(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】センサ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/06 20060101AFI20220506BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
G01N27/06 A
G01N27/22 B
(21)【出願番号】P 2018123380
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107847
【氏名又は名称】大槻 聡
(72)【発明者】
【氏名】小山 達也
(72)【発明者】
【氏名】中津 彰
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-233874(JP,A)
【文献】特開2002-323526(JP,A)
【文献】特開2009-047671(JP,A)
【文献】特開2015-004568(JP,A)
【文献】特開昭64-000474(JP,A)
【文献】特開昭60-192247(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0375321(US,A1)
【文献】国際公開第2019/151295(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/057054(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、絶縁性の保護膜によって覆われた電極対と、
前記電極対に対し交流を供給し、当該電極対周辺の媒体の抵抗値を測定する抵抗測定部と、
前記電極対の寄生容量を
予め格納するための記憶部と、
前記抵抗値及び前記寄生容量に基づいて、前記媒体の性状を判別する性状判別部とを備えたセンサ装置。
【請求項2】
前記寄生容量に基づいて、前記抵抗値の測定誤差を補正する測定誤差補正部を備え、
前記性状判別部が、補正後の前記抵抗値に基づいて、前記媒体の性状を判別する請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
前記抵抗測定部は、周波数が5kHz以下の交流を供給したときの前記電極対のインピーダンスを測定する請求項1又は2に記載のセンサ装置。
【請求項4】
前記寄生容量は、前記媒体に近接していない前記電極対に交流を供給したときの前記電極対のインピーダンスとして測定される値である請求項1~3のいずれかに記載のセンサ装置。
【請求項5】
媒体収容タンク内に配置される基板と、
前記基板上に形成され、水平方向に交差する方向に延びる電極対と、
前記電極対を覆う絶縁性の保護膜と、
前記電極対に対し、第1周波数の交流を供給し、前記電極対の静電容量を測定する静電容量測定部と、
前記電極対に対し、第1周波数とは異なる第2周波数の交流を供給し、当該電極対周辺の媒体の抵抗値を測定する抵抗測定部と、
前記電極対の寄生容量を
予め格納するための記憶部と、
前記電極対の静電容量に基づいて、前記収容タンク内の媒体量を検出する媒体量検出部と、
前記媒体量に基づいて前記抵抗値を補正する媒体量補償部と、
補正後の前記抵抗値及び前記寄生容量に基づいて、前記媒体の性状を判別する性状判別部とを備えたセンサ装置。
【請求項6】
媒体収容タンク内に配置される基板と、
前記基板上に形成され、水平方向に交差する方向に延びる第1電極対と、
前記基板上に形成され、前記第1電極対よりも下方に配置される第2電極対と、
前記第1電極対及び第2電極対を覆う絶縁性の保護膜と、
前記第1電極対の静電容量を測定する容量測定部と、
前記第2電極対に交流を供給し、当該第2電極対周辺の媒体の抵抗値を測定する抵抗測定部と、
前記第2電極対の寄生容量を
予め格納するための記憶部と、
前記静電容量測定部が測定した静電容量に基づいて、前記収容タンク内の媒体量を検出する媒体量検出部と、
前記抵抗値及び前記寄生容量に基づいて、前記媒体の性状を判別する性状判別部とを備えたセンサ装置。
【請求項7】
前記寄生容量に基づいて、前記抵抗値の測定誤差を補正する測定誤差補正部をさらに備え、
前記性状判別部が、補正後の前記抵抗値に基づいて、前記媒体の性状を判別する請求項5又は6に記載のセンサ装置。
【請求項8】
前記基板の温度を測定する温度測定部と、
前記温度に基づいて、前記抵抗値を補正する温度補償部とを備え、
前記性状判別部が、補正後の前記抵抗値に基づいて、前記媒体の性状を判別する請求項1~7のいずれかに記載のセンサ装置。
【請求項9】
前記温度測定部は、前記基板上に形成された電極の抵抗値を測定することにより前記基板の温度を求める請求項8に記載のセンサ装置。
【請求項10】
前記電極は、前記保護膜により覆われている請求項9に記載のセンサ装置。
【請求項11】
前記媒体は、液体であり、
前記性状判別部は、前記液体の劣化状態を判別する請求項1~10のいずれかに記載のセンサ装置。
【請求項12】
前記液体は、オイルであり、
前記性状判別部は、前記オイルの劣化状態を判別する請求項11に記載のセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ装置に係り、さらに詳しくは、液体などの媒体の抵抗値を測定し、当該媒体の性状状態を判別するセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体の性状、例えば組成や特性が変化すれば、それに伴って当該液体の誘電率や抵抗率が変化する場合が多い。しかしながら、誘電率、抵抗率にどのような影響を与えるのかは、対象とする液体の種類や、注目している性状によって異なる。例えば、自動車のエンジンオイルは、長期間使用すれば、すすなどの異物が混入して劣化し、抵抗率が低下するため、エンジンオイルの抵抗を測定すれば、その劣化を判別することができると考えられる。
【0003】
例えば、オイルの劣化を電気的に検出するオイル劣化検出装置が従来から知られている(特許文献1)。このオイル劣化検出装置は、エンジンオイルの流路に2枚の電極を配置し、オイルの導電率及び誘電率を測定することにより、オイルの劣化を検出している。
【0004】
電極対を液体中に浸漬させ、当該液体の電気的特性を測定する場合、電極対が腐食により劣化するという問題があった。具体的には、銅からなる電極対を用いて、液体の抵抗を測定する場合、液体に直接触れる電極対が腐食し、装置の耐久性を確保することが難しいという問題があった。
【0005】
また、電極対の腐食を防止するために、カーボンナノチューブ、ダイヤモンドライクカーボンなどの耐食性の導電材料を用いて電極対を形成することも考えられるが、製造コストが顕著に増大するという問題があった。また、電極対に金めっきを行って腐食を防止することも考えられるが、やはり製造コストが増大するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液体などの媒体の抵抗値を測定し、当該媒体の性状を判別するセンサ装置を提供することを目的とする。また、センサ装置の耐久性を向上させることを目的とする。また、センサ装置の製造コストを抑制し、安価に提供することを目的とする。
【0008】
特に、耐久性の向上と、性状判別精度の向上とを両立させたセンサ装置を提供することを目的とする。さらに、製造コストを顕著に増大させることなく、耐久性の向上と性状判別精度の向上とを実現するセンサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の実施態様によるセンサ装置は、基板上に形成され、絶縁性の保護膜によって覆われた電極対と、前記電極対に対し交流を供給し、当該電極対周辺の媒体の抵抗値を測定する抵抗測定部と、前記電極対の寄生容量を保持する記憶部と、前記抵抗値及び前記寄生容量に基づいて、前記媒体の性状を判別する性状判別部とを備える。
【0010】
媒体の抵抗値を測定する電極対を絶縁性の保護膜で覆うことにより、製造コストを顕著に増大させることなく、電極対が腐食するのを防止し、装置の耐久性を向上させることができる。また、絶縁性の保護膜で覆われた電極対に交流を供給し、電極対周辺の媒体の抵抗値を測定することにより、耐久性を損なうことなく、媒体の性状を判別することができる。さらに、電極対の抵抗値及び寄生容量に基づいて媒体の性状を判別することにより、媒体の性状判別精度を向上させることができる。従って、上記構成を採用することにより、製造コストの抑制と、耐久性の向上と、性状判別精度の向上とを両立させることができる。
【0011】
本発明の第2の実施態様によるセンサ装置は、上記構成に加えて、前記寄生容量に基づいて、前記抵抗値の測定誤差を補正する測定誤差補正部をさらに備え、前記性状判別部が、補正後の前記抵抗値に基づいて、前記媒体の性状を判別するように構成される。
【0012】
このような構成を採用することにより、交流を用いて電極対周辺の媒体の抵抗値を測定する際、電極対の寄生容量の影響を抑制し、媒体の抵抗値を正確に求めることができる。従って、媒体の性状判別精度を向上させることができる。
【0013】
本発明の第3の実施態様によるセンサ装置は、上記構成に加えて、前記抵抗測定部が、周波数が5kHz以下の交流を供給したときの前記電極対のインピーダンスを測定するように構成される。
【0014】
上記構成を採用することにより、電極対周辺の媒体の静電容量が電極対のインピーダンスに与える影響を抑制することができる。このため、交流を供給しているときの電極対のインピーダンスを測定することにより、電極対周辺の媒体の抵抗値を正確に求めることができる。
【0015】
本発明の第4の実施態様によるセンサ装置は、上記構成に加えて、前記寄生容量が、前記媒体に近接していない前記電極対に交流を供給したときの前記電極対のインピーダンスとして測定される値となるように構成される。
【0016】
このような構成を採用することにより、電極対の抵抗値測定に関連する正確な寄生容量を用いて、抵抗の測定値を補正することができる。このため、電極対の寄生容量が抵抗の測定値に与えている影響を効果的に抑制することができ、電極対周辺の媒体の抵抗値を更に正確に求めることができる。
【0017】
本発明の第5の実施態様によるセンサ装置は、媒体収容タンク内に配置される基板と、前記基板上に形成され、水平方向に交差する方向に延びる電極対と、前記電極対を覆う絶縁性の保護膜と、前記電極対に対し、第1周波数の交流を供給し、前記電極対の静電容量を測定する静電容量測定部と、前記電極対に対し、第1周波数とは異なる第2周波数の交流を供給し、当該電極対周辺の媒体の抵抗値を測定する抵抗測定部と、前記電極対の寄生容量を保持する記憶部と、前記電極対の静電容量に基づいて、前記収容タンク内の媒体量を検出する媒体量検出部と、前記媒体量に基づいて前記抵抗値を補正する媒体量補償部と、補正後の前記抵抗値及び前記寄生容量に基づいて、前記媒体の性状を判別する性状判別部とを備える。
【0018】
このような構成を採用することにより、同一の電極対を用いて、電極対の静電容量を測定し、媒体量を検出するとともに、電極対周辺の媒体の抵抗値を測定し、媒体の性状を判別することができる。従って、媒体量を検出するための基板を用いて、媒体の性状判別も行うことができる。
【0019】
本発明の第6の実施態様によるセンサ装置は、媒体収容タンク内に配置される基板と、前記基板上に形成され、水平方向に交差する方向に延びる第1電極対と、前記基板上に形成され、前記第1電極対よりも下方に配置される第2電極対と、前記第1電極対及び第2電極対を覆う絶縁性の保護膜と、前記第1電極対の静電容量を測定する容量測定部と、前記第2電極対に交流を供給し、当該第2電極対周辺の媒体の抵抗値を測定する抵抗測定部と、前記第2電極対の寄生容量を保持する記憶部と、前記静電容量測定部が測定した静電容量に基づいて、前記収容タンク内の媒体量を検出する媒体量検出部と、前記抵抗値及び前記寄生容量に基づいて、前記媒体の性状を判別する性状判別部とを備える。
【0020】
このような構成を採用することにより、媒体量を検出するための第1電極対と、媒体の性状を判別するための第2電極とを同一の基板上に形成し、第1電極及び第2電極を同一の絶縁性の保護膜で覆うことができる。このため、製造コストを増大させることなく、第1電極対及び第2電極対の耐久性を向上させることができる。
【0021】
本発明の第7の実施態様によるセンサ装置は、上記構成に加えて、前記寄生容量に基づいて、前記抵抗値の測定誤差を補正する測定誤差補正部をさらに備え、前記性状判別部が、補正後の前記抵抗値に基づいて、前記媒体の性状を判別するように構成される。
【0022】
このような構成を採用することにより、交流を用いて電極対周辺の媒体の抵抗値を測定する際、電極対の寄生容量の影響を抑制し、媒体の抵抗値を正確に求めることができる。従って、媒体の性状判別精度を向上させることができる。
【0023】
本発明の第8の実施態様によるセンサ装置は、上記構成に加えて、前記基板の温度を測定する温度測定部と、前記温度に基づいて、前記抵抗値を補正する温度補償部とを備え、前記性状判別部が、補正後の前記抵抗値に基づいて、前記媒体の性状を判別するように構成される。
【0024】
このような構成を採用することにより、媒体の温度を測定し、媒体の抵抗値を補正することにより、媒体の抵抗の温度特性による影響を抑制し、媒体の性状判定精度を向上させることができる。
【0025】
本発明の第9の実施態様によるセンサ装置は、上記構成に加えて、前記温度測定部が、前記基板上に形成された電極の抵抗値を測定することにより前記基板の温度を求めるように構成される。
【0026】
このような構成を採用することにより、サーミスタなどの温度測定用素子を用いることなく、基板上の電極のみで温度を測定することができる。このため、製造コストを抑制することができる。
【0027】
本発明の第10の実施態様によるセンサ装置は、上記構成に加えて、前記電極が、前記保護膜により覆われている。
【0028】
このような構成を採用することにより、製造コストを顕著に増大させることなく、温度測定用の電極が腐食するのを防止し、装置の耐久性を向上させることができる。
【0029】
本発明の第11の実施態様によるセンサ装置は、上記構成に加えて前記媒体が、液体であり、前記性状判別部が、前記液体の劣化状態を判別するように構成される。
【0030】
本発明の第12の実施態様によるセンサ装置は、上記構成に加えて前記液体が、オイルであり、前記性状判別部が、前記オイルの劣化状態を判別するように構成される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、液体などの媒体の抵抗値を測定し、当該媒体の性状を判別するセンサ装置を提供することができる。また、センサ装置の耐久性を向上させることができる。また、センサ装置の製造コストを抑制し、安価に提供することができる。
【0032】
特に、耐久性の向上と、性状判別精度の向上とを両立させたセンサ装置を提供することができる。さらに、製造コストを顕著に増大させることなく、耐久性の向上と性状判別精度の向上とを実現するセンサ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施の形態1によるオイルセンサ装置1が取り付けられたオイルタンク10の一例を示した図である。
【
図2】
図1のセンサ基板2の構造を示す展開斜視図である。
【
図3】
図2のA-A切断線によりセンサ基板2を切断した場合の断面図である。
【
図4】液面高さと電極対21の静電容量との関係の一例を示した図である。
【
図5】オイル4の劣化状態、温度及び抵抗値の関係の一例を示した図である。
【
図6】オイル4に浸漬している対向素子間の等価回路を示した図である。
【
図7】オイル4に浸漬していない対向素子間の等価回路を示した図である。
【
図8】
図1の制御回路3の詳細構成を示したブロック図である。
【
図9】本発明の実施の形態2によるセンサ基板2の一構成例を示した図である。
【
図10】
図9のセンサ基板2の構造を示す展開斜視図である。
【
図11】
図10のB-B切断線によりセンサ基板2を切断した場合の断面図である。
【
図12】本発明の実施の形態2による制御回路3の一構成例を示したブロック図である。
【
図13】本発明の実施の形態2によるセンサ基板2の他の構成例を示した図である。
【
図14】本発明の実施の形態3によるセンサ基板2の一構成例を示した図である。
【
図15】本発明の実施の形態3による制御回路3の一構成例を示したブロック図である。
【
図16】液面高さと電極対21の抵抗値との関係の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の実施の形態では、タンクに収容された媒体の量及び性状を検出するセンサ装置の一例として、オイルタンクに収容されたオイルの液量及び劣化状態を検出するオイルセンサ装置について説明する。なお、実施の形態として記載したオイルセンサ装置は例示であり、本発明は、実施の形態に記載された具体的な構成のみに限定されない。
【0035】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるオイルセンサ装置1が取り付けられたオイルタンク10の一例を示した図である。このオイルセンサ装置1は、オイルタンク10内のオイル4の液量及び劣化状態を検出する装置であり、センサ基板2及び制御回路3によって構成される。
【0036】
(A1)オイルタンク10
オイルタンク10は、オイル4を収容する容器であり、例えば、自動車のエンジンオイルの循環路に接続されたオイルタンクである。オイルタンク10は、流入口12及び流出口13を有し、流出口13からオイル循環路へ供給されたオイル4は、エンジンやオイルフィルタを経由した後、流入口12を通ってオイルタンク10内に戻る。オイルタンク10は、オイル4を貯蔵するための独立した容器であってもよい。また、オイル4の液量及び劣化状態が、測定時において測定可能な程度に安定しているならば、測定対象となるオイル4の一部が流出入する容器であってもよい。
【0037】
(A2)タンクカバー11
タンクカバー11は、オイルタンク10の上部開口を閉鎖する蓋であり、オイルセンサ装置1が取り付けられている。タンクカバー11の下面側には、センサ基板2が取り付けられ、タンクカバー11の上面側のケーシング内には、制御回路3が収容されている。
【0038】
(A3)センサ基板2
センサ基板2は、オイルタンク10内に配置された基板であり、一方の主面には、電極対21、電極対22、電極対23及びサーミスタ23sが設けられ、他方の主面には、接地板25が設けられている。このセンサ基板2をオイル4に浸漬させることにより、オイル4の液量及び劣化状態を検出することができる。センサ基板2は、細長い矩形の形状を有し、その長手方向が水平方向と交差するように配置される。図示したセンサ基板2は、上端がタンクカバー11に固定され、鉛直下向きに延び、下端がオイルタンク10の底部近傍に配置されている。
【0039】
(A4)制御回路3
制御回路3は、センサ基板2を制御する電気回路であり、オイルタンク10外に配置されている。制御回路3は、図示しない電源回路、DCコンバータ、マイクロプロセッサなどにより構成され、センサ基板2上の電極対21~23及び接地板25がそれぞれ接続されている。
【0040】
図2及び
図3は、
図1のセンサ基板2の一構成例を示した図である。
図2は、センサ基板2の構造を示す展開斜視図である。
図3は、
図2のA-A切断線によりセンサ基板2を切断した場合の断面図である。ここでは、
図1~
図3を参照し、センサ基板2の構成について更に詳細に説明する。センサ基板2は、基材200、保護膜201、電極対21~23、サーミスタ23s、接地板25及び保護膜203により構成される。
【0041】
(B1)基材200
基材200は、細長い矩形の平板形状に加工された耐腐食性を有する誘電体、例えば、フッ素樹脂からなる。基材200の一方の主面(以下、第1面と呼ぶ)には、電極対21~23及びサーミスタ23sが設けられている。電極対21~23は、パターニングされた導電性金属層として形成される。例えば、基材200上に貼り付けられた銅箔に対しエッチング処理を行うことにより所望のターンを有する電極対21~23が形成され、その後にサーミスタ23sが半田付けされる。基材200の他方の主面(以下、第2面と呼ぶ)には、接地板25が設けられている。接地板25は、基材200の全面を覆う導電性金属層として形成される。例えば、基材200上に貼り付けられた銅箔からなる。
【0042】
(B2)保護膜201
保護膜201は、基材200の第1面に形成された膜であり、耐腐食性を有する誘電体、例えば、フッ素樹脂からなる。保護膜201は、基材200の第1面の全面に形成され、電極対21~23及びサーミスタ23sを覆っている。このため、電極対21~23及びサーミスタ23sは、基材200及び保護膜201によって密閉され、オイル4や空気に触れないため、腐食等によって劣化、損傷するのを防止することができる。また、センサ基板2上の全ての部品を同一の保護膜201で覆うことにより、製造コストを抑制し、安価に実現することができる。
【0043】
(B3)電極対21
電極対21は、オイル4の液面高さの検出に用いられる電極対であり、2本の電極21a,21bにより構成される。電極21a,21bは、2以上の対向素子21n,21mをそれぞれ備える。
【0044】
電極21a,21bは、いずれも略等幅の細長い形状を有し、基材200の長手方向に沿って互いに平行に延び、一端が制御回路3に接続されている。つまり、電極21a,21bは、いずれも水平方向に交差する方向、例えば鉛直方向に延びる形状を有し、上端が制御回路3に接続されている。
【0045】
対向素子21n,21mは、いずれも略等幅の細長い形状を有し、基材200の短手方向に延び、互いに平行となるように近接して配置される。電極21aには、2以上の対向素子21nが接続され、電極21bには、2以上の対向素子21mが接続されている。電極21a,21b間には、基材200の長手方向に沿って、3以上の対向素子21n,21mが交互に配列され、隣接して配置された一対の対向素子21n,21mがそれぞれ電極対を形成する。
【0046】
オイル4の液量が変化すれば、オイル4の液面が鉛直方向に移動し、オイル4の液面高さに応じて、オイル4に浸漬する対向素子21n,21mの数が変化する。対向素子21n,21m間の静電容量は、これらの対向素子21n,21mが、空気中又はオイル中のいずれであるのかによって大きく変化する。このため、電極対21の静電容量を測定することにより、オイル4の液面高さを測定することができる。
【0047】
図中の電極対21では、鉛直方向に近接して配置された2以上の対向素子21n,21mが、対向素子群21gを構成し、2以上の対向素子群21gが、対向素子21n,21m間よりも広い間隔を隔てて鉛直方向に配列されている。このような構成を採用することにより、液面高さを離散的に検出することができる。なお、全ての対向素子21n,21mを近接して配置し、電極対21が、1つの対向素子群21gのみを備えるように構成すれば、液面高さを連続的に検出することができる。
【0048】
(B4)電極対22
電極対22は、オイル4の劣化状態の判別に用いられる電極対であり、2本の電極22a,22bにより構成される。電極22a,22bは、1又は2以上の対向素子22n,22mをそれぞれ備える。
【0049】
電極22a,22bは、いずれも略等幅の細長い形状を有し、基材200の長手方向に沿って互いに平行に延び、その一端が制御回路3に接続される。つまり、電極22a,22bは、いずれも水平方向に交差する方向、例えば鉛直方向に延びる形状を有し、上端が制御回路3に接続されている。
【0050】
対向素子22n,22mは、いずれも略等幅の細長い形状を有し、基材200の短手方向に延び、互いに平行となるように近接して配置される。電極22aには、1又は2以上の対向素子22nが接続され、電極22bには、1又は2以上の対向素子22mが接続されている。3以上の対向素子22n,22mが設けられる場合、電極22a,22b間には、対向素子22n,22mが交互に配列され、隣接する対向素子22n,22mがそれぞれ電極対を形成する。また、対向素子22n,22mは、対向素子21n,21mよりも下方に配置され、望ましくは、サーミスタ23sよりも下方に配置される。なお、対向素子22n,22mは、サーミスタ23sよりも上方に配置されていてもよい。
【0051】
オイル4は、長期間使用して劣化すると抵抗率が低下する。このため、対向素子22n,22mがオイル4に浸漬している状態で、電極対22の抵抗値を測定すれば、オイル4の劣化状態を判別することができる。ただし、電極対22は、保護膜201で覆われているため、直流抵抗を測定することはできない。このため、電極対22に交流を供給し、オイル4の抵抗を測定する必要がある。
【0052】
(B5)電極対23
電極対23は、2本の電極23a,23bにより構成される。電極23a,23bは、サーミスタ23sの端子にそれぞれ接続されているため、電極対23の抵抗を測定することにより、センサ基板2の温度を測定することができる。
【0053】
電極23a,23bは、いずれも略等幅の細長い形状を有し、基材200の長手方向に沿って互いに平行に延び、その上端が制御回路3に接続される。サーミスタ23sは、その抵抗値が比較的大きな温度特性を有する周知の温度検出用素子であり、例えば、面実装用素子が基材200上に取り付けられる。センサ基板2の温度は、センサ基板2周辺のオイル4の温度と略同一であることから、電極対23の抵抗を測定することにより、オイル4の温度を取得することができる。サーミスタ23sがオイル4に浸漬している状態であれば、オイル4の温度をより正確に測定することができるため、サーミスタ23sは、対向素子21n,21mよりも下方に配置される。
【0054】
(B6)接地板25
接地板25は、基材200の第2面の全面に形成されたグランド層であり、制御回路3のグランドに接続されている。基材200を介して電極対21~23と平行に接地板25を配置することにより、電極対21~23の電位を安定させ、耐ノイズ特性を向上させることができる。
【0055】
(B7)保護膜203
保護膜203は、基材200の第2面に形成された膜であり、耐腐食性を有する誘電体、例えば、フッ素樹脂からなる。保護膜203は、基材200の第2面の全面に形成され、接地板25を覆っている。このため、接地板25は、基材200及び保護膜203によって密閉され、オイル4や空気に触れないため、腐食等によって劣化、損傷するのを防止することができる。なお、接地板25及び保護膜203は、必要に応じて設けられ、省略することもできる。
【0056】
(C1)オイルの液量の検出方法
図4は、オイル4の液面高さと電極対21の静電容量との関係の一例を示した図である。この図は、オイルタンク10内におけるオイル4の液面高さを横軸にとり、電極対21の静電容量を縦軸にとって表したものである。図中の特性40は、右上がりの直線になっている。つまり、電極対21の静電容量は、オイル4の液面高さに応じて増大し、両者は、概ね線形の関係にあることがわかる。なお、電極対21が、オイル4の液面高さを離散的に測定するように構成されている場合、測定される電極対21の静電容量は、
図4の直線を階段状に変化させた特性になる。
【0057】
電極対21が鉛直方向に延び、多数の対向素子21n,21mも鉛直方向に配列しているため、液面高さが上昇すれば、オイル4に浸漬する対向素子21n,21mの数が増える。このため、液面高さが上昇すれば、電極対21の静電容量も単調に増加し、図示したような特性が得られる。従って、電極対21の静電容量を測定することができれば、液面高さを求めることができ、オイルタンク10内におけるオイル4の液量を検出することができる。
【0058】
(C2)オイルの劣化状態の検出方法
図5は、オイル4の劣化状態、温度及び抵抗値の関係の一例を示した図である。この図は、オイル4の温度を横軸にとり、オイル4の抵抗値を縦軸にとって表したものである。オイル4の抵抗値は、電極対22を用いて測定した値であり、対向素子22n,22m周辺のオイル4の抵抗値が示されている。また、図中の特性41は、使用前の劣化していないオイル4の特性であり、図中の特性42は、使用済みの劣化したオイル4の特性である。
【0059】
特性41,42を比較すれば、オイル4の劣化に伴い、オイル4の抵抗値が低下することがわかる。例えば、エンジンオイルの場合、長期間使用することにより、カーボン、金属粉などの不純物が混入する。このため、オイル4の抵抗値を測定することができれば、オイル4の劣化状態を求めることができる。
【0060】
また、特性41,42を参照すれば、オイル4の抵抗値は温度によって大きく変化することがわかる。このため、オイル4の抵抗に基づいて劣化状態を判別するためには、抵抗の測定値を補正し、温度による影響を抑制した後に判別する必要があることがわかる。
【0061】
(D1)インピーダンスの測定原理
図6及び
図7は、隣接する対向素子2n、2m間のインピーダンスの測定原理に関する説明図である。
図6には、オイル4に浸漬している場合における対向素子2n,2m間の等価回路が示され、
図7には、オイル4に浸漬していない場合における対向素子2n,2m間の等価回路が示されている。なお、対向素子2n,2mは、対向素子21n,21m又は対向素子22n,22mであり、
図6及び
図7では、両者の総称として対向素子2n,2mを使用している。
【0062】
図6に示した通り、隣接する対向素子2n,2mがオイル4に浸漬している場合、周辺のオイル4の等価回路は、静電容量C1と抵抗R1の並列回路になる。この並列回路の両端は、保護膜201の静電容量C2を介して対向素子2n,2mにそれぞれ接続される。また、対向素子2n,2m間には、保護膜201が介在する寄生容量Cs1と、基材200が介在する寄生容量Cs2と、基材200及び接地板25が介在する寄生容量Cs3とが存在する。これらの寄生容量Cs1~Cs3の和を寄生容量Csとすれば、対向素子2n,2m間のインピーダンスZは、次式(1)で表すことができる。
【数1】
なお、記号//は並列接続の演算であることを示している。
【0063】
周波数f(=ω/2π)が十分に大きな値である場合、上式(1)は次式(2)のように近似することができる。この式(2)には、オイル4の抵抗R1が含まれていない。つまり、十分に高い周波数f1の交流を対向素子2n,2mに供給し、そのときの電圧及び電流の実効値の比としてインピーダンスZを求めれば、対向素子2n,2m間の静電容量を測定することができる。また、静電容量C2及び寄生容量Csは、液面高さによって変動しない値であるため、対向素子2n,2m間の静電容量を測定することにより液面高さを求めることができる。
【数2】
【0064】
一方、周波数fが十分に小さい値である場合、上式(1)は次式(3)のように近似することができる。この式(3)には、オイル4の抵抗R1が含まれている。つまり、十分に低い周波数f2の交流を対向素子2n,2mに供給し、そのときの電圧及び電流の実効値の比としてインピーダンスZを求めれば、対向素子2n,2m間の抵抗R1を求めることができる。ただし、この値には、静電容量C2及び寄生容量Csによる誤差が含まれている。
【数3】
【0065】
(D2)抵抗値の誤差補償
図7に示した通り、隣接する対向素子2n,2mがオイル4に浸漬していない場合、周辺の空気の等価回路は静電容量C3になる。このため、対向素子2n,2m間の等価回路は、静電容量C3の両端に保護膜201の静電容量C2が直列に接続された回路に対し寄生容量Csが並列接続された回路になる。従って、この対向素子2n,2m間のインピーダンスZは、次式で表すことができる。
【数4】
【0066】
ここで、周辺の空気の静電容量C3は、対向素子2n,2mの寄生容量Csに比べて十分に小さな値である。このため、上式(4)は、次式(5)のように近似することができる。
【数5】
【0067】
つまり、オイル4に浸漬していない対向素子2n,2mのインピーダンスZを測定すれば、寄生容量Cs1~Cs3の和である寄生容量Csを求めることができる。このため、オイル4に浸漬していない対向素子2n,2mのインピーダンスZを予め測定しておけば、対向素子2n,2m間の抵抗R1を測定する際、寄生容量Csによる影響を除去する補正(誤差補償)を行うことができ、オイル4の抵抗R1を正確に測定することができる。
【0068】
図8は、
図1の制御回路3の詳細構成を示したブロック図である。制御回路3は、電極対21を用いてオイル4の液量を検出するとともに、電極対22,23を用いてオイル4の劣化状態を判別する。制御回路3は、静電容量測定部301、抵抗測定部302、温度測定部303、寄生容量記憶部304、液量検出部310、測定誤差補正部311、温度補償部312及び劣化判別部313により構成される。
【0069】
(E1)静電容量測定部301
静電容量測定部301は、オイル4の液量を検出するために、電極対21の静電容量を測定する手段である。電極対21の静電容量は、所定の周波数f1の交流を供給したときの電極対21のインピーダンスとして測定することができる。
【0070】
電極対21のインピーダンスは、例えば、電極対21に交流電圧を印加したときの電圧及び電流の実効値の比として求めることができる。このとき、十分に高い周波数f1を選択することにより、式(2)に示した通り、オイル4の抵抗R1の影響を抑制したインピーダンスとして、電極対21の静電容量を測定することができる。このような静電容量測定には、10kHz以上の周波数f1を用いることができる。例えば50kHz~1MHz、より望ましくは100kHz~500kHzが用いられる。
【0071】
(E2)抵抗測定部302
抵抗測定部302は、オイル4の劣化状態を判別するために、電極対22の抵抗値を測定する手段である。電極対22の抵抗値は、所定の周波数f2の交流を供給したときの電極対22のインピーダンスとして測定することができる。
【0072】
電極対22のインピーダンスは、例えば、電極対22に交流電圧を印加したときの電圧及び電流の実効値の比として求めることができる。このとき、十分に低い周波数f2を選択することにより、式(3)に示した通り、オイル4の静電容量C1の影響を抑制したインピーダンスとして、電極対22周辺のオイル4の抵抗値R1を測定することができる。このような抵抗値測定には、10kHz以下の周波数f2を用いることができる。例えば50Hz~5kHz、より望ましくは100Hz~1kHzが用いられる。
【0073】
(E3)温度測定部303
温度測定部303は、オイル4の抵抗値の温度特性を補償するために、サーミスタ23sを用いてセンサ基板2の温度を測定する。サーミスタ23sには、電極対23が接続されているため、温度測定部303は、電極対23の抵抗を測定することにより、オイル4の温度を検出する。
【0074】
(E4)寄生容量記憶部304
寄生容量記憶部304は、電極対22の寄生容量Csを保持する記憶手段である。寄生容量記憶部304は、電極対22の抵抗値の測定に影響を与える電極対22の寄生容量Csを保持している。
【0075】
例えば、電極対22の寄生容量Csが既知である場合には、予め与えられた値を保持する。また、既知でない場合には、予め測定された電極対22の寄生容量Csを保持する。電極対22の寄生容量Csは、センサ基板2ごとにばらつきがあるため、センサ基板2ごとに寄生容量Csを予め測定し、寄生容量記憶部304に格納しておくことが望ましい。
【0076】
電極対22の寄生容量Csは、オイル4に浸漬していない電極対22に対し、所定の周波数の交流を供給したときのインピーダンスとして測定することができる。電極対22のインピーダンスは、抵抗値R1の測定時と同様、例えば、電極対22に交流電圧を印加したときの電圧及び電流の実効値の比として求めることができる。寄生容量Csを測定するときの周波数は、抵抗値R1の測定時の周波数f2と同一であることが望ましいが、異なる周波数を用いることもできる。
【0077】
(E5)液量検出部310
液量検出部310は、静電容量測定部301が測定した静電容量に基づいて、オイルタンク10内におけるオイル4の液量を検出する。
図4に示した電極対21の静電容量とオイル4の液面高さの関係が予め与えられていれば、測定した静電容量から液面高さを求めることができ、この液面高さが液量情報として出力される。
【0078】
(E6)測定誤差補正部311
測定誤差補正部311は、寄生容量記憶部304が保持する電極対22の寄生容量Csを用いて、抵抗測定部302の測定誤差を補正し、当該測定値に含まれる電極対22の寄生容量Csによる影響を抑制する。
【0079】
式(3)に示した通り、低い周波数f2を用いることにより、抵抗測定部302の測定値は、オイル4の抵抗値R1に対し並列接続されるオイル4の静電容量C1の影響が抑制されているが、保護膜201の静電容量C2及び電極対22の寄生容量Csの影響を受けている。このため、寄生容量記憶部304に保持されている電極対22の寄生容量Csを用いて、抵抗測定部302の測定値を補正することにより、電極対22の寄生容量Csによる影響を抑制し、オイル4の抵抗値R1をより正確に求めることができる。
【0080】
(E7)温度補償部312
温度補償部312は、温度測定部303の測定値に基づいて、抵抗測定部302の測定値を補正し、オイル4の温度特性による影響を抑制する。つまり、温度補償部312は、温度によるオイル4の抵抗値R1の変化を補償する。この温度補償は、測定誤差補正部311による補正後の値について行うことが望ましい。
【0081】
(E8)劣化判別部313
劣化判別部313は、寄生容量Cs及び温度による補正後の抵抗値R1に基づいて、オイル4の劣化状態を判別する。例えば、補正後の抵抗値R1を閾値と比較することにより、劣化状態を判別し、劣化情報として出力する。劣化情報は、劣化の有無を示す2値の情報であってもよいし、劣化の程度を示す3値以上の情報であってもよい。
【0082】
実施の形態2.
上記実施の形態では、サーミスタ23sを備えたセンサ基板2について説明した。これに対し、本実施の形態では、温度測定用の配線電極24を備えたセンサ基板2の例について説明する。
【0083】
図9~
図11は、本発明の実施の形態2によるセンサ基板2の一構成例を示した図である。
図9(a)には、センサ基板2の一方の主面(第1面)が示され、
図9(b)には、他方の主面(第2面)が示されている。また、
図10は、
図9のセンサ基板2の構造を示す展開斜視図である。
図11は、
図10のB-B切断線によりセンサ基板2を切断した場合の断面図である。
【0084】
図9~
図11のセンサ基板2を
図1~
図3のセンサ基板2(実施の形態1)と比較すれば、第1面に電極対23及びサーミスタ23sを備えておらず、第2面に配線電極24を備えている点で異なる。また、第2面に保護膜202が形成されている点で異なる。なお、
図1~
図3のセンサ基板2と同一の構成については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0085】
センサ基板2の第1面には、電極対21,22が形成され、第1面の全面を覆う保護膜201が形成されている。センサ基板2の第2面には、配線電極24が形成され、第2面の全面を覆う保護膜202が形成されている。
【0086】
(F1)配線電極24
配線電極24は、パターニングされた導電性金属層として形成される。例えば、基材200の第2面に貼り付けられた銅箔に対しエッチング処理を行うことにより所望のターンを有する配線電極24が形成される。基材200の第2面に接地板25及び保護膜203が形成されている場合、配線電極24は保護膜203上に形成される。配線電極24は、抵抗を測定することによって温度を検出する手段である。つまり、抵抗の温度特性を利用して温度測定が行われる。このため、温度特性の大きな材料を用いることが望ましい。また、より細く、より長い形状を有することが望ましい。
【0087】
図9~
図11に示した配線電極24は、略同一の線幅を有し、基材200の第2面の略全面を利用して配置された形状を有する。具体的には、配線電極24は、センサ基板2の短手方向に沿って往復するように蛇行しながら、センサ基板2の長手方向に沿って一端側から他端側に延び、他端近傍に到達した後、一端側に向かってセンサ基板2の長手方向に沿って戻るパターンを有する。このような温度測定用の配線電極24を基材200の第2面に形成することにより、サーミスタ23sが不要になり、製造コストを抑制することができる。
【0088】
(F2)保護膜202
保護膜202は、基材200の第2面に形成された膜であり、耐腐食性を有する誘電体、例えば、フッ素樹脂からなる。保護膜202は、基材200の第2面の全面に形成され、配線電極24を覆っている。このため、配線電極24は、基材200及び保護膜202によって密閉され、オイル4や空気に触れないため、腐食等によって劣化、損傷するのを防止することができる。また、基材200の両面を同一の保護膜201,202で覆うことにより、製造コストを抑制することができる。
【0089】
図12は、本発明の実施の形態2による制御回路3の一構成例を示したブロック図である。
図12の制御回路3を
図8の制御回路3(実施の形態1)と比較すれば、温度測定部303に配線電極24が接続されている点で異なる。なお、
図8の制御回路3と同一の構成については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0090】
(F3)温度測定部303
温度測定部303は、配線電極24の抵抗を測定することにより、オイル4の温度を検出している。
【0091】
(F4)他のパターン例
図13は、本発明の実施の形態2によるセンサ基板2の他の構成例を示した図である。
図13(a)には、センサ基板2の第1面が示され、
図13(b)には、センサ基板2の第2面が示されている。
【0092】
図13のセンサ基板2を
図9のセンサ基板2(実施の形態2)と比較すれば、配線電極24のパターンのみが異なる。なお、その他の構成は同一であるため、重複する説明は省略する。
【0093】
図13に示した配線電極24は、略同一の線幅を有し、基材200の第2面の略全面を利用して配置された形状を有する。具体的には、配線電極24は、センサ基板2の長手方向に沿って往復するように蛇行しながら、センサ基板2の短手方向に沿って一端側から他端側に延びるパターンを有する。このような温度測定用の配線電極24を基材200の第2面に形成することにより、サーミスタ23sが不要になり、製造コストを抑制することができる。
【0094】
実施の形態3.
上記実施の形態2では、センサ基板2が2つの電極対21,22を備え、電極対21の静電容量を測定して液量を検出し、電極対22の抵抗値を測定して劣化を判別する液体センサ装置について説明した。これに対し、本実施の形態では、センサ基板2が1つの電極対21を備え、電極対21の静電容量及び抵抗値を測定し、液量の検出及び劣化の判別を行う液体センサ基板の例について説明する。
【0095】
図14は、本発明の実施の形態3によるセンサ基板2の一構成例を示した図である。
図14(a)には、センサ基板2の一方の主面(第1面)が示され、
図14(b)には、他方の主面(第2面)が示されている。
【0096】
図14のセンサ基板2を
図9のセンサ基板2(実施の形態2)と比較すれば、第1面に電極対22を備えていない点で異なる。なお、
図9のセンサ基板2と同一の構成については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。電極対21は、液量を検出するために静電容量が測定され、劣化状態を判別するために抵抗値が測定される。このため、電極対22が不要になり、製造コストを更に抑制することができる。また、電極対21をオイルタンク10の底面のより近傍まで延びるように配置することができ、検出可能な液量の範囲を拡大することが可能になる。
【0097】
図15は、本発明の実施の形態3による制御回路3の一構成例を示したブロック図である。
図15の制御回路3を
図12の制御回路3(実施の形態1)と比較すれば、抵抗測定部302に電極対21が接続されている点と、液量補償部314が追加されている点で異なる。なお、
図12の制御回路3と同一の構成については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0098】
(G1)抵抗測定部302
抵抗測定部302は、オイル4の劣化状態を判別するために、電極対21の抵抗値を測定する手段である。電極対21の抵抗値は、所定の周波数f2の交流を供給したときの電極対22のインピーダンスとして測定することができる。インピーダンスの測定方法は、電極対22の場合と同様である。
【0099】
(G2)液量補償部314
液量補償部314は、液量検出部310からの液量に基づいて、抵抗測定部302の測定値を補正し、抵抗測定部302の測定値に液量が与える影響を抑制する。液量を検出するための電極対21は、鉛直方向に延びる形状を有し、液面が上昇すれば、オイル4に浸漬する対向素子21n,21mの数が増える。このため、オイル4の抵抗率が同一であっても、液量に応じて電極対21の抵抗値は変化する。
【0100】
図16は、オイル4の液面高さと電極対21の抵抗値との関係の一例を示した図である。この図は、オイルタンク10内におけるオイル4の液面高さを横軸にとり、電極対21の抵抗値R1を縦軸にとって表したものである。図中の特性43は、右下がりの略双曲線になっている。つまり、電極対21の抵抗値は、オイル4の液面高さに応じて減少し、両者は、概ね反比例する関係にあることがわかる。
【0101】
上述したとおり、オイル4は、長期間使用して劣化すると抵抗率が低下する。このため、オイル4に浸漬している対向素子21n,21mの数が同一であれば、電極対21の抵抗値に基づいてオイルの4の劣化状態を判別することができる。しかし、電極対21の抵抗値は、オイルの抵抗率が同一であっても液量に応じて変化する。このため、オイル4の劣化状態を判別するためには、液量に基づいて抵抗値を補正し、液量による影響を補正する必要がある。液量補償部314は、液量検出部310が検出した液量に基づいて、抵抗測定部302が測定した電極対21の抵抗値を補正し、液量による影響を除去した抵抗値を求める。このようにして求められた抵抗値が、測定誤差補正部311に入力される。
【0102】
上記実施の形態では、オイル4を検出対象とするオイルセンサ装置1の例について説明したが、本発明の適用対象は、このような装置のみに限定されない。すなわち、本発明は、任意の液体を検出対象とする液体センサ装置に適用することができる。例えば、ガソリン、軽油などの燃料を検出対象とする装置にも適用することができる。さらに、本発明は、液体以外の流動性を有する媒体、例えば、粉体、粒体、ゲル体などの変形自在の媒体を測定対象とし、その静電容量を測定して媒体量を測定するとともに、その抵抗を測定して当該媒体の性状を判別するセンサ装置にも適用することができる。さらに、本発明は、媒体の量や性状に限らず、何らかの条件により誘電率や抵抗率が変化する媒体を測定対象とし、その静電容量や抵抗の変化を測定することにより、当該媒体の任意の状態を検知することも可能である。
【0103】
また、上記実施の形態では、検出対象の劣化状態を判別する装置の例について説明したが、本発明はこのような場合のみに限定されない。本発明は、検出対象に関する任意の性状を判別する装置に適用することができる。例えば、検出対象の組成、特性の変化を判別する装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1 オイルセンサ装置
2 センサ基板
2n、2m 対向素子
200 基材
201~203 保護膜
21 電極対
21a,21b 電極
21n,21m 対向素子
22 電極対
22a,22b 電極
22n,22m 対向素子
23 電極対
23a,23b 電極
23s サーミスタ
24 配線電極
25 接地板
3 制御回路
301 静電容量測定部
302 抵抗測定部
303 温度測定部
304 寄生容量記憶部
310 液量検出部
311 測定誤差補正部
312 温度補償部
313 劣化判別部
314 液量補償部
4 オイル
C1 オイルの静電容量
C2 保護膜の静電容量
C3 空気の静電容量
Cs,Cs1~Cs3 寄生容量
R1 オイルの抵抗