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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】シート状物の製造方法及びシート状物
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20220502BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20220502BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20220502BHJP
   B32B 37/30 20060101ALI20220502BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D7/00 A
B05D1/36 Z
B32B37/30
B32B3/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020525406
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2019021010
(87)【国際公開番号】W WO2019244572
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018115254
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135448
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】正山 準
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-099673(JP,A)
【文献】特開平10-230220(JP,A)
【文献】特開2003-164799(JP,A)
【文献】特開平10-109377(JP,A)
【文献】特開2015-196830(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098324(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/28
B05D 7/00
B05D 1/36
B32B 37/30
B32B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部が塗布液によって形成される塗布物で被覆された可撓性を有するシート状物の製造方法であって、
第1ロールコーターで前記凸部を含み且つ前記製造方法の実施に伴い前記シート状物となる可撓性を有する被塗布物に前記塗布液としての第1塗布液を塗布する先行工程と、
前記先行工程の後に実施され、第2ロールコーターで前記被塗布物に前記塗布液としての第2塗布液を塗布する後続工程と、を含み、
前記先行工程は、前記第1ロールコーターとしてリバースロールコーターを用いて前記凸部のみに前記第1塗布液を塗布する工程であり、
前記後続工程は、前記第2ロールコーターで前記凸部のみに前記第2塗布液を塗布する工程である、シート状物の製造方法。
【請求項2】
前記後続工程は、前記第2ロールコーターとしてダイレクトロールコーターを用いて前記第2塗布液を前記凸部のみに塗布する工程を含む、請求項1に記載のシート状物の製造方法。
【請求項3】
前記後続工程は、前記第2塗布液をウェットオンウェットで前記凸部のみに塗布する工程を含む、請求項1又は請求項2に記載のシート状物の製造方法。
【請求項4】
凸部が塗布液によって形成される塗布物で被覆された可撓性を有するシート状物の製造方法であって、
第1ロールコーターで前記凸部を含み且つ前記製造方法の実施に伴い前記シート状物となる可撓性を有する被塗布物に前記塗布液としての第1塗布液を塗布する先行工程と、
前記先行工程の後に実施され、第2ロールコーターで前記被塗布物に前記塗布液としての第2塗布液を塗布する後続工程と、を含み、
前記先行工程は、前記第1ロールコーターとしてリバースロールコーターを用いて前記被塗布物に前記第1塗布液を塗布する工程であり、
前記後続工程は、前記第2ロールコーターとしてダイレクトロールコーターを用いて前記第2塗布液を前記被塗布物に塗布する工程を含む、シート状物の製造方法。
【請求項5】
凸部と凹部とを含み且つ可撓性を有する被塗布物と、
前記凸部を被覆する塗布物と、を備え、
前記凹部は、底面を有し、且つ前記凸部の側面を内壁とし、
前記塗布物は、前記凸部の側面全体を被覆し、且つ前記凹部の底面を被覆しない、シート状物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸部が塗布液によって形成される塗布物で被覆された可撓性を有するシート状物の製造方法と、シート状物とに関する。
【背景技術】
【0002】
被塗布物の凸部に塗布液を塗布する技術について検討されている。例えば、特許文献1は、エンボス模様基材の意匠を強調する塗装方法を開示する。塗布方法では、高粘度塗料がエンボス模様基材にダイレクトロールコーターによりエンボス全面に塗装され、下塗りとなる。次いで、同一の高粘度塗料がダイレクトロールコーター又はリバースロールコーターによりエンボス模様中の凸部のみに塗装される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭62-1548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
次の態様で且つ可撓性を有するシート状物の製造方法は、凸部を含み且つ可撓性を有するシート状の被塗布物を基材として実施される。前述の態様は、凸部のみが塗布物で被覆された態様である。塗布物は、塗布液によって形成される。この製造方法では、凸部のみに塗布液を均一に塗布することが困難となることがある。例えば、被塗布物が可撓性を有することで、シート状物の製造方法の実施時、被塗布物に皺が発生し易くなる。発明者は、シート状物の製造方法の実施中、ダイレクトロールコーターと、このダイレクトロールコーターの次のロールコーターとの間で被塗布物に皺が発生し易いことを知っている。被塗布物に皺が発生した場合、凸部のみに塗布液を塗布することが困難となる。更に、前述の場合、凸部の所望する位置に塗布液を塗布することが困難となる。
【0005】
本発明は、被塗布物の凸部のみに塗布液を塗布することができる可撓性を有するシート状物の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、凸部のみが塗布物で被覆されたシート状物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、凸部が塗布液によって形成される塗布物で被覆された可撓性を有するシート状物の製造方法であって、第1ロールコーターで前記凸部を含み且つ前記製造方法の実施に伴い前記シート状物となる可撓性を有する被塗布物に前記塗布液としての第1塗布液を塗布する先行工程と、前記先行工程の後に実施され、第2ロールコーターで前記被塗布物に前記塗布液としての第2塗布液を塗布する後続工程と、を含み、前記先行工程は、前記第1ロールコーターとしてリバースロールコーターを用いて前記凸部のみに前記第1塗布液を塗布する工程であり、前記後続工程は、前記第2ロールコーターで前記凸部のみに前記第2塗布液を塗布する工程である、シート状物の製造方法である。
【0007】
シート状物の製造方法では、前記後続工程は、前記第2ロールコーターとしてダイレクトロールコーターを用いて前記第2塗布液を前記凸部のみに塗布する工程を含む、ようにしてもよい。
【0008】
シート状物の製造方法では、前記後続工程は、前記第2塗布液をウェットオンウェットで前記凸部のみに塗布する工程を含む、ようにしてもよい。
【0009】
本発明の他の側面は、凸部が塗布液によって形成される塗布物で被覆された可撓性を有するシート状物の製造方法であって、第1ロールコーターで前記凸部を含み且つ前記製造方法の実施に伴い前記シート状物となる可撓性を有する被塗布物に前記塗布液としての第1塗布液を塗布する先行工程と、前記先行工程の後に実施され、第2ロールコーターで前記被塗布物に前記塗布液としての第2塗布液を塗布する後続工程と、を含み、前記先行工程は、前記第1ロールコーターとしてリバースロールコーターを用いて前記被塗布物に前記第1塗布液を塗布する工程であり、前記後続工程は、前記第2ロールコーターとしてダイレクトロールコーターを用いて前記第2塗布液を前記被塗布物に塗布する工程を含む、シート状物の製造方法である。
【0010】
本発明の更に他の側面は、凸部と凹部とを含み且つ可撓性を有する被塗布物と、前記凸部を被覆する塗布物と、を備え、前記凹部は、底面を有し、且つ前記凸部の側面を内壁とし、前記塗布物は、前記凸部の側面全体を被覆し、且つ前記凹部の底面を被覆しない、シート状物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被塗布物の凸部のみに塗布液を塗布することができる可撓性を有するシート状物の製造方法を得ることができる。また、本発明によれば、凸部のみが塗布物で被覆されたシート状物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】シート状物の概略構成の一例を模式的に示す斜視図である。進行方向の前側及び後側の各方向から見たシート状物に対応する。
図2】塗工機の概略構成の一例を模式的に示す部分断面側面図である。ロールコーターの一部及びタンクを切断して示す。
図3】評価結果を示す図である。シート状物の凸部の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための実施形態について、図面を用いて説明する。本発明は、以下に記載の構成に限定されるものではなく、同一の技術的思想において種々の構成を採用することができる。例えば、以下に示す構成の一部は、省略し又は他の構成等に置換してもよい。他の構成を含むようにしてもよい。実施形態の各図は、所定の構成を模式的に示したものである。従って、実施形態の各図は、他の図との対応、又は図中の構成を特定する後述の数値との対応が正確ではない場合もある。実施形態の各図で、ハッチングは、切断面を示す。
【0014】
<シート状物・シート状物の製造方法・塗工機>
シート状物60、シート状物60の製造方法及び塗工機5について、図1,2を参照して説明する。実施形態では、シート状物60は、「シート状物60の製造方法」によって製造される製品を意味する。シート状物60の製造方法を単に「製造方法」という。図2では、シート状物60及び被塗布物61の図示は、簡略化されている。
【0015】
シート状物60は、被塗布物61と、塗布物64とを備える(図1参照)。被塗布物61は、可撓性を有するシート状の部材である。被塗布物61は、凸部62を含む。実施形態では、被塗布物61は、複数の凸部62を含む長尺材である。複数の凸部62は、被塗布物61の表面に第1方向に所定の間隔で設けられている。第1方向は、被塗布物61の長さ方向に一致する。従って、シート状物60は、可撓性を有するシート状の長尺材であり、複数の凸部62を含む。但し、被塗布物61では、凸部62の数は、1個であってもよい。この場合、シート状物60も、1個の凸部62を含む。シート状物60は、凸部62と同数の塗布物64を含む。塗布物64は、凸部62のみを被覆する。塗布物64は、塗布液50が乾燥して形成される。塗布物64は、塗布膜又は塗布層である。塗布物64は、被覆膜又は被覆層ともいえる。塗布液50は、製造方法によって凸部62のみに塗布される。
【0016】
製造方法は、塗布工程として、先行工程と、後続工程とを含む(図2参照)。塗布工程は、塗布液50を被塗布物61に塗布する工程である。後続工程は、先行工程の後に実施される。換言すれば、先行工程は、後続工程の前に実施される。先行工程は、後続工程の前に実施されればよい。先行工程は、製造方法で最初に実施される塗布工程であってもよく、又は製造方法で後続工程を除く塗布工程の後に実施される塗布工程であってもよい。後続工程は、1工程であってもよく、又は複数工程であってもよい。
【0017】
実施形態では、製造方法で実施される塗布工程として、第1工程、第2工程及び第3工程を例示する。第1工程は、先行工程である。従って、先行工程は、第1工程を意味し、第1工程は、先行工程を意味する。第2工程及び第3工程は、後続工程であり、第1工程の後に実施される。即ち、製造方法は、後続工程として第2工程及び第3工程の2工程を含む。第3工程は、第2工程の後に実施される。第2工程及び第3工程を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「後続工程」という。先行工程で用いられる塗布液50と後続工程で用いられる塗布液50とを区別する場合、前者の塗布液50を「第1塗布液51」といい、後者の塗布液50を「第2塗布液52」という。第2工程で用いられる第2塗布液52と第3工程で用いられる第2塗布液52とを区別する場合、前者の第2塗布液52を「第3塗布液53」といい、後者の第2塗布液52を「第4塗布液54」という。第3塗布液53及び第4塗布液54を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「第2塗布液52」という。第1塗布液51、第2塗布液52、第3塗布液53及び第4塗布液54を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「塗布液50」という。
【0018】
塗工機5は、製造方法を実施する。塗工機5は、第1ロールコーター11と、第2ロールコーター12とを備える。実施形態では、塗工機5は、第2工程及び第3工程の2工程に対応する2個の第2ロールコーター12を備える。2個の第2ロールコーター12のうち、第2工程に対応する第2ロールコーター12を「第3ロールコーター13」といい、第3工程に対応する第2ロールコーター12を「第4ロールコーター14」という。即ち、塗工機5は、第1ロールコーター11と、第3ロールコーター13と、第4ロールコーター14とを備える。実施形態では、第3ロールコーター13及び第4ロールコーター14を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「第2ロールコーター12」という。第1ロールコーター11、第2ロールコーター12、第3ロールコーター13及び第4ロールコーター14を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「ロールコーター10」という。
【0019】
塗工機5では、第1ロールコーター11、第3ロールコーター13及び第4ロールコーター14は、進行方向に第1ロールコーター11、第3ロールコーター13及び第4ロールコーター14の順で設けられる。進行方向は、製造方法の実施時、被塗布物61が搬送される方向である。進行方向は、第1方向に沿った方向となる。即ち、第3ロールコーター13及び第4ロールコーター14は、第1ロールコーター11の進行方向の前側に設けられる。第4ロールコーター14は、第3ロールコーター13の進行方向の前側に設けられる。
【0020】
先行工程(第1工程)は、第1ロールコーター11で被塗布物61に第1塗布液51を塗布する工程である。更に、先行工程(第1工程)は、第1ロールコーター11としてリバースロールコーターを用いて凸部62のみに第1塗布液51を塗布する工程である。後続工程(第2工程及び第3工程)は、第2ロールコーター12で被塗布物61に第2塗布液52を塗布する工程である。更に、後続工程(第2工程及び第3工程)は、第2ロールコーター12で凸部62のみに第2塗布液52を塗布する工程である。即ち、第2工程は、第3ロールコーター13で被塗布物61に第3塗布液53を塗布する工程である。更に、第2工程は、第3ロールコーター13で凸部62のみに第3塗布液53を塗布する工程である。第3工程は、第4ロールコーター14で被塗布物61に第4塗布液54を塗布する工程である。更に、第3工程は、第4ロールコーター14で凸部62のみに第4塗布液54を塗布する工程である。
【0021】
塗工機5は、更に、受けロール20と、ドクター装置30と、タンク40とを備える。塗工機5は、第1工程、第2工程及び第3工程に対応する3個のロールコーター10と同様、3個の受けロール20と、3個のドクター装置30と、3個のタンク40を備える。
【0022】
実施形態では、3個の受けロール20を「第1受けロール21」、「第3受けロール23」及び「第4受けロール24」という。第1受けロール21は、先行工程に対応し、第3受けロール23及び第4受けロール24は、後続工程に対応する。第3受けロール23及び第4受けロール24を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「第2受けロール22」という。第1受けロール21、第2受けロール22、第3受けロール23及び第4受けロール24を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「受けロール20」という。3個のドクター装置30を「第1ドクター装置31」、「第3ドクター装置33」及び「第4ドクター装置34」という。第1ドクター装置31は、先行工程に対応し、第3ドクター装置33及び第4ドクター装置34は、後続工程に対応する。第3ドクター装置33及び第4ドクター装置34を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「第2ドクター装置32」という。第1ドクター装置31、第2ドクター装置32、第3ドクター装置33及び第4ドクター装置34を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「ドクター装置30」という。3個のタンク40を「第1タンク41」、「第3タンク43」及び「第4タンク44」という。第1タンク41は、先行工程に対応し、第3タンク43及び第4タンク44は、後続工程に対応する。第3タンク43及び第4タンク44を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「第2タンク42」という。第1タンク41、第2タンク42、第3タンク43及び第4タンク44を区別しない場合、又はこれらを総称する場合、「タンク40」という。
【0023】
第1受けロール21は、被塗布物61を挟んで第1ロールコーター11と対向する位置に設けられる。第2受けロール22は、被塗布物61を挟んで第2ロールコーター12と対向する位置に設けられる。即ち、第3受けロール23は、被塗布物61を挟んで第3ロールコーター13と対向する位置に設けられる。第4受けロール24は、被塗布物61を挟んで第4ロールコーター14と対向する位置に設けられる。ロールコーター10に対して受けロール20を設けることで、次のような効果を得ることができる。即ち、被塗布物61が高い伸縮性を有する場合であっても、所望の位置に塗布液50を塗布することができる。
【0024】
受けロール20を形成する材料は、特に限定されない。例えば、受けロール20は、公知の材料によって形成される。前述の材料としては、金属、ゴム又はプラスチックが例示される。但し、発明者は、クリアランス調整の観点から、ゴムが好ましいと考える。クリアランスは、対向配置されるロールコーター10と受けロール20との間の隙間である。受けロール20の外周面は、凹凸のない平滑面とするとよい。受けロール20の外周面の硬度は、特に限定されない。但し、受けロール20の外周面の硬度は、クリアランス調整の観点から、A硬度で30~70に設定するとよい。クリアランスは、前述した通りである。A硬度は、JIS K 6253-3(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ)に準拠し、タイプAデュロメータを用いて測定される。タイプAデュロメータとしては、高分子計器株式会社製の「アスカーゴム硬度計A型」が例示される。
【0025】
ロールコーター10への塗布液50の供給は、ドクター装置30を介して行うようにするとよい。塗工機5では、塗布液50は、ドクター装置30を介してロールコーター10に供給される。ドクター装置30によれば、ロールコーター10に適切な量の塗布液50を供給することができる。第1ドクター装置31は、第1ロールコーター11に供給される第1塗布液51の量を調整する。第2ドクター装置32は、第2ロールコーター12に供給される第2塗布液52の量を調整する。即ち、第3ドクター装置33は、第3ロールコーター13に供給される第3塗布液53の量を調整する。第4ドクター装置34は、第4ロールコーター14に供給される第4塗布液54の量を調整する。ドクター装置30としては、ドクターブレードが例示される。発明者は、次の観点から、ドクター装置30としてドクターブレードを採用することが好ましいと考える。前述の観点は、ロールコーター10への設置のし易さ及び作業性の点である。実施形態では、塗工機5は、ドクター装置30としてドクターブレードを備える。
【0026】
ドクター装置30がドクターブレードである場合、ドクターブレードを形成する材料は、特に限定されない。例えば、ドクターブレードは、公知の材料によって形成される。前述の材料としては、金属、ゴム又はプラスチックが例示される。但し、発明者は、ドクターブレードの耐久性及び精度の観点から、金属が好ましいと考える。ドクターブレードの先端の厚さは、0.1~1.0mmに設定するとよい。ドクターブレードの先端は、ロールコーター10の側となるドクターブレードの端部である。ドクターブレードの先端は、ロールコーター10の外周面と接触する。ドクターブレードの先端の厚さを0.1mm以上とすることで、ドクターブレードが次の状態で曲がることを防ぐことができる。前述の状態は、ドクターブレードが先端でロールコーター10の外周面と接触した状態である。ドクターブレードの先端の厚さを1.0mm以下とすることで、ドクターブレードが硬くなることを防ぐことができる。そのため、ドクターブレードによってロールコーター10の外周面に沿って塗布液50を掻き取ることができる。
【0027】
第1タンク41は、第1塗布液51を貯留する。第1塗布液51は、第1ドクター装置31を介して第1タンク41から第1ロールコーター11に供給される。第2タンク42は、第2塗布液52を貯留する。第2塗布液52は、第2ドクター装置32を介して第2タンク42から第2ロールコーター12に供給される。即ち、第3タンク43は、第3塗布液53を貯留する。第3塗布液53は、第3ドクター装置33を介して第3タンク43から第3ロールコーター13に供給される。第4タンク44は、第4塗布液54を貯留する。第4塗布液54は、第4ドクター装置34を介して第4タンク44から第4ロールコーター14に供給される。
【0028】
この他、塗工機5は、公知の塗工機が備える構成を備える。例えば、塗工機5は、送りロールと、温度調整機とを備える。但し、実施形態では、次の構成に関する説明及び図示は、省略する。前述の構成は、送りロール及び温度調整機のような公知の塗工機が備える構成と同様の構成である。
【0029】
第1ロールコーター11は、リバースロールコーターである。リバースロールコーターは、回転方向が次の方向となるロールコーターである。前述の方向は、進行方向とは反対の方向に対応する方向である。例えば、図1の塗工機5に基づけば、進行方向は、図1を正視した状態で紙面の左側から右側に向かう方向となる。従って、進行方向に対応する方向(回転方向)は、左回りとなる。この場合、進行方向とは反対の方向は、前述の状態で紙面の右側から左側に向かう方向となり、進行方向とは反対の方向に対応する方向(回転方向)は、右回りとなる。つまり、塗工機5では、リバースロールコーターである第1ロールコーター11は、右回転する。図1で、ロールコーター10及び受けロール20の内部に示す弧状の矢印は、前述の各部の回転方向を示す。
【0030】
第1ロールコーター11を形成する材料は、特に限定されない。例えば、第1ロールコーター11は、公知の材料によって形成される。前述の材料としては、金属、ゴム又はプラスチックが例示される。但し、発明者は、耐久性及び長期使用可能性の観点から、金属が好ましいと考える。
【0031】
第1ロールコーター11は、表面に溝を有する。溝は、第1塗布液51を保持する。溝の形状は、特に限定されない。溝の形状としては、逆ピラミッド型又はスリット型が例示される。溝の深さは、例えば、100~300μmに設定するとよい。溝の形状又は深さは、種々の点を考慮して適宜設定される。例えば、溝の形状又は深さは、第1塗布液51の粘度に合わせて設定するとよい。また、溝の形状又は深さは、第1塗布液51のウェット塗布量に合わせて設定するとよい。
【0032】
第2ロールコーター12は、ダイレクトロールコーターを含むとよい。即ち、第3ロールコーター13は、ダイレクトロールコーターであるとよく、又は第4ロールコーター14は、ダイレクトロールコーターであるとよい。塗工機5では、第3ロールコーター13及び第4ロールコーター14としてダイレクトロールコーターを採用する。ダイレクトロールコーターは、回転方向が次の方向となるロールコーターである。前述の方向は、進行方向に対応する方向である。進行方向に対応する方向は、上述した通りである。つまり、塗工機5では、ダイレクトロールコーターである第ロールコーター13及び第ロールコーター14は、左回転する。
【0033】
第2ロールコーター12の材質は、第1ロールコーター11と同様、特に限定されない。例えば、第2ロールコーター12は、第1ロールコーター11と同じ材料によって形成される。第2ロールコーター12は、表面に溝を有する。溝は、第2塗布液52を保持する。溝の形状及び深さは、第1ロールコーター11と同様、種々の点を考慮して適宜設定される。例えば、溝の形状及び深さは、第2塗布液52の粘度に合わせて設定するとよい。また、溝の形状及び深さは、第2塗布液52のウェット塗布量に合わせて設定するとよい。
【0034】
後続工程は、第2塗布液52をウェットオンウェットで塗布する工程を含むとよい。即ち、第2工程及び第3工程の一方又は両方は、第2塗布液52をウェットオンウェットで塗布する工程であるとよい。ウェットオンウェットは、実施済みの塗布工程で塗布された塗布液50が乾燥する前に、次の塗布工程で同じ対象に塗布液50を塗布する塗布方法である。前述した「塗布液50が乾燥する前」は、この塗布液50が湿潤状態であるともいえる。実施形態では、第2工程及び第3工程の塗布方法は、ウェットオンウェットであるとする。但し、第2工程及び第3工程の一方又は両方では、塗布方法は、ウェットオンウェットでなくてもよい。第2工程及び第3工程での塗布方法は、諸条件を考慮して適宜設定される。
【0035】
一組のロールコーター10と受けロール20との間のクリアランスは、被塗布物61の厚さに応じて適宜設定される。塗工機5では、次の第1クリアランス、第2クリアランス及び第3クリアランスは、同一値であってもよく、又は異なる値であってもよい。第1クリアランスは、第1ロールコーター11と第1受けロール21との間のクリアランスである。第2クリアランスは、第3ロールコーター13と第3受けロール23との間のクリアランスである。第3クリアランスは、第4ロールコーター14と第4受けロール24との間のクリアランスである。但し、発明者は、次の観点から、前述の3つのクリアランスは同一値とすることが好ましいと考える。前述の観点は、第1塗布液51、第3塗布液53及び第4塗布液54を凸部62のみに均一に塗布する点である。
【0036】
塗布液50のウェット塗布量は、特に限定されない。塗布液50のウェット塗布量は、種々の点を考慮して適宜設定される。但し、製造方法の複数の塗布工程では、塗布液50のウェット塗布量は、次の観点から、質量比を等しくするとよい。前述の観点は、シート状物60で塗りむらを改善することが可能となる点である。例えば、製造方法の第1工程、第2工程及び第3工程では、第1塗布液51、第3塗布液53及び第4塗布液54のウェット塗布量の質量比は、「第1塗布液51:第3塗布液53:第4塗布液54=1:1:1」とするとよい。製造方法の全体で被塗布物61(複数の凸部62)に塗布される塗布液50のウェット塗布量は、次の観点から、40g/m以上とするとよい。前述の観点は、シート状物60で塗りむらを改善する点である。
【0037】
塗布液50は、特に限定されない。塗布液50は、種々の点を考慮して適宜選択される。例えば、塗布液50は、樹脂を含む溶液であってもよい。塗布液50は、着色剤を含む溶液であってもよい。塗布液50は、機能性薬剤を含む溶液であってもよい。第1塗布液51及び第2塗布液52は、同じ塗布液50であってもよく、又は異なる塗布液50であってもよい。第3塗布液53及び第4塗布液54は、同じ第2塗布液52であってもよく、又は異なる第2塗布液52であってもよい。この場合、第1塗布液51、第3塗布液53及び第4塗布液54の一部又は全部は、同じ塗布液50であってもよく、又は異なる塗布液50であってもよい。
【0038】
塗布液50の粘度は、塗工性の観点から、100~20000mPa・sに設定するとよい。塗布液50の粘度は、BM型粘度計を用いて測定することができる。測定時、塗布液50の温度は、35±5℃に設定される。BM型粘度計としては、例えば、東機産業株式会社製の測定機を使用し、ローターNo.4のローターを用いることができる。塗布液50の粘度を100mPa・s以上とすることで、所定の位置に塗布液50が留まり易く、塗りむらを防ぐことができる。塗布液50の粘度を20000mPa・s以下とすることで、塗布液50の泡立ちを抑制することができる。これにより、塗工性が損なわれることを防ぐことができる。好ましくは、塗布液50の粘度は、塗工性の観点から、300~5000mPa・sに設定するとよい。ドクター装置30がドクターブレードである場合、塗布液50の粘度を300mPa・s以上とすることで、ドクターブレードから塗布液50が漏れることを防ぐことができる。塗布液50の粘度を5000mPa・s以下とすることで、経時に伴う塗布液50の粘度上昇及び塗工性の低下を防ぐことができる。そのため、連続加工性が損なわれることを防ぐことができる。
【0039】
被塗布物61は、特に限定されない。被塗布物61としては、凸部62を有する次のような公知のシート状の部材が例示される。前述の部材としては、織物、編物、不織布、天然皮革、人工皮革、合成皮革、塩化ビニルレザー又は樹脂シートが例示される。天然皮革は、床革を含む。被塗布物61を形成する材料は、特に限定されない。被塗布物61は、公知の材料によって形成される。
【0040】
被塗布物61への凸部62の形成方法は、特に限定されない。例えば、凸部62は、糸の繊度、織組織又は編組織によって形成される。また、凸部62は、次のような型押し加工によって形成される。前述の型押し加工としては、エンボス、ウエルダー又はピンソニックが例示される。
【0041】
凸部62の形状は、特に限定されない。凸部62の形状は、自由な形状とすることができる。例えば、凸部62は、ストライプ、ボーダー又は市松模様であってもよい。また、凸部62は、三角形、四角形又は五角形以上の多角形の幾何学模様、又は三角錐、四角錐又は五角錐以上の多角錐の幾何学模様であってもよい。更に、凸部62は、錐台形又は屋根状形の模様であってもよい。凸部62の頂面の形状は、特に限定されない。例えば、凸部62の頂面は、曲面、平面又は傾斜面であってもよい。凸部62の側面の形状は、特に限定されない。凸部62の側面は、凸部62の頂面に対して垂直であってもよく、又は凸部62の頂面に対して傾斜していてもよい。更に、凸部62の側面は、段状であってもよい。被塗布物61が複数の凸部62を含む場合、凸部62が隣り合う間隔は、特に限定されない。凸部62の形状は、シート状物60に求められる意匠性に応じて適宜設定される。
【0042】
凸部62の高さは、0.5~10mmに設定するとよい。好ましくは、凸部62の高さは、0.5~3mmに設定するとよい。凸部62の高さを0.5mm以上とすることで、製造方法の実施に伴い、塗布液50が被塗布物61の凸部62以外の部分に塗布されることを防ぐことができる。凸部62の高さを10mm以下とすることで、凸部62の側面に塗布液50を塗布することができる。例えば、凸部62の次の側面にも塗布液50を塗布することができる。前述の側面は、凸部62の進行方向の前側の側面と、凸部62の進行方向の後側の側面である。
【0043】
製造方法の終了後、シート状物60は、熱処理されてもよい。この場合、シート状物60は、製造方法及び熱処理を経て完成品となる。製造方法及び熱処理の一方又は両方は、繰り返して行うようにしてもよい。シート状物60は、塗りむらがなく、凸部62のみが塗布物64で均一に被覆された状態となる(図1参照)。
【0044】
<実施形態の効果>
実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
【0045】
(1)製造方法は、先行工程(第1工程)と、後続工程(第2工程及び第3工程)とを含む(図2参照)。先行工程では、第1ロールコーター11で第1塗布液51が被塗布物61に塗布される。後続工程は、先行工程の後に実施される。後続工程では、第2ロールコーター12で第2塗布液52が被塗布物61に塗布される。即ち、第2工程では、第3ロールコーター13で第3塗布液53が被塗布物61に塗布される。その後、第3工程では、第4ロールコーター14で第4塗布液54が被塗布物61に塗布される。先行工程では、第1ロールコーター11としてリバースロールコーターが用いられ、第1塗布液51が凸部62のみに塗布される。後続工程では、第2ロールコーター12で第2塗布液52が凸部62のみに塗布される。即ち、第2工程では、第3ロールコーター13で第3塗布液53が凸部62のみに塗布される。その後、第3工程では、第4ロールコーター14で第4塗布液54が凸部62のみに塗布される。
【0046】
そのため、製造方法では、被塗布物61に対する張力の調整が行い易くなる。従って、第1ロールコーター11と第2ロールコーター12との間で、被塗布物61への皺の発生を抑制することができる。塗布液50を凸部62のみに塗布することができる。更に、塗布液50を凸部62の所望の位置に塗布することができる。塗りむらを発生させることなく、凸部62のみに塗布液50を均一に塗布することができる。凸部62のみが均一な塗布物64で被覆されたシート状物60とすることができる。
【0047】
(2)製造方法では、後続工程は、第2ロールコーター12としてダイレクトロールコーターを用いて第2塗布液52を凸部62のみに塗布する工程を含む。即ち、第2工程では、第3ロールコーター13としてダイレクトロールコーターを用いて第3塗布液53が凸部62のみに塗布される。第3工程では、第4ロールコーター14としてダイレクトロールコーターを用いて第4塗布液54が凸部62のみに塗布される。
【0048】
そのため、次の境界部での塗り残しをなくすことができる。前述の境界部は、凸部62の進行方向の前側及び後側で、凸部62と凹部63の底面との境界となる被塗布物61の部分である。次の状態のシート状物60を製造することができる。前述の状態は、凸部62の次の面が均一な塗布物64で被覆された状態である。前述の面は、凸部62の進行方向の前側の側面と、凸部62の頂面と、凸部62の進行方向の後側の側面とである。例えば、第1工程では、凸部62の前述の面の何れかの部分に塗り残しが生じていたとする。このような場合であっても、ダイレクトロールコーターを用いた後続工程によって、凸部62の前述の面に第2塗布液52を均一に塗布することができる。
【0049】
製造方法では、塗布液50が凸部62の第2方向の側面には塗布されないようにすることもできる。第2方向は、第1方向及び進行方向に直交する方向である。この場合、シート状物60では、凸部62の第2方向の側面は、塗布物64によって被覆されない(図1参照)。
【0050】
(3)製造方法では、後続工程は、第2塗布液52をウェットオンウェットで凸部62のみに塗布する工程を含む。そのため、第1塗布液51と第2塗布液52とを馴染ませることができる。例えば、第2工程が、第1塗布液51が乾燥する前に、第3塗布液53をウェットオンウェットで凸部62のみに塗布する工程であるとする。この場合、第1塗布液51と第3塗布液53とを馴染ませることができる。第3工程が、第3塗布液53が乾燥する前又は第1塗布液51及び第3塗布液53が乾燥する前に、第4塗布液54をウェットオンウェットで凸部62のみに塗布する工程であるとする。この場合、第3塗布液53と第4塗布液54とを馴染ませることができ、又は第1塗布液51及び第3塗布液53と第4塗布液54とを馴染ませることができる。更に、後続工程をウェットオンウェットとすることで、第2塗布液52のウェット塗布量が調整し易くなる。凸部62に塗布液50の塗りむらを発生させることなく、凸部62のみに塗布液50を均一に塗布することができる。シート状物60では、塗りむらが改善される。凸部62のみが均一な塗布物64で被覆されたシート状物60とすることができる。
【0051】
<変形例>
実施形態は、次のようにすることもできる。以下に示す変形例のうちの幾つかの構成は、適宜組み合わせて採用することもできる。以下では、上記とは異なる点を説明することとし、同様の点についての説明は、適宜省略する。
【0052】
(1)製造方法では、後続工程として第2工程及び第3工程が実施される(図2参照)。塗工機5は、第3ロールコーター13と、第4ロールコーター14とを備える。第2工程は、第3ロールコーター13を用いて実施される。第3工程は、第4ロールコーター14を用いて実施される。塗工機5は、第3ロールコーター13及び第4ロールコーター14としてダイレクトロールコーターを採用する。
【0053】
塗工機5では、第2ロールコーター12は、ダイレクトロールコーターとしてもよく、又はリバースロールコーターとしてもよい。第2ロールコーター12がダイレクトロールコーターであるとする。この場合、第2塗布液52を第1工程とは反対方向から塗布することができる。第2塗布液52を凸部62の次の側面に塗布することができる。前述の側面は、進行方向の後側となる凸部62の側面である。第2ロールコーター12がリバースロールコーターであるとする。この場合、第2塗布液52を第1工程と同一方向から塗布することができる。第2塗布液52を凸部62の次の側面に多く塗布することができる。前述の側面は、凸部62の進行方向の前側の側面である。
【0054】
後続工程が複数の工程を含むとする。この場合、後続工程における一部の工程では、第2ロールコーター12としてダイレクトロールコーターを採用し、他の一部の工程では、第2ロールコーター12としてリバースロールコーターを採用するようにしてもよい。例えば、第3ロールコーター13及び第4ロールコーター14のうちの一方は、リバースロールコーターとしてもよい。
【0055】
(2)製造方法は、先行工程が後続工程を除く塗布工程の後に実施される態様を含む。この場合、先行工程は、第1塗布液51をウェットオンウェットで塗布する工程であってもよい。この場合、先行工程では、次の塗布液が乾燥する前に、この凸部62に第1塗布液51が塗布される。前述の塗布液は、先行工程の実施前に実施された塗布工程で凸部62に塗布された塗布液である。前述の塗布液と第1塗布液51とを馴染ませることができる。
【0056】
(3)塗工機5は、受けロール20を備える(図2参照)。受けロール20は、省略してもよい。例えば、被塗布物61が伸縮性の低い被塗布物である場合、受けロール20は、省略してもよい。
【実施例
【0057】
シート状物の評価結果を説明する。この説明では、評価対象を「実施例1」及び「比較例1」という。実施例1は、次のシート状物を対象とする。前述のシート状物は、実施形態の製造方法に対応する製造方法で製造されたシート状物であり、シート状物60に対応する。実施例1の製造方法は、先行工程としての第1工程と、後続工程としての第2工程とを含む。第3工程は、省略した。比較例1は、次のシート状物を対象とする。前述のシート状物は、実施形態の製造方法とは異なる製造方法で製造されたシート状物であり、シート状物60とは異なる。比較例1の製造方法は、先行工程として例示の第1工程に対応する工程を含み、後続工程に対応する工程を含まない。
【0058】
以下の記載で塗工機の各部に対する()内の符号は、上述した実施形態の塗工機5の各部との対応関係を示す便宜上の記載である。例えば、第1ロールコーター(11)は、この第1ロールコーターが上述した実施形態の第1ロールコーター11に対応することを示す。但し、本発明は、実施例1によって限定されるものではない。
【0059】
<凸部の断面観察>
実施例1及び比較例1でのシート状物の評価は、前述のシート状物に含まれる凸部の断面を観察して行った。観察には、走査型電子顕微鏡(型式:S-3000N、日立ハイテクノロジーズ株式会社製)を用いた。観察倍率は、50倍とした。観察位置は、際A、中央B及び際Cとした。図1で、符号Aの領域は、際Aに対応し、符号Bの領域は、中央Bに対応し、符号Cの領域は、際Cに対応する。即ち、際Aは、進行方向の一方側となる凸部の境界領域である。中央Bは、凸部の中央領域である。際Cは、進行方向の他方側となる凸部の境界領域である。判定基準として、際A、中央B及び際Cの何れの箇所にも塗布物が付着している状態を合格とした。
【0060】
<実施例1>
(1)被塗布物
被塗布物は、織物にエンボス加工によって形成された凸部を有する、シート状の可撓性部材とした。織物の仕様は、次の通りである。凸部は、高さ1mm、幅1550mm、長さ15mmであった。凸部の間隔は、5mmであった。凸部の幅寸法は、上述した第2方向の寸法に対応し、凸部の長さ寸法及び間隔は、上述した第1方向の寸法に対応する(図1参照)。
[織物仕様]
経糸:167dtex/48fポリエステルマルチフィラメント加工糸、180本/25.4mm
緯糸:167dtex/36fポリエステルマルチフィラメント加工糸、90本/25.4mm
(2)塗布液
塗布液は、ウレタン樹脂(品名:アデカボンタイターHUX-564、株式会社ADEKA製、固形分40質量%)を水で粘度1000mPa・sに調整した溶液とした。塗布液は、この溶液1種類とした。
【0061】
(3)塗工機及び製造方法
実施例1の塗工機は、第1ロールコーター(11)と、第1受けロール(21)と、第1ドクター装置(31)と、第1タンク(41)と、第3ロールコーター(13)と、第3受けロール(23)と、第3ドクター装置(33)と、第3タンク(43)とを備える。第1タンク(41)及び第3タンク(43)には、上述した塗布液を貯留させた。第1ロールコーター(11)、第1受けロール(21)、第1ドクター装置(31)、第3ロールコーター(13)、第3受けロール(23)及び第3ドクター装置(33)の仕様は、次の通りである。
[第1ロールコーター(11)]
種別、材料、メッシュサイズ、溝形状、溝深さ:リバースロールコーター、金属製、30、逆ピラミッド型、100μm
[第1受けロール(21)]
材料、外周面:金属製、平滑面
[第1ドクター装置(31)]
種別、材料、先端厚さ:ドクターブレード、金属製、0.5mm
[第3ロールコーター(13)]
種別、材料、メッシュサイズ、溝形状、溝深さ:ダイレクトロールコーター、金属製、30、逆ピラミッド型、100μm
[第3ドクター装置(33)]
種別、材料、先端厚さ:ドクターブレード、金属製、0.5mm
実施例1の塗工機では、第1クリアランス及び第2クリアランスは、0.6mmとした。上述した実施形態の場合と同様、第1クリアランスは、第1ロールコーター(11)と第1受けロール(21)との間のクリアランスであり、第2クリアランスは、第3ロールコーター(13)と第3受けロール(23)との間のクリアランスである。
【0062】
実施例1の製造方法では、被塗布物を次の位置に配置した。前述の位置は、凸部が第1ロールコーター(11)及び第3ロールコーター(13)に接する位置である。被塗布物の搬送速度は、10m/分とした。実施例1の製造方法の第1工程及び第2工程では、塗布液のウェット塗布量は、150g/mに設定した。従って、実施例1の製造方法の第1工程及び第2工程では、塗布液のウェット塗布量の質量比は、「第1工程の塗布液:第2工程の塗布液=1:1」となる。更に、製造方法の終了後、製造されたシート状物をヒートセッターにて熱処理した。熱処理条件は、150℃の温度で90秒間とした。実施例1では、熱処理後のシート状物を評価対象とした。
【0063】
(4)評価結果
実施例1では、製造方法の実施時、被塗布物に皺の発生は認められなかった。実施例1のシート状物では、凸部に塗布液が塗布されていた。更に、このシート状物では、凸部の際A、中央B及び際Cには、塗布物が付着し、凸部の際A、中央B及び際Cは、全て塗布物で被覆されていた(図3左側上段・中段・下段参照)。その結果、実施例1のシート状物は、上述した判定基準を満たす合格品である。図3で6枚の写真内に示す上下2本の破線は、塗布物で被覆された領域を明示する便宜上の図示である。
【0064】
<比較例1>
(1)被塗布物・塗布液の調製・塗工機及び製造方法
比較例1では、被塗布物及び塗布液は、実施例1と同じである。比較例1が実施例1と相違する点は、比較例1の製造方法が後続工程を含まない点である。比較例1の塗工機は、第1ロールコーター(11)と、第1受けロール(21)と、第1ドクター装置(31)と、第1タンク(41)とを備える。一方、比較例1の塗工機は、第3ロールコーター(13)と、第3受けロール(23)と、第3ドクター装置(33)と、第3タンク(43)とを備えない。比較例1の製造方法では、先行工程として例示の第1工程に対応する工程のみが実施例1の場合と同様に実施される。比較例1でも、実施例1と同様、製造方法の終了後、製造されたシート状物をヒートセッターにて熱処理した。比較例1の被塗布物と塗布液の調製と塗工機及び製造方法とに関し、この他の説明は、実施例1に関連して上述した通りであり、省略する。
【0065】
(2)評価結果
比較例1では、製造方法の実施時、被塗布物に皺の発生は認められなかった。比較例1のシート状物では、凸部に塗布液が塗布されていた。更に、このシート状物では、凸部の際A及び中央Bには、塗布物が付着し、凸部の際A及び中央Bは、塗布物で被覆されていた(図3右側上段・中段参照)。しかしながら、このシート状物では、凸部の際Cには次の態様の領域Nの発生が認められた(図3右側下段参照)。前述の態様は、塗布物が付着しておらず、塗布物で被覆されていない部分を含む態様である。その結果、比較例1のシート状物は、上述した判定基準を満たさない不合格品である。図3右側下段で比較例1の際Cの写真内に示す楕円は、領域Nを明示する便宜上の図示である。
【符号の説明】
【0066】
5 塗工機、 10 ロールコーター、 11 第1ロールコーター
12 第2ロールコーター、 13 第3ロールコーター
14 第4ロールコーター、 20 受けロール
21 第1受けロール、 22 第2受けロール
23 第3受けロール、 24 第4受けロール
30 ドクター装置、 31 第1ドクター装置
32 第2ドクター装置、 33 第3ドクター装置
34 第4ドクター装置、 40 タンク、 41 第1タンク
42 第2タンク、 43 第3タンク、 44 第4タンク
50 塗布液、 51 第1塗布液、 52 第2塗布液
53 第3塗布液、 54 第4塗布液、 60 シート状物
61 被塗布物、 62 凸部、 63 凹部、 64 塗布物
図1
図2
図3