(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】薬剤感受性測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20220506BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20220506BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
G01N27/416 336M
G01N27/416 321
G01N27/26 371F
G01N33/50 Z
(21)【出願番号】P 2018195281
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2018-10-16
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛装備庁長官
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】木下 学
【合議体】
【審判長】井上 博之
【審判官】樋口 宗彦
【審判官】伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-15150(JP,A)
【文献】特許第3182764(JP,B2)
【文献】特開2013-221780(JP,A)
【文献】特開2018-88173(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147313(WO,A1)
【文献】YAMAGISHI、 Anna et al.、 ”Microfluidic device coupled with a microfabricated oxygen electrode for the measurement of bactericidal activity of neutrophil-like cells”、 Analytica Chimica Acta、 2017、 Vol.985、 p.1-6
【文献】TANABE, Koji et al., ”Review of Microfabricated Electrochemical Devices for the Analysis of Cell Functions and Biological Samples”, Electronics and Communications in Japan, 2017, Vol.100, No.8, p.51-58
【文献】新井潤一郎、加藤英夫、”酸素電極法による微生物の呼吸測定を指標とした薬剤スクリーニング”、Electrochemistry、1999年、Vol.67, No.5, p.479-483
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N27/404,27/416,27/26,33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向の上から順に、
活性状態に応じて呼吸活性が変動して酸素の消費量が増減する検体を含む試料が流れる試料流路が形成された試料流路層、
前記試料流路を流れる前記試料中の酸素を下層に透過させる酸素透過層、
電解液が流れる電解液流路が形成された電解液流路層、
アノード電極及びカソード電極が形成された電極層を積層してなる活性測定デバイスを用いて、
患者が罹患した細菌感染症の迅速診断のために
前記検体の呼吸活性を溶存酸素濃度から測定して抗菌薬に対する
前記検体の薬剤感受性に応じた有効な抗菌薬を特定する薬剤感受性測定方法であって、
細菌感染した患者から測定対象となる前記検体を含む血液又は喀痰を採取して
2~3時間培養して2分割し、一方に抗菌薬を投与した第1の試料と、他方に前記抗菌薬を投与しない第2の試料とを調製する処理と、
第1の前記活性測定デバイスを用い、前記試料流路に前記第1の試料を前記試料流路と前記電解液流路の容積に応じて規定された注入量である50~60μl注入し、前記電解液流路に前記電解液を注入し、酸素電極法を用いて前記第1の試料の溶存酸素濃度を前記電極層で測定する処理と、
第2の前記活性測定デバイスを用い、前記試料流路に前記第2の試料を前記試料流路と前記電解液流路の容積に応じて規定された注入量である50~60μl注入し、前記電解液流路に前記電解液を注入し、酸素電極法を用いて前記第2の試料の溶存酸素濃度を前記電極層で測定する処理と、
前記第1の試料の溶存酸素濃度と、前記第2の
試料の溶存酸素濃度
を比較して前記検体の薬剤感受性を評価する
ことにより、患者に感染した前記検体に対して有効な抗菌薬を判定する処理
であって、複数の抗菌薬と検体との呼吸活性の減弱度合いを段階的に数値化することで、抗菌薬毎における細菌の薬剤感受性の程度を定量的に評価する判定処理と、
を含むことを特徴とする薬剤感受性測定方法。
【請求項2】
前記検体は、
患者に感染した通性菌又は好気性菌である請求項1に記載の薬剤感受性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の薬剤耐性能を評価するための薬剤感受性測定方法、主に被験体のメンタルストレスを定量的に客観評価するためのストレス測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、感染症に罹患した被験体となる患者を対象とした疾病を特定する方法として、感染症の原因となる細菌を同定し、さらに同定した細菌が薬剤耐性能の評価を行う薬剤感受性測定方法が用いられる。
【0003】
従来から知られている薬剤感受性測定法としては、測定対象となる細菌を培養したコロニーを肉眼で観察する微量液体希釈法(液体希釈法、寒天培地希釈法)やディスク拡散法がある。微量液体希釈法は、抗菌薬を含む培地に一定量の菌を巻き、一定時間培養後にその発育を観察して薬剤に対する感受性を評価する。また、ディスク拡散法は、一定量の菌を寒天培地に撒き、その上に一定量の抗菌薬を含んだディスクを置き、一定時間培養後、形成された発育阻止円の大きさから薬剤に対する感受性を評価する。
【0004】
さらに、上記微量液体希釈法やディスク拡散法のように寒天培地を使用しない他の測定方法としては、細菌と抗菌剤を一定時間共培養してPCR反応法を用いて細菌の残存菌量のDNA量を測定して薬剤に対する感受性を測定する方法や、下記特許文献1に開示されるような耐性菌の検知装置を用いる方法が公知である。
【0005】
ところで、ストレスなどによって免疫機能が低下した状態にある患者は、弱毒性の病原体によっても感染症(日和見感染症)を発症する場合がある。このため、上記のような起炎菌サイドの対策である細菌同定・薬剤感受性測定方法と平行して、感染細菌の宿主となる患者サイドのストレス状態を評価することも実際の有効な治療施策には必要となる。
【0006】
ストレスには、精神的なストレスから重度熱傷のような致死的な侵襲に至るまで様々な種類や程度が存在するため、これらを統合的に評価する必要がある。
【0007】
熱傷や多発外傷、高度侵襲手術などの重度の外科的侵襲(ストレス)にさらされた生体では、免疫能が低下して感染抵抗性が減弱化する、所謂compromised hostの状態となることが知られている。このことは翻って見ると、感染抵抗性がストレス負荷の指標と成り得ることを示唆させるため、侵襲による状態を判断することである程度のストレス評価が可能である。
【0008】
一方、精神的なストレスの評価には、外科的なストレス指標とは異なった、自覚症のような患者自身の心理的要因を重視した主観的評価が指標とされることが多く、またストレス疲労状態は個人差が大きいため、的確なストレス評価を下すのは非常に困難である。そこで、客観的な指標を目指してストレス評価を定量的に評価する方法として、例えば下記特許文献2に開示される方法が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平7-308184号公報
【文献】特開2013-110969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在普及している薬剤感受性測定方法では、何れも測定対象となる細菌を培養する時間が必要となるが、寒天培地を用いる微量液体希釈法やディスク拡散法、特許文献1に開示される装置を用いた方法では、培養に12時間~24時間を要するため、判定結果が得られるまでに時間がかかるという問題があった。
【0011】
また、PCR反応法を用いた方法では、DNAの増幅処理が必要となるが分析完了までに1~2時間程度と、寒天培地を用いる上記各方法と比べて測定時間が短いという利点がある一方、この方法では細菌のDNA量を測定して評価しているため、死菌のDNA量も合せて測定してしまうため、実際に活性している細菌がどの程度存在しているかを測定することができず、正確な薬剤耐性能を評価することができなかった。
【0012】
また、特許文献2に開示されるストレス評価方法は、PCR反応法により遺伝子の発現量を測定してストレスの有無を評価する方法であるため、やはり薬剤感受性測定方法と同様、1~2時間程度の測定時間を要し、判定結果が得られるまでに時間がかかるという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、簡便に、且つ短時間で正確な測定が行える薬剤感受性測定方法、ストレス測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成するため、本発明の第1の態様は、鉛直方向の上から順に、
活性状態に応じて呼吸活性が変動して酸素の消費量が増減する検体を含む試料が流れる試料流路が形成された試料流路層、
前記試料流路を流れる前記試料中の酸素を下層に透過させる酸素透過層、
電解液が流れる電解液流路が形成された電解液流路層、
アノード電極及びカソード電極が形成された電極層を積層してなる活性測定デバイスを用いて、
患者が罹患した細菌感染症の迅速診断のために前記検体の呼吸活性を溶存酸素濃度から測定して抗菌薬に対する前記検体の薬剤感受性に応じた有効な抗菌薬を特定する薬剤感受性測定方法であって、
細菌感染した患者から測定対象となる前記検体を含む血液又は喀痰を採取して2~3時間培養して2分割し、一方に抗菌薬を投与した第1の試料と、他方に前記抗菌薬を投与しない第2の試料とを調製する処理と、
第1の前記活性測定デバイスを用い、前記試料流路に前記第1の試料を前記試料流路と前記電解液流路の容積に応じて規定された注入量である50~60μl注入し、前記電解液流路に前記電解液を注入し、酸素電極法を用いて前記第1の試料の溶存酸素濃度を前記電極層で測定する処理と、
第2の前記活性測定デバイスを用い、前記試料流路に前記第2の試料を前記試料流路と前記電解液流路の容積に応じて規定された注入量である50~60μl注入し、前記電解液流路に前記電解液を注入し、酸素電極法を用いて前記第2の試料の溶存酸素濃度を前記電極層で測定する処理と、
前記第1の試料の溶存酸素濃度と、前記第2の試料の溶存酸素濃度を比較して前記検体の薬剤感受性を評価することにより、患者に感染した前記検体に対して有効な抗菌薬を判定する処理であって、複数の抗菌薬と検体との呼吸活性の減弱度合いを段階的に数値化することで、抗菌薬毎における細菌の薬剤感受性の程度を定量的に評価する判定処理と、
を含むことを特徴とする、薬剤感受性測定方法である。
【0015】
本発明の第2の態様は、
前記検体は、患者に感染した通性菌又は好気性菌である請求項1に記載の薬剤感受性測定方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の薬剤感受性測定方法によれば、検体の呼吸活性を溶存酸素濃度から定量的に知得することができるため、使用した抗菌薬に対する検体の薬剤感受性に応じて有効な抗菌薬を容易に特定することができる。また、この方法を用いることで、従来の薬剤感受性測定方法と比べて薬剤感受性を判定する時間が格段に短くなり、細菌感染症の迅速診断に大いに貢献することができる。
【0017】
本発明に係るストレス測定方法によれば、検体の抗菌活性を溶存酸素濃度から定量的に知得することができるため、被験体のストレス・疲労度を溶存酸素濃度から定量的に客観評価することができる。また、この方法を用いることで、従来のストレス評価法と比べてストレス評価を判定する時間が格段に短くなり、被験体のストレス度合いを迅速に客観評価することができる。
【0018】
さらに、検体の薬剤感受性能や抗菌活性能の測定に用いる活性測定デバイスは、構成が簡素で、且つ持ち運び可能な程度の小型であるため、従来法のようにPCR反応装置のような検査装置を設置するスペースを確保する必要もなく、測定場所も屋内,屋外を問わない。また、デバイス自体が小型であるため、検体を培養した試料や電解液を使用量が非常に少なくて済み、被験体から検体を採取する際も、被験体への負担を最小限に止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(a)は本発明で使用する活性測定デバイスの各構成を示す概略分解斜視図であり、(b)は該デバイスを組み立てた状態で試料流路層側から見た概略平面図である。
【
図2】同デバイスの溶存酸素濃度測定部分を示す概略断面図である。
【
図3】本発明に係る薬剤感受性測定方法の処理フローを示す図である。
【
図4】本発明に係るストレス測定方法の処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。従って、添付した図面を用いて説明する実施の形態により、本発明が限定されず、この形態に基づいて当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれるものとする。
【0021】
また、本明細書において、添付する各図を参照した以下の説明において、方向乃至位置を示すために上、下、左、右の語を使用した場合、これはユーザが各図を図示の通りに見た場合の上、下、左、右に一致する。
【0022】
[活性測定デバイス]
まず、本発明に係る薬剤感受性測定方法、ストレス測定方法に用いる活性測定デバイスについて説明する。
活性測定デバイス1は、本発明の薬剤感受性測定方法やストレス測定方法の測定対象となる検体を含む試料から酸素透過膜を透過した酸素が溶解した電解液中の溶存酸素濃度を測定するための装置である。
【0023】
図1に示すように、活性測定デバイス1は、試料流路層10と、酸素透過層20と、電解液流路層30と、電極層40とで構成される。活性測定デバイス1は、鉛直方向の上から順に試料流路層10、酸素透過層20、電解液流路層30、電極層40を積層し、この積層体の表裏面側からアクリル板などの固定部材(図示せず)で挟持して積層状態を保持させる。
【0024】
活性測定デバイス1の活性測定対象となる検体は、薬剤感受性測定方法とストレス測定方法とで異なる。
薬剤感受性測定方法では、被験体となる患者に感染する好気性菌や通性菌などの酸素呼吸を行って酸素に基づく代謝機構を備えた生物(細菌)を検体とする。
ストレス測定方法では、ヒトや動物などの被験体(宿主)から採取した好中球など、被験体の疲労度によって抗菌活性の強弱が変化する貪食細胞を検体とする。
【0025】
検体を培養する培養液は、検体となる細菌や細胞の培養に適した溶液を適宜選択して使用することができる。また、電解液は、例えば水や緩衝液(例えばトリス塩酸緩衝液)など、電極層40による酸化還元反応を阻害しない電気伝導性を有する溶液であれば特に制限はない。
【0026】
<試料流路層>
試料流路層10は、例えばポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane:PDMS)、FEP(Perfluoro ethylene propylene copolymer)、アクリル樹脂(Polymethyl methacrylat:PMMA)などの樹脂材料で構成され、直方体形状を成している。また、試料流路層10の層本体11における底面11bには、測定対象となる検体を培養した培養液からなる試料を流す試料流路12が形成されている。
【0027】
試料流路12の一端は、層本体11の表面11aから底面11bに向かって鉛直方向に形成された試料注入孔13の注入側開口(始端)と反対側の開口(終端)と連通し、他端は層本体11の側面(11c~11fの何れか)を介して外部と連通する溝である。この溝は、層本体11の底面11bとその下面に配置される酸素透過層20の表面とが当接することで試料流路12として機能する。試料流路12は、その流路幅や深さはマイクロオーダーとなるため、例えば固体レーザや気体レーザを用いた周知のレーザ加工装置によって刻設される。
【0028】
図1において、本実施形態の試料流路12は、層本体11の一方の短側面11c側近傍に形成された試料注入孔13の終端を始点とし、ここから他方の短側面11dに向かって直線状に刻設され、ここから一方の長側面11e側に向かって略直角に折れ曲がり長側面11eの手前側まで刻設され、ここから短側面11c側に向かって略直角に折れ曲がり、最終的に短側面11cの壁面まで刻設されている。
【0029】
なお、試料流路12の形状はこれに限定されず、電極層40に形成される電極形状に合せて刻設すればよい。
【0030】
また、試料流路12には、酸素透過層20を介して試料流路層10と電解液流路層30とを積層したときに、後述するカソード側測定領域32b及びカソード電極42と上下方向(鉛直方向)で対向する位置に試料検出領域12aが形成されている。
図2に示すように、この試料検出領域12aに試料流路12を流れる試料が一時的に収容されることで、カソード電極42の還元反応で還元される酸素がカソード側測定領域32b内に透過される。試料検出領域12aの形状は、カソード電極42の形状に合せて適宜設定される。
図2には、ストレス測定方法で使用する試料(検体となる好中球+異物(大腸菌)を共培養した培養液)と電解液を流した活性測定デバイス1を模式的に示している。
【0031】
試料は、試料注入孔13からマイクロシリンダのような注入器を用いて注入されるが、注入した試料の流れが試料流路12中で滞ると電解液流路層30側に透過する酸素の透過量が変動して正確な溶存酸素濃度が測定できない虞がある。そのため、測定中は試料流路12に流す試料の流量が一定となるように注入する必要がある。
【0032】
また、層本体11の所定箇所には、表面11aから底面11bに貫通する電解液注入孔14が形成されている。電解液注入孔14は、酸素透過層20を介して試料流路層10と電解液流路層30とを積層したときに、酸素透過層20の貫通孔21と電解液流路層30の流入部31aと上下方向(鉛直方向)で連通する位置に形成されている。後段で詳述するが、電解液流路層30には、電解液注入孔14における注入側開口(始端)と反対側の開口(終端)を始点とする電解液流路32が形成される。
【0033】
電解液についても、試料と同じように電解液注入孔14からマイクロシリンダのような注入器を用いて注入される。
【0034】
<酸素透過層>
酸素透過層20は、シリコーンゴムなどの酸素透過性を有する膜材料で形成され、試料流路層10を流れる試料中に含まれる酸素を電解液流路層30に透過させる。酸素透過層20は、試料流路層10や電解液流路層30の外形に合せて成形されている。
【0035】
また、酸素透過層20の所定箇所には、酸素透過層20を介して試料流路層10と電解液流路層30とを積層したときに、電解液注入孔14の終端と電解液流路32の流入部32aと上下方向(鉛直方向)で連通する貫通孔21が形成されている。
【0036】
<電解液流路層>
電解液流路層30は、例えばエポキシ樹脂(SU-8)やFEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)などの樹脂材料からなる板材であり、試料流路層10や酸素透過層20の外形に合せて成形されている。また、電解液流路層30の層本体31には、電解液が流れる電解液流路32が形成されている。
【0037】
電解液流路32の一端が電解液注入孔14の終端と連通し、他端は層本体31の側面を介して外部と連通し、層本体31の厚み方向に貫通した溝(貫通溝)である。電解液流路32は、酸素透過層20と、電極層40との間に挟持されることで上下方向が塞がれて流路として機能する。電解液流路32は、その流路幅や深さはマイクロオーダーであるため、試料流路12と同様、例えば固体レーザや気体レーザを用いた周知のレーザ加工装置によって刻設される。
【0038】
図1において、本実施形態の電解液流路32は、層本体31の一方の短側面31c側近傍に形成された電解液注入孔14の終端を始点とし、ここから他方の短側面31dに向かって直線状に刻設され、ここから一方の長側面31e側に向かって略直角に折れ曲がった後、クランク状に折れ曲がって長側面31eの手前側まで刻設され、ここから短側面31c側に向かって略直角に折れ曲がり、最終的に短側面11cの壁面まで刻設されている。
【0039】
なお、電解液流路32の形状はこれに限定されず、電極層40に形成される電極形状に合せて刻設すればよい。
【0040】
また、電解液流路32には、酸素透過層20を介して試料流路層10と電解液流路層30とを積層したときに、試料検出領域12a及びカソード電極42と上下方向(鉛直方向)で対向する位置にカソード側測定領域32bが形成されている。カソード側測定領域32bに電解液が一時的に収容されることで、カソード電極42による還元反応が行われる。カソード側測定領域32bの形状は、カソード電極42の形状に合せて設定される。
【0041】
さらに、電解液流路32には、酸素透過層20を介して試料流路層10と電解液流路層30とを積層したときに、アノード電極41と上下方向(鉛直方向)で対向する位置にアノード側測定領域32cが形成されている。アノード側測定領域32cに電解液が一時的に収容されることで、アノード電極41による酸化反応が行われる。アノード側測定領域32cの形状は、アノード電極41の形状に合せて設定される。
【0042】
<電極層>
電極層40は、ガラスなどの絶縁性を有する基板40a上に、電極形成で用いられる周知のパターン形成法(真空蒸着法、スパッタリング法、フォトリソグラフィ法など)によりアノード電極41、カソード電極42を有する電極パターンが形成されている。
【0043】
本発明の活性測定デバイス1は、電解液中の溶存酸素濃度を測定するため、アノード電極41,カソード電極42間に一定電圧(0.5~0.8V)をかけた状態で隔膜(酸素透過層20)を透過した酸素が作用電極上で還元反応を起こして電解液中の溶存酸素濃度に比例したポーラログラフ的限界電流の電流値から溶存酸素濃度を測定する酸素電極法(クラーク型酸素電極法)の原理に基づく電極パターンとなる。
【0044】
よって、電極パターンに一定電圧をかけつつ電極間の電流値を測定するため、酸素濃度測定装置として印加電圧を定電位に固定制御しながら電流値が測定可能な定電位測定機能を備えた装置を使用する。
【0045】
アノード電極41は、電極材料として銀/塩化銀(Ag/AgCl)を用いて所定の電極パターンに形成され、クラーク型酸素電極における対極として機能する。また、基板40aの端部には、図示しない酸素濃度測定装置と接続される端子部41aが形成され、配線41bを介してアノード電極41と端子部41aとが導通されている。
ここで、アノード電極41で起こる酸化反応を下記に示す。
(酸化反応):Ag+4Cl-→4AgCl+4e-
【0046】
カソード電極42は、電極材料として白金(Pt)を用いて所定の電極パターンに形成され、クラーク型酸素電極における作用電極として機能する。また、基板40aの端部には、酸素濃度測定装置と接続される端子部42aが形成されており、配線42bを介してカソード電極42と端子部42aとが導通されている。
ここで、カソード電極42による還元反応を下記に示す。
(還元反応):O2 +2H2 O+2e- →4OH-
【0047】
なお、上述した活性測定デバイス1の構成において、具体的な寸法例を例示する。
試料流路層10、酸素透過層20、電解液流路層30の外寸は長辺が約2cm、短辺が約1.5cmであり、試料流路12の流路幅は約1.5mm、深さは約500μmである。また、各層の厚さとして、試料流路層10の厚さは約4mm、酸素透過層20の厚さは約30μm、電解液流路s層30の厚さは約50μm、電極層40の厚さは500μmである。また、試料検出領域12aの直径は約1.3mmであり、カソード側測定領域32bの直径は約1mmである。
【0048】
次に、活性測定デバイス1の組み立て手順を説明する。
まず、電極層40の上に電解液流路層30を載置し、裏面に酸素透過層20を接合した試料流路層10を電解液流路層30の上に積層して層構造(積層体)を形成する。重ねる際は、電極層40の電極パターンを基準に順次重ね合わせる。
【0049】
そして、層構造となった積層体を、図示しない固定部材(例えばアクリル板材)により上下から挟み込み、この挟持状態のまま固定治具(ネジ)で固定部材を複数箇所(例えば四方)固定して組み立てが完了する。
【0050】
以上のように、本発明で使用する活性測定デバイス1は、鉛直方向の上から順に、試料流路層10と、酸素透過層20と、電解液流路層30と、電極層40とを積層させた小型のデバイスであり、試料注入孔13から検体の試料を注入するとともに電解液注入孔14から電解液を注入し、電極層40に酸素濃度測定装置を接続して定電位に制御しながら酸化還元反応を行い、電解液中の溶存酸素濃度を測定する。
【0051】
活性測定デバイス1は、そのサイズが数センチ四方と小型であるため、設置スペースを確保する必要はなく、また持ち運びも容易に行えるため、測定場所が病院内に限らず屋外でも使用することができる。さらに、デバイス自体が非常に小型であるため、検体を培養した試料や電解液の量が数十μl程度と非常に少なくて済み、測定対象となる検体を採取する被験体への負担を最小限に止めることができる。
【0052】
[薬剤感受性測定方法]
次に、本発明に係る薬剤感受性測定方法について説明する。
薬剤感受性測定方法の測定対象となる検体(通性菌や好気性菌)は、それ自体が活性状態に応じて呼吸活性が変動して酸素の消費量が増減することが知られている。本願発明者は、これに着目して鋭意研究を重ね、上述した活性測定デバイス1を用いて抗菌薬の有無による検体の酸素消費量を測定することで、酸素消費量の低下の度合いに基づき検体の呼吸活性、すなわち検体の薬剤感受性を定量的に評価する方法を開発した。
【0053】
ここで、薬剤感受性測定方法で行われる各処理内容を、
図3に示す処理手順に沿って説明する。
なお、各処理は、前段の処理に引き続き行われるが、例えば「試料調製処理」と「デバイス組み立て処理」の順序など、測定に支障が出ない場合は処理順序を入れ替えることも可能である。また、各処理中に記載された数値は、活性測定デバイス1のサイズなどに応じて規定されるものであり、ここでは代表的な数値例を記載する。
【0054】
(試料調製処理)
薬剤感受性測定方法は、まず細菌感染した被験体である患者から測定対象となる患者検体(酸素呼吸を行う通性菌又は好気性菌)を培養液中で培養する。
患者検体は、患者の血液や喀痰から採取する。血液検体の場合は、例えば患者から5ml程度採血し、これを血液培養(好気性菌・通気性菌用)専用の培養液(約5ml)に入れた後、2~3時間培養する。また、喀痰検体の場合は、例えば患者の喀痰1ml程度を専用の培養液に入れ、2~3時間培養する。
【0055】
次に、培養液を2つに分ける。2つに分けた試料のうち、一方は抗菌薬を投与した第1の試料(試料1)とし、他方は抗菌薬を投与しない第2の試料(試料2)とする。試料1,2は各々0.08ml~0.2mlの範囲で調製する。
【0056】
(デバイス組み立て処理)
次に、本発明の活性測定デバイス1を組み立て、端子部41a、42aに酸素濃度測定装置を接続する。この処理は、上述したように試料作成処理の前に行うこともできる。
【0057】
(液体注入処理)
次に、電解液を電解液注入孔14から注入するとともに、調製した試料1を活性測定デバイス1の試料注入孔13から注入する。
【0058】
試料や電解液は、マイクロシリンジなどの注入器を用いて注入する。また、試料や電解液の注入量は、活性測定デバイス1のサイズ(試料流路12と電解液流路32の容積)に応じて規定されるが、概ね50~60μl程度とする。
なお、試料は、酸素透過層20からの酸素透過量の変動を抑えるため、測定中は流入量が一定となるように注入する。
【0059】
(溶存酸素濃度測定処理)
次に、酸素濃度測定装置と活性測定デバイス1を接続し、活性測定デバイス1に一定電圧(0.5~0.8V)を印加した状態でデバイス内で発生した酸化還元反応による電流値を検出して電解液中の溶存酸素濃度を測定する。
【0060】
また、調製した試料2についても同様に、組み立てた活性測定デバイス1を用いて液体注入処理,溶存酸素濃度測定処理の順に処理を行い、溶存酸素濃度を測定する。
【0061】
(薬剤感受性判定処理)
最後に、溶存酸素濃度測定処理で測定した両者の測定結果(溶存酸素濃度)を比較する。
比較した結果、試料1の溶存酸素濃度よりも試料2の溶存酸素濃度の方が減少している場合、試料1の細菌の呼吸活性が減弱していることを示すため、検体である細菌が抗菌薬によって発育が阻害されていると示唆される。この結果から、使用した抗菌薬は、検体となった細菌に対して有効な薬剤であること判定する。
【0062】
なお、薬剤感受性判定処理として、例えば複数の抗菌薬と検体との呼吸活性の減弱度合いを段階的に数値化することで、抗菌薬毎における細菌の薬剤感受性の程度を定量的に評価することもできる。
【0063】
また、活性測定デバイス1を複数用意すれば、平行して2つの試料の溶存酸素濃度を同時に測定することができるため、より測定時間を短縮することが可能となる。
【0064】
[ストレス測定方法]
次に、本発明に係るストレス測定方法について説明する。
ストレス測定方法の測定対象となる検体(貪食細胞)は、被験体が受けたストレスの度合い(疲労度)応じて貪食能(抗菌活性)の強弱が変化することが知られている。本願発明者はこれに着目して鋭意研究を重ね、検体と、この検体の貪食対象となる大腸菌などの異物とを共培養し、上述した活性測定デバイス1を用いて異物の酸素消費量を測定することで、異物の呼吸活性に応じた酸素消費量の低下の度合いから貪食細胞の異物に対する抗菌活性の強弱、すなわち被験体のストレス(主にメンタルストレス)による疲労度を定量的に客観評価する方法を開発した。
【0065】
ここで、ストレス測定方法で行われる各処理内容を、
図4に示す処理手順に沿って説明する。
なお、各処理は、前段の処理に引き続き行われるが、例えば「試料調製処理」と「デバイス組み立て処理」の順序など、測定に支障が出ない場合は処理順序を入れ替えることも可能である。また、各処理中に記載された数値は、活性測定デバイス1のサイズなどに応じて規定されるものであり、ここでは代表的な数値例を記載する。
【0066】
(試料調製処理)
試料調製処理では、被験体がストレスを受ける前後の試料(ストレスを受ける前の第1の試料:試料A,ストレスを受けた後の第2の試料:試料B)をそれぞれ調製する。なお、以下では試料Aの調製について記載するが、試料Bについても同様の処理を行う。
【0067】
まず、被験体から検体である貪食細胞を採取する。
採取方法としては、被験体であるヒトや動物の血液を0.1ml程度採血し、分離法(比重沈降法、比重遠心法)によって採取される貪食細胞(好中球など)を使用する。
【0068】
次に、採取した検体と、検体の貪食対象となる異物(大腸菌)を培養液中で20~40分共培養して試料Aを調製する。
【0069】
(デバイス組み立て処理)
次に、本発明の活性測定デバイス1を組み立て、端子部41a、42aに酸素濃度測定装置を接続する。この処理は、上述したように試料調製処理の前に行うこともできる。
【0070】
(液体注入処理)
次に、電解液を電解液注入孔14から注入するとともに、調製した試料Aを活性測定デバイス1の試料注入孔13から注入する。
【0071】
試料や電解液は、マイクロシリンジなどの注入器を用いて注入する。また、試料や電解液の注入量は、活性測定デバイス1のサイズ(試料流路12と電解液流路32の容積)に応じて規定されるが、概ね50~60μl程度とする。
なお、試料は、酸素透過層20からの酸素透過量の変動を抑えるため、測定中は流入量が一定となるように注入する。
【0072】
(溶存酸素濃度測定処理)
次に、酸素濃度測定装置と活性測定デバイス1を接続し、活性測定デバイス1に一定電圧(0.5~0.8V)を印加した状態でデバイス内で発生した酸化還元反応による電流値を検出して電解液中の溶存酸素濃度を測定する。
【0073】
なお、ストレスによる貪食細胞の抗菌活性の強弱は被験体がストレスを受けることで変位するが、その変位が明確に現れるには被験体に対し数時間にわたりストレス負荷を与え続ける必要がある。そのため、調製した試料A,試料Bの測定は、長時間の保存によって貪食細胞の活性が変化しないよう、各試料を調整した直後にそれぞれ測定することになる。
【0074】
(ストレス評価処理)
最後に、溶存酸素濃度測定処理で測定した両者の測定結果(溶存酸素濃度)の差分値に基づいて被験体のストレス度合いを定量的に評価する。
【0075】
大腸菌は、酸素が十分にある状態では酸素呼吸をして増殖するため、有酸素環境下で活性が保たれた大腸菌は旺盛な呼吸により酸素消費量が増加する一方、貪食細胞により活性が減弱した大腸菌は呼吸が弱くなり酸素消費量が減少する。
つまり、溶存酸素濃度測定処理で測定した両者の測定結果を比較し、試料Aの溶存酸素濃度よりも試料Bの溶存酸素濃度の方が減少している場合、試料Bの貪食細胞の抗菌活性(貪食能)が減弱して大腸菌の呼吸活性が試料Aより保たれているため、試料Bの貪食細胞は、ストレスによる影響でストレスを受ける前の試料Aよりも抗菌活性が減弱していることが示唆される。このことから、被験体がストレスを受けたときの貪食細胞の抗菌活性の減弱度合いを溶存酸素濃度の差分値に基づいて求めることで、被験体のストレス度合い(疲労度)を定量的に客観評価することができる。
【0076】
本方法によるストレス評価処理の一例としては、例えばストレス前後の試料における所定時間毎の溶存酸素濃度の差分値を平均化した値(平均差分値)と、予め実験などにより導き出される数値化したストレス評価指標と照らし合わせることで被験体のストレス度合いを数値的に客観評価することができる。
【0077】
なお、ストレス評価指標は、ストレス度合いを数値化して客観評価するための指標であり、複数の被験体から得られたストレス前後の溶存酸素濃度の平均差分値から統計的に導き出されるものである。例えば各段階に数値範囲を持たせて多段階評価が行えるようにスケール化したストレス評価指標を作成した場合、測定した平均差分値が指標のどの段階に該当するかを照合するだけで被験体のストレス度合いを数値的に得ることができる。
【0078】
[作用・効果]
以上説明したように、本発明に係る薬剤感受性測定方法は、まず検体となる細菌を培養液で培養して2分割し、一方の培養液にのみ抗菌薬を投与して抗菌薬あり/なしの2種類の試料を調製する。次に、上から順に、試料流路12が形成された試料流路層10と、試料流路12を流れる試料中の酸素を透過させる酸素透過層20と、電解液流路32が形成された電解液流路層30と、アノード電極41及びカソード電極42が形成された電極層40を積層してなる活性測定デバイス1を用い、培養した各試料を該デバイス1に注入して溶存酸素濃度を測定する。そして、測定した溶存酸素濃度を比較し、抗菌薬を投与した試料の溶存酸素濃度が減少しているときは、検体である細菌の活性が抗菌薬により減弱していることが示唆されるため、抗菌薬が有効であると判断する。
【0079】
このように、薬剤感受性測定方法では、検体の呼吸活性を溶存酸素濃度から定量的に知得することで使用した抗菌薬に対する検体の薬剤感受性の判定が可能となり、検体に対して有効な抗菌薬を容易に特定することができる。また、この方法を用いることで、従来の薬剤感受性測定方法と比べて薬剤感受性を判定する時間が格段に短くなり、薬剤耐性菌を迅速に診断することができる。さらに、遺伝子操作で薬剤耐性となった細菌の薬剤耐性能の程度を評価する際にも有効である。
【0080】
また、本発明に係るストレス測定方法は、検体となる貪食細胞をストレスを受ける前後の被験体からそれぞれ採取し、これらと貪食対象となる異物を培養液中で共培養して2種類の試料を調製する。次に、各試料を上述した活性測定デバイス1に注入して溶存酸素濃度を測定する。そして、測定した溶存酸素濃度の差分値と予め設定したストレス評価指標とに基づいて被験体のストレス状態を評価する。
【0081】
このように、ストレス測定方法では、検体の抗菌活性を溶存酸素濃度から定量的に知得することができるため、被験体のストレス・疲労度を定量的に客観評価することができる。また、この方法を用いることで、従来のストレス評価法と比べてストレス評価を判定する時間が格段に短くなり、ストレス診断を迅速に行うことができる。
【0082】
また、上記2つの方法で用いる活性測定デバイス1は、そのサイズが簡単に持ち運び可能な程度の小型であるため、従来法のようにPCR反応装置のような検査装置を設置するスペースを確保する必要もなく、測定場所も屋内,屋外を問わない。
【0083】
さらに、検体を培養した試料や電解液を使用量が50μl程度と非常に少なくて済むため、例えばストレス測定方法において、検体である細胞を採取するために必要な被験体からの採血量も0.1mlと極少量で測定することができ、被験体への負担を最小限に止めることができる。
【符号の説明】
【0084】
1…活性測定デバイス
10…試料流路層
12…試料流路
20…酸素透過層
30…電解液流路層
32…電解液流路
40…電極層
41…アノード電極(41a…端子部)
42…カソード電極(42a…端子部)