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特許7065854ミトコンドリア機能障害に関連する疾患を治療するための化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能障害に関連する疾患を治療するための化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20220502BHJP
   A23L 33/13 20160101ALI20220502BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20220502BHJP
   A61K 31/7115 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
A61K31/519
A23L33/13
A61K31/7068
A61K31/7115
A61P25/16
A61P43/00 105
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019532202
(86)(22)【出願日】2017-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 EP2017071812
(87)【国際公開番号】W WO2018041919
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-24
(31)【優先権主張番号】16306094.0
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519067736
【氏名又は名称】エーエムエーバイオティクス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ダンシャン, アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】セコウスカ, アグニェシカ
(72)【発明者】
【氏名】ギャルニエ, パトリス
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-506426(JP,A)
【文献】特開昭59-036615(JP,A)
【文献】Cancer Biology & Therapy,2008年,Vol.7, No.1,pp.85-91
【文献】Biosci. Rep.,2008年,Vol.28,pp.73-81
【文献】Biosci. Rep.,2010年,Vol.30,pp.135-148
【文献】Mitochondrion,2004年,Vol.4,pp.755-762
【文献】Environmental and Molecular Mutagenesis,2010年,Vol.51,pp.391-405
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L 33/13
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式()の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物:
[式中、
-Rは、-H又は次式のリボシル基を表し:
ここで、
・Rは、-H;-O-R又は-O-CO-R(Rは、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基又は3から12個の炭素原子を有するアリール基である)を表し;
・Rは、-H;-O-R10又は-O-CO-R10(R10は、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基又は3から12個の炭素原子を有するアリール基である);デオキシリボ核酸基;又はリボ核酸基を表し;
・Rは、-H;-O-R11又は-O-CO-R11(R11は、H、1から20個の炭素原子を有するアルキル基又は3から20個の炭素原子を有するアリール基である);リン酸基;二リン酸基;三リン酸基;デオキシリボ核酸基;又はリボ核酸基を表し;
-R 12 は、
を表し、
ここで、
・aは、二重結合又はエポキシ基を表し、
及びRは、同一であるか又は異なっており、-O-R(Rは、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基、グリコシル基又はアミノアシル基である);又は、-O-CO-R(Rは、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基又はグリコシル基である)を表す]
を含む、個体におけるパーキンソン病の予防又は治療における使用のための医薬。
【請求項2】
-R及びRは、同一であるか又は異なっており、-OH又は-O-R (R は、マンノシル基、ガラクトシル基又はグルタミル基からなる群より選択されるグリコシル基である)を表し;
-Rは、-OHを表し;
-R及びRは、同一であるか又は異なっており、-OH又はリボ核酸基を表す、
請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記化合物が、ケウイン、ent-ケウイン、ケウオシン、エポキシケウイン、エポキシケウオシン、マンノシル-ケウイン、ガラクトシル-ケウイン、グルタミル-ケウイン、ガラクトシル-ケウオシン、マンノシル-ケウオシン、グルタミル-ケウオシン、ケウイン-tRNA及びエポキシケウイン-tRNAからなる群より選択される、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
前記化合物が、次式の化合物:
からなる群より選択される、請求項1から3の何れか一項に記載の医薬。
【請求項5】
0.01から40mg/kg/日の投与計画で投与するための、請求項1から4の何れか一項に記載の医薬。
【請求項6】
経口経路、皮内経路、静脈内経路、筋肉内経路又は皮下経路での投与に適した形態における、請求項1から5の何れか一項に記載の医薬。
【請求項7】
パーキンソン病の予防又は治療に有用な少なくとも1つの追加の化合物と併用する、請求項1から6の何れか一項に記載の医薬。
【請求項8】
任意選択的に少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤又はビヒクルとともに、請求項1から4の何れか一項に記載される式()の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物を活性物質として含む、個体におけるパーキンソン病の予防又は治療における使用のための医薬組成物。
【請求項9】
任意選択的に少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤又はビヒクルとともに、パーキンソン病の予防又は治療に有用な少なくとも1つの追加の化合物をさらに含む、請求項1から4の何れか一項に記載される式()の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物を活性物質として含む、個体におけるパーキンソン病の予防又は治療における使用のための医薬組成物。
【請求項10】
個体におけるパーキンソン病の予防又は治療における、同時、分離又は逐次使用のための複合製剤として、
-請求項1から4の何れか一項に記載される式()の化合物、
-パーキンソン病の予防又は治療に有用な少なくとも1つの追加の化合物
を含む、個体におけるパーキンソン病の予防又は治療における使用のための製品。
【請求項11】
個体におけるパーキンソン病の危険性を低減させるための使用のための、請求項1から4の何れか一項に記載される式()の化合物を含む、栄養補助食品。
【請求項12】
ビタミン、ミネラル、脂肪酸、アミノ酸及び抗酸化物質からなる群より選択される追加の化合物を含む、請求項11に記載の栄養補助食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患、特にパーキンソン病の予防又は治療に有用な化合物、医薬組成物及び栄養補助食品に関する。
【背景技術】
【0002】
最も一般的な運動障害であり、アルツハイマー病に次いで2番目に一般的な神経変性疾患でもあるパーキンソン病(PD)は、線条体におけるドーパミン欠乏を引き起こす、黒質緻密部におけるドーパミン作動性ニューロンの喪失によって、主に特徴付けられる。その結果としての大脳基底核回路の調節不全は、運動緩徐、運動低下、硬直、安静時振戦および姿勢不安定性を含む、最も顕著な運動症状の原因となる。典型的な運動症状に加えて、より広範な退行過程を示す、自律神経機能障害、睡眠障害、うつ病及び認知障害など、さまざまな非運動症状が発現する可能性がある。
【0003】
PDの病因については、ほとんど分かっていない。最も一般的な散発型のPDは、環境要因と遺伝的感受性の多様な寄与を伴った複雑な多因子性障害であると思われ、加齢が最も重要な危険因子である。
【0004】
現在のPD治療は、L-DOPAの投与を通じてドーパミン濃度を増加させることにより、ドーパミン作動性ニューロンの喪失の結果を修正することを目的としている。L-DOPAは保護的な血液脳関門を通過するが、ドーパミン自体は通過できず、L-DOPAが中枢神経系に入ると、酵素DOPAデカルボキシラーゼによってドーパミンへと変換される。ピリドキサールリン酸(ビタミンB6)は、この反応における必要な補因子であり、時折、通常はピリドキシンの形態で、L-DOPAとともに投与されうる。
【0005】
しかしながら、パーキンソン病の治療における慢性的なL-DOPA投与は、投与終了時の機能低下、オン/オフ振動、運動中のフリーズ、ピーク用量におけるジスキネジア、及びドーパミン調節異常症候群、並びに薬剤耐性など、幾つかの望ましくない副作用を引き起こす(Thanvi & Lo (2004) Postgrad. Med. J. 80:452-458)。
【0006】
したがって、パーキンソン病における、L-DOPA投与の代替となる治療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
PD関連遺伝子の機能及び機能不全についての最近の研究は、疾患過程に関連する生化学的経路への新しい根本的洞察をもたらしている。これらの知見は、ミトコンドリア機能不全が散発性及び家族性PDの共通の原因であることを証明しており、ミトコンドリアをPD研究の最前線へと推し進めている(Winklhofer & Haass (2010) Biochimica et Biophysica Acta 1802:29-44)。
【0008】
本発明は、ケウイン(queuine)が、ミトコンドリア機能不全を含むパーキンソン病のインビトロモデルにおいて、神経保護効果を有するという、本発明者らによる予想外の知見から生じる。
【0009】
よって、本発明は、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療における使用のための、ケウイン、ケウイン前駆体、ケウイン誘導体、ケウイン類似体、又はケウインの立体異性体、又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物に関する。
【0010】
本発明はまた、個体におけるミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療における使用のための、以下の式(A)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物にも関する:
[式中、
-Rは、-H又は次式のリボシル基を表し:
ここで、
・Rは、-H;-O-R又は-O-CO-R(Rは、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基又は3から12個の炭素原子を有するアリール基である)を表し;
・Rは、-H;-O-R10又は-O-CO-R10(R10は、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基又は3から12個の炭素原子を有するアリール基である);デオキシリボ核酸基;又は、リボ核酸基を表し;
・Rは、-H;-O-R11又は-O-CO-R11(R11は、H、1から20個の炭素原子を有するアルキル基又は3から20個の炭素原子を有するアリール基である);リン酸基;二リン酸基;三リン酸基;デオキシリボ核酸基;又は、リボ核酸基を表し;
-R12は、
・1から20個の炭素原子を有するアルキル基、
・3から20個の炭素原子を有するアリール又はヘテロアリール基、
・3から20個の炭素原子を有するシクロアルキル又はヘテロシクロアルキル基、
・ヒドロキシ基、
・1から20個の炭素原子を有するカルボニル又はカルボキシル基、
・エポキシ基、
・-O-R基(Rは、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基、グリコシル基又はアミノアシル基である)、
・-O-CO-R基(Rは、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基又はグリコシル基である)
からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい、1から20個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和のアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル又はエーテル基を表す]。
【0011】
本発明はまた、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療における使用のための、次式(I)の式(A)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物にも関する:
[式中、
-aは、二重結合又はエポキシ基を表し、
-Rは、-H又は以下の式のリボシル基を表し:
ここで、
・Rは、-H;-O-R又は-O-CO-R(Rは、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基又は3から12個の炭素原子を有するアリール基である)を表し、;
・Rは、-H;-O-R10又は-O-CO-R10(R10は、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基又は3から12個の炭素原子を有するアリール基である);デオキシリボ核酸基;又は、リボ核酸基を表し;
・Rは、-H;-O-R11又は-O-CO-R11(R11は、H、1から20個の炭素原子を有するアルキル基又は3から20個の炭素原子を有するアリール基である);リン酸基;二リン酸基;三リン酸基;デオキシリボ核酸基;又は、リボ核酸基を表し;
-R及びRは、同一であるか又は異なっており、-O-R(Rは、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基、グリコシル基又はアミノアシル基である);又は-O-CO-R(Rは、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基又はグリコシル基である)を表す]。
【0012】
本発明の実施態様では、上記定義されるように使用するための式(A)の化合物、特に式(I)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物は、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療に有用な少なくとも1つの追加の化合物と併用される。
【0013】
本発明はまた、任意選択的に少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤又はビヒクルとともに、上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物を活性物質として含む、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療における使用のための医薬組成物にも関する。
【0014】
本発明の実施態様では、上記定義される医薬組成物は、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療に有用な少なくとも1つの追加の化合物をさらに含む。
【0015】
本発明はまた、任意選択的に少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤又はビヒクルとともに、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療に有用な少なくとも1つの追加の化合物をさらに含む、上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物を活性物質として含む、医薬組成物にも関する。
【0016】
本発明はまた、個体におけるミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療において、同時、分離又は逐次使用のための複合製剤として、
-上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物、
-ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療に有用な少なくとも1つの追加の化合物
を含む製品にも関する。
【0017】
本発明はまた、ミトコンドリア機能不全に関連する疾患の危険性の低減に使用するための、上記定義される、式(A)の化合物、特に式(I)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物を含む、栄養補助食品にも関する。
【0018】
本発明の実施態様では、上記定義される栄養補助食品は、好ましくはビタミン、ミネラル、脂肪酸、アミノ酸及び抗酸化物質からなる群より選択される、追加の化合物を任意選択的に含む。
【0019】
本発明はまた、有効量の上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物を個体に投与することを含む、個体におけるミトコンドリア機能障害に関連する疾患を予防又は治療する方法にも関する。
【0020】
本発明の実施態様では、上記定義される方法は、さらに、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療に有用な少なくとも1つの化合物の投与を含む。
【0021】
本発明はまた、個体におけるミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療を意図した薬剤の製造のための、上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物の使用にも関する。
【0022】
本発明の実施態様では、上記定義される薬剤は、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療に有用な少なくとも1つの化合物をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】%で表した、6-OHDAの非存在下の対照(灰色バー、対照)、6-OHDA単独(黒色バー)、6-OHDA+ケウインを6-OHDA中毒の1日前に添加(ドットのバー)、及び6-OHDA+BDNFについての一次ドーパミン作動性ニューロン培養の生存率。*は、6-OHDAに対してp<0.05であることを表す。
図2】%で表した、6-OHDAの非存在下の対照(灰色バー、対照)、6-OHDA単独(黒色バー)、6-OHDA+ケウインを6-OHDA中毒の6日前に添加(小さいドットのバー)、及び6-OHDA+BDNF(大きいドットのバー)についての一次ドーパミン作動性ニューロン培養の生存率。*は、6-OHDAに対してp<0.05であることを表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
式(A)の化合物
上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、特に、それらの全てが参照することにより本明細書に組み込まれる、Barnett & Grubb (2000), Tetrahedron 56: 9221-9225、Oxenford et al. (2004) Tetrahedron Letters 45:9053-9055、Brooks et al. (2010) Tetrahedron Letters 51: 4163-4165、Gerber et al. (2012) Org. Biomol. Chem. 10: 8660-8668、タイトルを“Synthesis of Tritium Labeled Queuine, PreQ1 and Related Azide Probes Toward Examining the Prevalence of Queuine”とするAllen Brookによる論文(2012, University of Michigan)、Akimoto et al. (1986) J. Med. Chem., 29: 1749-1753、Kelly et al. (2016) Nucleic Acids Research, 1-11、及び国際公開第2016/050806号に記載されているように、当業者によって容易に化学合成することができる。
【0025】
簡潔に言えば、例として、ケウインは、以下の反応スキームに従って合成することができる:
【0026】
加えて、上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、微生物、特に細菌などの天然資源から、あるいは、植物から、特に、リゾビウム属(Rhizobium)、メソリゾビウム属(Mesorhizobium)、及びシノリゾビウム属(Sinorhizobium)の細菌など、アルファプロテオバクテリアが根粒着生した植物から抽出し、任意選択的に精製することができる。
【0027】
例として、ケウオシンは、以下のように調製した、tRNA、特に、tRNAAsn、tRNAAsp、tRNAHis及びtRNATyrから得ることができる:
【0028】
酸性条件下での全RNAの調製
枯草菌株(B.subtilis)(又は他の関連する細菌)を、適切な補助添加物を加えたED液体培地中で、37℃で絶えず通気しながら増殖させる。新鮮な一晩培養物を、600nmにおける光学密度(OD600)が0.1になるまで、15mlのED培地に接種する。細胞を、OD600が1になるまで37℃で増殖させ、70mMのHepes,pH7.5中、60%メタノールの等量中で、-80℃で冷却する。その後の全ての工程を低温で行い、調製した粗製RNAのための溶液をジエチルピロカーボネートで処理し、滅菌する。細胞を4℃でペレット化し、水中で洗浄し、0.5mlの10%グルコース、11mMのTris、10mMのEDTA中に再懸濁する。懸濁液を0.1gのガラスビーズを含むチューブに移し、酸洗浄する(sigma-Aldrich社、G4649)。チューブを50gのドライアイスを含むFastPrep(登録商標)-24 Instrument(MP Biomedicals社)のCoolPrepアダプター内に入れる。次のパラメーターを使用し、3サイクルの後に細胞を破壊する:毎秒6メートル、45秒間。各サイクルの後に、懸濁液を氷上で1分間保持する。10,000rpmで2分間の遠心分離後、上清を新しいエッペンドルフチューブに移す。0.3Mの酢酸ナトリウムpH5.2を添加し、酸性条件下で全RNAを単離する。1容量の酸性フェノール:クロロホルム並びにイソアミルアルコール(125:24:1)、pH4.5(Amresco社、AM9720)を添加する。試料を10秒間ボルテックス攪拌することによって混合し、65℃の水浴中で3分間インキュベートする。14,000rpmで5分間回転させることによって相を分離し、その後、水相を同じ熱酸フェノールの手順で1度、再抽出する。水相を新しいチューブに移し、1容量の冷酸フェノールを補充する。14,000rpmで5分間の遠心分離後、RNAを、-80℃で1時間、2.5容量の無水エタノールで沈殿させる。RNAを4℃で15分間、14,000rpmでペレット化し、70%エタノールで洗浄する。RNAのペレットを、10mMのTris、1mMのEDTA,pH7.5中に溶解させる。
【0029】
tRNAの濃縮
全RNA調製物を、次に、1容量の塩化リチウム8M,pH4.5及び酢酸ナトリウム,pH5.2と、0.01mMの最終濃度で混合する。このRNA溶液を-80℃で2時間、インキュベートする。4℃で15分間、14,000rpmで遠心分離した後、tRNAは上清中に残った。塩汚染を取り除くため、0.3Mの酢酸ナトリウム,pH5.2及び2.5容量の無水エタノールを添加することにより、tRNAを-80℃で1時間、沈殿させる。その後、4℃で15分間、14,000rpmで遠心分離することによってtRNAをペレット化し、70%エタノールで洗浄する。tRNAのペレットを、10mMのTris、1mMのEDTA,pH7.5中に溶解させる。
【0030】
本発明に従うケウインの立体異性体は、任意のタイプのものでありうる。好ましくは、ケウインの立体異性体は、ent-ケウインである。
【0031】
本発明に従う薬学的に許容される塩又は水和物は、任意のタイプのものでありうる。しかしながら、本発明に従う薬学的に許容される塩は、塩酸塩であることが好ましい。
【0032】
好ましくは、本発明に従うグリコシル基は、マンノシル基、ガラクトシル基又はグルタミル基からなる群より選択される。
【0033】
好ましくは、アミノアシル基は、アラニン(ala、A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リシン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)及びバリン(val、V)から選択される。
【0034】
好ましくは、本発明に従う式(A)、特に式(I)の置換基は、互いに結合しうる。
【0035】
上記定義される式(A)の化合物の好ましい実施態様では、
-RはHであり、
-R12は、
・1から20個の炭素原子を有するアルキル基、
・3から20個の炭素原子を有するアリール又はヘテロアリール基、
・3から20個の炭素原子を有するシクロアルキル又はヘテロシクロアルキル基、
・ヒドロキシ基、
・1から20個の炭素原子を有するカルボニル又はカルボキシル基、
・エポキシ基、
・-O-R基(Rは、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基、グリコシル基又はアミノアシル基である)、
・-O-CO-R基(Rは、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基又はグリコシル基である)
からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい、1から20個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和のアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル又はエーテル基を表す。
【0036】
上記定義される式(A)の化合物の別の好ましい実施態様では、
-R12は、次式の基を表し:
式中、
・aは、二重結合又はエポキシ基を表し、
・R及びRは、同一であるか又は異なっており、-O-R(Rは、H、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基、グリコシル基又はアミノアシル基である);又は、-O-CO-R(Rは、1から6個の炭素原子を有するアルキル基、3から12個の炭素原子を有するアリール基又はグリコシル基である)を表す。
【0037】
上記定義される式(A)の化合物の別の好ましい実施態様では、
-RはHであり、
-R12は、少なくとも1つのヒドロキシ基で置換されていてもよい、1から20個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和のアルキル基を表す。
【0038】
上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物の別の好ましい実施態様では、
-R及びRは、同一であるか又は異なっており、-OH、-O-マンノシル基、-O-ガラクトシル基又は-O-グルタミル基を表し;
-Rは、-OHを表し;
-R及びRは、同一であるか又は異なっており、-OH又はリボ核酸基を表す。
【0039】
好ましくは、R及びRがいずれもリボ核酸基を表すとき、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、tRNAのリボヌクレオシドとして、転移RNA(tRNA)中に含まれる。さらに好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、tRNAのアンチコドンのリボヌクレオシドであり、最も好ましくはアンチコドンの第1のヌクレオシド、すなわち、アンチコドンの5’ヌクレオシド又はアンチコドンのウォブル位(wobble position)にあるヌクレオシドである。本発明に従う好ましいtRNAは、tRNAAsn、tRNAAsp、tRNAHis及びtRNATyrからなるリストから選択される。
【0040】
好ましくは、上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、次の式(II)、(III)又は(IV)で表される:
【0041】
好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)~(III)の化合物がtRNAAspに含まれるとき、RはOHであり、RはO-マンノースである。
【0042】
また、好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)~(III)の化合物がtRNATyrに含まれるとき、RはOHであり、RはO-ガラクトースである。
【0043】
好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、以下の式(V)で表される:
【0044】
当業者には明らかなように、本発明に従う化合物のすべての立体化学的配置は、本明細書中に示される式によって包含されることが意図されている。特に、本明細書で意図されるように、結合の立体配置が特定されていない場合、その結合は、上向き結合、下向き結合、及びその2つの混合物、特にその2つの1/1混合物のいずれかを表しうる。
【0045】
よって、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物はまた、以下の式(Va)及び(Vb)で表される鏡像異性体など、式(V)の化合物の光学活性な形態、又はそれらの混合物、特にそれらのラセミ混合物にも関する:
【0046】
式(Va)の化合物はケウインである。ケウインはまた、7-(3,4-trans-4,5-cis-ジヒドロキシ-1-シクロペンテン-3-イルアミノメチル)-7-デアザグアニンとしても知られている。
【0047】
式(Vb)の化合物は、ent-ケウインである。
【0048】
好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、以下の式(VI)、(VIa)、(VIb)、(VII)、(VIIa)、(VIIb)、(VIII)、(VIIIa)、(VIIIb)、(IX)、(X)、(Xa)又は(Xb)で表される:
【0049】
また好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物は、以下の式(XI)、(XIa)、(XIb)、(XII)、(XIII)、(XIV)、(XV)、(XVI)又は(XVII)で表される:
【0050】
式(VIa)の化合物は、7-(5-[3,4-エポキシ-2,5-ジヒドロキシシクロペンタ-1-イル)アミノ]メチル)-7-デアザグアニンとしても知られる、エポキシケウインである。
【0051】
式(VIIa)の化合物は、2-アミノ-5-({[(1S,4S,5R)-4,5-ジヒドロキシシクロペンタ-2-エン-1-イル]アミノ}メチル)-7-(β-D-リボフラノシル)-1,7-ジヒドロ-4H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-オンとしても知られる、ケウオシンである。
【0052】
式(VIIIa)の化合物は、5 7-(5-[(3,4-エポキシ-2,5-ジヒドロキシシクロペンタ-1-イル)アミノ]メチル)-7-デアザグアノシンとしても知られている、エポキシケウオシンである。
【0053】
式(XI)の化合物は、N-((2-アミノ-4-オキソ-4,7-ジヒドロ-3H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)メチル)-2,3-ジヒドロキシプロパン-1-アミンである。
【0054】
式(XII)の化合物は、N-((2-アミノ-4-オキソ-4,7-ジヒドロ-3Hピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)メチル)-3-フェニルプロパン-1-アミンである。
【0055】
化合物(XIII)は、N-((2-アミノ-4-オキソ-4,7-ジヒドロ-3Hピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)メチル)-プロパン-1-アミンである。
【0056】
化合物(XVI)は、N-((2-アミノ-4-オキソ-4,7-ジヒドロ-3Hピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)メチル)-ブタン-1-アミンである。
【0057】
化合物(XVII)は、N-((2-アミノ-4-オキソ-4,7-ジヒドロ-3Hピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)メチル)-ヘキサン-1-アミンである。
【0058】
好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、マンノシル-ケウイン、ガラクトシル-ケウイン、グルタミル-ケウイン、ガラクトシル-ケウオシン、マンノシル-ケウオシン、グルタミル-ケウオシン、ケウイン-tRNA、及びエポキシケウイン-tRNAからなる群より選択される。
【0059】
また好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、ケウイン-tRNAAsp、ケウイン-tRNATyr、エポキシケウイン-tRNAAsp、エポキシケウイン-tRNATyr、ケウイン-tRNAAsn、ケウイン-tRNAHis、エポキシケウイン-tRNAAsn、エポキシケウイン-tRNAHis、マンノシル-ケウイン-tRNAAsp、ガラクトシル-ケウイン-tRNATyr、マンノシル-エポキシケウイン-tRNAAsp、及びガラクトシル-エポキシケウイン-tRNATyrからなる群より選択される。
【0060】
また最も好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物は、ケウイン、ent-ケウイン、ケウオシン、エポキシケウイン、エポキシケウオシン、マンノシル-ケウイン、ガラクトシル-ケウイン、グルタミル-ケウイン、ガラクトシル-ケウオシン、マンノシル-ケウオシン、グルタミル-ケウオシン、ケウイン-tRNA、エポキシケウイン-tRNA、並びに式(XI)、(XIa)及び(XIb)の化合物からなる群より選択される。
【0061】
ミトコンドリア機能不全に関連する疾患
本明細書で意図されているように、表現「ミトコンドリア機能不全に関連する疾患」は、ミトコンドリア機能不全、障害、又は疾患と関連するか、若しくはそれによって引き起こされる疾患を包含する。
【0062】
好ましくは、本発明に従うミトコンドリア機能不全に関連する疾患は、ミトコンドリア機能不全に関連する神経疾患、さらに好ましくはミトコンドリア機能不全に関連する中枢神経系疾患、最も好ましくはミトコンドリア機能不全に関連する神経変性疾患である。
【0063】
好ましくは、本発明に従うミトコンドリア機能不全に関連する疾患はパーキンソン病である。
【0064】
パーキンソン病は、当業者によく知られており、ICD-10 Version:2016のセクションG20、G21及びG22に特に定義されている。
【0065】
本明細書で意図されているように、本発明に従うパーキンソン病は、とりわけ、
-原発性(特発性)パーキンソニズム、
-二次性パーキンソニズム(後天性)、
-非定型パーキンソニズム、及び
-パーキンソニズムを引き起こす家族性神経変性疾患
を包含する。
【0066】
本発明に従うパーキンソン病はまた、散発性及家族性パーキンソン病も包含する。
【0067】
本発明に従うパーキンソン病は、特に、ステージI、ステージII、ステージIII、ステージIV及びステージVのパーキンソン病も包含する。
【0068】
個体
本明細書で意図されているように、本発明に従う個体は、好ましくはヒトである。
【0069】
好ましくは、本発明に従う個体は、30、40、50、60、70又は80歳超である。
【0070】
また好ましくは、本発明に従う個体は、80、70、60、50、又は40歳未満である。
【0071】
また好ましくは、本発明に従う個体は、ステージI、II、III、IV又はVのパーキンソン病を患う個体である。
【0072】
また好ましくは、本発明に従う個体は、パーキンソン病を患っていないか又はパーキンソン病の症状を示しておらず、パーキンソン病を発症する危険性がある。さらに好ましくは、本発明に従う個体は、パーキンソン病を患っていないか又はパーキンソン病の症状を示しておらず、その個体の血縁者の少なくとも1人はパーキンソン病を患っている。
【0073】
追加の化合物
ミトコンドリア機能障害に関連する疾患の予防又は治療に有用な追加の化合物は、当業者に知られている任意のタイプのものでありうる。好ましくは、本発明に従う追加の化合物は、ビタミン、ミネラル、脂肪酸、アミノ酸、抗酸化物質及びそれらの誘導体又は前駆体からなる群より選択される。
【0074】
好ましくは、ビタミンは、ピリドキシン、ピリドキサールリン酸(ビタミンB)、リボフラビン、チアミン、ビタミンE、ビタミンK3、ビタミンC、ナイアシン、CoQ10及びβ-カロテンからなる群より選択される。
【0075】
好ましくは、ミネラルは、カルシウム、マグネシウム、セレン及びリンからなる群より選択される。
【0076】
好ましくは、アミノ酸はL-DOPA(レボドパ)である。
【0077】
好ましくは、脂肪酸は、レボカルニチン及びアセチル-L-カルニチンからなる群より選択される。
【0078】
投与
本明細書において意図されるように、「組み合わせた」又は「組合せで」とは、上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物が個体にその効果を及ぼす期間と、追加の薬剤又は製品が個体にその薬理学的効果を及ぼす期間とが、少なくとも部分的に交差することを条件として、上記定義される式(A)の化合物、特に式(I)の化合物が、別の化合物又は製品と同時に、一緒に、すなわち同じ投与部位に、又は別々に、又は異なる時点でのいずれかで、投与されることを意味する。
【0079】
好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物は、投与のためのものであるか、あるいは、0.01から40mg/kg/日、さらに好ましくは0.01から10mg/kg、さらになお好ましくは0.01から1mg/kg/日、最も好ましくは0.01から0.1mg/kg/日の投与計画で投与される。
【0080】
好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物は、投与に適した形態をしているか、あるいは、経口経路、皮内経路、静脈内経路、筋肉内経路又は皮下経路で投与される。好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物、若しくはそれを含む医薬組成物、薬剤、製品又は栄養補助食品は、投与に適した形態であるか、あるいは、皮下埋入によって投与される。
【0081】
好ましくは、本発明に従う式(A)の化合物、特に式(I)の化合物、若しくはそれを含む医薬組成物、薬剤、製品又は栄養補助食品は、粉末、小袋、錠剤、ゼラチン、カプセル、若しくは液体又はゲル溶液の形態をしている。
【0082】
また好ましくは、本発明に従う医薬組成物、薬剤、製品又は栄養補助食品は、本発明に従う式(A)の化合物、とりわけ式(I)の化合物、特に、ケウイン、ent-ケウイン、ケウオシン、又は式(XI)、(XIa)又は(XIb)の化合物を、少なくとも0.15mg、1mg、10mg、50mg、100mg、500mg又は1000mgの単位用量で含む。
【0083】
また好ましくは、本発明に従う医薬組成物、薬剤、製品又は栄養補助食品は、本発明に従う式(A)の化合物、とりわけ式(I)の化合物、特に、ケウイン、ent-ケウイン、ケウオシン、又は式(XI)、(XIa)、又は(XIb)の化合物を、特に、少なくとも0.15mg、1mg、10mg、50mg、100mg、500mg又は1000mgの単位用量で含む、微生物及び/又は植物に由来する、抽出物、特に精製抽出物を含む。
【実施例
【0084】
6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)は、パーキンソン病様の兆候を誘発することができる薬理学的薬剤として使用される(Sauer and Ortel (1994) Neuroscience 59:401-15; Cass et al. (2002) Brain Res. 938:29-37)だけでなく、パーキンソン病に冒された脳に蓄積し、この病理に強く寄与しているように見える、天然のドーパミン作動性異化代謝産物に対応する可能性も高い(Ellenberg et al. (1995) in “Etiology of Parkinson's Disease”, eds Ellenberg, Koller, Langston (Marcel Dekker, New York), pp 153-201; Jellinger et al. (1995) J. Neural. Transm. 46:297-314)、選択的カテコールアミン作動性神経毒である。
【0085】
この理由から、ラットにおける6-OHDA誘発ドーパミン作動性神経毒性は、PD研究のモデルとして広く使用されている(Simola et al. (2007) Neurotox. Res. 11:151-167; Mercanti (2012) Methods Mol. Biol. 846:355-364; De Jesus-Cortes et al. (2015) npj Parkinson’s Disease 1:15010)。その上、6-OHDAは、このパーキンソン病のラットモデルにおいて、ミトコンドリア機能を損なうことが示されており、これは、潜在的な神経保護戦略の前臨床評価のための適切な代理マーカーとして、明確なミトコンドリア機能不全の検出を可能にするであろう(Kupsch et al. (2014) J. Neural. Transm. 121:1245-1257)。
【0086】
これに関して、インビトロでのドーパミン作動性ニューロンの6-OHDA誘導性神経変性は、とりわけミトコンドリア機能の回復に関して、パーキンソン病の有用なモデルも提供する(Wei et al. (2015) Translational Neurodegeneration 4:11)。
【0087】
したがって、この研究は、6-OHDAへの曝露によって損傷したラット初代中脳培養におけるケウインの効果を調査するものである。脳由来神経栄養因子(BDNF)は、インビトロにおいて6-OHDA誘導性神経変性を低減することが示唆されており、陽性対照として用いられる。
【0088】
1.材料及び方法
1.1.化合物
6-OHDAは、シグマ社から得られる(参照番号:H116)。
【0089】
ケウインは、Brooks et al. (2010) Tetrahedron Letters 51:4163-4165及びタイトルを“Synthesis of Tritium Labeled Queuine, PreQ1 and Related Azide Probes Toward Examining the Prevalence of Queuine”とするAllen Brooksによる論文(2012, University of Michigan)に従って合成される。
【0090】
BDNFは、PanBiotech社から得られる(参照番号:CB-1115002)。
【0091】
以下の実験では、6-OHDA、ケウイン及びBDNFは、以下に定義される培地に懸濁される。
【0092】
1.2.ドーパミン作動性ニューロンのラット初代培養
ラットのドーパミン作動性ニューロンは、Schinelli et al. (1988) J. Neurochem. 50:1900-1907に記載されるように培養される。
【0093】
簡潔に言えば、妊娠15日目の妊娠中の雌のラット(ウィスターラット;Janvier社)を頸椎脱臼により殺処理し、子宮から胎児を取り出す。胚性中脳を除去し、2%のペニシリン-ストレプトマイシン(PS;PanBiotech社)及び1%のウシ血清アルブミン(BSA;PanBiotech社)を含む氷冷ライボビッツ培地(L15;PanBiotech社)に入れる。ドーパミン作動性ニューロンが豊富な発達中の脳の領域であることから、中脳屈の腹側部のみが細胞調製に用いられる。中脳は、37℃で20分間のトリプシン処理によって解離する(Trypsin EDTA 1倍;PanBiotech社)。DNAseIグレードII(0.1mg/mL;Roche Diagnostic社)と10%のウシ胎児血清(FCS;Invitrogen社)を含むダルベッコの改良イーグル培地(DMEM;PanBiotech社)を添加することによって、反応を停止させる。10mlピペットに3回通すことによって、細胞を機械的に解離させる。その後、解離した細胞をL15培地中のBSA(3.5%)の層上、4℃で10分間、180×gで遠心分離する。上清を捨て、ペレット化した細胞を、B27(2%;Invitrogen社、参照番号:17504)、L-グルタミン(2mM;PanBiotech社、参照番号:P04-80100)及び2%のPS、10ng/mLのBDNF(PanBiotech社、参照番号:CB-1115002)及び1ng/mLのGDNF(PanBiotech社、参照番号:CB-1116001)を補充したNeurobasal(Invitrogen、参照番号:21103、バッチ:1725098)からなる培養培地に再懸濁する。トリパンブルー排除試験を用いて、Neubauerサイトメーターで生細胞を計数する。その後、細胞を、ポリ-D-リシンで予めコーティングした96ウェルプレート(Greiner社)に40,000細胞/ウェルの密度で播種し、加湿空気(95%)/CO(5%)雰囲気中、37℃で培養する。培地の半分を2日毎に新鮮な培地と交換する。これらの条件では、5日間の培養後、培養液中にアストロサイトが存在し、成長因子を放出してニューロンの分化を可能にする。神経細胞集団の5から6パーセントが、ドーパミン作動性ニューロンである。
【0094】
1.3.ラットのドーパミン作動性ニューロンにおける神経保護効果の評価
ケウインの神経保護効果を、以下のプロトコルに従って6日齢の培養物について評価する:
-対照培地(培養培地)の添加;
-6-OHDA(20μM、48H)+培養培地の添加;
-6-OHDA(20μM、48H)+BDNF(50ng/ml)の添加;
-6-OHDA(20μM、48H)+ケウイン(0.03μMから30μMまでの7つの濃度)の添加(ケウインは、6-OHDA中毒の前、間又は後の3つの異なる時点で添加):
○ 6-OHDA中毒の6日前、化合物は中毒になるまで培地にとどまる
○ 6-OHDA中毒の1日前
○ 中毒の1日後
6-OHDAを有しない(中毒なし)同じ条件を並行して試験し、ドーパミン作動性ニューロン生存におけるケウインの効果を評価する。
【0095】
各条件は、96ウェル培養プレートの6つのウェルで複製される。
【0096】
1.4.終点評価:ドーパミン作動性ニューロンの総数の決定
インキュベーション時間の終わりに、細胞を、室温で20分間、4%パラホルムアルデヒドの溶液で固定する。その後、細胞を透過処理し、非特異的部位を0.1%サポニン(Sigma社)及び1%ウシ胎児血清(FCS)を含有するリン酸緩衝食塩水(PBS;PanBiotech社)の溶液で、室温で15分間、ブロッキングする。最終的に、細胞を、1%FCS及び0.1%サポニンを含むPBS中のモノクローナル抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH)マウス抗体(Sigma社)とともに、室温で2時間インキュベートする。抗TH抗体は、ドーパミン作動性ニューロンを標的とする。
【0097】
1%FCS、0.1%サポニンを伴うPBS中のAlexa Fluor 488標識ヤギ抗マウスIgG(分子プローブ)を用いて、室温で1時間、抗体を解明する。細胞の核を、同じ溶液中の蛍光マーカー(ヘキスト溶液、SIGMA社)で染色する。
【0098】
各条件について、20倍の倍率でInCell AnalyzerTM2000(GE Healthcare社)を用いて、1ウェルあたり20枚の写真を撮る。各培養ウェルの画像も撮影する。
【0099】
Developerソフトウェア(GE healthcare社)を用いて、TH陽性ニューロンの細胞体解析を行う。実験条件ごとに合計6つのデータが提供される。全ての値は、平均値±標準誤差平均として表わされる。統計分析のため、ANOVAが行われ、続いてダネット検定が行われる。
【0100】
2.結果
予備的結果は、ケウインが、6-OHDA誘発神経毒性に対し、神経保護効果を有することを示唆している。
【0101】
このように、図1及び図2によれば、6-OHDAを20μMで48時間適用することにより、TH陽性ニューロンの大幅かつ有意な減少が誘発される。6-OHDA中毒の1日前及び6日前のBDNF(50ng/mL)の適用は、6-OHDA損傷に対する保護効果を発揮する(*、p<0.05、図1の対照の80.80%、及び*、p<0.05、図2の対照の83.44%)。これらの結果は本研究を実証するものである。
【0102】
さらには、図1は、6-OHDA中毒の1日(24時間)前に添加すると、1μMのケウインが6-OHDAに対して有意な保護効果を提示することを示している(*、p<0.05、対照の81.33%)。加えて、図2は、6-OHDA中毒の6日前に添加すると、0.3μMのケインが、6-OHDA中毒に対して有意な保護効果を有することを示している(*、p<0.05、対照の80.47%)。
図1
図2