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特許7065952押出しポリアミド発泡体を製造するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】押出しポリアミド発泡体を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20220502BHJP
   B29B 7/42 20060101ALI20220502BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20220502BHJP
   B29B 7/88 20060101ALI20220502BHJP
   B29B 9/06 20060101ALI20220502BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20220502BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20220502BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CFG
B29B7/42
B29B7/48
B29B7/88
B29B9/06
C08L77/00
C08L63/00 A
C08L23/26
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020517319
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 US2018052562
(87)【国際公開番号】W WO2019067400
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2017/103574
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517213094
【氏名又は名称】アドバンシックス・レジンズ・アンド・ケミカルズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ADVANSIX RESINS & CHEMICALS LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ジャ,ミン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ミン
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103360759(CN,A)
【文献】特開2000-103960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42
B29C44/00-44/60; 67/20-67/20
B29B7/00-11/14; 13/00-15/06;
B29C31/00-31/10; 37/00-37/04; 71/00-71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド発泡体組成物であって、
ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して、92重量%~98重量%の量で存在するポリアミド樹脂、及び
エポキシ鎖延長剤と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)コポリマーとを含む複合鎖延長剤、
を含む、ポリアミド発泡体組成物。
【請求項2】
前記エポキシ鎖延長剤が、前記ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して、1重量%~3重量%の量で存在する、請求項1に記載のポリアミド発泡体組成物。
【請求項3】
前記MAPPコポリマーが、前記ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して、1重量%~5重量%の量で存在する、請求項2に記載のポリアミド発泡体組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド発泡体組成物が、50μm~700μmの平均気泡サイズを有する、請求項1に記載のポリアミド発泡体組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド発泡体組成物が、10000Pa・s~150000Pa・sのせん断粘度を有する、請求項1に記載のポリアミド発泡体組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド発泡体組成物の密度が、0.1g/cm~1.0g/cmである、請求項1に記載のポリアミド発泡体組成物。
【請求項7】
さらに、酸化防止剤、核剤、顔料、難燃剤、静電気防止剤、及び紫外線(UV)安定化剤から選択される少なくとも1つの添加剤を含む、請求項1に記載のポリアミド発泡体組成物。
【請求項8】
配合工程であって、
ポリアミド樹脂及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)コポリマーを、第一の位置で押出機に供給すること、及び
エポキシ鎖延長剤を、前記第一の位置から下流側にある第二の位置で前記押出機に供給して、配合ポリアミドを形成すること、
を含む、配合工程と、
前記配合ポリアミドを、発泡剤と共に押出機中で押出して、ポリアミド発泡体を形成する押出し発泡工程と、
を含む、ポリアミド発泡体組成物を製造する方法。
【請求項9】
前記配合工程が、前記供給工程後に、
前記配合ポリアミドを冷却すること、
前記配合ポリアミドを乾燥すること、及び
前記配合ポリアミドをペレット化すること、
の追加の工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記配合工程が、同方向回転二軸押出機、異方向回転噛み合い型二軸押出機、及び一軸押出機のうちの1つを用いて行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記押出し工程が、
前記配合ポリアミドを、第一の位置で前記押出機に供給すること、
物理的発泡剤を、前記第一の位置から下流側にある第二の位置で前記押出機中の前記配合ポリアミドに添加すること、
前記配合ポリアミドと前記発泡剤とを、スタティックミキサー中で混合すること、及び
前記配合ポリアミドと前記発泡剤とを、金型を通して移送して、前記ポリアミド発泡体組成物を形成すること、
の追加の工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記発泡剤が、超臨界二酸化炭素である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリアミド発泡体組成物が、前記ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して、
92重量%~98重量%の量のポリアミド樹脂、
1重量%~3重量%の量のエポキシ鎖延長剤、及び
1重量%~5重量%の量のMAPPコポリマー
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリアミド発泡体組成物が、以下の特性、
50μm~700μmの平均気泡サイズ、
10000Pa・s~150000Pa・sのせん断粘度、及び
0.1g/cm~1.0g/cmの密度、
のうちの少なくとも1つを有する、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、押出し発泡プロセスによってポリアミド発泡体を製造するための方法を提供し、製造されたポリアミド発泡体は、改善された特性を有する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは、カプロラクタムなどの前駆体から、加水分解、付加重合、及び縮合重合反応を介して形成される。カプロラクタムから形成されるポリアミド-6材料の場合、加水分解がカプロラクタムモノマーの環を開環して、1つのアミン末端基と1つのカルボキシル末端基を含む2つの末端基を形成する。付加重合は、カプロラクタムモノマーを組み合わせて中間分子量のオリゴマーとするものであり、縮合重合は、オリゴマーを組み合わせてより高い分子量のポリマーとするものである。
【0003】
ポリアミド6(PA6)発泡体は、PA6をベースとする樹脂を発泡剤と共に押出すことを含む様々な方法によって製造することができる。しかし、低い密度及び小さい気泡サイズのPA6発泡体を押出しによって製造することは、PA6の押出し温度が高いこと及び溶融強度が弱いことに起因して、困難であり得る。上記事項における改善が所望されている。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、押出し発泡プロセスによってポリアミド発泡体を製造する連続法を提供する。ポリアミド発泡体は、エポキシ鎖延長剤と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)ワックスとを含む複合鎖延長剤が配合されたポリアミド樹脂を含む。製造されたポリアミド発泡体は、平滑な表面、低い密度、及び小さい気泡サイズを含む改善された特性を有する。
【0005】
本発明は、その1つの形態において、ポリアミ樹脂、及びエポキシ鎖延長剤と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)ワックスとを含む複合鎖延長剤を含むポリアミド発泡体組成物を提供する。
【0006】
ポリアミド樹脂は、ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して92重量%~98重量%の量で存在してよい。エポキシ鎖延長剤は、ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して1重量%~3重量%の量で存在してよい。MAPPワックスは、ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して1重量%~5重量%の量で存在してよい。
【0007】
ポリアミド発泡体組成物は、50μm~700μmの平均気泡サイズ、10000Pa・s~150000Pa・sのせん断粘度、及び/又は0.1g/cm~1.0g/cmの密度を有し得る。ポリアミド発泡体組成物は、さらに、酸化防止剤、核剤、顔料、難燃剤、静電気防止剤、及び紫外線(UV)安定化剤から選択される少なくとも1つの添加剤を含んでよい。
【0008】
本発明は、その別の形態において、ポリアミド発泡体組成物を製造する方法を提供し、ポリアミド樹脂及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)ワックスを、第一の位置で押出機に供給すること、並びにエポキシ鎖延長剤を、第一の位置から下流側にある第二の位置で押出機に供給して、配合ポリアミドを形成すること、を含む配合工程と、配合ポリアミドを、発泡剤と共に押出機で押出して、ポリアミド発泡体を形成すること、を含む押出し発泡工程とを含む。
【0009】
配合工程は、供給工程後に、配合ポリアミドを冷却すること、配合ポリアミドを乾燥すること、及び配合ポリアミドをペレット化することの追加の工程をさらに含み得る。配合工程は、同方向回転二軸押出機、異方向回転噛み合い型二軸押出機、又は一軸押出機を用いて行われてよい。
【0010】
押出し発泡工程は、さらに、配合ポリアミドを第一の位置で押出機に供給すること、物理的発泡剤を、第一の位置から下流側にある第二の位置で押出機中の配合ポリアミドに添加すること、配合ポリアミドと発泡剤とをスタティックミキサー中で混合すること、及び配合ポリアミドと発泡剤とを金型を通して移送して、ポリアミド発泡体組成物を形成することの追加の工程をさらに含み得る。
【0011】
発泡剤は、超臨界二酸化炭素であってよい。ポリアミド発泡体組成物は、ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して、92重量%~98重量%の量のポリアミド樹脂、1重量%~3重量%の量のエポキシ鎖延長剤、及び1重量%~5重量%の量のMAPPワックスを含んでよい。ポリアミド発泡体組成物は、以下の特性:50μm~700μmの平均気泡サイズ、10000Pa・s~150000Pa・sのせん断粘度、及び0.1g/cm~1.0g/cmの密度、のうちの少なくとも1つを有し得る。
【0012】
本開示の実施形態の以下の記述を添付の図面と合わせて参照することによって、本開示の上記で述べた特徴及び他の特徴、並びにそれらを達成する方法が、より明らかとなり、本開示自体が、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示に従うポリアミド樹脂の配合を示す配合押出機の模式図である。
図2図2は、本開示に従う配合ポリアミド樹脂からポリアミド発泡体を製造するのに用いるための発泡押出機の模式図である。
図3図3は、実施例I、II、及びIIIに関し、開示されるサンプルにおける時間に対する複素粘度を示すグラフを示す。
図4-1】図4は、実施例I、II、及びIIIに関し、実施例1~9における表面形態を示す。
図4-2】図4は、実施例I、II、及びIIIに関し、実施例1~9における表面形態を示す。
図4-3】図4は、実施例I、II、及びIIIに関し、実施例1~9における表面形態を示す。
図5-1】図5は、実施例I、II、及びIIIに関し、実施例1~9における断面画像である。
図5-2】図5は、実施例I、II、及びIIIに関し、実施例1~9における断面画像である。
図5-3】図5は、実施例I、II、及びIIIに関し、実施例1~9における断面画像である。
図5-4】図5は、実施例I、II、及びIIIに関し、実施例1~9における断面画像である。
図6図6は、実施例IIIに関し、実施例1及び3における表面形態を示す。
図7図7は、実施例IIIに関し、実施例1及び3における断面画像である。
図8図8は、実施例IIIに関し、実施例2における表面形態を示し、さらに実施例2の断面画像も示す。
図9図9は、実施例IIIに関し、実施例6における表面形態を示し、さらに実施例6の断面画像も示す。
図10図10は、実施例IIIに関し、実施例8及び9の断面画像を示す。
図11図11は、実施例IIIに関し、実施例8及び9における表面形態を示す。
図12図12は、実施例IIIに関し、実施例4及び6における表面形態を示す。
図13図13は、実施例IIIに関し、実施例4及び6の断面画像を示す。
図14図14は、ポリアミド発泡体の製造方法に関する実施例IIIにおける前及び後の画像を示す。
図15図15は、実施例IIIに関し、実施例5の表面形態及び断面画像の両方を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
対応する符号は、複数の図面を通して対応する部分を示している。本明細書に示される実例は、本開示の例示的な実施形態を示すものであり、そのような実例は、いかなる形であっても、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0015】
本開示は、押出し発泡プロセスによってポリアミド発泡体を製造する連続法を提供する。ポリアミド発泡体は、エポキシ鎖延長剤と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)ワックスとを含む複合鎖延長剤が配合されたポリアミド樹脂を含む。製造されたポリアミド発泡体は、平滑な表面、低い密度、及び小さい気泡サイズを含む改善された特性を有する。
【0016】
1.ポリアミド発泡体組成物の成分
本発明のポリアミド発泡体組成物は、本明細書で述べる望ましい発泡体構造を促進するある特定の添加剤が配合されたポリアミド樹脂から形成される。一般的に、配合ポリアミド樹脂は、ポリアミドベース樹脂、エポキシ鎖延長剤と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)ワックスとを含む複合鎖延長剤、及び他の添加剤を含む。
【0017】
a.ポリアミドベース樹脂
ポリアミドベース樹脂は、樹脂単体(bulk resin)、又は最終的な発泡された組成物の主成分であり、例えば、カプロラクタムモノマーから形成されるPA6ポリマー、ヘキサメチレンジアミン及びアジピン酸のモノマーから形成されるPA66ポリマー、又はPA6/66コポリマーの形態であってよい。他の種類のポリアミドポリマー、さらには異なる種類のポリアミドポリマーの組み合わせも用いられてよい。
【0018】
PA6/66コポリマーは、カプロラクタムモノマー、及びアジピン酸/ヘキサメチレンジアミンモノマーの両方から合成される。アジピン酸/ヘキサメチレンジアミンモノマーのアジピン酸成分及びヘキサメチレンジアミン成分は、「AH塩」と称される1:1モル比の塩として提供されてよく、これは、固体の形態又は水溶液の形態であってよい。典型的には、カプロラクタムモノマー及びAH塩モノマーが、一緒に重合されて、カプロラクタムをベースとする主成分のモノマー、及びAH塩、すなわちアジピン酸及びヘキサメチレンジアミンをベースとする副成分のモノマーを含むPA6/66コポリマーが製造される。この方法では、ポリアミド6/66コポリマーのポリマー鎖は、ランダム又はランダムに近い分布に従ってポリマー鎖中に互いに存在し得るカプロラクタムをベースとするモノマー又は繰り返し単位、及びアジピン酸/ヘキサメチレンジアミンをベースとするモノマー又は繰り返し単位を含む。
【0019】
ポリアミドベース樹脂は、低くは2.6、2.8、3.0、若しくは3.2、又は高くは3.6、3.8、4.0、若しくは4.2、又は例えば2.6~4.2、2.8~4.0、3.0~3.8、及び3.2~3.6などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内である、ASTM D798に従って粘度計によって特定された相対粘度(RV)を有し得る。
【0020】
いくつかの例示的な実施形態では、ポリアミドベース樹脂は、すべての添加剤を含む最終的なポリアミド発泡体組成物の総重量に対して、少なくは90重量%、92重量%、若しくは94重量%、又は多くは96重量%、98重量%、若しくは99重量%の量で存在し、又は、例えば90重量%~99重量%、92重量%~98重量%、若しくは94重量%~96重量%などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内で存在し得る。
【0021】
b.複合鎖延長剤
ポリアミドベース樹脂は、複合鎖延長剤と配合され、それは、以下で述べるように、エポキシ鎖延長剤と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)ワックスとの組み合わせである。
【0022】
複合鎖延長剤の第一の成分は、エポキシ化合物である。エポキシ化合物のエポキシ基は、ポリアミドベース樹脂のポリアミド鎖のアミン末端基及びカルボキシル末端基と反応し得る。エポキシ鎖延長剤が2つ以上のエポキシ基を含む場合、鎖延長剤は、ポリアミドベース樹脂の末端基と反応して、ポリアミド鎖を長く成長させ得る、及び/又はポリアミド鎖を分岐させ得るものであり、その結果、配合ポリアミドの固有粘度が上昇する。例示的なエポキシ鎖延長剤としては、0.92g/cmの密度を有し25000未満の重量平均分子量(Mw)を有するエポキシ基含有スチレン-GMAコポリマーが挙げられる。例示的なエポキシ鎖延長剤としては、活性官能基を含有する脂肪族エステルコポリマーが挙げられる。
【0023】
いくつかの例示的な実施形態では、ポリアミド発泡体組成物のエポキシ鎖延長剤は、ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して、少なくは1重量%、1.5重量%、若しくは2重量%、又は多くは2.5重量%、3重量%、若しくは5重量%、又は例えば1重量%~5重量%、1重量%~3重量%、若しくは1.5重量%~2.5重量%などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の量で存在する。
【0024】
複合鎖延長剤の第二の成分は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)ワックスである。無水マレイン酸基は、ポリアミド鎖のアミン末端基と反応し得る。MAPPワックスは、多くの量の反応性無水マレイン酸官能基を含み得るものであり、鎖延長剤とポリアミドのアミン末端基との反応は、ポリアミド鎖を長く成長させ、及び/又はポリアミド鎖を分岐させ、その結果、配合ポリアミドの固有粘度が上昇する。
【0025】
いくつかの実施形態では、MAPPワックスは、MAPPワックスの総重量に対して、1重量%超、2重量%超、5重量%超、7重量%超、9重量%超、又は10重量%超の無水マレイン酸含有量を有する。
【0026】
例示的なMAPPワックスは、低くは500g/mol、1000g/mol、若しくは2000g/mol、又は高くは10000g/mol、15000g/mol、若しくは20000g/mol、又は例えば500g/mol~20000g/mol、2000g/mol~15000g/mol、若しくは2000g/mol~10000g/molなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の数平均分子量(Mn)を有する。
【0027】
いくつかの例示的な実施形態では、MAPPワックスは、ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して、少なくは1重量%、1.5重量%、若しくは2重量%、又は多くは2.5重量%、3重量%、若しくは5重量%、又は例えば1重量%~5重量%、1重量%~3重量%、若しくは1.5重量%~2.5重量%などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の量で存在する。
【0028】
c.他の添加剤
いくつかの例示的な実施形態では、ポリアミド発泡体組成物は、追加の添加剤を含有する。例示的な添加剤としては、酸化防止剤、核剤、顔料、難燃剤、静電気防止剤、紫外線(UV)安定化剤、並びに熱安定化剤及び可撓性付与剤などの適切な他の添加剤が挙げられ得る。潤滑剤及び耐摩耗性添加剤も、所望に応じて添加されてよい。
【0029】
例示的な熱安定化剤としては、ヨウ化銅、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、他のハロゲン化銅、及び他のハロゲン化金属が挙げられる。例示的なUV安定化剤としては、例えばN,N’-ビス-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル-1,3-ベンゼンジカルボキシアミドなどのヒンダードアミン光安定化剤(「HALS」)が挙げられ得る。例示的な可撓性付与剤としては、例えばポリオレフィンエラストマーなどのポリオレフィン及びポリスチレン可撓性付与剤が挙げられ得る。例示的な核剤としては、小サイズのタルカムパウダー、二酸化ケイ素パウダー、酸化アルミニウムパウダー、及びモンモリロノイドパウダーが挙げられ得る。例示的な難燃剤としては、トリポリシアナミド、酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、並びに例えばデカブロモジフェニルエーテル及びデカブロモジフェニルエタンなどの臭素化難燃剤が挙げられ得るものであり、また、例えば赤リンなどのリン難燃剤も挙げられ得る。例示的な酸化防止剤としては、ジフェニルアミン、p-フェニレンジアミン、及びジヒドロキノリンなどのアミン酸化防止剤が挙げられ、また、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールなどのヒンダードフェノール酸化防止剤及びペンタエリスリトールも挙げられ得る。例示的な静電気防止剤としては、例えば、アルキルスルホン酸アルカリ金属塩及びアミノジチオギ酸アルカリ金属塩が挙げられる。
【0030】
いくつかの実施形態では、ポリアミド発泡体組成物の他の添加剤は、ポリアミド発泡体組成物の総重量に対して、少なくは0重量%、0.5重量%、1.0重量%、1.5重量%、若しくは2.0重量%、又は多くは2.5重量%、3.0重量%、3.5重量%、4.0重量%、4.5重量%、若しくは5.0重量%、又は例えば0重量%~5.0重量%、0.5重量%~4.5重量%、1.0重量%~4.0重量%、1.5重量%~3.5重量%、若しくは2.0重量%~2.5重量%などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内を占める。
【0031】
2.ポリアミド発泡体組成物を製造する方法
ポリアミド発泡体組成物を製造する方法が、本明細書において開示される。例示的な方法は、一般的に、ベースポリアミド樹脂に上記で考察した追加成分が配合される配合工程、及び配合ポリアミド組成物が発泡剤と共に押出されてポリアミド発泡体を形成する押出し発泡工程、を含む。
【0032】
a.配合
ポリアミド発泡体組成物は、配合押出機110を含む図1に示される配合装置100によって製造される。配合押出機110は、例えば、同方向回転二軸押出機又は異方向回転噛み合い型二軸押出機であってよく、反応押出しを実行するために用いられ、より高い生産性、よりシンプルなデザインを有し、バッチ反応器を用いるよりも生産性が高い。
【0033】
図1に示されるように、例えばポリアミド樹脂ペレット又はチップの形態の原料ポリアミド、さらには酸化防止剤又は核剤などの他の添加剤が、予備混合され、フィーダー102に投入される。無水マレイン酸官能化ポリマー(例:無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は無水マレイン酸変性エチレン-オクテンエラストマー)が、フィーダー104に投入される。フィーダー102及び104中の配合物は、主ホッパー108に供給され、そこから、配合押出機110に関して概略上流側に位置する第一の位置で、配合押出機110に供給される。
【0034】
エポキシ鎖延長剤は、サイドフィーダー106を通して配合押出機110に供給され、配合押出機110中でポリアミド複合物と混合され、配合押出機110のこの位置で完全に溶融される。エポキシ鎖延長剤は、押出し時の不安定性、又はさらには、溶融圧力の許容不可能な上昇に起因するプロセス故障をもたらす結果となり得る過剰に高粘度のポリアミド材料の形成を防止するために、ポリアミド樹脂及び無水マレイン酸官能化ポリマーと共に主ホッパー108からではなく、有利には、主ホッパーの下流側に位置するサイドフィーダー106から供給される。
【0035】
フィーダー102、104、及び106は、ウェイトロスフィーダー(weight loss feeders)によって測定した場合の供給精度が0.5重量%未満であるロスインウェイトフィーダーであってよい。しかし、フィーダー102、104、及び106として別のフィーダーが用いられてもよいことは、本開示の範囲内である。
【0036】
配合押出機110は、サイドフィーダー106の投入口と吸引ポート115との間に配置された混合セクション中で、混合エレメント及び前方混練ブロック(forward kneading blocks)を用いてポリアミド樹脂の成分を配合する。上述の混合セクションで成分を混合することによって、ポリアミドマトリックス中のエポキシ鎖延長剤の均一な分布が得られる。加えて、低いプロセス温度及び高い生産量が、好ましいプロセスパラメータであり、これらは、配合押出機110などの例示的な押出機によって得られる。
【0037】
押出し配合の後、ポリアミドは、水浴112などによって112で冷却され、送風機などによって114で乾燥され、次に116でペレット化される。その後、得られたペレットは、例えば約90℃で4~6時間などによってさらに乾燥されて、残留水分が除去されてよい。
【0038】
b.押出し発泡
上記で述べた配合工程の後、配合ポリアミドは、図2に示される発泡押出機150によって押出され、ポリアミド発泡体組成物が形成される。1つの実施形態では、発泡押出機150は、一軸押出機であってよく、1又は複数の静的混合器152を備えていてよい。静的混合器152は、発泡押出機150内の溶融ポリアミド材料中に発泡剤を確実に完全に溶解させるための特異的構造を有する。1つの実施形態では、発泡剤は、炭化水素及びクロロフルオロカーボンと比較して環境にやさしく、安価で、不燃性の超臨界二酸化炭素(CO)である。しかし、代替の発泡剤が用いられてよいことは、本開示の範囲内である。
【0039】
図2を参照すると、配合ポリアミドは、ホッパー156を通して供給され、超臨界二酸化炭素は、発泡押出機150の溶融ゾーンMZ(T2ゾーンからT4ゾーン)に、計量ユニット(図示せず)によって注入され、次に溶融ポリアミド複合物中に溶解される。ホッパー156に最も近いゾーンT1の温度は、一般的には比較的低く設定され、低くは130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、又は高くは180℃、190℃、200℃、210℃、220℃であってよい。発泡押出機150の溶融ゾーンMZ(ゾーンT2からゾーンT4)は、低くは220℃、230℃、若しくは240℃、又は高くは270℃、275℃、若しくは280℃、又は例えば220℃~280℃、230℃~275℃、若しくは240℃~270℃などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内であってよい温度範囲で運転されてよい。
【0040】
発泡押出機150全体を通して実質的に一定である圧力が維持され、一定圧力で運転することによって、安定な発泡プロセス及びロッド型発泡体の均一な気泡構造の形成を実現することができる。
【0041】
ポリアミド及び超臨界二酸化炭素の混合物が、押出機151を通って移送された後、混合物は、スタティックミキサー152及びロッド金型154へ供給される。スタティックミキサー152の運転温度は、低くは200℃、205℃、若しくは210℃、又は高くは265℃、270℃、若しくは275℃、又は例えば200℃~275℃、205℃~270℃、若しくは210℃~265℃などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内であってよい。ロッド金型154の運転温度は、低くは200℃、205℃、若しくは210℃、又は高くは265℃、270℃、若しくは275℃、又は例えば200℃~275℃、205℃~270℃、若しくは210℃~265℃などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内であってよい。混合物が金型154から排出されると、混合物は発泡して、ポリアミド発泡体組成物を形成する。
【0042】
3.ポリアミド発泡体組成物の特性
上記で述べたように合成されたポリアミド発泡体組成物は、改善された外見、低い密度、及び小さい気泡サイズを呈する。
【0043】
1つの例示的な実施形態では、ポリアミド発泡体組成物は、低くは0.1g/m、0.2g/m、0.4g/m、若しくは0.6g/m、又は高くは0.7g/m、0.8g/m、0.9g/m、若しくは1.0g/m、又は例えば0.1g/m~1.0g/m、0.2g/m~0.9g/m、0.4g/m~0.8g/m、若しくは0.6g/m~0.9g/mなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内である、ASTM D792に従って測定される密度を有する。
【0044】
1つの例示的な実施形態では、ポリアミド発泡体組成物は、小さくは50μm、100μm、200μm、若しくは300μm、又は大きくは400μm、500μm、600μm、若しくは700μm、又は例えば50μm~700μm、100μm~600μm、200μm~500μm、若しくは300μm~400μmなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内である、ASTM D3576-2004に従って特定される平均気泡サイズを有する。
【0045】
さらに、配合プロセスによって形成されたポリアミド複合物は、粘度及び溶融強度の増加を呈する。特定のいかなる理論にも束縛されるものではないが、複合鎖延長剤の添加は、ポリアミド発泡体の粘度及び溶融強度を増加することに寄与するものと考えられる。
【0046】
1つの例示的な実施形態では、ポリアミド複合物は、低くは10000Pa・s、25000Pa・s、若しくは50000Pa・s、又は高くは100000Pa・s、125000Pa・s、若しくは150000Pa・s、又は例えば10000Pa・s~150000Pa・s、25000Pa・s~125000Pa・s、若しくは50000Pa・s~100000Pa・sなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内である、ASTM D4440に従って特定されるせん断粘度を有する。
【0047】
以下の表1に示されるように、粘度は、ポリアミド材料の溶融強度の指標である。高い粘度は、分子鎖の分子量及び分岐鎖度が高いことを示しており、このことは、分子鎖の高い絡み合いをもたらし、したがって、ポリアミド材料の高い溶融強度が得られる。
【0048】
本明細書で用いられる場合、「上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内」の句は、文字通り、いずれの範囲も、その値がリストの低い方の部分又はリストの高い方の部分にあるかに関わらず、その句の前に列挙された値のいずれの2つから選択されてもよいことを意味する。例えば、値のペアは、2つの低い方の値から、2つの高い方の値から、又は低い方の値及び高い方の値から選択されてよい。
【0049】
実施例
実施例I
ポリアミド複合物材料のせん断粘度に対する鎖延長剤の効果
この実施例のサンプルのせん断粘度は、パラレルプレートレオメーターによって特定した。この実施例で用いたポリアミド6(PA6)樹脂(例:AdvanSix Resins & Chemicals LLC製のH95ZITは、3.3の相対粘度(RV)を有していた。用いたエポキシ鎖延長剤は、Ningbo Seven New Material Technology Co.,LTD.から入手したCE311であった。用いた第一の無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)ワックスは、けん化価が50mgKOH/gであるHoneywell製のA-C(登録商標)950であった。第二の無水マレイン酸官能化ポリプロピレン(MAFP)、Arkemaから販売されるグラフト率1.1%のOrevac(登録商標)CA100も用いた。最後に、第三の無水マレイン酸変性エチレン-オクテンエラストマー(MA-EO)を、この実施例内のある特定のサンプルに用いた。この実施例では、DuPont製のFusabond(登録商標)N493を無水マレイン酸変性エチレン-オクテンエラストマーとして用い、これは、酸変性率0.5%を有する。サンプルA~Gの組成データを、以下の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
サンプルA~Gを製造するための配合プロセスは、図1に110として概略的に示される同方向回転噛み合い型二軸押出機(Leitritz 27mm)を用いて実行した。各サンプルの成分は、ウェイトロスフィーダーを用い、表1に示される割合で正確に押出機に投入した。ポリアミド樹脂及びMAFPは、主スロート(117、図1)から供給し、エポキシ鎖延長剤(CE311)は、サイドフィーダー(106、図1)から供給した。次に、配合物を押出し、水浴(112、図1)で冷却し、送風機(114、図1)で乾燥し、続いてペレット化した(116、図1)。得られたペレットは、4~6時間にわたって90℃で乾燥して、残留水分を除去した。
【0052】
配合押出機は、450回転毎分(rpm)のスクリュー速度で運転し、押出機110のバレル温度は、押出機110の位置に応じて、180℃-235℃-235℃-230℃-225℃-225℃-225℃-225℃-235℃(金型)と変動させた。押出機110は、15kg/時間のスループットを有していた。
【0053】
ポリアミド樹脂及びMAPPワックスは、配合押出機の主スロート117に供給し、移送スクリューエレメントによって移送する。配合押出機内でのピッチの減少(pitch decease)によって、混合物を、圧縮し、強いせん断力を施した。配合押出機の溶融ゾーンでは、混練ブロック(30度のスタガー角で、2つの前方混練エレメント及び1つの後方混練エレメント)が、ダムを形成し、混合物を完全に溶融するために、混合物に機械エネルギーを加えるように働く。溶融ゾーン後、エポキシ鎖延長剤を、サイドフィーダーを通して投入したが、そこでは、配合押出機内の急なピッチのスクリューフライトによって、混合物が再度圧縮される。前方混練ブロック及び混合エレメントを用いて、サイドフィーダーと吸引ポートとの間の混合セクションにおいて多くの望ましくない副反応をもたらし得る高いせん断加熱を防止した。
【0054】
配合押出機の第一の混合ゾーンは、1つの前方混練ブロック及び1つの混合エレメントから構成されており、配合押出機の第二の混合ゾーンは、1つの前方混練ブロック、1つの混合エレメント、及びシール目的のスタガー角90度の2つのワイドピース(wide pieces)から構成されていた。
【0055】
せん断粘度は、パラレルプレートレオメーター(TA instruments、AR2000exレオメーター)により、0.1ラジアン毎秒の角周波数、235℃の温度、及び1.5%の一定歪み振幅で運転して特定した。さらに、せん断粘度試験は、窒素雰囲気条件下で行った。
【0056】
上記の表1に示したせん断粘度データを参照すると、エポキシ鎖延長剤及びMAPPワックスの両方を含む配合鎖延長剤を含んだサンプル(サンプルD及びG)は、単一の鎖延長剤を採用した場合、又はエポキシ鎖延長剤と他の無水マレイン酸官能化ポリマー(MAFP又はMA-EO)とを含有する他の配合鎖延長系を用いた場合と比較して、ポリアミド材料の粘度の改善に対して最も大きい突出した効果を呈したことが分かる。特定の理論に束縛されるものではないが、サンプルD及びGのせん断粘度が上昇したことは、MAPPワックスが、他の無水マレイン酸官能化ポリマー(例:MAFP又はMA-EO)よりも官能基の含有率が高く、それによって、ポリアミド材料の粘度が改善されたということである。
【0057】
実施例II
ポリアミド複合物材料の溶融安定性に対する鎖延長剤及び配合プロセスの効果
この実施例におけるサンプルH、I、D、J、K、及びLに対する成分を、以下の表2に列挙する。表2に列挙される成分は、けん化価が87mgKOH/gである無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックス(すなわち、Honeywell製のA-C(登録商標)925P)を意味するMAPPワックスII以外は、表1に列挙される成分と同じである。
【0058】
【表2】
【0059】
配合ポリアミドの溶融安定性は、ASTM 4440に従い、パラレルプレートレオメーター(TA instruments、AR2000exレオメーター)を用い、1ヘルツ(Hz)の固定振動周波数で運転して評価し、複素粘度の変化を、指定の時間(例:30分間)にわたって観察した。複素粘度の変化が大きい場合、そのサンプルは低い溶融安定性を呈した。そうでない場合は、試験サンプルの溶融安定性は、許容されるものと判断した。試験温度は、235℃に設定し、試験は、窒素雰囲気条件下で行った。結果を図3に示し、本明細書でさらに考察する。
【0060】
表2に示されるように、サンプルJ、K、及びLを、配合プロセスが異なること(すなわち、異なるスクリュー速度及びスループット)以外は同じ組成で製造した。図3の複素粘度グラフを参照すると共に表2のデータから、スクリュー速度及びスループットの低下が、ポリアミド複合物のせん断粘度の上昇及び溶融安定性の改善をもたらすことが示される(図3のサンプルK及びLに対する比較的安定でフラットな曲線によって実証される)。
【0061】
特定の理論に束縛されるものではないが、ポリアミド分子鎖の鎖延長は、押出しの過程で発生し、それは、反応押出しプロセスである。スクリュー速度及びスループットの低下は、ポリアミド樹脂の押出機内でのより長い滞留時間をもたらす。より長い滞留時間によって、鎖延長剤とポリアミド樹脂との間のより完全な反応が得られ、それによって、さらなる下流側で発生する加工工程での二次反応が回避される。図3のレオロジーグラフのさらなる分析から、配合鎖延長剤(エポキシ鎖延長剤+MAPPワックス又はMAPPワックスII)を含有するサンプルは、良好な溶融安定性を呈した(例:サンプルH、I、D)。さらに、ポリアミド複合物の溶融安定性は、単一のエポキシ鎖延長剤が最終製品の溶融安定性を改善することができるのではなく、複合鎖延長剤(エポキシ鎖延長剤+MAPPワックス)を用いることによって、及び押出機内での滞留時間を延長するために生産能力を低下させる又は装置の構成を改変するのではなく、MAPPワックス(又はMAPPワックスII)を添加することによって、改善することができる。特定の理論に束縛されるものではないが、ポリアミド複合物の溶融安定性に対するMAPPワックス(又はMAPPワックスII)の効果についての妥当な説明は、MAPPワックス(又はMAPPワックスII)が、反応性無水マレイン酸官能基の高い含有量を有することである。反応性無水マレイン酸官能基が反応すると、その分子鎖の立体障害効果によって、残りの反応性無水マレイン酸官能基のさらなる反応が阻害され、したがって、下流側の加工工程での二次反応の発生が回避される。
【0062】
実施例III
異なる粘度を有するポリアミド複合物の形成挙動実験
以下の表3は、試験サンプルの組成及びせん断粘度を示し、表4は、サンプルの発泡結果を示す。表3に示されるように、試験した最も高い粘度は、140000Pa・sであり、試験した最も低い粘度は、20000Pa・sであった。表3に列挙した成分は、該当する場合、上記表1及び2の成分に対応している。したがって、本明細書においてさらに考察される押出し発泡試験では、PA6/66コポリマー(PA6,66樹脂)を用いて実験する。用いたPA6,66樹脂は、PA66含有量約23重量%、相対粘度3.7、及び融点190℃のH133(Honeywell Shanghai Lab製)である。
【0063】
押出し発泡試験は、スクリュー径45mm及び長さ対直径比(L/D)40を有する一軸押出機、並びに押出機に続いてスタティックミキサー及び3mm径のロッド金型を用いて行った。物理的発泡剤としては、炭化水素及びクロロフルオロカーボンと比較して環境にやさしく、安価で、不燃性であることから、超臨界流体二酸化炭素を選択した。
【0064】
配合ポリアミドを、ホッパーを通して手動で供給し、超臨界二酸化炭素を、押出機の溶融ゾーンに、計量ユニットによって注入した。その後、超臨界二酸化炭素は、溶融した配合ポリアミドに溶解した。急速な圧力低下がロッド型発泡体の均一な気泡構造を作り出すことから、押出機全体を通して圧力を維持した。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
a.実施例1及び実施例3の比較
実施例1及び3の発泡条件を、以下の表5に列挙するが、T1~T6は、図2の発泡押出機150の位置を意味する。
【0068】
【表5】
【0069】
表5に示されるように、実施例1(サンプルG)は、実施例3(サンプルF)よりも高い粘度を有しており、一方、実施例1(サンプルG)は、より低い金型圧で発泡した。したがって、MAPPワックスの添加によって、発泡の加工能力を改善することができる。一般的に、高粘度材料は、低粘度材料よりも加工が困難である。同じ生産量及び同じ加工温度下では、高粘度材料の押出しは、低粘度材料の押出しよりも高い装置トルク及び高い金型圧となる。しかし、本発明の場合は反対の結果であり、サンプルG(140000Pa・S)の押出しは、サンプルF(78000Pa・S)の押出しよりも低い金型圧となっており、その理由は、サンプルGがMAPPワックスを含有し、MAPPワックスの潤滑効果によって、高粘度材料の加工性が改善され、金型圧も低下されるからである。
【0070】
表4に示される発泡結果によると、高粘度である両サンプル(実施例1(サンプルG)及び実施例3(サンプルF))は、良好に発泡し、ポリアミド発泡体組成物は、対応する図6及び7のSEM画像に示されるように、平滑な表面及び均一な気泡構造を有していた。表4及び図7に示されるように、実施例1(サンプルG(140000Pa・S))及び実施例3(サンプルF(78000Pa・S))の発泡体密度は、それぞれ、0.2410g/cm及び0.2907g/cmであり、実施例1及び3(それぞれ、サンプルG(140000Pa・S)及びF(78000Pa・S))の気泡サイズは、それぞれ500μm及び400μmである。
【0071】
b.実施例2
実施例2の発泡手順(以下に示す)は、実施例1及び実施例3の手順と同様であったが、金型温度(T6)だけが異なり、実施例1及び実施例3の場合の255℃ではなく240℃であった。
【0072】
【表6】
【0073】
表4に示される発泡結果によると、実施例2(サンプルD(96000Pa・s))も、その高い粘度で発泡することができる。得られたポリアミド発泡体組成物は、ポリアミド複合物の低い温度での高い溶融強度に起因して、小さい気泡サイズであるが、比較的高い密度を有する。この高い溶融強度は、気泡の成長及び膨張に対する阻害効果を有し、したがって、比較的高い密度及び小さい気泡構造の形成という結果となる。発泡した実施例2(サンプルD(96000Pa・s))の密度及び気泡サイズは、図8の表面形態及び断面画像、並びに表4に示されるように、それぞれ、0.8417g/cm及び200μmである。
【0074】
c.実施例6及び実施例7
表3に示されるように、実施例6及び7の粘度は、比較的低い。以下の表7に示されるように、スタティックミキサー(T5)及び金型(T6)の温度は、上記で考察した実施例1、2、及び3と比較して低下されている。
【0075】
【表7】
【0076】
表4の発泡結果によると、実施例7(サンプルJ(20000Pa・s))は発泡しなかった。さらに、発泡の過程で二次反応が発生しており、それによって、ポリアミド材料間での架橋度の増加、及び金型圧の連続的な上昇が引き起こされた。
【0077】
対照的に、実施例6(サンプルK(48000Pa・s))は、良好に発泡し、図3に示される特性に対応するレオロジー特性を有している。しかし、図9に示されるように、実施例6(サンプルK(48000Pa・s))によって製造して得られたポリアミド発泡体組成物は、粗い表面及び比較的大きい気泡サイズを有していた。実施例6における密度及び気泡サイズは、図9の表面形態及び断面画像、並びに表4に示されるように、それぞれ、0.3582g/cm及び600μmである。
【0078】
d.実施例8及び実施例9の比較
実施例8及び実施例9は、異なるポリアミド樹脂から構成されている。実施例8及び9は、低い溶融強度も有していた。さらに、実施例8及び9における加工温度は、上記で考察した実施例と比較して比較的低い、樹脂の融点近くに設定した。実施例8及び実施例9の発泡条件を以下に示す。
【0079】
【表8】
【0080】
表4及び図11のSEM画像に示される発泡結果から、実施例9(A-PA6樹脂)は発泡せず、一方実施例8(M-PA6,66樹脂)は発泡特性を改善したことが示される。実施例8及び9の断面画像を図10に示すが、実施例8は0.268g/cmの密度を有し、実施例9は発泡しなかった。実施例8及び9の表面形態を図11に示すが、実施例8及び9は、いずれも粗い表面を有していた。
【0081】
e.実施例4
実施例4の発泡押出機150(図2)での発泡条件を以下の表に示す。
【0082】
【表9】
【0083】
表4に示される発泡結果によると、実施例4(サンプルH(42000Pa・s))は、良好に発泡し、ポリアミド発泡体組成物は、均一な気泡構造を有していた。表3に示されるように、実施例4(サンプルH(42000Pa・s))は、実施例6(サンプルK(48000Pa・s))に類似の粘度を有している。しかし、表4の発泡結果及び図12から、実施例4(サンプルH、42000Pa・s)の発泡体が、実施例6(サンプルK、48000Pa・s)の発泡体よりも平滑な表面及び小さい気泡構造を有していることが示された。さらに、実施例4と実施例6との間での外観の相違から、MAPPワックスの添加(実施例4のMAPPワックスIIなど)が、ポリアミド発泡体上での平滑な表面の形成に有利であることが示される。発泡した実施例4(サンプルH(42000Pa・s))の密度及び気泡サイズは、図13の表面形態及び断面画像、並びに表4に示されるように、それぞれ、0.2488g/cm及び300μmである。
【0084】
密度、外観、及び気泡構造などのより良好な特性を有する発泡体を得るために、ガスの押出機への注入を続けながら、材料供給を低下させた。ある時間の後、図14に示されるように、より小さい気泡構造及びより低い密度を有する発泡体サンプルを得た。特定の理論に束縛されるものではないが、発泡体特性の改善は、上記で述べた運転パラメータの変更によって延長された押出機内でのポリアミド複合物の滞留時間によって実現された。滞留時間の延長によって、溶融したポリアミド複合物中で物理的発泡剤がより完全に溶解し、したがって、低密度発泡体の形成が得られる。
【0085】
f.実施例5-実施例4に対する改善
上記の知見に基づいて、発泡装置を、追加のスタティックミキサーを1つ加えることによって更新し、押出機中でのポリアミド材料の滞留時間を、15分から20分へ延長した。実施例5の発泡条件は、実施例4の条件と同様であるが、但し、気体の注入速度が異なり、実施例4で用いた1.1g/分の代わりに2.2g/分である。発泡プロセス全体は、連続的であり安定である。
【0086】
加工パラメータの変更の結果、より低い密度及びより小さい気泡サイズを有するポリアミド発泡体組成物を得た。実施例5の発泡組成物の密度は、0.1373g/cmであり、気泡サイズは、100μmであった。表面形態(SEMによる)及び断面画像を、図15に示した。
【0087】
本開示を例示的な設計に対して記載してきたが、本開示は、本開示の趣旨及び範囲内で、さらに改変されてよい。さらに、本出願は、そのような本開示からの逸脱を、本開示が属する技術分野における公知の又は従来の実践の範囲内に含まれるとして包含することも意図している。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15