(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】補助器具及び補助器具を用いた3次元画像データ作成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/14 20060101AFI20220502BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20220502BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
A61B6/14 300
A61B6/03 F
A61B6/03 360G
A61B6/03 360J
A61C19/04 Z
A61B6/14 ZDM
(21)【出願番号】P 2018061271
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】高田 朝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良平
【審査官】伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0209118(US,A1)
【文献】特表2012-527265(JP,A)
【文献】特表2006-514861(JP,A)
【文献】国際公開第2017/137398(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14
A61C 19/00 - 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内を3次元計測した複数の3次元画像データを繋ぎ合わせて3次元口腔内画像データを作成するための位置合わせの基準として使用される歯科用の補助器具であって、
第1面と前記第1面に対向する第2面とを有するシート部と、
前記シート部の前記第1面から前記シート部の厚み方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する複数の識別部と、
を備え
、
更に、
患者の口唇を広げて固定する口唇部と、
前記口唇部と連結部によって連結され、且つ、前記患者の口角を広げて固定する口角部と、
前記口角部に接続され、把持可能なハンドル部と、
を備え、
前記シート部は、前記口唇部及び/又は前記口角部に接続され、且つ前記口唇部及び/又は前記口角部から前記口腔内へ向かって延びる、補助器具。
【請求項2】
前記複数の識別部は、
前記シート部の前記第1面から前記第2面に向かう方向と反対方向に突出した凸部、
前記シート部の前記第1面から前記第2面に向かって窪んだ凹部、及び
前記シート部の前記第1面と前記第2面とを連通する孔、
のうち少なくとも1つの形状を有する、請求項1に記載の補助器具。
【請求項3】
前記複数の識別部のうち隣り合う識別部の形状は異なる、請求項1又は2に記載の補助器具。
【請求項4】
前記複数の識別部は、文字、数字、記号、絵、図形、紋章、模様、シンボル、及び形態のうち少なくとも1つの形状を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の補助器具。
【請求項5】
前記複数の識別部のそれぞれは、前記シート部の厚み方向における寸法が0.10mm以上3.00mm以下で形成され、且つ前記シート部の厚み方向から見て長手方向及び短手方向における寸法が0.10mm以上20.00mm以下で形成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の補助器具。
【請求項6】
生体安全性の認められた着色剤を含み、且つ、X線造影剤が添加された材料で形成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の補助器具。
【請求項7】
前記シート部は、厚みが0.10mm以上3.00mm以下、且つ前記シート部の厚み方向から見て長手方向及び短手方向における寸法が1.00mm以上200.00mm以下の矩形形状を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の補助器具。
【請求項8】
前記シート部は、前記シート部の厚み方向から見て半円形状を有し、
前記シート部において円弧状の外縁部は、前記シート部の前記第1面から前記第2面に向かって屈曲している、請求項1~6のいずれか一項に記載の補助器具。
【請求項9】
前記シート部は、前記シート部の厚み方向から見てU字状に屈曲して形成され、且つ前記シート部を厚み方向に切断した断面において、前記シート部の前記第2面から前記第1面に向かう方向に窪む凹状の断面形状を有する、請求項8に記載の補助器具。
【請求項10】
更に、
上顎咬合床と、前記上顎咬合床と適合する下顎咬合床と、を具備し、
前記上顎咬合床は、
患者の上顎の口腔粘膜の形態に適合する第1プレート、及び前記第1プレートの端面から前記患者の上顎の口腔粘膜側に延びる、前記複数の識別部が形成された前記シート部を有する第1基礎床部と、
前記上顎の歯槽上に配置され、且つ前記第1基礎床部の前記第1プレートと接続される第1咬合堤部と、
を備え、
前記第1咬合堤部の端面には、前記複数の識別部が形成されており、
前記下顎咬合床は、
患者の下顎の口腔粘膜の形態に適合する第2プレート、及び前記第2プレートの端面から前記患者の下顎の口腔粘膜側に延びる、前記複数の識別部が形成された前記シート部を有する第2基礎床部と、
前記下顎の歯槽上に配置され、且つ前記第2基礎床部の前記第2プレートと接続される第2咬合堤部と、
を備え、
前記第2咬合堤部の端面には、前記複数の識別部が形成されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載の補助器具。
【請求項11】
歯科用の補助器具を用いて、3次元口腔内の画像データを作成する3次元画像データ作成方法であって、
第1面と前記第1面に対向する第2面とを有するシート部と、前記シート部の前記第1面から前記シート部の厚み方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する複数の識別部と、を備え
、更に、患者の口唇を広げて固定する口唇部と、前記口唇部と連結部によって連結され、且つ、前記患者の口角を広げて固定する口角部と、前記口角部に接続され、把持可能なハンドル部と、を備え、前記シート部は、前記口唇部及び/又は前記口角部に接続され、且つ前記口唇部及び/又は前記口角部から前記口腔内へ向かって延びる補助器具が配置されている口腔領域を、重複する部分を含みつつ3次元計測することによって、前記補助器具と口腔内の形状とが共に3次元計測された複数の3次元画像データを取得するステップ、
前記複数の3次元画像データのそれぞれにおいて、前記補助器具の前記複数の識別部の形状をそれぞれ識別するステップ、
前記複数の3次元画像データのうち前記重複する部分において、近似した形状を有する1つ又は複数の識別部を特定するステップ、
特定された前記1つ又は複数の識別部を位置合わせの基準として用い、前記複数の3次元画像データを位置合わせするステップ、
位置合わせした前記複数の3次元画像データを繋ぎ合わせることによって、3次元口腔内画像データを作成するステップ、
を含む、3次元画像データ作成方法。
【請求項12】
歯科用の補助器具を用いた3次元口腔領域断層撮影データと3次元口腔内画像データとの位置合わせ方法であって、
第1面と前記第1面に対向する第2面とを有するシート部と、前記シート部の前記第1面から前記シート部の厚み方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する複数の識別部と、を備え
、更に、患者の口唇を広げて固定する口唇部と、前記口唇部と連結部によって連結され、且つ、前記患者の口角を広げて固定する口角部と、前記口角部に接続され、把持可能なハンドル部と、を備え、前記シート部は、前記口唇部及び/又は前記口角部に接続され、且つ前記口唇部及び/又は前記口角部から前記口腔内へ向かって延びる補助器具が配置されている口腔領域を、重複する部分を含みつつ3次元計測することによって、前記補助器具と口腔内の形状とが共に3次元計測された複数の3次元画像データを取得するステップ、
前記複数の3次元画像データのそれぞれにおいて、前記補助器具の前記複数の識別部の形状を識別するステップ、
前記複数の3次元画像データのうち前記重複する部分において、近似した形状を有する1つ又は複数の識別部を特定するステップ、
特定された前記1つ又は複数の識別部を位置合わせの基準として用い、前記複数の3次元画像データを位置合わせするステップ、
位置合わせした前記複数の3次元画像データを繋ぎ合わせることによって、3次元口腔内画像データを作成するステップ、
前記補助器具が配置されている前記口腔領域を、CTスキャンすることによって、3次元口腔領域断層撮影データを取得するステップ、
前記3次元口腔内画像データ及び前記3次元口腔領域断層撮影データのそれぞれにおいて、前記1つ又は複数の識別部の寸法が既知の寸法となるように、前記3次元口腔内画像データ及び前記3次元口腔領域断層撮影データの寸法を補正するステップ、
前記補正した3次元口腔内画像データ及び3次元口腔領域断層撮影データを前記1つ又は複数の識別部に基づいて、位置合わせするステップ、
を含む、位置合わせ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助器具及び補助器具を用いた3次元画像データ作成方法に関する。特に、本発明は、口腔内を3次元計測するときに口腔内に配置され、3次元計測した複数の3次元画像データを繋ぎ合わせて3次元口腔内画像データを作成するための位置合わせの基準として使用される補助器具、及び補助器具を用いた3次元画像データ作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の口腔領域の3次元口腔領域断層撮影データと患者の歯列模型の外形データとから3次元断層撮影像を作成するためのマーカー、及びそのマーカーを用いた3次元断層撮影像の作成方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の3次元断層撮影像の作成方法では、マーカーを患者の口腔領域に配置し、3次元口腔領域断層撮影データ及び歯列模型の3次元画像データを取得する。そして、特許文献1の3次元断層撮影像の作成方法では、マーカーの位置を基準として、3次元口腔領域断層撮影データと歯列模型の3次元画像データとを位置合わせすることによって、前記2つのデータの位置合わせが行われた3次元断層撮影像を作成している。
【0004】
また、近年では、口腔内を3次元計測した複数の3次元画像データを繋ぎ合わせて3次元口腔内画像データを作成する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
口腔内を3次元計測した複数の3次元画像データを繋ぎ合わせて3次元口腔内画像データを作成する方法において、3次元口腔内画像データの正確度及び精度を向上させることが求められている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、3次元画像データの正確度及び精度を向上させることが可能な補助器具、及び補助器具を用いた3次元画像データ作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る補助器具は、
口腔内を3次元計測した複数の3次元画像データを繋ぎ合わせて3次元口腔内画像データを作成するための位置合わせの基準として使用される歯科用の補助器具であって、
第1面と前記第1面に対向する第2面とを有するシート部と、
前記シート部の前記第1面から前記シート部の厚み方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する複数の識別部と、
を備える。
【0009】
本発明の一態様に係る補助器具を用いた3次元画像データ作成方法は、
歯科用の補助器具を用いて、3次元口腔内画像データを作成する3次元画像データ作成方法であって、
シート部と、前記シート部の前記第1面から前記シート部の厚み方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する複数の識別部と、を備える補助器具が配置されている口腔領域を、重複する部分を含みつつ3次元計測することによって、前記補助器具と口腔内の形状とが共に3次元計測された複数の3次元画像データを取得するステップ、
前記複数の3次元画像データのそれぞれにおいて、前記補助器具の前記複数の識別部の形状を識別するステップ、
前記複数の3次元画像データのうち前記重複する部分において、近似した形状を有する1つ又は複数の識別部を特定するステップ、
特定された前記1つ又は複数の識別部を位置合わせの基準として用い、前記複数の3次元画像データを位置合わせするステップ、
位置合わせした前記複数の3次元画像データを繋ぎ合わせることによって、3次元口腔内画像データを作成するステップ、
を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の補助器具、及び補助器具を用いた3次元画像データ作成方法によれば、3次元口腔内画像データの正確度及び精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る補助器具の一例を示す概略図
【
図2】本発明の実施の形態1に係る変形例の補助器具を示す概略図
【
図3】本発明の実施の形態1に係る別の変形例の補助器具を示す概略図
【
図8】本発明の実施の形態1に係る補助器具の製造方法の一例のフローチャート
【
図9】本発明の実施の形態1に係る補助器具の製造方法の別例のフローチャート
【
図10】本発明の実施の形態1に係る補助器具を用いた3次元画像データ作成方法の一例のフローチャート
【
図11A】3次元画像作成方法の例示的な工程の一部を示す図
【
図11B】3次元画像作成方法の例示的な工程の一部を示す図
【
図12】本発明の実施の形態1に係る補助器具を用いた3次元口腔領域断層撮影データと3次元口腔内画像データとの位置合わせ方法の一例のフローチャート
【
図13】実施例1として、補助器具を用いた3次元画像データ作成方法によって作成した3次元画像データを示す図
【
図14】比較例1として、補助器具を用いずに作成した3次元画像データを示す図
【
図15】実施例1の3次元画像データの正確度評価を行うために測定した距離を示す図
【
図16】本発明の実施の形態1に係る別の変形例の補助器具を示す斜視図
【
図17】変形例の補助器具を患者の口に装着した状態の一例を示す図
【
図18】変形例の補助器具を患者の口に装着した状態の別例を示す図
【
図19】本発明の実施の形態1に係る補助器具の別の変形例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明に至った経緯)
歯科臨床において、歯科医療従事者らは、患者の口腔内形状の情報を得るため、患者の歯、粘膜及び支台歯等の模型を製作している。例えば、歯科医療従事者らは、アルジネート印象材又はシリコーン印象材で患者の歯、粘膜及び支台歯等の型を製作する(以下、「印象採得」と称する。)。次に、歯科医療従事者らは、製作した型に石膏を注入し、硬化させることによって、歯、粘膜及び支台歯等の模型を製作する。
【0013】
このような印象採得法においては、印象採得時に嘔吐反射、熱刺激及び開口したまま印象材の硬化を待つ等の苦痛が患者に生じること、印象材を介して歯科医療従事者へ感染症がうつるといった問題がある。
【0014】
これらの問題を解決するために、口腔内デジタル印象採得装置として、例えば、非接触式の光学式スキャナを用いて、患者の口腔内の3次元形状等の情報を取得することが求められている。なお、本明細書では、「口腔内デジタル印象採得装置」を「印象採得装置」と称する場合がある。
【0015】
加えて、印象採得装置によって得られた3次元画像データを利用して、歯科用CAD/CAMシステムで機械加工することによって補綴装置を製作することで、生産性の向上、品質の均一化及び治療期間の短縮を実現することが求められている。
【0016】
歯科用CAD/CAMシステムとは、例えば、計測装置、設計装置、及び/又は加工装置を備え、補綴装置を機械加工により製作するものである。印象採得装置を利用した歯科用CAD/CAMシステムは、1985年から欧米で臨床応用されている。
【0017】
しかしながら、印象採得装置を利用した歯科用CAD/CAMシステムは、印象採得装置の3次元計測精度、加工機の加工精度の観点、及び加工装置で加工可能な歯科材料が少ない等の理由から、インレー及び/又はクラウンなどの1歯分の補綴治療に用いられるのみである。
【0018】
印象採得装置は、LED光又はレーザー光を照射しながら口腔内を3次元計測し、歯の表面で反射した光をスキャナで検出し、専用のソフトウェアにより連続した3次元画像データを作成する装置である。
【0019】
印象採得装置による3次元形状の計測方法は、共焦点法、アクティブ三角測量法、光干渉断層法、アクティブ波形サンプリング法、モアレ断層撮影法、立体鏡とライン投影の併用法、ステレオ撮影と構造化光投影の併用法などが採用されている。
【0020】
印象採得装置の属性として、ヒトの口腔内に入るほど3次元計測可能な領域が小さく、ワンショットで3次元計測可能な範囲が制限される。このため、印象採得装置は、複数の3次元画像データを連続して取得し、複数の3次元画像データを繋ぎ合わせることによって連続した3次元画像データを作成している。具体的には、印象採得装置は、3次元計測した複数の3次元画像データを専用のソフトウェアにより繋ぎ合わせている。例えば、印象採得装置は、専用のソフトウェアによって、複数の3次元画像データにおいてそれぞれの3次元形状が近似している部分を検出する。印象採得装置は、検出した近似する部分を位置合わせの基準として利用し、複数の3次元画像データを繋ぎ合わせることにより3次元画像データを作成している。この場合、印象採得装置は、複数の3次元画像データにおいて3次元形状が近似している部分の検出に誤りが生じることがある。このため、複数の3次元画像データを正確に位置合わせして繋ぎ合わせることができないという問題がある。
【0021】
近年、コンピュータの3次元画像処理能力の向上と3次元計測経路の最適化により、歯科臨床において歯列弓の連続3次元画像を、データを破綻させずに繋ぎ合わせることが可能となっている。しかしながら、ワンショット25.00mm2以上625.00mm2以下の3次元計測範囲内で3次元計測した複数の3次元画像データにおいて、3次元形状が近似している部分の検出の正確度及び精度を向上させることは困難である。このため、検出した近似する3次元形状の部分を位置合わせの基準として用いたとしても、複数の3次元画像データを正確且つ精度良く位置合わせし、繋ぎ合わせることは困難である。例えば、近似した3次元形状を有する無歯顎、孤立歯支台歯、ブリッジ支台歯、前歯部支台歯、顔面欠損部等を3次元計測した複数の3次元画像データを、精度良く位置合わせして繋ぎ合わせることが難しい。このため、補綴装置の製作精度の観点から、印象採得装置の適用症例は、クラウン又はインレー等の3次元計測範囲が小さいものに限られているのが現状である。
【0022】
今後、口腔領域、インプラントスキャンボディ及び顔面等の3次元画像データを正確且つ精度良く取得することが可能になれば、印象採得装置が構成要素の1つである歯科用CAD/CAMシステムの適用症例が広がることが期待されている。印象採得装置を用いた歯科用CAD/CAMシステムの適用症例が広がれば、手作業による補綴装置製作から歯科用CAD/CAMシステムを利用した補綴装置製作への移行が進む。これにより、補綴装置製作において、作業効率化及び品質の均一化が実現され、歯科疾患患者の治療期間の短縮、歯科医療従事者の作業負担の軽減に寄与することが可能となる。
【0023】
加えて、歯科医療技術の高度化及びデジタル化に伴い、CT(Computed Tomography)/MRI(Magnetic Resonance Imaging)で得られた患者固有の神経の走行、歯槽骨の厚み及び顎関節等の3次元口腔領域断層撮影データ及びCT、技工用デスクトップスキャナーにより得られた口腔領域模型の3次元画像データ、デジタル印象採得等で得られた患者の口腔領域3次元画像データを正確に位置合わせすることが求められる。また、3次元口腔領域断層撮影データの寸法を簡便に正確な大きさへ修正することが求められる。更に、バーチャルリアリティでの各種治療シミュレーションに応用するだけでなく、前記3次元口腔領域断層撮影データと口腔領域3次元データを正確に位置合わせしたデータを利用して実際の補綴装置又はサージカルガイド等の製作に応用することも求められる。
【0024】
そこで、本発明者らは、以下の発明に至った。
【0025】
本発明の一態様に係る補助器具は、
口腔内を3次元計測した複数の3次元画像データを繋ぎ合わせて3次元口腔内画像データを作成するための位置合わせの基準として使用される歯科用の補助器具であって、
第1面と前記第1面に対向する第2面とを有するシート部と、
前記シート部の前記第1面から前記シート部の厚み方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する複数の識別部と、
を備える。
【0026】
前記補助器具において、前記複数の識別部は、
前記シート部の前記第1面から前記第2面に向かう方向と反対方向に突出した凸部、
前記シート部の前記第1面から前記第2面に向かって窪んだ凹部、及び
前記シート部の前記第1面と前記第2面とを連通する孔、
のうち少なくとも1つの形状を有していてもよい。
【0027】
前記補助器具において、前記複数の識別部のうち隣り合う識別部の形状は、異なっていてもよい。
【0028】
前記補助器具において、前記複数の識別部は、文字、数字、記号、絵、図形、紋章、模様、シンボル、及び形態のうち少なくとも1つの形状を有していてもよい。
【0029】
前記補助器具において、前記複数の識別部のそれぞれは、前記シート部の厚み方向における寸法が0.10mm以上3.00mm以下で形成され、且つ前記シート部の厚み方向から見て長手方向及び短手方向における寸法が0.10mm以上20.00mm以下で形成されていてもよい。
【0030】
前記補助器具においては、生体安全性の認められた着色剤を含み、且つ、X線造影剤が添加された材料で形成されていてもよい。
【0031】
前記補助器具において、前記シート部は、厚みが0.10mm以上3.00mm以下、且つ前記シート部の厚み方向から見て長手方向及び短手方向における寸法が1.00mm以上200.00mm以下の矩形形状を有していてもよい。
【0032】
前記補助器具において、前記シート部は、前記シート部の厚み方向から見て半円形状を有し、
前記シート部において円弧状の外縁部は、前記シート部の前記第1面から前記第2面に向かって屈曲していてもよい。
【0033】
前記補助器具において、前記シート部の厚み方向から見てU字状に屈曲して形成され、且つ前記シート部を厚み方向に切断した断面において、前記シート部の前記第2面から前記第1面に向かう方向に窪む凹状の断面形状を有していてもよい。
【0034】
前記補助器具においては、患者の口唇を広げて固定する口唇部と、
前記口唇部と連結部によって連結され、且つ、前記患者の口角を広げて固定する口角部と、
前記口角部に接続され、把持可能なハンドル部と、
を備え、
前記シート部は、前記口唇部及び/又は前記口角部に接続され、且つ前記口唇部及び/又は前記口角部から前記口腔内へ向かって延びていてもよい。
【0035】
前記補助器具においては、上顎咬合床と、前記上顎咬合床と適合する下顎咬合床と、を具備し、
前記上顎咬合床は、
患者の上顎の口腔粘膜の形態に適合する第1プレート、及び前記第1プレートの端面から前記患者の上顎の口腔粘膜側に延びる、前記複数の識別部が形成された前記シート部を有する第1基礎床部と、
前記上顎の歯槽上に配置され、且つ前記第1基礎床部の前記第1プレートと接続される第1咬合堤部と、
を備え、
前記第1咬合堤部の端面には、前記複数の識別部が形成されており、
前記下顎咬合床は、
患者の下顎の口腔粘膜の形態に適合する第2プレート、及び前記第2プレートの端面から前記患者の下顎の口腔粘膜側に延びる、前記複数の識別部が形成された前記シート部を有する第2基礎床部と、
前記下顎の歯槽上に配置され、且つ前記第2基礎床部の前記第2プレートと接続される第2咬合堤部と、
を備え、
前記第2咬合堤部の端面には、前記複数の識別部が形成されていてもよい。
【0036】
本発明の一態様の3次元画像データ作成方法は、
歯科用の補助器具を用いて、3次元口腔内画像データを作成する3次元画像データ作成方法であって、
第1面と前記第1面に対向する第2面とを有するシート部と、前記シート部の前記第1面から前記シート部の厚み方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する複数の識別部と、を備える補助器具が配置されている口腔領域を、重複する部分を含みつつ3次元計測することによって、前記補助器具と口腔内の形状とが共に3次元計測された複数の3次元画像データを取得するステップ、
前記複数の3次元画像データのそれぞれにおいて、前記補助器具の前記複数の識別部の形状をそれぞれ識別するステップ、
前記複数の3次元画像データのうち前記重複する部分において、近似した形状を有する1つ又は複数の識別部を特定するステップ、
特定された前記1つ又は複数の識別部を位置合わせの基準として用い、前記複数の3次元画像データを位置合わせするステップ、
位置合わせした前記複数の3次元画像データを繋ぎ合わせることによって、3次元口腔内画像データを作成するステップ、
を含む。
【0037】
本発明の一態様の位置合わせ方法は、
歯科用の補助器具を用いた3次元口腔領域断層撮影データと3次元口腔内画像データとの位置合わせ方法であって、
第1面と前記第1面に対向する第2面とを有するシート部と、前記シート部の前記第1面から前記シート部の厚み方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する複数の識別部と、を備える補助器具が配置されている口腔領域を、重複する部分を含みつつ3次元計測することによって、前記補助器具と口腔内の形状とが共に3次元計測された複数の3次元画像データを取得するステップ、
前記複数の3次元画像データのそれぞれにおいて、前記補助器具の前記複数の識別部の形状を識別するステップ、
前記複数の3次元画像データのうち前記重複する部分において、近似した形状を有する1つ又は複数の識別部を特定するステップ、
特定された前記1つ又は複数の識別部を位置合わせの基準として用い、前記複数の3次元画像データを位置合わせするステップ、
位置合わせした前記複数の3次元画像データを繋ぎ合わせることによって、3次元口腔内画像データを作成するステップ、
前記補助器具が配置されている前記口腔領域を、CTスキャンすることによって、3次元口腔領域断層撮影データを取得するステップ、
前記3次元口腔内画像データ及び前記3次元口腔領域断層撮影データのそれぞれにおいて、1つ又は複数の識別部の寸法が既知の寸法となるように、前記3次元口腔内画像データ及び前記3次元口腔領域断層撮影データの寸法を補正するステップ、
前記補正した口腔内3次元画像データ及び3次元口腔領域断層撮影データを前記1つ又は複数の識別部に基づいて、位置合わせするステップ、
を含む。
【0038】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。以下の全ての図において、同一又は相当部分には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0039】
(実施の形態1)
[補助器具]
補助器具は、口腔内を3次元計測した複数の3次元画像データを繋ぎ合わせることによって3次元口腔内画像データを作成するための基準として使用される歯科用の補助器具である。3次元口腔内画像データとは、患者の口腔内の3次元形状を表した画像データである。
【0040】
図1は、本発明の実施の形態1に係る補助器具10の一例を示す概略図である。
図1中のX、Y及びZ方向は、それぞれ、補助器具10の横方向、縦方向及び厚み方向を示す。
図1に示すように、補助器具10は、シート部11と、シート部11に設けられた複数の識別部12と、を備える。
【0041】
以下、補助器具10の構成について詳細に説明する。
【0042】
<シート部>
シート部11は、シート状の部材で形成されている。具体的には、シート部11は、第1面と第1面に対向する第2面とを有する薄いシート状の部材で形成されており、厚み方向、即ちZ方向から見て、矩形形状を有する。なお、実施の形態1では、第1面をシート部11の上面とし、第2面をシート部11の下面として説明するが、これに限定されない。第1面をシート部11の下面、第2面をシート部11の上面としてもよい。
【0043】
また、シート部11は、弾性変形可能な材料で形成されている。このため、患者の口腔内の形状又は模型の形状に応じて、補助器具10を変形させて口腔内に配置することができる。
【0044】
また、シート部11は、生体安全性が認められた材料で形成されている。これにより、口腔内に配置しても人体に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0045】
また、シート部11は、X線造影剤が添加された材料で形成されている。これにより、口腔内をCTスキャンする場合においても、補助器具10を3次元計測することができる。なお、補助器具10において、X線造影剤は、必須の構成ではない。
【0046】
シート部11は、患者の口腔内又は模型に配置することができるシート形状で形成されている。例えば、シート部11は、三角形、矩形、菱形、円形、楕円形、又は半円などの形状であってもよい。
【0047】
実施の形態1では、一例として、シート部11は、厚み方向から見て略正方形に形成されている。シート部11は、例えば、厚みが0.1mm以上3.0mm以下である。また、シート部11は、厚み方向から見て長手方向及び短手方向における寸法が1.00mm以上200.00mm以下である。本明細書において、長手方向はX方向を意味し、短手方向はY方向を意味する。
【0048】
なお、シート部11の形状は、略正方形に限定されず、患者の口腔内の形状に対応した形状であってもよい。
図2は、変形例の補助器具10Aの概略図である。
図2に示すように、補助器具10Aにおいて、シート部11aの外縁部13は、患者の歯肉領域を覆うように形成されている。歯肉領域とは、口腔粘膜の一部の領域であって、歯の歯根を囲む領域である。
【0049】
具体的には、シート部11aは、半円形状に形成されている。シート部11aの外縁部において湾曲している部分は、シート部11の厚み方向に屈曲している。具体的には、シート部11aにおいて円弧状の外縁部13は、シート部11の第1面(上面)から第2面(下面)に向かって屈曲している。また、シート部11aの中央部14は、第1面から第2面に向かう方向に窪んでいる。
【0050】
図3は、別の変形例の補助器具10Bの概略図である。
図3に示すように、補助器具10Bにおいて、シート部11bは、患者の歯肉を覆うように形成されている。具体的には、シート部11bは、シート部11bの厚み方向から見てU字状に屈曲して形成され、且つシート部11bを厚み方向に切断した断面において、シート部11bの厚み方向、即ち、第2面から第1面に向かう方向に窪む凹状の断面形状を有していてもよい。
【0051】
このように、患者の歯肉を覆うようにシート部11a、11bを形成することによって、口腔内に補助器具10A、10Bを配置しやすくなる。
【0052】
<複数の識別部>
図1に戻って、複数の識別部12は、シート部11の第1面(上面)からシート部11の厚み方向、即ちZ方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する。
【0053】
「それぞれ識別可能な立体形状」とは、印象採得装置によって3次元計測された複数の3次元画像データに表された複数の立体形状が、制御装置によってそれぞれ識別可能であることを意味する。
【0054】
制御装置は、例えば、印象採得装置によって3次元計測された複数の3次元画像データを記憶し、複数の3次元画像データを繋ぎ合わせて3次元口腔内画像データを作成するコンピュータである。また、制御装置は、印象採得装置を制御する。制御装置は、印象採得装置に含まれていてもよいし、印象採得装置と別で構成されていてもよい。実施の形態1では、制御装置は、印象採得装置と別で構成される。
【0055】
制御装置は、1つ又は複数のプロセッサと、メモリと、を備える。
【0056】
1つ又は複数のプロセッサは、例えば、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、又はコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットである。プロセッサは、メモリに記憶された命令を実行可能である。
【0057】
メモリは、制御装置のデータを格納する。メモリは、例えば、コンピュータ記録媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリ又はその他のメモリ技術、CD-ROM、DVD又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望の情報を格納するために用いることができ、制御装置がアクセスすることができる任意の媒体を含む。
【0058】
メモリは、印象採得装置によって3次元計測した複数の3次元画像データを記憶する。また、メモリは、補助器具10に基づいて、口腔内を3次元計測した3次元複数の画像データを繋ぎ合わせて3次元口腔内画像データを作成する方法を実行するためのプログラムを記憶している。
【0059】
複数の識別部12は、シート部11の第1面(上面)から第2面(下面)に向かう方向と反対方向に突出した凸部、シート部11の第1面から第2面に向かって窪んだ凹部、又はシート部11の第1面と第2面とを連通する孔のうち少なくとも1つの形状を含む。あるいは、複数の識別部12は、凸部、凹部、及び孔のうち少なくとも2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0060】
図1~3に示す補助器具10、10A、10Bでは、複数の識別部12のそれぞれは、シート部11の第1面から第2面に向かう方向と反対方向に突出した凸部で形成されている。複数の識別部12は、シート部11のX方向及びY方向に、それぞれ間隔を有して規則的に配列されている。また、複数の識別部12のうち隣り合う識別部の形状は異なっているのが好ましい。このような構成により、制御装置によって複数の識別部12のそれぞれを識別しやすくなる。
【0061】
複数の識別部12は、シート部11と同じ材料で形成されている。
【0062】
複数の識別部12は、印象採得装置によってワンショットで3次元計測される領域において、例えば、25.00mm2以上625.00mm2以下の3次元計測範囲内において、それぞれ異なる立体形状を有する。具体的には、複数の識別部12は、制御装置によってそれぞれ異なる形状であることが識別可能な輪郭を有する。例えば、複数の識別部12は、文字、数字、記号、絵、図形、紋章、模様、シンボル、形態及びこれらの組み合わせなどの形状を有する。
【0063】
図形とは、一定の決まりによって定められる様々な形状のことである。図形は、例えば、直方体などであってもよい。
【0064】
図4は、紋章の一例を示す。
図4に示すように、紋章とは、個人及び家系をはじめとして、地方自治体や国家、学校、公的機関、組合(ギルド)、軍隊の部隊などの組織及び団体などを識別し、特定する意匠又は図案である。
【0065】
図5は、模様の一例を示す。
図5に示すように、模様とは、織物、染め物、工芸品などに装飾として施す種々の絵又は形である。また、模様とは、ものの表面にあらわれた図形であってもよい。
【0066】
図6は、シンボルの一例を示す。
図6に示すように、シンボルとは、ある意味をもつ記号である。また、シンボルは、ある意味を持つ数字、文字、身ぶりを表した図形などであってもよい。
【0067】
図7は、形態の一例を示す。
図7に示すように、形態とは、物又は機構などの組織体を外から見た形やありさまである。
【0068】
実施の形態1では、複数の識別部12は、種々のアルファベット文字で形成されている。
【0069】
複数の識別部12のそれぞれは、シート部11の厚み方向における寸法が0.10mm以上3.00mm以下で形成され、且つシート部11の厚み方向から見て長手方向及び短手方向における寸法が0.10mm以上20.00mm以下で形成される。
【0070】
実施の形態1では、複数の識別部12は、シート部11のX方向及びY方向に、それぞれ間隔を有して規則的に配列されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、複数の識別部12は、ランダムに配置されていてもよい。また、複数の識別部12のうち隣り合う識別部の形状は異なっていなくてもよい。
【0071】
[補助器具の製造方法]
補助器具10の製造方法の一例について、
図8を用いて説明する。
図8は、補助器具10の製造方法の一例のフローチャートである。
図8に示すように、補助器具10の製造方法は、陰型を製作するステップST11と、製作した陰型に補助器具10を形成する材料を充填して硬化させるステップST12と、を含む。
【0072】
ステップST11において、補助器具10の形状を形作る陰型を製作する。陰型は、補助器具10のシート部11と、複数の識別部12と、を形作る型である。
【0073】
例えば、陰型は、補助器具10のシート部11の形状に形作られた第1凹部を有する。補助器具10の外形に対応する第1凹部とは、補助器具10を形成する材料が充填される部分である。第1凹部の底面には、複数の識別部12を形成するための複数の凹凸が形成されている。複数の凹凸は、複数の識別部12の形状に対応する形状を有する。
【0074】
実施の形態1では、複数の識別部12は、それぞれ、シート部11の第1面(上面)から第2面(下面)に向かう方向と反対方向に突出した凸部で形成されている。このため、第1凹部の底面には、アルファベット文字の形状に対応する複数の第2凹部が形成されている。複数の第2凹部は、第1凹部の底面において、シート部11の第1面から第2面に向かう方向に窪んで形成される。
【0075】
なお、複数の識別部12が、シート部11の第1面から第2面に向かって窪んだ凹部、又はシート部11の第1面と第2面とを連通する孔で形成されている場合、第1凹部の底面には、アルファベット文字の形状に対応する複数の凸部が形成される。複数の凸部は、第1凹部の底面において、シート部11の第2面から第1面に向かう方向に突出して形成される。
【0076】
陰型の製作においては、コンピュータによって、3次元陰型設計データを作成する。例えば、3次元CAD(Computer Aided Design)によって3次元陰型設計データを作成してもよい。あるいは、CAM(Computer Aided Manufacturing)ソフトウェアによって3次元陰型設計データを作成してもよい。
【0077】
次に、3次元陰型設計データに基づいて、陰型を製作する。例えば、3次元陰型設計データに基づいて、切削加工機又は3Dプリンタによって陰型を製作する。あるいは、3次元陰型設計データに基づいて、レーザー加工機、又は超音波加工等によって陰型を製作する。
【0078】
3次元CADは、工業製品又は建築物の設計、製図を行うCADの種類の一つで、造形物を立体的に表示及び編集して作図を行うものである。
【0079】
CAMは、製品の製造を行うためにCADで作成された形状データを入力データとして、例えば、加工用のNCプログラム、又は3Dプリンタによる加工のためスライスデータの作成などの生産準備全般をコンピュータ上で行う為のシステムである。
【0080】
3Dプリンタは、ある空間に立体モデルの材料を付加していく装置のことをいう。3Dデータに基づいて高精度の立体モデルを完成させている。3Dプリンタの造形方式(3Dプリント方式)としては、例えば、材料押出(熱溶解層)、液相光重合(光造形)、材料噴射(インクジェット)、結合剤噴射、粉末床溶融結合、シート積層、指向性エネルギー堆積等がある。使用する材料により造形方式を任意に選択してもよい。
【0081】
レーザー加工は、レーザーによって、例えば、金属、木、皮等も含む様々な素材に彫刻、切断、穴あけ、マーキング加工を行うことをいう。
【0082】
超音波加工は、砥粒を水などの加工液に混合し、これを高周波で振動する工具と加工物との間に介在させ、工具が砥粒を介して加工物に与える衝撃破砕作用によって行う加工法のことをいう。工具の振動数は15.00kHz以上50.00kHz以下、振幅は1.00μm以上150.00μm以下が好ましい。
【0083】
製作した陰型の表面には、例えば、サンドブラスト処理、ワセリン又はシリコーン分離材塗布等の表面処理を施してもよい。
【0084】
サンドブラスト処理は、圧縮空気に研磨材を混ぜて吹き付ける加工法である。研磨材は、例えば、アルミナ又はガラスビーズである。サンドブラスターに取り付けるエアーコンプレッサーの圧力は、1.00MPa以上が好ましい。
【0085】
陰型は、補助器具10を形成する材料と化学的に反応しない材料で製作される。
【0086】
実施の形態1では、陰型において、補助器具10のシート部11の形状に対応する第1凹部は、矩形状で形成されている。第1凹部の一辺は、例えば、横50.00mm以上100.00mm以下、縦40.00mm以上80.00mm以下である。また、第1凹部の深さは、例えば、0.10mm以上3.00mm以下になるように設計されている。例えば、第1凹部は、板状部材を切削加工機によって切削加工して形成されてもよいし、又は板状部材の上に枠体が設けられて形成されてもよい。
【0087】
また、第1凹部の底面には、複数の識別部12に対応する複数のアルファベット文字の形状に対応して形成される複数の第2凹部が設けられている。複数の第2凹部のそれぞれの深さは、例えば、0.10mm以上3.00mm以下である。複数の第2凹部のそれぞれの縦横寸法は、例えば、0.10mm以上20.00mm以下である。複数の第2凹部の間隔は、0.10mm以上2.00mm以下である。
【0088】
ステップST12において、ステップST11で製作した陰型に補助器具10を形成する材料を充填し、硬化させる。
【0089】
補助器具10を形成する材料としては、各種組成物、高分子材料、熱可塑性樹脂、高分子ゲルなどが挙げられる。各種組成物としては、例えば、歯科用レジン組成物、歯科用シリコーン印象材組成物、歯科用アルジネート印象材組成物、歯科用寒天印象材組成物などが挙げられる。高分子材料としては、例えば、光造形用樹脂、光造形用ゴムライク樹脂、光造形用シリコーン樹脂等の弾性又は粘性を有する高分子材料などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。高分子ゲルとしては、例えば、ダブルネットワークゲル、ナノコンポジットゲル、ポリロタキサン等の高分子ゲルなどが挙げられる。この他、補助器具10を形成する材料としては、例えば、天然ゴムラテックス、ガッタパーチャ、等が挙げられる。
【0090】
また、補助器具10を形成する材料は、生体安全性が認められた着色剤及びX線造影剤が混合されている。着色剤は、例えば、口腔内の色と異なる色のものが用いられる。着色剤は、光学式の印象採得装置で3次元計測が可能な色であればよく、具体的には、黒以外の色であればよい。例えば、着色剤は、青色、又は緑色などであってもよい。
【0091】
ステップST12においては、補助器具10を形成する材料を陰型に流し込み、脱泡しながら形成する。例えば、歯科臨床で使用されている付加型シリコーンゴムのベース材とキャタリスト材を1対1で練和する。次に、練和したシリコーンゴムを陰型に注入しながらエアガン等で気泡を除去する。その後、付加反応により材料を硬化させ、バリを除去して形成物を陰型から取り出す。
【0092】
このように、ステップST11及びST12を行うことによって、補助器具10を製作することができる。なお、
図2及び
図3に示す変形例の補助器具10A、10Bについても、陰型の形状、即ち、第1凹部の形状を変更することによって、上述した製造方法を用いて製造することができる。
【0093】
なお、ステップST12においては、補助器具10を形成する材料として、熱可塑性樹脂を用いてもよい。この場合、ステップST12においては、熱可塑性樹脂を用いて射出成形することによって補助器具10を製造してもよい。
【0094】
射出成形とは、軟化する温度に加熱した熱可塑性樹脂を、射出圧を加えて陰型に押し込んで充填して形成するものである。
【0095】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、ABS樹脂、AS樹脂、及びアクリル樹脂等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂には、生体安全性が認められた着色剤及びX線造影剤が混合されていることが好ましい。
【0096】
射出圧力は10.00kgf/cm2以上3000.00kgf/cm2以下の範囲が好ましい。熱可塑性樹脂の加熱温度は、熱可塑性樹脂の融点あるいはガラス転移温度より50.00℃以上150.00℃以下の範囲で高いことが好ましい。
【0097】
なお、上述した補助器具10の製造方法は例示であって、これらの製造方法に限定されない。補助器具10の製造方法は、シート部11と、シート部11の第1面(上面)に形成される複数の識別部12と、を含む補助器具10を製造できる方法であればよい。
【0098】
積層造形法又は切削加工によって補助器具10を製造してもよい。例えば、補助器具10の3次元設計データを作成し、3次元設計データに基づいて3Dプリンタによって、補助器具10を製作してもよい。あるいは、3次元設計データに基づいて切削加工機によって切削加工することにより補助器具10を製作してもよい。
【0099】
補助器具10の製造方法の別例について、
図9を用いて説明する。
図9は、補助器具10の製造方法の別例のフローチャートである。
図9に示す製造方法は、患者の口腔内情報を反映させた形状の補助器具10を製造する方法である。
【0100】
図9に示すように、補助器具10の製造方法は、口腔内の概形3次元画像データを取得するステップST21と、取得した概形3次元画像データに基づいて補助器具10の3次元設計データを作成するステップST22と、3次元設計データに基づいて補助器具10を製作するステップST23と、を含む。
【0101】
ステップST21においては、印象採得装置によって、患者又は模型の口腔領域に対して、デジタル概形印象採得を行う。デジタル概形印象採得とは、口腔内の3次元形状を、非接触の光学スキャナなどによって簡易的に3次元計測することを意味する。したがって、デジタル概形印象採得によって取得される3次元画像データ(以下、「概形3次元画像データ」と称する)は、口腔内の3次元形状がおおよそ把握できる程度の精度でよく、3次元計測の正確度及び精度が低くてもよい。例えば、概形3次元画像データは、口腔内の3次元形状の実測値との誤差が0.00%以上30.00%以下であることが好ましい。
【0102】
印象採得装置の3次元計測方法は、例えば、共焦点法、アクティブ三角測量法、光干渉断層法、アクティブ波形サンプリング法、モアレ断層撮影法、立体鏡とライン投影法の併用法、ステレオ撮影と構造化光投影法の併用法等を用いることができる。口腔内の3次元計測時の歯や補綴装置等の乱反射を防ぐために、二酸化チタンのパウダーを被3次元計測部位に塗布してもよい。
【0103】
ステップST21においては、印象採得装置の被3次元計測物に対する焦点を合わせ、被3次元計測部位である口腔領域に沿って印象採得装置を走査する。これにより、口腔内の形状を連続して3次元計測し、複数の3次元画像データを取得する。印象採得装置は、複数の3次元画像データを制御装置に送信する。制御装置は、複数の3次元画像データを受信し、専用のソフトウェアにより複数の3次元画像データを繋ぎ合わせる。複数の3次元画像データの繋ぎ合わせは、例えば、3次元計測された歯肉又は歯列部分の形状(例えば、曲率、エッジなど)を基準として用いて行われる。これにより、患者固有の口腔内のおおよその3次元形状を再現した概形3次元画像データを取得する。
【0104】
ステップST21においては、印象採得装置によって、患者の口腔領域に加えて顔面部や手足の指の3次元画像データを取得してもよい。顔面部とは、頭部の正面の部分である。具体的には、顔面部は、上下方向において顎の先端から頭髪の生え際までの部分であって、左右方向において両耳の間の部分を意味する。
【0105】
実施の形態1では、ステップST21において、印象採得装置によって口腔領域を連続して3次元計測する例について説明したが、これに限定されない。例えば、ステップST21において、印象採得装置によって連続的に3次元計測せずに、複数回に分けて口腔領域を3次元計測してもよい。
【0106】
ステップST22においては、ステップST21で取得した口腔内の概形3次元画像データを用いて補助器具10の3次元設計データを作成する。具体的には、制御装置は、メモリに記憶された3Dモデリング機能を有するプログラムを用いて、口腔内の概形3次元画像データに基づいて、補助器具10の3次元設計データを作成する。制御装置は、例えば、ユーザからの入力に基づいて、メモリに記憶されたプログラムを実行し、補助器具10の3次元設計データを作成する。
【0107】
制御装置は、取得した口腔内の概形3次元画像データに基づいて、プログラムによって再現される口腔内の3次元形状の上に、補助器具10を設計する。これにより、口腔内の概形3次元形状に適合する補助器具10の形状をモデリングする。即ち、制御装置は、概形3次元画像データ上に、補助器具10の形状を再現したデータを作成する。
【0108】
例えば、制御装置は、着脱方向の決定、着脱方向に対するアンダーカット部の除去(以下、「ブロックアウト」と称する)、シート部11の外形線の設定、シート部11の厚みの設定、複数の識別部12の形状、大きさ、個数及び位置の設定などを行う。これにより、制御装置は、補助器具10の形状を設定する。
【0109】
補助器具10の着脱方向は、咬合平面(左右下顎第二大臼歯遠心頬側咬頭頂と下顎中切歯の近心隅角の中点の三点を結ぶ仮想平面)に対して垂直とすることが好ましい。補助器具10の着脱方向を基準にしたアンダーカット部をデータ上でブロックアウトして着脱方向に対するアンダーカットを除去することが好ましい。
【0110】
また、口腔内の概形3次元画像データにおける支台歯の歯肉縁から0.10mm以上1.00mm以下の範囲で下方に補助器具10のシート部11の外縁部が位置するように補助器具10を設計することが好ましい。
【0111】
補助器具10の外形線は、歯肉頬粘膜移行部と上顎の口蓋部を超えないことが好ましい。補助器具10の厚みは、0.10mm以上3.00mm以下が好ましい。
【0112】
複数の識別部12のそれぞれの形状は異なっていることが好ましい。また、複数の識別部12のそれぞれの大きさは、縦横0.10mm以上20.00mm以下が好ましい。複数の識別部12が凸部で形成されている場合、複数の識別部12のそれぞれの高さは0.10mm以上3.00mm以下が好ましい。複数の識別部12が凹部又は孔で形成されている場合、複数の識別部12のそれぞれの深さは0.10mm以上3.00mm以下が好ましい。複数の識別部12の間隔は、0.10mm以上20.00mm以下が好ましい。
【0113】
このようにして、制御装置は、設定した補助器具10の形状を、口腔内の概形3次元画像データにより再現される口腔内の3次元画像データの上にモデリングする。
【0114】
次に、制御装置は、補助器具10をモデリングしたデータから口腔内の概形3次元画像データをブール演算の差で除去することで、補助器具10の3次元設計データを取得する。
【0115】
ステップST23においては、ステップST22において設計した3次元設計データに基づいて補助器具10を製作する。具体的には、補助器具10の3次元設計データに基づいて、製作装置によって補助器具10を製作する。製作装置とは、補助器具10を製作する装置であり、例えば、3Dプリンタ又は切削加工機などである。製作装置は、制御装置によって制御される。実施の形態1では、製作装置は、3Dプリンタである例を説明する。
【0116】
例えば、制御装置は、補助器具10の3次元設計データに基づいて、3Dプリンタ用のCAMソフトウェアで出力データを作成する。出力データとは、3Dプリンタによって読み込むことが可能なデータである。出力データとしては、例えば、スライスデータ等が挙げられる。制御装置は、出力データを3Dプリンタに送信する。
【0117】
3Dプリンタは、制御装置から出力データを受信し、出力データに基づいて補助器具10を製作する。
【0118】
液槽光重合方式の3Dプリンタである場合、使用材料としては、例えば、光造形用樹脂、光造形用ゴムライク樹脂、光造形用シリコーン樹脂が挙げられる。FDM方式の3Dプリンタである場合、使用材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、あるいはダブルネットワークゲル、ナノコンポジットゲル、ポリロタキサン等の高分子ゲル等が挙げられる。
【0119】
以上のように、ステップST21~ST23を実行することによって、患者の口腔内情報を反映させた形状の補助器具10を製造することができる。
【0120】
[補助器具を用いた3次元画像データ作成方法]
補助器具10を用いた3次元画像データ作成方法について、
図10を用いて説明する。
図10は、補助器具10を用いた3次元画像データ作成方法の一例のフローチャートである。
【0121】
図10に示すように、ステップST31において、補助器具10を口腔内に配置する。補助器具10は、印象採得装置によって3次元計測される口腔領域に配置される。具体的には、補助器具10は、患者の口腔内、又は患者の口腔内を再現した模型に配置される。
【0122】
補助器具10は、口腔内の3次元計測したい部分に応じて加工することが可能である。例えば、患者の口腔内において、補綴装置が取り付けられる部分を3次元計測したい場合、補綴装置が取り付けられる部分が露出するように、補助器具10に孔を形成してもよい。あるいは、歯列を3次元計測したい場合、歯列部分が露出するように、補助器具10を切断してもよい。
【0123】
図11Aは、3次元画像データ作成方法の例示的な工程の一部を示しており、補助器具10を模型20の口腔内に配置している状態を示す。
図11Aに示すように、補助器具10は、口腔内において補綴装置が取り付けられる取り付けピン21a、21bの部分に対応する位置に孔が設けられており、取付けピン21a、21bが露出するように加工されている。
【0124】
このように、ステップST31においては、口腔内において3次元計測したい部分、即ち口腔内において3次元画像データを取得したい部分に補助器具10を配置する。
【0125】
図10に戻って、ステップST32において、補助器具10が配置されている口腔領域を、重複する部分を含みつつ3次元計測することによって、複数の3次元画像データを取得する。
【0126】
図11Bは、3次元画像データ作成方法の例示的な工程の一部を示しており、印象採得装置30によって、補助器具10が配置されている模型20の口腔領域を3次元計測している状態を示す。
図11Bに示すように、口腔内において印象採得装置30を移動させながら、補助器具10が配置された口腔領域を連続して複数箇所で3次元計測する。これにより、口腔内の形状と共に補助器具10が3次元計測された複数の3次元画像データを取得する。
【0127】
印象採得装置30は、重複する部分を含みながら口腔領域を連続して複数箇所で3次元計測している。したがって、連続して3次元計測された複数の3次元画像データ、即ち前後に3次元計測された2つの3次元画像データは、互いに重複する部分を含んでいる。
【0128】
印象採得装置30は、取得した複数の3次元画像データを制御装置に送信する。
【0129】
図10に戻って、ステップST33において、3次元計測された複数の3次元画像データのそれぞれにおいて、補助器具10の複数の識別部12の形状をそれぞれ識別する。
【0130】
具体的には、制御装置は、印象採得装置から複数の3次元画像データを受信する。次に、制御装置は、複数の3次元画像データのそれぞれにおいて、複数の識別部12のそれぞれの特徴(例えば、凹凸、輪郭など)を検出する。これにより、複数の3次元画像データに写っている複数の識別部12のそれぞれの立体形状を識別する。
【0131】
ステップST34において、複数の3次元画像データのうち重複する部分において、近似した形状を有する1つ又は複数の識別部12を特定する。
【0132】
制御装置は、連続して3次元計測された複数の3次元画像データのうち重複する部分において、ステップ33において識別した複数の識別部12の立体形状のうち、近似する立体形状を有する1つ又は複数の識別部12を特定する。
【0133】
具体的には、制御装置は、連続する2つの3次元画像データの重複する部分において、識別された複数の識別部12の立体形状をそれぞれ比較する。これにより、連続する2つの3次元画像データの重複する部分において、近似した形状を有する1つ又は複数の識別部12を特定する。近似した形状とは、誤差が例えば、30.00μm以下、好ましくは10.00μm以下で識別部12の立体形状が一致することを意味する。
【0134】
ステップST35において、ステップST34において特定された1つ又は複数の識別部12を位置合わせの基準として用い、複数の3次元画像データを位置合わせする。
【0135】
具体的には、制御装置は、複数の3次元画像データのうち重複する部分で近似する1つ又は複数の識別部12の立体形状が重なるように、複数の3次元画像データを位置合わせする。例えば、制御装置は、複数の3次元画像データのうち重複する部分において、近似する1つ又は複数の識別部12の立体形状の輪郭が一致するように、1つ又は複数の識別部12の立体形状の位置、角度、及び大きさなどを調整する。これにより、複数の3次元画像データの位置合わせをすることができる。
【0136】
ステップST36において、位置合わせした複数の3次元画像データを繋ぎ合わせる。具体的には、制御装置は、ステップST35において位置合わせした複数の3次元画像データを繋ぎ合わせる。
【0137】
このように、ステップST31~ST36を実行することによって、3次元口腔内画像データを作成することができる。
【0138】
なお、複数の3次元画像の位置合わせのために利用するアルゴリズムは次のとおりである。以下に示す工程A1~A4は、
図10に示すステップST33及びST34で行われる。また、工程A1~A4は、制御装置によって行われる。
【0139】
(工程A1)3次元画像データのボクセルそのものあるいは点集合等の特徴のうち、どの特徴を利用するかを設定する(特徴空間の設定)。具体的には、ボクセル又は点集合などの情報で表された識別部の特徴(例えば、凹凸、輪郭など)を特徴空間として設定する。
【0140】
(工程A2)各3次元画像データにおいて、工程A1で設定した特徴空間を探索する範囲を設定する(探索空間の設定)。
【0141】
(工程A3)各3次元画像データにおいて、工程A2で設定した探索範囲内で、工程A1で設定した特徴空間を検出する。
【0142】
(工程A4)工程A3までで得られた各3次元画像データの特徴(形状)を相関関数で表し、相関関数の最大値を算出する(類似性測度)。なお、相関関数とは、複数の3次元画像データを位置合わせする際の評価に用いられる関数である。
【0143】
複数の3次元画像データの位置合わせは、例えば、相互相関法を使い、3次元画像間の相関関数を類似性測度として算出する。例えば、第1の3次元画像データを関数A、第2の3次元画像データを関数Bと表現した場合、関数Aと関数Bの相関関数を計算して、相関関数の最大値を求める。求めた最大値が、2つの3次元画像データの位置関係が最も一致していることを示す。これにより、複数の3次元画像データ間で類似性の一番高い向きを検出し、複数の3次元画像データの位置合わせを行うことができる。
【0144】
実施の形態1では、一例として、工程A1において、点集合を用いて、識別部の特徴を特徴空間として設定する。工程A2において、回転角方法を用いる場合には、範囲指定、刻み幅指定を設定する。平行移動に関しては、ピクセル間隔で全探索を設定する。工程A3において、オイラー角を使い、3次元画像データを回転させながら特徴空間を検出する。工程A4において、各3次元画像データの特徴を相関関数で表し、相関関数の最大値を算出する。相関関数としては、例えば、通常の相関関数、位相相関関数、強度の2乗根を重みとして位相相関をとる方法などがある。
【0145】
実施の形態1では、連続する前後の2つの3次元画像データを取得する度に、2つの3次元画像データの位置合わせを行っている。
【0146】
[3次元口腔領域断層撮影データ及び3次元口腔内画像データの位置合わせ方法]
補助器具10を用いた3次元口腔領域断層撮影データ及び3次元口腔内画像データの位置合わせ方法について図
12を用いて説明する。
図12は、本発明の実施の形態1に係る補助器具10を用いた3次元口腔領域断層撮影データ及び3次元口腔内画像データの位置合わせ方法の一例のフローチャートである。
【0147】
図12に示すように、ステップST41において、3次元口腔内画像データを作成する。具体的には、ステップST41は、
図10に示すステップST31~ST36を実行する。3次元口腔内画像データは、補助器具10と共に3次元計測された3次元口腔内画像データである。
【0148】
あるいは、3次元口腔内画像データは、従来の印象法で歯列模型を製作してもよい。ステップST41において、歯列模型に補助器具10を配置し、技工用デスクトップスキャナーで3次元計測することによって、3次元口腔内画像データを取得してもよい。
【0149】
ステップST42において、補助器具10が配置されている口腔領域を、CTスキャンすることによって、3次元口腔領域断層撮影データを取得する。これにより、補助器具10と共に3次元口腔領域断層撮影データを取得する。CTスキャンは、例えば、CT撮影装置によって行われる。なお、CT撮影装置は、例えば、制御装置によって制御される。
【0150】
CT撮影装置は、3次元口腔領域断層撮影データを制御装置に送信する。
【0151】
ステップST43において、既知の寸法を有する複数の識別部12を利用して、3次元口腔領域断層撮影データ及び3次元口腔内画像データの寸法を補正する。具体的には、3次元口腔領域断層撮影データ及び3次元口腔内画像データの複数の識別部12の寸法が既知の寸法となるように、3次元口腔領域断層撮影データ及び3次元口腔内画像データの寸法を拡大縮小して補正する。既知の寸法とは、予め定められている寸法を意味し、識別部12の実際の寸法を意味する。
【0152】
ステップST44において、複数の識別部12に基づいて、補正した3次元口腔領域断層撮影データ及び3次元口腔内画像データを位置合わせする。例えば、反復最近接点法(ICP法)、参照点ベストフィット法、3点位置合わせ法などによって、補正した3次元口腔領域断層撮影データ及び3次元口腔内画像データの位置合わせを行う。
【0153】
このように、識別部12の既知の寸法を、得られた3次元口腔領域断層撮影データ及び3次元口腔内画像データの寸法補正に用いることができる。また、寸法補正がなされることで従来よりも高精度な3次元画像位置合わせができる。
【0154】
なお、口腔内3次元画像データと3次元口腔領域断層撮影データとを用いて3次元口腔内画像データの寸法を決定する方法において、補助器具10は、X線造影剤が添加された材料で形成されているものを用いることが好ましい。
【0155】
[補綴装置の製造方法]
また、上述した補助器具10を用いた3次元画像データ作成方法は、補綴装置を製造する方法に用いることも可能である。
【0156】
補綴装置を製造する方法は、例えば、
図10に示すステップST31~ST36に加えて、作成した3次元口腔内画像データに基づいて、補綴装置を製作するステップを含む。
【0157】
補綴装置を製作するステップでは、3次元口腔内画像データから口腔内の3次元形状に適合した補綴装置を製作する。
【0158】
具体的には、補綴装置を製作するステップは、図10に示すステップST31~ST36に加えて、以下の工程A11~A16を含む。
【0159】
(工程A11)作成した3次元口腔内画像データを歯科用3DCADにインポートする。
【0160】
(工程A12)歯科用3DCADを用いて各補綴装置の形態を補綴歯科学的設計指針に基づきデザインする。
【0161】
(工程A13)デザインした各補綴装置の3DデータをSTL形式のデータとしてエクスポートする。
【0162】
(工程A14)歯科用CAMソフトウェアに作成したSTL形式のデータをインポートして、加工に用いる工作機械に応じて切削加工用データ(NCデータ)あるいは3Dプリント用データ(スライスデータ)を作成する。
【0163】
(工程A15)作成した出力データ(切削加工用データあるいは3Dプリント用データ)を用いて、切削加工あるいは3Dプリントを行う
【0164】
例えば、切削加工の加工用材料は、ジルコニア、PMMA、ワックス、コンポジットレジン、グラスファイバー強化型レジン、コバルトクロム合金、チタン合金、純チタン等である。
【0165】
例えば、3Dプリント用の材料は、光造形用樹脂、FDM方式用樹脂、PEEK、ABS、ジルコニア、コバルトクロム合金粉末、チタン合金粉末、純チタン粉末等である。
【0166】
(工程A16)加工完了後、レストやサポートの除去を行い、調整及び研磨を行う。これにより、補綴装置が完成する。
【0167】
なお、補綴装置は、インレー、クラウン、ブリッジなど様々な種類があるが、製作方法は前記の工程で製作可能である。異なる点は、歯科用3DCADでの詳細なモデリング法である。
【0168】
[効果]
本発明に係る補助器具、補助器具の製造方法、及び補助器具を用いた3次元画像データ作成方法によれば、以下の効果を奏することができる。
【0169】
補助器具10は、第1面と第1面に対向する第2面とを有するシート部11、及びシート部11の第1面(上面)からシート部11の厚み方向に形成され、且つ、それぞれ識別可能な立体形状を有する複数の識別部12を有する。このような構成により、口腔内を3次元計測した複数の3次元画像データを繋ぎ合わせて3次元口腔内画像データを作成する場合において、複数の識別部12を複数の3次元画像データの位置合わせの基準として用いることができる。これにより、3次元口腔内画像データの正確度及び精度を向上させることができる。
【0170】
複数の識別部12は、シート部11の第1面から第2面に向かう方向と反対方向に突出した凸部、シート部11の第1面から第2面に向かって窪んだ凹部、及びシート部11の第1面と第2面とを連通する孔、のうち少なくとも1つの形状を有する。このような構成により、複数の識別部12が制御装置によって識別されやすくなるため、複数の3次元画像データを容易に位置合わせして繋ぎ合わせることができる。これにより、3次元口腔内画像データの正確度及び精度を更に向上させることができる。
【0171】
複数の識別部12のうち隣り合う識別部の形状は異なっている。このような構成により、複数の識別部12が制御装置によって更に識別されやすくなるため、3次元口腔内画像データの正確度及び精度を更に向上させることができる。
【0172】
複数の識別部12は、文字、数字、記号、絵、紋章、模様、シンボル、及び形態のうち少なくとも1つの形状を有する。このような構成により、複数の識別部12が制御装置によって更に識別されやすくなるため、3次元口腔内画像データの正確度及び精度を更に向上させることができる。
【0173】
複数の識別部12のそれぞれは、シート部11の厚み方向における寸法が0.10mm以上3.00mm以下で形成され、且つシート部11の厚み方向から見て長手方向及び短手方向における寸法が0.10mm以上20.00mm以下で形成される。このような構成により、複数の識別部12が制御装置によって更に識別されやすくなるため、3次元口腔内画像データの正確度及び精度を更に向上させることができる。
【0174】
補助器具10は、生体安全性が認められた着色剤を含む材料で形成されている。このような構成により、補助器具10の色を口腔内の色と異なるように着色することによって、複数の識別部12をより識別しやすくすることができる。これにより、3次元口腔内画像データの正確度及び精度を更に向上させることができる。
【0175】
補助器具10は、X線造影剤が添加された材料で形成される。このような構成により、CTスキャンする場合でも、補助器具10の形状を3次元計測することができる。
【0176】
シート部11は、厚みが0.10mm以上3.00mm以下、且つシート部11の厚み方向から見て長手方向及び短手方向における寸法が1.00mm以上200.00mm以下の矩形形状を有する。このような構成により、補助器具10を口腔内あるいは顔面部周辺に配置しやすいという利点がある。
【0177】
補助器具10Aにおいて、シート部11aは、シート部11aの厚み方向(Z方向)から見て半円形状を有し、シート部11aにおいて円弧状の外縁部は、シート部11aの第1面から第2面に向かって屈曲している。このような構成により、補助器具10Aの形状を患者の歯肉形状に対応した形状とすることができ、補助器具10を口腔内に配置しやすくなる。
【0178】
補助器具10Bにおいて、シート部11bは、シート部11bの厚み方向から見てU字状に屈曲して形成され、且つシート部11bを厚み方向に切断した断面において、シート部11bの第2面から第1面に向かう方向に窪む凹状の断面形状を有しているこのような構成により、補助器具10Bの形状を患者の歯肉形状により対応した形状とすることができ、補助器具10Bを口腔内により配置しやすくなる。
【0179】
[実施例]
実施例1として、本発明の実施の形態1の補助器具10を用いた3次元画像データの作成方法を実行することによって取得した3次元口腔内画像データの例を説明する。また、比較例1として、補助器具10を用いずに3次元口腔内画像データを作成した例についても説明する。なお、実施例1及び比較例1ともに模型の口腔内を印象採得装置で連続して3次元計測し、複数の3次元画像データを繋ぎ合わせることによって3次元口腔内画像データを作成した。
【0180】
図13は、実施例1として、補助器具10を用いた3次元画像データ作成方法によって作成した3次元画像データの一例を示す。
図14は、比較例1として、補助器具10を用いずに作成した3次元画像データの一例を示す。
【0181】
実施例1では、
図13に示すように、補助器具10を用いることによって、印象採得装置によって3次元計測された複数の3次元画像データを、複数の識別部12を位置合わせの基準として用いて、繋ぎ合わせている。これにより、実施例1では、患者の口腔内の形状を表した3次元口腔内画像データの正確度が向上していることがわかる。
【0182】
一方、比較例1では、
図14に示すように、印象採得装置によって3次元計測された複数の3次元画像データを、歯肉形状の曲率又はエッジを位置合わせの基準として用いて、繋ぎ合わせている。このため、比較例1では、複数の3次元画像データを繋ぎ合わせるときに、誤って繋ぎ合わせてしまうことがある。このため、比較例1では、3次元口腔内画像データの正確度を改善することが困難である。
【0183】
このように、実施例1は、比較例1と比べて、3次元口腔内画像データの正確度を向上させることができる。
【0184】
次に、実施例1と比較例1とにおいて、補綴装置が取り付けられる取り付けピン21a、21bとの間の距離を測定し、実測値との誤差をそれぞれ算出する。
【0185】
図15は、実施例1の3次元画像データの正確度の評価を行うために測定した距離L1を示す。具体的には、印象採得装置(TRIOS3 オーラルスキャナ,3Shape)を用いて実施例1の3次元画像データを3次元計測し、得られたデータを3DCAD(Rhinoceros 4.0, version 4.0, Robert McNeel&Associates)で入力することによって、実施例1の3次元画像データの取り付けピン21a、21bの間の距離L1を測定する。
【0186】
比較例1においても、実施例1と同様に、印象採得装置(TRIOS3 オーラルスキャナ)及び3DCADを用いて、比較例1の3次元画像データの取り付けピン21a、21bの間の距離L1を測定する。
【0187】
取り付けピン21a、21bの間の距離L1について、実測値、実施例1、及び比較例1の測定結果について表1に示す。
【0188】
【0189】
表1に示すように、実施例1では実測値との差が0.03mmである。比較例1では、実測値との差が0.18mmである。このように、実施例1では、比較例1と比べて、実測値との差が小さくなっており、3次元画像データの正確度が向上している。
【0190】
[変形例]
次に、変形例の補助器具について説明する。
【0191】
[補助器具]
図16は、本発明の実施の形態1に係る別の変形例の補助器具50を示す斜視図である。
図17は、補助器具50を患者の口に装着した状態の一例を示す。
図16及び
図17に示す補助器具50は、患者の口に装着可能に構成されている。
【0192】
図16及び
図17に示すように、補助器具50は、複数の識別部12が形成されたシート部11に加えて、更に、口唇部51、口角部52、連結部53、ハンドル部54、及び舌固定部55を備える。シート部11は、口角部52に接続され、且つ口角部52から患者の口腔内へ向かって延びている。なお、舌固定部55は、必須の構成ではない。
【0193】
口唇部51は、患者の口唇を広げて固定する部材である。口唇部51は、患者の上口唇と下口唇とにそれぞれ配置される。口唇部51は、患者の上口唇を上方向に広げ、下口唇を下方向に広げて、患者の歯肉部分を露出させる。口唇部51は、患者の口唇にフィットするような形状を有する。具体的には、口唇部51は、断面が凹状に形成されている。
【0194】
口角部52は、患者の口角、即ち、患者の上口唇と下口唇の接合部に配置される部材である。口角部52は、患者の口角を左右方向に広げて固定する。口角部52は、患者の口角にフィットするように、フック形状を有する。具体的には、口角部52は、断面が凹状に形成されている。口角部52は、連結部53によって連結されている。
【0195】
口角部52には、シート部11が接続されている。シート部11は、口角部52から患者の口腔内へ向かって延びている。
【0196】
連結部53は、口唇部51と口角部52とを連結する部材である。連結部53は、変形可能な部材で形成されている。例えば、口唇部51及び口角部52が患者の口唇及び口角を広げるときに、連結部53が変形する。そして、連結部53は、変形した状態を維持することによって、口唇部51及び口角部52の位置を固定する。これにより、患者の口を開いたままにすることができる。
【0197】
ハンドル部54は、ユーザが把持可能な部分である。ハンドル部54は、口角部52に接続されており、口角部52から患者の口角を広げる方向に延びる板状の部材で形成されている。
【0198】
舌固定部55は、患者の舌を固定するものである。舌固定部55は、口角部52と連結されている。
【0199】
図18は、補助器具50を患者の口に装着した状態の別例を示す。なお、
図18は、舌固定部55の図示を省略している。
図18に示すように、補助器具50が患者の口に装着された状態においては、口角部52から患者の口腔内に向かって延びるシート部11が、患者の口腔内に配置される。これにより、印象採得装置によって、口腔内を3次元計測するときに口腔内の形状と共にシート部11に形成された複数の識別部12が3次元計測される。その結果、補助器具50において、複数の識別部12に基づいて、複数の3次元画像データを位置合わせすることができ、3次元口腔内画像データの正確度を向上させることができる。
【0200】
補助器具50の製造方法については、上述した補助器具10の製造方法と同様の方法で製造することができる。例えば、上述したような射出成形あるいは3Dプリンタによって、補助器具50を製造することができる。
【0201】
なお、
図16~18に示す補助器具50においては、シート部11は口角部52に接続されている例について説明したが、これに限定されない。シート部11は、口唇部51に接続され、口唇部51から患者の口腔内へ向かって延びていてもよい。
【0202】
図19は、本発明の実施の形態1に係る別の変形例の補助器具60を示す斜視図である。
図19に示す補助器具60は、咬合床形態を有する。なお、
図19に示す補助器具60は、上下無歯顎の場合に使用される。
【0203】
具体的には、補助器具60は、上顎咬合床70と、上顎咬合床70と適合する下顎咬合床80と、を具備する。実施の形態では、上顎咬合床70と下顎咬合床80とは、一体で形成されておらず、分離可能である。
【0204】
上顎咬合床70は、第1基礎床部71と、第1基礎床部71と接続される第1咬合堤部72と、を備える。
【0205】
第1基礎床部71は、患者の上顎の口腔粘膜の形態に適合する形態を有する。具体的には、第1基礎床部71は、患者の上顎の口腔粘膜の形態に適合する第1プレート、及び第1プレートの端面から患者の上顎の口腔粘膜側に延びる、複数の識別部12が形成されたシート部11を有する。
【0206】
第1プレートは、半円形状の板状の部材で形成されている。第1プレートの上面は、患者の上顎の口腔粘膜と接触する。第1プレートの下面は、第1咬合堤部72と接続される。
【0207】
第1基礎床部71のシート部11は、第1プレートの端面から患者の上顎の口腔粘膜側に延びている。第1プレートの端面とは、第1プレートの外面において、上面と下面とを接続する側面である。第1プレートの端面は、第1プレートの上面及び下面と交差する方向に延びている。
【0208】
第1基礎床部71のシート部11は、第1基礎床部71を上側からみてU字状に形成されている。補助器具60を患者の口腔内に配置した状態において、第1基礎床部71のシート部11は、患者の口唇と歯槽頂との間に配置される。
【0209】
第1基礎床部71は、例えば、ワックス、常温重合レジン(PMMA)等で形成されている。
【0210】
第1咬合堤部72は、上顎の歯槽上に配置され、且つ第1基礎床部71の第1プレートと接続される。第1咬合堤部72は、板状の部材で形成されている。具体的には、第1咬合堤部72は、半円形状の板状部材で形成されている。第1咬合堤部72は、第1基礎床部71の第1プレートの延びる方向と同じ方向に延びている。第1咬合堤部72の上面は、第1基礎床部71の第1プレートの下面と接続されている。
【0211】
第1咬合堤部72の端面には、複数の識別部12が形成されている。第1咬合堤部72の端面とは、第1咬合堤部72の外面において、上面と下面とを接続する側面である。実施の形態1では、第1咬合堤部72は、第1基礎床部71の形状に沿って形成されている。
【0212】
第1咬合堤部72は、例えば、ワックスで形成されている。
【0213】
下顎咬合床80は、第2基礎床部81と、第2基礎床部81と接続される第2咬合堤部82と、を備える。
【0214】
第2基礎床部81は、患者の下顎の口腔粘膜の形態に適合する形態を有する。具体的には、第2基礎床部81は、患者の下顎の口腔粘膜の形態に適合する第2プレート、及び第2プレートの端面から患者の下顎の口腔粘膜側に延びる、複数の識別部12が形成されたシート部11を有する。
【0215】
第2プレートは、U字形状の板状の部材で形成されている。第2プレートの下面は、患者の下顎の口腔粘膜と接触する。第2プレートの上面は、第2咬合堤部82と接続される。
【0216】
第2基礎床部81のシート部11は、第2プレートの端面から患者の下顎の口腔粘膜側に延びている。第2プレートの端面とは、第2プレートの外面において、上面と下面とを接続する側面である。第2プレートの端面は、第2プレートの上面及び下面と交差する方向に延びている。
【0217】
第2基礎床部81のシート部11は、第2基礎床部81を下側からみてU字状に形成されている。補助器具60を患者の口腔内に配置した状態において、第2基礎床部81のシート部11は、患者の口唇と歯槽頂との間に配置される。
【0218】
第2基礎床部81は、例えば、ワックス、常温重合レジン(PMMA)等で形成されている。
【0219】
第2咬合堤部82は、下顎の歯槽上に配置され、且つ第2基礎床部81の第2プレートと接続される。第2咬合堤部82は、板状の部材で形成されている。具体的には、第2咬合堤部82は、U字形状の板状部材で形成されている。第2咬合堤部82は、第2基礎床部81の第2プレートの延びる方向と同じ方向に延びている。第2咬合堤部82の下面は、第2基礎床部81の第2プレートの上面と接続されている。
【0220】
第2咬合堤部82の端面には、複数の識別部12が形成されている。第2咬合堤部82の端面とは、第2咬合堤部82の外面において、上面と下面とを接続する側面である。第1咬合堤部72は、第2基礎床部81の形状に沿って形成されている。
【0221】
第2咬合堤部82は、例えば、ワックスで形成されている。
【0222】
上述した構成の補助器具60は、デジタル咬合採得に用いられる。なお、図19に示す補助器具60は、上下無歯顎の場合に用いられる形状の一例である。補助器具60は、残存歯及び顎堤粘膜の形態によって、異なる形状を有していてもよい。例えば、歯が残存している患者の咬合採得をする場合、補助器具60は、残存している歯を被覆せずに、歯を補助器具60の外部に露出させる孔が空けられた形状であってもよい。
【0223】
補助器具60を用いたデジタル咬合採得について説明する。
【0224】
(工程A21)上顎と下顎とをそれぞれ、印象採得装置によって3次元計測する。これにより、上顎の3次元画像データと、下顎の3次元画像データとを取得する。
【0225】
(工程A22)補助器具60を患者の口腔内に配置する。具体的には、上顎咬合床70が患者の上顎に配置され、下顎咬合床80が患者の下顎に配置される。なお、補助器具60は、顎堤粘膜の一部を露出させるような形態であってもよい。
【0226】
(工程A23)患者が口を閉じた状態において、印象採得装置によって、咬合採得を行う。具体的には、印象採得装置によって、補助器具60と共に上顎と下顎を3次元計測する。具体的には、補助器具60で覆われた上顎及び下顎の部分と、顎堤粘膜が露出した部分とをまとめて3次元計測する。
【0227】
このとき、補助器具60を用いて、中心咬合位、咬合平面及び咬合高径の決定、前庭側の豊隆、人工歯排列の基準線の記入などを行ってもよい。
【0228】
(工程A24)咬合採得によって取得された複数の3次元画像データから咬合状態の3次元口腔内画像データを作成する。咬合状態の3次元口腔内画像データは、図10に示すステップST33~ST36を行うことによって、作成することができる。
【0229】
(工程A25)工程21で得られた上顎及び下顎の3次元画像データと、工程24で得られた咬合状態の3次元口腔内画像データとを、例えば、反復最近接点法(ICP法)で位置合わせする。
【0230】
以上の工程により、デジタル咬合採得を行うことができる。
【0231】
例えば、補助器具60は、通常の方法で製作された咬合床に複数の識別部12を有するシート部11を接着剤などで固定する方法で製作されてもよい。補助器具60は、口腔内の概形3次元画像データを取得し、歯科用3DCADを用いて補助器具60を設計し、3Dプリンタによって製作してもよい。あるいは、補助器具60は、複製義歯に複数の識別部12を有するシート部11を接着剤などで固定する方法によって製作されてもよい。複製義歯とは、光学式の3次元スキャナで3次元画像データを取得し、3Dプリンタで3Dプリントしたもの、又は旧義歯の陰型に常温重合レジンを流し込んで製作したものを意味する。
【0232】
補助器具60によれば、デジタル咬合採得の正確度及び精度を向上させることができる。
【0233】
実施の形態1では、補助器具60の第1咬合堤部72の端面に、複数の識別部12が形成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、第1基礎床部71のシート部11が第1プレートの端面から第1咬合堤部72の端面に延びていてもよい。また、第2咬合堤部82の端面に、複数の識別部12が形成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、第2基礎床部81のシート部11が第2プレートの端面から第2咬合堤部82の端面に延びていてもよい。
【0234】
実施の形態1では、1つのコンピュータである制御装置が、印象採得装置、CT撮影装置、及び製作装置を制御する例について説明したが、これに限定されない。例えば、印象採得装置、CT撮影装置、及び製作装置は、それぞれ制御装置を備えていてもよい。
【0235】
上述した実施の形態1の補助器具、補助器具の製造方法、補助器具を用いた3次元画像データ作成方法、補助器具を用いた補綴物の製造方法、及び補助器具を用いた寸法決定方法においては、適用される環境に応じて、構成要素を追加、減少、分割、及び統合してもよい。
【0236】
本発明をある程度の詳細さをもって各実施形態において説明したが、これらの実施形態の開示内容は構成の細部において変化してしかるべきものであり、各実施形態における要素の組合せや順序の変化は請求された本発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0237】
本発明に係る補助器具、補助器具の製造方法、及び補助器具を用いた3次元画像データ作成方法は、3次元口腔内画像データを精度高く作成することができる。このため、歯科領域における診査診断及び補綴装置、矯正装置、保隙装置、スプリント及び手術支援装置等医科及び歯科治療に用いる装置の品質向上及び均一化に有用である。
【符号の説明】
【0238】
10、10A、10B 補助器具
11、11a、11b シート部
12 識別部
13 外縁部
14 中央部
20 模型
21a、21b 取り付けピン
30 印象採得装置
50 補助器具
51 口唇部
52 口角部
53 連結部
54 ハンドル部
55 舌固定部
60 補助器具
70 上顎咬合床
71 第1基礎床部
72 第1咬合堤部
80 下顎咬合床
81 第2基礎床部
82 第2咬合堤部