(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】網膜変性疾患の処置のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20220502BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220502BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220502BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220502BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220502BHJP
A61K 38/46 20060101ALN20220502BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20220502BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20220502BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20220502BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20220502BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K35/76
A61P27/02
A61P9/10
A61P43/00 121
A61K38/46
C12N15/54 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N9/12
(21)【出願番号】P 2019529478
(86)(22)【出願日】2017-11-30
(86)【国際出願番号】 EP2017080956
(87)【国際公開番号】W WO2018100054
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-26
(32)【優先日】2016-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ルヴェラール,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ミレー-プエル,ジェラルディーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブアジジ,アレクサンドラ・リオ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】PLoS One,2011年,6(12):e28791,DOI: 10.1371/journal.pone.0028791
【文献】Cell,2015年,VOL. 161, ISSUE 4,p. 817-832,DOI:https://doi.org/10.1016/j.cell.2015.03.023
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PFKFB2キナーゼドメインをコードする
配列番号:2と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む、網膜変性疾患を処置するための医薬組成物。
【請求項2】
網膜変性疾患が、錐体ジストロフィーである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
網膜変性疾患が、網膜色素変性症(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、加齢黄斑変性症(AMD)、劣性RP、優性RP、X連鎖RP、不完全X連鎖RP、優性LCA、劣性運動失調、RPを伴う後柱、RPEの傍細動脈保存を伴う劣性RP、RP12、アッシャー症候群、感音難聴を伴う優性網膜色素変性症、劣性白点状網膜炎、劣性アルストレム症候群、劣性Bardet-Biedl症候群、黄斑ジストロフィー又は網膜変性を伴う優性脊髄小脳運動失調、劣性アベタリポプロテイン血症、黄斑変性を伴う劣性網膜色素変性症、成人型劣性Refsum病、幼児型劣性Refsum病、劣性S錐体増強症候群、精神遅滞を伴うRP、ミオパシーを伴うRP、劣性Newfoundland錐体桿体ジストロフィー、無色素性RetRP、セクターRP、地域性RP、Senior-Loken症候群、Joubert症候群、若年性Stargardt病、後期発症Stargardt病、優性Stargardt型黄斑ジストロフィー、優性Stargardt様黄斑ジストロフィー、劣性黄斑ジストロフィー、劣性黄色斑眼底、劣性錐体桿体ジストロフィー、X連鎖進行性錐体桿体ジストロフィー、優性錐体桿体ジストロフィー、錐体桿体ジストロフィー;de Grouchy症候群、優性錐体ジストロフィー、X連鎖錐体ジストロフィー、劣性錐体ジストロフィー、増強型桿体網膜電図を伴う劣性錐体ジストロフィー、X連鎖萎縮性黄斑ジストロフィー、X連鎖網膜分離症、優性黄斑ジストロフィー、優性放射状ジストロフィー、黄斑ドルーゼン、優性牛眼黄斑ジストロフィー、優性蝶型黄斑ジストロフィー、優性成人性卵黄様黄斑ジストロフィー、優性ノースカロライナ型黄斑ジストロフィー、優性網膜錐体ジストロフィー1、優性嚢胞様黄斑ジストロフィー、優性非定型卵黄様黄斑ジストロフィー、中心窩黄斑萎縮、優性Best卵黄様黄斑ジストロフィー、優性ノースカロライナ様進行性黄斑ジストロフィー、貧毛症を伴う劣性若年性黄斑ジストロフィー、劣性中心窩形成不全及び前眼部形成不全、劣性遅延型円錐順応、青色錐体単色性の黄斑ジストロフィー、II型糖尿病及び難聴を伴う黄斑パターンジストロフィー、神鳥斑点網膜、パターンジストロフィー、優性スティックラー症候群、優性マーシャル症候群、優性硝子体網膜変性症、優性家族性滲出性硝子体網膜症、優性硝子体網膜脈絡膜症;優性新生血管炎症性硝子体網膜症、ゴールドマン-ファブリー症候群、劣性色素沈着症、優性青色盲、劣性桿体全色覚異常、先天性赤色-緑色異常、緑色盲、赤色盲、緑色弱、赤色弱、劣性小口病、優性後期発症黄斑ジストロフィー、劣性脳回転状萎縮症、優性局所萎縮症、優性中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィー、X連鎖脈絡膜萎縮症、中心性輪紋状脈絡膜萎縮症、優性進行性二巣性脈絡網膜萎縮症、進行性二巣性脈絡網膜萎縮症、優性Doyne honeycomb網膜変性症(Malattia Leventinese)、遺伝性エナメル質形成不全症、劣性Bietti結晶性角膜ジストロフィー、Raynaud現象及び片頭痛を伴う優性遺伝性血管網膜症、優性Wagner病及びびらん性硝子体網膜症、劣性小眼球症及び網膜病症候群;劣性小眼球症、劣性遅延、痙縮及び網膜変性症、劣性Bothniaジストロフィー、劣性弾性繊維性仮性黄色腫、優性弾性繊維性仮性黄色腫;劣性若年性Batten病(セロイド-リポフスチン症)、優性Alagille症候群、McKusick-Kaufman症候群、低プレβリポタンパク質血症、有棘赤血球増加症、palladial変性症;劣性ハレルヴォーデン-スパッツ症候群;優性ソルスビー眼底ジストロフィー、オレゴン眼疾患、Kearns-Sayre症候群、発達及び神経学的異常を伴うRP、Basseb Korenzweig症候群、Hurler病、Sanfilippo病、Scieie病、メラノーマ関連網膜症、Sheen網膜ジストロフィー、Duchenne黄斑ジストロフィー、Becker黄斑ジストロフィー、Birdshot網膜脈絡膜症、多発性エバネッセント白点症候群、急性帯状潜在性外側網膜症、網膜静脈閉塞、網膜動脈閉塞、糖尿病性網膜症、網膜毒性、網膜傷害、網膜外傷及び網膜レーザ傷害並びに白点状眼底、網膜剥離、糖尿病性網膜症並びに未熟児の網膜症からなる群より選択される、請求項1記載の
医薬組成物。
【請求項4】
網膜変性疾患が、網膜色素変性症である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
ポリヌクレオチドが、配列番号:3の核酸配列又はそのコドン最適化配列を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
ポリヌクレオチドが、配列番号:3と少なくとも50%の同一性を有する核酸配列を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
ポリヌクレオチドが
、ベクターに含まれている、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
ベクターが、AV
Vである、請求項
7記載の医薬組成物。
【請求項9】
AAVが、AAV2/5及びAAV2/8である、請求項
8記載の医薬組成物。
【請求項10】
ベクターが、発現制御配列の一部としてプロモーター配列を含む、請求項
7記載の医薬組成物。
【請求項11】
プロモーターが、錐体における発現に特異的である、請求項
10記載の医薬組成物。
【請求項12】
ポリヌクレオチドが
、眼に送達される、請求項
11記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、網膜変性疾患の処置のための方法及び医薬組成物に関する。
【0002】
発明の背景
チオールオキシドレダクターゼ活性を欠くトランケートチオレドキシン様タンパク質であるRdCVFは、ニワトリ胚からの錐体豊富培養物でのマウス網膜cDNAライブラリーのハイコンテントスクリーニングにより特定された(Leveillard et al., 2004)。RdCVFは、ヌクレオレドキシン様1(Nxnl1)遺伝子の選択的スプライス変異体であり、他のスプライス産物は、RdCVFLである。RdCVFLは、その結合パートナーである微小管関連タンパク質TAUを酸化及び凝集から保護する活性チオレドキシンである(Elachouri et al., 2015及びFridlich et al., 2009)。RdCVFは、RPの幾つかの遺伝的に異なるモデルにおいて錐体機能を保護し、その処置不可能な疾患における最も衰弱させる工程を標的とするが、RdCVFLにはない(Byrne et al., 2015、Leveillard et al., 2004及びYang et al., 2009)。網膜色素変性症(RP)における錐体の二次的損失により盲目がもたらされるため、RdCVFの投与は、この処置不可能な網膜変性疾患の有望な治療法である。近年、RPにおけるRdCVFの保護的役割の根底にあるメカニズムが調査された。RdCVFは、光レセプターにより特異的に発現される膜貫通タンパク質であるBasigin-1(BSG1)への結合を介して作用する。BSG1は、グルコーストランスポーターGLUT1に結合し、錐体へのグルコースの進入を増加させる(Ait-Ali et al. 2015)。このため、前記メカニズムの残りの重要なアクターの特定により、網膜変性疾患の新たな治療概念がもたらされるであろう。
【0003】
発明の概要
本発明は、網膜変性疾患の治療のための方法及び医薬組成物に関する。特に、本発明は、特許請求の範囲により規定される。
【0004】
発明の詳細な説明
本発明者らは、RdCVF:6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ2(PFKFB2)の保護的役割の根底にあるメカニズムの新たな重要なアクターを特定した。この特定により、網膜変性疾患の処置のための新たな戦略の道が開かれる。
【0005】
したがって、本発明は、治療上有効量のPFKFB2キナーゼドメインをコードするポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、網膜変性疾患の処置を必要とする対象における網膜変性疾患を処置する方法に関する。
【0006】
本明細書で使用する場合、「処置」又は「処置する」という用語は、予防的(prophylactic)又は予防的(preventive)処置と、治療的又は疾患修飾処置との両方を指し、疾患に罹患する危険性がある患者又は疾患に罹患したと疑われる患者及び疾患もしくは医学的状態に罹患している患者又は疾患もしくは医学的状態に罹患していると診断された患者の処置を含み、臨床的再発の抑制を含む。処置は、障害又は再発性障害の1つ以上の症状を予防し、治癒し、これらの発症を遅延させ、これらの重症度を低下させもしくは改善するため又はこのような処置の非存在下で予想されるものを超えて対象の生存を延長するために、医学的障害を有するか又は最終的に障害を獲得するおそれがある対象に施すことができる。「治療レジメン」は、疾患の処置パターン、例えば、治療中に使用される投与パターンを意味する。治療レジメンは、導入レジメン及び維持レジメンを含むことができる。「誘導レジメン」又は「誘導期間」という表現は、疾患の初期処置に使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの初期期間中に患者に高レベルの薬剤を提供することである。導入レジメンは、(部分的又は全体的に)「ローディングレジメン」を利用することができ、ローディングレジメンは、医師が維持レジメンの間に使用するよりも多い用量の薬剤を投与すること、医師が維持レジメンの間に利用するであろうより高用量の薬剤を投与すること、医師が維持レジメンの間に薬剤を投与するであろうより頻繁に薬剤を投与すること又はそれらの両方を含むことができる。「維持レジメン」又は「維持期間」という表現は、疾患の処置中に患者を維持するために、例えば、患者を長期間(数か月又は数年)寛解状態に維持するために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続療法(例えば、定期的な間隔(例えば、毎週、毎月、毎年等)で薬剤を投与すること)又は間欠療法(例えば、中断処置、間欠処置、再発時の処置又は特定の所定の基準[例えば、疾患症状等]の達成時の処置)を利用することができる。
【0007】
本明細書で使用する場合、「網膜変性疾患」という用語は、錐体変性に関連する全ての網膜疾患を包含する。このため、本発明の方法は、錐体変性を予防するのに特に適している。特に、網膜変性疾患は、錐体ジストロフィーである。本明細書で使用する場合、「錐体ジストロフィー」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、錐体細胞の喪失により特徴付けられる眼障害を指し、光レセプターは、中心視覚及び色覚の両方を担っている。錐体ジストロフィーの最も一般的な症状は、視力喪失(発症年齢は、10代後半~60代の範囲である)、明るい光に対する感受性及び色覚不良である。このため、本発明は、網膜変性疾患に罹患している患者の視力喪失を予防するのに適している。網膜変性疾患の特定の例は、網膜色素変性症(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、加齢黄斑変性症(AMD)、劣性RP、優性RP、X連鎖RP、不完全X連鎖RP、優性LCA、劣性運動失調、RPを伴う後柱、RPEの傍細動脈保存を伴う劣性RP、RP12、アッシャー症候群、感音難聴を伴う優性網膜色素変性症、劣性白点状網膜炎、劣性アルストレム症候群、劣性Bardet-Biedl症候群、黄斑ジストロフィー又は網膜変性を伴う優性脊髄小脳運動失調、劣性アベタリポタンパク質血症、黄斑変性を伴う劣性網膜色素変性症、成人型劣性Refsum病、幼児型劣性Refsum病、劣性S錐体増強症候群、精神遅滞を伴うRP、ミオパシーを伴うRP、劣性Newfoundland錐体桿体ジストロフィー、無色素性RetRP、セクターRP、地域性RP、Senior-Loken症候群、Joubert症候群、若年性Stargardt病、後期発症Stargardt病、優性Stargardt型黄斑ジストロフィー、優性Stargardt様黄斑ジストロフィー、劣性黄斑ジストロフィー、劣性黄色斑眼底、劣性錐体桿体ジストロフィー、X連鎖進行性錐体桿体ジストロフィー、優性錐体桿体ジストロフィー、錐体桿体ジストロフィー;de Grouchy症候群、優性錐体ジストロフィー、X連鎖錐体ジストロフィー、劣性錐体ジストロフィー、増強型桿体網膜電図を伴う劣性錐体ジストロフィー、X連鎖萎縮性黄斑ジストロフィー、X連鎖網膜分離症、優性黄斑ジストロフィー、優性放射状ジストロフィー、黄斑ドルーゼン、優性牛眼黄斑ジストロフィー、優性蝶型黄斑ジストロフィー、優性成人性卵黄様黄斑ジストロフィー、優性ノースカロライナ型黄斑ジストロフィー、優性網膜錐体ジストロフィー1、優性嚢胞様黄斑ジストロフィー、優性非定型卵黄様黄斑ジストロフィー、中心窩黄斑萎縮、優性Best卵黄様黄斑ジストロフィー、優性ノースカロライナ様進行性黄斑ジストロフィー、貧毛症を伴う劣性若年性黄斑ジストロフィー、劣性中心窩形成不全及び前眼部形成不全、劣性遅延型円錐順応、青色錐体単色性の黄斑ジストロフィー、II型糖尿病及び難聴を伴う黄斑パターンジストロフィー、神鳥斑点網膜、パターンジストロフィー、優性スティックラー症候群、優性マーシャル症候群、優性硝子体網膜変性症、優性家族性滲出性硝子体網膜症、優性硝子体網膜脈絡膜症;優性新生血管炎症性硝子体網膜症、ゴールドマン-ファブリー症候群、劣性色素沈着症、優性青色盲、劣性桿体全色覚異常、先天性赤色-緑色異常、緑色盲、赤色盲、緑色弱、赤色弱、劣性小口病、優性後期発症黄斑ジストロフィー、劣性脳回転状萎縮症、優性局所萎縮症、優性中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィー、X連鎖脈絡膜萎縮症、中心性輪紋状脈絡膜萎縮症、優性進行性二巣性脈絡網膜萎縮症、進行性二巣性脈絡網膜萎縮症、優性Doyne honeycomb網膜変性症(Malattia Leventinese)、遺伝性エナメル質形成不全症、劣性Bietti結晶性角膜ジストロフィー、Raynaud現象及び片頭痛を伴う優性遺伝性血管網膜症、優性Wagner病及びびらん性硝子体網膜症、劣性小眼球症及び網膜病症候群;劣性小眼球症、劣性遅延、痙縮及び網膜変性症、劣性Bothniaジストロフィー、劣性弾性繊維性仮性黄色腫、優性弾性繊維性仮性黄色腫;劣性若年性Batten病(セロイド-リポフスチン症)、優性Alagille症候群、McKusick-Kaufman症候群、低プレβリポタンパク質血症、有棘赤血球増加症、palladial変性症;劣性ハレルヴォーデン-スパッツ症候群;優性ソルスビー眼底ジストロフィー、オレゴン眼疾患、Kearns-Sayre症候群、発達及び神経学的異常を伴うRP、Basseb Korenzweig症候群、Hurler病、Sanfilippo病、Scieie病、メラノーマ関連網膜症、Sheen網膜ジストロフィー、Duchenne黄斑ジストロフィー、Becker黄斑ジストロフィー、Birdshot網膜脈絡膜症、多発性エバネッセント白点症候群、急性帯状潜在性外側網膜症、網膜静脈閉塞、網膜動脈閉塞、糖尿病性網膜症、網膜毒性、網膜傷害、網膜外傷及び網膜レーザ傷害並びに白点状眼底、網膜剥離、糖尿病性網膜症、未熟児の網膜症を含む。
【0008】
本明細書で使用する場合、「PFKFB2」という用語は、当技術分野におけるその一般的意味を有し、PFKFB2遺伝子(遺伝子ID:5208)によりコードされる6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビホスファターゼ2を指す。PFKFB2は、真核生物における解糖を制御するレギュラトリー分子であるフルクトース-2,6-ビスホスファートの合成と分解との両方に関与し、フルクトース-2,6-ビスホスファートの合成を触媒する6-ホスホフルクト-2-キナーゼ活性と、フルクトース-2,6-ビスホスファートの分解を触媒するフルクトース-2,6-ビスホスファターゼ活性とを有する。PFKFB2の例示的なアミノ酸配列は、NCBIアクセッションナンバーNP_006203.2で報告されており、配列番号:1により表される。
【0009】
【0010】
本明細書で使用する場合、「PFKFB2キナーゼドメイン」という用語は、PFKFB2のキナーゼ活性を担うドメインを指す。典型的には、前記ドメインは、配列番号:1における1位のアミノ酸残基から247位のアミノ酸残基に対応し、配列番号:2により表される(
図1を参照のこと)。
【0011】
【0012】
一部の実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする。
【0013】
本発明によれば、第1のアミノ酸配列が第2のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するということは、第1の配列が第2のアミノ酸配列と80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の同一性を有することを意味する。配列同一性は、多くの場合、%同一性(又は類似性もしくは相同性)に関して測定され、%が高いほど、2つの配列はより類似している。比較のための配列のアラインメント法は、当技術分野で周知である。種々のプログラム及びアラインメントアルゴリズムが、以下:Smith and Waterman, Adv. Appl. Math., 2:482, 1981;Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol., 48:443, 1970;Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85:2444, 1988;Higgins and Sharp, Gene, 73:237-244, 1988;Higgins and Sharp, CABIOS, 5:151-153, 1989;Corpet et al. Nuc. Acids Res., 16:10881-10890, 1988;Huang et al., Comp. Appls Biosci., 8:155-165, 1992;及びPearson et al., Meth. Mol. Biol., 24:307-31, 1994に記載されている。Altschul et al., Nat. Genet., 6:119-129, 1994には、配列アラインメント法及び相同性計算の詳細な考察が提示されている。例として、アラインメントツールALIGN(Myers and Miller, CABIOS 4:11-17, 1989)又はLFASTA(Pearson and Lipman, 1988)を使用して、配列比較を行うことができる(Internet Program(登録商標) 1996, W. R. Pearson and the University of Virginia, fasta20u63 version 2.0u63, release date December 1996)。ALIGNでは、配列全体を互いに比較し、一方、LFASTAでは、局所類似性の領域を比較する。これらのアラインメントツール及びそれぞれのチュートリアルは、例えば、NCSAウェブサイトにおいてインターネット上で利用可能である。代替的に、約30個のアミノ酸を超えるアミノ酸配列の比較のために、デフォルトパラメーター(11のギャップ存在コスト及び1の残基あたりのギャップコスト)に設定されたデフォルトBLOSUM62マトリックスを使用して、Blast 2配列関数を利用することができる。短いペプチド(約30個のアミノ酸未満)をアライメントさせる場合、アラインメントは、デフォルトパラメーター(開始ギャップ9、伸長ギャップ1ペナルティ)に設定されたPAM30マトリックスを利用するBlast 2配列機能を使用して行うべきである。BLAST配列比較システムは、例えば、NCBIウェブサイトから入手可能である。Altschul et al., J. Mol. Biol., 215:403-410, 1990;Gish. & States, Nature Genet., 3:266-272, 1993;Madden et al. Meth. Enzymol., 266:131-141, 1996;Altschul et al., Nucleic Acids Res., 25:3389-3402, 1997;及びZhang & Madden, Genome Res., 7:649-656, 1997も参照のこと。
【0014】
一部の実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:1と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列(すなわち、配列番号:1と70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の同一性を有する配列)をコードする。
【0015】
本明細書で使用する場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、当技術分野においてその一般的な意味を有し、DNA又はRNA分子を指す。ただし、この用語は、DNA及びRNAの公知の塩基類似体、例えば、限定されないが、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチル-アミノメチルルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノ-メチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルキューオシン、5’-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン及び2,6-ジアミノプリンのいずれかを含む配列を捕捉する。
【0016】
一部の実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:3(
図1)の核酸配列又はそのコドン最適化配列を含む。本明細書で使用する場合、「コドン最適化」という用語は、ヒトに対する偏りを発現するコドン(すなわち、ヒト遺伝子では一般的であるが、他のほ乳類遺伝子又は非ほ乳類遺伝子では一般的ではない)が、ヒトに対する偏りを発現しない同義コドン(同じアミノ酸をコードするコドン)に変化させることを意味する。このため、コドンの変化は、コードされたタンパク質におけるアミノ酸の変化をもたらさない。一部の実施態様では、ポリヌクレオチドは,配列番号:3と少なくとも50%の同一性を有する核酸配列(すなわち、配列番号:3と50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の同一性を有する配列を含む。
【0017】
【0018】
一部の実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、適切なベクターに含まれる。
【0019】
本明細書で使用する場合、「ベクター」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、外因性又は異種もしくは操作された核酸導入遺伝子を挿入することができる核酸分子を指す。ベクターは、好ましくは、1つ以上の複製起点及びリコンビナントDNAを挿入することができる1つ以上の部位を有する。一般的なベクターは、プラスミド、ウイルスゲノム及び(主に酵母及び細菌において)「人工染色体」を含む。「ウイルスベクター」は、外因性又は異種核酸導入遺伝子を含有する複製欠損ウイルスと定義される。とりわけ、ベクターは、ウイルスベクターである。本明細書で使用する場合、「ウイルスベクター」という用語は、目的の遺伝子を含有する発現カセットがウイルスカプシド又はエンベロープ中にパッケージされている合成又はリコンビナントウイルス粒子を指し、ここで、ウイルスカプシド又はエンベロープ内にパッケージされるウイルスゲノム配列はいずれも複製欠損性である。すなわち、それらは、子孫ビリオンを生成することができないが、ターゲット細胞に感染する能力を保持している。一部の実施態様では、ウイルスベクターのゲノムは、複製に必要な酵素をコードする遺伝子を含まない(人工ゲノムの増幅及びパッケージングに必要なシグナルに隣接する目的の導入遺伝子のみを含有する「ガットレス」であるように、ゲノムを操作することができる)が、これらの遺伝子は製造の間に供給することができる。
【0020】
一部の実施態様では、ウイルスベクターは、AAVである。本明細書で使用する場合、「AAV」という用語は、30を超える天然かつ利用可能なアデノ関連ウイルス及び人工AAVを指す。典型的には、本明細書に記載されたAAVカプシド、ITR及び他の選択されたAAVコンポーネントは、任意のAAV(AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、rh10、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8、rh.10、公知もしくは言及されたAAVのいずれかの変異体又は未だに発見されていないAAVもしくはその変異体もしくは混合物を含むが、これらに限定されない)の中から容易に選択することができる。例えば、WO第2005/033321号を参照のこと。ITR又は他のAAVコンポーネントは、当業者に利用可能な技術を使用してAAVから容易に単離し又は操作することができる。このようなAAVを、単離し、操作し又は学術、商業もしくは公衆ソース(例えば、American Type Culture Collection, Manassas, VA)から入手することができる。代替的に、AAV配列を文献又はデータベース、例えば、GenBank、PubMed等において利用可能な公開された配列を参照にして、合成又は他の適切な手段により操作することができる。AAVウイルスは、従来の分子生物学技術により操作することができ、同技術により、核酸配列の細胞特異的送達のために、免疫原性を最小限にするため、安定性及び粒子寿命を調整するため、効率的な分解のため、核への正確な送達のため等のために、これらの粒子を最適化することが可能となる。本明細書で使用する場合、「人工AAV」は、天然に存在しないカプシドタンパク質を有するAAVを意味するが、これに限定されない。このような人工カプシドは、選択されたAAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質のフラグメント)を、異なる選択されたAAV、同じAAVの非連続部分、非AAVウイルスソース又は非ウイルスソースから得ることができる異種配列と組み合わせて使用して、任意の適切な技術により生成することができる。人工AAVは、シュードタイプAAV、キメラAAVカプシド、リコンビナントAAVカプシド又は「ヒト化」AAVカプシドであることができるが、これらに限定されない。1つのAAVのカプシドが異種カプシドタンパク質により置き換えられているシュードタイプベクターが、本発明に有用である。一部の実施態様では、AAVは、AAV2/5及びAAV2/8である。対象への送達に適したAAVウイルスベクターを生成し、単離するための方法は、当技術分野において公知である。例えば、米国特許第7790449号;同第7282199号;WO第2003/042397号;同第2005/033321号、同第2006/110689号及び米国特許第7588772号を参照のこと。1つの系において、プロデューサー細胞系統は、ITRに隣接する導入遺伝子をコードする構築物並びにrep及びcapをコードする構築物により一時的にトランスフェクションされる。第2の系において、rep及びcapを安定的に供給するパッケージング細胞系統は、ITRに隣接する導入遺伝子をコードする構築物により一過性にトランスフェクションされる。これらの系それぞれにおいて、AAVビリオンは、ヘルパーアデノウイルス又はヘルペスウイルスによる感染に応答して産生され、汚染ウイルスからのrAAVの分離を必要とする。より最近では、AAVを回復させるためにヘルパーウイルスによる感染を必要としない系が開発されており、必要とされるヘルパー機能(すなわち、アデノウイルスE1、E2a、VA及びE4又はヘルペスウイルスUL5、UL8、UL52及びUL29並びにヘルペスウイルスポリメラーゼ)も、この系によりin transで供給される。これらのより新しい系において、ヘルパー機能は、必要とされるヘルパー機能をコードする構築物による細胞の一過性トランスフェクションにより供給することができ又は細胞は、ヘルパー機能をコードする遺伝子を安定的に含有するように操作することができ、その発現を転写レベル又は転写後レベルで制御することができる。更に別の系において、ITRに隣接する導入遺伝子及びrep/cap遺伝子は、バキュロウイルス系ベクターによる感染により昆虫細胞に導入される。これらの生産系のレビューについては、一般的には、例えば、Zhang et al., 2009, 「Adenovirus-adeno-associated virus hybrid for large-scale recombinant adeno-associated virus production,」 Human Gene Therapy 20:922-929を参照のこと。同文献それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。これらの及び他のAAV生産系を製造する方法及び使用する方法は、下記米国特許第5,139,941号;同第5,741,683号;同第6,057,152号;同第6,204,059号;同第6,268,213号;同第6,491,907号;同第6,660,514号;同第6,951,753号;同第7,094,604号;同第7,172,893号;同第7,201,898号;同第7,229,823号;及び同第7,439,065号にも記載されており、これらの文献それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。一般的には、例えば、Grieger & Samulski, 2005, 「Adeno-associated virus as a gene therapy vector: Vector development, production and clinical applications,」 Adv. Biochem. Engin/Biotechnol. 99: 119-145;Buning et al., 2008, 「Recent developments in adeno-associated virus vector technology,」 J. Gene Med. 10:717-733及び以下で引用される参考文献を参照のこと。同文献はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0021】
一部の実施態様では、本発明のベクターは、発現制御配列の一部としてプロモーター配列を含む。一部の実施態様では、適切なプロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーエレメントを有するハイブリッドニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーターである。更に他の適切なプロモーターは、CB7プロモーター、例えば、ウイルスプロモーター、構成的プロモーター、レギュレーション可能なプロモーターでもあり[例えば、WO第2011/126808号及び同第2013/04943号を参照のこと]又は生理学的キューに応答するプロモーターを、ベクターに使用することができる。一部の実施態様では、プロモーターは、細胞特異的である。「細胞特異的」という用語は、リコンビナントベクターに選択される特定のプロモーターが特定の細胞における本発明のポリヌクレオチドの発現を指示することができることを意味する。一部の実施態様では、プロモーターは、光レセプター細胞におけるポリヌクレオチドの発現に特異的である。一部の実施態様では、プロモーターは、錐体における発現に特異的である。例示的なプロモーターは、ヒトGプロテイン共役レセプタータンパク質キナーゼ1(GRK1)プロモーター(GenbankアクセッションナンバーAY327580)であることができる。一部の実施態様では、プロモーターは、GRK1プロモーターの292ntフラグメント(1793~2087位)である(Beltran et al, Gene Therapy 2010 17:1162-74を参照のこと。同文献は、参照のより本明細書に組み入れられる)。一部の実施態様では、プロモーターは、ヒト光レセプター間レチノイド結合タンパク質近位(IRBP)プロモーターである。一部の実施態様では、プロモーターは、hIRBPプロモーターの235ntフラグメントである。一部の実施態様では、プロモーターは、RPGR近位プロモーターである(Shu et al, IOVS, May 2102、同文献は、参照のより本明細書に組み入れられる)。本発明に有用な他のプロモーターは、ロッドオプシンプロモーター、赤色-緑色オプシンプロモーター、青色オプシンプロモーター、cGMP-β-ホスホジエステラーゼプロモーター、マウスオプシンプロモーター(上記引用されたBeltran et al 2010)、ロドプシンプロモーター(Mussolino et al, Gene Ther, July 2011, 18(7):637-45);錐体トランスデューシンのアルファサブユニット(Morrissey et al, BMC Dev, Biol, Jan 2011, 11:3);ベータホスホジエステラーゼ(PDE)プロモーター;網膜色素変性症(RP1)プロモーター(Nicord et al, J. Gene Med, Dec 2007, 9(12):1015-23);NXNL2/NXNL1プロモーター(Lambard et al, PLoS One, Oct. 2010, 5(10):e13025)、網膜変性遅延/ペリフェリン2(Rds/perph2)プロモーター(Cai et al, Exp Eye Res. 2010 Aug;91(2):186-94);及びVMD2プロモーター(Kachi et al, Human Gene Therapy, 2009 (20:31-9))を含むが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書で使用する場合、「投与すること」という用語は、ポリヌクレオチドをターゲット選択細胞、特に、錐体に送達することを意味する。典型的な投与経路は、典型的には、全身経路、例えば、動脈内、眼内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内及び他の非経口投与経路を含む。場合により眼への送達、網膜内注射、硝子体内、局所を介する眼への直接送達は、網膜変性疾患の処置に特に興味深い。必要に応じて、投与経路を組み合わせることができる。一部の実施態様では、投与は、定期的に繰り返される。本発明のポリヌクレオチドは、単一の組成物又は複数の組成物で送達することができる。場合により、2つ以上の異なるAAV又は複数のウイルスを送達することができる[例えば、WO第2011/126808号及び同第2013/049493号を参照のこと]。一部の実施態様では、複数のウイルスは、単独で又はタンパク質と組み合わせて、異なる複製欠損ウイルス(例えば、AAV及びアデノウイルス)を含有することができる。
【0023】
「治療上有効量」とは、任意の医学的処置に適用可能な妥当な利益/リスク比での網膜変性疾患の処置に十分な量の本発明のポリヌクレオチドを意味する。本発明の化合物及び組成物の1日の総使用量は、正常な医学的判断の範囲内で、主治医により決定されるであろうことが理解されるであろう。任意の特定の対象についての特定の治療上有効用量レベルは、対象の年齢、体重、全身健康、性別及び食事;利用される特定の化合物の投与時間、投与経路及び排泄速度;処置の期間;利用される特定のポリペプチドと組み合わせて又は同時に使用される薬剤;並びに医療分野で周知の同様の要因を含む各種の要因により決まる。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされるレベルより低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加させることは、当業者の範囲内で周知である。ただし、製品の1日用量は、1日あたり成人あたりに、0.01~1,000mgの広い範囲にわたって変化させることができる。好ましくは、組成物は、処置される対象への投与量の症候的調節のために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mg 有効成分を含有する。医薬は、典型的には、約0.01mg~約500mg 有効成分、好ましくは、1mg~約100mg 有効成分を含有する。有効量の薬剤は、通常、0.0002mg/kg~約20mg/kg 体重/日、特に、約0.001mg/kg~7mg/kg 体重/日の用量レベルで供給される。
【0024】
本発明によれば、ウイルスベクターに典型的に挿入された本発明のポリヌクレオチドは、医薬組成物の形態で対象に投与される。典型的には、本発明のポリヌクレオチドは、薬学的に許容し得る賦形剤及び場合により徐放性マトリックス、例えば、生分解性ポリマーと組み合わせて、医薬組成物を形成することができる。「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」は、ほ乳類、特に、ヒトに適切に投与された場合に、有害な、アレルギー性又は他の不都合な反応を生じない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤は、非毒性固体、半固体又は液体充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は任意の種類の配合助剤を指す。経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与のための本発明の医薬組成物において、有効成分は、単独で又は別の有効成分と組み合わせて、単位剤形で、従来の医薬支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。適切な単位剤形は、経口経路形態、例えば、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤及び経口懸濁剤又は溶剤、舌下及び頬側剤形、エアロゾル剤、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、髄腔内及び鼻腔内剤形並びに直腸剤形を含む。典型的には、医薬組成物は、注射可能な製剤に薬学的に許容し得る媒体を含有する。これらは、特に、等張性で無菌の生理食塩水溶液(リン酸一ナトリウム又はリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウムもしくはマグネシウム等又はこのような塩の混合物)又は乾燥、特に、凍結乾燥組成物であることができる。同組成物は、場合に応じて、滅菌水又は生理食塩水の添加により、注射可能な溶液の構成を可能にする。注射液用途に適した薬学的形態は、滅菌水溶液又は分散剤;ゴマ油、ピーナツ油又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌の注射可能な溶液又は懸濁剤の即時調製のための無菌散剤を含む。全ての場合に、剤形は滅菌され、容易に注入できる程度の液状でなければならない。剤形は、製造及び貯蔵の条件下で安定でなければならず、微生物、例えば、細菌及び真菌の汚染作用に対して保持されなければならない。遊離塩基又は薬理学的に許容し得る塩として本発明の化合物を含む溶液は、界面活性剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースと適切に混合された水中で調製することができる。分散剤は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール及びそれらの混合物中並びに油中で調製することもできる。貯蔵及び使用の通常の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐために保存剤を含有する。本発明のポリヌクレオチドは、中性又は塩の形態にある組成物に製剤化することができる。薬学的に許容し得る塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)を含む、これは、無機酸、例えば、塩酸もしくはリン酸又は有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等と形成される。また、遊離のカルボキシル基と形成される塩も、無機塩基、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は第二鉄の水酸化物等及び有機塩基、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等から得ることができる。また、担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)、それらの適切な混合物及び植物油を含有する溶媒又は分散媒体であることもできる。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持により及び界面活性剤の使用により維持することができる。種々の抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサル等により、微生物の作用を防止することができる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖又は塩化ナトリウムを含むのが好ましいであろう。吸収を遅延させる作用剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中で使用することにより、注射用組成物を長期に吸収させることができる。無菌注射用溶液は、必要な量の活性化合物を、必要に応じて、上記列挙された他の成分のいくつかと共に適切な溶媒中に包含させ、続けて、ろ過滅菌することにより調製される。一般的には、分散剤は、基本的な分散媒体及び上記列挙されたものからの必要とされる他の成分を含有する無菌媒体に種々の滅菌された有効成分を包含させることにより調製される。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合、典型的な調製方法は、予め滅菌ろ過されたその溶液から有効成分と任意の追加の所望の成分との粉末を生じる真空乾燥及び凍結乾燥技術である。また、直接注射のためのより多くの又は高度に濃縮された溶液の調製も企図され、ここで、溶媒としてのDMSOの使用により、非常に迅速な浸透がもたらされ、高濃度の活性薬剤が小さな腫瘍領域に送達されることが想定される。処方に基づいて、液剤は、投与処方に適合した様式でかつ治療上有効であるような量で投与されるであろう。製剤は、各種の剤形、例えば、上記された注射用溶液のタイプで容易に投与されるが、薬剤放出カプセル等も利用することができる。水溶液での非経口投与のために、例えば、液剤は、必要に応じて、適当に緩衝されるべきであり、まず、液体希釈剤を、十分な生理食塩水又はグルコースにより等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適している。この関係で、利用することができる無菌の水性媒体は、本開示を考慮して、当業者に公知であろう。処置される対象の状態に応じて、ある程度の用量のばらつきが必然的に生じるであろう。いずれにしても、投与責任者は、個々の対象に適した用量を決定するであろう。
【0025】
本発明を、下記図面及び実施例により更に例証するものとする。ただし、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を限定するものと何ら解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1:PFKFB2キナーゼドメインの配列。
【
図2】
図2:PFKFB2は、錐体により、桿体依存的に発現される。A.ウエスタンブロッティングによる野生型マウスの心臓、脳及び網膜におけるPFKFB2の発現。B.ウエスタンブロッティングによる出生後21日目及び35日目の野生型及びrd1網膜におけるPFKFB2の示差的発現。C.シグナルの定量。D.マイクロアレイ分析による野生型及びrd1におけるRhoの発現。出生後21日目までに、大部分の桿体が変性してしまう。
【
図3】
図3:A.Pfkfb2の発現は、ニワトリ胚由来の錐体豊富培養物中において、グルコースにより誘引される。B.マウスPfkfb2 cDNAプラスミドのエレクトロポレーションにより、ニワトリ胚由来の錐体豊富培養物における錐体生存が増加する。
【0027】
実施例
従来技術では、PFKFB2は、主に心臓で発現されると記載されている。しかしながら、本発明者らは、予想外にも、このタンパク質が心臓と比較して網膜において多量に発現されることを示した(
図2A)。更に、本発明者らは、PFKFB2が錐体により、桿体依存的に発現されることを示した。特に、本発明者らは、その発現が錐体の生存能力に従うことを示した(
図2B~D):その発現は、色素変性網膜炎の動物モデル(rd1マウス)において35日目に失われる。PFKFB2の発現は、グルコースにより誘引され(
図3A)、本発明者らは、このタンパク質、特に、そのキナーゼドメインがRdCVFの作用メカニズムに関与するという証拠を蓄積している。とりわけ、本発明者らは、PFKFB2をコードするポリヌクレオチドの形質導入により、錐体生存が増加することを示した(
図3A)。本発明者らは、現在、PFKFB2キナーゼドメインをコードするポリヌクレオチドを含むAAV(AAV2.8)ベクターを使用するrd1動物モデルにおける実験を行っている。
【0028】
参考文献
この出願全体を通して、種々の参考文献に、本発明が属する技術水準が記載されている。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【表1】
【配列表】