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  • 特許-癌の再発および進行のモニタリング 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】癌の再発および進行のモニタリング
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20220502BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019538737
(86)(22)【出願日】2017-10-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 GB2017052947
(87)【国際公開番号】W WO2018060741
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-30
(31)【優先権主張番号】1616640.7
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521123839
【氏名又は名称】セロクソ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】サルフィー,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ミアン、ルビーナ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-505263(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0072844(US,A1)
【文献】特表2008-514925(JP,A)
【文献】W. Kaffenberger, B.P.E. Clasen, D. van Beuningen,The respiratory burst of neutrophils, a prognostic parameter in head and neck cancer?,Clinical Immunology and Immunopathology,1992年07月,Volume 64, Issue 1,,57-62
【文献】Agneta Trulson, M.L.T., Sten Nilsson, M.D., Per Venge, M.D.,Lucigenin-Enhanced Chemiluminescence in Blood is Increased in Cancer,American Journal of Clinical Pathology,1989年04月01日,Volume 91, Issue 4,441-445
【文献】Shkapova, E A; Kurtasova, L M; Savchenko, A A,Lucigenin- and Luminol-Dependent Chemiluminescence of Blood Neutrophils in Patients with Renal Cancer,Bulletin of Experimental Biology and Medicine,2010年08月,149, 2,239-241
【文献】Schepetkin, I.A., Cherdyntseva, N.V., Borunov, E.V. et al,Decreased luminol-dependent chemiluminescence response of neutrophils to recombinant human tumour necrosis factor in patients with gastric cancer,Journal of Cancer Research and Clinical Oncology,1991年,117,172-174
【文献】Lejeune, M., Ferster, A., Cantinieaux, B. and Sariban, E.,Prolonged but reversible neutrophil dysfunctions differentially sensitive to granulocyte colony-stimulating factor in children with acute lymphoblastic leukaemia,British Journal of Haematology,2008年10月09日,Volume 102, Issue 5,1284-1291
【文献】Morana Zivkovic, Marija Poljak-Blazi, Kamelija Zarkovic, Danijela Mihaljevic, Rudolf Joerg Schaur, Neven Zarkovic,Oxidative burst of neutrophils against melanoma B16-F10,Cancer Letters,2007年02月08日,Volume 246, Issues 1-2,100-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌を有することが疑われるもしくは分かっている対象、または癌が寛解したことがあらかじめ分かっている対象の癌の状態を決定するための方法であって、前記方法は
(a)前記対象から得た検査用全血サンプルと、好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な誘発物質を、そのような刺激に適切な条件下で、前記サンプル中で接触させるステップ、
(b)一定期間後、前記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を決定して、第1の結果を得るステップ、および
(c)前記第1の結果を、癌の状態に対応する1つまたは複数の基準と相関する予め定められた閾値である第2の比較用結果と比較するステップ
を含み、
前記1つまたは複数の基準が、腫瘍なし、腫瘍サイズ範囲、転移ありまたは転移なしから選択され、
好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な前記誘発物質が、ホルボールミリステートアセテート(PMAであり、スーパーオキシド産生が、ルミノールを増幅剤として用いて検出され、得られた化学発光が測定され、
それにより、ステップ(a)の前記条件が、腫瘍のサイズまたは転移への進行に基づく癌進行のランク付けが基礎値を超えて増加した化学発光に関連付けられるようなものである、方法。
【請求項2】
ヒトの前立腺癌の状態を評価するための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒトの乳癌の状態を評価するための、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記癌の状態が転移に進展しているまたは転移なしである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
持ち運び可能なルミノメーターを用いて化学発光が測定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
化学発光の定量的な検出のための光子検出器、および結果を解析して腫瘍なし、腫瘍サイズの範囲、転移ありまたは転移しから選択される興味のある癌の状態と関連付けられた好中球機能レベルに関して警告を発するように構成されたシステムを備えた請求項1から5のいずれか一項に記載の方法を実施するのに適したシステム。
【請求項7】
前記光子検出器が持ち運び可能なルミノメーターである、請求項6に記載のシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体の癌の再発を予測し、癌の進行および処置をモニタリングするためのインビトロの方法に関する。より詳細には、インビトロでの活性化に応答して、チャレンジ性スーパーオキシドアニオン産生を示す、すなわち「呼吸バースト」を生じるという白血球(主に好中球)機能の決定に基づく方法を提供する。このような白血球の活性化は既知であり、多くの場合白血球対処能力(leucocyte coping capacity)(LCC)と称されるが、本発明は、例えば、分画を必要することなく全血サンプルを用いて癌の状態を簡単にかつ迅速に評価するために使用できる、癌診断分野における新しい用途を提供する。本発明は、例えば、腫瘍サイズに基づいて前立腺癌患者を速やかにかつ便利にランク付けすることができ、転移のあるそのような患者を、転移がなく、腫瘍体積が比較的小さい患者と区別することができることが示されている。
【0002】
このような方法は、癌処置の前に、または治療の有効性を評価するために一定期間の癌処置後に適用してもよい。この方法は、治療介入、例えば化学療法セッション間の時間間隔、薬物用量の変更または処置形態の変更を加減するための速やかかつ便利な指針を提供し得る。
【背景技術】
【0003】
癌の進行をモニタリングするための現在の技術は、多くの場合、白血球総数(TLC)または好中球絶対数(ANC)などの総血球数を使用する。これらはそれぞれ、血液体積あたりの白血球数または好中球数を与えるものである。これらは特定の細胞の総数を与えるものであるが、医師に対してその細胞の機能に関しては何も示さない。さらに、これらの検査は病院、医療クリニックまたは医療従事者がいる他の医療の場で実施しなければならず、自己検査としては適さない。
【0004】
化学療法は、好中球を産生する骨髄内で急速分裂細胞が破壊されることにより、循環好中球集団の減少(好中球減少症として知られる状態)を生じさせることが知られている。実際、好中球減少症は化学療法の主要な用量制限毒性であり、結果として相対用量強度(RDI)が低くなるような投与延期および減量を引き起こす主な要因である(Lyman et al. (2003) J. Clin. Oncol. 21, 4524-4531.)。好中球減少症は、処置成績を落とし得るような化学療法の減量および投与延期だけでなく、生命に関わる感染症のリスクとも関連する(Crawford et al. (2004) Cancer 100, 228-237)。さらに研究者らは、治療をより効率的なものにし、かつ好中球減少症が原因の投与延期が少なくなるよう、早期乳癌患者のランク付け方法を改善する必要性を明確に確認している(Silber et al. (1998) Cancer, J. Clin. Oncol. 16, 2392-2400)。
【0005】
驚くべきことに、ここで、簡単な全血検査を使用して、上述のような白血球によるチャレンジ誘発スーパーオキシド産生の決定に基づいて、処置の指針とするまたは癌の再発を見抜くための癌の状態の迅速で定量的に測定が得られることが判明した。このような検査プロトコルには、好中球機能を評価し、かつ望ましくない好中球減少症を警告するために、癌処置中にチャレンジなしで適用してもよいというさらなる利点がある。
【0006】
ホルボールミリステートアセテート(PMA)などの化学的誘発物質は末梢血サンプル中の好中球を活性化するものとして周知であり、これによりスーパーオキシド産生のために保持している能力を好中球機能の尺度として定量することができる(Hu et al. Cell Signal (1999) 11, 335-360)。化学発光によりスーパーオキシド産生を測定してLCCスコアを得るというような全血サンプルの使用は、ヒトおよび動物の心理学的ストレスを定量するためにOxford MediStress Limitedにより商業化された検査の基礎となるものである。欧州特許第1558929号明細書および公開された国際出願である国際公開第2004/042395号パンフレットに由来する関連特許を参照のこと。しかし、本明細書で報告するデータは、同一タイプの血液検査が癌診断において全く異なる実用性をもつことに関する証拠を初めて提供するものである。特に興味深いのは、このような検査が前立腺癌患者由来の血液サンプルに適用でき、それによりLCCスコアを疾患進行または持続的な寛解と関連付けることができると示されているということである。実施例2を参照のこと。このようなランク付けまたは層別化方法は、他の癌、特に例えば乳癌に対しても同様に適用できると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下の[1]から[20]を含む。
[1]対象において、一定期間の処置後の癌の再発を含む腫瘍または他の癌の存在の指標として好中球機能レベルを評価する方法であって、
(a)上記対象から得た好中球を含む検査用サンプルと、好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な誘発物質を、そのような刺激に適切な条件下で接触させるステップ、
(b)一定期間後、上記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を決定して、第1の結果を得るステップ、および
(c)上記第1の結果を第2の比較用結果と比較するステップ
を含み、これにより上記対象における、好中球機能に影響を及ぼすことが可能な腫瘍もしくは他の癌が存在すること、または腫瘍もしくは他の癌が存在しないことを決定する、方法。
[2]一定期間の癌処置後に、同じ対象に対してステップ(a)~(c)を繰り返すことをさらに含む上記[1]に記載の方法であって、ステップ(c)において、上記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を第2の対照結果と比較し、これにより対照結果と比較した上記検査用サンプル中の誘発されたスーパーオキシド産生増加の減少が、好中球機能レベルに対する上記処置の抑制効果を示す、方法。
[3]癌の再発と関係した生理学的状態の変化の指標として、癌処置後の対象の好中球機能レベルを評価するための上記[1]に記載の方法であって、上記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を癌処置後のより早い時点でかつ上記対象の癌が寛解していると考えられる期間に採取した第2の比較用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加と比較し、
上記第2の比較用サンプルと比較した上記検査用サンプル中の誘発されたスーパーオキシド産生の増加が癌再発の指標となる、方法。
[4]上記検査用サンプルが全血サンプルである、上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]上記対象がヒトである、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]疾患進行に基づいて癌患者をランク付けする方法であって、上記患者が処置後に寛解の可能性を含む特定の癌タイプの様々な進行度合いにあると予想される患者群であり、上記[1]に記載の方法を上記患者由来のサンプルに適用することを含み、ステップ(c)が、上記第1の結果を疾患進行を示す1つまたは複数の判断基準と相関させることにより各サンプルを1つのランクに割り当てることをさらに含む、方法。
[7]上記サンプルが全血サンプルである、上記[6]に記載の方法。
[8]上記1つまたは複数の判断基準が、1つまたは複数の腫瘍サイズ範囲、転移ありおよび転移なしから選択される、上記[6]または上記[7]に記載の方法。
[9]上記患者がヒト前立腺癌患者である、上記[6]から[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10]転移癌を有する癌患者を特定することができる、上記[8]または上記[9]に記載の方法。
[11]癌を有することが疑われるもしくは分かっている対象、または癌が寛解したことがあら
かじめ分かっている対象の癌の状態を評価する方法であって、上記[1]に記載の方法を上記対象に適用し、上記方法は
(a)上記対象から得た好中球を含む検査用サンプルと、好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な誘発物質を、そのような刺激に適切な条件下で接触させるステップ、
(b)一定期間後、上記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を決定して、第1の結果を得るステップ、および
(c)上記第1の結果を、癌の状態に対応する1つまたは複数の判断基準と相関する予め定められた閾値である第2の比較用結果と比較して、それにより癌の状態を決定するステップ
を含む、方法。
[12]上記検査用サンプルが全血サンプルである、上記[11]に記載の方法。
[13]上記1つまたは複数の判断基準が、腫瘍サイズ範囲、転移ありおよび転移なしから選択される、上記[11]または上記[12]に記載の方法。
[14]ヒトの前立腺癌状態を評価するための、上記[11]から[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15]上記癌状態が転移に進展しているまたは転移なしである、上記[14]に記載の方法。
[16]好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な上記誘発物質が、ホルボールミリステートアセテート(PMA)、N-ホルミル-メチオニル-ロイシル-フェニルアラニン(fMLP 走化性ペプチド)、ザイモサン、リポ多糖またはアドレナリンである、上記[1]から[15]のいずれか一項に記載の方法。
[17]スーパーオキシド産生をルミノールまたはイソルミノールを用いて検出し、得られた化学発光を測定する、上記[1]から[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18]好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な上記誘発物質がホルボールミリステートアセテート(PMA)であり、スーパーオキシド産生をルミノールを増幅剤として用いて検出し、得られた化学発光を測定する、上記[16]または上記[17]に記載の方法。
[19]化学発光の定量的な検出のための光子検出器、および結果を解析して癌のリスクまたは癌の状態と関連付けられた好中球機能レベルに関して警告を発するためのシステムを備えた上記[17]または上記[18]に記載の方法を実施するのに適したシステム。
[20]上記光子検出器が持ち運び可能なルミノメーターである、上記[12]に記載のシステム。
上記したように、本発明は、全血中の好中球、または好ましくは全白血球成分が、適切なインビトロの化学物質チャレンジに応答してスーパーオキシドを産生する能力を評価することによる。全血サンプルによるこのような定量された応答は、一般に白血球対処能力(LCC)スコアと呼ばれる。しかし、これは主として好中球がこのような外部刺激に対して活性酸素種(ROS)を産生するという能力により決定されるため、代わりに個体の好中球機能レベル(neutrophil functionality level)を参照してもよい。好中球機能レベルがより高い個体はより多くのスーパーオキシドを産生する可能性があることになり、生理学的に好中球機能がより高いということになる。
【0008】
したがって、その最も広い態様では、本発明は、対象において、一定期間の処置後の癌の再発を含む腫瘍または他の癌の存在の指標として好中球機能レベルを評価する方法であって、
(a)前記対象から得た好中球を含む検査用サンプルと、好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な誘発物質を、そのような刺激に適切な条件下で接触させるステップ、
(b)一定期間後、前記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を決定して、第1の結果を得るステップ、および
(c)前記第1の結果を第2の比較用結果と比較するステップ
を含み、これにより前記対象における、好中球機能に影響を及ぼすことが可能な腫瘍もしくは他の癌が存在すること、または腫瘍もしくは他の癌が存在しないことを決定する、方法を提供する。
【0009】
一般に、短時間の誘発物質チャレンジの後に、例えばルミノールおよび持ち運び可能なルミノメーターを用いた従来の化学発光測定によりスーパーオキシド産生を決定する場合、サンプル中の基礎化学発光は常にきわめて少ないことになるので考慮する必要はない。したがって、このような状況では、測定された相対発光量(RLU)の合計は誘発されたスーパーオキシド産生量と同等であり、好中球機能に直接正比例するとしてよい。例えば、全血サンプルのLCCスコアリング用にOxford MediStressにより供給される凍結乾燥したPMA/ルミノールを使用し、その試薬を使用するための標準的なプロトコルに従ってサンプルを37.5℃で10分間インキュベートする場合の適用が確立されている。換言すれば、検査用サンプル中の「基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を定量すること」は、好中球刺激期間、例えば誘発物質添加後10~30分間の最後に存在するスーパーオキシドを簡単に1ステップで定量することと同等であるとしてよい。
【0010】
腫瘍または他の癌の存在を判断することを、好ましくは、サイズおよび/または転移を含む進行度合いに関する1つもしくは複数の他の臨床的な指標の点から、腫瘍または他の癌のランク付けまたは状態を決定することに拡張してもよい。したがって、第2の比較用結果は、既知のタイプの癌患者由来のサンプルに関する特定の癌層別化状態、例えばサイズまたは転移、と同一であると理解される予め定められた閾値であってよい。
【0011】
理論に束縛されるものではないが、方法の有効性は免疫活性部位としてふるまう癌に関連させてもよい。
【0012】
第2の比較用結果は、理想的にはサンプル提供前にリラックスした状態にある、健康であると分かっている同種の様々な対象、例えば健康なヒト由来の対照サンプル中にて誘発されたスーパーオキシド産生に相当するものでよいということが認識されるであろう。それは一定期間の癌処置後に、寛解したと分かっている同じ個体から採取したサンプルであってよい。本発明の目的のために個体から採取するサンプルは、検査用サンプルと任意の比較用サンプルとの間の精神的ストレスの差による影響が最小となるように採取することになる。
【0013】
本発明の一実施形態では、上記のような本発明の方法を、特定の癌タイプの処置後の寛解の可能性を含む様々な進行度合いにあると予想される患者由来の複数のサンプルに適用してもよく、かつ疾患進行を示すような1つまたは複数の判断基準、例えば予測される転移ありおよび転移なしと相関させることにより各サンプルを1つのランクに割り当てるために使用される誘発されたスーパーオキシド産生の定量結果、好ましくはLCCスコアの比較に適用してもよい。前立腺癌患者由来の複数のサンプルを使用したこのような層別化方法は、実施例2により例示されている。このような層別化により、第2の比較用結果として使用することが可能な予め定められた閾値が得られることになり、その結果、本発明の方法を同じ癌に罹患していると疑われるまたは分かっている患者由来の後続のサンプルに適用し、癌状態を判断するまたは効果的な処置後のこのような癌の再発を確認することになる。
【0014】
本発明の方法に用いられるサンプルは好ましくは全血サンプルということになり、この場合、上記したように、より一般に、スーパーオキシド産生量が白血球のスーパーオキシド産生能力(または代わりに、呼吸バーストを引き起こす上記の能力)と厳密に等しいことになる。このような方法では、細胞の反応性に影響を及ぼすことが知られている遠心分離を避け、かつ同じく機能に影響を及ぼす可能性のあるスライドガラスへの細胞のプレートアウトもまた避けることが重要である。従来の指用ランシングデバイスを使用して得られる約10~30μlほどの少量の血液サンプルで十分ということになる。
【0015】
すでに上述のように、スーパーオキシド産生は、例えばルミノールまたはイソ-ルミノールを使用した既知の簡単な化学発光測定により簡便に測定し得る。好適なプロトコルは、例えばOxford MediStressの欧州特許第1558929号明細書に開示されている。一般にインキュベーション温度には37~37.5℃を選択することになり、所定の時間、好ましくは化学発光測定値が最大またはほぼ最大と一致する時間、継続してインキュベートする。上述のように、LCC検査のためにOxford MediStressにより供給されるPMAおよびルミノール塩を含む凍結乾燥した組成物により、指先穿刺した全血から、わずか10分間で好適な検査結果を得ることが可能となる。この組成物は実施例2にて報告する検査にて、好ましい試薬として使用した。
【0016】
化学発光の検出には従来のルミノメーターを使用してもよいが、このような光検出器には高価かつ脆い光電子増倍管が必要となる。ゆえに、他の光子検出器の使用が好ましい場合がある。特に、例えばシリコン光電子増倍管(Si-PM)が好まれる場合がある。このような光子検出器は目的のためにより頑丈であり、より良い費用効率と十分な光子検出感度とが組み合わさったものであると考えられる。好適な手持ち式のルミノメーターはまた、CopingCapacity(商標)検査キットの一部としてやはりOxford MediStressから入手可能であり、この検査キットでは上記のような凍結乾燥したPMA/ルミノール含有の試薬組成物もまた提供される。
【0017】
必要または所望であれば、各サンプルについて測定した基礎値を超えたスーパーオキシド産生量を、サンプル中の白血球または好中球数を参考に修正してもよい。上記したように、好中球は基礎値を超えたスーパーオキシド産生の大部分を担うと予測できるため、白血球のインビトロで誘導された誘発に対する基礎値を超えた余剰の産生能力は「好中球機能レベル」と称することができ、以下ではそのように呼ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】LCCスコアを使用した、最大コア腫瘍長(MCCL)および転移の有無に関する前立腺癌患者の層別化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の方法は、ヒト癌患者の癌の進行をモニタリングするという点で、またはこのような患者の処置後に癌再発の指標を提供するという点で特に興味深いが、獣医学分野、特に他の哺乳動物に関する癌処置に対する適用があることもまた理解されよう。
【0020】
上記のように、対象において腫瘍または他の癌の存在を評価するための本発明の方法は、処置中の癌患者の好中球機能レベルに対する癌処置の影響を評価するために同様に適用し得るステップを含む。
(i)患者から得た好中球を含む検査用サンプル、好ましくは全血サンプルと、好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な誘発物質を、そのような刺激に適切な条件下で接触させるステップ、
(ii)一定期間後、前記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を決定して、第1の結果を得るステップ、および
(iii)前記第1の結果を第2の対照結果と比較するステップ
これにより、対照結果と比較した前記検査用サンプル中にて誘発されたスーパーオキシド産生増加の減少が好中球機能レベルに対する処置の抑制効果を示す。
【0021】
対照結果は、前記処置に先だってまたは前記処置中に、より早い時点で同一患者から採取したサンプルに由来するものであってもよいということが理解されよう。
【0022】
ステップ(i)~(iii)を繰り返してもよく、その結果、これは患者の生理学的状態に対する癌処置の効果を長期にわたって(「長期」)モニタリングする際のきわめて便利な手段となる。このような方法は、例えば癌処置として化学療法および/または放射線療法を適用する際に臨床医による意思決定を手助けするための、例えば単に細胞を数えるまたは構造を調べる代わりに臨床的に関連のある細胞機能に基づくことになる化学療法および/または放射線療法セッション間の時間間隔を決定するための、便利な手段であると予想される。
【0023】
したがって、重要なのは、本発明ではキット構成要素の単一の組み合わせを、癌診断およびランク付け両方のために、ならびに同一患者の好中球機能が癌処置中に望まずして低下するのをモニタリングするために、提供することが可能となることである。
【0024】
別の好ましい実施形態では、本発明は癌の再発と関係した生理学的状態の変化の指標として、癌処置後の対象の好中球機能レベルを評価する方法であって、
(a)前記対象から得た好中球を含む検査用サンプル、好ましくは全血サンプルと、好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な誘発物質を、そのような刺激に適切な条件下で接触させるステップ、
(b)一定期間後、前記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を決定するステップ、および
(c)前記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を第2の比較用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加と同一時点および同一条件下で比較するステップであって、前記第2の比較用サンプルが癌処置後のより早い時点でかつ対象の癌が寛解していると考えられる期間に採取したサンプルである、ステップ
を含み、ここで、前記第2の比較用サンプルと比較した前記検査用サンプル中の誘発されたスーパーオキシド産生の増加が癌再発の指標となる、方法を提供する。
【0025】
したがって、本発明の方法により、癌の管理および処置に関して以下の全てが可能となると予想できる。
1.癌の攻撃性および再発の予測因子としての白血球検査。
2.治療の有効性の客観的マーカーとしての白血球検査。
3.治療のエンドポイントとしての白血球検査の使用。
4.(単に細胞を数えるまたは構造を調べる代わりに)細胞機能を最適化し、治療介入(例えば、化学療法セッション間および放射線療法セッション間の時間間隔)のバランスをとり加減するための白血球検査。
5.治療中の制御されたチェックポイントとしての白血球検査。
6.癌治療中のミクロ環境のセンサーとしての白血球検査。
7.癌罹患中の治療介入を最適化するための白血球検査。
【0026】
ここで注目したい他の可能な使用およびいくつかの可能な利益は、以下の通りである。
・癌の早期発見に使用可能である。
・至適奏効を判断するための家庭でのモニターとして使用可能である
・ライフスタイル(食べ物、運動、リラクセーション法)を調整して、最適な応答(個人に合わせた最適な結果)を決定することが可能である。
・癌のオーダーメイド処置(個別化医療)の助けとすることが可能である。例えば、限定するわけではないが、別の治療を用いた従来の医療の最適化である。
・別の医学的アプローチを組み合わせる(例えば従来のアプローチと食事療法)ために使用可能である。
・癌のホリスティック処置(ライフスタイル、従来のまたは別の養生法)を組み合わせ、最適化することが可能である。
・家庭でのモニタリングを定期的に実施して、処置の有効性をモニターし、最適化し、かつ追跡することが可能である。
・寛解後の再発を早期警告するものとして機能することが可能である。
・簡単で、使用しやすい。10分で結果を得ることができ、低侵襲性である。
・プロトコル用の装置は実験室ベースではなく持ち運び可能であり、そのため費用を最小限にできる。
・臨床的に関連のある好中球機能の客観的な評価に基づいて、処置(従来の、代わりの、ライフスタイル)の統合を可能にするための最初の技術である。
・真に個別化した客観的な癌治療を容易なものとする。
【0027】
本発明の方法は、乳癌、卵巣癌および他の癌タイプなどの種々の癌に広く適用可能であると予想される。このような方法を、例えば前立腺癌に関して特別に適用することを見出してもよい。
【0028】
上記のように、使用の利便性と特に関係があるのは、分離された白血球または好中球分画を得るために血液サンプルを分画する必要がないということである。本発明の方法を実施するための血液サンプルは、好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することができる任意の化学的誘発物質と直接接触させてもよい。誘発物質は、好ましくはホルボールミリステートアセテート(PMA)であってよく、より好ましくは、例えばSigmaから入手可能な微生物産物であるホルボール12-ミリステート13-アセテートであってもよい。しかし、用いてもよい代替的な誘発物質は周知である。これらには、N-ホルミル-メチオニル-ロイシル-フェニルアラニン(fMLP 走化性ペプチド)、ザイモサン、リポ多糖またはアドレナリンが含まれる。化学的誘発物質は、適切な緩衝溶液、例えばリン酸塩緩衝生理食塩水に溶解させるため、凍結乾燥した試薬組成物、例えばペレットの形態で便利に貯蔵することができる。
【0029】
上記に示したように、高感度と合わせた追加の利便性のため、スーパーオキシド産生量は、ルミノールまたはイソ-ルミノールなどの好適な増幅剤を使用した化学発光シグナル測定と関連付けられることになる(欧州特許第1558929号明細書、およびHu et al. (1999) Cell Signal 11, 355-360を参照)。ルミノールまたはイソ-ルミノールは、上記のPMAおよびルミノールを含む市販の凍結乾燥した組成物により例示されるようなサンプルに追加する場合、単一の試薬組成物中の化学的誘発物質にうまく供給し得る。各サンプルについて、追加した誘発物質の存在下での化学発光は、従来の持ち運び可能なルミノメーターを使用して、好適な時点で測定してもよい。しかし上記に示したように、代わりのより高性能な光子検出器、例えば、特にシリコン光電子増倍管の使用が好ましい場合がある。
【0030】
本発明のさらに別の態様では、持ち運び可能なルミノメーターまたはSi-PMなどの光検出器、および結果を解析して癌のリスクまたは癌の状態、例えば転移癌と関連付けられた好中球機能レベルに関して警告を発するためのシステムを備えた上述のような方法を実施するためのシステムを提供する。同一のシステムは、上述のように癌処置をモニタリングし、癌処置の変更または中止が望ましいことを支持するような好中球機能の低下に対してさらに警告を発する際にも用いてもよい。
【0031】
上記のように癌の存在を検出するための上述したような本発明の方法のステップ(a)~(c)を、特定の癌タイプの、場合により処置後の寛解を含む種々の進行度合いの患者由来の複数のサンプルに適用する場合、疾患進行を示すような1つまたは複数の判断基準と相関させることにより各癌患者のランク付けに使用することができる結果が得られるようになるということが示されている。例えば、このような判断基準は1つまたは複数の腫瘍サイズ範囲、例えば最大コア腫瘍長(MCCL)の範囲、転移ありおよび転移なしであってよい。このようにして、癌を層別化して疾患重症度を評価するためにLCCスコアを使用することができる。例えば、このような分析を前立腺癌患者由来の全血サンプルに適用することにより、転移性前立腺癌患者由来のサンプルのLCCスコアは、寛解患者またはMCCL4mm未満に相当する低グレードの非転移性前立腺癌患者由来の全血サンプルよりも著しく高いということが明らかになった。このような癌状態のランク付けは、他の腫瘍タイプ、例えば乳癌に同様に適用可能であり、かつLCCスコアの閾値決定を腫瘍の進行または再発を判断する際に使用することを可能とするものであると予測することができる。
【0032】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、腫瘍があると疑われるもしくは分かっている対象、または腫瘍が寛解したことがあらかじめ分かっている対象の癌の状態を評価する方法であって、
(a)前記対象から得た好中球を含む検査用サンプル、好ましくは全血サンプルと、好中球におけるスーパーオキシド産生を刺激することが可能な誘発物質を、そのような刺激に適切な条件下で接触させるステップ、
(b)一定期間後、前記検査用サンプル中の基礎値を超えたスーパーオキシド産生の増加を決定して、第1の結果を得るステップ、および
(c)前記第1の結果を、癌の状態に対応する1つまたは複数の判断基準、例えばサイズ範囲および/または転移と関連した予め定められた閾値である第2の比較用結果と比較して、それにより癌の状態を決定するステップ
を含む、方法を提供する。
【0033】
癌の状態は、腫瘍なし、例えば持続的な寛解として評価してもよい。これは、腫瘍の進行度合い、例えば転移への進行を定義するような1つまたは複数の判断基準に従う腫瘍の存在と同じと考えてよい。このような方法は、前立腺または乳癌腫瘍などの腫瘍が転移に発展しているかどうかを迅速に評価する際に特に好ましい場合がある。
【0034】
以下の非限定的実施例にて、本発明を説明する。
【実施例
【0035】
[実施例1]
全血サンプル中の好中球機能レベルを評価するためのPMAチャレンジを使用するプロトコル例
バックグラウンドの血液の化学発光レベルを測定するため、全血10μlをシリコンの反射防止チューブ(anti-reflective tube)に移す。リン酸緩衝液で希釈した10-4Mのルミノール(5-アミノ-2,3-ジヒドロファラジン(dihydrophalazine)、Sigma)90μlを加える。その後、チューブを穏やかに振盪する。PMAチャレンジに応答して発生する化学発光を測定するため、10-3Mの濃度のPMA(Sigma)20μlを加える。各チューブについて、ルミノメーター内で5分毎に30秒間、合計30分間化学発光を測定してもよい。ルミノメーター内に入れていないときには、チューブを37.5℃で、例えばドライブロックヒーター内でインキュベートする。
【0036】
37.5℃で10分間インキュベートした後に1回測定することが、便利かつより好ましいことが判明する場合もある。
【0037】
任意の十分に高感度な光子検出器を用いて同様のチャレンジ検査を実施してもよいということが理解されよう。例えば、Si-PMを用いてよい。
【0038】
[実施例2]
LCCスコアを使用した前立腺癌患者の層別化
試験は地域の倫理委員会により承認され、ロンドンにあるNHS管轄の実習病院にて実施した。前立腺の根治放射線治療後、救済治療前に生化学的再発がみられた70人の男性を試験に採用した。試験に同意後、かつ全身のマルチパラメトリックMRI(WB-MRI)を実施する前に、指先穿刺による血液サンプル(10マイクロリットル)を各患者から3度ずつ得、LCCスコアリング用にOxford MediStressから市販されている凍結乾燥したPMA/ルミノール試薬組成物を用いて好中球機能レベルを分析した。これには、血液と凍結乾燥したPMA/ルミノール混合物を含有する試薬の緩衝溶液(100マイクロリットル)との混合を必要とした。ドライブロックヒーター内にて37.5℃で10分間インキュベート後、持ち運び可能なルミノメーター(3M Clean Trace(商標))を用いて測定した活性酸素種の産生に関してサンプルを評価した。各検査対象から、1セットのサンプル(3つ)を得た。
【0039】
検査対象を、疾患重症度(「疾患の重大性」)に従って種々のカテゴリーにグループ分けすることにより検査結果を分析した。カテゴリーは以下の通りであった。
- 転移なし、再発の可能性は低い
- 転移なし、最大コア腫瘍長(MCCL)<4mm
- MCCLが4mm~10mmの間
- MCCL>10mm
- 転移あり
【0040】
これらのカテゴリーの各患者の好中球機能レベルのスコアを平均(平均)し、これらの平均値を図1に示すように棒グラフにプロットした。
【0041】
結果
- データは、LCCスコアと疾患重症度の増加との間の強い相関関係を示す。
- LCCスコア>450の患者18人中17人が、MCCL>4または転移ありと同等の重大な疾患に罹患していた。
- 転移のある患者由来のサンプルと、癌なしまたは低グレードの癌の患者群(転移なし/再発なしもしくはMCCL<4)由来のサンプルとの間に、統計的に有意な差(t検定により)が示された。
【0042】
これらの結果は、Oxford MediStressシステムを用いて測定されるLCCスコアにより評価される好中球機能レベルを進行状態の判断基準に関連する腫瘍の層別化に使用することができるということを初めて示すものであり、かつ、例えば転移の可能性がある進行した前立腺癌を、癌なしまたは低グレードの癌から迅速に識別する手段としてLCCスコアを使用することは特に興味深いということを示すものである。
図1