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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】肝病態を治療又は予防する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220502BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220502BHJP
   C07K 16/24 20060101ALN20220502BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K38/02
A61K39/395 D
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 Y
A61P1/16
A61P3/04
A61P3/10
A61P35/00
C07K16/24 ZNA
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018555146
(86)(22)【出願日】2017-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 AU2017050364
(87)【国際公開番号】W WO2017181243
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】2016901483
(32)【優先日】2016-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2016901494
(32)【優先日】2016-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】516179960
【氏名又は名称】シーエスエル リミティド
(73)【特許権者】
【識別番号】516179971
【氏名又は名称】ベー-クリエイティブ スウェーデン アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】メーレム アンニカ
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】ファルケヴァル アンネリエ
(72)【発明者】
【氏名】パロムボ イソルデ
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/126698(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/136679(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/045356(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/089585(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/077845(WO,A1)
【文献】特表2008-508325(JP,A)
【文献】Liver International,2014年,Vol.34, NO.4,pp.521-534
【文献】日消誌,2012年,Vol.109,pp.1355-1359
【文献】Physiology,2013年,Vol.28,pp.125-134
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2006年,Vol.49, No.7,pp.2143-2146
【文献】AU 2013224763 A1
【文献】Nature,2012年,Vol.490,pp.426-432
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C07K 16/24
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪症若しくは非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)若しくは肝硬変若しくは肝線維症治療のための若しくは進行の予防のための、又は肝脂肪症若しくはNASH若しくは肝硬変若しくは肝線維症に罹患している対象において、その合併症が発症することを予防するための若しくはその合併症の発症のリスクを低下させるための医薬組成物であって、前記組成物がVEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を含み、
前記化合物が、VEGF-Bに結合するかまたは特異的に結合し、VEGF-Bのシグナル伝達を中和する抗体可変領域を含むタンパク質であり、
前記タンパク質が、
(i)
(a)配列番号3のアミノ酸25~34に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号3のアミノ酸49~65に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号3のアミノ酸98~108に示される配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域(VH)、及び
(ii)
(a)配列番号4のアミノ酸23~33に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号4のアミノ酸49~55に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号4のアミノ酸88~96に示される配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域(VL)を含み、前記合併症が、肝細胞癌である
医薬組成物。
【請求項2】
前記脂肪症若しくはNASH若しくは肝硬変若しくは肝線維症に罹患している前記対象は、更に過体重若しくは肥満であり、及び/又は糖尿病に罹患しており、及び/又はメタボリックシンドロームに罹患している、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記対象が、さらに肝脂肪症又はNASH又は肝硬変又は肝線維症の共存症に罹患している、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記化合物は、以下の効果:
・対象の肝臓への脂質、例えば中性脂質の蓄積を低減又は予防すること、
・前記対象の肝臓における炎症を低減又は予防すること、
・対象の肝臓における脂肪症又はNASH又は肝硬変又は肝線維症の病理学的変化の発生を低減又は予防すること、
・肝線維症及び/又は肝硬変を低減又は予防すること、
・肝細胞癌の形成を低減又は予防すること
の1つ以上を有するのに有効な量で投与されるために製剤化される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
脂肪症又はNASH又は肝硬変又は肝線維症に罹患している対象の肝臓における脂質レベルを低減するための医薬組成物であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を含み、
前記化合物が、VEGF-Bに結合するかまたは特異的に結合し、VEGF-Bのシグナル伝達を中和する抗体可変領域を含むタンパク質であり、
前記タンパク質が、
(i)
(a)配列番号3のアミノ酸25~34に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号3のアミノ酸49~65に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号3のアミノ酸98~108に示される配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域(VH)、及び
(ii)
(a)配列番号4のアミノ酸23~33に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号4のアミノ酸49~55に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号4のアミノ酸88~96に示される配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、
医薬組成物。
【請求項6】
脂肪症又はNASH又は肝硬変又は肝線維症に罹患している対象における炎症レベルを低減する医薬組成物であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を含み、
前記化合物が、VEGF-Bに結合するかまたは特異的に結合し、VEGF-Bのシグナル伝達を中和する抗体可変領域を含むタンパク質であり、
前記タンパク質が、
(i)
(a)配列番号3のアミノ酸25~34に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号3のアミノ酸49~65に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号3のアミノ酸98~108に示される配列を含むCDR3
を含む重鎖可変領域(VH)、及び
(ii)
(a)配列番号4のアミノ酸23~33に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号4のアミノ酸49~55に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号4のアミノ酸88~96に示される配列を含むCDR3
を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、
医薬組成物。
【請求項7】
前記化合物は、Fvを含むタンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記タンパク質は、
(i)一本鎖Fv断片(scFv)、
(ii)二量体scFv(di-scFv)、
(iii)ダイアボディ、
(iv)トリアボディ、
(v)テトラボディ、
(vi)Fab、
(vii)F(ab’)2
(viii)Fv、
(ix)抗体の定常領域、Fc又は重鎖定常ドメイン(CH)2及び/若しくはCH3に連結された(i)~(viii)の1つ、および
(x)抗体
からなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項9】
前記化合物は、VEGF-Bへの抗体2H10の結合を競合的に阻害し、抗体2H10が配列番号3に示される配列を含むVH及び配列番号4に示される配列を含むVLを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記化合物は、抗体2H10のヒト化可変領域を含むタンパク質である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記タンパク質は、配列番号5に示される配列を含むVHと、配列番号6に示される配列を含むVLとを含む抗体である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願データ
本願は、2016年4月21日に出願された「Method of Treating or Preventing Liver Conditions」という名称のオーストラリア国特許出願公開第2016901494号明細書及び2016年4月21日に出願された「Method of Treating or Preventing Liver Conditions」という名称のオーストラリア国特許出願公開第2016901483号明細書からの優先権を主張する。これらの内容全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本願は、電子形式の配列表と共に提出される。配列表の内容全体が参照により本明細書に援用される。
【0003】
本願は、肝病態を治療又は予防する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
工業先進国の成人及び小児では、主に不健康な食習慣及び肥満を原因として、肝臓への脂肪蓄積を特徴とする疾患が一層蔓延しつつある。慢性的な過度のアルコール摂取により生じるアルコール性脂肪性肝疾患(AFLD)は、基本的には、脂肪症、脂肪性肝炎(ASH)、炎症、肝硬変及び場合により肝細胞癌を伴う病理学的経過をたどる。最も一般的な肝疾患と考えられる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、肝脂肪症(肝臓への脂肪蓄積)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変から肝細胞癌まで及ぶ様々な重症度の、AFLDと類似した一連の肝臓病変を包含する用語である。
【0005】
推定で米国人の30%がNAFLDを発症している。この有病率は、肥満患者及び2型糖尿病罹患者で60%超まで増加する。NAFLDは、肝脂肪症からNASHへと徐々に悪化し、NASHは、肝細胞傷害、炎症細胞浸潤及び/又は線維化から明らかなとおりの肝傷害の発生によって特徴付けられる。NASHは、次に肝硬変へと進行することもあり、肝硬変は、肝細胞の瘢痕組織への置換、及び病期が進むと肝細胞癌と関連付けられる。NAFLDは、肝硬変及び肝不全に共通する重要な原因であると認識されている。NAFLDは、心血管疾患リスクの増加とも関連付けられる。NAFLDは、メタボリックシンドロームの一部と見なされる。メタボリックシンドロームの患者と同様に、NAFLD患者の80%超が過体重であり、約30%が肥満である。更に、NAFLD患者は、多くの場合に高脂血症、2型真性糖尿病(T2DM)も併発し、高血圧である。
【0006】
現在、NAFLDに対する有効な治療はなく、多くの治療は、肥満、真性糖尿病及び高脂血症などの関連病態の管理に依存する。他のNAFLD療法は、運動及び食事など、生活習慣を主な標的とする。体重減少及びインスリン抵抗性を標的とすることを目的とした薬理学的介入は有効性が限られている。例えば、メトホルミン及びスタチン類の研究は、NAFLD又はNASH患者の肝組織学的な改善に効果がないことを示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明を作り出す上で、本発明者らは、一般に認められているNAFLD及びNASHモデルにおいてVEGF-Bの阻害効果を研究した。本発明者らは、高脂肪食を与えるか、又はコリン欠乏高脂肪食を与えたノックアウトマウスにおいてVEGF-Bの発現の阻害効果を研究し、従ってこのタンパク質を阻害することの予防効果を実証した。本発明者らはまた、高脂肪食又はコリン欠乏高脂肪食のいずれかを与えたマウスにアンタゴニスト抗体を投与して、このタンパク質を阻害することの治療効果を研究した。いずれの場合にも、VEGF-Bの阻害は、肝脂質蓄積を低減するか又は防ぎ、全ての手法が脂質レベルを対照動物と同程度まで低減するか又は維持した。従って、VEGF-Bの阻害は、脂質蓄積を潜在的に有害となるほど低いレベルまで低減するのではなく、むしろ正常又は健常レベルに低減する。VEGF-Bの阻害は、肝炎症、並びにNASHの主要病変の1つである肝細胞風船化、マロリー・デンク体(MDB)の形成、炎症性病巣及び衛星病変を含めたNASHの幾つかの特徴も低減又は予防した。従って、本発明者らは、NAFLDを予防又は治療し得ると共に、NASHの発症を予防するか又はそれを治療し得ることを示している。明らかに、かかる方法は、肝硬変、肝線維化及び/又は肝細胞癌の予防に更なる有益性を有する。
【0008】
本発明者らによる知見は、VEGF-Bシグナル伝達を阻害することによって対象のNAFLD又はその合併症を治療又は予防する方法の基礎を提供する。例えば、本開示は、対象のNAFLD又はその合併症を治療又は予防する方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0009】
一例において、NAFLDは、肝脂肪症、例えば単独肝脂肪症である。
【0010】
一例において、NAFLDは、NASHである。
【0011】
一例において、NAFLDは、肝硬変である。
【0012】
一例において、NAFLDは、NASH由来肝硬変である。
【0013】
別の例において、NAFLDは、NASH関連肝硬変である。
【0014】
別の例において、NAFLDは、NASH関連肝線維化である。
【0015】
一例において、本開示は、NAFLDに罹患している対象の肝硬変の発病を予防するか又は遅延させる方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0016】
例えば、対象は、NASHに罹患しており、及び本方法は、肝硬変の発病を予防するか又は遅延させる。
【0017】
一例において、本開示は、NAFLDに罹患している対象の肝硬変の進行を遅延させる方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0018】
一例において、本開示は、NAFLDに罹患している対象のNAFLDから肝硬変への進行を遅延させる方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0019】
一例において、NAFLDの合併症は、肝細胞癌である。
【0020】
一例において、肝細胞癌は、NASH由来肝細胞癌である。
【0021】
別の例において、肝細胞癌は、NASH関連肝細胞癌である。
【0022】
一例において、本開示は、NAFLDに罹患している対象の肝細胞癌の発病を予防するか又は遅延させる方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0023】
例えば、対象は、NASHに罹患しており、及び本方法は、肝細胞癌の発病を予防するか又は遅延させる。
【0024】
一例において、本開示は、NAFLDに罹患している対象の肝細胞癌の進行を遅延させる方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0025】
一例において、本開示は、NAFLDに罹患している対象のNAFLDから肝細胞癌への進行を遅延させる方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0026】
一例において、対象は、NAFLDに罹患しており、及び本方法は、前記疾患を治療する。例えば、対象は、肝脂肪症に罹患している。例えば、対象は、NASHに罹患している。
【0027】
一例において、NAFLDに罹患している対象は、更に過体重若しくは肥満であり、及び/又は糖尿病、例えば2型糖尿病に罹患しており、及び/又はメタボリックシンドロームに罹患している。
【0028】
一例において、本開示は、過体重又は肥満の対象のNAFLD又はその合併症を治療又は予防する方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0029】
一例において、化合物を投与することは、対象の体重を投与前の対象の体重と比較して実質的に又は有意に低減しない。
【0030】
一例において、対象は、NAFLD(例えば、上記に記載したとおりの)に罹患しており、及び本方法は、その疾患を予防するか又は遅延させる。例えば、対象は、脂肪症に罹患しており、及び本方法は、NASHへの進行を遅延させるか又は予防する。別の例において、対象は、NASHに罹患しており、及び本方法は、肝硬変への進行を遅延させるか又は予防する。
【0031】
一例において、対象は、NAFLD(例えば、上記に記載したとおりの)に罹患しており、及び本方法は、NAFLDの合併症の発症リスクを予防又は低減する。例えば、対象は、NAFLDに罹患しており、及び本方法は、肝細胞癌の発症を予防するか又はそのリスクを低減する。
【0032】
一例において、NAFLDに罹患している対象は、肝酵素、例えばアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT)の血清値の上昇、肝臓超音波検査又は肝生検の1つ以上に基づいて診断される。
【0033】
一例において、対象は、NAFLDを発症するリスクがあり、例えばNAFLDの共存症に罹患している。例えば、対象は、肥満であり、及び/又は糖尿病、例えば2型糖尿病に罹患しており、及び/又はメタボリックシンドロームに罹患している。
【0034】
一例において、化合物は、以下の効果:
・例えば、肝生検で評価されるとおりの、対象の肝臓への脂質、例えば中性脂質の蓄積を低減又は予防すること、
・例えば、対象の肝臓内の免疫細胞数を低減することにより、対象の肝臓における炎症を低減又は予防すること、
・対象の肝臓におけるマロリー・デンク体、又は肝細胞風船化、又は炎症性病巣、又は衛星病変などのNAFLDの病理学的変化の発生を低減又は予防すること、
・肝線維化及び/又は肝硬変の発症を低減又は予防すること、
・肝細胞癌の発症を低減又は予防すること
の1つ以上を有するのに有効な量で投与される。
【0035】
一例において、本開示は、NAFLDに罹患している(例えば、NASHに罹患している)対象の肝臓における脂質、例えば中性脂質レベルを低減する方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法を提供する。一例において、脂質レベルは、化合物の投与前の対象におけるレベルと比較して、又はNAFLDに罹患している対象集団で観察されるレベルと比較して低減される。別の例において、脂質レベルは、NAFLDに罹患していない対象又はNAFLDに罹患していない対象集団と同程度(例えば、その10%)又は同じレベルまで低減される。
【0036】
本開示は、NAFLDに罹患している対象の肝臓における炎症を低減する方法であって、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を対象に投与することを含む方法も提供する。
【0037】
一例において、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物は、VEGF-Bシグナル伝達を特異的に阻害する。これは、本開示の方法が複数のVEGFタンパク質のシグナル伝達の阻害を包含しないことを意味するわけではなく、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物(又はその一部)がVEGF-Bに特異的であり、例えばVEGFタンパク質の全般的阻害薬ではないことを意味するに過ぎない。この用語は、例えば、1つ(以上)の結合ドメインによってVEGF-Bシグナル伝達を特異的に阻害することができ、且つ別の結合ドメインによって別のタンパク質のシグナル伝達を特異的に阻害することができる二重特異性抗体又はその結合ドメインを含むタンパク質も除外しない。
【0038】
一例において、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物は、VEGF-Bに結合する。例えば、化合物は、VEGF-Bに結合又は特異的に結合し、且つVEGF-Bシグナル伝達を中和する抗体可変領域を含むタンパク質である。
【0039】
一例において、化合物は、抗体模倣体である。例えば、化合物は、免疫グロブリンの抗原結合ドメインを含むタンパク質、例えばIgNAR、ラクダ科動物抗体又はT細胞受容体である。
【0040】
一例において、化合物は、ドメイン抗体(例えば、VEGF-Bに結合する重鎖可変領域のみ若しくは軽鎖可変領域のみを含む)又は重鎖単独抗体(例えば、ラクダ科動物抗体若しくはIgNAR)或いはその可変領域である。
【0041】
一例において、化合物は、Fvを含むタンパク質である。例えば、タンパク質は、
(i)一本鎖Fv断片(scFv)、
(ii)二量体scFv(di-scFv)、又は
(iv)ダイアボディ、
(v)トリアボディ、
(vi)テトラボディ、
(vii)Fab、
(viii)F(ab’)2
(ix)Fv、或いは
(x)抗体の定常領域、Fc又は重鎖定常ドメイン(CH)2及び/若しくはCH3に連結された(i)~(ix)の1つ
からなる群から選択される。
【0042】
別の例において、化合物は、抗体である。例示的抗体は、完全長及び/又はネイキッド抗体である。
【0043】
一例において、化合物は、組換え、キメラ、CDRグラフト、ヒト化、シンヒューマナイズド(synhumanized)、霊長類化、脱免疫化又はヒトであるタンパク質である。
【0044】
一例において、化合物は、抗体2H10のVEGF-Bへの結合を競合的に阻害する抗体可変領域を含むタンパク質である。一例において、タンパク質は、配列番号3に示される配列を含む重鎖可変領域(VH)及び配列番号4に示される配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0045】
一例において、化合物は、抗体2H10のヒト化可変領域を含むタンパク質である。例えば、タンパク質は、抗体2H10のVH及び/又はVLの相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を含む。例えば、このタンパク質は、
(i)VHであって、
(a)配列番号3のアミノ酸25~34に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号3のアミノ酸49~65に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号3のアミノ酸98~108に示される配列を含むCDR3
を含むVH、及び/又は
(ii)VLであって、
(a)配列番号4のアミノ酸23~33に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号4のアミノ酸49~55に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号4のアミノ酸88~96に示される配列を含むCDR3
を含むVL
を含む。
【0046】
一例において、化合物は、VH及びVLを含むタンパク質であり、VH及びVLは、抗体2H10のヒト化可変領域である。例えば、このタンパク質は、
(i)VHであって、
(a)配列番号3のアミノ酸25~34に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号3のアミノ酸49~65に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号3のアミノ酸98~108に示される配列を含むCDR3
を含むVH、及び
(ii)VLであって、
(a)配列番号4のアミノ酸23~33に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号4のアミノ酸49~55に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号4のアミノ酸88~96に示される配列を含むCDR3
を含むVL
を含む。
【0047】
一例において、前述の任意の段落における可変領域又はVHは、配列番号5に示される配列を含む。
【0048】
一例において、前述の任意の段落における可変領域又はVLは、配列番号6に示される配列を含む。
【0049】
一例において、化合物は、抗体である。
【0050】
一例において、化合物は、配列番号5に示される配列を含むVHと、配列番号6に示される配列を含むVLとを含む抗体である。
【0051】
一例において、タンパク質又は抗体は、前述のタンパク質又は抗体のいずれかをコードする核酸によってコードされる任意の形態のタンパク質又は抗体である。
【0052】
一例において、タンパク質又は抗体は、
(i)VHであって、
(a)配列番号11を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号17のアミノ酸配列を含むCDR1、
(b)配列番号12を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号18のアミノ酸配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号13を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号19のアミノ酸配列を含むCDR3
を含むVH、及び/又は
(ii)VLであって、
(a)配列番号14を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号20のアミノ酸配列を含むCDR1、
(b)配列番号15を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号21のアミノ酸配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号16を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号22のアミノ酸配列を含むCDR3
を含むVL
を含む。
【0053】
一例において、タンパク質又は抗体は、
(i)VHであって、
(a)配列番号23を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号29のアミノ酸配列を含むCDR1、
(b)配列番号24を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号30のアミノ酸配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号25を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号31のアミノ酸配列を含むCDR3
を含むVH、及び/又は
(ii)VLであって、
(a)配列番号26を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号32のアミノ酸配列を含むCDR1、
(b)配列番号27を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号33のアミノ酸配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号28を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号34のアミノ酸配列を含むCDR3
を含むVL
を含む。
【0054】
一例において、タンパク質又は抗体は、
(i)VHであって、
(a)配列番号35を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号41のアミノ酸配列を含むCDR1、
(b)配列番号36を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号42のアミノ酸配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号37を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号43のアミノ酸配列を含むCDR3
を含むVH、及び/又は
(ii)VLであって、
(a)配列番号38を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号44のアミノ酸配列を含むCDR1、
(b)配列番号39を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号45のアミノ酸配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号40を含む核酸によってコードされる配列を含む又は配列番号46のアミノ酸配列を含むCDR3
を含むVL
を含む。
【0055】
一例において、化合物は、組成物中にある。例えば、組成物は、抗体可変領域又はVH若しくはVLを含むタンパク質、或いは本明細書に記載されるとおりの抗体を含む。一例において、組成物は、タンパク質又は抗体の1つ以上の変異体を更に含む。例えば、それは、コードされたC末端リジン残基が欠損している変異体、脱アミド化変異体、及び/又はグリコシル化変異体、及び/又はピログルタミン酸を例えばタンパク質のN末端に含む変異体、及び/又は抗体若しくはV領域においてN末端残基、例えばN末端グルタミンを欠く変異体、及び/又は分泌シグナルの全て若しくは一部を含む変異体を含む。コードされたアスパラギン残基の脱アミド化変異体は、イソアスパラギン酸及びアスパラギン酸アイソフォームが生成されることになり、又は更に隣接アミノ酸残基を含むスクシンアミドも生じ得る。コードされたグルタミン残基の脱アミド化変異体は、グルタミン酸を生じ得る。特定のアミノ酸配列が参照されるとき、かかる配列及び変異体の不均一混合物を含む組成物が包含されることが意図される。
【0056】
一例において、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物は、VEGF-Bの発現を阻害又は防止する。例えば、化合物は、アンチセンス、siRNA、RNAi、リボザイム及びDNAザイムの群から選択される。
【0057】
一例において、VEGF-Bは、哺乳類VEGF-B、例えばヒトVEGF-Bである。
【0058】
一例において、対象は、哺乳類、例えばヒトなどの霊長類である。
【0059】
本明細書に記載される治療方法は、更なる化合物を投与してNAFLDを治療又は予防することを更に含み得る。
【0060】
本明細書に記載されるNAFLDの治療方法は、更なる化合物を投与して肥満を治療又は予防すること(又はその進行を遅延させること)を更に含み得る。例示的化合物は、本明細書に記載される。
【0061】
本開示は、NAFLD又はその合併症の治療又は予防に用いられる、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物も提供する。
【0062】
本開示は、NAFLD又はその合併症の治療又は予防のための医薬の製造における、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物の使用も提供する。
【0063】
本開示は、NAFLD又はその合併症の治療又は予防における使用説明書が添付されている、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を含むキットも提供する。
【0064】
例示的NAFLD及びその合併症並びに化合物が本明細書に記載され、前出の3段落に示される本開示の例に適宜修正して適用されるものと解釈されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】固形飼料給餌WT、HFD給餌WT及びHFD給餌Vegfb-/-マウスにおけるA.血糖値、B.体重及びC.血清アラニンアミノトランスフェラーゼ値を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。####P<0.0001 固形飼料給餌WTとの比較。*P<0.05、HFD給餌WTマウスとの比較。n=3~8/群(A)、n=3~8/群(B)、n=6~10/群(C)。
図2】固形飼料給餌WT、HFD給餌WT及びHFD給餌Vegfb-/-マウスにおけるA.肝切片のオイルレッドO染色及びB.脂肪酸シンターゼ(fasn)の相対肝mRNA発現の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。###P<0.001 固形飼料給餌WTとの比較。*P<0.05、HFD給餌WTマウスとの比較。n=6~11/群(A)、n=3~6/群(B)。
図3】固形飼料給餌WT、HFD給餌WT及びHFD給餌Vegfb-/-マウスにおけるA.肝切片のアディポフィリン、B.マンノース-6-リン酸受容体結合タンパク質1(tip47)及びC.アディポフィリン(plin2a)の相対肝mRNA発現の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。####P<0.0001 固形飼料給餌WTとの比較。****P<0.0001 HFD給餌WTマウスとの比較。n=4~11/群(A)、n=5~8/群(B)、n=3~6/群(C)。
図4】固形飼料給餌WT、HFD給餌WT及びHFD給餌Vegfb-/-マウスにおけるA.肝切片のタンパク質チロシンホスファターゼ、受容体型、C(CD45)、B.EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様1(F4/80)及びC.単球走化性タンパク質-1(mcp1)の相対肝mRNA発現の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。##P<0.01、###P<0.001 固形飼料給餌WTとの比較。*P<0.05、**P<0.01、****P<0.0001 HFD給餌WTマウスとの比較。n=4~6/群(A)、n=4~8/群(B)、n=4~5/群(C)。
図5】固形飼料給餌WT、HFD給餌WT及びHFD給餌Vegfb-/-マウスの肝切片において同定された全ての風船化肝細胞、マロリー・デンク体、炎症性病巣及び衛星病変の総数の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。####P<0.0001 固形飼料給餌WTとの比較及び****P<0.0001 HFD給餌WTマウスとの比較。n=5~9/群。
図6】固形飼料給餌WT及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したHFD給餌マウスにおけるA.血糖値、B.体重、C.肝重量、D.肝重量の対体重比及びE.血清アラニンアミノトランスフェラーゼ値を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。####P<0.0001 固形飼料給餌WTとの比較。n=6~10/群。
図7】固形飼料給餌WT及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したHFD給餌マウスにおけるA.肝切片のオイルレッドO染色及びB.脂肪酸シンターゼ(fasn)の相対肝mRNA発現の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。####P<0.001 固形飼料給餌WTとの比較。**P<0.01、対照処置HFD給餌マウスとの比較。n=6~11(A)、n=3~6(B)。
図8】固形飼料給餌WT及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したHFD給餌マウスにおけるA.肝切片のアディポフィリン、B.マンノース-6-リン酸受容体結合タンパク質1(tip47)及びC.アディポフィリン(plin2a)の相対肝mRNA発現の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。####P<0.0001 固形飼料給餌WTとの比較。**P<0.01、****P<0.0001 対照処置HFD給餌マウスとの比較。n=5~11/群(A)、n=6~8/群(B)、n=3~5/群(C)。
図9】固形飼料給餌WT及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したHFD給餌マウスにおけるA.肝切片のタンパク質チロシンホスファターゼ、受容体型、C(CD45)、B.EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様1(F4/80)及びC.単球走化性タンパク質-1(mcp1)の相対肝mRNA発現の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。##P<0.01、###P<0.001 固形飼料給餌WTとの比較。**P<0.01、****P<0.0001 対照処置HFD給餌マウスとの比較。n=4~7/群(A)、n=4~8/群(B)、n=4~7/群(C)。
図10】固形飼料給餌WT及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したHFD給餌マウスの肝切片において同定された全ての風船化肝細胞、マロリー・デンク体、炎症性病巣及び衛星病変の総数の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。####P<0.0001 固形飼料給餌WTとの比較及び****P<0.0001 対照処置HFD給餌マウスとの比較。n=5~9/群。
図11】短期CD食(5ヵ月間CD食;CD5)におけるWT、Vegfb+/-及びVegfb-/-マウスでのA.体重及び血糖値、B 腹腔内グルコース及びC.腹腔内インスリン負荷試験(IPGTT及びIPITT)をAUC分析として示される定量化と共に示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。*P<0.05、CD食におけるWTとの比較。n=4~13/群。
図12】CD5食におけるWT、Vegfb+/-及びVegfb-/-マウスでのA.肝重量及び肝重量の対体重比及びB.血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)値の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。*P<0.05、***P<0.001 CD食におけるWTマウスとの比較。n=4~13/群。
図13】CD5食におけるWT、Vegfb+/-及びVegfb-/-マウスでのA.肝切片のオイルレッドO(ORO)染色の定量化及びB.トリグリセリド類(TG)、ケトン類(KB)及び非エステル化脂肪酸(NEFA)の血漿レベルの定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001 CD食におけるWTマウスとの比較。n=4~13/群。
図14】CD5食におけるWT、Vegfb+/-及びVegfb-/-マウスからの肝切片のA.タンパク質チロシンホスファターゼ、受容体型、C(CD45)及びB.EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様1(F4/80)の免疫標識の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001 CD食におけるWTとの比較。n=4~13/群。
図15】固形飼料給餌WTマウス及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したCD5食におけるWTマウスでのA.体重及び血糖値、B.腹腔内グルコース(IPGTT)及びC.腹腔内インスリン負荷試験(IPITT)を曲線下面積分析として示される定量化と共に示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。#P<0.05、固形飼料給餌WTとの比較。n=8~10/群。
図16】固形飼料給餌WTマウス及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したCD5食におけるWTマウスでのA.肝重量及び肝重量の対体重比及びB.血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)値の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。##P<0.01、###P<0.001 固形飼料給餌WTマウスとの比較。**P<0.01、CD食における対照処置C57BL/6マウスとの比較。n=8~10/群。
図17】固形飼料給餌WTマウス及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したCD5食におけるWTマウスでのA.ORO染色の定量化及びB.トリグリセリド類(TG)、ケトン類(KB)及び非エステル化脂肪酸(NEFA)の血漿レベルの定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。#P<0.05、##P<0.01、###P<0.001 固形飼料給餌WTマウスとの比較。*P<0.05、****P<0.0001、CD食における対照処置マウスとの比較。n=8~10/群。
図18】固形飼料給餌WTマウス及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したCD5食におけるWTマウスの肝切片でのA.アディポフィリン発現の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。####P<0.0001 固形飼料給餌WT動物との比較。****P<0.0001 CD食における対照処置マウスとの比較。n=8~10/群。
図19】固形飼料給餌WTマウス及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したCD5食におけるWTマウスの肝切片でのA.タンパク質チロシンホスファターゼ、受容体型、C(CD45)及びB.EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様1(F4/80)の免疫標識の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。##P<0.01、###P<0.001 固形飼料給餌WTマウスとの比較。**P<0.01、***P<0.001 CD食における対照処置マウスとの比較。n=8~10/群。
図20】固形飼料給餌WTマウス及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したCD5食におけるWTマウスからの肝切片のマッソントリクローム染色を用いた肝線維化の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。####P<0.001 固形飼料給餌WTマウスとの比較。***P<0.001 CD食における対照処置マウスとの比較。n=8~10/群。
図21】固形飼料給餌WTマウス及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置したCD5食におけるWTマウスのH&E染色肝切片での総合肝臓NASHスコアリングを示す図表である。値は平均値s.e.m.である。####P<0.0001 固形飼料給餌動物との比較及び***P<0.001 CD食におけるC57BL/6マウス対照処置WTマウスとの比較。n=5~10/群。
図22】固形飼料給餌WTマウス及び抗VEGF抗体(2H10)又は対照抗体で処置した長期CD食(12ヵ月間CD食;CD12)におけるWTマウスでのA.体重及び血糖値、B.腹腔内グルコース及びC.腹腔内インスリン負荷試験(IPGTT及びIPITT)をAUC分析として示される定量化と共に示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。##P<0.01、###P<0.001 固形飼料給餌WTマウスとの比較。n=8/群。
図23】WT固形飼料給餌マウス及び抗VEGF抗体又は対照抗体で処置したCD12食におけるWTマウスの一連の図表であり、A.肝重量及び肝重量の対体重比、B.血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)値の定量化、C.ガドリニウム増強MRIスキャンの代表的画像である。腫瘍負荷は矢印によって示す。D.長期CD食における腫瘍なし及び腫瘍ありの2H10又は対照抗体で処置したマウスをまとめたグラフである。記号は個々のマウスを示す。E.肝臓の肉眼的観察の代表的画像、F.CD12食における対照抗体で処置したマウスの肝腫瘍部位を示す。値は平均値±s.e.m.である。##P<0.01、###P<0.001 固形飼料給餌WTマウスとの比較。*P<0.05、**P<0.01、CD食におけるC57BL/6マウス対照処置マウスとの比較。n=8/群(A~E);n=4(F)
図24】固形飼料給餌WT及び抗VEGF抗体又は腫瘍あり若しくは腫瘍なしの対照抗体で処置したCD12食におけるWTマウスの肝臓でのORO染色の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。#P<0.01、##P<0.01、###P<0.001 固形飼料給餌WTマウスとの比較。****P<0.0001、腫瘍なしのCD食における対照処置マウスとの比較。n=4~8/群。
図25】固形飼料給餌WTマウス及び抗VEGF(2H10)抗体で処置したCD12食におけるWTマウス又は腫瘍あり若しくは腫瘍なしの対照抗体処置マウスの肝切片でのA.タンパク質チロシンホスファターゼ、受容体型、C(CD45)及びB.EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様1(F4/80)の免疫標識の定量化を示す図表である。値は平均値±s.e.m.である。#P<0.01、###P<0.001 固形飼料給餌WTマウスとの比較。*P<0.01、腫瘍なしのCD食における対照処置マウスとの比較。^^^P<0.001 腫瘍ありのCD食における対照処置マウスとの比較。n=4~8/群。
【発明を実施するための形態】
【0066】
配列表の説明
配列番号1は、21アミノ酸N末端シグナル配列を含むヒトVEGF-B186アイソフォームのアミノ酸配列である。
配列番号2は、21アミノ酸N末端シグナル配列を含むヒトVEGF-B167アイソフォームのアミノ酸配列である。
配列番号3は、抗体2H10のVHからのアミノ酸配列である。
配列番号4は、抗体2H10のVLからのアミノ酸配列である。
配列番号5は、ヒト化形態の抗体2H10のVHからのアミノ酸配列である。
配列番号6は、ヒト化形態の抗体2H10のVLのアミノ酸配列である。
配列番号7は、抗体4E12のVHからのアミノ酸配列である。
配列番号8は、抗体4E12のVLのアミノ酸配列である。
配列番号9は、抗体2F5のVHからのアミノ酸配列である。
配列番号10は、抗体2F5のVLのアミノ酸配列である。
配列番号11は、抗体2H10のVL CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号12は、抗体2H10のVL CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号13は、抗体2H10のVL CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号14は、抗体2H10のVH CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号15は、抗体2H10のVH CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号16は、抗体2H10のVH CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号17は、抗体2H10のVL CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号18は、抗体2H10のVL CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号19は、抗体2H10のVL CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号20は、抗体2H10のVH CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号21は、抗体2H10のVH CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号22は、抗体2H10のVH CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号23は、抗体2F5のVL CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号24は、抗体2F5のVL CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号25は、抗体2F5のVL CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号26は、抗体2F5のVH CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号27は、抗体2F5のVH CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号28は、抗体2F5のVH CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号29は、抗体2F5のVL CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号30は、抗体2F5のVL CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号31は、抗体2F5のVL CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号32は、抗体2F5のVH CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号33は、抗体2F5のVH CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号34は、抗体2F5のVH CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号35は、抗体4E12のVL CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号36は、抗体4E12のVL CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号37は、抗体4E12のVL CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号38は、抗体4E12のVH CDR1からのヌクレオチド配列である。
配列番号39は、抗体4E12のVH CDR2からのヌクレオチド配列である。
配列番号40は、抗体4E12のVH CDR3からのヌクレオチド配列である。
配列番号41は、抗体4E12のVL CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号42は、抗体4E12のVL CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号43は、抗体4E12のVL CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号44は、抗体4E12のVH CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号45は、抗体4E12のVH CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号46は、抗体4E12のVH CDR3からのアミノ酸配列である。
【0067】
概要
本明細書全体を通じて、特に具体的に明記されない限り、又は文脈上特に必要でない限り、単一のステップ、組成物、ステップ群又は組成物群への言及は、それらのステップ、組成物、ステップ群又は組成物群の1つ及び複数(即ち1つ以上)を包含すると解釈されるものとする。
【0068】
当業者は、本開示が具体的に記載されるもの以外にも変形形態及び改良形態を受け入れる余地があることを理解するであろう。本開示は、かかる変形形態及び改良形態を全て包含することが理解されるべきである。本開示は、本明細書において言及又は指摘される全てのステップ、特徴、組成物及び化合物を個別に又はまとめて包含し、及び前記ステップ又は特徴の一部及び全部の組み合わせ又は任意の2つ以上も包含する。
【0069】
本開示は、本明細書に記載される具体的な例によって範囲が限定されることはなく、例示を目的とするに過ぎないことが意図される。機能的に均等な製品、組成物及び方法は、明確に本開示の範囲内にある。
【0070】
本明細書における開示の任意の例は、特に具体的に明記されない限り、本開示の任意の他の例に適宜修正して適用されると解釈されるものとする。
【0071】
NAFLDの治療又は予防に関する本開示の任意の例は、NAFLDに罹患している対象の自然免疫応答(例えば、消化器系における自然免疫応答及び/又は全身性自然免疫応答)の阻害又は防止に適宜修正して適用されると解釈されるものとする。
【0072】
特に具体的に定義されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、当該技術分野における(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学における)当業者が一般に理解するのと同じ意味を有すると解釈されるものとする。
【0073】
特に指示されない限り、本開示において利用される組換えタンパク質、細胞培養及び免疫学の技法は、当業者に周知の標準的手順である。かかる技法については、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrook et al.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(editor),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991)、D.M.Glover and B.D.Hames(editors),DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1-4,IRL Press(1995 and 1996)、及びF.M.Ausubel et al.(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての改訂を含む)、Ed Harlow and David Lane(editors)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,(1988)、及びJ.E.Coligan et al.(editors)Current Protocols in Immunology,John Wiley&Sons(現在までの全ての改訂を含む)などの引用元の文献全体にわたって記載及び説明されている。
【0074】
本明細書における可変領域及びその一部、免疫グロブリン、抗体及びその断片の説明及び定義は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1987 and 1991、Bork et al.,J Mol.Biol.242,309-320,1994、Chothia and Lesk J.Mol Biol.196:901-917,1987、Chothia et al.Nature 342,877-883,1989及び/又はAl-Lazikani et al.,J Mol Biol 273,927-948,1997にある考察によって更に明確となり得る。
【0075】
本明細書におけるタンパク質又は抗体に関するいかなる考察も、製造及び/又は保管中に生じるタンパク質又は抗体の任意の変異体を含むことが理解されるであろう。例えば、製造又は保管中、抗体は、脱アミド化し(例えば、アスパラギン若しくはグルタミン残基で)、及び/又は改変されたグリコシル化を有し、及び/又はピログルタミンに変換されたグルタミン残基を有し、及び/又はN末端若しくはC末端残基が除去又は「クリップ」され、及び/又はシグナル配列の一部若しくは全部が不完全にプロセシングされて、結果として抗体の末端に残ることもある。特定のアミノ酸配列を含む組成物は、明示されるか若しくはコードされる配列及び/又はその明示されるか若しくはコードされる配列の変異体の不均一混合物であり得ることが理解される。
【0076】
用語「及び/又は」、例えば「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味するように理解されるものとし、且つ両方の意味又はいずれか一方の意味に対する明示的なサポートを提供すると解釈されるものとする。
【0077】
本明細書全体を通じて、語句「含む(comprise)」又は変化形、例えば「含む(comprises)」若しくは「含んでいる」などは、明示される要素、完全体若しくはステップ、又は要素、完全体若しくはステップの群の包含を含意し、しかし、任意の他の要素、完全体若しくはステップ、又は要素、完全体若しくはステップの群の除外を含意しないことが理解されるであろう。
【0078】
本明細書で使用されるとき、用語「由来する」は、特定の供給源から指定の完全体が得られ得る(但し、必ずしもその供給源から直接とは限らない)ことを包含すると解釈されるものとする。
【0079】
特定の定義
VEGF-Bは、VEGF-B186及びVEGF-B167と称される2つの主要なアイソフォームで存在することが知られる。限定でなく、あくまでも命名を目的として、ヒトVEGF-B186の例示的配列は、NCBI参照配列:NP_003368.1、NCBIタンパク質受託番号NP_003368、P49765及びAAL79001並びに配列番号1に示される。本開示に関連して、VEGF-B186の配列は、21アミノ酸N末端シグナル配列(例えば、配列番号1のアミノ酸1~21に示されるとおり)を欠いていることができる。限定でなく、あくまでも命名を目的として、ヒトVEGF-B167の例示的配列は、NCBI参照配列:NP_001230662.1、NCBIタンパク質受託番号AAL79000及びAAB06274並びに配列番号2に示される。本開示に関連して、VEGF-B167の配列は、21アミノ酸N末端シグナル配列(例えば、配列番号2のアミノ酸1~21に示されるとおり)を欠いていることができる。VEGF-Bの更なる配列は、本明細書及び/又は公的に利用可能なデータベースに提供される配列を用いて決定することができ、及び/又は標準的な技法(例えば、Ausubel et al.,(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての改訂を含む)又はSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されるとおり)を用いて決定することができる。ヒトVEGF-Bへの言及は、hVEGF-Bと省略されることもある。一例において、本明細書におけるVEGF-Bへの言及は、VEGF-B167アイソフォームへの言及である。
【0080】
本明細書におけるVEGF-Bへの言及は、国際公開第2006/012688号パンフレットに記載されるとおりのVEGF-B10-108ペプチドも包含する。
【0081】
本明細書で使用されるとき、「非アルコール性脂肪性肝疾患」又は「NAFLD」は、炎症及び線維化(即ち肝線維化)を伴うことも又は伴わないこともある、過剰なアルコール摂取なしに肝臓に脂肪が沈着する病態(肝脂肪症)を指す。この用語には、脂肪症、NASH及び肝硬変が包含される。
【0082】
本明細書で使用されるとき、「NAFLDを有する対象」は、NAFLDと診断された対象を指す。一部の例において、NAFLDは、ルーチンの検査、メタボリックシンドローム及び肥満のモニタリング、又は薬物(例えば、コレステロール降下剤又はステロイド)の副作用の可能性に関するモニタリング中に疑われる。一部の例において、ASAT及びALATなどの肝酵素が高い。一部の例において、対象は、腹部又は胸部イメージング、肝臓超音波検査、又は磁気共鳴画像法に従って診断される。一部の例において、過剰なアルコール消費、C型肝炎及びウィルソン病などの他の病態は、NAFLD診断前に除外されている。一部の例において、対象は、肝生検に従って診断されている。
【0083】
本明細書で使用されるとき、「脂肪症」及び「非アルコール性脂肪症」は、同義的に使用され、炎症又は線維化を伴わない、過剰なアルコール摂取のない軽度、中等度及び重度脂肪症を含む。
【0084】
ここで使用されるとき、用語「肝臓(hepatic)」及び「肝臓(liver)」は、同義的に使用される。
【0085】
本明細書で使用されるとき、「脂肪症を有する対象」及び「非アルコール性脂肪症を有する対象」は、同義的に使用され、脂肪症と診断された対象を指す。一部の例において、脂肪症は、本明細書に一般にNAFLDに関して記載される方法によって診断される。
【0086】
本明細書で使用されるとき、「非アルコール性脂肪性肝炎」又は「NASH」は、肝臓に炎症及び/又は線維化(即ち肝線維化)があるNAFLDを指す。NASHのステージを決定する例示的方法については、例えば、Kleiner et al,2005,Hepatology,41(6):1313-1321、及びBrunt et al,2007,Modern Pathol,20:S40-S48に記載されている。
【0087】
本明細書で使用されるとき、「NASHを有する対象」は、NASHと診断された対象を指す。一部の例において、NASHは、上記にNAFLDに関して概括的に記載される方法によって診断される。一部の例において、進行した線維化は、NAFLDを有する患者において、例えばGambino R,et.al.Annals of Medicine 2011;43(8):617-49に従って診断される。
【0088】
本明細書で使用されるとき、用語「NASH由来肝硬変」又は「NASH由来肝硬変を有する対象」は、NASHによって引き起こされる肝硬変を有する対象を指し、即ち、このNASHは、肝硬変に進行している。
【0089】
本明細書で使用されるとき、用語「NASH関連肝硬変」、又は「NASHに伴う肝硬変」、又は「NASH関連肝硬変を有する対象」は、肝硬変及びNASHと診断される対象を指すが、しかしながら、この肝硬変は、必ずしもNASHによって引き起こされるわけではない。
【0090】
本明細書で使用されるとき、用語「NASH関連肝線維化」、又は「NASHに伴う肝線維化」、又は「NASH関連肝線維化を有する対象」は、肝線維化及びNASHと診断される対象を指すが、しかしながら、この肝線維化は、必ずしもNASHによって引き起こされるわけではない。
【0091】
本明細書で使用されるとき、用語「NASH由来肝細胞癌」又は「NASH由来肝細胞癌を有する対象」は、NASHによって引き起こされた肝細胞癌を有する対象を指し、即ち、このNASHは、肝細胞癌に進行している。
【0092】
本明細書で使用されるとき、用語「NASH関連肝細胞癌」、又は「NASHに伴う肝細胞癌」、又は「NASH関連肝細胞癌を有する対象」は、肝細胞癌及びNASHと診断される対象を指すが、しかしながら、この肝細胞癌は、必ずしもNASHによって引き起こされるわけではない。
【0093】
本明細書で使用されるとき、対象に関して「過体重」とは、BMIが25~<30である対象を指す。
【0094】
本明細書で使用されるとき、対象に関して「肥満」とは、BMIが30以上である対象を指す。
【0095】
本明細書で使用されるとき、「NAFLDを発症するリスクがある対象」は、肥満、腹部肥満、メタボリックシンドローム、心血管疾患及び糖尿病など、1つ以上のNAFLD共存症を有する対象を指す。
【0096】
本明細書で使用されるとき、「脂肪症を発症するリスクがある対象」は、脂肪症であると診断されていないが、肥満、腹部肥満、メタボリックシンドローム、心血管疾患及び糖尿病など、1つ以上のNAFLD共存症を有する対象を指す。
【0097】
本明細書で使用されるとき、「NASHを発症するリスクがある対象」は、肥満、腹部肥満、メタボリックシンドローム、心血管疾患及び糖尿病など、1つ以上のNAFLD共存症を継続的に有している脂肪症の対象を指す。
【0098】
用語「組換え」は、人為的な遺伝子組換えの産物を意味すると理解されるものとする。従って、抗体可変領域を含む組換えタンパク質に関連して、この用語は、B細胞成熟中に起こる自然の組換えの産物である対象の体内に天然に存在する抗体を包含しない。しかしながら、かかる抗体を単離した場合、それは、抗体可変領域を含む単離タンパク質と見なされる。同様に、タンパク質をコードする核酸を単離し、組換え手段を用いて発現させた場合、得られるタンパク質は、抗体可変領域を含む組換えタンパク質である。組換えタンパク質には、タンパク質が、例えばそれが発現するところである細胞、組織又は対象内にあるとき、人為的な組換え手段によって発現するタンパク質も包含される。
【0099】
用語「タンパク質」は、単一のポリペプチド鎖、即ちペプチド結合によって連結された一連の連続アミノ酸又は互いに共有結合的若しくは非共有結合的に連結された一連のポリペプチド鎖(即ちポリペプチド複合体)を含むと解釈されるものとする。例えば、一連のポリペプチド鎖は、好適な化学物質又はジスルフィド結合を用いて共有結合的に連結され得る。非共有結合の例としては、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力及び疎水性相互作用が挙げられる。
【0100】
用語「ポリペプチド」又は「ポリペプチド鎖」は、前述の段落から、ペプチド結合によって連結された一連の連続アミノ酸を意味すると理解されるであろう。
【0101】
当業者は、「抗体」が、概して、複数のポリペプチド鎖、例えば軽鎖可変領域(VL)を含むポリペプチド及び重鎖可変領域(VH)を含むポリペプチドで構成される可変領域を含むタンパク質と見なされることを認識するであろう。抗体は、概して、定常ドメインも含み、その一部は、重鎖の場合に定常断片又は結晶化可能断片(Fc)が含まれる定常領域に配置され得る。VHとVLとは、相互作用して、1つ又は数個の近縁関係にある抗原への特異的結合能を有する抗原結合領域を含むFvを形成する。概して、哺乳類の軽鎖は、κ軽鎖又はλ軽鎖のいずれかであり、哺乳類の重鎖は、α、δ、ε、γ、又はμである。抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスであり得る。用語「抗体」は、ヒト化抗体、霊長類化抗体、ヒト抗体、シンヒューマナイズド抗体及びキメラ抗体も包含する。
【0102】
用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」又は「全抗体」は、抗体の抗原結合断片とは対照的に、その実質的にインタクトな形態の抗体を指して同義的に使用される。具体的には、全抗体は、Fc領域を含む重鎖及び軽鎖を有するものを含む。定常ドメインは、野生型配列定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であり得る。
【0103】
本明細書で使用されるとき、「可変領域」は、抗原への特異的結合能を有し、且つ相補性決定領域(CDR)、即ちCDR1、CDR2及びCDR3、並びにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む本明細書に定義するとおりの抗体の軽鎖及び/又は重鎖の一部分を指す。例示的可変領域は、3又は4つのFR(例えば、FR1、FR2、FR3及び任意選択でFR4)を3つのCDRと共に含む。IgNARに由来するタンパク質の場合、タンパク質は、CDR2を欠いていることもある。VHは、重鎖の可変領域を指す。VLは、軽鎖の可変領域を指す。
【0104】
本明細書で使用されるとき、用語「相補性決定領域」(同義語CDR、即ちCDR1、CDR2及びCDR3)は、抗原結合にその存在が必要な抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、典型的には、CDR1、CDR2及びCDR3として特定される3つのCDR領域を有する。CDR及びFRに割り当てられるアミノ酸位置は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1987 and 1991又は本開示の実施における他の付番方式、例えばChothia and Lesk J.Mol Biol.196:901-917,1987、Chothia et al.Nature 342,877-883,1989、及び/又はAl-Lazikani et al.,J Mol Biol 273:927-948,1997のカノニカルな付番方式、Lefranc et al.,Devel.And Compar.Immunol.,27:55-77,2003のIMGT付番方式、又はHonnegher and Pluekthun J.Mol.Biol.,309:657-670,2001のAHO付番方式に従って定義することができる。
【0105】
「フレームワーク領域」(FR)は、CDR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0106】
本明細書で使用されるとき、用語「Fv」は、複数のポリペプチドを含むか、又は単一のポリペプチドを含むかに関わらず、VLとVHとが会合して、抗原結合部位を有する、即ち抗原への特異的結合能を有する複合体を形成する任意のタンパク質を意味すると解釈されるものとする。抗原結合部位を形成するVH及びVLは、単一のポリペプチド鎖にあり得るか、又は異なるポリペプチド鎖にあり得る。更に、本開示のFv(及び本開示の任意のタンパク質)は、同じ抗原に結合することも又はそうでないこともある複数の抗原結合部位を有し得る。この用語は、抗体に直接由来する断片及び組換え手段を用いて作製されたかかる断片に対応するタンパク質を包含すると理解されるものとする。一部の例において、VHは、重鎖定常ドメイン(CH)1に連結されず、及び/又はVLは、軽鎖定常ドメイン(CL)に連結されない。例示的Fv含有ポリペプチド又はタンパク質としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ若しくはより高次の複合体、又はその定常領域若しくはドメイン、例えばCH2若しくはCH3ドメインに連結された前述のいずれか、例えばミニボディが挙げられる。「Fab断片」は、抗体の一価抗原結合断片からなり、全抗体を酵素パパインで消化して、インタクトな軽鎖と重鎖の一部分とからなる断片を生じさせることにより作製することができ、又は組換え手段を用いて作製することができる。抗体の「Fab’断片」は、全抗体をペプシンで処理し、続いて還元して、インタクトな軽鎖と、VH及び単一の定常ドメインを含む重鎖の一部分とからなる分子を生じさせることによって得ることができる。このように処理した抗体1つにつき2つのFab’断片が得られる。Fab’断片は、組換え手段によっても作製することができる。抗体の「F(ab’)2断片」は、2つのジスルフィド結合によって一体に保持された2つのFab’断片の二量体からなり、全抗体分子を酵素ペプシンで処理し、続く還元を行わないことにより得られる。「Fab2」断片は、例えば、ロイシンジッパー又はCH3ドメインを用いて連結された2つのFab断片を含む組換え断片である。「一本鎖Fv」又は「scFv」は、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とが好適な可動性ポリペプチドリンカーによって共有結合的に連結されている抗体の可変領域断片(Fv)を含む組換え分子である。
【0107】
本明細書で使用されるとき、タンパク質又はその抗原結合部位と抗原との相互作用に関して用語「結合する」とは、その相互作用が抗原上の特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、抗体は、全般的にタンパク質というよりむしろ特異的タンパク質構造を認識してそれに結合する。抗体がエピトープ「A」に結合する場合、標識された「A」とタンパク質とを含む反応物中にエピトープ「A」を含有する分子(又は遊離した非標識の「A」)が存在すると、抗体に結合する標識された「A」の量が減少することになる。
【0108】
本明細書で使用されるとき、用語「特異的に結合する(specifically binds)」又は「特異的に結合する(binds specifically)」は、本開示のタンパク質が、特定の抗原又はそれを発現する細胞と、別の抗原又は細胞と比べてより高頻度で、より速く、より長い持続時間で且つ/又はより高い親和性で反応又は会合することを意味すると解釈されるものとする。例えば、タンパク質は、他の成長因子(例えば、VEGF-A)に対するよりも、又は多反応性天然抗体によって(即ちヒトに天然に見られる種々の抗原に結合することが知られる天然に存在する抗体によって)共通して認識される抗原に対するよりも実質的に高い親和性(例えば、20倍、又は40倍、又は60倍、又は80倍~100倍、又は150倍、又は200倍)でVEGF-Bに結合する。概して、必ずしもというわけではないが、結合への言及は、特異的結合を意味し、及び各用語が他の用語の明示的なサポートを提供すると理解されるものとする。
【0109】
本明細書で使用されるとき、用語「中和する」は、VEGF-R1を介した細胞のVEGF-Bシグナル伝達を遮断、低減又は防止する能力がタンパク質にあることを意味すると解釈されるものとする。中和の決定方法は、当該技術分野において公知であり、及び/又は本明細書に記載される。
【0110】
本明細書で使用されるとき、用語「VEGF-Bシグナル伝達を特異的に阻害する」は、化合物がVEGF-Bシグナル伝達を阻害し、1つ以上の他のVEGFタンパク質、例えばVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D及び/又はPIGFによるシグナル伝達を有意に又は検出可能なほどに阻害しないことを意味するものと理解されるであろう。
【0111】
本明細書で使用されるとき、用語「有意に阻害しない」は、本明細書に記載される化合物の存在下におけるVEGF-B以外のVEGFタンパク質によるシグナル伝達(例えば、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D及び/又はPIGFによるシグナル伝達)の阻害レベルが、本明細書に記載される化合物の非存在下(例えば、アイソタイプ対照抗体の存在下で行われ得る対照アッセイ)と比べて統計的に有意に低くないことを意味すると理解されるものとする。
【0112】
本明細書で使用されるとき、用語「検出可能なほどに阻害しない」は、本明細書に記載されるとおりの化合物が、VEGF-B以外のVEGFタンパク質のシグナル伝達(例えば、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D及び/又はPIGFによるシグナル伝達)を、本明細書に記載される化合物の非存在下で(例えば、アイソタイプ対照抗体の存在下で行われ得る対照アッセイで)検出されるシグナル伝達レベルの10%、又は8%、又は6%、又は5%、又は4%、又は3%、又は2%、又は1%以下のみ阻害することを意味すると理解されるものとする。
【0113】
本明細書で使用されるとき、用語「予防している」、「予防する」又は「予防」は、本開示の化合物を投与して、それにより病態の少なくとも1つの症状の発症を止めるか又は妨げることを含む。
【0114】
本明細書で使用されるとき、用語「治療している」、「治療する」又は「治療」は、本明細書に記載されるタンパク質を投与して、それにより指定の疾患若しくは病態の少なくとも1つの症状を低減するか若しくは消失させること、又は疾患若しくは病態の進行を遅延させることを含む。
【0115】
本明細書で使用されるとき、用語「対象」は、ヒト、例えば哺乳類を含めた任意の動物を意味すると解釈されるものとする。例示的対象としては、限定はされないが、ヒト及び非ヒト霊長類が挙げられる。例えば、対象は、ヒトである。
【0116】
NAFLD治療
本開示は、対象のNAFLDを治療又は予防する方法を提供し、この方法は、VEGF-Bシグナル伝達の阻害薬を対象に投与することを含む。
【0117】
一部の例において、本方法は、対象がNAFLDを有するかどうかを決定すること、及びその対象が実際にNAFLDを有する場合にその対象を選択し、次に本明細書に記載されるとおりのVEGF-Bを阻害する化合物を投与することを含む。対象がNAFLDを有するかどうかを決定することには、その病歴を精査すること、又は診断の確立に必要なとおりの検査を注文又は実施することが含まれ得る。多くのNAFLD患者が無症候である。病態は、通常、異常肝機能検査又は例えば無関係の医学的状態に認められた肝腫大の結果として偶発的に発見される。肝生化学検査値の上昇は、単純脂肪症患者の50%に見られる(例えば、Sleisenger,Sleisenger and Fordtran’s Gastrointestinal and Liver Disease.Philadelphia:W.B.Saunders Company(2006)を参照されたい)。一般に、診断は、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT)などのルーチンの血液検査パネルに含まれる肝検査値の上昇の存在から始まる。中程度であっても、肝脂肪蓄積の無症候性の増加は、メタボリックシンドロームの進行性の発病における初期成分であることが示されている(例えば、Almeda-Valdes et al.,Ann.Hepatol.8 Suppl 1:518-24(2009);Polyzos et al.,Curr Mol Med.9(3):299-314(2009);Byrne et al.,Clin.Sci.(Lond).116(7):539-64(2009)を参照されたい)。
【0118】
評価過程において、多くの場合に画像解析が入手される。超音波検査では、エコー輝度の増加に伴い「輝く」肝臓が明らかになる。従って、医用画像は、NAFLDの診断を促進し得る。コンピュータ断層撮影法(CT)では、脂肪肝は、脾臓よりも密度が低く、及びT1強調磁気共鳴画像(MRI)において脂肪が輝いて見える。
【0119】
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の鑑別診断の確立は、単純脂肪肝とは対照的に、肝生検を用いて行われる。肝生検について、針を皮膚から挿入することにより肝臓の小片が摘出される。顕微鏡で組織を調べて炎症及び肝細胞の損傷を伴う脂肪が示されると、NASHが診断される。組織が炎症及び損傷のない脂肪を示す場合、単純NAFLDが診断される。従って、重症度の評価が指示される場合、肝生検による組織学的診断が求められる。
【0120】
一例において、対象は、脂肪症に罹患している。
【0121】
一例において、対象は、NASHに罹患している。
【0122】
一例において、対象は、肝硬変に罹患している。一例において、肝硬変は、NASH由来肝硬変である。別の例において、肝硬変は、NASH関連肝硬変である。
【0123】
一例において、本開示の方法は、NAFLDの進行、例えば脂肪症からNASHへの又はNASHから肝硬変への進行を予防するか又は遅延させる。
【0124】
一例において、対象は、肥満である。例えば、対象は、BMIが30以上である。従って、本開示は、肥満の対象におけるNAFLDを治療する方法を提供し、この方法は、VEGF-Bを阻害する化合物を対象に投与することを含む。
【0125】
一例において、対象は、メタボリックシンドロームに罹患している。例えば、対象は、真性糖尿病、耐糖能異常、空腹時血糖異常又はインスリン抵抗性、及び以下のうちの2つを有する:
・血圧:≧140/90mmHg、
・脂質異常症:トリグリセリド類(TG):≧1.695mmol/L及び高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)≦0.9mmol/L(男性)、≦1.0mmol/L(女性)、
・中心性肥満:ウエスト・ヒップ比>0.90(男性)、>0.85(女性)、又はボディ・マス・インデックス>30kg/m2
・微量アルブミン尿:尿中アルブミン排泄率≧20μg/分又はアルブミン:クレアチニン比≧30mg/g。
【0126】
一例において、対象は、糖尿病に罹患している。例えば、糖尿病に罹患している対象は、以下のような臨床的に認められている糖尿病マーカーを有する:
・7mmol/L又は126mg/dl以上の空腹時血漿グルコース、
・糖尿病の症状を伴う11.1mmol/L又は200mg/dl以上の随時血漿グルコース(1日のうちの任意の時点でとったもの)。
・2時間の間隔を置いて計測して11.1mmol/L又は200mg/dl以上の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)値。OGTTは、2又は3時間のタイムスパンで与えられる。
【0127】
一例において、対象は、2型糖尿病に罹患している。
【0128】
VEGF-Bシグナル伝達阻害薬
抗体可変領域を含むタンパク質
例示的VEGF-Bシグナル伝達阻害薬は、抗体可変領域を含み、例えばVEGF-Bに結合してVEGF-Bシグナル伝達を中和する抗体又は抗体断片である。
【0129】
一例において、抗体可変領域は、VEGF-Bに特異的に結合する。
【0130】
好適な抗体及びその可変領域を含むタンパク質は、当該技術分野において公知である。
【0131】
例えば、抗VEGF-B抗体及びその断片について、国際公開第2006/012688号パンフレットに記載されている。
【0132】
一例において、抗VEGF-B抗体又はその断片は、2H10のVEGF-B又はその抗原結合断片への結合を競合的に阻害する抗体である。一例において、抗VEGF-B抗体又はその断片は、抗体2H10若しくはそのキメラ、CDRグラフト若しくはヒト化バージョン又はその抗原結合断片である。この点に関して、抗体2H10は、配列番号3に示される配列を含むVHと、配列番号4に示される配列を含むVLとを含む。この抗体の例示的キメラ及びヒト化バージョンについて、国際公開第2006/012688号パンフレットに記載されている。
【0133】
一例において、抗VEGF-B抗体又はその断片は、配列番号5に示される配列を含むVHと、配列番号6に示される配列を含むVLとを含む。
【0134】
一例において、抗VEGF-B抗体又はその断片は、4E12のVEGF-B又はその抗原結合断片への結合を競合的に阻害する抗体である。一例において、抗VEGF-B抗体又はその断片は、抗体4E12若しくはそのキメラ、CDRグラフト若しくはヒト化バージョン又はその抗原結合断片である。この点に関して、抗体4E12は、配列番号7に示される配列を含むVHと、配列番号8に示される配列を含むVLとを含む。
【0135】
一例において、本化合物は、抗体4E12のヒト化可変領域を含むタンパク質である。例えば、タンパク質は、抗体4E12のVH及び/又はVLの相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を含む。例えば、タンパク質は、
(i)VHであって、
(a)配列番号7のアミノ酸25~34に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号7のアミノ酸49~65に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号7のアミノ酸98~105に示される配列を含むCDR3
を含むVH、及び/又は
(ii)VLであって、
(a)配列番号8のアミノ酸24~34に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号8のアミノ酸50~56に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号8のアミノ酸89~97に示される配列を含むCDR3
を含むVL
を含む。
【0136】
一例において、抗VEGF-B抗体又はその断片は、2F5のVEGF-B又はその抗原結合断片への結合を競合的に阻害する抗体である。一例において、抗VEGF-B抗体又はその断片は、抗体2F5若しくはそのキメラ、CDRグラフト若しくはヒト化バージョン又はその抗原結合断片である。この点に関して、抗体2E5は、配列番号9に示される配列を含むVHと、配列番号10に示される配列を含むVLとを含む。
【0137】
一例において、化合物は、抗体2F5のヒト化可変領域を含むタンパク質である。例えば、タンパク質は、抗体2F5のVH及び/又はVLの相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を含む。例えば、タンパク質は、
(i)VHであって、
(a)配列番号9のアミノ酸25~34に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号9のアミノ酸49~65に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号9のアミノ酸98~107に示される配列を含むCDR3
を含むVH、及び/又は
(ii)VLであって、
(a)配列番号10のアミノ酸24~34に示される配列を含むCDR1、
(b)配列番号10のアミノ酸50~56に示される配列を含むCDR2、及び
(c)配列番号10のアミノ酸89~96に示される配列を含むCDR3
を含むVL
を含む。
【0138】
別の例において、抗体又はその可変領域を含むタンパク質は、例えば、当該技術分野において公知であるか又は本明細書に簡単に記載されるとおりの標準方法を用いて作製される。
【0139】
免疫化に基づく方法
抗体生成のため、任意選択で任意の好適な又は所望のアジュバント及び/又は薬学的に許容可能な担体と共に製剤化された、VEGF-B又はそのエピトープ担持断片若しくは部分、或いはその修飾形態又はそれをコードする核酸(「免疫原」)が注射用組成物の形態で対象(例えば、マウス、ラット、ニワトリ等の非ヒト動物対象)に投与される。例示的非ヒト動物は、ネズミ科動物(例えば、ラット又はマウス)などの哺乳類である。注射は、鼻腔内、筋肉内、皮下、静脈内、皮内、腹腔内又は他の公知の経路によるものであり得る。任意選択で、免疫原は、多くの回数にわたって投与される。抗体を調製して特徴付ける手段は、当該技術分野において公知である(例えば、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照されたい)。マウスにおいて抗VEGF-B抗体を作製する方法は、国際公開第2006/012688号パンフレットに記載されている。
【0140】
ポリクローナル抗体の産生は、免疫化後の様々な時点で免疫動物の血液を採取することによりモニタし得る。所望の抗体力価を実現するのに必要であれば、2回目のブースター注射が行われ得る。ブースティング及び力価測定のプロセスは、好適な力価が実現するまで繰り返される。所望のレベルの免疫原性に達すると、免疫動物が採血されて、血清が分離及び保存され、及び/又は動物がモノクローナル抗体(mAb)の生成に使用される。
【0141】
モノクローナル抗体は、本開示によって企図される例示的抗体である。概して、モノクローナル抗体の作製は、抗体産生細胞を刺激するのに十分な条件下で対象(例えば、げっ歯類、例えばマウス又はラット)を免疫原で免疫することを伴う。一部の例では、ヒト抗体を発現してマウス抗体タンパク質を発現しないように遺伝子操作されたマウスを免疫することにより抗体が作製される(例えば、PCT/米国特許出願公開第2007/008231号明細書及び/又はLonberg et al.,Nature 368(1994):856-859に記載されるとおり)。免疫後、抗体を産生する体細胞(例えば、Bリンパ球)が不死細胞、例えば不死骨髄腫細胞と融合される。かかる融合細胞(ハイブリドーマ)の様々な作製方法が当該技術分野において公知であり、例えばKohler and Milstein,Nature 256,495-497,1975に記載されている。次に、ハイブリドーマ細胞を抗体産生に十分な条件下で培養することができる。
【0142】
本開示は、他の抗体作製方法、例えばABL-MYC技術(例えば、Largaespada et al,Curr.Top.Microbiol.Immunol,166,91-96.1990に記載されるとおり)を企図する。
【0143】
ライブラリに基づく方法
本開示は、抗体又はその抗原結合ドメインを含む(例えば、その可変領域を含む)タンパク質のライブラリをスクリーニングして、VEGF-B結合抗体又はその可変領域を含むタンパク質を同定することも包含する。
【0144】
本開示によって企図されるライブラリの例としては、ナイーブライブラリ(無感作の対象由来)、免疫ライブラリ(抗原で免疫された対象由来)又は合成ライブラリが挙げられる。抗体又はその領域(例えば、可変領域)をコードする核酸が従来技術によってクローニングされ(例えば、Sambrook and Russell,eds,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Ed,vols.1-3,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に開示されるとおり)、当該技術分野において公知の方法を用いたタンパク質のコーディング及びディスプレイに使用される。タンパク質のライブラリを作製する他の技法について、例えば米国特許第6300064号明細書(例えば、Morphosys AGのHuCALライブラリ)、米国特許第5885793号明細書、米国特許第6204023号明細書、米国特許第6291158号明細書又は米国特許第6248516号明細書に記載されている。
【0145】
本開示に係るタンパク質は、可溶性分泌タンパク質であり得、又は細胞若しくは粒子(例えば、ファージ又は他のウイルス、リボソーム若しくは胞子)の表面上の融合タンパク質として存在し得る。様々なディスプレイライブラリフォーマットが当該技術分野において公知である。例えば、ライブラリは、インビトロディスプレイライブラリ(例えば、例として米国特許第7270969号明細書に記載されるとおりのリボソームディスプレイライブラリ、共有結合ディスプレイライブラリ又はmRNAディスプレイライブラリ)である。更に別の例において、ディスプレイライブラリは、例えば、米国特許第6300064号明細書、米国特許第5885793号明細書、米国特許第6204023号明細書、米国特許第6291158号明細書又は米国特許第6248516号明細書に記載されるとおりの、抗体の抗原結合ドメインを含むタンパク質がファージ上に発現するファージディスプレイライブラリである。他のファージディスプレイ方法が当該技術分野において公知であり、本開示によって企図される。同様に、細胞ディスプレイ方法、例えば、例として米国特許第5516637号明細書に記載されるとおりの細菌ディスプレイライブラリ、例えば米国特許第6423538号明細書に記載されるとおりの酵母ディスプレイライブラリ又は哺乳類ディスプレイライブラリが本開示によって企図される。
【0146】
スクリーニングディスプレイライブラリ方法は、当該技術分野において公知である。一例において、本開示のディスプレイライブラリは、例えば、Scopes(Protein purification:principles and practice,Third Edition,Springer Verlag,1994)に記載されるとおりのアフィニティー精製を用いてスクリーニングされる。アフィニティー精製方法は、典型的には、ライブラリによって提示される抗原結合ドメインを含むタンパク質を標的抗原(例えば、VEGF-B)と接触させて、洗浄後、抗原に結合したままのドメインを溶出させることを伴う。
【0147】
スクリーニングによって同定された任意の可変領域又はscFvは、必要に応じて完全抗体に容易に修飾される。可変領域又はscFvを完全抗体となるように修飾し、又は再フォーマット化する例示的方法は、例えば、Jones et al.,J Immunol Methods.354:85-90,2010、又はJostock et al.,J Immunol Methods,289:65-80,2004に記載されている。代わりに又は加えて、例えば、Ausubel et al(Current Protocols in Molecular Biology.Wiley Interscience,ISBN 047 150338,1987)及び/又は(Sambrook et al(Molecular Cloning:Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York,Third Edition 2001)に記載されるとおり、標準的なクローニング方法が用いられる。
【0148】
脱免疫化、キメラ、ヒト化、シンヒューマナイズド、霊長類化及びヒトタンパク質
本開示のタンパク質は、ヒト化タンパク質であり得る。
【0149】
用語「ヒト化タンパク質」は、ヒト抗体由来のFRにグラフト又は挿入された非ヒト種(例えば、マウス若しくはラット又は非ヒト霊長類)由来の抗体のCDRを含むヒト様可変領域を含むタンパク質を指すと理解されるものとする(この種の抗体は、「CDRグラフト抗体」とも称される)。ヒト化タンパク質には、ヒトタンパク質の1つ以上の残基が1つ以上のアミノ酸置換によって修飾されており、及び/又はヒトタンパク質の1つ以上のFR残基が対応する非ヒト残基に置き換えられているタンパク質も含まれる。ヒト化タンパク質は、ヒト抗体又は非ヒト抗体のいずれにも見られない残基も含み得る。タンパク質の任意の追加的な領域(例えば、Fc領域)は、概して、ヒトである。ヒト化は、当該技術分野、例えば米国特許第5225539号明細書、米国特許第6054297号明細書、米国特許第7566771号明細書又は米国特許第5585089号明細書において公知の方法を用いて実施することができる。用語「ヒト化タンパク質」は、例えば、米国特許第7732578号明細書に記載されるとおりの超ヒト化タンパク質も包含する。
【0150】
本開示のタンパク質は、ヒトタンパク質であり得る。用語「ヒトタンパク質」は、本明細書で使用されるとき、ヒト、例えばヒト生殖細胞系列又は体細胞に見られる可変、及び任意選択で定常抗体領域を有するか、又はかかる領域を使用して作製されるライブラリからのタンパク質を指す。「ヒト」抗体は、ヒト配列によってコードされないアミノ酸残基、例えばインビトロでランダム又は部位特異的突然変異によって導入される突然変異(詳細には、保存的置換を伴う突然変異又はタンパク質の残基の少数、例えばタンパク質の残基の1、2、3、4又は5個における突然変異)を含むことができる。これらの「ヒト抗体」は、必ずしもヒトの免疫応答の結果として生成される必要はなく、むしろヒト抗体は、組換え手段(例えば、ファージディスプレイライブラリのスクリーニング)を用いて、且つ/又はヒト抗体定常及び/若しくは可変領域をコードする核酸を含むトランスジェニック動物(例えば、マウス)により、及び/又はガイド下の選択を用いて(例えば又は米国特許第5565332号明細書に記載されるとおり)生成され得る。この用語は、かかる抗体の親和性成熟形態も包含する。本開示の目的上、ヒトタンパク質は、例えば、米国特許第6300064号明細書及び/又は米国特許第6248516号明細書に記載されるとおり、ヒト抗体からのFR又はヒトFRのコンセンサス配列からの配列を含むFRを含み、且つCDRの1つ以上がランダム又はセミランダムであるタンパク質を含むと見なされることにもなる。
【0151】
本開示のタンパク質は、シンヒューマナイズドタンパク質であり得る。用語「シンヒューマナイズドタンパク質」は、国際公開第2007/019620号パンフレットに記載される方法によって調製されるタンパク質を指す。シンヒューマナイズドタンパク質は、抗体の可変領域を含み、ここで、可変領域は、新世界霊長類抗体可変領域由来のFRと、非新世界霊長類抗体可変領域由来のCDRとを含む。例えば、シンヒューマナイズドタンパク質は、抗体の可変領域を含み、ここで、可変領域は、新世界霊長類抗体可変領域由来のFRと、マウス又はラット抗体由来のCDRとを含む。
【0152】
本開示のタンパク質は、霊長類化タンパク質であり得る。「霊長類化タンパク質」は、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)の免疫後に生成された抗体の1つ又は複数の可変領域を含む。任意選択で、非ヒト霊長類抗体の可変領域がヒト定常領域に連結されて霊長類化抗体が作製される。霊長類化抗体を作製する例示的な方法は、米国特許第6113898号明細書に記載されている。
【0153】
一例において、本開示のタンパク質は、キメラタンパク質である。用語「キメラタンパク質」は、抗原結合ドメインが特定の種(例えば、マウス又はラットなどのマウス科動物)のものであるか、又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する一方、タンパク質の残りが別の種に由来するタンパク質(例えば、ヒト又は非ヒト霊長類など)のものであるか、又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属するタンパク質を指す。一例において、キメラタンパク質は、非ヒト抗体(例えば、マウス抗体)のVH及び/又はVLを含むキメラ抗体であり、抗体の残りの領域がヒト抗体のものである。かかるキメラタンパク質の作製は、当該技術分野において公知であり、標準的な手段によって実現し得る(例えば、米国特許第6331415号明細書、米国特許第5807715号明細書、米国特許第4816567号明細書及び米国特許第4816397号明細書に記載されるとおり)。
【0154】
本開示は、例えば、国際公開第2000/34317号パンフレット及び国際公開第2004/108158号パンフレットに記載されるとおりの脱免疫化タンパク質も企図する。脱免疫化抗体及びタンパク質は、1つ以上のエピトープ、例えばB細胞エピトープ又はT細胞エピトープが除去(即ち突然変異)されており、それにより対象がその抗体又はタンパク質に対して免疫応答を生じる可能性を低減する。
【0155】
抗体可変領域を含む他のタンパク質
本開示は、
(i)抗体のVH又はVLの全て又は一部分を含む単一のポリペプチド鎖である単一ドメイン抗体(例えば、米国特許第6248516号明細書を参照されたい)、
(ii)例えば、米国特許第5844094号明細書及び/又は米国特許出願公開第2008152586号明細書に記載されるとおりのダイアボディ、トリアボディ及びテトラボディ、
(iii)例えば、米国特許第5260203号明細書に記載されるとおりのscFv、
(iv)例えば、米国特許第5837821号明細書に記載されるとおりのミニボディ、
(v)米国特許第5731168号明細書に記載されるとおりの「鍵及び鍵穴」型二重特異性タンパク質、
(vi)例えば、米国特許第4676980号明細書に記載されるとおりのヘテロコンジュゲートタンパク質、
(vii)例えば、米国特許第4676980号明細書に記載されるとおりの、化学的架橋剤を使用して作製されるヘテロコンジュゲートタンパク質、
(viii)例えば、Shalaby et al,J.Exp.Med.,175:217-225,1992に記載されるとおりのFab’-SH断片、又は
(ix)Fab3(例えば、欧州特許第19930302894号明細書に記載されるとおり)
など、抗体の可変領域又は抗原結合ドメインを含む他のタンパク質も企図する。
【0156】
定常ドメイン融合物
本開示は、抗体の可変領域と、定常領域又はFc又はそのドメイン、例えばCH2及び/又はCH3ドメインとを含むタンパク質を包含する。好適な定常領域及び/又はドメインは、当業者に明らかであり、及び/又はかかるポリペプチドの配列は、公的に利用可能なデータベースから容易に入手し得る。Kabat et alも一部の好適な定常領域/ドメインについて説明を提供している。
【0157】
定常領域及び/又はそのドメインは、二量化、例えばFcRn(新生児Fc受容体)への結合による血清半減期の延長、抗原依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC、抗原依存性細胞食作用(ADCP)など、生物学的活性を提供するのに有用である。
【0158】
本開示は、例えば、米国特許第7217797号明細書、米国特許第7217798号明細書、又は米国特許出願公開第20090041770号明細書(半減期を増加させる)、又は米国特許出願公開第2005037000号明細書(ADCCの増加)に記載されるとおりの突然変異定常領域又はドメインを含むタンパク質も企図する。
【0159】
安定化タンパク質
本開示の中和タンパク質は、IgG4定常領域又は安定化IgG4定常領域を含み得る。用語「安定化IgG4定常領域」は、Fabアーム交換若しくはFabアーム交換を起こす傾向又は半抗体の形成若しくは半抗体を形成する傾向を低減するように修飾されたIgG4定常領域を意味するものと理解されるであろう。「Fabアーム交換」は、ヒトIgG4のタンパク質修飾の一種を指し、ここで、IgG4重鎖及び付加軽鎖(半分子)は、別のIgG4分子の重鎖-軽鎖対にスワップされる。従って、IgG4分子は、2つの異なる抗原を認識する2つの異なるFabアームを獲得し得る(二重特異性分子になる)。Fabアーム交換は、インビボで自然に起こり、及びインビトロでは精製血球細胞又は還元型グルタチオンなどの還元剤によって誘導することができる。IgG4抗体が解離して、単一の重鎖と単一の軽鎖とをそれぞれ含有する2つの分子が形成されると、「半抗体」が形成される。
【0160】
一例において、安定化IgG4定常領域は、Kabat方式(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services,1987 and/or 1991)によるヒンジ領域の241位にプロリンを含む。この位置は、EU付番方式(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services,2001及びEdelman et al.,Proc.Natl.Acad.USA,63,78-85,1969)によるヒンジ領域の228位に対応する。ヒトIgG4では、この残基は、概して、セリンである。セリンからプロリンへの置換後、IgG4ヒンジ領域は、配列CPPCを含む。この点に関して、当業者は、「ヒンジ領域」が、Fc及びFab領域を連結して抗体の2つのFabアームに可動性を付与する抗体重鎖定常領域のプロリンリッチな部分であることを認識しているであろう。ヒンジ領域は、重鎖間ジスルフィド結合に関与するシステイン残基を含む。それは、概して、Kabat付番方式によるヒトIgG1のGlu226~Pro243にわたる一続きとして定義される。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、重鎖間ジスルフィド(S-S)結合を形成する最初及び最後のシステイン残基を同じ位置に置くことによりIgG1配列とアライメントし得る(例えば、国際公開第2010/080538号パンフレットを参照されたい)。
【0161】
更なるタンパク質ベースのVEGF-Bシグナル伝達阻害薬
VEGF-Bのその受容体との増殖性相互作用を妨害し得る他のタンパク質としては、突然変異VEGF-Bタンパク質が挙げられる。
【0162】
一例において、阻害薬は、VEGF-Bに結合する(且つ例えば実質的にVEGF-Aに結合しない)VEGF-R1の1つ以上のドメインを含む可溶性タンパク質である。一例において、可溶性タンパク質は、IgG1抗体などの抗体の定常領域を更に含む。例えば、可溶性タンパク質は、抗体、例えばIgG1抗体のFc領域、及び任意選択でヒンジ領域を更に含む。
【0163】
一例において、タンパク質阻害薬は、抗体模倣体、例えば抗体と同じように標的タンパク質に結合する可変領域を含むタンパク質足場である。以下では、例示的な抗体模倣体について説明する。
【0164】
免疫グロブリン及び免疫グロブリン断片
本開示の化合物の一例は、T細胞受容体又は重鎖免疫グロブリン(例えば、IgNAR、ラクダ科動物抗体)など、免疫グロブリンの可変領域を含むタンパク質である。
【0165】
重鎖免疫グロブリン
重鎖免疫グロブリンは、それが重鎖を含むが軽鎖を含まない限りにおいて、他の多くの形態の免疫グロブリン(例えば、抗体)と構造的に異なる。従って、これらの免疫グロブリンは、「重鎖単独抗体」とも称される。重鎖免疫グロブリンは、例えば、ラクダ科動物及び軟骨魚類(IgNARとも称される)に見られる。
【0166】
天然に存在する重鎖免疫グロブリン内にある可変領域は、概して、ラクダ科動物Igでは「VHHドメイン」及びIgNARではV-NARと称され、従来の4本鎖抗体内にある重鎖可変領域(「VHドメイン」と称される)及び従来の4本鎖抗体内にある軽鎖可変領域(「VLドメイン」と称される)と区別されている。
【0167】
重鎖免疫グロブリンは、軽鎖が存在しなくても高親和性及び高特異性で関連抗原に結合する。これは、発現が容易であり且つ概して安定していて可溶性であるシングルドメイン結合断片が重鎖免疫グロブリンに由来し得ることを意味する。
【0168】
ラクダ科動物の重鎖免疫グロブリン及びその可変領域並びにその作製、及び/又は単離、及び/又は使用方法の概要については、特に以下の文献、国際公開第94/04678号パンフレット、国際公開第97/49805号パンフレット及び国際公開第97/49805号パンフレットが参照される。
【0169】
軟骨魚類の重鎖免疫グロブリン及びその可変領域並びにその作製、及び/又は単離、及び/又は使用方法の概要については、特に国際公開第2005/118629号パンフレットが参照される。
【0170】
V様タンパク質
本開示の化合物の一例は、T細胞受容体である。T細胞受容体は、抗体のFvモジュールと同様の構造に組み合わさる2つのVドメインを有する。Novotny et al.,Proc Natl Acad Sci USA 88:8646-8650,1991は、T細胞受容体の2つのVドメイン(α及びβと称される)をどのように融合して一本鎖ポリペプチドとして発現させることができるか、更に抗体scFvと同様に疎水性を直接低減するために表面残基をどのように変え得るかについて説明している。一本鎖T細胞受容体又は2つのV-α及びV-βドメインを含む多量体T細胞受容体の作製について説明する他の刊行物としては、国際公開第1999/045110号パンフレット又は国際公開第2011/107595号パンフレットが挙げられる。
【0171】
抗原結合ドメインを含む他の非抗体タンパク質としては、概して単量体である、V様ドメインを有するタンパク質が挙げられる。かかるV様ドメインを含むタンパク質の例としては、CTLA-4、CD28及びICOSが挙げられる。かかるV様ドメインを含むタンパク質の更なる開示は、国際公開第1999/045110号パンフレットに含まれる。
【0172】
アドネクチン
一例において、本開示の化合物は、アドネクチンである。アドネクチンは、ヒトフィブロネクチンの第10フィブロネクチンIII型(10Fn3)ドメインをベースとし、抗原結合を付与するようにループ領域が改変される。例えば、アドネクチンが抗原を特異的に認識可能となるように10Fn3ドメインのβ-サンドイッチの一端で3つのループを操作することができる。更なる詳細については、米国特許出願公開第20080139791号明細書又は国際公開第2005/056764号パンフレットを参照されたい。
【0173】
アンチカリン
更なる例において、本開示の化合物は、アンチカリンである。アンチカリンは、ステロイド、ビリン、レチノイド及び脂質などの小型の疎水性分子を輸送する細胞外タンパク質のファミリーであるリポカリンに由来する。リポカリンは、円錐構造の開口端において、抗原に結合するように操作し得る複数のループを有する可動性のないβシート二次構造を有する。かかる操作されたリポカリンは、アンチカリンとして知られる。アンチカリンの更なる詳細については、米国特許第7250297B1号明細書又は米国特許出願公開第20070224633号明細書を参照されたい。
【0174】
アフィボディ(Affibody)
更なる例において、本開示の化合物は、アフィボディである。アフィボディは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZドメイン(抗原結合ドメイン)に由来する足場であり、抗原に結合するように操作することができる。Zドメインは、約58アミノ酸の3本ヘリックス束からなる。表面残基のランダム化によりライブラリが作成されている。更なる詳細については、欧州特許第1641818号明細書を参照されたい。
【0175】
アビマー(Avimer)
更なる例において、本開示の化合物は、アビマーである。アビマーは、Aドメインスキャフォールドファミリーに由来するマルチドメインタンパク質である。約35アミノ酸の天然ドメインは、ジスルフィド結合した規定の構造をとる。Aドメインファミリーが呈する天然変異のシャッフリングにより多様性が生じる。更なる詳細については、国際公開第2002088171号パンフレットを参照されたい。
【0176】
DARPin
更なる例において、本開示の化合物は、設計されたアンキリン反復タンパク質(DARPin)である。DARPinは、膜内在性タンパク質の細胞骨格への付着に介在するタンパク質ファミリーであるアンキリンに由来する。単一のアンキリンリピートは、2つのαヘリックスとβターンとからなる33残基のモチーフである。これらは、各リピートの第1のαヘリックス及びβターンにある残基をランダム化することにより、種々の標的抗原に結合するように操作することができる。モジュールの数を増加させることにより、その結合面を増加させることができる(親和性成熟法)。更なる詳細については、米国特許出願公開第20040132028号明細書を参照されたい。
【0177】
タンパク質の作製方法
組換え発現
組換えタンパク質の場合、それをコードする核酸が発現ベクターにクローニングされ得、次に、それは、大腸菌(E.coli)細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳類細胞、例えばサルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞、又は骨髄腫細胞など、本来抗体を産生しない宿主細胞にトランスフェクトされる。本開示のタンパク質の発現に使用される例示的細胞は、CHO細胞、骨髄腫細胞又はHEK細胞である。こうした目標を実現するための分子クローニング技術は、当該技術分野において公知であり、例えばAusubel et al.,(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての改訂を含む)又はSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されている。組換え核酸の構築には、多様なクローニング及びインビトロ増幅方法が好適である。組換え抗体の作製方法も当該技術分野において公知である。米国特許第4816567号明細書又は米国特許第5530101号明細書を参照されたい。
【0178】
単離後、核酸は、更なるクローニング(DNAの増幅)のため、又は無細胞系若しくは細胞における発現のため、発現コンストラクト又は発現ベクターにおいてプロモーターに作動可能に連結されて挿入される。
【0179】
本明細書で使用されるとき、用語「プロモーター」は、その最も広義の文脈で解釈されるべきであり、核酸の発現を例えば発生刺激及び/又は外部刺激に応答して改変するか又は組織特異的に改変する追加的な調節エレメント(例えば、上流活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサー及びサイレンサー)を伴うことも又は伴わないこともある、TATAボックス又はイニシエーターエレメントを含めた、正確な転写開始に必要なゲノム遺伝子の転写調節配列を含む。これに関連して、用語「プロモーター」は、それが作動可能に連結されている核酸の発現を付与し、活性化し、又は亢進させる組換え、合成若しくは融合核酸、又は誘導体を記載するためにも使用される。例示的プロモーターは、更に発現を亢進させ、且つ/又は前記核酸の空間的発現及び/若しくは時間的発現を改変する1つ以上の特異的調節エレメントの更なるコピーを含有し得る。
【0180】
本明細書で使用されるとき、用語「作動可能に連結された」は、核酸の発現がプロモーターによって制御されるようにプロモーターが核酸に対して配置されることを意味する。
【0181】
細胞での発現のために多くのベクターが利用可能である。概して、ベクター成分としては、限定はされないが、以下:シグナル配列、抗体をコードする配列(例えば、本明細書に提供される情報から得られる)、エンハンサーエレメント、プロモーター及び転写終結配列の1つ以上が挙げられる。当業者は、抗体の発現に好適な配列を認識しているであろう。例示的シグナル配列としては、原核生物分泌シグナル(例えば、pelB、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp又は耐熱性エンテロトキシンII)、酵母分泌シグナル(例えば、インベルターゼリーダー、α因子リーダー又は酸性ホスファターゼリーダー)又は哺乳類分泌シグナル(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)が挙げられる。
【0182】
哺乳類細胞において活性な例示的プロモーターとしては、サイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMV-IE)、ヒト伸長因子1-αプロモーター(EF1)、核内低分子RNAプロモーター(U1a及びU1b)、α-ミオシン重鎖プロモーター、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、β-アクチンプロモーター、CMVエンハンサー/β-アクチンプロモーターを含むハイブリッド調節エレメント若しくは免疫グロブリンプロモーター又はこれらの活性断片が挙げられる。有用な哺乳類宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651)、ヒト胎児腎臓株(293細胞又は浮遊培養で成長するようにサブクローニングされた293細胞、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10)又はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)である。
【0183】
例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びS.ポンベ(S.pombe)を含む群から選択される酵母細胞など、酵母細胞での発現に好適な典型的なプロモーターとしては、限定はされないが、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、GAL4プロモーター、CUP1プロモーター、PHO5プロモーター、nmtプロモーター、RPR1プロモーター又はTEF1プロモーターが挙げられる。
【0184】
単離核酸又はそれを含む発現コンストラクトを発現のために細胞に導入する手段は、当業者に公知である。所与の細胞に用いられる技法は、公知の成功している技法に依存する。組換えDNAを細胞に導入する手段としては、数ある中でも特に、マイクロインジェクション、DEAE-デキストランによって媒介されるトランスフェクション、リポフェクタミン(Gibco、MD、USA)及び/又はセルフェクチン(Gibco、MD、USA)の使用によるなど、リポソームによって媒介されるトランスフェクション、PEG媒介DNA取込み、DNAコートしたタングステン又は金粒子(Agracetus Inc.、WI、USA)の使用によるなど、電気穿孔及び微粒子ボンバードメントが挙げられる。
【0185】
抗体の作製に使用される宿主細胞は、使用する細胞型に応じて種々の培地で培養し得る。哺乳類細胞の培養には、Ham’s Fl0(Sigma)、最小必須培地((MEM)、(Sigma)、RPMl-1640(Sigma)及びダルベッコ変法イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市販の培地が好適である。本明細書で考察される他の細胞型の培養用培地は、当該技術分野において公知である。
【0186】
タンパク質精製
作製/発現後、本開示のタンパク質は、当該技術分野において公知の方法を用いて精製される。かかる精製により、本開示のタンパク質は、非特異的タンパク質、酸、脂質、炭水化物などを実質的に含まないものとなる。一例において、タンパク質は、製剤中にあり得、ここで、製剤中のタンパク質の約90%超(例えば、95%、98%又は99%)は、本開示のタンパク質である。
【0187】
本開示の単離タンパク質を得るには、限定はされないが、様々な高圧(又は高性能)液体クロマトグラフィー(HPLC)及び非HPLCポリペプチド単離プロトコル、例えばサイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、相分離法、電気泳動分離、沈殿法、塩溶/塩析法、イムノクロマトグラフィー及び/又は他の方法を含めた標準的なペプチド精製方法が利用される。
【0188】
一例において、標識を含む融合タンパク質の単離には、アフィニティー精製が有用である。アフィニティークロマトグラフィーを用いたタンパク質の単離方法は、当該技術分野において公知であり、例えばScopes(Protein purification:principles and practice,Third Edition,Springer Verlag,1994)に記載されている。例えば、標識に結合する抗体又は化合物(ポリヒスチジンタグの場合、これは、例えば、ニッケル-NTAであり得る)を固体支持体に固定化する。次に、結合が起こるのに十分な時間及び条件下において、タンパク質を含む試料を固定化された抗体又は化合物に接触させる。任意の未結合の又は非特異的に結合したタンパク質を洗浄によって除去した後、タンパク質を溶出させる。
【0189】
抗体のFc領域を含むタンパク質の場合、アフィニティー精製にプロテインA若しくはプロテインG又はこれらの修飾形態を使用することができる。プロテインAは、ヒトγ1、γ2又はγ4重鎖Fc領域を含む精製タンパク質の単離に有用である。プロテインGは、全てのマウスFcアイソタイプ及びヒトγ3に推奨される。
【0190】
核酸ベースのVEGF-Bシグナル伝達阻害薬
本開示の一例において、本開示の任意の例に係る本明細書に記載されるとおりの治療及び/又は予防方法は、VEGF-Bの発現を低減することを含む。例えば、かかる方法は、核酸の転写及び/又は翻訳を低減する化合物を投与することを含む。一例において、化合物は、核酸、例えばアンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、PNA、干渉RNA、siRNA、マイクロRNAである。
【0191】
アンチセンス核酸
用語「アンチセンス核酸」は、本明細書において本開示の任意の例に記載されるとおりのポリペプチドをコードする特定のmRNA分子の少なくとも一部分に相補的であり、且つmRNA翻訳などの転写後イベントに干渉する能力を有するDNA若しくはRNA又はその誘導体(例えば、LNA又はPNA)或いはこれらの組み合わせを意味すると解釈されるものとする。アンチセンス方法の使用は、当該技術分野において公知である(例えば、Hartmann and Endres(editors),Manual of Antisense Methodology,Kluwer(1999)を参照されたい)。
【0192】
本開示のアンチセンス核酸は、生理条件下で標的核酸にハイブリダイズすることになる。アンチセンス核酸は、構造遺伝子若しくはコード領域に対応するか、又は遺伝子発現若しくはスプライシングの制御をもたらす配列に対応する配列を含む。例えば、アンチセンス核酸は、VEGF-Bをコードする核酸の標的コード領域、又は5’-非翻訳領域(UTR)若しくは3’-UTR、或いはこれらの組み合わせに対応し得る。これは、部分的にイントロン配列(転写中又は転写後にスプライスアウトされ得る)に相補的であり得、例えば標的遺伝子のエクソン配列のみに相補的であり得る。アンチセンス配列の長さは、VEGF-Bをコードする核酸の少なくとも19連続ヌクレオチド、例えば少なくとも50ヌクレオチド、例えば少なくとも100、200、500又は1000ヌクレオチドでなければならない。遺伝子転写物全体に相補的な完全長配列が使用され得る。その長さは、100~2000ヌクレオチドであり得る。アンチセンス配列と標的転写物との同一性の程度は、少なくとも90%、例えば95~100%でなければならない。
【0193】
VEGF-Bに対する例示的アンチセンス核酸については、例えば、国際公開第2003/105754号パンフレットに記載されている。
【0194】
触媒核酸
用語「触媒核酸」は、個別的な基質を特異的に認識して、その基質の化学修飾を触媒するDNA分子若しくはDNA含有分子(当該技術分野において「デオキシリボザイム」若しくは「DNAザイム」としても知られる)又はRNA若しくはRNA含有分子(「リボザイム」若しくは「RNAザイム」としても知られる)を指す。触媒核酸中の核酸塩基は、塩基A、C、G、T(及びRNAについてU)であり得る。
【0195】
典型的には、触媒核酸は、標的核酸を特異的に認識するためのアンチセンス配列及び核酸切断酵素活性(本明細書では「触媒ドメイン」とも称される)を含む。本開示において有用なリボザイムの種類は、ハンマーヘッド型リボザイム及びヘアピン型リボザイムである。
【0196】
RNA干渉
RNA干渉(RNAi)は、特定のタンパク質の産生を特異的に阻害するのに有用である。理論によって制限されることなしに、この技術は、目的の遺伝子のmRNA又はその一部、この場合にはVEGF-BをコードするmRNAと本質的に同一の配列を含むdsRNA分子の存在に依存する。好都合には、dsRNAは、組換えベクター宿主細胞において単一のプロモーターから作製することができ、ここで、センス及びアンチセンス配列には無関係の配列が隣接しているため、センス及びアンチセンス配列がハイブリダイズすると、無関係の配列がループ構造を形成したdsRNA分子を形成することが可能である。本開示に好適なdsRNA分子の設計及び作製は、特に国際公開第99/32619号パンフレット、国際公開第99/53050号パンフレット、国際公開第99/49029号パンフレット及び国際公開第01/34815号パンフレットを考慮して十分に当業者の能力の範囲内にある。
【0197】
ハイブリダイズするセンス及びアンチセンス配列の長さは、それぞれ少なくとも19連続ヌクレオチド、例えば少なくとも30又は50ヌクレオチド、例えば少なくとも100、200、500又は1000ヌクレオチドでなければならない。遺伝子転写物全体に対応する完全長配列が使用され得る。長さは、100~2000ヌクレオチドであり得る。センス及びアンチセンス配列と標的転写物との同一性の程度は、少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば95~100%でなければならない。
【0198】
例示的な低分子干渉RNA(「siRNA」)分子は、標的mRNAの約19~21連続ヌクレオチドと同一のヌクレオチド配列を含む。例えば、siRNA配列は、ジヌクレオチドAAから始まり、約30~70%(例えば、30~60%、例えば40~60%、例えば約45%~55%)のGC含量を含み、例えば標準的なBLAST検索によって決定するとき、それを導入しようとする哺乳類のゲノム中にある標的以外のいかなるヌクレオチド配列とも高いパーセンテージ同一性を有しない。VEGF-Bの発現を低減する例示的siRNAは、Santa Cruz Biotechnology又はNovus Biologicalsから市販されている。
【0199】
VEGF-Bの発現を低減する低分子ヘアピンRNA(shRNA)も当該技術分野において公知であり、Santa Cruz Biotechnologyから市販されている。
【0200】
スクリーニングアッセイ
VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物は、例えば、以下に記載するとおりの、当該技術分野において公知の技法を用いて同定することができる。同様に、本明細書に記載される方法における使用に好適なVEGF-Bシグナル伝達阻害薬の量も、例えば以下に記載するとおりの、当該技術分野において公知の技法を用いて決定又は推定することができる。
【0201】
中和アッセイ
VEGF-Bに結合してシグナル伝達を阻害する化合物について、中和アッセイを用いることができる。
【0202】
一例において、中和アッセイは、検出可能に標識された可溶性VEGF-R1の存在下又は非存在下でVEGF-Bを化合物に接触させること、又はVEGF-R1を発現する細胞又は可溶性VEGF-R1の存在下又は非存在下で検出可能に標識されたVEGF-Bを化合物に接触させることを含む。次に、VEGF-R1に結合したVEGF-Bのレベルを評価する。化合物の非存在下と比較した化合物の存在下における結合したVEGF-Bのレベルの低減は、その化合物がVEGF-R1へのVEGF-B結合及び結果としてVEGF-Bシグナル伝達を阻害することを示す。
【0203】
別の中和アッセイが国際公開第2006/012688号パンフレットに記載され、これは、固体支持体に固定化した第2のIg様ドメインを含むVEGF-R1の断片を、化合物とプレインキュベートした準飽和濃度の組換えVEGF-Bと接触させることを含む。洗浄して未結合のタンパク質を除去した後、固定化したタンパク質を抗VEGF-B抗体に接触させて、結合した抗体の量(固定化したVEGF-Bの指標となる)を決定する。化合物の非存在下におけるレベルと比較して結合抗体のレベルを低減する化合物は、VEGF-Bシグナル伝達の阻害薬と見なされる。
【0204】
別の例において、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物は、増殖がVEGF-Bシグナル伝達に依存する細胞、例えばヒトエリスロポエチン受容体の細胞内ドメインとVEGF-R1の細胞外ドメインとを取り込むキメラ受容体を発現するように国際公開第2006/012688号パンフレットに記載されるとおり修飾されたBaF3細胞を用いて同定される。細胞は、VEGF-Bの存在下及び化合物の存在下又は非存在下で培養される。次に、細胞増殖は、標準方法、例えばコロニー形成アッセイ、チミジン取込み又は別の好適な細胞増殖マーカーの取込み(例えば、MTS色素還元アッセイ)を用いて評価される。VEGF-Bの存在下で増殖レベルを低減する化合物は、VEGF-Bシグナル伝達の阻害薬と見なされる。
【0205】
化合物は、VEGF-Bに結合するその能力に関して標準方法を用いて評価することもできる。タンパク質への結合の評価方法は、例えば、Scopes(Protein purification:principles and practice,Third Edition,Springer Verlag,1994)に記載されるとおり、当該技術分野において公知である。かかる方法は、概して、化合物を標識すること及び固定化したVEGF-Bにそれを接触させることを含む。洗浄によって非特異的に結合した化合物を除去した後、標識の量及び結果として結合した化合物の量を検出する。当然ながら、化合物が固定化され、及びVEGF-Bが標識され得る。パニング型のアッセイも用い得る。代わりに又は加えて、表面プラズモン共鳴アッセイを用いることもできる。
【0206】
発現アッセイ
VEGF-Bの発現を低減又は防止する化合物は、細胞を化合物に接触させて、VEGF-Bの発現レベルを決定することにより同定される。遺伝子発現を核酸レベルで決定するのに好適な方法は、当該技術分野において公知であり、例えば定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)又はマイクロアレイアッセイが挙げられる。発現をタンパク質レベルで決定するのに好適な方法も当該技術分野において公知であり、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、蛍光結合免疫吸着アッセイ(FLISA)、免疫蛍光法又はウエスタンブロッティングが挙げられる。
【0207】
インビボアッセイ
本明細書に記載される化合物は、NAFLDの動物モデルで試験することができる。
【0208】
例えば、高脂肪食を与えたマウス(例えば、C57/BL6マウス)は、肥満、耐糖能異常、インスリン抵抗性、脂質異常症並びに脂質生成調節因子及び炎症誘発性サイトカインの発現の増加を伴うヒトNASHに見られるのと同様の代謝的特徴を示す。
【0209】
別の例において、コリン欠乏高脂肪食を与えたマウス(例えば、C57/BL6マウス)は、肥満、耐糖能異常、インスリン抵抗性、免疫細胞浸潤及び衛星病変を含め、ヒトNASHと同様の特徴を示す。これらのマウスはまた、続けて線維化及び肝硬変を発症し、長期的には肝細胞癌になる。
【0210】
別の好適なマウスモデルは、高脂肪及び高フルクトースレベルを含む「西洋食」をマウスに与えることにより誘発される。これらのマウスは、肥満、インスリン抵抗性、脂質異常症、高血糖症及びNAFLDを呈する。
【0211】
他の好適な食事に基づくモデルには、低メチオニン食を与えたマウスが含まれる。
【0212】
また、ステロール調節エレメント結合タンパク質(SREBP)-1c-トランスジェニックマウス及び10番染色体上で欠失したホスファターゼ・テンシンホモログ(PTEN)ヌルマウスなど、NAFLD/NASHの遺伝モデルも多数ある。これらのモデルでは、初めに肝脂肪症が起こり、続いて脂肪性肝炎が発症する。
【0213】
医薬組成物及び治療方法
VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物(同義語、活性成分)は、非経口、局所、経口又は局所投与、エアロゾル投与又は経皮投与、予防的又は治療的処置に有用である。一例において、化合物は、非経口的に、例えば皮下又は静脈内に投与される。
【0214】
投与する化合物の製剤は、投与経路及び選択の製剤(例えば、溶液、エマルション、カプセル)に従って異なることになる。投与する化合物を含む適切な医薬組成物は、生理学的に許容可能な担体中に調製することができる。溶液又はエマルションについて、好適な担体としては、例えば、水性又はアルコール性/水性溶液、エマルション又は懸濁液、例えば生理食塩水及び緩衝媒体が挙げられる。非経口媒体としては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液又は固定油を挙げることができる。種々の適切な水性担体が、水、緩衝用水、緩衝生理食塩水、ポリオール類(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)、デキストロース溶液及びグリシンを含め、当業者に公知である。静脈内媒体としては、様々な添加剤、保存剤又は体液、栄養素若しくは電解質補充液を挙げることができる(概して、Remington’s Pharmaceutical Science,16th Edition,Mack,Ed.1980を参照されたい)。組成物は、任意選択で、pH調整剤及び緩衝剤及び毒性調整剤、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び乳酸ナトリウムなど、生理条件を近似するため必要に応じて薬学的に許容可能な補助物質を含有し得る。化合物は、当該技術分野において公知の凍結乾燥及び再構成技法に従って貯蔵のため凍結乾燥して、使用前に好適な担体で再構成し得る。
【0215】
選択の媒体中における活性成分の最適濃度は、当業者に公知の手順に従って実験的に決定することができ、所望の最終的な医薬製剤に依存することになる。
【0216】
本開示の化合物の投与に関する投薬量範囲は、所望の効果を生じさせるのに十分に大きいものである。例えば、組成物は、治療又は予防有効量の化合物を含む。
【0217】
本明細書で使用されるとき、用語「有効量」は、対象のVEGF-Bのシグナル伝達を阻害/低減/防止するのに十分な分量の化合物を意味すると解釈されるものとする。当業者は、かかる量が、例えば、化合物、及び/又は特定の対象、及び/又は治療下のNAFLDのタイプ、及び/又は重症度に応じて異なり得ることを認識するであろう。従って、この用語は、本開示を具体的な分量、例えば化合物の重量又は個数に限定するものと解釈されてはならない。
【0218】
本明細書で使用されるとき、用語「治療有効量」は、NAFLD又はその合併症の1つ以上の症状を低減又は阻害するのに十分な分量の化合物を意味すると解釈されるものとする。
【0219】
本明細書で使用されるとき、用語「予防有効量」は、NAFLD又はその合併症の1つ以上の検出可能な症状の発生を予防するか、又は阻害するか、又は遅延させるのに十分な分量の化合物を意味すると解釈されるものとする。
【0220】
一例において、化合物は、以下の効果:
・例えば、肝生検で評価されるとおりの、対象の肝臓への脂質蓄積、例えば中性脂質を低減又は予防すること、
・例えば、対象の肝臓内の免疫細胞数を低減することにより、対象の肝臓における炎症を低減又は予防すること、
・対象の肝臓におけるマロリー・デンク体、又は肝細胞風船化、又は炎症性病巣、又は衛星病変などのNAFLDの病理学的変化の発生を低減又は予防すること、
・肝線維化及び/又は肝硬変を低減又は予防すること、
・肝細胞癌の形成を低減又は予防すること
の1つ以上を有するのに有効な量で投与される。
【0221】
一例において、化合物は、NAFLDに罹患していない対象集団で見られるレベルまで対象の肝臓における脂質蓄積レベルを低減するのに十分な量で投与される。
【0222】
投薬量は、過粘稠度症候群、肺水腫、うっ血性心不全などの有害な副作用を引き起こすほど多くてはならない。概して、投薬量は患者の年齢、状態、性別及び疾患の程度によって異なることになり、当業者が決定し得る。任意の合併症が生じた場合、個々の医師が投薬量を調整し得る。
【0223】
投薬量は、1日間又は数日間にわたる1日1回以上の用量投与で約0.1mg/kg~約300mg/kg、例えば約0.2mg/kg~約200mg/kg、例えば約0.5mg/kg~約20mg/kgまで様々であり得る。
【0224】
一部の例において、化合物は、後続(維持量)よりも高い初期(又は負荷)量で投与される。例えば、化合物は、約1mg/kg~約30mg/kgの初期量で投与される。次に、化合物は、約0.0001mg/kg~約1mg/kgの維持量で投与される。維持量は、7~35日毎、例えば14又は21又は28日毎に投与され得る。
【0225】
一部の例において、用量漸増療法が用いられ、ここで、化合物は、初めに後続の用量よりも低い用量で投与される。この投薬療法は、当初有害事象を被っている対象の場合に有用である。
【0226】
治療に十分に応答していない対象の場合、週に複数回の用量が投与され得る。代わりに又は加えて、より高い用量が投与され得る。
【0227】
対象は、化合物への少なくとも約2回の曝露、例えば約2~60回の曝露、及びより詳細には約2~40回の曝露、最も詳細には約2~20回の曝露など、2回以上の曝露又は投与セットを行うことにより、化合物で再治療され得る。
【0228】
一例において、疾患の徴候又は症状が戻った場合、例えば微量アルブミン尿が進行した場合、任意の再治療が行われ得る。
【0229】
別の例において、任意の再治療が所定の間隔で行われ得る。例えば、後続の曝露が様々な間隔、例えば約24~28週間、又は48~56週間、又はそれより長い間隔で投与され得る。例えば、かかる曝露は、それぞれ約24~26週間、又は約38~42週間、又は約50~54週間の間隔で投与される。
【0230】
本開示の方法は、糖尿病及び/又は肥満の予防又は治療のための別の治療上有効な薬剤の投与と併せた本開示に係る少なくとも1つの化合物の共投与も含み得る。
【0231】
一例において、本開示の1つ又は複数の化合物は、糖尿病の予防又は治療に現在使用されているか又は開発中である少なくとも1つの追加的な公知の化合物と組み合わせて使用される。かかる公知の化合物の例としては、限定はされないが、一般的な抗糖尿病薬、例えばスルホニル尿素(例えば、グリクラジド、グリピジド)、メトホルミン、グリタゾン(例えば、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン)、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬(例えば、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン)、食事性グルコース遊離剤(例えば、レパグリニド、ナテグリニド)、アカルボース及びインスリン(全ての天然に存在する、合成の及び修飾形態のインスリン、例えばヒト、ウシ又はブタ由来のインスリン、例えばイソフェン又は亜鉛中に懸濁されたインスリン及び誘導体、例えばインスリングルリジン、インスリンリスプロ、インスリンリスプロプロタミン、インスリングラルギン、インスリンデテミル又はインスリンアスパルトを含む)が挙げられる。
【0232】
加えて、本開示の方法は、NAFLDに直接又は間接的に関係する別の疾患の治療のための少なくとも1つの他の治療剤の共投与も含み得る。本発明に係る1つ又は複数の化合物と共投与し得る薬剤の更なる例は、コレステロール及びトリグリセリド類を低減する化合物(例えば、フィブラート系薬(例えば、Gemfibrozil(商標))及びHMG-CoA阻害薬、例えばLovastatin(商標)、Atorvastatin(商標)、Fluvastatin(商標)、Lescol(商標))、Lipitor(商標)、Mevacor(商標))、Pravachol(商標)、Pravastatin(商標)、Simvastatin(商標)、Zocor(商標)、Cerivastatin(商標))等)、脂質の腸管吸収を阻害する化合物(例えば、エゼチミブ)、ニコチン酸、ファルネソイドX受容体作動薬(例えば、オベチコール酸、6α-エチルケノデオキシコール酸(6-ECDCA))及びビタミンDである。
【0233】
前述から明らかなとおり、本開示は、有効量の第1の化合物及び第2の化合物を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象の併用療法治療方法を提供し、ここで、前記化合物は、本開示の化合物(即ちVEGF-Bシグナル伝達の阻害薬)であり、及び第2の化合物は、糖尿病又は肥満の予防又は治療用である。
【0234】
本明細書で使用されるとき、語句「併用療法治療」にあるような用語「併用」は、第1の化合物を第2の化合物の存在下で投与することを含む。併用療法治療方法には、第1、第2、第3又は追加の化合物が共投与される方法が含まれる。併用療法治療方法には、第1又は追加の化合物が第2又は追加の化合物の存在下で投与される方法も含まれ、ここで、第2又は追加の化合物は、例えば、予め投与され得る。併用療法治療方法は、異なる行為者によって段階的に実行され得る。例えば、1人の行為者が対象に第1の化合物を投与し得、且つ第2の行為者がその対象に第2の化合物を投与し得、これらの投与ステップは、第1の化合物(及び/又は追加の化合物)が第2の化合物(及び/又は追加の化合物)の存在下における投与後である限り、同じ時点で、又はほぼ同じ時点で、又は隔たった時点で実行され得る。行為者及び対象は、同じ実体(例えば、ヒト)であり得る。
【0235】
一例において、本開示は、対象のNAFLDを治療又は予防する方法も提供し、この方法は、本開示の少なくとも1つの化合物を含む第1の医薬組成物及び1つ以上の追加の化合物を含む第2の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0236】
一例において、本開示の方法は、NAFLDに罹患しており、且つ別の治療(例えば、糖尿病に対する治療)を受けている対象にVEGF-Bシグナル伝達の阻害薬を投与することを含む。
【0237】
キット
本開示の別の例は、上記に記載したとおりのNAFLDの治療に有用な化合物を含むキットを提供する。
【0238】
一例において、キットは、(a)任意選択で薬学的に許容可能な担体又は希釈剤中にある、本明細書に記載されるとおりのVEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物を含む容器、及び(b)対象のNAFLD又はその合併症の治療に関する説明を含む添付文書を含む。
【0239】
本開示のこの例において、添付文書は、容器上にあるか、又は容器に付属している。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ等が挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなど、種々の材料で形成され得る。容器は、NAFLDの治療に有効な組成物を保持又は収容し、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針で穿通可能な栓を有する静注バッグ又はバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1つの活性薬剤は、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物である。ラベル又は添付文書は、提供されている化合物及び任意の他の医薬の投与量及び投与間隔に関する具体的な手引きと共に、その組成物が治療に適格な対象、例えばNAFLDを有するか又はそれに罹り易い対象の治療に使用されることを指示する。キットは、薬学的に許容可能な希釈緩衝液、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル溶液及び/又はデキストロース溶液が入った追加の容器を更に含み得る。キットは、他の緩衝液、希釈剤、フィルタ、針及びシリンジを含め、商業的観点及び使用者の観点から望ましい他の材料を更に含み得る。
【0240】
キットは、第2の医薬を含む容器を任意選択で更に含み得、ここで、VEGF-Bシグナル伝達を阻害する化合物は、第1の医薬であり、及びこの物品は、第2の医薬による有効量での対象の治療に関する添付文書上の説明を更に含む。第2の医薬は、上記に示したもののいずれでもあり得る。
【0241】
本開示は、以下の非限定的な例を含む。
【実施例
【0242】
実施例1:VEGF-B欠損マウスは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症に抵抗性である
VEGF-B欠損糖尿病マウスは、肝損傷から保護される
5週齢C57BL/6野生型(WT)及びC57BL/6-Vegfb-/-マウスに高脂肪食(脂肪由来カロリー60%)を30週間与えた。年齢及び性別対応C57BL/6 WTマウスに低脂肪対照食(通常の固形飼料、脂肪由来カロリー10%)を30週間与えた。隔週で1日のうちの同じ時点において、血糖値を安定化させる手段として2時間絶食させた後、血中グルコースを計測した。尾の先端を切断して、グルコースメーターで一滴の血液を計測した。終了時点で血清アミノトランスフェラーゼ(ALAT)値を計測した。
【0243】
図1A及び図1Bは、高脂肪食(HFD)給餌マウスが年齢対応固形飼料給餌マウスと比較して血糖値及び体重の上昇を呈したことを示す(それぞれ図1A及び図1B)。
【0244】
図1Cは、HFD給餌マウスでは血清ALAT値が15倍増加したが、年齢対応HFD給餌WTマウスと比較して、HFD給餌VEGF-B欠損マウスでは血清ALAT値が減少したことを示す。
【0245】
これらのデータは、HFD給餌マウスにおいてVegfbを除去すると、高血糖症が標的となることなく肝損傷が減少することを実証している。
【0246】
Vegfbの欠失は、HFD給餌マウスの肝脂質蓄積を低減する
HFD給餌WT、HFD給餌Vegfb-/-及び固形飼料給餌WTマウスから摘出した肝臓に対してオイルレッドO(ORO)分析を実施した。簡潔に言えば、肝臓を解剖してドライアイスで急速凍結し、Tissue-Tek(登録商標)(Sakura)でクライオスタットのモールド上に直接包埋した。低温切片(12μm)をOROワーキング溶液(2.5gオイルレッドO(Sigma-Aldrich)、400ml 99%イソプロパノール中に溶解し、更にH2Oで6:10希釈し、22μmフィルタ(Corning)でろ過した)に5分間浸漬し、ヘマトキシリン溶液中に3秒間沈め、続いてLiCO3中に短時間沈め、水道水の流水下で10分間リンスした後、それらをマウントした。各切片内におけるORO及びヘマトキシリン染色した、1動物につき少なくとも10フレームを明視野顕微鏡法(Axio Vision顕微鏡、Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓ORO染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いて脂肪滴量を定量化した。
【0247】
摘出した肝臓において脂肪酸シンターゼ(Fasn)の発現レベルを検出した。RNeasy Miniキット(Qiagen)を製造者の指示に従って使用して肝臓から全RNAを抽出して精製した。iScript cDNA合成キット(Bio-Rad)を使用して0.5~1μg全RNAから第1鎖cDNAを合成した。Rotor-Gene Q(Qiagen)リアルタイムPCRサーマルサイクラーにおいてKAPA SYBR FAST qPCRキットマスターミックス(2×)Universal(KAPA Biosystems)を製造者の指示に従って使用してリアルタイム定量PCRを実施した。発現レベルは、L19及びβ2ミクログロブリンの発現に対して正規化した。
【0248】
VEGF-Bの発現が低減したHFD給餌マウスでは肝脂肪滴蓄積及び構造が改善した。詳細には、Vegfb欠損HFD給餌マウスの肝切片では、WT HFD給餌マウスと比較して脂肪滴の数及びサイズが減少した。
【0249】
図2は、HFD給餌マウスにおいてVEGF-Bレベルが低減すると、肝中性脂質含量が減少することを示している。
【0250】
HFD給餌マウスにおけるVegfbの欠失は、肝脂肪症の発症を予防する
分析にHFD給餌WT、HFD給餌Vegfb-/-及び固形飼料給餌WTマウスを使用した。肝臓を解剖し、4%PFAで24時間固定し、続いて標準的手順を用いてパラフィン包埋処理を行い、6μm切片を調製した。簡潔に言えば、抗原回復溶液pH6(Dako #S2367)を使用して抗原回復を実施し、98℃で10分間加熱した。切片を一次抗体:モルモット抗アディポフィリン(Fitzgerald)又はモルモット抗tip47(Progen)抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。適切な蛍光標識二次抗体(Invitrogen、Alexa Fluor)を加える前に、試料をビオチン化ロバ抗モルモット抗体(Jackson)と共に室温で1時間インキュベートした。各切片内におけるアディポフィリン又はtip47染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓のi)アディポフィリン染色(ピクセル2/μm2)又はii)tip47染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いてそれぞれの染色量を定量化した。
【0251】
固形飼料給餌WT、HFD給餌WT及びHFD給餌Vegfb-/-マウスにおけるアディポフィリン(plin2a)の発現も上記に記載される方法を用いて決定した。
【0252】
図3は、PATタンパク質、アディポフィリン(A、C)及びマンノース-6-リン酸受容体結合タンパク質1(tip47;B)の発現によって計測したとき、HFD給餌Vegfb-/-マウスの肝脂質含量がHFD給餌WTマウスと比較して5~10倍低減することを示す。VEGF-B発現が減少すると肝臓の形態が維持され、HFD給餌Vegfb-/-マウスではHFD給餌WTマウスと比較して脂肪滴が小さくなる。これらのデータは、HFD給餌マウスにおいてVEGF-Bレベルを低減すると肝脂肪症の発症が予防されること、及びVEGF-Bシグナル伝達経路が非アルコール性脂肪性肝疾患の治療の好適な標的であることを示している。
【0253】
HFD給餌マウスにおけるVegfbの欠失は、肝炎症の発症を予防する
分析にHFD給餌WT、HFD給餌Vegfb-/-及び通常の固形飼料給餌WTマウスを使用した。肝臓を摘出し、ドライアイスで急速凍結した。肝生検をTissue-Tek(登録商標)(Sakura)でクライオスタットのモールド上に直接包埋した。包埋後、12μm切片を調製し、氷冷4%PFAで後固定し、その後、CD45又はF4/80に関して免疫染色した。簡潔に言えば、切片を一次ラット抗CD45(BD bioscience)及びラット抗F4/80(Serotec)抗体と共に4℃で12時間インキュベートした。適切な蛍光標識二次抗体(Invitrogen、Alexa fluor)を加え、切片を室温で1時間更にインキュベートした後、それらを顕微鏡法のために調製した。各切片内におけるCD45又はF4/80染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓のi)CD45染色(ピクセル2/μm2)又はii)F4/80染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いて各染色量を定量化した。
【0254】
固形飼料給餌WT、HFD給餌WT及びHFD給餌Vegfb-/-マウスにおける単球走化性タンパク質1(mcp1)の発現も上記に記載される方法を用いて決定した。
【0255】
図4に示すとおり、脂肪肝における炎症細胞集団は、HFD給餌によって2~3倍増加した(図4A及び図4B)。HFD給餌マウスでは、肝炎症の増加がmcp1の上方制御によって確認された(図4C)。VEGF-Bの発現が低減したHFD給餌マウスでは肝脂肪症及び炎症細胞数の両方が減少した(図4A図4C)。
【0256】
HFD給餌マウスにおけるVegfbの欠失は、NASH及びNASH関連病変を低減する
分析にHFD給餌WT、HFD給餌Vegfb-/-及び固形飼料給餌WTマウスを使用した。肝臓を解剖し、4%PFAで24時間後固定し、続いて標準的手順を用いてパラフィン包埋処理を行った。包埋後、6μm切片を調製し、製造者の指示に従ってヘマトキシリン-エオシン(H&E)(Sigma)で染色した。各切片内におけるH&E染色した1動物当たり少なくとも20フレームを明視野顕微鏡法(Axio Vision顕微鏡、Carl Zeiss)により40倍の倍率で撮影し、H&E染色切片の風船化肝細胞、MDB形成、炎症性病巣及び衛星病変の存在に関して分析した。スコアリングは、H&E染色切片の各フレームにおける風船細胞、MDB形成/炎症性病巣又は衛星病変の数に基づいた。各動物について、H&E染色肝切片に同定された全ての風船化肝細胞、MDB、炎症性病巣及び衛星病変の平均を計算した。NASH総合スコアを各群内平均の合計として計算した。
【0257】
表1に示されるとおり、HFD給餌マウスの肝臓は、風船化肝細胞及びMDB形成、並びに程度は少ないが免疫細胞浸潤及び衛星病変を呈した。HFD給餌マウスにおけるVEGF-Bレベルの低減により、これらのヒトNASH関連病変の出現が減少した。
【0258】
図5は、HFD給餌マウスにおいてVEGF-Bレベルが低減すると、総合NASHスコアがHFD給餌マウスと比較して50%超低減することを示す。
【0259】
【表1】
【0260】
実施例2:中和抗VEGF-B抗体は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の進行を治療又は予防する
抗体媒介性VEGF-B阻害は、HFD給餌マウスの肝機能に中程度の影響を与える
5週齢C57BL/6野生型(WT)に高脂肪食(脂肪由来カロリー60%)を30週間与えた。年齢及び性別対応C57BL/6 WTマウスに低脂肪対照食(通常の固形飼料、脂肪由来カロリー10%)を30週間与えた。11週目に抗体処置を開始し、マウスに400μg 2H10(中和抗VEGF-B抗体)又はアイソタイプ対応対照抗体を週2回、20週間にわたって腹腔内注射した。隔週でマウスの食後血糖値を2時間の絶食後にモニタした。尾静脈から採取した血液でBayer Contourグルコースメーターを使用してグルコース測定を実施した。終了時点の血清アミノトランスフェラーゼ(ALAT)値を測定した。
【0261】
図6A及び図6Bは、抗体2H10で治療的に処置したHFD給餌マウスの血糖値及び体重を示す。
【0262】
図6C及び図6Dは、抗体2H10で治療的に処置したHFD給餌マウスの肝重量及び肝重量の対体重比を示す。
【0263】
図6Dは、抗体2H10で治療的に処置したHFD給餌マウスのALAT値の血清分析を示す。
【0264】
これらのデータは、抗VEGF-B抗体処置(2H10)を用いてVEGF-Bレベルを低減することにより、HFD給餌に起因する肝機能の低減を予防し得ることを示唆している。
【0265】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、HFD給餌マウスの肝脂質蓄積を低減する
2H10又はアイソタイプ対応対照抗体で20週間処置した30週齢の固形飼料給餌WT及びHFD給餌マウスから摘出した肝臓に対してオイルレッドO(ORO)分析を実施した。肝臓を採取し、ドライアイスで急速凍結し、Tissue-Tek(登録商標)(Sakura)でクライオスタットのモールド上に直接包埋した。低温切片(12μm)をOROワーキング溶液(2.5g ORO(Sigma-Aldrich)、400ml 99%イソプロパノール中に溶解し、更にH2Oで6:10希釈し、22μmフィルタ(Corning)でろ過した)に5分間浸漬した。その後、切片をヘマトキシリン溶液中に3秒間沈め、続いてLiCO3中に沈め、水道水の流水下で10分間リンスした後、それらをマウントした。染色切片を明視野顕微鏡法で調べた。各切片内におけるORO及びヘマトキシリン染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓ORO染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いて脂肪滴量を定量化した。
【0266】
脂肪酸シンターゼ(fasn)の発現も上記に記載される方法を用いて決定した。
【0267】
図7に示すとおり、抗VEGF-B抗体処置を受けたHFD給餌マウスにおいて、ORO染色量が低減した。これらのデータ及び染色切片の分析は、抗VEGF-B抗体で処置したHFD給餌マウスにおいて脂肪滴の数及びサイズの両方が減少したこと、及びHFD給餌マウスにおける2H10の投与が肝中性脂質蓄積から保護することを示している。
【0268】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、肝脂肪症の発症を予防する
2H10又はアイソタイプ対応対照抗体で20週間処置した30週齢のHFD給餌マウスから肝臓を採取し、4%PFAで24時間固定し、包埋して、免疫染色のために6μm切片を調製した。手短に言えば、抗原回復溶液pH6(Dako #S2367)を使用して抗原回復を実施し、98℃で10分間加熱した。切片を一次抗体:モルモット抗アディポフィリン(Fitzgerald)又はモルモット抗tip47(Progen)抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。適切な蛍光標識二次抗体(Invitrogen、Alexa Fluor)を加える前に、試料をビオチン化ロバ抗モルモット抗体(Jackson)と共に室温で1時間インキュベートした。各切片内におけるアディポフィリン又はtip47染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓のi)アディポフィリン染色(ピクセル2/μm2)又はii)tip47染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いてそれぞれの染色量を定量化した。
【0269】
アディポフィリン(plin2a)の発現も上記に記載される方法を用いて決定した。
【0270】
図8は、HFD給餌マウスにおける2H10を用いた抗VEGF-B抗体処置が脂肪肝におけるPATタンパク質の発現を低減したことを示す。抗VEGF-B抗体処置では、肝脂質含量は、固形飼料給餌WT及びHFD給餌Vegfb-/-マウスで達成されるのと同様のレベルまで低減した。肝臓の発現解析により、HFD給餌マウスにおける2H10処置によってplin2のmRNA転写物レベルが減少したとおり、肝脂肪症の発症に対する影響が確認された。
【0271】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、HFD給餌マウスにおける肝炎症の発症を予防する
2H10又はアイソタイプ対応対照抗体で20週間処置した30週齢のHFD給餌マウスから肝臓を採取し、ドライアイスで急速凍結し、Tissue-Tek(登録商標)(Sakura)でクライオスタットのモールド上に直接包埋した。包埋後、12μm切片を調製し、氷冷4%PFAで10分間後固定し、その後、CD45又はF4/80に関して免疫染色した。簡潔に言えば、切片を一次ラット抗CD45(BD bioscience)及びラット抗F4/80(Serotec)抗体と共に4℃で12時間インキュベートした。適切な蛍光標識二次抗体(Invitrogen、Alexa fluor)を加え、切片を室温で1時間更にインキュベートした後、それらを顕微鏡法のために調製した。各切片内におけるCD45又はF4/80染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓のi)CD45染色(ピクセル2/μm2)又はii)F4/80染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いてそれぞれの染色量を定量化した。
【0272】
単球走化性タンパク質1(mcp1)の発現も上記に記載される方法を用いて決定した。
【0273】
図9は、抗VEGF抗体で治療的に処置したHFD給餌マウスの肝臓においてCD45(A)のレベル及びF4/80(B)レベルが低減したことを示す。HFD給餌マウスを抗VEGF-B抗体2H10で処置すると、肝炎症細胞数は、固形飼料給餌WT及びHFD給餌Vegfb-/-マウスと同様のレベルまで低減した。mcp1の発現レベルも抗VEGF-B抗体処置によって低減した。従って、これらのデータは、抗VEGF-B抗体による治療処置がNASHの主要病変の発症を予防することを示している。
【0274】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、NASH及びNASH関連病変を低減する
2H10又はアイソタイプ対応対照抗体で20週間処置した30週齢のHFD給餌マウスから肝臓を採取し、4%PFAで24時間固定し、包埋して6μm切片を調製し、製造者の指示に従ってヘマトキシリン-エオシン(H&E)(Sigma)で染色した。各切片内におけるH&E染色した1動物当たり少なくとも20フレームを明視野顕微鏡法(Axio Vision顕微鏡、Carl Zeiss)により40倍の倍率で撮影した。各動物について、H&E染色肝切片に同定された全ての風船化肝細胞、MDB、炎症性病巣及び衛星病変の平均を計算した。NASH総合スコアを各群内平均の合計として計算した。
【0275】
表2に示されるとおり、HFD給餌マウスの肝臓は、風船化肝細胞、MDB形成、並びに程度は少ないが免疫細胞浸潤及び衛星病変を呈した。抗VEGF-B抗体による治療的処置により、これらのヒトNASH関連病変の出現が減少した。
【0276】
図10は、HFD給餌マウスにおいて2H10抗体処置を用いてVEGF-Bレベルを低減すると、総合NASHスコアが50%超低減したことを示す。
【0277】
【表2】
【0278】
実施例3:短期コリン欠乏高脂肪(CD)食におけるVEGF-B欠損マウスは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症に抵抗性である
Vegfbの欠失は、グルコース及びインスリン感受性を増加させる
5週齢雄C57BL/6マウス及び年齢対応Vegfb+/-及びVegfb-/-マウスにコリン欠乏高脂肪(CD)食(Research Diets;D05010402)を5ヵ月間与えた(CD5)。本試験中、体重(BW)及び血中グルコース(BG)値を記録した。BGの記録前2時間にわたって絶食させた。尾静脈から採取した血液でBayer Contourグルコースメーターを使用してグルコース測定を実施した。CD食において17週間後、非飢餓マウス又は実験前に2時間絶食させたマウスに対して腹腔内ブドウ糖負荷試験(IPGTT)及び腹腔内インスリン負荷試験(IPITT)を実施した。負荷試験について、動物に1mgグルコース/g BW(IPGTT)及び0.75mUインスリン/g BW(IPITT)を腹腔内注射した。
【0279】
短期CDは、C57BL/6マウスにおいて体重増加、血糖値、グルコース不耐性及びインスリン抵抗性の増加につながる。CD食におけるC57BL/6マウスでVegfbを除去しても、体重又は高血糖症の発症は変わらなかった。しかしながら、CD食におけるC57BL/6マウスで遺伝的手段によってVEGF-Bレベルを低減すると、耐糖能及びインスリン感受性に幾らかの効果があったが、しかし、高血糖は標的とならなかった。
【0280】
図11は、短期コリン欠乏高脂肪(CD)食におけるマウスでVegfbを欠失させても、体重(A)又は食後血糖値(A)に影響はなかったが、グルコース及びインスリン感受性(B及びC)が増加したことを示す。
【0281】
Vegfbの欠失は、肝損傷から保護する
分析にC57BL/6、Vegfb-/-及びVegfb+/-CD給餌マウスを使用した。肝臓を解剖して秤量し、心穿刺により全血を採取した。血液を14000rpm、4℃で10分間遠心し、血清を分離して、-80℃でアリコートに分けて凍結した。スウェーデン国ウプサラ(Uppsala)のスウェーデン農業科学大学(Swedish University of Agricultural Science)でアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)血清値が分析された。
【0282】
短期CDは、肝傷害を誘発し、Vegfb+/-及びVegfb-/-マウスと比較したとき、WTマウスにおいて血清ALAT値が増加した。
【0283】
図12Aは、短期CD食におけるマウスでVegfbを欠失させても、肝重量又は肝重量/体重比に何ら効果がなかったことを示す。
【0284】
図12Bは、CD給餌WTマウスで血清ALAT値が増加したが、一方、CD給餌VEGF-B欠損マウスでは年齢対応CD給餌WTマウスと比較して血清ALAT値が低減したことを示す。
【0285】
これらのデータは、CD給餌マウスにおいてVegfbを除去すると肝損傷が低減し、高血糖症が標的とならないことを実証している。
【0286】
Vegfbの欠失は、肝脂質蓄積を減少させる
分析にC57BL/6、Vegfb-/-及びVegfb+/-CD給餌マウスを使用した。肝臓を解剖し、急速凍結して、心穿刺により全血を採取した。血液を14000rpm、4℃で10分間遠心し、血清を分離し、-80℃でアリコートに分けて凍結した。
【0287】
摘出した肝臓に対してオイルレッドO(ORO)分析を実施した。手短に言えば、肝生検をTissue-Tek(登録商標)(Sakura)でクライオスタットのモールド上に直接包埋した。低温切片(12μm)をオイルレッドOワーキング溶液(2.5gオイルレッドO(ORO;Sigma-Aldrich)、400ml 99%イソプロパノール中に溶解し、更にH2Oで6:10希釈し、22μmフィルタ(Corning)でろ過したものに5分間浸漬した。その後、切片をヘマトキシリン溶液中に3秒間沈め、続いてLiCO3中に短時間沈め、水道水の流水下で10分間リンスした後、それらをマウントした。染色切片を明視野顕微鏡法で調べた。各切片内におけるORO及びヘマトキシリン染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓ORO染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いて脂肪滴量を定量化した。
【0288】
市販のキットを使用して非エステル化脂肪酸(NEFA;Wako Chemicals)、β-ヒドロキシブチレート(Stanbio Laboratories)及びトリグリセリド類(Sigma-Aldrich)を酵素測定した。
【0289】
短期CDは、C57BL/6マウスにおいて非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の発症につながった。CD食は、ORO分析によって検出されるとおり、肝中性脂質含量の劇的な増加及び付随する肝機能の低減を誘発した(図12)。CD食におけるC57BL/6マウスでVegfbを遺伝子除去すると、肝脂質蓄積が減少した。脂肪滴は、数及びサイズの両方が低減した。短期CDは、脂質異常症につながり、VEGF-Bレベルを低減すると、ケトン体(KB)、NEFA及びトリグリセリド類(TG)の血漿レベルが減少した。
【0290】
図13は、Vegfbの欠失が、短期CD食におけるマウスで肝脂質蓄積を低減し、肝脂肪症が標的となったことを示す。
【0291】
Vegfbの欠失は、肝炎症の発症を予防する
分析にC57BL/6、Vegfb-/-及びVegfb+/-CD給餌マウスを使用した。肝生検をTissue-Tek(登録商標)(Sakura)でクライオスタットのモールド上に直接包埋した。包埋後、12μm切片を調製し、氷冷4%PFAで後固定し、その後、CD45又はF4/80に関して免疫染色した。簡潔に言えば、切片を一次ラット抗CD45(BD bioscience)及びラット抗F4/80(Serotec)抗体と共に4℃で12時間インキュベートした。適切な蛍光標識二次抗体(Invitrogen、Alexa fluor)を加え、切片を室温で1時間更にインキュベートした後、それらを顕微鏡法のために調製した。各切片内におけるCD45又はF4/80染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓のi)CD45染色(ピクセル2/μm2)又はii)F4/80染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いてそれぞれの染色量を定量化した。
【0292】
短期CDを用いると、C57BL/6マウスにおいて全面的な非アルコール性脂肪性肝炎疾患(NASH)、即ち異常な肝脂質蓄積及び炎症を誘発することができる。CD食における、Vegfbをホモ接合性又はヘテロ接合性に除去したマウスでは、肝脂肪症(図13及び図14)及び炎症細胞数の両方が減少した。これらのデータは、VEGF-Bシグナル伝達の減少を用いてNASHの主要病変の発症を予防し得ることを示唆している。
【0293】
図14は、短期CD食におけるマウスでのVegfbの欠失が、CD45及びF4/80発現の低減によって示されるとおり、肝炎症の発症を予防したことを示す。
【0294】
実施例4:中和抗VEGF-B抗体は、短期コリン欠乏高脂肪(CD)食におけるマウスで非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の進行を治療又は予防する
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、体重、血糖値、耐糖能又はインスリン感受性に影響を与えない
5週齢雄C57BL/6マウスにCD食(Research Diets;D05010402)を5ヵ月間与えた。12週目に抗体処置を開始し、マウスを2H10又はアイソタイプ対応対照抗体で10週間処置した。動物に80μg用量の抗VEGF-B抗体を週2回腹腔内(i.p.)注射した。本試験には、年齢及び性別対応固形飼料給餌WTマウスも含めた。本試験中、BW及びBGレベルを記録した。BGの記録前2時間にわたって絶食させた。尾静脈から採取した血液でBayer Contourグルコースメーターを使用してグルコース測定を実施した。CD食において17週間後、非飢餓マウス又は実験前に2時間絶食させたマウスに対してIPGTT及びIPITTを実施した。負荷試験について、動物に1mgグルコース/g BW(IPGTT)及び0.75mUインスリン/g BW(IPITT)を腹腔内注射した。
【0295】
抗VEGF-B処置は、短期CDにおける体重又はグルコース及びインスリン感受性に影響を与えなかった。これらのデータは、Vegfb-/-マウス及びWTマウスと比較したとき、CD食給餌Vegfb+/-で観察される耐糖能及びインスリン感受性の改善がVegfb-/-マウスモデルに関連する発症効果に結び付けられ得ることを示している。
【0296】
図15は、短期CD食におけるマウスでの(2H10を用いる)抗VEGF-B処置が(A)体重、血糖値、(B)耐糖能又は(C)インスリン感受性に影響を与えなかったことを示す。
【0297】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、肝機能を改善する
5週齢雄C57BL/6マウスにCD食(Research Diets;D05010402)を5ヵ月間与えた。12週目に抗体処置を開始し、マウスを2H10又はアイソタイプ対応対照抗体で10週間処置した。動物に80μg用量の抗VEGF-B抗体を週2回腹腔内(i.p.)注射した。本試験には、年齢及び性別対応固形飼料給餌WTも含めた。動物をイソフルラン麻酔薬で犠牲にし、肝臓を解剖して秤量し、心穿刺により全血を採取した。血液を14000rpm、4℃で10分間遠心し、血清を分離して、-80℃でアリコートに分けて凍結した。スウェーデン国ウプサラ(Uppsala)のスウェーデン農業科学大学(Swedish University of Agricultural Science)でALAT血清値が分析された。
【0298】
抗VEGF-B処置した短期CD食におけるC57BL/6マウスでは、血清ALAT値の低減によって計測されるとおり、2H10療法が肝損傷を予防した。
【0299】
図16は、肝重量及び肝重量の対体重比(A)及びALAT値の血清分析(B)によって示されるとおり、短期CD食におけるマウスでの(2H10を用いる)抗VEGF-B処置が肝機能を改善したことを示す。
【0300】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、肝脂質蓄積を低減させる
分析にCD給餌C57BL/6マウス並びに年齢及び性別対応固形飼料給餌WTを使用した。動物は、上記に記載したとおり、2H10又はアイソタイプ対応対照抗体処置を受けた。
【0301】
先述のとおり摘出した肝臓に対してオイルレッドO(ORO)分析を実施した。短期CDにおけるC57BL/6マウスで2H10を用いてVEGF-Bレベルを低減することにより、肝脂肪症が減少し、脂肪滴が数及びサイズの両方について低減された。
【0302】
分離血清に関して市販のキットを使用して非エステル化脂肪酸(NEFA;Wako Chemicals)、β-ヒドロキシブチレート(Stanbio Laboratories)及びトリグリセリド類(Sigma-Aldrich)を酵素測定した。抗VEGF-B療法は、CD食におけるマウスでのケトン類(KB)、非エステル化脂肪酸(NEFA)及びトリグリセリド類(TG)の血漿レベルを正常化した。
【0303】
図17は、短期CD食におけるC57BL/6マウスでの抗VEGF-B処置(2H10を用いる)により肝脂質蓄積が低減したことを示す。
【0304】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、肝脂肪症の発症を予防する
分析にCD給餌C57BL/6マウス並びに年齢及び性別対応固形飼料給餌WTを使用した。動物は、上記に記載したとおり、2H10又はアイソタイプ対応対照抗体処置を受けた。
【0305】
摘出した肝臓に対して免疫染色を実施した。簡潔に言えば、動物をイソフルラン麻酔薬で犠牲にして肝臓を解剖し、4%PFAで24時間固定し、続いて標準的手順を用いてパラフィン包埋処理を行い、6μm切片を調製した。抗原回復溶液Ph6(Dako #S2367)を使用して抗原回復を実施し、98℃で10分間加熱した。切片をモルモット抗アディポフィリン(Fitzgerald)と共に4℃で一晩インキュベートした。適切な蛍光標識二次抗体(Invitrogen、Alexa Fluor)を加える前に、試料をビオチン化ロバ抗モルモット抗体(Jackson)と共に室温で1時間インキュベートした。各切片内におけるアディポフィリン又はtip47染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓アディポフィリン染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いてそれぞれの染色量を定量化した。
【0306】
短期CDにおけるC57BL/6マウスで2H10を用いてVEGF-Bレベルを低減することにより、肝脂肪症及びNASHの発症が予防された。抗VEGF-B抗体処置により、CD食における対照処置マウスと比較したとき、肝脂質含量が50%超低減した。
【0307】
図18は、短期CD食におけるC57BL/6マウスでの(2H10を用いる)抗VEGF-B処置が、肝臓のアディポフィリン発現の低減によって示されるとおり、肝脂肪症の発症を予防したことを示す。
【0308】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、肝炎症の発症を予防する
分析にCD給餌C57BL/6マウス並びに年齢及び性別対応固形飼料給餌WTを使用した。動物は、上記に記載したとおり、2H10又はアイソタイプ対応対照抗体処置を受けた。
【0309】
摘出した肝臓に対して免疫染色を実施した。簡潔に言えば、動物をイソフルラン麻酔薬で犠牲にし、肝臓を解剖してドライアイスで急速凍結した。肝生検をTissue-Tek(登録商標)(Sakura)でクライオスタットのモールド上に直接包埋した。包埋後、12μm切片を調製し、氷冷4%PFAで10分間後固定し、その後、CD45又はF4/80に関して免疫染色した。簡潔に言えば、切片を一次ラット抗CD45(BD bioscience)及びラット抗F4/80(Serotec)抗体と共に4℃で12時間インキュベートした。適切な蛍光標識二次抗体(Invitrogen、Alexa fluor)を加え、切片を室温で1時間更にインキュベートした後、それらを顕微鏡法のために調製した。各切片内におけるCD45又はF4/80染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓のi)CD45染色(ピクセル2/μm2)又はii)F4/80染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いてそれぞれの染色量を定量化した。
【0310】
CD食におけるマウスで抗VEGF-B療法として2H10を用いると、肝炎症細胞量が固形飼料給餌マウスと同様のレベルまで減少した。これらのデータは、VEGF-Bシグナル伝達の(2H10処置を用いた)減少を用いてNASHの発症における炎症期を標的にし得ることを示している。
【0311】
図19は、短期CD食におけるマウスでの(2H10を用いる)抗VEGF-B処置が、(A)CD45及び(B)F4/80発現の低減によって示されるとおり、肝炎症の発症を予防することを示す。
【0312】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、軽度肝線維化の発症を予防する
分析にCD給餌C57BL/6マウス並びに年齢及び性別対応固形飼料給餌WTを使用した。動物は、上記に記載したとおり、2H10又はアイソタイプ対応対照抗体処置を受けた。
【0313】
摘出した肝臓に対してマッソントリクローム染色を実施した。簡潔に言えば、動物をイソフルラン麻酔薬で犠牲にした。肝臓を解剖し、4%PFAで24時間後固定し、続いて標準的手順を用いてパラフィン包埋処理を行った。包埋後、6μm切片を調製し、マッソントリクローム(MT)(Sigma)で製造者の指示に従って染色した。各切片内におけるMT染色した1動物当たり少なくとも20フレームを明視野顕微鏡法(Axio Vision顕微鏡、Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓のi)MT+染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いて線維化量を定量化した。
【0314】
短期CDを用いて線維化NASHを誘発することができる。線維化NASHは、NASHのより進行した状態と考えられ、肝硬変及び肝臓関連死の主因である。CD食は、実質に検出される、ある場合には肝小葉全体にわたって「橋状」のパターンでも存在する線維化と併せて、正常な細胞外マトリックス(ECM)沈着の指標である血管壁に明らかとなる軽度肝線維化を誘発する。CD食におけるマウスで2H10を用いてVEGF-Bレベルを低減すると、線維化の発症が減少したことから、線維化NASHの治療に抗VEGF-B療法を用い得ることが示唆される。
【0315】
図20は、肝切片のマッソントリクローム染色を用いて、短期CD食におけるマウスでの(2H10を用いる)抗VEGF-B処置が線維化の発症を予防することを示す。
【0316】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、NASH及びNASH関連病変を低減する
分析にCD給餌C57BL/6マウス並びに年齢及び性別対応固形飼料給餌WTを使用した。動物は、上記に記載したとおり、2H10又はアイソタイプ対応対照抗体処置を受けた。
【0317】
肝臓を解剖し、4%PFAで24時間後固定し、続いて標準的手順を用いてパラフィン包埋処理を行った。包埋後、6μm切片を調製し、製造者の指示に従ってヘマトキシリン-エオシン(H&E)(Sigma)で染色した。各切片内におけるH&E染色した1動物当たり少なくとも20フレームを明視野顕微鏡法(Axio Vision顕微鏡、Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影し、肝細胞の変性、MDB形成の形成、炎症性病巣及び衛星病変の存在に関して分析した。総合スコアは、H&E染色肝切片における同定された全ての風船肝細胞、MBD、炎症性病巣及び衛星病変の量である。
【0318】
表3に示されるとおり、CD給餌マウスの肝臓は、肝細胞の風船化、マロリー・デンク体の形成、炎症性病巣及び衛星病変など、ヒトNASHの特徴の幾つかを示した。抗VEGF-B抗体による治療的処置により、これらのヒトNASH関連病変の出現が減少した。
【0319】
図21は、CD給餌マウスにおいて2H10抗体処置を用いてVEGF-Bレベルを低減すると、総合NASHスコアが50%超減少したことを示す。
【0320】
【表3】
【0321】
実施例5:中和抗VEGF-B抗体は、長期CD食におけるマウスでの非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の進行を治療又は予防する
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、体重、食後血糖値、耐糖能又はインスリン感受性に影響を与えない
5週齢雄C57BL/6マウスにCD食(Research Diets;D05010402)を12ヵ月間与えた(CD12)。32週齢で抗体処置を開始し、マウスを2H10又はアイソタイプ対応対照抗体で20週間処置した。動物に80μg用量の抗VEGF-B抗体を週2回腹腔内(i.p.)注射した。本試験には、年齢及び性別対応固形飼料給餌WTも含めた。本試験中、BW及びBGレベルを記録した。BGの記録前2時間にわたって絶食させた。尾静脈から採取した血液でBayer Contourグルコースメーターを使用してグルコース測定を実施した。CD食において17週間後、非飢餓マウス又は実験前に2時間絶食させたマウスに対してIPGTT及びIPITTを実施した。負荷試験について、動物に1mgグルコース/g BW(IPGTT)及び0.75mUインスリン/g BW(IPITT)を腹腔内注射した。
【0322】
図22に示すとおり、抗VEGF-B処置は、C57BL/6マウスにおける長期CD食による体重(A)又はグルコース及びインスリン感受性(B及びC)に影響を与えなかった。
【0323】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、肝機能を改善し、肝細胞癌の発症を緩和する
分析に12ヵ月CD給餌C57BL/6マウス並びに年齢及び性別対応固形飼料給餌WTを使用した。動物は、上記に記載したとおり、2H10又はアイソタイプ対応対照抗体処置を受けた。
【0324】
40mmの内径のミリピード(millipede)送受信体積コイル(Agilent、Yarnton、UK)を備えた水平穴型9.4Tスキャナ(Agilent、Yarnton、UK)を使用して磁気共鳴画像法(MRI)データを取得した。MRI解析のため、動物に造影剤プリモビスト(Primovist)を注入した。250mMのプリモビスト(Primovist)溶液(Bayer Pharma、Berlin、Germany)を生理食塩水(9mg/ml)で12.5mMに希釈した。アイソセンターに位置付けながら、穴の近傍に位置決めした輸液ポンプに接続された2mのポリエチレン(PE-20)ホースで接続した尾静脈カテーテルから体重1グラム当たり2ulのボーラスをマウスに送達した。MRIスキャンについて、脂肪-飽和(高速スピンエコーデータetl4、kzero=1 マトリックス256×192、有効エコー時間=7.01ms、1mm厚さの30連続スライス、視野35.2×26.4mm2のT1加重画像。各呼息期間に15スライスを連続的に励起し、回復時間は、呼吸期間の2倍となった。呼吸期間は、750~950msであり、イソフルランレベル(1.6~2.5%)によって制御した。各三次元データセットを取得するのに約1.5分かかった。ボーラス前に1つのデータセットを取得し、続いてボーラス後に5連続データセットを取得した。健常な肝臓の強度は造影剤によって3分以内に増加したが、腫瘍の強度は造影剤によって増強されず、造影剤後にも腫瘍は低信号に見えた。
【0325】
MRI解析後、動物をイソフルラン麻酔薬で犠牲にし、肝臓を解剖して秤量し、心穿刺により全血を採取した。
【0326】
長期CDは、C57BL/6マウスにおいて肝肥大、肝機能の低下及び肝細胞癌の発症につながった。ガドリニウム増強造影スキャンと組み合わせたMRIを用いて肝腫瘍を視覚化することができる。肝内で腫瘍発育が最も豊富な部位は、尾状突起及び右側葉であった。CD食において12ヵ月後、対照Ig処置C57BL/6マウスの50%が肝細胞癌を発症し、2H10処置マウスで腫瘍は検出されなかった。更に、抗VEGF-B療法が肥大を予防し、肝機能を改善したことから、肝細胞癌発症の予防に抗VEGF-B療法を用い得ることが示唆される。
【0327】
図23は、抗VEGF-B処置が肝機能を改善し、肝細胞癌の発症を緩和したことを示す。
【0328】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、肝脂質蓄積を低減する
分析に12ヵ月CD給餌C57BL/6マウス並びに年齢及び性別対応固形飼料給餌WTを使用した。動物は、上記に記載したとおり、2H10又はアイソタイプ対応対照抗体処置を受けた。
【0329】
摘出した肝臓に関してオイルレッドO(ORO)分析を実施した。簡潔に言えば、肝臓を解剖してドライアイスで急速凍結し、肝生検をTissue-Tek(登録商標)(Sakura)でクライオスタットのモールド上に直接包埋した。低温切片(12μm)をオイルレッドOワーキング溶液(2.5gオイルレッドO(Sigma-Aldrich)、400ml 99%イソプロパノール中に溶解し、更にH2Oで6:10希釈し、22μmフィルタ(Corning)でろ過した)に5分間浸漬した。その後、切片をヘマトキシリン溶液中に3秒間沈め、続いてLiCO3中に沈め、水道水の流水下で10分間リンスした後、それらをマウントした。染色切片を明視野顕微鏡法で調べた。各切片内におけるORO及びヘマトキシリン染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓ORO染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いて脂肪滴量を定量化した。
【0330】
長期CD食におけるマウスで2H10を用いてVEGF-Bレベルを低減することにより、肝脂肪症が減少し得、脂肪滴が数及びサイズの両方について低減された。CD食におけるマウスでのマウスの肝脂質含量は、2H10療法によって50%超低減した。
【0331】
図24は、ORO染色によって測定されるとおりの肝脂質蓄積が、長期CD食におけるマウスで抗VEGF-B処置(2H10を用いる)後に低減したことを示す。
【0332】
治療的抗VEGF-B処置(2H10を用いる)は、肝炎症の発症を予防する
分析に12ヵ月CD給餌C57BL/6マウス並びに年齢及び性別対応固形飼料給餌WTを使用した。動物は、上記に記載したとおり、2H10又はアイソタイプ対応対照抗体処置を受けた。
【0333】
摘出した肝臓に対してCD45及びF4/80免疫染色を実施した。簡潔に言えば、肝臓を解剖してドライアイスで急速凍結した。肝生検をTissue-Tek(登録商標)(Sakura)でクライオスタットのモールド上に直接包埋した。包埋後、12μm切片を調製し、氷冷4%PFAで10分間後固定し、その後、CD45又はF4/80に関して免疫染色した。簡潔に言えば、切片を一次ラット抗CD45(BD bioscience)及びラット抗F4/80(Serotec)抗体と共に4℃で12時間インキュベートした。適切な蛍光標識二次抗体(Invitrogen、Alexa fluor)を加え、切片を室温で1時間更にインキュベートした後、それらを顕微鏡法のために調製した。各切片内におけるCD45又はF4/80染色した1動物につき少なくとも10フレームをAxio Vision顕微鏡(Carl Zeiss)により20倍の倍率で撮影した。肝臓のi)CD45染色(ピクセル2/μm2)又はii)F4/80染色(ピクセル2/μm2)に関して、Axio Vision Runウィザードプログラムを用いてそれぞれの染色量を定量化した。
【0334】
長期CDは、C57BL/6マウスにおいて肝炎症の増加につながった。CD食における対照処置マウスでは、腫瘍を伴う場合及び伴わない場合の両方において、固形飼料給餌マウスと比較したとき、炎症反応がそれぞれ約2倍及び5倍増加した。CD食におけるマウスで2H10を用いてVEGF-Bレベルを低減すると、肝炎症細胞量が正常化した。従って、このデータは、VEGF-Bシグナル伝達を(2H10処置を用いて)減少させると、NASH/肝細胞癌の発症における炎症期が効率的に標的化されることを示唆している。
【0335】
図25は、長期CD食におけるマウスでの抗VEGF-B処置が、CD45及びF4/80発現の低減によって示されるとおり、肝炎症の発症を予防することを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【配列表】
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