(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】照明用電源装置のコモンモードノイズ対策
(51)【国際特許分類】
H05B 45/3725 20200101AFI20220502BHJP
【FI】
H05B45/3725
(21)【出願番号】P 2018021697
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000126274
【氏名又は名称】株式会社アイ・ライティング・システム
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】松本 稔
(72)【発明者】
【氏名】司城 賢仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 篤
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-187812(JP,A)
【文献】特開2012-094291(JP,A)
【文献】特開2014-110197(JP,A)
【文献】特開2016-131208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 45/00
H05B 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源部へ直流電流を出力する照明用電源装置であって、
前記直流電流
として矩形波電流又はパルス電流を生成するスイッチング電源部と、
前記スイッチング電源部と
前記光源部との間の一対の出力ラインに設けられた出力フィルタ部と、を備え、
前記出力フィルタ部がコモンモード・チョークコイルを有
し、
前記コモンモード・チョークコイルに含まれるノーマルモードのインダクタ成分による前記出力フィルタ部の遮断周波数は、前記スイッチング電源部からの前記矩形波電流または前記パルス電流の最小パルス幅の基本周波数よりも高く設定されている、
ことを特徴とする照明用電源装置。
【請求項2】
請求項1記載の照明用電源装置において、
さらに、前記スイッチング電源部へ調光信号を送る調光信号処理部を備え、
前記スイッチング電源部は、
スイッチング素子の動作によって連続的な直流電流を生成し、
前記調光信号に応じて、該連続的な直流電流を前記スイッチング素子の動作よりも低い周波数の断続的な直流電流にして出力する、ことを特徴とする照明用電源装置。
【請求項3】
請求項
1または2記載の照明用電源装置において、
前記コモンモード・チョークコイルは前記一対の出力ラインにそれぞれ直列に接続された第一コイルと第二コイルを有し、
前記第一コイルと前記第二コイルの各巻線が揃え巻きになっている、ことを特徴とする照明用電源装置。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載の照明用電源装置において、
前記コモンモード・チョークコイルを構成する2つのコイルは空芯コイルである、ことを特徴とする照明用電源装置。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれかに記載の照明用電源装置において、
前記コモンモード・チョークコイルは、
環状または棒状の枠体と、
前記スイッチング電源部のプラス端子側に接続された一端、および、前記光源部のプラス端子側に接続された他端を有する第一コイルと、
前記スイッチング電源部のマイナス端子側に接続された一端、および、前記光源部のマイナス端子側に接続された他端を有する第二コイルと、を有し、
前記第一コイルおよび前記第二コイルは、コモンモードの伝導ノイズの流れによって発生する磁束が強め合う巻線方向で、前記枠体に巻装されている、
ことを特徴とする照明用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED等の光源部へ直流電流を出力する照明用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、照明用電源装置のスイッチング電源部には、50K~150KHzという高い周波数で駆動するスイッチング素子が内蔵されており、そのスイッチング素子の作用により、外部からの入力電力が所定の直流化電力に変換される。この直流化電力を連続電流としてそのまま光源部に出力すれば、光源部は最大の明るさで点灯する。また、直流化電力の出力を外部調光信号に応じて公知の様々な方式で増減させれば、光源部の調光も可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、調光の有無に関わらず、スイッチング電源部のスイッチング素子が高い周波数で駆動する以上、そのスイッチング電源部からのスイッチングに伴う高周波ノイズの発生が問題になる。スイッチング電源部と光源部との間が近接している場合はよいが、両者の距離が長い場合(1m以上)には、その高周波ノイズがコモンモードの伝導ノイズとして出力ラインを伝わってしまう。さらに、出力ラインからその高周波成分が周辺にまき散らされてしまう。
【0005】
照明用電源装置にも従来、コモンモードのノイズ対策として、ラインフィルタと呼ばれるコモンモード・チョークコイルを用いた方法がある。例えば特許文献1のように、外部電源ACからの交流電力は、電源装置入口のラインフィルタ(コモンモード・チョークコイル)を通ってから絶縁型AD-DCコンバータに供給される。これにより、絶縁型コンバータを発生源とするコモンモードの伝導ノイズが、そのラインフィルタで遮断され、外部電源への流出が防止される。
【0006】
一方、特許文献1の絶縁型コンバータの出口には、コイルとコンデンサで構成された出力フィルタがある。この出力フィルタのコイルは、スイッチング電源部の出力端子OUT1側に直列に接続され、コンデンサは、2つの出力端子OUT1,OUT2のバイパスコンデンサになっている。従って、この出力フィルタは、ノーマルモードのノイズ除去として作用するが、コモンモードのノイズに対しては効果がない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、光源部へ直流電流を出力する照明用電源装置において、スイッチング電源部から光源部までの出力ラインが長い場合でも、出力ラインへのコモンモードのノイズの伝導または出力ラインからのノイズの放射を効果的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)すなわち、本発明の照明用電源装置は、
光源部へ直流電流を出力する照明用電源装置であって、
前記直流電流を生成するスイッチング電源部と、
前記スイッチング電源部と光源部との間の一対の出力ラインに設けられた出力フィルタ部と、を備え、前記出力フィルタ部がコモンモード・チョークコイルを有する、
ことを特徴とする。
【0009】
電流の変動の有無およびその変動の緩急に関わらず直流電流を出力する照明用電源装置において、上記の構成のように、スイッチング電源部と光源部との間にコモンモード・チョークコイルからなる出力フィルタ部を挿入すれば、特に、スイッチング電源部と光源部との距離が長い場合に、スイッチング電源部で発生した高周波ノイズが電源装置の出力ラインに流れることを効果的に抑制することができる。
【0010】
ここで、スイッチング電源部と光源部との間にコモンモード・チョークコイルからなる出力フィルタ部を挿入するというノイズ対策について、従来のHIDランプ用の点灯装置でのノイズ対策との違いを説明する。
図1の光源部をHIDランプに置き換えた場合、光源部の浮遊容量(例えば、HIDランプの取付金具(ソケット)と筐体との間の浮遊容量)は数十pF程度と小さく、コモンモードの伝導ノイズのループAが形成される可能性は十分に低い。そのため、スイッチング電源装置(安定器)の出力側にコモンモード・チョークコイルを接続する必要性は存在しなかった。HIDランプは高温になるほど発光効率がよくなり、HIDランプの冷却(放熱)に注力する必要はなく、光源部のHIDランプの取付金具と筐体等とを放熱のために近接させる必要もなく、光源部の構造上、その浮遊容量が小さくなっていた。
【0011】
しかし、光源部がLED等、高温下での寿命・発光効率が悪化する光源を用いる場合、光源の温度が高くなると、寿命、発光効率ともに著しく低下するので、LED等の光源の放熱を構造的に十分に考慮する必要がある。LED素子の例では、LED素子が高温に長期間さらされるとLED素子を封じているシリコン樹脂などの封止材がガラス化しやすくなる。そうすると、封止材にひび割れが生じて、内部に湿気が侵入する。これによりLED素子の劣化が早く進行して、その寿命が短くなってしまう。
【0012】
そのため、
図1に示す本発明の電源装置の一形態のように、接地されている放熱器(例えば筐体と一体構造のヒートシンク等)と光源部(例えば複数のLED素子を含むLEDパッケージ等)との間を近接させる必要がある。その代償として、光源部の浮遊容量が著しく増加し、数百から数千pFの容量とならざるを得ない状況になっている。コモンモードの伝導ノイズのループAが形成される可能性が高く、その伝導ノイズが著しく増加することになる。スイッチング電源部の出力側へのコモンモードの伝導ノイズ対策の必要性が生じていたが、これまでは有効な措置が取られた電源装置はほとんど見られなかった。
【0013】
これに対し、本発明のようにスイッチング電源部の出力側にコモンモード・チョークコイルを接続することにより、放熱性を改善させるために光源部の浮遊容量が増加したとしても、コモンモードのノイズ増加が制限される。従って、光源部の十分な冷却の確保と、ノイズ対策の両方が可能になった。加えて、LED等の光源部の発光効率および寿命を伸ばすことが可能となり、寿命が延びることによる省資源、発光効率の向上による省エネに貢献することができる。
【0014】
特に、スイッチング電源部と光源部との接続線の長さが未定の場合、接続線の長さにかかわらず、本発明に係る出力フィルタを実装しておくことが、ノイズ対策として重要になる。
【0015】
ここで、前記コモンモード・チョークコイルは、
環状または棒状の枠体と、
前記スイッチング電源部のプラス端子側に接続された一端、および、前記光源部のプラス端子側に接続された他端を有する第一コイルと、
前記スイッチング電源部のマイナス端子側に接続された一端、および、前記光源部のマイナス端子側に接続された他端を有する第二コイルと、を有し、
前記第一コイルおよび前記第二コイルは、コモンモードの伝導ノイズの流れによって発生する磁束が強め合う巻線方向で(言い換えると、ノーマルモードの伝導ノイズの流れによって発生する磁束が打ち消し合う巻線方向で)、前記枠体に巻装されている、
ことが好ましい。
【0016】
なお、環状または棒状の枠体は、磁性体のコア、または、巻き枠としてのボビンを示し、ボビンの場合は内部にコアが有るもの(有芯)とコアが無いもの(空芯)の両方を示すものとする。
【0017】
(2)また、本発明の照明用電源装置において、前記直流電流は、矩形波電流又はパルス電流であることを特徴とする。
【0018】
例えば、PWM調光用のスイッチング電源部は、スイッチング電源部から光源部に向けて矩形波電流又はパルス電流を流すことを目的に構成されており、出力ラインを流れる電流自体が断続的な電流であるから、出力ラインに連続的な直流電流が流れる場合よりも、コモンモードの伝導ノイズの発生が増加しやすい。
PWM調光は、光源部の点灯と消灯の時間を変化させて明るさを制御する方式である。イベント照明等で用いる「キザミ調光」もPWM調光の一種で、点灯および消灯を100Hz~1KHz程度の比較的低い周波数で小刻みに切り換えて、光源部を点滅させている。そして、点滅中の点灯時間の比率(オンデューティ)を変えて、明るさを変化させている。
このように光源部を点滅させるため、スイッチング電源部からの電流波形を断続的な矩形波またはパルス波にしていることから、その電流波形の立上りまたは立下りにおける高い周波数成分がコモンモードの伝導ノイズの原因として問題になる。スイッチング電源部と光源部との距離が長い場合(1m以上)には、矩形波電流またはパルス電流に含まれる高周波成分がコモンモードの伝導ノイズとして出力ラインを伝わってしまうからである。
【0019】
この構成の照明用電源装置によれば、スイッチング電源部と光源部との間にコモンモード・チョークコイルからなる出力フィルタ部を挿入したので、スイッチング電源部で生成された矩形波電流またはパルス電流はすべてコモンモード・チョークコイルを通ってから光源部へと出力される。これにより、スイッチング電源部と光源部との距離が長い場合であっても、矩形波電流またはパルス波電流の生成に伴って生じる高周波数成分が、コモンモードのノイズとして電源装置の出力ラインに流れることを抑制することができる。
【0020】
(3)一般に、コモンモード・チョークコイルは、広い周波数帯域において純粋にコモンモードのインダクタ成分の特性だけを示すわけではなく、ノーマルモードのインダクタ成分の特性も含んでいる。同じコモンモード・チョークコイルにおけるコモンモードのインダクタ成分(L1)の特性を表す機能回路を
図2に、ノーマルモードのインダクタ成分(L3,L4)の特性を表す機能回路を
図3に示す。2つの図において、端子1から端子2までのラインが第1コイルに該当し、端子3から端子4までのラインが第2コイルに該当する。電気回路図で、単にコモンモード・チョークコイルを表わす場合は、
図2の機能回路を用いる。
【0021】
光源部へ矩形波電流又はパルス電流を出力する照明用電源装置においては、その矩形波電流又はパルス電流が、スイッチング電源部の一対の出力ラインに対してノーマルモードの電流として流れる。特に、極深調光においては、高い周波数で矩形波電流又はパルス電流を発生させて、光源部を点滅させる必要があり、高周波数帯のノーマルモードの電流が出力ラインに流れることになる。
【0022】
このようなことから、高い周波数帯のノーマルモードの矩形波電流又はパルス電流がコモンモード・チョークコイルに含まれているノーマルモードのインダクタ成分によって、遮断されてしまうことが問題になる。
【0023】
そこで、ノーマルモードでの出力フィルタの遮断周波数を、極深調光時の出力電流の基本周波数より高く設定する必要がある。ここで、出力電流の基本周波数は、矩形波電流又はパルス電流のパルス幅を1/2周期とする周波数であると、定義する。
【0024】
すなわち、本発明の照明用電源装置では、
前記コモンモード・チョークコイルに含まれるノーマルモードのインダクタ成分による前記出力フィルタの遮断周波数は、前記スイッチング電源部からの前記矩形波電流または前記パルス電流の最小パルス幅の基本周波数よりも高く設定されている、ことが好ましい。
以上の構成によれば、コモンモード・チョークコイルによってコモンモードの伝導ノイズの抑制という効果と、矩形波電流又はパルス電流を確実に光源部に伝えるという効果の両方を同時に得られる。
【0025】
(4)ここで、上述のコモンモード・チョークコイルに含まれているノーマルモードのインダクタ成分について詳しく説明する。
本発明では、従来のラインフィルタ用のコモンモード・チョークコイルと同じ構造のものを出力フィルタとして適用できる。しかし、多くのラインフィルタ用のコモンモード・チョークコイルが商用交流電源ラインへ設置されることから、例えば
図4の外観図のように、2つのコイルが離れた状態になっている。つまり、共通コアのある部分に第一コイルが巻装され、別の部分に第二コイルが巻装され、2つのコイルが重なっていない状態である。商用交流電源ラインは一時的に誘導雷や直撃雷により、数千ボルトの電圧が電源ラインに印加される可能性があり、ラインフィルタとして用いる場合は2つコイルを離した方が好ましいからである。
【0026】
図4のコモンモード・チョークコイルを構成する第一および第二コイルは、コモンモードの伝導ノイズの流れによって発生する磁束が強め合う巻線方向で、コアに巻装されている。コモンモードの電流によって生じる磁束は、コアの内部および表面だけを通ることが理想である。2つのコイルに生じる磁束が強め合うので、2つのコイルがコモンモードのノイズに対するインダクタとして有効に働くからである。
【0027】
また、ノーマルモードの電流に対しては、2つのコイルに生じる磁束が打ち消し合うので、理想的には2つのコイルはノーマルモードの電流に対するインダクタの効果は生じない。しかし、現実には、コアからはみ出た漏れ磁束が存在する。ノーマルモードの電流によって第一コイルに生じた磁束の一部は、第二コイルに生じた磁束とぶつからずに、コアからはみ出て第一コイルの外側を通って第一コイルに戻るというルートを描き、同様に、第二コイルに生じた磁束の一部も第二コイルの外側を通るルートを描く。これらのコアからはみ出た漏れ磁束は、打ち消し合わずに残るため、2つのコイルがノーマルモードの電流に対してインダクタとして作用することになる。このことを、コモンモード・チョークコイルにノーマルモードのインダクタ成分が生じる、と呼ぶ。
さらに、コモンモード・チョークコイルをコモンモードのインダクタ成分だけにするには、二つのコイルがまったく同じ特性を示すことが条件になる。そのようなことは現実的ではなく、どうしてもノーマルモードのインダクタ成分が生じてしまう。
【0028】
その対策として、本発明の一形態では、スイッチング電源部の出力側には雷の影響がないという前提で、
図5および
図6の例のように、フェライト成分などの磁性材料を含む環状または棒状のコアを心棒として、二本の電線を揃えて巻いたものをコモンモード・チョークコイルとして用いる。
【0029】
すなわち、本発明の照明用電源装置では、
前記コモンモード・チョークコイルは前記一対の出力ラインにそれぞれ直列に接続された第一コイルと第二コイルを有し、
前記第一コイルと前記第二コイルの各巻線が揃え巻きになっている、ことが好ましい。
【0030】
なお、二本の電線を揃えて巻くという条件が加わるが、第一および第二コイルが、コモンモードの伝導ノイズの流れによって発生する磁束が強め合う巻線方向で、コアに巻装されている点は、
図4の例と同じである。
【0031】
図5および
図6の例では、2つのライン線が同様の磁気的な条件下におかれるので、ノーマルモードのインダクタ成分がほとんど存在しないコモンモード・チョークコイルが得られる。ノーマルモードの電流に対しては、2つのライン線に生じる磁束がほとんど打ち消し合って、漏れ磁束がほとんど生じないからである。揃え巻きを採用することで、スイッチング電源部からの矩形波電流またはパルス電流の最小パルス幅をより狭くすることが可能になる。
【0032】
(5)しかし、
図5および
図6の揃え巻きにおいても、棒状および環状のコアがフェライト成分等の磁性材料で形成されているため、磁性材料の周波数特性によって、数百メガオーダーの周波数帯では、その機能を失ってしまう。
その対策としては、
図5および
図6のコモンモード・チョークコイルにおいて2つのコイルを揃え巻きにする対象を、巻き枠(ボビン)のみにするとよい。
すなわち、本発明の照明用電源装置では、前記コモンモード・チョークコイルを構成する2つのコイルは空芯コイルである、ことが好ましい。
【0033】
なお、コモンモード・チョークコイルを構成する2つのコイルを揃え巻きにする場合、隣り合う2つのライン線の線間の静電容量によって、ノイズ成分が伝わってしまわないように、2つのライン線の線間を少なくとも1本分の線径分の間隔よりも大きい間隔にするとよい。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、光源部へ直流電流を出力して点灯させる照明用電源装置において、スイッチング電源部から光源部までの出力ラインが長い場合であっても、出力ラインへ高周波成分がコモンモードのノイズとして伝導することを効果的に抑制することができ、または、出力ラインのアンテナ作用によって高周波成分が周囲に放射されることも効果的に抑制される。従って、高周波成分が周辺にまき散らされることのない、ノイズ放射の抑制に資する照明用電源装置を提供することができる。
なお、通常は、コモンモードとノーマルモードの伝導ノイズが同時に発生するが、高周波数帯になるほどコモンモードの発生割合が高くなる傾向がある。そのため、本発明のコモンモード・チョークコイルからなる出力フィルタの設置のメリットが高周波帯域のノイズになるほど高くなる。
特に、光源部への直流電流が矩形波電流又はパルス電流であるような照明用電源装置においては、コモンモードの伝導ノイズの発生が増加しやすいが、出力ラインに所定のコモンモード・チョークコイルを設けることによって、コモンモードの伝導ノイズの抑制という効果と、重要な矩形波電流又はパルス電流を確実に光源部に伝えるという効果の両方を同時に得ることができる。すなわち、コモンモード・チョークコイルにおけるノーマルモードのインダクタ成分(例えば
図3)の遮断周波数を、矩形波電流又はパルス電流の最小パルス幅の基本周波数よりも高めに設定することで、極深調光時のように非常に高い基本周波数の矩形波電流又はパルス電流がノーマルモードのインダクタ成分に遮られることなく通過でき、同時に、その矩形波電流又はパルス電流に伴って発生する高周波数帯のコモンモードの伝導ノイズについては、コモンモードのインダクタ成分(例えば
図2)により確実に除去されるようになる。これによって、高周波数帯のコモンモードのノイズが多く発生するような条件下であっても、照明や通信などに必要な矩形波電流又はパルス電流を確実に光源部に伝えることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】第一実施形態に係る照明用LED電源装置の回路図である。
【
図2】コモンモードのインダクタ成分によるフィルタ機能を示す図である。
【
図3】ノーマルモードのインダクタ成分によるフィルタ機能を示す図である。
【
図4】コモンモード・チョークコイルの一実施例を示す外観図である。
【
図5】コモンモード・チョークコイルの他の実施例(環状コアへの揃え巻き)の図。
【
図6】コモンモード・チョークコイルの別の実施例(棒状コアへの揃え巻き)の図。
【
図7】前記照明用LED電源装置の具体的な回路図である。
【
図8】
図7のPWM調光信号に基づく電圧信号(V
EN)とスイッチング電源部の出力電流(I
LED)の各波形を比較した図である。
【
図9】第二実施形態に係る照明用LED電源装置を道路灯具に適用した場合の説明図である。
【
図10】第三実施形態に係る可視光通信機能を備えた照明用電源装置の回路図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面に基づいて、本発明に係るLED電源装置の第一実施形態について説明する。第一実施形態は、照明用LED電源装置を降圧型のキザミ調光電源(PWM調光)として構成した例である。なお、スイッチング電源部の構成については、本書の冒頭で述べた従来のキザミ調光などのPWM調光用の電源装置の構成を用いることができる。
【0037】
図1に本実施形態のLED電源装置の概略構成図を示す。LED電源装置は、金属製の筐体51に支持されたスイッチング電源部10を有する。スイッチング電源部10は、外部の商用交流電源から交流電力を受けて、これを所定の直流化電力に変換して出力する。スイッチング電源部10の出力側には、出力フィルタ20が一体に設けられ、スイッチング電源部10の出力電流が、出力フィルタ20を通って、接続ケーブル40で接続された光源部30に供給されるようになっている。LED電源装置から離れた場所に設けられた光源部30も金属製の筐体52に支持されている。
【0038】
出力フィルタ20は、コモンモード・チョークコイルで構成され、スイッチング電源部10を発生源とするコモンモードの伝導ノイズが光源部30側へ伝わることを抑制する。つまり、出力フィルタ20が無い場合は、
図1のような、コモンモードの伝導ノイズの大きなループ(ループA)が成立してしまう。このループAは、コモンモードの伝導ノイズが、スイッチング電源部10から出て、一対の接続ケーブルを通って光源部30に達し、光源部30と筐体52間の浮遊容量によって光源部30の筐体52に伝わり、筐体同士を接続する金属部分または大地を経由してスイッチング電源部10の筐体に達し、スイッチング電源部10とその筐体51間の浮遊容量によって、再びスイッチング電源部10に戻るというルートになる。このようなループAの形成によって、周辺機器へノイズの影響を与えてしまう。
また、出力フィルタ20が無い場合は、スイッチング電源部10に接続された比較的長い接続ケーブル40がアンテナとなって、コモンモードの伝導ノイズが放射ノイズとなって周辺にまき散らされてしまう。
【0039】
本実施形態では、コモンモード・チョークコイルの出力フィルタ20を挿入することで、スイッチング電源部10から光源部30までの出力ラインが長くても、出力ラインへコモンモードのノイズが伝導することを効果的に抑制することができる。また、出力ラインのアンテナ作用によってノイズが周囲に放射されることも効果的に抑制される。
【0040】
図7に本実施形態の照明用電源装置の回路図の具体例を示す。10は出力フィルタ20にLEDを発光させるパルス電流(もしくは矩形波電流)を流すための降圧型のスイッチング電源である。20は出力フィルタであり、30は光源部であり、ここではLED照明器具を用いている。
【0041】
スイッチング電源部10には入力端子より、48Vの直流電源が供給される。抵抗R109は、48Vの直流電源から供給される直流電流をIC101が検出するための抵抗である。スイッチング素子Q101,平滑コイルL101,ダイオードD101およびバイパスコンデンサC1によって、ダウン・コンバータ回路が構成されている。なお、バイパスコンデンサC1は、出力フィルタ20のバイパスコンデンサを兼ねている。
【0042】
スイッチング電源部10のグラウンド側のラインと、スイッチング素子Q101の駆動用IC(IC101)とを接続する、コンデンサC107,可変抵抗VR101および抵抗R107で構成された回路は、LEDに流れるパルス電流のピーク値を調整する回路である。
【0043】
コンデンサC104と抵抗R106で構成された回路は、ダウン・コンバータの出力電圧(V0)を駆動用IC101にフィードバックし、IC101によるスイッチング素子Q101のスイッチング動作のオフ時間を設定する。
【0044】
コンデンサC105は、レギュレータの立ち上がり特性を改善するためのコンデンサである。抵抗R108は、スイッチング素子Q101のゲート・ソース間の静電容量による充放電電流の上限を制限するための抵抗である。
【0045】
フォトカプラーPC151は、外部からのPWM調光信号を受信し、赤外線結合による絶縁を行って、駆動用IC101にPWM調光信号を送る機能がある。具体的には、フォトカプラーPC151は、受信したPWM調光信号を波形整形し、電圧のレベル変換を行って、レベル変換後の電圧信号を電圧VENとして駆動用IC101のEN端子に入力する。
【0046】
駆動用IC101は、EN端子がハイの時のみスイッチング動作を実行し、その他の時はスイッチング動作を停止させる。この動作により、平滑コイルL101の光源部側のV
0検出用ポイントには、EN端子に入力された電圧波形(V
EN)と相似の電流波形(パルス波形I
LED)が現れる。両者の波形を
図8に示す。
【0047】
図7のスイッチング電源部10と光源部30のLED照明器具とを結ぶ接続ケーブル40が長い場合(1m以上)、LEDに供給される電流がパルス電流であるから、
図1のように空間に放射ノイズをまき散らす可能性があった。その対策として、接続ケーブル40のスイッチング電源部10側にコモンモードの出力フィルタ20を挿入する。
また、出力されるパルス電流のパルス幅が狭い場合、パルス電流の周波数成分が高いので、コモンモードの出力フィルタ20に存在するノーマルモードのインダクタ成分によって、パルスが通過しなくなり、極深調光では点灯できなくなる問題点がある。その対策として、出力フィルタ20の遮断周波数をパルス電流の基本周波数より高く設定している。
【0048】
出力フィルタ20には、ノーマルモードのインダクタ成分の少ないコモンモード・チョークコイルを使用する。このコモンモード・チョークコイルは、前述の
図4のように環状のコア、第一コイル(図中の左側)および第二コイル(図中の右側)で構成される。第一コイルは、スイッチング電源部10のプラス端子側に接続された端子1、および、光源部30のプラス端子側に接続された端子2を有する。第二コイルは、スイッチング電源部10のマイナス端子側に接続された端子3、および、光源部30のマイナス端子側に接続された端子4を有する。
このコモンモード・チョークコイルには、上記のコア、第一および第二コイルに加え、
図2の回路図に示されるコンデンサC1、C2を独立した素子として含んでいる。これらのコンデンサC1、C2とインダクタ成分L1との組合せによって、ノーマル成分として必要なパルス列が減衰されないような周波数帯が生じ、パルス電流によるLEDの点灯が正常に実行される。このようなコンデンサC1、C2は、前述の
図5および
図6のコモンモード・チョークコイルにも同様に設けられている。
【0049】
第一および第二コイルは、コモンモードの伝導ノイズの流れによって発生する磁束が強め合う巻線方向で、言い換えると、高周波数のパルス電流の流れによって発生する磁束が打ち消し合う巻線方向で、環状のコアに巻装されている。
【0050】
一般的なコモンモード・チョークコイルにノーマルモードのインダクタ成分が含まれている原因は、
図4に示したように、2つの巻き線が離れていることにある。本実施形態では、より好ましいコモンモード・チョークコイルとして、
図5、
図6のような2つの巻き線を互いに平行になるように揃えて巻いたものを用いるとよい。
【0051】
さらにフェライトのような磁性材料には周波数特性があり、一般に数百メガHzでは、うまく動作しない材料が大半である。その対策としては、
図5、
図6のコモンモード・チョークコイルをフェライトなしの空芯として、非磁性材料の巻き枠だけを用いるとよい。
【0052】
本実施形態により、スイッチング電源部(LED電源装置)と光源部(LED照明器具)との距離が長い場合でも、高周波成分(放射ノイズ)を周辺にまき散らさないという効果が得られる。加えて、重要な矩形波電流又はパルス電流を確実に光源部に伝えるという効果も得られる。
【0053】
次に、本発明に係る照明用電源装置の第二実施形態について
図9を用いて説明する。
図9に道路灯具への適用例を示す。この道路灯具は、立設された金属製ポールの上端の光源部130と、ポールの下部に取り付けられた電源装置と、これらを接続するケーブル140とを備えている。電源装置には、光源へ連続的な直流電流を出力するスイッチング電源部と、本発明に特徴的なコモンモード・チョークコイルからなる出力フィルタ120とが内蔵されている。スイッチング電源部には一般的な公知の回路構成を用いる。出力フィルタ120には、前述の実施形態と同様のコモンモード・チョークコイルを用いる。
【0054】
ここで、光源部130の具体的な構造の一例を
図9に拡大図として示す。電源装置からの直流電流は、ケーブル140を経由してLEDパッケージ132と呼ばれる複数のLED素子を含んだ基板に供給される。この基板には、複数のLED素子が蛍光体および封止材によって覆われている。LEDパッケージ132は、支持部材としての筐体152に取り付けられている。筐体152は、多数のヒレ状のヒートシンクと一体に形成されており、筐体152とLEDパッケージ132との間をできるだけ近接させることによって、LEDパッケージ132の熱を効率良くヒートシンクにて放熱させることができる。その代償として、光源部130の浮遊容量が著しく増加し、数百から数千pFの容量とならざるを得ない状況になっている。
【0055】
本実施形態のように、電源装置の出力部にコモンモード・チョークコイルからなる出力フィルタ120を設けることによって、上記のような浮遊容量の大きな構造の光源部130であっても、コモンモードの伝導ノイズの増加が制限されるから、光源部130の十分な冷却の確保とノイズ対策の両方が可能になる。
【0056】
次に、本発明に係る照明用電源装置の第三実施形態について説明する。第三実施形態は、可視光通信機能を備えた照明用電源装置の例である。
【0057】
図10に本実施形態の照明用電源装置の概略構成図を示す。この電源装置は、スイッチング電源部210と、出力電流に通信用の信号を重畳させる信号付与手段260と、本発明に特徴的なコモンモード・チョークコイルからなる出力フィルタ220とを備えている。電源装置からの通信用の信号を重畳した出力電流は、矩形波電流又はパルス電流として、接続ケーブル240を経由して光源部230へ送られる。光源部230は、通信用の信号を重畳した出力電流の波形に従って、点滅する。このような光源部230からの光出力を、携帯機器などの光検出手段が受信する。
【0058】
このような可視光通信機能を備えた照明用電源装置においても、通信用の信号を重畳した出力電流をコモンモード・チョークコイルからなる出力フィルタ220に通すことで、通信用の信号の重畳に伴って生じるコモンモードノイズの対策になる。つまり、本実施形態では、コモンモード・チョークコイルの出力フィルタ220を挿入することで、スイッチング電源部210から光源部230までの出力ラインが長くても、出力ラインへコモンモードのノイズが伝導することを効果的に抑制することができ、また、出力ラインのアンテナ作用によってノイズが周囲に放射されることも効果的に抑制することができる。加えて、重要な通信用の信号を確実に光源部に伝えるという効果も得られる。
【0059】
なお、各実施形態では、主にLED素子を用いた光源部について説明したが、本発明に係る照明用電源装置は、LED素子に限られず、高温下での寿命・発光効率が悪化するような光源に対して好適である。
【符号の説明】
【0060】
10,110,210 スイッチング電源部
20,120,220 コモンモード・チョークコイルの出力フィルタ
30,130,230 光源部(LED照明器具)
40,140,240 接続ケーブル
51,52,152 筐体
260 信号付与手段