(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】T細胞リンパ腫の検査方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20220506BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20220506BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220506BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12Q1/6869 Z
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2020006020
(22)【出願日】2020-01-17
(62)【分割の表示】P 2014191287の分割
【原出願日】2014-09-19
【審査請求日】2020-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小川 誠司
(72)【発明者】
【氏名】永田 安伸
(72)【発明者】
【氏名】片岡 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】下田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】北中 明
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】Blood,2014年,Vol.123, No.13,pp.2034-2043
【文献】Blood,2005年,Vol.105,pp.3768-3785
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者から採取された検体について、PLCG1遺伝子の配列番号5に記載のアミノ酸配列における、
48番目のアルギニンのトリプトファンへの置換(R48W)、1163番目のグルタミン酸のリジンへの置換(E1163K)、および1165番目のアスパラギン酸のヒスチジンへの置換(D1165H)より選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子の変異を検出する工程を含む、ATL(成人T細胞白血病/リンパ腫)の検査を補助する方法。
【請求項2】
さらに
CARD11遺伝子、GATA3遺伝子およびIRF4遺伝子から選択される1又は2以上の遺伝子の変異であって、以下の(1)~(
3)に示すいずれか
1以上の変異を検出する工程を含む、請求項1に記載の検査を補助する方法:
(1)CARD11遺伝子の変異が、配列番号9に記載のアミノ酸配列における626番目の
グルタミン酸のリジンへの置換(E626K)をもたらす遺伝子のミスセンス変異;
(2)GATA3遺伝子の変異が、エクソン2のスプライス部位変異をもたらす遺伝子変異;
(3)IRF4遺伝子の変異が、配列番号13に記載のアミノ酸配列における59番目
のリジンのアルギニンへの置換(K59R)および70番目のロイシンのバリンへの置換(L70V)に示す各アミノ酸より選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子のミスセンス変異
。
【請求項3】
さらにCARD11遺伝子
において、配列番号9に記載のアミノ酸配列における、357番目のアスパラギン酸のアスパラギンへの置換(D357N)、357番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換(D357G)、361番目のチロシンのシステインへの置換(Y361C)、361番目のチロシンのセリンへの置換(Y361S)、401番目のアスパラギン酸のアスパラギンへの置換(D401N)、401番目のアスパラギン酸のバリンへの置換(D401V)、615番目のセリンのフェニルアラニンへの置換(S615F)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異を検出する工程を含む、請求項1
または2に記載の検査を補助する方法。
【請求項4】
さらにCCR7遺伝子
において、配列番号7に記載のアミノ酸配列における、349番目のグルタミンの終止コドンへの変換(Q349X)、351番目のグルタミンの終止コドンへの変換(Q351X)、および355番目のトリプトファンの終止コドンへの変換(W355X)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異
を検出する工程を含む、請求項
1~3のいずれかに記載の検査を補助する方法。
【請求項5】
さらにVAV1遺伝子
において、配列番号19に記載のアミノ酸配列における、174番目のチロシンのシステインへの置換(Y174C)、175番目のグルタミン酸のバリンへの置換(E175V)、404番目のリジンのアルギニンへの置換(K404R)、556番目のグルタミン酸のア
スパラギン酸への置換(E556D)、556番目のグルタミン酸のリジンへの置換(E556K)、798番目のアルギニンのプロリンへの置換(R798P)、798番目のアルギニンのグルタミンへの置換(R798Q)、および822番目のアルギニンのグルタミンへの置換(R822Q)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異
を検出する工程を含む、請求項
1~4のいずれかに記載の検査を補助する方法。
【請求項6】
さらにGATA3遺伝子
において、配列番号11に記載のアミノ酸配列における63番目のチロシンの終止コドンへの変換(Y63X)、および96番目のトリプトファンの終止コドンへの変換(W96X)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異
を検出する工程を含む、請求項
1~5のいずれかに記載の検査を補助する方法。
【請求項7】
さらにIRF4遺伝子
において、配列番号13に記載のアミノ酸配列における、114番目のセリンのアルギニンへの置換(S114R)、および114番目のセリンのアスパラギンへの置換(S114N)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異
を検出する工程を含む、請求項
1~6のいずれかに記載の検査を補助する方法。
【請求項8】
さらにHNRNPA2B1遺伝子
において、配列番号17に記載のアミノ酸配列における322番目のグリシンのアルギニンへの置換(G322R)、配列番号、322番目のグリシンの終止コドンへの変換(G322X)およびエクソン10のスプライス部位変異より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異
を検出する工程を含む、請求項
1~7のいずれかに記載の検査を補助する方法。
【請求項9】
さらにPLCG1遺伝子において、配列番号5に記載のアミノ酸配列における345番目のセリンのフェニルアラニンへの置換(S345F)、520番目のセリンのフェニルアラニンへの置換(S520F)、748番目のアルギニンのシステインへの置換(R748C)、748番目のアルギニンのグリシンへの置換(R748G)、1016番目のグルタミンのロイシンへの置換(Q1016L)、1016番目のグルタミンのアルギニンへの置換(Q1016R)、1165番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換(D1165G)、および1165番目のアスパラギン酸のバリンへの置換(D1165V)より選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子の変異を検出する工程を含む、請求項1~8のいずれかに記載の検査を補助する方法。
【請求項10】
さらにPRKCB遺伝子およびCCR4遺伝子の各遺伝子変異を検出する工程を含み、前記PRKCB遺伝子の変異が、以下のa)又はb)であり、前記CCR4遺伝子の変異がc)に示す遺伝子変異である、請求項1~
9のいずれかに記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法:
a)PRKCB遺伝子の変異が、IκBキナーゼのリン酸化を亢進する変異型PRKCBをもたらす遺伝子変異;
b)PRKCB遺伝子の変異が、NF-κB転写活性を増加する変異型PRKCBをもたらす遺伝子変異;
c)CCR4遺伝子の変異が、CCR4の発現上昇をもたらす遺伝子変異。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な分子診断法であるT細胞リンパ腫の検査方法、および、T細胞リンパ腫の分子病態に基づくT細胞リンパ腫の治療剤をスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞リンパ腫は、非ホジキンリンパ腫の一部であり、分類不能末梢性T細胞リンパ腫(Peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified: PTCL-NOS)や成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma: ATL)など様々な病型を含む疾患群である。中でも、ATLは、HTLV-1ウイルス感染により生じるリンパ腫であり、極めて予後不良な疾患であることが知られている。HTLV-1ウイルス感染からATL発症までは潜伏期間が長く、またATL発症時にはHTLV-1ウイルスのコードするタンパク質Taxが不活化されている。これらのことから、ATL発症にはHTLV-1ウイルス感染後に獲得される体細胞変異が関連していると考えられている。しかしながら、ATLを含むT細胞リンパ腫の遺伝学的基盤の全体像は、ほとんど解明されていない。
【0003】
現在、T細胞リンパ腫の診断は、リンパ節の腫脹等の症状や徴候が認められT細胞リンパ腫を疑う場合に、リンパ節生検による病理診断およびフローサイトメトリーにより、行われている。さらにATLは、HTLV-1抗体検査やサザンブロットによりHLTV-1組み込みを確認することにより診断が行われている。T細胞リンパ腫は、従来の化学療法に抵抗性を持つ疾患であり、根治療法は造血幹細胞移植に限られている。しかしながら造血幹細胞移植は、治療関連死亡例が多い治療法であり、高齢者や合併症を持つ患者には適応にならない。またATLの治療は、抗癌剤による化学療法や、造血幹細胞移植などから選択される。最近、新たにCCケモカイン受容体4(CCR4)に対する抗CCR4抗体薬が、CCR4陽性のATLを適応症として承認された。しかしながらATLを中心とするT細胞リンパ腫の治療法は限られているのが現状であり、T細胞リンパ腫の分子病態を理解し、病態特異的な治療法を開発することが切望されている。
【0004】
ATLについて、SHP1遺伝子等のプロモータ領域におけるCpG島のメチル化状態を測定することにより、診断や予後予測を行うことができることが報告されている(特許文献1および特許文献2)。また、T細胞リンパ腫の網羅的な遺伝学的解析として、PTCL-NOSおよび血管免疫芽球型T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma : AITL)において、網羅的な遺伝子解析を行った結果、RHOA遺伝子変異が高頻度に認められることが本発明者らにより報告されている(非特許文献1:Nat Genet. 2014;46(2):166-70、非特許文献2:Nat Genet. 2014;46(2):171-5、非特許文献3:Nat Genet. 2014;46(4):371-5)。また、ATLの遺伝学的解析として、個々の遺伝子のシーケンスによりTP53遺伝子(非特許文献4:Blood. 1992;79(2):477-80)やFAS遺伝子(非特許文献5:Blood. 1998;91(10):3935-42.)、NOTCH1遺伝子(非特許文献6:Proc Natl Acad Sci U S A. 2010;107(38):16619-24.)、JAK3遺伝子(非特許文献7:Blood. 2011 Oct 6;118(14):3911-21)の遺伝子変異があること、遺伝子のコピー数解析によりCDKN2A遺伝子(非特許文献8:J Clin Oncol. 1997;15(5):1778-85)やZEB1遺伝子(非特許文献9:Blood. 2008;112(2):383-93)、NDRG2遺伝子(非特許文献10:Nat Commun. 2014;5:3393)、miR-31(非特許文献11:Cancer Cell. 2012;21(1):121-35)の欠失、CARD11遺伝子やBCL11B遺伝子の増幅(非特許文献12:Blood. 2006;107(11):4500-7)があることなどが報告されている。
【0005】
上記報告例では、少数のPTCL-NOSやAITLの症例について遺伝子解析が行われており、個々の症例に依存した遺伝子異常は検出されたものの、T細胞リンパ腫の遺伝子異常の全体像は不明なままである。また、同定されている遺伝子異常の多くは、機能的意義が未解明のままであり、分子病態の理解や病態特異的な治療法の開発にまで結びついていない。T細胞リンパ腫の遺伝子異常の全体像を明らかにするために、多数の症例を用いた網羅的な遺伝子解析が望まれるが、実現はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-244377号公報
【文献】特開2009-254357号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nat Genet. 2014;46(2):166-70
【文献】Nat Genet. 2014;46(2):171-5
【文献】Nat Genet. 2014;46(4):371-5
【文献】Blood. 1992;79(2):477-80
【文献】Blood. 1998;91(10):3935-42
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A. 2010;107(38):16619-24
【文献】Blood. 2011 Oct 6;118(14):3911-21
【文献】J Clin Oncol. 1997;15(5):1778-85
【文献】Blood. 2008;112(2):383-93
【文献】Nat Commun. 2014;5:3393
【文献】Cancer Cell. 2012;21(1):121-35
【文献】Blood. 2006;107(11):4500-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、T細胞リンパ腫の分子病態を明らかにし、新たなT細胞リンパ腫の検査方法および治療標的を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、350例を超える症例についてT細胞リンパ腫の検体を用いて、高頻度に生じる遺伝子異常を網羅的に解析したところ、T細胞リンパ腫の検体では、PRKCB遺伝子およびCCR4遺伝子を初めとする35種の遺伝子において高頻度の遺伝子変異が検出されることに着目し、特にPRKCB遺伝子およびCCR4遺伝子の少なくとも1つ以上の遺伝子について、遺伝子変異を検出することにより、T細胞リンパ腫についての検査が可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.被検者から採取された検体について、PLCG1遺伝子、CARD11遺伝子、CCR7遺伝子、VAV1遺伝子、GATA3遺伝子、IRF4遺伝子およびHNRNPA2B1遺伝子の少なくとも1つ以上の遺伝子の変異を検出する工程を含む、T細胞リンパ腫の検査を補助する方法。
2.各遺伝子の変異が、以下の(1)~(7)に示す遺伝子変異である、前項1に記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法:
(1)PLCG1遺伝子の変異が、配列番号5に記載のアミノ酸配列における48番目、345番目、520番目、748番目、1016番目、1163番目、および1165番目に示す各アミノ酸より選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子のミスセンス変異;
(2)CARD11遺伝子の変異が、配列番号9に記載のアミノ酸配列における357番目、361番目、401番目、615番目、および626番目に示す各アミノ酸より選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子のミスセンス変異;
(3)CCR7遺伝子の変異が、配列番号7に記載のアミノ酸配列における332~378番目のC末端領域における少なくとの1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子のナンセンス変異またはフレームシフト変異;
(4)VAV1遺伝子の変異が、配列番号19に記載のアミノ酸配列における174番目、175番目、404番目、556番目、798番目、および822番目に示す各アミノ酸より選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子のミスセンス変異;
(5)GATA3遺伝子の変異が、配列番号11に記載のアミノ酸配列における63番目、96番目のアミノ酸を終止コドンへの変換、およびエクソン2のスプライス部位変異より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異;
(6)IRF4遺伝子の変異が、配列番号13に記載のアミノ酸配列における59番目、70番目、および114番目に示す各アミノ酸より選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子のミスセンス変異;
(7)HNRNPA2B1遺伝子の変異が、配列番号17に記載のアミノ酸配列におけるエクソン10のスプライス部位変異をもたらす遺伝子変異、および322番目のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子の変異、の少なくとも1つ以上の遺伝子変異。
3.PLCG1遺伝子の変異が、配列番号5に記載のアミノ酸配列における、48番目のアルギニンのトリプトファンへの置換(R48W)、345番目のセリンのフェニルアラニンへの置換(S345F)、520番目のセリンのフェニルアラニンへの置換(S520F)、748番目のアルギニンのシステインへの置換(R748C)、748番目のアルギニンのグリシンへの置換(R748G)、1016番目のグルタミンのロイシンへの置換(Q1016L)、1016番目のグルタミンのアルギニンへの置換(Q1016R)、1163番目のグルタミン酸のリジンへの置換(E1163K)、1165番目のアスパラギン酸のヒスチジンへの置換(D1165H)、1165番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換(D1165G)、および1165番目のアスパラギン酸のバリンへの置換(D1165V)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である、前項1又は2に記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法。
4.CARD11遺伝子の変異が、配列番号9に記載のアミノ酸配列における、357番目のアスパラギン酸のアスパラギンへの置換(D357N)、357番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換(D357G)、361番目のチロシンのシステインへの置換(Y361C)、361番目のチロシンのセリンへの置換(Y361S)、401番目のアスパラギン酸のアスパラギンへの置換(D401N)、401番目のアスパラギン酸のバリンへの置換(D401V)、615番目のセリンのフェニルアラニンへの置換(S615F)、626番目のグルタミン酸のリジンへの置換(E626K)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である、前項1又は2に記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法。
5.CCR7遺伝子の変異が、配列番号7に記載のアミノ酸配列における、349番目のグルタミンの終止コドンへの変換(Q349X)、351番目のグルタミンの終止コドンへの変換(Q351X)、および355番目のトリプトファンの終止コドンへの変換(W355X)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である、前項1又は2に記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法。
6.VAV1遺伝子の変異が、配列番号19に記載のアミノ酸配列における、174番目のチロシンのシステインへの置換(Y174C)、175番目のグルタミン酸のバリンへの置換(E175V)、404番目のリジンのアルギニンへの置換(K404R)、556番目のグルタミン酸のアルパラギン酸への置換(E556D)、556番目のグルタミン酸のリジンへの置換(E556K)、798番目のアルギニンのプロリンへの置換(R798P)、798番目のアルギニンのグルタミンへの置換(R798Q)、および822番目のアルギニンのグルタミンへの置換(R822Q)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である、前項1又は2に記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法。
7.GATA3遺伝子の変異が、配列番号11に記載のアミノ酸配列における63番目のチロシンの終止コドンへの変換(Y63X)、エクソン2のスプライス部位の変異、および96番目のトリプトファンの終止コドンへの変換(W96X)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である、前項1又は2に記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法。
8.IRF4遺伝子の変異が、配列番号13に記載のアミノ酸配列における、59番目のリジンのアルギニンへの置換(K59R)、70番目のロイシンのバリンへの置換(L70V)、114番目のセリンのアルギニンへの置換(S114R)、および114番目のセリンのアスパラギンへの置換(S114N)より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である、前項1又は2に記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法。
9.HNRNPA2B1遺伝子の変異が、配列番号17に記載のアミノ酸配列における322番目のグリシンのアルギニンへの置換(G322R)、配列番号、322番目のグリシンの終止コドンへの変換(G322X)およびエクソン10のスプライス部位変異より選択される少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である、前項1又は2に記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法。
10.被検者から採取された検体について、PLCG1遺伝子の変異に加えて、さらにPRKCB遺伝子およびCCR4遺伝子の各遺伝子変異を検出する工程を含む、前項1~3のいずれかに記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法。
11.PRKCB遺伝子の変異が、以下のa)またはb)であり、CCR4遺伝子の変異がc)に示す遺伝子変異である、前項10に記載のT細胞リンパ腫の検査を補助する方法:
a)PRKCB遺伝子の変異が、IκBキナーゼのリン酸化を亢進する変異型PRKCBをもたらす遺伝子変異;
b)PRKCB遺伝子の変異が、NF-κB転写活性を増加する変異型PRKCBをもたらす遺伝子変異;
c)CCR4遺伝子の変異が、CCR4の発現上昇をもたらす遺伝子変異。
【発明の効果】
【0011】
本発明の検査方法により、T細胞リンパ腫を容易かつ効果的に検査することができ、T細胞リンパ腫の診断、T細胞リンパ腫の病態や病型の分類、T細胞リンパ腫の予後予測などに有用な情報を得ることができる。さらに、遺伝子のコピー数異常、染色体の特定の領域の欠失を確認して情報を得ることにより、T細胞リンパ腫の検査を高精度で行うことができる。また本発明のスクリーニング方法によれば、新たなT細胞リンパ腫の治療剤を提供することができ、予後不良の病態に対する治療剤もスクリーニングが可能となる。
【0012】
本発明においては、T細胞リンパ腫の遺伝学的基盤の全体像を明らかにし、T細胞リンパ腫の治療標的および診断マーカーとなり得る遺伝子異常が複数同定することができた。本発明は、従来の報告例と比較して多数の解析対象症例について遺伝子変異を検出したことに基づくものであり、臨床的に有用性の高いものと考えられる。具体的には、本発明において新たにPLCG1遺伝子、PRKCB遺伝子、CCR4遺伝子、CCR7遺伝子、CARD11遺伝子、RHOA遺伝子、IRF4遺伝子、GATA3遺伝子、CD58遺伝子、POT1遺伝子、GPR183遺伝子、HNRNPA2B1遺伝子の遺伝子変異が、高頻度に認められることを見出した。特に、PRKCB遺伝子、CCR4遺伝子、CCR7遺伝子、GPR183遺伝子、HNRNPA2B1遺伝子は他の腫瘍において遺伝子変異が報告されていない遺伝子であり、T細胞リンパ腫に特徴的な変異と考えられた。また、PRKCB遺伝子、PLCG1遺伝子、CCR4遺伝子、CCR7遺伝子、CARD11遺伝子、RHOA遺伝子、IRF4遺伝子では、遺伝子変異のホットスポットを同定しており、これら遺伝子は診断学的意義のみならず治療標的としても有望であると考えられる。加えて本発明において、病型毎に特徴的な遺伝子変異も同定することができ、予後予測にも有用であると考えられた。本発明においては、T細胞リンパ腫の分子病態を網羅的に明らかにし、さらに予後不良な病態を克服するための治療標的を多数得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】38例の患者の正常組織および腫瘍組織由来の検体について、全エクソーム解析を行った結果を示す図である。(実施例1(1))
【
図2】ATLとPTCL-NOSを含む355症例についての標的シーケンス解析により遺伝子変異の種類と頻度を同定した結果を示す図である。(実施例1(2))
【
図3-1】標的シーケンス解析により同定された遺伝子変異の分布を遺伝子ごとに表した図である。(実施例1(2))
【
図3-2】標的シーケンス解析により同定された遺伝子変異の分布を遺伝子ごとに表した図である。(実施例1(2))
【
図3-3】標的シーケンス解析により同定された遺伝子変異の分布を遺伝子ごとに表した図である。(実施例1(2))
【
図3-4】標的シーケンス解析により同定された遺伝子変異の分布を遺伝子ごとに表した図である。(実施例1(2))
【
図4】標的シーケンス解析により同定された遺伝子変異の頻度を表した図である。(実施例1(2))
【
図5】ATLの病型毎に変異頻度を解析した結果を示す図である。(実施例1(2))、
【
図6】SNPアレイ解析による遺伝子のコピー数異常を解析した結果を示す図である。(実施例1(3))
【
図7】全ゲノム解析による構造異常を解析した結果を示す図である。(実施例1(4))
【
図8】ウェスタンブロットにより変異型PRKCB(PRKCB D427N)がIKKのリン酸化およびIκBαのリン酸化を亢進させること、およびPRKCBの膜転移が亢進することを確認した結果を示す図である。(実施例2(1))
【
図9】ルシフェラーゼアッセイにより変異型PRKCB(PRKCB D427N)がNF-κB転写活性を増強させることを確認した結果を示す図である。(実施例2(1))
【
図10】フローサイトメトリーによりCCR4の発現とCCR4変異の有無の相関について検討した結果を示す図である。(実施例2(2))。
【
図11】CCR4 Y331X変異を導入することにより、CCR4の膜表面における発現が上昇すること、およびCCL22リガンドによる受容体の内在化が抑制されることを示す図である。(実施例2(2))
【発明を実施するための形態】
【0014】
T細胞リンパ腫は、リンパ系の悪性腫瘍である非ホジキンリンパ腫の一種である。非ホジキンリンパ腫には、B細胞リンパ腫とT細胞リンパ腫が含まれる。T細胞リンパ腫には、成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma: ATL)、分類不能末梢性T細胞リンパ腫(Peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified: PTCL-NOS)、血管免疫芽球型T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma: AITL)、前駆T細胞リンパ芽球性リンパ腫/白血病(Precursor T cell lymphoblastic lymphoma/leukemia: T-LBL)、慢性Tリンパ球性白血病/前駆リンパ球性白血病(T cell chronic lymphocytic leukemia/T-Prolymphocytic lymphoma: T-PLL)、T細胞大顆粒リンパ球性白血病(T-Cell Large Granular Lymphocyte Leukemia: T-LGL)、大顆粒NK細胞性白血病(NK-Cell Large Granular Lymphocyte Leukemia: NK-LGL)、血管中心性リンパ腫(Angiocentric Lymphoma)、腸管T細胞性リンパ腫(Intestinal T-Cell Lymphoma)、未分化大細胞(CD30陽性)リンパ腫(Anaplastic large Cell (CD30+) Lymphoma)、ホジキン様/ホジキン関連未分化大細胞リンパ腫(ALCL Hodgkin's-Like /Hodgkin's-related)、菌状息肉症(Mycosis fungoides)等が含まれる。本発明におけるT細胞リンパ腫は、好ましくはATLまたはPTCL-NOSである。
【0015】
成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma: ATL)は症状および臨床経過が多様であることが知られており、(1)急性型(Acute)、(2)リンパ腫型(Lymphoma)、(3)慢性型(Chronic)、(4)くすぶり型(Smoldering)の4つの病型に分けられる。(1)急性型は、血液中に花びらの形をした核をもつ異常リンパ球が出現し急速に増えていき、感染症や血液中のカルシウム値の上昇がみられることもあり、抗がん剤による早急な治療を必要とする。(2)リンパ腫型は、悪性化したリンパ球が主にリンパ節で増殖し、血液中に異常細胞が認められないが、急性型と同様に急速に症状が出現するために、早急に抗がん剤による治療を開始する必要がある。(3)慢性型は、血液中の白血球数が増加し、多数の異常リンパ球が出現するが、その増殖は速くなく、症状をほとんど伴わないものも多く、一般的には無治療で経過の観察が行われる。(4)くすぶり型は、白血球数は正常であるが、血液中に異常リンパ球が存在し、皮疹を伴うことがあり、多くの場合、無治療で長期間変わらず経過することが多いため、経過観察が行われる。急性型、リンパ腫型は比較的予後不良であり、慢性型、くすぶり型は比較的予後が良好であることが知られている。
【0016】
本発明の検査方法においては、PRKCB遺伝子およびCCR4遺伝子の2遺伝子の少なくとも1つ以上、好ましくは両方の遺伝子について、遺伝子変異を検出する工程が含まれる。より高精度にT細胞リンパ腫の検査を行うために、PRKCB遺伝子およびCCR4遺伝子の2遺伝子の少なくとも1つ以上の遺伝子に加えて、PLCG1遺伝子、CARD11遺伝子、CCR7遺伝子、およびSTAT3遺伝子の4遺伝子の少なくとも1つ以上、好ましくは少なくとも2つ以上、より好ましくは全ての遺伝子について、遺伝子変異を検出する工程が含まれることが好適である。さらに高精度にT細胞リンパ腫の検査を行うために、PRKCB遺伝子およびCCR4遺伝子の2遺伝子の少なくとも1つ以上と、PLCG1遺伝子、CARD11遺伝子、CCR7遺伝子、およびSTAT3遺伝子の4遺伝子の少なくとも1つ以上の遺伝子に加えて、TP53遺伝子、NOTCH1遺伝子、VAV1遺伝子、TBL1XR1遺伝子、GATA3遺伝子、IRF4遺伝子、FAS遺伝子、POT1遺伝子、RHOA遺伝子、IRF2BP2遺伝子、TET2遺伝子、HNRNPA2B1遺伝子、EP300遺伝子、CD58遺伝子、GPR183遺伝子、CSNK1A1遺伝子、CSNK2B遺伝子、FYN遺伝子、B2M遺伝子、CBLB遺伝子、CD28遺伝子、ZFP36L2遺伝子、CSNK2A1遺伝子、ATXN1遺伝子、SYNCRIP遺伝子、S1PR1遺伝子、RELA遺伝子、CDKN2A遺伝子、およびICOS遺伝子の29遺伝子の少なくとも1つ以上、好ましくは少なくとも2つ以上、より好ましくは少なくとも5つ以上、さらに好ましくは全ての遺伝子について、遺伝子変異を検出する工程が含まれることが好適である。
【0017】
上記各遺伝子についての配列情報は以下の通りである。
【表1】
【0018】
PRKCB遺伝子(Genbank Accession No. NM_002738:配列番号2)は、セリンスレオニン特異的タンパク質キナーゼであるプロテインキナーゼCに属するタンパク質をコードする遺伝子である。PRKCB遺伝子は、以下の配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号1(673aa):Genbank Accession No. NP_002729
1 MADPAAGPPP SEGEESTVRF ARKGALRQKN VHEVKNHKFT ARFFKQPTFC SHCTDFIWGF
61 GKQGFQCQVC CFVVHKRCHE FVTFSCPGAD KGPASDDPRS KHKFKIHTYS SPTFCDHCGS
121 LLYGLIHQGM KCDTCMMNVH KRCVMNVPSL CGTDHTERRG RIYIQAHIDR DVLIVLVRDA
181 KNLVPMDPNG LSDPYVKLKL IPDPKSESKQ KTKTIKCSLN PEWNETFRFQ LKESDKDRRL
241 SVEIWDWDLT SRNDFMGSLS FGISELQKAS VDGWFKLLSQ EEGEYFNVPV PPEGSEANEE
301 LRQKFERAKI SQGTKVPEEK TTNTVSKFDN NGNRDRMKLT DFNFLMVLGK GSFGKVMLSE
361 RKGTDELYAV KILKKDVVIQ DDDVECTMVE KRVLALPGKP PFLTQLHSCF QTMDRLYFVM
421 EYVNGGDLMY HIQQVGRFKE PHAVFYAAEI AIGLFFLQSK GIIYRDLKLD NVMLDSEGHI
481 KIADFGMCKE NIWDGVTTKT FCGTPDYIAP EIIAYQPYGK SVDWWAFGVL LYEMLAGQAP
541 FEGEDEDELF QSIMEHNVAY PKSMSKEAVA ICKGLMTKHP GKRLGCGPEG ERDIKEHAFF
601 RYIDWEKLER KEIQPPYKPK ACGRNAENFD RFFTRHPPVL TPPDQEVIRN IDQSEFEGFS
661 FVNSEFLKPE VKS
T細胞リンパ腫に関連するPRKCB遺伝子の変異は、少なくとも1つ以上のミスセンス変異であり、具体的には配列番号1に記載のアミノ酸配列における427番目のアミノ酸、470番目のアミノ酸、533番目のアミノ酸、546番目のアミノ酸、および630番目のアミノ酸の少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子変異である。PRKCB遺伝子における遺伝子変異は、より具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列における、427番目のアスパラギン酸のアスパラギン、グリシンまたはアラニンへの置換(D427N、D427G、またはD427A)、470番目のアミノ酸のヒスチジンへの置換(D470H)、533番目のグルタミン酸のリジンへの置換(E533K)、546番目のグルタミン酸のバリンへの置換(E546V)、および630番目のアスパラギン酸のアスパラギン、チロシン、グリシンへの置換(D630N、D630Y、D630G)の少なくとも1つ以上をもたらす変異である。
【0019】
CCR4遺伝子(Genbank Accession No. NM_005508:配列番号4)は、CCケモカイン受容体4(CCR4)をコードする遺伝子である。CCR4遺伝子は、以下の配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号3(360aa):Genbank Accession No. NP_005499
1 MNPTDIADTT LDESIYSNYY LYESIPKPCT KEGIKAFGEL FLPPLYSLVF VFGLLGNSVV
61 VLVLFKYKRL RSMTDVYLLN LAISDLLFVF SLPFWGYYAA DQWVFGLGLC KMISWMYLVG
121 FYSGIFFVML MSIDRYLAIV HAVFSLRART LTYGVITSLA TWSVAVFASL PGFLFSTCYT
181 ERNHTYCKTK YSLNSTTWKV LSSLEINILG LVIPLGIMLF CYSMIIRTLQ HCKNEKKNKA
241 VKMIFAVVVL FLGFWTPYNI VLFLETLVEL EVLQDCTFER YLDYAIQATE TLAFVHCCLN
301 PIIYFFLGEK FRKYILQLFK TCRGLFVLCQ YCGLLQIYSA DTPSSSYTQS TMDHDLHDAL
T細胞リンパ腫に関連するCCR4遺伝子の変異は、配列番号3に記載のアミノ酸配列における、309~360番目までのアミノ酸配列であるC末端領域における、少なくとも1つ以上のナンセンス変異またはフレームシフト変異である。CCR4遺伝子における遺伝子変異は、より具体的には、配列番号3に記載のアミノ酸配列における、322番目のシステインでのフレームシフト変異(C322fs)または322番目のシステインの位置に3塩基挿入され、システインとアルギニンが生じる変異(C322delinsCR)、323番目のシステインでのフレームシフト(C323fs)、330番目のグルタミンの終止コドンへの変換(Q330X)、331番目のチロシンの終止コドンへの変換(Y331X)、336番目のグルタミンの終止コドンへの変換(Q336X)の少なくとも1つ以上をもたらす変異である。
【0020】
PLCG1(Phospholipase C, gamma 1)遺伝子(Genbank Accession No. NM_002660:配列番号6)は、以下の配列番号5に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号5(1291aa):Genbank Accession No. NP_002651
1 MAGAASPCAN GCGPGAPSDA EVLHLCRSLE VGTVMTLFYS KKSQRPERKT FQVKLETRQI
61 TWSRGADKIE GAIDIREIKE IRPGKTSRDF DRYQEDPAFR PDQSHCFVIL YGMEFRLKTL
121 SLQATSEDEV NMWIKGLTWL MEDTLQAPTP LQIERWLRKQ FYSVDRNRED RISAKDLKNM
181 LSQVNYRVPN MRFLRERLTD LEQRSGDITY GQFAQLYRSL MYSAQKTMDL PFLEASTLRA
241 GERPELCRVS LPEFQQFLLD YQGELWAVDR LQVQEFMLSF LRDPLREIEE PYFFLDEFVT
301 FLFSKENSVW NSQLDAVCPD TMNNPLSHYW ISSSHNTYLT GDQFSSESSL EAYARCLRMG
361 CRCIELDCWD GPDGMPVIYH GHTLTTKIKF SDVLHTIKEH AFVASEYPVI LSIEDHCSIA
421 QQRNMAQYFK KVLGDTLLTK PVEISADGLP SPNQLKRKIL IKHKKLAEGS AYEEVPTSMM
481 YSENDISNSI KNGILYLEDP VNHEWYPHYF VLTSSKIYYS EETSSDQGNE DEEEPKEVSS
541 STELHSNEKW FHGKLGAGRD GRHIAERLLT EYCIETGAPD GSFLVRESET FVGDYTLSFW
601 RNGKVQHCRI HSRQDAGTPK FFLTDNLVFD SLYDLITHYQ QVPLRCNEFE MRLSEPVPQT
661 NAHESKEWYH ASLTRAQAEH MLMRVPRDGA FLVRKRNEPN SYAISFRAEG KIKHCRVQQE
721 GQTVMLGNSE FDSLVDLISY YEKHPLYRKM KLRYPINEEA LEKIGTAEPD YGALYEGRNP
781 GFYVEANPMP TFKCAVKALF DYKAQREDEL TFIKSAIIQN VEKQEGGWWR GDYGGKKQLW
841 FPSNYVEEMV NPVALEPERE HLDENSPLGD LLRGVLDVPA CQIAIRPEGK NNRLFVFSIS
901 MASVAHWSLD VAADSQEELQ DWVKKIREVA QTADARLTEG KIMERRKKIA LELSELVVYC
961 RPVPFDEEKI GTERACYRDM SSFPETKAEK YVNKAKGKKF LQYNRLQLSR IYPKGQRLDS
1021 SNYDPLPMWI CGSQLVALNF QTPDKPMQMN QALFMTGRHC GYVLQPSTMR DEAFDPFDKS
1081 SLRGLEPCAI SIEVLGARHL PKNGRGIVCP FVEIEVAGAE YDSTKQKTEF VVDNGLNPVW
1141 PAKPFHFQIS NPEFAFLRFV VYEEDMFSDQ NFLAQATFPV KGLKTGYRAV PLKNNYSEDL
1201 ELASLLIKID IFPAKQENGD LSPFSGTSLR ERGSDASGQL FHGRAREGSF ESRYQQPFED
1261 FRISQEHLAD HFDSRERRAP RRTRVNGDNR L
T細胞リンパ腫に関連するPLCG1遺伝子の変異は、少なくとも1つ以上のミスセンス変異であり、配列番号5に記載のアミノ酸配列における48番目のアミノ酸、345番目のアミノ酸、520番目のアミノ酸、748番目のアミノ酸、1016番目のアミノ酸、1163番目のアミノ酸、および1165番目のアミノ酸の少なくとも1つ以上のアミノ酸のミスセンス変異である。PLCG1遺伝子における遺伝子変異は、より具体的には、配列番号5に記載のアミノ酸配列における、48番目のアルギニンのトリプトファンへの置換(R48W)、345番目のセリンのフェニルアラニンへの置換(S345F)、520番目のセリンのフェニルアラニンへの置換(S520F)、748番目のアルギニンのシステインまたはグリシンへの置換(R748C、R748G)、1016番目のグルタミンのロイシンまたはアルギニンへの置換(Q1016L、Q1016R)、1163番目のグルタミン酸のリジンへの置換(E1163K)、1165番目のアスパラギン酸のヒスチジン、グリシン、またはバリンへの置換(D1165H、D1165G、D1165V)の少なくとも1つ以上をもたらすものである。
【0021】
CCR7(CCケモカイン受容体7)遺伝子(Genbank Accession No. NM_001838:配列番号8)は、以下の配列番号7に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号7(378aa):Genbank Accession No. NP_001829
1 MDLGKPMKSV LVVALLVIFQ VCLCQDEVTD DYIGDNTTVD YTLFESLCSK KDVRNFKAWF
61 LPIMYSIICF VGLLGNGLVV LTYIYFKRLK TMTDTYLLNL AVADILFLLT LPFWAYSAAK
121 SWVFGVHFCK LIFAIYKMSF FSGMLLLLCI SIDRYVAIVQ AVSAHRHRAR VLLISKLSCV
181 GIWILATVLS IPELLYSDLQ RSSSEQAMRC SLITEHVEAF ITIQVAQMVI GFLVPLLAMS
241 FCYLVIIRTL LQARNFERNK AIKVIIAVVV VFIVFQLPYN GVVLAQTVAN FNITSSTCEL
301 SKQLNIAYDV TYSLACVRCC VNPFLYAFIG VKFRNDLFKL FKDLGCLSQE QLRQWSSCRH
361 IRRSSMSVEA ETTTTFSP
T細胞リンパ腫に関連するCCR7遺伝子の変異は、配列番号7に記載のアミノ酸配列における332~378番目までのアミノ酸配列であるC末端領域における、少なくとも1つ以上のナンセンス変異またはフレームシフト変異である。CCR7遺伝子における変異は、より具体的には、配列番号7に記載のアミノ酸配列における、349番目のグルタミンの終止コドンへの変換(Q349X)、351番目のグルタミンの終止コドンへの変換(Q351X)、355番目のトリプトファンの終止コドンへの変換(W355X)の少なくとも1つ以上の変異をもたらすものである。
【0022】
CARD11(Caspase recruitment domain-containing protein 11 )遺伝子(Genbank Accession No. NM_032415:配列番号10)は、以下の配列番号9に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号9(1154aa):Genbank Accession No. NP_115791
1 MPGGGPEMDD YMETLKDEED ALWENVECNR HMLSRYINPA KLTPYLRQCK VIDEQDEDEV
61 LNAPMLPSKI NRAGRLLDIL HTKGQRGYVV FLESLEFYYP ELYKLVTGKE PTRRFSTIVV
121 EEGHEGLTHF LMNEVIKLQQ QMKAKDLQRC ELLARLRQLE DEKKQMTLTR VELLTFQERY
181 YKMKEERDSY NDELVKVKDD NYNLAMRYAQ LSEEKNMAVM RSRDLQLEID QLKHRLNKME
241 EECKLERNQS LKLKNDIENR PKKEQVLELE RENEMLKTKN QELQSIIQAG KRSLPDSDKA
301 ILDILEHDRK EALEDRQELV NRIYNLQEEA RQAEELRDKY LEEKEDLELK CSTLGKDCEM
361 YKHRMNTVML QLEEVERERD QAFHSRDEAQ TQYSQCLIEK DKYRKQIREL EEKNDEMRIE
421 MVRREACIVN LESKLRRLSK DSNNLDQSLP RNLPVTIISQ DFGDASPRTN GQEADDSSTS
481 EESPEDSKYF LPYHPPQRRM NLKGIQLQRA KSPISLKRTS DFQAKGHEEE GTDASPSSCG
541 SLPITNSFTK MQPPRSRSSI MSITAEPPGN DSIVRRYKED APHRSTVEED NDSGGFDALD
601 LDDDSHERYS FGPSSIHSSS SSHQSEGLDA YDLEQVNLMF RKFSLERPFR PSVTSVGHVR
661 GPGPSVQHTT LNGDSLTSQL TLLGGNARGS FVHSVKPGSL AEKAGLREGH QLLLLEGCIR
721 GERQSVPLDT CTKEEAHWTI QRCSGPVTLH YKVNHEGYRK LVKDMEDGLI TSGDSFYIRL
781 NLNISSQLDA CTMSLKCDDV VHVRDTMYQD RHEWLCARVD PFTDHDLDMG TIPSYSRAQQ
841 LLLVKLQRLM HRGSREEVDG THHTLRALRN TLQPEEALST SDPRVSPRLS RASFLFGQLL
901 QFVSRSENKY KRMNSNERVR IISGSPLGSL ARSSLDATKL LTEKQEELDP ESELGKNLSL
961 IPYSLVRAFY CERRRPVLFT PTVLAKTLVQ RLLNSGGAME FTICKSDIVT RDEFLRRQKT
1021 ETIIYSREKN PNAFECIAPA NIEAVAAKNK HCLLEAGIGC TRDLIKSNIY PIVLFIRVCE
1081 KNIKRFRKLL PRPETEEEFL RVCRLKEKEL EALPCLYATV EPDMWGSVEE LLRVVKDKIG
1141 EEQRKTIWVD EDQL
T細胞リンパ腫に関連するCARD11遺伝子の変異は、少なくとも1つ以上のミスセンス変異であり、配列番号9に記載のアミノ酸配列における357番目のアミノ酸、361番目のアミノ酸、401番目のアミノ酸、615番目のアミノ酸、および626番目のアミノ酸の少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子変異である。CRAD11遺伝子における変異は、より具体的には、配列番号9に記載のアミノ酸配列における、357番目のアスパラギン酸のアスパラギンまたはグリシンへの置換(D357N、D357G)、361番目のチロシンのシステインまたはセリンへの置換(Y361C、Y361S)、401番目のアスパラギン酸のアスパラギンまたはバリンへの置換(D401N、D401V)、615番目のセリンのフェニルアラニンへの置換(S615F)、626番目のグルタミン酸のリジンへの置換(E626K)の少なくとも1つ以上をもたらすものである。
【0023】
GATA3(GATA binding protein 3)遺伝子(Genbank Accession No. NM_001002295:配列番号12)は、以下の配列番号11に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号11(444aa):Genbank Accession No. NP_001002295
1 MEVTADQPRW VSHHHPAVLN GQHPDTHHPG LSHSYMDAAQ YPLPEEVDVL FNIDGQGNHV
61 PPYYGNSVRA TVQRYPPTHH GSQVCRPPLL HGSLPWLDGG KALGSHHTAS PWNLSPFSKT
121 SIHHGSPGPL SVYPPASSSS LSGGHASPHL FTFPPTPPKD VSPDPSLSTP GSAGSARQDE
181 KECLKYQVPL PDSMKLESSH SRGSMTALGG ASSSTHHPIT TYPPYVPEYS SGLFPPSSLL
241 GGSPTGFGCK SRPKARSSTE GRECVNCGAT STPLWRRDGT GHYLCNACGL YHKMNGQNRP
301 LIKPKRRLSA ARRAGTSCAN CQTTTTTLWR RNANGDPVCN ACGLYYKLHN INRPLTMKKE
361 GIQTRNRKMS SKSKKCKKVH DSLEDFPKNS SFNPAALSRH MSSLSHISPF SHSSHMLTTP
421 TPMHPPSSLS FGPHHPSSMV TAMG
T細胞リンパ腫に関連するGATA3遺伝子の変異は、配列番号11に記載のアミノ酸配列における、少なくとも1つ以上のナンセンス変異またはフレームシフト変異、スプライス部位変異である。GATA3遺伝子の変異は、より具体的には、配列番号11に記載のアミノ酸配列における63番目のチロシンの終止コドンへの変換(Y63X)、エクソン2のスプライス部位の変異(アクセプター部位またはドナー部位の変異)、96番目のトリプトファンの終止コドンへの変換(W96X)の少なくとも1つ以上をもたらすものである。
【0024】
IRF4(interferon regulatory factor 4)遺伝子(Genbank Accession No. NM_001195286:配列番号14)は、以下の配列番号13に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号13(450aa):Genbank Accession No. NP_001182215
1 MNLEGGGRGG EFGMSAVSCG NGKLRQWLID QIDSGKYPGL VWENEEKSIF RIPWKHAGKQ
61 DYNREEDAAL FKAWALFKGK FREGIDKPDP PTWKTRLRCA LNKSNDFEEL VERSQLDISD
121 PYKVYRIVPE GAKKGAKQLT LEDPQMSMSH PYTMTTPYPS LPAQVHNYMM PPLDRSWRDY
181 VPDQPHPEIP YQCPMTFGPR GHHWQGPACE NGCQVTGTFY ACAPPESQAP GVPTEPSIRS
241 AEALAFSDCR LHICLYYREI LVKELTTSSP EGCRISHGHT YDASNLDQVL FPYPEDNGQR
301 KNIEKLLSHL ERGVVLWMAP DGLYAKRLCQ SRIYWDGPLA LCNDRPNKLE RDQTCKLFDT
361 QQFLSELQAF AHHGRSLPRF QVTLCFGEEF PDPQRQRKLI TAHVEPLLAR QLYYFAQQNS
421 GHFLRGYDLP EHISNPEDYH RSIRHSSIQE
T細胞リンパ腫に関連するIRF4遺伝子の変異は、少なくとも1つ以上のミスセンス変異であり、配列番号13に記載のアミノ酸配列における59番目のアミノ酸、70番目のアミノ酸、および114番目のアミノ酸のアミノ酸の少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子変異である。IRF4遺伝子における変異は、より具体的には、配列番号13に記載のアミノ酸配列における、59番目のリジンのアルギニンへの置換(K59R)、70番目のロイシンのバリンへの置換(L70V)、114番目のセリンのアルギニンまたはアスパラギンへの置換(S114R、S114N)の少なくとも1つ以上の変異もたらすものである。
【0025】
TBL1XR1(transducin (beta)-like 1 X-linked receptor 1)遺伝子(Genbank Accession No. NM_024665:配列番号16)は、以下の配列番号15に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号15(514aa):Genbank Accession No. NP_078941
1 MSISSDEVNF LVYRYLQESG FSHSAFTFGI ESHISQSNIN GALVPPAALI SIIQKGLQYV
61 EAEVSINEDG TLFDGRPIES LSLIDAVMPD VVQTRQQAYR DKLAQQQAAA AAAAAAAASQ
121 QGSAKNGENT ANGEENGAHT IANNHTDMME VDGDVEIPPN KAVVLRGHES EVFICAWNPV
181 SDLLASGSGD STARIWNLSE NSTSGSTQLV LRHCIREGGQ DVPSNKDVTS LDWNSEGTLL
241 ATGSYDGFAR IWTKDGNLAS TLGQHKGPIF ALKWNKKGNF ILSAGVDKTT IIWDAHTGEA
301 KQQFPFHSAP ALDVDWQSNN TFASCSTDMC IHVCKLGQDR PIKTFQGHTN EVNAIKWDPT
361 GNLLASCSDD MTLKIWSMKQ DNCVHDLQAH NKEIYTIKWS PTGPGTNNPN ANLMLASASF
421 DSTVRLWDVD RGICIHTLTK HQEPVYSVAF SPDGRYLASG SFDKCVHIWN TQTGALVHSY
481 RGTGGIFEVC WNAAGDKVGA SASDGSVCVL DLRK
T細胞リンパ腫に関連するTBL1XR1遺伝子の変異は、配列番号15に記載のアミノ酸配列における、少なくとも1つ以上のミスセンス変異、ナンセンス変異またはフレームシフト変異であり、具体的には142~143番目、230番目、290番目、307番目、および325番目のアミノ酸の少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子変異である。TBL1XR1遺伝子における変異は、より具体的には、配列番号15に記載のアミノ酸配列における、142番目のアラニン~143番目のアスパラギンの位置に2塩基挿入されて終止コドンが生じる変異(A142_N143delinsX)、230番目のセリンのフェニルアラニンもしくはプロリンへの置換、または欠失(S230F、S230P、S230del)、290番目のスレオニンのアルギニンまたはリジンへの置換(T290R、T290K)、307番目のヒスチジンのアルギニン、プロリン、またはチロシンへの置換(H307R、H307P、H307Y)、325番目のシステインのチロシンまたはフェニルアラニンへの置換(C325Y、C325F)の少なくとも1つ以上をもたらすものである。
【0026】
HNRNPA2B1(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A2/B1)遺伝子(Genbank Accession No. NM_002137:配列番号18)は、以下の配列番号17に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号17(341aa):Genbank Accession No. NP_002128
1 MEREKEQFRK LFIGGLSFET TEESLRNYYE QWGKLTDCVV MRDPASKRSR GFGFVTFSSM
61 AEVDAAMAAR PHSIDGRVVE PKRAVAREES GKPGAHVTVK KLFVGGIKED TEEHHLRDYF
121 EEYGKIDTIE IITDRQSGKK RGFGFVTFDD HDPVDKIVLQ KYHTINGHNA EVRKALSRQE
181 MQEVQSSRSG RGGNFGFGDS RGGGGNFGPG PGSNFRGGSD GYGSGRGFGD GYNGYGGGPG
241 GGNFGGSPGY GGGRGGYGGG GPGYGNQGGG YGGGYDNYGG GNYGSGNYND FGNYNQQPSN
301 YGPMKSGNFG GSRNMGGPYG GGNYGPGGSG GSGGYGGRSR Y
T細胞リンパ腫に関連するHNRNPA2B1遺伝子の変異は、配列番号17における、少なくとも1つ以上のナンセンス変異、フレームシフト変異、またはスプライス部位変異であり、具体的には、エクソン10のスプライス部位変異、および配列番号17に記載のアミノ酸配列における322番目のアミノ酸の変異の少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である。HNRNPA2B1遺伝子における322番目のアミノ酸変異は、より具体的には、配列番号17に記載のアミノ酸配列における322番目のグリシンのアルギニンまたは終止コドンへの置換(G322R、G322X)である。
【0027】
VAV1(vav 1 guanine nucleotide exchange factor)遺伝子(Genbank Accession No. NM_005428:配列番号20)は、以下の配列番号19に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号19(845aa):Genbank Accession No. NP_005419
1 MELWRQCTHW LIQCRVLPPS HRVTWDGAQV CELAQALRDG VLLCQLLNNL LPHAINLREV
61 NLRPQMSQFL CLKNIRTFLS TCCEKFGLKR SELFEAFDLF DVQDFGKVIY TLSALSWTPI
121 AQNRGIMPFP TEEESVGDED IYSGLSDQID DTVEEDEDLY DCVENEEAEG DEIYEDLMRS
181 EPVSMPPKMT EYDKRCCCLR EIQQTEEKYT DTLGSIQQHF LKPLQRFLKP QDIEIIFINI
241 EDLLRVHTHF LKEMKEALGT PGAANLYQVF IKYKERFLVY GRYCSQVESA SKHLDRVAAA
301 REDVQMKLEE CSQRANNGRF TLRDLLMVPM QRVLKYHLLL QELVKHTQEA MEKENLRLAL
361 DAMRDLAQCV NEVKRDNETL RQITNFQLSI ENLDQSLAHY GRPKIDGELK ITSVERRSKM
421 DRYAFLLDKA LLICKRRGDS YDLKDFVNLH SFQVRDDSSG DRDNKKWSHM FLLIEDQGAQ
481 GYELFFKTRE LKKKWMEQFE MAISNIYPEN ATANGHDFQM FSFEETTSCK ACQMLLRGTF
541 YQGYRCHRCR ASAHKECLGR VPPCGRHGQD FPGTMKKDKL HRRAQDKKRN ELGLPKMEVF
601 QEYYGLPPPP GAIGPFLRLN PGDIVELTKA EAEQNWWEGR NTSTNEIGWF PCNRVKPYVH
661 GPPQDLSVHL WYAGPMERAG AESILANRSD GTFLVRQRVK DAAEFAISIK YNVEVKHIKI
721 MTAEGLYRIT EKKAFRGLTE LVEFYQQNSL KDCFKSLDTT LQFPFKEPEK RTISRPAVGS
781 TKYFGTAKAR YDFCARDRSE LSLKEGDIIK ILNKKGQQGW WRGEIYGRVG WFPANYVEED
841 YSEYC
T細胞リンパ腫に関連するVAV1遺伝子の変異は、少なくとも1つ以上のミスセンス変異であり、配列番号19に記載のアミノ酸配列における174番目のアミノ酸、175番目のアミノ酸、404番目のアミノ酸、556番目のアミノ酸、798番目のアミノ酸、および822番目のアミノ酸の少なくとも1つ以上のアミノ酸の変異をもたらす遺伝子変異である。VAV1遺伝子における変異は、より具体的には、配列番号19に記載のアミノ酸配列における、174番目のチロシンのシステインへの置換(Y174C)、175番目のグルタミン酸のバリンへの置換(E175V)、404番目のリジンのアルギニンへの置換(K404R)、556番目のグルタミン酸のアルパラギン酸またはリジンへの置換(E556D、E556K)、798番目のアルギニンのプロリンまたはグルタミンへの置換(R798P、R798Q)、および822番目のアルギニンのグルタミンへの置換(R822Q)の少なくとも1つ以上をもたらすものである。
【0028】
GPR183(G protein-coupled receptor 183)遺伝子(Genbank Accession No. NM_004951:配列番号22)は、以下の配列番号21に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号21(361aa):Genbank Accession No. NP_004942
1 MDIQMANNFT PPSATPQGND CDLYAHHSTA RIVMPLHYSL VFIIGLVGNL LALVVIVQNR
61 KKINSTTLYS TNLVISDILF TTALPTRIAY YAMGFDWRIG DALCRITALV FYINTYAGVN
121 FMTCLSIDRF IAVVHPLRYN KIKRIEHAKG VCIFVWILVF AQTLPLLINP MSKQEAERIT
181 CMEYPNFEET KSLPWILLGA CFIGYVLPLI IILICYSQIC CKLFRTAKQN PLTEKSGVNK
241 KALNTIILII VVFVLCFTPY HVAIIQHMIK KLRFSNFLEC SQRHSFQISL HFTVCLMNFN
301 CCMDPFIYFF ACKGYKRKVM RMLKRQVSVS ISSAVKSAPE ENSREMTETQ MMIHSKSSNG
361 K
T細胞リンパ腫に関連するGPR183遺伝子の変異は、配列番号21に記載のアミノ酸配列における、少なくとも1以上のナンセンス変異、フレームシフト変異またはスプライス部位変異である。
【0029】
IRF2BP2(interferon regulatory factor 2 binding protein 2)遺伝子(Genbank Accession No. NM_001077397:配列番号24)は、以下の配列番号23に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号23(571aa):Genbank Accession No. NP_001070865
1 MAAAVAVAAA SRRQSCYLCD LPRMPWAMIW DFTEPVCRGC VNYEGADRVE FVIETARQLK
61 RAHGCFPEGR SPPGAAASAA AKPPPLSAKD ILLQQQQQLG HGGPEAAPRA PQALERYPLA
121 AAAERPPRLG SDFGSSRPAA SLAQPPTPQP PPVNGILVPN GFSKLEEPPE LNRQSPNPRR
181 GHAVPPTLVP LMNGSATPLP TALGLGGRAA ASLAAVSGTA AASLGSAQPT DLGAHKRPAS
241 VSSSAAVEHE QREAAAKEKQ PPPPAHRGPA DSLSTAAGAA ELSAEGAGKS RGSGEQDWVN
301 RPKTVRDTLL ALHQHGHSGP FESKFKKEPA LTAVARTARK RKPSPEPEGE VGPPKINGEA
361 QPWLSTSTEG LKIPMTPTSS FVSPPPPTAS PHSNRTTPPE AAQNGQSPMA ALILVADNAG
421 GSHASKDANQ VHSTTRRNSN SPPSPSSMNQ RRLGPREVGG QGAGNTGGLE PVHPASLPDS
481 SLATSAPLCC TLCHERLEDT HFVQCPSVPS HKFCFPCSRQ SIKQQGASGE VYCPSGEKCP
541 LVGSNVPWAF MQGEIATILA GDVKVKKERD S
T細胞リンパ腫に関連するIRF2BP2遺伝子の変異は、配列番号23に記載のアミノ酸配列における、少なくとも1つ以上のミスセンス変異、ナンセンス変異またはフレームシフト変異をもたらす遺伝子変異であり、ミスセンス変異は具体的には194番目のアミノ酸の変異である。IRF2BP2遺伝子におけるミスセンス変異は、より具体的には、配列番号23に記載のアミノ酸配列における、194番目のグリシンのアスパラギン酸またはバリンへの置換(G194D、G194V)である。
【0030】
CSNK1A1(casein kinase 1, alpha 1)遺伝子(Genbank Accession No. NM_001892:配列番号26)は、以下の配列番号25に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号25(337aa):Genbank Accession No. NP_001883
1 MASSSGSKAE FIVGGKYKLV RKIGSGSFGD IYLAINITNG EEVAVKLESQ KARHPQLLYE
61 SKLYKILQGG VGIPHIRWYG QEKDYNVLVM DLLGPSLEDL FNFCSRRFTM KTVLMLADQM
121 ISRIEYVHTK NFIHRDIKPD NFLMGIGRHC NKLFLIDFGL AKKYRDNRTR QHIPYREDKN
181 LTGTARYASI NAHLGIEQSR RDDMESLGYV LMYFNRTSLP WQGLKAATKK QKYEKISEKK
241 MSTPVEVLCK GFPAEFAMYL NYCRGLRFEE APDYMYLRQL FRILFRTLNH QYDYTFDWTM
301 LKQKAAQQAA SSSGQGQQAQ TPTGKQTDKT KSNMKGF
T細胞リンパ腫に関連するCSNK1A1遺伝子の変異は、少なくとも1つ以上のミスセンス変異であり、配列番号25に記載のアミノ酸配列における136番目のアミノ酸、160番目のアミノ酸、および198番目のアミノ酸の少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である。CSNK1A1遺伝子における変異は、より具体的には、配列番号25に記載のアミノ酸配列における、136番目のアスパラギン酸のヒスチジン、グリシン、アスパラギンへの置換(D136H、D136G、D136N)、160番目のロイシンのフェニルアラニンへの置換(L160F)、198番目のグルタミンのリジンまたはグルタミン酸への置換(Q198K、Q198E)の少なくとも1つ以上の変異をもたらすものである。
【0031】
CSNK2B(casein kinase 2, beta polypeptide)遺伝子(Genbank Accession No. NM_001320:配列番号28)は、以下の配列番号27に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号27(215aa):Genbank Accession No. NP_001311
1 MSSSEEVSWI SWFCGLRGNE FFCEVDEDYI QDKFNLTGLN EQVPHYRQAL DMILDLEPDE
61 ELEDNPNQSD LIEQAAEMLY GLIHARYILT NRGIAQMLEK YQQGDFGYCP RVYCENQPML
121 PIGLSDIPGE AMVKLYCPKC MDVYTPKSSR HHHTDGAYFG TGFPHMLFMV HPEYRPKRPA
181 NQFVPRLYGF KIHPMAYQLQ LQAASNFKSP VKTIR
T細胞リンパ腫に関連するCSNK2B遺伝子の変異は、配列番号27に記載のアミノ酸配列における、少なくとも1つ以上のミスセンス変異、ナンセンス変異、またはフレームシフト変異であり、具体的には173番目のアミノ酸、および182番目のアミノ酸の少なくとも1つ以上の変異をもたらす遺伝子変異である。CSNK2B遺伝子における変異は、より具体的には、配列番号27に記載のアミノ酸配列における、173番目のグルタミン酸の終止コドンへの変換またはアスパラギン酸への置換(E173X、E173D)、182番目のグルタミンの終止コドンへの変換(Q182X)の少なくとも1つ以上の変異をもたらすものである。
【0032】
CSNK2A1(casein kinase 2, alpha 1 polypeptide)遺伝子(Genbank Accession No. NM_001895:配列番号30)は、以下の配列番号29に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号29(391aa):Genbank Accession No.NP_001886
1 MSGPVPSRAR VYTDVNTHRP REYWDYESHV VEWGNQDDYQ LVRKLGRGKY SEVFEAINIT
61 NNEKVVVKIL KPVKKKKIKR EIKILENLRG GPNIITLADI VKDPVSRTPA LVFEHVNNTD
121 FKQLYQTLTD YDIRFYMYEI LKALDYCHSM GIMHRDVKPH NVMIDHEHRK LRLIDWGLAE
181 FYHPGQEYNV RVASRYFKGP ELLVDYQMYD YSLDMWSLGC MLASMIFRKE PFFHGHDNYD
241 QLVRIAKVLG TEDLYDYIDK YNIELDPRFN DILGRHSRKR WERFVHSENQ HLVSPEALDF
301 LDKLLRYDHQ SRLTAREAME HPYFYTVVKD QARMGSSSMP GGSTPVSSAN MMSGISSVPT
361 PSPLGPLAGS PVIAAANPLG MPVPAAAGAQ Q
T細胞リンパ腫に関連するCSNK2A1遺伝子の変異は、配列番号29に記載のアミノ酸配列における、少なくとも1つ以上のナンセンス変異またはフレームシフト変異である。
【0033】
CD28遺伝子(Genbank Accession No. NM_006139:配列番号32)は、以下の配列番号31に示されるアミノ酸配列をコードする。
配列番号31(220aa):Genbank Accession No. NP_006130
1 MLRLLLALNL FPSIQVTGNK ILVKQSPMLV AYDNAVNLSC KYSYNLFSRE FRASLHKGLD
61 SAVEVCVVYG NYSQQLQVYS KTGFNCDGKL GNESVTFYLQ NLYVNQTDIY FCKIEVMYPP
121 PYLDNEKSNG TIIHVKGKHL CPSPLFPGPS KPFWVLVVVG GVLACYSLLV TVAFIIFWVR
181 SKRSRLLHSD YMNMTPRRPG PTRKHYQPYA PPRDFAAYRS
T細胞リンパ腫に関連するCD28遺伝子の変異は少なくとも1つ以上のミスセンス変異であり、配列番号31に記載のアミノ酸配列における124番目のアミノ酸、および175番目のアミノ酸の少なくとも1つ以上の変異である。CD28遺伝子における変異は、より具体的には、配列番号31に記載のアミノ酸配列における、124番目のアスパラギン酸のグルタミン酸またはバリンへの置換(D124E、D124V)、175番目のスレオニンのイソロイシンまたはプロリンへの置換(T175I、T175P)の少なくとも1つ以上の変異をもたらすものである。
【0034】
本発明の検査方法において用いられる検体は、被検者から採取された検体であって、上記各種遺伝子に関する核酸や遺伝子由来のタンパク質を含有することが期待できる検体であれば特に限定されない。本発明の検体は例えば、リンパ節、扁桃、骨髄、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚、尿・リンパ液・末梢血を含む血液などの体液等から選択される。遺伝子に関する核酸とは、遺伝子のゲノムDNAや、該遺伝子の転写産物であるmRNA等を意味する。遺伝子由来のタンパク質とは、当該遺伝子から発現されるタンパク質分子やその分解物等を意味する。本発明の検査方法は、検体を処理して得られる生体試料を用いて遺伝子変異を検出することができ、生体試料は例えば核酸やタンパク質を抽出して調製したものを用いることができ、適宜希釈等して用いることができる。
【0035】
本発明の検査方法において、遺伝子の欠損や変異を検出する方法は特に限定されず、遺伝子の変異や多型の検出等において用いられる公知の手法、たとえば、サンガー法を基礎とする塩基配列決定法、インベーダー法、Taqmanプローブ法、SMMD法(Simultaneous Multiple Mutation Detection System)、PCR-RFLP法(polymerase chain reaction-restriction fragment length polymorphism)、MASA法、塩基伸長法、または、次世代シーケンサーを用いた方法、これらを改変した方法等を用いることができる。インベーダー法やTaqmanプローブ法は、検出感度及び精度に優れており、変異部位を特異的に認識する塩基配列を有するプローブやプライマーを用いて検出することができる。上記各種遺伝子の欠失又は変異を検出するためのプローブやプライマーは、各種遺伝子及びその周辺の塩基配列に基づき、常法により設計し、合成することができる。また複数の遺伝子について、遺伝子変異を検出する場合は、全ての遺伝子について同時に遺伝子変異を検出してもよいし、同時ではなく複数回に分けて遺伝子変異を検出してもよい。
【0036】
本発明の検査方法により、T細胞リンパ腫の診断や発症の可能性予測のための情報を提供することができる。上記各種遺伝子について遺伝子変異が検出された場合、検体が採取された被検者は、T細胞性リンパ腫であると判定されることができる。
【0037】
また本発明の検査方法により、T細胞リンパ腫における病型の鑑別を行うための情報を提供することも可能である。特にSTAT3遺伝子、TP53遺伝子、IRF4遺伝子、CD58遺伝子の少なくとも1つ以上の遺伝子の変異を検出することにより、ATLの(1)急性型(Acute)、(2)リンパ腫型(Lymphoma)、(3)慢性型(Chronic)、(4)くすぶり型(Smoldering)の4つの病型分類のための情報を提供することができる。また本発明の検査方法は、(1)~(4)の病型に類似した病態を呈する疾患である可能性についても情報を提供することができる。具体的には、STAT3遺伝子において変異が検出された場合は、ATLの(3)慢性型もしくは(4)くすぶり型、またはこれらに類似した病態を呈する疾患であると判断され、TP53遺伝子、IRF4遺伝子、CD58遺伝子の少なくとも1つ以上の遺伝子に変異が検出された場合は、ATLの(1)急性型もしくは(2)リンパ腫型、またはこれらに類似した病態を呈する疾患であると判断されることができる。ATLの(3)慢性型もしくは(4)くすぶり型に類似した病態を呈する疾患として、T-LGLが例示される。本発明の検査方法により疾患や病型を鑑別することができ、疾患や病型の種類に応じた治療法を選択することができる。
【0038】
さらに本発明の検査方法により、T細胞リンパ腫の予後予測を行うための情報を提供することも可能である。特に、STAT3遺伝子において変異が検出された場合は、予後が良好であると判断され、TP53遺伝子、IRF4遺伝子、CD58遺伝子の少なくとも1つ以上の遺伝子に変異が検出された場合は、予後不良であると判断されることができる。本発明の検査方法により予後予測が可能となることで、予後に応じた治療法を選択することができる。
【0039】
本発明の検査方法においては、上記遺伝子変異の検出に加えて、遺伝子のコピー数異常を検出することにより、より高い精度でT細胞リンパ腫の検査を行うことができる。癌などの疾患においては、ヒトのゲノム上で数キロ塩基対から数メガ塩基対に至る種々の大きさのDNA断片が、細胞分裂の複製の際に増加したり、減少することが知られている。DNA断片上には、1つもしくは複数の遺伝子が含まれており、当該遺伝子のコピー数の増減が、機能の変化をもたらす。本発明において遺伝子のコピー数異常とは、当該遺伝子のコピー数の正常値(例えば2)と比較して、コピー数が増加している場合と、減少している場合を含む概念である。さらに本発明において遺伝子のコピー数異常とは、遺伝子のコピー数が増加または減少を示していないが、染色体のヘテロ接合性を消失している場合を含む。ヘテロ接合性の消失とは、正常細胞においてある特定の遺伝子座に正常な遺伝子と異常な遺伝子が1つずつ存在している場合、正常な遺伝子が消失してしまい異常な遺伝子の機能が強く発揮されうることを意味する。すなわち、遺伝子のコピー数が正常であっても、対立遺伝子が存在せず、変異を有する遺伝子のみが存在する場合は、本発明の遺伝子コピー数異常に含まれる。
【0040】
遺伝子のコピー数の測定は、当技術分野において公知の標準的な方法を用いて行うことができる。各遺伝子の塩基配列を参照することにより、標準的な方法を用いて遺伝子のコピー数を測定することができる。具体的な遺伝子のコピー数の測定法としては、ハイブリダイゼーションおよび増幅に基づく解析方法が挙げられ、例えば、サザンブロッティング法や、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法(Angerer, Meth. Enzymol. 152, 649, 1987参照)、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)法、リアルタイム定量的PCR法、SNPアレイ法、次世代シーケンサーなどを用いた方法により測定することができる。
【0041】
本発明の検査方法においては、CD28遺伝子、CCR4遺伝子、DLG1遺伝子、IRF4遺伝子、CARD11遺伝子、CD247遺伝子、NOTCH1遺伝子、SMARCA4遺伝子、BCL11B遺伝子、CCR7遺伝子、SPYD遺伝子、CD58遺伝子、CD2遺伝子、IKZF2遺伝子、TBL1XR1遺伝子、TNFAIP3遺伝子、TAX1BP1遺伝子、LRRN3遺伝子、CDKN2A遺伝子、GATA3遺伝子、ZEB1遺伝子、GPR183遺伝子、NRXN3遺伝子、TP53遺伝子の少なくとも1つ以上の遺伝子の遺伝子コピー数の異常を確認することが好ましい。
【0042】
さらに本発明の検査方法においては、ヒト染色体14q31.1領域、ヒト染色体7q31.1領域、ヒト染色体1p21.3領域の少なくとも1つ以上の染色体の領域における、少なくとも1つ以上の部位の欠失を検出することを含むことが好ましい。
【0043】
染色体の少なくとも1以上の部位の欠失の検出は、当技術分野において公知の標準的な方法を用いて行うことができる。各染色体の塩基配列を参照することにより、標準的な方法を用いて染色体の部位欠失を検出することができる。具体的には、ハイブリダイゼーションおよび増幅に基づく解析方法が挙げられ、例えば、サザンブロッティング法や、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法(Angerer, Meth. Enzymol. 152, 649, 1987参照)、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)法、リアルタイム定量的PCR法、SNPアレイ法、次世代シーケンサーなどを用いた方法により検出することができる。
【0044】
本発明は、T細胞リンパ腫の治療剤のスクリーニング方法にも及ぶ。本発明のスクリーニング方法は、上記各種遺伝子変異を有する可能性のある遺伝子のいずれか1の遺伝子変異もしくはコピー数異常またはこれらによる遺伝子の機能変化を制御しうる物質をスクリーニングすることを特徴とする。本発明のスクリーニング方法において選別の対象となる候補化合物は、低分子化合物、核酸、タンパク質等のいずれの物質であってもよい。以下スクリーニング方法について、PRKCB遺伝子を例示して説明する。
【0045】
本発明のスクリーニング方法は、候補化合物が、変異を有するPRKCB遺伝子(変異型PRKCB遺伝子)の機能に影響し得るか否かを評価することを含む。候補化合物が、変異型PRKCB遺伝子の機能に影響し得るか否かの評価は、変異型PRKCB遺伝子によりコードされる変異型PRKCBを発現する細胞を用いて行うことができる。変異型PRKCBを発現する細胞は、いかなる方法によって得られたものであってもよいが、公知の種々の方法により形質転換されて得られた細胞を用いることができる。候補化合物が、変異型PRKCB遺伝子の機能に影響し得るか否かの評価は、候補化合物を接触させた細胞における変異型PRKCB遺伝子の発現量、変異型PRKCBの活性、変異型PRKCBが作用する物質の量・活性、細胞自体の表現型を測定することにより評価することができる。例えば、D427N変異を有する変異型PRKCBは、NF-κB転写因子活性を増強させることから、変異型PRKCBを発現する細胞と候補化合物を接触させた場合に、変異型PRKCBによるNF-κB転写因子活性の増強を抑制し得る物質を、当該遺伝子の機能変化を制御しうる物質であると判定して、スクリーニングすることができる。
【実施例】
【0046】
本発明について理解を深めるために、以下に本発明を実施例に示してより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0047】
(実施例1)T細胞リンパ腫における遺伝子変異および染色体構造異常の同定
本実施例では、T細胞リンパ腫のうちATLとPTCL-NOSと診断された患者であり、インフォームドコンセントが得られた患者について、京都大学の倫理委員会によって承認されたプロトコルに従って、本発明のための検体を採取し、網羅的な遺伝子変異解析を行った。
本実施例では、38例のATL患者から採取した正常組織・腫瘍組織由来の検体を用いて、全エクソーム解析を行い、網羅的な遺伝子変異解析を実施した。同時に、全ゲノム解析(10例)、トランスクリプトーム解析(23例)、メチローム解析(40例)、SNPアレイを用いたコピー数解析(233例)を含めたマルチプラットフォームによる解析を行った。さらに、355例のT細胞リンパ腫検体を用いて同定された遺伝子変異のフォローアップシーケンスを行った。これらを組み合わせて、網羅的にT細胞リンパ腫の遺伝子異常を解明することを試みた。
【0048】
(1)全エクソーム解析による変異遺伝子の同定
まず、38例の初発ATL患者の正常組織および腫瘍組織由来の検体を対象とし、DNAについて全エクソーム解析を行った。ゲノム領域のうち、タンパク質をコードする全エクソン領域(Exome)を、ヒト全エクソンキャプチャキットであるSureSelect Human All Exon V5(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて濃縮し、HiSeq2000(Illumina 社)を用いて塩基配列を決定した。腫瘍組織由来のDNAの塩基配列と正常組織由来のDNAの塩基配列を比較することにより、遺伝子の変異を確認した。
【0049】
全エクソーム解析の結果を
図1に示す。全エクソーム解析により、合計2999個(1例あたり78.9個)の遺伝子変異を検出した。この中で3症例の332遺伝子に関して変異の確認のためにディープシーケンスを行ったところ、全332遺伝子の99.1%の遺伝子で変異が確認された。次に、MutSigCVを用いて解析した結果、PLCG1遺伝子、PRKCB遺伝子、CCR4遺伝子、CCR7遺伝子、CARD11遺伝子、RHOA遺伝子、IRF4遺伝子、GATA3遺伝子、TP53遺伝子、FAS遺伝子、CD58遺伝子、POT1遺伝子、GPR183遺伝子、HNRNPA2B1遺伝子に有意に多い遺伝子変異を認めた。
【0050】
(2)標的シーケンス解析による遺伝子変異の頻度の同定および変異パターンの解析
ATLおよびPTCL-NOS患者を中心とする355例のT細胞リンパ腫患者の腫瘍組織由来の検体を対象として、SureSelect Target Enrichment(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて、標的シーケンスを行った。ターゲット領域としては、全エクソーム解析で同定された遺伝子およびそれらと関連する経路に属する146遺伝子を対象とした。
【0051】
標的シーケンス解析の結果を、
図2、
図3-1~3-4、
図4に示す。全エクソーム解析で認められた遺伝子について、PLCG1遺伝子(37.2%), PRKCB遺伝子(30.7%), CCR4遺伝子(25.9%), CCR7遺伝子(11.0%), CARD11遺伝子(19.7%), RHOA遺伝子(11.0%), IRF4遺伝子(13.0%), GATA3遺伝子(13.8%), TP53遺伝子(18.9%), FAS遺伝子(12.4%), CD58遺伝子(5.9%), POT1遺伝子(9.9%), GPR183遺伝子(5.4%), HNRNPA2B1遺伝子(6.2%)とフォローアップ症例においても高頻度に認めることが明らかとなった。特に、PRKCB遺伝子には新規のホットスポットミスセンス変異(D427N, D630N)が確認され、これらは機能獲得型変異と考えられた。また、CCR4遺伝子, CCR7遺伝子にはC末端領域においてナンセンス変異・フレームシフト変異が高頻度に確認された。さらに、PLCG1遺伝子, CARD11遺伝子, IRF4遺伝子, RHOA遺伝子, GATA3遺伝子は他のリンパ系腫瘍において遺伝子変異が認められることが知られているが、ATLでは、従来報告されていない新規のホットスポットミスセンス変異(PLCG1遺伝子: R48W, S345F, E1163K, D1165H; CARD11遺伝子: E626K; IRF4遺伝子: K59R, L70V; RHOA遺伝子: C16R; GATA3遺伝子: exon2スプライス部位変異)が認められた。また、PRKCB遺伝子, CCR4遺伝子, CCR7遺伝子に加えてGPR183遺伝子, HNRNPA2B1遺伝子は、従来他の悪性腫瘍において変異が報告されていない遺伝子であった。これら以外に、有意に異常を認める遺伝子として、STAT3遺伝子(20.0%)、NOTCH1遺伝子(16.9%)、VAV1遺伝子(15.8%)、TBL1XR1遺伝子(15.5%)、IRF2BP2遺伝子(7.0%)、TET2遺伝子(9.3%)、EP300遺伝子(5.9%)、CSNK1A1遺伝子(5.1%)、CSNK2B遺伝子(4.5%)、FYN遺伝子(3.9%)、B2M遺伝子(4.2%)、CBLB遺伝子(4.5%)、CD28遺伝子(3.1%)、ZFP36L2遺伝子(2.8%)、CSNK2A1遺伝子(2.5%)、ATXN1遺伝子(2.8%)、SYNCRIP遺伝子(2.5%)、S1PR1遺伝子(2.3%)、RELA遺伝子(2.3%)、CDKN2A遺伝子(1.7%)、およびICOS遺伝子(1.4%)を同定した。
【0052】
本実施例により、T細胞リンパ腫の遺伝子異常の全体像を明らかにすることができた。特にPLCG1遺伝子, PRKCB遺伝子, CCR4遺伝子など有意に高頻度な35遺伝子を検索することにより94.6%の患者においてT細胞リンパ腫に特徴的な変異の検出が可能であった。また、PRKCB遺伝子, CCR4遺伝子を検索することにより、45.4%の患者において変異の検出が可能であった。さらに上位3遺伝子(PLCG1遺伝子, PRKCB遺伝子, CCR4遺伝子)を検索することにより63.9%の患者において変異の検出が可能でった。またPLCG1遺伝子, PRKCB遺伝子, CCR4遺伝子, CCR7遺伝子, CARD11遺伝子, STAT3遺伝子を検索することにより73.0%の患者において変異の検出が可能であった。またPLCG1遺伝子, PRKCB遺伝子, CCR4遺伝子とTP53遺伝子を検索することにより、72.7%の患者において変異の検出が可能であった。また、この結果は、これらの遺伝子変異の検出がT細胞リンパ腫の診断に応用可能であることを示している。
【0053】
またATLに関して病型毎に変異頻度を解析した結果、急性型・リンパ腫型では、TP53遺伝子, CD58遺伝子, IRF4遺伝子に遺伝子変異が有意に多く、慢性型・くすぶり型ではSTAT3遺伝子に遺伝子変異が有意に多く確認された(
図5)。この結果は、これらの遺伝子がATLの病型の鑑別および予後予測に有用である可能性を示唆している。さらにSTAT3遺伝子における遺伝子変異はT細胞大顆粒リンパ球性白血病に高頻度に認められる事が知られており、ATLの慢性型・くすぶり型がこの疾患に類似した病態を呈する可能性が示された。
【0054】
(4)SNPアレイを用いたコピー数異常の同定
233例の初発ATL患者の腫瘍組織由来の検体を対象としてGeneChip Human Mapping 250K Nsp(Affymetrix)を用いたSNPアレイにより、コピー数解析を行った。
【0055】
SNPアレイによる遺伝子コピー数の解析結果を
図6に示す。多数の遺伝子においてコピー数の異常が認められた。GISTIC2.0を用いてさらに解析を行ったところ、CD28遺伝子やCD274遺伝子, IL2RA遺伝子, TCRζ遺伝子, BCL11B遺伝子などのコピー数増幅、CDKN2A遺伝子やIKZF2遺伝子, TBL1XR1遺伝子, TNFAIP3遺伝子, BLIMP1遺伝子などのコピー数の欠失を同定した。さらに、T細胞リンパ腫において高頻度に遺伝子変異が認められた遺伝子にコピー数異常が認められ、CCR4遺伝子, IFR4遺伝子, NOTCH1遺伝子, CARD11遺伝子ではコピー数増幅、GATA3遺伝子, CD58遺伝子, TP53遺伝子, GPR183遺伝子ではコピー数の欠失が反復して認められた。これらの遺伝子は、遺伝子変異とコピー数異常の両者の標的になっていると考えられた。
41例のPTCL-NOS患者の腫瘍組織由来の検体を用いて同様の解析を行ったところ、CD28遺伝子のコピー数の増幅など共通するコピー数異常が確認された。
【0056】
(5)全ゲノム解析による遺伝子のコピー数異常および染色体構造異常の同定
10例の初発ATL患者の正常組織および腫瘍組織由来の検体を対象とし、DNAについて全ゲノム解析を行った。全ゲノム解析では、HiSeq2000(Illumina 社)を用いて塩基配列を決定した。
【0057】
全ゲノム解析では、全エクソーム解析で認められた遺伝子変異を検出しただけでなく、新規のコピー数異常および染色体構造異常を同定した(
図7)。特に、14q31.1領域では全ての症例(10/10例)に計38個(1~8個/例)のfocal deletionが認められ、14q31.1領域における異常はATLのゲノム異常を特徴付けるものと考えられた。さらに、7q31.1領域では8/10例に計18個(1~5個/例)、1p21.3領域では6/10例に計10個(1~3個/例)のfocal deletionが認められた。さらに、繰り返し認められる異常として、CD28遺伝子(2/10例)とCD274遺伝子(3/10例)にそれぞれtandem duplicationが認められた。このCD28遺伝子のtandem duplicationはRNAシーケンスにおいてもfusion transcriptとして2例に認められた。また、全ゲノム解析によりHTLV-1ゲノムも検出可能であり、各症例に1~3ヵ所のHTLV-1ゲノムの組み込みが同定された。
【0058】
(実施例2)同定された遺伝子変異の機能解析
実施例1において同定された複数の遺伝子変異について、以下、機能解析を行った。
(1)最も多くのホットスポットミスセンス変異が確認されたPRKCB D427Nは、3次元構造解析から、膜転移に重要なC1Bドメインを繋ぎ止めるNFDモチーフの構造を不安定にさせて、PRKCBを膜転移・活性化しやすくすると考えられた。ATLの分子病態の特徴はNF-κBが活性化していることであり、PRKCBを含むprotein kinase CはNF-κB経路の上流として機能することが知られているため、PRKCB D427変異がNF-κB経路に与える影響について、293T細胞に変異型PRKCB遺伝子(D427変異)を導入することにより評価した。
【0059】
ウェスタンブロットにてPRKCB D427によりIKK(IκBキナーゼ)のリン酸化およびIκBαのリン酸化が亢進することが明らかになった(
図8)。さらに、ルシフェラーゼアッセイを行った結果、野生型PRKCBと比較して、変異型PRKCBにて有意にNF-κB転写活性の増強が認められた(
図9)。
【0060】
同様にT細胞白血病株であるJurkat細胞を用いて同様の実験を行った結果、PMA/Ionomycin投与下にて、変異型PRKCBが有意にNF-κB転写活性を増加させることがわかった(
図9)。
【0061】
これらの結果は、変異型PRKCBがATLにおけるNF-κB経路活性化に寄与していることを示している。
【0062】
(2)初発ATL患者の腫瘍細胞について、CCR4の発現とCCR4変異の有無に相関があるかを検討した。その結果、CCR4変異陽性T細胞リンパ腫症では有意にCCR4発現上昇が認められた(
図10)。
【0063】
さらに、変異型CCR4遺伝子(Y331X変異)をJurkat細胞に導入し、フローサイトメトリーにて膜表面におけるCCR4発現を評価したところ、変異型CCR遺伝子を導入した場合はCCR4発現上昇が認められた(
図11)。さらに、CCL22リガンドに対する受容体の内在化の抑制が認められた。これらの結果から、CCR4における遺伝子変異が膜表面のCCR4の発現を上昇させると考えられ、CCR4遺伝子の変異の有無が抗CCR4抗体に対する反応性と相関する可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の検査方法により、T細胞リンパ腫を容易かつ効果的に検査を行うことができ、T細胞リンパ腫の診断、T細胞リンパ腫の病態の分類、T細胞リンパ腫の予後予測などに有用な情報を得ることができる。さらに、遺伝子のコピー数異常、染色体の特定の領域の欠失を確認して情報を得ることにより、T細胞リンパ腫の検査を高精度で行うことができる。また本発明のスクリーニング方法によれば、新たなT細胞リンパ腫の治療剤を提供することができ、予後不良の病態に対する治療剤もスクリーニングが可能となる。
【配列表】