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特許7066126セルロースシンターゼ阻害剤および突然変異体植物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】セルロースシンターゼ阻害剤および突然変異体植物
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20220506BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20220506BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20220506BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20220506BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20220506BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220506BHJP
【FI】
A01H1/00 A
A01H5/00 A
C12N9/10
C12N15/54 ZNA
C12N15/29
C12N15/113 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019507272
(86)(22)【出願日】2017-08-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2017069386
(87)【国際公開番号】W WO2018029034
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】16183333.0
(32)【優先日】2016-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514185600
【氏名又は名称】ブイアイビー ブイゼットダブリュ
【氏名又は名称原語表記】VIB VZW
【住所又は居所原語表記】Rijvisschestraat 120, B-9052 Gent, Belgium
(73)【特許権者】
【識別番号】514185611
【氏名又は名称】ユニベルシテイト ゲント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100189924
【弁理士】
【氏名又は名称】小田切 美紗
(72)【発明者】
【氏名】デ ベイリダー,リーヴェン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデルハーゲン,ルディ
(72)【発明者】
【氏名】フ,チュービング
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/142968(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/162143(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00
C12N 15/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースシンターゼサブユニット1(CESA1遺伝子に突然変異を有する植物であって、前記突然変異は、配列番号3の27位に相当する位置にメチオニン残基を含む突然変異タンパク質、配列番号3の62位に相当する位置にフェニルアラニン残基を含む突然変異タンパク質、配列番号3の82位に相当する位置にアスパラギン残基を含む突然変異タンパク質、配列番号3の208位に相当する位置にバリン残基を含む突然変異タンパク質、および配列番号3の213位に相当する位置にトレオニン残基を含む突然変異タンパク質からなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする、前記植物。
【請求項2】
以下の要素:
a.植物発現可能プロモーター、
b.配列番号3の27位に相当する位置にメチオニン残基を含む突然変異タンパク質、配列番号3の62位に相当する位置にフェニルアラニン残基を含む突然変異タンパク質、配列番号3の82位に相当する位置にアスパラギン残基を含む突然変異タンパク質、配列番号3の208位に相当する位置にバリン残基を含む突然変異タンパク質、および配列番号3の213位に相当する位置にトレオニン残基を含む突然変異タンパク質からなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする突然変異セルロースシンターゼサブユニット1(CESA1遺伝子、
c.植物の細胞で機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含む3’末端領域
を含むキメラ遺伝子。
【請求項3】
請求項2に記載のキメラ遺伝子を含む植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、除草剤として有用な、植物におけるセルロースシンターゼサブユニット1および3の活性の特異的阻害剤に関する。また、本発明は、同定された阻害剤に耐性である突然変異体植物に関する。阻害剤が除草剤として使用される場合、CESA1およびCESA3遺伝子の特異的な突然変異体アレルを使用して、植物における耐性を得ることができる。
【背景技術】
【0002】
発明への導入
植物細胞壁は、植物の強剛性および強度に必須であるが、これらは、環境ストレスに対しても植物を保護する。セルロースは、植物細胞壁の主要な化合物の1つである。セルロースは、水素結合したベータ-1,4-結合グルカンミクロフィブリルであり、分子量の大きな多量体セルロースシンターゼ複合体(CSC)によって合成される。CSCは、第一の細胞壁CSCおよび第二の細胞壁CSCに分けられ得る(Endler and Person, 2011)。CSCは、6つの球状タンパク質複合体を含む、分子量の大きな六量体のロゼット様構造である(Kimura et al., 1999)。これらの複合体の各々は、6つのセルロースシンターゼサブユニット(CESA)を保持しており、CESAは、複合体の触媒サブユニットであると考えられている。少なくとも3つの異なるCESAが複合体に存在し(Festucci-Buselli et al., 2007; Lei et al., 2012)、第一の細胞壁合成のCSCは、CESA1、3および6(または6様タンパク質CESA2、5および9)から構成され、第二の細胞壁合成のCSCは、CESA4、7および8から構成される(Lei et al., 2012)。
【0003】
一方で、植物の構造におけるセルロースの重要な役割、およびセルロースは植物特異的化合物であるという事実に起因して、セルロースシンターゼ阻害剤が動物の生育形態に主要な負の影響を与えることなく除草剤活性において効率的であると予測されるので、セルロースシンターゼは除草剤として興味深い標的である。ジクロベニル、イソキサベン、キノキシフェンおよびフルポキサムなどの、いくつかのセルロース生合成阻害剤が、除草剤として開発されている。これらの除草剤の作用様式は研究されており、4つの除草剤が異なるレベルで機能する(Brabham and DeBolt, 2013)。イソキサベンに耐性を付与する突然変異が、CESA3およびCESA6において同定されている(Heim et al., 1989, Scheible et al., 2001, Deprez et al., 2002)。しかしながら、これらの突然変異は、ジクロベニルの毒性をレスキューすることはできない。見かけ上、ジクロベニルは、第二の細胞壁合成のレベルで作用する(Brabham and DeBolt, 2013)。キノキシフェンはまた、第一の細胞壁合成のレベルで機能しているが、耐性は、CESA1に位置づけられる(Harris et al., 2012)。フルポキサムは、セルロース生合成を阻害し、過感受性突然変異体が単離されているが(Austin et al., 2011)、作用様式は依然として不明である(Garcia-Angulo, et al., 2012)。
【発明の概要】
【0004】
驚くべきことに、我々は、セルロース生合成の阻害剤として使用され得る新たなグループの化合物を見出した。より驚くべきことに、これらの化合物は、CESA1およびCESA3における特定の突然変異によってレスキューされ得るので、新たなメカニズムとして作用している。これらは、この点で、全ての既知のセルロース阻害剤およびそれらの耐性遺伝子と異なる。新たなクラスの化合物は、除草剤として有用であり、化合物および耐性遺伝子の組合せは、形質転換マーカーシステムとして使用することができるか、または、それは、CESA1および/またはCESA3において同定された突然変異体の1以上のアレルを含む除草剤耐性植物の作成のために農業において使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図面
図1】異なる除草剤改変体の構造、および、野生型シロイヌナズナ(Col-0)および耐性突然変異体CESA1A1018V(cesa17Iとして示される)の生育に対するその影響。
図2】左パネル:異なる濃度の化合物C17(7693622)の根の生育に対する阻害効果。右パネル:漸増濃度の化合物C17(7693622)によって引き起こされるシロイヌナズナの根の細胞死の分析。
図3】化合物C17(7693622)に対して耐性の突然変異体の同定。A.CESA1において同定された突然変異体cesa17I(=CESA1A1080V)の微細マッピング。B.CESA3において同定された突然変異体cesa32c(=CESA3S983F)の微細マッピング。C.CESAの膜貫通構造について同定された全ての突然変異体のマッピング。
【0006】
図4】いくつかの植物種のCESA1(A)およびCESA3(B)の配列アライメント。配列は、CLUSTALWアルゴリズムを使用する複数の配列アライメントプログラム(http://www.genome.jp/tools/clustalw/)を用いて整列させた。タンパク質データベースアクセス番号は以下のとおりである:CESA1A.thaliana-NP_194967; CESA1G.max-XP_003522623; CESA1F.vesca-XP_004291468; CESA1V.vinifera-XP_002282575; CESA1S.lycopersicum-XP_004245031; CESA1Z.mays-NP_001104954; CESA1O.sativa- NP_001054788; CESA3A.thaliana-NP_196136; CESA3G.max-XP_003540527; CESA3F.vesca-XP_004306536; CESA3V.vinifera-XP_002278997; CESA3S.lycopersicum- XP_004229630; CESA3Z.mays-NP_001105621; CESA3O.sativa-NP_001059162。C17耐性突然変異体においてアミノ酸置換を保有するアミノ酸領域を選択した。矢印は、突然変異アミノ酸の位置を示す。黒線は、予測される膜貫通ドメイン(TM1~TM8)を示す。
【0007】
図5】化合物C17(7693622)の異なる作用機構を証明する、化合物C17(7693622)に対するイソキサベン耐性突然変異体の感受性。
図6】阻害化合物としての化合物C17(7693622)および形質転換マーカーとしてのCESA3耐性遺伝子の組合せの使用。耐性遺伝子を保有する植物は、非形質転換コントロールから容易に区別できる。
図7】化合物C17の適用により、脆い細胞壁を生じる。(A)ヨウ化プロピジウム(PI)を用いて染色した植物の代表的な共焦点顕微鏡画像。4日齢の野生型(Col-0、左側のパネル)およびC17耐性突然変異体(cesa1A1018V、右側のパネル)の苗を、200 nM C17で、0h、1h、2h、または3h処理して、根を回収してPIで染色した。脆い細胞壁を有する破壊された細胞を、PIの取り込みによって可視化した。スケールバー=50μm
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
本明細書で使用される場合、以下の用語の各々は、このセクションにおいてそれと関連する意味を有する。冠詞「a」および「an」は、本明細書で使用される場合、1または1を超える(すなわち、少なくとも1つ)、その冠詞の文法的対象を指す。例えば、「1つの要素(an element)」は、1つの要素または1を超える要素を意味する。量、時間的期間などのような測定可能な値を指して本明細書で使用される場合、「約(about)」は、特定の値から、±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、およびさらにより好ましくは±0.1%の変化を包含することを意味する。かかる変化は開示された方法を実施するのに適切であるためである。
【0009】
生物、組織、細胞またはその成分の文脈で使用される場合、用語「異常な」は、少なくとも1つの観察可能なまたは検出可能な特徴(例えば、年齢、処理、日にちの時間など)において、「正常な」(予測される)それぞれの特徴を表示する生物、組織、細胞またはその成分とは異なる、生物、組織、細胞またはその成分を指す。ある細胞または組織型について正常または予測される特徴は、異なる細胞または組織型について異常であり得る。
【0010】
記載される図面は、概略的のみであり、非制限的である。図面において、要素のいくつかのサイズは、拡大されてもよく、例示目的のために同じスケールで描かれなくてもよい。用語「含む」が本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、これは、他の要素または工程を排除しない。さらに、本明細書および特許請求の範囲における第一、第二、第三などの用語は、類似の要素間を区別するために使用されるのであって、必ずしも時系列順または経時的順を記載するためのものではない。そのように使用される用語は、適切な条件下で交換可能であること、そして、本明細書に記載される発明の態様は、本明細書に記載されるかまたは例示されるのとは異なる順序で操作可能であることが理解されるべきである。
【0011】
本明細書に特に規定されない限り、本明細書で使用される全ての用語は、本発明の分野の当業者に対する意味と同じ意味を有する。実践者は、当該分野の定義および用語について、特に、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th ed., Cold Spring Harbor Press, Plainsview, New York (2012); およびAusubel et al., current Protocols in Molecular Biology (Supplement 100), John Wiley & Sons, New York (2012)に向けられる。本明細書に提供される定義は、当業者によって理解されるよりも範囲が狭いと解釈されるべきではない。
【0012】
第一の態様において、本発明は、突然変異体CESA1または突然変異体CESA3遺伝子を提供し、ここで、前記突然変異体は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される突然変異体CESA1またはCESA3タンパク質をコードする。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、突然変異体CESA1または突然変異体CESA3遺伝子を提供し、ここで、前記突然変異体は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023TおよびCESA1V1023Tからなる群より選択される突然変異体CESA1またはCESA3タンパク質をコードする。
【0014】
別の態様において、本発明は、CESA1またはCESA3遺伝子に突然変異を有する植物を提供し、ここで、前記突然変異は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする。
【0015】
別の態様において、本発明は、CESA1またはCESA3遺伝子に突然変異を有する植物を提供し、ここで、前記突然変異は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023TおよびCESA1V1023Tからなる群より選択される、突然変異タンパク質をコードする。
【0016】
さらに別の態様において、植物は、CESA1またはCESA3アレルの少なくとも1つに突然変異を有し、前記突然変異は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする。
【0017】
さらに別の態様において、植物は、CESA1またはCESA3アレルの少なくとも1つに突然変異を有し、前記突然変異は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023TおよびCESA1V1023Tからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする。
【0018】
さらに別の態様において、植物は、CESA1またはCESA3アレルの少なくとも2つに突然変異を有し、前記突然変異は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする。
【0019】
さらに別の態様において、植物は、CESA1またはCESA3アレルの少なくとも2つに突然変異を有し、前記突然変異は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023TおよびCESA1V1023Tからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする。
【0020】
さらに別の態様において、植物は、全てのCESA1またはCESA3アレルに突然変異を有し、前記突然変異は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする。
【0021】
さらに別の態様において、植物は、全てのCESA1またはCESA3アレルに突然変異を有し、上記突然変異は、CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023TおよびCESA1V1023Tからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする。
【0022】
当該分野において、植物において特定の突然変異を導入することは周知である。確かに、部位特異的ヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、メガヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALENS)および操作されたcrRNA/tracr RNAを用いるクラスター化して規則的な配列の短い回文配列リピート/CRISPR関連ヌクレアーゼ(CRISPR/Cas))によってゲノムDNAを標的化および切断するための、標的化変異誘発を導入するための、細胞内DNA配列の標的化された欠失を導入するための、および、所定のゲノム位置内に外因性ドナーDNAポリヌクレオチドの標的化された組換えを容易にするための、方法および組成物の開発に向かってここ数十年顕著な進歩がなされてきた。
【0023】
例えば、米国特許公開番号第20030232410号;第20050208489号;第20050026157号;第20050064474号;および第20060188987号、およびWO 2007/014275を参照のこと。これらの開示は、その全体が全ての目的のために参照により援用される。U.S20080182332には、植物ゲノムのための標的化改変のための非古典的なジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)の使用について記載されており、米国特許公開番号第20090205083号には、植物特異的ゲノム位置のZFN媒介性の標的化改変が記載されている。
【0024】
外因性DNAの標的化挿入のための現在の方法は典型的に、能動的に転写されたコード配列の特異的なゲノム位置に結合し切断するように設計された、少なくとも1つの導入遺伝子および部位特異的ヌクレアーゼ(例えば、ZFN)を含有するドナーDNAポリヌクレオチドとの、植物組織の同時形質転換を含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「ジンクフィンガー」は、亜鉛イオンの配位を介してその構造が安定化されるDNA結合タンパク質結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域を規定する。
【0026】
「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(または結合ドメイン)は、亜鉛イオンの配位を介してその構造が安定化する結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域である、1を超えるジンクフィンガーを介して配列特異的様式でDNAを結合する、タンパク質またはより大きいタンパク質内のドメインである。用語ジンクフィンガーDNA結合タンパク質はしばしば、ジンクフィンガータンパク質またはZFPと省略される。ジンクフィンガー結合ドメインは、所定のヌクレオチド配列に結合するように「操作」され得る。
【0027】
ジンクフィンガータンパク質を操作するための方法の非制限的な例は、設計および選択である。設計されたジンクフィンガータンパク質は、その設計/組成が主に合理的な基準から生じる天然に存在しないタンパク質である。設計のための合理的な基準は、置換適用規則、および、既存のZFP設計および結合データのデータベース保存情報における情報を処理するためのコンピュータアルゴリズムを含む。例えば、米国特許第6,140,081号;第6,453,242号;第6,534,261号および第6,794,136号を参照のこと;またWO 98/53058; WO 98/53059; WO 98/53060; WO 02/016536およびWO 03/016496を参照のこと。
【0028】
「TALE DNA結合ドメイン」または「TALE」は、1以上のTALE反復ドメイン/ユニットを含むポリペプチドである。この反復ドメインは、TALEがその同族の標的DNA配列への結合に関与している。単一の「反復ユニット」(「リピート(反復)」とも称される)は典型的に、33~35アミノ酸長であり、天然に存在するTALEタンパク質内の他のTALE反復配列と少なくともいくらかの配列相同性を示す。例えば、その全体が参考として本明細書に援用される、米国特許公開番号第20110301073号を参照のこと。
【0029】
CRISPR(クラスター化して規則的な配列の短い回文配列リピート)/Cas(CRISPR関連)ヌクレアーゼシステム。簡潔には、「CRISPR DNA結合ドメイン」は、ゲノムDNAを選択的に認識、結合および切断できるCAS酵素と協同して作用する、短鎖RNA分子である。CRISPR/Casシステムは、ゲノムの所望の標的において二重鎖切断(DSB)を創出するように操作され得、DSBの修復は、修復阻害剤の使用によって影響され、誤りがちな修復の増加を引き起こし得る。例えば、Jinek et al (2012) Science 337, p. 816-821, Jinek et al, (2013), eLife 2:e00471、およびDavid Segal, (2013) eLife 2:e00563)を参照のこと。
【0030】
ジンクフィンガー、CRISPRおよびTALE結合ドメインは、例えば、天然に存在するジンクフィンガーの認識ヘリックス領域の操作(1以上のアミノ酸の変更)を介して、CESA1またはCESA3遺伝子の特定部位などの所定のヌクレオチド配列に結合するように「操作」され得る。さらに別の可能性は、ハイブリッド脊椎動物および細菌免疫系成分を使用するDNAの標的化ヌクレオチド編集の使用である。ヌクレアーゼ欠損タイプII CRISPR/Cas9および活性化誘導性シチジンデアミナーゼ(AID)オルソログPmCDA1を合成複合体(標的-AID)を形成するように操作して、高度に効率的な標的特異的変異誘発を実施することができる(Nishida K. et al (2016) Scienceを参照のこと)。
【0031】
同様に、TALEは、例えば、DNA結合に関与するアミノ酸(リピート可変二残基またはRVD領域)を操作することによって、所定のヌクレオチド配列に結合するように「操作」され得る。したがって、操作されたDNA結合タンパク質(ジンクフィンガーまたはTALE)は、天然に存在しないタンパク質である。DNA結合タンパク質を操作するための方法の非制限的な例は、設計および選択である。設計されたDNA結合ドメインは、その設計/組成が主に合理的な基準から生じる天然に存在しないタンパク質である。
【0032】
設計のための合理的基準は、置換適用規則、および、既存のZFPおよび/またはTALE設計および結合データのデータベース保存情報における情報を処理するためのコンピュータアルゴリズムを含む。例えば、米国特許第6,140,081号;第 6,453,242号; および第6,534,261号を参照のこと;また、WO 98/53058; WO 98/53059; WO 98/53060; WO 02/016536およびWO 03/016496ならびに米国公開番号第20110301073号, 第20110239315号および第20119145940号を参照のこと。
【0033】
「選択された」ジンクフィンガータンパク質、CRISPRまたはTALEは、その産生が主にファージディスプレイ、相互作用トラップまたはハイブリッド選択などの経験的なプロセスから生じる天然に見出されないタンパク質である。例えば、米国特許第5,789,538号;米国特許第5,925,523号;米国特許第6,007,988号;米国特許第6,013,453号;米国特許第6,200,759号; WO 95/19431; WO 96/06166; WO 98/53057; WO 98/54311; WO 00/27878; WO 01/60970 WO 01/88197およびWO 02/099084ならびに米国公開番号第20110301073号、第20110239315号および第20119145940号を参照のこと。
【0034】
植物における特定の遺伝子のDNA配列を変更するためのさらなる方法もまた、当該分野で公知であり、本発明に同様に提供され得る。これらの方法は、内因性CESA1またはCESA3遺伝子が変異誘発された植物株を同定するために、逆遺伝学の意味で(PCRを用いて)使用される、メタンスルホン酸エチル(MES)誘導変異誘発および高速中性子欠失変異誘発などの、他の形態の変異誘発を含む。これらの方法の例としては、各々が本明細書に参考として援用される、Ohshima, et al, (1998) Virology 243:472-481; Okubara, et al, (1994) Genetics 137:867-874およびQuesada, et al, (2000) Genetics 154:421-436を参照のこと。さらに、変性HPLCまたは選択されたPCR産物の選択的エンドヌクレアーゼ消化を使用する、化学的に誘導された変異誘発TILLING(ゲノムにおける標的化誘導性局所病変)についてスクリーニングするための迅速および自動化できる方法はまた、本発明に適用可能である。参照により本明細書に援用される、McCallum, et al, (2000) Nat. Biotechnol 18:455-457を参照のこと。
【0035】
さらに別の態様において、本発明は、1以上のCESA1および/またはCESA3アレルを変異させるためのさらなる方法を依然として包含する。植物においてゲノムヌクレオチド配列を変更または変異させるための他の方法の例は、当該分野で公知であり、以下に限定されないが、RNA:DNAベクター、RNA:DNA変異ベクター、RNA:DNA修復ベクター、混合二重鎖オリゴヌクレオチド、自己相補的RNA:DNAオリゴヌクレオチドおよび組み換え誘導オリゴヌクレオチド塩基が挙げられる。かかるベクターおよび使用の方法は、当該分野で公知である。例えば、その各々が参照により援用されるUS5565350; US5731181; US5756325; US5760012; US5795972およびUS5871984を参照のこと。
【0036】
さらに別の態様において、本発明は、以下の要素:
a.植物発現可能プロモーター、
b.CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする突然変異CESA1またはCESA3遺伝子、
c.植物の細胞において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含む3’末端領域
を含むキメラ遺伝子を提供する。
【0037】
さらに別の態様において、本発明は、以下の要素:
a.植物発現可能プロモーター、
b.CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023TおよびCESA1V1023Tからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする突然変異CESA1またはCESA3遺伝子、
c.植物の細胞において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含む3’末端領域
を含むキメラ遺伝子を提供する。
【0038】
「キメラ遺伝子」または「キメラ構築物」は、プロモーターまたは調節核酸配列が、調節核酸配列が関連する核酸コード配列の転写または発現を調節することができるように、mRNAをコードする核酸配列に作動可能に連結されているかまたはこれに関係している、組み換え核酸配列である。キメラ遺伝子の調節核酸配列は、天然に見出されるような関連する核酸配列に作動可能に連結されていない。
【0039】
本発明において、「植物プロモーター」は、植物細胞においてコードする配列セグメントの発現を媒介する調節要素を含む。植物における発現のために、核酸分子は、正しい時点で間に合って遺伝子を発現し、要求される空間的発現パターンを有する、適切なプロモーターに作動可能に連結されるかまたはこれを含んでいなければならない。
【0040】
用語「作動可能に連結」は、本明細書で使用される場合、プロモーター配列が目的の遺伝子の転写を開始できるような、プロモーター配列と目的の遺伝子との間の機能的な連結を指す。
【0041】
「構成的プロモーター」は、成長および発生の期間のうち、必ずしも全てではないが、ほとんどの期間、そして、ほとんどの環境条件下で、少なくとも1つの細胞、組織または器官において、転写的に活性であるプロモーターを指す。
【0042】
さらに別の態様において、本発明は、以下の要素:
a.植物発現可能プロモーター、
b.CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする突然変異CESA1またはCESA3遺伝子、
c.植物の細胞において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含む3’末端領域
を含むキメラ遺伝子を含む植物を提供する。
【0043】
さらに別の態様において、本発明は、以下の要素:
a.植物発現可能プロモーター、
b.CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023TおよびCESA1V1023Tからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする突然変異CESA1またはCESA3遺伝子、
c.植物の細胞において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含む3’末端領域
を含むキメラ遺伝子を含む植物を提供する。
【0044】
用語「植物」は、本明細書で使用される場合、植物全体、種、苗条、茎、葉、根(塊茎を含む)、花、組織および器官を含む植物および植物の部分の先祖および後代が包含され、上述の各々は、目的の遺伝子/核酸を含む。用語「植物」はまた、植物細胞、懸濁培養液、カルス組織、胚、成長領域、配偶体、胞子体、花粉および小胞子もまた包含し、上記の各々は、目的の遺伝子/核酸を含む。
【0045】
本発明の方法において特に有用な植物としては、特に、以下を含むリストより選択される、飼料(fodder)または飼料(forage)のマメ科植物、観賞植物、食用作物、木、または低木を含む、単子葉および双子葉植物が挙げられる:
カエデ類(Acer spp.)、マタタビ属植物(Actinidia spp.)、Abelmoschus spp.、サイザルアサ(Agave sisalana)、カモジグサ属植物(Agropyron spp.)、ハイコヌカグサ(Agrostis stolonifera)、ネギ属植物(Allium spp.)、アマランサス(Amaranthus spp.)、アンモフィア・アレナリア(Ammophila arenaria)、パイナップル(Ananas comosus)、Annona spp.、セロリ(Apium graveolens)、Arachis spp、Artocarpus spp.、アスパラガス(Asparagus officinalis)、カラスムギ類(Avena spp.) (例えば、エンバク(Avena sativa)、カラスムギ(Avena fatua)、アカエンバク(Avena byzantina)、Avena fatua var. sativa、アベナ・ハイブリダ(Avena hybrida))、スターフルーツ(Averrhoa carambola)、Bambusa sp.、トウガン(Benincasa hispida)、ブラジルナッツ(Bertholletia excelsea)、サトウダイコン(Beta vulgaris)、アブラナ属植物(Brassica spp.) (例えば、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、Brassica rapa ssp. [キャノーラ、アブラナ、turnip rape]),
【0046】
Cadaba farinosa、茶(Camellia sinensis)、ダンドク(Canna indica)、アサ(Cannabis sativa)、トウガラシ(Capsicum spp.)、Carex elata、パパイヤ(Carica papaya)、オオバナカリッサ(Carissa macrocarpa)、Carya spp.、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、Castanea spp.、カポック(Ceiba pentandra)、エンダイブ(Cichorium endivia)、シナモン(Cinnamomum spp.)、スイカ(Citrullus lanatus)、マンダリン(Citrus spp.)、Cocos spp.、コーヒーノキ(Coffea spp.)、サトイモ(Colocasia esculenta)、Cola spp.、Corchorus sp.、コリアンダー(Coriandrum sativum)、Corylus spp.、Crataegus spp.、サフラン(Crocus sativus)、Cucurbita spp.、Cucumis spp.、Cynara spp.、ニンジン(Daucus carota)、Desmodium spp.、リュウガン(Dimocarpus longan)、ヤムイモ(Dioscorea spp.)、Diospyros spp.、ノビエ(Echinochloa spp.)、アブラヤシ属(例えば、ギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis)、アメリカアブラヤシ(Elaeis oleifera))、シコクビエ(Eleusine coracana)、テフ(Eragrostis tef)、エリアンサス属植物(Erianthus sp.)、ビワ(Eriobotrya japonica)、ユーカリ属植物(Eucalyptus sp.)、ピタンガ(Eugenia uniflora)、ソバ属植物(Fagopyrum spp.)、イヌブナ(Fagus spp.)、オニウシノケグサ(Festuca arundinacea)、イチジク(Ficus carica)、Fortunella spp.、オランダイチゴ属植物(Fragaria spp.)、
【0047】
イチョウ(Ginkgo biloba)、Glycine spp. (例えば、ダイズ(Glycine max)、Soja hispidaまたはSoja max)、ワタ(Gossypium hirsutum)、ヘリアンサス属植物(Helianthus spp.) (例えば、ヒマワリ(Helianthus annuus))、ワスレグサ(Hemerocallis fulva)、ハイビスカス(Hibiscus spp.)、Hordeum spp. (例えば、オオムギ(Hordeum vulgare))、サツマイモ(Ipomoea batatas)、クルミ(Juglans spp.)、レタス(Lactuca sativa)、レンリソウ属植物(Lathyrus spp.)、レンズマメ(Lens culinaris)、アマ(Linum usitatissimum)、レイシ(Litchi chinensis)、ミヤコグサ属植物(Lotus spp.)、トカドヘチマ(Luffa acutangula)、ルピナス属植物(Lupinus spp.)、オオスズメノヤリ(Luzula sylvatica)、トマト属植物(Lycopersicon spp.) (例えば、トマト(Lycopersicon esculentum)、Lycopersicon lycopersicum、Lycopersicon pyriforme)、Macrotyloma spp.、リンゴ属植物(Malus spp.)、アセロラ(Malpighia emarginata)、Mammea americana、マンゴー(Mangifera indica)、Manihot spp.、サポジラ(Manilkara zapota)、アルファルファ(Medicago sativa)、Melilotus spp.、ミント(Mentha spp.)、ススキ(Miscanthus sinensis)、ヘチマ属植物(Momordica spp.)、クロミグワ(Morus nigra)、バナナ(Musa spp.)、タバコ属植物(Nicotiana spp.)、オリーブウッド(Olea spp.)、Opuntia spp.、オルニトプス属植物(Ornithopus spp).、Oryza spp. (例えば、イネ(Oryza sativa)、Oryza latifolia))、
【0048】
キビ(Panicum miliaceum)、スイッチグラス(Panicum virgatum)、パッションフルーツ(Passiflora edulis)、パースニップ(Pastinaca sativa)、Pennisetum sp.、Persea spp.、パセリ(Petroselinum crispum)、クサヨシ(Phalaris arundinacea)、インゲンマメ属植物(Phaseolus spp.)、オオアワガエリ(Phleum pratense)、Phoenix spp.、ヨシ(Phragmites australis)、ホオズキ属植物(Physalis spp.)、マツ属植物(Pinus spp.)、ピスタチオ(Pistacia vera)、エンドウ(Pisum spp.)、イチゴツナギ属植物(Poa spp.)、ポプラ(Populus spp.)、プロソピス属植物(Prosopis spp.)、サクラ属植物(Prunus spp.)、Psidium spp.、ザクロ(Punica granatum)、セイヨウナシ(Pyrus communis)、ナラ(Quercus spp.)、ダイコン(Raphanus sativus)、ルバーブ(Rheum rhabarbarum)、Ribes spp.、トウゴマ(Ricinus communis)、ブラックベリー(Rubus spp.)、
【0049】
サトウキビ(Saccharum spp.)、ヤナギ(Salix sp.)、Sambucus spp.、ライムギ(Secale cereale)、Sesamum spp.、Sinapis sp.、ナス属植物(Solanum spp.) (例えば、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ヒラナス(Solanum integrifolium)またはトマト(Solanum lycopersicum))、モロコシ(Sorghum bicolor)、Spinacia spp.、シジギウム属植物(Syzygium spp.)、マリーゴールド(Tagetes spp.)、タマリンド(Tamarindus indica)、カカオ(Theobroma cacao)、クローバー(Trifolium spp.)、ガマグラス(Tripsacum dactyloides)、Triticosecale rimpaui、コムギ(Triticum spp.) (例えば、コムギ(Triticum aestivum)、デュラムコムギ(Triticum durum)、リベットコムギ(Triticum turgidum)、トリチカム・ハイベルナム(Triticum hybernum)、Triticum macha、Triticum sativum、ヒトツブコムギ(Triticum monococcum)またはTriticum vulgare)、Tropaeolum minus、キンレンカ(Tropaeolum majus)、ブルーベリー(Vaccinium spp.)、ソラマメ属植物(Vicia spp.)、Vigna spp.、ニオイスミレ(Viola odorata)、ブドウ(Vitis spp.)、トウモロコシ(Zea mays)、ワイルドライス(Zizania palustris)、Ziziphus spp.
【0050】
さらに別の態様において、本発明は、以下の構造
【化1】
式中、R1はハロゲンであり、R2はHまたはハロゲンであり、R3はHまたは-N (CH3)2である、
を有する除草剤、ならびに、
CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される、セルロースシンターゼサブユニット1(CESA1)またはセルロールシンターゼサブユニット3(CESA3)の突然変異タンパク質をコードする、除草剤耐性遺伝子
を含む植物形質転換マーカーシステムを提供する。
【0051】
特定の態様において、本発明は、以下の構造
【化2】
式中、R1はClであり、R2はHまたはハロゲンであり、R3はHである、
を有する除草剤、ならびに、
CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択されるセルロースシンターゼサブユニット1(CESA1)またはセルロースシンターゼサブユニット3(CESA3)の突然変異タンパク質をコードする、除草剤耐性遺伝子
を含む植物形質転換マーカーシステムを提供する。
【0052】
なお別の態様において、本発明は、以下の構造
【化3】
式中、R1はハロゲンであり、R2はHまたはハロゲンであり、R3はHまたは-N (CH3)2である、
を有する化合物の除草剤としての使用を提供する。
【0053】
さらに別の態様において、本発明は、以下の構造
【化4】
式中、R1はハロゲンであり、R2はHまたはハロゲンであり、R3はHまたは-N (CH3)2である、
を有する化合物の、セルロース生合成を阻害するための除草剤としての使用を提供する。
【0054】
さらに別の形態において、本発明は、植物を形質転換するための方法を提供し、前記方法は、
(1)CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする突然変異CESA1またはCESA3遺伝子を含むベクターを使用すること、ならびに、
(2)本発明の化合物を除草剤として使用して形質転換体を選択すること
を含む。好ましくは、前記化合物は、培地中に組み込まれている。
【0055】
突然変異CESA1またはCESA3遺伝子を含むベクターは、自己のCESA1またはCESA3プロモーター下でその遺伝子発現を制御できること、あるいは、CESA1またはCESA3遺伝子は、異種プロモーターの制御下にもたらされ得ることが理解される。
【0056】
さらに別の態様において、本発明は、以下の要素
a.植物発現可能プロモーター、
b.CESA1V297M、CESA1S307L、CESA1L872F、CESA1S892N、CESA1G892N、CESA1K945R、CESA1P1010L、CESA1G1013R、CESA1G1013E、CESA1A1018V、CESA1S1018V、CESA1A1023T、CESA1L1023T、CESA1V1023T、CESA3S983FおよびCESA3S1037Fからなる群より選択される突然変異タンパク質をコードする突然変異CESA1またはCESA3遺伝子、
c.植物の細胞で機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含む3’末端領域
を含むキメラ遺伝子を提供する。
【0057】
以下の例は、本発明のさらなる理解を促進することが意図される。本発明は、例示される態様を参照して、本明細書で記載されるが、本発明はこれに限定されないことが理解されるべきである。当該分野の本明細書での教示にアクセスする当業者は、さらなる改変および態様がその範囲内であることを認識する。したがって、本発明は、本明細書に添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。
【実施例
【0058】

1.C17は生育阻害活性を有する
C17 (5-(4-クロロフェニル)-7-(2-メトキシフェニル)-1,5,6,7-テトラヒドロ-[1,2,4]トリアゾロ[1,5-a]ピリミジン; ChemDiv, カタログ番号: 7693622)、合成分子、をシロイヌナズナのプロトプラストにおける倍数性誘導化合物としての化学スクリーニングから同定した。C17の植物に対する影響を試験するために、シロイヌナズナの種子を、200 nM C17またはそのアナログの存在下または非存在下で、1/2 MS培地(Murashige, T. and F. Skoog, 1962) に播種した。C17で処理した植物は、根の先端の迅速な膨張を伴う重篤な生育阻害を示した(図1)。同様ではあるが穏やかな欠陥が、3つのC17アナログの存在下で生育した野生型植物について観察された(図1)。
【0059】
C17阻害効果を分析するために、我々は、共焦点レーザー走査顕微鏡(LSM710, ZEISS)を使用して、根の構造を観察した。5日齢のシロイヌナズナの苗を、垂直プレートで生育させて、さらなる生育のためにC17を含有する1/2 MS培地に移した。3日の処理後、根の先端を分析した。その生育阻害活性と一貫して、C17は、25 nMの低濃度で細胞死を引き起こした(図2)。最も低い濃度が適用される場合、根の移行帯(transition zone)の皮質細胞が影響された。この表現型は、漸増投与量のC17で悪化し、他の組織に拡大した(図2)。細胞死に加えて、100 nM C17で処理した植物は、極性ではなく、急激な細胞伸長を示した(図2)。
【0060】
2.CESA1およびCESA3における突然変異はC17耐性を付与する
C17の生育阻害活性についての見識を得るために、正の向きの遺伝子スクリーニングを行って、C17耐性を示す突然変異体を単離した。Col-0バックグラウンド内の、300,000の独立したメタンスルホン酸エチル(EMS)変異誘発苗を、20プールに分けて、2μM C17の存在下で正常な根の生育についてスクリーニングした。12の独立したプールから22の突然変異体を得て、WT(Col-0)と戻し交配して遺伝的基礎を規定するために使用した。C17感受性に対するF2後代の分離比を分析することによって、18の突然変異体が、1:2:1の比(感受性:中間の耐性:耐性)で半優性C17耐性を示したが、4つの突然変異体(14V、9R、9Qおよび18A1)が、3:1の比(感受性:耐性)で劣勢のC17耐性表現型を示すことが見出されたので、異なる突然変異が、単一の遺伝子突然変異によって引き起こされたことを示す。
【0061】
引き続いて、全ての突然変異体を使用して、別の生態型(Ler-0)と交配することによりマッピング集団を産生した。24の一般的な単純配列長多型(SSLP)マーカーを使用することによって、これらの22の突然変異体を、SSLPマーカーとの連鎖に基づいて2つの群に分け、これを対応するマーカーによって、それぞれCH4-14494およびCH5-512と指定した。7Lおよび2Cへの微細マッピングおよびゲノム配列決定アプローチ後、それぞれ、セルロースシンターゼA1(CESA1)およびセルロースシンターゼA3(CESA3)の部位でのヌクレオチド突然変異を同定した(図3Aおよび3B)。
【0062】
次いで、残りのC17耐性突然変異体のCESA1およびCESA3部位を配列決定した。全てのC17耐性突然変異体は、CESA1またはCESA3において単一のヌクレオチド変化を有しており、全てアミノ酸変化を生じていた。全部で、これらの突然変異体は、10のCESA1突然変異アレルおよび2つのCESA3突然変異アレルを含有していた。タンパク質配列分析により、突然変異アミノ酸は、CESAタンパク質の膜貫通(TM)領域にクラスター化していることが示された(図3C)。さらに、7種からのCESA1/CESA3ホモログのアミノ酸アライメントにより、9の突然変異アミノ酸が無関係であることが明らかとなった(図4)。以前の研究により、CESA1およびCESA3は、セルロースの堆積を触媒する、セルロースシンターゼ複合体(CSC)の2つの重要な成分であることが報告されており、その機能不全は、膨張した根、欠陥の細胞伸長および細胞死を生じる。C17を野生型植物に適用することにより、これらの変形を模倣するので、C17はセルロースシンターゼ阻害剤であるという観察を強化する。
【0063】
3.C17耐性突然変異体の細胞壁組成
C17耐性突然変異体のCESA1およびCESA3におけるアミノ酸変化が、変更された細胞壁を引き起こし得ることを考慮して、全てのC17耐性突然変異体を、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法を介して細胞壁組成分析について使用した。統計的有意差は、野生型植物と比較して観察されなかったので、C17の非存在下で、CESA突然変異体は正常な細胞壁を示すことが示された。
【0064】
4.C17はセルロース阻害剤イソキサベンとは異なって機能する
現在までに、いくつかのセルロースシンターゼ阻害剤が報告されている。分子構造の観点で、C17化合物は、いずれの既知のセルロース阻害剤とも完全に異なる。イソキサベンは、典型的で強力なセルロースシンターゼ阻害剤であり、その耐性突然変異体(ixr1-1、ixr1-2、およびixr2-1)が記載されており、CESA3およびCESA6の突然変異アレルに対応する。ixr1-1、ixr1-2、およびixr2-1は依然として、C17に対して感受性であり(図5)、C17およびイソキサベンが異なって機能することが示される。
【0065】
5.シロイヌナズナにおける形質転換体の選択のためのマーカーとしてのC17耐性
C17を選択剤として使用して、同定された突然変異CESAアレルが革新的な選択マーカーとして使用できるかどうかを試験するために、シロイヌナズナ植物を、自己プロモーター下のcesa32c突然変異アレル(CESA3S983F)を保有するT-DNAおよび陽性コントロールとしてのハイグロマイシン選択遺伝子を使用するフローラルディップ方法によって形質転換した。形質転換植物を選択するために、浸漬した植物から得た種子を、2μM C17を補充した培地上に播種した。全部で2,000の植物のうちで、5つの植物が正常な根の生育を示すことが同定され得(図6)、ハイグロマイシン含有培地での選択で見られる頻度と類似していた。PCR分析により、これらの植物がT-DNA構築物を保有することを確認した。
【0066】
6.膜CESAのC17誘導性欠失は弱い細胞壁を生じる
我々は、C17処置が、C17適用の10~15分後に劇的に低下する、野生型の根の細胞の形質膜からのCESA複合体の欠失を生じることを観察した。CESA1/CESA3複合体によって合成されるセルロースは主要な細胞壁成分であるから、C17処理細胞は、根に穏やかな圧力を適用した後にヨウ化プロピジウム(PI)の取り込みによって可視化され得る、弱い細胞壁を示すことが予測された。確かに、細胞壁の弱化が、C17の適用の2時間以内に、根の伸長帯で観察され、これは、経時的に増加し、生育阻害と相関した。PI陽性細胞および生育阻害は、C17耐性突然変異体では観察されなかった。
【0067】
材料および方法
1.根の生育の分析および根の構造の観察
C17の植物に対する生育阻害効果を研究するために、野生型およびC17耐性突然変異体を、示されたレベルのC17またはそのアナログを補充した1/2 MS培地(Murashige and Skoog, 1962)で発芽させた。7日齢の苗を写真撮影した。根の構造の観察のために、5日齢のシロイヌナズナ苗を、異なる用量のC17を含有する1/2 MS培地に移した。3日間の処理後、苗を写真撮影し、それらの根の先端を、健常細胞の膜からは除外されるが死んだ細胞の形質膜に浸透する蛍光色素である、ヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。染色した根の先端を、共焦点レーザー走査顕微鏡(LSM710, ZEISS)によって可視化した。ixr1-1 (コレクション番号 CS6201)、ixr1-2 (CS6202)およびixr2-1 (CS6203)突然変異体をABRCから獲得した。5日齢のシロイヌナズナの苗を、200 nM C17を含むかまたは含まない1/2 MS培地に移した。3日後、植物を写真撮影した。
【0068】
2.C17耐性突然変異体スクリーニング
C17に耐性の突然変異体を得るために、Colバックグラウンドを有するメタンスルホン酸エチル(EMS)処理した苗のコレクション由来の種を、2μM C17を含有する1/2 MS培地に播種した。22℃で長日条件(16 hの光/8hの暗黒)下で7日間生育した後、長い根を有する植物を、C17耐性突然変異体として同定した。合計300,000の独立したEMS突然変異誘発種子の中で(20を超えるプールに分けた)22の突然変異体を単離した(12の独立したプールから)。
【0069】
3.マップベースのクローニング
C17耐性の基礎となる突然変異を規定するために、全てのC17耐性突然変異体を、野生型(Col-0)植物と戻し交配して、F1後代を得た。自家受粉したF1植物からのF2後代を、500 nM C17の存在下で7日間生育させて、F2後代内でC17耐性の分離比の計算を可能にする。全ての突然変異体をまた使用して、別の生態型(Ler-0)との交配を介するマッピング集団を作成した。単純配列長多型(SSLP)マーカー(表1)を使用して、シロイヌナズナゲノムにおける突然変異遺伝子の位置をマッピングした。引き続き、突然変異遺伝子を、候補遺伝子配列決定を介して同定した。
【0070】
4.タンパク質アライメント
GenBankデータベースから抽出した、7種類由来のCESA1およびCESA3のタンパク質アミノ酸配列を、CLUSTALWを使用して整列した。配列データは、以下のアクセス番号で見出すことができる:CESA1A.thaliana (NP_194967)、CESA1G.max (XP_003522623)、CESA1F.vesca (XP_004291468)、CESA1V.vinifera (XP_002282575)、CESA1S.lycopersicum (XP_004245031)、CESA1Z.mays (NP_001104954)、CESA1O.sativa (NP_001054788)、CESA3A.thaliana (NP_196136)、CESA3G.max (XP_003540527)、CESA3F.vesca (XP_004306536)、CESA3V.vinifera (XP_002278997)、CESA3S.lycopersicum (XP_004229630)、CESA3Z.mays (NP_001105621)、およびCESA3O.sativa (NP_001059162)。
【0071】
5.植物形質転換体
CESA32C配列を、以下のプライマー対を使用するPCRによってCESA2C突然変異体植物のcDNAから増幅した:(CESA3_ATTB1: GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTTCATGGAAT-CCGAAGGAGAAACCGCG; CESA3_ATTB2: GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTGTCGCTTC-TCAACAGTTGATTCC)。得られたフラグメントを、Pfu DNAポリメラーゼキット(Promega)を用いて作成し、BP組換えクローニングによってpDONR211エントリーベクターにクローニングし、続いて、35SプロモーターがCESA3プロモーターによって置き換えられた、改変されたpGWB2デスティネーションベクターに移した。シロイヌナズナ植物(cesa3je5)を上記のようなフローラルディップ方法(Clough and Bent, 1998)を使用して形質転換した。T1種子は2μM C17または25 mg/lハイグロマイシンを補充したMS培地で発芽させて形質転換体をスクリーニングした。
【0072】
6.細胞壁の弱体化の検出
細胞壁弱体化の検出のために、1/2 MS培地で生育した3日齢の苗を、200 nM C17を含むかまたは含まない液体培地に移した。根の先端を10 mg mL-1ヨウ化プロジウムで3分間染色した。染色した根の先端を、圧力なしでか、または、穏やかな圧力を生じるカバースリップを用いる顕微鏡スライドで、NuncTM Lab-TekTM Chambered Coverglass (カタログ番号155361)に配置した。共焦点レーザー走査顕微鏡(LSM710, ZEISS)を使用することにより、脆い細胞をPIの取り込みによって可視化することができた。
【0073】
参考文献
【化5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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