(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】押出成形用組成物、及び押出成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/636 20060101AFI20220506BHJP
B28B 3/20 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C04B35/636 500
B28B3/20 K
(21)【出願番号】P 2018014067
(22)【出願日】2018-01-30
【審査請求日】2020-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514168843
【氏名又は名称】地方独立行政法人京都市産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】北村 武大
(72)【発明者】
【氏名】高石 大吾
(72)【発明者】
【氏名】稲田 博文
(72)【発明者】
【氏名】荒川 裕也
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/082299(WO,A1)
【文献】特開2017-110085(JP,A)
【文献】特開2017-115047(JP,A)
【文献】特開2015-143336(JP,A)
【文献】特開2015-224183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/636
B28B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たす、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が
50以上1000以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する
【請求項2】
無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)の含有量が、100質量部の前記無機材料(A)に対して、0.05~0.5質量部である、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が10以上1000以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する
【請求項3】
無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、硬度が10以上である、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が10以上1000以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する
【請求項4】
前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。
【請求項5】
前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基の含有量が、微細繊維状セルロースの乾燥質量あたり、1.2~2.2mmol/gである、請求項1~4のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。
【請求項6】
前記バインダー成分(D)の含有量が、100質量部の前記無機材料(A)に対して、2~20質量部である、請求項1~5のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の押出成形用組成物を押出成形して、押出成形体を製造する、押出成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形用組成物、及びそれを用いた押出成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス製品の製造に押出成形を用いることが知られている。セラミックス製品の押出成形は、坏土(練り土、ペーストあるいはコンパウンドなどと称されることもある)と呼ばれる可塑性原料に圧力を加え、口金を通して、一定断面形状品を得る方法である。押出成形は口金の形状を変えることにより様々な断面形状の製品に対応でき、一定断面形状の長尺物の成形に適し、量産性にも優れている。この特徴を利用して、自動車用排ガス除去フィルター、碍子、グラファイト電極、タイルなどの成形に利用され、近年では、透光性アルミナ管、絶縁基板、電気および磁気セラミックスあるいは機能性繊維にも応用されている。
【0003】
押出成形の製法では、乾燥原料粉末からなる無機材料に水やバインダーなどを加えて粘土状にし、これに圧力を加えながら口金を用いて成形する。そのため、粘土状の可塑性原料である押出成形用組成物が口金を通過する際に流動性を有すること、すなわち成形圧が高すぎないことが求められる。一方、押出成形用組成物は口金を通過した後には保形性を有することが求められる。従って、押出成形用組成物はこれらの相反する性能を両立することが望ましい。
【0004】
例えば、自動車用の排ガス除去フィルターに使用されるハニカムは、高比表面積化をすることにより触媒性能が向上する。高比表面積化するためにはハニカムの厚みを薄くする必要があるが、厚みを薄くしすぎると強度が低下する。特に、焼成前の成形体強度が低下すると、取り扱いが難しく、製造時の破損や歩留まりの低下が発生する。成形体強度は押出成形用のバインダーの添加増量により向上するが、押出成形用組成物の粘度が上昇し、押出時の成形圧が上昇するため、押出成形が困難になりやすい。一方、押出成形用組成物に水を加えることにより粘度を低下させ、成形圧を低減できるが、押出成形後の乾燥収縮が大きく、成形体にクラックが入りやすくなるため、歩留まりが悪化する。このため、(i)少ない添加量で成形体の強度を付与すること(保形性)、及び、(ii)添加による成形圧の上昇の程度が少ないこと(流動性)を、同時に満たす添加物(成形助剤)が求められる。
【0005】
下記特許文献1には、成形助剤としてセルロース誘導体を用いることが記載されているが、用いるセルロース誘導体はアルキルセルロースや結晶セルロースなどであり、微細繊維状セルロースを用いる点は記載されていない。
【0006】
下記特許文献2には、押出成形のバインダーとしてカルボキシメチルセルロース及び/又はセルロースを用いた生強度(即ち補強性)について記載されている。しかしながら、可塑性についてはソルビタンエステルにより付与しており、セルロースの添加による流動性に関する記載はなく、また微細繊維状セルロースを用いる点も記載されていない。
【0007】
下記特許文献3には、修飾されたセルロース類をバインダーとして、ポリアルキレングリコールなどを可塑剤として使用することが記載されている。修飾されたセルロース類として、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロースおよびカルボキシ修飾セルロースの記載はあるものの、微細繊維状セルロースを用いる点は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-306710号公報
【文献】特開2005-073751号公報
【文献】特表平7-505359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態は、口金を通過する際の流動性と口金を通過した後の保形性を両立することができる押出成形用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る押出成形用組成物は、無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たすものである。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が10以上1000以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する
本発明の実施形態に係る押出成形体の製造方法は、該押出成形用組成物を押出成形して、押出成形体を製造するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態に係る押出成形用組成物であると、押出成形時に口金を通過する際に成形圧の上昇が抑えられ、また口金を通過した後の保形性を有するため、流動性と保形性の相反する性能を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態に係る押出成形用組成物は、無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有するものである。
【0014】
このように本実施形態は、押出成形に用いられる無機物含有組成物に関するものであり、より詳細には、押出成形により製造されるセラミックス製品の製造工程において調製される押出成形用セラミックス坏土組成物において、その成形助剤として微細繊維状セルロース(B)を用いるものである。本発明者らはかかる押出成形用組成物が口金を通過する際に低い成形圧を有し、かつ口金を通過した後に従来の添加剤に比べ高い強度を有する成形助剤を得るため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で微細繊維状セルロースに着目し、微細繊維状セルロースを添加することにより流動性と保形性を両立できることを見出した。本実施形態はかかる知見に基づくものである。
【0015】
[無機材料(A)]
無機材料(A)は押出成形用組成物の主成分をなすものである。無機材料(A)としては、セラミックス製品を構成する各種無機粉末を用いることができ、より詳細には、高温で焼結または反応焼結が可能な各種セラミックス材料粉末を用いることができ、特に限定されない。無機材料(A)の具体例としては、アルミナ、ジルコニア、ムライト、酸化チタン、コーディエライト、フォルステライト、ステアタイト、マグネシア、カルシア、シリカ、フェライト、チタン酸アルミニウムなどの酸化物、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン(WC)などの炭化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ホウ素などの窒化物、ホウ化チタンなどのホウ化物、炭窒化チタンなどの炭窒化物、ガラス粉末、ガラスビーズ、粘土等の可塑性天然原料などが挙げられる。これらはいずれか一種で用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
[微細繊維状セルロース(B)]
微細繊維状セルロース(B)としては、(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下であり、(b)平均アスペクト比が10以上1000以下であり、(c)セルロースI型結晶構造を有し、かつ、(d)アニオン性官能基を有するものが用いられる。
【0017】
上記(a)のように微細繊維状セルロースの数平均繊維径は3~100nmであり、そのため微細繊維状セルロースはセルロースナノファイバーとも称される。微細繊維状セルロースの数平均繊維径は、より好ましくは3~50nmであり、更に好ましくは3~30nmである。
【0018】
ここで、微細繊維状セルロースの数平均繊維径は、次のようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05~0.1質量%の微細繊維状セルロースの水分散体を調製し、その水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。また、観察用試料は、例えば2%ウラニルアセテートでネガティブ染色してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径の相加平均を数平均繊維径とする。
【0019】
上記(b)のように微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は10~1000であり、数平均繊維径とともにこのような平均アスペクト比を持つものを用いることにより、流動性と保水性の両立効果を高めることができると考えられる。微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、例えば50以上でもよく、100以上でもよく、800以下でもよく、500以下でもよい。
【0020】
ここで、微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、次のようにして測定することができる。すなわち、先に述べた方法に従い数平均繊維径を算出するとともに、同様の観察画像から微細繊維状セルロースの数平均繊維長を算出し、これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式に従い算出する。
平均アスペクト比=数平均繊維長(nm)/数平均繊維径(nm)
【0021】
上記(c)のように微細繊維状セルロースとしては、水不溶性の観点から、セルロースI型結晶構造を有するものが用いられる。セルロースI型結晶は天然セルロースの結晶形である。そのため、微細繊維状セルロース(B)は、天然セルロース由来の結晶構造を持つ水不溶性繊維であり、従来のバインダー成分として添加されている水溶性セルロース誘導体とは異なる。
【0022】
微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0023】
上記(d)のように微細繊維状セルロースとしてはアニオン性官能基を有するものが用いられる。アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、カルボキシル基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念である。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念である。
【0024】
一実施形態において、アニオン性変性基としてはカルボキシル基が好ましい。カルボキシル基を含有する微細繊維状セルロースとしては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる微細繊維状酸化セルロースや、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなる微細繊維状カルボキシメチル化セルロースが挙げられる。
【0025】
好ましい実施形態に係る微細繊維状酸化セルロースとしては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性されたものが挙げられる。微細繊維状酸化セルロースは、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化された微細繊維状セルロースは、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバーと称されており、本実施形態でも使用することができる。なお、微細繊維状酸化セルロースは、カルボキシル基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよいが、アルデヒド基及びケトン基を実質的に有していないことが好ましい。
【0026】
微細繊維状セルロースにおけるアニオン性官能基の含有量は、特に限定されず、微細繊維状セルロースの乾燥質量あたり、例えば1.2~2.2mmol/gでもよく、1.2~2.0mmol/gでもよく、1.6~2.0mmol/gでもよい。アニオン性官能基の含有量は、例えば、カルボキシル基の場合、乾燥質量を精秤したセルロース試料から0.5~1質量%スラリーを60mL調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン基についても公知の方法で測定すればよい。
アニオン性官能基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロース試料質量(g)〕
【0027】
微細繊維状セルロースは、解繊処理を行うことにより得られる。解繊処理は、アニオン性官能基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理としては、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の水分散液を処理することにより行うことができ、微細繊維状セルロースの水分散液を得ることができる。
【0028】
微細繊維状セルロース(B)の含有量は、100質量部の無機材料(A)に対して、0.05~0.5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~0.4質量部である。
【0029】
[水(C)]
水(C)は、無機材料(A)を押出成形可能な粘土状(即ち、可塑性原料)にするために添加されるものである。押出成形用組成物における水(C)の含有量は、特に限定されないが、100質量部の無機材料(A)に対して、5~50質量部であることが好ましく、より好ましくは10~30質量部である。
【0030】
[バインダー成分(D)]
バインダー成分(D)としては、特に限定されず、無機材料(A)の結合剤として作用する各種水溶性高分子を用いることができる。具体的には、アルキルセルロース(例えばメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロースなど)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメトキシセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性セルロース、小麦粉などが挙げられる。また、市販のセラミックス成形用バインダーを用いることができる。具体的には、ユケン工業株式会社製のYB-3N、YB-131D、YB-167、YB-152A、YB-132Aなどが挙げられる。
【0031】
バインダー成分(D)の含有量は、特に限定されず、100質量部の無機材料(A)に対して、1~30質量部でもよく、流動性と保形性の観点から好ましくは2~20質量部である。
【0032】
[押出成形用組成物]
本実施形態に係る押出成形用組成物には、上記成分(A)~(D)の他、本実施形態の効果を阻害しない範囲において、例えば、可塑剤、焼結助剤、有機溶媒、増粘剤、潤滑剤、無機塩、粘土などの可塑性天然原料などの添加剤を更に添加してもよい。
【0033】
本実施形態に係る押出成形用組成物は、混練機を用いて上記成分(A)~(D)を混練することにより得ることができる。得られた押出成形用組成物の硬度は、特に限定されるものではないが、10以上であることが好ましく、より好ましくは10~14であり、更に好ましくは11~13である。硬度が10以上であることにより、押出成形機での適度な操作性が得られ、所望の形状に成形することができる。また、押出成形された押出成形用組成物は、保形され、成形状態を維持することができる。
【0034】
ここで、押出成形用組成物の硬度は、NGK式硬度計により測定される。すなわち、得られた押出成形用組成物について、NGK式硬度計の探針の先端部を垂直に押し当て、得られた値を硬度とする。
【0035】
[押出成形体の製造方法]
本実施形態に係る押出成形体の製造方法は、上記の無機材料(A)、微細繊維状セルロース(B)、水(C)及びバインダー成分(D)、並びに必要に応じて任意の添加剤を、混練機を用いて混練して押出成形用組成物を調製した後、得られた押出成形用組成物を押出機により押出成形して、押出成形体を製造するものである。
【0036】
混練後の押出成形用組成物は、常法に従い脱気してから押出機に投入して押出成形してもよい。押出成形後に乾燥して水を蒸発させてもよい。得られた押出成形体は、所定の大きさに切断された後、常法に従い焼成することにより、セラミックス製品が得られる。
【0037】
[効果]
本実施形態に係る押出成形用組成物であると、押出成形時に口金を通過する際に成形圧の上昇が抑えられ、また口金を通過した後の成形体強度を高めることができるため、流動性と保形性の相反する性能を両立できる。そのため、量産性に優れるとともに、ハニカム構造体、パイプまたは棒状構造物などの様々な形状の成形体を提供することができ、例えば、自動車用排ガス除去フィルター、碍子、グラファイト電極、タイル、透光性アルミナ管、絶縁基板、電気又は磁気セラミックス、機能性繊維などの各種セラミックス製品の成形に利用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0039】
下記表1に示す配合に従い、実施例1~8及び比較例1~5の押出成形用組成物(坏土)を調製した。詳細には、無機材料、セルロース水分散体、水、及びバインダー成分を表1の配合に従い秤量し、高速ミキサー(宮崎鉄工株式会社製)により、室温で1分間撹拌混合を行った。得られた混合物を、宮崎鉄工(株)製の混錬真空押出成形機FM-P30の上部混錬部に適量を通して混錬し、押出成形用組成物を得た。
【0040】
表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
・無機材料(A1):アルミナ、住友化学(株)製「AES-11」
・無機材料(A2):部分安定化ジルコニア、第一稀元素工業(株)製「HSY-3.0」
・セルロース水分散体(B1):TEMPO酸化微細繊維状セルロースの2質量%分散体
・セルロース水分散体(B2):TEMPO酸化微細繊維状セルロースの2質量%分散体
・セルロース水分散体(B3):TEMPO酸化微細繊維状セルロースの2質量%分散体
・セルロース水分散体(B4):TEMPO酸化未解繊セルロース繊維の2質量%分散体
・セルロース水分散体(B5):結晶性のないセルロースの2質量%水分散体
・セルロース水分散体(B6):未変性セルロース、ダイセルファインセル(株)製「セリッシュKY100G」(セルロース繊維を機械粉砕して微細化した未変性の微細繊維状セルロース、10質量%水分散体、数平均繊維径=100nm、平均アスペクト比=5000)を水で2質量%に希釈したもの
・セルロース系バインダー:メチルセルロース、信越化学工業(株)製「メトローズ」
・有機系バインダー:市販セラミックス成形用バインダー、ユケン工業(株)製「YB-131D」
【0041】
セルロース水分散体(B1)~(B4)は以下の方法により調製した。
【0042】
[セルロース水分散体(B1)の製造]
まず、針葉樹パルプ2gに、水150mlと、臭化ナトリウム0.25gと、TEMPO0.025gとを加え、充分撹拌して分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が12.0mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。続いて、遠心分離機で固液分離した後、精製水を加えて固形分濃度4質量%に調整した。その後、24%NaOH水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃としてNaBH4を0.3g(0.2mmol/g)を加え2時間反応させることにより還元処理した。反応後、1MのHClを添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、セルロース繊維を得た。次に、上記セルロース繊維に純水と水酸化ナトリウムを適量加えて2質量%に希釈し、高圧ホモジナイザー(H11、三和エンジニアリング社製)を用いて圧力100MPaで1回処理し、セルロース水分散体(B1)を得た。後述する方法で測定したところ、得られたセルロース水分散体(B1)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースのカルボキシル基の含有量は1.98mmol/g、カルボニル基の含有量は0.10mmol/gであり、一方、アルデヒド基の検出は認められなかった。セルロース水分散体(B1)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースの数平均繊維径は4nm、平均アスペクト比は280であった。該変性微細繊維状セルロースが含有するセルロースの結晶構造を広角X線回折像測定により確認したところ、I型結晶構造が「あり」であった。また、酸化前のセルロースの13C-NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れていた。よって、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることが確認された。
【0043】
[セルロース水分散体(B2)の製造]
添加する次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.2mmol/gとした以外は、セルロース水分散体(B1)と同様の手法で酸化し、還元、精製した。次に、上記セルロース繊維に純水と水酸化ナトリウムを適量加えて2質量%に希釈し、高圧ホモジナイザー(H11、三和エンジニアリング社製)を用いて圧力100MPaで1回処理し、セルロース水分散体(B2)を得た。後述する方法で測定したところ、得られたセルロース水分散体(B2)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースのカルボキシル基の含有量は1.97mmol/g、カルボニル基の含有量は0.10mmol/gであり、一方、アルデヒド基の検出は認められなかった。セルロース水分散体(B2)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースの数平均繊維径は89nm、平均アスペクト比は92であった。該変性微細繊維状セルロースが含有するセルロースの結晶構造を広角X線回折像測定により確認したところ、I型結晶構造が「あり」であった。また、酸化前のセルロースの13C-NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れていた。よって、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることが確認された。
【0044】
[セルロース水分散体(B3)の製造]
酸化及び還元処理後のセルロース繊維の分散工程において、水酸化ナトリウムに代えてトリエタノールアミンを適量用いること以外は、セルロース水分散体(B1)の製造と同様にして、セルロース水分散体(B3)を得た。
【0045】
後述する方法で測定したところ、得られたセルロース水分散体(B3)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースのカルボキシル基の含有量は1.97mmol/g、カルボニル基の含有量は0.10mmol/gであり、一方、アルデヒド基の検出は認められなかった。セルロース水分散体(B3)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースの数平均繊維径は6nm、平均アスペクト比は245であった。該変性微細繊維状セルロースが含有するセルロースの結晶構造を広角X線回折像測定により確認したところ、I型結晶構造が「あり」であった。また、酸化前のセルロースの13C-NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れていた。よって、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることが確認された。
【0046】
[セルロース水分散体(B4)の製造]
添加する次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が4.1mmol/gとした以外は、セルロース水分散体(B1)と同様の手法で酸化、還元後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化された未解繊のセルロース繊維を含むセルロース水分散体(B4)を得た。後述する方法で測定したところ、得られたセルロース水分散体(B4)が含有するアニオン変性の未解繊のセルロース繊維のカルボキシル基の含有量は1.0mmol/g、カルボニル基の含有量は0.10mmol/gであり、一方、アルデヒド基の検出は認められなかった。セルロース水分散体(B4)が含有するアニオン変性の未解繊のセルロース繊維の数平均繊維径は182nm、平均アスペクト比は77であった。該変性未解繊のセルロース繊維が含有するセルロースの結晶構造を広角X線回折像測定により確認したところ、I型結晶構造が「あり」であった。また、酸化前のセルロースの13C-NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmに、カルボキシル基に由来するピークが現れていた。よって、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることが確認された。
【0047】
[セルロース水分散体(B5)の製造]
原料を針葉樹パルプに替えて再生セルロースを使用し、添加する次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、再生セルロース1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が27.0mmol/gとした以外は、セルロース水分散体(B1)と同様の手法で、セルロース水分散体(B5)を作製した。得られたセルロース水分散体(B5)は、数平均繊維径は測定不可能(1nm以下)で、カルボキシル基量3.1mmol/gであり、結晶構造を有していなかった。
【0048】
製造したアニオン変性の微細繊維状セルロースを試料として、下記のようにして各特性を測定した。
【0049】
[カルボキシル基量の測定]
試料0.25gを水に分散させた水分散体60mlを調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行った。測定はpHが約11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記の式(1)に従いカルボキシル基量を求めた。
カルボキシル基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロース試料質量(g)〕 …(1)
【0050】
[カルボニル基量の測定(セミカルバジド法)]
試料を約0.2g(乾燥質量)精秤し、これに、リン酸緩衝液によってpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうした。次いで、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸を25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液を5ml加え、10分間撹拌した。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加えて、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記の式(2)に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めた。
カルボニル基量(mmol/g)=(D-B)×f×〔0.125/w〕 …(2)
D:サンプルの滴定量(ml)
B:空試験の滴定量(ml)
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター(-)
w:試料量(g)
【0051】
[アルデヒド基の検出]
試料を0.4g精秤し、日本薬局方に従って調製したフェーリング試薬(酒石酸ナトリウムカリウム及び水酸化ナトリウムの混合溶液5mlと、硫酸銅五水和物水溶液5mlと)を加えた後、80℃で1時間加熱した。そして、上澄みが青色、試料部分(固形分)が紺色を呈するものは、アルデヒド基が検出されなかったと判断し、「なし」と評価した。また、上澄みが黄色、試料部分が赤色を呈するものは、アルデヒド基が検出されたと判断し、「あり」と評価した。
【0052】
[数平均繊維径]
アニオン変性の微細繊維状セルロースの数平均繊維径を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM-1400)を用いて観察した。すなわち、試料を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテート水溶液でネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、数平均繊維径を算出した。
【0053】
[平均アスペクト比]
アニオン変性の微細繊維状セルロースの平均アスペクト比を、以下のようにして測定した。すなわち、試料を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2質量%ウラニルアセテート水溶液でネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、アニオン変性の微細繊維状セルロースの短い方の幅(短幅)の数平均幅、及び、長い方の幅(長幅)の数平均幅を観察し、これらの値から、先に述べた方法に従い、平均アスペクト比を算出した。
【0054】
[結晶構造]
X線回折装置(リガク社製、RINT-Ultima3)を用いて、試料の回折プロファイルを測定し、2シータ=14~17°付近と、2シータ=22~23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「あり」と評価し、ピークが見られない場合は「なし」と評価した。
【0055】
[C6位に対する選択的な酸化]
試料表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基等に酸化されているかどうかについて、13C-NMRチャートで確認した。
【0056】
得られた各押出成形用組成物について硬度を測定した。また、各押出成形用組成物を用いて押出成形を行い、その際の成形圧を測定するとともに、得られた成形体を乾燥した後の3点曲げ強度を測定した。
【0057】
これらの測定方法は以下の通りである。
・硬度:日本ガイシ(株)製のNGK式硬度計により測定した。得られた各押出成形用組成物について、NGK式硬度計の探針の先端部を垂直に押し当て、測定箇所は3点取り、測定値の平均値を硬度とした。
・成形圧:押出機として株式会社島津製作所製オートグラフAGS-10Kを用い、ヘッドスピード約40mm/分の低速成形で、直径30mmのシリンダーより厚み4.0mmのシート状の成形体を押出成形した時の全荷重を測定した。
・3点曲げ強度:上記押出成形により得られた厚み4.0mmの成形体をバッチ乾燥機にて105℃×60分間乾燥した後に、JIS R1601に準じて万能試験機(オートグラフAG-500D、(株)島津製作所)により3点曲げ強度を測定した。
【0058】
【0059】
結果は表1に示す通りである。セルロース繊維を添加していないコントロールである比較例1に対し、アニオン変性の微細繊維状セルロース(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)を添加した実施例1~8であると、成形圧の大幅の上昇を抑えながら、硬度を向上し、かつ3点曲げ強度を向上させることができた。
【0060】
また、機械粉砕の未変性セルロースを添加した比較例2と、同量のアニオン変性セルロース繊維を添加した実施例3とを対比したところ、3点曲げ強度については、未変性セルロース添加の比較例2よりも、アニオン変性の微細繊維状セルロース添加の実施例3の方が、向上効果が大きかった。その一方で、成形圧については、アニオン変性の微細繊維状セルロース添加の実施例3よりも、未変性セルロース添加の比較例2の方が、大きく上昇した。成形圧が高い方が流動性は低下するので、上記結果から、アニオン変性の微細繊維状セルロースは未変性セルロースよりも成形体強度を高める効果が高く、かつ粘度上昇量が低い結果が得られた。よって、アニオン変性の微細繊維状セルロースは、ハニカム等の薄物成形に適している有機添加物であるといえる。
【0061】
比較例3は、未解繊のTEMPO酸化セルロース繊維を添加したものであり、坏土中に未解繊物が不均一に存在するため成形不可であった。また、比較例4は、結晶性のないセルロースを添加したものであり、硬度及び3点曲げ強度の向上効果は得られなかった。比較例5は、バインダー成分を配合していないため、坏土が脆く、成形不可であった。
【0062】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。