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特許7065810タイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】タイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/04 20060101AFI20220502BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20220502BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
G01N5/04 A
E04F13/02 Z
G01N33/38
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019141059
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021025784
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-01-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第73回セメント技術大会 講演要旨、発行日:平成31年4月30日 第73回セメント技術大会、開催日:令和元年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】398043285
【氏名又は名称】株式会社太平洋コンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】沢木 大介
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-241589(JP,A)
【文献】特開平05-034249(JP,A)
【文献】特表2014-507652(JP,A)
【文献】特開2001-091438(JP,A)
【文献】特開2003-105948(JP,A)
【文献】特開2013-190441(JP,A)
【文献】特開2018-080514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00-9/36
E04F 13/02
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイルと、上記タイルを張付けるための面を有する被着体と、上記タイルと上記被着体の間に介在するモルタル硬化体を含むタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法であって、
上記判定方法が、上記モルタル硬化体の一部を試料として採取する試料採取工程と、
上記試料の化学的な特徴を、熱重量-質量分析(TG-MS)を用いて把握する分析工程と、
上記試料の化学的な特徴に基いて、上記モルタル硬化体における吸水調整材の有無、種類及び量を判定する判定工程、
を含み、
上記判定工程において、上記試料の化学的特徴が、上記分析工程の熱重量-質量分析(TG-MS)において得られたマススペクトルで検出された成分のm/z(質量/イオンの価数)の数値であり、
上記判定工程において、上記試料の化学的特徴が、下記(i)の条件を満たす場合、上記モルタル硬化体は、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材を含むものであると判定し、上記試料の化学的特徴が、下記(ii)の条件を満たす場合、上記モルタル硬化体は、アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材を含むものであると判定することを特徴とするタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法。
(i)上記マススペクトルが250~500℃の温度範囲内で得られたものであり、該マススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が58であるアセトン、または、m/z(質量/イオンの価数)の数値が60である酢酸が検出された場合
(ii)上記マススペクトルが300~500℃の温度範囲内で得られたものであり、該マススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が104であるスチレンが検出された場合
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルの外壁等に張付け(貼付け)られたタイルが、時間の経過とともに、ビルの外壁等から浮き上がったり、剥落する場合がある。
その理由の一つとして、タイルの接着に用いられるモルタルの水分が、コンクリート等からなる躯体に吸収されることで、上記モルタルの水分が不足して、上記モルタルの硬化体の接着力が乏しくなるドライアウトと呼ばれる現象が挙げられる。
ドライアウト現象を防ぐ目的で、水分の移動を抑制する機能を有する吸水調整材が知られている。吸水調整材は、通常、モルタルを用いてタイルを接着する前に、コンクリート等からなる躯体側に塗布される。
モルタルの保水性を保ち、かつ、下地とモルタルの界面接着力を向上することができる吸水調整材として、特許文献1には、吸水調整材にナイロン系繊維補強材が混和されていることを特徴とする繊維補強吸収調整材が記載されている。
また、下地に吸水調整材を塗布する際に、塗布した部分と未塗布部分とを目視で明確に区別することができる吸水調整材として、特許文献2には、モルタル塗り工事において使用される吸水調整材であって、染料で着色されていることを特徴とする吸水調整材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-105948号公報
【文献】特開2011-241589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、タイル含有構造体における吸水調整材の有無を判定(具体的には、吸水調整材の有無、その種類及び量)することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、モルタル硬化体の一部を試料として採取する工程と、該試料の化学的な特徴を、熱重量-質量分析(TG-MS)を用いて把握する工程と、把握した化学的な特徴に基いて、タイル含有構造体における吸水調整材の有無を判定する工程を含む判定方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
[1] タイルと、上記タイルを張付けるための面を有する被着体と、上記タイルと上記被着体の間に介在するモルタル硬化体を含むタイル含有構造体における上記タイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法であって、上記モルタル硬化体の一部を試料として採取する試料採取工程と、上記試料の化学的な特徴を、熱重量-質量分析(TG-MS)を用いて把握する分析工程と、上記試料の化学的な特徴に基いて、上記タイル含有構造体における吸水調整材の有無を判定する判定工程、を含むことを特徴とするタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法。
[2] 上記判定工程において、上記モルタル硬化体中の吸水調整材の有無、種類及び量を判定する、前記[1]に記載のタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法。
【0006】
[3] 上記試料の化学的特徴が、上記分析工程の熱重量-質量分析(TG-MS)において得られたマススペクトルで検出された成分のm/z(質量/イオンの価数)の数値である、前記[2]に記載のタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法。
[4] 上記判定工程において、上記試料の化学的特徴が、下記(i)の条件を満たす場合、上記モルタル硬化体は、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材を含むものであると判定し、上記試料の化学的特徴が、下記(ii)の条件を満たす場合、上記モルタル硬化体は、アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材を含むものであると判定する、前記[3]に記載のタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法。
(i)上記マススペクトルが250~500℃の温度範囲内で得られたものであり、該マススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が58であるアセトン、または、m/z(質量/イオンの価数)の数値が60である酢酸が検出された場合
(ii)上記マススペクトルが300~500℃の温度範囲内で得られたものであり、該マススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が104であるスチレンが検出された場合
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法によれば、タイル含有構造体における吸水調整材の有無を判定(具体的には、吸水調整材の有無、その種類及び量)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】参考例1における熱重量-質量分析(TG-MS)の測定結果を示す図である。
図2】参考例1における熱重量-質量分析(TG-MS)によって得られた329℃及び477℃におけるマススペクトルを示す図である。
図3】参考例2における熱重量-質量分析(TG-MS)の測定結果を示す図である。
図4】参考例2における熱重量-質量分析(TG-MS)によって得られた392℃におけるマススペクトルを示す図である。
図5】実施例1における熱重量-質量分析(TG-MS)の測定結果を示す図である。
図6】実施例1における熱重量-質量分析(TG-MS)によって得られた347℃、405℃及び468℃におけるマススペクトルを示す図である。
図7】実施例2における熱重量-質量分析(TG-MS)の測定結果を示す図である。
図8】実施例2における熱重量-質量分析(TG-MS)によって得られた354℃、411℃及び466℃におけるマススペクトルを示す図である。
図9】実施例3における熱重量-質量分析(TG-MS)の測定結果を示す図である。
図10】実施例3における熱重量-質量分析(TG-MS)によって得られた353℃、408℃及び477℃におけるマススペクトルを示す図である。
図11】実施例4における熱重量-質量分析(TG-MS)の測定結果を示す図である。
図12】実施例5における熱重量-質量分析(TG-MS)の測定結果を示す図である。
図13】実施例6における熱重量-質量分析(TG-MS)の測定結果を示す図である。
図14】実施例4~6における熱重量-質量分析(TG-MS)によって得られた440℃におけるマススペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法は、タイルと、タイルを張付けるための面を有する被着体と、タイルと被着体の間に介在するモルタル硬化体を含むタイル含有構造体におけるタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法であって、モルタル硬化体の一部を試料として採取する試料採取工程と、試料の化学的な特徴を、熱重量-質量分析(TG-MS)を用いて把握する分析工程と、試料の化学的な特徴に基いて、タイル含有構造体における吸水調整材の有無を判定する判定工程、を含むものである。
ここで、タイルを張付けるための面を有する被着体とは、タイル含有構造体の本体部分であり、例えば、コンクリート等からなる躯体が挙げられる。
また、上記モルタル硬化体の例としては、被着体にタイルを張付ける前に、被着体のタイルを張付けるための面の凹凸を平滑にする目的で用いられるモルタル(以下、「下地調整モルタル」ともいう。)が硬化してなるものや、タイルを被着体に張付ける目的で用いられるモルタル(以下、「張付けモルタル」ともいう。)が硬化してなるものなどが挙げられる。
上記モルタル(下地調整モルタル、張付けモルタル等)を構成する材料としては、特に限定されるものではなく、工法に応じてその配合等を適宜定めればよい。
【0010】
タイル含有構造体は、例えば、被着体におけるタイルを張付けるための面に、下地調整モルタルからなる層を形成した後、該層の面に吸水調整材を塗布し、次いで、一方の面(被着体に張付けるための面)に張付けモルタルからなる層を予め形成させてなるタイルを、被着体に張付けることで製造することができる。
また、吸水調整材は、下地調整モルタルからなる層の面に塗布せずに、下地調整モルタルまたは張付けモルタルの製造時に、該モルタルの材料と一緒に混練してもよい。
【0011】
吸水調整材は、高分子を水に分散させてなるエマルジョンである。吸水調整材は、水分の移動を抑制して、ドライアウト現象を防ぐ目的で使用されるほか、タイルと被着体との接着性をより向上する目的でも(すなわち、接着増強材としても)使用される。
本発明において、吸水調整材の種類は、特に限定されるものではない。市販されている吸水調整材の例としては、高分子としてエチレン/酢酸ビニル共重合体を用いた吸水調整材(以下、「エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材」ともいう。)や、高分子としてアクリル/スチレン共重合体を用いた吸水調整材(以下、「アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材」ともいう。)等が挙げられる。吸水調整材中の高分子の含有率は、通常、40~50質量%である。
【0012】
以下、本発明のタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法について、工程ごとに詳しく説明する。
[試料採取工程]
本工程は、タイル含有構造体に含まれるモルタル硬化体の一部を試料として採取する工程である。
試料の採取方法は、分析工程(後述)において、試料の化学的な特徴を把握するために用いられる方法(具体的には、熱重量-質量分析(TG-MS))や、該方法において用いられる装置に応じて、適宜、定めればよい。
【0013】
[分析工程]
本工程は、試料採取工程で採取された試料の化学的な特徴を、熱重量-質量分析(TG-MS)を用いて把握する工程である。
試料の化学的な特徴の例としては、熱重量-質量分析(TG-MS)において得られる、マススペクトルで検出された成分のm/z(質量/イオンの価数)の数値;試料の初期の質量を0とする質量変化率を表す曲線(TG)における質量変化率の低減の程度;検出されたイオンの総量を表す曲線(TIC)におけるピークの発生及びその大きさ等が挙げられる。
中でも、モルタル硬化体中の吸水調整材の有無、種類及び量をより正確に把握することができる観点から、得られたマススペクトルで検出された成分のm/z(質量/イオンの価数)の数値が好ましい。
なお、マススペクトルは、熱分解した成分を検出する観点から、熱重量-質量分析(TG-MS)において、質量変化率の低減の程度が大きく、かつ、TIC(検出されたイオンの総量を表す曲線)においてピークが発生している温度範囲内の温度において得られることが好ましい。
また、マススペクトルとしては、後述の(ii)の条件を満たす場合のように、上記温度範囲内の一つの温度から得られた一つのマススペクトルを用いてもよく、後述の(i)の条件を満たす場合のように、上記温度範囲内の複数の温度から得られた複数のマススペクトルを用いてもよい。
マススペクトルを測定する温度範囲は、好ましくは200~600℃、より好ましくは250~550℃、特に好ましくは300~500℃である。上記温度範囲に亘って測定を行うことによって、後述の(i)の条件を満たす場合と、後述の(ii)の条件を満たす場合の両方について、吸水調整材の有無を確認することができる。
【0014】
[判定工程]
本工程は、分析工程で把握された試料の化学的な特徴に基いて、上記タイル含有構造体における吸水調整材の有無を判定する工程である。
本工程において、把握された試料の化学的な特徴に基いて、モルタル硬化体中の吸水調整材の有無、種類及び量を判定することができる。
具体的には、分析工程で把握された試料の化学的特徴が、下記(i)の条件を満たす場合、モルタル硬化体は、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材を含むものであると判定することができる。
(i)分析工程において得られたマススペクトルが、250~500℃(好ましくは300~480℃)の温度範囲内で得られたものであり、該マススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が58であるアセトンまたはm/z(質量/イオンの価数)の数値が60である酢酸が検出された場合
なお、得られたマススペクトルにおける、成分(アセトンまたは酢酸)の検出量が大きいほど、モルタル硬化体に含まれているエチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材の量が大きいと判定することができる。
【0015】
上記(i)の条件を満たす場合において、得られたマススペクトルにおける、アセトンと酢酸の検出量の比較から、モルタル硬化体中のエチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材の量を判定することができる。具体的には、アセトンの検出量に対して、酢酸の検出量が大きくなればなるほど、モルタル硬化体中のエチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材の量が大きいと判定することができる。
【0016】
分析工程で把握された試料の化学的特徴が、下記(ii)の条件を満たす場合、モルタル硬化体は、アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材を含むものであると判定することができる。
(ii)分析工程において得られたマススペクトルが、300~500℃(好ましくは350~480℃)の温度範囲内で得られたものであり、該マススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が104であるスチレンが検出された場合
なお、得られたマススペクトルにおける、スチレンの検出量が大きいほど、モルタル硬化体に含まれているアクリル/スチレン共重合体系吸水調整材の量が大きいと判定することができる。
【0017】
また、特定の成分が検出されたマススペクトルが得られた温度において、質量変化率の低減の程度が大きい場合や、TICにおけるピークが大きい場合、上記成分の量が大きいと判定することができる。
【0018】
本発明のタイル含有構造体における吸水調整材の有無の判定方法によれば、タイル構造体を製造する際に、吸水調整材が塗布されたか否かを判定することができ、また、塗布されていた場合、その種類及び量を判定することができる。
本発明の判定方法を行うことで、ビルの外壁等に張付けられたタイルの浮き上がりや剥落箇所において、吸水調整材の有無や量がその原因となっていないかを究明することができる。また、タイルの浮き上がりや剥落が起こっていない箇所であっても、本発明の有無の判定方法を行うことで、モルタル硬化体中の吸水調整材の有無、種類及び量を判定することで、今後のタイルの浮き上がりや剥落の可能性を推測することができる。
【実施例
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[参考例1]
白金製のパンに、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材(日本化成社製、商品名「NSハイフレックスHF-1000」)を、2mg程度滴下し、リガク社製の「Thermo Mass Photo」を用いて、熱重量-質量分析(TG-MS)を行った。
熱重量-質量分析(TG-MS)において、測定温度範囲は室温~600℃であり、昇温速度は20℃/分間であり、炉内雰囲気はヘリウムを300ml/分間の量で流通させることとした。また、イオン化法はEI法を用いた。さらに、検出するm/z(質量/イオンの価数)の範囲は10~410とした。
測定結果を図1~2に示す。
また、図2は、図1において質量が大きく減少し(質量変化率を表す曲線(TG)が大きく減少し)、かつ、TICにおいて山(ピーク)が現れた2か所(これらの箇所はイオンが発生したことを示している。)が含まれる温度範囲内(250~500℃)から得られた、329℃及び477℃におけるマススペクトルである。
その結果、329℃において得られたマススペクトルでは、m/z(質量/イオンの価数)の数値が60である成分(酢酸)が検出された。
該成分は、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材に含まれている酢酸ビニル基から熱分解によって脱離した酢酸と考えられる。
【0020】
[参考例2]
エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材の代わりに、アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材(旭化成社製、商品名「スーパーペトロック400」)を用いる以外は、参考例1と同様にして、熱重量-質量分析(TG-MS)を行った。
測定結果を図3~4に示す。
図4は、図3において質量が大きく減少し、かつ、TICにおいて山(ピーク)が現れた温度範囲内(300~450℃)から得られた、392℃におけるマススペクトルである。
その結果、392℃において得られたマススペクトルでは、m/z(質量/イオンの価数)の数値が104である成分(スチレン)が検出された。
該成分は、アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材の熱分解によって発生したスチレンと考えられる。
【0021】
[実施例1]
「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に記載された方法に準拠して、水とセメントの質量比(水/セメント)が0.5、細骨材とセメントの質量比(細骨材/セメント)が3であるモルタルを作製し、該モルタルが硬化してなる4×4×16cmのモルタル試験体を作製した。
得られたモルタル試験体の表面に、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材(日本化成社製、商品名「NSハイフレックスHF-1000」)を、原液で150g/mとなる量で塗布した。塗布後のモルタル試験体を約2年間、通常の室内環境において静置した。
静置後、モルタル試験体の、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材を塗布した面の表層をカッターナイフで削り取った。得られた粉末約20mgを試料として使用し、熱重量-質量分析(TG-MS)において、HOやCOを検出の対象としない目的で、検出するm/z(質量/イオンの価数)の範囲を50~410とする以外は参考例1と同様にして、熱重量-質量分析(TG-MS)を行った。
測定結果を図5~6に示す。
また、図6は、図5において質量が大きく減少し、かつ、TICにおいて山(ピーク)が現れた3か所が含まれる温度範囲内(250~500℃)から得られた、347℃、405℃及び468℃におけるマススペクトルである。
【0022】
[実施例2]
エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材の原液の代わりに、該原液と該原液の4倍の質量となる水を混合してなる5倍希釈液を用いる以外は実施例1と同様にして、モルタル試験体から得られた粉末について、熱重量-質量分析(TG-MS)を行った。
測定結果を図7~8に示す。
また、図8は、図7において質量が大きく減少し、かつ、TICにおいて山(ピーク)が現れた3か所が含まれる温度範囲内(250~500℃)から得られた、354℃、411℃及び465℃におけるマススペクトルである。
【0023】
[実施例3]
エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材の5倍希釈液の代わりに、該希釈液と該希釈液の4倍の質量となる水を混合してなる25倍希釈液を用いる以外は実施例2と同様にして、モルタル試験体から得られた粉末について、熱重量-質量分析(TG-MS)を行った。
測定結果を図9~10に示す。
また、図10は、図9において質量が大きく減少し、かつ、TICにおいて山(ピーク)が現れた3か所が含まれる温度範囲内(250~500℃)から得られた、353℃、408℃及び477℃におけるマススペクトルである。
【0024】
図6(実施例1:原液を使用したもの)、図8(実施例2:5倍希釈液を使用したもの)、図10(実施例3:25倍希釈液を使用したもの)から、実施例1~3において得られたマススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が58であるアセトンが検出されていることがわかる。
また、図6図8図10から、実施例1~3において得られたマススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が60である酢酸が検出されていることがわかる。
さらに、図6図8、及び図10の比較から、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材の量が大きくなるほど、マススペクトルにおいて、酢酸(m/z(質量/イオンの価数)の数値が60である成分)の検出量が大きくなることがわかる。
【0025】
また、参考例1で得られたマススペクトルと、実施例1~3で得られたマススペクトルを比較すると、参考例1では、m/z(質量/イオンの価数)の数値が58であるアセトンは検出されていないが、実施例1~3ではm/z(質量/イオンの価数)の数値が58であるアセトンが検出されていることがわかる。
これは、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材がモルタル硬化体に含まれていた(モルタル硬化体の表面に塗布されていた)場合に限って、アセトンが検出されることを意味している。
これらのことから、250~500℃の温度範囲内で得られたマススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が58であるアセトンまたはm/z(質量/イオンの価数)の数値が60である酢酸が検出された場合、モルタル硬化体において、エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材が含まれていることがわかる。
【0026】
[実施例4]
エチレン/酢酸ビニル共重合体系吸水調整材の代わりに、アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材(旭化成社製、商品名「スーパーペトロック400」)を用いる以外は、実施例1と同様にして、モルタル試験体から得られた粉末について、熱重量-質量分析(TG-MS)を行った。
測定結果を図11、14に示す。
また、図14は、図11において質量が大きく減少し、かつ、TICにおいて山(ピーク)が現れた1か所が含まれる温度範囲内(300~500℃)から得られた、440℃におけるマススペクトルである。
【0027】
[実施例5]
アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材の原液の代わりに、該原液と該原液の2倍の質量となる水を混合してなる3倍希釈液を用いる以外は実施例4と同様にして、モルタル試験体から得られた粉末について、熱重量-質量分析(TG-MS)を行った。
測定結果を図12、14に示す。
また、図14は、図12において質量が大きく減少し、かつ、TICにおいて山(ピーク)が現れた1か所が含まれる温度範囲内(300~500℃)から得られた、440℃におけるマススペクトルである。
【0028】
[実施例6]
アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材の3倍希釈液の代わりに、該希釈液と該希釈液の4倍の質量となる水を混合してなる15倍希釈液を用いる以外は実施例5と同様にして、モルタル試験体から得られた粉末について、熱重量-質量分析(TG-MS)を行った。
測定結果を図13~14に示す。
また、図14は、図12において質量が大きく減少し、かつ、TICにおいて山(ピーク)が現れた1か所が含まれる温度範囲内(300~500℃)から得られた、440℃におけるマススペクトルである。
【0029】
図14から、実施例4~6において得られたマススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が104であるスチレンが検出されていることがわかる。
これらのことから、300~500℃の温度範囲内で得られたマススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が104であるスチレンが検出された場合、モルタル硬化体において、アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材が含まれていることがわかる。
また、図14において、実施例4~6の比較から、アクリル/スチレン共重合体系吸水調整材の量が大きくなるほど、マススペクトルにおいて、m/z(質量/イオンの価数)の数値が104であるスチレンの検出量が大きくなることがわかる。
図1
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図14