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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】ピストン装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/04 20060101AFI20220502BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20220502BHJP
   F16J 1/16 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
F16C9/04
F16C17/02 Z
F16J1/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018048126
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019158065
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】503116899
【氏名又は名称】株式会社IHI原動機
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】阿久澤 憲仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 尚次
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-343723(JP,A)
【文献】特表2009-520904(JP,A)
【文献】特開2011-149444(JP,A)
【文献】特表2015-524035(JP,A)
【文献】実開昭56-56911(JP,U)
【文献】米国特許第6334385(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00- 9/06
F16C 17/00-17/26,33/00-33/28
F16J 1/00- 1/24, 7/00-10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下側が開放された空洞部を挟んで配置された一対のボス部を有するピストンと、
ピン孔を備え前記ボス部に連結される小端部とクランク軸に連結される大端部を有する連接棒と、
前記ピン孔に設けられる円筒形のすべり軸受と、
前記ピストンに対して前記連接棒が揺動可能となるように前記ボス部と前記すべり軸受を貫通して前記ピストンと前記小端部を連結するピストンピンと、
を備えるピストン装置であって、
回転方向の位置ずれにより前記ピン孔から突出した前記すべり軸受が当接する突部を前記小端部と対面する前記ボス部の内面に有することを特徴とするピストン装置。
【請求項2】
前記ピストンの前記一対のボス部の間隔が上部よりも下部で大きく設定されており、前記連接棒の前記小端部の厚さが上部よりも下部で大きく設定されており、回転方向の位置ずれを生じた前記すべり軸受が前記ピン孔の下部から上方に突出することを特徴とする請求項1記載のピストン装置。
【請求項3】
前記連接棒の前記小端部の前記ピン孔には、前記大端部から導かれた第1潤滑油孔が開口しており、前記すべり軸受には前記第1潤滑油孔に連通する第2潤滑油孔が開口しており、
前記ピン孔の下部から上方に突出した前記すべり軸受が前記突部に接触した状態において、前記第1潤滑油孔と前記第2潤滑油孔が少なくとも一部で連通していることを特徴とする請求項2記載のピストン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関において燃焼ガスの熱エネルギを機械エネルギとしてクランク軸に伝達するピストン装置に係り、特に連接棒の小端部とピストンピンの間に設けられたすべり軸受けにおける回転方向の位置ずれを防止したピストン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願発明者は、ピストンと連接棒の連結構造については、下記特許文献1、2のような技術の存在を認識している。
特許文献1には、コンロッドの製造方法の発明が開示されており、特許文献中の符号を参照して説明する。この発明により製造されるコンロッドは、クランクシャフトに連結される大端部と、ピストンに連結される小端部と、大端部と小端部を連結するロッド部を有している。このコンロッドの製造工程では、分割型コンロッド1は破断により2分割されるが、その破断前に、一対の割型50a,50bからなる略円柱状の金型50を大端部の軸受孔に挿入する。この金型50は、大端部の軸受孔の係止溝5a,5bに対応する突起部51,52が外周面に設けられ、合わせ面55,55には一部が切り欠かれて一端側端面に向かって拡開するテ-パ面56,56が形成されている。先細状の楔形70をテ-パ面56,56に沿って摺動させれば、合わせ面55,55が離間し、一対の割型50a,50bが軸受孔1dの径方向に移動して軸受孔1dの内周面が突起部51,52により押圧され、一対の断面円弧状の軸受メタル半体10a,10bを固定するための係止溝5a,5bが形成される。この製造方法によれば、軸受メタルの位置決め機能を有する位置決め溝を備えたコンロッドを安価に製造することができるものとされている。
【0003】
特許文献2には、ピストンとコネティングロッドの連結構造の発明が開示されており、特許文献中の符号を参照して説明する。この発明によれば、コネクティングロッド3の小端部30内に挿入されたすべり軸受4に、ピストン1に支持されるピストンピン2を挿入することにより、コネクティングロッド3とピストン1が連結されている。小端部30は、潤滑油が供給される第1の油孔43a、43bを有し、すべり軸受4は、第1の油孔30aと連通可能な第2の油孔43a(または43b)を有している。第1の油孔30aと第2の油孔43a(または43b)の少なくとも一方は、小端部30とすべり軸受4とが対向する面の周方向に沿って複数設けられている。すべり軸受4は、小端部30に対して周方向に相対移動可能に挿入されると共に、小端部30に対してすべり軸受4の軸線方向への移動を規制する規制部4aを備えている。この連結構造によれば、コネクティングロッドの小端部とピストンピンとの間に設けたすべり軸受に生じる磨耗の発生箇所を分散し、磨耗による寿命低下を軽減することができるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-300081号
【文献】特開2017-180600号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、内燃機関の技術分野におけるピストンと連接棒の連結構造に関連して、以下に説明するような課題を認識している。
まず、中大型ディーゼル機関は、ガソリン機関と比較した場合、機関回転数が遅く燃焼最高圧力が高いため、連接棒の小端部においてすべり軸受が設けられるピン孔の上面と下面では、それぞれ当該箇所で発生する荷重を支えるために必要な面積が異なっている。具体的には、ピン孔が形成された連接棒の小端部と、小端部のピン孔に挿入される略円筒形のすべり軸受は、その受圧面積が上部よりも下部で大きくなるように設計されている。換言すれば、小端部とすべり軸受けは、上部の軸方向の寸法よりも、下部の軸方向の寸法が大きい裾広がりの形状に設計されている。これに対し、ガソリン機関では連接棒の小端部とすべり軸受にはこのような形状は不要である。
【0006】
通常、連接棒の小端部のすべり軸受は、十分な締め代により小端部のピン孔に嵌合されて固定されている。又は、連接棒の小端部のピン孔と、ピン孔に挿入したすべり軸受との間に固定用のピンを打ち込んで固定する場合もある。いずれにしても、小端部のすべり軸受は小端部のピン孔に強固に固定されているので、通常は回転方向にずれることはない。しかしながら、ディーゼル機関もガソリン機関も、運転中、連接棒はピストンに対して一定角度で首を振る揺動運動を繰り返しているため、すべり軸受が回転方向に位置ずれしてしまう場合がある。本願発明者の知見によれば、その原因としては、
1)不適切な加工または誤差による締め代不足
2)運転中の連接棒小端部の弾性変形による一時的な締め代低下
3)ピストンピンとすべり軸受間の潤滑不良による瞬時的な固体潤滑
などが考えられる.
【0007】
すべり軸受が回転方向に大きく位置ずれした場合、ディーゼル機関もガソリン機関も、連接棒内に設けられてピン孔内面に開口した潤滑油孔と、すべり軸受けの潤滑油孔とがずれてしまい、通油経路が閉止されピストンピンの潤滑不良、ピストン冷却不足によるピストン焼損が直ちに発生する可能性が高い。また、特にディーゼル機関の場合には、前述したように燃焼時の下向きの大きな荷重を支えるため、略円筒形のすべり軸受の受圧面積は上部よりも下部で大きくなるように設計されているのに、これが回転方向に位置ずれしてしまうと、設計通りの耐荷重性能が得られなくなってしまう。
【0008】
本発明は、以上説明した本願発明者の見出した課題に鑑みてなされたものであり、連接棒の小端部とピストンピンの間に設けられたすべり軸受けにおける回転方向の位置ずれを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載されたピストン装置は、
下側が開放された空洞部の中に間隔をおいて設けられた一対のボス部を有するピストンと、
ピン孔を備え前記ボス部に連結される小端部とクランク軸に連結される大端部を有する連接棒と、
前記ピン孔に設けられる円筒形のすべり軸受と、
前記ピストンに対して前記連接棒が揺動可能となるように前記ボス部と前記すべり軸受を貫通して前記ピストンと前記小端部を連結するピストンピンと、
を備えるピストン装置であって、
回転方向の位置ずれにより前記ピン孔から突出した前記すべり軸受が当接する突部を前記小端部と対面する前記ボス部の内面に有することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載されたピストン装置は、請求項1記載のピストン装置において、
前記ピストンの前記一対のボス部の間隔が上部よりも下部で大きく設定されており、前記連接棒の前記小端部の厚さが上部よりも下部で大きく設定されており、回転方向の位置ずれを生じた前記すべり軸受が前記ピン孔の下部から上方に突出することを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載されたピストン装置は、請求項2記載のピストン装置において、
前記連接棒の前記小端部の前記ピン孔には、前記大端部から導かれた第1潤滑油孔が開口しており、前記すべり軸受には前記第1潤滑油孔に連通する第2潤滑油孔が開口しており、
前記ピン孔の下部から上方に突出した前記すべり軸受が前記突部に接触した状態において、前記第1潤滑油孔と前記第2潤滑油孔が少なくとも一部で連通していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載されたピストン装置によれば、機関の運転中にすべり軸受が回転方向に位置ずれして一部がピン孔から突出しても、ピン孔から突出したすべり軸受は、小端部と対面するボス部の内面に設けられた突部に突き当たり、それ以上は回転方向に位置ずれしない。このため、すべり軸受が回転方向に位置ずれすることによる耐荷重性能の低下は最小限度に抑えられる。
【0013】
請求項2に記載されたピストン装置によれば、ピストンのボス部の間隔が上部よりも下部で大きく設定され、連接棒の小端部の厚さが上部よりも下部で大きく設定されたディーゼルエンジンにおいて、上述の効果を得ることができる。
【0014】
請求項3に記載されたピストン装置によれば、ピン孔の下部から上方に突出したすべり軸受は突部に接触し、それ以上の回転方向の位置ずれが防止されているので、第1潤滑油孔と第2潤滑油孔が少なくとも一部で連通している状態が維持され、小端部での正常な潤滑が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態におけるピストンをピンの軸方向と直交する切断面で切断した断面図である。
図2】実施形態におけるピストンをピンの軸方向と平行な切断面で切断した断面図である。
図3】実施形態における連接棒の小端部を図1と同一の視線で見た図(正面図)である。
図4】実施形態における連接棒の小端部を図2と同一の視線で見た図(側面図)である。
図5】実施形態のピストン装置を図1及び図3と同一の視線で見た部分断面図である。
図6】実施形態のピストン装置を図5の縦中心線で切断した部分断面図である。
図7】実施形態のピストン装置においてピストンのボス部の内面と小端部を示すためにピストンの一部を破断して示した斜視図である。
図8】実施形態のピストン装置において連接棒が最大揺動角度にある状態を図1及び図3と同一の視線で見た部分断面図である。
図9】実施形態のピストン装置においてすべり軸受が回転方向にずれた連接棒の小端部の斜視図である。
図10】実施形態のピストン装置においてすべり軸受が回転方向にずれた連接棒の小端部及びピストンの断面図である。
図11】実施形態のピストン装置においてすべり軸受が回転方向にずれた状態を示すためにピストンの一部を破断して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態であるピストン装置1の構成を図1図11を参照して説明する。このピストン装置1はディーゼル機関に好適使用できるものである。
まず、ピストン装置1の構成を説明する。ピストン装置1は、図1及び図2等に示すピストン2と、図3図6等に示す連接棒3と、図3図5図6及び図9等に示すすべり軸受4と、図3図5及び図6等に示すピストンピン5を備えている。
【0017】
図1及び図2に示すように、ピストン2は下側が開放された空洞部6を有する円筒形の部材である。ピストン2の周壁には、空洞部6を挟んで一対のボス部7,7が設けられている。ボス部7は貫通した円形の支持孔8を備えており、この支持孔8で後述するピストンピン5を支える。
【0018】
図2に示すように、一対のボス部7,7の間隔(支持孔8の中心軸方向に測った寸法)は、その上部よりも下部の方が大きい。すなわち、一対の支持孔8,8の空隙部6側の各端面の間隔は、上部よりも下部で大きい。そして、ボス部7の空隙部6側の端面には、支持孔8の中心よりも若干下方の高さであって、上部と下部の境となる位置に、内方に向けて突出した突部である段差部10が形成されている。なお、ピストン2は鋳造により作成されるが、ボス部7の支持孔8の内周面と、支持孔8の空隙部6側の端面の下半部分等は、機械加工により滑らかに仕上げられている。段差部10は、ボス部7の支持孔8の内面等を機械加工する工程で同時に加工して形成することができる。
【0019】
図3図6に示すように、連接棒3は、小端部11と、大端部12と、小端部11と大端部12をつなぐ棒部13を有している。小端部11にはピン孔14が貫通して形成されている。図5及び図6に示すように、小端部11は、後述するピストンピン5及びすべり軸受4を介してピストン2のボス部7に連結される。大端部12は図示しないクランク軸に連結される。
【0020】
図3図4及び図9に示すように、小端部11の厚さ(ピン孔14の中心軸方向に測った寸法)は、上部よりも下部が大きい。すなわち、ピン孔14の内周面を中心軸方向に測った寸法は上部よりも下部で大きい。図6及び図7に示すように小端部11とボス部7をピストンピン5で連結した際には、小端部11の上部及び下部はボス部7の上部及び下部と対応する。ディーゼル機関は回転数が遅く燃焼最高圧力が高いため、連接棒3の小端部11のピン孔14の上面と下面では、それぞれ当該箇所で発生する荷重を支えるために必要な面積が異なっているので、このような構造になっている。
【0021】
図5及び図6に一部を示したように、棒部13の内部には大端部12から送られる潤滑油を小端部11に送る第1潤滑油孔15が形成されている。第1潤滑油孔15は、小端部11のピン孔14に開口している。
【0022】
図3図5図6及び図9に示すように、連接棒3の小端部11のピン孔14には、略円筒形のすべり軸受4が適当な締め代で嵌合され、固定されている。特に図6及び図9に示すように、すべり軸受4は、厚さが小さい小端部11の上部のピン孔14に対応した幅狭部分4aと、厚さが大きい小端部11の下部のピン孔14に対応した幅広部分4bとを有している。すなわち、すべり軸受は、中心軸方向に測った長さが、上部では小さく、下部では大きくなっている。正常な状態では、すべり軸受4の外周面と小端部11のピン孔14の内周面は略一致しており、すべり軸受4の一部がピン孔14から外に突出することはない。
【0023】
従って、図9及び図11に示すように、すべり軸受4が小端部11に対して回転方向に位置ずれを生じた場合には、すべり軸受4の幅広部分4bは、小端部11のピン孔14の下部から外に出て上方に突出することになる。
【0024】
図5及び図6に示すように、すべり軸受4には第1潤滑油孔15と同一径の第2潤滑油孔16が形成されており、正常な状態では第2潤滑油孔16と第1潤滑油孔15は中心を一致させて連通している。図9に示すように、すべり軸受4の内周面には、第2潤滑油孔16に連続し、幅方向の中央に周方向に連続する潤滑油溝17が形成されている。
【0025】
図3図5図7に示すように、ピストン2の一対のボス部7,7と、小端部11のピン孔14のすべり軸受4を貫通して、ピストンピン5が設けられている。連接棒3は、ピストンピン5を中心として揺動可能であり、図8に示すように最大で片側にA度(図示例では15度)揺動することができるが、この時、小端部11の下部と、ボス部7の段差部10との間には、鉛直方向にD(>0)の隙間がある。つまり、小端部11はボス部7に干渉していない。
【0026】
次に、ディーゼル機関が停止している場合、作動している場合及びすべり軸受4が回転方向に位置ずれした場合のピストン装置1の作用について説明する。
ピストン装置1が設けられたディーゼル機関が停止しており、図5に示すように連接棒3が鉛直方向の中心線と一致した位置にあるときは、図5及び図7に示すように、小端部11の下部とボス部7の段差部10との間には十分な隙間がある。
【0027】
ピストン装置1が設けられたディーゼル機関が作動している場合は、図8に示すように連接棒3が最大揺動位置にあるときでも、前述したように小端部11の下部とボス部7の段差部10との間には鉛直方向にD(>0)の隙間があり、小端部11とボス部7の干渉はなく、機関の作動に支障は生じない。
【0028】
図9図11は、小端部11のピン孔14に嵌め込まれているすべり軸受4が、回転方向に位置ずれを起こした場合を示す図である。ディーゼル機関の製造工程において、すべり軸受4や小端部11の加工が不適切であったり、または誤差によるすべり軸受4の締め代が不足していた等の事情がある場合、そのディーゼル機関を長期にわたって使用していると、このような回転方向の位置ずれが発生する場合がある。
【0029】
ディーゼル機関に使用される本実施形態のピストン装置1では、すべり軸受4の下半部は相対的に大きい荷重を負担するため幅広部分4bとなっているが、すべり軸受4が回転方向に大きく位置ずれを起こすと、燃焼時に相対的に大きい荷重が加わるすべり軸受4の下半部の受圧面積が不十分となり、耐荷重性能が低下してしまう。
【0030】
また、すべり軸受4は、第1潤滑油孔15から供給される潤滑油を第2潤滑油孔16から潤滑油溝17に導いて潤滑に供しているため、すべり軸受4が回転方向に位置ずれを起こし、第1潤滑油孔15と第2潤滑油孔16が連通しなくなると、すべり軸受4とピストンピン5の間に潤滑不足による焼損が発生してしまう。
【0031】
しかしながら、本実施形態のピストン装置1によれば、すべり軸受4の位置ずれによる耐荷重性能の低下や潤滑不足による焼損の問題は、未然に防止される。
すなわち、図9に示すように、小端部11に対してすべり軸受4が回転方向に位置ずれを生じ、すべり軸受4の略下半分の幅広部分4bが小端部11のピン孔14から上方に突出しても、図10及び図11に示すように、この突出部分はボス部7の段差部10に突き当たるため(図10においてD=0)、それ以上回転方向にずれることはなく、その突出量は所定限度以下に抑制される。このため、すべり軸受4の下半部の受圧面積が大きく減少することはなく、耐荷重性能は維持される。
【0032】
さらに、図10及び図11に示すように、すべり軸受4が若干の位置ずれを示して段差部10に突き当たった状態、すなわち小端部11の下部と段差部10との鉛直方向の隙間Dが0の状態でであっても、図10に示すようにすべり軸受4の第2潤滑油孔16は、連接棒3の第1潤滑油孔15と少なくとも部分的に連通している。このため、すべり軸受4に対する潤滑油の供給は継続しており、機関の運転を続行しても、すべり軸受4とピストンピン5の間に潤滑不足による焼損が発生することはない。
【符号の説明】
【0033】
1…ピストン装置
2…ピストン
3…連接棒
4…すべり軸受
4a…すべり軸受の幅狭部分
4b…すべり軸受の幅広部分
5…ピストンピン
6…空洞部
7…ボス部
10…突部としての段差部
11…小端部
12…大端部
13…棒部
14…ピン孔
15…第1潤滑油孔
16…第2潤滑油孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11