(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】チェーン
(51)【国際特許分類】
F16G 13/02 20060101AFI20220506BHJP
F16G 13/06 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
F16G13/02 B
F16G13/06 C
F16G13/02 D
(21)【出願番号】P 2018056153
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】521229304
【氏名又は名称】ゼクサスチェン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 亮一
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-170493(JP,A)
【文献】特開2002-295600(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0058760(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/02
F16G 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレートが連結するチェーンであって、
前記プレート同士の連結部において、
外側に配置され、端部近傍にピン嵌合孔が設けられる外プレートと、
前記外プレートの内側に配置され、前記ピン嵌合孔に対応する部位にブシュ嵌合孔が設けられる内プレートと、
前記ブシュ嵌合孔に嵌合するブシュと、
前記ブシュを貫通し、前記外プレートの前記ピン嵌合孔に固定されるピンと、
を具備し、
前記ブシュは、外層と前記外層の内部に配置される内層との二層構造であり、前記内層には、固体潤滑剤が設けられ
、
前記ブシュの前記内層が、前記外層よりも長く、前記外層の両端に突出することを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記外層の両端に突出する前記内層の外周部にシール部材が配置されることを特徴とする請求項
1記載のチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性および耐久性に優れたチェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーンは、複数の外プレートおよび内プレートが、ピンおよびブシュを介して屈曲自在に連結されて構成される。チェーンの使用時には、チェーンの屈曲に伴い、ピンの外面とブシュの内面とが摺動する。このため、この部位の摩耗を防ぐとともに、チェーンの屈曲動作を滑らかにするため、ピンとブシュとの間には定期的に給油を施す必要がある。
【0003】
給油作業は工数を要するため、給油間隔は長い方が望ましい。このため、ピン自体に潤滑剤を保持させる方法が提案されている。このようなチェーンとしては、例えば、ピンの外周面に溝を設け、溝に潤滑油を保持させる方法がある。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように、溝に給油を行うとしても、使用時に溝から潤滑油が流出し、油切れを起こす恐れがある。このため、溝を設けたとしても、それなりの頻度では、給油が必要である。また、溝を形成することで、ピンの強度が落ちるため、チェーンの耐久性が落ちる要因となる。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、耐摩耗性および耐久性に優れたチェーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために本発明は、複数のプレートが連結するチェーンであって、前記プレート同士の連結部において、外側に配置され、端部近傍にピン嵌合孔が設けられる外プレートと、前記外プレートの内側に配置され、前記ピン嵌合孔に対応する部位にブシュ嵌合孔が設けられる内プレートと、前記ブシュ嵌合孔に嵌合するブシュと、前記ブシュを貫通し、前記外プレートの前記ピン嵌合孔に固定されるピンと、を具備し、前記ブシュは、外層と前記外層の内部に配置される内層との二層構造であり、前記内層には、固体潤滑剤が設けられ、前記ブシュの前記内層が、前記外層よりも長く、前記外層の両端に突出することを特徴とするチェーンである。
【0009】
この場合、前記外層の両端に突出する前記内層の外周部にシール部材が配置されてもよい。
【0011】
本発明によれば、ブシュが二層構造であり、内層に固体潤滑剤が設けられるため、潤滑油の流出が抑制される。また、ピンに溝を形成する必要がないため、耐久性にも優れる。
【0012】
また、内層の長さが外層よりも長ければ、潤滑性に優れる内層のみが外プレートと接触するため、チェーンの動作がスムーズであり、ブシュ等の摩耗を抑制することができる。また、内層の突出代によって、外プレートと内プレートとの隙間を維持することができるため、外プレートと内プレートとの隙間への異物の詰まりを抑制することができる。
【0013】
さらに、外層の両端に突出する内層の外周部にシール部材を配置することで、外部から給油した際に、潤滑油の流出を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐摩耗性および耐久性に優れたチェーンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】(a)は、チェーン1の断面図であって、
図1のA-A線断面図、(b)は(a)のB部拡大図。
【
図3】(a)はチェーン1aの断面図、(b)は(a)のC部拡大図。
【
図4】(a)、(b)は、さらに他の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は本実施の形態に係るチェーン1の斜視図である。チェーン1は、主にプレート3、ピン5、ブシュ7等から構成される。
【0018】
プレート3は、板状部材であり、外プレート4と内プレート6からなる。一対の外プレート4と一対の内プレート6とは交互に配置される。外プレート4の両端付近には、ピン嵌合孔9が設けられる。また、内プレート6の両端付近には、ブシュ嵌合孔11が設けられる。
【0019】
外プレート4と内プレート6の連結部においては、一対の内プレート6が対向して配置される。ブシュ嵌合孔11には、孔13を有する筒状のブシュ7が嵌合する。また、一対の外プレート4は、内プレート6の外側にそれぞれ配置され、ブシュ嵌合孔11に対応する位置のピン嵌合孔9には、ブシュ7を貫通するピン5が固定される。すなわち、ピン5により、一対の外プレート4と一対の内プレート6は、それぞれの両端部近傍で互いに連結される。このように、チェーン1は、ピン5を中心に、外プレート4と内プレート6が回転可能に連結される。なお、ブシュ7の外周に、さらにローラが設けられてもよい。
【0020】
図2(a)は、チェーン1の断面図であり、
図1のA-A線断面図である。また、
図2(b)は、
図2(a)のB部拡大図である。図示したように、ブシュ7は、外層15と内層17の二層構造である。
【0021】
外層15は、耐食性や剛性を有する材料で構成され、例えばステンレス製である。外層15の内部に配置される内層17は、母材と固体潤滑剤から構成される。すなわち、内層17には、固体潤滑剤が設けられる。
【0022】
母材は、例えばCuやPEEKなどの樹脂など、それ自体が摺動性の良好な材料が好適である。また、母材中に設けられる固体潤滑剤としては、例えば、グラファイト系や2硫化モリブデン、フッ素系などが適用可能である。なお、固体潤滑剤は、タブレット状のものを母材に埋め込んでもよく、粒子状のものを母材に分散配合してもよく、その形態は限定されない。
【0023】
このようにブシュ7の外層15を相対的に剛性の高い材質で構成することで、ブシュ7の変形等を抑制し、チェーン1の強度を確保することができる。一方、ブシュ7の内層17を潤滑性の高い材質で構成することで、ピン5とブシュ7との摺動部における摩耗を低減することができる。この際、内層17には、固体潤滑剤が設けられるため、液体の漏れ出しなどがない。このため、長期にわたって潤滑性能を発揮させることができる。
【0024】
例えば、ブシュの材質を変えて、ピンとの摩耗量について評価すると、表1に示すように、ブシュを固体潤滑剤を含む材質とすることで、高い耐摩耗性が確認された。
【0025】
なお、評価方法としては、15.8mm径のピンと、内径16.3mm×長さ52.9mmのブシュを作成し、ピンをブシュに挿入して、29.4kNの荷重を付与した状態で、往復回転摺動させた。摺動速度は44.1回/分とし、回転角度は±16.4°とした。なお、1cc/分で水を滴下した。摩耗量は、摺動回数300,000回後の、ブシュに対するピンの変位量(すなわち、ピンとブシュの摩耗量の総和)とした。
【0026】
【0027】
SUS同士のNo.1は、従来のピンとブシュの材質であるが、0.78mmと大きな摩耗量であった。一方、ブシュの材質を自己潤滑性のある樹脂としたNo.2,3は、摩耗量がSUSと比較して低減したが、0.50~0.64mmの摩耗が見られた。これに対し、固体潤滑剤を含むNo.4,5は、摩耗量が0.25~0.31mmと大きな耐摩耗性の向上が見られた。
【0028】
以上、本実施の形態によれば、ブシュ7を二層構造とし、内層17の材質を、母材に固体潤滑剤を含めた形態とすることで、耐摩耗性に優れたチェーン1を得ることができる。また、ブシュ7の外層15は強度が高いため、ブシュ7の強度を確保することができる。
【0029】
次に、第2の実施形態について説明する。
図3(a)は、チェーン1aの断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のC部拡大図である。なお、以下の説明において、チェーン1と同様の構成については、
図1、
図2と同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0030】
チェーン1aは、チェーン1とほぼ同様の構成であるが、ブシュ7の形態が異なる。チェーン1aのブシュ7は、内層17の長さが、外層15の長さよりも長い。このため、外層15の両端から、内層17の端部の一部が突出する。
【0031】
ここで、チェーン1aは、外プレート4と内プレート6との間に隙間が形成される。チェーン1aは、例えば水中等で使用される。このため、外プレート4と内プレート6との間に異物が挟まる恐れがある。これに対し、あえて外プレート4と内プレート6との間に隙間を形成することで、外プレート4と内プレート6とが回転する際に、異物が排出されやすくなり、異物の詰まりに伴う動作不良を抑制することができる。
【0032】
このように、チェーン1aでは、内層17が外層15よりも両端に突出するため、この突出部によって、外プレート4と内プレート6との間の隙間を維持することができる。この際、外プレート4と外層15が接触することがなく、外プレート4と内層17の端面とが摺動する。すなわち、潤滑性の高い内層17のみが外プレート4と摺動する。このため、チェーンの動作がスムーズであり、当該部位におけるブシュ7等の摩耗を抑制することができる。
【0033】
図4(a)は、さらに他の実施形態を示す図である。
図4(a)に示す例では、外層15の端部から突出する内層17の外周部に、さらにシール部材19が配置される。シール部材19は、例えばOリングである。前述したように、内層17には、固体潤滑剤が設けられるため、給油は不要であるが、さらに潤滑性を高めるため、給油を行ってもよい。この際、シール部材19によって、ブシュ7の内部の潤滑油が外部に流出するのを抑制することができる。
【0034】
なお、シール部材19を配置する場合には、
図4(b)に示すように、ブシュ7の内層17を外層15よりも短くし、外層15の内面であって、内層17の両側にシール部材19を配置してもよい。このようにしても、外プレート4と内プレート6との間の隙間を維持するとともに、潤滑油の流出を抑制することができる。
【0035】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0036】
例えば、本発明のチェーン1は、
図1等に示した例には限られず、いわゆるオフセット型のチェーンにも適用可能である。オフセット型のチェーンは、プレートの一方の端部は外プレート部となり、他方の端部が内プレート部となる。外プレート部と内プレート部との間には、段差が設けられる。
【0037】
このような、オフセット型のチェーンは、各プレートが、チェーン1における1つの外プレート4と1つの内プレート6とが一体で構成されたものと同様の構成である。したがって、本発明おける外プレートには、オフセット型のチェーンにおける外プレート部を含み、本発明における内プレートには、内プレート部を含むものとする。
【符号の説明】
【0038】
1、1a………チェーン
3………プレート
4………外プレート
5………ピン
6………内プレート
7………ブシュ
9………ピン嵌合孔
11………ブシュ嵌合孔
13………孔
15………外層
17………内層