IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テイカ株式会社の特許一覧

特許7065683導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントおよびその溶液、導電性高分子およびその製造方法、並びに電解コンデンサおよびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントおよびその溶液、導電性高分子およびその製造方法、並びに電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20220502BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20220502BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20220502BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C08G61/12
C08G73/00
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018086006
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189783
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鶴元 雄平
(72)【発明者】
【氏名】関 恵実
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-312626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G61
C08G73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)および(b)
(a)少なくとも1つの炭化水素基と少なくとも1つのスルホン酸基とを含有し、前記炭化水素基が含有する総炭素数が6~20であるベンゼンスルホン酸、および少なくとも1つの炭化水素基と少なくとも1つのスルホン酸基とを含有し、前記炭化水素基が含有する総炭素数が12~20であるナフタレンスルホン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機スルホン酸またはその第二鉄塩、
(b)ナフタレンスルホン酸またはその第二鉄塩
を含有し、かつ前記(a)および前記(b)の少なくとも一部は第二鉄塩であり、
前記(b)の含有量を100質量部としたときの前記(a)の含有量が、1~50質量部であることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項2】
前記(a)および前記(b)が含有する鉄1モルに対して、前記(a)のうちの有機スルホン酸および前記(b)のうちのナフタレンスルホン酸の合計量が4.5モル未満である請求項1に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント。
【請求項3】
請求項1または2に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントが溶媒に溶解していることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項4】
前記導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントの濃度が20~70質量%である請求項3に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項5】
前記溶媒として、水、アルコール、または水とアルコールとの混合液を含有する請求項3または4に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項6】
水分含有量が3質量%以下である請求項3~5のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項7】
請求項1または2に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントを用いて、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合してなるものであることを特徴とする導電性高分子。
【請求項8】
請求項3~6のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合してなるものであることを特徴とする導電性高分子。
【請求項9】
請求項1または2に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントを用いて、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合して導電性高分子を得ることを特徴とする導電性高分子の製造方法。
【請求項10】
請求項3~6のいずれかに記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合して導電性高分子を得ることを特徴とする導電性高分子の製造方法。
【請求項11】
固体電解質を有する電解コンデンサであって、
請求項7または8に記載の導電性高分子を、前記固体電解質として有することを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項12】
固体電解質を有する電解コンデンサを製造する方法であって、
請求項9または10に記載の導電性高分子の製造方法によって製造された導電性高分子を、前記固体電解質として用いることを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏れ電流が小さく、かつ等価直列抵抗が低い電解コンデンサおよびその製造方法、前記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに前記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパントおよびその溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどの電解質(固体電解質)として用いられている。
【0003】
この用途における導電性高分子としては、例えば、チオフェンまたはその誘導体などを化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られたものが用いられている。
【0004】
上記チオフェンまたはその誘導体などの化学酸化重合を行う際のドーパントとしては、主として有機スルホン酸が用いられ、酸化剤としては、遷移金属が用いられ、その中でも第二鉄が適しているといわれている。そして、通常、有機スルホン酸の第二鉄塩がチオフェンまたはその誘導体などの化学酸化重合にあたって酸化剤兼ドーパントとして用いられている(例えば特許文献1~3)。
【0005】
しかしながら、有機スルホン酸の第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて合成した導電性高分子を固体電解質として用いて製造した電解コンデンサは、漏れ電流が大きくなるという問題があった。
【0006】
一方、このような電解コンデンサの漏れ電流の低減を図る技術も検討されている。例えば、特許文献4には、有機スルホン酸第二鉄と特定のリン酸化合物とを含む酸化剤兼ドーパントを使用して製造した導電性高分子によって、電解コンデンサを構成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-138136号公報
【文献】特開2003-160647号公報
【文献】特開2004-265927号公報
【文献】国際公開第2015/129515号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特許文献4に記載の技術とは異なる手法によって、漏れ電流が小さく、かつ等価直列抵抗が低い電解コンデンサおよびその製造方法、前記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに前記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパントおよびその溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント(以下、「酸化剤兼ドーパント」という場合がある)は、以下の(a)および(b)
(a)少なくとも1つの炭化水素基を含有し、前記炭化水素基が含有する総炭素数が6~20であるベンゼンスルホン酸、および少なくとも1つの炭化水素基を含有し、前記炭化水素基が含有する総炭素数が6~20であるナフタレンスルホン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機スルホン酸またはその第二鉄塩、
(b)ナフタレンスルホン酸またはその第二鉄塩
を含有し、かつ前記(a)および前記(b)の少なくとも一部は第二鉄塩であり、前記(b)の含有量を100質量部としたときの前記(a)の含有量が、1~50質量部であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液(以下、「酸化剤兼ドーパント溶液」という場合がある)は、本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントが溶媒に溶解していることを特徴とするものである。
【0011】
更に、本発明の導電性高分子は、本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントを用いるか、または本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合してなるものであることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の導電性高分子の製造方法は、本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントを用いるか、または本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合して導電性高分子を得ることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の電解コンデンサは、本発明の導電性高分子を、固体電解質として有することを特徴とするものである。
【0014】
そして、本発明の電解コンデンサの製造方法は、本発明の製造方法によって得られた導電性高分子を、固体電解質として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、漏れ電流が小さく、かつ等価直列抵抗が低い電解コンデンサおよびその製造方法、前記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに前記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパントおよびその溶液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の酸化剤兼ドーパントは、(a)少なくとも1つの炭化水素基を含有し、前記炭化水素基が含有する総炭素数が6~20であるベンゼンスルホン酸、および少なくとも1つの炭化水素基を含有し、前記炭化水素基が含有する総炭素数が6~20であるナフタレンスルホン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機スルホン酸またはその第二鉄塩と、(b)ナフタレンスルホン酸またはその第二鉄塩〔炭化水素基などの置換基を含有しないナフタレンスルホン酸またはその第二鉄塩〕とを含有している。そして、前記(a)および前記(b)の少なくとも一部は第二鉄塩であり、前記(b)の含有量を100質量部としたときの前記(a)の含有量が1質量部以上50質量部以下である。
【0017】
本発明の酸化剤兼ドーパントは、導電性高分子の重合の際に酸化剤として作用すると共に、形成後の導電性高分子に取り込まれてドーパントとして機能する。そして、本発明の酸化剤兼ドーパントを用いるか、または本発明の酸化剤兼ドーパントを溶液に溶解させた本発明の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて得られた導電性高分子(本発明の導電性高分子)を固体電解質として使用することで、電解コンデンサの漏れ電流や等価直列抵抗(ESR)を低減でき、また、その耐熱性を高めることもできる。
【0018】
炭化水素基を含有するベンゼンスルホン酸やその第二鉄塩、および炭化水素基を含有するナフタレンスルホン酸やその第二鉄塩は、上記炭化水素基を1個有していればよく、複数個有していてもよいが、2個以下であることが好ましい。
【0019】
(a)成分である炭化水素基を含有するベンゼンスルホン酸やその第二鉄塩、および炭化水素基を含有するナフタレンスルホン酸やその第二鉄塩が有する上記炭化水素基は、酸化剤兼ドーパントやその溶液を用いて重合される導電性高分子を有する電解コンデンサにおいて、その漏れ電流低減を可能とする観点から、炭素数が一定値以上である必要がある。(a)成分は、上記の通り、炭化水素基を少なくとも1個有していればよく、複数個有していてもよいが、その炭化水素基の総炭素数(炭化水素基が1個の場合は、その炭化水素基の炭素数であり、炭化水素基が複数個の場合は、全ての炭化水素基が有する炭素数の合計。以下同じ。)が、炭素数が6以上であり、8以上であることが好ましい。
【0020】
他方、炭化水素基が長すぎると、酸化剤兼ドーパント溶液やモノマーを重合するための重合溶液の調製の際に、溶媒に溶解し難くなり、また、炭化水素基の長いものは入手が容易ではないことから、(a)成分である炭化水素基を含有するベンゼンスルホン酸やその第二鉄塩、および炭化水素基を含有するナフタレンスルホン酸やその第二鉄塩が有する上記炭化水素基は、その総炭素数が、20以下であり、18以下であることが好ましい。
【0021】
すなわち、上記ベンゼンスルホン酸やその第二鉄塩、および上記ナフタレンスルホン酸やその第二鉄塩が、複数個の炭化水素基を含有している場合には、全ての炭化水素基の炭素数の合計が上記の値を満たしていれば、個々の炭化水素基は炭素数が6未満であってもよい。
【0022】
上記ベンゼンスルホン酸やその第二鉄塩、および上記ナフタレンスルホン酸やその第二鉄塩が含有する炭化水素基としては、アルキル基(すなわち、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基)が好ましい。
【0023】
また、炭化水素基を含有するベンゼンスルホン酸やその第二鉄塩、および炭化水素基を含有するナフタレンスルホン酸やその第二鉄塩は、スルホン酸基またはスルホン酸の第二鉄塩基を1個有していればよく、複数個有していてもよいが、2個以下であることが好ましい。
【0024】
酸化剤兼ドーパントに好適な(a)成分の具体例としては、ヘキシルベンゼンスルホン酸、ヘプチルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸、ヘプタデシルベンゼンスルホン酸、オクタデシルベンゼンスルホン酸、ノナデシルベンゼンスルホン酸、エイコシルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸;ヘキシルベンゼンジスルホン酸、ヘプチルベンゼンジスルホン酸、オクチルベンゼンジスルホン酸、ノニルベンゼンジスルホン酸、デシルベンゼンジスルホン酸、ウンデシルベンゼンジスルホン酸、ドデシルベンゼンジスルホン酸、トリデシルベンゼンジスルホン酸、テトラデシルベンゼンジスルホン酸、ペンタデシルベンゼンジスルホン酸、ヘキサデシルベンゼンジスルホン酸、ヘプタデシルベンゼンジスルホン酸、オクタデシルベンゼンジスルホン酸、ノナデシルベンゼンジスルホン酸、エイコシルベンゼンジスルホン酸などのアルキルベンゼンジスルホン酸;ヘキシルナフタレンスルホン酸、ヘプチルナフタレンスルホン酸、オクチルナフタレンスルホン酸、ノニルナフタレンスルホン酸、デシルナフタレンスルホン酸、ウンデシルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、トリデシルナフタレンスルホン酸、テトラデシルナフタレンスルホン酸、ペンタデシルナフタレンスルホン酸、ヘキサデシルナフタレンスルホン酸、ヘプタデシルナフタレンスルホン酸、オクタデシルナフタレンスルホン酸、ノナデシルナフタレンスルホン酸、エイコシルナフタレンスルホン酸などのアルキルナフタレンスルホン酸;ジプロピルナフタレンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、ジヘキシルナフタレンスルホン酸、ジヘプチルナフタレンスルホン酸、ジオクチルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジデシルナフタレンスルホン酸などのジアルキルナフタレンスルホン酸;ジプロピルナフタレンジスルホン酸、ジブチルナフタレンジスルホン酸、ジヘキシルナフタレンジスルホン酸、ジヘプチルナフタレンジスルホン酸、ジオクチルナフタレンジスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ジデシルナフタレンジスルホン酸などのジアルキルナフタレンジスルホン酸;などや、これらの第二鉄塩が挙げられる。酸化剤兼ドーパントは、上記例示の(a)成分のうちの1種のみを含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0025】
(a)成分である上記化合物は、以下のようにして得ることができる。例えば、フリーデルクラフツ反応により、ルイス酸触媒を用いて塩化アルキルまたは臭化アルキルを反応させ、アルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンを得た後、アルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンに硫酸を反応して得ることができる。また、(a)成分は、市販品を使用することもできる。
【0026】
酸化剤兼ドーパントの(b)成分は、ナフタレンスルホン酸またはその第二鉄塩(ナフタレンスルホン酸第二鉄)であり、酸化剤兼ドーパントは、(b)成分として、これらのうちのいずれか一方を含有していてもよく、両方を含有していてもよい。
【0027】
酸化剤兼ドーパントにおいて、(a)成分および(b)成分が含有する鉄(鉄原子)1モルに対して、(a)成分のうちの有機スルホン酸(第二鉄塩ではない有機スルホン酸)と(b)成分のうちのナフタレンスルホン酸(第二鉄塩ではないナフタレンスルホン酸)との合計量は、含有量が多いと酸が分解し、耐熱変化が大きくなることから、4.5モル未満であることが好ましく、4モル以下であることがより好ましい。他方、酸化剤兼ドーパントにおいて、(a)成分および(b)成分が含有する鉄(鉄原子)1モルに対する(a)成分のうちの有機スルホン酸と(b)成分のうちのナフタレンスルホン酸との合計量は、少ないと重合速度が遅く、電解コンデンサの初期ESRが高くなることから、2モル以上であることが好ましい。
【0028】
更に、酸化剤兼ドーパントにおいて、(b)成分の含有量を100質量部としたときの(a)成分の含有量は、酸化剤兼ドーパントやその溶液を用いて重合される導電性高分子を有する電解コンデンサの漏れ電流の低減効果や耐熱性向上効果を良好に確保する観点から、1質量部以上であり、5質量部以上であることが好ましい。ただし、(b)成分に対する(a)成分の比率が大きすぎると、酸化剤兼ドーパントやその溶液を用いて重合される導電性高分子を有する電解コンデンサのESRが大きくなるため、これを抑制する観点から、酸化剤兼ドーパントにおける(b)成分の含有量を100質量部としたときの(a)成分の含有量は、50質量部以下であり、40質量部以下であることがより好ましい。
【0029】
酸化剤兼ドーパントは、(a)成分および(b)成分のみで構成されていてもよいが、(a)成分および(b)成分以外の有機スルホン酸やその第二鉄塩を含有していてもよい。
【0030】
(a)成分および(b)成分以外の有機スルホン酸やその第二鉄塩としては、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体などの芳香族系スルホン酸;ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、スチレンスルホン酸と非スルホン酸系モノマーとの共重合体などの高分子スルホン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸などの鎖状スルホン酸;これらの第二鉄塩;が挙げられる。
【0031】
なお、酸化剤兼ドーパントに(a)成分および(b)成分以外の有機スルホン酸やその第二鉄塩を添加する場合には、酸化剤兼ドーパント中の含有量を15質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
また、酸化剤兼ドーパントには、(a)成分および(b)成分、更には上記他の有機スルホン酸やその第二鉄塩以外にも、必要に応じて他の添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、グリシジル基(エポキシ基)を有する化合物またはその開環化合物;多価アルコール;シランカップリング剤などの高分子化化合物;ポリシロキサン、アルコール可溶性樹脂、ポリエチレングリコールなどの高分子;などが挙げられる。
【0033】
グリシジル基を有する化合物またはその開環化合物としては、以下に示すモノグリシジル化合物、以下に示すジグリシジル化合物、グリセリンジグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテル、アルコール可溶性エポキシ樹脂、アルコール可溶性ポリグリセリンポリグリシジルやそれらの開環化合物、エポキシポリシロキサン(上記の「ポリシロキサン」とは「シロキサン結合が2つ以上のもの」をいう)またはその開環化合物などが好適なものとして挙げられる。
【0034】
上記モノグリシジル化合物としては、エポキシプロパノール(つまり、グリシドール)、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、エポキシブタン(つまり、グリシジルメタン)、エポキシペンタン(つまり、グリシジルエタン)、エポキシヘキサン(つまり、グリシジルプロパン)、エポキシヘプタン(つまり、グリシジルブタン)、エポキシオクタン(つまり、グリシジルペンタン)、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
【0035】
また、上記ジグリシジル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブチレングリコールジグリシジルエーテル、ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキシレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
グリシジル基を有する化合物またはその開環化合物の、酸化剤兼ドーパントにおける添加量は、酸化剤兼ドーパント中の(a)成分および(b)成分の合計量を100質量部としたとき、5~100質量部とすることが好ましい。
【0037】
多価アルコールとしては、炭素数2~10の脂肪族炭化水素にヒドロキシ基を2~3個有するものが好ましく、具体的には、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、グリセロールなどが挙げられる。
【0038】
酸化剤兼ドーパントにおける多価アルコールの添加量は、酸化剤兼ドーパント中の(a)成分および(b)成分の合計量を100質量部としたとき、20質量部以下であることが好ましい。
【0039】
本発明の酸化剤兼ドーパントは、そのまま、つまり、粉末状などの固体状でも用いることができるが、導電性高分子の製造にあたっては、酸化剤兼ドーパントを水、アルコール、水とアルコールとの混合液などの溶媒に溶解させた溶液(すなわち、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液)として使用することが好ましい。酸化剤兼ドーパントを溶液にすることによって作業性が向上するとともに、モノマーとの混合状態がより均一になり、酸化剤兼ドーパントとしての機能をより有効に発揮させることができる。
【0040】
酸化剤兼ドーパント溶液の溶媒に用い得るアルコールとしては、例えば、メタノール(メチルアルコール)、エタノール(エチルアルコール)、プロパノール(プロピルアルコール)、ブタノール(ブチルアルコール)などの1価のアルコールや、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコールを用いることができ、それらの中でも、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数が1~4の1価アルコールが好ましい。
【0041】
ただし、酸化剤兼ドーパント溶液に水が含まれていると、酸化剤兼ドーパント溶液を長期間貯蔵した際に、酸化剤兼ドーパントの析出が生じる虞がある。よって、酸化剤兼ドーパント溶液の貯蔵特性を高める観点からは、酸化剤兼ドーパント溶液の水分量は3質量%以下であることが好ましい。また、かかる観点から、酸化剤兼ドーパント溶液の溶媒には、アルコールを用いることがより好ましい。
【0042】
本明細書でいう酸化剤兼ドーパント溶液の水分含有量は、カールフィッシャー法(容量法)によって求められる値を意味しており、例えば、三菱ケミカルアナリテック社製のカールフィッシャー水分測定装置(KF-200型)を用いて測定することができる(後記の実施例に記載の値は、この装置を用いて測定した値である)。
【0043】
酸化剤兼ドーパント溶液における酸化剤兼ドーパントの濃度は、導電性高分子の重合時において、酸化力を高めてモノマーの高分子化を良好に進める観点から、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。ただし、酸化剤兼ドーパント溶液中の酸化剤兼ドーパントの量が多すぎると、粘度が高くなりすぎて、例えばコンデンサ素子に浸み込み難くなり、コンデンサの製造がし難くなる虞がある。よって、酸化剤兼ドーパント溶液の過度な粘度上昇を抑制する観点から、酸化剤兼ドーパント溶液における酸化剤兼ドーパントの濃度は、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが更に好ましい。
【0044】
本発明の酸化剤兼ドーパントまたは本発明の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて導電性高分子を製造するに際して、モノマーには、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、アニリンまたはその誘導体を用いることができるが、特にチオフェンまたはその誘導体を用いることが好ましい。これは、チオフェンまたはその誘導体を重合して得られる導電性高分子が導電性および耐熱性のバランスがとれていて、他のモノマーに比べて、コンデンサ特性の優れた電解コンデンサが得られやすいためである。
【0045】
チオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェンや、上記の3,4-エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンなどが上げられ、そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数としては、1以上であることが好ましく、また、16以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、4以下であることが更に好ましい。
【0046】
上記の3,4-エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンについて詳しく説明すると、上記3,4-エチレンジオキシチオフェンやアルキル化エチレンジオキシチオフェンは、下記の一般式(1)で表される化合物に該当する。
【0047】
一般式(1):
【化1】
【0048】
一般式(1)中、Rは水素または炭素数1~10のアルキル基である。
【0049】
そして、上記一般式(1)中のRが水素の化合物が3,4-エチレンジオキシチオフェンであり、これをIUPAC名称で表示すると、「2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2,3-Dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、この化合物は、IUPAC名称で表示されるよりも、一般名称の「3,4-エチレンジオキシチオフェン」で表示されることが多いので、本明細書では、この「2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン」を「3,4-エチレンジオキシチオフェン」と表示している。そして、上記一般式(1)中のRがアルキル基の場合、このアルキル基としては、炭素数が1~10のものが好ましく、特に炭素数が1~4のものが好ましい。つまり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が特に好ましく、それらを具体的に例示すると、一般式(1)中のRがメチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Methyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、以下、これを簡略化して「メチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。一般式(1)の中のRがエチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Ethyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「エチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。
【0050】
一般式(1)の中のRがプロピル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-プロピル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Propyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「プロピル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、一般式(1)の中のRがブチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-ブチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Butyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「ブチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。また、「2-アルキル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン」を、本明細書では、簡略化して「アルキル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、それらのアルキル化エチレンジオキシチオフェンの中でも、メチル化エチレンジオキシチオフェン、エチル化エチレンジオキシチオフェン、プロピル化エチレンジオキシチオフェン、ブチル化エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0051】
そして、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)とアルキル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-アルキル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)とは混合して用いることが好ましく、その混合比は、モル比で0.05:1~1:0.1であることが好ましく、0.1:1~1:0.1であることがより好ましく、0:2:1~1:0.2であることが更に好ましく、0.3:1~1:0.3であることが特に好ましい。
【0052】
本発明の酸化剤兼ドーパントや本発明の酸化剤兼ドーパント溶液を用いての導電性高分子の製造は、通常に導電性高分子を製造する場合と、電解コンデンサの製造時に導電性高分子を製造する、いわゆる「その場重合」による導電性高分子の製造との両方に適用できる。
【0053】
モノマーとなるチオフェンやその誘導体などは、常温で液状なので、重合にあたって、そのまま用いることができ、また、重合反応をよりスムーズに進行させるために、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、アセトニトリルなどの有機溶剤でモノマーを希釈して有機溶剤溶液として用いてもよい。なお、モノマーとしては、特に好ましいチオフェンまたはその誘導体を代表させて説明するが、ピロールまたはその誘導体やアニリンまたはその誘導体も、上記チオフェンまたはその誘導体と同様に用いることができる。
【0054】
通常に導電性高分子を製造する場合(この「通常に導電性高分子を製造する場合」とは、電解コンデンサの製造時に「その場重合」によって導電性高分子を製造するのではないという意味である)、本発明の酸化剤兼ドーパントおよび溶媒、または本発明の酸化剤兼ドーパント溶液と、モノマーのチオフェンまたはその誘導体とを混合した混合物を用い(その混合割合は、質量基準で、酸化剤兼ドーパント:モノマーが5:1~15:1が好ましい)、例えば、5~95℃で、1~72時間酸化重合することによって行われる。
【0055】
上記のように、本発明の酸化剤兼ドーパントは、電解コンデンサの製造にあたってモノマーと混合するので、本発明の酸化剤兼ドーパントは、モノマーとの混合前に、(a)成分と(b)成分とを混合して酸化剤兼ドーパントとして調製しておかなくてもよく、(a)成分と(b)成分とモノマーとを同時に混合しても、上記のような本発明の酸化剤兼ドーパントとモノマーとの混合物と同様の状態になるので、そのようにしてもよく、また、あらかじめ、モノマーと、(a)成分および(b)成分のうちの一方とを混合しておいたものと、(a)成分および(b)成分のうちの他方とを混合したものも、本発明の酸化剤兼ドーパントとモノマーとの混合物と同様の状態になるので、本発明の酸化剤兼ドーパントは、電解コンデンサの製造にあたって、上記例示のように調製してもよい。
【0056】
なお、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は、特に電解コンデンサの製造時にモノマーのチオフェンまたはその誘導体をいわゆる「その場重合」で導電性高分子を製造するのに適するように開発したものであることから、これについて以下に詳しく説明する。
【0057】
また、電解コンデンサも、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどがあり、そのアルミニウム電解コンデンサの中にも、巻回型アルミニウム電解コンデンサと積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサとがあるが、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造にあたっても適用できるものであるから、これについて先に説明する。
【0058】
まず、巻回型アルミニウム電解コンデンサのコンデンサ素子としては、アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理して誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して作製したものを使用することが好ましい。
【0059】
そして、上記コンデンサ素子を用いての巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造は、例えば、次のように行われる。
【0060】
上記コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマー(チオフェンまたはその誘導体)との混合物に浸漬し、引き上げた後(取り出した後)、室温または加熱下でモノマーを重合させてチオフェンまたはその誘導体の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、その固体電解質層を有するコンデンサ素子を外装材で外装して、巻回型アルミニウム電解コンデンサを製造する。
【0061】
また、上記のように、コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物に浸漬するのに代えて、モノマーを上記したメタノールなどの有機溶剤で希釈しておき、そのモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させるか、または、コンデンサ素子を先に本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子をモノマーに浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させ、以後、上記と同様にして、巻回型アルミニウム電解コンデンサが製造される。
【0062】
上記巻回型アルミニウム電解コンデンサ以外の電解コンデンサ、例えば、積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどの製造にあたっては、コンデンサ素子としてアルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、それらの弁金属の酸化被膜からなる誘電体層を有するものを用い、そのコンデンサ素子を、上記巻回型アルミニウム電解コンデンサの場合と同様に、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物に浸漬し、引き上げて、室温または加熱下でモノマーを重合させるか、あるいは、コンデンサ素子をモノマー溶液に浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させるか、あるいは、コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子をモノマー中に浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させ、該コンデンサ素子を洗浄した後、乾燥する。そして、これらの工程を繰り返して、導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、カーボンペースト、銀ペーストを付け、乾燥した後、外装することによって、積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどが製造される。
【0063】
なお、上記説明では、コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物や、上記のモノマー溶液や本発明の酸化剤ドーパント溶液に浸漬し、コンデンサ素子にそれらを含浸させる場合について説明しているが、コンデンサ素子に例えばスプレーなどでそれらを塗布してそれらを含浸させるようにしてもよい。
【0064】
上記のような導電性高分子の製造や電解コンデンサの製造時の「その場重合」による導電性高分子の製造にあたって、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマー(チオフェンまたはその誘導体)あるいはモノマー溶液との使用比率は、酸化剤兼ドーパントとなる(a)成分および(b)成分の合計量とモノマーの量との比率が、質量比で2:1~8:1であることが好ましく、「その場重合」は、例えば、10~300℃で、1~180分間で行われる。
【0065】
また、電解コンデンサの製造にあたっては、上記のように、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて導電性高分子を製造した後、その導電性高分子上にπ共役系導電性高分子の分散液を用いて導電性高分子層を形成して、その両者で固体電解質を構成した電解コンデンサとしてもよい。
【0066】
上記のπ共役系導電性高分子としては、ポリマーアニオンをドーパントとして用いたπ共役系導電性高分子が用いられる。このポリマーアニオンは、主として高分子スルホン酸で構成されるが、その具体例としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、スチレンスルホン酸と非スルホン酸系モノマー(メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物など)との共重合体などが挙げられる。
【0067】
次に、上記のポリマーアニオンをドーパントとしてモノマー(モノマーとしては最も代表的なチオフェンまたはその誘導体を例に挙げて説明する)を酸化重合して導電性高分子を合成する手段について説明すると、上記ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂などや、スチレンスルホン酸と非スルホン酸系モノマーとの共重合体などは、いずれも、水や水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液に対して溶解性を有していることから、酸化重合は水中または水性液中で行われる。
【0068】
上記水性液を構成する水混和性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられ、これらの水混和性溶剤の水との混合割合は、水性液全体中の50質量%以下であることが好ましい。
【0069】
導電性高分子を製造するにあたっての酸化重合は、化学酸化重合、電解酸化重合のいずれも採用することができる。
【0070】
化学酸化重合を行うにあたっての酸化剤としては、例えば、過硫酸塩が用いられるが、その過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸カルシウム、過硫酸バリウムなどが用いられる。
【0071】
化学酸化重合において、その重合時の条件は、特に限定されることはないが、化学酸化重合時の温度としては、5℃~95℃が好ましく、10℃~30℃がより好ましく、また、重合時間としては、1時間~72時間が好ましく、8時間~24時間がより好ましい。
【0072】
電解酸化重合は、定電流でも定電圧でも行い得るが、例えば、定電流で電解酸化重合を行う場合、電流値としては0.05mA/cm~10mA/cmが好ましく、0.2mA/cm~4mA/cmがより好ましく、定電圧で電解酸化重合を行う場合は、電圧としては0.5V~10Vが好ましく、1.5V~5Vがより好ましい。電解酸化重合時の温度としては、5℃~95℃が好ましく、特に10℃~30℃が好ましい。また、重合時間としては、1時間~72時間が好ましく、8時間~24時間がより好ましい。なお、電解酸化重合にあたっては、触媒として硫酸第一鉄または硫酸第二鉄を添加してもよい。
【0073】
上記のようにして得られる導電性高分子は、重合直後、水中または水性液中に分散した状態で得られ、酸化剤としての過硫酸塩や触媒として用いた硫酸鉄塩やその分解物などを含んでいる。そこで、その不純物を含んでいる導電性高分子の分散液を超音波ホモジナイザーや高圧ホモジナイザーや遊星ボールミルなどの分散機にかけて不純物を分散させた後、カチオン交換樹脂で金属成分を除去することが好ましい。このときの動的光散乱法により測定した導電性高分子の粒径としては、100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、また、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。その後、エタノール沈殿法、限外濾過法、陰イオン交換樹脂などにより、酸化剤や触媒の分解により生成したものを除去することが好ましい。
【0074】
本発明においては、上記のような酸化剤兼ドーパントまたはその溶液を用いてチオフェンまたはその誘導体などのモノマーを酸化重合して得た導電性高分子を固体電解質として用いて電解コンデンサを構成してもよく、また、上記の導電性高分子と、ポリマーアニオンをドーパントとするπ共役系導電性高分子の分散液から得られた導電性高分子とを固体電解質として用いて電解コンデンサを構成してもよい。更に、それらに、沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤または沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤とヒドロキシル基またはカルボキシル基を少なくとも1つ有する芳香族系化合物とを含む導電性補助液を含ませて電解コンデンサを構成してもよい。
【0075】
上記導電性補助液に使用可能な沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤としては、例えば、γ-ブチロラクトン(沸点:203℃)、ブタンジオール(沸点:230℃)、ジメチルスルホキシド(沸点:189℃)、スルホラン(沸点:285℃)、N-メチルピロリドン(沸点:202℃)、ジメチルスルホラン(沸点:233℃)、エチレングリコール(沸点:198℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)、リン酸トリエチル(沸点:215℃)、リン酸トリブチル(289℃)、リン酸トリエチルヘキシル〔215℃(4 mmHg)〕、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0076】
また、上記の、ヒドロキシル基(芳香環の構成炭素に結合するヒドロキシル基をいい、カルボキシル基中などの-OH部分を意味するものではない)またはカルボキシル基を少なくとも1つ有する芳香族系化合物としては、ベンゼン系のもの、ナフタレン系のもの、アントラセン系のもののいずれも用いることができ、その具体例としては、例えば、ヒドロキシベンゼンカルボン酸、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、アミノニトロフェノール、ヒドロキシアニソール、ヒドロキシジニトロベンゼン、ジヒドロキシジニトロベンゼン、アルキルヒドロキシアニソール、ヒドロキシニトロアニソール、ヒドロキシニトロベンゼンカルボン酸(つまり、ヒドロキシニトロ安息香酸)、ジヒドロキシニトロベンゼンカルボン酸(つまり、ジヒドロキシニトロ安息香酸)、フェノール、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシベンゼンカルボン酸、トリヒドロキシベンゼンカルボン酸、ヒドロキシベンゼンジカルボン酸、ジヒドロキシベンゼンジカルボン酸、ヒドロキシトルエンカルボン酸、ニトロナフトール、アミノナフトール、ジニトロナフトール、ヒドロキシナフタレンカルボン酸、ジヒドロキナフタレンカルボン酸、トリヒドロキシナフタレンカルボン酸、ヒドロキシナフタレンジカルボン酸、ジヒドロキシナフタレンジカルボン酸、ヒドロキシアントラセン、ジヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシアントラセン、テトラヒドロキシアントラセン、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシアントラセンジカルボン酸、ジヒドロキシアントラセンジカルボン酸、テトラヒドロキシアントラセンジオン、ベンゼンカルボン酸、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
【0077】
また、上記沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤または導電性補助液にエポキシ化合物またはその加水分解物、シラン化合物またはその加水分解物およびポリアルコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の結合剤を含有させることもできる。
【0078】
本発明によれば、漏れ電流が小さく、ESRが低く、更には耐熱性に優れた電解コンデンサを製造するのに適した導電性高分子を製造できる導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントやその溶液を提供することができ、また、それらのいずれかを用いて漏れ電流が小さく、ESRが低く、更には耐熱性に優れた電解コンデンサを製造するのに適した導電性高分子を提供し、更に、その導電性高分子を固体電解質として用いて、漏れ電流が小さく、ESRが低く、更には耐熱性に優れた電解コンデンサを提供することができる。
【実施例
【0079】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0080】
〔酸化剤兼ドーパントの(a)成分の合成〕
ジプロピルナフタレンジスルホン酸の合成
塩化アルミニウムを触媒に用いて、ナフタレン1モルに対し1-ブロモプロパンを2モル反応させ、蒸留で精製してジプロピルナフタレンを得た。ジプロピルナフタレン1モルに対して硫酸2モルを反応させ、ジプロピルナフタレンジスルホン酸を合成した。
【0081】
ジブチルナフタレンジスルホン酸の合成
1-ブロモプロパンに代えて1-ブロモブタンを添加した(ナフタレン1モルに対して、1-ブロモブタン2モル)以外は、ジプロピルナフタレンジスルホン酸の合成と同様にしてジブチルナフタレンジスルホン酸を合成した。
【0082】
ジヘキシルナフタレンジスルホン酸の合成
1-ブロモプロパンに代えて1-クロロヘキサンを添加した(ナフタレン1モルに対して、1-クロロヘキサン2モル)以外は、ジプロピルナフタレンジスルホン酸の合成と同様にしてジヘキシルナフタレンジスルホン酸を合成した。
【0083】
ジデシルナフタレンジスルホン酸の合成
1-ブロモプロパンに代えて1-クロロデカンを添加した(ナフタレン1モルに対して、1-クロロデカン2モル)以外は、ジプロピルナフタレンジスルホン酸の合成と同様にしてジデシルナフタレンジスルホン酸を合成した。
【0084】
ジエチルナフタレンジスルホン酸の合成
1-ブロモプロパンに代えてブロモエタンを添加した(ナフタレン1モルに対して、ブロモエタン2モル)以外は、ジプロピルナフタレンジスルホン酸の合成と同様にしてジエチルナフタレンジスルホン酸を合成した。
【0085】
ジドデシルナフタレンジスルホン酸の合成
1-ブロモプロパンに代えて1-クロロドデカンを添加した(ナフタレン1モルに対して、1-クロロドデカン2モル)以外は、ジプロピルナフタレンジスルホン酸の合成と同様にしてジドデシルナフタレンジスルホン酸を合成した。
【0086】
〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製〕
この酸化剤兼ドーパント溶液の調製では、実施例1~19および比較例1~5の酸化剤兼ドーパント溶液について示す。これら実施例1~19の酸化剤兼ドーパント溶液は後記の実施例20~38の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの製造に使用するものであり、比較例1~5の酸化剤兼ドーパント溶液は同比較例6~9の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの製造に使用するものである。
【0087】
実施例1
4.5kgのナフタレンスルホン酸第二鉄塩(鉄とナフタレンスルホン酸とのモル比が1:2.5)が溶解したブタノール溶液(溶液中の水分含有量が1質量%)を10kg調製した。
【0088】
次いで、上記ナフタレンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液:10kgを内容積が20Lの反応容器に入れ、その中に、ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジプロピルナフタレンジスルホン酸:10質量部)を添加した。そして、この溶液中の固形分が45質量%、および溶液中の水分含有量が1質量%になるように調整して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0089】
実施例2
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、ジブチルナフタレンジスルホン酸:450gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジブチルナフタレンジスルホン酸:10質量部)以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0090】
実施例3
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、ジヘキシルナフタレンジスルホン酸:450gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジヘキシルナフタレンジスルホン酸:10質量部)以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0091】
実施例4
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、ジノニルナフタレンジスルホン酸(King Industries社製):45gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンジスルホン酸:1質量部)以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0092】
実施例5
ジノニルナフタレンスルホン酸の添加量を225g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンジスルホン酸:5質量部)に変更した以外は、実施例4と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0093】
実施例6
ジノニルナフタレンジスルホン酸の添加量を450g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンジスルホン酸:10質量部)に変更した以外は、実施例4と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0094】
実施例7
水分含有量が2質量%となるように調整した以外は、実施例6と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0095】
実施例8
水分含有量が3質量%となるように調整した以外は、実施例6と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0096】
実施例9
水分含有量が4質量%となるように調整した以外は、実施例6と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0097】
実施例10
ジノニルナフタレンジスルホン酸の添加量を900g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンジスルホン酸:20質量部)に変更した以外は、実施例4と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0098】
実施例11
ジノニルナフタレンジスルホン酸の添加量を1800g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンジスルホン酸:40質量部)に変更した以外は、実施例4と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0099】
実施例12
4.5kgのナフタレンスルホン酸第二鉄塩(鉄とナフタレンスルホン酸とのモル比が1:2.7)が溶解したブタノール溶液(溶液中の水分含有量が1質量%)を10kg調製した。
【0100】
次いで、上記ナフタレンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液:10kgを内容積が20Lの反応容器に入れ、その中に、ジノニルナフタレンジスルホン酸第二鉄(鉄とジノニルナフタレンジスルホン酸とのモル比が1:2.7):45g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンジスルホン酸第二鉄:1質量部)を添加した。そして、この溶液中の固形分が45質量%、および溶液中の水分含有量が1質量%になるように調整して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0101】
実施例13
ジノニルナフタレンジスルホン酸第二鉄の添加量を900g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンジスルホン酸第二鉄:20質量部)に変更した以外は、実施例12と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0102】
実施例14
ジノニルナフタレンジスルホン酸第二鉄の添加量を1800g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンジスルホン酸第二鉄:40質量部)に変更した以外は、実施例12と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0103】
実施例15
4.5kgのナフタレンスルホン酸第二鉄塩(鉄とナフタレンスルホン酸とのモル比が1:3.5)が溶解したブタノール溶液(溶液中の水分含有量が1質量%)を10kg調製した。
【0104】
次いで、上記ナフタレンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液:10kgを内容積が20Lの反応容器に入れ、その中に、ジノニルナフタレンジスルホン酸第二鉄(鉄とジノニルナフタレンジスルホン酸とのモル比が1:3.5):450g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンジスルホン酸第二鉄:10質量部)を添加した。そして、この溶液中の固形分が45質量%、および溶液中の水分含有量が1質量%になるように調整して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0105】
実施例16
4.5kgのナフタレンスルホン酸第二鉄塩(鉄とナフタレンスルホン酸とのモル比が1:4.3)が溶解したブタノール溶液(溶液中の水分含有量が1質量%)を10kg調製した。
【0106】
次いで、上記ナフタレンスルホン酸第二鉄のブタノール溶液:10kgを内容積が20Lの反応容器に入れ、その中に、ジノニルナフタレンジスルホン酸第二鉄(鉄とジノニルナフタレンジスルホン酸とのモル比が1:4.3):450g(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルフタレンジスルホン酸第二鉄:10質量部)を添加した。そして、この溶液中の固形分が45質量%、および溶液中の水分含有量が1質量%になるように調整して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0107】
実施例17
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、ジデシルナフタレンジスルホン酸:450gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジデシルナフタレンジスルホン酸:10質量部)以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0108】
実施例18
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、ジノニルナフタレンスルホン酸(King Industries社製):450gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジノニルナフタレンスルホン酸:10質量部)以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0109】
実施例19
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、ドデシルベンゼンスルホン酸(King Industries社製):450gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ドデシルベンゼンスルホン酸:10質量部)以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0110】
比較例1
ジプロピルナフタレンジスルホン酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0111】
比較例2
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、ジブチルナフタレンジスルホン酸:2700gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジブチルナフタレンジスルホン酸:60質量部)以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0112】
比較例3
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、ジエチルナフタレンジスルホン酸:450gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジエチルナフタレンジスルホン酸:10質量部)以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0113】
比較例4
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、ジドデシルナフタレンジスルホン酸:450gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、ジドデシルンナフタレンジスルホン酸:10質量部)以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液の調製を試みたが、ジドデシルナフタレンジスルホン酸が析出してしまい、良好な溶液を調製することができなかった。
【0114】
比較例5
ジプロピルナフタレンジスルホン酸:450gに代えて、p-トルエンスルホン酸(江南化工社製):450gを添加した(ナフタレンスルホン酸第二鉄:100質量部に対して、p-トルエンスルホン酸:10質量部)以外は実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0115】
実施例1~19および比較例1~5の酸化剤兼ドーパント溶液の構成を表1および表2に示す。なお、比較例4で使用したジドデシルナフタレンジスルホン酸および比較例5で使用したp-トルエンスルホン酸は(a)成分には該当しないが、表2では各実施例との比較を容易にするために、(a)成分の欄に示している。また、表1および表2における(a)成分の「(b)成分に対する量」は、(b)成分の含有量100質量部に対する含有量(質量部)を意味しており、更に、「鉄1モルに対する比率」は、(a)成分と(b)成分との合計量の、(a)成分および(b)成分が含有する鉄1モルに対する比率を意味している。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
上記のように調製した実施例1~19および比較例1~3、5の酸化剤兼ドーパント溶液の評価は、これらを用いて導電性高分子を製造し、その導電性高分子を固体電解質として用いて製造した実施例20~38および比較例6~9の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの特性を測定することによって行った。
【0119】
〔固体電解コンデンサの作製および評価〕
ここでは、3,4-エチレンジオキシチオフェンをモノマーとして用い、実施例1~19の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、実施例20~38の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ(設定静電容量が38μF以上で、設定ESRが40mΩ以下)を作製し、比較例1~5の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて作製した比較例6~9の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサのコンデンサ特性を比較する。
【0120】
実施例20
表面をエッチング処理したアルミニウム箔を12質量%濃度のアジピン酸アンモニウム水溶液中に浸漬し、この状態でアルミニウム箔に40Vの電圧を印加してアルミニウム箔の表面に誘電体層を形成して陽極とし、この陽極にリード体を取り付けた。また、アルミニウム箔からなる陰極にリード体を取り付けた。これらの陽極と陰極とを、セパレータを介して重ね合わせて巻回して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ用のコンデンサ素子を作製した。
【0121】
3,4-エチレンジオキシチオフェン:20mLにメタノール:80mLを添加して調製したモノマー溶液に、上記コンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で10分間乾燥した。その後、実施例1の酸化剤兼ドーパント溶液に上記コンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、70℃で2時間加熱し、更に180℃で1時間加熱することで、3,4-エチレンジオキシチオフェンを重合させて、3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質層を、上記コンデンサ素子の表面に形成した。このコンデンサ素子を外装体で外装して、設定静電容量が38μF以上で、設定ESRが40mΩ以下の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0122】
実施例21~38および比較例6~9
酸化剤兼ドーパント溶液を実施例2~19または比較例1~3、5のものに変更した以外は、実施例20と同様にして巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0123】
実施例20~38および比較例6~9の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、初期特性として、静電容量、ESRおよび漏れ電流を、それぞれ下記の方法で測定した。
【0124】
(静電容量)
HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下で、120Hzで測定した。
【0125】
(ESR)
HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下で、100kHzで測定した。
【0126】
(漏れ電流)
各コンデンサに25℃で16Vの電圧を60秒間印加した後、デジタルオシロスコープを用いて漏れ電流を測定した。
【0127】
上記の測定は、各試料とも10個ずつについて行った。これらの結果を表3に示す。表3では、静電容量およびESRに関しては、10個の測定値の小数点第2位で四捨五入した平均値を示しており、漏れ電流に関しては、それぞれ10個の測定値の小数点以下を四捨五入した平均値を示している。
【0128】
【表3】
【0129】
表3に示す通り、(a)成分と(b)成分とを適正な比率で含有する酸化剤兼ドーパント溶液を用いて合成した導電性高分子を固体電解質に有する実施例20~38の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、(a)成分を含有しない酸化剤兼ドーパント溶液を使用した比較例1、3、5の電解コンデンサに比べて、漏れ電流を小さくすることができた。
【0130】
なお、(b)成分に対する(a)成分の比率が大きすぎる酸化剤兼ドーパント溶液を用いて合成した導電性高分子を固体電解質に有する比較例7の電解コンデンサは、実施例のものよりもESRが高くなった。
【0131】
〔固体電解コンデンサの耐熱性評価〕
実施例20~38および比較例6~9の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ各10個を、125℃で1000時間貯蔵した後、上記と同じ方法で、静電容量およびESRを測定した。これらの結果を表4に示す。なお、表4には、静電容量については、下記式によって求めた静電容量の初期特性評価時の測定値からの変化率(%)を、ESRについては、この耐熱性評価時の測定値を初期特性評価時の測定値で除して求めた変化率(倍)を、それぞれ記載する。
【0132】
静電容量の耐熱性評価測定値の初期特性評価測定値からの変化率(%):
変化率(%) = 100 × (耐熱性評価測定値-初期特性評価測定値)
÷ 初期特性評価測定値
【0133】
【表4】
【0134】
表4に示す通り、実施例20~38の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、例えば(a)成分に代えてp-トルエンスルホン酸を使用した比較例9の電解コンデンサに比べて、高温貯蔵後の静電容量の低下およびESRの上昇が抑えられており、良好な耐熱性を有していた。