(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】細胞移植のための足場
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20220502BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20220502BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220502BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20220502BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20220502BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220502BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/0781
C12N5/0783
C12N5/0784
C12N5/0786
A61P43/00 107
A61K39/00 F
(21)【出願番号】P 2019104265
(22)【出願日】2019-06-04
(62)【分割の表示】P 2016250381の分割
【原出願日】2006-12-13
【審査請求日】2019-07-04
(32)【優先日】2005-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2006-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507244910
【氏名又は名称】プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】504332090
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(72)【発明者】
【氏名】ムーニー デヴィッド ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】アリ オマール アブデル‐ラーマン
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァ エドゥアルド アレクサンドレ バロス エー
(72)【発明者】
【氏名】コン ヒュン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ヒル エリオット アール
(72)【発明者】
【氏名】ブーンテークル ターニャルート
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-506401(JP,A)
【文献】特開2001-049018(JP,A)
【文献】特表2002-511284(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00562862(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0082806(US,A1)
【文献】国際公開第2004/031371(WO,A2)
【文献】特開2003-180815(JP,A)
【文献】国際公開第2003/070291(WO,A1)
【文献】特開2005-168760(JP,A)
【文献】Molecular Immunology,2001, Vol.38, pp.329-346
【文献】Biomaterials,2005.02.24, Vol.26, pp.5048-5063
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12N 5/00
C12M 1/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリクスを含み、かつ開いた互いに接続したマクロ孔を有する、足場組成物、
免疫細胞を足場へ動員する、サイトカインを含む動員組成物、および
免疫細胞の活性を改変するサイトカインを含む生物活性組成物であって、改変された免疫細胞が調整後に体内の別の部位へ遊走する、生物活性組成物、
を含む、対象における免疫細胞を改変するための装置であって、
免疫細胞が対象の体内の足場のマクロ孔に存在するあいだに、生物活性組成物が免疫細胞の活性を改変
し、
サイトカインが、IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターフェロン-γ(γ-IFN)、IFN-α、腫瘍壊死因子(TNF)、TGF-β、FLT-3リガンド、CD40リガンド、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され、
免疫細胞が、T細胞、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、
装置。
【請求項2】
足場からの免疫細胞の遊出を誘導する展開シグナルを含み、展開シグナルが、装置からの免疫細胞の遊走を誘導するタンパク質、または該タンパク質をコードする核酸である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
動員組成物の低減または非存在が、足場からの免疫細胞の遊出を誘導する展開シグナルである、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
足場組成物が、温度、pH、水和状態、および多孔性からなる群より選択される物理的パラメータに基づいて既定の速度で分解する、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
マクロ孔が100μmより大きいサイズのものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
足場組成物が、400~500μmのサイズの孔を含む、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
ポリマーマトリクスが、アルギネート、ポリ(エチレングリコール)、ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチン、ポリ(ビニルアルコール)、フィブリン、ポリ(グルタミン酸)、ペプチド両親媒性物質、絹、フィブロネクチン、キチン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ラクチド-コグリコリド) (PLGA)、ポリジオキサノン、ポリグリコネート、BAK、 ポリ(オルトエステル)I、ポリ(オルトエステル)II、ポリ(オルトエステル)III、ポリ(オルトエステル)IV、ポリプロピレンフマレート、ポリ[(カルボキシフェノキシ)プロパンセバシン酸]、ポリ[ピロメリチルイミドアラニン-コ-1,6-ビス(p-カルボキシフェノキシ)ヘキサン](poly[pyromellitylimidoalanine-co-1,6-bis(p-carboxy phenoxy)hexane])、ポリホスファゼン、デンプン、セルロース、アルブミン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるポリマーを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
ポリマーマトリクスがポリ(ラクチド-コグリコリド) (PLGA)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
PLGAミクロスフェアを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
アジュバントをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
アジュバントが、ケモカイン、サイトカイン、CpGに富むオリゴヌクレオチド、抗体、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
アジュバントが、CpGに富むオリゴヌクレオチドを含む、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
動員組成物がGM-CSFを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
第二の生物活性組成物をさらに含み、第二の生物活性組成物が、ポリペプチド、核酸、多糖類、または低分子を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
ポリペプチドが、インターフェロン、インターロイキン、増殖因子、サイトカイン、ケモカイン、リガンド、または抗体を含む、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
ポリペプチドが、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、TNF-α、IFN-γ、IFN-α、GM-CSF、G-CSF、Ftl-3リガンド、MIP-3β (CCL19)、CCL21、M-CSF、MIF、CD40L、CD3、ICAM、抗CTLA-4抗体、TGF-β、Fasリガンド、TRAIL、リンフォタクチン、または熱ショックタンパク質を含む、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
核酸が、DNA分子、RNA分子、またはCpGに富むDNAを含む、請求項14に記載の装置。
【請求項18】
多糖類が、細菌に関連する糖部分を含む、請求項14に記載の装置。
【請求項19】
低分子がマンナンを含む、請求項14に記載の装置。
【請求項20】
抗原をさらに含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
抗原が、癌抗原、ウイルス抗原、感染性疾患関連抗原、および神経疾患関連抗原、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
癌が、中枢神経系(CNS)癌、CNS胚細胞腫瘍、肺癌、白血病、多発性骨髄腫、腎臓癌、悪性神経膠腫、髄芽細胞腫、黒色腫、乳癌、卵巣癌、および前立腺癌からなる群より選択される、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
癌抗原が、MAGEシリーズ抗原、MART-1/黒色腫、チロシナーゼ、ガングリオシド、gp100、GD-2、O-アセチル化GD-3、GM-2、MUC-1、Sos1、タンパク質キナーゼC-結合タンパク質、逆転写酵素タンパク質、AKAPタンパク質、VRK1、KIAA1735、T7-1、T11-3、T11-9、ホモサピエンステロメラーゼ発酵 (hTRT)、サイトケラチン-19、CYFRA21-1、扁平上皮癌抗原1 (SCCA-1)、タンパク質T4-A、扁平上皮癌抗原2 (SCCA-2)、卵巣癌抗原CA125、1A1-3B、KIAA0049、ムチン1、腫瘍関連ムチン、癌腫関連ムチン、多形上皮ムチン(PEM、PEMT、EPISIALIN)、腫瘍関連上皮膜抗原(EMA)、H23AG、ピーナツ反応性尿路ムチン(PUM)、乳癌関連抗原DF3、CTCL腫瘍抗原se1-1、CTCL腫瘍抗原se14-3、CTCL腫瘍抗原se20-4、CTCL腫瘍抗原se20-9、CTCL腫瘍抗原se33-1、CTCL腫瘍抗原se37-2、CTCL腫瘍抗原se57-1、CTCL腫瘍抗原se89-1、前立腺特異的膜抗原、5T4癌胎児トロホブラスト糖タンパク質、Orf73カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、MAGE-C1、癌/精巣抗原CT7、MAGE-B1抗原、MAGE-XP抗原、DAM10、MAGE-B2抗原、DAM6、MAGE-2抗原、MAGE-4a抗原、MAGE-4b抗原、結腸癌抗原NY-CO-45、肺癌抗原NY-LU-12変種A、癌関連表面抗原、腺癌抗原ART1、腫瘍随伴関連脳-精巣-癌抗原、腫瘍神経抗原MA2、腫瘍随伴神経抗原、神経腫瘍腹側抗原2 (NOVA2)、肝細胞癌抗原遺伝子520、腫瘍関連抗原CO-029、腫瘍関連抗原MAGE-X2、滑膜肉腫、Xブレークポイント2、T細胞によって認識される扁平上皮癌抗原、血清学的に定義された結腸癌抗原1、血清学的に定義された乳癌抗原NY-BR-15、血清学的に定義された乳癌抗原NY-BR-16、クロモグラニンA、副甲状腺分泌タンパク質1、DUPAN-2、CA 19-9、CA 72-4、CA 195、癌胎児抗原 (CEA)、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項21に記載の装置。
【請求項24】
癌抗原が癌細胞表面抗原を含む、請求項21に記載の装置。
【請求項25】
癌抗原が腫瘍溶解物または放射線照射腫瘍細胞を含む、請求項21に記載の装置。
【請求項26】
感染性疾患関連抗原が、HIV関連抗原、結核関連抗原、インフルエンザウイルス関連抗原、髄膜炎関連抗原、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項21に記載の装置。
【請求項27】
感染性疾患関連抗原が、Gp120、SIV229、SIVE660、SHIV89.6P、E92、HCl、OKM5、FVIIIRAg、HLA-DR(Ia)抗原、OKMI、LFA-3、結核菌抗原5、結核菌抗原85、ESAT-6、CFP-10、Rv3871、GLU-S、CRA、RAP-2、MSP-2、AMA-1、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項21に記載の装置。
【請求項28】
神経疾患関連抗原が、自己中枢神経系(CNS)抗原、ヒトα-シヌクレイン、βアミロイド斑、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項21に記載の装置。
【請求項29】
足場組成物がガスフォーミングによって作られる、請求項1~28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
ビーズ、ペレット、シート、またはディスクの形状である、請求項1~
29のいずれか一項に記載の装置。
【請求項31】
生物活性組成物が足場組成物に共有結合で連結されている、請求項1~
30のいずれか一項に記載の装置。
【請求項32】
動員組成物が生物活性組成物として機能し、展開シグナルが動員組成物における低減である、請求項1~
31のいずれか一項に記載の装置。
【請求項33】
動員組成物および生物活性組成物がGM-CSFである、請求項
32に記載の装置。
【請求項34】
対象における免疫細胞を改変する方法における使用のための、請求項1~
33のいずれか一項に記載の装置であって、
該方法が、
装置を対象に投与する段階、および
動員組成物によって免疫細胞を装置へ動員させ、これによって、装置へ動員された免疫細胞を改変する段階
を含む、装置。
【請求項35】
体のもう1つの部位への改変された細胞の遊走を誘導または促進する展開シグナルを含む、請求項
34に記載の使用のための装置。
【請求項36】
動員組成物がGM-CSFを含む、請求項
34または
35に記載の使用のための装置。
【請求項37】
免疫細胞が、装置に入る前の免疫活性化レベルと比較して、遊出時に免疫学的に活性化されている、請求項
34~
36のいずれか一項に記載の使用のための装置。
【請求項38】
抗原を含む、請求項
34~
37のいずれか一項に記載の使用のための装置。
【請求項39】
免疫細胞が、装置に入る前のプライミングのレベルと比較して、遊出時に抗原プライミングされている、請求項
38に記載の使用のための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の支援
本発明は、全体的、または一部、NIH/NICDR助成金番号ROl DEl3349およびHL069957によって支援された。米国政府は本発明に一定の権利を保有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
2000年に米国における骨格筋疾患の総費用は、25400万米ドルであると推定されており、開発途上国ではこの数値は10000万米ドルであると推定されている。正常な条件では、筋肉は損傷した筋線維を再生して筋力を回復することによって自身を修復することができる。損傷した筋線維の初回壊死後、衛星細胞と呼ばれる休止期の細胞の内在集団を活性化する炎症反応が始まる。これらの筋原性細胞は増殖して損傷部位に遊走し、分化して融合し、成熟筋線維を形成するか、または既存の筋線維と融合して、このように損傷した筋線維を再生して、その機能を回復する。これらの正常なプロセスが疾患または加齢によって損なわれると、損傷した筋線維が浸潤性の線維様組織または脂肪に置き換わり、それによって筋肉量の真の喪失およびその結果筋力の喪失が起こる。
【0003】
細胞移植は、骨格筋障害のために再生医学において用いられていると共に、糖尿病のような変性状態において用いられているが、成功は限られている。より初期のアプローチの限界には、移植後の細胞生存率および機能の喪失が含まれる。
【発明の概要】
【0004】
本発明の装置および方法は、これまでの細胞移植プロトコールに関連するいくつかの問題に対する解決を提供する。損傷したまたは欠損した体組織に定着させるために細胞の生存率を増強してその外向きの遊走を誘導する移植系により、組織再生、たとえば筋組織または他の組織の再生と共に血管新生の成功が増強される。細胞機能および/または挙動、たとえば運動を制御する(control)そのような装置は、足場組成物と1つまたは複数の生物活性組成物とを含有する。生物活性組成物は足場組成物の中に組み入れられる、またはその上にコーティングされる。足場組成物および/または生物活性組成物は、時間的および空間的に(方向性に)常在細胞またはその子孫の遊出を制御する。
【0005】
装置は、インビボで宿主細胞の能動的動員、改変、および材料からの放出を媒介して、それによって足場に存在する細胞の機能を改善する。たとえば、装置は、体に既に存在する細胞を足場材料に誘引または動員して、常在細胞を所望の運命(たとえば、免疫の活性化または組織の再生)にプログラムまたは再プログラムする。
【0006】
この装置には、生物活性組成物を組み入れるまたは生物活性組成物によってコーティングされる足場組成物が含まれる;装置は常在細胞の遊出を調節する(regulate)。遊出は空間的および時間的に調節される。装置が設計される適用に応じて、装置は足場自身の物理的または化学的特徴を通して遊出を調節する。たとえば、足場組成物は、差異があるように透過性であり、細胞が足場の一定の物理的領域においてのみ遊出することを許容する。足場組成物の透過性は、たとえばより大きいまたはより小さい孔径、密度、ポリマーのクロスリンク、剛性、靱性、延性、または粘弾性に関して材料を選択または操作することによって調節される。足場組成物は、その中を通して細胞が装置のまたは装置内の区画の標的化遊出領域に向かってより容易に移動することができる物理的チャンネルまたは通路を含有する。足場組成物は任意で、装置の中を細胞が移動するために必要な時間が正確および予測可能に制御されるように、それぞれが異なる透過性を有する区画または層に組織化される。遊走はまた、足場組成物の分解、脱水和もしくは再水和、酸化、化学的もしくはpH変化、または進行中の自己アセンブリによっても調節される。これらのプロセスは、拡散または酵素もしくは他の反応性化学物質の細胞分泌によって促進される。
【0007】
または、もしくはさらに、遊出は生物活性組成物によって調節される。装置の異なる領域における増殖因子、ホーミング/遊走因子、モルフォゲン、分化因子、オリゴヌクレオチド、ホルモン、神経伝達物質、神経伝達物質もしくは増殖因子受容体、インターフェロン、インターロイキン、ケモカイン、サイトカイン、コロニー刺激因子、走化性因子、細胞外マトリクス成分、接着分子、および他の生物活性分子の濃度を変化させることによって。装置はその構造を通して細胞の遊走を制御および指示する。化学親和性を用いて細胞を特異的遊出領域に向かわせる。たとえば、接着分子を用いて細胞の遊走を誘引するまたは遅らせる。それらの生物活性物質の密度および混合物を変化させることによって、装置は遊走および遊出の時期を制御する。これらの生物活性物質の密度および混合物は、初回ドープ処理レベルもしくは物質の濃度勾配によって、足場材料において生物活性物質を公知の漏出速度で埋め込むすることによって、足場材料が分解するにつれて放出することによって、濃度領域からの拡散によって、領域に拡散する前駆体化学物質の相互作用によって、または内在支持細胞による組成物の産生/排泄によって制御される。足場の物理的または化学的構造はまた、装置を通しての生物活性物質の拡散を調節する。
【0008】
生物活性組成物には、細胞機能および/または挙動を調節する1つまたは複数の化合物が含まれる。生物活性組成物は、足場組成物に共有結合で連結する、または足場に非共有結合によって会合する。たとえば、生物活性組成物は、足場組成物に化学的にクロスリンクした細胞外マトリクス(ECM)成分である。組織起源によらず、ECM成分には一般的に3つの一般的なクラスの高分子が含まれる:コラーゲン、プロテオグリカン/グリコサミノグリカン(PG/GAG)、および糖タンパク質、たとえばフィブロネクチン(FN)、ラミニン、およびトロンボスポンジン。ECM成分は細胞表面上の分子と会合して、接着および/または運動性を媒介する。好ましくは、足場に会合するECM成分は、アミノ酸配列アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)を含有するプロテオグリカン付着ペプチドまたは環状ペプチドである。プロテオグリカン付着ペプチドは、G4RGDSP、XBBXBX、PRRARV、YEKPGSPPREVVPRPRPGV、RPSLAKKQRFRHRNRKGYRSQRGHSRGR、およびRIQNLLKITNLRIKFVKからなる群より選択され、細胞付着ペプチドは、RGD、RGDS、LDV、REDV、RGDV、LRGDN、IKVAV、YIGSR、PDSGR、RNIAEIIKDA、RGDT、DGEA、およびVTXGからなる群より選択される。
【0009】
ECMの成分、たとえばFN、ラミニン、およびコラーゲンは、ECMの成分および他の細胞に対する細胞の認識および接着を媒介する二価陽イオン依存的細胞表面糖タンパク質群である、インテグリン受容体ファミリーを通して細胞表面と相互作用する。インテグリンによって認識されるリガンドは典型的に、多くのECMタンパク質において発現されるRGDアミノ酸配列を含有する。細胞接着および/または運動を媒介する例示的な分子には、FN、ラミニン、コラーゲン、トロンボスポンジン1、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、アグリカン、アグリン、骨シアロタンパク質、軟骨マトリクスタンパク質、フィブリノーゲン、フィブリン、フィビュリン、ムチン、エンタクチン、オステオポンチン、プラスミノーゲン、レストリクチン、セルグリシン、SPARC/オステオネクチン、バーシカン、フォン・ヴィレブランド因子、多糖類ヘパリン硫酸、コネキシン、セレクチンシンクルード(selectinsinclude)、コラーゲン、RGD(Arg-Gly-Asp)およびYIGSR(Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg)ペプチド、グリコサミノグリカン(GAG)、ヒアルロン酸(HA)、インテグリン、セレクチン、カドヘリンおよび免疫グロブリンスーパーファミリーが含まれる細胞接着分子が含まれる。ECMの炭水化物リガンドには、多糖類ヒアルロン酸、およびコンドロイチン-6-硫酸が含まれる。
【0010】
細胞運動性のプロセスに関与するシグナル伝達事象は、細胞増殖因子および/または細胞分化因子に反応して開始される。このように、装置は任意で、増殖因子、モルフォゲン、分化因子、または化学誘引物質である第二の生物活性組成物を含有する。たとえば、装置には、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、もしくは線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、またはその組み合わせが含まれる。他の因子には、ホルモン、神経伝達物質、神経伝達物質または増殖因子受容体、インターフェロン、インターロイキン、ケモカイン、MMP-感受性基質、サイトカイン、コロニー刺激因子が含まれる。血管新生、骨再生、創傷治癒、および組織再生の他の局面を促進するために用いられる増殖因子を本明細書において記載し、これらは、埋め込まれた足場装置から遊走した細胞によって体組織のコロニー形成または再生を誘発するために単独または併用して用いられる。
【0011】
または、第二の生物活性組成物は、分化の阻害剤である。この場合、細胞は阻害剤が枯渇するまで(たとえば足場から拡散してしまうまでまたは不活性となるまで)または変化を誘導するために、たとえば成熟もしくは分化を促進するためにもう1つのシグナルが提供されるまで、阻害剤によって発達または分化の所望の段階で維持される。
【0012】
いくつかの場合において、第二の生物活性組成物は、足場組成物内またはその上で組成物を比較的固定された状態に維持して足場構造に共有結合で連結される。他の場合において、第二の生物活性組成物は、足場に非共有結合によって会合する。非共有結合は一般的に、共有結合より1~3次数弱く、足場から周辺組織への因子の拡散を許容する。非共有結合には、静電気結合、水素結合、ファンデルワールス結合、π芳香環結合、および疎水性結合が含まれる。たとえば、VEGFのような増殖因子は、非共有結合によって装置に会合して、標的体組織の血管新生および組織修復をさらに促進するために、細胞を播種した装置を標的組織に投与した後装置から出てゆく。
【0013】
足場組成物は生物学的適合性である。組成物は、生体分解性/腐食性であるか、または体での分解に対して抵抗性である。比較的永続的な(分解抵抗性の)足場組成物には、金属および絹のようないくつかのポリマーが含まれる。好ましくは足場組成物は、温度、pH、水和状態、および多孔性、クロスリンク密度、タイプ、および主鎖連結の化学もしくは分解に対する感受性からなる群より選択される物理的パラメータに基づく既定の速度で分解するか、または化学ポリマーの比率に基づいて既定の速度で分解する。たとえば、ラクチドのみを含む高分子量ポリマーは、数年間のあいだに、たとえば1~2年間で分解するが、ラクチドとグリコリドを50:50で含む低分子量ポリマーは、数週間、たとえば1、2、3、4、6、10週間のあいだに分解する。高分子量の高グルクロン酸アルギネートで構成されるカルシウムクロスリンクしたゲルは、インビボで数ヶ月(1、2、4、6、8、10、12ヶ月)から数年間(1、2、5年)かけて分解するが、低分子量アルギネートおよび/または部分的に酸化されているアルギネートを含むゲルは数週間のあいだに分解するであろう。
【0014】
一例において、細胞は足場マトリクスの分解を媒介する、すなわち足場組成物は常在細胞によって誘発される組成物によって酵素的に消化され、細胞の遊出は、足場の酵素消化速度に依存する。この場合、ポリマーの主鎖またはクロスリンクは組成物、たとえばコラゲナーゼもしくはプラスミン、または足場内もしくは足場に隣接して産生される他の酵素の基質であるオリゴペプチドを含有する。
【0015】
例示的な足場組成物には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、PLGAポリマー、アルギネートおよびアルギネート誘導体、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸、ラミニンに富むゲル、アガロース、天然および合成多糖類、ポリアミノ酸、ポリペプチド、ポリエステル、ポリアンヒドリド、ポリホスファジン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリ(アリルアミン)(PAM)、ポリ(アクリレート)、改変スチレンポリマー、プルロニックポリオール、ポリオキサマー、ポリ(ウロン酸)、ポリビニルピロリドン および上記の任意のコポリマーまたはグラフトコポリマーが含まれる。1つの好ましい足場組成物には、RGD-改変アルギネートが含まれる。
【0016】
足場組成物の多孔性は、装置からの細胞の遊出に影響を及ぼす。孔は、ナノ孔、ミクロ孔、またはマクロ孔性である。たとえばナノ孔の直径は約10 nm未満であり;ミクロ孔は直径約100 nm~20μmの範囲であり;およびマクロ孔は約20μmより大きい(好ましくは約100μmより大きく、さらにより好ましくは約400μmより大きい)。一例において、足場は直径約400~500μmの孔が整列したマクロ孔である。
【0017】
装置は、その全体において細胞の非存在下で製造されるか、または細胞の周囲もしくは細胞に接触してアセンブルされて(材料は細胞および組織の存在下でインビトロまたはインビボで細胞周囲でゲル化されるまたはアセンブルされる)、細胞に接触して、細胞播種構造を産生することができる。または装置は、1つの層または区画が作製されて、細胞を播種した後に第二、第三、第四またはそれより多い層が構築されて、次に順に細胞が播種される、2つまたはそれより多い(3、4、5、6、10またはそれより多い)段階で製造される。それぞれの層または区画は、他の層と同一であるか、または播種細胞集団の数、遺伝子型、もしくは表現型と共に明確な化学、物理、および生物学的特性によって互いに区別される。移植の前に、装置を精製集団の細胞または先に記述した細胞の特徴付けされた混合物に接触させる。例示的な細胞には、筋再生、修復、または置換のための筋芽細胞;肝組織再生、修復、または臓器移植のための肝細胞;軟骨置換、再生、または修復のための軟骨細胞;および骨再生、置換、または修復のための骨芽細胞、様々な幹細胞集団(様々な細胞タイプに分化する胚幹細胞)、骨髄または脂肪組織由来成体幹細胞、心幹細胞、膵幹細胞、内皮前駆細胞、および外殖内皮細胞、間葉幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、衛星細胞、副集団細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞が含まれる分化細胞集団、軟骨細胞、皮膚のためのケラチノサイト、腱のための腱細胞、腸管上皮細胞、内皮細胞、組織または臓器の再生、修復、または置換および/またはDNA送達のための平滑筋細胞および線維芽細胞が含まれる。好ましくは細胞はヒトである;しかし、系は他の真核動物細胞、たとえばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、およびブタと共に細菌細胞のような原核細胞に適用可能である。
【0018】
足場を作製する方法は、足場組成物を提供する段階、足場組成物を第一の生物活性組成物に共有結合で連結または非共有結合で会合させる段階によって行われる。第一の生物活性組成物は、好ましくは細胞接着リガンドを含有する。足場組成物はまた、第二の生物活性組成物に接触する。第二の生物活性組成物は、好ましくは足場組成物に非共有結合で会合されて、ドープ処理された足場、すなわち1つまたは複数の生物活性物質が含まれる足場組成物を生じる。接触させる段階は、ドープ処理された複数の足場を生じるために任意で繰り返され、たとえば接触させる段階のそれぞれは、足場装置における第二の生物活性組成物の勾配を生じるために第二の生物活性組成物の異なる量を特徴とする。組成物の量を変化させることよりむしろ、その後の接触させる段階は、異なる生物活性組成物を伴い、すなわち、第三、第四、第五、第六…の組成物または組成物の混合物は、構造または要因の化学式によって、先のドープ処理段階の先の組成物または混合物とは区別される。方法は任意で、個々のニッシェ、層、または成分を互いに接着させる段階、および/または細胞または生物活性組成物の移動をさらに制御/調節するために、装置の1つもしくは複数の境界内、または境界に半透過性、透過性、または非透過性の膜を挿入する段階を必然的に伴う。先に記述したように、装置の構築が完了した後または各成分の構築を通して反復的に、足場に細胞を播種する。
【0019】
装置の治療適用には、組織の生成、再生/修復と共に哺乳動物体組織の機能の増強、および望ましくない組織(たとえば、癌、望ましくない脂肪貯蔵物)の標的化破壊と共に免疫細胞の教育が含まれる。たとえば、方法には、生物活性組成物がその中またはその上に組み入れられた足場組成物と、足場に結合させた哺乳動物細胞とが含まれる装置を提供する段階が含まれる。哺乳動物組織を装置に接触させる。足場組成物は細胞の遊出を時間的に制御して、生物活性組成物は細胞の遊出を空間的または方向性に制御する。もう1つの例において、提供される装置は、生物活性組成物がその中またはその上に組み入れられた足場組成物と足場内に固定された哺乳動物細胞とを含有する。後者の場合、細胞は足場内で固定されたままであり、足場組成物は固定された細胞の子孫細胞の遊出を時間的に制御して、生物活性組成物は子孫細胞の遊出を空間的に調節する。
【0020】
細胞、たとえば宿主細胞の活性を調整する(modulate)方法は、足場組成物とその中またはその上に組み入れられた動員組成物とを含有する装置を哺乳動物に投与する段階の後に、細胞を展開シグナルに接触させる段階によって行われる。展開シグナルは、装置からの細胞の遊出を誘導する。遊出時の細胞の活性は、装置に入る前の活性とは異なる。細胞は装置に動員されて、一定期間、たとえば数分、0.2、0.5、1、2、4、6、12、24時間;2、4、6日;数週間(1~4週間)、数ヶ月(2、4、6、8、10、12ヶ月)、または数年のあいだ装置に存在して留まり、そのあいだに細胞は構造要素および生物活性組成物に曝露されて、細胞の活性または活性レベルの変化が起こる。細胞は、変化した(再教育または再プログラムされた)細胞の遊出を誘導する展開シグナルに接触または曝露され、細胞は装置から周辺組織または遠隔標的部位へと遊走する。
【0021】
展開シグナルは、タンパク質、ペプチド、または核酸のような組成物である。たとえば、装置に遊走する細胞は、装置に入った時に1回展開シグナルに遭遇するのみである。いくつかの態様において、展開シグナルは核酸分子、たとえば装置から周辺組織への細胞の遊走を誘導するタンパク質をコードする配列を含有するプラスミドである。展開シグナルは、細胞が装置においてプラスミドに遭遇する場合に発生し、DNAは細胞においてインターナライズされ(すなわち、細胞はトランスフェクトされる)、細胞はDNAによってコードされる遺伝子産物を製造する。いくつかの場合において、展開シグナルを送る分子は装置の要素であり、動員組成物に対する細胞の曝露と比較して遅れて(たとえば、時間的または空間的)装置から放出される。または、展開シグナルは動員組成物の低減または非存在である。たとえば、動員組成物は、装置への細胞の遊走を誘導して、装置からの動員組成物の濃度の低減、枯渇、消散、または拡散によって、装置からの細胞の遊出が起こる。このようにして、個体のT細胞、B細胞、または樹状細胞(DC)のような免疫細胞が装置に動員され、プライミングされて活性化され、抗原特異的標的に対する免疫応答を開始する。任意で、それに対する免疫応答が望ましい標的に対応する抗原が、足場構造の中またはその上に組み入れられる。顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)のようなサイトカインもまた、免疫活性化を増幅しておよび/またはプライミング細胞のリンパ節への遊走を誘導するための装置の成分である。他の細胞特異的動員組成物を以下に記述する。たとえば血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生細胞を動員するために有用である。
【0022】
装置はインビボで細胞を動員して、これらの細胞を改変した後、体のもう1つの部位へのその遊走を促進する。このアプローチは本明細書において樹状細胞および癌ワクチン開発の状況において例示されるが、同様に病原微生物に対するワクチンのような他のワクチンと共に細胞治療全般に対しても有用である。本明細書に記述の装置を用いて教育された細胞は、材料に直ちに隣接する、またはいくつかの遠隔部位に存在する組織または臓器の再生を促進する。または、細胞は組織の破壊を促進するように教育される(局所または遠隔部位で)。方法はまた、疾患の予防にとって、たとえば疾患の進行または加齢関連組織変化を停止または遅延させるために、組織構造および機能の細胞に基づく維持を促進するために有用である。装置内での細胞の教育、「プログラミング」および「再プログラミング」は、再度、多能性幹細胞となって治療効果を発揮するような、体における任意の細胞の機能または活性の改変を許容する。
【0023】
本発明の他の特色および利点は、本発明の好ましい態様に関する以下の説明から明らかとなるであろう。本明細書において引用した参考文献は全て、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
(
図1)
図1Aおよび1Bは、初代培養骨格筋筋芽細胞培養物の純度がPercoll分画によって増加することを示す顕微鏡写真である。
図1Aは、初回単離によって、デスミンおよびヘキスト核染色の双方に関して染色する筋原性細胞(矢印)を有する不均一な細胞集団が得られたことを示す。対照的に、非筋原細胞は核色素によってのみ染色される(矢印の先)。
図1Bは、Percoll分画によって均一な筋原性培養物が得られたことを示す。
(
図2)
図2Aは、マクロ孔の非ペプチド改変アルギネート足場からのHGF放出を示す折れ線グラフを示し、値は平均値および標準偏差(n=5)を表す。
図2Bは、生存率を示す棒グラフであり、
図2Cは、ナノ孔性足場(■)、HGFを放出するナノ孔足場(■)、およびHGFを放出するミクロ孔足場
におけるおよび該足場からの初代培養筋芽細胞の累積遊走を示す棒グラフである。値は平均値およびSD(n=6)を表す。
(
図3)
図3Aおよび3Bは細胞の状態および性能を示す棒グラフである。生存率(
図3A)および累積遊走(
図3B)は、アルギネートのペプチド改変によって増強される。棒グラフは、ナノ孔性アルギネート足場(■)、HGFG放出を有するナノ孔足場(■)、およびHGF放出を有するミクロ孔足場
を表す。値は平均値およびSD(n=8)を表す。*は非HGFG放出足場と比較して統計学的有意差p<0.001を示す。
(
図4)
図4Aは、ペプチド改変マクロ孔アルギネートの側面図および末端図の走査型電子顕微鏡写真(SEM)であり、
図4BはFGF2の放出速度論を示す折れ線グラフである。値は平均値およびSD(n=4)を表す。
(
図5)
図5Aは、細胞生存率を示す棒グラフであり、
図5Bは、遊走がマクロ孔およびペプチド改変アルギネート足場からのFGF2放出によって増強されることを示す棒グラフである。棒グラフはマクロ孔アルギネート(■)、HGFを放出するマクロ孔アルギネート足場(■)、およびHGFとFGF2の双方を放出する足場
を表す。値は平均値およびSD(n=6)を表す。*は、非HGF放出条件と比較して統計学的有意差(p<0.01)を示す。
(
図6)HGFおよびFGF2の放出を伴う(+)(レーン2)または放出を伴わない(-)(レーン3)ペプチド改変アルギネートから作製されたマクロ孔足場において培養した筋芽細胞からの細胞溶解物のウェスタンブロット分析の写真である。足場から遊走する細胞も同様に分析した(レーン4)。C2C12細胞株(レーン1)からの溶解物の対照および分化を促進する標準的な二次元条件で培養した初代培養筋芽細胞(レーン5)も同様に示す。
(
図7A)
図7Aは、細胞を送達してHGFおよびFGF2を放出する足場構造によって処置した前脛骨筋の写真である。筋を染色してlac Zドナー細胞(点線は陽性染色組織を概要する)を含有する領域を大まかに同定した。顕微鏡上に大きさのバーを示す。
(
図7B)
図7Bは、HGFおよびFGF2のみを含有する足場によって処置した前脛骨筋の写真である。筋を染色してlac Zドナー細胞(点線は陽性染色組織を概要する)を含有する領域を大まかに同定した。顕微鏡上に大きさのバーを示す。
(
図7C)
図7Cは、筋芽細胞のみを含有する足場によって処置した前脛骨筋の写真である。筋を染色してlac Zドナー細胞(点線は陽性染色組織を概要する)を含有する領域を大まかに同定した。顕微鏡上に大きさのバーを示す。
(
図7D)
図7Dは、損傷30日後の筋量が筋芽細胞ならびにHGFおよびFGF2(足場におけるHGF/FGF2-細胞)を含有する足場によって処置した場合に、筋肉への筋芽細胞の直接注入(細胞[注射])、ブランク足場、細胞を含まない増殖因子を放出する足場(HGF/FGF)、または増殖因子を放出しない足場に移植した細胞(足場における細胞)によって処置した損傷と比較すると大きかった。値は平均値および標準偏差(n=6)を表す。*は他の全ての条件と比較して統計学的有意差(p<0.001)を表す。
(
図8A)
図8Aは、損傷後10日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、筋肉への筋芽細胞の直接注入によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。10日目、欠損は消散されず全ての条件において壊死破片によって満たされた。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図8B)
図8Bは、損傷後10日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、ブランク足場によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。10日目、欠損は消散されず全ての条件において壊死破片によって満たされた。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図8C)
図8Cは、損傷後10日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、細胞を含まない増殖因子を放出する足場によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。10日目、欠損は消散されず全ての条件において壊死破片によって満たされた。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図8D)
図8Dは、損傷後10日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、増殖因子を放出しない足場に移植した細胞によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。10日目、欠損は消散されず全ての条件において壊死破片によって満たされた。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図8E)
図8Eは、損傷後10日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、筋芽細胞とHGFおよびFGF2を送達する足場によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。10日目、欠損は消散されず全ての条件において壊死破片によって満たされた。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図8F)
図8Fは、損傷後30日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、筋肉への筋芽細胞の直接注入によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。30日目、裂傷損傷は、全ての条件において消散し始めたが、増殖因子と共に足場に送達された筋芽細胞では、この時点で欠損の実質的に完全な消散が起こった。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図8G)
図8Gは、損傷後30日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、ブランク足場によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。30日目、裂傷損傷は、全ての条件において消散し始めたが、増殖因子と共に足場に送達された筋芽細胞では、この時点で欠損の実質的に完全な消散が起こった。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図8H)
図8Hは、損傷後30日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、細胞を含まない増殖因子を放出する足場によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。30日目、裂傷損傷は、全ての条件において消散し始めたが、増殖因子と共に足場に送達された筋芽細胞では、この時点で欠損の実質的に完全な消散が起こった。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図8I)
図8Iは、損傷後30日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、増殖因子を放出しない足場に移植した細胞によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。30日目、裂傷損傷は、全ての条件において消散し始めたが、増殖因子と共に足場に送達された筋芽細胞では、この時点で欠損の実質的に完全な消散が起こった。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図8J)
図8Jは、損傷後30日目での欠損の顕微鏡写真である。条件には、筋芽細胞とHGFおよびFGF2を送達する足場によって処置した損傷が含まれた。欠損を点線で概要する。30日目、裂傷損傷は、全ての条件において消散し始めたが、増殖因子と共に足場に送達された筋芽細胞では、この時点で欠損の実質的に完全な消散が起こった。顕微鏡写真において大きさのバーを示す。
(
図9)
図9A~Bは損傷後10日目(
図9A)、および損傷後30日目(
図9B)での残りの欠損領域の定量的分析を示す棒グラフである。条件には、筋肉への筋芽細胞の直接注入(細胞[注入])、ブランク足場、細胞を含まない増殖因子を放出する足場(HGF/FGF)、増殖因子を放出しない足場に移植された細胞(足場における細胞)、ならびに筋芽細胞とHGFおよびFGF2とを送達する足場(足場におけるHGF/FGF-2細胞)が含まれた。10日目ではいかなる条件においても欠損の有意な消散は起こらなかった。対照的に損傷後30日目では、細胞と増殖因子とを送達した足場によって処置した筋における欠損は、他の任意の条件より有意に小さかった(*は他の全ての条件と比較してp<0.05を示す)。それほど顕著ではないが、欠損の大きさのなお有意な低減はまた、細胞の注射またはHGFおよびFGF2を送達する足場によって処置した筋においても認められた(#は、ブランク足場または増殖因子を放出しない足場において移植された細胞と比較してp<0.01を示す)。値は平均値および標準偏差(n=6)を表す。
(
図10A)
図10Aは、30日目で再生する線維の幅および中心に位置する核の数が、増殖因子のみを送達する足場を示す顕微鏡写真である。
(
図10B)
図10Bは、他の任意の条件と比較して細胞および増殖因子を送達する足場によって処置した筋において有意に大きかったことを示す顕微鏡写真である。
(
図10C)
図10Cは線維の幅の定量を図示する棒グラフである。線維の幅は、筋芽細胞注入またはHGFおよびFGF2を放出する足場による処置によって増加して(#は、ブランク足場または増殖因子を含まない細胞を移植した足場と比較してp<0.01)、筋芽細胞および増殖因子を送達する足場による処置によって最も劇的に増加した(*は他の全ての条件と比較してp<0.001を示す)。値は平均値および標準偏差(n=6)を表す。
(
図10D)
図10Dは線維の長さあたり中心に存在する核の数を示す棒グラフである。筋の長さあたりの中心に存在する核の増加は、筋芽細胞とHGF/FGF2を含有する足場を用いて、筋損傷を処置した場合に限って観察された。値は平均値および標準偏差(n=6)を表す。
(
図11A)
図11Aは、筋組織の顕微鏡写真である。組織切片の低倍率での顕微鏡写真を免疫染色して、再生しつつある組織におけるドナー筋芽細胞(β-ガラクトシダーゼに関して染色陽性)を同定した。細胞の注入(
図11B、D)によって起こった宿主筋系へのドナー細胞取り込みは最小限であった。対照的に、増殖因子を放出する足場における細胞の移植によって、再生する筋組織へのドナー細胞の広範囲の取り込みが起こる(
図11A、C)。大きさのバーを顕微鏡写真において示す。
(
図11B)
図11Bは、筋組織の顕微鏡写真である。組織切片の低倍率での顕微鏡写真を免疫染色して、再生しつつある組織におけるドナー筋芽細胞(β-ガラクトシダーゼに関して染色陽性)を同定した。細胞の注入(
図11B、D)によって起こった宿主筋系へのドナー細胞取り込みは最小限であった。対照的に、増殖因子を放出する足場における細胞の移植によって、再生する筋組織へのドナー細胞の広範囲の取り込みが起こる(
図11A、C)。大きさのバーを顕微鏡写真において示す。
(
図11C)
図11Cは、筋組織の顕微鏡写真である。組織切片の高倍率での顕微鏡写真を免疫染色して、再生しつつある組織におけるドナー筋芽細胞(β-ガラクトシダーゼに関して染色陽性)を同定した。細胞の注入(
図11B、D)によって起こった宿主筋系へのドナー細胞取り込みは最小限であった。対照的に、増殖因子を放出する足場における細胞の移植によって、再生する筋組織へのドナー細胞の広範囲の取り込みが起こる(
図11A、C)。大きさのバーを顕微鏡写真において示す。
(
図11D)
図11Dは、筋組織の顕微鏡写真である。組織切片の高倍率での顕微鏡写真を免疫染色して、再生しつつある組織におけるドナー筋芽細胞(β-ガラクトシダーゼに関して染色陽性)を同定した。細胞の注入(
図11B、D)によって起こった宿主筋系へのドナー細胞取り込みは最小限であった。対照的に、増殖因子を放出する足場における細胞の移植によって、再生する筋組織へのドナー細胞の広範囲の取り込みが起こる(
図11A、C)。大きさのバーを顕微鏡写真において示す。
(
図12)VEGFを有しない足場と比較した、VEGFを含有するアルギネートゲル足場からの内皮細胞遊走を示す棒グラフである。
(
図13A)
図13Aは、手術前および手術後の血液灌流を示すマウス後肢の写真である。ゲルマトリクス内での細胞の移植は、筋肉内注射による細胞の送達(
図13B)と比較して血流の回復を増強した(
図13A)。
(
図13B)
図13Bは、手術前および手術後の血液灌流を示すマウス後肢の写真である。ゲルマトリクス内での細胞の移植は、筋肉内注射による細胞の送達(
図13B)と比較して血流の回復を増強した(
図13A)。
(
図13C)
図13Cは、ゲルマトリクス内でのEPCおよびOECの移植によって、動脈を結紮した後肢における血流の完全な回復が起こったことを示す折れ線グラフである。
(
図13D)
図13Dは、血液灌流の回復を示す棒グラフである。手術に供した後肢を肉眼的に調べて、正常(同じ動物の非虚血後肢と比較して、色または後肢の完全性に相違を示さない)または1本の壊死足指、多数の壊死足指、もしくは完全に壊死した足を示すとして群分けした。
(
図14)
図14Aは、スキャッタープロットであり、
図14B~Cは、PLG足場からのGM-CSF送達がDCのインビボ動員および拡大を増強させることを示す折れ線グラフである。
図14Aは、GM-CSFをロードした足場およびブランク足場から単離後のDCマーカー、CD86およびCD11cに関して陽性である細胞のFACSプロットを示す。
図14BはGM-CSFをロードした足場(-■-)およびブランク足場(-□-)から単離されたDCの百分率を示す。
図14Cは、GM-CSFロード足場(-■-)およびブランク足場(-□-)から単離されたDCの総数を示す。GM-CSF足場に、組換え型タンパク質3μgをローディングした。
(
図15)
図15A~Bは、PLG足場に組み入れられるGM-CSFの用量の増加によってDC浸潤が増強されることを示す棒グラフである。
図15Aは、GM-CSF 1、3、および7μg(n=4)の送達に反応してPLG足場から単離されたCD11c+ CD86+樹状細胞の百分率を示し、
図15Bは対照によって標準化されたCD11c+CD86+樹状細胞の細胞密度を示す。足場は14日目に皮下ポケットから移植された。
(
図16)
図16Aは、インビボDC追跡アッセイの概略図である。DCは、FITCを塗装したPLGマトリクスに動員され、C57B6マウスの背部に皮下移植して、そこでそれらはFITC分子を取り込んでリンパ節(LN)にFITC+DCとして移動する。フルオレセイン(FITC)を塗装したPLGマトリクスからの局所GM-CSF送達は、長期間排液リンパ節へのマトリクス由来DCの持続的な輸送を可能にする。
図16Bは、ブランクおよびGM-CSFロードPLGマトリクスの移植後2、7、および14日目に鼠径リンパ節におけるCD11c+FITC+DCの代表的なFACSデータを示す一連のスキャッタープロットである。
図16Cは、ブランクおよびGM-CSFロード足場の移植後2、4、7、14、および28日目でのC57B6マウスの鼠径リンパ節におけるFITC+ DCの総数を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
再生医学技術は、疾患または欠損組織または臓器を修復または置換する装置および方法である。組織工学は、体構造および組織の機能を回復、維持、もしくは改善するために、または望ましくない組織の破壊を選択的に促進するために、生物学的代用物の開発に、工学の原理、工学処理法、および生命科学を応用することである。これは、臓器全体もしくは組織移植に対する補充もしくは代替物としての生物学的代用物を構築するための方法の開発、またはインビボで組織を操作するための戦略の開発を伴う。埋め込み部分または装置の開発において生きている細胞および/または細胞外マトリクス(ECM)成分を用いることは、機能を回復または置換するために魅力的なアプローチである。方法および装置は、デノボで機能的な生物学的構造を生成するために、またはインサイチューで臓器を再生させるためと共に、組織機能を回復もしくは補助するために有用である。装置は、体における特定の疾患もしくは損傷組織の中にもしくはそれに隣接して、または体における組織を通して広く分散して配置される。装置は、処置される組織に直接接触する、または装置での内住後に近傍または遠隔組織標的に遊走する細胞を含有する。
【0026】
細胞集団
足場構造に、精製または単離細胞の1つまたは複数の集団を播種する。細胞タイプ、たとえば幹細胞を参照して用いる場合の「単離された」という用語は、細胞がそれが天然に存在する他の細胞タイプまたは細胞材料を実質的に含まないことを意味する。たとえば、特定の細胞タイプまたは表現型の細胞試料は、それが細胞集団の少なくとも60%である場合、「実質的に純粋」である。好ましくは、調製物は細胞集団の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%または100%である。純度は任意の適当な標準的な方法によって、たとえば蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)によって測定される。任意で、装置は、2つまたはそれより多い実質的に純粋な細胞集団が播種される。集団は空間的または物理的に離れており、たとえば1つの集団が封入されるか、または細胞は互いの中に入ることを許容される。足場または構造支持体は、その上に細胞が播種される/付着する表面を提供するのみならず、第一の細胞集団が会合する(細胞-細胞接着)第二の(第三の、またはいくつかの)細胞集団を内在させることによって、細胞集団の産生/教育に間接的に影響を及ぼす。そのような「付属」細胞集団は、望ましいサイトカイン、増殖因子、または他のシグナル伝達分子を分泌して、および/または適当な細胞外マトリクスタンパク質を沈着する。サイトカインは、免疫、炎症、および造血を媒介および調節する低分子分泌型タンパク質である。サイトカインは、短い距離に、短時間で、および非常に低濃度で作用することができる。それらは、特異的膜受容体に結合することによって作用し、次に受容体は二次伝達物質、しばしばチロシンキナーゼを通して細胞にシグナルを送り、その挙動(たとえば、細胞機能および/または遺伝子発現)を変化させる。サイトカインに対する反応には、膜タンパク質(サイトカイン受容体が含まれる)の発現の増加または減少、増殖、およびエフェクター分子の分泌が含まれる。そのような分子はまた、リンフォカイン(リンパ球によって作製されるサイトカイン)、モノカイン(単球によって作製されるサイトカイン)、ケモカイン(走化性活性を有するサイトカイン)、およびインターロイキン(1つの白血球によって作製されて、他の白血球に作用するサイトカイン)とも呼ばれる、。サイトカインは、それらを分泌する細胞に作用する(オートクライン作用)、近接する細胞に作用する(パラクライン作用)、または遠隔細胞に作用する(内分泌作用)。
【0027】
幹細胞は、適当な微小環境、たとえば増殖因子および他の分化物質に接触した場合に成熟した機能的組織特異的細胞へと分化する未分化細胞である。本明細書において記述の装置/足場はそのような微小環境を表す。それぞれの装置は、コロニーを形成して損傷組織を再生させることができる組織特異的細胞を周辺の体組織に誘引/受容、再生、維持、教育、および送る工場を構成する。幹細胞のほかに、足場は、前駆細胞、分化細胞、支持細胞、外因性のタンパク質を産生するための改変細胞(たとえば、遺伝子改変(たとえば、DNA送達(プラスミドまたはウイルスによって)またはsiRNA、μRNAによって))、多様な細胞の運命決定に関係する特異的シグナル伝達経路(たとえば、タンパク質キナーゼ)もしくは遺伝子調節経路(たとえば、主転写因子の活性をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする)を増強または抑制するために薬物によって化学改変された細胞、リガンドもしくは増殖因子およびモルフォゲンによって表面改変された細胞、または免疫細胞が含まれる他の細胞との特異的接着相互作用を促進するための、またはオートクラインまたはパラクラインシグナル伝達を提供するための細胞の低分子模倣体、融合細胞集団、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、筋芽細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、およびニューロン細胞を内在させる。
【0028】
分化した細胞は、核内容物の卵母細胞への移入によって、または胚幹(ES)細胞との融合によって胚様状態へと再プログラムされる。たとえば、マウス胚または成体線維芽細胞からの多能性幹細胞の誘導は、以下の因子、Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4、およびNanogの1つまたは複数を導入することによって達成される。そのような因子との接触後、分化した細胞は再プログラムされ、幹細胞、たとえばES細胞の形態および生育特性を示し、幹細胞マーカー遺伝子を発現する。
【0029】
足場はインビトロまたはインビボで播種される。たとえば、足場は、細胞を含む溶液中で構造をインキュベートすることによって播種される。または、細胞は足場に注入/滴定されるか、または装置に遊走するように動員される。なおもう1つの例において、足場はもう1つの層をのせる前に、またはもう1つの予め形成された成分を接着させる前に多成分足場の各層が播種される、段階において構築される。異なる細胞タイプ、たとえば幹細胞対分化細胞、支持細胞対治療細胞が任意で足場ハウジングに同時に存在する。細胞は任意で表現型が変化する、たとえば分化状態、活性化状態、代謝状態、または機能的状態となる。足場は移植したいと望む任意の細胞タイプについて用いるために適している。そのような細胞には、様々な幹細胞集団(様々な細胞タイプに分化した胚幹細胞)、骨髄または脂肪組織由来成体幹細胞、間葉幹細胞、心幹細胞、膵幹細胞、内皮前駆細胞、外殖内皮細胞、樹状細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、衛星細胞、副集団細胞が含まれるがこれらに限定されるわけではない。そのような細胞にはさらに、前骨芽細胞および骨芽細胞、軟骨細胞、皮膚のためのケラチノサイト、腱のための腱細胞、および腸管上皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、軟骨芽細胞、破骨細胞、肝細胞、胆管細胞、膵島細胞、甲状腺、副甲状腺、副腎、視床下部、下垂体、卵巣、精巣、唾液腺細胞、脂肪細胞、および前駆細胞が含まれる、分化した細胞集団が含まれてもよいがこれらに限定されるわけではない。たとえば、平滑筋細胞および内皮細胞を、筋様の管状の足場のために、たとえば血管、食道、腸管、直腸、または尿路足場と指定とされる足場として使用されてもよく;軟骨細胞は軟骨様足場において使用されてもよく;心筋細胞は心足場において使用されてもよく;肝細胞および胆管細胞は肝足場において使用されてもよく;上皮、内皮、線維芽細胞、および神経細胞はこれらの細胞を含有する広く多様な任意の組織タイプのための置換または増強物として機能することが意図される足場において使用されてもよい。一般的に、本発明の足場は、標的組織または臓器の再生、置換、または修復に関与するために有能である任意の細胞集団を含んでもよい。たとえば、細胞は筋再生において用いられる筋芽細胞である。
【0030】
細胞は任意で、外因性の遺伝子配列の導入によって、または内因性の配列の不活化もしくは改変によって遺伝子操作される。たとえば、組換え型遺伝子を導入して、宿主または標的組織においてそうでなければ欠損しているタンパク質を細胞に作製させる。欠乏しているが望ましいタンパク質(一定の組織の状況において)の産生は、遺伝子操作細胞を移植することによって増強される。足場を播種するために用いた細胞は、足場マトリクスの中をおよび中から遊走するために、所望の期間足場マトリクスを分解することができる。足場マトリクスは、それらがマトリクス内に播種された一定の細胞タイプによる分解に対して感受性があるように選択される。たとえば、足場材料および細胞は、足場内に播種された細胞の全てまたは一部がその中を遊走して周辺組織に達するために十分に足場を分解するために一定の所望の期間を必要とするように選択および設計される。周辺組織への細胞の放出の遅れは、様々な表現型を増幅、区別、または達成するために細胞にシグナルを送るために最適な期間を許容するために、足場の組成物を変化させることによって制御される。全般的な哺乳動物細胞培養技術、細胞株、および細胞培養系は、その内容物が参照により本明細書に組み入れられる、Doyle, A., Griffiths, J. B., Newell, D. G., (eds.) Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures, Wiley, 1998において記述されている。
【0031】
細胞は、足場の材料を分解する酵素を分泌して、それによって細胞が足場から出てゆく速度を制御する。たとえば、遊走する細胞は典型的に、そのマトリクスを分解するために、コラゲナーゼおよびプラスミンを分泌して細胞の運動を許容する。細胞が出てゆく速度はこのように、材料におけるクロスリンクとして、または主鎖の成分のいずれかとして用いられるオリゴペプチドの密度およびこれらの酵素に対する感受性を制御することによって調節される可能性がある。一定の材料は、分解可能な足場として、細胞の作用(たとえば、ポリ(ラクチド-コグリコリド)の加水分解)とは無関係に予めプログラムされた方法で分解する。足場は、分解が所望の分解速度を得ることに比例して分解可能な成分の混合物を用いることによって制御されるように調製してもよい。または、細胞自身が分解を補助する。たとえば、足場組成物は、足場内に播種された細胞自身によって分泌された材料による分解に対して感受性である。この一例は、足場マトリクスにおいてメタロプロテイナーゼ(MMP)感受性基質を用いることである;播種された細胞がマトリクスの分解を開始するために十分なMMPを分泌した場合に細胞は出て行く。
【0032】
足場においてインキュベートされた細胞は、標的組織、たとえば損傷組織部位に直接影響を及ぼすために足場から遊走するように教育および誘発される。たとえば、間質血管細胞および平滑筋細胞は、血管または体腔の層のような血管様構造の修復のために用いられるシート様構造において有用である。そのような構造は、胃壁破裂のような腹壁損傷または欠損を修復するために用いられる。同様に、皮膚幹細胞および/またはケラチノサイトを播種したシート様足場は、皮膚組織の再生のために絆創膏または創傷用包帯において用いられる。
【0033】
足場組成物および構築
足場の成分は、多様な幾何学形状(たとえば、ビーズ、ペレット)、ニッシェ、平面層(たとえば、薄いシート)で構築される。たとえば、多成分足場は、そのそれぞれが異なる物理特性(%ポリマー、ポリマーの%クロスリンク、足場の化学組成、孔径、多孔性、および孔の構築、剛性、靱性、延性、粘弾性、および/または増殖因子、ホーミング/遊走因子、分化因子のような生物活性物質の組成)を特徴とする同心円層で構築される。それぞれのニッシェは、細胞集団に対して特異的効果、たとえば特異的細胞機能、増殖、分化、分泌された因子もしくは酵素の加工、または遊走の促進または阻害を有する。足場においてインキュベートされた細胞は、標的組織、たとえば損傷組織部位に直接影響を及ぼすために足場から遊走するように教育および誘導される。たとえば、間質血管細胞および平滑筋細胞は、血管または体腔の層のような血管様構造の修復のために用いられるシート様構造において有用である。たとえば、そのような構造は胃壁破裂のような腹壁損傷または欠損を修復するために用いられる。同様に、皮膚幹細胞および/またはケラチノサイトを播種されたシート様足場は、皮膚組織の再生のための絆創膏または創傷用包帯において用いられる。装置は、体において血管に近い保護された位置で、または外部創傷包帯の場合には体外で、標的組織上にまたは隣接して配置または移植される。装置は、公知の多様なツールを用いて、たとえばスプーン、鉗子、またはつかむもの、皮下針、内視鏡マニピュレーター、血管内または経血管カテーテル、定位針、スネーク装置、臓器表面クローリングロボット(United States Patent Application 20050154376;Ota et al., 2006, Innovations 1:227-231)、最小侵襲性外科装置、外科埋め込みツール、および経皮パッチを用いて体組織内または体組織上に導入される。装置はまた、その場でたとえばマトリクス材料を連続的に注入または挿入することによってアセンブルされうる。足場装置は任意で、増殖因子または分化因子のような物質を連続注射または噴霧することによって細胞または生物活性化合物を再充填される。
【0034】
足場または足場装置は、その上でまたはその中で細胞が会合または付着する物理的構造であり、足場組成物は、そこから構造が作製される材料である。たとえば、足場組成物には、以下に記載するような成体分解性または永続性材料が含まれる。足場の機械的特徴は、適用または再生が求められる組織タイプに従って変化する。これは生体分解性(たとえば、コラーゲン、アルギネート、多糖類、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(グリコリド)(PGA)、ポリ(L-ラクチド)(PLA)、もしくはポリ(ラクチド-コグリコリド)(PLGA))、または永続的(たとえば、絹)である。生体分解性構造の場合、組成物は、物理的または化学的作用、たとえば水和レベル、熱もしくはイオン交換、または細胞作用、たとえば近傍もしくは常在細胞による酵素、ペプチド、もしくは他の化合物の加工によって分解する。粘ちゅう度は、柔らかい/柔軟な(たとえば、ゲル)からガラス様、ゴム様、もろい、靱性、弾性、または剛性まで変化する。構造は孔を含有し、これはナノ孔、ミクロ孔、またはマクロ孔であり、孔のパターンは任意で均一、不均一、整列、反復、またはランダムである。
【0035】
アルギネートは、分子量、分解速度、および足場形成法を制御することによって特異的適用のために処方されてもよい用途の広い多糖類に基づくポリマーである。カップリング反応を用いて、細胞接着配列RGDのような生物活性エピトープをポリマー骨格に共有結合で付着させることができる。アルギネートポリマーは、多様な足場タイプに形成される。注入可能なハイドロゲルは、カルシウムイオンのようなクロスリンク剤を加えることによって、低分子量アルギネート溶液から形成されうるが、マクロ孔足場は高分子量アルギネートディスクの凍結乾燥によって形成される。足場処方における差は、足場分解の速度論を制御する。アルギネート足場からのモルフォゲンまたは他の生物活性物質の放出速度は、モルフォゲンを空間的および時間的に制御されたように提示するために足場処方によって制御される。この制御された放出は、全身性の副作用を消失させて多数回注入の必要性を消失させるのみならず、埋め込み部位での宿主細胞および足場に播種された移植細胞を活性化する微小環境を作製するために用いることができる。
【0036】
足場は、任意で全体または部分的に生体分解性である生物学的適合性ポリマーマトリクスを含む。ハイドロゲルは適したポリマーマトリクス材料の一例である。ハイドロゲルを形成することができる材料の例には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、PLGAポリマー、アルギネート、およびアルギネート誘導体、ゼラチン、コラーゲン、アガロース、天然および合成多糖類、ポリペプチド、特にポリ(リジン)のようなポリアミノ酸、ポリヒドロキシブチレートおよびポリ-ε-カプロラクトンのようなポリエステル、ポリアンヒドリド;ポリホスファジン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アルキレンオキシド)、特にポリ(エチレンオキシド)、ポリ(アリルアミン)(PAM)、ポリ(アクリレート)、ポリ(4-アミノメチルスチレン)のような改変スチレンポリマー、プルロニックポリオール、ポリオキサマー、ポリ(ウロン酸)、ポリビニルピロリドン、およびグラフトコポリマーが含まれる上記のコポリマーが含まれる。
【0037】
足場は、多様な合成ポリマーおよびコラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸、アガロース、およびラミニンに富むゲルのような、しかしこれらに限定されない天然に存在するポリマーから製作される。ハイドロゲルに関する1つの好ましい材料は、アルギネートまたは改変アルギネート材料である。アルギネート分子は(1-4)-連結β-D-マンヌロン酸(M単位)およびα-L-グルロン酸(G単位)モノマーを含み、これらはポリマー鎖に沿って比例しておよび連続的な分布で変化しうる。アルギネート多糖類は二価の陽イオン(たとえば、Ca2+、Mg2+、Ba2+)に対して強い親和性を有する多価電解質系であり、これらの分子に曝露されると安定なハイドロゲルを形成する。Martinsen A., et al., Biotech. & Bioeng., 33 (1989) 79-89を参照されたい。たとえばカルシウムクロスリンクしたアルギネートハイドロゲルは、歯科での適用、創傷包帯、軟骨細胞移植、および他の細胞タイプのマトリクスとして有用である。
【0038】
例示的な装置は、アルギネートまたは比較的低分子量の他の多糖類、好ましくは溶解後の大きさがヒトによる排泄のための腎閾値である大きさの多糖類を利用し、たとえばアルギネートまたは多糖類は分子量が1000~80,000ダルトンに低減される。好ましくは分子量は1000~60,000ダルトンであり、特に好ましくは1000~50,000ダルトンである。同様に、マンヌロネート単位に対してグルロネート単位は、ポリマーをゲル化するために二価の陽イオンを通してイオンクロスリンクのための部位を提供することから、高いグルロネート含有量のアルギネート材料を用いることも有用である。参照により本明細書に組み入れられる、U.S. Patent Number 6,642,363は、細胞移植および組織工学適用にとって特に有用である、アルギネートまたは改変アルギネートのような多糖類を含有するポリマーを作製および用いるための方法を開示している。
【0039】
アルギネート以外の有用な多糖類には、アガロースおよび以下の表に記載されるような微生物多糖類が含まれる。
【0040】
多糖類足場組成物
ポリマーa 構造
真菌
プルラン(N) 1,4-;1,6-α-D-グルカン
スクレログルカン(N) 1,3;1,6-α-D-グルカン
キチン(N) 1,4-β-D-アセチルグルコサミン
キトサン(C) 1,4-β-D-N-グルコサミン
エルシナン(N) 1,4-;1,3-α-D-グルカン
細菌
キサンタンガム(A) D-マンノースを有する1,4-β-D-グルカン;
側鎖として D-グルクロン酸
カードラン(N) 1,3-β-D-グルカン(分枝を有する)
デキストラン(N) いくつかの1,2;1,3-;1,4-α連結を有する
1,6-α-D-グルカン
ゲラン(A) ラムノースを有する1,4-β-D-グルカン;
D-グルクロン酸
レバン(N) いくつかのβ-2,1-分枝を有する
2,6-β-D-フルクタン
エマルサン(A) リポへテロ多糖類
セルロース(N) 1,4-β-D-グルカン
a N-中性、A=陰イオン性、C=陽イオン性
【0041】
本発明の足場は多孔性または非多孔性である。たとえば、足場は直径約10 nm未満を有するナノ多孔性;孔の直径が好ましくは約100 nm~20μmの範囲であるミクロ多孔性;または孔の直径が約20μmより大きく、より好ましくは約100μmより大きく、およびさらにより好ましくは約400μmより大きいマクロ多孔性である。一例において、足場は、直径約400~500μmの整列した孔を有するマクロ孔性である。所望の孔径および孔の配置を有するポリマーマトリクスの調製は、実施例において記述される。多孔性のハイドロゲル産物を調製する他の方法は当技術分野において公知である(参照により本明細書に組み入れられる、U.S. Pat. No. 6,511,650)。
【0042】
生物活性組成物
装置には、1つまたは複数の生物活性組成物が含まれる。生物活性組成物は精製された天然に存在する、合成によって産生された、または組換え型化合物、たとえばポリペプチド、核酸、低分子、または他の物質である。本明細書に記述の組成物は精製される。精製化合物は、関心対象化合物の重量(乾燥重量)の少なくとも60%である。好ましくは調製物は、関心対象化合物の重量の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%である。純度は、任意の適当な標準的な方法によって、たとえばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定される。
【0043】
生物活性組成物は、細胞の機能、たとえば分化レベル、活性化状態、運動性、または遺伝子発現を変化させる。たとえば少なくとも1つの細胞接着分子がポリマーマトリクスの中または上に組み入れられる。そのような分子は、マトリクスの重合化前、またはマトリクスの重合化後ポリマーマトリクスに組み入れられる。細胞接着分子の例には、ペプチド、タンパク質、および多糖類が含まれるがこれらに限定されるわけではない。より具体的には、細胞接着分子には、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、トロンボスポンジン1、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、アグリカン、アグリン、骨シアロタンパク質、軟骨マトリクスタンパク質、フィブリノーゲン、フィブリン、フィビュリン、ムチン、エンタクチン、オステオポンチン、プラスミノーゲン、レストリクチン、セルグリシン、SPARC/オステオネクチン、バーシカン、フォン・ヴィルブランド因子、多糖類ヘパリン硫酸、コネキシン、コラーゲン、RGD(Arg-Gly-Asp)およびYIGSR(Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg)ペプチドおよび環状ペプチド、グリコサミノグリカン(GAG)、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン-6-硫酸、インテグリンリガンド、セレクチン、カドヘリン、および免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーが含まれる。他の例には、神経細胞接着分子(NCAMs)、細胞間接着分子(ICAMs)、血管細胞接着分子(VCAM-1)、血小板内皮細胞接着分子(PECAM-1)、L1およびCHL1が含まれる。
【0044】
これらの分子のいくつかの例およびその機能を以下の表に示す。
【0045】
ECMタンパク質、ペプチド、および細胞機能における役割
Hubbell, JA (1995): Biomaterials in tissue engineering. Bio/Technology 13:565-576。アミノ酸の一文字省略語を用い、Xは任意のアミノ酸を表す。
【0046】
適した細胞接着分子のさらなる例を以下に示す。
【0047】
細胞外マトリクスタンパク質からのプロテオグリカン結合に特異的なアミノ酸配列
【0048】
特に好ましい細胞接着分子は、細胞付着リガンドとして知られ、様々な天然の細胞外マトリクス分子において見いだされるアミノ酸配列アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)を含有するペプチドまたは環状ペプチドである。そのような改変を有するポリマーマトリクスは、足場に細胞接着特性を提供し、哺乳動物細胞系の長期生存を維持すると共に、細胞の生育および分化を支持する。
【0049】
ポリマーマトリクスに対する細胞接着分子のカップリングは、一般的に当業者に公知であって、実施例において記述される合成法を用いて達成される。ポリマーにペプチドをカップリングさせるアプローチは、Hirano and Mooney, Advanced Materials, p.17-25 (2004)において記述されている。他の有用な結合化学には、Hermanson, Bioconjugate Techniques, p. 152-185 (1996)において考察される化学、特にカルボジイミドカップラーであるDCCおよびDIC(Woodward's Reagent K)を用いることによる化学が含まれる。細胞接着分子の多くはペプチドであることから、それらはそのような結合のための末端アミン基を含有する。アミド結合形成は好ましくは、ペプチド合成において一般的に用いられる水溶性酵素である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)によって触媒される。生物材料に対する接着後の細胞表現型の肝要な調節因子である細胞接着リガンドの密度(Massia and Hubbell, J. Cell Biol. 114:1089- 1100, 1991;Mooney et al., J. Cell Phys. 151:497-505, 1992;およびHansen et al., Mol. Biol. Cell 5:967-975, 1994)は、5次数の密度範囲に対して容易に変化されうる。
【0050】
装置の構築
足場構造は、ペプチドポリマー、多糖類、合成ポリマー、ハイドロゲル材料、セラミクス(たとえばリン酸カルシウムまたはヒドロキシアパタイト)、タンパク質、糖タンパク質、プロテオグリカン、金属および金属合金のような、多数の異なる堅固な、半堅固な、柔軟な、ゲル、自己アセンブリ、液晶、または液体組成物から構築される。組成物は、当技術分野で公知の方法、たとえば注入成型、予め形成された構造の凍結乾燥、プリンティング、自己アセンブリ、相反転、溶媒キャスト、融解プロセシング、ガスフォーミング、線維形成/プロセシング、微粒子リーチング、またはその組み合わせを用いて細胞足場構造にアセンブルされる。次に、アセンブルされた装置を処置される個体の体に埋め込むまたは投与する。
【0051】
装置はインビボでいくつかの方法でアセンブルされる。足場はゲル化材料で作製され、これを体内にその非ゲル化型で導入して、インサイチューでゲル化する。アセンブリが起こる部位に装置成分を送達する例示的な方法には、針または他の押し出しツールを通しての注入、噴霧、ペイント、または組織部位での沈着法、たとえば、カニューレを通して挿入される適用装置を用いての送達が含まれる。一例において、非ゲル化または未形成の足場材料を、体に導入する前、または導入するあいだに生物活性物質および細胞と混合する。得られたインビボ/インサイチューアセンブル足場は、これらの物質と細胞の混合物を含有する。
【0052】
足場のインサイチューアセンブリは、ポリマーの自発的会合の結果として、または相乗的にもしくは化学的に触媒された重合化の結果として起こる。相乗的または化学触媒は、内因性の多数の要因、またはアセンブリ部位もしくはその近傍での条件、たとえば体温、体のイオンもしくはpH、または操作者によってアセンブリ部位に供給される外因性の要因もしくは条件、たとえば導入後に非ゲル化材料に向けられる光子、熱、電気、音、または他の放射線によって開始される。エネルギーは、放射光、またはワイヤ、光ファイバーケーブル、もしくは超音波変換器のような熱もしくは光伝導装置によって足場材料に向けられる。または、たとえば針を通してのその経路によってそれに発揮された剪断力が軽減された後に再クロスリンクする両親媒性物質のようなずれ揺変材料を用いる。
【0053】
足場装置のインビボおよびエクスビボアセンブリの双方のための適したハイドロゲルは当技術分野において周知であり、たとえばLee et al., 2001, Chem. Rev. 7: 1869-1879において記述されている。アセンブリを自己アセンブリするためのペプチド両親媒性アプローチは、たとえばHartgerink et al., 2002, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 99:5133-5138において記述されている。ずれ揺変後の可逆的ゲル化法は、Lee et al., 2003, Adv. Mat. 15:1828-1832において例示されている。
【0054】
類似にまたは異なるようにドープ処理したゲルまたは他の足場材料の連続層を標的部位に適用することによって、多区画装置をインビボでアセンブルする。たとえば、装置は、針を用いて予め注入された材料の中心に次の内層を連続的に注入して、同心円の球体を形成することによって形成される。非同心円の区画は、先に注入された層の異なる位置に材料を注入することによって形成される。多数の頭部を有する注入装置は、区画を平行かつ同時に押し出す。層は、生物活性物質および異なる細胞タイプを異なるようにドープ処理した類似または異なる足場組成物で作製される。または、区画は、それぞれの区画内でのその親水性/疎水性特徴または二次相互作用に基づいて自己構築する。
【0055】
区画化装置
一定の状況において、異なる化学および/または物理特性を有する区画を含有する装置が有用である。そのような形状は、同時に娘細胞を急速に増幅させて組織再生に関与するために適当に分化させながら、細胞集団の「幹細胞性」を長期間維持するために特に有用である。この系は、装置から細胞の長期間の(たとえば数ヶ月から数年の)流れを提供する。たとえば、内側の区画は多能性幹細胞の休止期集団を維持し、第二の区画は分化を阻害しながら細胞の高い増殖速度を促進する。第二の装置から周辺組織へと遊走した細胞は、それらが第三の区画を通過する際に適当に分化するように教育される。内部集団において徐々に循環する細胞はその娘の一部と共に中間の区画に再定着して、そこで、一過性の増幅する細胞が大量の再生細胞を提供する。
【0056】
区画化装置は、それぞれの区画に関して異なる組成物または組成物濃度を用いて設計および製作される。たとえば、標準的な封入技術(たとえば、アルギネートマイクロビーズ形成)を用いて幹細胞集団をハイドロゲル内に封入する。この第一のハイドロゲルは、ゲルを形成するポリマーに対するその共有的カップリングによって、またはゲルからのその遅い持続的な放出のいずれかによって、幹細胞の多能性特性を維持するために必要な要因を含有する。次に、この区画を、幹細胞性を維持しないが代わりに幹細胞を急速に増殖させてより特殊化した娘細胞を大量に生成する因子を含有する第二のゲル層(たとえば、二重層のアルギネートマイクロビーズ)によってコーティングする。この第二の区画は、異なる因子(たとえば、モルフォゲン、増殖因子、接着リガンド)を含有する同じ材料、異なる型(たとえば、多様な力学的特性または多孔性)の同じ材料、または適当な化学/物理的特性を提供する完全に異なる材料で形成される。
【0057】
または、区画を個々に製作した後、互いに接着させる(たとえば、第二の区画の1つまたは全ての側面に取り囲まれる内部区画によって「サンドイッチする」)。この後者の構築アプローチは、他の層に対する各層の内因性の接着、各層におけるポリマー鎖の拡散および交互浸透、第二層の第一層に対する重合化またはクロスリンク、接着剤(たとえば、フィブリンのり)の使用、または他の区画における1つの区画の物理的捕獲を用いて達成される。区画は自己アセンブルして、適当な前駆体(たとえば、温度感受性オリゴペプチド、イオン強度感受性オリゴペプチド、ブロックポリマー、クロスリンク剤、およびポリマー鎖(またはその組み合わせ)、および細胞制御アセンブリを許容する細胞接着分子を含有する前駆体)の存在に応じて、インビトロまたはインビボのいずれかにおいて適当に互いに接する。多数の区画は、所望の細胞の増殖および特殊化を実現するように設計される。さらに、装置は、全ての区画の中を連続して通過することとは対照的に、その中で細胞が同時に入る多数の区画を有するように設計される。異なる区画はそれぞれ、含有される細胞に関して異なる運命を誘導し、このようにして単一の開始幹細胞集団から多数の特殊化娘細胞集団を提供する。幹細胞生物学および生体材料の当業者は、所定の開始細胞タイプおよび所望の娘細胞産出に関しておそらく有用な多数の設計を容易に誘導することができる。
【0058】
または、区画化された装置は、プリンティング技術を用いて形成される。生物活性物質および/または細胞をドープ処理した足場前駆体の連続層を基板上に載せた後、たとえば自己アセンブリ化学によってクロスリンクさせる。クロスリンクが化学物質、光、または熱触媒重合化によって制御される場合、各層の厚さおよびパターンはマスクによって制御され、非クロスリンク前駆体材料が各触媒後洗浄除去された場合に複雑な三次元パターンを構築させる(WT Brinkman et al., Photo-cross-linking of type 1 collagen gels in the presence of smooth muscle cells: mechanical properties, cell viability, and function. Biomacromolecules, 2003 Jul-Aug;4(4): 890-895;W. Ryu et al., The construction of three-dimensional micro-fluidic scaffolds of biodegradable polymers by solvent vapor based bonding of micro-molded layers. Biomaterials, 2007 Feb;28(6): 1174-1184;Wright, Paul K. (2001).21st Century manufacturing. New Jersey: Prentice-Hall Inc.)。複雑な多区画層はまた、基板上の異なる領域において異なるようにドープ処理された足場前駆体を「塗装」するインクジェット装置を用いて構築される。Julie Phillippi(Carnegie Mellon University)presentation at the annual meeting of the American Society for Cell Biology on December 10, 2006;Print me a heart and a set of arteries, Aldhouse P., New Scientist 13 April 2006 Issue 2547 p 19.;Replacement organs, hot off the press, C. Choi, New Scientist, 25 Jan 2003, v2379。これらの層は複雑な三次元区画に構築される。装置はまた以下の任意の方法:ジェットフォトポリマー、選択的レーザーシンタリング、層状物体製造、融合沈着モデリング、シングルジェットインクジェット、三次元プリンティング、または層状物体製造を用いて構築される。
【0059】
増殖因子および足場装置の中および/または上への組成物の組み込み
生育、発達、運動、および他の細胞機能に影響を及ぼす生物活性物質を足場構造の中または上に導入する。そのような物質には、BMP、骨形態形成タンパク質;ECM、細胞外マトリクスタンパク質またはその断片;EGF、上皮細胞増殖因子;FGF-2、線維芽細胞増殖因子2;NGF、神経生長因子;PDGF、血小板由来増殖因子;PIGF、胎盤増殖因子;TGF、トランスフォーミング増殖因子;およびVEGF、血管内皮増殖因子が含まれる。細胞接着分子(カドヘリン、インテグリン、ALCAM、NCAM、プロテアーゼ)が、任意で足場組成物に加えられる。
【0060】
例示的な増殖因子およびリガンドを以下の表に提供する。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
組織工学のために用いられる増殖因子
rH、組換え型ヒト
【0065】
組織工学のために用いられる固定リガンド
* 配列は一文字アミノ酸コードで示す。MMP、マトリクスメタロプロテイナーゼ
【0066】
足場装置からの生物活性物質の放出プロフィールは、因子の拡散およびポリマー分解の双方、系にローディングされた因子の用量、およびポリマーの組成によって制御される。同様に、作用の範囲(組織分布)および作用の期間または放出された因子の空間的時間的勾配は、これらの変数によって調節される。対象組織における因子の拡散および分解は任意で、因子を化学改変する(たとえばPEG化増殖因子)ことによって調節される。いずれの場合においても、放出の時間枠は装置による有効な細胞送達が望ましい時間を決定する。
【0067】
組織再生のための担体系を以下の表に記述する。
【0068】
様々な増殖因子を送達するために用いられるポリマー担体および再生される組織のタイプ
省略語:PET、ポリ(エチレンテレフタレート);PVA、ポリビニルアルコール;PLLA、ポリ(L-乳酸);CMC、カルボキシメチルセルロース;HA、ヒドロキシアパタイト;PLA、ポリ(D,L-乳酸);CaP、リン酸カルシウム;PEO、ポリ(エチレンオキシド);TCP、リン酸三カルシウム;PEG、ポリ(エチレングリコール);-DX-、-p-ジオキサノン-;EVAc、エチレン酢酸ビニル;PLG、ポリ(ラクチド-コグリコリド)。
【0069】
生物活性物質は、表面吸着、物理的固定、たとえば足場材料において物質を捕獲するための相変化を用いることが含まれる公知の方法を用いて、足場組成物に加えられる。たとえば、水相または液相に存在しているあいだに増殖因子を足場組成物に混合して、環境条件を変化させた後(たとえば、pH、温度、イオン濃度)、液体はゲル化して固化し、それによって生物活性物質を捕獲する。または、たとえばアルキル化剤またはアシル化剤を用いての共有カップリングは、既定のコンフォメーションで足場上に生物活性物質の安定な長期間の提示を提供するために用いられる。そのような物質の共有カップリングのための例示的な試薬を以下の表に提供する。
【0070】
ペプチド/タンパク質をポリマーに共有カップリングさせる方法
[a] EDC:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩;DCC:ジシクロヘキシルカルボジイミド。
【0071】
生物活性物質は、移植された細胞およびその子孫のポリマーマトリクスからの遊走を誘導することができる。他の好ましい生物活性物質は、細胞生存率を維持する、細胞増殖を促進する、または移植した細胞の未成熟な最終分化を防止することができる。そのような生物活性物質は、所望の結果を得るために単独または併用して用いられる。
【0072】
本発明において用いるために適した生物活性物質には、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、骨形態形成タンパク質(BMP)、トランスフォーミング増殖因子-α(TGF-α)、TGF-β1、TGF-β2、線維芽細胞増殖因子(FGF)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、スキャッター因子/肝細胞増殖因子(HGF)、フィブリン、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ヒアルロン酸、RGD-含有ペプチドまたはポリペプチド、アンジオポエチン、および血管内皮増殖因子(VEGF)のような、増殖因子、ホルモン、神経伝達物質、神経伝達物質もしくは増殖因子受容体、インターフェロン、インターロイキン、ケモカイン、サイトカイン、コロニー刺激因子、走化性因子、MMP-感受性基質、細胞外マトリクス成分が含まれるがこれらに限定されるわけではない。前および抗遊走シグナルと分化シグナルの局所バランスを変化させるために都合よく用いられる可能性がある、上記のタンパク質の任意のスプライス変種、およびその低分子アゴニストまたはアンタゴニストも同様に、本明細書において企図される。
【0073】
先に言及したサイトカインの例には、IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターフェロン-γ(γ-IFN)、IFN-α、腫瘍壊死因子(TNF)、TGF-β、FLT-3リガンドおよびCD40リガンドが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0074】
本発明に従う有用な適した生物活性にはまた、DNA分子、RNA分子、アンチセンス核酸分子、リボザイム、プラスミド、発現ベクター、マーカータンパク質、転写または伸長因子、細胞周期制御タンパク質、キナーゼ、ホスファターゼ、DNA修復タンパク質、腫瘍遺伝子、腫瘍抑制物質、血管新生タンパク質、抗血管新生タンパク質、細胞表面受容体、付属シグナル伝達分子、輸送タンパク質、酵素、抗菌物質、抗ウイルス物質、抗原、免疫原、アポトーシス誘発物質、抗アポトーシス物質、およびサイトトキシンが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0075】
いくつかの適用に関して、本発明の足場には、ポリマーマトリクスにおいて移植触された細胞の未成熟な最終分化を防止して、移植された細胞およびその子孫のポリマーマトリクスからの遊走を誘導する少なくとも1つの増殖因子が含まれる。細胞増殖因子は、製作の重合化の前にポリマーマトリクスに組み入れられるか、または重合化の後にポリマーマトリクスにカップリングされてもよい。増殖因子の選択は、標的組織を再生させるためにおよび足場から細胞が遊走するために十分数の細胞が達成されるまで、細胞がその正常な分化傾向を迂回して、増殖相に留まるように指示されるように、細胞のタイプおよびそれらの細胞に及ぼす特定の増殖因子の影響に依存するであろう。
【0076】
本発明の足場は、任意で、インプラントの近傍における移植細胞または宿主細胞のいずれかが取り込んで遺伝子を発現し、それによって望ましい時間枠で所望の因子が局所で得られるようになるように、少なくとも1つの非ウイルス遺伝子治療ベクターを含む。そのような非ウイルスベクターには、陽イオン脂質、ポリマー、ターゲティングタンパク質、およびリン酸カルシウムが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0077】
筋組織の再生に関して、足場に播種された細胞は筋芽細胞であり、増殖因子の好ましい組み合わせはHGFおよびFGF2である。FGF2は、移植された細胞の未成熟な分化を防止するために特に有用であるが、HGFは足場からの細胞の遊走を誘導する。2つの増殖因子を組み入れることにより、以下に記述するように播種された筋芽細胞の生存率および遊走が有意に増加した。
【0078】
臨床適用
装置および方法は、骨格筋組織のような多数の異なる臓器および組織タイプの生成または再生にとって有用である。後者の場合、環境的合図が転写因子と協調して作用して衛星細胞を活性化し、それらを増殖させて、最終的に成熟筋線維に分化させるように誘導する。多数の栄養因子は衛生細胞活性の指標としての役割を果たす。これらの候補栄養因子の中で、肝細胞増殖因子(HGF)および線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーメンバーはいずれも、骨格筋再生において生理的役割を有することが証明されている。双方のタイプの因子は、衛星細胞の活性化を開始して、衛星細胞をインビボで細胞周期に入るように刺激し、衛星細胞の強力なマイトゲンである。さらに、HGFの受容体であるc-metは休止期および活性化衛星細胞の双方において発現され、FGF-2は発達中の微小管を取り巻く基底膜に存在する。HGFおよびFGF2はいずれも、受容体活性化を促進するためにヘパリン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に依存するヘパリン結合タンパク質である。HSPGは、哺乳動物の細胞表面上に遍在するが、シンデカンと呼ばれる特異的HSPGファミリーは、FGF2シグナル伝達に関係している。さらに、シンデカン3および4は、休止期および活性化衛星細胞の双方において発現され、HGFおよびFGF2が衛星細胞活性化の調節において重要な生理的役割を果たすことを示している。
【0079】
現在のアプローチは、有意な欠点によって制限されている筋再生プロセスにおいて治療的に介入する。本発明は、初期の方法のこれらの欠点に対する解決策を提供する。そのようなアプローチの3つを以下に記述する。第一に、組織における細胞は、対象部位に増殖因子を注入することによって、細胞周期に再度入るように刺激されて失われたまたは損傷組織に再度定着する。第二のアプローチは、遺伝子治療における現在の関心に基づいており、筋形成細胞の固有の細胞増殖および分化プログラムを標的とする。第三のアプローチは、欠損を修復して組織に機能を回復するために、培養において拡大された外因性の細胞の送達に基づく。第三のアプローチに関連する現在の戦略には、損傷部位への細胞の直接注入、細胞送達のための人工マトリクスを提供するための担体の利用、再生を増加させるための細胞、マトリクス、および増殖因子送達の組み合わせが含まれる。細胞移植アプローチは衛星細胞に重点を置いており、筋ジストロフィーのような筋変性疾患および慢性または先天性心筋症を有する患者にとって、可能性がある代用処置としてますます関心を集めつつある。しかし、動物試験は当初有望であったが、移植された筋原細胞が急速かつ大量の壊死を受け、それによって48時間後に宿主筋線維に組み入れられたのは移植細胞の5%未満に過ぎなかったことから、ヒト衛星細胞を移植する試みは残念な結果に終わった。
【0080】
問題、たとえば宿主筋系への筋原細胞の生存および組み込み不良に対する解決は、本明細書に記述の組成物および方法によって取り組まれる。本発明は、組織操作および再生医学に対する新しいアプローチを提供する。系は再生を必要とする周囲の宿主組織に定着させるために細胞の外向きの遊走を同時に助長しながら、細胞の生存率を長期間維持する材料における細胞の送達を媒介および調節する。足場構造、生存を維持して遊走を許容する接着リガンド、および細胞の表現型を調節する増殖因子の適当な組み合わせを用いて、細胞挙動を通知して、移植された細胞の運命に対して複雑な制御を発揮する。
【0081】
筋組織の生成または再生のほかに、ヒト心臓(Proceedings of the National Academy of Sciences (DOI: 10.1073/pnas.0600635103))が含まれる異なる多くのタイプの組織に関して幹細胞が同定されているが、それらを治療的に有効である方法で送達することは難しいことが証明されている。血管内送達も標的組織への直接注入も成功していない。細胞は自身が必要とされる場所に行くであろうという目的をもっての血管内送達は、全く無効であることが証明された。部位への直接注入も同様に結果は不良であり、壊死率はきわめて高く、細胞組み込み率は低かった。
【0082】
本発明の生物学的適合性の足場は、広範囲のインビボおよびインビトロ再生医学ならびに組織工学において有用である。装置は、広く多様な損傷、疾患、条件および細胞治療のために設計および製造され、外科、内視鏡、血管内、および他の技術を用いて処置部位に送達される。装置は処置が首尾よく完了した後に分解して吸収されるか、または永続的もしくは半永続的にその場に留まる。細胞はエクスビボで自家または同種異系細胞と共に足場に播種される。装置は、心組織(虚血病変および瘢痕)、皮膚組織(瘢痕、潰瘍、火傷)、CNS組織(脊髄損傷、MS、ALS、ドーパミン不足)、および骨格筋系修復(腱、靱帯、円板、術後、ヘルニア)の再生において特に有用である。
【0083】
組織再生、置換、または修復を必要とする患者を処置するための方法は、再生、修復、または置換を必要とする組織においてまたはその近傍に、足場を埋め込む段階を含む。筋修復を必要とする患者を処置するためのこの方法は、その中に組み入れられた少なくとも1つの細胞接着分子、ポリマーマトリクス内に移植された筋再生を行うことができる筋芽細胞集団、ならびにポリマーマトリクスにおいて移植された細胞の最終分化を防止して、移植細胞およびその子孫のポリマーマトリクスからの遊走を誘導する少なくとも1つの増殖誘導因子を有するマクロ孔性のポリマーマトリクスを含有する生物学的適合性の足場を患者に埋め込む段階を伴う。たとえば、細胞増殖誘導因子はHGFおよびFGF2の併用である。
【0084】
装置は、ヒトと共にイヌ、ネコ、ウマ、ならびに他の家畜および野生動物のような動物における急性および慢性組織疾患または欠損を処置するために有用である。処置される状態には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、多発ニューロパシー、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病およびてんかんのような神経病理障害が含まれる。網膜変性および角膜損傷(焼灼性)のような網膜疾患もまた、装置によって処置されうる。装置はまた、心筋梗塞(MI)、うっ血性心不全(CHF)、冠動脈疾患(CAD)、および心筋症または呼吸器疾患、たとえばそれぞれ慢性呼吸器疾患(CRD)または肺線維症のような、様々な心および呼吸器疾患を処置するために用いることができる。
【0085】
さらに、装置は、歯周炎または頭蓋損傷のような骨および軟骨欠損/疾患を処置するために用いられると共に開頭術においても用いられる。その上、装置は、たとえば挫滅した脊髄のような脊髄損傷を処置するために、神経組織の中またはそれに隣接して埋め込まれる。装置は、乳腺組織のを治癒するためおよび再建を増強するために、乳腺切除のような他の手術において用いられる。
【0086】
他の用途には、狼瘡、肥満細胞症、強皮症、およびリウマチ性関節炎のような自己免疫疾患を阻害する処置のために細胞を供給する用途が含まれる。装置はまた、鎌状赤血球貧血のような血液障害または末梢動脈疾患(PAD)、末梢虚血、または糖尿病のような血管障害を処置するために細胞を供給するために有用である。
【0087】
装置を用いて処置することができる他の疾患は、胃腸管(GI)移植片対宿主、フェナル(fenal)不全、またはクローン病である。さらに、装置は男性不妊症のために用いられ;たとえば装置は、精巣に埋め込まれて精子細胞の安定な流れを産生するための代用精原細胞として機能する。装置によって処置される皮膚疾患、損傷、または欠損には、皮膚の火傷および潰瘍が含まれる。帝王切開出産に起因する欠損および美容手術に起因する欠損のような外科的欠損は、柔軟な装置足場を用いる処置に対して特に感受性が高い。または、装置から送達された送達またはプログラム/再プログラム細胞は、組織および臓器の構造および機能を維持する(たとえば、加齢関連変化または悪化を防止するため)。
【0088】
装置は、幹細胞およびトランスジェニック細胞治療の有効性を増加させ、装置は、足場組成物、孔の大きさ、生物活性物質(複数)および細胞タイプを適当に選択して、それぞれの臨床問題に適合するように作製される。装置は、標的組織に治療物質を効率的に組み入れるという主要な問題を解決する。医師は治療または再生を必要とする部位の近傍に装置を配置して、そこで装置は標的部位に細胞の流れを送達する。従来の足場とは異なり、装置は細胞を装置内でインキュベート、複製および成熟させた後に、細胞を外に出す。装置は、損傷した骨格筋に関して、生存細胞送達および組織再生育の20倍の改善を示した。その設計を特異的細胞タイプの生化学とマッチさせることによって、装置は標的組織に遊走する成熟細胞の広い流れを引き起こす。
【0089】
装置は、他の足場系に対していくつかの長所を提供する。細胞は、疾患または損傷座に直接正しい量で正しい時間でプライミングされた状態で送達されることから、最大の治療効率が達成される。持続的な送達は、所望の位置での組織に治療的細胞の癒着的組み込みを促進する。装置は、生存細胞送達においてより効率がよいことが示されている(この装置に関して110%に対し、最善の代用技術に関して5%)。このように、処置あたりに必要な細胞はより少なく、より低い細胞送達率では失敗する可能性がある治療を成功させる。より少ない細胞数によって、処置される患者から採取するために必要な細胞がより少ないこと、および採取してから細胞がインビトロで増殖するために移植するまでの時間がより短いことから、自家移植も可能となる。必要な細胞がより少ないことから、比較的まれな細胞を用いることができる。装置によって、あまり高価でない同種異系移植もまた可能となる。他の長所には、任意の処置の治療恩典の迅速な決定、より速い組織生育、および増強された治癒が含まれる。
【0090】
ワクチン装置
生物学的適合性の足場は癌ワクチンとしての送達媒体として有用である。癌ワクチンは、癌細胞に対する内因性の免疫応答を刺激する。現在産生されたワクチンは、主に液性免疫系(すなわち抗体依存的免疫応答)を活性化する。現在開発中の他のワクチンは、腫瘍細胞を殺すことができる細胞障害性Tリンパ球が含まれる細胞性免疫系を活性化することに集中している。癌ワクチンは一般的に、抗原提示細胞(たとえば、マクロファージおよび樹状細胞)および/またはT細胞、B細胞、およびNK細胞のような他の免疫細胞の双方に対する癌抗原の提示を増強する。癌ワクチンは、いくつかの形の1つをとってもよいが、その目的は、そのような抗原のAPCによる内因性のプロセシングおよびMHCクラスI分子の状況において細胞表面上の抗原提示の最終的な提示を促進するために、癌抗原および/または癌関連抗原を抗原提示細胞(APC)に送達することである。他の型の癌ワクチンは、被験者から採取されて、エクスビボで処置された後被験者に全細胞として再度導入される癌細胞の調製物である全細胞ワクチンである。これらの処置は任意で、細胞を活性化するためのサイトカイン曝露、細胞からサイトカインを過剰発現させるための遺伝子操作、または腫瘍特異的抗原もしくは抗原カクテルによるプライミング、および培養での拡大を伴う。樹状細胞ワクチンは抗原提示細胞を直接活性化して、その増殖、活性化、およびリンパ節への遊走は、その免疫応答誘発能を増強するために足場組成物によって調節される。処置される癌のタイプには、中枢神経系(CNS)癌、CNS胚細胞腫瘍、肺癌、白血病、多発性骨髄腫、腎臓癌、悪性神経膠腫、髄芽細胞腫、および黒色腫が含まれる。
【0091】
抗原特異的免疫応答を誘発する目的のために、足場装置は哺乳動物に埋め込まれる。装置は、免疫細胞を活性化して細胞を特異的抗原によってプライミングするように作製され、それによって免疫防御を増強して望ましくない組織および細菌またはウイルス病原体のような標的微生物の破壊を増強する。装置は、GM-CSFのようなシグナル伝達物質を含有するおよび/または放出することによって、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、および樹状細胞のような適当な免疫細胞を誘引する。これらのシグナル伝達物質は、足場組成物において他の生物活性化合物を組み入れるために用いられる技術と同じ技術を用いて、その放出を空間的および時間的に制御するように、足場組成物に組み入れられる。
【0092】
免疫細胞が装置の内部に入ると、装置は免疫細胞を、望ましくない組織(たとえば、癌、脂肪沈着物、またはウイルス感染もしくはそうでなければ疾患細胞)または微生物を攻撃するようにプログラムする、または免疫系の他の局面に攻撃させるようにプログラムする。免疫細胞の活性化は、標的特異的組成物、たとえば癌細胞表面マーカー、ウイルスタンパク質、オリゴヌクレオチド、ペプチド配列または他の特異的抗原のような望ましくない組織または生物の表面において見いだされるリガンドに対して内在する免疫細胞を曝露することによって達成される。たとえば、有用な癌細胞特異抗原および他の組織または生物特異的タンパク質を以下の表に記載する。装置は任意で多価ワクチンを作製するために多数のリガンドまたは抗原を含有する。組成物は、装置から遊走する免疫細胞が、装置の中を横切る際に組成物に曝露されるように、足場組成物の1つまたは複数の区画の表面に植え込まれる、またはコーティングされる。抗原または他の免疫刺激分子は、足場組成物が分解するにつれて細胞に曝露されるまたは細胞に曝露されるようになる。装置はまた、リガンドを認識して抗原提示を増強するように免疫細胞をプログラムするワクチンアジュバントを含有してもよい。例示的なワクチンアジュバントには、ケモカイン/サイトカイン、CpGに富むオリゴヌクレオチド、または標的細胞特異的抗原もしくはリガンドと同時に曝露される抗体が含まれる。
【0093】
装置は、免疫細胞を足場に遊走するように誘引して、そこで細胞は抗原特異的に教育されて活性化される。次に、プログラムされた免疫細胞は、多数の方法でリンパ節に向けて遊出するように誘導される。動員組成物および展開シグナル/組成物、たとえばリンパ節遊走誘発物質は、足場材料の組み込みおよび/または足場材料からの放出の方法によってプログラムされるか、または誘引物質を含有する足場区画の連続的分解によって制御される1回または複数回のバーストで放出される。バーストが消散すると、細胞は遊走する。反発物質を含有する区画は、反発物質を1回もしくは複数のバーストでまたは経時的に徐々に分解して放出するように設計される。反発物質の相対的濃度によって、免疫細胞は、装置から遊走する。または、装置に留置されたまたは装置の中に遊走した細胞は、反発物質を放出するように、または自身の挙動を変化させるようにプログラムされる。たとえば、足場に付着したプラスミドDNAに対する細胞の曝露によって、局所遺伝子治療を行う。有用な反発物質には、ケモカインおよびサイトカインが含まれる。または、装置は、それらを分解して放出することによって免疫細胞を遊出させてもよい。
【0094】
ワクチン装置構築において有用な標的疾患状態、刺激分子、および抗原を以下に記載する。
【0095】
免疫応答を促進するための生物活性因子
a. インターロイキン、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12 IL-15、IL-18等。
b. TNF-α
c. IFN-γ
d. IFN-α
e. GM-CSF
f. G-CSF
g. Ftl-3リガンド
h. MIP-3β(CCL l9)
i. CCL21
j. M-CSF
k. MIF
1. CD40L
m. CD3
n. ICAM
o. 抗CTLA-4抗体
p. TGF-β
q. CPGに富むDNAまたはオリゴヌクレオチド
r. 細菌に関連する糖部分:リポ多糖類(LPS)は一例である
s. Fasリガンド
t. Trail
u. リンフォタクチン
v. マンナン(M-FP)
w. 熱ショックタンパク質(apg-2、Hsp70およびHsp90は例である)
疾患および抗原-ワクチン接種の標的
a. 癌:抗原およびその起源
i. 生検から抽出した腫瘍溶解物
ii. 放射線照射腫瘍細胞
iii. 黒色腫
1. MAGEシリーズ抗原(MAGE-1は一例である)
2. MART-1/黒色腫
3. チロシナーゼ
4. ガングリオシド
5. gp100
6. GD-2
7. O-アセチル化GD-3
8. GM-2
iv. 乳癌
1. MUC-1
2. Sos1
3. タンパク質キナーゼC-結合タンパク質
4. 逆転写酵素タンパク質
5. AKAPタンパク質
6. VRK1
7. KIAA1735
8. T7-1、T11-3、T11-9
v. 他の一般的および特異的癌抗原
1. ホモサピエンステロメラーゼ発酵(hTRT)
2. サイトケラチン-19(CYFRA21-1)
3. 扁平上皮癌抗原1(SCCA-1)、(タンパク質T4-A)
4. 扁平上皮癌抗原2 (SCCA-2)
5. 卵巣癌抗原CA125(1A1-3B)(KIAA0049)
6. ムチン1(腫瘍関連ムチン)、(癌腫関連ムチン)、(多形上皮ムチン)(PEM)、(PEMT)、(EPISIALIN)、(腫瘍関連上皮膜抗原)、(EMA)、(H23AG)、ピーナツ反応性尿路ムチン)、(PUM)、(乳癌関連抗原DF3)
7. CTCL腫瘍抗原se1-1
8. CTCL腫瘍抗原se14-3
9. CTCL腫瘍抗原se20-4
10. CTCL腫瘍抗原se20-9
11. CTCL腫瘍抗原se33- 1
12. CTCL腫瘍抗原se37-2
13. CTCL腫瘍抗原se57- 1
14. CTCL腫瘍抗原se89-l
15. 前立腺特異的膜抗原
16. 5T4癌胎児トロホブラスト糖タンパク質
17. Orf73カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス
18. MAGE-C1(癌/精巣抗原CT7)
19. MAGE-Bl抗原(MAGE-XP抗原)(DAM10)
20. MAGE-B2抗原(DAM6)
21. MAGE-2抗原
22. MAGE-4a抗原
23. MAGE-4b抗原
24. 結腸癌抗原NY-CO-45
25. 肺癌抗原NY-LU-12変種A
26. 癌関連表面抗原
27. 腺癌抗原ARTl
28. 腫瘍随伴関連脳-精巣-癌抗原(腫瘍神経抗原MA2;腫瘍随伴神経抗原)
29. 神経腫瘍腹側抗原2(NOVA2)
30. 肝細胞癌抗原遺伝子520
31. 腫瘍関連抗原CO-029
32. 腫瘍関連抗原MAGE-X2
33. 滑膜肉腫、X ブレークポイント2
34. T細胞によって認識される扁平上皮癌抗原
35. 血清学的に定義された結腸癌抗原1
36. 血清学的に定義された乳癌抗原NY-BR-15
37. 血清学的に定義された乳癌抗原NY-BR-16
38. クロモグラニンA;副甲状腺分泌タンパク質1
39. DUPAN-2
40. CA 19-9
41. CA 72-4
42. CA 195
43. 癌胎児抗原(CEA)
b. AIDS(HIV関連抗原)
i. Gp 120
ii. SIV229
iii. SIVE660
iv. SHIV89.6P
v. E92
vi. HCl
vii. OKM5
viii. FVIIIRAg
ix. HLA-DR(Ia)抗原
x. OKMl
xi. LFA-3
c. 全身感染性疾患および関連抗原
i. 結核
1. ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)抗原5
2. ヒト型結核菌抗原85
3. ESAT-6
4. CFP-10
5. Rv3871
6. GLU-S
ii. マラリア
1. CRA
2. RAP-2
3. MSP-2
4. AMA-1
iii. 可能性がある変異型インフルエンザおよび髄膜炎株
d. 神経保護-神経疾患(たとえば、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病)に対して保護する
1. 自己CNS抗原のクラス
2. ヒトα-シヌクレイン(パーキンソン病)
3. βアミロイド斑(アルツハイマー病)
e. 自己免疫疾患(多発性硬化症、リウマチ性関節炎等)
i. 疾患連鎖MHC抗原
ii. 自己抗原の異なるクラス
iii. インスリン
iv. インスリンペプチドB9-23
v. グルタミン酸
vi. デカルボキシラーゼ65(GAD 65)
vii. HSP 60
疾患連鎖T細胞受容体(TCR)
【実施例】
【0096】
実施例1:移植した筋芽細胞生存および筋形成を増強するための足場の設計
筋芽細胞移植は現在、細胞の生存不良と宿主筋系への細胞の組み込み不良のために限定的である。細胞の生存率を増強して損傷した筋に定着するようにその外向きの遊走を誘導する移植系は、筋再生に対するこのアプローチの成功を増強する。初代培養筋芽細胞の濃縮集団を、アルギネートで形成された送達媒体に播種して、細胞の生存および遊走における媒体の設計および局所増殖因子送達の役割を調べた。ナノ孔アルギネートゲルに播種した細胞の5+/-2.5%のみが24時間生存し、ゲルから遊走した細胞は4+/-0.5%に過ぎなかった。ゲル化の前に細胞接着ペプチド(たとえば、G4RGDSP)をアルギネートにカップリングさせると、足場内の細胞の生存率はわずかに増加して16+/-1.4%となり、外向きの遊走は6+/-1%となった。しかし、材料からのHGFおよびFGF2の持続的な送達と共にマクロ孔足場を生じるようにペプチド改変アルギネートゲルを加工すると、播種された細胞の生存率は5日間のあいだに劇的に増加して、外向きの遊走は110+/-12%となった。これらのデータは、ポリマー送達媒体内に留置された筋芽細胞の長期生存および遊走が、適当な足場組成物、構造、および増殖因子送達によって大きく増加することを示している。この系は筋組織の再生において特に有用であり、他の組織の再生において広く有用である。
【0097】
足場材料におけるまたはその上に生物活性組成物が存在することにより、同時に周辺の宿主筋線維に定着するように細胞の外向きの遊走を助長しながら、長期間にわたって細胞の生存率が維持される。衛星細胞と、筋再生に関与するように内因性の細胞にシグナルを送る誘導分子とを同時送達する生体分解性のポリマーマトリクスは、このアプローチにおいて特に有用である。細胞接着リガンドをマトリクス、材料孔構造、および材料からの増殖因子送達にカップリングさせる役割をインビトロで調べた。海草に由来する親水性の生物学的適合性の多糖類であるアルギネートは、細胞接着ペプチドによる共有結合改変を可能にするカルボン酸官能基を有し、組織発達を誘導するシグナルの制御された提示を可能にする。さらに、ゲルを形成するために用いられるポリマーの分子量分布を制御することによって、ゲル分解を調節してアルギネート封入細胞の生存率を増加させることができる。併せて考慮すると、これらの特性により、アルギネートハイドロゲルはこれらの試験にとって有用なモデル材料となる。最後に、初代培養筋芽細胞のほかに、特徴的な筋タンパク質を産生する筋芽細胞株(C2C12細胞)を、筋原性タンパク質の発現分析のためのモデル系として用いた。
【0098】
以下の材料および方法を用いて本明細書に記述のデータを生成した。
【0099】
アルギネート改変
低分子量(Mw=5.3×104 g/mol、LMWと省略する)改変アルギネートは、極めて純粋なMVGアルギネート粉末(Pronova, Oslo Norway)をコバルト-60線源によってγ線量5.0 Mrad(Phoenix Lab, University of Michigan, Ann Arbor, USA)で照射することによって産生した。極めて純粋な等級の高分子量(MVG, Pronova, Mw=2.7×105 g/mol)アルギネートも同様に足場を製作するために用いた。いずれのアルギネートも、当技術分野において公知のカルボジイミド化学(たとえば、Rowley, Madlambayan et al. 1999 Bio. Mat. Res. 60:217-233;Rowley J.2002 Bio. Mat. Res.20:45-53)を用いて、アルギネートモノマーの平均密度3.4 mMペプチド/moleでG4RGDSP配列(Commonwealth Biotechnology Inc.)を有する共有結合オリゴペプチドによって改変した。2%照射アルギネート溶液を凍結して完全に乾燥するまで凍結乾燥した。凍結乾燥アルギネートをMES緩衝液(Sigma)に加えて1%w/v溶液を生じ、溶解したアルギネートにEDC、スルホ-NHSおよびRGDSPペプチドを加えて20時間反応させた。ヒドロキシルアミンによって反応を停止させて、溶液をNaClの減少濃度(7.5%、6.25%、5%、3.75%、2.5%、1.25%、および0%)によって3日間透析した。活性炭を加えることによって溶液を精製した後濾過滅菌した。濾過滅菌したアルギネートを凍結して凍結乾燥し、-20℃で保存した。最後に、改変アルギネートをカルシウムを含まないDMEM(Invitrogen)に溶解してゲル化の前に2%w/v溶液(50%LMW;全ての実験において用いた50%MVG)を得た。溶解したアルギネートを4℃で保存した。
【0100】
足場の製作
3つの物理的形状の足場を調製した:ナノ孔、ミクロ孔、およびマクロ孔。ナノ孔アルギネート足場を製作するために、筋芽細胞(106細胞/ml)を含有する非改変またはペプチド改変アルギネート5 mlを、CaSO4(CaSO4 0.41g/ml ddH2O)(Aldrich)200μlを加えることによってクロスリンクして、得られた溶液をポリビニルスルホキサン(PVS)(Kerr)で構築された鋳型(2×2×5 mm)に絞り出した。アルギネートを完全にゲル化させて、高グルコースDMEM中で37℃にした。ミクロ孔(10~20μm孔)足場を形成するために、細胞の非存在下でアルギネートをゲル化させた後、-120℃で凍結した。凍結した足場を凍結乾燥して細胞を播種するまで-4℃で保存した。マクロ孔アルギネート足場(直径400~500μmの整列した孔)を製作するために、アルギネート/硫酸カルシウム溶液を、ワイヤポロジェン(RMO歯科矯正ワイヤ、PO Box 17085, Denver CO)を含有するPVS鋳型に押し出した。アルギネートを含有する鋳型の上に滅菌ガラスプレートを載せて、30分間放置した。アルギネートが完全にゲル化した後(30分)、ワイヤポロジェンを含有するアルギネートを-70℃で凍結した。凍結したアルギネートゲルを終夜凍結乾燥して、ワイヤポロジェンを注意深く除去して、細胞を播種するまで、乾燥した鋳型を-20℃で保存した。
【0101】
筋芽細胞培養
筋芽細胞は4週齢C57BL/6マウス後肢の骨格筋系に由来した。無菌的条件で後肢の脛骨筋を外科的に切除して、細切し、0.02%トリプシン(GIBCO)および2%4型コラゲナーゼ(Worthington Biochemical, Lakewood, NJ.)において、オービタルシェーカーにおいて撹拌しながら37℃/5%CO2で60分間解離させた。解離させた細胞を70μmのふるいを通して濾し、1600 rpmで5分間遠心して、ピルビン酸塩(GIBCO)を加えた高グルコースDMEMに浮遊させた。培地にはさらに、10%ウシ胎児血清(FBS)、および10%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)(GIBCO)を添加して、この培地を全ての細胞培養試験において用いた。細胞を播種して37℃/5%CO2で72時間培養した後培地を交換した。培養72時間後、細胞が80%コンフルエントとなるまで(約7日)培地を48時間毎に交換した。遠心によって細胞を回収して、15 ml FalconチューブにおいてPercoll勾配(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)に重層した。勾配は、PBS(GIBCO)において希釈した20%Percoll 3 ml、DMEM(Invitrogen)において希釈した30%Percoll 3 ml、およびHam's F-12(GIBCO)において希釈した35%Percoll 3 mlからなった。細胞を直ちに25℃で1600 rpmで20分間遠心した。30%分画からの細胞を回収して高グルコースDMEMに浮遊させた。
【0102】
免疫組織化学
筋原性タンパク質の発現に関して筋芽細胞培養物の特徴を調べるために、Percoll精製一次筋芽細胞を滅菌カバーガラスに終夜載せて、0.2%パラホルムアルデヒドによって20分間固定した。カバーガラスを、0.5%Triton-X(PBS-X)を含むリン酸緩衝生理食塩液によってすすいで、ヘキスト核色素(1:1000)においてインキュベートした。カバーガラスはまた、抗デスミン(1/100)モノクローナル抗体(Chemicon, Temecula CA)においてインキュベートした後、免疫蛍光二次抗体(1:1000)(FITC, Jackson Labs, West Grove, PA.)と共にインキュベートした。二次抗体の結合後、カバーガラスを封入水性培地と共にスライドガラスに載せて透明なネイルポリッシュによって密封した。スライドガラスを通常の蛍光光学顕微鏡(Nikon Eclipse E-800, Tokyo, Japan)によって観察するか、または後に分析するために完全な暗所で保存した。画像は、NIHイメージングソフトウェア(National Institutes of Health, Bethesda, MD)、スポットデジタルカメラおよびアドビフォトショップを利用して獲得した。
【0103】
ウェスタンブロット
初代培養筋芽細胞を含有する改変アルギネート足場を細切することによって総細胞質タンパク質を回収して、得られた溶液を1.5 ml Eppendorfチューブに入れた。受動溶解緩衝液(Promega, Madison WI)50μlを細切した足場に直接加えて37℃で10分間インキュベートした。各試料におけるタンパク質の量は、200μmタンパク質アッセイ試薬(BioRad)において試料1μmを希釈することによって定量して吸光度を595 nmで測定した(Sunrise spectrometer)。
【0104】
試料は全て標準的なSDS pageプロトコールを用いて変性させ、総タンパク質25μg/ウェルを8%トリスグリシンポリアクリルアミドゲル(Ready Gels, BioRad)にローディングして、100ボルトで120分間電気泳動を行った(Laemmli, 1970)。電気泳動後、BioRadミニブロットを利用してタンパク質をPDVFメンブレン(BioRad)に100ボルトで1時間転写した。PDVFメンブレンを0.1%Tween-20(TBS-T)を有するトリス緩衝生理食塩液において1%ウシ血清アルブミン(BSA)においてブロックした。ブロック後、PDVFメンブレンを、デスミン(1/100)、ミオゲニン(1/100)、またはMyoD(1/100)(Santa Cruz Biotechnologies, CA)に関する適当な一次モノクローナル抗体と共に室温で1時間インキュベートした。次に、メンブレンをTBS-T(15分×2)において30分間すすいで、TBS-Tにおいて1:1000希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ共役ヤギ抗マウス二次抗体(BioRad)において1時間インキュベートした。メンブレンをTBS-Tにおいて30分間(15分間×2)すすぎ、タンパク質を化学発光検出キット(ECL、Amersham)によって検出して、Hyperfilm ECL(Amersham)に露出することによって可視化した。
【0105】
増殖因子の取り込みと放出速度論
改変バイナリアルギネート足場に組み入れられたHGFの放出速度論を決定するために、定量的サンドイッチ酵素イムノアッセイ技術(ELISA)を用いた。組換え型HGFタンパク質(Santa Cruz Biotechnologies, CA)をアルギネート溶液(500 ng/ml)にゲル化前に組み入れて、ゲルを既に記述したようにキャストした。ゲルが完全に重合化した後、それらを5 mm四方に切断して24ウェルプレートに入れてPBS 1 mlを各ウェルに加えた。様々な時点でPBSを採取して4℃で保存して、新しいPBSを足場に加えた。PBS試料を定量的ELISA(Quantikine)によって総HGF含有量に関して測定し、結果を最初に取り込まれたHGFと比較した。FGF2の取り込み効率および放出速度論を決定するために、125I-ボルトンハンター(PerkinElmer Life Sciences, Boston, MA)標識FGF2 5μciをゲル化前のアルギネート溶液2.5 mlに組み入れた。ゲル化後、ゲルを四角に切断した(2×10×10 mm)。標識FGF2約1μciをそれぞれの足場に組み入れた。アルギネート足場をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)3 mlを含有する異なるポリプロピレンチューブに入れて37℃でインキュベートした。様々な時点において、PBSをチューブから採取して、新鮮なPBSを足場に加えた。足場からのFGF2の放出は、足場から採取したPBS中に存在する放射活性をγカウンター(Beckman)によって計数して、試料に組み入れられた初回総125I FGF2の結果と比較することによって決定した。
【0106】
遊走および生存率
アルギネート足場に播種した初代培養筋芽細胞の生存率を決定するため、および足場からの遊走能を測定するために、精製初代培養筋芽細胞を、24ウェルプレートにおいて三次元アルギネート足場(2×106細胞/ml)に播種した。培地における細胞の溶液(50μl)をピペットによって各凍結乾燥足場に加えた;培地は急速に吸収された。次に、アルギネート足場からの筋芽細胞に関して得られた生存率および遊走を、HGFおよびFGF2(250 ng/足場)の双方の取り込みと共に、様々な時点で足場を培養において維持することによって測定した。足場内での細胞の生存率を分析するために、足場を細切して、トリプシン50μlおよび5 mM EDTA 50μlによって5分間処置した。溶解したアルギネートおよび浮遊細胞20μlを4%トリパンブルー溶液(Sigma)20μlに加えた。生存細胞の百分率を、標準的な顕微鏡条件(Nikon Eclipse E800, 20X)下で血球計算盤において観察して、トリパンブルー排除(死細胞はその核からトリパンブルーを排除できないことにより青く見える)により決定した。足場からの筋芽細胞の遊走を測定するために、足場を新しい24ウェルプレートに様々な時点で入れて、先の24時間のあいだに24ウェルプレートに定着した細胞をトリプシン処理によって採取して、コールターカウンター(Beckman Corp.)において計数した。足場から遊走した細胞の総数を、アルギネート鋳型に最初に播種した細胞の総数に対して標準化した。
【0107】
SEM足場の特徴分析
アルギネート鋳型における孔の大きさおよび方向を、走査型電子顕微鏡(ISI-DS 130, Topcon Techn. CA)を利用して画像化した。試料は全て乾燥させて、分析前にスパッタコーティング(Desk II, Denton Vacum; NJ)した。
【0108】
マウス後肢から単離した筋芽細胞の特徴分析
骨格筋から単離した初代培養細胞をカバーガラスに載せて、ヘキスト核特異的染色液による染色、およびデスミンに関する免疫組織化学染色によって分析した。無作為な顕微鏡視野の光学顕微鏡による分析により、初回単離によって不均一な細胞集団が得られ、その75%がデスミンを発現した(
図1A)。細胞培養物を筋原細胞に関して濃縮するために、初回初代培養細胞単離物を7日間培養において拡大して、その後Percoll密度勾配分画によって精製した。得られた培養物は、95%デスミン陽性集団からなった(
図1B)。
【0109】
ペプチド改変の役割
筋芽細胞が、細胞接着ペプチドを有しない足場内で生存して留まっている、または足場から遊走できるか否かを、以下の3つの条件下で足場に筋芽細胞を播種することによって試験した:ナノ孔アルギネート足場、HGFを放出するナノ孔足場、およびHGFを放出するミクロ孔足場。組み入れられたHGFの約1/3が最初の10時間に放出されて、その後の期間に持続的な放出が観察された(
図2a)。最初の24時間のあいだに生存率を維持した細胞の百分率は全ての条件において10%未満であった(
図2B)。96時間までに、HGFを放出するミクロ孔足場において生存細胞の小さい割合を測定できたに過ぎなかった。細胞の喪失と一致して、足場からの筋芽細胞の遊走は最小であった(
図2C)。最初の24時間において、これらの任意の条件において足場から遊走したのは、取り込まれた細胞全体の5%未満であった。これはミクロ孔足場において2日目までにわずかに増加したが、いかなる条件においてもさらに改善することはできなかった。
【0110】
足場の製作前の、接着オリゴペプチドによるアルギネートの共有結合改変は、細胞の生存率を改善すると共にその外向きの遊走を改善した(
図3A~B)。ナノ孔ペプチド改変足場に播種した筋芽細胞は、類似の非ペプチド改変足場における細胞と比較して、24時間で細胞生存率の2倍の増加を示した。HGF放出は生存率をさらに40%まで増加させ、HGF放出を伴うペプチド改変ミクロ孔足場に播種した細胞は類似の生存率を示した(
図3A)。しかし、生存率は全ての条件で経時的に減少した。同様に、累積遊走はHGF放出およびミクロ孔性と協調してペプチド改変によって増強された。ペプチド改変ナノ孔足場によって、播種した細胞の約20%が足場から遊走した(
図3B)。HGFの自然放出およびミクロ孔との併用によって、非ペプチド改変ナノ孔足場と比較して、細胞の遊走は約4倍増加した(
図3B)。それらの条件において、播種した細胞の40%が足場から遊走して、宿主筋線維と融合するために利用可能であった。
【0111】
マクロ孔アルギネートおよびFGF2放出
次に、整列した孔チャンネルの作製(マクロ孔足場;
図4A)およびFGF2放出(
図4B)の筋芽細胞生存率および外向きの遊走に及ぼす効果を調べた。マクロ孔の作製は、類似のミクロまたはナノ孔足場と比較して筋芽細胞の生存率および遊走を有意に増強した(
図5A~B)。この状況で生存細胞の割合は24時間で63%であり、増強された生存率は実験の96時間を通して維持された(
図5A)。さらに、HGFとFGF2の放出は共に、最高レベルの外向きの遊走を引き起こした(
図5B)。
【0112】
細胞溶解物のウェスタンブロット分析を行って、これらの足場内のまたはこれらの足場から遊走した細胞の分化状態を決定した。HGFおよびFGF2を放出する足場内に存在するまたは足場から遊走した細胞は、高レベルのMyoDを発現した(
図6)。ペプチド改変またはHGF/FGF2を伴わない足場に存在する細胞は、有意なレベルのMyoDを発現しなかった。対照的に、いかなる足場における細胞も足場から遊走した細胞も、筋原細胞の最終段階分化に関連する転写因子であるミオゲニンを発現しなかった(
図6)。
【0113】
筋細胞生存と標的組織への遊走の増強
筋芽細胞の生存率および移植された足場からの遊走能は、足場材料、孔構造、および材料からの増殖因子の放出に関連した接着リガンドの存在によって強く調節されることが見いだされた。
【0114】
細胞接着リガンドを欠損する足場に筋芽細胞を組み入れると、生存率の急速かつ重度の喪失が起こり、細胞の遊走は最小であった。しかし、アルギネートをG4RGDSPペプチドによって改変すると、細胞の生存率および遊走は増加した。
【0115】
細胞接着ペプチドによって改変したアルギネートは、細胞をポリマーに接着させて、増殖させ、筋芽細胞の場合には筋線維に融合させる。フィブロネクチンにおいて見いだされるモチーフ(たとえば、RGD)を提示するペプチドは、フィブロネクチンに対する筋芽細胞の接着が筋形成の初期増殖相に関連することから、骨格筋工学に特に関連している。RGDペプチドは足場からの筋芽細胞の遊走のためのシグナルを提供した;しかしRGDシグナルと組み合わせた足場のさらなる特色により、より強い遊走が起こった。足場におけるマクロ孔の整列によって、後の時点でより高い細胞生存が起こり、最も重要なことに、足場からの細胞の非常に効率的な遊走が起こった。マクロ孔性は、細胞の遊走にとって重要であり、平滑筋細胞は、より大きい孔を有する足場において最も都合よく生育することが証明されている
【0116】
公知の増殖因子、たとえば筋芽細胞の場合にはHGFおよびFGFを組み込むことにより、足場の化学および構築の全ての変化体における播種された筋芽細胞の生存率および遊走が有意に増加した。FGFは、筋原細胞に対して効果を有することが示された最初の増殖因子であり、筋原細胞に及ぼすFGF2の効果は、HGFを加えることによって増強される。さらに、筋挫滅損傷における筋原細胞の修復は、FGF2抗体を注射することによって妨害された。これらのデータは、FGF2に関する重要な生理的役割、および骨格筋再生におけるFGF2とHGFシグナル伝達の併用に関する役割を示している。しかし、FGF2を損傷後に骨格筋に注射しても筋修復を増強せず、この因子を適切な状況で用いることの重要性を示唆している。特に、骨格筋を再生させるための現在のアプローチにおいて、筋原細胞はその正常な分化傾向を迂回して、組織を再生させるために十分数の細胞が達成されるまで増殖相に留まるように指示されなければならず、細胞はまた足場から遊走した。FGF2は、HGFの遊走誘発効果が後者の機能を提供しているあいだ、移植された細胞の未成熟な分化を防止するために特に有用である。
【0117】
これらの結果は、移植された細胞のための足場が、細胞生存率を維持して媒体からの遊走を促進するための任意の表現型のために、最適化されて設計されうることを示している。足場の構成、生存率を維持して遊走させる接着リガンド、および表現型を調節する増殖因子の適当な組み合わせは、移植された細胞の運命に対する複雑な制御を得るために併用して用いられる。
【0118】
筋再生のための移植細胞の活性化
マクロ孔アルギネート足場は、筋裂傷部位での移植された筋前駆細胞(衛星細胞)のための微小環境として役立つように設計された。衛星細胞の活性化および遊走を促進するが衛星細胞の最終分化を促進しない因子(肝細胞増殖因子および線維芽細胞増殖因子2)を放出することによって、損傷した宿主組織の再生に関与するために有能な細胞が、筋線維再生のための前駆細胞のプールを維持するためのニッシェとしての足場を用いて持続的に有効に放出される。
【0119】
前脛骨筋が筋中心線で完全に裂傷したC57B1/6Jマウスを用いて、インビボ試験を行った。裂傷後、筋末端を非吸収性の縫合糸を用いて縫合して、増殖因子の組み合わせを含有する足場および細胞を損傷の上部に留置した。筋再生を30日目にアッセイした。
【0120】
外植された組織は、筋肉量および欠損領域の減少によって定量すると、細胞と双方の増殖因子を含有する足場によって処置した場合に、最大の新しい組織形成領域を示す。
【0121】
再生筋線維の形態学的分析から、他の全ての試料タイプと比較して、増殖因子および細胞を含有する足場によって処置した動物において、線維直径の増加および中心に位置する核の数の増加が示された。
【0122】
β-ガラクトシダーゼ遺伝子を含有するトランスジェニックRosa 26マウスに由来する筋芽細胞移植により、再生しつつある宿主組織への移植細胞の取り込みが観察された。増殖因子を含有する足場に細胞を移植すると、足場または増殖因子を伴わずに細胞を注入した場合と比較して再生線維への移植細胞の接合が増加する。
【0123】
実施例2:ニッシェ足場は移植細胞を用いて筋再生を促進する
生存率を維持して、最終分化を防止し、外向きの遊走を促進する合成ニッシェ内に筋芽細胞を移植すると、損傷した宿主筋のその再定着および再生を増強する。筋芽細胞を培養において拡大して、筋肉への直接注入、筋芽細胞活性化および遊走を誘発する因子(HGFおよびFGF)を放出するマクロ孔送達媒体上での移植、または因子放出を欠損する材料上での移植によって、マウスの前脛骨筋裂傷部位に送達する。対照には、ブランク足場、および細胞を含まないが因子を放出する足場の埋め込みが含まれた。足場の非存在下で細胞を注入すると、損傷した筋の限られた再定着が示され、筋再生の改善はわずかであった。遊走を促進しない足場に細胞を送達しても、筋再生の改善が起こらなかった。顕著なことに、筋芽細胞の活性化および遊走を促進する足場に細胞を送達すると、宿主筋組織の広範な再定着が起こり、筋線維の再生が増加して、損傷した筋肉の質量は全体的により大きくなった。細胞移植のためのこの戦略は、移植細胞からの筋再生を有意に増強して、様々な組織および臓器系に対して広く適用可能である。
【0124】
本明細書において記述された足場は、足場周辺の組織形成を誘導することを意図していないが、対照的に、周辺の宿主損傷組織に再定着してその再生を増強するように、その外向きの遊走を同時に助長して指示しながら、通行する細胞の生存率を維持することが意図される。足場は、娘細胞を遊走させて、ニッシェから離れて特殊な機能を達成させながら、幹細胞集団の能力を維持する、ニッシェと呼ばれる特殊な組織微小環境と類似の機能を提供する。宿主組織再定着を首尾よく促進して、同時に前駆細胞の未成熟な最終分化を防止するための足場の物理的および化学的局面。
【0125】
足場は、移植された筋芽細胞からの損傷筋の再定着を増強するために、筋芽細胞の生存、遊走を促進して、最終分化を防止するように設計された。先に記述したように、RGD-提示アルギネートポリマーから製作されたマクロ孔足場からのHGFおよびFGF2放出は、インビトロで足場において培養された衛星細胞の生存率を有意に増強して、HGFおよびFGF2は足場における最終分化を防止しながら播種した細胞の外向きの遊走を相加的に促進するように働く。インビトロ筋裂傷モデルはアスリートおよび外傷における一般的な損傷を反復するために用いた。このモデルはヒト損傷の正確かつ信頼できるモデルである。いくつかの他のマウス試験は、ヒトの損傷または疾患に対するモデルの関連性が間接的である(放射線照射、心毒素の注入、または低温損傷)ために、部分的に批判されている。さらに、筋再生におけるドナー対宿主筋芽細胞の関与を決定するために、ドナー筋芽細胞をRosa 26マウスから得て、β-ガラクトシダーゼの過剰発現によって同定した。
【0126】
足場の調製
低分子量アルギネート(Mw=5.3×104 g/mol)を産生するために、超純粋MVGアルギネート粉末(Pronova, Oslo Norway)にコバルト-60線源を5.0 Mradのγ線量で4時間照射した(Phoenix Lab, University of Michigan, Ann Arbor, USA)。アルギネートを、G4RGDSP配列(Commonwealth Biotechnology Inc.)を有する共有結合で共役したオリゴペプチドによって、平均密度3.4 mMペプチド/モルアルギネートモノマーで、カルボジイミド化学を用いてさらに改変した。高分子量超純粋アルギネート(MVG、Pronova, Mw=2.7×105 g/mol)も同様にこのオリゴペプチドによって共有結合で改変された。
【0127】
非常に多孔性であるアルギネート足場を製作するために、鋳型(2 mm×5 mm×5 mm)をポリビニルスルホキサン(PVS)(Kerr)から構築した。長さ10 mmに切断したサイズ14のステンレススチール歯科矯正直線ワイヤからポロジェンを構築した。歯科矯正ワイヤを500μm離した平行な2組の列で配置して、滅菌して足場鋳型に入れた。放射線照射した低分子量(1%w/v)および非照射高分子量改変アルギネート(1%w/v)の等濃度を含有する溶液を、カルシウムを含まないDMEM(Invitrogen)において調製した。HGF(Santa Cruz Biotechnologies, CA.)およびFGF2(B&D)をアルギネート溶液に加えた(最終濃度100 ng/ml)。硫酸カルシウムスラリー(CaSO4 0.41 g/ml ddH2O)(Aldrich)をCaSO4 40μl/アルギネート1 mlの比率で加えて、激しく混合した。得られた溶液を、ワイヤポロジェンを含有するPVS鋳型に直ちに絞り出した。滅菌ガラスプレートを鋳型の上に載せて、アルギネートが完全にゲル化した後(30分)、ワイヤポロジェンを含有するゲルをPVSから注意深く持ち上げて、100 cm3ペトリ皿に入れた。開いた互いに接続した孔を有するマクロ孔足場を産生するために、ゲルを-70℃まで冷却して、ワイヤポロジェンを注意深く除去して、ゲルを凍結乾燥して、必要となるまで-20℃で保存した。
【0128】
細胞培養および播種
4ヶ月齢のB6.129S7-Gt(ROSA)26Sor/J(Jackson Laboratory, Bar Harbor ME)を屠殺して、衛星細胞を後肢から単離した。後肢の骨格筋系を外科的に切除して、細切し、0.02%トリプシン(GIBCO)および2%4型コラゲナーゼ(Worthington Biochemical, Lakewood, NJ)においてオービタルシェーカーにおいて撹拌しながら37℃/5%CO2において60分間解離した。解離した筋肉を70μmふるいにおいて濾し、1600 rpmで5分間遠心し、ピルビン酸塩(GIBCO)を添加した高グルコースDMEM 10 mlに浮遊させた。培地に10%ウシ胎児血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO)を添加した。浮遊させた細胞を75 cm3組織培養フラスコ(Fisher)に播種して、HGF(50 ng/ml)およびFGF2(50 ng/ml)を培地に加えた。7日後、培養物を継代して精製衛星細胞浮遊液をpercoll分画によって得た。精製培養物を80%コンフルエントになるまで37℃で7日間インキュベートした後、トリプシン処理によって回収して、改変した開口孔アルギネート足場に107細胞/mlで播種した。
【0129】
外科技法および分析
4週齢のC57BL/6マウスを、ケタミン(0.5 ml/kg)およびキシラジン(0.25 ml/kg)の腹腔内注射によって麻酔した。両側の切開を作製して、双方の後肢の前脛骨筋を露出した。露出した後、筋を中等度の長さの腹側-背側で完全に裂傷を作製した。裂傷を作製した筋の近位末端を#4黒色の絹の連続縫合を用いて閉鎖して、足場を創傷部に載せるか、または筋芽細胞を筋肉に注射した。筋芽細胞移植を利用した全ての条件において、全体で5×105細胞を送達した。手術部位を#4黒色絹の断続縫合によって閉鎖して、10または30日目に筋を回収するまで手術部位を放置した。
【0130】
前脛骨筋を切除して、4%パラホルムアルデヒドにおいて2時間固定し、PBSにおいて1時間すすいだ。筋全体を、25μl/ml Xgal保存液を含有するβ-ガラクトシダーゼ染色液において終夜インキュベートした。筋をパラフィン抱埋して専属切片(厚さ5μm)に切断して、組織学分析のためにスライドガラスに載せた。切片を漸減濃度のEtOHによって脱パラフィン化してH2Oによって再水和して、いかなる内因性のペルオキシダーゼ活性も消失させるために3%H2O2(Sigma)において5分間洗浄した。切片をGill's 3ヘマトキシリン(Sigma)およびエオジン水溶液(Sigma)によって染色して、組織の形態を可視化した。最後に連続切片をモノクローナル抗β-ガラクトシダーゼ抗体(1:1000)(Chemicon, Temecula CA)と共に1時間インキュベートした後HRP-共役二次抗体(1:1000)(DakoCytomation, Carpinteria, CA)と共にインキュベートした。試料をすすいで、Permount(Fisher, Fairlawn, NJ)によって封入した。
【0131】
欠損サイズ分析はAdobe PhotoshopおよびImage Pro Plusソフトウェアを用いて行った。Leica CTR 5000光学顕微鏡およびOpen Labソフトウェア(Improvision)を用いて高倍率(100×)画像を得た。各条件に関して6つの試料を分析した。筋欠損領域を、組織された筋線維の欠損によってヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色切片において同定した。線維の大きさおよび核の数は、筋欠損に隣接する再生筋線維の無作為な視野10個の高倍率顕微鏡分析によって決定した。再生筋線維の顕著な特徴である中心に位置する核のみを、核の数の定量において計数した。
【0132】
両側のstudentのt-検定を用いて統計学的有意差を決定した。統計学的有意性はp<0.05によって定義した。データは全て平均値+/-平均値の標準偏差(SD)としてプロットした。
【0133】
移植細胞による筋組織の再定着
各マウスの脛骨筋に裂傷を作製して、次に裂傷を縫合糸によって閉鎖した。5つの条件の1つを用いて裂傷部位を処置した:1)筋芽細胞を裂傷部位の筋に直接注入した、2)ブランク足場を裂傷の上に留置した、3)筋芽細胞を播種した足場を裂傷の上に留置した、4)HGFおよびFGF2を放出する足場(-細胞)を裂傷の上に留置した、ならびに5)筋芽細胞を含有しHGFおよびFGF2を放出する足場を留置した。インプラントは、いかなる接着剤または糊の助けもなく留置して、10および30日目に回収すると、インプラントの80%が手術時と同じ位置に存在した。インプラントは、筋膜様組織によって損傷部位および上層上皮に付着した。増殖因子および筋芽細胞を含有する足場によって処置した損傷筋の大きさの肉眼的な差は、他の全ての条件と比較して30日目に観察され、これらの筋肉は調べた他の条件よりあらゆる寸法において大きかった(
図7A~C)。これらの筋量の定量によって、他の条件と比較して筋肉量の統計学的に有意な30%の増加が判明した(
図7D)。肉眼での観察によってまた、lacZ染色によって示されるように、β-ガラクトシダーゼ活性は、筋芽細胞を移植した他の条件より、筋芽細胞と増殖因子とを含有する足場によって処置した筋肉において顕著により強いことが判明し(
図7A)、この条件において移植された細胞による本来の筋の再定着がより大きいことを示している。
【0134】
組織切片の分析から、全ての条件において大きく壊死性であるように思われた欠損が10日目で明らかとなった(
図8A~E)。この初期の時点で欠損内に正常な筋組織は認められなかった。欠損は、細胞破片、血液および好塩基球によって満たされた。欠損領域に及ぶ筋線維は認められなかった。欠損境界域に並ぶ筋線維は大きく脱構築され、中心に存在する核を含有した。増殖因子単独の局所の持続的な送達によって処置した筋損傷は、この時点での他の任意の条件より大きい残存欠損領域を有したが、この差は、筋芽細胞と増殖因子の双方の持続的な送達によって処置した損傷と比較した場合に限って統計学的に有意であった。筋芽細胞移植によって処置した筋欠損からの切片を高倍率で観察すると、この時点で組織に存在するlacZ(+)細胞数の肉眼的な差は観察されなかった。
【0135】
初期の結果とは対照的に、筋芽細胞と増殖因子の持続的な局所送達によって処置した筋における欠損は30日目に大きく消散した(
図8J)。これらの動物の多くにおいて、唯一の残存欠損は、縫合糸によって引き起こされたものであった。さらに、いくつかの脂肪沈着領域を認め、この時点で実質的に瘢痕組織を認めなかった。他の実験条件における非消散欠損領域も同様に、10日目での欠損領域と比較して大きさが低減したが(
図8F~I)、細胞/HGFおよびFGF2送達条件よりなおかなり大きかった。さらに、瘢痕組織または脂肪の沈着はこれらの他の条件において明らかであった。非消散欠損領域を定量した場合、10日目での条件に統計学的有意差を認めなかった(
図9A)。しかし、損傷後30日目では、細胞および増殖因子を送達する足場によって処置した筋における欠損は、他の任意の条件より有意に小さかった(
図9B)。欠損の大きさのより小さい低減はまた、細胞の注入、またはHGFとFGF2を送達する足場によって処置した筋においても認められた。
【0136】
筋再生をさらに分析するために、再生した筋線維の幅の平均値および消散しつつある筋欠損に対して近位の領域における筋線維の長さあたりの、分裂後の中心に位置する核の数を、高倍率光学顕微鏡分析によって定量した。再生線維の幅の平均値および中心に存在する核の密度は、細胞および増殖因子を送達する足場によって処置した筋では、増殖因子のみを送達する足場(
図10A)、または他の任意の実験条件と比較して定性的に大きかった(
図10B)。損傷後30日目の幅の平均値の決定により、増殖因子と併用して筋芽細胞によって処置した筋肉が、ブランク足場、細胞の注入、または足場のみに移植した細胞と比較して線維の大きさの3倍の増加を示したことが確認された(
図10C)。線維の幅はまた、HGFおよびFGF2送達を伴う実験群においても増加したがそれほど劇的ではなかった。さらに、足場の送達により筋芽細胞と増殖因子とによって処置した損傷群における筋線維は、損傷後30日目で他の任意の条件より30%多く中心に位置する核を含有し(
図10D)、筋芽細胞の線維へのより多くの融合を示し、これらの線維の大きさがより大きいという知見を支持する。
【0137】
最後に、損傷30日後の前脛骨筋からの組織切片の免疫染色により、細胞をHGF/FGF2を放出する足場に移植した場合に、筋の大きさ、線維の幅および線維の核における増加が筋を再生しつつある宿主への移植筋芽細胞の強い定植を伴うことが判明した(
図11A、C)。筋芽細胞の直接注入を用いた条件ではより限定的な数の定植ドナー細胞が認められた(
図11B、D)。他の実験および対照条件ではLacZ(+)細胞を認めなかった。
【0138】
筋芽細胞移植による損傷後の骨格筋再生の調節は、ドナー筋芽細胞の生存および宿主組織内の筋線維へのその安定な取り込みを必要とする。その外向きの遊走を促進する足場に筋芽細胞を移植することは、細胞教育足場を用いる場合について可能な移植細胞の運命に対する制御と、直接細胞注入によって得られる宿主筋線維再生の長所を組み合わせる。損傷した筋への筋芽細胞の直接注入は、足場からのHGFおよびFGF2の併用の局所送達と同様に、再生を増強するが、HGFおよびFGF2を同時に送達する足場からの細胞の移植は、筋再生における移植細胞の関与および再生の全体的な程度を増強した。
【0139】
直接注入による筋芽細胞の移植、および増殖因子を放出しない足場による送達は、モデル系において異なる転帰に至った。筋芽細胞単独の注入は、程度は中等度であるものの筋再生を増強した。注入した細胞は、欠損部位におけるRosa26-由来細胞の同定によって証明されるように、筋線維形成に関与して、30日での欠損の大きさの平均値を減少させ、骨格筋線維の幅を増加させた。対照的に、増殖因子を有しない足場に同じ細胞数を移植しても、欠損部位にブランク足場を埋め込んだ場合と比較して、筋再生に検出可能な変化は起こらなかった。足場からの細胞の遊走は、HGFおよびFGF2の活性化効果の非存在下では低く(播種した細胞の20~30%がインビトロで4日間のあいだに足場から遊走する)、それらの足場はHGF/FGF2足場と比較して再生に関与することができる周辺組織に少数の細胞を提供する。
【0140】
移植細胞の非存在下で、足場からのHGFおよびFGF2の併用を送達すると、筋再生に中等度の効果を有した。再生線維の幅は、ブランク足場と比較してこの条件で増加し、再生筋線維の顕著な特徴であるこれらの線維における中心に位置する核の数も同様に増加した。これらの効果は30日目に認められた欠損領域における中等度の減少と一致した。筋再生部位への局所HGFおよびFGF2送達に関する他の研究によって、本明細書において報告した結果とは異なる結果が得られた。局所HGF送達はこれまで、注入した筋肉内で活性化筋芽細胞の数を増加させることが報告されており、衛星細胞の活性化におけるその役割と一致するが、HGFの繰り返し提示は実際には再生を阻害した。Miller et al., 200 Am. J. Physiol. Cell. Physiol. 278: C174-181。高用量のHGFは、宿主筋芽細胞が細胞周期から撤退して最終分化する能力を遅らせる可能性がある。さらに、内因性のFGF2の適用はこれまで筋再生を増強しないことが報告されている。それらのこれまでの研究とは対照的に、本明細書において記述された足場は少量の増殖因子(たとえば、5 ng)を送達し、長期間、たとえば3~10日間にわたって因子を持続的に放出し、1つの因子ではなくて2つの因子の併用を送達し、筋損傷のタイプもこれまでの系とは異なった。前述のデータを生成するために用いられたモデル系は、初期の研究と比較してヒトの損傷または筋欠損により厳密に類似している。
【0141】
HGFおよびFGF2を放出する足場において筋芽細胞を移植することは、調べたあらゆる手段による筋再生を有意に増強した。β-ガラクトシダーゼに関する免疫組織化学染色によって示されるように、筋再生に関与する移植細胞数は劇的に増加した。再生しつつある線維の幅は、線維における中心に位置する核の数と同様に有意に増強され、これらはいずれも筋再生に関与する筋芽細胞数の増加と一致する。増強された再生によって30日までに損傷欠損のほぼ完全な消散が起こり、損傷によって誘導された移植後の筋肉量の有意な回復が起こった。これらの増殖因子放出足場に留置された細胞は、インビトロで足場から非常に効率的に遊走して(4日間で100%の遊走)、増殖因子放出は、足場において、細胞を活性化され、増殖するが非分化状態(myoD陽性、ミオゲニン陰性)に維持する。本発明の前まで、筋肉に注入された筋芽細胞は、接着基質の欠如および損傷に存在する炎症環境のために生存が不良であった。足場における細胞の移植は、炎症環境からそれらを保護しながら、移植された細胞の生存率を維持する。HGFおよびFGF2に対する曝露後の筋芽細胞の活性化はまた、その遊走および増殖を増加させ、このようにその宿主筋系に対する定着能を増強させる。筋肉量、筋線維の大きさ、および線維あたりの筋核数の増加は、筋裂傷および筋組織の他の欠損の治癒に関連する筋組織の通常の再生に類似している(たとえば、造血系の再構成から神経再生に及ぶ適用)。
【0142】
実施例3:皮膚創傷の処置
皮膚欠損の状況において、治療目標は創傷のタイプ(たとえば、急性の火傷、瘢痕の修正、または慢性潰瘍)および創傷の大きさによって左右される。小さい慢性潰瘍の場合、目的は真皮の再生による創傷の閉鎖である。表皮は、隣接する表皮からの宿主ケラチノサイトの遊走によって再生する。大きい創傷の場合、最適には自己のケラチノサイトが、表皮の再生を促進するために装置によって提供される。細胞を、創傷部位に直接留置される足場材料、たとえば絆創膏の形での足場構造にローディングする。材料は、再生を促進するために適当な細胞の流れを提供する。真皮再生の場合、線維芽細胞を用いて装置に播種して、これらの細胞は自己(別の部位から採取した生検および移植前に拡大)または同種異系のいずれかである。自己細胞の長所には、疾患の伝搬のリスクの減少、および細胞の免疫学的許容が含まれる。しかし、処置にとって十分な細胞を生成するためには患者の生検後数日から数週間の期間が必要であろう。同種異系細胞は、貯蔵された細胞バンクから患者の即時の処置を可能にして、治療の費用を有意に低減させる。患者の免疫系によるこれらの細胞の拒絶を低減または防止するために、免疫抑制剤が任意で同時投与される。
【0143】
装置の設計には以下の特色の1つまたは組み合わせが含まれる:1.(物理的特性)細胞が装置からその下の組織へと容易に遊走できるようにする孔;2.(物理的特性)創傷からの液体の喪失を制御する、感染症を予防する、および装置からの細胞の組織を離れた遊走の防止;3.(接着リガンド)材料の中および外に線維芽細胞を遊走させるための細胞接着リガンド、たとえばRGD含有ペプチドを含めること;4.(増殖因子)装置内での線維芽細胞増殖を誘導するためにFGF2の局所提示;5.(酵素)装置は創傷の組織切除において有用な酵素の創傷への急速な放出を可能にするように設計される;6.(ヘルパー細胞)個体が限られた血管新生反応を有すると期待される場合、内皮細胞または内皮前駆細胞を装置に含めて、血管形成を促進するために線維芽細胞と協調して創傷に再定着するように刺激する。
【0144】
本発明の適用は、比較的低い弾性係数、たとえば0.1~100、1~100 kPaを有する材料を利用する。堅固な材料は、創傷に適合しないであろうころから適していないであろう。ハイドロゲルまたはエラストマーポリマーは、創傷に適合させるため、および液体輸送に対する制御を提供して、感染症を予防し、装置から創傷の中に細胞が遊走するために必要な物理的接触を可能にするために、この装置において有用である。ハイドロゲルまたは他の材料はまた、接着特性を有する。接着表面は、患者が動いても残りが固定されるように創傷との接触を可能にする。任意で、装置自身は接着性である;または装置は、薬学的に許容されるテープまたは糊のような接着組成物を用いて創傷に留置される。複合材料(たとえば、多孔性装置の外表面に留置された非多孔性シリコンシート)を用いることによって、または異方性の多孔性を作製するために装置を加工することによって、半透過性の外表面が提供される。
【0145】
実施例4:血管新生を促進するための装置および系
血管新生は任意の組織再生努力における肝要な要素であり、血管内皮増殖因子(VEGF)の時間的に明確なシグナル伝達はこのプロセスにおいて肝要である。内皮細胞と共に血管新生を促進する組成物を含有する装置によって、相乗的な血管新生効果が得られた。アプローチは、血管新生プロセスにおいて役割を果たす細胞、たとえば内皮前駆細胞および外殖内皮細胞(たとえば、臍帯血または末梢血試料に由来する)を利用する。
【0146】
低酸素組織の新生血管形成を誘導する因子の空間的分布および時間的制御を提供するために、注射型アルギネートハイドロゲルが開発された。C57BL/6Jマウスの後肢を、大腿動脈および静脈の結紮により虚血にして、増殖因子を含有するハイドロゲルを虚血筋に直接注入し(VEGFのボーラス送達を対照として用いた)、VEGF121およびVEGF165のインビボ放出速度論および分布を、組織試料においてELISAを用いて査定した。ゲルによって28日までに組織灌流が正常レベルまで完全に回復したが、正常な灌流レベルはVEGFのボーラス送達では得られなかった。
【0147】
臍帯血から培養された内皮前駆細胞(EPC)が含まれるいくつかのタイプの幹細胞が治療的血管新生において有用である。これらの細胞に基づく治療は、タンパク質または遺伝子に基づく治療に対していくつかの長所を示す。内皮前駆細胞(EPC)と外殖内皮細胞(OEC)を同時移植すると、それぞれの細胞タイプ単独の移植と比較して血管形成を増強する。これらの細胞は、筋肉内注射を通してと共に血管形成が望ましい他の組織に送達される。細胞生育および遊走を支持するためのニッシェとして具体的に設計された合成細胞外マトリクス装置におけるEPCとOECの同時移植によって、虚血部位での血管形成が劇的に改善された。ミクロ孔アルギネートに基づくハイドロゲルは、Arg-Gly-Asp配列(RGDペプチド)を含有する合成オリゴペプチドと血管内皮増殖因子(VEGF)とを含有した。RGDペプチドは細胞接着、ゲルマトリクス内での生育および遊走を支持し、VEGFの持続的な放出は細胞の遊走を刺激する。
【0148】
ハイドロゲルは、共有結合したRGDペプチドを含有するアルギネート分子をカルシウムイオンとクロスリンクさせることによって調製した。VEGFを、クロスリンク前にアルギネート溶液と混合することによってゲルマトリクスにローディングした。ゲルマトリクスにおけるマイクロサイズの孔は、-20℃でゲルを凍結した後凍結乾燥することによって誘導された。ヒト微小血管内皮細胞をアルギネート足場に播種して、24ウェルプレートにおいてコラーゲンゲルに入れた。3日間培養後、ゲルは分解して細胞数を定量した。
【0149】
EPCとOECの混合物をミクロ孔にローディングして結紮部位に移植した。SCIDマウスの後肢の大腿動脈を結紮して、動脈の末端を縫合糸によって結んだ。右後肢における血液灌流の回復をレーザードップラー灌流造影(LDPI)系を用いて評価した。
【0150】
RGDペプチドを含有するマトリクスに留置したヒト内皮細胞は、アルギネートゲル足場から遊走してマトリクスに接した培養皿の表面に定着したが、その外向きの遊走は、マトリクスにVEGFを含めることによって有意に増強された。より多数の内皮細胞がコラーゲンに局在して、これを3日目に定量した(
図12)。VEGFを含有する合成微小環境内でEPCおよびOECを移植すると、右後肢の血液灌流は6週間以内に完全に回復した(
図13a)。対照的に、細胞のボーラス注射によって血液灌流の限局的な回復が起こり、最終的に右後肢は壊死のために失われた(
図13b)。EPCおよびOECの双方をゲルマトリクス内に移植すると、ゲルマトリクス内にEPCまたはOECのいずれか単独を移植する場合と比較して血液灌流の優れた回復が起こった(
図13c)。
図13dは、調べた動物における血液灌流の回復をさらに図示している。先に記述した装置および細胞ニッシェ系は、インビボで血管形成の相乗的な増強に至る適切な微小環境を移植細胞に提供する。
【0151】
実施例5:細胞遊走を調節するワクチン装置
ポリマーに基づく送達系は、局所インビボ細胞遊走を調節するために設計された。装置が投与される体の細胞は装置/足場に入り、物質を取り込み(たとえば、標的抗原または免疫刺激分子)、後に遠隔部位へと移動する。これらのタイプのポリマー系は、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、siRNA、またはDNAのような分子を、その機能を有効に調節する特異的標的細胞にインビボで送達することを求める組織および細胞工学適用またはワクチンプロトコールにおいて特に有用である。装置は足場の中に体の細胞を動員して、その中で細胞はその機能を変化させる(たとえば分化または活性化の状態)物質に出会い、改変された細胞はインプラント部位を離れて、疾患部位または他所で生物効果を有する。装置から細胞が出て行くことは、装置に関連する組成物、孔の大きさ、および/または物質(たとえば、サイトカイン)によって制御される。
【0152】
ポリラクチド-コグリコリドマトリクスからのGM-CSFの送達は、CD11c+樹状細胞(DC)のインビボ動員および浸潤を用量依存的に促進した(
図14A~Cおよび15A~B)。蛍光タグ、フルオレセインをマトリクスに組み入れると、フローサイトメトリーを用いて、足場から離れて排液リンパ節への宿主DCのマトリクスの遊走の通行が許可された(
図16A~C)。GM-CSF送達は、マトリクス埋め込み後14日および28日で埋め込み部位に由来するリンパ節におけるDCの総数を増強した。これらのデータは、装置足場系が、生物活性物質を取り込み、それによって免疫活性化のような細胞機能を改変しながら、インビボで局所部位へのおよび局所部位からの細胞の遊走を促進することを示している。
【0153】
本明細書において参照された特許および科学文献は、当業者にとって入手可能な知識を確立する。本明細書において引用された米国特許および公開または未公開の米国特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用された公開された外国の特許および特許出願は全て、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用された他の全ての公開された参考文献、文書、原稿、および科学文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0154】
本発明は、その好ましい態様を参照して特に示し、記述してきたが、形および詳細に様々な変更を行ってもよく、それらも添付の特許請求の範囲に含まれる本発明の範囲に含まれることは当業者によって理解されるであろう。