(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】構築方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/00 20060101AFI20220502BHJP
【FI】
E02B7/00 Z
(21)【出願番号】P 2018165895
(22)【出願日】2018-09-05
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000162216
【氏名又は名称】共和コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 敦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聰
(72)【発明者】
【氏名】大塚 俊二
(72)【発明者】
【氏名】直井 智治
(72)【発明者】
【氏名】荒川 淳
(72)【発明者】
【氏名】國嶋 典裕
(72)【発明者】
【氏名】尾池 宣佳
【審査官】三笠 雄司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-126977(JP,A)
【文献】特開平05-321229(JP,A)
【文献】特開平10-176322(JP,A)
【文献】特開2001-131944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムの水路に沿って設けられる導流壁の本体上に形成されると共に前記水路側に突出する波返し部をプレキャスト部材によって構築する構築方法であって、
前記プレキャスト部材の底板部が前記水路側に張り出すと共に前記プレキャスト部材の側壁部が前記底板部の前記水路側に張り出した部分から立設するように、前記本体上に前記プレキャスト部材を設置する工程と、
前記本体の前記水路との反対側に型枠を設置する工程と、
前記側壁部の前記水路との反対側、及び前記底板部の上側にコンクリートを打設する工程と、
を備え
、
前記型枠と前記プレキャスト部材の間の前記本体上には前記本体の前記反対側の面に沿って内部から上方に延びる鉄筋が突出しており、
前記コンクリートを打設する工程では、前記鉄筋を前記コンクリートに埋設する、
構築方法。
【請求項2】
前記底板部には、前記本体の上面を露出する第1貫通孔が形成されており、
前記コンクリートを打設する工程では、前記第1貫通孔から露出した前記本体の上面にコンクリートを充填する、
請求項
1に記載の構築方法。
【請求項3】
ダムの水路に沿って設けられる導流壁の本体上に形成されると共に前記水路側に突出する波返し部をプレキャスト部材によって構築する構築方法であって、
前記プレキャスト部材の底板部が前記水路側に張り出すと共に前記プレキャスト部材の側壁部が前記底板部の前記水路側に張り出した部分から立設するように、前記本体上に前記プレキャスト部材を設置する工程と、
前記側壁部の前記水路との反対側、及び前記底板部の上側にコンクリートを打設する工程と、
を備え、
前記底板部には、前記本体の上面を露出する第1貫通孔が形成されており、
前記導流壁には、一定間隔ごとに止水板が設けられ、
前記コンクリートを打設する工程では、前記第1貫通孔から露出した前記本体の上面にコンクリートを充填し、前記第1貫通孔から上方に延びる前記止水板が前記コンクリートに埋め込まれる、
構築方法。
【請求項4】
前記本体の前記水路との反対側に型枠を設置する工程を備え、
前記型枠と前記プレキャスト部材の間の前記本体上には前記本体の前記反対側の面に沿って内部から上方に延びる鉄筋が突出しており、
前記コンクリートを打設する工程では、前記鉄筋を前記コンクリートに埋設する、
請求項3に記載の構築方法。
【請求項5】
前記本体からはアンカーボルトが突出しており、前記底板部には前記アンカーボルトが挿通される第2貫通孔が形成されており、
前記プレキャスト部材を設置する工程は、
前記アンカーボルトを前記第2貫通孔に挿通して前記本体上に前記底板部を配置する工程と、
前記アンカーボルトにナットを締め付ける工程と、
を有する、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダムの導流壁の波返し部を構築する構築方法及びプレキャスト部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ダムの導流壁の波返し部を構成するプレキャストコンクリート部材が記載されている。ダムの導流壁は、ダムの堤趾に沿って延びると共に越流水の水路の反対側の面が傾斜する導流壁本体と、導流壁本体の頂部において水路側に張り出した波返し部とを備える。波返し部は、プレキャストコンクリート部材を用いて施工されている。このプレキャストコンクリート部材は、導流壁本体の頂部から上方に延長するように設けられる基部と、基部から水路側に張り出すように設けられる張出部とを一体に有する。プレキャストコンクリート部材は、波返し部の全体を構成する略直方体状とされている。また、プレキャストコンクリート部材は、クレーン及び玉掛けワイヤを用いて揚重され、導流壁本体の頂部に一体接合されることによって導入壁の波返し部となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ダムの導流壁を構築する作業においては、揚重する部材の軽量化が望まれている。一般的に、ダムの周辺は、作業環境が良くない箇所が多く、重量が大きい部材を揚重する作業が困難となる場合がある。すなわち、ダムの周辺では、揚重作業を行いにくい場合があり、重量が大きい部材を揚重して移動させる作業が困難となりうる。従って、揚重する部材を軽量化させることによってダムの導流壁の構築作業の効率化を行うことが求められている。また、前述したプレキャスト部材は、波返し部の全体を構成する略直方体状とされているため、プレキャスト部材の軽量化の点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、プレキャスト部材を軽量化することができると共に、ダムの導流壁を構築する作業を効率よく行うことができる構築方法及びプレキャスト部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る構築方法は、ダムの水路に沿って設けられる導流壁の本体上に形成されると共に水路側に突出する波返し部をプレキャスト部材によって構築する構築方法であって、プレキャスト部材の底板部が水路側に張り出すと共にプレキャスト部材の側壁部が底板部の水路側に張り出した部分から立設するように、本体上にプレキャスト部材を設置する工程と、側壁部の水路との反対側、及び底板部の上側にコンクリートを打設する工程と、を備える。
【0007】
この構築方法では、プレキャスト部材の底板部が水路側に張り出すと共に、プレキャスト部材の側壁部が底板部の水路側に張り出した部分から立設する。そして、側壁部の水路との反対側、及び底板部の上側にコンクリートが打設されることによって波返し部が構築される。よって、底板部及び側壁部を備えるプレキャスト部材は波返し部の一部を構成するので、導流壁の波返し部を構成するプレキャスト部材を軽量化させることができる。従って、ダムの周辺の作業環境が良くない箇所であっても、プレキャスト部材が軽量化されていることにより、プレキャスト部材を揚重して移動させる作業を効率よく行うことができる。また、プレキャスト部材の側壁部は、底板部の水路側に張り出した部分から立設する。従って、プレキャスト部材の水路側に側壁部が設けられることにより、水路側に設置する型枠を不要とすることができる。すなわち、プレキャスト部材の側壁部を型枠として機能させることができる。その結果、水路側に型枠を設置する工程を省略できるので、導流壁の上端の高所における型枠の設置のための足場等を不要とすることができる。更に、水路側の高所に型枠を設置する作業を不要とすることができるので、作業の安全性を高めることができる。
【0008】
また、本体上には本体の内部から延びる鉄筋が突出しており、コンクリートを打設する工程では、鉄筋をコンクリートに埋設してもよい。この場合、本体の内部から上方に突出する鉄筋がコンクリートに埋設されるので、本体にプレキャスト部材をより強固に一体化させることができる。
【0009】
また、底板部には、本体の上面を露出する第1貫通孔が形成されており、コンクリートを打設する工程では、第1貫通孔から露出した本体の上面にコンクリートを充填してもよい。この場合、プレキャスト部材の底板部に本体の上面を露出する第1貫通孔が形成されているので、プレキャスト部材を更に軽量化することができる。また、第1貫通孔から露出した本体の上面にコンクリートを充填することにより、本体にプレキャスト部材を更に強固に一体化させることができる。
【0010】
また、前述した構築方法は、コンクリートを打設する工程の前に、本体の水路との反対側に型枠を設置する工程を備えてもよい。この場合、コンクリートを打設する前に本体の水路との反対側に型枠が設置されるので、プレキャスト部材の水路との反対側の構成を簡易にすることができる。従って、プレキャスト部材の更なる軽量化に寄与する。
【0011】
また、プレキャスト部材を設置する工程では、複数のプレキャスト部材を本体上に設置し、コンクリートを打設する工程では、本体上に設置された複数のプレキャスト部材にコンクリートを打設してもよい。この場合、本体上に複数のプレキャスト部材が設置された後、複数のプレキャスト部材に対して一括してコンクリートが打設される。従って、複数のプレキャスト部材を設置した後にコンクリートを一括して打設することにより、波返し部の構築作業をより効率よく行うことができる。
【0012】
また、本体からはアンカーボルトが突出しており、底板部にはアンカーボルトが挿通される第2貫通孔が形成されており、プレキャスト部材を設置する工程は、アンカーボルトを第2貫通孔に挿通して本体上に底板部を配置する工程と、アンカーボルトにナットを締め付ける工程と、を有してもよい。この場合、底板部の第2貫通孔に挿入されたアンカーボルト、及びアンカーボルトへのナットの締め付けにより、本体にプレキャスト部材をより強固に設置することができる。
【0013】
本発明の一形態に係るプレキャスト部材は、ダムの水路に沿って設けられる導流壁の本体上に形成されると共に水路側に突出する波返し部を構成するプレキャスト部材であって、水路側に張り出すように本体上に載せられる底板部と、底板部の水路側に張り出した部分から立設する側壁部と、を備え、側壁部の水路との反対側、及び底板部の上側にコンクリートが打設される。
【0014】
このプレキャスト部材は、ダムの水路側に張り出す底板部と、底板部の水路側に張り出した部分から立設する側壁部とを備え、側壁部の水路との反対側、及び底板部の上側にコンクリートが打設されて波返し部が構築される。よって、プレキャスト部材は波返し部の一部を構成するので、プレキャスト部材を軽量化することができる。従って、ダムの周辺の作業環境が良くない箇所であっても、軽量化されたプレキャスト部材の揚重作業を容易に行うことができるので、導流壁の構築作業を効率よく行うことができる。また、プレキャスト部材の側壁部は、底板部の水路側に張り出した部分から立設するので、側壁部を型枠として機能させることができる。従って、水路側に設置する型枠を不要とすることができるので、導流壁の上端の高所における型枠の設置のための足場等を不要とすることができる。その結果、導流壁の構築作業を効率よく行うことができると共に、作業の安全性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プレキャスト部材を軽量化することができると共に、ダムの導流壁を構築する作業を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係る波返し部の構築方法及びプレキャスト部材が適用されるダムの例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のダムに並べられた複数のプレキャスト部材を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、
図1のプレキャスト部材を含むダムの導流壁を示す側面図である。
【
図4】
図4は、
図3の導流壁の本体の上部と複数のプレキャスト部材を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4の本体にプレキャスト部材を接合させる構造の例を示す縦断面図である。
【
図6】
図6の(a)部、
図6の(b)部、及び
図6の(c)部は、実施形態に係る波返し部の構築方法の手順の例を示す縦断面図である。
【
図7】
図7は、プレキャスト部材が設置された導流壁の本体の上部に設置された型枠の例を示す断面斜視図である。
【
図8】
図8は、従来の波返し部の構築方法の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照しながら本発明に係る構築方法及びプレキャスト部材を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法及び角度等は図面に記載されたものに限定されない。
【0018】
図1に示されるように、実施形態に係る構築方法及びプレキャスト部材が適用されるダム1は、例えば、大雨の洪水発生時を含む非常時に使用されるダムであって、複数のクレストゲート2と、ダム1の堤体の越流部を構成する水路3と、ダム1を管理する管理棟4と、水路3に沿って設けられる導流壁10とを備える。ダム1は、例えば、洪水調整機能を増強するために改修工事によって増築されるダムである。
【0019】
クレストゲート2は、ダム1の堤頂部に設置され、例えば、洪水発生時等におけるダム1の天端からの越流を防ぐために設けられる。管理棟4では、例えば、ダム1の各部が操作及び監視されると共に、洪水予測等の通知を行う。導流壁10は、ダム1の堤体に設けられると共に、クレストゲート2からの越流水を下流側の減勢工に導く壁体である。
【0020】
導流壁10の高さは、水路3の外への水の流出を防ぐため、所定の高さ以上であることが求められるが、導流壁10の高さが高くなるほどコストの増大が見込まれる。導流壁10は、その頂部に水路3側に突出する波返し部20を備えることにより、高さを抑えても水路3の外への水の流出を抑えることが可能となるためコストの低減に寄与する。一例として導流壁10の高さは30m程度である。
【0021】
図2は、導流壁10を模式的に示す図である。
図1及び
図2に示されるように、本実施形態に係るダム1では、波返し部20の一部をプレキャスト化することによって、波返し部20の構築を効率よく行うと共に工期の短縮化を可能としている。波返し部20は、水路3が延びる方向D1に沿って並設される複数のプレキャスト部材21と、方向D1に沿って一定間隔おきに設けられる止水壁30とを含む。
【0022】
ダム1は、止水壁30によって仕切られた複数の領域A(ブロック)を備えており、例えば、複数の領域Aごとに導流壁10の構築が行われる。領域Aには、一例として、15個以上且つ30個以下のプレキャスト部材21が配置される。止水壁30は、例えば、塩ビ止水板である。止水壁30が導流壁10において一定間隔ごとに埋め込まれることにより、気温の変動等によって導流壁10が膨張又は伸縮しても漏水及び浸水等を抑制することができる。
【0023】
図3は、導流壁10を示す側面図である。
図3に示されるように、導流壁10は、本体11と、本体11の頂部に設けられる波返し部20とを備えるコンクリート構造物である。本明細書において、導流壁の「本体」とは、導流壁の波返し部以外の部分を示している。本体11は、水路3側を向くと共に鉛直方向に延びる内面11aと、水路3の反対側を向くと共に頂部に向かうに従って水路3側に傾斜する外面11bと、鉛直上方を向く上面11cとを有する。
【0024】
本体11の内部には、複数の鉄筋12が埋め込まれており、複数の鉄筋12のそれぞれは、本体11の上面11cから突出する。例えば、複数の鉄筋12のそれぞれは本体11の下端付近から外面11bに沿って伸びている。鉄筋12は、プレキャスト部材21の水路3との反対側において、プレキャスト部材21を避けた部分から上方に突出している。鉄筋12の上側の一部は上面11cから斜め上方に伸び出している。また、複数の鉄筋12は、複数のプレキャスト部材21が並ぶ方向D1(
図3の紙面の直交方向)に沿って並設されている。
【0025】
波返し部20は、複数のプレキャスト部材21と、プレキャスト部材21に打設されたコンクリートCとによって構成される。プレキャスト部材21は、水路3側に張り出すように本体11に載せられる底板部22と、底板部22の水路3側に張り出した部分22aから立設する側壁部23とを備える。すなわち、プレキャスト部材21は、底板部22及び側壁部23を備えたL字状とされている。このように、プレキャスト部材21は簡易な形状とされているため、事前に工場等で製造しやすいという利点がある。例えば、底板部22の厚さは、側壁部23の厚さよりも厚い。例えば、コンクリートCは、上面11cにプレキャスト部材21が設置された後に打設される現場打ちコンクリートである。
【0026】
前述したように、プレキャスト部材21は、波返し部20の一部を構成している。よって、プレキャスト部材が波返し部の全部を構成する場合と比較して、プレキャスト部材21は軽量化されている。例えば、プレキャスト部材21の重量は、1t以下であり、一例として945kg以上且つ975kg以下である。このように、プレキャスト部材21が軽量化されていることにより、導流壁10から離れた場所に位置するクレーンでもプレキャスト部材21を確実に吊り上げることが可能となる。
【0027】
図4は、コンクリートCが打設される前のプレキャスト部材21、及び本体11の上面11cの周辺の構成を示す斜視図である。
図4に示されるように、プレキャスト部材21の底板部22は、矩形板状とされており、例えば、水路3に交差する方向D2に長く延びる長方形状とされている。一例として、方向D2は、方向D1に直交する水平方向である。
【0028】
例えば、底板部22の長手方向(方向D2)の長さは、170cm以上且つ220cm以下であり、一例として200cmである。底板部22の幅(方向D1の長さ)は、70cm以上且つ130cm以下であり、一例として100cmである。底板部22の厚さ(高さ)は、20cm以上且つ30cm以下であり、一例として25cmである。但し、底板部22の長さ、幅及び厚さの値は上記の例に限られず適宜変更可能である。
【0029】
図5は、底板部22及び本体11を示す縦断面図である。
図4及び
図5に示されるように、底板部22は、底板部22の長手方向の一方側において底板部22を貫通する第1貫通孔22bと、アンカーボルト24が挿通されると共に底板部22を貫通する第2貫通孔22cとを有する。第1貫通孔22bの形状は、例えば、八角形状とされているが、適宜変更可能である。例えば、底板部22の長手方向(方向D2)に延びる第1貫通孔22bの長さは、50cm以上且つ100cm以下であり、一例として78.5cmである。底板部22の幅方向(方向D1)に延びる第1貫通孔22bの幅は、40cm以上且つ85cm以下であり、一例として62.5cmである。
【0030】
第1貫通孔22bは、本体11の上面11cを露出すると共にコンクリートCが打設されることによって本体11にプレキャスト部材21を強固に一体化させるための孔である。一例として、第1貫通孔22bは、底板部22の長手方向の中央よりも側壁部23との反対側の位置に設けられる。第1貫通孔22bが形成されることにより、プレキャスト部材21は、第1貫通孔22bが形成されていない場合と比較して軽量化することができる。
【0031】
底板部22は、例えば、複数の第2貫通孔22cを有し、複数の第2貫通孔22cのそれぞれにはアンカーボルト24が挿通される。複数の第2貫通孔22cは、例えば、第1貫通孔22bを囲む位置に配置されており、一例として、第1貫通孔22bの4つの隅部のそれぞれに対向して配置されている。また、底板部22と側壁部23の間には、例えば、ハンチ部25が設けられる。このハンチ部25により、底板部22と側壁部23の間の強度が高められている。
【0032】
側壁部23は、例えば、矩形板状とされている。側壁部23は、底板部22の長手方向の端部から上方に立設するように設けられる。例えば、底板部22の長手方向の端部は、底板部22の水路3側に張り出した部分22aに一致する。側壁部23は、例えば、直方体状とされている。
【0033】
例えば、底板部22から延長して延びる側壁部23の辺23aの長さ(高さ)は、70cm以上且つ130cm以下であり、一例として100cmである。側壁部23の辺23aに交差する辺23bの長さは、70cm以上且つ130cm以下であり、一例として100cmである。側壁部23の厚さは、例えば、8cm以上且つ12cm以下である。但し、側壁部23の辺23a,23bの長さ、及び側壁部23の厚さは適宜変更可能である。
【0034】
本体11は、上面11cに開口する挿入穴11dを有する。挿入穴11dには、例えば、インサート13が埋め込まれている。インサート13は、一例として、ケミカルインサートであって、薬剤又はグラウト材である。例えば、挿入穴11d及び第2貫通孔22cは共に円筒穴形状とされており、挿入穴11dの内径は第2貫通孔22cの内径よりも小さい。また、挿入穴11dの内径、及び第2貫通孔22cの内径は、アンカーボルト24の外径よりも大きい。
【0035】
アンカーボルト24と第2貫通孔22cの間には充填材Fが充填されている。充填材Fは、例えば、グラウト材である。充填材Fは硬化され、充填材Fから上方にアンカーボルト24が突出しており、アンカーボルト24の上方に突出した部分24aにナット26が締結されている。例えば、充填材Fの上面F1にワッシャ27が載せられておりワッシャ27の上面27aにおいてナット26がアンカーボルト24に締め込まれている。
【0036】
次に、実施形態に係る波返し部20の構築方法について説明する。以下では、波返し部20を備える導流壁10を構築する方法の例について
図6の(a)部、
図6の(b)部、
図6の(c)部及び
図7を参照しながら説明する。まず、
図6の(a)部に示されるように、導流壁10の本体11を構築する(導流壁の本体を構築する工程)。具体的には、鉄筋12を囲むように型枠Mを配置した後に型枠Mの内部にコンクリートCを打設し、コンクリートCが硬化した後型枠Mを上方にずらしていくことによって本体11を構築する。鉄筋12は、本体11の外面11bに沿って本体11の下方から上方に延びると共に、本体11上(上面11c)から上方に突出している。鉄筋12は、コンクリートCの打設よりも前に配置され、コンクリートCの打設に伴って埋設される。
【0037】
本体11を所定の高さまで構築するときに、又は本体11を所定の高さまで構築した後に挿入穴11dが形成される。挿入穴11dにはインサート13(薬剤・グラウト材)が充填されると共にアンカーボルト24が挿入され、インサート13の硬化に伴ってアンカーボルト24が挿入穴11dに固定される。
【0038】
また、本体11を所定の高さまで構築した後には、
図6の(b)部に示されるように、本体11の上面11cにプレキャスト部材21を設置する(プレキャスト部材を設置する工程)。このとき、底板部22を上面11cに載せると共に、側壁部23が底板部22の水路3側に突出した部分22aから立設するようにプレキャスト部材21の設置を行う。
【0039】
本体11へのプレキャスト部材21の設置は、例えば、以下の手順によって実行する。まず、クレーン等の揚重機によってプレキャスト部材21を吊り上げて、
図5に示されるように、本体11に固定されたアンカーボルト24に底板部22の第2貫通孔22cの位置を合わせた後に、アンカーボルト24の上に第2貫通孔22cが位置するようにプレキャスト部材21を配置する。そして、第2貫通孔22cにアンカーボルト24を挿入する(アンカーボルトを挿入する工程)。
【0040】
次に、第2貫通孔22cに充填材Fを注入し、第2貫通孔22cとアンカーボルト24との間において充填材Fを固化させる(充填材を固化する工程)。続いて、ワッシャ27にアンカーボルト24を挿通させて充填材Fの上面F1にワッシャ27を載せ、ワッシャ27の上からアンカーボルト24にナット26を強く締め付けることによって本体11にプレキャスト部材21を強固に固定する(ナットを締め付ける工程)。
【0041】
図6の(b)部及び
図7に示されるように、本体11に複数のプレキャスト部材21を設置する。例えば、方向D1に沿うように揚重機で複数のプレキャスト部材21を上面11cに載せ、複数のプレキャスト部材21のそれぞれを上面11cに固定して本体11に設置する。一例として、1つの領域A(
図2参照)に複数のプレキャスト部材21を一括して設置する。
【0042】
次に、本体11の水路3との反対側に型枠Mを設置する。例えば、本体11の構築後に本体11の構築で用いた型枠Mを上方にスライドさせて型枠Mの設置を行い、外面11bに型枠Mを固定する。そして、本体11の方向D1の端部(領域Aの方向D1の端部)にも型枠Mを設置して、側壁部23の水路3との反対側及び底板部22の上側にコンクリートCの充填空間Sを形成する。充填空間Sには、本体11の上面11cが第1貫通孔22bを通じて露出している。
【0043】
型枠Mの設置が完了した後には、
図6の(c)部に示されるように、コンクリートCを打設する(コンクリートを打設する工程)。このとき、複数のプレキャスト部材21に対して一度にコンクリートCを打設する。例えば、2、3個のプレキャスト部材21に対して1.23mの高さずつコンクリートCを打設する。また、底板部22の第1貫通孔22bにコンクリートCを充填すると共に、充填空間SにコンクリートCを充填する。そして、コンクリートCが硬化した後に型枠Mを外して一連の工程が完了する。
【0044】
次に、本実施形態に係る構築方法及びプレキャスト部材21の作用効果について説明する。本実施形態に係る構築方法及びプレキャスト部材21では、プレキャスト部材21の底板部22が水路3側に張り出すと共に、プレキャスト部材21の側壁部23が底板部22の水路3側に張り出した部分22aから立設する。そして、側壁部23の水路3との反対側、及び底板部22の上側にコンクリートCが打設されることによって波返し部20が構築される。よって、底板部22及び側壁部23を備えるプレキャスト部材21は波返し部20の一部を構成するので、導流壁10の波返し部20を構成するプレキャスト部材21を軽量化させることができる。
【0045】
従って、ダム1の周辺の作業環境が良くない箇所であっても、プレキャスト部材21が軽量化されていることにより、プレキャスト部材21を揚重して移動させる作業を効率よく行うことができる。また、プレキャスト部材21の側壁部23は、底板部22の水路3側に張り出した部分22aから立設する。従って、プレキャスト部材21の水路3側に側壁部23が設けられることにより、水路3側に設置する型枠を不要することができる。
【0046】
図8に示されるように、従来の波返し部100の構築方法では、水路側に型枠Nを設置してコンクリートを打設する必要があったため、型枠Nを設置するための足場Xと型枠支保工Yを水路側に構築する作業が必要であった。これらの作業は、30m程度の高さを有する導流壁の本体の上端付近で行う必要があるため、困難であると共に高所作業であるため作業の安全性の点で問題があった。
【0047】
これに対し、
図6等に示されるように、本実施形態ではプレキャスト部材21の水路3側に側壁部23が設けられることにより、側壁部23が型枠として機能するため、水路3側に設置する型枠を不要とすることができる。その結果、型枠を設置する工程を省略できるので、導流壁10の上端の高所における型枠Nの設置のための足場X及び型枠支保工Y等を不要とすることができる。更に、水路3側の高所に型枠Nを設置する作業を不要とすることができるので、作業の安全性を高めることができる。
【0048】
また、本体11上には本体11の内部から延びる鉄筋12が突出しており、コンクリートを打設する工程では、鉄筋12をコンクリートCに埋設する。よって、本体11の内部から上方に突出する鉄筋12がコンクリートCに埋設されるので、本体11にプレキャスト部材21をより強固に一体化させることができる。
【0049】
また、底板部22には、本体11の上面11cを露出する第1貫通孔22bが形成されており、コンクリートを打設する工程では、第1貫通孔22bから露出した本体11の上面11cにコンクリートCを充填する。よって、プレキャスト部材21の底板部22に本体11の上面11cを露出する第1貫通孔22bが形成されているので、プレキャスト部材21を更に軽量化することができる。また、第1貫通孔22bから露出した本体11の上面11cにコンクリートCを充填することにより、本体11にプレキャスト部材21を更に強固に一体化させることができる。
【0050】
また、前述した構築方法は、コンクリートを打設する工程の前に、本体11の水路3との反対側に型枠Mを設置する工程を備える。よって、コンクリートCを打設する前に本体11の水路3との反対側に型枠Mが設置されるので、プレキャスト部材21の水路3との反対側の構成を簡易にすることができる。従って、プレキャスト部材21の更なる軽量化に寄与する。
【0051】
また、
図6及び
図7に示されるように、プレキャスト部材を設置する工程では、複数のプレキャスト部材21を本体11上に設置し、コンクリートを打設する工程では、複数のプレキャスト部材21にコンクリートCを打設する。よって、本体11上に複数のプレキャスト部材21が設置された後、複数のプレキャスト部材21に対して一括してコンクリートCが打設される。従って、複数のプレキャスト部材21を設置した後にコンクリートCを一括して打設することにより、波返し部20の構築作業をより効率よく行うことができる。
【0052】
また、
図5に示されるように、本体11からはアンカーボルト24が突出しており、底板部22にはアンカーボルト24が挿通される第2貫通孔22cが形成されており、プレキャスト部材を設置する工程は、アンカーボルト24を第2貫通孔22cに挿通して本体11上に底板部22を配置する工程と、アンカーボルト24にナット26を締め付ける工程と、を有する。従って、底板部22の第2貫通孔22cに挿入されたアンカーボルト24、及びアンカーボルト24へのナット26の締め付けにより、本体11にプレキャスト部材21をより強固に設置することができる。プレキャスト部材21は、アンカーボルト24等を介して、本体11に強固に固定される。その結果、コンクリートCの打設時にコンクリートCの圧力によってプレキャスト部材21がずれる等といった施工上の不具合の発生を抑制することができる。
【0053】
以上、本発明に係る構築方法及びプレキャスト部材の実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲において変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。すなわち、構築方法の各工程の内容及び順序、並びに、プレキャスト部材の各部の形状、大きさ、重量、数及び配置態様は、各請求項の要旨を変更しない範囲において種々の変形が可能である。
【0054】
例えば、前述の実施形態では、底板部22と、水路3側において立設する側壁部23とを備えるプレキャスト部材21について説明した。しかしながら、底板部と、水路3側において立設する第1側壁部と、水路3の反対側において立設する第2側壁部とを備えたプレキャスト部材であってもよい。この場合、水路3の反対側に設置する型枠Mを省略することが可能である。
【0055】
また、前述の実施形態では、第1貫通孔22b及び第2貫通孔22cを有する底板部22を備えたプレキャスト部材21について説明した。しかしながら、第1貫通孔22b及び第2貫通孔22cの少なくともいずれかを有しないプレキャスト部材であってもよい。このように、プレキャスト部材の形状は適宜変更可能である。
【0056】
また、前述の実施形態では、充填材F、アンカーボルト24、ナット26及びワッシャ27を用いて本体11にプレキャスト部材21を固定する例について説明した。しかしながら、本体11にプレキャスト部材21を固定する方法は適宜変更可能である。
【0057】
また、前述の実施形態では、洪水調整機能を増強するために改修工事によって増築されるダム1の導流壁10を構築する例について説明した。しかしながら、本発明に係る構築方法及びプレキャスト部材は、洪水調整機能を有するダム、又は改修工事によって増築されるダム以外にも適用可能であり、種々のダムに応用することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…ダム、2…クレストゲート、3…水路、4…管理棟、10…導流壁、11…本体、11a…内面、11b…外面、11c…上面、11d…挿入穴、12…鉄筋、13…インサート、20…波返し部、21…プレキャスト部材、22…底板部、22a…部分、22b…第1貫通孔、22c…第2貫通孔、23…側壁部、23a,23b…辺、24…アンカーボルト、24a…部分、25…ハンチ部、26…ナット、27…ワッシャ、27a…上面、30…止水壁、A…領域、C…コンクリート、D1,D2…方向、F…充填材、F1…上面、M…型枠、S…充填空間。