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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】鋼管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20220502BHJP
【FI】
F16L15/04 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020538269
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2019030172
(87)【国際公開番号】W WO2020039875
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018157837
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井瀬 景太
(72)【発明者】
【氏名】中野 日香理
(72)【発明者】
【氏名】杉野 正明
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-072187(JP,A)
【文献】特表2013-511672(JP,A)
【文献】特表2005-526936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のピンと管状のボックスとからなる鋼管用ねじ継手であって、
前記ピンは、前記ピンの先端から前記ピンの管本体に向けて順に、環状のショルダ面と、前記ピンの前記ショルダ面に隣接する環状のシール面と、雄ねじ部とを含み、
前記ボックスは、前記ボックスの管本体から前記ボックスの先端に向けて順に、環状のショルダ面と、前記ボックスの前記ショルダ面に隣接する環状のシール面と、雌ねじ部とを含み、
前記ピン及び前記ボックスそれぞれの前記ショルダ面は、管軸に垂直な面から前記ピンのねじ込み進行方向に傾倒し、
前記ピンの前記ショルダ面の内周縁の直径が、前記ボックスの前記ショルダ面の内周縁の直径よりも小さい、鋼管用ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記管軸に垂直な面に対する前記ピン及び前記ボックスそれぞれの前記ショルダ面の傾斜角が5°~20°である、鋼管用ねじ継手。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記ピンの前記ショルダ面を前記管軸に垂直な面に投影したときに現れる環状のピンショルダ領域の厚さが、前記ピンの前記管本体の肉厚の60%以上である、鋼管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記ボックスの前記ショルダ面を前記管軸に垂直な面に投影したときに現れる環状のボックスショルダ領域の厚さが、前記ピンの前記管本体の肉厚の20%以上55%以下である、鋼管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の連結に用いられるねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう)において、地下資源を採掘するために油井管(OCTG:Oil Country Tubular Goods)と呼ばれる鋼管が使用される。鋼管は順次連結される。鋼管の連結にねじ継手が用いられる。
【0003】
鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型に大別される。カップリング型ねじ継手の場合、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。この場合、鋼管の両端部の外周に雄ねじ部が形成され、カップリングの両端部の内周に雌ねじ部が形成される。そして、鋼管とカップリングとが連結される。インテグラル型ねじ継手の場合、連結対象の一対の管材がともに鋼管であり、別個のカップリングを用いない。この場合、鋼管の一端部の外周に雄ねじ部が形成され、他端部の内周に雌ねじ部が形成される。そして、一方の鋼管と他方の鋼管とが連結される。
【0004】
雄ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。一方、雌ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。これらのピンとボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0005】
図1は、従来の典型的な鋼管用ねじ継手を示す縦断面図である。図1に示すねじ継手はカップリング型ねじ継手であり、ピン10とボックス20とから構成される(例えば、特開平10-096489号公報(特許文献1)参照)。
【0006】
ピン10は、ピン10の先端からピン10の管本体11に向けて順に、環状のショルダ面12と、環状のシール面13と、雄ねじ部14とを含む。ピン10において、シール面13はショルダ面12に隣接する。ボックス20は、ボックス20の管本体21からボックス20の先端に向けて順に、環状のショルダ面22と、環状のシール面23と、雌ねじ部24とを含む。ボックス20において、シール面23はショルダ面22に隣接する。
【0007】
ピン10とボックス20を連結する際、ボックス20へのピン10のねじ込みにより、ピン10のショルダ面12がボックス20のショルダ面22と接触する。引き続きピン10を所定量回転させると、互いに噛み合う雄ねじ部14と雌ねじ部24に締付け軸力が発生し、締結が完了する。締結が完了した状態(以下、「締結状態」ともいう)では、ピン10のシール面13がボックス20のシール面23と干渉しながら接触し、メタル接触によるシール部が形成される。このシール部により、ねじ継手のシール性能が確保される。
【0008】
近年、油井の高深度化及び超深海化が進展し、これに伴い、油井環境は高温・高圧の過酷な環境になっている。このような油井環境では、油井管に負荷される圧縮荷重、引張荷重、外部からの圧力(以下、「外圧」ともいう)、及び内部からの圧力(以下「内圧」ともいう)は極めて高い。そのため、特にケーシングやチュービングに用いられる油井管として、厚肉鋼管が使用される。このような厚肉鋼管の連結に図1に示すようなねじ継手を用いる場合、そのねじ継手には厚肉鋼管本体と同等の強度と高いシール性能が要求される。特に外圧に対するシール性能が要求される。
【0009】
ここで、ピン10のショルダ面12とボックス20のショルダ面22との接触面(以下、「ショルダ接触面」ともいう)によって、圧縮荷重が受け止められる。図1を参照して、従来のねじ継手では、ショルダ接触面の面積を最大限に確保するために、ピン10のショルダ面12の全域がボックス20のショルダ面22の全域と接触する。つまり、ピン10のショルダ面12の内周縁の直径Dpiは、ボックス20のショルダ面22の内周縁の直径Dbiと実質的に同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平10-096489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の1つの目的は、厚肉鋼管を用いる場合であっても、外圧に対するシール性能を十分に確保することができる鋼管用ねじ継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態による鋼管用ねじ継手は、管状のピンと管状のボックスとからなる。ピンは、ピンの先端からピンの管本体に向けて順に、環状のショルダ面と、ピンのショルダ面に隣接する環状のシール面と、雄ねじ部とを含む。ボックスは、ボックスの管本体からボックスの先端に向けて順に、環状のショルダ面と、ボックスのショルダ面に隣接する環状のシール面と、雌ねじ部とを含む。ピン及びボックスそれぞれのショルダ面は、管軸に垂直な面からピンのねじ込み進行方向に傾倒する。ピンのショルダ面の内周縁の直径が、ボックスのショルダ面の内周縁の直径よりも小さい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態による鋼管用ねじ継手によれば、厚肉鋼管を用いる場合であっても、外圧に対するシール性能を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、従来の典型的な鋼管用ねじ継手を示す縦断面図である。
図2図2は、本実施形態の鋼管用ねじ継手を示す縦断面図である。
図3図3は、図2に示すねじ継手のピンの先端付近を拡大した縦断面図である。
図4図4は、図2に示すねじ継手のピンの先端付近を拡大した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明者らは種々の解析及び試験を実施し、鋭意検討を重ねた。その結果、下記の知見を得た。
【0016】
厚肉鋼管を用いるねじ継手でシール性能を高めようとする場合、以下の手法が考えられる。第1の手法として、図1を参照して、ピン10のシール面13を含む部分15(以下、「ピンシール部」ともいう)の肉厚を厚くすることが考えられる。
【0017】
第1の手法は以下の推論から導き出された。ピンシール部15の肉厚が厚ければ、ピンシール部15の半径方向の剛性が高まる。これにより、ピンシール部15の弾性回復力が向上し、締結状態でピン10のシール面13とボックス20のシール面23との間の接触力(以下、「シール接触力」ともいう)が高まり、内圧および外圧に対するシール性能が高まる。また、ピン10に外圧が負荷されたときのピンシール部15の縮径変形が抑制される。そのため、外圧が負荷された場合でもシール接触力の低下を小さくすることができる。したがって、外圧に対するシール性能の低下を抑制することができる、と言えるかもしれない。
【0018】
第1の手法では、ピンシール部15の厚肉化により、ピン10のショルダ面12の面積が大きい。従来のねじ継手では、ピン10のショルダ面12の全域がボックス20のショルダ面22の全域と接触する。そのため、ボックス20のショルダ面22の面積も大きい。つまり、ショルダ接触面の面積が大きい。
【0019】
しかしながら、ショルダ接触面の面積が大きすぎる場合、ピン10のショルダ面12とボックス20のショルダ面22との間の接触力(以下、「ショルダ接触力」ともいう)がショルダ接触面内で不均一になる。ショルダ接触面に隣接するシール部はその影響を大きく受ける。そのため、実際には、シール部の接触が不安定になり、シール性能が低下する。
【0020】
このような第1の手法に対して、第2の手法として、ピンシール部15の肉厚を薄くすることが考えられる。この場合、ピンシール部15の薄肉化により、ピン10のショルダ面12の面積が小さくて、ボックス20のショルダ面22の面積も小さい。これにより、ショルダ接触面の面積が小さい。そのため、ショルダ接触力の均一化が図れる。
【0021】
しかしながら、第2の手法では、ピンシール部15の薄肉化により、ピンシール部15の半径方向の剛性が低い。これにより、ピン10に外圧が負荷されたとき、ピンシール部15が縮径変形し易い。そのため、実際には、外圧に対するシール性能が低下する。
【0022】
要するに、第1及び第2の手法のいずれでも外圧に対するシール性能を確保することができない。
【0023】
そこで、本発明者らは、第1及び第2の手法の問題点を踏まえて、ピンシール部とショルダ接触面に着目した。具体的には、ピンシール部の肉厚を厚くするとともに、ショルダ接触面の面積を小さくする。これにより、ピンシール部の半径方向の剛性が高まりつつ、ショルダ接触力がショルダ接触面内で均一になる。そのため、シール部の接触の安定化を図ることが可能になる。その結果、外圧に対するシール性能を確保することができる。
【0024】
本発明の鋼管用ねじ継手は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0025】
本発明の実施形態による鋼管用ねじ継手は、管状のピンと管状のボックスとからなる。ピンは、ピンの先端からピンの管本体に向けて順に、環状のショルダ面と、ピンのショルダ面に隣接する環状のシール面と、雄ねじ部とを含む。ボックスは、ボックスの管本体からボックスの先端に向けて順に、環状のショルダ面と、ボックスのショルダ面に隣接する環状のシール面と、雌ねじ部とを含む。ピン及びボックスそれぞれのショルダ面は、管軸に垂直な面からピンのねじ込み進行方向に傾倒する。ピンのショルダ面の内周縁の直径が、ボックスのショルダ面の内周縁の直径よりも小さい。
【0026】
典型的な例では、本実施形態のねじ継手は、ケーシングやチュービングに用いられる厚肉鋼管の連結に使用される。厚肉鋼管の肉厚は1インチ(25.4mm)を超える。
【0027】
本実施形態のねじ継手によれば、ピンのショルダ面の面積が大きくて、ボックスのショルダ面の面積が小さい。ピンのショルダ面の内周縁の直径が、ボックスのショルダ面の内周縁の直径よりも小さいからである。これにより、ピンシール部の肉厚が厚いため、ピンシール部の半径方向の剛性が高まる。また、ショルダ接触面の面積が小さいため、ショルダ接触力がショルダ接触面内で均一になる。
【0028】
さらに本実施形態のねじ継手によれば、締結状態でピンのショルダ面がボックスのショルダ面とフック状の形態で押圧接触する。ピン及びボックスそれぞれのショルダ面が、管軸に垂直な面からピンのねじ込み進行方向に傾倒するからである。これにより、ピンシール部は常時拡径する方向に反力を受ける。そのため、ピンに外圧が負荷されたとき、ピンシール部が縮径変形し難い。
【0029】
以上のことから、厚肉鋼管を用いる場合であっても、シール部の接触が安定する。したがって、外圧に対するシール性能を十分に確保することができる。
【0030】
上記のねじ継手では、管軸に垂直な面に対するピン及びボックスそれぞれのショルダ面の傾斜角が5°~20°であることが好ましい。ショルダ面の傾斜角が5°以上であれば、締結状態でピンのショルダ面がボックスのショルダ面とフック状の形態で有効に押圧接触する。好ましくは、ショルダ面の傾斜角は10°以上である。一方、ショルダ面の傾斜角が20°以下であれば、圧縮荷重が繰り返し負荷されてもボックスのショルダ部の変形が小さい。そのため、フック状の形態でのショルダ面同士の押圧接触が有効に維持される。
【0031】
上記のねじ継手では、ピンのショルダ面を管軸に垂直な面に投影したときに現れる環状のピンショルダ領域の厚さtpが、ピンの管本体の肉厚tの60%以上であることが好ましい。ピンショルダ領域の厚さtpがピンの管本体の肉厚tの60%以上であれば、ピンシール部の肉厚が有効に厚くなる。
【0032】
一方、ピンショルダ領域の厚さtpの上限は特に限定されない。ただし、ピンショルダ領域の厚さtpがあまりに厚すぎると、雄ねじ部の長さを確保することが難しくなる。そのため、ピンショルダ領域の厚さtpはピンの管本体の肉厚tの80%以下であることが好ましい。
【0033】
上記のねじ継手では、ボックスのショルダ面を管軸に垂直な面に投影したときに現れる環状のボックスショルダ領域の厚さtbが、ピンの管本体の肉厚tの20%以上55%以下であることが好ましい。ボックスショルダ領域は、ショルダ接触面を管軸に垂直な面に投影したときに現れる環状のショルダ接触面領域に相当する。
【0034】
ボックスショルダ領域(ショルダ接触面領域)の厚さtbがピンの管本体の肉厚tの20%以上であれば、ねじ継手に過大な圧縮荷重が負荷された場合、ショルダ面ならびにこれに隣接するシール面の塑性変形を抑制することができ、シール面の接触状態を安定にすることができる。そのため、シール接触力を確保することができる。より好ましくは、ボックスショルダ領域の厚さtbがピンの管本体の肉厚tの30%以上である。一方、ボックスショルダ領域の厚さtbがピンの管本体の肉厚tの55%以下であれば、ショルダ接触面の面積が有効に小さくなる。より好ましくは、ボックスショルダ領域の厚さtbがピンの管本体の肉厚tの45%以下である。
【0035】
なお、厳密には、ピンの縦断面において、ショルダ面とシール面との間に角部が存在する。この角部はピンにおけるショルダ面とシール面とを滑らかにつなぐ。同様にボックスの縦断面において、ショルダ面とシール面との間に隅部が存在する。この隅部はボックスにおけるショルダ面とシール面とを滑らかにつなぐ。これらの角部及び隅部の縦断面における半径は最大でも1.5mm程度である。この場合、ピンショルダ領域の厚さtpは角部の領域を含まない。同様に、ボックスショルダ領域の厚さtbは隅部の領域を含まない。
【0036】
以下に、図面を参照しながら、本実施形態の鋼管用ねじ継手の具体例を説明する。
【0037】
図2は、本実施形態の鋼管用ねじ継手を示す縦断面図である。図3及び図4は、図2に示すねじ継手のピンの先端付近を拡大した縦断面図である。図3には、締結状態が示される。図4には、説明の便宜上、ピン10をボックス20から分離した状態が示される。図2図4中の白抜き矢印は、ボックス20に対するピン10のねじ込み進行方向を示す。本明細書において、縦断面とは、ねじ継手の管軸CL(図2参照)を含む断面を意味する。
【0038】
図2図4を参照し、本実施形態のねじ継手はカップリング型ねじ継手であり、ピン10及びボックス20とから構成される。ピン10は厚肉鋼管である。
【0039】
ピン10は、ピン10の先端からピン10の管本体11に向けて順に、環状のショルダ面12と、環状のシール面13と、雄ねじ部14とを含む。以下、ピン10のショルダ面12を「ピンショルダ面」ともいう。ピン10のシール面13を「ピンシール面」ともいう。
【0040】
ピンショルダ面12は、ピン10の先端面を形成する環状面であり、管軸CLに垂直な面からピン10のねじ込み進行方向に傾倒する。これにより、ピンショルダ面12の外周縁12b(管軸CLから遠い側の縁)は、ピンショルダ面12の内周縁12a(管軸CLに近い側の縁)よりも、ピン10のねじ込み進行方向に突出する。ピンシール面13はピンショルダ面12に隣接する。つまり、ピンシール面13はピンショルダ面12の外周縁12bに接続する。ピンシール面13はテーパ状の環状面である。ただし、ピンシール面13は、テーパ状の環状面と、円弧等の曲線を管軸CL周りに回転して得られる回転体の周面に相当する面と、を組み合わせた形状であってもよい。ピンシール面13は、ピン10の先端側(ピンショルダ面12側)ほど直径が小さい。
【0041】
ボックス20は、ボックス20の管本体21からボックス20の先端に向けて順に、環状のショルダ面22と、環状のシール面23と、雌ねじ部24とを含む。以下、ボックス20のショルダ面22を「ボックスショルダ面」ともいう。ボックス20のシール面23を「ボックスシール面」ともいう。
【0042】
ボックスショルダ面22は、ピンショルダ面12に対応する環状面であり、管軸CLに垂直な面からピン10のねじ込み進行方向に傾倒する。これにより、ボックスショルダ面22の内周縁22a(管軸CLに近い側の縁)は、ボックスショルダ面22の外周縁22b(管軸CLから遠い側の縁)よりも、ピン10のねじ込み進行方向とは反対方向に突出する。ボックスシール面23はボックスショルダ面22に隣接する。つまり、ボックスシール面23はボックスショルダ面22の外周縁22bに接続する。ボックスシール面23は、ピンシール面13に対応するテーパ状の環状面である。ただし、ボックスシール面23は、テーパ状の環状面と、円弧等の曲線を管軸CL周りに回転して得られる回転体の周面に相当する面と、を組み合わせた形状であってもよい。
【0043】
ピン10の雄ねじ部14はボックス20の雌ねじ部24に対応する。雄ねじ部14及び雌ねじ部24は、それぞれねじ頂面、ねじ底面、挿入フランク面及び荷重フランク面を含む。
【0044】
本実施形態では、ピンショルダ面12の内周縁12aの直径Dpiが、ボックスショルダ面22の内周縁22aの直径Dbiよりも小さい。つまり、ピンショルダ面12の面積が大きくて、ボックスショルダ面22の面積が小さい。そのため、ショルダ接触面30の面積が小さい。なお、ピンショルダ面12の内周縁12aの直径Dpiは、ピン10の管本体11の内径と同じである。つまり、ピン10の内径は一定である。
【0045】
また本実施形態では、管軸CLに垂直な面に対するピンショルダ面12及びボックスショルダ面22それぞれの傾斜角θp及びθbは、5°~20°である。ピンショルダ面12を管軸CLに垂直な面に投影したときに現れる環状のピンショルダ領域の厚さtpが、ピン10の管本体11の肉厚tの60%以上である。ボックスショルダ面22を管軸CLに垂直な面に投影したときに現れる環状のボックスショルダ領域の厚さtbが、ピン10の管本体11の肉厚tの20%以上55%以下である。
【0046】
ピン10とボックス20を連結する際、ボックス20へのピン10のねじ込みにより、雄ねじ部14が雌ねじ部24と噛み合う。ピンショルダ面12の一部がボックスショルダ面22の全域と接触する。つまり、ショルダ接触面30の範囲でピンショルダ面12がボックスショルダ面22と接触する。引き続きピン10を所定量回転させると、ピンショルダ面12の一部がボックスショルダ面22の全域とフック状の形態で押圧接触する。これにより、互いに噛み合う雄ねじ部14と雌ねじ部24に締付け軸力が発生し、締結が完了する。締結状態では、ピンシール面13がボックスシール面23と干渉しながら接触し、メタル接触によるシール部が形成される。このシール部により、ねじ継手のシール性能が確保される。
【0047】
図2図4を参照し、本実施形態のねじ継手によれば、ピンショルダ面12の面積が大きくて、ボックスショルダ面22の面積が小さい。これにより、ピンシール部15の肉厚が厚いため、ピンシール部15の半径方向の剛性が高まる。また、ショルダ接触面30の面積が小さいため、ショルダ接触力がショルダ接触面30内で均一になる。
【0048】
さらに本実施形態のねじ継手によれば、締結状態でピンショルダ面12の一部がボックスショルダ面22の全域とフック状の形態で押圧接触する。これにより、ピンシール部15は常時拡径する方向に反力を受ける。そのため、ピン10に外圧が負荷されたとき、ピンシール部15が縮径変形し難い。
【0049】
以上のことから、厚肉鋼管を用いる場合であっても、シール部の接触が安定する。したがって、外圧に対するシール性能を十分に確保することができる。
【実施例
【0050】
本実施形態による効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値シミュレーション解析(FEM解析)を実施した。
【0051】
[実施例1]
[試験条件]
FEM解析では、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpi、及びボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiを種々変更したカップリング型ねじ継手のモデルを用いた。共通の条件は下記のとおりである。
・鋼管(ピン本体部)の寸法:7-5/8inch×1.06inch(外径193.7mm、肉厚27.0mm)
・鋼管のグレード:API規格のP110(公称降伏応力が110ksiの炭素鋼)
・ショルダ面(ピンショルダ面及びボックスショルダ面)の外周縁の直径Do:179.9mm
・ショルダ面の傾斜角:15°
・ねじピッチ:5.08mm
・荷重フランク面のフランク角:-3°
・挿入フランク面のフランク角:10°
・挿入フランク面における隙間:0.15mm
【0052】
変更した寸法条件は下記の表1のとおりである。
【0053】
【表1】
【0054】
FEM解析では、材料を等方硬化の弾塑性体とした。弾性係数は210GPaとし、0.2%耐力としての降伏強度は110ksi(758.3MPa)とした。締付けは、ピンショルダ面がボックスショルダ面に接触してからさらに1.0/100回転した状態まで行った。
【0055】
試験No.1及び3~6は本実施形態のねじ継手を想定した本発明例であり、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiよりも小さかった。試験No.2は従来のねじ継手を想定した基準の比較例であり、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiと同じであった。試験No.7~9は比較例であり、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiと同じであった。
【0056】
[評価方法]
FEM解析では、締結状態のモデルにISO13679 2011年版のSeries A試験を模擬した荷重ステップ(内圧、外圧、引張荷重及び圧縮荷重)を負荷した。その荷重ステップ履歴の外圧サイクルにおける荷重点のうちの外圧及び圧縮荷重の荷重点、及び外圧のみの荷重点に着目し、それぞれの荷重点におけるシール部のシール性能を評価した。ここでは、外圧及び圧縮荷重の負荷時のシール接触力[N/mm]、及び外圧のみの負荷時のシール接触力[N/mm]を調査した。ここでいうシール接触力とは、「シール面同士の平均接触面圧」×「接触幅」の値であり、この値が高いほどシール性能が良いことを意味する。
【0057】
シール性能の具体的な評価は試験No.2を基準にして行った。つまり、試験No.2における外圧及び圧縮荷重の負荷時のシール接触力、及び外圧のみの負荷時のシール接触力をそれぞれ基準(1.00)とし、試験No.2のシール接触力に対する各試験No.のシール接触力の比率を比較した。
【0058】
[試験結果]
上記の表1に試験結果を示す。表1に示す結果から、次のことが示される。本発明例の試験No.1及び3~6では、基準となる比較例の試験No.2と比べ、シール性能が向上した。これは、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiよりも小さかったことに起因する。特に、試験No.1及び3~6では、シール性能が一層向上する。これは、ピンショルダ領域の厚さtpがピンの管本体の肉厚tの60%以上であり、ピンシール部の肉厚が有効に厚くなったことに起因する。また、ボックスショルダ領域の厚さtbがピンの管本体の肉厚tの55%以下であり、ショルダ接触面の面積が有効に小さかったことに起因する。
【0059】
これに対し、比較例の試験No.7~9では、基準となる試験No.2と比べ、シール性能が低下した。これは、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiと同じであったことに起因する。特に、ピンショルダ領域の厚さtpがピンの管本体の肉厚tの60%に達しなかったため、ピンシール部の肉厚が薄くなったことにも起因する。
【0060】
[実施例2]
[試験条件]
実施例2では、上記の実施例1と同様のFEM解析を実施した。特に、実施例2では、ショルダ面の傾斜角を5°にした。それ以外に共通の条件は、上記の実施例1と同じであった。変更した寸法条件(ピンショルダ面の内周縁の直径Dpi、及びボックスショルダ面の内周縁の直径Dbi)は下記の表2のとおりである。
【0061】
【表2】
【0062】
試験No.10及び12~15は本実施形態のねじ継手を想定した本発明例であり、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiよりも小さかった。試験No.11は従来のねじ継手を想定した基準の比較例であり、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiと同じであった。試験No.16~18は比較例であり、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiと同じであった。
【0063】
[評価方法]
上記の実施例1と同様にシール性能を評価した。シール性能の具体的な評価は試験No.11を基準にして行った。つまり、試験No.11における外圧及び圧縮荷重の負荷時のシール接触力、及び外圧のみの負荷時のシール接触力をそれぞれ基準(1.00)とし、試験No.11のシール接触力に対する各試験No.のシール接触力の比率を比較した。
【0064】
[試験結果]
上記の表2に試験結果を示す。表2に示す結果から、次のことが示される。本発明例の試験No.10及び12~15では、基準となる比較例の試験No.11と比べ、シール性能が向上した。これは、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiよりも小さかったことに起因する。
【0065】
これに対し、比較例の試験No.16~18では、基準となる試験No.11と比べ、シール性能が低下した。これは、ピンショルダ面の内周縁の直径Dpiがボックスショルダ面の内周縁の直径Dbiと同じであったことに起因する。
【0066】
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、ねじ継手の形式は、カップリング型及びインテグラル型のいずれでも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のねじ継手は、油井管として用いる鋼管の連結に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 ピン
11 管本体
12 ショルダ面
12a 内周縁
12b 外周縁
13 シール面
14 雄ねじ部
15 ピンシール部
20 ボックス
21 管本体
22 ショルダ面
22a 内周縁
22b 外周縁
23 シール面
24 雌ねじ部
30 ショルダ接触面
Do ショルダ面の外周縁の直径
Dpi ピンショルダ面の内周縁の直径
Dbi ボックスショルダ面の内周縁の直径
tp ピンショルダ領域の厚さ
tb ボックスショルダ領域の厚さ
t ピンの管本体の肉厚
CL 管軸
図1
図2
図3
図4