(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220502BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20220502BHJP
B62D 13/00 20060101ALI20220502BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220502BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20220502BHJP
B62D 109/00 20060101ALN20220502BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/10
B62D13/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D109:00
(21)【出願番号】P 2018043441
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】島崎 健太
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-516614(JP,A)
【文献】特開2002-352373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/10
B60W 30/10
B62D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が目標経路に沿って走行するよう操舵装置を介して制御する車両の走行制御装置であって、
自車両の後部に被牽引車両を連結して走行する牽引走行時に、前記被牽引車両の周期的な横揺れ振動を検出する横揺れ振動検出部と、
前記目標経路を走行するための目標操舵角を基点として、前記横揺れ振動を減少させるための修正操舵角を算出する修正操舵角算出部と、
前記目標操舵角を前記横揺れ振動の有無に応じて前記修正操舵角で修正し、制御操舵角を出力する制御操舵角出力部と、
前記制御操舵角に基づいて前記操舵装置に操舵指示値を出力する操舵指示値出力部とを備え
、
前記横揺れ振動検出部は、自車両を基準とする前記被牽引車両の横揺れを前記目標経路に対する横揺れに変換して前記横揺れ振動を検出することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
自車両が目標経路に沿って走行するよう操舵装置を介して制御する車両の走行制御装置であって、
自車両の後部に被牽引車両を連結して走行する牽引走行時に、前記被牽引車両の周期的な横揺れ振動を検出する横揺れ振動検出部と、
前記目標経路を走行するための目標操舵角を基点として、前記横揺れ振動を減少させるための修正操舵角を算出する修正操舵角算出部と、
前記目標操舵角を前記横揺れ振動の有無に応じて前記修正操舵角で修正し、制御操舵角を出力する制御操舵角出力部と、
前記制御操舵角に基づいて前記操舵装置に操舵指示値を出力する操舵指示値出力部とを備え、
前記修正操舵角算出部は、カーブ走行時の前記修正操舵角を、カーブ外側方向よりもカーブ内側方向で相対的に小さくすることを特徴とす
る車両の走行制御装置。
【請求項3】
自車両が目標経路に沿って走行するよう操舵装置を介して制御する車両の走行制御装置であって、
自車両の後部に被牽引車両を連結して走行する牽引走行時に、前記被牽引車両の周期的な横揺れ振動を検出する横揺れ振動検出部と、
前記目標経路を走行するための目標操舵角を基点として、前記横揺れ振動を減少させるための修正操舵角を算出する修正操舵角算出部と、
前記目標操舵角を前記横揺れ振動の有無に応じて前記修正操舵角で修正し、制御操舵角を出力する制御操舵角出力部と、
前記制御操舵角に基づいて前記操舵装置に操舵指示値を出力する操舵指示値出力部とを備え、
前記制御操舵角出力部は、走行駆動力を低下させた状態で前記目標操舵角を前記修正操舵角で修正することを特徴とす
る車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記制御操舵角出力部は、前記横揺れ振動の周期及び位相に合わせて前記目標操舵角を前記修正操舵角で修正することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が目標経路に沿って走行するよう操舵装置を介して制御する車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、自車両の後部に被牽引車両(トレーラ)を連結して牽引走行する場合、走行速度、道路状態、横風等の外的要因により、トレーラが連結部を支点として周期的に横揺れする場合があり、この横揺れが発生すると、自車両及びトレーラを含む連結車両全体の挙動が不安定となる虞がある。
【0003】
このため、例えば、特許文献1には、トレーラの振動横揺れ量が閾値を超えた場合に、牽引車両の操舵とブレーキによる制御介入を行い、挙動を安定化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自車両が進行する目標経路を設定し、自車両の走行軌跡が目標経路に一致するように電動パワーステアリング装置等の操舵装置を介して操舵制御しながら追従走行させる場合、外的要因によるトレーラの横揺れが発生してもドライバが気付かない場合があり、トレーラの横揺れ振動が共振して挙動が不安定になる虞がある。
【0006】
これに対して、特許文献1に開示の技術は、目標経路に対しての制御を考慮したものではなく、曲線路を含む様々な形状の目標経路への追従走行に対応することはできない。このため、トレーラを連結した状態で目標経路に追従走行させようとする場合、トレーラの横揺れ振動に起因する挙動不安化を防止するための対策が必要となる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、自車両の後部に被牽引車両を連結した状態で目標経路に追従走行させる際、被牽引車両に横揺れ振動が発生しても、この横揺れ振動を減少させて挙動を安定化させることのできる車両の走行制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様による車両の走行制御装置は、自車両が目標経路に沿って走行するよう操舵装置を介して制御する車両の走行制御装置であって、自車両の後部に被牽引車両を連結して走行する牽引走行時に、前記被牽引車両の周期的な横揺れ振動を検出する横揺れ振動検出部と、前記目標経路を走行するための目標操舵角を基点として、前記横揺れ振動を減少させるための修正操舵角を算出する修正操舵角算出部と、前記目標操舵角を前記横揺れ振動の有無に応じて前記修正操舵角で修正し、制御操舵角を出力する制御操舵角出力部と、前記制御操舵角に基づいて前記操舵装置に操舵指示値を出力する操舵指示値出力部とを備え、前記横揺れ振動検出部は、自車両を基準とする前記被牽引車両の横揺れを前記目標経路に対する横揺れに変換して前記横揺れ振動を検出する。
本発明の第2の態様による車両の走行制御装置は、自車両が目標経路に沿って走行するよう操舵装置を介して制御する車両の走行制御装置であって、自車両の後部に被牽引車両を連結して走行する牽引走行時に、前記被牽引車両の周期的な横揺れ振動を検出する横揺れ振動検出部と、前記目標経路を走行するための目標操舵角を基点として、前記横揺れ振動を減少させるための修正操舵角を算出する修正操舵角算出部と、前記目標操舵角を前記横揺れ振動の有無に応じて前記修正操舵角で修正し、制御操舵角を出力する制御操舵角出力部と、前記制御操舵角に基づいて前記操舵装置に操舵指示値を出力する操舵指示値出力部とを備え、前記修正操舵角算出部は、カーブ走行時の前記修正操舵角を、カーブ外側方向よりもカーブ内側方向で相対的に小さくする。
本発明の第3の態様による車両の走行制御装置は、自車両が目標経路に沿って走行するよう操舵装置を介して制御する車両の走行制御装置であって、自車両の後部に被牽引車両を連結して走行する牽引走行時に、前記被牽引車両の周期的な横揺れ振動を検出する横揺れ振動検出部と、前記目標経路を走行するための目標操舵角を基点として、前記横揺れ振動を減少させるための修正操舵角を算出する修正操舵角算出部と、前記目標操舵角を前記横揺れ振動の有無に応じて前記修正操舵角で修正し、制御操舵角を出力する制御操舵角出力部と、前記制御操舵角に基づいて前記操舵装置に操舵指示値を出力する操舵指示値出力部とを備え、前記制御操舵角出力部は、走行駆動力を低下させた状態で前記目標操舵角を前記修正操舵角で修正する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自車両の後部に被牽引車両を連結した状態で目標経路に追従走行させる際に、被牽引車両に横揺れ振動が発生しても、この横揺れ振動を減少させて挙動を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】トレーラの対車線ヨー角が右向きの場合の操舵方向を示す説明図
【
図5】トレーラの対車線ヨー角が左向きの場合の操舵方向を示す説明図
【
図6】目標経路への追従走行制御を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は自動車等の車両であり、車体後部に被牽引車両(トレーラ)100を連結するためのヒッチ2を備えている。車両(自車両)1は、ヒッチ2のヒッチボール2aにトレーラ100のジョイント101を連結することにより、トレーラ100を牽引しながら走行することができる。
【0012】
自車両1の走行は、複数の装置によって構成される走行制御装置としての走行制御系によって制御され、トレーラ100の牽引走行時においても、ドライバに対する運転支援を行う。車両1の走行制御系を構成する各装置は、それぞれマイクロコンピュータを中心として構成され、主として、外部環境認識装置11、被牽引車両検知装置12、ナビゲーション装置13、駆動制御装置14、操舵支援制御装置15が車内ネットワークを形成する通信バス50を介して双方向通信可能に接続されている。
【0013】
外部環境認識装置11は、カメラやレーダ装置等の自車両周囲の物体を検出する各種センサによる自車両周囲の物体の検出情報、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、GPS衛星等からの信号に基づく自車両位置の測位情報、ナビゲーション装置13からの地図情報、例えば、道路の曲率、車線幅、路肩幅等の道路形状データや、道路方位角、車線を区画する区画線の種別、車線数等の走行制御用データを含む高精細の地図情報等により、自車両周囲の外部環境を認識する。
【0014】
本実施の形態においては、外部環境認識装置11は、車載のカメラによる画像認識処理を主として、ナビゲーション装置13からの地図情報や交通情報等を加えて自車両周囲の外部環境を認識する。この外部環境認識装置11による自車両外部の認識情報は、駆動制御装置14に送信され、経路に沿った自動走行や追従走行等の操舵制御や障害物との衝突防止のためのブレーキ制御用の制御データとして用いられる。
【0015】
車載のカメラとして、自車両1には、車外の前方領域を撮像する前方カメラ3と自車両1の後方領域を撮像する後方カメラ4が搭載されている。前方カメラ3及び後方カメラ4で撮像した各画像は、外部環境認識装置11及び被牽引車両検知装置12に送られて処理される。
【0016】
前方カメラ3は、本実施の形態においては、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラ3a,3bで構成されるステレオカメラである(以下では、前方カメラ3は、適宜、ステレオカメラ3と記載する)。ステレオカメラ3を構成する2台のカメラ3a,3bは、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期のカメラであり、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に、所定の基線長で固定されて配置されている。
【0017】
外部環境認識装置11は、ステレオカメラ3で撮像した自車両1の進行方向の1組のステレオ画像対に対し、ステレオマッチング処理により、左右画像の対応位置の画素ずれ量(視差)を求め、画素ずれ量を輝度データ等に変換して距離画像を生成する。距離画像上の点は、三角測量の原理から、自車両1の車幅方向すなわち左右方向をX軸、車高方向をY軸、車長方向すなわち距離方向をZ軸とする実空間上の点に座標変換され、自車両1が走行する車線を形成する左右の区画線としての白線、道路側方のガードレールや側壁等の障害物、自車両1の前方を走行する先行車両等が3次元的に認識される。
【0018】
車線を形成する区画線としての白線は、画像から白線の候補となる点群を抽出し、その候補点を結ぶ直線や曲線を算出することにより認識することができる。例えば、画像上に設定された白線検出領域内において、水平方向(車幅方向)に設定した複数の探索ライン上で輝度が所定以上変化するエッジの検出を行って探索ライン毎に1組の白線開始点及び白線終了点を検出し、白線開始点と白線終了点との間の中間の領域を白線候補点として抽出する。
【0019】
そして、単位時間当たりの車両移動量に基づく白線候補点の空間座標位置の時系列データを処理して左右の白線を近似するモデルを算出し、このモデルにより、白線を認識する。白線の近似モデルとしては、ハフ変換によって求めた直線成分を連結した近似モデルや、2次式等の曲線で近似したモデルを用いることができる。
【0020】
被牽引車両検知装置12は、後方カメラ4で撮像した自車両1の後方の画像に基づいて、自車両1の後部にトレーラ100が連結されているか否かを検知し、トレーラ100が連結された状態で走行しているか否かを判断する。例えば、後方カメラ4によって撮像された画像中に所定以上の大きさの物体の存在が認識され、且つ、自車両1の走行中に画像中の物体の領域が操舵角に対して所定以上に変化しない場合、自車両1の後部にトレーラ100を連結して牽引走行していると判断することができる。
【0021】
ナビゲーション装置13は、地図データベース13aを備え、GPS衛星等の複数の航法衛星からの信号や車載センサ(ジャイロセンサや車速センサ等)からの信号に基づいて自車両1の位置を測位し、地図データベース13aと照合する。そして、地図上の位置情報、及び路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報に基づいて、走行経路案内や交通情報を表示装置(図示省略)に表示してドライバに提示する。
【0022】
また、地図データベース13aには、ドライバに対する経路案内や車両の現在位置を表示する際に参照されるナビゲーション用の地図データに加え、自動運転を含む運転支援制御を行う際に参照される走行制御用の高精細の地図データが格納されている。
【0023】
ナビゲーション用の地図データは、現在のノードに対して前のノードと次のノードとがそれぞれリンクを介して結びつけられており、各リンクには、道路に設置された信号機、道路標識、建築物等に関する情報が保存されている。
【0024】
一方、走行制御用の高精細の地図データは、ノードと次のノードとの間に、複数のデータ点を有している。このデータ点には、自車両1が走行する道路の曲率、車線幅、路肩幅等の道路形状データや、道路方位角、道路の白線の種別、レーン数等の走行制御用データが、データの信頼度やデータ更新の日付け等の属性データと共に保持されている。
【0025】
駆動制御装置14は、各種センサ類からの信号及び通信バス50を介して送信される各種制御情報に基づいて、エンジン、自動変速機、ブレーキ装置等を制御する。尚、ここでの駆動制御装置14は、エンジン、自動変速機、ブレーキ装置を個別に制御する装置群を総称するものとする。
【0026】
エンジン制御としては、例えば、吸入空気量、スロットル開度、エンジン水温、吸気温度、空燃比、クランク角、アクセル開度、その他の車両情報に基づき、燃料噴射制御、点火時期制御、電子制御スロットル弁の開度制御等の制御を主要として実行する。
【0027】
また、変速機制御として、変速位置や車速等を検出するセンサ類からの信号や通信バス50を介して送信される各種制御情報に基づいて、自動変速機に供給する油圧を制御し、予め設定された変速特性に従って自動変速機を制御する。
【0028】
また、ブレーキ制御として、例えば、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、ハンドル角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)をドライバのブレーキ操作とは独立して制御する。さらに、各輪のブレーキ力に基づいて各輪のブレーキ液圧を算出して、アンチロック・ブレーキ制御や横すべり防止制御等を行う。
【0029】
操舵支援制御装置15は、自車両1の走行制御系の中心となる装置であり、自車両1の自動運転やドライバの運転を支援する運転支援制御を実行する。例えば、外部環境の認識結果から自車両1が走行する目標コースを設定し、この目標コースに追従して走行するよう操舵制御し、ドライバの操舵操作をアシストするアシストトルク、更には自動走行の操舵トルクを、電動パワーステアリング(EPS;Electric Power Steering)装置30を介して出力する。
【0030】
尚、EPS装置30は、ラックアンドピニオン式等の操舵機構に連設される電動モータと、この電動モータを駆動制御する制御部を有する周知の装置であり、その詳細な説明は省略する。
【0031】
操舵支援制御装置15の操舵制御における目標経路は、外部環境認識装置11による外部環境の認識結果に基づいて設定される。例えば、自車両1を車線中央に維持する車線維持制御では、自車両1の左右の白線の幅方向の中央位置が目標経路として設定される。操舵支援制御装置15は、自車両1の車幅方向の中心位置を目標経路に一致させる目標操舵角を設定し、操舵制御の舵角が目標操舵角となるよう、EPS装置30のモータ駆動電流を制御する。
【0032】
ここで、自車両1の後部にトレーラ100を連結しての牽引走行時には、走行速度、道路状態、横風等の外的要因によりトレーラ100がヒッチボール2aを支点として周期的に横揺れする場合がある。トレーラ100の横揺れが発生すると、自車両1及びトレーラ100を含む連結車両全体の挙動が不安定となる虞がある。
【0033】
このため、操舵支援制御装置15は、トレーラ100を連結した状態で目標経路への追従走行制御中にトレーラ100の横揺れ振動を検知した場合、目標経路を走行するための操舵角を基点にしてトレーラ100横揺れ振動を減少させるための操舵修正を行い、車両挙動を安定させる。この牽引走行時の目標経路への追従走行制御に係る機能部として、操舵支援制御装置15は、
図2に示すように、目標経路設定部16、目標操舵角算出部17、横揺れ振動検出部18、修正操舵角算出部19、制御操舵角出力部20、操舵指示値出力部21を備えている。
【0034】
詳細には、目標経路設定部16は、外部環境認識装置11による外部環境の認識結果に基づいて、自車両の追従走行の対象となる目標点の軌跡を算出し、この目標点の軌跡を目標経路として設定する。追従走行の対象となる目標点は、例えば、車線区画線としての左右の白線の道路幅方向の中央位置に設定され、この中央位置を目標点とする軌跡を算出して目標経路とする。
【0035】
本実施の形態においては、左右白線の道路幅方向の中央位置を目標点とする経路を2次の近似曲線で同定して目標経路とする例について説明する。白線情報に基づく目標経路を生成する場合、画像上で検出された白線の候補点は、それぞれ画像座標系に対して、実空間の座標系に写像される。この画像上の白線候補点は、例えば、手前側の約7~8mから遠方側の100m位までの候補点であり、これらの全ての白線候補点が実空間に写像される。
【0036】
そして、画像上で検出できた白線候補点と、自車両の移動量に基づいて推定した過去の白線データとを合わせ、それらのデータ点群に対して、例えば最小二乗法を適用して2次曲線で表現した白線候補点の軌跡を求める。この白線候補点の軌跡は、左右の白線に対応して左右の曲線として求められ、以下の(1)式で示すように、左右の曲線から求められる中央位置の軌跡を目標経路とする。
X=A・Z2+B・Z+C …(1)
【0037】
ここで、(1)式において、係数A,B,Cは目標経路を構成する経路成分を表している。係数Aは目標経路の曲率成分を表し、係数Bは自車両に対する目標経路のヨー角成分(自車両の前後方向軸と目標経路(接線)との間の角度成分)、係数Cは自車両に対する目標経路の横方向(X軸方向)の位置成分(横位置成分)を表している。
【0038】
尚、目標経路は、操舵支援制御装置15ではなく、外部環境認識装置11等の他の制御装置で設定するようにしても良い。また、本実施の形態においては、車線を形成する区画線として道路の白線を画像から認識する例について説明するが、区画線は、白線に限定されることなく、地図データから取得した車線情報や自車両1の位置情報等に基づいて設定されるラインとしても良い。
【0039】
目標操舵角算出部17は、自車両1の車幅方向の中心位置を目標経路上の目標点に一致させるための目標操舵角θrefを設定する。この目標操舵角θrefは、例えば、以下の(2)式に示すように、目標経路の曲率κに対するフィードフォワード制御の操舵角θffと、目標経路に対する自車両1の横位置偏差や目標経路に対する自車両1のヨー角偏差に対するフィードバック制御の操舵角θfbとを合算して算出される。目標経路の曲率κは、例えば、(1)式で示す2次式で目標経路を近似した場合、係数Aの値を適用して求めることができる。
θref=θff+θfb …(2)
【0040】
横揺れ振動検出部18は、被牽引車両検知装置12によって自車両1の後部にトレーラ100が連結されていることが検知され、牽引走行状態であると判断されている場合、牽引走行中のトレーラ100の挙動を監視し、トレーラ100に発生する周期的な横揺れ振動を検出する。
【0041】
トレーラ100の横揺れ振動は、本実施の形態においては、後方カメラ4で撮像した画像から検出される。具体的には、横揺れ振動検出部18は、後方カメラ4の画像から例えばオプティカルフローによってトレーラ100の横方向の動きを取得する。このトレーラ100の横方向の動きは、自車両1を基準とする相対的な動きとして取得される。
【0042】
さらに、横揺れ振動検出部18は、自車両1の目標経路に対する横位置偏差を取得し、この自車両1の横位置偏差から、トレーラ100の自車両1に対する横方向の動きを、目標経路に対する横方向の動きに変換する。そして、トレーラ100の目標経路に対する横方向の動きが設定周期以下で設定値以上の振幅となったとき、トレーラ100に横揺れ振動が発生していると判断する。
【0043】
修正操舵角算出部19は、横揺れ振動検出部18でトレーラ100に横揺れ振動が発生していると判断された場合、この横揺れ振動を減少させるための修正操舵角αを算出し、制御操舵角出力部20に送る。この修正操舵角αは、以下の(3)式に示すように、目標経路に対するトレーラ100の対車線ヨー角φに所定のゲインGを乗算して算出される。尚、(3)式においては、時間tによって変化する対車線ヨー角φをφ(t)と記載している。
α=G・φ(t) …(3)
【0044】
(3)式におけるゲインGは、例えば目標経路の曲率κと目標経路に対するトレーラの対車線ヨー角φ(t)とに基づいて設定される。ゲインGは、曲率κが大きくなるほど大きくされる。また、対車線ヨー角φ(t)がカーブの外側方向を示す場合のゲインをGout、対車線ヨー角φ(t)がカーブの内側方向を示す場合のゲインをGinとする場合、後述するように、カーブ内側方向で操舵角の切り込み過ぎを防止するため、Gin<Goutとなるように設定される。
【0045】
尚、横揺れ振動検出部18でトレーラ100に横揺れ振動が発生していないと判断された場合には、修正操舵角αはα=0とされる。
【0046】
制御操舵角出力部20は、目標操舵角算出部17で算出された目標操舵角θrefを、横揺れ振動の有無に応じて修正操舵角αで修正し、制御操舵角θfを操舵指示値出力部21に出力する。すなわち、横揺れ振動が検出された場合、目標操舵角θrefを修正操舵角αで修正した操舵角が制御操舵角θfとして出力され、横揺れ振動が検出されない場合(α=0)には、目標操舵角θrefが制御操舵角θfとして出力される。以下、横揺れ振動無しの場合と、横揺れ振動有りの場合とに分けて説明する。
【0047】
[横揺れ振動無しの場合]
横揺れ振動検出部18でトレーラ100に横揺れ振動が発生していないと判断され、修正操舵角αが0の場合には、制御操舵角出力部20は、
図3に示すように、左右の区画線Lin,Loutの中央に設定される目標経路Lcに自車両1の中心位置を一致させるための目標操舵角θrefを、制御操舵角θfとして操舵指示値出力部21に出力する。
【0048】
制御操舵角出力部20からの制御操舵角θfが目標経路への目標操舵角θrefである場合、操舵指示値出力部21は、EPS装置30のステアリング機構におけるステアリングホイール31(
図3参照)の実舵角θrを舵角センサ6によって検出し、実舵角θrを目標操舵角θrefに収束させるための舵角追従トルクTfbを算出する。この舵角追従トルクTfbは、実舵角θrと目標操舵角θrefとの偏差に対して、例えば所定のトルク変換ゲインによる比例微分積分制御で算出される。
【0049】
そして、操舵指示値出力部21は、以下の(4)式に示すように、舵角追従トルクTfbにドライバの操舵操作に応じたアシストトルクTastを合算して指示トルクTtgtを算出し、この指示トルクTtgtを、現在の操舵角を目標操舵角θrefとするための操舵指示値として、EPS装置30に出力する。
Ttgt=Tfb+Tast …(4)
【0050】
EPS装置30は、ステアリング機構の操舵トルクが指示トルクTtgtとなるよう、電動モータの駆動電流を制御する。その結果、
図3に示すように、自車両1のステアリングホイール31の操舵角が目標操舵角θrefに収束するように制御され、自車両1の走行軌跡が目標経路Lcに一致するように制御される。
【0051】
[横揺れ振動有りの場合]
一方、横揺れ振動検出部18でトレーラ100に横揺れ振動が発生していると判断され、トレーラ100の対車線ヨー角φ(t)に応じた修正操舵角αが修正操舵角算出部19から送られている場合には、制御操舵角出力部20は、横揺れ振動の周期及び位相に合わせて、修正操舵角αによる操舵修正を目標操舵角θrefを基点として実行する。
【0052】
例えば、自車両1の進行方向左側への操舵方向を正、右側への操舵方向を負とする場合、トレーラ100の対車線ヨー角φ(t)の向きに応じて、以下のように目標操舵角θrefが修正される。
【0053】
トレーラ100の対車線ヨー角φ(t)が右向きの場合、制御操舵角θfは、以下の(5-1)式に示すように、操舵角の切り戻し方向の修正として、目標操舵角θrefから修正操舵角αを減算した値となる。
θf=θref-α …(5-1)
【0054】
逆に、トレーラ100の対車線ヨー角φ(t)が左向きの場合は、制御操舵角θfは、以下の(5-2)式に示すように、操舵角の切り増し方向の修正として、目標操舵角θrefに修正操舵角αを加算した値となる。
θf=θref+α …(5-2)
【0055】
尚、トレーラ100に横揺れ振動が発生している場合の目標操舵角θrefの修正は、エンジンのスロットル弁を閉とするスロットルオフの指令を駆動制御装置14に送信し、エンジンによる走行駆動力を低下させて走行抵抗よりも小さくした状態、すなわちエンジンブレーキをかけた状態で実施する。
【0056】
操舵指示値出力部21は、(5-1)式或いは(5-2)式による制御操舵角θfをステアリング機構及び電動モータの特性に基づいてトルク変換し、現在の操舵舵角を制御操舵角θfとするための操舵指示値としての指示トルクTtgtを算出し、EPS装置30に出力する。EPS装置30は、ステアリング機構の操舵トルクが指示トルクTtgtとなるよう、電動モータの駆動電流を制御する。
【0057】
この場合、
図4,
図5に示すように、目標経路Lcが進行方向に対して左側に曲がるカーブを描いている場合、トレーラ100の対車線ヨー角φ(t)が右向きすなわちカーブ外側方向を向いている場合の修正操舵角をαout、トレーラ100の対車線ヨー角φ(t)が左向きすなわちカーブ内側方向を向いている場合の修正操舵角をαinとすると、前述の(3)式は、以下の(3-1)式、(3-2)式で表すことができる。Gin<Goutであるため、対車線ヨー角φ(t)が同じであれば、αin<αoutとなる。
αout=Gout・φ(t) …(3-1)
αin=Gin・φ(t) …(3-2)
【0058】
従って、
図4に示すように、トレーラ100が横揺れ振動によってカーブ外側となる右側の区画線Loutの方向を向いている場合には、左方向に向かう目標経路Lcへの目標操舵角θrefを、修正操舵角αoutで逆方向に切り戻すように修正した制御操舵角θf(θf=θref-αout)により、自車両1のステアリングホイール31の操舵角を修正する。
【0059】
逆に、
図5に示すように、トレーラ100が横揺れ振動によってカーブ内側となる左側の区画線Linの方向を向いている場合には、左方向に向かう目標経路Lcへの目標操舵角θrefを、修正操舵角αinで切り増す方向に修正した制御操舵角θf(θf=θref+αin)により、自車両1のステアリングホイール31の操舵角を修正する。
【0060】
このような自車両1の目標操舵角θrefを基点する操舵修正を、トレーラ100の横揺れ振動の位相に合わせてほぼ同じ周期で実施することにより、トレーラ100の横揺れ振動に対して逆位相となるヨーモーメントを周期的に発生させることができる。この自車両1の目標経路Lcからの操舵修正によって発生するヨーモーメントにより、自車両1の後部に連結されるトレーラ100の向きを、目標経路Lcの方向に戻すことが可能となる。
【0061】
しかも、目標操舵角θrefを基点とした場合、カーブ内側方向への操舵角をカーブ外側方向への操舵角に比較して小さくすることで、舵角修正速度を遅くすることができる。これにより、カーブ内側方向に向かう場合の操舵角の切り込み過ぎを回避して、自車両1とトレーラ100がヒッチボール2aを支点としてジャックナイフ状に折れ曲がる、所謂ジャックナイフ現象の発生を防止することができる。
【0062】
次に、操舵支援制御装置15を中心として実行される目標経路への追従走行制御について、
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0063】
最初のステップS1において、操舵支援制御装置15は、自車両1が追従走行する目標経路を取得し、ステップS2で目標操舵角θrefを取得する。前述したように、本実施の形態においては、ステレオカメラ3の撮像画像から認識した左右の白線の中央位置を目標経路として設定する。そして、自車両1の中心位置を目標経路に一致させるための目標操舵角θrefを、目標経路の曲率κ、目標経路に対する自車両1の横位置偏差、目標経路に対する自車両1のヨー角偏差等に基づいて算出する。
【0064】
次に、ステップS3へ進み、操舵支援制御装置15は、自車両1の後部に連結されているトレーラ100の状態を取得する。トレーラ100の状態は、後方カメラ4の画像からトレーラ100の自車両1に対する横方向の動きを検出し、目標経路に対する横方向の動きに変換して取得する。
【0065】
ステップS3に続くステップS4では、操舵支援制御装置15は、トレーラ100の目標経路に対する横方向の動きが設定周期以下で設定値以上の振幅となり、トレーラ100が周期的に横揺れ振動している否かを調べる。
【0066】
トレーラ100に横揺れ振動が発生していない場合、ステップS4からステップS5へ進み、操舵支援制御装置15は、現在の操舵角を目標操舵角θrefに一致させるための指示トルクをEPS装置30に送信する。これにより、自車両1の中心位置が目標経路に一致するよう操舵され、自車両1が目標経路に追従して走行する。
【0067】
一方、トレーラ100に横揺れ振動が発生している場合には、ステップS4からステップS6へ進み、操舵支援制御装置15は、駆動制御装置14にスロットルオフ指令を送信して自車両1をエンジンブレーキで減速させ、ステップS7へ進む。ステップS7では、目標操舵角θrefを基点としてトレーラ100の横揺れ振動の位相に合わせた操舵修正を行う。これにより、トレーラ100に横揺れ振動の逆位相のヨーモーメントを発生させ、トレーラ100の横揺れ振動を減少させることができる。
【0068】
このように本実施の形態においては、トレーラ100の横揺れ振動を検出した場合、目標経路を基点とする修正操舵角αを算出し、この修正操舵角αにより、目標経路に追従走行するための目標操舵角θrefを横揺れ振動の周期及び位相に合わせて修正する。これにより、自車両1の後部にトレーラ100を連結した状態で目標経路への追従走行中に、トレーラ100に横揺れ振動が発生しても、この横揺れ振動を減少させて挙動を安定化させることができ、カーブを含む様々な形状の目標経路に対する追従走行の制御安定性を向上することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 自車両
2 ヒッチ
3 前方カメラ
4 後方カメラ
6 舵角センサ
11 外部環境認識装置
12 被牽引車両検知装置
13 ナビゲーション装置
14 駆動制御装置
15 操舵支援制御装置
16 目標経路設定部
17 目標操舵角算出部
18 横揺れ振動検出部
19 修正操舵角算出部
20 制御操舵角出力部
21 操舵指示値出力部
30 電動パワーステアリング装置
100 トレーラ