負極端子が接合された部位において平面視略矩形状の第1の負極シートと第2の負極シートとに二股に分岐し、該第1の負極シートに負極活物質層が設けられ、該第2の負極シートと前記正極を構成する正極シートとの間に変性部材が介挿され、前記変性部材は、熱硬化性樹脂からなる多孔質部材あるいは結晶質部材であり、当該変性部材に外部応力が印加された場合に脆性破壊して、前記第2の負極シートと前記正極シートとを電気的に短絡させることが可能であることを特徴とする。
【0010】
ここで、第1発明における前記外部応力は、前記セパレータの引張強度以下であることを特徴とする。
【0011】
第2発明は、正極、負極およびセパレータを備える積層体が電解液とともに外装体で封止され、該正極と負極それぞれが、該外装体の外部に突出する正極端子と負極端子を有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極を構成する負極シートは、前記負極端子が接合された部位において平面視略矩形状の第1の負極シートと第2の負極シートとに二股に分岐し、該第1の負極シートに負極活物質層が設けられ、該第2の負極シートと前記正極を構成する正極シートとの間に第1の変性部材が介挿され、前記正極シートは前記正極端子が接合された部位において二股に分岐した平面視略矩形状の第1の正極シートと第2の正極シートからなり、前記第1の正極シートに正極活物質層が設けられ、前記第2の正極シートと前記第1の負極シートとの間に第2の変性部材が介挿され、前記第1の変性部材と前記第2の変性部材は、熱硬化性樹脂からなる多孔質部材あるいは結晶質部材であり、前記第1の変性部材は、当該第1の変性部材に外部応力が印加された場合に脆性破壊して、前記第2の負極シートと前記正極シートとを電気的に短絡させ、前記第2の変性部材は、当該第2の変性部材に外部応力が印加された場合に脆性破壊して、前記第2の正極シートと前記第1の負極シートとを電気的に短絡させることが可能となる部材であることを特徴とする。
【0012】
ここで、第2発明における前記外部応力は前記セパレータの引張強度以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、物理的、機械的な衝撃等の外部応力、外部環境の昇温等に迅速に反応して、内部短絡による発火、爆発の危険を回避し、安全性を向上させたリチウムイオン二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1第1発明に係るリチウムイオン二次電池の外観図である。
図2第1発明に係るリチウムイオン二次電池の長手方向における垂直断面図図1のX-X’線断面図)である。
図3第1発明に係るリチウムイオン二次電池に外部応力が加わり、変性部材の性状が変化して負極シートと正極シートとが短絡した様子を模式的に示す図である。
図4第2発明に係るリチウムイオン二次電池の長手方向における垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、第1発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
第1発明
図1は、第1発明に係るリチウムイオン二次電池の外観図である。図1に示すように、本発明に係るリチウムイオン二次電池(電池セル)1は、平面視したときの形状が長方形であり、厚さが例えば1~10mm程度のシート積層型リチウムイオン二次電池(フィルム型リチウムイオン単電池)である。
【0016】
リチウムイオン二次電池1は、その長尺方向(長手方向)の一方端側において、後述する正極板より端子用タブとして正極端子2が外装体7の外部に露出し、長尺方向の他方端側には、後述する負極板より端子用タブとして負極端子3が外装体7の外部に露出した構造を有する。
【0017】
図2は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1の内部構造を示しており、図1のX-X´矢視線に沿ってリチウムイオン二次電池1を長手方向に切断したときの垂直断面図である。リチウムイオン二次電池1は、電極板としての箔状の正極板(例えばアルミニウム箔からなり、正極シートともいう)4、および負極板(例えば銅箔からなり、負極シートともいう)5と、これら正極板4と負極板5との間に介挿されたセパレータ9とを有してなる電極積層体8を備える。積層体8は電解液とともに外装体7で封止されている。外装体7は、例えば、アルミニウム材料、ポリマーフィルム等からなるシート状の部材で構成され、可撓性を有する。
【0018】
正極板4は、平面視で略矩形状をなしており、不図示の正極集電体の片面に塗布した正極活物質14を含む。同様に負極板5も、平面視で略矩形状をなし、不図示の負極集電体の片面に塗布した負極活物質15を含む。正極板4の端部には正極端子2の一方端が接合され、負極板5の端部には負極端子3の一方端が接合されている。これら正極端子2の他端側および負極端子3の他端側は、それぞれ外装体7の外部に引き出されている。
【0019】
正極において、正極活物質はリチウムイオンを可逆的に導入および放出可能な物質である。正極活物質として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)等の遷移金属酸化物がある。負極もまた、リチウムイオンを可逆的に導入および放出可能な負極活物質を有する。負極活物質として、例えば金属リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵、放出し得る炭素系材料、金属酸化物等を挙げることができる。
【0020】
セパレータ9は絶縁性を有し、正極と負極との短絡を防止する機能および電解液を保持する機能を有する。セパレータは、電解液を保持または通過させることが可能であれば特に限定されないが、例えば高分子の微多孔性膜(例えば、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)等の薄膜樹脂フィルム)、不織布、ガラスファイバー等からなる。セパレータ9の厚さは、例えば1~75μm程度が好ましく、1~50μm程度であることがより好ましい。かかる厚さのセパレータであれば、絶縁性を十分に確保することができる。
【0021】
電解液は、電解質を溶媒に溶解してなる液体である。電解液溶媒には、水分を実質的に含まない(例えば、100ppm未満)非水系溶媒が好適に用いられる。非水系溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、蟻酸メチル、トルエン、ヘキサン等が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウムのようなリチウム塩等を好適に使用することができる。電解液中の電解質の濃度は、特に限定されないが、0.01~1M程度であることが好ましい。
【0023】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1において、負極を構成する負極シート5は、負極活物質15が塗布された側(図2において積層体8の下面側)に位置する下側負極シート5aと、その下側負極シート5aが配された位置と反対側(図2において積層体8の上面側)に延出する、平面視で略矩形状の上側負極シート5bとで構成される。
【0024】
より詳細には、下側負極シート5aと上側負極シート5bの一方端部同士が、図2において符号Aで示す部分において互いに接続(付着)されている。そのため負極シート5は、これら下側および上側負極シート5a,5bが、上記の接続部より積層体8の上面側と下面側の2方向に平面状をなして二股に分岐した構造を有する。下側負極シート5aと上側負極シート5bとが接続された部位には、負極端子3の一方端が接合されている。
【0025】
さらに、上側負極シート5bと正極板(正極シート)4との間には、後述するように、例えば機械的な衝撃を受けたり、あるいは外部温度の上昇等により、所定の性状を維持できなくなり、その物理的な性状が変化する変性部材6が介挿されている。
【0026】
すなわち変性部材6は、衝撃等を受けていない、あるいは耐熱温度以下の通常の状態では、その部材の成形時の形状を維持しながら電気的絶縁性(非導通性)を保持するが、機械的な衝撃等を受けると部材全体がほぼ均等に粒子状に崩壊し、あるいは耐熱温度を超えると部材全体が溶解する性質を有している。そして、変性部材6が崩壊あるいは溶解すると、上側負極シート5bと正極板(正極シート)4とが、図3に示すように互いに広範囲にわたって面接触し、それらが相互に電気的に導通(短絡)する。
【0027】
また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1では、変性部材6を外装体7の内壁近傍に配置することで、電池の外部からの機械的な衝撃や、環境温度の変化に対する反応性を向上させている。
【0028】
次に、上述した機械的な衝撃および環境温度の上昇に対する、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の具体的な態様について説明する。なお、以下に示す機械的な衝撃力(外部応力)、環境温度等に関する数値は一例であり、リチウムイオン二次電池の仕様、使用環境等に応じて適宜、設定することができる。
【0029】
機械的な衝撃等に対する安全対策の観点から考察すると、リチウムイオン電池に対する公的な安全規格では、安全性試験として、リチウムイオン電池を所定高から垂直に落下させる、あるいはリチウムイオン電池の外部から所定の荷重を付加する等の衝突試験を行っている。例えば、UL1642の衝突試験では、試験対象の中央を通る丸棒(φ15.8±0.1mm)の上に9.1±0.46Kgの重りを610±25mmの高さから落下させている。
【0030】
図3は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1において、図1の平坦部Pに対して、白抜き矢印で示す物理的、機械的な衝撃(外部応力)が加わり、それにより外装体7が変形するとともに変性部材6の性状が変化したときの様子を模式的に示している。
【0031】
変性部材6は、多孔質あるいは結晶質を有する熱硬化性樹脂、例えば、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂)(UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、ジアリルフタレート樹脂(PDAP)、ポリウレタン樹脂(PUR)、シリコン樹脂(SI)等からなり、機械的な衝撃に対して脆く、外部応力を受けると部材全体がほぼ均等に破壊して粒子状になる性質を有する。
【0032】
変性部材6は、リチウムイオン二次電池に印加された外部応力に反応させるため、所定の硬さを有し、かつ脆い性質を呈する材料で構成することが望ましい。そこで、上記以外の部材として、硬いが衝撃に弱く、割れやすい素材、例えば、ガラス、石材、セラミックス等の硬脆材料を使用することができる。
【0033】
よって、図3に示すように、変性部材6の全体のみならず一部に所定以上の外部応力が付加されると、部材全体がほぼ均等に粒子状に破壊し、その粒子状物が正極板(正極シート)4と上側負極シート5bとの間で拡散する。その結果、正極板(正極シート)4と上側負極シート5bは、図3において符号a~dで示すように、粒子状物の間に形成された隙間を介して広範囲にわたって面接触し、これらのシート4,5b相互が電気的な短絡状態に至る。このように広い領域で正極シートと負極シート5bが短絡することで、シート4,5b間の導通抵抗(短絡抵抗)が小さくなるので、短絡電流による発熱(発生熱量)を抑制できる。
【0034】
上記の構成により、リチウムイオン二次電池に外部から機械的な衝撃が印加されると、変性部材6が短時間に破壊に至り、正極板(正極シート)4と上側負極シート5bとの広範囲な面接触による強制的な電気的短絡を実現して瞬時に短絡電流を流すことで、短絡による発熱を抑制する。これにより、外部応力によってセパレータ9が変形、破断、断裂等してセパレータ9に電気的導通路が形成され、正極活物質と負極集電体とが電気的な接触状態、あるいは負極活物質と正極集電体とが電気的な接触状態となる前段階で、これらの接触状態に起因した短絡による発熱を抑えることができる。
【0035】
このような強制的な短絡状態を実現するため、リチウムイオン二次電池1のセパレータ9の引張強度が例えば1200Kgf/cm以上の場合、衝撃に弱く、脆い材料からなる変性部材6の引張強度は、1200Kgf/cmよりも小さいことが望ましい。
【0036】
一方、環境温度の上昇に対する安全対策の観点からは、リチウムイオン二次電池の加熱試験として、例えばUL1642では、試験対象を入れるオーブンの初期温度を20±5℃とし、5±2℃/分で温度上昇させて130±2℃まで加熱して、10分間保持し、その後、試験対象を室温(20±5℃)に戻して評価することが規定されている。100℃を超える仕様の電池に対しては、加熱温度を130±2℃から、製造者の指定する最高温度よりも30±2℃超えた温度とする。リチウム金属電池の場合には、条件温度を最高170±2℃に増加させることを規定している。
【0037】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、設置環境の温度上昇に対応するため、所定の温度に達したときに変性部材6が溶融して、正極板(正極シート)4と上側負極シート5bとの広範囲な面接触状態を実現している。そのため、変性部材6の耐熱温度はセパレータ9の耐熱温度よりも低く、セパレータ9が、上昇した環境温度により断裂等に至る前に、変性部材6の全体が短時間に溶融する。
【0038】
変性部材6が溶融して正極板(正極シート)4と上側負極シート5bとの間に拡散することにより隙間が形成され、上側負極シート5bと正極板(正極シート)4とが、図3に示すように互いに広範囲にわたって面接触し、電気的な導通(短絡)状態となる。この場合においても、上記の機械的な衝撃を受けた場合と同様、広い領域で正極シートと負極シート5bが短絡するのでシート間4,5b間の導通抵抗(短絡抵抗)が小さくなり、短絡電流による発熱を抑制できる。
【0039】
このような変性部材6の具体例を挙げると、リチウムイオン二次電池のセパレータ9は、例えば高密度ポリエチレンからなり、その耐熱温度は約90~約110℃であることから、変性部材6は、セパレータ9の耐熱温度よりも低い材料からなることが望ましい。そのような条件を満たす材料として、例えば、低密度ポリエチレン(耐熱温度約70~約90℃)、ポリ塩化ビニル(耐熱温度約60~約80℃)、ポリスチレン(耐熱温度約70~約90℃)、無延伸ポリエチレンテレフタレート(耐熱温度約60℃以下)、メタクリル樹脂(耐熱温度約70~約90℃)、ポリビニルアルコール樹脂(耐熱温度約40~約80℃)等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0040】
以上説明した第1発明の実施形態では、正極板(正極シート)と、負極板(負極シート)と、これらの間に介挿されたセパレータとを備える電極積層体を有するリチウムイオン二次電池において、負極板(負極シート)を、負極端子の一方端側と接合された部位で二股に分岐させ、上側負極シート5bと下側負極シート5aの2枚の矩形状シートからなる構成とする。そして、積層体の下面側に位置する下側負極シート5aに負極活物質15を塗布し、積層体の上面側に延出した上側負極シート5bと正極板(正極シート)との間に、機械的な衝撃等を受けた場合に全体がほぼ均等に粒子状に破壊する変性部材、あるいは、設置環境の温度が上昇した場合に溶融して拡散する変性部材を配置する。
【0041】
このような構成とすることで、粒子状に破壊した変性部材の粒子状物間に形成された隙間、あるいは溶融して拡散した変性部材に形成された隙間を介して、正極板(正極シート)と上側負極シート5bとが多点かつ広範囲にわたり面接触し、電気的な短絡状態に至る。すなわち、正極シートと負極シート5b間において、局所的な短絡ではなく、広範囲にわたる短絡状態が実現されてシート4,5b間の導通抵抗が小さくなり、両シート4,5b間に流れる短絡電流による発熱の大幅な抑制が可能となり、電池の発火、破裂等の発生を抑制できる。
【0042】
その結果、例えば、リチウムイオン二次電池への重量物の落下、所定量を超える衝撃力等の印加、金属製の針状あるいは釘状の物体の貫通、あるいはリチウムイオン二次電池1の設置環境の温度が上昇したとき、セパレータの変形、破裂等による内部短絡が生じる前に、正極シートと負極シート5b同士を接触させることにより電気的に導通状態となって内部短絡が発生するので、機械的な衝撃、環境温度の上昇等に対する電池の反応性を容易に抑制して安全性を向上できる。
【0043】
第2発明
図4は、第2発明に係るリチウムイオン二次電池の内部構造である。この第2発明に係るリチウムイオン二次電池の外観は、図1に示す第1発明に係るリチウムイオン二次電池と同じであり、図4は、第2発明に係るリチウムイオン二次電池を、第1発明の実施形態と同様、図1のX-X’矢視線に沿って長手方向に切断したときの垂直断面図である。なお、図4において、図2と同一構成には同一符号を付してある。
【0044】
図4に示すように第2発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池21は、箔状の電極板である正極板(正極シート)24および負極板(負極シート)25と、これらのシート24,25間に介挿されたセパレータ9とを有してなる電極積層体18を備え、この積層体18は電解液とともに外装体17で封止されている。外装体17は、例えば、アルミニウム材料、ポリマーフィルム等からなるシート状の部材で構成され、可撓性を有する。
【0045】
正極板24は、平面視で略矩形状をなしており、正極集電体(不図示)の片面に塗布した正極活物質14を含み、負極板25も平面視で略矩形状をなし、負極集電体(不図示)の片面に塗布した負極活物質15を含んで構成される。正極板24には正極端子12の一方端が接合され、負極板25には負極端子13の一方端が接続されており、正極端子12の他端側および負極端子13の他端側は、それぞれ外装体17の外部に引き出されている。なお、正極活物質14、負極活物質15、セパレータ9等の構成は、第1発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池と同様である。
【0046】
第2発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池21において、負極シート25は、負極を構成する箔状シートであり、負極活物質15が塗布された側(図4において積層体18の下面側)に位置する第1の負極シート25aと、その第1の負極シート25aが配された位置と反対側(図4において積層体18の上面側)に延出する、平面視で略矩形状の第2の負極シート25bとで構成される。
【0047】
より詳細には、これら第1の負極シート25aと第2の負極シート25bは、図4において符号Bで示す部分において、両シート25a,25bの一方端部同士が互いに付着(接続)されている。そのため負極シート25は、第1および第2の負極シート25a,25bが、上記の接続部より積層体18の上面側と下面側の2方向に平面状をなして二股に分岐した構造を有する。そして、第1の負極シート25aと第2の負極シート25bの端部同士が接続された部位(二股に分かれた部位)に、負極端子13の一方端が接合されている。
【0048】
さらに、リチウムイオン二次電池21の正極を構成する箔状の正極シート24は、正極活物質14が塗布された側(図4において積層体18の上面側)に位置する第1の正極シート24aと、その第1の正極シート24aが配された位置と反対側(図4において積層体18の下面側)に延出する、平面視で略矩形状の第2の正極シート24bとで構成される。
【0049】
第1の正極シート24aと第2の正極シート24bは、図4において符号Cで示す部分において、両シートの一方端部同士が互いに付着(接続)されている。これにより正極シート14は、第1および第2の正極シート24a,24bが、上記の接続部より積層体18の上面側と下面側の2方向に平面状をなして二股に分岐した構造を有する。そして、第1の正極シート24aと第2の正極シート24bの端部同士が接続された部位(二股に分かれた部位)に、正極端子12の一方端が接合されている。
【0050】
第2発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池21では、第2の負極シート25bと第1の正極シート24aとの間に、例えば機械的な衝撃を受けた場合に、その物理的な性状が変化する(脆性破壊する)第1の変性部材16が介挿されている。具体的には変性部材16は、衝撃を受けていない通常の状態では、その部材の成形時の形状を維持しながら電気的絶縁性(非導通性)を保持するが、機械的な衝撃等を受けると部材全体がほぼ均等に粒子状に崩壊する。
【0051】
変性部材16が崩壊してなる粒子状物は、第2の負極シート25bと第1の正極シート24aとの間に拡散するので、これら第2の負極シート25bと第1の正極シート24aは、これら粒子状物の間に形成された隙間を介して広範囲にわたって面接触する。その結果、これらの正極シート24aと負極シート25bが広い領域で相互に電気的に導通することで、シート24a,25b間の導通抵抗(短絡抵抗)が小さくなり、短絡電流による発熱を抑制できる。
【0052】
さらに、第2の正極シート24bと第1の負極シート25aとの間には、リチウムイオン二次電池21の設置された環境温度が上昇し、それが所定温度に達したときに、その物理的な性状が変化する第2の変性部材26が介挿されている。具体的には、変性部材26は、その部材の耐熱温度以下の環境では、部材の成形時の形状を維持しながら電気的絶縁性(非導通性)を保持するが、耐熱温度を超えた場合、部材全体が溶解する。この溶解によりシート24b,25a間に形成された隙間を介して、上側負極シート25aと正極板(正極シート)24bとが、図3示すと同様に互いに広範囲にわたって面接触し、電気的な導通(短絡)状態となる。この場合も、上記の機械的な衝撃を受けた場合と同様、広い領域で正極シート24bと負極シート25aが短絡するのでシート24b,25a間の導通抵抗(短絡抵抗)が小さくなり、短絡電流による発熱が抑制される。
【0053】
このように第2発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池21は、負極板(負極シート)25を、その負極シート25と負極端子13の一方端側とが接続された部位より二股に分岐させ、上側負極シート25bと下側負極シート25aの2枚の矩形状シートからなる構成とするとともに、正極板(正極シート)24についても、その正極シート24と正極端子12の一方端側とが接続された部位より二股に分岐させ、上側正極シート24aと下側正極シート24bの2枚の矩形状シートからなる構成とする。
【0054】
そして、リチウムイオン二次電池21の外装体17の一方側内壁の近傍であって上側負極シート25b上側正極シート24aとの間に第1の変性部材16を介挿させ、機械的な衝撃等を受けた場合にその第1の変性部材16がほぼ均等に粒子状に破壊して、粒子状物間にできる隙間を介して正極シート24aと負極シート25bとを広範囲に面接触させる。さらに、リチウムイオン二次電池21の外装体17の他方側内壁の近傍であって、下側正極シート24bと下側負極シート25aとの間には第2の変性部材26を介挿させて、設置環境の温度が上昇した場合には、その第2の変性部材26が溶融して拡散し、それにより形成された隙間を介して正極シート24bと負極シート25aとを広範囲に面接触させる。
【0055】
このような構成とすることで、単一のリチウムイオン二次電池21において、機械的な衝撃等の外部応力を受けた場合、セパレータの変形、破断、断裂等することで正極/負極活物質14,15と負極/正極集電体とが接触して短絡が生じる前に、第1の変性部材16を短時間に崩壊させて、正極シート24aと負極シート25bとの広範囲な面接触による強制的な短絡を発生させる。一方、設置環境の温度が上昇した場合には、電池21の外装体17の他方側内壁の近傍に配置した第2の変性部材26を短時間に溶融させて、正極シート24bと負極シート25aとの広範囲な面接触による強制的な短絡を発生させる。
【0056】
その結果、リチウムイオン二次電池21のセパレータの変形、断裂等による内部短絡が生じる前段階で、正極シート24aと負極シート25b同士あるいは正極シート24bと負極シート25a同士が広範囲に接触して電気的に導通状態となって内部短絡が発生するので、単一のリチウムイオン二次電池21において機械的な衝撃と昇温のいずれに対しても電池21の反応性を容易に制御できる。
【0057】
<変形例>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述した実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。リチウムイオン二次電池において、例えば、正極(正極シート)と負極(負極シート)がセパレータを介して積層された積層体を、単一のリチウムイオン二次電池内に複数層積層させてなる電極積層体を有する構成としてもよい。
【0058】
また、上記第2発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池21では、第2の負極シート25bと第1の正極シート24aとの間に、外部応力により脆性破壊する第1の変性部材16を介挿し、第2の正極シート24bと第1の負極シート25aとの間には、環境温度の上昇により溶解する第2の変性部材26を介挿しているが、変性部材の配置構成はこれに限定されない。
【0059】
例えば、第1の変性部材16と第2の変性部材26の双方を外部応力により脆性破壊する部材とすることで、リチウムイオン二次電池21における外部応力に対する反応性をさらに向上させ、正極シート24と負極シート25間の強制短絡を確実かつ迅速に実現できる。また、第1の変性部材16と第2の変性部材26の双方を温度上昇により溶解する部材で構成することによっても、リチウムイオン二次電池21における温度上昇に対する反応性が向上し、正極シート24と負極シート25間の強制短絡を確実かつ迅速に実現可能となる。
【0060】
一方、正極シートと負極シートとの間に、変性部材として機能する昇華性の物質を充填しておき、リチウムイオン二次電池の設置環境の温度が所定値以上に達したときに昇華性物質を昇華させる構成としてもよい。かかる昇華によって、正極シートと負極シート間に空隙ができ、その空隙によって正極シートと負極シートとの広範囲な面接触状態を実現できる。
【0061】
さらには、変性部材を形状記憶効果を有する物質で構成し、それを正極シートと負極シートとの間に載置可能に成形して、リチウムイオン二次電池の設置環境の温度が所定温度以上となったとき、形状記憶効果により変性部材そのものが正極シートと負極シート間において縮減する、あるいはシート間から抜去されることで、シート間の広範囲な面接触状態を実現する構成にしてもよい。
【0062】
また、上述した各実施形態における、リチウムイオン二次電池の設置環境の温度上昇に反応する変性部材として、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))等の金属水酸化物からなる部材を使用してもよい。かかる金属水酸化物は、加熱による熱分解時に水(蒸気)を放出するので、リチウムイオン二次電池の環境温度が所定温度以上に上昇した場合、変性部材を構成する金属水酸化物より放出された水が、電解液中のリチウムイオンと相俟って電導性を発揮し、正極シートと負極シート間が電気的に短絡する。
【0063】
なお、上記金属水酸化物は、優れた耐火性を有するとともに加熱されることによる水の放出により、リチウムイオン二次電池の温度上昇を抑えて電池内での発火(燃焼)を防ぎ、あるいは、電池内で発火が生じた場合には、金属水酸化物より放出された水により消火されるという効果もある。
【符号の説明】
【0064】
1,21 リチウムイオン二次電池
2 正極端子
3,13 負極端子
4,24 正極板(正極シート)
5,25 負極板(負極シート)
5a 下側負極シート
5b 上側負極シート
6 変性部材
7,17 外装体
8,18 積層体
9 セパレータ
14 正極活物質
15 負極活物質
16 第1の変性部材
24a 第1の正極シート
24b 第2の正極シート
25a 第1の負極シート
25b 第2の負極シート
26 第2の変性部材

図1
図2
図3
図4