(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】(メタ)アクリルシリコーン樹脂のエマルジョン組成物及び該組成物を含有した繊維処理剤、並びに該繊維処理剤で処理した繊維
(51)【国際特許分類】
C08L 55/00 20060101AFI20220502BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20220502BHJP
D06M 13/463 20060101ALI20220502BHJP
C08F 283/12 20060101ALI20220502BHJP
C08F 290/14 20060101ALI20220502BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20220502BHJP
C08L 51/08 20060101ALI20220502BHJP
D06M 101/02 20060101ALN20220502BHJP
D06M 101/16 20060101ALN20220502BHJP
【FI】
C08L55/00
D06M15/643
D06M13/463
C08F283/12
C08F290/14
C08K5/17
C08L51/08
D06M101:02
D06M101:16
(21)【出願番号】P 2019035766
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 翔太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-007740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08F283/12
D06M 13/463
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分及び(B)成分を含有することを特徴とする、エマルジョン組成物
(A)下記式(1)で表される単位
からなる直鎖状オルガノポリシロキサンにおいて該式中のR
2で示される基に(メタ)アクリル酸エステルがグラフト重合して成る(メタ)アクリルシリコーン樹脂、ここで前記オルガノポリシロキサン由来の部分と前記(メタ)アクリル酸エステル由来の部分との質量比が34:66~99:1である、前記(メタ)アクリルシリコーン樹脂
【化1】
(式中、R
1は、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは互いに独立に、上記Xで定義される基、又は-[O-Si(X)
2]
g-Xで示される基であり、gは1~200であり、X及びYで示される基のうち少なくとも2個はヒドロキシル基であり、Zは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、aは0以上の数であり、a~dの合計数に対して、bは45%以上100%未満となる数であり、cは0%超5%以下となる数であり、及び、dは
0.01%以上50%以下となる数であり、上記各シロキサン単位の結合順序は制限されるものでない)、及び
(B)カチオン系界面活性剤。
【請求項2】
前記(B)カチオン系界面活性剤の量が、前記(A)(メタ)アクリルシリコーン樹脂100質量部に対して1質量部~15質量部である、請求項1記載のエマルジョン組成物。
【請求項3】
上記式(1)において、R
1が、互いに独立に、炭素数1~20の、直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基であり、Xが互いに独立に、炭素数1~20の、直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基である、請求項1または2記載のエマルジョン組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸エステルが、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、請求項1~3のいずれか1項記載のエマルジョン組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載のエマルジョン組成物を含有する繊維処理剤。
【請求項6】
請求項5記載の繊維処理剤で処理された天然繊維又は化学繊維。
【請求項7】
(メタ)アクリルシリコーン樹脂のエマルジョン組成物の製造方法であって、
下記式(1)で表されるオルガノポリシロキサンとカチオン系界面活性剤とを含むオルガノポリシロキサンエマルジョン(a)に、(メタ)アクリル酸エステル(b)を、前記オルガノポリシロキサンと該(メタ)アクリル酸エステルとの質量比34:66~99:1となる量でグラフト重合反応させて、(メタ)アクリルシリコーン樹脂を含むエマルジョン組成物を得る工程を含むことを特徴とする、前記製造方法
【化2】
(式中、R
1は、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは互いに独立に、上記Xで定義される基、又は-[O-Si(X)
2]
g-Xで示される基であり、gは1~200であり、X及びYで示される基のうち少なくとも2個はヒドロキシル基であり、Zは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、aは0以上の数であり、a~dの合計数に対して、bは45%以上100%未満となる数であり、cは0%超5%以下となる数であり、及び、dは
0.01%以上50%以下となる数であり、上記各シロキサン単位の結合順序は制限されるものでない)。
【請求項8】
上記グラフト重合反応の前に、(a-1)環状オルガノシロキサン100質量部と(a-2)シランカップリング剤0.01~10質量部とを、カチオン系界面活性剤の存在下で乳化重合させて前記オルガノポリシロキサンエマルジョン(a)を得る工程を更に含む、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
カチオン系界面活性剤の量が、前記(a-1)環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.1~20質量部である、請求項8記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョン組成物に関するものであり、より詳しくは天然繊維や合成繊維に処理することで、洗濯前後において変化なくシリコーン特有の心地よい肌触りと撥水性を有する繊維処理剤を提供するエマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維処理剤の分野においてシリコーン系樹脂エマルジョンは、繊維処理剤として広く用いられてきた。
【0003】
シリコーン系樹脂エマルジョンは、柔軟性や心地よい肌触り、撥水性を付与することができる樹脂として知られている。例えば特開2000-96454号公報にはジメチルシリコーンとシリコーンゴム粉末を併用する事で柔軟性のある繊維処理剤が記載されているが、処理剤の物理的強度が低く、また繊維へ化学的に吸着する官能基が無いため、洗濯耐久性に大きく劣る。
【0004】
特開昭57-171769号公報に記載のように、メチルハイドロジェンシリコーン系樹脂エマルジョンは、昔から架橋剤を併用し架橋させることで洗濯耐久性があり、柔軟性や撥水性を付与することができるシリコーン系樹脂として知られているが、架橋による硬さが出て柔軟性や心地よい肌触りが落ちるという欠点がある。
【0005】
さらに特開2004-10732号公報には炭素数12~18のアクリルモノマーとシリコーンモノマー乳化物を混合後にアルコキシビニルシランと反応させる事でアクリルシリコーン樹脂組成物の繊維処理剤を提供することが記載されているが、当該繊維処理剤はシリコーン含有量が少なく柔軟性や撥水性が十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-96454号公報
【文献】特開昭57-171769号公報
【文献】特開2004-10732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、繊維に処理した場合、洗濯前後で柔軟性や心地よい触感、撥水性を維持する事ができる繊維処理剤を提供する、エマルジョン組成物及び繊維処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、カチオン系界面活性剤存在下で乳化重合して得たオルガノポリシロキサンエマルジョンに、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルをグラフト重合させてなる、(メタ)アクリルシリコーン樹脂のエマルジョン組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち本発明は、下記(A)成分及び(B)成分を含有することを特徴とする、アクリルシリコーン樹脂のエマルジョン組成物、及びその製造方法を提供する。
下記(A)成分及び(B)成分を含有することを特徴とする、エマルジョン組成物
(A)下記式(1)で表される単位
からなる直鎖状オルガノポリシロキサンにおいて該式中のR
2で示される基に(メタ)アクリル酸エステルがグラフト重合して成る(メタ)アクリルシリコーン樹脂、前記オルガノポリシロキサン由来の部分と前記(メタ)アクリル酸エステル由来の部分との質量比が34:66~99:1である、前記(メタ)アクリルシリコーン樹脂
【化1】
(式中、R
1は、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは互いに独立に、上記Xで定義される基、又は-[O-Si(X)
2]
g-Xで示される基であり、gは1~200であり、X及びYで示される基のうち少なくとも2個はヒドロキシル基であり、Zは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、aは0以上の数であり、a~dの合計数に対して、bは45%以上100%未満となる数であり、cは0%超5%以下となる数であり、及び、dは
0.01%以上50%以下となる数であり、上記各シロキサン単位の結合順序は制限されるものでない)、及び
(B)カチオン系界面活性剤。
さらに本発明は、上記(メタ)アクリルシリコーン樹脂を含有する繊維処理剤を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエマルジョン組成物を含む繊維処理剤は、繊維に対して、洗濯前後で柔軟性や心地よい触感、撥水性を維持する事ができ、洗濯耐久性に優れるため、繊維処理剤として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、(A)(メタ)アクリルシリコーン樹脂及び(B)カチオン性界面活性剤を含有することを特徴とするエマルジョン組成物である。(A)(メタ)アクリルシリコーン樹脂が、(メタ)アクリル酸エステルを、特定の質量比でオルガノポリシロキサンにグラフト重合させたものであること、上記界面活性剤がカチオン系界面活性剤であることにより、上述した課題を解決するものである。以下、本発明のエマルジョン組成物及び、繊維処理剤について、より詳細に説明する。尚、本発明において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0012】
(A)アクリルシリコーン樹脂
(A)成分は、下記式(1)で表される単位を有するオルガノポリシロキサンにおいて該式中のR
2で示される基に(メタ)アクリル酸エステルがグラフト重合して成る(メタ)アクリルシリコーン樹脂、前記オルガノポリシロキサン由来の部分と前記(メタ)アクリル酸エステル由来の部分との質量比が34:66~99:1である(メタ)アクリルシリコーン樹脂である。
【化2】
(式中、R
1は、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、Yは互いに独立に、上記Xで定義される基、又は-[O-Si(X)
2]
g-Xで示される基であり、gは1~200であり、X及びYで示される基のうち少なくとも2個はヒドロキシル基であり、Zは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、aは0以上の数であり、a~dの合計数に対して、bは45%以上100%未満となる数であり、cは0%超5%以下となる数であり、及び、dは0%以上50%以下となる数であり、上記各シロキサン単位の結合順序は制限されるものでない)。
【0013】
上記式(1)において、R1は互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アルキル又はアルコキシもしくは(メタ)アクリロキシ置換アミノ基などで置換されたものが挙げられる。R1としては、好ましくはメチル基である。
【0014】
上記式(1)において、R2は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基である。炭素数2~6のアルケニル基としては、ビニル基が好ましい。より好ましくは、R2は、メルカプト基、アクリロキシ基、又はメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。更に好ましくは、メルカプトプロピル基、アクリロキシプロピル基、メタクリロキシプロピル基、及びビニル基である。
【0015】
上記式(1)において、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基である。置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基としては、上記R1のために例示した選択肢が挙げられる。炭素数1~20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、及びテトラデシルオキシ基等が挙げられる。Xとして、好ましくはヒドロキシル基、メチル基、ブチル基、及びフェニル基である。
【0016】
Yは互いに独立に、上記Xで定義される基、又は-[O-Si(X)2]g-Xで示される基であり、X及びYで示される基のうち少なくとも2個はヒドロキシル基である。gは1~200であり、好ましくは1~50である。
【0017】
Zは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、好ましくはヒドロキシル基又はメチル基である。
【0018】
上記式(1)において、aは0以上の数であり、好ましくはa~dの合計数に対して0%以上0.1%以下となる数であり、より好ましくは0~0.05%となる数である。bは、a~dの合計数に対して、45%以上100%未満となる数であり、好ましくは70~99.9%となる数、好ましくは90~99.9%となる数、より好ましくは95~99.8%となる数である。cは、a~dの合計数に対して、0%超5%以下となる数であり、好ましくは0.01~0.15%となる数、より好ましくは0.05~0.1%となる数である。dは、a~dの合計数に対して、0%以上50%以下となる数、好ましくは0.01~1%となる数であり、より好ましくは0.02~0.50となる数である。上記オルガノポリシロキサンにおいて、R2は、後述する(メタ)アクリル酸エステルと反応する基であり、当該R2を有するシロキサン単位の割合(すなわち、cの値)が、0%超5%以下となる数であり、好ましくは0.01~0.15%となる数、より好ましくは0.05~0.1%となる数であることを特徴とする。尚、上記式(1)で表される単位を有するオルガノポリシロキサンは、分岐を有していてもよく、上記D単位及びM単位の他に、T単位(RSiO3/2)及びQ単位(SiO4/2)を本発明の効果を損ねない範囲において含んでもよい。好ましくは、上述したD単位及びM単位のみからなる、直鎖状のオルガノポリシロキサンである。
【0019】
上記式(1)で表されるオルガノポリシロキサンは、重量平均分子量10000~500000を有するのがよく、好ましくは30000~350000を有するものであるのがよい。尚、本発明において重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によりポリスチレンを標準物質として測定されるものである。
【0020】
上記オルガノポリシロキサンは、エマルジョンの形態であることが好ましい。該オルガノポリシロキサンエマルジョンは市販品を使用することもできるし、調製してもよいが、オルガノポリシロキサンエマルジョンに含まれる界面活性剤は、カチオン系界面活性剤及び/又はノニオン系界面活性剤であるのがよく、カチオン界面活性剤を含むのが好ましい。
【0021】
カチオン系界面活性剤を用いたオルガノポリシロキサンエマルジョンの製造方法は、公知の乳化重合法に従えばよい。例えば、フッ素原子、(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基を有してもよい環状オルガノシロキサン、あるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤を、カチオン系界面活性剤を用いて水中(イオン交換水や純水)に乳化分散させた後、必要に応じてアルカリ等の触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に得ることができる。
R2
(4-e-f)R4
fSi(OR5)e (2)
式(2)において、R2は重合性二重結合を有する1価有機基であり、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、特に好ましくは、アクリロキシ基又はメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基である。R4は炭素数1~4のアルキル基、R5は炭素数1~4のアルキル基であり、eは2~3、fは0~1の整数を示し、e+f=2~3である。
【0022】
上記(a-1)環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、及び1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。好ましくは、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンが用いられる。
【0023】
(a-2)シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどのビニルシラン類;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどのアクリルシラン類;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン類等が挙げられる。又はこれらを縮重合したオリゴマーはアルコールの発生が抑えられより好ましい場合がある。尚、(メタ)アクリロキシは、アクリロキシ又はメタクリロキシを意味する。
【0024】
上記(a-2)シランカップリング剤を、上記(a-1)環状オルガノシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、更に好ましくは0.01~5質量部で反応させるのがよい。上記下限値未満であると、コーティング剤とした際に透明性が低下するおそれがあり、また上記上限値を超えると、摺動性が発揮できない恐れがある。
【0025】
シランカップリング剤を共重合することにより、下記式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが得られる。下記式(1)中における[R
2ZSiO
2/2]単位を有するオルガノポリシロキサンとすることで、後述する(b)(メタ)アクリル酸エステル単量体又は(c)その他の重合性単量体をグラフトさせることができる。
【化3】
【0026】
上記において、乳化重合には公知の重合触媒を用いればよい。中でも強アルカリが好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムクロライドが例示される。好ましくは水酸化カリウムである。アルカリ触媒の使用量としては、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~2質量部である。
【0027】
上記乳化重合に用いるカチオン系界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、及びジデシルジメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。カチオン系界面活性剤の量は、原料である(a-1)環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上が更に好ましい。更に、重合後に5~50℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。また、乳化重合には、上記カチオン系界面活性剤に併せて、ノニオン系界面活性剤を使用してもよい。
【0028】
本発明において、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル(以下、アクリル成分ということがある)は、ヒドロキシル基、アミド基、カルボキシル基等の官能基を持たない、アクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体である。好ましくは、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。更には、アクリル成分を重合させた際に得られるポリマーのガラス転移温度(以下、Tgということがある)が、40℃以上、好ましくは60℃以上になるような単量体が好ましい。該(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。なお、Tgの上限は、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0029】
本発明のアクリルシリコーン樹脂エマルジョンは、好ましくは(a)上述したオルガノポリシロキサンエマルジョンに、(b)上記(メタ)アクリル酸エステル単量体をグラフト重合させてなるものである。任意で後述する(c)その他の重合単量体を、さらに乳化グラフト重合させてもよい。
【0030】
オルガノポリシロキサンのR2で示される基に(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させるときの質量比は、オルガノポリシロキサンの質量:(メタ)アクリル酸エステルの質量が、34:66~99:1であり、好ましくは60:40~95:5であるのがよい。オルガノポリシロキサンの比率が上記上限値より少ないと、得られるアクリルシリコーン樹脂エマルジョンは十分な柔軟性を有することができない。本発明におけるグラフト重合反応において、(メタ)アクリル酸エステルのほぼ全量がオルガノポリシロキサンのR2で示される基と反応するため、得られるアクリルシリコーン樹脂の全質量における(メタ)アクリル酸エステルの結合割合は1~66質量%、好ましくは5~40質量%となる。
【0031】
本発明のアクリルシリコーン樹脂エマルジョンは、更に、オルガノポリシロキサンのR2で示される基と共重合可能な官能基を有する(b)成分以外の単量体(c)を更にグラフト共重合させることができる。単量体(c)としては、カルボキシル基、アミド基、水酸基、ビニル基、アリル基等を含む不飽和結合を有する単量体である。より詳細には、メタクリル酸、アクリル酸、アクリルアマイド、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸2-ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらを共重合することで、繊維への吸着力を上昇させ耐洗濯性などをさらに上昇させる事ができる。
【0032】
乳化グラフト重合にはラジカル開始剤を使用することが好ましい。ラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、及び過酸化水素等が挙げられる。また、必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、アミン類等の還元剤を併用したレドックス系触媒を使用してもよい。ラジカル開始剤及び触媒の量は、グラフト重合反応を進行させる有効量であればよく、従来公知の方法に従い適宜選択されればよい。
【0033】
本発明においてグラフト重合に付するオルガノポリシロキサンは、好ましくは、上述したようにエマルジョンの形態である。従って、オルガノポリシロキサンエマルジョン中に含まれている界面活性剤のみで十分に、乳化グラフト重合することが可能である。しかし、安定性向上のためには、カチオン系界面活性剤やノニオン系乳化剤をさらに添加するのが好ましい。カチオン系界面活性剤としては、上記の通り、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、及びジデシルジメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等が挙げられる。尚、グラフト重合に付するオルガノポリシロキサンがエマルジョンの形態でない場合は、界面活性剤を使用してホモミキサーなどで予めオルガノポリシロキサンを強制乳化させた上で、グラフト重合させればよい。
【0034】
該界面活性剤の添加量は、(A)(メタ)アクリルシリコーン樹脂100質量部に対して1質量部~15質量部、好ましくは2~10質量部、更に好ましくは2~7質量部であるのがよい。予め、上記の方法でオルガノポリシロキサンエマルジョンを調製する場合は、得られる(メタ)アクリルシリコーン樹脂含有エマルジョン組成物中に含まれる(B)界面活性剤の総量が(A)(メタ)アクリルシリコーン樹脂100質量部に対して1質量部~15質量部、好ましくは2~10質量部、更に好ましくは2~7質量部となるように調整されればよい。また、カチオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を併用する場合は、界面活性剤の合計量が上記範囲を満たせばよい。
【0035】
(a)成分に対する(b)及び(c)成分のグラフト重合温度は25~75℃が好ましく、5~50℃が更に好ましい。また重合時間は2~8時間が好ましく、3~6時間が更に好ましい。
【0036】
更に、グラフトポリマーの分子量、グラフト率を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。
【0037】
上記グラフト重合により得られる(メタ)アクリルシリコーン樹脂エマルジョンは、上記オルガノポリシロキサンの[R
2ZSiO
2/2]単位に(メタ)アクリル酸エステルがランダムにグラフトされているポリマーのエマルジョン組成物である。例えば、下記式(1’)で表すことができる。
【化4】
R
1、R
2、X、Y、Z、a、b、d、及びdは上記の通りであり、Qは(メタ)アクリル酸エステル残基であり、c1+c2は全シロキサン単位の個数(a~d)の合計に対して、0%超5%以下となる数である。上記各シロキサン単位の結合順序が制限されるものでない。上記の通り、得られる(メタ)アクリルシリコーン樹脂の全質量における(メタ)アクリル酸エステル(Q)の結合割合は1~66質量%、好ましくは5~40質量%である。
【0038】
また、エマルジョン組成物中に含まれる(メタ)アクリルシリコーン樹脂エマルジョンの固形分(樹脂分)は、25~50質量%が好ましく、さらに好ましくは30~47質量%である。また、粘度(25℃)は、500mPa・s以下が好ましく、50~500mPa・sが更に好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。エマルジョン組成物における分散媒は特に制限されず、例えばイオン交換水や純水であればよい。エマルジョンの平均粒子径は、0.1μm(100nm)~0.5μm(500nm)が好ましく、さらに好ましくは0.15μm(150nm)~0.3μm(300nm)である。なお、本発明において、上記エマルジョンの粒子径は、レーザー回折型粒子径測定器における累積質量平均値D50として測定することができる。
【0039】
(メタ)アクリルシリコーン樹脂エマルジョン組成物を含有する繊維処理剤を製造する際は、少なくともイオン交換水や純水で希釈することが好ましい。繊維処理剤中の(メタ)アクリルシリコーン樹脂エマルジョンの配合量は、固形分(樹脂分)で1~40質量%であり、好ましくは5~30質量%であるのがよく、最も好ましくは2~30質量%である。(メタ)アクリルシリコーン樹脂分が1質量%未満であると耐摩耗性において全く改善が見られないという不具合があり、40質量%を超えると白化する上に耐摩耗性も低下していくという不具合がある。
【0040】
また、本発明の繊維処理組成物には、本発明の効果に影響を与えない範囲で、消臭剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、造膜助剤などの有機溶剤、その他の樹脂等を添加してもよい。
【0041】
繊維基材としては、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿等の天然繊維及び、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素等の化学繊維が例示される。繊維加工品としては、すべての種類の織物、編物、不織布、あるいはフィルム、紙等がある。乾燥させる方法としては、室温で10分~数十時間放置したり、20~150℃の温度で、0.5分~5時間乾燥させる方法が好ましい。
【0042】
本発明の繊維処理組成物を繊維へ塗布する方法は、特に限定しないが、例えば、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、スクリーンコーター、カーテンコーター、刷毛塗りなどの各種コーターによる塗布方法、スプレー塗布、浸漬等が挙げられる。
【0043】
本発明の繊維処理組成物の繊維への付着量は、特に限定しないが、通常は、柔軟性と撥水性などの点から固形分換算で、好ましくは1~300g/m2、より好ましくは10~200g/m2の範囲で形成し、室温で10分~数十時間放置したり、20~150℃の温度で、0.5分~5時間乾燥させる方法が好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0045】
[調製例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)420g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業社製「KBM-502」)0.34g、NIKKOL BC-20(日光ケミカルズ社製ポリオキシエチレンアルキルエーテル(有効成分100%))8.4g、カチオーゲンTMS(第一工業製薬社製ステアリルトリアンモニウムクロライド(有効成分25%))58.8g、コータミンD86P(花王社製ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド(有効成分75%))2.8g、水酸化カルシウム2.1g、イオン交換水342gを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水150gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で48時間重合反応を行った後、10%酢酸水溶液19gでpH6~8に中和した。得られたオルガノポリシロキサンエマルジョンは、105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が39.6%であった。該エマルジョン中の界面活性剤を除く固形分量(約372g)がオルガノポリシロキサン量である。
得られたオルガノポリシロキサンの構造は下記式(2)の通りであった。
【化5】
(b=99.87、c=0.08、d=0.05、X=ヒドロキシル基又はメチル基、及び、R
2はγ-メタクリロキシプロピル基である)
【0046】
[実施例1]
上記で得たオルガノポリシロキサン(2)のエマルジョンに、純水88gを加え、メタクリル酸メチル(MMA)159gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で、過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで、アクリルグラフト共重合させて、不揮発分44.5%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン組成物を得た。得られた生成物がアクリルグラフト共重合体であること、及びエマルジョン組成物中にカチオン系界面活性剤を含有していることは、GPCにより確認した。エマルジョン組成物中の界面活性剤の量は、アクリルシリコーン樹脂量100gに対して3.2gである。
【0047】
[調製例2]
オクタメチルシクロテトラシロキサン420g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業社製「KBM-502」)0.34g、NIKKOL BC-20 8.4g、カチオーゲンTMS 58.8g、コータミンD86P 2.8g、水酸化カルシウム2.1g、イオン交換水342gを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、イオン交換水150gを徐々に加えて希釈し、ホモミキサーで均一に乳化した後、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で48時間重合反応を行った後、10%酢酸水溶液12gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が39.6%であった。エマルジョン中の界面活性剤を除く固形分量(約372g)がオルガノポリシロキサン量である。
得られたオルガノポリシロキサンの構造は下記式(3)の通りであった。
【化6】
(b=99.87、c=0.08、d=0.05、X=ヒドロキシル基又はメチル基、及び、R
2はγ-メタクリロキシプロピル基である)
【0048】
[実施例2]
上記で得たオルガノポリシロキサン(3)のエマルジョンにアクリル酸ブチル(BA)20gを、3~5時間かけて滴下しながら30℃下で、過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでアクリルグラフト共重合させて、不揮発分40.7%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン組成物を得た。得られた生成物がアクリルグラフト共重合体であること、及びエマルジョン組成物中にカチオン系界面活性剤を含有していることは、GPCにより確認した。エマルジョン組成物中の界面活性剤の量は、アクリルシリコーン樹脂量100gに対して4.1gである。
【0049】
[調製例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン420g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業社製「KBM-502」)0.34g、NIKKOL BC-20 8.4g、カチオーゲンTMS 58.8g、コータミンD86P 2.8g、水酸化カルシウム2.1g、イオン交換水342gを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水150gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%酢酸水溶液19gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が39.6%であった。エマルジョン中の界面活性剤を除く固形分量(約372g)がオルガノポリシロキサン量である。
得られたオルガノポリシロキサンの構造は下記式(4)の通りであった。
【化7】
(b=99.87、c=0.08、d=0.05、X=ヒドロキシル基又はメチル基、及び、R
2はγ-メタクリロキシプロピル基である)
【0050】
[実施例3]
上記で得たオルガノポリシロキサン(4)のエマルジョンに純水775gを加え、メタクリル酸メチル(MMA)722gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで、アクリルグラフト共重合させて、不揮発分44.7%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン組成物を得た。得られた生成物がアクリルグラフト共重合体であること、及びエマルジョン組成物中にカチオン系界面活性剤を含有していることは、GPCにより確認した。エマルジョン組成物中の界面活性剤の量は、アクリルシリコーン樹脂量100gに対して1.5gである。
【0051】
[調製例4]
オクタメチルシクロテトラシロキサン420g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業社製「KBM-502」)0.34g、コータミンD86P 28g、水酸化カルシウム2.1g、イオン交換水207gを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水203gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%酢酸水溶液19gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が44.6%であった。エマルジョン中界面活性剤を除く固形分量(約379g)がオルガノポリシロキサン量である。
得られたオルガノポリシロキサンの構造は下記式(5)の通りであった。
【化8】
(b=99.56、c=0.08、d=0.36、X=ヒドロキシル基又はメチル基、及び、R
2はγ-メタクリロキシプロピル基である)
【0052】
[実施例4]
上記で得たオルガノポリシロキサン(5)のエマルジョンに純水178gを加えメタクリル酸メチル(MMA)162gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで、アクリルグラフト共重合して、不揮発分45.5%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョン組成物を得た。得られた生成物がアクリルグラフト共重合体であること、及びエマルジョン組成物中にカチオン系界面活性剤を含有していることは、GPCにより確認した。エマルジョン組成物中の界面活性剤の量は、アクリルシリコーン樹脂量100gに対して3.9gである。
【0053】
[比較調製例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.6g(信越化学工業社製「KBM-502」)、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が44.4%であった。エマルジョン中界面活性剤を除く固形分量(約530g)がオルガノポリシロキサン量である。
得られたオルガノポリシロキサンの構造は下記式(6)の通りであった。
【化9】
(b=99.85、c=0.08、d=0.07、X=ヒドロキシル基又はメチル基、及び、R
2はγ-メタクリロキシプロピル基である)
【0054】
[比較例1]
上記で得たオルガノポリシロキサン(6)のエマルジョンに純水509gを加えメタクリル酸メチル(MMA)232gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで、アクリルグラフト共重合して、不揮発分45.1%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョンを得た。エマルジョン組成物中の界面活性剤の量は、アクリルシリコーン樹脂量100gに対して2.3gである。
【0055】
[比較調製例2]
オクタメチルシクロテトラシロキサン420g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業社製「KBM-502」)0.34g、NIKKOL BC-20 8.4g、カチオーゲンTMS 58.8g、コータミンD86P 2.8g、水酸化カルシウム2.1g、イオン交換水342gを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水150gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%酢酸水溶液19gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が39.5%であった。エマルジョン中の界面活性剤を除く固形分量(約372g)がオルガノポリシロキサン量である。
得られたオルガノポリシロキサンの構造は下記式(7)の通りであった。
【化10】
(b=99.87、c=0.08、d=0.05、X=ヒドロキシル基又はメチル基、及び、R
2はγ-メタクリロキシプロピル基である)
【0056】
[比較例2]
上記で得たオルガノポリシロキサン(7)のエマルジョンに純水929gを加えメタクリル酸メチル(MMA)868gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで、アクリルグラフト共重合して、不揮発分45.2%のアクリルシリコーン樹脂エマルジョンを得た。エマルジョン組成物中の界面活性剤の量は、アクリルシリコーン樹脂量100gに対して1.3gである。
【0057】
上記調製例1~4及び比較調製例1及び2で得たオルガノポリシロキサン(2)~(7)において、原料化合物の配合量、乳化重合に使用した界面活性剤を下記表1にまとめる。また、オルガノポリシロキサンエマルジョンについて、固形分、pH、平均粒径を、後述するエマルジョン組成物と同じ方法にて測定した。結果を表1に記載する。
また、オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした値である。日本分光社製GPC-900を用い、展開溶媒:THFにて測定した。
【0058】
【0059】
上記実施例及び比較例で得た各エマルジョン組成物について下記方法に従い評価した。結果を表2に示す。
【0060】
〔蒸発残分(固形分濃度)測定〕
試料(エマルジョン組成物)約1gをアルミ箔製の皿に量り取り、105~110℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分を算出した。
【数1】
R : 蒸発残分(%)
W : 乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L : アルミ箔皿の質量(g)
T : 乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0061】
〔pH〕
JIS Z 8802に基づき、pHメーターを用いて室温25℃でエマルジョン組成物のpHを測定した。
【0062】
〔平均粒子径測定〕
試料を0.01g計量し、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA-950V2)を使用して、循環流量2、撹拌速度2の条件での平均粒子径(粒度累積分布の50%に相当する粒子径の値)を測定した。
[測定条件]
測定温度:25±1℃
溶媒:イオン交換水
【0063】
【0064】
[実施例5~14、比較例3~8]
上記実施例及び比較例で調製した各エマルジョン組成物について、表3または表4に示す配合比(質量部)となるようにイオン交換水で希釈して繊維処理剤を作成した。各繊維処理剤に含まれるシリコーン樹脂の固形分比率は約10%又は20%とした。
<繊維処理方法>
該繊維処理剤にポリエステル又は綿を10秒間浸漬した。その後マングルにて繊維処理剤を均一化した。その繊維を80℃×5分乾燥後、105℃×1分で乾燥した。処理後の各繊維について、下記の方法にて評価した。ポリエステルの結果を表3に、綿の結果を表4に示す。
【0065】
<風合い>
〇・・・繊維を手で握りつぶした時、未処理の繊維よりも触感が同等あるいはそれ以上に柔らかいもの
×・・・繊維を手で握りつぶした時、未処理の繊維よりも触感が硬いもの
【0066】
<水接触角>
温度23℃、湿度45%の雰囲気下で、自動接触角計CA-V(協和界面科学社製)を使用し、イオン交換水1.8μLの液滴を処理した繊維に接触させ、接触後10秒後の接触角を測定した。
【0067】
<洗濯後>
市販の洗濯機を用い、繊維を洗濯・脱水して40℃×16h乾燥した。洗濯後の各繊維について、上述した方法に従い、風合い及び水接触角を評価した。
【0068】
【0069】
【0070】
上記表3及び4に示す通り、乳化重合時に使用した界面活性剤がアニオン系界面活性剤である比較例1のエマルジョン組成物を用いた繊維処理剤(比較例4および7)では、洗濯前後において共に風合いに劣り、また洗濯耐久性に劣る。ポリジメチルシロキサンに対するアクリルポリマーの比率が多すぎる比較例2のエマルジョン組成物を用いた繊維処理剤(比較例5及び8)でも、洗濯前後において共に風合いに劣り、また洗濯耐久性に劣る。また、従来の繊維処理剤では、洗濯前後において、風合いに劣り、且つ、撥水性も不十分であった。これに対し、本発明のエマルジョン組成物を含む繊維処理剤で処理した繊維はいずれも、洗濯前後における風合い(触感及び柔軟性)が良好であり、且つ、撥水性に優れ、洗濯耐久性にも優れていた。