(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】弁部材
(51)【国際特許分類】
E03C 1/22 20060101AFI20220506BHJP
A47K 1/14 20060101ALI20220506BHJP
F16K 1/36 20060101ALI20220506BHJP
F16K 31/44 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
E03C1/22 B
E03C1/22 C
A47K1/14 B
A47K1/14 F
F16K1/36 H
F16K31/44 B
(21)【出願番号】P 2018036015
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2021-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000157212
【氏名又は名称】丸一株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永原 徹
【審査官】中村 百合子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034782(JP,A)
【文献】特開2009-244392(JP,A)
【文献】特開2007-225669(JP,A)
【文献】特開2004-238980(JP,A)
【文献】特開2015-001144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12- 1/33
F16K 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽体の排水口を閉塞する弁部材であって、
略板状の弁体部と、
前記弁体部の下方に備えられた、側面方向に開口した収納部と、
前記収納部内に収納される、
前記排水口周縁に当接して
前記弁体部と
前記排水口の間を水密に接続する環状パッキンと、
前記収納部側面に、環状に設けられた溝部と、からなり、
前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有すると共に、
前記溝部を
前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成し
、
前記パーティングラインを前記溝部に収納し、前記パーティングラインが前記弁部材の前記溝部内面に当接しないことを特徴とする弁部材。
【請求項2】
前記弁部材において、
前記弁部材の
前記収納部側面、及び
前記収納部側面に対応する
前記環状パッキンの内側側面を、
前記環状パッキンの環状の軸に平行な面としたことを特徴とする請求項1に記載の弁部材。
【請求項3】
前記弁部材の
前記溝部は、弁本体の
前記収納部上面又は
前記収納部下面に連続して設けられてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の弁部材。
【請求項4】
前記収納部上面又は
前記収納部下面のいずれか一方、又は両方の面を、
前記弁部材の外周端部まで段差なく設けてなることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の弁部材。
【請求項5】
前記弁部材を、
前記排水口上を上下に昇降することで
前記排水口を開閉する遠隔操作式の排水栓装置を採用した排水口に用いると共に、
前記溝部は
前記収納部下面に連続して設け、且つ
前記溝部の下面から内径側の側面に断面円弧部分を形成したことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の弁部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、槽体に備えられた排水口を閉塞する弁部材において、止水の信頼性を高めることを目的とした弁部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、流し台や洗面台、浴室など、使用により排水を生じる機器(以下、「排水機器」と記載)において、生じた排水を下水側に処理するため、排水機器の排水を処理する排水配管が広く知られている。
これら排水機器には、通常、流し台であればシンク、洗面台であれば洗面ボウル、浴室であれば浴槽など、排水機器の吐水又は排水を受ける槽体を備えてなり、この槽体の底面に排水口を設け、排水口に連通させた排水配管を介して、吐水又は排水を下水側に排出させるように構成してなる。
ところで、例えば浴槽や洗面ボウル等は、使用時に単に槽体内の吐水又は排水を下水側に排出するだけでなく、槽体内部に貯水したい場合がある。このため槽体底面に設けた排水口を、弁部材によって水密的に閉塞し、その内部に吐水又は排水を貯水する方法が採用されている。
【0003】
特許文献1には、このような槽体の排水口を閉塞する弁部材について記載されている。特許文献1に記載の、弁部材は、以下のように構成されてなる。
弁部材は、略円盤形状の弁体部、該弁体部下面中央に設けられた嵌合部、弁体部の下面であって、嵌合部の周囲に環状に設けられた収納部、からなる弁本体と、該収納部内に収納される、排水口周縁に当接して弁本体と排水口の間を水密に接続する、ゴム等の弾性素材
からなる環状パッキンと、から構成される。
【0004】
上記弁部材が採用される槽体は、特許文献1では浴槽であり、該浴槽に、以下に記載する排水口本体、エルボ部材、レリースワイヤ、支持部材等の配管部材から構成される排水配管が取り付けられている。
浴槽は、底面に取付穴を備えた、上方が開口した箱体である。
排水口本体は、鍔部を備えた筒体であって、その内部に排水口を形成する。また、排水口本体の側面に雄ネジを備えると共に、その内部に、レリースワイヤのガイド部を固定する支持部材を、着脱自在に備えてなる。
エルボ部材は、略90度屈曲した管体であって、上流側端部の内部には、排水口本体の雄ネジと螺合する雌ネジを備えてなり、下流側端部には下水側配管に接続される排出口を備えてなる。また、その側面にレリースワイヤを挿通するための枝管部を備えてなる。
レリースワイヤは、筒状にして側面に可撓性を、軸方向に剛性を備えたアウターチューブと、と、アウターチューブ内を進退する、金属線をコイル状に巻着した、側面に可撓性を、軸方向に剛性を備えたインナーワイヤと、アウターチューブ端部の備えた筒状のガイド部と、インナーワイヤ端部に備えた、ガイド部内に収納されると共に、その先端が弁部材の嵌合部に嵌合する弁軸を備えてなる。レリースワイヤのインナーワイヤの端部に備えられた弁軸は、具体的に記載しない操作部の操作により、ガイド部から突出した状態で固定/固定を解除しスプリング等の弾性体の作用により収納部内に後退、の動作を行う。
【0005】
上記のように構成された弁部材、及び槽体である浴槽とその排水配管の配管部材は、以下のようにして施工される。尚、以下に記載される施工に際して、各部材の接続箇所は、必要に応じ、パッキンや接着により水密的に接続される。
まず、排水口本体を浴槽の取付穴に挿通し、取付穴の周縁上面に排水口本体の鍔部下面を当接させる。次に、エルボ部材の排出口に下水側の配管を接続した上で、排水口本体を回転させ、排水口本体の雄ネジをエルボ部材の雌ネジに螺合させる。このようにして、鍔部下面とエルボ部材上面とで浴槽の取付穴周縁を挟持することで、排水口本体とエルボ部材を浴槽に固定する。
次に、レリースワイヤをエルボ部材の枝管部から挿通した後、排水口内から引き上げ、アウターチューブ端部のガイド部を支持部材に取り付ける。
更に、支持部材を排水口内部に取り付けた上で、弁軸の先端を弁部材の嵌合部に嵌合させて、弁部材と浴槽の配管施工が完了する。
【0006】
上記のように施工した特許文献1の浴槽について、操作部に操作を加えて、インナーワイヤを弁軸側に前進させ、弁軸を上昇させた状態で固定すると、弁軸先端に嵌合した弁部材も上昇した状態で固定され、排水口を覆っていた弁部材が上昇し、排水口が開口する。浴槽内に吐水からなる浴湯が貯水されていた場合、浴湯が排水口からエルボ部材内を通過し、排出口から下水側に排出される。
この状態から再び操作部に操作を加え、弁軸の固定を解除すると、弁部材の自重と、操作部に組み込まれたスプリング等の弾性体の作用によって、インナーワイヤは操作部側に後退し、これに伴って弁軸と共に弁部材が降下する。排水口上に位置した弁部材が降下することで、排水口が弁部材により閉口される。この排水口を閉口した状態にて浴槽内に吐水を行うことで、浴槽内に浴湯が貯水される。
以降、操作部に操作を行い、インナーワイヤの動作に伴う形で、インナーワイヤを収納部から突出した状態で固定/固定を解除しスプリング等の作用にて後退、を選択的に行うことで、インナーワイヤに接続された弁部材を昇降させ、排水口を、排水口から離間した操作部にて遠隔的に開閉することができる。
【0007】
上記浴槽と弁部材において、弁部材の降下時、弁部材は次のようにして水密的に排水口を閉口する。
弁部材において、弁部材の収納部に環状パッキンが収納されて収納されていることで、弁部材の収納部表面と環状パッキンの収納されている部分の表面とは水密的に当接してなる。これにより、弁部材と環状パッキンの間は水密的に接続されている。
排水口の閉口時では、上記のように構成された弁部材が降下し、環状パッキンの外周部分の下面が、排水口周縁の上面と当接する。弁部材は自重や溜められた槽体内の吐水乃至排水の水圧の他、操作部に組み込まれたスプリング等の弾性体等の作用により、下方に向かって強く付勢され、環状パッキンの外周部分の下面が排水口周縁上面に強く当接する。これにより、排水口周縁上面と環状パッキンの間は、閉口時水密的に接続される。
このように、環状パッキンが、弁本体の収納部と排水口周縁上面の両方に水密的に当接することで、弁部材が排水口を水密的に閉口することができる。
【0008】
上記のように、環状パッキンは弁部材の収納部や排水口周縁上面などに水密的に当接する必要がある。このため、環状パッキンの、収納部や排水口周縁上面に当接する部分は、それぞれ当接する部材に高い精度で合致する形状とすると共に、その表面が凹凸を有さない、極めて滑らかな面とする必要がある。
弁本体や環状パッキンの形状を高精度且つ極めて滑らかな面を備えるようにするため、通常環状パッキンは、成形したい成形品の形状を加工した金属製の板、いわゆる金型を利用して製造される。
金型を用いた代表的な成形方法として、コンプレッション成形及びインジェクション成形について、以下に説明する。
コンプレッション成形は、2枚以上の金属板からなる金型を用いて成形品を成形する方法であって、開いた状態の金型上にゴム等の成形素材を載せ、金型を閉じた上で加圧また加熱を行い、冷却等必要な加工を行った後に金型を開き、成形品を得る方法である。ゴム素材を成形する場合、この金型による成形時に架橋を行うため、成形の際に架橋時間も必要となる。
ここで架橋とは、硫黄など架橋剤をゴム材料に混入し、成形時に熱を加えて化学反応させることで、ゴム製品を、安定且つ弾性を有した状態と安定した状態とするものであり、架橋時間とは、上記架橋を完了させるのに必要な加熱の時間である。
インジェクション成形は、2枚以上の金属板からなる金型と、射出成型機と呼ばれる溶融した樹脂素材を金型内に流し込む機材とを用いて成形品を成形する方法であって、閉じた状態の金型内に、射出成型機から溶融した状態の素材を高圧にして流し込み、冷却等必要な加工を行った後に金型を開き、成形品を得る方法である。
ゴムを材料として環状パッキンを成形する場合、コンプレッション成形法が多く利用させる。これは、ゴム原料は、加熱しても溶融状態にならないものがあり、インジェクション成形に不向きであるから、等の理由による。
逆に、弁本体等硬質樹脂からなる部材の場合、インジェクション成形法によって成形品を成形する場合が多い。インジェクション成形法の金型はコンプレッション成形法の金型より高価になる場合が多いが、硬質樹脂素材は高温時に溶融状態となり本成形法で利用できる素材が多いことが挙げられる。
【0009】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、金型を用いて成形品を成形する場合、金型を成す金属板同士の当接部分に若干の隙間や段差などができ、その隙間や段差に沿って成形が行われることで、成形品にパーティングラインと呼ばれる段差乃至筋条を生じてしまう場合がある。特に、環状パッキンを成形する場合に多く利用されるコンプレッション成形法では、成形素材を金型上に配置してから金型を閉じる為、成形品を成形する金型の溝部分以外の、本来金型同士が当接する部分にもゴムの成形素材が配置されてゴム素材の薄膜が生じる。このため、コン
プレッション成形法で成形した環状パッキンでは、パーティングラインに沿って、この薄膜状の成形部分が繋がった状態で成形される。このような、特に大きなパーティングラインに連続する薄膜等は通常、バリと呼ばれる。
環状パッキンの場合、金型は成形品を取り出す都合から、金型を環状パッキンの中心軸に沿う方向に開くよう構成される。また、アンダーカット部分を極力無くすため、金型の継ぎ目は、環状を成す環状パッキンの、外周縁及び内周縁に設けられ、この継ぎ目に沿ってパーティングラインやバリが発生する。
これらパーティングラインやバリは、金型から取り出した後、環状パッキンから引き剥がされるが、その作業は通常手作業で行われ、また素材が軟質素材のためヤスリがけのような面を整える加工が難しいため、どうしても完全に除去できず、環状パッキンに付着したままになってしまう部分が生じる。
前述の通り、環状パッキンは弁部材の収納部や排水口周縁上面などに水密的に当接する必要があり、そのため収納部や排水口周縁上面に当接する部分は、その表面に凹凸を無くし、極めて滑らかな面とする必要があるが、パーティングラインやバリはこの滑らかな面の形成を阻害する凹凸に該当する。
尚、弁本体等に良く利用されるインジェクション成形法の場合は、金型を閉じ金型間を密閉した状態で内部に溶融樹脂を射出するため、コンプレッション成形法に比べてパーティングラインやバリが殆ど発生せず、コンプレッション成形法のような、金型からの取り出した後に加工を行う必要が無い場合が多い。
【0011】
環状パッキンの構成の内、排水口周縁上面に当接する部分に対してパーティングラインの部分が生じないようにすることは比較的容易で、パーティングラインを環状パッキンの外側面方向に設け、当接部分を環状パッキンの下面部分に設けることで、排水口周縁上面に当接する部分にパーティングラインを生じないようにすることができる。
しかし、環状パッキンの構成の内、収納部に当接する部分に対してパーティングラインの部分が生じないようにすることは困難であった。金型の構成上、パーティングラインは、環状パッキンの内側面上を内径側に向かって形成するか、又は、内側面の軸方向端部に、軸方向に向かって形成する必要があり、いずれもパーティングライン及びバリが、弁部材の収納部内面に当接する形となってしまう。
図12に示したように、パーティングラインまたバリが弁部材の収納部内面に当接すると、その部分の環状パッキン表面が収納部と離れてしまい、水密性が失われる可能性が生じる。また、環状パッキンを収納部に収納しても、パーティングラインやバリによって、環状パッキンが全体に歪んで配置されることで、収納部と環状パッキンの間の水密的な接続だけでは無く、排水口周縁上面と環状パッキンとの水密的な当接も失われる可能性も生じる。
【0012】
また、別の課題として、収納部の破損が挙げられる。上記の通り排水口の開閉は弁部材の上下動により行われるが、この上下動は弁軸がガイド部内を上下にスライドすることで行われ、その動作は毎回ほぼ正確に同じである。また、弁部材と排水口との水密性を高めるため、弁軸と弁軸に接続されているインナーワイヤの降下・後退には、スプリング等の弾性体が利用されて、自重による降下・後退よりも強い力が作用している。弁軸の降下時、衝撃によるダメージを受けやすいのは、環状パッキンを収納する収納部の、特に環状パッキンを支える収納部下面と、この収納部下面に接続された収納部側面との継ぎ目部分である。
弁部材の上下動の動作は前述の通り毎回ほぼ正確に同じのため、衝撃の発生もほぼ同じように発生する。収納部下面と収納部側面が頂点のある角部分にて接続されていた場合、開閉時の衝撃は排水口の開閉の毎回において、この角部分の頂点に集中する。このため、長期間にわたり浴槽を使用し、何百回乃至何千回と排水口を開閉し、その都度角部分の頂点の一か所に開閉の衝撃が集中することで、収納部下面と収納部側面が交差する角部分に亀裂など破損する場合がある。収納部下面と収納部側面の継ぎ目部分に円弧が形成されていれば、円弧に沿って衝撃が分散し、一点に集中しないため、上記問題点を解消できるが、
そのためには、設計段階で収納部に円弧を設け、この円弧に緩衝しない形状に環状パッキンの形状を工夫する必要がある。しかし、用途に合わせて弁本体は複数種類用いられるのに対し、環状パッキンは形状が単純なこともあり、一種類のみ、又は弁本体の種類よりも少ない種類で対応するのが一般的である。上記のように、弁本体の収納部に円弧部分を設けると、環状パッキンにこの円弧部分への対応が必要となり、その分、環状パッキンの種類が増え、金型を余計に用意することでコストアップしたり、環状パッキンの種類が増えたことで適正でない環状パッキンを誤使用してしまう、等の問題が発生する。
本発明は上記問題点に鑑み発明されたものであって、成形の際に内側面にパーティングラインやバリを生じた環状パッキンを採用しても特に漏水などの問題を生じない弁部材、及び収納部の破損を防止しつつ環状パッキンに汎用性を持たせることができる弁部材を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の本発明は、槽体の排水口を閉塞する弁部材であって、
略板状の弁体部と、
前記弁体部の下方に備えられた、側面方向に開口した収納部と、
前記収納部内に収納される、前記排水口周縁に当接して前記弁体部と前記排水口の間を水密に接続する環状パッキンと、
前記収納部側面に、環状に設けられた溝部と、からなり、
前記環状パッキンは、前記弁部材の前記溝部を除いた、前記収納部と形状が合致する部分を有すると共に、
前記溝部を前記環状パッキンのパーティングラインの位置に合わせて形成し、
前記パーティングラインを前記溝部に収納し、前記パーティングラインが前記弁部材の前記溝部内面に当接しないことを特徴とする弁部材である。
尚、ここにいう「パーティングライン」とは、バリを含むものである。
【0014】
請求項2に記載の本発明は、前記弁部材において、前記弁部材の前記収納部側面、及び前記収納部側面に対応する前記環状パッキンの内側側面を、前記環状パッキンの環状の軸に平行な面としたことを特徴とする請求項1に記載の弁部材である。
【0015】
請求項3に記載の本発明は、前記弁部材の前記溝部は、弁本体の前記収納部上面又は前記収納部下面に連続して設けられてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の弁部材である。
【0016】
請求項4に記載の本発明は、前記収納部上面又は前記収納部下面のいずれか一方、又は両方の面を、前記弁部材の外周端部まで段差なく設けてなることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の弁部材である。
【0017】
請求項5に記載の本発明は、前記弁部材を、前記排水口上を上下に昇降することで前記排水口を開閉する遠隔操作式の排水栓装置を採用した排水口に用いると共に、
前記溝部は前記収納部下面に連続して設け、且つ前記溝部の下面から内径側の側面に断面円弧部分を形成したことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の弁部材である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明では、弁部材の収納部にパーティングラインを収納する部分を設けることによって、パーティングラインの存在に関係なく、収納部に環状パッキンを適切に収納することができる。尚、ここにいう「パーティングライン」とは、バリを含むものである。
請求項2に記載の発明では、弁部材の内側側面の任意の位置にパーティングラインを形成することができる。
請求項3、請求項4に記載の発明では、環状パッキンが一時的にめくれ上がっても、スムーズに元の状態に復帰させることができる。
請求項5に記載の発明では、本発明を、遠隔操作式の排水栓装置を採用した排水口に用いる場合に、排水口を閉塞する際の衝撃が、収納部の一か所に常に集中しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第一実施例の弁部材を採用した浴槽の排水口示す断面図である。
【
図2】
図1の浴槽排水口の開口状態を示す断面図である。
【
図4】第一実施例の弁部材の部材構成を示す断面図である。
【
図5】第一実施例の弁部材の要部の構成を示す参考図である。
【
図6】第一実施例の弁部材の、環状パッキンがめくれ上がった状態の参考図である。
【
図7】溝部上面を収納部上面に連続させた弁部材を示す参考図である。
【
図8】溝部を収納部側面の中間上に設けた弁部材を示す参考図である。
【
図9】
図8の弁部材の、環状パッキンがめくれ上がった状態の参考図である。
【
図10】収納部下面に段部を設けた弁部材を示す参考図である。
【
図11】
図10の弁部材の、環状パッキンがめくれ上がった状態の参考図である。
【
図12】従来の弁部材の、不具合が生じた状態を示す参考図である。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例を、図面を参照しつつ説明する。
尚、以下の説明では、説明を容易にするため、前述したバリは、パーティングラインに含まれるものとして特に明記しない。
また、
図5乃至
図12においては、各図の要部Aを拡大した図面を、同図面の右側の円弧内に拡大図として図示する。
図1乃至
図6に示した、本発明の第一実施例の弁部材1は、以下に記載した、弁本体2と環状パッキン4とから構成され、浴槽Bの排水口5aに施工される。
弁本体2は平面視正円形状を成す、略円盤状の弁体部2aと、該弁体部2aの下面中央に設けられた嵌合部2bと、弁体部2aの下面であって嵌合部2bの周囲に設けられた収納部3と、から構成される。また、本実施例の弁本体2の弁体部2a上面は、金属製の薄板で覆われてなり、意匠性を向上させてなる。
収納部3について詳述すると、収納部3は、弁本体2の周縁に沿って連続して設けられた、外周方向に開放した断面略コの字形状を成す溝構造であって、収納部上面3aまた収納部下面3bは、弁部材1の軸に対して垂直な平面によって構成されてなり、また、収納部側面3cは収納部上面3a及び収納部下面3bに対して垂直な円筒形状からなる面によって形成されてなる。平面視、この円筒状を成す収納部側面3cは、弁本体2の外周と同心円を成す。
また、収納部上面3a、及び収納部下面3bの外周側端部は、弁部材1の外縁まで連続している。
更に本実施例の弁部材1の収納部3は、
図3等に示したように、Uの字を横に倒したような形状の溝部3dを、収納部側面3cに備えてなる。また、溝部3dの下方の面は、収納部下面3bと連続して設けられてなる。溝部3dの内径側の端部は半円形状を成してなり、このため、溝部3dは、溝部3dの下面から溝部3dの内径側側面にかけて、円弧部分を形成してなる。
環状パッキン4は、リング形状を成す、弾性を有したゴム素材からなる部材であって、弁部材1の溝部3dを除く収納部3と形状が合致する上面、下面、及び内側側面を備えた断面略四角形状を成す本体部4aと、該本体部4aの周縁に設けた、その下面が排水口5aの周縁上面と水密的に当接する断面略逆三角形状を成すヒレ部4bとを備えてなる。
本実施例の環状パッキン4は、前述したコンプレッション成形法によって成形される。金型形状によって、環状パッキン4のパーティングラインPLは、内径側は本体部4aの内側側面の下端部分に、内径側に突出するようにして、外径側はヒレ部4bの最外縁の外側端部部分(略逆三角形の頂点部分)に、外径側に突出して発生するように構成されてなる。
弁部材1は、弁本体2の収納部3に、環状パッキン4を収納させることで構成される。本実施例の弁部材1の場合、収納部3に環状パッキン4を収納すると、環状パッキン4の本体部4a分の上面、下面、及び内側側面が、収納部3の、収納部上面3a、収納部下面3
b、及び溝部3dを除く収納部側面3cに当接することで、環状パッキン4と弁本体2が水密的に接続される。また、本実施例では、環状パッキン4の内径側のパーティングラインPL及び収納部3の溝部3dは、いずれも収納部3の下端部分に設けられてなる。このため、環状パッキン4の内径側のパーティングラインPLの取り残しは、全て収納部3の溝部3d内に収納され、パーティングラインPLが弁体の収納部3内面に当接することは無い。このようにすることで、パーティングラインPLによって環状パッキン4表面が収納部3と離れてしまい、水密性が失われる、という問題の発生を防止することができる。
【0021】
上記弁部材1が施工される浴槽Bは、以下に記載する排水口本体5、エルボ部材6、レリースワイヤ7、支持部材5c等の配管部材から構成される排水配管が取り付けられている。
浴槽Bは、底面に取付穴を備えた、上方が開口した箱体である。
排水口本体5は、鍔部5bを備えた筒体であって、その内部に排水口5aを形成する。また、排水口本体5の側面に雄ネジを備えると共に、その内部に、レリースワイヤ7のガイド部7bを固定する支持部材5cを、着脱自在に備えてなる。
エルボ部材6は、略90度屈曲した管体であって、上流側端部の内部には、排水口本体5の雄ネジと螺合する雌ネジを備えてなり、下流側端部には下水側配管に接続される排出口6aを備えてなる。また、その側面にレリースワイヤ7を挿通するための枝管部6bを備えてなる。
レリースワイヤ7は、筒状にして側面に可撓性を、軸方向に剛性を備えたアウターチューブ7aと、と、アウターチューブ7a内を進退する、金属線をコイル状に巻着した、側面に可撓性を、軸方向に剛性を備えたインナーワイヤ7cと、アウターチューブ7a端部の備えた筒状のガイド部7bと、インナーワイヤ7c端部に備えた、ガイド部7b内に収納されると共に、その先端が弁部材1の嵌合部2bに嵌合する弁軸7dを備えてなる。レリースワイヤ7のインナーワイヤ7cの端部に備えられた弁軸7dは、具体的に記載しない操作部の操作により、ガイド部7bから突出した状態で固定/固定を解除しスプリング等の弾性体の作用により収納部3内に後退、の動作を行う。
【0022】
上記のように構成された弁部材1、及び槽体である浴槽Bとその排水配管の配管部材は、以下のようにして施工される。尚、以下に記載される施工に際して、各部材の接続箇所は、必要に応じ、パッキンや接着により水密的に接続される。
まず、排水口本体5を浴槽Bの取付穴に挿通し、取付穴の周縁上面に排水口本体5の鍔部5b下面を当接させる。次に、エルボ部材6の排出口6aに下水側の配管を接続した上で、排水口本体5を回転させ、排水口本体5の雄ネジをエルボ部材6の雌ネジに螺合させる。このようにして、鍔部5b下面とエルボ部材6上面とで浴槽Bの取付穴周縁を挟持することで、排水口本体5とエルボ部材6を浴槽Bに固定する。
次に、レリースワイヤ7をエルボ部材6の枝管部6bから挿通した後、排水口5a内から引き上げ、アウターチューブ7a端部のガイド部7bを支持部材5cに取り付ける。
更に、支持部材5cを排水口5a内部に取り付けた上で、弁軸7dの先端を弁部材1の嵌合部2bに嵌合させて、弁部材1と浴槽Bの配管施工が完了する。
【0023】
上記のように施工した本実施例の浴槽Bにおいて、操作部に操作を加えて、インナーワイヤ7cを弁軸7d側に前進させ、弁軸7dを上昇させた状態で固定すると、弁軸7d先端に嵌合した弁部材1も上昇した状態で固定され、排水口5aを覆っていた弁部材1は排水口5a上を上昇し、排水口5aが開口する。浴槽B内に浴湯が貯水されていた場合、浴湯が排水口5aからエルボ部材6内を通過し、排出口6aから下水側に排出される。
この状態から再び操作部に操作を加え、弁軸7dの固定を解除すると、弁部材1の自重と、操作部に組み込まれたスプリング等の弾性体の作用によって、インナーワイヤ7cは操作部側に後退し、これに伴って弁軸7dと共に弁部材1が降下する。排水口5a上に位置した弁部材1が降下することで、排水口5aが弁部材1により閉口される。この排水口5
aを閉口した状態にて浴槽B内に吐水を行うことで、浴槽B内に浴湯が貯水される。
以降、操作部に操作を行い、インナーワイヤ7cの動作に伴う形で、インナーワイヤ7cを収納部3から突出した状態で固定/固定を解除しスプリング等の作用にて後退、を選択的に行うことで、インナーワイヤ7cに接続された弁部材1を昇降させることで、排水口5aを、排水口5aから離間した操作部にて遠隔的に開閉することができる。
【0024】
上記浴槽Bと弁部材1において、弁部材1の降下時、弁部材1は次のようにして水密的に排水口5aを閉口する。
弁部材1において、弁部材1の収納部3に環状パッキン4が収納されて収納されていることで、弁部材1の収納部3表面と環状パッキン4の収納されている部分の表面とは水密的に当接してなる。これにより、弁部材1と環状パッキン4の間は水密的に接続されている。
特に、本実施例では、溝部3d内にパーティングラインPLが収納されることで、溝部3d以外の、収納部3表面と環状パッキン4の収納されている部分の表面とは水密的に当接することができる。
排水口5aの閉口時では、上記のように構成された弁部材1が降下し、環状パッキン4のヒレ部4bの下面が、排水口5a周縁の上面と当接する。弁部材1は自重や溜められた槽体内の吐水乃至排水の水圧の他、操作部に組み込まれたスプリング等の弾性体等の作用により、下方に向かって強く付勢され、環状パッキン4の外周部分の下面が排水口5a周縁上面に強く当接する。
尚、環状パッキン4の、外周側のパーティングラインPLは、ヒレ部4bの側面に形成され、水密的な接続を行うヒレ部4b下面には生じないため、排水口5aと環状パッキン4の間の止水は問題なく行うことができる。
これにより、排水口5a周縁上面と環状パッキン4の間は、閉口時水密的に接続される。
このように、環状パッキン4が、弁本体2の収納部3と排水口5a周縁上面の両方に水密的に当接することで、弁部材1が排水口5aを水密的に閉口することができる。
【0025】
上記の通り、本実施例の弁部材1は、レリースワイヤ7を介して、操作部に加えられた操作により、弁部材1が排水口5a上を上昇して排水口5aを開口/弁部材1が排水口5a上を降下して排水口5aを閉口、を行う、遠隔操作式の排水栓装置に用いられる弁部材1である。
【0026】
上記した弁部材1において、使用を繰り返す際に、開閉時、特に閉口時の弁部材1の降下の際に、弁部材1に加わった衝撃により、
図6に示したように、環状パッキン4が収納部3に対してめくれ上がるような状態となる場合がある。このような場合でも、本実施例の弁部材1は、収納部上面3a及び収納部下面3bの両方の面を、弁部材1の外周端部まで段差なく設けてなるため、環状パッキン4の本体部4aの内周側の角部分が収納部3の上方また下方に引っかかったりすることがないため、スムーズに
図5のような通常の状態に戻り、漏水などが発生することが無い。
【0027】
また、本実施例では、収納部下面3bと収納部側面3cが交差する部分に溝部3dを設けてなり、該溝部3dは、その下面が収納部下面3bに連続すると共に、溝部3dの下面から溝部3dの内径側の側面にかけて断面円弧形状となるように構成してなる。このように構成したため、円弧形状で衝撃が分散し、長期間弁部材1を用いて排水口5aの開閉を繰り返しても、弁部材1の収納部3が破損しないようにすることができる。また、円弧形状は溝部にあるため、環状パッキン4の本体部4aに円弧形状に対応した形状を設けなくとも、支障なく環状パッキン4を収納部3に収納でき、収納部3の円弧形状のために環状パッキン4の種類を増やす必要が無い。
【0028】
本発明の実施例は上記のようであるが、本発明は上記実施例に限定されるものでは無く、発明の主旨を変更しない範囲で自由に変更が可能である。
例えば、上記実施例では、溝部3dまたパーティングラインを、収納部側面3cの下端位置に設けてなるが、本発明は上記実施例に限定されるものでは無く、
図7のように収納部側面3cの上端位置であって、収納部上面3aが溝部3dの上面に連続するように設けたり、
図8のように収納部側面3c上であって、収納部3の上面また下面とは連続しない位置に設けても構わない。特に、環状パッキン4の内側側面を、環状パッキン4の環状の軸に平行な面とした場合、金型構造的に環状パッキン4の内側側面上にアンダーカットとなる部分が生じないため、環状パッキン4の内側側面上の任意の位置にパーティングラインを形成することが可能となり、溝部3dを収納部3の上面また下面とは連続しない位置に設けることが容易となる。
但し、
図8のようにして、溝部3dを収納部上面3aまた収納部下面3bとは連続しない位置に設けた場合、溝部3dの形成位置によっては、開閉時、特に閉口時の弁部材1の降下の際に、弁部材1に加わった衝撃により、
図9に示したように、環状パッキン4が収納部3に対してめくれ上がると共に、環状パッキン4の本体部4aの角部分が溝部3dに引っかかり、環状パッキン4のめくれ上がりが維持されるような状態となる場合があるため、溝部3dを収納部上面3aまたは収納部下面3bに連続するように構成する方が好適である。
尚、
図10のようにして、収納部上面3a又は収納部下面3bに段部3eを設けた場合も、弁部材1に加わった衝撃により、
図11に示したように、環状パッキン4が収納部3に対してめくれ上がると共に、環状パッキン4の本体部4aの角部分が段部3eに引っかかり、環状パッキン4のめくれ上がりが維持されるような状態となる場合があるため、収納部上面3a又は収納部下面3bのいずれか一方、又は両方の面を、弁部材4の外周端部まで段差なく設けて構成する方が好適である。
【0029】
また上記実施例では、弁部材1は浴槽Bの排水口5aに用いられる弁部材1であって、遠隔操作式の排水栓装置を採用した排水口5aに用いられてなるが、本発明は上記実施例に限定されるものでは無く、洗面台や流し台等、どの様な排水機器の排水口5aを閉塞する弁部材1に採用しても良い。
また遠隔操作式の排水栓装置では無く、チェーン等で槽体に取り付けられ、使用者の手作業により排水口5aを閉塞する排水機器の排水口5aに採用しても構わない。
【符号の説明】
【0030】
1 弁部材 2 弁本体
2a 弁体部 2b 嵌合部
3 収納部 3a 収納部上面
3b 収納部下面 3c 収納部側面
3d 溝部 3e 段部
4 環状パッキン 4a 本体部
4b ヒレ部 5 排水口本体
5a 排水口 5b 鍔部
5c 支持部材 6 エルボ部材
6a 排出口 6b 枝管部
7 レリースワイヤ 7a アウターチューブ
7b ガイド部 7c インナーワイヤ
7d 弁軸 B 浴槽
PL パーティングライン