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特許7065866化学療法で誘発されたPSNを防止および処置するための非遷移金属配位ジピリドキシル化合物の使用
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  • 特許-化学療法で誘発されたPSNを防止および処置するための非遷移金属配位ジピリドキシル化合物の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】化学療法で誘発されたPSNを防止および処置するための非遷移金属配位ジピリドキシル化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/675 20060101AFI20220502BHJP
   A61K 31/444 20060101ALI20220502BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20220502BHJP
   A61K 31/555 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220502BHJP
   A61K 31/282 20060101ALN20220502BHJP
   A61K 33/243 20190101ALN20220502BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20220502BHJP
【FI】
A61K31/675
A61K31/444
A61K31/506
A61K31/555
A61P25/02 101
A61P35/00
A61K31/282
A61K33/243
A61P43/00 121
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019547179
(86)(22)【出願日】2017-11-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2017078982
(87)【国際公開番号】W WO2018087347
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】62/497,214
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519169889
【氏名又は名称】カールソン-タナー インベスト エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】カールソン ヤン-オロフ ジー
(72)【発明者】
【氏名】インゲ ペル
(72)【発明者】
【氏名】アンデション ロルフ ジージー
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-532189(JP,A)
【文献】特表2011-506434(JP,A)
【文献】特表2015-504066(JP,A)
【文献】J. Clin. Invest.,2014年,Vol.124,pp.262-272
【文献】Acta Oncologica,2009年,Vol.48,pp.633-635
【文献】Journal of Clinical Oncology,2016年05月01日,Vol.34, No.15_suppl. 10018
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における白金イオンを含有する化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のための、式Iで表わされる白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物、またはその薬学的に許容し得る塩を含み、前記ジピリドキシル化合物は、遷移金属ではない金属イオンと配位しているか、または金属イオンと配位していない、医薬組成物。
式I
【化1】
式中
Xは、CHまたはNを表し、
各Rは、独立して水素または-CHCORを表し;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化されたアルコキシ、アミノまたはアルキルアミドを表し;
各Rは、独立してZYRを表し、ここでZは、結合またはC1~3アルキレンもしくはオキソアルキレン基を表し、任意にRにより置換されており;
Yは、結合、酸素原子またはNRを表し;
は、水素原子、COOR、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基であり、任意にCOOR、CONR 、NR 、OR、=NR、=O、OP(O)(OR)RおよびOSOMから選択される1以上の基によって置換されており;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキルまたはアミノアルキル基であり;
は、水素原子または任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキル基であり;
Mは、水素原子または生理学的に耐容し得る陽イオンの1当量であり;
は、C1~8アルキレン、1,2-シクロアルキレン、または1,2-アリーレン基を表し、任意にRで置換されており;各Rは、独立して水素またはC1~3アルキルを表す。)
【請求項2】
前記化学療法薬がオキサリプラチンを含む、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記化合物が前記化合物の1~100μmol/kg体重で投与される、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記化合物が前記化合物の5~50μmol/kg体重で投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記化合物が前記化合物の5~30μmol/kg体重で投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項6】
がヒドロキシ、C1~8アルコキシ、アミノまたはC1~8アルキルアミドであり;Zが結合またはCH、(CH、CO、CHCO、CHCHCOおよびCHCOCHから選択される基であり;Yが結合であり;Rがモノもしくはポリ(ヒドロキシもしくはアルコキシル化)アルキル基または式OP(O)(OR)Rであり;Rがヒドロキシまたは非置換アルキルもしくはアミノアルキル基である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項7】
がエチレンであり、各基Rが-CHCORを表し、式中Rがヒドロキシである、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項8】
式Iの前記化合物が、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP;ホジピル)、N,N’-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N’-二酢酸(PLED)、およびそれらの薬学的に許容し得る塩からなる群から選択されたものである、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項9】
式Iの前記化合物が、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP;ホジピル)またはその薬学的に許容し得る塩である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項10】
患者における白金イオンを含有する化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のための医薬の製造のための、式I
【化2】
で表わされる白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物またはその薬学的に許容し得る塩の使用であって、ここで前記ジピリドキシル化合物は、遷移金属ではない金属イオンと配位しているか、または金属イオンと配位していない、前記使用。
式中
Xは、CHまたはNを表し、
各Rは、独立して水素または-CHCORを表し;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化されたアルコキシ、アミノまたはアルキルアミドを表し;
各Rは、独立してZYRを表し、ここでZは、結合またはC1~3アルキレンもしくはオキソアルキレン基を表し、任意にRにより置換されており;
Yは、結合、酸素原子またはNRを表し;
は、水素原子、COOR、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基であり、任意にCOOR、CONR 、NR 、OR、=NR、=O、OP(O)(OR)RおよびOSOMから選択される1以上の基によって置換されており;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキルまたはアミノアルキル基であり;
は、水素原子または任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキル基であり;
Mは、水素原子または生理学的に耐容し得る陽イオンの1当量であり;
は、C1~8アルキレン、1,2-シクロアルキレン、または1,2-アリーレン基を表し、任意にRで置換されており;各Rは、独立して水素またはC1~3アルキルを表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学療法薬損傷、特に白金イオン含有化学療法薬、例えばオキサリプラチンによって誘発される末梢性感覚神経障害(PSN)の処置における使用のための、非遷移金属配位ジピリドキシル化合物、例えば、N,N’-ビス-(ピリドキシル-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDPもしくはホジピル)または他の関連化合物(例えばピリドキシルエチルジアミン誘導体;PLED誘導体)に関する。
【背景技術】
【0002】
5-フルオロウラシル(5-FU)と組み合わせたオキサリプラチンは、結腸直腸がん(CRC)を処置するための強力な化学療法薬であるが、オキサリプラチンの臨床的使用は、重度の末梢性感覚神経障害(PSN)によって損なわれる。PSNの背後にある正確な機序は、ほとんど解明されていないが、それは、体内でのPt2+の貯留およびその後のタンパク質結合に関係している。オキサリプラチン関連PSNは、シスプラチン関連PSNとは異なる。両方によって末梢靴下・手袋型神経障害が生じ、それは、累積用量に伴って悪化する(非特許文献1)。オキサリプラチンは急性神経障害の問題と関連しているが、シスプラチンは関連せず、それは、一般に各オキサリプラチン投与後に生じ、しばしば数日以内に消失する。急性型は非常に厄介であり得るが、一般的な用量制限問題であり、オキサリプラチン処置の完全な中止の主な原因は、慢性PSNである。慢性神経障害は、足および手に現れる両側対称性の感覚症状(例えばしびれ、刺痛および疼痛)によって特徴づけられる。PSNを引き起こすのは後根神経節におけるPt2+の貯留であることが、一般に認められている。
【0003】
多くの金属、例えば鉛、カドミウム、水銀、マンガン、アルミニウム、鉄、銅、タリウム、ヒ素、クロム、ニッケルおよび白金へのヒトの曝露によって、各金属について異なる毒性作用がもたらされ得る。白金(Pt)の場合、および他の多くの金属についてと同様に、金属性の非荷電(非イオン性)形態は、健康に対するいかなる主要な有害作用とも関連していない。しかし、可溶性金属化合物、例えば金属イオン、特にPt2+を含む配位錯体、例えば化学療法薬オキサリプラチンは、はるかに毒性が強い。Pt含有薬物の殺腫瘍活性は、DNA鎖のPt2+架橋に依存する。オキサリプラチンの多くの代謝物の1つであるPt(II)-Clは、DNAを架橋できるオキサリプラチンの唯一の代謝物である。しかし、活性代謝物Pt(II)-Clに変換されるのは、オキサリプラチンの3%未満である(非特許文献2)。Pt(II)-Clは、非分裂末梢神経細胞においてある種のDNA架橋に寄与し得ることが可能であるが、かかる効果は、かなり制限されると予想される。したがって、Pt2+が神経細胞の細胞内タンパク質に結合することによってオキサリパルチン誘発性PSNを引き起こすのは非活性代謝物であると予想することは、妥当である(Shord et al.,2002)。
【0004】
キレート剤は、金属イオンと錯体を形成する分子である。キレート分子は、正に荷電した遷移金属イオンとの結合を形成するために利用可能な電子を有する。キレート化処理の主な目標は、生物学的リガンドを有する毒性金属錯体を、毒性金属イオンとキレート剤との間の新たな無毒性錯体に変換することであり、それは、生物体から容易に排泄され得る。これらの目標は、しかしながら、満たすのは容易ではないが、例えば鉄および銅の過負荷の処置のために臨床的に利用可能なリガンドが存在する(非特許文献3)。
【0005】
オキサリプラチンは、二座配位子である1,2-ジアミノシクロヘキサンおよび二座シュウ酸基に配位した正方形の平面状白金(II;Pt2+)中心を特徴とする。オキサリプラチン由来白金の主な排泄の経路は、腎臓を通してである。しかし、大部分が、かなりの時間にわたって体内に蓄積する。文献および以下の考察から、オキサリプラチンによって引き起こされる毒性の副作用、例えば神経毒性は、殺腫瘍性Pt(II)-Clのもの以外のPt代謝物の貯留、および正常細胞におけるPt2+のタンパク質へのその後の結合に主に起因することを提唱することは妥当であると見られる。
【0006】
オキサリプラチンまたはシスプラチンのいずれかについて常習的に推奨されるキレート療法はないが、限定されたヒトのデータによって、シスプラチンの殺腫瘍特性に有意な影響を及ぼすことなく、毒性副作用を軽減するために、高用量シスプラチン療法を受けている患者における可能な有効な処置としてのDDTC(ジエチルカルボジチオ酸ナトリウム)が示唆されている(Blanusa et al.,2005)。しかし、以下に論じるように、オキサリプラチンの毒性および治療プロファイルは共に、シスプラチンのものとは異なる。この差は最もおそらく、オキサリプラチンがシスプラチンよりもはるかに親油性の高い化合物であることによるものであり、それは、これらの化合物が投与後に体内でどのように分布するかに対してかなりの影響を及ぼす。脂肪親和性のはるかに高いオキサリプラチンは、シスプラチンよりも細胞外コンパートメントからはるかに急速に消失し、Pt由来のオキサリプラチンは、したがって腎排泄性キレート剤、すなわち親水性キレート剤に到達するのがより困難である。この差が、一見したところこれら2つの化合物の毒性を処置する可能性を支配しているようである。
【0007】
オキサリプラチンと関連する「キレート療法」という表現は、腫瘍医の間で頻繁に使用される表現である。しかしながら、この文脈における表現の意味論的意味は、奇妙であり、金属中毒を処置するためにキレート化合物を投与するという意味で「キレート療法」と共通するものはない。フランスの研究者らは当初、カルシウムおよびマグネシウムの注入がオキサリプラチンで誘発された神経障害を予防するために役立つと提唱した;オキサリプラチンとシスプラチンとの神経毒性の違いの理由は、シュウ酸塩がオキサリプラチンから代謝され、シュウ酸塩が、神経膜におけるイオンチャネルの機能に関与する元素であるカルシウムおよびマグネシウムをキレート化することが知られていることであったという仮説が立てられた。したがって、カルシウムおよび/またはマグネシウムは、オキサリプラチンで誘発された神経毒性を防止または改善し得ると考えられた(非特許文献4)。この仮説によって、腫瘍学分野における「キレート療法」という表現が定義された。この仮説は、理論的な観点からは多かれ少なかれありそうもないが、この特定の注入は、10年より長くにわたって一般的に用いられていた。第3相臨床試験(N08CB/Alliance)において、カルシウムおよびマグネシウムの注入がオキサリプラチン関連PSNを防止しないことが、最終的に例証された(Loprinzi et al.2014)。」
【0008】
オキサリプラチンで誘発されたPSNに対して有効であると証明されている他の処置はない(非特許文献5)。最近の臨床結果から、マンガホジピル(MnDPDP)またはカルマンガホジピル[MnCa(DPDP)]がこの状態に対する有効な療法として用いられ得ることが示唆される。一例として、マンガホジピルが末梢性感覚神経障害に対して保護し得ることを示唆する特許文献1のデータの解釈がある(3列上)。先行技術によると、これらの化合物またはそれらの代謝物は、遷移金属マンガンに依存する触媒活性を介して、オキサリプラチンで誘発されたPNSに対して保護する。この意味で、マンガホジピルおよびカルマンガホジピルは、超酸化物(O )をHおよびHOにディスムテートする(dismutate)ことにより、世界で最も速い酵素であるミトコンドリアスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)を模倣する。好気性生物は、機能的SODなしで生存しない。天然のMnSODおよびMnSOD模倣物の両方は、ディスムテーティング作用の間に一電子酸化および一電子還元を触媒するマンガン(Mn3/Mn2+)に依存する。しかし、マンガンによって、MnSOD模倣体の反復使用を制限する脳毒性の累積的形態が引き起こされ得る。理論的仮定によって、カルマンガホジピルの15回までの反復用量を安全に投与することが可能であるべきであるが、マンガホジピルについては、この数はより少ないことが示唆されている(非特許文献6)。これらの錯体中のマンガンによって、マンガンで誘発された神経毒性を含む多くの所望されない影響がもたらされ得る。
【0009】
結腸または直腸のがん(結腸直腸腺がん;CRC)は、米国およびヨーロッパで2番目に多いがんである。結腸直腸がん患者の約半数が、最終的に当該疾患で死亡し、これは、米国では年間約50,000人(非特許文献7)およびヨーロッパでは200,000人(非特許文献8)に相当する。
【0010】
結腸直腸がん(CRC)から生存する可能性は、疾患のステージに依存して異なり、原発部位に限局したがんを有する患者では一般に高く(ステージIおよびステージII)、進行した転移がんにおいては低い(ステージIV)(O’Neil & Goldberg,2008)。診断された結腸直腸がんの約1/3で、この疾患は、1つ以上のリンパ節に局所的に進行している(ステージIII)。ステージIIIの結腸がん患者における補助化学療法によって、5-フルオロウラシル(5-FU)を代わりにカペシタビン単独、および現在はオキサリプラチンと併用して、長年、実質的にこの群の生存率が約50%から70%超に増加している。市販されている他のPt(II)含有薬物、すなわちシスプラチンおよびカルボプラチン(単独または他の化学療法薬との併用)によっては、CRCに対する有効性は例証されない。
【0011】
オキサリプラチン+5-FU(FOLFOX)またはオキサリプラチン+カペシタビン(XELOX)は、それぞれ2週間または3週間のサイクルで投与される。補助療法の設定では、患者を、12回のFOLFOXサイクルまたは9回のXELOXサイクルで処置する。重度の有害事象のために、オキサリプラチン用量の減量によって引き起こされる特にPSNが、一般的である。対症的な設定では、患者を、処置が有益である限り処置する。
【0012】
しかし、オキサリプラチンの5-FUとの併用における有効性は、毒性、特にオキサリプラチンで誘発された末梢性感覚神経障害(PSN)の実質的なリスクのために重度に低下する。毒性は、患者の過半数に耐え難い負担を提示し、用量の減量、遅れ、または価値ある場合には療法の完全な中止を引き起こす。PSNは、オキサリプラチンを完全に中止する主な原因である。残存(慢性)PSNは、オキサリプラチンを使用する恐れられている結果である。PNSを防止および処置するための多数の方法が、現在まで不成功であることが証明されている(非特許文献9)。
【0013】
オキサリプラチン、第3世代白金製剤は、CRCの処置に用いられる2つの最も重要な新薬の1つと考えられている(非特許文献10)。この剤に対する臨床的影響および付随する熱意にもかかわらず、オキサリプラチンの利用可能性は、大部分PSNによって制限される。重要なことに、腫瘍進行ではなく神経毒性が、患者にこの剤でのさらなる療法を先送りするように強いる最も頻度の高い理由である。オキサリプラチンの承認された使用によって、結腸直腸がん(CRC)を有する患者の全生存期間が50年以上で初めて改善されたため、オキサリプラチンで誘発されたPNSに関する革新的な研究が、高く評価されている(Higa & Sypult,2016)。重要なことに、臨床データによって、Ptで誘発された神経毒性と腫瘍応答との間に相関が明らかにないことが示され(非特許文献11)、神経毒性が殺腫瘍効果を変化させることなく防止され得ることが示唆される。
【0014】
Coriatおよび共同研究者による最近の報告(非特許文献12)およびYri et al.による過去の症例報告(非特許文献13)では、しかしながら、i.v.マンガホジピルでの同時処置によってCRC患者におけるオキサリプラチンで誘発されたPSNが低下し得ることが記載されている。重要なことに、Coriat et al.の研究からのデータによって、マンガホジピルが進行中のPSNを防止するだけでなく、驚くべきことにまた治癒させることが示唆されている。これらの著者らは、既存のオキサリプラチンで誘発されたPSN(グレード2または1~3スケール相当)を有する患者が、オキサリプラチンおよびマンガホジピルの併用療法後に改善したことを例証した。オキサリプラチンで誘発されたPNSの重症度は累積用量と相関するため、オキサリプラチン単独での継続された処置は、PNSを悪化させると予想される。両方の刊行物は、マンガホジピルのマンガン超酸化物ジスムターゼ(MnSOD)模倣活性(非特許文献14;非特許文献15)がオキサリプラチンで誘発されたPSNに対して、MnPLED誘導体がそれぞれ虚血再潅流(非特許文献16)およびドキソルビシン(非特許文献17)によって引き起こされる心筋損傷、化学療法で誘発された骨髄抑制(非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20)ならびにパラセタモール(アセトアミノフェン)で誘発された肝不全(Bedda et al.,2003)に対して保護するのと同様の方式において保護することを示唆する。
【0015】
外部から投与されたMnSOD模倣体は、しかしながら、主に身体からのMnPLED誘導体(すなわち、MnDPDP、MnDPMPおよびMnPLED)の排除によって支配されるSOD活性の一時的な増加をもたらすことが予想される。ヒトボランティアからの薬物動態学的データは、Toft et al.(非特許文献21)によって記載されているように、DPDP/DPMP/PLEDに結合したMn2+が、MnDPDPの投与から10時間後に体内にほとんどまたは全く残っていないことを示唆する。理論的根拠から、かかる化合物は、したがって、オキサリプラチン投与に近接して投与した場合に予防効果を有し、既に確立されたPSNに対する治癒効果を有しないと予想されるに過ぎない。
【0016】
MnPLED誘導体の同時投与は、化学療法の抗がん効果を負に妨害しない。逆に、MnPLED誘導体は、それ自体の抗がん作用を有する(非特許文献22;非特許文献23;Karlsson et al.,2012B)。マンガホジピル(および他のMnPLED誘導体)の抗がん効果は、完全なマンガン複合体の固有の特性ではなく、ホジピル(またはその代謝物、DPMPおよびPLED)のみの固有の特性であり(特許文献2;特許文献1;Karlsson et al.,2012B)、一方、例えば、その心臓保護効果は、SOD模倣活性に依存する(非特許文献24を参照)。
【0017】
マンガン(Mn)は必須であり、潜在的に神経毒性の金属である(非特許文献25)。長年、マンガンに慢性的に曝露された状態の下で、パーキンソン病(PD)に似た錐体外路機能不全の症候群が起こりうることが知られている。Mn神経毒性は、非経口栄養を受けている患者では十分に確立されており、1μmol/日を超える用量(70キログラムの人では14nmol/kgに相当する)は、神経学的症状を発症する高まったリスクと関連する。Mnは脳内に蓄積し、消失半減期は50日を超える。サルにおける累積静脈内Mn毒性についての閾値は、十分に定義されており(5mg/kg)、約100μmol/kgに相当する。
【0018】
神経学的症状は、基底核におけるMnの蓄積と良好に相関し、T1強調MRIで高信号として見られる(非特許文献26)。前述の症例報告(Yri et al.,2009)の患者は、15サイクルの化学療法中14サイクルで10μmol/kgのマンガホジピルを投与され、結果として140μmol/kgの累積用量となった。マンガホジピルによる14サイクル後の脳MRIは、基底核においてT1強調信号強度の増加を示した。この患者は、PD様神経症状を示した。
【0019】
Coriat et al.,2014は、平均血漿Mn含有量が11.8±5.5nMから19.8±4.3nMに増加し、すべては、5μmol/kgのマンガホジピル同時処置(累積用量40μmol/kgに相当)での8サイクルの後に正常基準値内であることを報告した。しかし、血漿Mnは、Mn神経毒性の弱い予測因子と考えられている(Takagi et al.,2002)。はるかにより信頼できる予測因子は、脳T1強調MRIである。MRIは、Coriat et al.による試験では実施しなかった。本発明の発明者のうちの2名(KarlssonおよびJynge)は、Judy AschnerおよびMichael Aschner(マンガン神経毒の分野における2名の名高い専門家)と共に、神経毒性の深刻な問題に関して、Coriat論文に関して、Eレター2014(https://content.the-jci.org/eletters/view/68730)において、JournalOf Clinical Investigationに対してコメントした。
【0020】
ホジピルに結合したMn2+は非神経毒性であるようであるが、ホジピルから放出されたMn2+は血液脳関門を通過し、神経毒性を引き起こし得る。マンガホジピルのMn2+含有量の約80%は、静脈内投与により放出される(Toft et al.,1997)。Mn2+含有量の4/5をCa2+で置き換えることによってマンガホジピルを安定化することが可能であり、カルマンガホジピル[CaMn(DPDP)]として知られる化合物が得られる(特許文献1;Karlsson et al.,2012B)。同量の静脈内Mn投与で、カルマンガホジピルによって、ラット脳におけるMn放出および保持がかなり減少し、化学療法で誘発された白血球減少症に対してマウスを防御するのにマンガホジピルよりはるかにより有効である。マンガン貯留(および脳内貯留)は約50%に低下するが、それは尚存在し、カルマンガホジピルの使用を制限している。したがって、これらの欠点を伴わないPSNの処置を提供することが、尚望まれている。
【0021】
カルマンガホジピルは現在、CRC患者の臨床第II相、ステージIVにある(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT01619423)。これまでに提示された本研究の予備的結果(Karlsson et al.,2017を参照)は、カルマンガホジピルがオキサリパルチンで誘発されたPSNを改善しうることを示唆している。PledPharma ABによって提示された他のデータは、急性型に対するよりも慢性型PSNに対する本化合物のより顕著な効果を示唆している。これらのデータは、一見したところまたカルマンガホジピルの防止効果よりもむしろ治癒効果を支持しているようである。ステージIIIのCRC患者における5-FU+オキサリプラチン(FOLFOX)による標準化学療法には、12の連続サイクルが含まれる。リスク便益の観点から、PSNの発生率を低下させるために、カルマンガホジピルの併用投与をこれらのサイクルの各々に含めることは妥当であると思われる。より頻繁に使用するためには、蓄積したMn神経毒性が、克服できない障害を表す可能性が最も高い。したがって、オキサリプラチンおよび白金イオンを含む他の類似の薬物の頻繁な使用中にPSNを処置できることは、先行技術における問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】米国特許第9,187,509号明細書
【文献】米国特許第8377969号明細書
【非特許文献】
【0023】
【文献】Loprinzi et al.,J ClinOncol 2014;32:997-1005
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、従来技術の欠点の少なくともいくつかを軽減し、白金イオンを含む化学療法薬によって引き起こされる末梢性感覚神経障害を防止または処置するための改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、白金イオン含有化学療法薬からの化学療法で誘発された薬物損傷、例えばオキサリプラチンで誘発されたPSNを処置するための使用のための非遷移金属配位化合物を提供する。
【0026】
第1の態様では、患者における化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のための、式Iによる白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物、またはその薬学的に許容し得る塩を提供し、ここでジピリドキシル化合物は、配位していないか、または遷移金属ではない金属イオンと配位しており、ここで化学療法薬は、白金イオンを含み、
式I
【化1】
式中
Xは、CHまたはNを表し、
各Rは、独立して水素または-CHCORを表し;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化されたアルコキシ、アミノまたはアルキルアミドを表し;
各Rは、独立してZYRを表し、ここでZは、結合またはC1~3アルキレンもしくはオキソアルキレン基を表し、任意にRにより置換されており;
Yは、結合、酸素原子またはNRを表し;
は、水素原子、COOR、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基であり、任意にCOOR、CONR 、NR 、OR、=NR、=O、OP(O)(OR)RおよびOSOMから選択される1以上の基によって置換されており;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキルまたはアミノアルキル基であり;
は、水素原子または任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキル基であり;
Mは、水素原子または生理学的に耐容し得る陽イオンの1当量であり;
は、C1~8アルキレン、1,2-シクロアルキレン、または1,2-アリーレン基を表し、任意にRで置換されており;各Rは、独立して水素またはC1~3アルキルを表す。
【0027】
第2の態様では、患者における化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のための方法であって、化学療法薬が白金イオンを含み、当該方法が上に記載した式Iによる白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物またはその薬学的に許容し得る塩の有効量を患者に投与することを含み、ジピリドキシル化合物が配位していないか、または遷移金属ではない金属イオンと配位している、前記方法を提供する。
【0028】
第3の態様では、上に記載した式Iによる白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物またはその薬学的に許容し得る塩の使用を提供し、ジピリドキシル化合物は、配位していないか、または遷移金属ではない金属イオンと配位しており、患者における化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のための薬剤の製造のためであり、化学療法薬は、白金イオンを含む。
【0029】
第4の態様において、ジピリドキシル化合物が配位していないか、または遷移金属ではない金属イオンと配位している、上に記載した式Iによる白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物またはその薬学的に許容し得る塩の使用を提供し、患者における化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のためであり、ここで化学療法薬は、白金イオンを含む。
【0030】
本発明の利点は、白金イオンを含む化学療法薬、例えばオキサリプラチンの欠点を効率的に減少させる可能性を含む。さらに、マンガンイオンを含有する以前の化合物の欠点が、解消される。
【0031】
さらなる利点は、蓄積したマンガン神経毒性を有する以前の処置の欠点が解消されるので、薬物のより頻繁な使用が可能であることである。したがって、マンガン含有化合物、例えばマンガホジピルおよびカルマンガホジピルと比較して、はるかにより頻繁な投与が可能である。
【0032】
さらに別の利点は、式Iによる化合物を化学療法から時間的および空間的に分離して投与することができることである。
【0033】
本発明を、以下の図面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、実施例1に記載したような細胞生存率の減少として見られる、結腸がん細胞(CT26)中のホジピルのがん細胞死滅活性を概略的に例示し、
図2図2は、実施例1に記載したような生存率の減少として見られる、結腸がん細胞(CT26)中の種々の濃度のホジピルの非存在下および存在下での、オキサリプラチンのがん細胞死滅活性を概略的に例示し、
図3図3は、静脈内に投与したオキサリプラチン(2mg/kg)、生理食塩水(対照)、マンガホジピル(26.4μmol/kg)またはホジピル(26.4μmol/g)と静脈内同時投与した後のラットにおける尿中の白金の0~24時間の回収(%施与用量)を示し、
図4図4は、式Iを示し、種々の基の意味を、明細書中で説明する。
図5図5は、FOLFOXサイクルの6、8、および10日目の各々に15μmol/kgのホジピルを静脈内注入することによって、または1日目にマンガホジピル、あるいはまたカルマンガホジピルの静脈内注入による前処置と別々に、または併用して、CRC患者に本発明をどのように使用できるかを示す意図的な一例を示す。ホジピルに関しては、本処置スケジュールは、キレート化し、蓄積した神経毒性Ptの排泄を増加させ、それによってオキサリプラチン関連用量制限PSNの重篤な問題を低下させる魅力的な可能性を提供する。
図6図6は、FOLFOXサイクルの6、8および10日の各々に、別々に、またはマンガホジピルの静脈内注入による前処置と組み合わせて、腸溶コーティングCaPLEDの経口投与により、CRCの患者に本発明がどのように使用され得るかを示す意図的な一例を示す。腸溶コーティングCaPLEDに関しては、本処置スケジュールは、キレート化し、蓄積した神経毒性Ptの排泄を増加させ、それによってオキサリプラチン関連用量制限PSNの重篤な問題を低下させる魅力的な可能性を提供する。50%の生物学的利用能を予測すると、経口用量あたりの妥当な用量は、30μmol/kg/処置日であろう。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を詳細に開示し、記載する前に、本発明が、特定の化合物、構成、方法ステップ、基質、および本明細書に開示した材料に限定されるものではなく、かかる化合物、構成、方法ステップ、基質、および材料が、多少変化し得ることを理解するべきである。また、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ制限されるので、本明細書で使用する用語を、特定の実施形態を説明する目的のみに使用し、限定することを意図しないことを理解するべきである。
【0036】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかに別段の指示をしない限り複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。
【0037】
他に何も定義しない場合、本明細書で使用するあらゆる用語および科学的用語は、本発明が関係する当業者によって一般に理解される意味を有することを意図する。
【0038】
本明細書で使用する「アルキル」および「アルキレン」という用語は、直鎖状および分枝状、飽和および不飽和炭化水素を包含する。用語「1,2-シクロアルキレン」は、シスおよびトランスシクロアルキレン基の両方、ならびに5~8個の炭素原子を有するアルキル置換シクロアルキレン基を含む。用語「1,2-アリーレン」は、フェニルおよびナフチル基、ならびに6~10個の炭素原子を有するそれらのアルキル置換誘導体を包含する。特に指定のない限り、いかなるアルキル、アルキレンまたはアルケニル部分も、好都合には1~20個、より具体的には1~8個、より具体的には1~6個およびさらにより具体的には1~4個の炭素原子を含有し得る。シクロアルキル部分は、好都合には3~18個の環原子、特に5~12個の環原子およびさらにより具体的には5~8個の環原子を含有し得る。フェニルまたはナフチル基を含むアリール部分が、好ましい。アラルキル基としては、フェニルC1~8アルキル、特にベンジルが、好ましい。基が任意にヒドロキシル基によって置換されていてもよい場合、これは単置換または多置換であってもよく、多置換の場合には、アルコキシおよび/またはヒドロキシル置換基は、アルコキシ置換基によって担持されていてもよい。
【0039】
本明細書で使用する「遷移金属」という用語は、原子が部分的に充填されたdサブシェルを有する元素を示す。例としては、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、およびHgが挙げられるが、これらに限定されない。「非遷移金属」は、遷移金属ではない金属を示す。本明細書で用いる「金属」という用語は、文脈上明確に別段の指示がない限り、イオンおよび元素状金属の両方を包含する。
【0040】
本明細書で使用する「キレート化」という用語は、配位錯体とも呼ばれるキレート錯体を形成する化合物の特性を示す。例としては、化合物および白金イオンとキレート錯体(すなわち、配位錯体)を形成する能力を有する白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物が挙げられる。白金キレート化合物は、他の金属イオンもキレート化できる可能性が高く、例えば、本発明のジピリドキシル化合物は、白金イオンおよび他のイオンをキレート化できる。「白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物」は、したがって、ジピリドキシル化合物が白金イオンとキレート化し、キレート(すなわち、錯体)を形成する能力を有することを意味するが、それは、化合物が白金のみとのキレートを形成するように制限されることを意味せず、反対に、化合物が他のイオンと同様にキレートを形成することができることを意味する。化合物に対する金属イオンの親和性は、種々のイオン間で変化し得る。
【0041】
本明細書で使用する「配位した」という用語は、化合物および金属イオンが配位錯体を形成することを示す。かかる配位錯体は、キレート錯体とも呼ばれる。本発明の化合物の場合において、それが配位する化合物の場合、一つの金属イオンが一つの分子と配位する。本発明のジピリドキシル化合物は、配位していないか、または金属イオンと配位して、配位錯体またはキレート錯体を生成する。
【0042】
第1の態様では、患者における化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のための、式Iによる白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物、または薬学的に許容し得るその塩を提供し、ここでジピリドキシル化合物は、配位していないか、または遷移金属ではない金属イオンと配位しており、ここで化学療法薬は、白金イオンを含み、
式I
【化2】
式中
Xは、CHまたはNを表し、
各Rは、独立して水素または-CHCORを表し;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化されたアルコキシ、アミノまたはアルキルアミドを表し;
各Rは、独立してZYRを表し、ここでZは、結合またはC1~3アルキレンもしくはオキソアルキレン基を表し、任意にRにより置換されており;
Yは、結合、酸素原子またはNRを表し;
は、水素原子、COOR、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基であり、任意にCOOR、CONR 、NR 、OR、=NR、=O、OP(O)(OR)RおよびOSOMから選択される1以上の基によって置換されており;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキルまたはアミノアルキル基であり;
は、水素原子または任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキル基であり;
Mは、水素原子または生理学的に耐容し得る陽イオンの1当量であり;
は、C1~8アルキレン、1,2-シクロアルキレン、または1,2-アリーレン基を表し、任意にRで置換されており;各Rは、独立して水素またはC1~3アルキルを表す。
【0043】
ジピリドキシル化合物は、配位していないか、または遷移金属ではない金属イオンと配位していると考えられる。したがって、1つの実施形態において、ジピリドキシル化合物は、配位していない、すなわち、いかなる金属イオンとも配位していない。別の態様において、ジピリドキシル化合物は、遷移金属イオンではない金属イオンと配位している。ジピリドキシル化合物が配位している場合、1つのジピリドキシル化合物は、典型的には、1つの金属イオンと配位している。
【0044】
1つの実施形態において、化学療法薬は、オキサリプラチンを含む。化学療法薬の組み合わせ、例えば5-FUとオキサリプラチンとの組み合わせもまた、包含される。
【0045】
1つの実施形態において、遷移金属ではない金属は、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つを含む。非遷移金属または遷移金属ではない金属の制限によって金属、例えばマンガンが除外されることに留意することが重要である。1つの実施形態において、遷移金属ではない金属は、カルシウムである。1つの実施形態において、遷移金属ではない金属は、マグネシウムである。1つの実施形態において、遷移金属ではない金属は、カルシウムおよびマグネシウムの混合物であり、その結果、いくつかの錯体はカルシウムイオンを含み、いくつかの錯体はマグネシウムイオンを含む。カルシウムおよびマグネシウムは、式Iによるキレート化合物に対するそれらの親和性が好適であるので、好適な金属イオンである。それらの親和性は白金イオンのものよりも低いと予想されるが、これらの化合物に対する白金イオンの親和性は知られていない。それにもかかわらず、白金イオンが存在する場合、平衡は、相当量の配位したカルシウムおよび/またはマグネシウムイオンが白金イオンによって置き換えられるようにシフトすると推定される。同時に、カルシウムおよびマグネシウムイオンは、関連する濃度ではいかなる顕著な負の影響も引き起こさないようである。逆に、配位したカルシウムは、実際に、急速静脈内投与により、遊離のカルシウムの細胞外濃度の(配位していない)ホジピルで誘発された低下に対して保護し得る。心臓は、その血液ポンプ活性について細胞外カルシウムに絶対的に依存しているので、遊離カルシウムの細胞外含有量の急速な減少によって、急性心不全が誘発され得る。これは、カルシウム配位したホジピル(または代謝物)を利用することによって容易に解決され得る(米国特許第9,187,509号)。1つの実施形態において、遷移金属ではない金属は、いかなる顕著な有害作用も引き起こさないことが知られている金属である。
【0046】
1つの実施形態において、化合物を、1~100μmol/kg体重の化合物で投与する。代替の実施形態において、化合物を、5~50μmol/kg体重の化合物で投与する。さらに代替の実施形態において、化合物を、5~30μmol/kg体重の化合物で投与する。1つの実施形態において、化合物を、経口投与する。別の態様において、化合物を、静脈内投与する。1つの実施形態において、化合物の注射用溶液中の濃度は、1~100mMの間隔である。
【0047】
式Iによる化合物、例えば、ホジピルまたは他のPLED誘導体を、医薬組成物において好適に投与する。任意に、化合物を含む医薬組成物は、1種以上の生理学的に許容し得る担体および/または賦形剤を、当業者に周知の方法で含むことができる。1つの実施形態において、化合物を、例えば、液体媒体中に、任意に薬学的に許容し得る賦形剤を添加して懸濁または溶解してもよい。医薬組成物に好適な賦形剤には、安定剤、酸化防止剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、pH調整剤、結合剤、充填剤などを含むが、これらに限定されない、任意の慣用の医薬または獣医学的製剤賦形剤が含まれる。医薬組成物は、非経口投与および経腸投与の両方を含む投与に適した形態であり得る。具体的な実施形態では、組成物は、例えば、注射または注入に適した形態であり得る。したがって、本発明の化合物を含む医薬組成物は、慣用の医薬投与形態、例えば錠剤、カプセル、粉末、溶液、懸濁液、分散液、シロップ、座薬、エアロゾル、軟膏、硬膏などであってもよい。
【0048】
かかる組成物を、種々の経路、例えば、経口、経皮、直腸内、髄腔内、局所的、または吸入もしくは注射、特に皮下、筋肉内、腹腔内もしくは血管内注射によって投与してもよい。他の投与の経路も同様に使用してもよく、鼓室内および鼻腔内を含み、生成物の有効性、生物学的利用能または耐性を増加させる経路が、好ましい。最も適切な経路を、使用する特定の処方に従って、当業者によって選択することができる。
【0049】
FOLFOXの補助薬としてのマンガホジピル(Karlsson et al.,2012A;Coriat et al.,2014)またはカルマンガホジピル(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT01619423)の本使用は、非経口投与によるものである。FOLFOXは、院内で静脈内注入として投与され、静脈内マンガホジピルまたはカルマンガホジピルとの同時処置は、したがってほとんど問題ではない。しかしながら、化学療法から時間的および空間的に分離された処置に関しては、経口活性製剤の大きな利点であろう。これにより、病院外での処置が可能になる。理論的な出発点から、腸溶コートしたCa2+配位PLEDが、好ましい。これは、比較的小さく(Mw 518)、中性pH付近の非荷電化合物である(Rocklage et al.Inorg Chem.1988;27:3530-3534)。胃内のpHが低いと、Ca2+がPLEDから解離し、この結果、PLEDの電荷が増加し、それによって、次に化合物の胃腸吸収に負の影響が及ぶ。これを、胃酸に耐性であるがそれが小腸に到達すると溶解し始める腸溶コーティングによって固定することができ、当業者に公知の方法を利用する。消化管は、上皮細胞で覆われている。薬物は、循環系中に吸収されるために、これらの細胞を通過または透過しなければならない。間接的証拠によって、MnPLEDが心臓を虚血-再潅流損傷(Karlsson et al.,2001)およびドキソルビシンによって引き起こされる損傷(Kurz et al.,2012)に対して保護するために、心臓の細胞膜を容易に通過しなければならないことが示されている。このことは、実際に、MnPLEDがCaPLEDと同様に腸中で吸収されることを示唆している。これら2つの化合物の大きさおよび総電荷は、程度の差はあるが同じである。ラットの胃中に注入した後の被覆していないMnPLEDの胃腸吸収は、US6310051に記載されている。予想通り、未変化のMnPLEDの吸収は、程度の差はあるが認められず、PLEDが100μmol/kgの投与後5分~2時間で血漿中に検出されたが、濃度は1μM以下であった。しかしながら、CaPLEDの腸溶コートした製剤の生物学的利用能は、上記の理由により、良好であると予想される。
【0050】
1つの実施形態において、本発明の処置方法は、約1~100μmol/kg体重の化合物を投与することを含む。より具体的な実施形態では、本発明の処置方法は、約5~50μmol/kg、または約5~30μmol/kg体重の化合物を投与することを含む。投与の経口経路には、前者のより低い生物学的利用能のために、おそらく非経口経路よりも高い用量が必要であろう。当業者は、この記載に照らして、用量を適合させることができる。
【0051】
1つの実施形態において、式Iによる化合物での処置を、化学療法薬での処置と同時に行う。別の態様において、式Iによる化合物での処置を、化学療法薬での処置と部分的に同時に行う。さらに別の実施形態では、式Iによる化合物での処置を、化学療法薬での処置の前に実施する。別の態様において、式Iによる化合物での処置を、化学療法薬での処置の後に行う。さらに別の実施形態では、処置を、上記の実施形態の任意の可能な組合せに従って行う。オキサリプラチンをおそらく他の化学療法薬と共に、少なくとも1回の14日サイクルの間に施与すると仮定すると、1つの非限定的な実施形態では、式Iによる化合物を、6~10日目に投与する。
【0052】
一実施形態において、Rは、ヒドロキシ、C1~8アルコキシ、エチレングリコール、グリセロール、アミノまたはC1~8アルキルアミドであり;Zは、結合またはCH、(CH、CO、CHCO、CHCHCOおよびCHCOCHから選択される基であり;Yは、結合であり;Rは、モノもしくはポリ(ヒドロキシもしくはアルコキシル化)アルキル基または式OP(O)(OR)Rであり;Rは、ヒドロキシまたは非置換アルキルもしくはアミノアルキル基である。
【0053】
1つの実施形態において、Rはエチレンであり、各基Rは-CHCORを表し、式中Rはヒドロキシである。
【0054】
1つの実施形態において、式Iの化合物は、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP;ホジピル)、N,N’-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N’-二酢酸(PLED)、およびそれらの薬学的に許容し得る塩からなる群から選択される化合物である。さらに別の実施形態では、式Iの化合物は、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP;ホジピル)またはその薬学的に許容し得る塩である。
【0055】
第2の態様では、患者における化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のための方法であって、化学療法薬が白金イオンを含み、当該方法が式Iによる白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物またはその薬学的に許容し得る塩の有効量を患者に投与することを含み、ここでジピリドキシル化合物は、配位していないか、または遷移金属ではない金属イオンと配位している、前記方法を提供する。
式I
【化3】
式中
Xは、CHまたはNを表し、
各Rは、独立して水素または-CHCORを表し;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化されたアルコキシ、アミノまたはアルキルアミドを表し;
各Rは、独立してZYRを表し、ここでZは、結合またはC1~3アルキレンもしくはオキソアルキレン基を表し、任意にRにより置換されており;
Yは、結合、酸素原子またはNRを表し;
は、水素原子、COOR、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基であり、任意にCOOR、CONR 、NR 、OR、=NR、=O、OP(O)(OR)RおよびOSOMから選択される1以上の基によって置換されており;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキルまたはアミノアルキル基であり;
は、水素原子または任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキル基であり;
Mは、水素原子または生理学的に耐容し得る陽イオンの1当量であり;
は、C1~8アルキレン、1,2-シクロアルキレン、または1,2-アリーレン基を表し、任意にRで置換されており;各Rは、独立して水素またはC1~3アルキルを表す。
【0056】
本方法の1つの実施形態において、化学療法薬は、オキサリプラチンを含む。
【0057】
本方法の1つの実施形態において、遷移金属ではない金属は、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0058】
本方法の1つの実施形態において、本方法は、約1~100μmol/kg体重の化合物を投与することを含む。本方法の別の態様において、本方法は、約5~50μmol/kg体重の化合物を投与することを含む。本方法のさらに別の実施形態では、本方法は、約5~30μmol/kg体重の化合物を投与することを含む。
【0059】
本方法の1つの実施形態において、Rは、ヒドロキシ、C1~8アルコキシ、エチレングリコール、グリセロール、アミノまたはC1~8アルキルアミドであり;Zは、結合またはCH、(CH、CO、CHCO、CHCHCOおよびCHCOCHから選択される基であり;Yは、結合であり;Rは、モノもしくはポリ(ヒドロキシもしくはアルコキシル化)アルキル基または式OP(O)(OR)Rであり;Rは、ヒドロキシまたは非置換アルキルもしくはアミノアルキル基である。
【0060】
本方法の1つの実施形態において、Rはエチレンであり、各基Rは-CHCORを表し、式中Rはヒドロキシである。
【0061】
本方法の1つの態様において、式Iの化合物は、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP;ホジピル)、N,N’-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N’-二酢酸(PLED)、およびそれらの薬学的に許容し得る塩からなる群から選択される化合物である。本方法の別の実施形態では、本方法。
【0062】
本方法の1つの態様において、式Iの化合物は、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP;ホジピル)またはその薬学的に許容し得る塩である。
【0063】
本方法の1つの実施形態において、化学療法薬は、オキサリプラチンを含む。
【0064】
第3の態様では、患者における化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のための医薬の製造のための、式I
【化4】
による白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物またはその薬学的に許容し得る塩の使用を提供し、ここでジピリドキシル化合物は、配位していないか、または遷移金属ではない金属イオンと配位しており、
式中
Xは、CHまたはNを表し、
各Rは、独立して水素または-CHCORを表し;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化されたアルコキシ、アミノまたはアルキルアミドを表し;
各Rは、独立してZYRを表し、ここでZは、結合またはC1~3アルキレンもしくはオキソアルキレン基を表し、任意にRにより置換されており;
Yは、結合、酸素原子またはNRを表し;
は、水素原子、COOR、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基であり、任意にCOOR、CONR 、NR 、OR、=NR、=O、OP(O)(OR)RおよびOSOMから選択される1以上の基によって置換されており;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキルまたはアミノアルキル基であり;
は、水素原子または任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキル基であり;
Mは、水素原子または生理学的に耐容し得る陽イオンの1当量であり;
は、C1~8アルキレン、1,2-シクロアルキレン、または1,2-アリーレン基を表し、任意にRで置換されており;各Rは、独立して水素またはC1~3アルキルを表し、
化学療法薬は、白金イオンを含む。
【0065】
第4の態様では、患者における化学療法薬で誘発された末梢性感覚神経障害の防止または処置のための、式I
【化5】
による白金イオンキレート化ジピリドキシル化合物またはその薬学的に許容し得る塩の使用を提供し、ここでジピリドキシル化合物は、配位していないか、または遷移金属ではない金属イオンと配位しており、
式中
Xは、CHまたはNを表し、
各Rは、独立して水素または-CHCORを表し;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化されたアルコキシ、アミノまたはアルキルアミドを表し;
各Rは、独立してZYRを表し、ここでZは、結合またはC1~3アルキレンもしくはオキソアルキレン基を表し、任意にRにより置換されており;
Yは、結合、酸素原子またはNRを表し;
は、水素原子、COOR、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基であり、任意にCOOR、CONR 、NR 、OR、=NR、=O、OP(O)(OR)RおよびOSOMから選択される1以上の基によって置換されており;
は、ヒドロキシ、任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキルまたはアミノアルキル基であり;
は、水素原子または任意にヒドロキシル化された、任意にアルコキシル化されたアルキル基であり;
Mは、水素原子または生理学的に耐容し得る陽イオンの1当量であり;
は、C1~8アルキレン、1,2-シクロアルキレン、または1,2-アリーレン基を表し、任意にRで置換されており;各Rは、独立して水素またはC1~3アルキルを表し、
化学療法薬は、白金イオンを含む。
【0066】
上に記載した種々の実施形態のそれぞれを、すべての他の実施形態と自由に組み合わせることができる。種々の態様の実施形態を、自由に組み合わせることができ、例えば、化合物の実施形態を、本方法の実施形態と組み合わせることができる。
【0067】
式Iの化合物は、2つのピリジル環上に同一の、または異なるR群を有してもよく、これらは、同一の、または異なる環位置に結合していてもよい。具体的な実施形態では、置換は、ヒドロキシル基に対して5位および6位、またはより具体的には6位、パラにある。具体的な実施形態では、R基は同一であり、同一に位置し、より具体的には6,6’位にある。
【0068】
さらにより具体的な実施形態では、各Rは、モノもしくはポリ(ヒドロキシもしくはアルコキシル化)アルキル基、または式OP(O)(OR)Rの基である。
【0069】
1つの実施形態において、Rは、ヒドロキシ、C1~8アルコキシ、エチレングリコール、グリセロール、アミノまたはC1~8アルキルアミドであり;Zは、結合またはCH、(CH、CO、CHCO、CHCHCOおよびCHCOCHから選択される基であり;Yは、結合であり;Rは、モノもしくはポリ(ヒドロキシもしくはアルコキシル化)アルキル基または式OP(O)(OR)Rであり;Rは、ヒドロキシまたは非置換アルキルもしくはアミノアルキル基である。より具体的な実施形態では、Rはエチレンであり、各基Rは-CHCORを表し、式中Rはヒドロキシである。さらなる実施形態において、式Iの化合物は、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N、N’-二酢酸(DPDP)、またはその薬学的に許容し得る塩である。なおさらなる実施形態において、化合物は、N、N’-ビス-(ピリドキサール-5-ホスフェート)-エチレンジアミン-N、N’-二酢酸、またはその塩である。
【0070】
ホジピルの抗がん活性に対するオキサリプラチンの阻害作用は、これまで認められていないが、結果は、2012年に既に公表され、それは、今日では、新たな知見に照らして、かかる阻害を実際に示している。本発明者らのKarlssonおよびAndersson(Karlsson et al.,2012B)は、最初、現在の実験を以下のように解釈した:「オキサリプラチンは、CT26細胞を濃度依存的方式で死滅させた(記事中の図6)。10、30、100μMのホジピルは、いずれもオキサリプラチンのがん細胞死滅能力に負に干渉しなかった。10μMのホジピルの相加効果は、オキサリプラチンの低濃度範囲で見られた」。これは、オキサリプラチン単独および10μMのホジピルとの併用に関して正しい解釈であるが、Karlsson、Anderssonおよび共著者らは、100μM(および30μM)のオキサリプラチンがホジピルのがん細胞死滅活性に及ぼす阻害効果を監視した。しかしながら、マンガホジピルの治癒効果を示すCoriat et al.,2014による驚くべき知見は、この特定の局面を特定し、更新した。
【0071】
実施例1に示すように、100μMの濃度のホジピルは、CT26結腸がん細胞に対してほぼ完全な細胞死滅活性を保有する。100μMのホジピルの存在下で、0.1μMから30μMに増加する濃度のオキサリプラチンを添加すると、がん細胞死滅活性が連続的に低下する。オキサリプラチンのアンタゴニスト活性は、100μMで消失した。古典的薬理学において、オキサリプラチンのかかる効果は、部分的アゴニスト効果として知られている。しかし、オキサリプラチンとホジピルとの間のかかる相互作用がどのようにして起こるのかを説明するのは、容易な作業とはほど遠い。ホジピルのがん細胞死滅活性は、ホジピルに結合する金属の存在下で消失することが知られている。高い結合親和力を有する金属、例えばZn2+は、より低い結合親和力を有する金属、例えばMn2+よりも有効な阻害剤である(Karlsson et al.,2012B)。ホジピルに対するオキサリプラチンのアンタゴニスト効果に対する一つの妥当な説明は、Pt2+がホジピルに結合することであり得る。しかし、Pt2+がホジピルまたはその代謝物であるDPMPおよびPLEDに結合することを示すデータは、公表されていない。
【0072】
オキサリプラチンで誘発されたPSNに対するMnPLED誘導体の保護効果は、先行技術によると、未変化のMn複合体に依存すると予想される(米国特許第9,187,509号明細書;Yri et al.,2009;Coriat et al.,2014)。しかしながら、古いデータ(Karlsson et al.,2012B)を再度解釈し、Pt2+のホジピル(またはその代謝物)への結合を予測することにより、実施例1に記載したように、オキサリプラチンで誘発されたPSNを処置するための新しく、極めて興味深い新規の可能性が明らかになる。
【0073】
マンガホジピルは当初、MRI造影剤として開発された(Karlsson et al.,2015を参照)。MRI投与量(すなわち、5~10μmol/kg)をヒトまたはラットに注射すると、そのマンガン(II)(Mn2+)の約80%が、ホジピルまたはその代謝物から放出され、20%のみが結合したままである。常磁性Mn2+の放出は、実際、診断的コントラスト増強特性のための前提条件である(Wendland,NMR Biomed.2004;17:581-594)。MnSOD模倣活性は、他方、未変化のマンガン錯体に完全に依存し、すなわち、ホジピルもMn2+も、単独ではいかなるかかる活性をも保有しない(Brurok et al.,1999)。MnSOD反応では、酸化還元活性Mn2+は、まずO (超酸化物)によってMn3+に酸化される。こうして生成したMn3+は、その後第二のO によってMn2+に還元され、この反応が遷移マンガン、銅、または鉄含有SOD酵素によって触媒されるような真の金属で触媒された不均化になる。
【0074】
オキサリプラチンの主要な静脈内投与量は、迅速かつ広範な非酵素的生体内変換を受け(Graham et al.Clin Cancer Res 2000;6:1205-2018)、血液および血漿中で様々な反応性中間体を形成する。17種までの白金含有代謝物が、患者からの血漿限外濾過試料中で検出されている。これらの代謝物(ジクロロ/モノアクアモノクロロ錯体を除く)は、殺腫瘍活性をそれ以上大きい程度に保有しないと考えられる。白金薬物について、DNA損傷がそれらの殺腫瘍特性に大きく関与していることが一般に認められている(Raymond et al.Molecular Cancer Therapeutics 2002;1:227-235)。さらに、活性代謝物、すなわち、オキサリプラチンのPt(II)-Cl複合体が、PSNにそれ以上大きい程度に寄与する可能性は低いと考えられる。なぜなら、限られた量(<3%)のオキサリプラチンのみが、Pt(II)-Cl錯体への生体内変換を受けるからである(Shord et al.Anticancer Res.2002;22:2301-23090)。
【0075】
シスプラチン(別のPt(II)-Cl2)と同様に、オキサリプラチンの主要な作用機序は、DNA付加体の生成を介して媒介される(Raymond et al.AnnalOfOncology.1998;9:1053-1071)。Pt(II)化合物が細胞内に入ると、一つの塩化物配位子が解離して、反応性のモノアクアモノクロロ錯体を生成し、それがDNA上のグアニンと速やかに反応して、モノ付加物が生成する。第二の塩化物配位子のその後の解離によって、一時的に形成されたモノ付加物の種々の安定なジ付加物への変換が可能になる。これらの鎖内付加物は、DNA複製および転写の両方を効果的に遮断し、主要な細胞傷害性病変と考えられている。Pt2+の排泄は、糞便中よりも主に尿中で起こる(Graham et al.,2000)。物質収支研究を実施して、オキサリプラチンの単回投与後の患者における白金排泄の主要な経路を決定した。5日間にわたり、Pt投与量の53.8%が尿中に排泄され、糞中には2.1%のみであった。このことは、施与したPt用量の約半分のみが5日間にわたって体内から排泄されたことを意味する。この量は、11日間の研究でわずかに増加しただけであった。
【0076】
オキサリプラチンではなくシスプラチンが高度に腎毒性である理由は、不明である。オキサリプラチンではなくシスプラチンが聴器毒性を引き起こす理由も、明らかではない。シスプラチンはPSNを引き起こすが、その毒性学的プロファイルはオキサリプラチンのものとは異なり、理由はほとんど知られていない。しかしながら、シスプラチンとオキサリプラチンとの間には薬物動態学的特性にいくつかの明確な差異があり、これがこれらの2つの化合物の異なる毒性プロフィールを説明している可能性がある。
【0077】
オキサリプラチンは、シスプラチンについての約20リットルと比較して、約600リットルという大きな分布容積を有する(Graham et al.,2000)。この差は、シスプラチンと比較してオキサリプラチンの親油性がはるかに高いことを意味する。このことは、次に、前者の細胞膜透過性および細胞保持性がはるかに高いことを意味している可能性がある。シスプラチンとは異なり、オキサリプラチンはPt2+を赤血球(RBC)中に蓄積し、最終Pt半減期は約50日であり、RBCのものとほぼ同じであり(Gamelin et al.Clin Cancer Res.1997;3:891-899)、それは、不可逆的蓄積を示す。Pt2+は、グロビンへの共有結合によりRBC中に捕捉されると考えられる。
【0078】
シスプラチンの代謝物およびオキサリプラチンの代謝物は、スルフヒドリル基を有する小タンパク質、例えばグルタチオン、システインおよびメチオニンと、次いで共有結合を介して高分子量タンパク質と反応する(Boisdron-Celle et al.Bull Cancer.2001;88 Spec No:S14-19)。したがって、それらの最終半減期は長い。血漿中のPt蓄積はシスプラチン投与後に起こるが、オキサリプラチン投与後はそれ以上大きい程度に起こらない。この差はまた、2つの薬物の毒性学的プロファイルの差を説明するのにも役立つであろう。
【0079】
がん化学療法剤としてのPt(II)ベースの薬物は、広く研究されているが、細胞内でのそれらの蓄積を支配する機序の正確な知識は、依然として不足している。数年にわたって、Cuトランスポーターは、Pt(II)化学療法剤の細胞への移入および排出、ならびにそれらの耐性機構に関与することが提唱されている(Spreckelmeyer et al.Molecules 2014;19:15584-15610)。ヒトCuトランスポーター1(hCtr1)の発現によって、シスプラチンに対する増加した感受性がもたらされ、一方ATPアーゼを輸送する2つのCu(I)タンパク質、すなわちATP7AおよびATP7Bの発現は、薬物を標的から隔離することによって(ATP7A)、または薬物を細胞から輸送することによって(ATP7B)、シスプラチンに対する耐性に関与する。しかし、オキサリプラチンは、hCtr1への依存性が高濃度では低下するという点でシスプラチンと異なる。このことは、シスプラチンよりも親油性が高いことから、オキサリプラチンの受動的拡散の程度が高いことを示唆し得る。
【0080】
Yokoo et al.(Biochem Pharmacol.2007;74:477-487)は、オキサリプラチンと比較して、シスプラチン投与後のラット腎臓におけるPt2+の蓄積がはるかに高いことを報告した。この差はおそらく、前者の腎毒性が高いことを説明する。
【0081】
動物モデルにおける最近の研究は、白金で誘発された神経毒性における輸送機構の役割を示唆している。Sprowl et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.2013;110:11199-11204には、神経細胞におけるオキサリプラチンの蓄積および損傷が、後根神経節のニューロンで発現されるタンパク質である有機カチオントランスポーター2(OCT2)と関連していることが報告された。OCT2の過剰発現の結果、オキサリプラチンのニューロン取り込みが有意に(35倍まで)増加し、一方OCT2遺伝子ノックアウトは、末梢神経毒性の発生に対して保護した。
【0082】
要約すると、腎毒性、PNSおよび聴器毒性に関して、シスプラチンとオキサリプラチンとの間の毒物学性プロフィールにおける上記の明確な差異は、おそらく、これらの薬物およびそれらのPt代謝物の取り込みおよび細胞保持における差異に起因する。
【0083】
ホジピル(またはその代謝物)の金属錯体は、GFRが支配するプロセス(Toft et al.,1997)によって、すなわち、極めて有効なプロセスによって腎臓から排泄される。血漿中のPt代謝物のPKは、典型的にはヒトでは三相性であり、短い初期分布相および長い最終消失相、約11日の半減期によって特徴づけられる。長い最終半減期は、おそらく、細胞高分子の分解後の低分子量白金-アミノ酸複合体のゆっくりとした放出を表す(Graham et al.,2000)。Pt2+-アミノ酸複合体のゆっくりとした放出は、マンガホジピルの治癒効果を説明しうる。ホジピル(またはその代謝物)は、Pt2+(または他の酸化ステージ)に対する親和性が十分に高く、Mn2+を部分的または完全に置換することによって、長い排泄相の間Pt2+排泄を増加させ、その結果、次にPt2+の腎排泄を大幅に増加させ得ることがもっともらしいと見られる。かかるプロセスは、Coriat et al.,2014の研究、およびおそらくPledPharma ABによって実施されたNCT01619423研究において明らかにされているように、既存のPNSに対するマンガホジピルの高度に驚くべき治癒効果を説明し得る。
【0084】
以上の記載から、毒性副作用、例えばオキサリプラチンによって生じた神経毒性は、主にPt代謝物の貯留(殺腫瘍性Pt(II)-Clのもの以外)および正常細胞におけるPt2+のタンパク質への不可逆的結合に起因することを提唱するのが妥当であると見られる。理論的には、オキサリプラチンの副作用を低下させる1つの選択肢は、したがって、正常細胞におけるPt代謝物の保持を低下させるが、これらの薬物の殺腫瘍効能に負に干渉しない方法を見出すことであろう。オキサリプラチンの投与後のPt2+の極めて高度の体内貯留を考慮すると、合理的な方法は、「非活性」Pt画分の排泄を「選択的に」増加させることであろう。明白な理由から、かかるアプローチは、単純なアプローチとはほど遠い。
【0085】
実施例2に例示するように、マンガホジピルおよびホジピルによって、オキサリプラチンに近接して投与すると、腎臓のPt排泄がそれぞれ8.0%および40.6%増加し、このことは、次に、Coriat et al.,2014によって記載されているように、マンガホジピルがオキサリプラチンで誘発されたPSNを防止および治癒する理由を説明しうる。
【0086】
ホジピルがマンガホジピルよりもPt排泄を増加させるという知見は、むしろ予想される。というのは、「裸の」キレート剤は、すでに遷移金属で占められているキレート剤よりも容易にPt2+に結合すると予想されるからである。オキサリプラチンの高い親油性(約600リットルの分布容量)のため、Pt2+は、水区画からかなり急速に消失し、大部分水溶性のキレート剤、例えばホジピルから逃れると予想される。この観点から、ホジピルの存在下でのPt2+の腎排泄の増大は、高度に有望である。Pt2+-タンパク質付加体が分解される長い消失相(Graham et al.,2000)の間、Pt2+は、実際にホジピルについてより容易に利用可能であり得る。特にホジピルまたは他のPLED誘導体を経時的に反復可能に投与した場合、次にPt2+とPSNの腎排泄に対してさらにより顕著な影響をもたらし得る。それにもかかわらず、本発明は、先行技術(Yri et al.,2009;Coriat et al.,2014;米国特許第9,187,509号明細書)とは逆に、マンガホジピルがPNSに対して保護する能力が未変化のMn複合体の特性ではなく、ホジピル単独またはその代謝物(DPMPおよびPLED)の特性であることを示唆する。本発明は、さらに、この効果がホジピル(またはその代謝物)がPt2+に結合し、それを腎臓から排泄し、それによって蓄積量を減少させる能力によるものであることを示唆している。
【0087】
化学療法で誘発されたPSNは、明らかに異なる抗腫瘍機構を有する薬剤クラス、例えばタキサンおよび白金化合物にまたがる化学療法薬で生じる。PSNの発生の基礎をなす潜在的に多様な機構にもかかわらず、一般的な変性経路が、末梢神経系の正常なプロセスおよびエネルギー送達機構が破壊されると引き起こされ得る。実験的研究は、これらの神経障害の発生における基礎をなす機構が、ミトコンドリアの生体エネルギー療法の減少、例えば、アデノシン三リン酸(ATP)産生から生じる原発性神経感覚軸索における酸化ストレスおよびその後のミトコンドリア毒性であることを示唆している(Karlsson et al.,2017を参照)。オキサリプラチンで誘発されたPSNの場合において、Pt2+の細胞内蓄積が有害な酸化ストレスおよびその後の細胞死の原因であると仮定するのが妥当であると見られる。臨床データおよび前臨床データは共に、MnSOD擬態マンガホジピルがPSN処理において有効な化合物であることを示唆している。しかし、マンガホジピルおよびそのマンガン代謝物が投与後数時間以内に排泄されることを考慮すると、マンガホジピルでMnSOD活性を間欠的に上昇させることは、いかなる主要な治癒効果を有することも期待されない。本発明によれば、Pt2+のホジピルまたはその代謝物へのキレート化およびその後の腎排泄は、よりもっともらしい説明である。これにより、多くの利点、例えば以前は必須であると考えられていたマンガンを除外することができることが付与される。
【0088】
オキサリプラチンおよびシスプラチンは、正方形の平面状の金属錯体であり、Pt(II)は、オキサリプラチンの場合は2つの二座配位子に、およびシスプラチンの場合は2つの単座配位子に結合する。Pt2+とDPDPまたはその代謝物であるDPMPとPLEDとの親和性は、知られていない。マンガホジピルがオキサリプラチンの殺腫瘍活性に悪影響を及ぼさないことを示す先行技術を考慮すると(Laurent et al.,2005;Alexandre et al.,2006;Karlsson et al.,2017)、「非活性」Pt2+の腎排泄を「活性」画分に干渉せずに「選択的に」増大させることが可能であるという本知見は、明らかに驚くべきものである。それにもかかわらず、本発明は、オキサリプラチンで誘発されたPNS(および他のPtで誘発された副作用)の重大な問題を解決する。さらに、これをキレート剤ホジピル(DPDP)またはその代謝物(DPMPおよびPLED)単独で達成することができるので、文字通り、マンガンで誘発された神経毒性の問題を解消する。さらに、本発明は、ホジピルまたはその誘導体を化学療法から時間的および空間的に分離して投与することができる、はるかにより有効な処置スケジュールを開拓する。かつ最も重要なことに、ホジピルまたはその誘導体を、マンガホジピルおよびカルマンガホジピルよりもはるかにより頻繁に投与することができる。
【0089】
実施例3および4は、静脈内投与したホジピルを、別々に、またはマンガホジピルと組み合わせて使用する、いくつかの可能な処置スケジュールのうちの2つを例示する(図5および6)。マンガホジピルまたはカルマンガホジピルを用いて、急性のFOLFOXで誘発された酸化ストレス、例えば白血球減少症に関連する用量制限毒性を低下させることは、Karlsson et al.,2012Aおよび2012Bによりヒト患者およびマウスの両方で例証されているように、動機づけられ得る。しかし、有益性を、これらの化合物のマンガン毒性の可能性から慎重に考慮しなければならない。
【実施例
【0090】
実施例1
この実施例では、以前に公表されたデータを再度解釈する(Karlsson et al.,2012B)。Karlsson et al.TranslOncol.2012B;5:492-502は、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0091】
ホジピルおよびオキサリプラチンを組み合わせることの別の高度に重要であるが、これまで認識されていなかった局面は、後者が前者の抗がん作用を阻害することである(Karlsson et al.,2012B)、この実施例1に概略的に例示されている)。
【0092】
当初の解釈
本発明者らのKarlssonおよびAndersson(Karlssonら、2012B)は、現在の実験を以下のように解釈した:「オキサリプラチンは、CT26細胞を濃度依存的方式で死滅させた(図6)。10、30、100μMのホジピルは、いずれもオキサリプラチンのがん細胞死滅能力に負に干渉しなかった。10μMのホジピルの相加効果は、オキサリプラチンのより低い濃度範囲で見られた」。これは、オキサリプラチン単独および10μMのホジピルとの併用に関して正しい解釈であるが、Karlsson、Anderssonおよび共著者らは、100μM(および30μM)のオキサリプラチンがホジピルのがん細胞死滅活性に及ぼす阻害効果を監視した。しかしながら、マンガホジピルの治癒効果を示すCoriat et al.,2014による驚くべき知見は、この特定の局面を特定し、更新した。
【0093】
新たな解釈
図1に模式的に示すように、100μMの濃度のホジピルは、CT26結腸がん細胞に対してほぼ完全な細胞死滅活性を保有する。100μMのホジピルの存在下で、0.1μMから30μMに増加する濃度のオキサリプラチンを添加すると、がん細胞死滅効果の連続的な低下が生じる(図2)。オキサリプラチンのアンタゴニスト活性は、100μMで消失した。古典的薬理学において、オキサリプラチンのかかる効果は、部分的アンタゴニスト/アゴニスト効果として知られている。Karlsson et al.,2012Bには、ホジピルのがん細胞死滅活性がホジピルに結合する金属の存在下で消失することが記載されている。対数生成定数(logKML)が18の高い結合親和力を有する金属、例えばZn2+は、logKMLが15の低い結合親和力を有する金属、例えばMn2+よりも有効な阻害剤である(Karlsson et al.,2012B)。ホジピル(logKML=9)に対する結合親和性が低く、Mn2+の約100万分の1であるCa2+は、Karlsson et al.,2012Bによって示されているように、オキサリプラチンのがん細胞死滅活性に対するいかなる阻害作用をも示さない。
【0094】
ホジピルに対するオキサリプラチンの拮抗作用に対する魅力的で妥当な説明は、Pt2+がホジピルに結合することであり得る。
【0095】
実施例2
この例では、マンガホジピル(20mg/kg)、ホジピル(17.4mg/kg)または生理食塩水(対照)の静脈内(i.v.)注射に続いて2mg/kgのオキサリプラチンを静脈内に(i.v.)施与した動物の白金(Pt)尿排泄を測定した。
【0096】
方法
雄Wistarラット2匹(約250g)に、各々26.4μmol/kgに相当する0.25mlのマンガホジピル(20mg/kg;ロット番号303001、Nycomed Imaging AS)またはホジピル(17.4mg/kg;ロット番号PKJ 1285/113-14、Nycomed Imaging AS)を、尾静脈の一方を介して静脈内注射した。別の対照ラットに、生理食塩水をマンガホジピルまたはホジピルの代わりに施与した。5分後、すべての動物に、2mg/kgに相当する0.25mlのオキサリプラチン(2mg/ml;5%グルコースで希釈)を静脈内に施与した。ラットを、次に直ちに代謝ケージ中に配置し、0~24時間の期間にわたって尿を採取した。尿検体を、その後Pt解析まで-80℃で保存した。分析の前に、試料を解凍し、激しく振盪して、均質な試料を得た。5mlのアリコートを各試料から採取し、濃硝酸5mlを加えた。試料を、次いでマイクロ波中で分離し、その後蒸留水で希釈した。各試料のPt含有量を、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)により分析した。ラットに注射したものと同じオキサリプラチンの試料(すなわち、0.25ml)を採取し、試験管中に注射した。この試料を、尿試料と同じ方法で処理し、そのPt含有量について分析した。結果を、総量として表す総0~24時間尿中Pt含有量として、および注射用量のパーセンテージとして提示する。
【0097】
結果
0.25mlのマンガホジピル(26.4μmol/ml)またはホジピル(26.4μmol/ml)または対応する量の生理食塩水の静脈内注射の24時間後、続いて0.25mlの2mg/mlのオキサリプラチンの静脈内注射に続いて、生理食塩水で処置した動物の尿中のオキサリプラチン由来Ptの回収量は、86.84μgであり、これは、オキサリプラチン由来Pt(277.5μg)の投与量の31.3%に相当した。マンガホジピルまたはホジピルで処置した動物における対応する回収量は、それぞれ93.72μgおよび120.36μgに増加し、それぞれ33.8%および43.4%に相当した(図3)。これらの回収量は、それぞれ8.0%および40.6%のPt排泄の増加に相当する。
【0098】
結論
マンガホジピルまたはホジピルでの前処置は共に、Ptの腎排泄を増加させ、その結果、体内のPt蓄積を低下させ、それによって、次におそらく、オキサリプラチンの重篤な副作用、特にPSNが低下する。非金属配位化合物、例えばホジピルは、金属配位化合物、例えばマンガホジピルよりも容易に「競合」Pt2+に結合すると予想されるので、ホジピルがこの特定の意味でマンガホジピルよりも有効であるという知見が予想される。しかし、ホジピルとマンガホジピルとの差異は、オキサリプラチン投与後のPt2+排泄に対するこれらの化合物の初期効果のみを研究した使用したモデルにおいて最もおそらく誇張されている。その高い親油性により、オキサリプラチンは、細胞外水コンパートメントから急速に消失し、Pt2+は、したがってキレート剤で促進された腎排泄を大幅に免れる。半減期が10日を超える最終消失期中の状況は、非常により有利であろう。
【0099】
実施例3および4
これらの2つの例は、図5および6の説明文により詳細に記載するように、本発明の多くの可能な処置スケジュールのうちの2つを例示する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6