(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】車軸用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/62 20060101AFI20220502BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20220502BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20220502BHJP
B61F 15/12 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
F16C33/62
F16C19/38
F16C33/78 C
B61F15/12
(21)【出願番号】P 2018177614
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100148987
【氏名又は名称】前田 礼子
(72)【発明者】
【氏名】豊田 司
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕也
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-100196(JP,A)
【文献】特開2008-285699(JP,A)
【文献】特開2007-298060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/38
F16C 33/58-33/64
F16C 33/78
B61F 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両列の転動体の軌道面を有する一体型の外輪と、各列の転動体の軌道面を夫々有する一対の内輪と、保持器に保持され前記内外輪間に配置された複列の転動体とを備えた車軸用軸受装置において、
ハウジングに固定される前記外輪の外径面に絶縁被膜層を有
し、
前記絶縁被膜層の表面からの距離が、ハウジングと外輪との間の放電現象による通電の発生を防止できる距離である1mm以上となる底面を有し、前記底面に絶縁被膜層を有さず、周壁に絶縁被膜層を有する凹部を前記外輪の外径面に設けたことを特徴とする車軸用軸受装置。
【請求項2】
前記凹部の周壁はテーパ面であることを特徴とする請求項1に記載の車軸用軸受装置。
【請求項3】
前記凹部の周壁は外輪の外径面と略直交する面であることを特徴とする請求項1に記載の車軸用軸受装置。
【請求項4】
前記凹部の底面に刻印部を有することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の車軸用軸受装置。
【請求項5】
前記凹部に、前記内輪と前記外輪間に形成される軸受空間に連通する孔部が設けられ、前記孔部に装着される気体抜き栓を備えたことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の車軸用軸受装置。
【請求項6】
前記転動体は円すいころであり、前記内輪と前記外輪間に形成される軸受空間を密封するシール部材を備えたことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の車軸用軸受装置。
【請求項7】
鉄道車両の車軸を支持する請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の車軸用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両車軸用軸受等、軸受が組み込まれる装置の構造上から、内部に電流が流れることを防止することが必要な用途に用いられる電食防止転がり軸受がある。この種の電食防止転がり軸受として、例えば外輪の外径面および幅面に亘って絶縁層となるセラミックスの溶射皮膜を設けたものが知られている(例えば特許文献1)。これにより、軸受内部の通電を防ぐことができる。
【0003】
ところで、特許文献2に示すように、車軸用軸受(特に鉄道車両車軸用軸受)は複列タイプかつ両シール付きの密封型軸受が使用されることが多い。すなわち、外輪の両端部に、外輪と内輪との間に形成される軸受空間を密封するシール部材を備えた密封装置が配置され、密封装置は、軸受内部に封入したグリースの洩れや、外部から異物が侵入するのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-24883号公報
【文献】特開2008-267431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄道車両車軸用軸受では、外輪の外径面の中央部に段付き部を設けて、段付き部に刻印等を施すことにより製品表示を行うことがある。しかしながら、電食を防止するために外輪外径部に絶縁被膜層を設けると、刻印が見えなくなってしまうという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、絶縁被膜層を設けることによる不具合を防止しつつ、電食を防止することができる車軸用軸受装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車軸用軸受装置は、両列の転動体の軌道面を有する一体型の外輪と、各列の転動体の軌道面を夫々有する一対の内輪と、保持器に保持され前記内外輪間に配置された複列の転動体とを備えた車軸用軸受装置において、前記外輪の外径面に、深さが1mm以上の凹部を設けるとともに、前記外輪の外径面に絶縁被膜層を有し、前記凹部の底面には絶縁被膜層を有しないものである。
【0008】
本発明の車軸用軸受装置によれば、凹部の深さを1mm以上(すなわち、凹部の底面と絶縁被膜層の表面との距離を1mm以上)としているため、凹部の底面に絶縁被膜層を有していなくても放電現象による通電の発生を防止することができる。導電部間の距離が1mmより小さいと、導電部間に直接の接触部がなくても、両導電部間に一定以上の電位差が生じた場合に放電する沿面放電が発生することがある。すなわち、凹部の深さを1mm以上とすることで、凹部では沿面距離(沿面放電する際の導電部間の最短距離)以上を確保することができて、放電を防止することができる。
【0009】
このため、凹部の底面には絶縁被膜層を設ける必要が無くなり、被膜処理前に行った凹部底面における刻印も有効なものとすることができる。また、凹部の底面は、被膜処理が無い通常の金属面となるため、レーザマーキングなどによる表示も可能となる。さらには、凹部の底面の絶縁被膜層を省略して、絶縁被膜層の設置範囲を少なくすることができるため、被膜の処理時間の短縮を図ることができるとともに、被膜後の加工(寸法精度を確保するために、絶縁被膜層の表面における外輪外径面および外輪幅面に対応する部分に施す研磨加工)についても加工範囲が狭くなって、加工時間の短縮を図ることができる。
【0010】
前記構成において、前記凹部の周壁をテーパ面としたり、外輪の外径面と略直交する面としたりしてもよい。特に、凹部の周壁がテーパ面である場合には、周壁への溶射を容易に行うことこができて、周壁に絶縁被膜層を形成しやすいものとなる。
【0011】
前記構成において、前記凹部の底面に刻印部を有するものであってもよい。これにより、製品を識別しやすいものとなる。
【0012】
前記構成において、前記凹部に、前記内輪と前記外輪間に形成される軸受空間に連通する孔部が設けられ、前記孔部に装着される気体抜き栓を備えていてもよい。これにより、密封型の軸受に生じやすい軸受内内圧上昇を防止することができる。
【0013】
前記本発明の車軸用軸受装置は、鉄道車両の車軸を支持する用途で使用される場合に特に有効なものとなる。すなわち、鉄道車両車軸用軸受に多く使用されるタイプとして、前記転動体は円すいころであり、前記内輪と前記外輪間に形成される軸受空間を密封するシール部材を備えたものに適用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車軸用軸受装置は、外輪の外径面に絶縁被膜層を有する一方で、凹部の底面には絶縁被膜層を設ける必要が無くなるため、絶縁被膜層を設けることによる不具合を防止しつつ、電食を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の第1実施形態の車軸用軸受装置を構成する外輪の断面図である。
【
図3】前記
図2に示す外輪の要部拡大断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態の車軸用軸受装置を構成する外輪の断面図である。
【
図5】前記
図4に示す外輪の要部拡大断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態の車軸用軸受装置を構成する外輪の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、複列円すいころ軸受を用いた鉄道車両車軸用軸受の第1実施形態を示す。複列円すいころ軸受1は、2列の軌道面2aを有する一体型の外輪2と、それぞれ1列の軌道面3aを有する一対の内輪3、3と、各列の対向する軌道面2a、3a間に介在した複列の円すいころ4とを有する。各列のころ4は、環状の保持器5のポケット内に転動自在に保持されている。各内輪3、3は、その両端に大鍔部6および小鍔部7を有し、一対の内輪3、3間に間座8が介在されている。外輪2の両端部には、外輪2と内輪との間に形成される軸受空間を密封するシール部材を備えた密封装置9が配置してあり、軸受内部に封入したグリースの洩れや、外部から異物が侵入するのを防止する。
【0017】
外輪2の外径面には、
図2に示すように、凹部10が設けられている。本実施形態では、凹部10は外輪2の周方向のいずれかの位置で、外輪2の外径面の軸方向中央部に1ヶ所設けられている。
図3に示すように、凹部10の周壁11はテーパ面となっており、凹部10の深さは1mm以上となっている。すなわち、後述するように、外輪2の外径面に設けられる絶縁被膜層12の表面から凹部10の底面までの距離が1mm以上となっている。
【0018】
図2に示すように、外輪2には、絶縁層となるセラミックスの溶射皮膜である絶縁被膜層12を有する。絶縁被膜層12は、外輪2の外径面に設けられる外径面部12a、外輪2の両側の軸方向端面に設けられる端面部12b、12b、及び凹部10の周壁に設けられる周壁部12c、12cとからなり、これらが連続して設けられている。外径面部12aは、図示省略のハウジングに取付けられる面となる。絶縁皮膜層12は、厚さが例えば0.2mm~0.5mm程度であり、絶縁皮膜層12となるセラミックス材料としては、アルミナ(Al2 O3 )、グレーアルミナ、酸化チタン(TiO2 )、酸化クロム(Cr2 O3 )等の金属酸化物、またはこれらをベース材料とした複合金属酸化物等が用いられる。
【0019】
本実施形態の車軸用軸受装置を図示省略のハウジングに固定した場合、外輪2とハウジングは金属等の導体であるため、絶縁被膜層12の無い外輪部分においては、ハウジングとの間に直接の接触部がなくても、ハウジングと外輪2との間に一定以上の電位差が生じた場合に放電する沿面放電を生じるおそれがある。しかしながら、本実施形態において、凹部10の深さを1m以上として、凹部10の底面と絶縁被膜層12の表面との距離を1mm以上としているため、凹部10では沿面距離(沿面放電する際の導体間に挟まれた絶縁部材の表面に沿った最小距離)以上を確保することができて、凹部10の底面に絶縁被膜層12を有していなくても放電現象による通電の発生を防止することができる。このように、凹部10の底面には絶縁被膜層12を設ける必要が無くなるため、凹部10の底面には絶縁被膜層12が設けられていない。
【0020】
凹部10の底面(つまり、絶縁被膜層12を有しない部分)には、図示省略の刻印部を設けている。刻印部は、軸受に個別に与えられる製造番号、製造日時、工場やライン等の製造場所、品名等の製造に係る情報がシリアルナンバーやバーコード等で表示される。刻印部を備えたことにより、軸受を識別しやすいものとなる。また、凹部10の底面には絶縁被膜層12を設けていないため、被膜処理前に行った凹部底面における刻印も有効なものとすることができ、凹部10の底面は、被膜処理が無い通常の金属面となるため、レーザマーキングなどによる表示も可能となる。
【0021】
さらには、絶縁被膜層12は、溶射により形成するのが一般的であるため、凹部10の底面の絶縁被膜層12を省略して、絶縁被膜層12の設置範囲を少なくすることにより、被膜の処理時間の短縮を図ることができる。しかも、凹部10の周壁11はテーパ面となっているため、周壁11への溶射を容易に行うことこができて、被膜を形成しやすいものとなる。また、絶縁被膜層12の形成後に、絶縁皮膜層12の表面における外輪外径面および外輪幅面に対応する部分には、寸法精度を確保するための平滑化加工(研磨加工)が施されるため、凹部10の底面の絶縁被膜層を省略すると、加工範囲が狭くなって、加工時間の短縮を図ることができる。
【0022】
このように、本実施形態の車軸用軸受装置は、外輪2の外径面等に絶縁被膜層12を有する一方で、凹部10の底面には絶縁被膜層12を設ける必要が無くなるため、絶縁被膜層12を設けることによる不具合を防止しつつ、電食を防止することができる。しかも、加工時間の短縮を図ることができる。
【0023】
図4及び
図5は、第2実施形態の車軸用軸受装置の外輪を示す。外輪20の外径面には、
図4に示すように、凹部21が設けられている。本実施形態では、凹部21は外輪20の周方向のいずれかの位置で、外輪20の外径面の軸方向中央部に1ヶ所設けられている。
図5に示すように、凹部21の周壁22は、外輪20の外径面と略直交する面となっており、凹部21の底面と略垂直な面となっている。凹部21の深さは1mm以上であり、絶縁被膜層23の表面から凹部21の底面までの距離が1mm以上となっている。
【0024】
絶縁被膜層23は、
図4に示すように、外輪20の外径面に設けられる外径面部23a、外輪20の両端面に設けられる両端面部23b、23b、及び凹部21の周壁に設けられる周壁部23c、23cとを備える。前記第1実施形態と同様に、凹部21の底面には絶縁被膜層23を設ける必要が無いため、凹部21の底面には絶縁被膜層23が設けられていない。
【0025】
第2実施形態の車軸用軸受装置でも、前記第1実施形態の車軸用軸受装置と同様の作用効果を奏する。
【0026】
図6は、第3実施形態の車軸用軸受装置の外輪を示す。外輪30の外径面には、
図6に示すように、凹部31が設けられている。本実施形態では、凹部31は外輪30の周方向のいずれかの位置で、外輪30の外径面の軸方向中央部に1ヶ所設けられている。凹部31の周壁32はテーパ面となっている。凹部31の深さは1mm以上であり、絶縁被膜層33の表面から凹部31の底面までの距離が1mm以上となっている。
【0027】
凹部31の底部には、大径孔部35と小径孔部36とからなる孔部(貫通孔)が設けられており、大径孔部35に空気抜き栓37が装着されている。
【0028】
絶縁被膜層33は、外輪30の外径面に設けられる外径面部33a、外輪30の両端面に設けられる両端面部33b、33b、及び凹部31の周壁に設けられる周壁部33c、33cとを備える。前記第1実施形態と同様に、凹部31の底面には絶縁被膜層33を設ける必要が無いため、凹部31の底面には絶縁被膜層33が設けられていない。
【0029】
第3実施形態の車軸用軸受装置でも、前記第1実施形態の車軸用軸受装置と同様の作用効果を奏する。特に第3実施形態の車軸用軸受装置は、凹部31の底面に設けられた孔部に空気抜き栓37が設けられているので、密封型の軸受に生じやすい軸受内内圧上昇を防止することができる。すなわち、軸受内の温度上昇に起因する空気の膨張により、シールを押さえつけることによるトルクの上昇を防止できる。
【0030】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、凹部10、21、31の数は複数あってもよく、軸方向寸法は種々のサイズとすることができる。転動体はいずれのものであってもよく、円すいころ、円筒ころ、ボールとすることができる。刻印部は、二次元コードに限られず、製品番号等の記載等種々の方法にて形成することができる。絶縁被膜層12は、実施形態に記載されたものの他、放電を防止できるものであれば、種々の材質にて形成することができる。
【符号の説明】
【0031】
2、20、30 外輪
3 内輪
4 円すいころ
10、21、31 凹部
11 周壁
12、23、33 絶縁被膜層
35、36 孔部
37 気体抜き栓