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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】光子カウントコンピュータ断層撮影
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20220502BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
A61B6/03 370Z
A61B6/03 320Q
G06T1/00 290B
A61B6/03 ZDM
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018568234
(86)(22)【出願日】2017-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2017066139
(87)【国際公開番号】W WO2018002226
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】16176936.9
(32)【優先日】2016-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】特許業務法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】レッスル エワルド
(72)【発明者】
【氏名】ステッドマン ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ヘルマン クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】プロクサ ローランド
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-110793(JP,A)
【文献】特開2005-241294(JP,A)
【文献】特開平08-066387(JP,A)
【文献】国際公開第2015/197786(WO,A1)
【文献】特表2009-513220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光子カウント検出器を含むX線画像形成装置により獲得された光子カウント投影データを受信するための入力インターフェースと、
校正データを保持する校正データメモリであって、前記校正データが、前記光子カウント検出器の異なるエネルギー閾値に対する光子カウントデータ対経路長曲線を符号化し、前記光子カウントデータ対経路長曲線のうちの少なくとも1つが、非単射である、校正データメモリと、
前記校正データにおいて符号化された少なくとも2つの光子カウントデータ対経路長曲線に基づいて、前記光子カウント投影データ内のエントリーを、関係する経路長に変換する経路長変換器であって、経路長変換は、少なくとも2つの前記光子カウントデータ対経路長曲線のうちの1つに基づいて、前記関係する経路長に対する少なくとも2つの推定を演算することと、少なくとも1つの他の閾値に対する光子カウント投影データ及び少なくとも1つの他の前記光子カウントデータ対経路長曲線に基づいて、前記関係する経路長として前記2つの推定のうちの1つを選択することとを有する、経路長変換器と、
を備える、画像信号処理システム。
【請求項2】
前記校正データが、校正手順において以前に検出されたものであるか、又は、前記校正データセットが、信号モデルから導出されたものである、請求項1に記載の画像信号処理システム。
【請求項3】
画像の画像要素を、変換された前記経路長に少なくとも基づいて再構成する画像再構成器を備える、
請求項1又は2に記載の画像信号処理システム。
【請求項4】
前記経路長変換器は、前記光子カウント投影データの前記エントリーを、前記光子カウントデータ対経路長曲線のうちの少なくとも2つに従った光子カウントデータに対してフィッティングするように動作する、請求項1又は2に記載の画像信号処理システム。
【請求項5】
前記経路長変換器は、オブジェクト関数を最適化することにより、前記関係する経路長に変換し、前記オブジェクト関数は、前記光子カウント投影データと前記光子カウントデータ対経路長曲線に従った光子カウントデータとの間の偏差に依存する、請求項1から4のいずれか一項に記載の画像信号処理システム。
【請求項6】
前記オブジェクト関数は、最小二乗和を含む、請求項に記載の画像信号処理システム。
【請求項7】
前記オブジェクト関数は、前記光子カウントデータに対する確率密度関数に基づいた尤度関数を含む、請求項に記載の画像信号処理システム。
【請求項8】
前記オブジェクト関数は、前記光子カウント検出器のノイズ挙動のために、又は異なる光子カウント検出器のためにモデル化されたノイズモデル化コンポーネントを組み入れている、請求項5から7のいずれか一項に記載の画像信号処理システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の画像信号処理システムを含む、X線画像形成装置。
【請求項10】
光子カウント検出器とX線源とを備え、前記X線源は、光子フラックスレートの逆数が前記光子カウント検出器の不感時間の逆数に概ね等しいか、又は前記光子カウント検出器の不感時間の逆数を上回るような当該光子フラックスレートで画像形成中に動作可能である、請求項9に記載のX線画像形成装置。
【請求項11】
光子カウント検出器を含むX線画像形成装置により獲得された光子カウント投影データを受信するステップと、
校正データに基づいて、前記光子カウント投影データ内のエントリーを、関係する経路長に変換するステップであって、前記校正データが、前記光子カウント検出器の異なるエネルギー閾値に対する光子カウントデータ対経路長曲線を符号化し、前記光子カウントデータ対経路長曲線のうちの少なくとも1つが非単射であり、前記変換が、前記校正データにおいて符号化された少なくとも2つの光子カウントデータ対経路長曲線に基づく、変換するステップであって、経路長変換は、少なくとも2つの前記光子カウントデータ対経路長曲線のうちの1つに基づいて、前記関係する経路長に対する少なくとも2つの推定を演算することと、少なくとも1つの他の閾値に対する光子カウント投影データ及び少なくとも1つの他の前記光子カウントデータ対経路長曲線に基づいて、前記関係する経路長として前記2つの推定のうちの1つを選択することとを有する、変換するステップ
を有する、信号処理方法。
【請求項12】
少なくとも変換された前記経路長に基づいて、画像の画像要素を再構成するステップを有する、請求項11に記載の信号処理方法。
【請求項13】
処理ユニットにより実行されたときに、請求項11又は12に記載の方法のステップを実施する、コンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のコンピュータプログラムを記憶した、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像信号処理システム、画像形成システム、画像信号処理方法、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム要素、及びコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
X線ベースの画像形成は、医療などの様々な分野の試みにおいて重要なツールである。
【0003】
医療分野では、古いX線システムであるほど、検出されたX線放射線に内在するスペクトル情報が実質的に無視されるエネルギー積分型検出器を使用する。この状況は、情報内容の抽出を大きく改善するために、検出された放射線に含まれるエネルギーをスペクトルエネルギーコンポーネントに分解することが可能な光子カウント検出器システムの出現に伴って改善されてきた。
【0004】
光子カウント検出器において使用されるピクセル寸法(ピクセルピッチ)は、レート性能に影響を与える。特に、ピクセル寸法が小さいほど、レート性能がより良好である。約200マイクロメートルのピクセル寸法がいくつかの光子カウントCTシステムにおいて使用される。例えば、Phys.Med.Biol.、vol 61、1572-1595ページ(2016)における、Zhicong Yuらの「Evaluation of conventional imaging performance in a research whole-body CT system with a photon-counting detector array」を参照されたい。麻痺型検出器における十分に小さなピクセル寸法が、別のやり方であれば避けられない臨床CTのフラックス範囲の外部における入力フラックスに依存した出力カウントレートのフォールドオーバーを防ぐために役立つことは事実である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このようなシステムでは、結果の1つは、より弱いスペクトル性能であり、これは、電荷共有イベントの増加のためである。
【0006】
そのために、SPIEの会議録、vol.9033、90330N-1-90330N-9ページ(2014)における、Carsten Schirraらの「Towards In-vivo K-edge Imaging Using a New Semi-Analytical Calibration method」は、校正測定値の使用を分析モデルと組み合わせて予期される光子カウント数を予測する光子カウントスペクトルコンピュータ断層撮影に使用される半分析的校正方法を開示する。
【0007】
WO2015/197786A1は、X線感応検出器により検出されたカウントイベントの処理のための方法及び装置を開示し、これにより、検出されたイベントをフィッティングして、減弱、屈折、又はデコヒーレンス/散乱能などの関心のある物理量を演算するために信号モデルが使用される。これにより、特に、パイルアップ効果を考慮に入れることができる。
【0008】
WO2007/049168A1は、電離放射に対して感応性をもつ検出器から信号を受信する装置を開示し、これにより、差別化要素が検出器信号のレート変化を表す出力を生成する。弁別器が、次に、差別化要素の振幅を分類し、弁別器の出力により始動された積分器が、検出された光子を表す出力を生成する。1つ又は複数の修正器が、パルスパイルアップを修正し、結合器が、修正器の出力を使用して検出された光子の数及びエネルギー分布を表す出力信号を生成する。
【0009】
US2010/0074397A1は、X線放射線の検出の方法及びそれぞれのX線システムを開示する。X線放射線の量子がセンサーに当たったとき、量子のエネルギーのパルス振幅特性をもつ電気パルスが生成され、多くの閾値エネルギーが予め規定される。それぞれのエネルギーに対応したパルス振幅を上回ったとき、それぞれの閾値エネルギーに対応したパルス振幅を上回る度に、信号が放射される。これは、高いX線量子レートを伴う画像領域においても、高信頼性及び高品質の画像形成を可能にする。この目的を達成するために、閾値エネルギーのうちの少なくとも1つがX線放射源により放射されるX線スペクトルの最大エネルギーより高くなるように、閾値エネルギーのうちの少なくとも1つが予め規定される。
【0010】
従って、光子カウントシステムにおいて、上述の短所のうちのいくつかを解決する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、独立請求項の主題により解決され、さらなる実施形態が従属請求項に組み込まれる。本発明の後述の態様は、画像信号処理方法、画像信号処理システム、コンピュータプログラム要素、及びコンピュータ可読媒体に等しく適用されることが留意されなければならない。
【0012】
本発明の第1の態様によると、
光子カウント検出器を含むX線画像形成装置により獲得された光子カウント投影データを受信するための入力インターフェースと、
校正データを保持する校正データメモリであって、校正データが、i)上記検出器の、又はii)異なる検出器の異なるエネルギー閾値に対する光子カウントデータ対経路長曲線を符号化し、曲線のうちの少なくとも1つが、非単射である、校正データメモリと、
校正データにおいて符号化された少なくとも2つの光子カウントデータ対経路長曲線に基づいて、光子カウント投影データ内のエントリー(すなわち、ピクセルに対するカウント)を関係する経路長に変換するように構成された経路長変換器と、
を備える、画像信号処理システムが提供される。
【0013】
一実施形態によると、校正データが、校正手順において以前に検出されたものであるか、又は、校正データセットが、信号モデルから(理論的に)導出されたものである。
【0014】
一実施形態によると、システムは、画像の画像要素を、少なくとも変換された経路長に基づいて再構成するように構成された画像再構成器を備える。
【0015】
一実施形態によると、経路長変換器は、曲線のうちの少なくとも2つに従って、光子カウント投影データのエントリーを、光子カウントデータに対してフィッティングするように動作する。
【0016】
一実施形態によると、経路長変換器による経路長変換は、少なくとも2つの曲線のうちの1つに基づいて、関係する経路長に対する少なくとも2つの推定を演算することと、少なくとも1つの他の閾値に対する少なくとも1つの他の曲線及び光子カウント投影データに基づいて、関係する経路長として2つの推定のうちの1つを選択することとを有する。
【0017】
一実施形態によると、経路長変換器は、オブジェクト関数を最適化することにより、関係する経路長に変換するように構成され、オブジェクト関数は、投影データと曲線に従った光子カウントデータとの間の偏差に依存する。特に、一実施形態によると、オブジェクト関数は、一度にすべてのエネルギービンに対する測定値と校正曲線からの予期される値との間の偏差(「不一致」)を組み合わせる。
【0018】
一実施形態によると、オブジェクト関数は、最小二乗和を含む。
【0019】
一実施形態によると、オブジェクト関数は、光子カウントデータに対する確率密度関数(pdf:probability density function)に基づいて尤度関数を含む。pdfは、理論的な信号モデルから導出されるか、又は、校正データから推定される。
【0020】
一実施形態によると、オブジェクト関数は、検出器のノイズ挙動のために、又は異なる検出器のためにモデル化するように構成されたノイズモデル化コンポーネントを組み入れている。この場合も、ノイズコンポーネント(例えば分散)が、理論的な信号モデルから導出されるか、又は、校正データから推定される。
【0021】
提案される経路長変換器は、1対1ではない校正曲線に基づいた経路長に変換することが可能である。1対1ではない曲線は、本明細書において「非単射」とも呼ばれる。校正データは、1対1ではない少なくとも1つの曲線(本明細書において「校正曲線」とも呼ばれる)を含む。すなわち言い換えると、この校正曲線に基づいて2つ以上の異なる経路長が割り当てられた少なくとも1つの光子カウント値が存在するので、曖昧さが存在する。さらに言い換えると、校正曲線は、この曖昧さを理由として伝統的な言い方をすると不可逆である。(校正曲線が補間されるか、又は、理論的な信号モデルから導出されるときに当てはまるように)曲線が連続的な場合、本明細書において想定される非単射曲線は、非単調であるとも言われる。
【0022】
経路長変換器は、光子カウントデータを、閾値当たり1つの校正曲線に基づくだけでなく、異なるエネルギー閾値(又は「ビン」)に対する複数の校正曲線にも基づいて、所与のピクセルに対する(有効)経路長に変換する。
【0023】
別の言い方をすれば、変換動作は、所与のピクセルに対して、所与のビンからの1つの曲線に対して動作することに限定されず、他のビンからの他の曲線も変換を実施すると考えられる。すべての実施形態とは限らないが一実施形態において、すべてのビンからのすべての曲線が、所与のピクセル位置に対する変換に使用される。
【0024】
(本明細書において単に「経路長」とも呼ばれる)ピクセル当たりの有効経路長は、(校正データに従った)その関係するカウントレートが、他のビンにおける実際に測定されたカウントレートのうちの一部又はすべてを「最も良く」説明するように演算される。1つの極端な実施形態では、いくつかの低ノイズ環境に実際に十分な2つの校正曲線のみが考慮される。しかし、好ましくは、2つを上回る(最大で実現されるエネルギービンの総数まで、3つ、4つ以上の)曲線、特にすべての曲線が、任意の所与のピクセルに対する変換を演算することに含まれる。異なるビンからの1つを上回る校正曲線を使用することが、ノイズに対してよりロバストな変換、すなわち有効経路長の最適な推定を可能にする。
【0025】
提案されるシステムは、特に、比較的大きなピクセル寸法をもつ光子カウント検出器からの光子カウントデータを処理することを可能にする。より詳細には、提案されるシステムは、大きなピクセル寸法の検出器においてスペクトル性能を高めながら、少なくともいくつかのピクセル位置及び/又は投影方向に対するレート性能を実質的に維持することを可能にする。特に、CTにおいて、システムは、サイノグラムにおけるレート性能分布により与えられる、レート性能とスペクトル性能との間の好ましいトレードオフを確実なものとする。本明細書において、ピクセル寸法を大きくすること、及び、すべての校正曲線を、すべてのピクセル位置/投影方向及び各ビンに対して1対1とする要求を意図的に除外することが提案される。それにより、特に視野の周辺から離れた場所で、スペクトル性能を安定化するか、又は、さらにはスペクトル性能を高めることが支援される。視野の周辺におけるピクセルに対するレート性能が譲歩されるが、周辺から離れた場所での(特に視野の中心部における)ピクセルに対するスペクトル性能は安定化される。
【0026】
校正曲線がコード化される手法は、実施形態ごとに異なってよい。一実施形態において、曲線は、単にテーブルとして、特に、参照テーブルとして記憶される。他の実施形態において、曲線は、理論的な信号モデルから関数式を導出することにより、又は、測定された校正データ点の離散集合を通して近似スキーム(特に、多項式又は非多項式フィッティングなどの補間スキーム)を実行することにより取得された明示的な関数式としてコード化される。
【0027】
非単射/非単調曲線は、単調/単射セクションをさらに含んでよいことが理解される。より具体的には、使用される校正曲線は、経路長軸に沿った少なくとも1つの区間にわたって非単調/非単射である。
【0028】
経路長変換器により実施される提案された最適化は、最小値を返すとは限らないことがさらに理解される。特に、最適化は、最小値ではなく極小値を返してもよい。さらに、最適化処置は、また、反復スキームとして実施された場合、数回の繰り返し後に停止され、出力は、極小値を構成しなくてさえもよいが、極小値又は最小値に対する十分な近似として異なるコンテキストにおいて考慮されてよい。最適化は、最小化又は最大化スキームとして定式化されてよいことがさらに理解される。本明細書において使用される「最適化」が、最適化において極小値若しくは最小値又は極大値若しくは最大値に実際に必ずしも到達することなく、極小値若しくは最小値又は極大値若しくは最大値に集束することが知られたスキームを含むことと、出力すなわち経路長が、これらの極小値若しくは最小値又は極大値若しくは最大値に対する十分な近似を構成してよいこととが本明細書において理解される。
【0029】
別の一態様によると、ここまでの実施形態のうちの任意の実施形態の信号処理システムを備えるX線画像形成装置が提供される。
【0030】
一態様によると、光子カウント検出器とX線源とを備えるX線画像形成装置が提供され、X線源は、光子フラックスレートの逆数が検出器の不感時間の逆数に概ね等しいか、又は検出器の不感時間の逆数を上回るような光子フラックスレートで画像形成中に動作可能である。提案される画像信号処理システムは、このような撮像器を動作させて、良質な経路長データを生成することを可能にする。
【0031】
別の一態様によると、
光子カウント検出器を含むX線画像形成装置により獲得された光子カウント投影データを受信することと、
校正データに基づいて、光子カウント投影データ内のエントリーを、関係する経路長に変換することであって、校正データが、i)上記検出器の、又はii)異なる検出器の異なるエネルギー閾値に対する光子カウントデータ対経路長曲線を符号化し、曲線のうちの少なくとも1つが非単射であり、変換が、校正データにおいて符号化された少なくとも2つの光子カウントデータ対経路長曲線に基づく、変換することとを有する、信号処理方法が提供される。
【0032】
一実施形態によると、本方法は、
少なくとも変換された経路長に基づいて、画像の画像要素を再構成すること
を有する。
【0033】
別の一態様によると、処理ユニットにより実行されたときに、方法のステップを実施するように適応されたコンピュータプログラム要素が提供される。
【0034】
別の一態様によると、コンピュータ可読媒体にプログラム要素を記憶したコンピュータ可読媒体が提供される。
【0035】
提案されるシステム及び方法は、CTなどの高フラックス光子カウントシステム、又は他の回転X線画像形成システムのためのものであることが主に想定されるが、非回転システムに対する適用も想定される。
【0036】
本明細書において想定される光子フラックスレートは、1mm当たり最大300~1000Mcps(「1秒当たりのメガカウント数」)程度であるが、これは本明細書における限定とは限らない。一実施形態において、これらのカウントレートは、ピクセル寸法に応じて、ピクセル当たり50~160MHzの間における任意の値に対応する。本明細書において想定される検出器不感時間は10~50nsの範囲内である。
【0037】
本明細書において、「閾値」及び「ビン」という用語は、「ビン」が両側にある閾値を暗示するとは限らず、実際には様々なエネルギーレベルに対して異なる1つの閾値が存在する好ましい実施形態における片側型のビンをさらに含むという理解のもとに、本明細書において交換可能に使用される。片側型のビニングは、高フラックス設定に対して本明細書で想定される好ましい実施形態である。
【0038】
本発明の例示的な実施形態が、以下の図面を参照しながら以下で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】X線画像形成装置のブロック図である。
図2】X線検出器を横断する断面図である。
図3】X線画像形成システムに対する校正データを示す図である。
図4図1に示すX線画像形成システムにおいて使用される画像信号処理ステージを示す図である。
図5】提案される画像信号処理システムにより取得された画像内のノイズデータを示す図である。
図6】画像信号処理方法のフロー図である。
図7図6に示す画像信号処理方法の一実施形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1を参照すると、スペクトル画像形成構成100が示される。スペクトル画像形成構成は、(すべての実施形態とは限らないが)一実施形態において、長手軸又はz軸の周囲において検査領域208の周りで回転可能な回転可能ガントリー部204を含むコンピュータ断層撮影(CT)システムを含む。
【0041】
X線管などのX線源212は、回転ガントリー部204により支持され、ガントリーが回転している間に、異なる投影方向から検査領域208を横断する多エネルギー放射線ビーム又は光子を放射する。
【0042】
X線放射線感応性検出器Dは、1つ又は複数のセンサー又はピクセルpxを含む。各ピクセルpxは、検査領域208を横断するX線源212により放射された光子を検出することが可能である。広く、各ピクセルpxは、それぞれの検出された光子を表す電流又は電圧などの電気信号を生成する。この検出工程は、後でさらに詳細に説明される。適切な検出器システムDの例は、直接変換検出器、例えば、典型的にはシリコン、テルル化カドミウム(CdTe)、又はテルル化カドミウム亜鉛(CZT)から形成された、ストリップなどの半導体ウエハ部又はボディを含む検出器を含む。間接変換型センサーと呼ばれることの多い他の選択肢も想定される。間接変換型検出器はシンチレーターベースであり、すなわち、間接変換型検出器は、光センサーと光通信するシンチレーターをさらに含む。しかし、直接変換検出器が本明細書では好ましい。
【0043】
カウチなどの物体支持体248が、検査領域208内において患者又は他の物体を支持する。物体支持体248は、スキャニング手順を実施するとき、検査領域208内で検査領域208に対して物体を案内するために、可動である。汎用コンピュータは、オペレーターコンソール252として機能する。コンソール252は、モニター又はディスプレイなどの人間により可読な出力デバイスと、キーボード及びマウスなどの入力デバイスとを含む。コンソール252に存在するソフトウェアは、例えばグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を通して、オペレーターがスキャナ200を制御すること、及びスキャナ200と対話することを可能にする。このような対話は、以下でさらに詳細に説明されるように、エネルギービニングされたデータに基づいて信号を再構成するための命令を含む。
【0044】
画像形成セッション中、試料(ヒト又は動物の患者、若しくはその一部、又は、関心のある任意の他の物体(生物とは限らない))が、検査領域208内に存在する。初期スペクトルをもつ多エネルギー放射線ビームが試料を通る。試料を通した多エネルギー放射線ビームの通過において、放射線が試料内の物質と相互作用し、この相互作用の結果として変更を加えられる。この変更を加えられた放射線が患者を出て、次に検出器ピクセルと相互作用して対応する電気信号を生成する。多くの物理過程が、試料の物質を通した放射線の通過時に、放射線の変化又は変更を引き起こすように作用する。それらの物理過程のうちで重要なものは、吸収、屈折、及びデコヒーレンス(小角散乱又は暗視野効果)である。それらの物理過程の各々が、関係する物理量、例えば局所吸収係数μ、局所屈折率φ、及び小角散乱能Ωにより説明され得る。言及される物理量、例えば吸収係数μは局所的であり、すなわち、言及される物理量は概して、試料にわたり試料の各点において異なる。より具体的には、吸収は材料の種類(脂肪、骨、又は他の物質)及びその点におけるその密度に依存する。さらに、吸収μのエネルギー依存性も存在する。Alvarez及びMacovskiは、これについて幅広く記載している(例えば、「Energy-selective Reconstructions in X-ray Computerized Tomography」、PHYS.MED.BIOL.、1976、VOL.21、NO.5、733-744を参照されたい)。
【0045】
以下、吸収μのみが説明対象となる。減弱又は吸収係数μが物質の元素組成の特性を示す形態でエネルギーに応じて変動することが知られている。言い換えると、X線エネルギースペクトルは、放射されたとき、物体を通したその通過中に特徴的な「着色」を経る。経路に沿った試料を通した全体的な減弱は、また、物質に特有の減弱係数の線形結合、及び、試料内のそれぞれの物質を通したそれぞれの線積分として表され得る。C Schirraらの「Statistical Reconstruction of Material Decomposed Data in Spectral CT」、IEEE Trans on Medical Imaging、vol 32、No 7、2013年7月における1250ページの式(1)、又は、より以前の参考文献RoesslらのPhys.Med.Biol 52.(2007)、4682ページの式3を参照されたい。関心のある物質ベースの要素の各々に対して区別可能な画像を実現するためにスペクトルCT画像形成においてこれらの事実を利用することが試みられ、全体的なタスクは、検出された信号を様々な材料に特有の線積分に分解することである。言い換えると、検出器において検出された電気信号は、後でさらに詳細に説明される手法で、エネルギービン(異なるエネルギー区間)の観点からスペクトル的に分析される(「ビニングされる」)。
【0046】
スペクトル的に処理されたデータは、次に、次のステージである画像信号処理ステージISSPに転送される。これは、再構成器RECONを含む。再構成器RECONは、処理されたデータから異なる材料の各々に対する特徴的な画像を再構成するように動作する。言い換えると、再構成器RECONが、検出された光子のスペクトル特性に基づいて、検出器Dにより生成された信号を選択的に再構成するときに、要素分解が達成される。例えば、ビニングされたデータは、例えば骨、有機組織、脂肪、及び/又はその他のものなど、異なる光子吸収特性をもつ異なる種類の有機物質を全体的に分離するために、造影用物質の位置を特定するために、及び/又はスペクトル特性に基づいて、検出された信号を別様に処理するために使用され得る。試料はX線源の回転中、異なる投影方向にわたって放射線にさらされるので、関心のある物質に関連した内部の断面表現が再構成され得る。
【0047】
ここでより詳細にスペクトル処理について言及すると、エネルギースペクトル情報は、パルス高分析(PHA:pulse height analysis)を通して抽出される。PHAは、図1の実施形態において、画像検出ステージの光子カウント回路PCTを介して実施される。光子カウント回路PCTは、検出器ユニットDの半導体ボディCMに結合される。PCT回路は、様々な検出器ピクセルpxと相互作用する。変更を加えられたX線ビームの光子の各々が、特定のエネルギーをもつ。簡潔に述べると(特に、差し当たり、パイルアップ効果に起因した確率的側面を無視すると)、このエネルギーは、検出器ユニットDと相互作用するとき、光子によりもたらされる電気パルスの(パルス高の)大きさと正比例の関係をもち得る。
【0048】
PCT回路についてさらなる詳細を提供する前に、ここで図2を参照して、検出器ユニットDの光子検出動作についてより詳細に説明する。図2は、検出器DのX線放射線感応面に直交した断面における、検出器Dを横断する断面図を提供する。検出器は、好ましくは自由電子及び正孔が(大幅に)空乏化された、適切な半導体材料から形成された半導体ボディCMを備える。半導体材料検出器ボディCMは、X線源212に近い近位面と、ボディCMの他方側におけるこの面の反対側の、X線源212から遠位(より遠く)にある遠位面とを備える。複数のピクセル電極パッドPPが、遠位面上に配置される。それぞれのパッドPPの反対側における、ボディCM内のそれぞれの部分が、パッドPPと一緒に、それぞれの検出器ピクセル(又は略して「ピクセル」)を形成する。ピクセルは、(本明細書において「ピクセル寸法」とも呼ばれる)特定のピクセルピッチsxをもち、通常、半導体ボディCMの遠位面に交差する線(「行及び列」)に沿ったグリッドパターンとして配置される。ピクセルの1つの線のみ(例えば行)が、断面の図2に示され、他方の線(例えば「列」)は、図2の描画面内に広がる。完全性を期すと、さらにアノード(パッド)ギャップdxが存在する。アノードギャップdx及びピクセルピッチsxは、検出器面にわたって同じとは限らないことが理解される。
【0049】
ボディにわたる1つ又は複数のカソード(図示されない)が、半導体ボディCMの近位面に配置される。電圧は、近位側電極とピクセル電極との間においてボディCMをまたいで印加される。動作時、当たるX線ビームの光子phが、半導体CMボディ内まで突き抜け、電子・正孔ペアの電荷雲CCをもたらす。電界の影響下で、これらは、バイアス電圧によりピクセル電極に向かってドリフトにより離れ、ピクセル電極のうちの1つ又は複数において拾われ得る電気パルスをもたらす。
【0050】
光子カウント回路PCTにより処理されるのは、検出器ピクセルpxにおけるこれらの電気パルスである。この目的を達成するために、各ピクセル電極が、各ピクセル電極の電荷を光子カウント回路に送達する個々の信号線(又は「チャンネル」)により、光子カウント回路と結合される。所与のピクセルpxにおいて検出された電気パルスの高さは、衝突する光子phのエネルギーに依存する。光子エネルギーが高い程、それぞれのピクセルpxにおいて検出され得るパルスの大きさがより高い。
【0051】
一実施形態によると、ピクセルpxにおいて生成された電気パルスは、以下の手法で、光子カウント回路PCTにより処理される。
【0052】
前置増幅器220は、ピクセル218のうちの任意のものにより生成された各電気信号を増幅する。
【0053】
パルス整形器222は、検出された光子に対する増幅された電気信号を処理し、電圧などのパルス、又は検出された光子を表す他のパルスを含む対応するアナログ信号を生成する。そのように生成されたパルスは、既定の形状又は外形をもつ。この例において、パルスは、検出された光子のエネルギーを表すピーク振幅をもつ。
【0054】
エネルギー弁別器224は、アナログパルスをエネルギー的に弁別する。この例において、エネルギー弁別器224は、アナログ信号の振幅を特定のエネルギーレベルに対応したそれぞれの閾値とそれぞれ比較する複数の比較器228を含む。隣接した閾値がエネルギービンを規定する。別の言い方をすれば、弁別器224は、整形器222により生成された入来パルスの「高さ」を特定するように動作する。より具体的には、各比較器228は、パルスの振幅がその閾値を上回ったか否かを表す出力カウント信号を生成する。この例において、各比較器からの出力信号は、パルス振幅が増加してその閾値を横断するときのローからハイへの(又はハイからローへの)遷移と、パルス振幅が減少してその閾値を横断するときのハイからローへの(又はローからハイへの)遷移とを含むデジタル信号を生成する。
【0055】
例示的な比較器の実施形態では、各比較器の出力は、振幅が増加してその閾値を横断したときにローからハイに遷移し、パルス振幅が減少してその閾値を横断したときにハイからローに遷移する。
【0056】
カウンター236は、各閾値に対してそれぞれ、立ち上がり(又は、いくつかの実施形態では、立ち下がり)エッジをカウントする。カウンター236は、単一のカウンター又は各閾値に対する個別のサブカウンターを含む。任意選択的に、両側型のビンのみの場合、エネルギー閾値間の範囲に対応したカウント数をエネルギー範囲又はビンにエネルギービニングするか、又は割り当てるエネルギービナー240が存在する。実際、高フラックスを伴う好ましい実施形態では、範囲へのビニング動作がなく、検知されるのは純粋に閾値横断のカウント数である(すなわち、片側型のビニング)。
【0057】
カウントデータ(本明細書では、さらに以下でより詳細に説明されるΠと表記される)は、次に、検出された光子をエネルギー分解するために使用される。別の言い方をすれば、PCT信号処理チェーンは、各入来パルスのパルス高を、電圧閾値の数により規定されたエネルギービン内に量子化するように動作する。K(K≧2)個の(電圧、アンペア数、又はエネルギーを表す他の物理量の)閾値が、閾値のそれぞれより高いパルス高を記録するために、K個の異なるエネルギービンを規定することが可能である。例えば、エッジが閾値のうちの2つを越えて立ち上がる(すなわち「横断する」)パルスは、2つの閾値のそれぞれに関係した2つのビンの各々に対するカウントをもたらす。低い方の閾値のみが横断された場合、例えば1カウントのみとなる。しかし、これは一例にすぎず、いくつかの実施形態において、立ち下がりエッジのみがカウントをもたらすが、又は、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジとの両方がカウントをもたらす。
【0058】
PCT回路はその出力において、各ピクセルpxに対して、単位時間に記録された各ビンにおける多くのカウントを提供する。ビン及びピクセル当たりのこれらの光子カウントレートは、本明細書において投影光子カウントデータと呼ばれ、カウントレートのベクトル
【数1】
を使用して、正式にはΠ=(m、.....mと記述され、ここで、iはそれぞれのピクセルを表し、1≦k≦Kは使用されるエネルギービンの数を表す。別の言い方をすれば、mは、ビンkに当てはまる高さをもつパルスがピクセルiにおいて記録された、単位時間当たりの回数(カウント数)を表す。カウント数は、フレームレートにより正規化されて、カウントレート、すなわち単位時間当たりのカウント数を表す。しかし、正規化は必須ではなく、提案されるシステムは非正規化カウントデータに対してさらに動作してもよい。2つ、又は3つ以上のエネルギー閾値が存在する。このようなCT又はCアームといった回転システムでは、記録されたカウントレートは、異なる投影方向に対して異なってもよいので、上述の観念は、投影方向に対する追加的な添え字により補完される。この後者の場合、Πはサイノグラムを形成する。以下は回転3D画像形成に限定されないので、この動作が他の投影方向に対して収集された投影カウントデータに容易に拡張されるという理解のもとに、所与の投影方向との関連で画像形成システムの動作を説明する。
【0059】
上述の直接変換検出器D及びPCT回路の各々が、例示的な実施形態にすぎず、限定するとは限らず、どのような形式であるかによらず変形例が上述の投影光子カウントレートΠを出力する限り、代替的な実施形態として本明細書において明示的に想定される他の構造上の変形例を含むことが留意されなければならない。
【0060】
さらにシステムを説明する前に、画像処理システムの機能に関係したいくつかの概念及び関係する物理的な/技術的な効果を簡潔に紹介することが有用である。検出メカニズムに関係して、単一のピクセル電極によるだけでなく、複数の(主に隣接した)ピクセル電極によっても電荷雲が検出されることが可能であることが観測された。この効果は「電荷共有」と呼ばれる。電荷共有はスペクトル性能を低下させ、ピクセル寸法を小さくするにつれて、ピクセル寸法に対する電荷雲の寸法が増加するので、スペクトル性能の低下が進む。別の効果は、PCT読み取り電子機器のタイミング分解能が、検出された電気信号を分離したパルスとして分解するには不十分な場合の、パルスパイルアップである。これに関係するのが、検出器システムのいわゆる「不感時間」である。これは、前の光子カウントから、カウントシステムPCTが新しい後続のカウントを検知可能となるために経過する必要のある時間である。別の言い方をすれば、以前のイベントによりトリグされた不感期間の満了前に発生する光子イベントは、以前のイベントから独立して検知されず、光子イベントの検知が誤ったものにされるか、又は光子イベントが独立したイベントとしてまったく検知されないことになる。不感時間の満了前に発生するこのような「早すぎる」光子カウントイベントは、実際に、不感時間が新たに経時されるように始動されることをもたらす。カウント回路は、従って、「麻痺型」と表現される。
【0061】
ここまでに簡潔に説明されるように、検出された投影光子カウントデータΠは、(フィルタ処理)逆投影、(代数的又は統計的)反復再構成スキーム、又は他のものなどの、ある範囲の異なる再構成アルゴリズムのうちの任意の1つを使用して投影データΠから画像領域の断面像を再構成するために構成された画像信号処理システムISPに転送される。
【0062】
再構成器コンポーネントRECON自体は、測定された投影カウントデータΠを対象として直接的に動作することができない。画像信号処理システムISPは、各ピクセル位置に対して、1つ又は複数の(好ましくはすべての)ビンにおけるそれぞれのカウントレートを、ピクセル位置に対する経路長値に変換するように構成された経路長変換器PLCを備える。それは、ピクセル当たりの経路長に変換され、ピクセル当たりの経路長は、ピクセル当たりの経路長から断面像を再構成する再構成器RECONに転送される。
【0063】
提案される経路長変換器PLCの動作をより適切に理由付けし、より詳細に説明するために、まず、光子カウントシステムの性能について概略的に説明する関連した概念を紹介することが有益である。特に、光子カウント画像形成システムの性能は、レート性能及びスペクトル性能により特徴付けられ得る。レート性能は、例えば、パルスパイルアップにより影響を受ける光子カウントイベントのパーセントにより定量化され得る。スペクトル性能は、検出器Dの応答関数により、又は、物質ベースの画像内のノイズ量により定量化され得る。
【0064】
これらの2つの性能特性は、検出器ピクセルの寸法に依存する。より具体的には、ピクセル寸法s(x)が小さいほど、概してレート性能が高いが、スペクトル性能が低い。図3は、これをより詳細に示す。より具体的には、図3は、任意のピクセル位置に関して、それぞれピッチs(x)に従った異なるピクセル形状に対する、異なるkeV値における、異なる(例えばK=3)エネルギー閾値/ビンに対する、吸収体の厚さの関数としての対数で表された出力カウントレートのシミュレーションを示す。図3a)に示す曲線は、小さなピクセルピッチの場合の例を表すのに対し、図3b)は、より大きなピクセルピッチの場合の例を表す。両方の例が、検出器システムの同じ不感時間に対応する。
【0065】
図3に例示的に示されるように、より小さなピクセルピッチ構成(図3a)は、より大きなピッチ構成(図3b)に対する非単射曲線に比べて、X線フラックスの関数としての任意の所与の単一のエネルギービンにおいて検知されたカウントの関数的な曖昧さを完全に防いでいる。このような、より大きなピクセルピッチ構成及び小さな減弱長に対して、大幅なパイルアップが発生する。電荷共有の増加が必然的な結果であり、小ピクセルを使用した設計のスペクトル性能を制限する。
【0066】
それぞれのピクセルにおいて検知されたカウントレートは、検出された光子による検出器Dの半導体材料CMへの衝突前に、その検出された光子が移動するときにたどった物質(例えば組織)の経路長に依存する。図3の曲線は、このカウント対経路長の関係を示す。これらの曲線は、それぞれのエネルギービンに依存するだけでなく、ピクセル間距離/ピクセル寸法及び使用されるフラックスレートにも依存する。提案されることは、図3(b)の曲線が個々の曲線の各々に存在する曖昧さにかかわらず、有効減弱長を特定することを可能にするという事実を使用することである。これは、出力カウントレート曲線のそれぞれの最大(図3b)が、エネルギー閾値に依存し、異なる吸収体の厚さにおいて発生するという観察に基づく。光子カウントX線画像形成システム(例えばCT、又は他のもの)の設計者が、ピクセル寸法の選択をより自由に行うこと、すなわち、より大きなピクセル寸法を使用することを可能にするために、まさしくこの観察が利用され得ることが出願人により見出された。これは、続いて、レート性能が依然として許容範囲に留まった状態で、さらに著しく大きなピクセルを含むCT画像の再構成を可能とし、従って、スペクトル性能の大幅な改善を可能にする。
【0067】
最初に、校正手順において撮像器IAの異なるエネルギービンに対する、(本明細書において校正曲線と呼ばれる)カウントレート対経路長曲線を測定すること、及び、これらを校正データとして校正メモリCMEMに記憶することが本明細書において提案される。次に、経路長変換器モジュールPLCが、測定された光子カウント数Πから校正データに基づいて、それぞれの経路長を演算するように動作し、次に、それぞれの経路長が、一実施形態において再構成を実施する再構成モジュールRECONに転送される。
【0068】
ピクセル寸法及び/又は使用される光子フラックスは、図3bに示されるものと形状が同様の非単射校正曲線が取得されるように構成される。すべての校正曲線が非単射とは限らない。好ましくは、光子フラックスが与えられ、ピクセル寸法sxは、少なくとも1つの(場合によってはすべての)校正曲線が1対1ではないように選択された設計パラメータである。代替的に、又は、それに加えて、曲線のうちの少なくとも1つが依然として1対1であることを達成するために、PCT回路における閾値のうちの1つ又は複数が十分高く設定される。1つ(又は複数)の1対1の曲線をもつ、及び1対1ではない少なくとも1つの曲線を含むことは、以下でさらに説明されるようにアルゴリズムにより利用され得る。
【0069】
画像信号処理ステージISPのコンポーネントが、図4のブロック図により詳細に示される。投影データΠは、信号処理ステージISPの入力ポートINにおいて受信可能である。Πは、次に、経路長変換器PLCにより処理されて、メモリCMEM内の校正データに基づいて、それぞれのピクセル位置に対してそれぞれの経路長を生成する。これらの経路長は、例えば効果的な校正用物質のミリメートル表記で、又は任意の他の適切な長さの単位で返される。回転画像形成環境(CT又はXアームなどの)では、経路長は、経路長データlに対する断面像を再構成する再構成ユニットRECONに転送される。次に、再構成された画像が出力ポートOUTに出力され、再構成された画像は、ハウンズフィールド単位又は他のものなどの、減弱値にさらに変換され得る。次に、再構成された画像は、(例えばPACS又は他のメモリ)画像記憶部に記憶されるか、又は、モニターMTにおいて可視化器252により可視化されるなど、別様に処理され得る。異なる投影方向に対する検知されたカウントレート光子カウント投影データπは概して異なるので、変換器PLCによる上述の経路変換処理は、各投影方向に対して繰り返されることが理解される。例えばコンピュータ断層撮影CT又はCアーム/Uアームシステムにおけるコンピュータ断層撮影又は回転画像による画像形成は好ましい実施形態であるが、このことは、固定ガントリー放射線撮影システムを排除するわけではない。固定ガントリー放射線撮影システムの実施形態では、再構成ステージRECONがない。変換された経路長lの画像は、次に直接可視化、記憶、又は別様に処理される。しかし、有効経路長への変換は、従来のCT画像と同様の、又は従来のCT画像に「近い」画像を生成することを可能にするので、有効経路長への変換は、多ビン光子カウント検出器を使用した画像形成の一態様にすぎないことが理解される。スペクトル画像形成タスクに対して、異なるベース物質画像への画像信号の分解などの他の処理ステップが、もちろん本明細書において排除されず、経路長変換と無関係であり得るか、又は、それに基づいて実行され得る。
【0070】
上述のように、校正データは、校正手順により取得され得る。この目的を達成するために、試験用ボディ(疑似物体)が、検出器に配置され、所望のフラックスレートで撮像器の放射管212からのX線放射線にさらされる。次に、疑似物体の各経路長のために、任意の検出器ピクセルにおいて検知された、それぞれのビンに対する関係するそれぞれのカウントレートが記憶される。この改良例として、各ピクセルに対して、又は、少なくとも検出器Dの異なるピクセルグループ(領域)に対して、校正データの異なるセットが獲得される。言い換えると、所与のピクセルに対して、エネルギービン当たり、経路長を変えることにより異なるカウントレート対経路長曲線が測定される。校正用疑似物体は、異なる経路長を実現するために段階的な外形をもつか、又は異なる高さをもつ異なる疑似物体ブロックのセットが使用される。一実施形態において、疑似ボディは、適切な熱可塑性物質、例えばポリオキシメチレン(例えばDelrin(登録商標)又は他のもの)から形成される。しかし、他の適切な校正用疑似物質、例えばポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリオキシメチレン(POM)、Teflon(登録商標)、又は他のものも本明細書において想定される。好ましくは、疑似物質は、ヒト軟組織のスペクトル減弱特性にできる限り一致するべきである。特に、疑似ボディ物質は、水のスペクトル減弱特性に対応するように選択される。
【0071】
各ビンに対して測定された曲線及び疑似物体経路長は、配列データ構造体、ポインター構造体、又は他のものに効果的に記憶される。しかし、カウント対経路長曲線を符号化する他の手法も想定される。例えば、他の実施形態において、曲線は、離散経路長データ点を校正により取得された関係するカウントレートにフィッティングする、例えば多項式、スプラインなどの任意の適切な数値近似技術を使用して取得された明確な関数関係として記憶される。特に、校正曲線cは、参照テーブル(LUT:look-up table)、又は他のものに記憶される。
【0072】
本明細書において使用される提案される経路長変換器PLCは、校正曲線の非単射性に起因した曖昧さを克服するように構成される。これは、所与のビンに対する校正曲線に基づくだけでなく、別のビンに対する少なくとも1つ(又は複数)の追加的な曲線にも基づいて、その所与のビンに対するそれぞれの経路長に変換することにより達成される。この追加的な「補助」校正曲線は、同じピクセルに対する別のエネルギービンのものであるが、校正データにおける任意の他の校正曲線が使用されてもよい。好ましい一実施形態では、所与のピクセル位置に対する経路長を演算するとき、すべての利用可能なビンからのすべての利用可能な曲線が使用される。経路長を演算するために、経路長変換器は、測定されたカウントレートと、すべてのビンの校正曲線により予測された予期されるカウントレートとの間の不一致を最小化することにより、最小化処理を実施する。フィッティングは、i)測定されたカウントレートとii)2つ以上の校正曲線に従ったカウントレートとの間の「不一致」に関する情報を組み合わせるオブジェクト関数を定式化することにより定量化され得る。オブジェクト関数は、次に、測定されたカウントΠに最良にフィットするか、又は測定されたカウントΠを「説明」する2つを上回るもの(特にすべてのビン)に対する校正曲線に従って、関係する経路長の観点から最適化される。フィットずれはオブジェクト関数の値により表され、それはフィットずれを最小化するための目標である。例示的な実施形態は、最小二乗和(以下でさらに説明される式(1)を参照されたい)、最大尤度などの確率論的方法、又は他のものを含む。任意の数値最適化アルゴリズム、例えばニュートンラプソン、又は他のものが、変換を達成するために算出対象とされた経路長を得るためにオブジェクト関数を解くために使用され得る。
【0073】
本明細書において使用される個々のビンの校正曲線の非単射性自体は、非単射校正曲線(例えば図3a)の例に関する反転による直接的な変換とは認められない。しかし、本出願人は、これが見かけの欠点にすぎないと認識している。校正曲線cのうちのいくつかの非単射性を理由として、同時にいくつかのビンのカウント数を使用することにより、推定経路長に関連した曖昧さを解決するために、より多くの測定値が必要とされる。この多ビン使用は、提案される経路長変換をノイズに対して堅牢にすることが観測された。加えて、上述のように、スペクトル性能が改善される。これはサイノグラムにおける最も決定的なピクセル点(「最もホットな点」)においても1対1の挙動をとることを可能にする小さなピクセル寸法に対する代替的な設計上の選択肢と対比される。この「1対1の」アプローチでは、画像情報が隠される、すなわちレート性能が非常に小さい患者を通した放射線/位置に沿ったサイノグラムの大部分においても、スペクトル性能が意図的に犠牲にされるので、本明細書ではこのパラダイムに従わないことが提案される。
【0074】
提案されるシステムがより高いノイズレベルにより大幅な影響を受けない妥当なレート性能をさらに実現することが、図5の例示的な画像に示される。画像は、疑似物体に基づくシミュレーション観察により取得された。より具体的には、図5はピクセル寸法に依存した画像ノイズの増加を示し、図5aでは小寸法であるのに対して、図5bではより大きなピクセル寸法となっている。(本開示では示されない)スペクトル性能における利得は、わずか3%のこの非常に小さなノイズの増加を大幅に上回る。図5は、疑似物体の周辺エリアにおいてのみ、より大きなピクセルピッチに起因した(従って、光子フラックスに対するDQEのより速い低下に起因した)画像ノイズの増加が測定され得ることを示す。言い換えると、本観察は、診断上の関連性がほとんどないエリアにおける、画像ノイズに対するとるに足らない影響のみを示す。
【0075】
ここで、提案される経路長変換器PLCにより実施され得る画像信号処理方法のフロー図を示した図6を参照する。しかし、後述の提案される方法は、さらにそれ自体から理解され得、上述の図4に示すアーキテクチャに関連するとは限らないことが理解される。
【0076】
ステップS610において、X線画像形成装置IAの光子カウント検出器システムD、PCTを使用して獲得された投影光子カウントデータΠが受信される。このデータは、単一方向からの光子カウントデータを含むか、又は、例えばCT又は他の回転X線システム(Cアーム)において複数の方向から取得された光子カウント投影データを含む。
【0077】
ステップS620において、投影データ内の光子カウントレートが、次に、校正データに基づいてそれぞれの経路長に変換される。経路長は、任意の適切な長さ規模で指定される。ステップS620における変換動作が、所与の検出器ピクセル位置に対して、及び、所与のそれぞれのエネルギービンに対して、Π内のそれぞれの光子カウントレートエントリーをそれぞれの経路長lに変換する。経路長の集合をそのように取得するために、各検出器ピクセル位置及び各ビンに対して変換が繰り返される。適切な場合には、このステップは、例えばCTにおける各投影方向に対してさらに繰り返される。
【0078】
(異なる投影方向から適用可能な)経路長の集合が、次に、ステップS630において、断面像の画像要素に再構成される。
【0079】
ステップS620において使用される校正データは、異なるエネルギービンに対して、光子カウント検出器システムD、PCTを含むX線画像形成装置を使用してここまでに説明される校正手順により取得されたそれぞれの光子カウント対経路長曲線を含む。例えば、特定のタイプの検出器に対して校正手順が実施され、そのように取得された校正データは、次に、同じ種類の検出器を含む他の画像形成装置において使用され得る。しかし、好ましくは校正手順は、各検出器又は撮像器に対して個々に実行される。実験に基づく校正手順を実施することに代えて、特に確率論的方法を使用して信号モデルから校正曲線が導出されてもよく、これについては図6について説明するときに、以下でさらに説明される。
【0080】
一実施形態において、経路長が推定された後、すなわち、フラックスが知られた後、個々のビンのパイルアップ効果に対して非線形校正曲線を修正するさらなるステップが存在することが留意されなければならない。そのように修正されたデータから、次に、ビンがパイルアップによる影響を受けないと仮定した場合の物質の分解が導出され得る。
【0081】
撮像器におけるフラックスレートに対するピクセル寸法は、異なるエネルギービンに対して記録された校正曲線のうちの少なくとも1つ若しくは複数、又はすべてが非1対1の挙動を示すような手法で、意識的に構成される。言い換えると、曲線は、ビンごとのレベルにおいて、伝統的な言い方をすると一意的に可逆ではないが、それは、過度なレート性能を与えずにサイノグラム内の点のうちの大部分に対するスペクトル性能を高めることを可能にするので、本明細書においてこれは容認される。
【0082】
ステップS620において、提案される変換ステップは、所与のピクセル位置及びビンに対して、2つ以上の校正曲線、すなわち、所与のビンに対する校正曲線、及び同じピクセルの他のビンのうちの1つの他の一曲線を使用することにより、この曖昧さに対処し得る。
【0083】
一実施形態では、2つの曲線のみが変換のために使用されるが、好ましくは2つを上回る利用可能な曲線、特にすべてのビンからのすべての利用可能な曲線が、所与の経路長変換のために一度に使用される。観測されたカウントレートは、校正データに従ったカウントレートにフィッティングされる。
【0084】
単純な実施形態が、図7に示される。説明を簡単にするために、2つの異なるエネルギービンBIN_1及びB2に対する2つの校正曲線cBIN_1、cBIN_2のみが示される。次に関心のある物体(例えばヒトである患者又は動物)を画像形成したときに、ビンBIN_1において、特定のカウントレートC1が検出されると仮定する。このBIN_1に対する校正曲線cBIN_1に基づく参照動作は、次に、変換のための2つの可能な経路長、すなわちl又はlを導き出す。この曖昧さは、曲線が1対1ではないことの結果である。次に、この曖昧さを解決するために、他方のビンBIN_2に対する第2の、特に隣接した曲線BIN_2を使用することが本明細書において提案される。図7に示されるように、この第2の補助校正曲線は、その最大値を経路長軸上の異なる位置にもつ。第1の曲線cBIN_1からの2つの推定、又は「候補」経路長l又はlを使用して、この時点で、校正曲線cBIN_2において2つの予測カウントレート
【数2】
及び
【数3】
が演算/参照され得る。他のビンBIN_2において実際に測定されたレートC2からの、予測カウントレートの偏差が次に比較される。アルゴリズムは、次に、2つの経路長l又はlのうち、cBIN_2のもとでの予測カウントが補助ビンBIN-2において実際に検知されたカウントレートC2に最も近い1つを返す。このフィッティング手順は、ビンBIN_2におけるC2の読み取りから始めて、次に、決定要因としてBIN_1に対する校正曲線及びカウントC1を使用することにより経路長に対する推定値を取得することにより、逆もあり得ることが明らかである。
【0085】
図7に示す方法は、ノイズ寄与の高い状態で、劣る結果をもたらすことが観測される。従って、(2つのビンからだけでなく)すべての残りのビンからの情報が使用される、より進んだ図7の実施形態が本明細書において提案される。例えば、図7におけるアプローチの1つの改良例において、校正曲線のうちの少なくとも1つが1対1となるように、PCTにおける閾値のうちの少なくとも1つが高く設定される。関係するビンに対する変換が、次に、単純化され、次に、さらに良好なノイズ堅牢性を達成するために、すべての他のビンに対する決定要因として1対1の校正曲線をもつビンを使用するように変換器PLCがプログラムされる。
【0086】
図7のアプローチのさらなる改良例では、他のビンにわたって「近い」一致を探索する図7における論理的根拠が、ビンにわたって測定されたカウントデータとの累積された一致をそのように最適化するために、複数の(特にすべての)ビンにわたる最小二乗和など、オブジェクト関数の観点から定式化される。オブジェクト関数は、次に、所望の経路長への変換をそのように有効にするように最適化される。
【0087】
より詳細には、校正曲線c(l)(iはビンを表す)が与えられて、少なくとも1つ又はすべてが、図3(b)と同様に非単調であると仮定すると、次に、エネルギー感応性光子カウント検出器の各エネルギー閾値U...Uに対する測定数M(例えば上述の図3(b)の例に見られるM=3)個のカウントmの集合が与えられた場合、フォトカウントを校正用物質Dの有効長lに変換することが可能である。変換は、例えば校正用物質Dのlの有効厚さに対して次のオブジェクト関数を最小化する最小二乗アプローチを使用することにより、フィッティング処理により達成され得る。
【数4】
【0088】
式(1)に従ったオブジェクト関数は、次のように書き直され得る。
【数5】
ここで、オブジェクト関数はこの時点で、例えば、検出器モジュールによりもたらされる画像ノイズを説明するノイズ分散
【数6】
などのコンポーネントを含む。式(1a)を介した定式化は、低ノイズ経路長lの解を出すために使用され得る。c(.)曲線と同様に、所与のピクセル位置に対する測定値が多くの回数取得され、次に、これらの測定値が分散の推定値を取得するために第2の試料の中心積率の式に組み合わされる校正手順により、分散の推定値が取得され得る。校正測定値を得ることに代えて、ノイズ推定値が信号モデルから演算される。
【0089】
式(1)又は式(1a)を最小化することによる経路長lの推定後、すべてのビンの出力の各々に内在する曖昧さが解決される。次に、サイノグラムにおけるすべての読み取り値に対するD値の従来の再構成が実施されて、パイルアップに起因したアーチファクトがないか、又は、パイルアップに起因したアーチファクトが少なくとも低減された画像をもたらし得る。
【0090】
代替的に、測定されたデータの同時確率密度関数(pdf)が閾値U...Uの各々に対して知られている場合、経路長変換を実現するために尤度最大化アプローチが使用され得る。このアプローチは概して、パイルアップ効果に対する順信号モデルを必要とし、順信号モデルにより、観測されたカウントのpdfが入射カウントから導出され得る。一実施形態において、統計量に対するパイルアップの影響を無視してカウントをモデル化するために、両側型のエネルギービンにおいて検知されたカウントに対して、独立ポアソンpdfが使用される。片側型のビンが使用される場合、統計的独立の仮定はもはや保たれず、pdfを定式化するときに共分散が考慮される必要がある。一実施形態によると、E Roesslらの「Fourier approach to pulse pile-up in photon-counting x-ray detectors」、Med.Phys.43、1295ページ(2016)により説明されるパイルアップモデルが使用されるが、本明細書において他のモデルが除外されるわけではない。
【0091】
より一般的には、最小二乗和の式(1)、(1a)以外のオブジェクト関数が代わりに使用されてもよく、次にこれが、最小値を得るために最適化される。オブジェクト関数は概して、実際にカウントされたmの投影データと、校正曲線からの予期されるc(l)となる光子カウントイベントとの間における不一致を適切なノルム||.||で定量化する関数コンポーネント||m-c(l)||を含む。これらの関数コンポーネント||m-c(l)||は、不一致の全体的なコストを定量化するために、オブジェクト関数により適切なスカラー値(||.||)に組み合わされる。
【0092】
経路長変換に関与する上述の参照及びフィッティング処理において、好ましくは、校正手順からの測定されたサンプル経路長間において、経路長軸に対して補間するために実施される補間ステップが存在することが留意されなければならない。従って、提案される方法及びシステムは、校正に従った離散空間に制限されず、それが連続的であるかのように経路長軸に対して動作し得る。しかし、これは、経路長変換が離散的に実施される場合の、すなわち、変換が校正の離散サンプル経路長に制限される場合の、より簡単な実施形態を排除しない。
【0093】
提案される方法及びシステムのおかげで、撮像器のX線源212は、フラックスレートの逆数が検出器ユニットDの不感時間の逆数に概ね等しいか、又は検出器ユニットDの不感時間の逆数を大幅に上回る(約3倍~約5倍)ような光子フラックスレートで、物体画像形成中に動作可能である。言い換えると、撮像器は、個々のエネルギー閾値/ビンの検知されたカウントの麻痺型出力最大値に対応したフラックスレートより上で動作され得る。
【0094】
上述の説明において、校正データは概して、エアスキャンにより収集された光子カウントデータをさらに含むことに留意しなければならない。エアスキャンは、検査領域内に存在する物体が存在しない場合のものである。次に、このエアスキャンデータが使用されて、関心のある物体が画像形成領域内に存在する間の投影データと比較される。次に、上述の経路長変換が、エアスキャンにおいて収集された投影データに対して、及び、物体スキャンにおいて収集された投影データに対して行われる。次に、2つのスキャンからそのように取得された経路長が、減弱データをそのように導出するために比較され、次に、減弱データが、再構成器RECONにおいて断面像へと再構成される。画像処理システムISPのコンポーネントは、単一のソフトウェアスイートにおいてソフトウェアモジュール又はルーチンとして実施され、及び、撮像器IMに関係したワークステーション又は撮像器のグループに関係したサーバーコンピュータなどの汎用演算ユニットPUにおいて動作する。代替的に、画像処理システムISPのコンポーネントは、分散アーキテクチャにおいて構成され、適切な通信ネットワーク内に接続されてもよい。
【0095】
代替的に、一部又はすべてのコンポーネントが、適切にプログラムされたFPGA(フィールドプログラム可能ゲートアレイ)などのハードウェアにおいて、又は、検出器Dシステムのための回路内に含まれるPCBモジュールにおいて配線で接続されたICチップとして構成されてもよい。
【0096】
ここまでの説明では、変換器が、有効物質経路長lに変換するが、これは、有効経路長と同等の任意の他のパラメータに変換することも本明細書において想定されるので、広く考慮されなければならない。さらに、上述の式のうちの任意のものに関係して、これらの数学的に同等な再定式化も本明細書において想定される。
【0097】
本発明の別の例示的な実施形態において、適切なシステムにおいて先行する実施形態のうちの1つに従った方法の方法ステップを実行するように適応されることにより特徴付けられたコンピュータプログラム又はコンピュータプログラム要素が提供される。
【0098】
従って、コンピュータプログラム要素がコンピュータユニットに記憶されてもよく、これも本発明の一実施形態の一部である。この演算ユニットは、上述の方法のステップを実施するように、又は上述の方法のステップの実施を誘導するように適応されてもよい。さらに、それは、上述の装置のコンポーネントを動作させるように適応されてもよい。演算ユニットは、自動的に動作するように、及び/又はユーザーの命令を実行するように適応され得る。コンピュータプログラムは、データプロセッサの作業メモリにロードされてもよい。データプロセッサは、従って、本発明の方法を実施するように装備されてもよい。本発明のこの例示的な実施形態は、まさに最初から本発明を使用するコンピュータプログラムと、更新により既存のプログラムを、本発明を使用するプログラムに変換するコンピュータプログラムとの両方をカバーする。
【0099】
さらに、コンピュータプログラム要素は、上述のような方法の例示的な実施形態の手順を満たすすべての必要なステップを提供することが可能であってもよい。
【0100】
本発明のさらなる例示的な実施形態によると、CD-ROMなどのコンピュータ可読媒体が提示され、コンピュータ可読媒体は、コンピュータ可読媒体に記憶されたコンピュータプログラム要素を含み、このコンピュータプログラム要素はこれまでのセクションにより説明される。
【0101】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一体的に、又は他のハードウェアの一部として供給される、光記憶媒体又はソリッドステート媒体などの適切な媒体(特に、限定されないが、非一時的媒体)に記憶及び/又は分散されてもよいが、例えばインターネット又は他の有線又は無線電気通信システムを介して、他の形態でも分散されてもよい。
【0102】
しかし、コンピュータプログラムは、また、ワールドワイドウェブといったネットワークを通じて提示されてもよく、このようなネットワークからデータプロセッサの作業メモリにダウンロードされ得る。本発明のさらなる例示的な実施形態によると、ダウンロードのためにコンピュータプログラム要素を利用可能にする媒体が提供され、このコンピュータプログラム要素が本発明の上述の実施形態のうちの1つに従った方法を実行するように構成される。
【0103】
本発明の実施形態が異なる主題との関連において説明されることに注意が必要である。特に、いくつかの実施形態が方法形態の請求項に関連して説明されるのに対して、他の実施形態はデバイス形態の請求項を参照しながら説明される。しかし、当業者は、上述の内容と以下の説明とを参照して、別段の記載がない限り、1つの形態の主題に属する特徴の任意の組み合わせに加えて異なる主題に関する特徴の間の任意の組み合わせも本出願において開示されるとみなされることを理解する。しかし、すべての特徴が組み合わされて、特徴の単なる足し合わせを上回る相乗効果を提供し得る。
【0104】
図面及び上述の説明において本発明が詳細に例示及び説明されるが、このような例示及び説明は例示又は一例とみなされ、限定とはみなされない。本発明は、開示される実施形態に限定されない。図面、本開示、及び従属の特許請求の範囲の考察により、請求項に記載された発明を実施する当業者により、開示される実施形態に対する他の変形例が理解及び実現され得る。
【0105】
特許請求の範囲において、「備える」という用語は、他の要素もステップも排除せず、「1つ(a)」又は「1つ(an)」という単数表現の不定冠詞は、複数を排除しない。単一のプロセッサ又は他のユニットが、特許請求の範囲において列挙されたいくつかの項目の機能を果たしてよい。単に特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されるということは、利点を得るためにこれらの手段の組み合わせが使用されることができないということを示すわけではない。特許請求の範囲における参照符号は、いずれも特許請求の範囲を限定するように解釈されてはならない。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5a-5b】
図6
図7