(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】投薬量設定装置
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20220502BHJP
A61M 5/31 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
A61M5/315 550N
A61M5/31 520
(21)【出願番号】P 2018530703
(86)(22)【出願日】2016-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2016080826
(87)【国際公開番号】W WO2017102745
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-12-12
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2016-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】306021192
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ガイロ, マキシム
(72)【発明者】
【氏名】リア, ロバータ
(72)【発明者】
【氏名】ライリー, デクラン
(72)【発明者】
【氏名】トゥーチャー, マーク ディグビー
(72)【発明者】
【氏名】ヘイトン, ポール グレアム
(72)【発明者】
【氏名】リドリー, ジョナサン ポール
(72)【発明者】
【氏名】クープ, ジェームズ ロバート
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2001/0037087(US,A1)
【文献】特表2012-508057(JP,A)
【文献】特開平08-103495(JP,A)
【文献】特表2015-531258(JP,A)
【文献】特表2013-503669(JP,A)
【文献】国際公開第2015/032772(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦軸線(38)を有するステム(31)と第1のねじ山構造(35,36)とを有するロッド要素(3)と、
第2のねじ山構造(411)を有するシェル(4)
と
を備える投薬量設定装置(1)であって、
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)がねじ山(411)を備え、
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)とシェル(4)の第2のねじ山構造(411)が係合し、
シェル(4)とロッド要素(3)を互いに対して回転させることによってロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)とシェル(4)の第2のねじ山構造(411)を互いに沿って移動させることで、ロッド要素(3)がそのステム(31)の縦軸線(38)に沿って移動可能であり、
ロッド要素(3)をそのステム(31)の縦軸線(38)に沿って動かすことによって、投薬チャンバー(611)が形成され、
ロッド要素(3)をそのステム(31)の縦軸線(38)に沿って動かすことによって、
液体が投薬チャンバー(611)内に引き込まれて投薬量設定され得るように投薬チャンバー(611)の容量が適合
される
投薬量設定装置(1)であり、
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)のねじ山(411)の傾斜角(α,β)がロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)のねじ山(411)に沿って変化することを特徴とする、
投薬量設定装置(1)。
【請求項2】
内部と、近位開口部と、遠位開口部とを有するハウジング(2)をさらに備え、ロッド要素(3)がハウジング(2)の内
部に延在し、シェル(4)もハウジング(2)の内
部に延在し、投薬チャンバー(611)がハウジング(2)の内部に形成される、請求項1に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項3】
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)及びシェル(4)の第2のねじ山構造(411)の一方が、少なくとも1つのオス型部材(35)を有するオス型ねじ山構造(35,36)であり、ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)及びシェル(4)の第2のねじ山構造(411)の他方がねじ山(411)を含み、ここでオス型ねじ山構造(35,36)の少なくとも1つのオス型部材(35)がねじ山(411)に向かって突き出ており、ねじ山(411)はオス型ねじ山構造(35,36)の少なくとも1つのオス型部材(35)を受け入れるように寸法決めされている、請求項1又は2に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項4】
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)のねじ山(411)が始点(412)及び終点(413)を有し、ねじ山(411)の始点(412)付近のロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)のねじ山(411)の傾斜角(α,β)がねじ山(411)の終点(413)付近よりも大きい、請求項1から3のいずれか一項に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項5】
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)のねじ山(411)が、ねじ山(411)の始点(412)から始まるプライミング部(416)と、ねじ山(411)の終点(413)で終わる投薬量設定部(415)とを含み、プライミング部(416)のねじ山(411)の傾斜角(α,β)が投薬量設定部(415)のねじ山(411)の傾斜角(α,β)よりも大きい、請求項4に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項6】
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)のねじ山(411)に複数の隆起部(414)が設けられている、請求項1から5のいずれか一項に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項7】
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)のねじ山(411)の隆起部(414)が互いに一定の距離に位置する、請求項6に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項8】
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)のねじ山(411)のプライミング部(416)が、ねじ山(411)の始点(412)と始点(412)に隣接する第1の隆起部(414)との間に配置される、請求項5を引用する請求項7に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項9】
シェル(4)とロッド要素(3)を互いに対して回転させると、ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)とシェル(4)の第2のねじ山構造(411)が、2つの隣接する隆起部(414)間の距離に対応する所定の回転角で複数の隆起部(414)と繰り返し相互作用する、請求項6から8のいずれか一項に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項10】
ロッド要素(3)の第1のねじ山構造(35,36)又はシェル(4)の第2のねじ山構造(411)のねじ山(411)の投薬量設定部(415)において、シェル(4)を所定の回転角の周りで回転させることにより投薬チャンバー(611)を所定の容量分だけ変化させるように隆起部(414)が配置される、請求項9に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項11】
ロッド要素(3)が、ステム(31)の縦軸線(38)に沿ってステム(31)を貫通して延在する移送チャネル(37)を備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項12】
ロッド要素(3)のステム(31)の遠位端に接続された容器座部(8)を備える、請求項1から11のいずれか一項に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項13】
移送チャネル(37)が先端(371)及び開口部(372)を備え、投薬量設定装置(1)の投薬量設定状態で先端(371)及び開口部(372)が、容器(9)が容器座部(8)に配置されているときに容器(9)内に延在するように容器座部(8)に突き出ている、請求項11を引用する請求項12に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項14】
ロッド要素(3)に連結されたカウンター(213,53)であって、ロッド要素(3)のステム(31)の周りでシェル(4)を回転させることでそのステム(31)の縦軸線(38)に沿って動かされているときのロッド要素(3)によって形成される投薬チャンバー(611)の容量を示すようなカウンターを備える、請求項1から13のいずれか一項に記載の投薬量設定装置(1)。
【請求項15】
投薬量設定装置(1)を投薬量設定状態から送達状態に変更すると、カウンター(213,53)がロッド要素(3)から切り離される、請求項14に記載の投薬量設定装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1のプリアンブルに記載の投薬量設定装置に関する。当該装置は、縦軸線を有するステムと第1のねじ山構造とを有するロッド要素及び第2のねじ山構造を有するシェルを備え得る。ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造は、ねじ山を備える。ロッド要素の第1のねじ山構造とシェルの第2のねじ山構造は、係合する。ロッド要素は、シェルとロッド要素を互いに対して回転させることによってロッド要素の第1のねじ山構造とシェルの第2のねじ山構造を互いに沿って移動させることで、ロッド要素のステムの縦軸線に沿って移動可能である。投薬チャンバーは、ロッド要素をそのステムの縦軸線に沿って動かすことによって形成され、投薬チャンバーの容量は、ロッド要素をそのステムの縦軸線に沿って動かすことによって変化する。この種の装置は、自己投与のための特定量の薬物の投薬量設定用に、患者又はその他のユーザーによって使用され得る。
【背景技術】
【0002】
容器から液体又は他の流体を投薬量設定することは、多くの医療、臨床又はその他の用途において必要とされ、複数の異なる方法で実施されている。例えば、液体医薬物質又は薬物は通常、ガラス又はプラスチック製のバイアル又は容器内に供給され、これらは、隔壁又はゴムストッパーと、その周りでクランプされている金属キャップ又は類似の別のシールカバーで塞がれている。特に、医薬用途又は治療用途など、液体が比較的正確に供給されることが必須である場合、投薬量設定のために特定の装置が一般的に使用される。
【0003】
通常、バイアルから薬物を送達するために、シリンジが使用される。これにより、シリンジに付いている針が隔壁又はカバーを貫通し、医薬物質がその針を通ってシリンジに引き込まれる。投薬量設定は、シリンジへの薬物の引き込みを目視で管理することによって手動で実施される。シリンジに移されると、薬物は適切な方法で送達され得る。例えば、薬物を、針から患者の例えば皮下若しくは筋肉内に注射するか、又は経口的に適用するか、又は例えば患者の眼、口若しくは鼻に液滴として提供することができる。しかし、特に特定量の薬物を正確に投薬量設定することが必要とされる場合、又は10マイクロリットルから約1ミリリットルの範囲のような比較的少量が投薬量設定される場合は通常、医師又は看護師などの専門的な教育を受けた者が関与する必要がある。このような場合患者は大抵、通常のシリンジ又は類似の装置を使用するときに自分で送達を行うことができない。すなわち、自己投与は不可能である。しかし、液体又は薬物の自己投与は、患者のための手間及び治療のコストを大幅に減じることができるため、多くの治療用途において有益である。
【0004】
このような状況を改善するために使用されている、比較的正確な量の液体をより簡便に送達できるようにする装置がある。例えば、米国特許第6607508号には、プランジャーロッドが一方の側から延在する円筒形のシリンジバレルを有する自動薬物送達装置が記載されている。シリンジバレルの他方の側には、針アセンブリをねじで固定することができるねじ山が設けられている。プランジャーロッドは、バイアルをスナップ嵌めすることができるバイアル座部を有する。プランジャーロッドには、プランジャーロッド全体にわたって縦方向に延在する通路がさらに設けられている。ピンを有するプランジャーロッド部を取り囲む投与バレルのスロットと相互に係合するピンが、プランジャーロッドから半径方向に延在する。投与リングを介して投与バレルを転向させることにより、プランジャーロッドが平行移動し、プランジャーロッドとシリンジバレルのねじ山側との間に容量部が形成される。この動きによって誘導された薬物は、バイアルから通路を通って容量部に移される。投与バレルの反対方向への転換は、液体が通路を通って押し戻されないことを確実にするラチェット機構によって阻止される。
【0005】
投薬量設定に使用される既知の装置は、初期段階において、投薬量設定プロセス中にシステム内に取り込まれた空気が存在するという問題を伴う。特に、比較的大きな容器から比較的少量が投薬量設定される場合、システム内のこのような空気は、慎重な投薬量設定及び追加の工程を要する。例えば空気は、最初は針の中、その後投薬チャンバーの初期容量の中に存在する。したがって、初期段階において、空気は典型的には、針から投薬チャンバー内に引き込まれ、その後に液体が続く。シリンジ又は同様の装置において、このような空気は、送達前のシリンジの準備を必要とさせ得る。特に、注入前にシステムから空気を排出する必要がある。さらに、最初は空気が投薬量設定されるため、投薬量設定自体は、比較的厄介であり得る。例えば、上記のような回転投薬量設定では、第1の回転運動は、投薬チャンバーに液体は供給せず、空気のみを供給する。空気がすべて投薬チャンバーに入った後、突如液体がそれに続き、当該装置のユーザーを驚かせ、投薬量設定の精度を低下させ得る。
【0006】
したがって、容器から液体を正確かつ簡便に投薬量設定することを可能にする投薬量設定システムに対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明によれば、このニーズは、独立請求項1の特徴によって定義される投薬量設定装置によって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0008】
特に、本発明は、ロッド要素とシェルとを備える投薬量設定装置を扱う。ロッド要素は、縦軸線を有するステムと、第1のねじ山構造とを有する。シェルは、第2のねじ山構造を有する。ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造は、ねじ山を備える。ロッド要素の第1のねじ山構造とシェルの第2のねじ山構造は、係合する。ロッド要素は、シェルとロッド要素を互いに対して回転させることによってロッド要素の第1のねじ山構造とシェルの第2のねじ山構造を互いに沿って移動させることで、ロッド要素のステムの縦軸線に沿って移動可能である。投薬チャンバーは、ロッド要素をそのステムの縦軸線に沿って動かすことによって形成され、投薬チャンバーの容量は、ロッド要素をそのステムの縦軸線に沿って動かすことによって変化又は適合する。ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造のねじ山の傾斜角は、ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造のねじ山に沿って変化する。
【0009】
本明細書で使用される「ねじ山」という用語は、隆起のようなオス型構造、又は表面若しくは本体に沿ってその周りに延在する溝のようなメス型構造を指す。典型的には、ねじ山は、螺旋形状又は本質的に螺旋形状であり、本体又は部品に沿って走る。
【0010】
シェルは、手動で回転させることができるように、ダイヤルシェルとして具現化することができる。例えば、このようなダイヤルシェルは、本質的に円筒形であってもよいし、又はシリンダー部などの複数の部分を備えていてもよい。それはまた、例えばねじ山に係合するためのピンのような構造を備えた1つ又は複数のアームとして具現化することもできる。特に、シェルは、第2のねじ山構造に隣接して配置されるように設計されてもよい。
【0011】
ロッド要素は、近位端側にストッパーを備えることができる。特に、ストッパーは、ロッド要素のステムの近位端側に位置していてもよい。この文脈における「ストッパー」という用語は、狭義のストッパー、すなわちプラグ様のシール部材を指し得る。ストッパーはまた、ステム等に取り付けられたOリングなど別のシール部材とすることもできる。ストッパーは、気密性を確保するために、ゴムなどの弾性材料で作ってもよい。ストッパーによって、ロッド要素をそれぞれのバレル本体又は投薬チャンバー内に気密に配置することができる。このように、投薬チャンバー内に液体を引き込むことができる負圧、部分減圧又は減圧を投薬チャンバー内に誘発させることができる。
【0012】
シェルとロッド要素を互いに対して回転させることは、ロッド要素の周りを回転するシェルか、シェル内で回転するロッド要素か、又は回転するシェル及びロッド要素のうちのいずれかによって具現化することができる。シェルの効率的で適切な回転運動のために、ロッド要素を同軸に配置することができる。
【0013】
第1及び第2のねじ山構造に関連して使用される「互いに沿って移動する」という用語は、ねじ山の中又は上で動かされる又は移動される部品に関連する。例えば、ピンなどのオス型部材は、メス型ねじ山の溝の中で、またそれに沿って動かすことができる。
【0014】
本発明との関連で使用される「傾斜角」という用語は、ねじ山と、ロッド要素又はシェルのステムの縦軸線に垂直な平面との間の角を指す。
【0015】
ロッド要素のステムは、棒又は円筒形状を有してもよい。ハウジングの内部内に延在する限り、ロッド要素の本体の遠位端は、ハウジングの遠位端の近くに位置してもよく、ロッド要素のステムの近位端は、チャンバー本体の近位端の近くに位置してもよい。
【0016】
シェルは、少なくとも部分的にロッド要素の周りに、又は少なくともその第1のねじ山構造が配置されている部分の周りに配置されてもよい。それは、中空シリンダーとして具現化することができ、又は、例えば共に中空シリンダーを形成することができる1つ又は複数のシリンダー部を備えていてもよい。特に、それは、2つの本質的に半円筒形のウォール又はクラムシェルで構成されてもよい。
【0017】
投薬量設定装置は、プラスチック材料で作ることができる。特に、射出成形法で製造することができる滅菌可能なプラスチック材料から作ることができる。
【0018】
投薬量設定装置は、投薬量設定機能を必要とする別の装置に組み込むことができる。例えばそれは、注入装置などの医薬送達装置に組み込むことができる。さらに、それ自体が医薬送達装置又は注入装置であってもよい。
【0019】
ねじ山に沿って傾斜角を変化させることにより、特定の投薬量設定機能を実装することができる。特に、投薬量設定プロセス全体を通して、ロッド要素とシェルの互いに対する回転毎に異なる容量が投薬量設定されることが達成され得る。例えば、傾斜角が比較的大きい場合、ロッド要素は、軸方向に比較的迅急速に動かされ、第1及び第2のねじ山構造が比較的大きな傾斜角を有するねじ山のそれぞれの部分において互いに沿って移動する際、投薬チャンバーの容量の変化も比較的急速に変化する。同様に、傾斜角が比較的小さい場合、第1及び第2のねじ山構造が比較的小さな傾斜角を有するねじ山のそれぞれの部分において互いに沿って移動する際、投薬チャンバーの容量の変化も比較的小さい。したがって、ねじ山は、好ましい投薬量設定挙動に適するように正確に形づくられ得る。例えば、複数の投薬量が特定の範囲で所望される用途では、ねじ山は、最初は比較的大きな傾斜角を有し、投薬チャンバーの容量が特定の範囲に近づくと平らになるように形づくられてもよい。このように、比較的大きな傾斜角によって比較的多めのクリティカルではない(uncritial)量を速く投薬量設定することができ、目標範囲では、比較的小さな傾斜角によって投薬量を正確に調整することができる。
【0020】
さらに、ねじ山に沿って傾斜角を変化させることにより、投薬量設定装置からの空気の迅速な除去若しくは削減、又は投薬量設定装置内の空気量の制御が可能になる。特に、ねじ山の始めに比較的急な傾斜を設けると、液体の投薬量設定が始まる前に空気を迅速に処理することができる。このように、システム内の空気を制御することができ、投薬量設定された液体の送達開始前のプライミングを不要とすることができる。それに伴い、ねじ山が平らな部分に入ったら直ちに、すなわち空気が処理された後、流体は正確に投薬量設定され得る。このように、容器から液体を正確かつ簡便に投薬量設定することが可能である。特に、本発明による投薬量設定装置は、比較的大きな容器から比較的少量を効率的に投薬量設定することを可能にし得る。
【0021】
これらの及びその他の投薬量設定用途又は投薬量設定特性は、変化する傾斜角によって実現することができる。
【0022】
第1のねじ山構造は外側のねじ山構造とすることができ、それに対応して、第2のねじ山構造は内側のねじ山構造とすることができる。ねじ山構造に関する「外側」という用語は、ねじ山構造が向いている方向を指す。特にそれは、対応する内側ねじ山構造と相互作用することができるように外側に向いているねじ山構造を指す。同様に、ねじ山構造に関する「内側」という用語は、ねじ山構造が向いているのと反対の方向を指す。
【0023】
投薬量設定装置は、そこから送達される薬物の特定の適用又は投与のための形状をしている放出口を備える。例えば、装置が薬物を注入することを目的としている場合、それは針であってもよい。そのような実施形態では、放出口又は針は、ハウジングの内部からその近位開口部を通ってハウジング又はその特定部分から外へ延出することができる。放出口は、送達部材に接続されるように合わせることもできる。例えばそれは、ルアーロック又はルアーテーパーコネクターのオス又はメス型部品を備えていてもよく、送達部材には、対応するメス又はオス型ルアーロックコネクターが設けられていてもよい。放出口の他の例は、ノズル、弁、流体ガイド等である。
【0024】
投薬量設定装置が送達状態のときにロッド要素を動かすことに関連して使用される「軸力」という用語は、ロッド要素を軸方向に動かすために、ロッド要素に加えられる力を指す。典型的には、このような軸力は、例えばロッド要素の遠位端又はロッド要素に取り付けられている容器又はロッド要素に接続されている別の部品を親指で押すことによって、手動で誘発することができる。
【0025】
これに関連して、「防ぐ(防止する)」という用語は、ロッド要素を軸方向に動かすための軸力を阻むことを指す。軸力が十分に高いと、ロッド要素は、例えば装置の特定の部品又は特徴部を破壊又は変形することによって、なお軸方向に動かされ得る。したがって、軸力による軸方向の動きを防ぐことは、装置の適切な使用に関連し得る。
【0026】
好ましくは、投薬量設定装置は、内部と、近位開口部と、遠位開口部とを有するハウジングをさらに備え、ロッド要素がハウジングの内部内に延在し、シェルもハウジングの内部内に延在し、投薬チャンバーがハウジングの内部に形成される。
【0027】
本発明に関連して使用される「近位」という用語は、意図された使用において患者の身体に向けられる投薬量設定装置又はその特定の部品の方向を指す。これにより、投薬量設定装置が患者に適用されるとき、近位部又は部品が、患者の身体に向けられるか、又は身体の近くに位置し得る。その一方、本発明及びその開示された実施形態に関連して使用される「遠位」という用語は、意図された使用において患者の身体から離れる方へ向かう、投薬量設定装置の方向を指す。例えば、従来のシリンジでは通常、近位端は針の先端であり、遠位端は親指が押し付けられるプランジャーの端である。
【0028】
任意選択のハウジングは、本質的に円筒形状にすることができる。遠位及び近位開口部は、ハウジングのそれぞれの遠位及び近位端側に具現化することができる。ハウジングは、遠位開口部が配置されている遠位端又はその近くにフィンガーレストとしてフランジ部を有してもよい。ハウジングは、投薬量設定装置の外側エンベロープを特に形成することができる。それは、当該装置の簡便な取扱い及び使用、並びにその内部の構成要素の保護を可能にするような形状とすることができる。
【0029】
ロッド要素、シェル、ハウジング及びその他の部品に関連し、「~内に(中に)延在する」という用語は、完全に又は部分的に中に配置されることを指す。これは、例えば、部品の一部分が部分的に別の部品の外側にあるが、その別の部品の中に突き出ている配置を指す。
【0030】
好ましくは、投薬量設定装置において、ロッド要素の第1のねじ山構造とシェルの第2のねじ山構造の一方が、少なくとも1つのオス型部材を有するオス型ねじ山構造であり、ロッド要素の第1のねじ山構造とシェルの第2のねじ山構造の他方はねじ山を含み、オス型ねじ山構造の少なくとも1つのオス型部材はねじ山に向かって突き出ており、ねじ山はオス型ねじ山構造の少なくとも1つのオス型部材を受け入れるように寸法決めされている。オス型ねじ山構造のオス型部材は、ピンでもよい。したがって、投薬量設定状態では、オス型部材は、ロッド要素に対してシェルを回転させるときにねじ山に沿って移動することができる。ねじ山は、例えばロッド要素のステム上に外側ねじ山として、又はシェルの内部表面上に内側ねじ山として具現化することができる。
【0031】
好ましくは、ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造のねじ山は、始点及び終点を有し、ねじ山の始点付近のロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造のねじ山の傾斜角は、ねじ山の終点付近よりも大きい。この関連で使用される「付近の」という用語は、始点又は終点の近くに位置していることを指す。特に、それは、始点又は終点に隣接するねじ山の部分であり得る。始点付近のねじ山を比較的急勾配に設計することにより、空気制御及び投薬量設定挙動に関して上述した効果を効率的に得ることができる。
【0032】
これにより、ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造のねじ山は、ねじ山の始点から始まるプライミング部と、ねじ山の終点で終わる投薬量設定部とを含み、プライミング部のねじ山の傾斜角は、投薬量設定部のねじ山の傾斜角よりも大きい。ねじ山のこのような構造は、システム内の初期空気を制御し、かつ、プライミング工程の必要性を回避するのに特に有益である。
【0033】
好ましくは、ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造のねじ山には、複数の隆起部が設けられている。このような隆起部は、第1のねじ山構造及び第2のねじ山構造がそれらを通過するたびに、すなわち一定の回転で可聴の及び/又は触知できる信号を誘発し得る。隆起部は、ねじ山の壁の間隙や溝であり得る。
【0034】
したがって、ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造のねじ山の隆起部は、互いに一定の距離に位置する。例えば、ねじ山は、1回転につき10個の隆起部を含むことができる。隆起部を互いに一定の距離に配置することにより、投薬量設定装置のユーザーにそれぞれ同じ回転の信号を送ることができる。これにより、信号を介してユーザーに特定の情報を提供する簡便な投薬量設定が可能になる。
【0035】
好ましくは、ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造のねじ山のプライミング部は、ねじ山の始点と始点に隣接する第1の隆起部との間に配置される。このように、システム内の空気量を制御することができ、投薬量設定の前段階としての除去を1回のクリック音信号で提供して、ユーザーに投薬量設定の状況を知らせる。これにより、簡便で制御可能な投薬量設定手順が可能になる。
【0036】
これにより、ロッド要素の第1のねじ山構造又はシェルの第2のねじ山構造のねじ山の投薬量設定部において、隆起部は好ましくは、シェルを所定の回転角の周りで回転させることにより投薬チャンバーを所定の容量分だけ変化させるように、配置される。このように、ユーザーは、視覚制御なしに投薬量設定される液体の量を制御することができる。例えば、所定の容量は25μlとし、ユーザーは1回のクリック音から次のクリック音まで回転させると、25μlが投薬量設定又は投薬チャンバーから除去されていることがわかるようにすることができる。
【0037】
投薬量設定装置では、シェルとロッド要素を互いに対して回転させると、ロッド要素の第1のねじ山構造とシェルの第2のねじ山構造が、2つの隣接する隆起部間の距離に対応する所定の回転角で複数の隆起部と繰り返し相互作用する。特に、所定角の周りでの各回転は、一定の又は不定の所定量だけ投薬チャンバーの容量を変化させることができる。このように、投薬容量が所定量だけ変化したことを投薬量設定中に投薬量設定装置のユーザーに示すための明確な信号を提供することができる。
【0038】
好ましくは、ロッド要素は、ステムの縦軸線に沿ってステムを貫通して延在する移送チャネルを備える。移送チャネルは、ロッド要素を通る、特にそのステムを通る軸方向の接続を確立することを可能にする。これは、移送針として具現化することができる。特に、ロッド要素の遠位端に又はその近くに配置されている容器を、移送チャネルを介して投薬チャンバーに接続することができる。移送チャネルは、シェルがロッド要素に対して回転するとき、液体を容器からロッド要素を通して投薬チャンバーに移すことを可能にする。より具体的には、回転させることによって、ロッド要素が縦軸線に沿って動かされ、投薬チャンバーが膨張又は収縮して、液体が容器から投薬チャンバーに(又はその逆)移されるようになる。
【0039】
本明細書で使用される「容器」という用語は、液体を貯蔵及び運搬するのに適した任意の液体貯蔵器を指す。液体が薬物等である場合、容器は、特にバイアルであり得る。これに関連して使用される「バイアル」という用語は、製剤製品又は医薬品又は薬物を液体、粉末又はカプセル形態で保存するために一般的に使用される、比較的小さい容器又はボトルを指す。バイアルは、例えばポリプロピレンのような、ガラス又はプラスチックなどの滅菌可能な材料で作ることができる。
【0040】
好ましくは、投薬量設定装置は、ロッド要素のステムの遠位端に接続された容器座部を備える。このような容器座部は、明確に定められた位置及び向きで容器を接続することを可能にする。これにより、容器をシステムに効率的に連結することが可能になる。
【0041】
したがって、移送チャネルは好ましくは、先端及び開口部を備え、投与装置の投薬量設定状態で先端及び開口部は、容器が容器座部に配置されているときに容器の内側に位置するように、容器座部に突き出ている。移送チャネルは、移送針であってもよい。容器は、隔壁、キャップ等の浸透性カバーで塞がれている。移送チャネルによって、容器のロッド要素への軸線方向の接続が可能であり、容器が投薬チャンバーに直線的に連結され、効率的な実装を可能にする。
【0042】
好ましくは、移送チャネルは、流体を有する容器が容器座部に配置されているとき、かつ、シェルをロッド要素に対して第1の回転方向に回転させることによってロッド要素がそのステム放出口の縦軸線に沿って動かされているときに流体が容器から投薬チャンバーに移されるように、容器座部を投薬チャンバーと接続する。これにより、送達装置の効率的な設計が可能になる。
【0043】
さらに、シェルと移送チャネルは好ましくは、容器が容器座部に配置されているとき、かつ、シェルをロッド要素に対して第1の回転方向と反対の第2の回転方向に回転させることによってロッド要素がそのステムの縦軸線に沿って動かされているときに流体が投薬チャンバーから容器に移されるように、配置される。これにより、漸増及び漸減用量の選択が可能になる。したがって、投薬チャンバー内の投薬量は、正確な液体量が投薬量設定されるまで何度も簡便に変更、調整及び修正することができる。
【0044】
投薬量設定装置は好ましくは、ロッド要素のステムの周りでシェルを回転させることによってそのステムの縦軸線に沿って動かされているときのロッド要素により形成される投薬チャンバーの容量を示す、ロッド要素に連結されたカウンターを備える。カウンターをロッド要素に連結することで、放出口に対するロッド要素の動きが識別され、投薬容量又は選択された投薬量に相当する表示された数字の調整に直接反映され得る。このように、正確かつ純粋に機械的な投薬カウンターの効率的な実装が可能である。
【0045】
したがって、投薬量設定装置を投薬量設定状態から送達状態に変更すると、カウンターは好ましくは、ロッド要素から切り離される。このように、表示された選択投薬量は、送達中及び送達後も表示されたままであり得る。これは、液体の投与量を記録するための純粋に機械的なマーカーを提供することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0046】
本発明による投薬量設定装置は、以下の例示的な実施形態として、また、添付の図面を参照して、以下でさらに詳細に説明される。
【
図1】投薬量設定状態の本発明による投薬量設定装置の実施形態として、注入装置の開始位置の正面図を示す。
【
図3】投薬量設定状態にある
図1の注入装置の開始位置での断面図を示す。
【
図4】投薬量設定後の投薬量設定状態にある
図1の注入装置の正面図を示す。
【
図6】
図1の注入装置のダイヤルシェルのクラムシェルの正面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下の説明では、便宜上、特定の用語を用いているが、それらは本発明を限定するものではない。「右」、「左」、「上」、「下」、「下方の」及び「上方の」という用語は、図の中での方向を表す。専門用語は、明示的に言及された用語に加えて、その派生語及び同様の意味を有する用語を含む。また、「真下に」、「下方に」、「下の」、「上方に」、「上の」、「近位の」、「遠位の」等の空間に関連する用語は、図に描かれているように、1つの要素又は特徴部の、別の要素又は特徴部に対する関係性を記述するために使用され得る。これらの空間に関連する用語は、図に示された位置及び向きに加えて、使用又は動作中の装置のさまざまな位置及び向きを包含することが意図される。例えば、図中の装置が反転されている場合、他の要素又は特徴部の「下方に」又は「真下に」と説明されていた要素は、他の要素又は特徴部の「上方に」(「above」又は「over」)ある。したがって、例示の「下方に」という用語は、上と下の位置及び方向の両方を包含し得る。本装置は別の向きに(90度回転又は他の方向で回転)されてもよく、本明細書で使用される空間に関係する記述語は、それに応じて解釈される。同様に、さまざまな軸線に沿った、及びそれらの周りの動きの記述は、さまざまな特有の装置位置及び方向を含む。
【0048】
種々の態様及び例示的な実施形態の図面及び説明における繰り返しを避けるために、多くの特徴が多くの態様及び実施形態に共通であることを理解されたい。ある説明又は図からある態様を省略しても、その態様が組み込まれている実施形態からその態様が欠落していることを意味するものではない。むしろ、その態様は、明確性のために、かつ、冗長な説明を避けるために省略されている可能性がある。これに関連して、本明細書の残りのI部分には以下が適用される。図面を明確にするために、もし図が、その説明の直接関連する部分で説明されていない参照符号を含んでいれば、前後の説明セクションを参照する。さらにわかりやすさの理由で、もし1つの図面中で、ある1つの部品のすべての特徴部に参照符号が付されていなければ、同じ部品を示す他の図面が参照される。複数の図中の同様の番号は、同一又は類似の要素を表わす。
【0049】
図1は、投薬量設定状態の本発明による投薬量設定装置の実施形態としての注入装置1を示す。注入装置は、本体21と針シールド22とを有するハウジング2を備える。本体21は、内部、上部遠位開口部及び下部近位開口部を有する。本体にはさらに、上部にインジケーター窓と、その鉛直下方にチャンバー窓212とが設けられている。
【0050】
本体21の内部には、垂直に一直線のステム31と、ステム31の下端にあるゴムストッパー32とを有するロッド要素3が配置されている。ゴムストッパー32及びステム31の下部は、ハウジング2の本体21のチャンバー窓212から見える。
【0051】
ハウジング2の遠位開口部を貫通し、投薬量設定アクティベーター5が本体21の内部内に延在する。投薬量設定アクティベーター5は、ハウジング2の外側に配置され、ハウジング2の遠位開口部と横方向に重なり合う把持リング52を備える。以下でさらに詳細に説明するように、投薬量設定アクティベーター5は、投薬量設定された薬物の量または体積を示すためのカウンターの一部としての投薬マーキング53を有する。
図1に示す開始位置では薬物は何も投薬量設定されておらず、インジケーター窓211の強調表示要素213に何の量も示されていない。むしろ、投薬量設定のための回転の方向、すなわち反時計回りの方向を示す矢印が、インジケーター窓211の強調表示要素213を通して見える。投薬マーキング53と強調表示要素は共に、注入装置1のカウンターによって構成される。
【0052】
また、ハウジング2の遠位開口部を貫通し、スイッチアクティベーター7が本体21及び投薬量設定アクティベーター5の内部内に延在する。スイッチアクティベーター7は、ハウジング2の外側に配置されている把持リング72と、投薬量設定アクティベーター5とを備える。
【0053】
図2では、注入装置1は、一つ一つの部品が見えるように分解図で示されている。注入装置1は、容器としてのバイアル9を受け入れるように設計されている。一般的な方法では、バイアル1は、本体93と、キャップ92によって塞がれているネック91とを有する。本体93の内部には、注入装置1によって移送、投薬量設定及び送達又は注入される液体薬物が貯蔵される。
【0054】
ロッド要素3は、その約半分の長さ、すなわち
図2においてその右側半分に寸法決めされたシリンダー部33を備える。シリンダー部33は、スイッチアクティベーター7のシリンダー部71を受け入れるように寸法決めされた中空内部を有する。スイッチアクティベーター7はまた、本質的に円筒形であり、バイアル9を受け入れるように形づくられている中空内部と、容器座部としてバイアル座部8とを有する。バイアル座部8は、ネックホルダー81と、ハブ溝82を備えた円筒状の外面とを有する。
【0055】
ロッド要素3には、外側又は第1のねじ山構造のオス型部材として2つの対向するピン35が設けられている。ピン35は、ロッド要素3の残りの部分から半径方向に突き出ている。ピン35は、内側に、すなわちロッド要素3の縦軸線38の方向に押しやられることを可能にするために、ある程度柔軟に取り付けられている。ロッド要素3は、ロッド要素3の近位端付近に配置された2つの対向する制限羽根34をさらに備える。
【0056】
医薬注入装置1は、2つの半円筒状のクラムシェル41を有するシェルとしてのダイヤルシェル4をさらに備える。内部表面には、両方のクラムシェル41にねじ山部が設けられており、クラムシェル41のねじ山部は、クラムシェル41が合わさってシリンダーを形成するときに内部又は第2のねじ山構造として2つの平行な連続したねじ山411を作るように形成される。近位端において、クラムシェル41には、外向きに延在するフランジ413が設けられている。さらに、クラムシェル41の各々には、外表面から半径方向又は外向きに突き出ているリム部412が設けられている。クラムシェル41は、ロッド要素3の円筒部33の周りに嵌合するように寸法決めされている。
【0057】
投薬量設定アクティベーター5は、中空内部を有する円筒体51を有し、投薬マーキング53が円筒体51の外表面及びその周囲に設けられている。把持リング52は、投薬量設定アクティベーター5の遠位端を形成する。円筒体51には、クラムシェル41のリム部412に対応する一対の窪み部54が配置されている。投薬量設定アクティベーター5は、クラムシェル41の周りに配置されるように寸法決めされており、ロッド要素3のシリンダー部33の周りに配置されたときにリム部412が窪み部54に係合し、投薬量設定アクティベーター5にダイヤルシェル4を固定する。
【0058】
ロッド要素3のステム31とハウジング2の本体21の近位開口部との間に、投薬部材6が配置される。投薬部材6は、注入装置1の放出口としてばね63、チャンバーシリンダー61及び送達針2を有する。チャンバーシリンダー61は、ロッド要素3のステム31及びゴムストッパー32がそれに嵌合するように寸法決めされている。
【0059】
図3は、開始位置にある、組み立てられた注入装置1を示す。注入装置1は、近位端が底部にあり、遠位端が頂部にあるように、垂直に立てた状態で提示されている。上記の通り、スイッチアクティベーター7は、ロッド要素3のシリンダー部33の中空内部内に延在する。これにより、スイッチアクティベーター7のシリンダー部71がロッド要素3の内側に位置し、スイッチアクティベーター7の把持部72がロッド要素3から上方に突き出る。より詳細には、スイッチアクティベーター7の把持部71は、ロッド要素3のシリンダー部33には嵌合せず、その遠位開口に当接するように寸法決めされている。
【0060】
スイッチアクティベーター7の中空内部の内側では、バイアル座部8は、スイッチアクティベーター7の底部73に配置されている。ハブ突起711は、スイッチアクティベーター7のシリンダー部71の内表面からバイアル座部8の方向へと内側に突き出ている。ハブ突起711は、バイアル座部8のハブ溝82に係合し、下記で詳述するように、スイッチアクティベーター7とバイアル座部8とが相互作用できるようになる。
【0061】
ロッド要素3は、
図3において垂直に延びる中心縦軸線38を有する。ロッド要素3の縦軸線38は、ハウジング2、ダイヤルシェル4、投薬量設定アクティベーター5、投薬部材6、スイッチアクティベーター7、バイアル座部8、バイアル9、及び装置1全体の縦軸線に相当する。
【0062】
ロッド要素3は、ステム31及びゴムストッパー32の中央を貫通する移送針37をさらに有する。ステム31は、上方に、シリンダー部33の内部及びバイアル座部8内に延在する。これにより、ステム31は、相互作用する形状嵌合(form-fitting)部品により、トルク抵抗性にバイアル座部8に接続される。移送針37は、ゴムストッパー32の底部又は近位端から延在し、ゴムストッパー32及びステム31を軸方向に貫通し、尖った先端31で終わるステム31の頂部又は遠位端の上方に突き出る。下向きに、ステム31は、投薬部材6のチャンバーシリンダー61内に延在する。
【0063】
ゴムストッパー32は、ステム31の底部又は近位端に配置されるように、ステム31によってクランプされる。したがって、ゴムストッパー32は、投薬部材6のチャンバーシリンダー61の内側に全部が位置し、
図3に示す開始位置で、ゴムストッパー32がチャンバーシリンダー61の底部612に当接する。ゴムストッパー32の近位端は、チャンバーシリンダー61の内側、ゴムストッパー32とチャンバーシリンダー61の底部612との間に最小限の投薬チャンバー611が形成されるように、凹状である。チャンバーシリンダー61の底部612は、下方に延在する棒を有し、その棒を通って突き出る送達針6を備える。送達針62の底部又は近位端は、送達針62が覆われ、保護され、密封されるように、ハウジングの針シールド22のシールチャネル221内に受け入れられる。
【0064】
バイアル座部8のネックホルダー81は、垂直スリットと内側に延在するフランジ端とを備える保持構造811を有する。注入装置1を準備する工程において、バイアル9は、スイッチアクティベーター7及びバイアル座部8の中に押し下げられる。したがって、垂直スリットにより、保持構造811を外側方向に十分に動かすことができ、キャップ92を有するバイアル9のヘッドが保持構造811のフランジ端を通過するように外向きに移動する。バイアル9が十分に押し下げられると、保持構造811のフランジ端は、バイアル9のヘッドの後ろ及びネック91内にスナップ嵌めし、その結果バイアル9が保持される。このようにして、バイアル9は、そのキャップ92がロッド要素3のステム31の遠位端に当接した状態で、送達装置1に下向きに取り付けられる。スイッチアクティベーター7の上部遠位開口部には突起が内側に突き出ており、バイアル9の本体93の外側に嵌合し、それを導く。
【0065】
バイアル9がバイアル座部8に押し付けられている間、移送針37の先端371は、隔壁921を含むキャップ92を貫通する。先端371は、移送針37の先端又は遠位端を形成する。バイアル9がバイアル座部8に完全にスナップ嵌めされると、移送針37がバイアル9の内部内に延在する。先端371に近接しているがそのわずかに下にある側方開口部372が、移送針37に設けられている。
図3に示す開始位置において、移送針37は、バイアル9の内部と投薬部材6のチャンバーシリンダー611との間に移送チャネルとしての開口ダクトを形成する。
【0066】
ロッド要素3の外側ねじ山構造のピン35は、ロッド要素3の残りの部分から、2つのクラムシェル41によって形成されたダイヤルシェル4の内側ねじ山411に左右に水平に突き出ている。これにより、ピン35は、内側ねじ山411に係合する。ロッド要素3の外側ねじ山構造は、ピン35に近接して位置し、かつ上へ軸方向に延在するスイッチ切替機構の係合解除構造の2つの突起36をさらに含む。突起36の各々は、スイッチアクティベーター7の底部73に具現化されたスイッチ切換機構の係合解除構造の案内溝731に係合する。案内溝73は、ロッド要素3のステム31の縦軸線38に対して垂直な平面を走る。案内溝は、底部73上を螺旋状に延び、連続的に底部73の中心に接近している。
【0067】
ハウジング2の本体21は、投薬部材6のチャンバーシリンダー61の底部612の棒が通って針シールド22内に延在する開口部を有する底部213をさらに備える。本体21の底部213から、2つの保持アーム214及びばね受け215が、上に向かって本体23の内部内に延在する。これにより、2つの保持アーム214は、投薬部材6の対応するスカートの後ろにスナップ嵌めされる。コイルばね63は、ばね受け215と投薬部材6の水平面との間でクランプされている。したがって、投薬部材6は、保持アーム214によってハウジング2の本体21に接続され、ばね63は、本体21と投薬部材6との間で予め圧縮応力が加えられている。
【0068】
図4及び
図5は、投薬量設定後、すなわち200μlの薬物をバイアル9から投薬チャンバー611に移送した後の注入装置1を示す。
図4の矢印によって示されるように、投薬量設定のために投薬量設定アクティベーター5は、ハウジング2に対して反時計回りに回転する。したがって、患者は、片手でハウジング2の本体21を持つことができ、もう一方の手で投薬量設定アクティベーター5の把持リング52をハウジング2に対して回転させることができる。ダイヤルシェル4のクラムシェル41が窪み54に突き出るリム部412によって投薬量設定アクティベーター5にトルク抵抗性に接続されているため、ダイヤルシェル4は、投薬量設定アクティベーター5と共に回転する。一方、ロッド要素3は、ハウジング2の投薬部材6及び保持アーム214を介し、その軸38の周りで回転不能となるようにハウジング2に接続される。したがって、ダイヤルシェル4は、ロッド要素3の周囲を回転し、ピン35をねじ山411に沿って移動させる。このように、ロッド要素3は、ステム31の縦軸線38に沿って下方に動かされる。
【0069】
ロッド要素3を軸方向に上向きに動かすと、ゴムストッパー32と投薬部材6のチャンバーシリンダー61の底部との間の投薬チャンバー611が大きくなる。その間、投薬チャンバー61に負圧が生じ、その結果薬物がバイアル9から移送針37を通じて投薬チャンバー611に引き込まれる。
【0070】
投薬中に投薬量設定アクティベーター5がハウジング2に対して回転すると、インジケーター窓211の強調表示要素213に見える数字が、投薬チャンバー611の容量に応じて変化する。より詳細には、強調表示要素213は一方では、ハウジング2の本体21に対して軸方向又は垂直方向に移動可能であるが、接線方向に移動可能ではないように、インジケーター窓211内に導かれる。一方、投薬量設定アクティベーター5の本体51の外表面には、対応する溝を介して強調表示要素213に接続されているねじ山リブが設けられている。したがって、投薬量設定アクティベーター5がハウジング2に対して回転すると、強調表示要素213は、溝と相互作用するねじ山リブによって、垂直方向に動かされる。強調表示要素213がインジケーター窓211の下端部にある
図1と比較して、
図4では、強調表示要素213は、上方に動かされ、投薬マーキングの数字200の上にある。これは、200μlの薬物が投薬チャンバー611内で投薬量設定されていることを示す。
【0071】
投薬量設定状態にあるとき、投薬量設定アクティベーター5は、両方向に回転し得る。したがって、反時計回りの回転は投薬容量部611を増加させ、逆に、時計回りの回転は投薬容量部611を縮小させ、薬物がバイアル9に戻される。
【0072】
図6には、2つの同一のクラムシェル41のうちの1つが示されており、クラムシェル41の内表面が見える。内表面には、2つの独立したねじ山411の半断面が設けられている。底部の側部において、クラムシェル41は、接続スタッド417を左側に、対応する接続穴418を右側に備えている。2つのクラムシェル41が一緒に取り付けられると、接続スタッド417は接続穴418に差し込まれ、中空シリンダーが形成される。2つのクラムシェル41のねじ山411の各半断面は、2つのねじ山411がシリンダーの内表面で連続して平行に延在するように、対応している。
【0073】
ねじ山411の各々は、下方の開始点412と上方の終点413とを含む。開始点412及び終点413は、それぞれのピン35がねじ山411の中を動くことができる移動通路の境界を定める。ねじ山411には、隆起部としての間隙414が設けられている。間隙414は、ねじ山411に沿って分布されており、2つの隣接する間隙の間を移動するピン35は、投薬チャンバー611を所定量の25μlだけ変化させる。ピン35がねじ山411の対向する間隙414を通過すると、クリック信号が誘発され、これが感知される。したがって、患者は、投薬量設定アクティベーター5を回転させてクリック音を感知するとき、薬物の投薬量設定量が25μlだけ変化したことが分かる。ねじ山411の1回転には、10個の間隙414が設けられている。したがって、間隙414は互いに、例えば36°など所定の角度だけ離されている。他の実施形態では、間隙414を不規則に分布させて、2回のクリック音の間に可変の回転角が提供され、それに応じて可変の用量漸増が可能となる。
【0074】
ねじ山411の各々は、プライミング部416及び投薬量設定部415を備えている。
図7において最も良く分かるように、投薬量設定部は第1の傾斜角αを有し、プライミング部416は第2の傾斜角βを有する。プライミング部416が投薬量設定部415よりも急勾配になるように、第2の傾斜角βは、第1の傾斜角αよりも大きい。開始点412に隣接する第1の間隙414では、プライミング部416が投薬量設定部415にまで及び、それぞれの傾斜角が変化する。
【0075】
本発明の態様及び実施形態を示す本明細書及び添付の図面は、保護される発明を定義する請求項を限定するものとして解されるべきではない。換言すれば、本発明は図面及び先行する説明において詳細に図示及び説明されているが、そのような図示及び説明は、実例又は例示であって、限定的ではないものとみなされるべきである。さまざまな機械上、構成上、構造上、動作上の変更は、本明細書及び特許請求の主旨及び範囲から逸脱することなく、行われ得る。本発明を不明瞭にしないようにするため、場合によっては、周知の回路、構造及び技術は、詳細に示されていない。したがって、以下の請求項の範囲及び主旨内で、当業者によって変更及び修正がなされ得ることが理解されるであろう。特に、本発明は、上記及び下記の異なる実施形態の特徴の任意の組み合わせによって、さらなる実施形態を網羅する。
【0076】
本開示はまた、各図に示したすべてのさらなる特徴を網羅する。しかし、それらの特徴は、上記又は下記の説明には記載されていないかもしれない。また、図及び説明に記載された実施形態の一つ一つの代替形態、並びにその特徴の一つ一つの代替形態は、本発明の主題又は開示された主題から放棄され得る。本開示は、請求項又は例示的な実施形態で定義された特徴からなる主題及び前記特徴を含む主題を含む。
【0077】
さらに、特許請求の範囲において、「含む/備える(comprising)」という語は他の要素又は工程を排除するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は複数存在することを排除するものではない。単一のユニット又は工程は、特許請求の範囲に記載された、いくつかの特徴の機能を果たすことができる。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという事実だけで、これらの手段の組み合わせを都合よく使用することができないことを示すものではない。特に特性又は値に関して、「本質的に」、「約」、「およそ」等の用語はまた、当該特性を正確に、又は当該値を正確にそれぞれ定義する。所与の数値又は範囲の文脈における「約」という用語は、所与の値又は範囲の例えば20%以内、10%以内、5%以内若しくは2%以内の値又は範囲を指す。連結又は接続されていると記載されている構成要素は、電気的若しくは機械的に直接連結されていてもよく、又は1つ以上の中間構成要素を介して間接的に連結されていてもよい。特許請求の範囲のいかなる参照符号も、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されないものとする。