(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】音響信号の合成装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04S 7/00 20060101AFI20220502BHJP
【FI】
H04S7/00 300
(21)【出願番号】P 2019040533
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊治
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-169399(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0189457(US,A1)
【文献】特開2006-270425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0298610(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M個(Mは2以上の整数)の音場に対応するM個のセットであって、前記M個のセットの各セットは対応する音場を再現するための第1音響信号から第N音響信号(Nは3以上の整数)を含む、前記M個のセットに基づき、第1スピーカから第Nスピーカを駆動するための第1駆動信号から第N駆動信号を出力する合成装置であって、
前記第1スピーカから前記第Nスピーカの内の互いに隣接して配置される2つのスピーカは、第1スピーカ組から第(N-1)スピーカ組の(N-1)個のスピーカ組にグループ化され、第nスピーカ組(nは1~N-1までの整数)は、第nスピーカ及び第(n+1)スピーカを含み、
各セットの前記第1音響信号から前記第N音響信号は、第1音響信号組から第(N-1)音響信号組の(N-1)個の音響信号組にグループ化され、第k音響信号組(kは1からN-1までの整数)は、第k音響信号及び第(k+1)音響信号を含み、
前記合成装置は、
前記M個の音場それぞれの拡縮率及びシフト量に基づき、合計(N-1)×M個の第x音響信号組(xは1~(N-1)×Mまでの整数)それぞれについて、対応するスピーカ組と、拡縮係数及びシフト係数と、を判定する判定手段と、
前記第x音響信号組それぞれについて、前記判定手段が判定した前記拡縮係数及び前記シフト係数に基づき、前記第x音響信号組に対応する第yスピーカ組(yは1からN-1までの整数)の第yスピーカに対応する第y中間信号と、第(y+1)スピーカに対応する第(y+1)中間信号を出力する処理手段と、
前記第x音響信号組それぞれについて前記処理手段が出力する第z中間信号(zは1からNまでの整数)を加算して、第zスピーカを駆動するための第z駆動信号を生成する合成手段と、
を備えていることを特徴とする合成装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の合成装置としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の音場に対応する音響信号の合成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、2つのマイクにより収音した音響信号を音場の伸縮率に基づき処理することで音場の範囲を調整する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1は、異なる場所又は時間、つまり、異なる音場で集音した複数の音響信号を合成して、異なる音場にある音源それぞれが同じ音場に存在していた様に再生する方法を開示してはいない。
【0005】
本発明は、異なる音場に対応する音響信号を合成する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によると、M個(Mは2以上の整数)の音場に対応するM個のセットであって、前記M個のセットの各セットは対応する音場を再現するための第1音響信号から第N音響信号(Nは3以上の整数)を含む、前記M個のセットに基づき、第1スピーカから第Nスピーカを駆動するための第1駆動信号から第N駆動信号を出力する合成装置であって、前記第1スピーカから前記第Nスピーカの内の互いに隣接して配置される2つのスピーカは、第1スピーカ組から第(N-1)スピーカ組の(N-1)個のスピーカ組にグループ化され、第nスピーカ組(nは1~N-1までの整数)は、第nスピーカ及び第(n+1)スピーカを含み、各セットの前記第1音響信号から前記第N音響信号は、第1音響信号組から第(N-1)音響信号組の(N-1)個の音響信号組にグループ化され、第k音響信号組(kは1からN-1までの整数)は、第k音響信号及び第(k+1)音響信号を含む前記合成装置は、前記M個の音場それぞれの拡縮率及びシフト量に基づき、合計(N-1)×M個の第x音響信号組(xは1~(N-1)×Mまでの整数)それぞれについて、対応するスピーカ組と、拡縮係数及びシフト係数と、を判定する判定手段と、前記第x音響信号組それぞれについて、前記判定手段が判定した前記拡縮係数及び前記シフト係数に基づき、前記第x音響信号組に対応する第yスピーカ組(yは1からN-1までの整数)の第yスピーカに対応する第y中間信号と、第(y+1)スピーカに対応する第(y+1)中間信号を出力する処理手段と、前記第x音響信号組それぞれについて前記処理手段が出力する第z中間信号(zは1からNまでの整数)を加算して、第zスピーカを駆動するための第z駆動信号を生成する合成手段と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、異なる音場に対応する音響信号を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】一実施形態による合成装置により再生される音場の説明図。
【
図5】M個の音場のうちの1つの音場のサブ音場への分割の説明図。
【
図6】M個の音場のうちの1つの音場とスピーカ組との対応関係例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。さらに、以下の各図においては、実施形態の説明に必要ではない構成要素については図から省略する。
【0010】
<第一実施形態>
図1(A)は、音響信号#1-1及び音響信号#1-2のセットにより再生される音場を示し、
図1(B)は、音響信号#2-1及び音響信号#2-2のセットにより再生される音場を示している。
図1(A)によると、音響信号#1-1でスピーカ(SP)#1を駆動し、音響信号#1-2でSP#2を駆動すると、音源S#1、音源S#2及び音源S#3を含む音場#1が再現されている。また、
図1(B)によると、音響信号#2-1でSP#1を駆動し、音響信号#2-2でSP#2を駆動すると、音源S#4及び音源S#5を含む音場#2が再現されている。なお、音場#1における音源S#1の位置と、音場#2における音源S#4の位置は同じであり、音場#1における音源S#3の位置と、音場#2における音源S#5の位置は同じである。
【0011】
ここで、音響信号#1-1と音響信号#2-1を合成(加算)した音響信号でSP#1を駆動し、音響信号#1-2と音響信号#2-2を合成した音響信号でSP#2を駆動すると、音場#1及び音場#2を合成した音場が再現される。このとき、音源S#1と音源S#4が同じ位置に存在し、音源S#3と音源S#5が同じ位置に存在する様に音場が再現されてしまう。本実施形態では、音響信号#1-1、音響信号#1-2、音響信号#2-1及び音響信号#2-2に基づき駆動信号#1及び駆動信号#2を生成する。そして、
図2に示す様に、SP#1を駆動信号#1で駆動し、SP#2を駆動信号#2で駆動することで、各音源の位置を異ならせた音場を再現する。なお、
図2に示す様に、駆動信号#1及び駆動信号#2で再現される音場に含まれる音場#1及び音場#2の範囲は、それぞれ、
図1(A)及び
図1(B)と比較して、p1倍及びp2倍になる。なお、
図2の例において、p1及びp2は、0より大きく、かつ、1未満の値である。また、
図2の例において、音場#1の中心位置は、SP#1とSP#2の中心位置から距離s1×Lだけ左方向にシフトしている。さらに、音場#2の中心位置は、SP#1とSP#2の中心位置から距離s2×Lだけ右方向にシフトしている。
【0012】
なお、音場の範囲を拡大することもでき、この場合、p1及びp2は、1より大きく、かつ、2より小さい数とすることができる。以下、p1及びp2を音場の拡縮率と呼び、s1及びs2を、音場のシフト率と呼ぶものとする。なお、p1及びs1は、それぞれ、音場#1の拡縮率及びシフト率であり、p2及びs2は、それぞれ、音場#2の拡縮率及びシフト率である。
【0013】
図3は、本実施形態による合成装置の構成図である。音響信号の第1セットである音響信号#1-1及び音響信号#1-2は、処理部#1に入力され、音響信号の第2セットである音響信号#2-1及び音響信号#2-2は、処理部#2に入力される。なお、音響信号の第1セットは、音場#1を再現するものであり、音響信号の第2セットは、音場#2を再現するものである。また、係数判定部には、音場#1の拡縮率p1及びシフト率s1と、音場#2の拡縮率p2及びシフト率s2がユーザにより入力される。係数判定部は、音場#1の拡縮率p1に基づき、後述する拡縮係数κ1を判定し、音場#1のシフト率s1に基づき、後述するシフト係数τ1を判定して処理部#1に出力する。また、係数判定部は、音場#2の拡縮率p2に基づき、後述する拡縮係数κ2を判定し、音場#2のシフト率s2に基づき、後述するシフト係数τ2を判定して処理部#2に出力する。
【0014】
処理部#1は、音場#1の拡縮係数κ1及びシフト係数τ1に基づき音響信号#1-1及び音響信号#1-2を処理して、中間信号#1-1及び中間信号#1-2を出力する。同様に、処理部#2は、音場#2の拡縮係数κ2及びシフト係数τ2に基づき音響信号#2-1及び音響信号#2-2を処理して、中間信号#2-1及び中間信号#2-2を出力する。合成部#1は、中間信号#1-1と中間信号#2-1とを加算して駆動信号#1を出力する。合成部#2は、中間信号#1-2と中間信号#2-2とを加算して駆動信号#2を出力する。
図2に示す様に、駆動信号#1及び駆動信号#2は、それぞれ、SP#1及びSP#2を駆動するための信号である。
【0015】
処理部#1及び処理部#2での処理は同様であるため、以下では、纏めて処理部での処理として説明する。なお、処理部には、音響信号A及びBが入力され、音響信号A及びBに基づき中間信号L及びRを出力するものとする。なお、音響信号Aは、音響信号#1-1、#2-1に対応し、音響信号Bは、音響信号#1-2、#2-2に対応する。また、中間信号Lは、中間信号#1-1、#2-1に対応し、中間信号Rは、中間信号#1-2、#2-2に対応する。また、係数判定部から処理部に入力された拡縮係数をκとし、係数判定部から処理部に入力されたシフト係数をτとする。
【0016】
処理部は、音響信号A及び音響信号Bを所定の時間区間毎に離散フーリエ変換する。以下では、音響信号A及び音響信号Bを離散フーリエ変換した周波数領域の信号を、それぞれ、信号A及び信号Bとする。処理部は、以下の式(1)により信号A及び信号Bから周波数領域の信号R及び信号Lを生成する。なお、式(1)で示す処理は、信号A及び信号Bそれぞれの各周波成分(ビン)に対して個別に行われる。そして、処理部は、周波数領域の信号R及び信号Lを離散逆フーリエ変換して、中間信号Rと中間信号Lを出力する。
【0017】
【0018】
式(1)において、fは処理対象の周波数(ビン)であり、φは2つの音響信号A及び音響信号Bの偏角の主値である。したがって、式(1)においてf及びφは処理対象の信号A及びBに応じて決まる値である。また、上述した様に、拡縮係数κ及びシフト係数τは、係数判定部から通知される値である。以下、拡縮係数κ及びシフト係数τの技術的な意味について説明する。
【0019】
拡縮係数κは、音場の範囲の拡縮率を決定し、0以上2以下の値である。なお、拡縮係数κが1より小さいと、音場の範囲は縮小され、拡縮係数κが1より大きいと音場の範囲は拡大される。シフト係数τは、音場の範囲のシフト量を決定する。なお、シフトする方向は、シフト係数τの正負で決まり、シフトする量は、シフト係数τの絶対値の大きさにより決定される。
【0020】
例えば、中間信号#1-1及び中間信号#1-2で、SP#1及びSP#2を駆動すると、
図2に示す音場#1が再現され、中間信号#2-1及び中間信号#2-2で、SP#1及びSP#2を駆動すると、
図2に示す音場#2が再現される。本実施形態では、中間信号#1-1及び中間信号#2-1を合成部#1で加算して駆動信号#1を生成し、中間信号#1-2及び中間信号#2-2を合成部#2で加算して駆動信号#2を生成する。したがって、駆動信号#1及び駆動信号#2で、SP#1及びSP#2を駆動すると、
図2に示す音場#1及び音場#2を含む音場が再現される。
【0021】
なお、
図2では、音場#1及び音場#2が重複しない様にしていたが、音場#1及び音場#2を重複させても良い。また、本実施形態では、音場#1及び音場#2を、それぞれ、元の音響信号で再現される音場より縮小させていたが、拡大させても良い。また、本実施形態では、2つの異なる音場を合成していたが、3つ以上の異なる音場を合成することもできる。この場合、処理部は、音場に応じて設けられる。また、係数判定部には、音場ごとの拡縮率及びシフト率が入力される。これにより、ユーザの操作に応じて、異なる音場の音源を様々な位置に配置することができる。
【0022】
<第二実施形態>
続いて、第二実施形態について第一実施形態との相違点を中心に説明する。第一実施形態においては、合成対象の音場に対応する音響信号のセットは、それぞれ、2つのスピーカを駆動する2つの音響信号を含むものであった。本実施形態において、音響信号の各セットは、それぞれ、N個(Nは3以上の整数)のスピーカ(SP)#1~SP#Nを駆動するN個の音響信号を含むものとする。また、合成対象の音場を、音場#1~音場#M(Mは2以上の整数)の計M個とする。したがって、音響信号のセット数も、音場の数と同じM個になる。なお、SP#1~SP#Nの内、SP#n(nは、1~N-1までの整数)とSP#(n+1)は互いに隣接して配置されるものとする。本実施形態では、互いに隣接して配置される2つのスピーカを1つのスピーカ組とする。したがって、N個のスピーカにより(N-1)個のスピーカ組が形成される。以下では、SP#nとSP#(n+1)で構成されるスピーカ組をスピーカ組#nと表記する。また、合成装置は、各スピーカ組の2つのスピーカ間の距離を示す距離情報を保持しているものとする。以下では、スピーカ組の2つのスピーカ間の距離を"スピーカ組の距離"と表現する。なお、各スピーカ組の距離が総て同じ場合、合成装置に距離情報を保持させる必要はない。
【0023】
図4は、音響信号のM個のセットそれぞれに含まれるN個の音響信号をN個のスピーカに入力した際に再現される音場を示している。なお、第1セットにより音場#1が再現され、第2セットにより音場#2が再現される。第3セット~第Mセットと、再現される音場との関係も同様である。また、第1セットは、音響信号#1-1~#1-Nの計N個の音響信号を含み、
図4に示す音場#1は、音響信号#1-1~#1-Nを、それぞれ、SP#1~SP#Nに入力したときに再現される。他のセットについても同様である。
【0024】
図5は、音場#m(mは1からMまでの整数)を(N-1)個に分割したサブ音場#m-1~#m-(N-1)を示している。音場#mは、距離情報に基づき分割される。具体的には、サブ音場#m-1~#m-(N-1)それぞれの範囲の比は、スピーカ組#1~スピーカ組#(N-1)の距離の比に等しい。また、本実施形態では、音響信号#m-k(kは、1~N-1までの整数)と音響信号#m-(k+1)を、1つの音響信号組と定義する。よって、各セットについて、(N-1)個の音響信号組が定義される。以下の説明において、音響信号#m-kと音響信号#m-(k+1)を含む音響信号組を、音場#mの音響信号組#kと表記する。なお、音場#mの音響信号組#kは、サブ音場#m-kに関連付けられる。
【0025】
本実施形態においても、ユーザは、音場#1~音場#Mそれぞれの拡縮率及びシフト率を合成装置に入力する。
図6は、音場#mがp倍され、かつ、入力されたシフト率により、音場#mが、スピーカSP#q-1からスピーカSP#q+1の配置位置の範囲内となった状態を示している。
【0026】
合成装置は、音場#mの拡縮率及びシフト率に基づき、音場#mを構成する複数のサブ音場#m-1~#m-(N-1)それぞれについて、どのスピーカ組に対応するかを判定する。例えば、
図7に示す様に、サブ音場#m-kの範囲が、スピーカ組#qの範囲内になると、サブ音場#m-kは、スピーカ組#qに対応すると判定する。なお、サブ音場#m-kの範囲が、スピーカ組#(q-1)の範囲とスピーカ組#qの範囲に跨る場合、スピーカ組#(q-1)の範囲とスピーカ組#qの範囲の内、サブ音場#m-kの範囲との重複領域がより長い方のスピーカ組に対応していると判定する。合成装置は、M個のセットそれぞれに含まれる(N-1)個のサブ音場、つまり、合計M×(N-1)個のサブ音場それぞれについて、どのスピーカ組に対応するかを判定する。
【0027】
また、合成装置は、サブ音場#m-kがスピーカ組#qに対応していると判定すると、対応するスピーカ組#qにおけるサブ音場#m-kのシフト率sも判定する。スピーカ組#qにおけるサブ音場#m-kのシフト率s(
図7参照)は、音場#mの拡縮率及びシフト率と、距離情報に基づき判定することができる。合成装置は、音場#mの拡縮率に基づき、サブ音場#m-kの拡縮係数κを判定し、サブ音場#m-kのシフト率sに基づき、サブ音場#m-kのシフト係数τを判定する。そして、合成装置は、サブ音場#m-kに関連付けられた第mセットの音響信号組#kに含まれる2つの音響信号#k及び音響信号#(k+1)を、上記サブ音場#m-kの拡縮係数κ及びシフト係数τを使用して式(1)に基づき処理し、中間信号#q及び中間信号#(q+1)を出力する。なお、中間信号#qは、SP#qに対応する信号であり、中間信号#(q+1)は、SP#(q+1)に対応する信号である。
【0028】
この様に、合成装置は、合計M×(N-1)個のサブ音場それぞれについて、どのスピーカ組に対応するかを判定する。例えば、合計M×(N-1)個のサブ音場を、サブ音場#x(xは、1から(N-1)×Mまでの整数)として表現する。サブ音場#xは、それぞれ、関連付けられた音響信号組#xを有するため、サブ音場#xに対応するスピーカ組を判定することは、音響信号組#xに対応するスピーカ組を判定することでもある。例えば、音響信号組#xがスピーカ組#y(yは、1からN-1までの整数)に対応するものとする。合成装置は、上述した様に、サブ音場#xの拡縮係数及びシフト係数を求める。これは、音響信号組#xに対する拡縮係数及びシフト係数を求めることでもある。合成装置は、音響信号組#xに対する拡縮係数及びシフト係数に基づき、音響信号組#xに含まれる2つの音響信号を式(1)に従い処理して、対応するスピーカ組#yのスピーカ#yに関連付けられる中間信号#yと、対応するスピーカ組#yのスピーカ#(y+1)に関連付けられる中間信号#y+1を出力する。なお、音響信号組の数も(N-1)×Mであるため、処理部は、合計2×(N-1)×M個の中間信号を出力する。そして、合成装置は、同じSP#z(zは、1からNまでの整数)に関連付けられる中間信号#zを加算して駆動信号#zを生成する。駆動信号#zは、SP#zを駆動するための信号である。この様に生成した駆動信号#1~#NでSP#1~SP#Nを駆動することで、第一実施形態と同様に、音場#1~音場#Mに含まれる各音源が重ならない様にした音場を再現することができる。
【0029】
図8は、本実施形態による合成装置の構成図である。合成装置の決定部には、音響信号のM個のセットが入力される。各セットは、N個の音響信号を含んでいる。また、合成装置の係数判定部には、M個の音場それぞれの拡縮率及びシフト係数が入力される。決定部は、合計M×(N-1)個のサブ音場とスピーカ組の対応関係を決定する。そして、決定部は、サブ音場とスピーカ組の対応関係に基づき、サブ音場に関連付けられた合計M×(N-1)個の音響信号組それぞれを、対応する処理部に出力する。なお、処理部#nは、スピーカ組#nに対応する。例えば、サブ音場#1-2が、スピーカ組#2に対応すると、当該サブ音場#1-2に関連付けられた音響信号#1-2及び#1-3を含むセット#1の音響信号組#2は、処理部#2に出力される。
【0030】
係数判定部は、各音場の拡縮率及びシフト係数と、距離情報と、決定部が決定したサブ音場とスピーカ組との対応関係に基づき、各サブ音場の拡縮係数及びシフト係数を各処理部に通知する。各処理部は、各音響信号組に対して、係数判定部から通知される拡縮係数及びシフト係数に基づき式(1)に従い処理を行って、中間信号を対応する合成部に出力する。なお、合成部#zは、SP#zに対応する。例えば、処理部#2は、中間信号#2と中間信号#3を出力するため、処理部#2は、中間信号#2を合成部#2に出力し、中間信号#3を合成部#3に出力する。各合成部は、入力される中間信号を加算して、対応するスピーカを駆動する駆動信号を出力する。なお、各駆動信号のレベル差については、図示しない調整部により調整される。
【0031】
なお、本実施形態では、N個のスピーカを直線状に配置していた。しかしながら、N個のスピーカを円状に配置することもできる。この場合、N個のスピーカによりN個のスピーカ組が形成される。
【0032】
<第三実施形態>
続いて、第三実施形態について説明する。本実施形態において、音響信号の各セットは、それぞれ、N個(Nは2以上の整数)のスピーカ(SP)#1~SP#Nを駆動するN個の音響信号を含むものとする。また、合成対象の音場の数を、音場#1~音場#M(Mは2以上の整数)の計M個とし、音響信号のセット数を、各音場に対応するM個とする。なお、第二実施形態と同様に、第m(mは1からMまでの整数)セットは、音場#mを再現するための音響信号#m-1~#m-Nを含むものとする。
【0033】
しかしながら、本実施形態においては、音場#1~音場#Mの範囲の拡縮を行わず、かつ、音場#1~音場#Mの範囲のシフトも行わない。代わりに、音響信号の各セットを周波数帯域において処理する際に、周波数毎に減衰量を異ならせる。
【0034】
図9は、本実施形態による合成装置の構成図である。合成装置には、それぞれがN個の音響信号を含む、音響信号のM個のセットが入力される。合成装置は、各セットに対応する合計M個の処理部を有する。なお、処理部#mには、第mセットの音響信号#m-1~#m-Nが入力される。ここで、第mセットの音響信号#m-1~#m-Nそれぞれを周波数領域の信号に離散フーリエ変換した後の、周波数f
kの信号をC
km1~C
kmNとする。処理部#mは、以下の式(2)に従い、信号C
km1~C
kmNから、周波数f
kの信号D
km1~D
kmNを生成して出力する。
D
kmi=r
km×C
kmi (2)
なお、式(2)において、iは1からNまでの整数である。また、r
kmは、第mセットの周波数f
kの減衰係数である。なお、減衰係数は、元の信号C
kmiのレベルを通過させる割合を示している。なお、減衰係数は0以上、かつ、1以下の値であり、減衰係数が0であると、元の信号C
kmiを通過させず、減衰係数が1であると、元の信号C
kmiは減衰されない。処理部#mは、各周波数について、信号D
km1~D
kmNを求めた後、時間領域の信号に変換することで、中間信号#m-1~#m-Nを生成して出力する。
【0035】
また、合成装置には、各スピーカに対応する合成部#1~#Nが設けられる。なお、合成部#iは、SP#iに対応する。処理部#mは、中間信号#m-iを合成部#iに出力する。したがって、合成部#iには、中間信号#1-i~中間信号#M-iが入力される。合成部#iは、入力される中間信号#1-i~中間信号#M-iを加算して駆動信号#iを出力する。駆動信号#iは、SP#iを駆動する信号である。
【0036】
ここで、本実施形態では、周波数fkに対して、減衰係数rk1~減衰係数rkMの計M個の減衰係数を設定するが、減衰係数rk1~減衰係数rkMの和が1となる様に減衰係数rk1~減衰係数rkMを設定する。例えば、1つの減衰係数を1とし、残りの(M-1)個の減衰係数を0とする。或いは、1つの減衰係数を閾値より大きい第1の値とし、残りの(M-1)個の減衰係数を第2の値とする。この場合、(M-1)個の第2の値の和が、第1の値より小さくなる様にする。なお、周波数変換後のサンプル数がKであると、減衰係数rk1~減衰係数rkMのセットをK個設定するが、K個の各セットにおいて、どの減衰係数を1又は閾値より大きくするかは任意である。
【0037】
例えば、N=2及びM=2とする。そして、第1セットで再現される音場#1から所定の周波数帯域の部分を抜き出し、第2セットで再現される音場#2から当該所定の周波数帯域以外の残りの周波数帯域の部分を抜き出すものとする。この場合、当該所定の周波数帯域内の周波数については、第1セットの減衰係数を1にし、第2セットの減衰係数を0にし、それ以外の周波数帯域内の周波数については、第1セットの減衰係数を0にし、第2セットの減衰係数を1にする。
【0038】
例えば、
図1において、S#2からの音の周波数が、前記所定の周波数帯域内であり、S#1及びS#3~S#5からの音の周波数が、前記所定の周波数帯域外であると、合成した音場は、S#2と、S#4と、S#5と、を含むものとすることができる。
【0039】
<その他の実施形態>
本発明による合成装置は、プロセッサ及び記憶部を含むコンピュータを上記合成装置として動作させるプログラムにより実現することができる。これらコンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されて、又は、ネットワーク経由で配布が可能なものである。
【0040】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。