(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】磁気結合型コイル部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20220502BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20220502BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20220502BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/00 D
H01F41/04 B
H01F37/00 N
H01F37/00 A
(21)【出願番号】P 2018136223
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】寺内 直也
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】笠原 敦子
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-073052(JP,A)
【文献】特開2001-044037(JP,A)
【文献】特開2005-150168(JP,A)
【文献】特開平09-275013(JP,A)
【文献】特開2013-125887(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038505(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0292460(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 17/00
H01F 41/04
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間磁性体層と、前記中間磁性体層の上に設けられた第1磁性体層と、前記中間磁性体層の下に設けられた第2磁性体層と、を有する磁性基体と、
前記第1磁性体層内に設けられた第1のコイル導体と、
前記第2磁性体層内に設けられた第2のコイル導体と、
を備え、
前記中間磁性体層は、平面視において前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体と重複する第1領域において、前記第1磁性体層及び前記第2磁性体層よりも低い飽和磁束密度を有する、
磁気結合型コイル部品。
【請求項2】
前記中間磁性体層は、前記第1領域において、前記第1磁性体層及び前記第2磁性体層よりも鉄の含有比率が低い、
請求項1に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項3】
前記中間磁性体層は、前記第1領域と異なる第2領域においても、前記第1磁性体層及び前記第2磁性体層よりも低い飽和磁束密度を有する、
請求項1又は請求項2に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項4】
前記中間磁性体層は、前記第2領域において、前記第1磁性体層及び前記第2磁性体層よりも鉄の含有比率が低い、
請求項3に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項5】
前記第1磁性体層の上に設けられた第1カバー層と、前記第2磁性体層の下に設けられた第2カバー層と、をさらに備え、
前記中間磁性体層は、平面視において前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体と重複する第1領域において、前記第1カバー層及び前記第2カバー層よりも低い飽和磁束密度を有する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品を実装した回路基板。
【請求項7】
請求項6に記載の回路基板を実装した電子機器。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気結合型コイル部品を製造する製造方法
であって、
前記中間磁性体層となる中間磁性体部、前記中間磁性体部の上に設けられた前記第1磁性体層となる第1磁性体部、及び前記中間磁性体部の下に設けられた前記第2磁性体層となる第2磁性体部を含む構造体を作製する工程と、
前記構造体に加熱処理を行う工程と、
を備える製造方法。
【請求項9】
前記
構造体が積層プロセスにより作成される、
請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気結合型コイル部品及びその製造方法に関する。また、本開示は、磁気結合型コイル部品を備えた回路基板及び当該回路基板を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気結合型コイル部品は、互いに磁気結合する一組のコイル導体を有する。磁気結合型コイル部品として、チョークコイル、トランス及びカップルドインダクタがある。
【0003】
磁気結合型のチョークコイルは、チョッパ型のDC-DCコンバータにおいて広く用いられている。DC-DCコンバータに接続された負荷をON/OFFすることで出力電流を変化させると、出力電圧が瞬間的に大きく変動し、その後に定常状態に復帰する。この過渡状態における電圧変動が大きくなると、DC-DCコンバータに接続された回路が破壊されたり、誤作動したりするおそれがある。また、過渡状態における電圧変動が大きくなると、出力電圧が定常状態に復帰するまでの過渡応答時間が長くなるという問題がある。チョッパ型のDC-DCコンバータにおいては、チョークコイルの結合係数を高くすることにより、この出力電圧の変動を小さくすることができる。
【0004】
このように、磁気結合型コイル部品においては、一般に、一組のコイル導体間の結合が高いことが望ましい。従来から、磁気結合型コイル部品の結合係数を高めるための提案が為されている。例えば、特開2016-131208号公報(特許文献1)には、磁性基体に埋め込まれた一組のコイル導体を、その巻回軸が略一致するとともに互いと密着するように設けることにより、高い結合係数を実現する磁気結合型コイル部品が開示されている。また、特開2005-064321号公報には、磁性基体(磁芯11)内に埋め込まれた一組のコイル導体の間に、当該磁性基体よりも小さな透磁率を有するスペーサが設けられた磁気結合型コイル部品が記載されており、かかるスペーサにより、当該一組のコイル導体間の結合が強められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-131208号公報
【文献】特開2005-064321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気結合型コイル部品には、大きな直流電流が流れることがある。例えば、DC-DCコンバータにおいて用いられるチョークコイルには大電流が流れることが想定されている。チョークコイルを構成するコイル導体に直流電流が流れると、当該チョークコイルの磁性基体の透磁率が変化する。その結果、当該チョークコイルを構成する一組のコイル導体の各々の自己インダクタンス及び当該一組のコイル導体間の相互インダクタンスが変化する。
【0007】
第1のコイル導体と第2のコイル導体との間の結合の強さを表す結合係数は、以下の式に示されるように、第1のコイル導体の自己インダクタンスL
1、第2のコイル導体の自己インダクタンスL
2、及び第1のコイル導体と第2のコイル導体との間の相互インダクタンスMに依存する。
【数1】
式1において、kは結合係数、L
1は第1のコイル導体の自己インダクタンス、L
2は第2のコイル導体の自己インダクタンス、Mは相互インダクタンスである。
【0008】
したがって、一組のコイル導体間の結合係数は、各コイル導体に印加される印加電流の大きさに応じて変化する。しかしながら、従来の磁気結合型コイル部品においては、各コイル導体を流れる直流電流の大きさによる結合係数の変化について十分な検討が行われていなかった。
【0009】
チョッパ型のDC-DCコンバータにおいて用いられる磁気結合型のチョークコイルにおいて、電流が印加されたときに結合係数を高くすることができれば、出力電圧の変動をより抑制することができる。このように、用途によっては、電流印加時に結合係数が高くなる磁気結合型コイル部品が望まれる。
【0010】
本発明の目的の一つは、コイル導体へ印加された電流によって結合係数が高くなる磁気結合型コイル部品を提供することである。本発明のこれ以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態に係る磁気結合型コイル部品は、中間磁性体層と、前記中間磁性体層の上に設けられた第1磁性体層と、前記中間磁性体層の下に設けられた第2磁性体層と、を有する磁性基体と、前記第1磁性体層内に設けられた第1のコイル導体と、前記第2磁性体層内に設けられた第2のコイル導体と、を備える。前記中間磁性体層は、平面視において前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体と重複する第1領域において、前記第1磁性体層及び前記第2磁性体層よりも低い飽和磁束密度を有する。
【0012】
一実施形態に係る磁気結合型コイル部品において、前記中間磁性体層は、前記第1領域において、前記第1磁性体層及び前記第2磁性体層よりも鉄の含有比率が低い。
【0013】
一実施形態に係る磁気結合型コイル部品において、前記中間磁性体層は、前記第1領域と異なる第2領域においても、、前記第1磁性体層及び前記第2磁性体層よりも低い飽和磁束密度を有する。
【0014】
一実施形態に係る磁気結合型コイル部品において、前記中間磁性体層は、前記第2領域において、前記第1磁性体層及び前記第2磁性体層よりも鉄の含有比率が低い。
【0015】
一実施形態に係る磁気結合型コイル部品は、前記第1磁性体層の上に設けられた第1カバー層と、前記第2磁性体層の下に設けられた第2カバー層と、をさらに備える。前記中間磁性体層は、平面視において前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体と重複する第1領域において、前記第1カバー層及び前記第2カバー層よりも低い飽和磁束密度を有する。
【0016】
一実施形態による回路基板は、上記の磁気結合型コイル部品を実装している。
【0017】
一実施形態による電子機器は、上記の回路基板を実装している。
【0018】
一実施形態は、上記の磁気結合型コイル部品を製造する製造方法に関する。
【0019】
一実施形態による製造方法においては、前記第1磁性体層及び前記第2磁性体層がいずれも積層プロセスにより作成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一実施形態によれば、コイル導体へ印加された電流によって磁気結合型コイル部品の結合係数を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る磁気結合型コイル部品の斜視図である。
【
図2】
図1の磁気結合型コイル部品に含まれる2つのコイルユニットのうち一方の分解斜視図である。
【
図3】
図1の磁気結合型コイル部品に含まれる2つのコイルユニットのうち他方の分解斜視図である。
【
図4】
図1の磁気結合型コイル部品をI-I線で切断した断面(TW断面)を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の別の実施形態に係る磁気結合型コイル部品の断面(TW断面)を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0023】
図1から
図4を参照して本発明の一実施形態に係る磁気結合型コイル部品1について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気結合型コイル部品1の斜視図であり、
図2は、
図1の磁気結合型コイル部品1に含まれるコイルユニット1aの分解斜視図であり、
図3は、
図1の磁気結合型コイル部品1に含まれるコイルユニット1bの分解斜視図であり、
図4は、
図1の磁気結合型コイル部品1をI-I線で切断した断面を模式的に示す図である。
図2ないし
図4においては、説明の便宜のために、外部電極の図示が省略されている。
【0024】
本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、磁気結合型コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L」方向、「W」方向、及び「T」方向とする。
【0025】
これらの図には、磁気結合型コイル部品1の一例として、DC-DCコンバータに用いられるチョークコイルが示されている。DC-DCコンバータ用のチョークコイルは、本発明を適用可能な磁気結合型コイル部品の一例である。DC-DCコンバータ用チョークコイルは、後述するように積層プロセス又は薄膜プロセスによって作製される。本発明は、DC-DCコンバータ用チョークコイル以外にも、トランス、カップルドインダクタ及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品に適用することができる。
【0026】
図示のように、本発明の一実施形態における磁気結合型コイル部品1は、コイルユニット1aとコイルユニット1bとを備える。磁気結合型コイル部品1は、コイルユニット1aのコイル導体25aとコイルユニット1bのコイル導体25bとが磁気結合するように構成される。コイル導体25a及びコイル導体25bについては後述する。
【0027】
コイルユニット1aは、上側磁性基体11aと、この上側磁性基体11a内に設けられたコイル導体25aと、当該コイル導体25aの一端と電気的に接続された外部電極21と、当該コイル導体25aの他端と電気的に接続された外部電極22と、を備える。
【0028】
上側磁性基体11aは、磁性材料から直方体形状に形成された上側磁性体層20aと、当該上側磁性体層20aの上面に設けられた磁性材料からなる上側カバー層18aと、当該上側磁性体層20aの下面に設けられた磁性材料からなる下側カバー層19aと、を備える。上側磁性体層20aと上側カバー層18aとの境界及び上側磁性体層20aと下側カバー層19aとの境界は、コイルユニット1aの製法によっては、明瞭に確認できないことがある。上側磁性体層20aは、第1磁性体層の例であり、コイル導体25aは、第1のコイル導体の例である。上側カバー層18aは、第1カバー層の例である。
【0029】
コイルユニット1bは、コイルユニット1aと同様に構成される。具体的には、コイルユニット1bは、下側磁性基体11bと、この下側磁性基体11b内に設けられたコイル導体25bと、当該コイル導体25bの一端と電気的に接続された外部電極23と、当該コイル導体25bの他端と電気的に接続された外部電極24と、を備える。
【0030】
下側磁性基体11bは、磁性材料から直方体形状に形成された下側磁性体層20bと、当該下側磁性体層20bの上面に設けられた磁性材料からなる上側カバー層18bと、当該下側磁性体層20bの下面に設けられた磁性材料からなる下側カバー層19bと、を備える。下側磁性体層20bと上側カバー層18bとの境界及び下側磁性体層20bと下側カバー層19bとの境界は、コイルユニット1bの製法によっては、明瞭に確認できないことがある。下側磁性体層20bは、第2磁性体層の例であり、コイル導体25bは、第2のコイル導体の例である。下側カバー層19bは、第2カバー層の例である。
【0031】
磁気結合型コイル部品1は、回路基板2に実装されている。回路基板2には、ランド部3が設けられてもよい。磁気結合型コイル部品1が4つの外部電極21~24を備える場合には、これに対応して回路基板2には4つのランド部3が設けられる。磁気結合型コイル部品1は、外部電極21~24の各々と回路基板2の対応するランド部3とを接合することにより、当該回路基板2に実装されてもよい。回路基板2は、様々な電子機器に実装され得る。
【0032】
上側磁性基体11aは、その下面において下側磁性基体11bの上面と接合されている。この上側磁性基体11a及び下側磁性基体11bが、磁性基体10を構成する。
【0033】
磁性基体10は、第1の主面10a、第2の主面10b、第1の端面10c、第2の端面10d、第1の側面10e、及び第2の側面10fを有する。磁性基体10は、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1の主面10aと第2の主面10bとは互いに対向し、第1の端面10cと第2の端面10dとは互いに対向し、第1の側面10eと第2の側面10fとは互いに対向している。
【0034】
図1において第1の主面10aは磁性基体10の上側にあるため、第1の主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2の主面10bを「下面」と呼ぶことがある。磁気結合型コイル部品1は、第2の主面10bが回路基板2と対向するように配置されるので、第2の主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。磁気結合型コイル部品1の上下方向に言及する際には、
図1の上下方向を基準とする。
【0035】
外部電極21及び外部電極23は、磁性基体10の第1の端面10cに設けられる。外部電極22及び外部電極24は、磁性基体10の第2の端面10dに設けられる。各外部電極は、図示のように、磁性基体10の上面及び下面まで延伸する。各外部電極の形状及び配置は、図示された例には限定されない。例えば、外部電極21~外部電極24はすべて磁性基体10の下面10bに設けられてもよい。この場合、コイル導体25a及びコイル導体25bは、ビア導体を介して、磁性基体10の下面10bに設けられた外部電極21~外部電極24と接続される。
【0036】
上記のように、磁性基体10は、磁性材料から成る。磁気結合型コイル部品1は、互いに異なる磁性材料から成る2つ以上の領域を有していても良い。例えば、上側磁性体層20aと下側磁性体層20bとは、互いに異なる磁性材料から形成されてもよい。磁性基体10の内部または外部に非磁性材料から成る要素又は部位が設けられても良い。この非磁性材料から成る要素又は部位は、磁性基体10の一部ではない。
【0037】
次に、主に
図2及び
図3を参照して、コイルユニット1a及びコイルユニット1bについてさらに説明する。
図2及び
図3には、積層プロセスによって作成されるコイルユニット1a及びコイルユニット1bがそれぞれ示されている。
図2に示すように、コイルユニット1aに備えられる上側磁性体層20aは、磁性膜11a1~11a7を備える。上側磁性体層20aにおいては、T軸方向の正方向側から負方向側に向かって、磁性膜11a1、磁性膜11a2、磁性膜11a3、磁性膜11a4、磁性膜11a5、磁性膜11a6、磁性膜11a7の順に積層されている。
図3に示すように、コイルユニット1bに備えられる下側磁性体層20bは、積層された磁性膜11b1~11b7を備える。下側磁性体層20bにおいては、T軸方向の正方向側から負方向側に向かって、磁性膜11b1、磁性膜11b2、磁性膜11b3、磁性膜11b4、磁性膜11b5、磁性膜11b6、磁性膜11b7の順に積層されている。コイルユニット1a及びコイルユニット1bは、積層プロセス以外の方法で作成されてもよい。コイルユニット1a及びコイルユニット1bは、例えば、コアに巻線が巻回された巻線型のコイルであってもよい。コイルユニット1a及びコイルユニット1bは、薄膜プロセスにより作成されたコイルユニットであってもよい。
【0038】
磁性膜11a1~11a7の各々の上面には、導体パターン25a1~25a7が形成され、磁性膜11b1~11b7の各々の上面には、導体パターン25b1~25b7が形成される。導体パターン25a1~25a7及び導体パターン25b1~25b7は、例えば、導電性に優れた金属又は合金から成る導電ペーストをスクリーン印刷法により印刷することにより形成される。この導電ペーストの材料としては、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を用いることができる。導体パターン25a1~25a7は、これ以外の材料及び方法により形成されてもよい。導体パターン25a1~25a7及び導体パターン25b1~25b7は、例えば、スパッタ法、インクジェット法、又はこれら以外の公知の方法で形成されてもよい。
【0039】
磁性膜11a1~磁性膜11a6の所定の位置には、ビアVa1~Va6がそれぞれ形成される。ビアVa1~Va6は、磁性膜11a1~磁性膜11a6の所定の位置に、磁性膜11a1~磁性膜11a6をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に導電材料を埋め込むことにより形成される。
【0040】
導体パターン25a1~25a7の各々は、隣接する導体パターンとビアVa1~Va6を介して電気的に接続される。このようにして接続された導体パターン25a1~25a7が、スパイラル状のコイル導体25aを形成する。すなわち、コイル導体25aは、導体パターン25a1~25a7及びビアVa1~Va6を有する。
【0041】
導体パターン25a1のビアVa1に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極22に接続される。導体パターン25a7のビアVa6に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極21に接続される。
【0042】
コイル導体25aは、T軸方向の一方の端部である上側コイル面26aと、T軸方向の他方の端部である下側コイル面27aと、を有する。一実施形態において、上側コイル面26aは、上側磁性体層20aの上面と面一になるように設けられる。一実施形態において、下側コイル面27aは、上側磁性体層20aの下面と面一になるように設けられる。
【0043】
磁性膜11b1~磁性膜11b6の所定の位置には、ビアVb1~Vb6がそれぞれ形成される。ビアVb1~Vb6は、磁性膜11b1~磁性膜11b6の所定の位置に、磁性膜11b1~磁性膜11b6をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に導電材料を埋め込むことにより形成される。
【0044】
導体パターン25b1~25b7の各々は、隣接する導体パターンとビアVb1~Vb6を介して電気的に接続される。このようにして接続された導体パターン25b1~25b7が、スパイラル状のコイル導体25bを形成する。すなわち、コイル導体25bは、導体パターン25b1~25b7及びビアVb1~Vb6を有する。
【0045】
導体パターン25b1のビアVb1に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極24に接続される。導体パターン25b7のビアVb6に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極23に接続される。
【0046】
コイル導体25bは、T軸方向の一方の端部である上側コイル面26bと、T軸方向の他方の端部である下側コイル面27bと、を有する。コイル導体25aは、その下側コイル面27aがコイル導体25bの上側コイル面26bと対向するように設けられている。一実施形態において、上側コイル面26bは、下側磁性体層20bの上面と面一になるように設けられる。一実施形態において、下側コイル面27bは、下側磁性体層20bの下面と面一になるように設けられる。
【0047】
上側磁性基体11aの上側カバー層18a及び下側カバー層19a並びに下側磁性基体11bの上側カバー層18b及び下側カバー層19bはいずれも複数枚の絶縁膜が積層された積層体である。本明細書においては、上側磁性基体11aの上側カバー層18a及び下側カバー層19a並びに下側磁性基体11bの上側カバー層18b及び下側カバー層19bを構成する絶縁膜を、「カバー層絶縁膜」と呼ぶことがある。
【0048】
磁性膜11a1~11a7、磁性膜11b1~11b7、及びカバー層絶縁膜は、磁性材料からなる。磁性膜11a1~11a7、磁性膜11b1~11b7、及びカバー層絶縁膜用の磁性材料として、フェライト材料、軟磁性金属又は軟磁性合金の粒子群、樹脂に磁性材料から成る多数のフィラー粒子を分散させた複合材料、又はこれら以外の任意の公知の磁性材料を用いることができる。軟磁性金属又は軟磁性合金の粒子群に含まれる各粒子には、絶縁性に優れた絶縁材料から成る絶縁膜が形成される。
【0049】
磁性膜11a1~11a7、磁性膜11b1~11b7、及びカバー層絶縁膜用の材料となるフェライトには、Ni-Zn系フェライト、Ni-Zn-Cu系フェライト、Mn-Zn系フェライト、又はこれら以外の任意のフェライトが含まれ得る。
【0050】
磁性膜11a1~11a7、磁性膜11b1~11b7、及びカバー層絶縁膜用の材料となる軟磁性金属には、Fe、Ni、Co、及びこれら以外の任意の軟磁性金属が含まれる。
【0051】
磁性膜11a1~11a7、磁性膜11b1~11b7、及びカバー層絶縁膜用の材料となる軟磁性合金には、Fe-Si系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co系合金、Fe-Cr-Si系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-B-Cr系合金、又はこれら以外の任意の軟磁性合金が含まれる。
【0052】
磁性膜11a1~11a7、磁性膜11b1~11b7、及びカバー層絶縁膜が樹脂に多数のフィラー粒子を分散させた複合材料からなる場合、当該樹脂として、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、フェノール(Phenolic)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、又はポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂を用いることができる。当該フィラー粒子として、フェライト材料の粒子、金属磁性粒子、又はこれら以外の任意の公知のフィラー粒子を用いることができる。本発明に適用可能なフェライト材料の粒子は、例えば、Ni-Znフェライトの粒子またはNi-Zn-Cuフェライトの粒子である。本発明に適用可能な金属磁性粒子は、例えば、(1)金属系のFeもしくはNi、(2)合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、もしくはFe-Ni、(3)非晶質のFe―Si-Cr-B-C、もしくはFe-Si-B-Cr、(4)またはこれらの混合材料の粒子である。
【0053】
磁性膜11a1~磁性膜11a7、上側カバー層18a、下側カバー層19a、磁性膜11b1~磁性膜11b7、上側カバー層18b、下側カバー層19bを構成する磁性膜は、その全てがフェライト材料から形成されてもよく、その全てが軟磁性金属材料または軟磁性合金材料から形成されてもよく、その全てが樹脂に多数のフィラー粒子を分散させた複合材料から形成されてもよい。磁性膜11a1~磁性膜11a7、上側カバー層18a、下側カバー層19a、磁性膜11b1~磁性膜11b7、上側カバー層18b、下側カバー層19bを構成する磁性膜は、その一部の磁性膜が他の磁性膜と異なる材料から形成されてもよい。
【0054】
本発明の一実施形態において、下側カバー層19aは、平面視で円環形状の環状部19a1を有する。環状部19a1は、平面視において、コイル導体25aの平面視形状と一致する形状を有する。例えば、コイル導体25aは、ビアVa1~Va6を介して導体パターン25a1~25a7が接続されたスパイラル形状を有しており、平面視においてはほぼ楕円形となる。この場合、環状部19a1は、平面視においてコイル導体25aの平面視形状と一致する楕円形に形成される。環状部19a1は、平面視において、コイル導体25aの平面視形状の外縁よりも内側に配される。例えば、環状部19a1は、コイル導体25aの外縁を画する楕円よりも長軸方向及び短軸方向が若干短い楕円形状に形成される。
【0055】
本発明の一実施形態において、上側カバー層18bは、平面視で円環形状の環状部18b1を有する。環状部18b1は、平面視において、コイル導体25bの平面視形状と一致する形状を有する。例えば、コイル導体25bは、ビアVb1~Vb6を介して導体パターン25b1~25b7が接続されたスパイラル形状を有しており、平面視においてはほぼ楕円形となる。この場合、環状部18b1は、平面視においてコイル導体25bの平面視形状と一致する楕円形に形成される。環状部18b1は、平面視において、コイル導体25bの平面視形状の外縁よりも内側に配される。例えば、環状部18b1は、コイル導体25bの外縁を画する楕円よりも長軸方向及び短軸方向が若干短い楕円形状に形成される。
【0056】
環状部19a1及び環状部18b1は、磁性基体10の環状部19a1及び環状部18b1以外の領域(すなわち、上側カバー層18a、上側磁性体層20a、下側カバー層19aの環状部18b1以外の領域、上側カバー層18bの環状部18b1以外の領域、下側磁性体層20b、及び下側カバー層19bを含む領域)よりも低い飽和磁束密度を有する磁性材料から形成される。これにより、環状部19a1及び環状部18b1は、磁性基体10において、当該環状部19a1及び当該環状部18b1以外の領域よりも低い飽和磁束密度を有する。
【0057】
一実施形態においては、磁性基体10の構成部位はいずれも、Feを含有する軟磁性合金の粒子群から形成される。この場合、環状部19a1及び環状部18b1は、磁性基体10の環状部19a1及び環状部18b1以外の領域よりも質量基準での鉄の含有比率が低くなるように構成される。例えば、磁性基体10がFe-Si系合金の粒子群を含む磁性材料から形成される場合、環状部19a1及び環状部18b1に含まれるFe-Si系合金におけるFeの質量基準での含有比率は、磁性基体10の環状部19a1及び環状部18b1以外の領域に含まれるFe-Si系合金におけるFeの質量基準での含有比率よりも小さくなる。磁性基体10の2つの領域における鉄の質量基準での含有比率の大小を比較する場合には、軟磁性合金粒子以外の磁性基体10の構成物(例えば、バインダ)の影響は無視して、比較対象となっている2つの領域に含まれている軟磁性合金粒子における質量基準での鉄の含有比率の大小を比較することができる。このように、環状部19a1及び環状部18b1における鉄の含有比率を磁性基体10のそれ以外の領域における鉄の含有比率よりも低くすることにより、環状部19a1及び環状部18b1の飽和磁束密度を磁性基体10の環状部19a1及び環状部18b1以外の領域の飽和磁束密度よりも低くすることができる。
【0058】
鉄を含有する軟磁性合金は、一般に、鉄の含有比率が高いほど飽和磁束密度が高くなる。よって、上記のように、環状部19a1及び環状部18b1における鉄の含有比率を磁性基体10の環状部19a1及び環状部18b1以外の領域における質量基準での鉄の含有比率よりも低くすることにより、環状部19a1及び環状部18b1の飽和磁束密度を磁性基体10の環状部19a1及び環状部18b1以外の領域における飽和磁束密度よりも低くすることができる。環状部19a1及び環状部18b1の飽和磁束密度は、Feの含有比率以外のパラメータにより調整してもよい。
【0059】
磁気結合型コイル部品1は、外部電極21と外部電極22との間に配されている第1コイル導体(コイル導体25a)と、外部電極23と外部電極24との間に配されている第2コイル導体(コイル導体25b)と、を有する。この2つのコイルの各々は、例えば、DC-DCコンバータとして用いられる電源回路における2本の電源ラインとそれぞれ接続される。このようにして、磁気結合型コイル部品1は、DC-DCコンバータにおけるチョークコイルとして動作することができる。
【0060】
磁気結合型コイル部品1は、第3のコイル(不図示)を含むことができる。第3のコイルを備える磁気結合型コイル部品1は、コイルユニット1aと同様に構成されたもう1つのコイルユニットを追加的に備える。当該追加のコイルユニットには、コイルユニット1a及びコイルユニット1bと同様にコイル導体が設けられ、当該コイル導体が追加的な外部電極と接続される。このような3つのコイルを含む磁気結合型コイル部品は、例えば、マルチフェイズDC-DCコンバータにおけるカップルドインダクタとして用いられる。
【0061】
次に、
図4を参照して、磁気結合型コイル部品1におけるコイル導体25aとコイル導体25bとの結合係数について説明する。
図4は、
図1の磁気結合型コイル部品をI-I線で切断した断面を模式的に示す図である。
図4においては、コイル導体から発生する磁束(磁力線)が矢印で記載されている。また、
図4においては、説明の便宜のために、個別の絶縁体層間の境界の図示は省略されている。
【0062】
図示のように、コイル導体25aは、上側コイル面26aが上側カバー層18aと接し、下側コイル面27aが下側カバー層19aと接するように上側磁性体層20a内に設けられている。コイル導体25aは、上側磁性体層20a内においてコイル軸Aの周りに巻回されている。コイル軸Aは、
図1のT軸と平行に延伸している仮想的な軸線である。コイル軸Aは、T軸と垂直に配されてもよい。コイル導体25bは、上側コイル面26bが上側カバー層18bと接し、下側コイル面27bが下側カバー層19bと接するように下側磁性体層20b内に設けられている。コイル導体25bは、コイル導体25aと同様にコイル軸Aの周りに巻回されている。
【0063】
上側磁性体層20aと下側磁性体層20bとの間には、下側カバー層19a及び上側カバー層18bが設けられている。本明細書においては、下側カバー層19aと上側カバー層18bとを併せて中間磁性体層と呼ぶことがある。上側磁性体層20aは、中間磁性体層の上に設けられており、下側磁性体層20bは中間磁性体層の下に設けられている。
【0064】
環状部19a1及び環状部18b1はいずれも中間磁性体層内に設けられている。本明細書においては、中間磁性体層内における環状部19a1が存在する領域と環状部18b1が存在する領域とを併せて、当該中間磁性体層の第1領域51と呼ぶことがある。この中間磁性体層の第1領域51は、平面視においてコイル導体25a及びコイル導体25bと重複する環状の領域である。
【0065】
この磁気結合型コイル部品1の使用時には、コイル導体25a及びコイル導体25bに電流が流れる。
図4の実施形態において、外部電極21から外部電極22へ向かってコイル導体25aに電流が流れ、外部電極23から外部電極24へ向かってコイル導体25bに電流が流れている。コイル導体25a及びコイル25bに電流が流れると、コイル導体25aと鎖交する磁束41a、コイル導体25bと鎖交する磁束41b、及びコイル導体25a及びコイル導体25bの両方と鎖交する磁束42が発生する。
図4においては、コイル導体25aに鎖交する磁束、コイル導体25bに鎖交する磁束、及びコイル導体25bの両方と鎖交する磁束の相互の区別をわかりやすくするために、磁束41a、磁束41b、及び磁束42が個別に描かれているが、これは説明の便宜のためのものであり、磁性基体11の各領域における実際の磁束は、コイル導体25a及びコイル導体25bのそれぞれを流れる電流によって発生する磁束を足し合わせたものとなる。図示の実施形態において、磁束41aは、コイル導体25aと鎖交しているがコイル導体25bとは鎖交していない磁束を表し、磁束41bは、コイル導体25bと鎖交しているがコイル導体25aとは鎖交していない磁束を表す。磁束42の向きはコイル導体25a及びコイル導体25bを流れる電流の量によって変化する。
図4には、コイル導体25aを流れる電流の量がコイル導体25bを流れる電流の量よりも大きい場合における磁束42の向きが矢印で示されている。本明細書において、「鎖交」という用語は、本発明の技術分野における通常の意義に従って用いられている。すなわち、「鎖交」とは、2つの閉曲線が鎖のように互いに相手をくぐり抜けていることを意味する。
【0066】
コイル導体25aおよびコイル導体25b両方に電流が流れると、前述のように磁束41a、磁束41bおよび磁束42が発生する。これらの磁束はそれぞれ自己インダクタンスL1、自己インダクタンスL2および相互インダクタンスMに寄与する磁束である。印加する電流を増加させると、磁性基体11の各領域において磁気飽和が進み、自己インダクタンスL1、自己インダクタンスL2および相互インダクタンスMは低下する。特に、コイル導体25aとコイル導体25bとの間にあるコイル間領域51では磁束41aと磁束41bが強め合うため、磁気飽和が進みやすい。このため、自己インダクタンスL1および自己インダクタンスL2が低下する。よって、式1として示されている結合係数kの定義から明らかなように、相互インダクタンスMの変化が小さい場合には、L1およびL2の変化が結合係数kに対して支配的となる。つまり、自己インダクタンスL1および自己インダクタンスL2の低下によって式1の分母が小さくなるため、結合係数kが大きく変化する。
【0067】
上記実施形態によれば、コイル間領域51(環状部19a1及び環状部18b1)が鉄の含有比率が低い材料から形成されているため、コイル間領域51において磁気飽和が進みやすい。このため、上記実施形態における磁気結合型コイル部品1は、コイル間に磁気飽和が進みやすい領域を有していない従来の磁気結合型コイル部品と比較して、自己インダクタンスL1および自己インダクタンスL2が大きく減少する。一方、コイル間領域51で磁気飽和が進んだ結果、コイル導体25aのみに鎖交する磁束41aおよびコイル導体25bのみに鎖交する磁束41bが減少する代わりに、コイル導体25a及びコイル導体25bの両方に鎖交する磁束42が増加し、相互インダクタンスMが増加する。このように、上記実施形態における磁気結合型コイル部品1によれば、コイル間領域51において磁気飽和の進行を促進することによって、コイル導体25aの自己インダクタンスL1とコイル導体25bの自己インダクタンスL2をより大きく低下させるとともにコイル導体25aとコイル25導体bとの間の相互インダクタンスMを増加させることができるので、式1として示されている結合係数の定義から明らかなように、コイル導体間での磁気飽和が促進されていない従来の磁気結合型コイル部品と比較して、結合係数kの変化をより大きくすることができる。
【0068】
上記の一実施形態によれば、第1領域51の飽和磁束密度を磁性基体10の第1領域以外の領域よりも低くすることで、コイル導体25a及びコイル導体25bに電流が流れる際の第1領域51における磁気飽和を促進している。したがって、磁気結合型コイル部品1においては、第1領域51における飽和磁気密度を低くすることにより、かかる低飽和磁束密度領域が設けられていない同種のコイル部品と比較して、コイル導体25a及びコイル導体25bへの電流印加時におけるコイル導体25aの自己インダクタンスL1及びコイル導体25bの自己インダクタンスL2の低下率が大きくなる。また、第1領域51において磁気飽和が起こると、磁束41a及び磁束41bの割合が減少して、コイル導体25aとコイル導体25bとの結合に寄与する磁束42の割合が増加することになるから、両コイル間の相互インダクタンスMの絶対値の増加率を大きくすることができる。このL1、L2及びMの変化により、式1から理解されるように、磁気結合型コイル部品1においては、電流印加時における結合係数kを高くすることができる。
【0069】
次に、磁気結合型コイル部品1の製造方法の一例を説明する。磁気結合型コイル部品1は、例えば積層プロセスによって製造することができる。まず、コイルユニット1a及びコイルユニット1bをそれぞれ作成する。
【0070】
まず、上側カバー層18aを構成する各磁性膜、磁性膜11a1~磁性膜11a7、磁性膜11b1~磁性膜11b7、及び下側カバー層19bを構成する各磁性膜となる磁性体シート(以下、「第1磁性体シート」と呼ぶ。)を作成する。これらの第1磁性体シートは、例えば、フェライト、軟磁性合金、又はこれら以外の磁性材料から形成される。以下では、第1磁性体シートは、軟磁性合金を含有する磁性材料から形成されるものとする。
【0071】
軟磁性合金を含有する磁性材料から成る第1磁性体シートを作成するために、まず、Fe-Si系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co系合金、Fe-Cr-Si系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-B-Cr系合金、又はこれら以外の任意の軟磁性合金から成る軟磁性金属粒子の粒子群にバインダ樹脂及び溶剤を加えてスラリーを作成し、このスラリーをプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布する。この塗布されたスラリーを乾燥させることで第1磁性体シートが作成される。
【0072】
次に、下側カバー層19a及び上部カバー層18aを構成する各磁性膜となる磁性体シート(以下、「第2磁性体シート」という。)を作成する。下側カバー層19aには環状部19a1が設けられており、また、上部カバー層18aには環状部18b1が設けられているため、この環状部19a1及び環状部18b1となるための磁性体シート(以下、「環状部用シート」という。)をまず作成する。この環状部用シートは、第1磁性体シートに含まれる軟磁性金属粒子よりも鉄の含有比率が高い軟磁性合金粒子の粒子群にバインダ樹脂及び溶剤を加えてスラリーを作成し、このスラリーをプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布し、この塗布されたスラリーを乾燥させることで得られる。このようにして作成された環状部用シートは、第1磁性体シートよりも鉄の含有比率が低い。次に、環状部用シートを平面視においてコイル導体25aに相当する円環形状となるようにカットする。このようにして得られた環状のシートの周囲及び環内に第1磁性体シートの作成に使用したスラリーと同じスラリーを塗布し、この塗布したスラリーを乾燥させることで、下側カバー層19a及び上部カバー層18aを構成する磁性膜となる第2磁性体シートが作成される。
【0073】
次に、磁性膜11a1~磁性膜11a6となる各第1磁性体シート及び磁性膜11b1~磁性膜11b6となる第1磁性体シートの各々の所定の位置に、各第1磁性体シートをT軸方向に貫く貫通孔を形成する。
【0074】
次に、磁性膜11a1~磁性膜11a7となる第1磁性体シートの各々の上面及び磁性膜11b1~磁性膜11b7となる第1磁性体シートの各々の上面に、導電ペーストをスクリーン印刷法により印刷することで、当該各第1磁性体シートに導体パターンを形成する。また、各第1磁性体シートに形成された各貫通孔に導電ペーストを埋め込む。このようにして磁性膜11a1~磁性膜11a7となる第1磁性体シートに形成された導体パターンは、それぞれ導体パターン25a1~導体パターン25a7となり、各貫通孔に埋め込まれた金属がビアVa1~Va6となる。また、磁性膜11b1~磁性膜11b7となる磁性体シートに形成された導体パターンは、それぞれ導体パターン25b1~導体パターン25b7となり、各貫通孔に埋め込まれた金属がビアVb1~Vb6となる。各導体パターン及び各ビアは、スクリーン印刷法以外にも公知の様々な方法で形成され得る。
【0075】
次に、磁性膜11a1~磁性膜11a7となる各第1磁性体シートを積層して第1コイル積層体を得る。磁性膜11a1~磁性膜11a7となる各第1磁性体シートは、当該各磁性体シートに形成されている導体パターン25a1~25a7の各々が隣接する導体パターンとビアVa1~Va16を介して電気的に接続されるように積層される。同様に、磁性膜11b1~磁性膜11b7となる各第1磁性体シートを積層して第2コイル積層体を得る。磁性膜11b1~磁性膜11b7となる各第1磁性体シートは、当該各第1磁性体シートに形成されている導体パターン25b1~25b7の各々が隣接する導体パターンとビアVb1~Vb16を介して電気的に接続されるように積層される。
【0076】
次に、複数の第1磁性体シートを積層して上側カバー層18aとなる第1上部積層体を形成する。また、複数の第1磁性体シートを積層して下側カバー層19bとなる第2下部積層体を形成する。
【0077】
次に、複数の第2磁性体シートを積層して下側カバー層19aとなる第2上部積層体を形成する。また、複数の第2磁性体シートを積層して上側カバー層18bとなる第1下部積層体を形成する。
【0078】
次に、第2下部積層体、第2コイル積層体、第1下部積層体、第2上部積層体、第1コイル積層体、及び第1上部積層体をT軸方向の負方向側から正方向側に向かってこの順序で積層し、この積層された各積層体をプレス機により熱圧着することで本体積層体が得られる。本体積層体は、2下部積層体、第2コイル積層体、第2上部積層体、第1下部積層体、第1コイル積層体、及び第1上部積層体を形成せずに、準備した磁性体シート全てを順番に積層して、この積層された磁性体シートを一括して熱圧着することにより形成しても良い。
【0079】
次に、ダイシング機やレーザ加工機等の切断機を用いて上記本体積層体を所望のサイズに個片化することで、チップ積層体が得られる。次に、このチップ積層体を脱脂し、脱脂されたチップ積層体を加熱処理する。このチップ積層体の端部に対して、必要に応じて、バレル研磨等の研磨処理を行う。
【0080】
次に、このチップ積層体の両端部に導体ペーストを塗布することにより、外部電極21、外部電極22、外部電極23、及び外部電極24を形成する。外部電極21、外部電極22、外部電極23、及び外部電極24には、必要に応じて、半田バリア層及び半田濡れ層の少なくとも一方が形成されてもよい。以上により、磁気結合型コイル部品1が得られる。
【0081】
上記の製造方法に含まれる工程の一部は、適宜省略可能である。磁気結合型コイル部品1の製造方法においては、本明細書において明示的に説明されていない工程が必要に応じて実行され得る。上記の磁気結合型コイル部品1の製造方法に含まれる各工程の一部は、本発明の趣旨から逸脱しない限り、随時順番を入れ替えて実行され得る。上記の磁気結合型コイル部品1の製造方法に含まれる各工程の一部は、可能であれば、同時に又は並行して実行され得る。
【0082】
磁気結合型コイル部品1に含まれる各磁性膜は、各種のフィラー粒子を分散させた樹脂を仮硬化させた絶縁シートから形成されてもよい。かかる絶縁シートについては、脱脂を行う必要がない。
【0083】
磁気結合型コイル部品1は、スラリービルド法又はこれ以外の任意の公知の方法により製造されてもよい。
【0084】
磁気結合型コイル部品1は、積層プロセスによって形成されるので、従来の組立型のカップルドインダクタよりも小型化が容易に可能となる。
【0085】
続いて、
図5を参照して、本発明の別の一実施形態について説明する。
図5は、本発明の別の実施形態による磁気結合型コイル部品101の断面を模式的に示している。
図5に示されている磁気結合型コイル部品101は、中間磁性体層が下側カバー層119a及び上側カバー層118bから構成されている点で磁気結合型コイル部品1と異なっている。本明細書においては、下側カバー層119a及び上側カバー層118bのうち、コイル導体25a及びコイル導体25bの内側にある領域をコア領域151aと呼び、コイル導体25a及びコイル導体25bの外側にある領域を外周領域151bと呼ぶことがある。中間磁性体層(下側カバー層119a及び上側カバー層118b)のコア領域151a及び外周領域151bは、当該中間磁性体層の第2の領域の例である。一実施形態において、中間磁性体層は、その第1領域51、コア領域151a、及び外周領域151b以外の領域における飽和磁束密度が、磁性基体10の中間磁性体層以外の領域における飽和磁束密度よりも低くなるように構成される。このような中間磁性体層は、上記の第2磁性体シートを積層することで作成される。
【0086】
磁気結合型コイル部品101において、コイル導体25a及びコイル導体25bに両者が負結合する方向に電流が流れると、中間磁性体層での磁化の強さが強まるにつれてコイル導体25aの自己インダクタンスL1及びコイル導体25bの自己インダクタンスL2が低下する。また、中間磁性体層での磁化の強さが強くなると、磁束41a及び磁束41bが減少する一方で磁束42が増加するため、コイル導体25aとコイル導体25bとの間の相互インダクタンスMの絶対値が増加する。よって、磁気結合型コイル部品101について述べたのと同じ原理で、コイル導体25a及びコイル導体25bへの電流印加時に結合係数kを高くすることができる。
【0087】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0088】
本明細書において、ある層が他の層の「上」又は「下」に設けられる場合には、当該ある層は当該他の層と直接接していても良く、他の磁性膜を介して間接的に接していても良い。例えば、上側カバー層18aは、上側磁性体層20aの上面に直接に接していても良く、上側磁性体層20aの上面と別の磁性膜を介して間接的に接していても良い。同様に、下側カバー層19aは、上側磁性体層20aの下面に直接に接していても良く、上側磁性体層20aの上面と別の磁性膜を介して間接的に接していても良い。
【符号の説明】
【0089】
1,101 磁気結合型コイル部品
10 磁性基体
18a,18b 上側カバー層
19a,19b 下側カバー層
51 第1領域