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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】遮光織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 11/00 20060101AFI20220506BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20220506BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20220506BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220506BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20220506BHJP
   D03D 15/54 20210101ALI20220506BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
D01F1/10
D01F6/92 301Q
D03D1/00 Z
D03D15/20 100
D03D15/54
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021163364
(22)【出願日】2021-10-04
【審査請求日】2021-10-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500447037
【氏名又は名称】東陽織物株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】袋 省治
(72)【発明者】
【氏名】隅谷 秀三
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-007204(JP,B1)
【文献】特開2016-148133(JP,A)
【文献】特開2017-12067(JP,A)
【文献】実開昭62-159787(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0136311(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
A47H1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメント糸からなる経糸とマルチフィラメント糸からなる緯糸とが互いに直角の方向に交錯して、表面層、中間層、及び、裏面層を構成する織物であって、
前記表面層及び前記裏面層は、いずれも主として前記経糸で構成され、前記中間層は、主として前記緯糸で構成されており、
織物組織図において、経糸番号L(Lは、正の整数)は、下記の式(1)で示される緯糸番号Mの上に浮く個所(経糸番号Lと緯糸番号Mとが交差する箇所)を1つの基点Lとし、当該基点Lから織物の経糸方向においてn本(nは、正の整数)の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという構成を織物の全長に亘って繰り返すことにより、
M=(L-1)×(n-2)+1・・・・・・・(1)
前記表面層及び前記裏面層を構成する一連の経糸が前記中間層を外観上被覆すると共に、JIS L 1055:2009「カーテンの遮光性試験方法(A法)」に準拠して測定した遮光率の値が、99.80%以上である遮光性を発現することを特徴とする遮光織物。
【請求項2】
マルチフィラメント糸からなる経糸とマルチフィラメント糸からなる緯糸とが互いに直角の方向に交錯して、表面層、中間層、及び、裏面層を構成する織物であって、
前記表面層及び前記裏面層は、いずれも主として前記経糸で構成され、前記中間層は、主として前記緯糸で構成されており、
織物組織図において、経糸番号L(Lは、正の整数)は、下記の式(1)で示される緯糸番号Mの上に浮く個所(経糸番号Lと緯糸番号Mとが交差する箇所)を1つの基点Lとし、当該基点Lから織物の経糸方向においてn本(nは、正の整数)の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという構成を織物の全長に亘って繰り返すことにより、
M=(L-1)×(n-2)+1・・・・・・・(1)
前記表面層及び前記裏面層を構成する一連の経糸が前記中間層を外観上被覆すると共に、JIS L 1055:2009「カーテンの遮光性試験方法(A法)」に準拠して測定した遮光率の値が、99.99%以上である遮光性を発現することを特徴とする遮光織物。
【請求項3】
経糸番号Lは、前記基点Lにおいて緯糸の上に浮き、緯糸番号Mから緯糸番号(M+n-1)までのn本の緯糸の上に浮いた状態にあり、
これに隣接する経糸番号(L-1)は、基点(L-1)において緯糸の上に浮き、緯糸番号(M-n+2)から緯糸番号(M+1)までのn本の緯糸の上に浮いた状態にあることから、
経糸番号Lと経糸番号(L-1)との隣接する2本の経糸が、織物の経糸方向において相反する方向から緯糸番号Mと緯糸番号(M+1)との隣接する2本の緯糸を把持した状態にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の遮光織物。
【請求項4】
前記経糸が経糸方向においてn本の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈むときの正の整数nの値は、4~9の範囲内にあることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の遮光織物。
【請求項5】
前記マルチフィラメント糸からなる経糸は、総繊度が30~250dtexの範囲内、単糸繊度が0.5~4dtexの範囲内にあるポリエステル繊維又はポリアミド繊維からなり、且つ、前記経糸の打ち込み本数が、200~600本/2.54cmの範囲内にあり、
前記マルチフィラメント糸からなる緯糸は、総繊度が100~700dtexの範囲内、単糸繊度が1~5dtexの範囲内にあるポリエステル繊維又はポリアミド繊維からなり、且つ、前記緯糸の打ち込み本数が、50~150本/2.54cmの範囲内にあることを特徴とする請求項1~のいずれか1つに記載の遮光織物。
【請求項6】
前記緯糸は、黒色又は濃色の原着糸又は染色糸からなり、L表色系における明度の値(L値)が30以下であることを特徴とする請求項に記載の遮光織物。
【請求項7】
前記マルチフィラメント糸からなる経糸は、酸化チタン(TiO)などの無機微粒子を含有したものであって、一般財団法人日本繊維製品品質技術センターの断熱性試験法(赤外ランプ60℃法)に準拠して測定した断熱効果率の値が、50%以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1つに記載の遮光織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光織物に関するものである。特に、表裏共に優美な外観を備え、高度かつ安定した遮光性を有することを特徴とする遮光織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、遮光カーテンなどの用途に使用される遮光織物は、例えば、両面サテン織物、緯糸二重組織片面サテン織物などが一般的であったが、染色加工による色相の違いで遮光率が安定せず、高性能の遮光織物を安定して供給することができなかった。また、黒色の原着糸を中間層に多く使用して高性能の遮光織物を製織しようとした場合、織物の表面又は裏面の一部に中間層の黒色の原着糸が露出して外観を損ねると共に、織物の風合いを損ねるという問題があった。
【0003】
そこで、本発明者らは以前に、下記特許文献1に示す遮光織物を提案した。この遮光織物は、緯糸に黒色の原着糸を使用した経二重サテン織物であって、サテン織物のゆえに柔らかい風合いをもち、JIS L 1055:2009「カーテンの遮光性試験方法(A法)」で遮光率1級の性能を初めて実現した遮光織物であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3117957号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記のJIS遮光率1級においては、上記試験法で測定した遮光率の値が、99.99%以上という極めて高度な性能が要求される。よって、上記特許文献1に示す遮光織物においても、僅かではあるが99.99%を下回る製品が混在する場合があった。このような状況では、JIS遮光率1級の製品として安定的に市場に供給することができず、JIS遮光率2級(遮光率の値が、99.80%以上)の商品とせざるを得ない場合もあった。
【0006】
そこで、本発明は、以上のことに対処して、上記特許文献1の遮光織物を更に改良し、JIS遮光率1級の性能を安定して発揮し、且つ、中間層の糸が露出して外観を損ねることがなく、柔軟な風合いを発現する遮光織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、経糸と緯糸に共にマルチフィラメント糸を使用し、経二重サテン織物ではないがサテン織物のように経糸が複数本の緯糸の上に浮き、次に複数本の緯糸の下に沈むという規則的な構成を採用することにより、上記目的を達成できることを見出し本発明の完成に至った。
【0008】
即ち、本発明に係る遮光織物は、請求項1の記載によると、
マルチフィラメント糸からなる経糸とマルチフィラメント糸からなる緯糸とが互いに直角の方向に交錯して、表面層、中間層、及び、裏面層を構成する織物であって、
前記表面層及び前記裏面層は、いずれも主として前記経糸で構成され、前記中間層は、主として前記緯糸で構成されており、
織物組織図において、経糸番号L(Lは、正の整数)は、下記の式(1)で示される緯糸番号Mの上に浮く個所(経糸番号Lと緯糸番号Mとが交差する箇所)を1つの基点Lとし、当該基点Lから織物の経糸方向においてn本(nは、正の整数)の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという構成を織物の全長に亘って繰り返すことにより、
M=(L-1)×(n-2)+1・・・・・・・(1)
前記表面層及び前記裏面層を構成する一連の経糸が前記中間層を外観上被覆すると共に、JIS L 1055:2009「カーテンの遮光性試験方法(A法)」に準拠して測定した遮光率の値が、99.80%以上である遮光性を発現することを特徴とする。
また、本発明に係る遮光織物は、請求項2の記載によると、
マルチフィラメント糸からなる経糸とマルチフィラメント糸からなる緯糸とが互いに直角の方向に交錯して、表面層、中間層、及び、裏面層を構成する織物であって、
前記表面層及び前記裏面層は、いずれも主として前記経糸で構成され、前記中間層は、主として前記緯糸で構成されており、
織物組織図において、経糸番号L(Lは、正の整数)は、下記の式(1)で示される緯糸番号Mの上に浮く個所(経糸番号Lと緯糸番号Mとが交差する箇所)を1つの基点Lとし、当該基点Lから織物の経糸方向においてn本(nは、正の整数)の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという構成を織物の全長に亘って繰り返すことにより、
M=(L-1)×(n-2)+1・・・・・・・(1)
前記表面層及び前記裏面層を構成する一連の経糸が前記中間層を外観上被覆すると共に、JIS L 1055:2009「カーテンの遮光性試験方法(A法)」に準拠して測定した遮光率の値が、99.99%以上である遮光性を発現することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項1又は2に記載の遮光織物であって、
経糸番号Lは、前記基点Lにおいて緯糸の上に浮き、緯糸番号Mから緯糸番号(M+n-1)までのn本の緯糸の上に浮いた状態にあり、
これに隣接する経糸番号(L-1)は、基点(L-1)において緯糸の上に浮き、緯糸番号(M-n+2)から緯糸番号(M+1)までのn本の緯糸の上に浮いた状態にあることから、
経糸番号Lと経糸番号(L-1)との隣接する2本の経糸が、織物の経糸方向において相反する方向から緯糸番号Mと緯糸番号(M+1)との隣接する2本の緯糸を把持した状態にあることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項1~3のいずれか1つに記載の遮光織物であって、
前記経糸が経糸方向においてn本の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈むときの正の整数nの値は、4~9の範囲内にあることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項1~のいずれか1つに記載の遮光織物であって、
前記マルチフィラメント糸からなる経糸は、総繊度が30~250dtexの範囲内、単糸繊度が0.5~4dtexの範囲内にあるポリエステル繊維又はポリアミド繊維からなり、且つ、前記経糸の打ち込み本数が、200~600本/2.54cmの範囲内にあり、
前記マルチフィラメント糸からなる緯糸は、総繊度が100~700dtexの範囲内、単糸繊度が1~5dtexの範囲内にあるポリエステル繊維又はポリアミド繊維からなり、且つ、前記緯糸の打ち込み本数が、50~150本/2.54cmの範囲内にあることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、請求項の記載によると、請求項に記載の遮光織物であって、
前記緯糸は、黒色又は濃色の原着糸又は染色糸からなり、L表色系における明度の値(L値)が30以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項の記載によると、1~6のいずれか1つに記載の遮光織物であって、
前記マルチフィラメント糸からなる経糸は、酸化チタン(TiO)などの無機微粒子を含有したものであって、一般財団法人日本繊維製品品質技術センターの断熱性試験法(赤外ランプ60℃法)に準拠して測定した断熱効果率の値が、50%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によれば、本発明に係る遮光織物は、マルチフィラメント糸からなる経糸とマルチフィラメント糸からなる緯糸とが互いに直角の方向に交錯して、表面層、中間層、及び、裏面層を構成する。また、表面層及び裏面層は、いずれも主として経糸で構成され、中間層は、主として緯糸で構成されている。
【0017】
このような構成において、織物組織図における経糸番号L(Lは、正の整数)は、下記の式(1)で示される緯糸番号Mの上に浮く個所(経糸番号Lと緯糸番号Mとが交差する箇所)を1つの基点Lとし、当該基点Lから織物の経糸方向においてn本(nは、正の整数)の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという構成を織物の全長に亘って繰り返す。
【0018】
M=(L-1)×(n-2)+1・・・・・・・(1)
その結果、表面層及び裏面層を構成する一連の経糸が中間層を外観上被覆すると共に、遮光性を発現する。このことにより、JIS遮光率1級の性能を安定して発揮し、且つ、中間層の糸が露出して外観を損ねることがなく、柔軟な風合いを発現する遮光織物を提供することができる。
【0019】
また、上記構成によれば、経糸番号Lは、基点Lにおいて緯糸の上に浮き、緯糸番号Mから緯糸番号(M+n-1)までのn本の緯糸の上に浮いた状態にある。一方、経糸番号Lに隣接する経糸番号(L-1)は、基点(L-1)において緯糸の上に浮き、緯糸番号(M-n+2)から緯糸番号(M+1)までのn本の緯糸の上に浮いた状態にある。
【0020】
この状態において、経糸番号Lと経糸番号(L-1)との隣接する2本の経糸が、織物の経糸方向において相反する方向から緯糸番号Mと緯糸番号(M+1)との隣接する2本の緯糸を把持した状態にある。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0021】
また、上記構成によれば、経糸が経糸方向においてn本の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈むときの正の整数nの値は、4~9の範囲内にあってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【0022】
また、上記構成によれば、マルチフィラメント糸からなる経糸は、総繊度が30~250dtexの範囲内、単糸繊度が0.5~4dtexの範囲内にあるポリエステル繊維又はポリアミド繊維からなり、且つ、経糸の打ち込み本数が、200~600本/2.54cmの範囲内であってもよい。
【0023】
また、これに加えて、マルチフィラメント糸からなる緯糸は、総繊度が100~700dtexの範囲内、単糸繊度が1~5dtexの範囲内にあるポリエステル繊維又はポリアミド繊維からなり、且つ、緯糸の打ち込み本数が、50~150本/2.54cmの範
囲内であってもよい。これらのことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、緯糸は、黒色又は濃色の原着糸又は染色糸からなり、L表色系における明度の値(L値)が30以下であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【0025】
また、上記構成によれば、JIS L 1055:2009「カーテンの遮光性試験方法(A法)」に準拠して測定した遮光率の値が、99.80%以上であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【0026】
また、上記構成によれば、JIS L 1055:2009「カーテンの遮光性試験方法(A法)」に準拠して測定した遮光率の値が、99.99%以上であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【0027】
また、上記構成によれば、マルチフィラメント糸からなる経糸は、酸化チタン(TiO)などの無機微粒子を含有したものであって、一般財団法人日本繊維製品品質技術センターの断熱性試験法(赤外ランプ60℃法)に準拠して測定した断熱効果率の値が、50%以上であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮すると共に、更なる性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る遮光織物の一例(実施例1の遮光織物)の織物組織図である。
図2】上記特許文献1に示した従来の遮光織物の一例(比較例1の遮光織物)の織物組織図である。
図3】実施例1と比較例1の各遮光織物の外観(表面における経糸の状態)を示す(ア)実施例1、(イ)比較例1の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施形態及び実施例1により具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態及び実施例1にのみ限定されるものではない。
【0030】
まず、本実施形態において、遮光織物は、マルチフィラメント糸からなる経糸とマルチフィラメント糸からなる緯糸とが互いに直角の方向に交錯した織物であって、表面層、中間層、及び、裏面層から構成されている。すなわち、3層構造の織物であって、外観を表現する表面層及び裏面層は、いずれも主として経糸で構成される。一方、3層構造の内部にあって遮光性を発揮する中間層は、主として緯糸で構成される。このことにより、表面層及び裏面層を構成する一連の経糸が、中間層を構成する緯糸を外観上被覆するようになり、高い遮光性を発現することができる。なお、経糸と緯糸との糸使いの詳細については後述する。
【0031】
まず、本実施形態に係る遮光織物の織物組織を織物組織図により説明する。図1は、本実施形態に係る遮光織物の一例(後述の実施例1の遮光織物)の織物組織図である。図1の織物組織図においては、経糸が2本以上の緯糸の上に連続して浮く場合を示している。この場合、経糸が連続して緯糸の上に浮く数に相当する目数(以下「飛数」という)を連続して黒く塗っている。一方、経糸が連続して緯糸の下に沈む数に相当する目数(これも「飛数」という)を連続して白で残している。
【0032】
図1の織物組織図においては、経糸番号1(図のA)は、緯糸番号1(図のB)の上に浮く個所(経糸番号1と緯糸番号1とが交差する箇所)を基点1とし、当該基点1からn本(図1においては7本)の緯糸(緯糸番号1~7)の上に浮き、次に緯糸番号8(図のD)からn本(図1においては7本)の緯糸(緯糸番号8~14)の下に沈み、次に緯糸番号15(図示せず)の上に浮くという構成を繰り返している。なお、経糸番号1は、基点1から反対の方向(図示下方)には、7本の緯糸(図示せず)の下に沈み、同様の構成を繰り返している。
【0033】
同様に、図1の織物組織図においては、経糸番号2は、緯糸番号6の上に浮く個所を基点2とし、当該基点2から7本の緯糸(緯糸番号6~12)の上に浮き、次に緯糸番号13から7本の緯糸(全てを図示してはいない)の下に沈み、次に緯糸番号20(図示せず)の上に浮くという構成を繰り返している。なお、経糸番号2は、基点2から反対の方向(緯糸番号5以下の方向)には7本の緯糸(全てを図示してはいない)の下に沈み、同様の構成を繰り返している。
【0034】
ここで、上記経糸番号1及び経糸番号2の構成を一般式に置き換える。これによると、経糸番号L(Lは、正の整数)は、緯糸番号Mの上に浮く個所(経糸番号Lと緯糸番号Mとが交差する箇所)を基点Lとし、当該基点Lから織物の経糸方向においてn本(nは、正の整数)の緯糸の上に浮き(飛数n)、次にn本の緯糸の下に沈み(飛数n)、次に緯糸の上に浮くという構成を織物の全長に亘って繰り返す。
【0035】
ここで、緯糸番号Mを経糸番号Lと飛数nを用いて一般式として表す。まず、経糸番号1は、緯糸番号1の上に浮く個所を基点1とし、当該基点1からn本の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという構成を繰り返す。次に、経糸番号1に隣接する経糸番号2は、緯糸番号(n-1)の上に浮く個所を基点2とし、当該基点2からn本(図1においては、7本)の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという経糸番号1と同様の構成を繰り返す。
【0036】
次に、経糸番号2に隣接する経糸番号3は、緯糸番号(2n-3)の上に浮く個所を基点3とし、当該基点3からn本の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという経糸番号1と同様の構成を繰り返す。次に、経糸番号3に隣接する経糸番号4は、緯糸番号(3n-5)の上に浮く個所を基点4とし、当該基点4からn本の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという経糸番号1と同様の構成を繰り返す。
【0037】
これらの関係を一般化すると、経糸番号(L-1)に隣接する経糸番号Lは、緯糸番号〔(L-1)×(n-1)-(L-2)〕の上に浮く個所を基点Lとし、当該基点Lからn本の緯糸の上に浮き、次にn本の緯糸の下に沈み、次に緯糸の上に浮くという経糸番号1と同様の構成を繰り返す。すなわち、緯糸番号Mが、経糸番号Lと飛数nを用いて、
M=(L-1)×(n-1)-(L-2)
の一般式で表すことができた。この式を整理すると、下記の式(1)
M=(L-1)×(n-2)+1・・・・・・・(1)
が得られた。
【0038】
図1の織物組織図は、一般的な表現形式に倣って左側下端の目(経糸番号1と緯糸番号1が重なる部分)から始め、順次右側に展開されているが、上記式(1)により上下左右いずれの方向にも展開される。ここで、飛数nは、経糸が緯糸を飛ぶ(浮くか沈むか)本数であり、正の整数となる。本発明において、飛数nの値は、正の整数であれば織物としては成立する。しかし好ましくは、飛数nの値は4~9の範囲内にあることが好ましい。飛数nの値が4より小さい場合には、表面層と裏面層とが中間層を外観上で十分に被覆できない部分が生じ、遮光性にも影響することがある。一方、飛数nの値が9より大きい場合には、織物に目よれが生じることがあり、遮光性にも影響することがある。
【0039】
また、本実施形態においては、経糸が緯糸の上に浮く飛数nの値と、緯糸の下に沈む飛数nの値が同じであることが好ましい。経糸が緯糸の上に浮く飛数nと、緯糸の下に沈む飛数nの値を変化させて遮光織物を製織することも可能である。しかし、この場合にも織物に目よれが生じることがあり、遮光性にも影響することがある。
【0040】
次に、本実施形態に係る遮光織物の織物組織で特徴的な部分は、隣接する2本の経糸と隣接する2本の緯糸との関係にある。すなわち、経糸番号Lは、基点Lにおいて緯糸の上に浮き、緯糸番号Mから緯糸番号(M+n-1)までのn本の緯糸の上に浮いた状態にある。また、経糸番号Lに隣接する経糸番号(L-1)は、基点(L-1)において緯糸の上に浮き、緯糸番号(M-n+2)から緯糸番号(M+1)までのn本の緯糸の上に浮いた状態にある。この状態においては、経糸番号Lと経糸番号(L-1)との隣接する2本の経糸が、織物の経糸方向において相反する方向から緯糸番号Mと緯糸番号(M+1)との隣接する2本の緯糸を把持した状態にある。
【0041】
この状態を図1の織物組織図において具体的に説明する。図1において、隣接する2本の経糸(経糸番号1と経糸番号2)と、隣接する2本の緯糸(緯糸番号6と緯糸番号7)との関係に着目する。まず、経糸番号2は、基点2において緯糸6の上に浮き、緯糸番号6から緯糸番号12までの7本の緯糸の上に浮いた状態にある。また、経糸番号2に隣接する経糸番号1は、基点1において緯糸の上に浮き、緯糸番号1から緯糸番号7までの7本の緯糸の上に浮いた状態にある。
【0042】
この状態においては、経糸番号2は、緯糸の上に浮いた状態で図示上方から下方に向かって下がってきて、緯糸番号6と緯糸番号5との間で緯糸番号5の下に沈み込む。一方、経糸番号1は、緯糸の上に浮いた状態で図示下方から上方に向かって上がってきて、緯糸番号7と緯糸番号8との間で緯糸番号8の下に沈み込む。この領域Xを図1に示す。
【0043】
領域Xにおいては、隣接する2本の緯糸(緯糸番号6と緯糸番号7)が、図示上方から下方に向かって下がってきた経糸番号2と、逆に図示下方から上方に向かって上がってきた経糸番号1とによって、上下方向(相反する方向)からしっかりと把持された状態となっている。隣接する2本の緯糸(緯糸番号6と緯糸番号7)に対する領域Xのような把持状態は、図1には示されていないが図の左右方向に規則的に繰り返される。同様に、他の全ての隣接する2本の緯糸の組合せに対しても、領域Xと同様の把持状態が規則的に繰り返される。
【0044】
なお、本実施形態に係る遮光織物は、図1から分かるように表裏対象の織物組織を有している。従って、図1の表面層の領域Xと同様の把持状態は、裏面層においても規則的に繰り返される。例えば、図1に示す領域Yの部分である。この領域Yの部分においては、隣接する2本の緯糸(緯糸番号9と緯糸番号10)が隣接する2本の経糸(経糸番号3と経糸番号4)によって上下方向(相反する方向)からしっかりと把持された状態となっている。隣接する2本の緯糸(緯糸番号9と緯糸番号10)に対する領域Yのような把持状態は、図1には示されていないが図の左右方向に規則的に繰り返される。同様に、他の全ての隣接する2本の緯糸の組合せに対しても、領域Yと同様の把持状態が規則的に繰り返される。
【0045】
本実施形態においては、上述のように隣接する2本の経糸が隣接する2本の緯糸を上下方向からしっかりと把持する状態が遮光織物の表面層及び裏面層で繰り返されることにより、経糸の飛数nの値が大きくなっても織物組織が安定し、織物の柔軟性を維持し、且つ、一連の経糸が中間層を外観上被覆すると共に、高度な遮光性を発現するものと考えられる。
【0046】
なお、本発明者らは、隣接する2本の経糸が把持する隣接する緯糸の本数についても検討を重ねた。その結果、隣接する2本の経糸が把持する隣接する緯糸の本数が1本又は3本であっても遮光織物を製織することは可能である。しかし、この場合にも織物に目よれが生じて一連の経糸が中間層を外観上被覆することができず、遮光性にも影響することがあり、良好な遮光織物を得ることができなかった。
【0047】
次に、本実施形態に係る遮光織物を構成する経糸と緯糸との糸使い及び織密度(経糸と緯糸の打ち込み本数)について説明する。本実施形態に係る遮光織物は、表面層、中間層、及び、裏面層から構成され、表面層及び裏面層を構成する一連の経糸が、中間層を構成する緯糸を外観上被覆する。そこで、経糸には、良好な外観を構成する審美性と柔軟性、また、必要により断熱性などの機能も要求される。一方、緯糸には、基本性能である遮光性が要求され、経糸との組合せによる柔軟性、断熱性なども要求される。
【0048】
そこで、本実施形態において、経糸には、ポリエステル繊維又はポリアミド繊維からなマルチフィラメント糸を使用することが好ましい。経糸にマルチフィラメント糸を使用することにより、遮光織物に審美性と柔軟性とを付与することができる。なお、経糸のマルチフィラメント糸の総繊度は、30~250dtexの範囲内にあることが好ましく、50~150dtexの範囲内にあることがより好ましい。また、マルチフィラメント糸を構成する単糸の単糸繊度は、0.5~4dtexの範囲内にあることが好ましく、0.5~2dtexの範囲内にあることがより好ましい。経糸に、単糸繊度が0.5~4dtexの範囲内にあり、総繊度が30~250dtexの範囲内にあるマルチフィラメント糸を使用することにより、中間層を構成する緯糸を十分に被覆することができ、且つ、遮光織物の審美性と柔軟性とを発現することができる。
【0049】
本実施形態に係る遮光織物は、遮光カーテンなどの用途で機能を発揮するものであるが、その場合には断熱性などの機能も要求されることがある。なお、本実施形態に係る遮光織物は、表面層、中間層、及び、裏面層から構成される3層構造の織物であることから、基本的には良好な断熱性をも有している。しかし、更に断熱性を向上させる場合には、経糸を構成するマルチフィラメント糸として、酸化チタン(TiO)などの無機微粒子を含有した糸を採用することが好ましい。酸化チタン(特に微粒子酸化チタン)には、赤外線反射性能があり、繊維に含有することにより繊維材料の断熱性を向上させることができる。
【0050】
なお、マルチフィラメント糸を構成する単糸への無機微粒子の含有量は、特に限定するものではないが、1~4重量%の範囲内で含有することが好ましい。無機微粒子の含有量を更に多くするために、マルチフィラメント糸を構成する単糸を芯鞘繊維として、芯部分に10重量%以上の無機微粒子を含有するようにしてもよい。また、酸化チタン以外の無機微粒子として、酸化亜鉛、酸化アルミニウムなどを使用してもよい。
【0051】
一方、緯糸にも、ポリエステル繊維又はポリアミド繊維からなるマルチフィラメント糸を使用することが好ましい。緯糸にマルチフィラメント糸を使用することにより、緯糸が構成する中間層の空隙が少なくなり、光の漏れが少なくなって基本性能である遮光性が向上する。また、経糸のマルチフィラメント糸との相乗効果により遮光織物の柔軟性や断熱性も向上する。なお、緯糸のマルチフィラメント糸を構成する単糸に扁平断面糸、Y形断面糸、クロス断面糸などの異形断面糸を採用することにより、中間層の空隙が更に少なくなり、遮光性がより向上する。
【0052】
なお、緯糸のマルチフィラメント糸の総繊度は、100~700dtexの範囲内にあることが好ましく、200~400dtexの範囲内にあることがより好ましい。また、マルチフィラメント糸を構成する単糸の単糸繊度は、1~5dtexの範囲内にあることが好ましい。緯糸に、単糸繊度が1~5dtexの範囲内にあり、総繊度が100~700dtexの範囲内にあるマルチフィラメント糸を使用することにより、中間層の機能である遮光性を十分に発現することができ、且つ、遮光織物の柔軟性や断熱性を向上することができる。
【0053】
本実施形態に係る遮光織物の基本性能である遮光性、及び、付加機能である柔軟性、断熱性を発現するためには、経糸と緯糸とにマルチフィラメント糸を使用することに加え、これらの経糸と緯糸との織密度が重要である。本実施形態においては、織密度を経糸の打ち込み本数及び緯糸の打ち込み本数で表現する。遮光織物の打ち込み本数は、使用するマルチフィラメント糸の繊度(単糸繊度及び総繊度)との関係、及び、経糸と緯糸との相互関係が重要である。
【0054】
なお、本実施形態においては、上述の経糸の繊度及び緯糸の繊度との関係から、経糸の打ち込み本数は、200~600本/2.54cmの範囲内にあることが好ましく、300~400本/2.54cmの範囲内にあることがより好ましい。一方、緯糸の打ち込み本数は、50~150本/2.54cmの範囲内にあることが好ましく、60~100本/2.54cmの範囲内にあることがより好ましい。このような繊度と織密度(打ち込み本数)との組合せにより、中間層による遮光性の発現と、表面層及び裏面層による中間層の遮蔽性が向上する。
【0055】
次に、経糸及び緯糸の色彩について説明する。遮光織物の用途は、主に遮光カーテンであるが、これだけに限られるものではない。多くの用途に使用される遮光織物には、外観の審美性が要求される。そこで、外観を主として構成する経糸は、あらゆる色彩に対応する必要がある。よって、ポリエステル繊維又はポリアミド繊維からなる経糸は、製織前の糸染(先染糸)、又は、製織後の染色や捺染により対処することができる。
【0056】
一方、中間層を主として構成する緯糸は、基本的にその大部分が表面層及び裏面層から見えるものではない。また、主として遮光性を発現するものであり、黒色又は濃色であることが好ましい。黒色又は濃色の緯糸を得る方法としては、染色する方法と原液着色繊維(原着糸)を使用する方法とがある。また、染色する方法においても、製織前の糸染と製織後の染色とがある。しかし、製織後の染色においては、緯糸を黒色又は濃色に染色した場合、外観を主として構成する経糸も黒色又は濃色に染色される場合があるので好ましくはない。
【0057】
そこで、緯糸には基本的に原着糸又は先染糸を使用することが好ましい。例えば、カーボンブラックを含有した黒色の原着糸などを使用することができる。なお、カーボンブラックの含有量は、特に限定するものではないが、例えば、0.5~3重量%の範囲内で含有することが好ましい。また、カーボンブラックに代えて他の顔料を含有した、ネイビーブルー、レッド、ブラウンなど濃色の原着糸を使用してもよい。更に、先染糸を使用する場合には、経糸の色とは異なるあらゆる色に対処することができる。
【0058】
一方、製織後の染色においては、経糸と緯糸とに異種の繊維を使用して製織することで対処することができる。例えば、経糸と緯糸の一方をポリエステル繊維とし、他方をポリアミド繊維とすることで、異なる染料(分散染料と、酸性染料又は含金染料との組合せ)で染色して経糸と緯糸とを異色に染色することができる。また、経糸と緯糸の一方をレギュラー・ポリエステル繊維とし、他方をカチオン可染ポリエステル繊維とすることで、異なる染料(分散染料と、カチオン染料との組合せ)で染色して経糸と緯糸とを異色に染色することができる。
【0059】
なお、上記いずれかの方法で緯糸を黒色又は濃色とした場合、L表色系における明度の値(L値)が30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。緯糸のL値が30以下の場合には、織物の一方の面から入射した光が中間層の黒色又は濃色の繊維表面で吸収され、他方の面に透過する光の量が減衰して高度の遮光性を発現することが容易となる。
【0060】
次に、本実施形態に係る遮光織物について実施例1により具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例1にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
本実施例1においては、図1の織物組織図で示した飛数7の遮光織物を製織した。使用した経糸には、総繊度83dtex/72filament、単糸繊度1.15dtexのポリエステル繊維のマルチフィラメント糸を使用した。なお、本実施例1の経糸には、酸化チタン(TiO)を2重量%含有した白色糸を使用して断熱性の向上を図った。
【0062】
一方、使用した緯糸には、総繊度333dtex/192filament、単糸繊度1.73dtexのポリエステル繊維のマルチフィラメント糸を使用した。なお、本実施例1の緯糸には、カーボンブラックを2重量%含有した黒色の原着糸を使用して遮光性の向上を図った。使用した黒色の原着糸のL表色系における明度の値(L値)は、20以下であった。
【0063】
本実施例1においては、上記経糸と緯糸とを使用して遮光織物を製織した。製織された遮光織物は、仕上げ工程を経て表面層と裏面層を主として構成する一連の経糸が互いに密着するようになり、中間層を構成する緯糸を外観上被覆して表裏が白色の経二重織物となった。この遮光織物は、目付247g/m、厚み0.55mm、経糸の打ち込み本数377本/2.54cm、緯糸の打ち込み本数76本/2.54cmであった。なお、経糸の打ち込み本数は、表面層の経糸と裏面層の経糸との合計の数字である。本実施例1の織物の構成を表1に示す。
【0064】
次に、本実施例1に対して、比較例1の遮光織物を製織した。比較例1の遮光織物は、上記特許文献1で説明した従来の遮光織物であって、その織組織は経二重サテン織物である。図2は、上記特許文献1に示した従来の遮光織物の一例(比較例1の遮光織物)の織物組織図である。上述のように、上記特許文献1の遮光織物は、本発明者らの提案であって、現在の市場においても高い遮光性が評価されているものである。
【0065】
比較例1においては、図2の織物組織図で示した経二重サテン織物を製織した。使用した経糸及び緯糸は実施例1と同じ糸を使用し、性能比較のため織物の仕上げ幅を実施例1に合わせて経糸密度(経糸の打ち込み本数)を揃えるようにした。また、製織された比較例1の遮光織物は、実施例1と同様に、仕上げ工程を経て表面層と裏面層を主として構成する一連の経糸が互いに密着するようになり、中間層を構成する緯糸を外観上被覆して表裏が白色の経二重サテン織物となった。
【0066】
製織した比較例1の遮光織物は、目付252g/m、厚み0.49mm、経糸の打ち込み本数377本/2.54cm、緯糸の打ち込み本数79本/2.54cmであった。なお、経糸の打ち込み本数は、表面層の経糸と裏面層の経糸との合計の数字である。比較例1の織物の構成を表1に示す。
【0067】
≪性能評価≫
次に、得られた実施例1と比較例1との性能を評価した。評価項目として、遮光性、断熱性、風合い、外観の審美性を評価した。遮光性は、JIS L 1055:2009「カーテンの遮光性試験方法(A法)」と、一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(以下「QTEC」という)の断熱性試験法(QTEC法)との2種類の試験法で評価した。また、断熱性は、QTECの断熱性試験法(赤外ランプ60℃法)で評価した。また、風合いは、評価員による官能評価と、JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法(剛軟度A法;45°カンチレバー法)」で評価した。また、外観の審美性は、評価員による官能評価と、L表色系における織物表面の明度の値(L値)で評価した。本実施例1及び比較例1の評価結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1において、実施例1と比較例1の遮光織物は、仕上げ工程において織物の仕上げ幅を合わせたことにより、経糸密度(経糸の打ち込み本数)が揃っていた。一方、緯糸の打ち込み本数は実施例1の遮光織物より比較例1の遮光織物の方が多くなった。これにより、比較例1の遮光織物の目付が、実施例1の遮光織物の目付より大きくなっている。しかし、織物の厚みは、実施例1の遮光織物の方が比較例1の遮光織物より厚くなった。
【0070】
実施例1の遮光織物の遮光性は、JIS法において99.994%であって、JIS遮光率1級(99.99%以上)と評価された。一方、比較例1の遮光織物の遮光性は、JIS法において99.984%であって、JIS遮光率2級(99.80%以上、99.99%未満)と評価された。上述のように、比較例1の遮光織物は現在の市場においても高い遮光性が評価されているが、JIS遮光率1級を安定して維持することが難しかった。これに対して、実施例1の遮光織物は、JIS遮光率1級を安定して維持できると判断される。
【0071】
また、QTEC法による遮光性は、照度ルクス(lx)で評価する。実施例1の遮光織物の遮光性が24.64ルクス(lx)であり、比較例1の遮光織物の65.56ルクス(lx)より大幅に改善されていることが分かる。
【0072】
次に、遮光織物の断熱性を評価したQTECの赤外ランプ60℃法においては、試験装置内のブラックパネルに設置した温度センサーの値から直射光が当たる物質の温度を測定して断熱効果率(直射)を求める。一方、直射光を遮った槽内の空気温度を温度センサーで測定して断熱効果率(槽内)を求める。実施例1の遮光織物の断熱効果率の値は、直射57.9%、槽内47.6%であった。一方、比較例1の遮光織物の断熱効果率の値は、直射56.6%、槽内45.4%であった。いずれの遮光織物の断熱効果率の値も良好なものであったが、実施例1の遮光織物による断熱性の向上が確認できた。
【0073】
次に、遮光織物の風合いを評価したJISの剛軟度(45°カンチレバー法)においては、数字が小さいほうが柔軟な織物と評価される。実施例1の遮光織物の剛軟度(柔軟性)の値は、経方向39mm、緯方向40mmであった。一方、比較例1の遮光織物の剛軟度(柔軟性)の値は、経方向55mm、緯方向40mmであった。いずれの遮光織物の剛軟度(柔軟性)の値も、良好で柔軟な織物と評価されるものであった。しかし、実施例1の遮光織物は、経方向と緯方向の剛軟度(柔軟性)の値が略同じであった。つまり、織物の方向性を問わず、柔軟性に優れた織物であることが分かる。更に、評価員による官能評価においても、実施例1の遮光織物の柔軟性が高く評価された。
【0074】
次に、遮光織物の外観の審美性においては、評価員による官能評価において実施例1の遮光織物の審美性が高く評価された。また、織物表面の明度の値(L値)は、白(100)と黒(0)との間で評価される。実施例1及び比較例1の遮光織物は、いずれも酸化チタンを含有した同じ経糸を使用した白色織物である。実施例1のL値は、84.63であった。一方、比較例1のL値は、81.92であった。いずれの遮光織物の白度の値も白色織物として良好なものであったが、実施例1の遮光織物による白度の向上が確認できた。このことにより、実施例1の遮光織物では、織物表面を構成する白色の経糸が中間層を構成する黒色の緯糸を十分に被覆していることが分かる。
【0075】
また、図3は、実施例1と比較例1の各遮光織物の外観(表面における経糸の状態)を示す(ア)実施例1、(イ)比較例1の拡大写真である。図3において、図示経方向に白く並んでいるのが表面層を構成する一連の白色の経糸である。一方、白色の経糸の間から黒く見えるのが、中間層を構成する黒色の緯糸である。図3から分かるように、実施例1の遮光織物では、織物表面を構成する白色の経糸が中間層を構成する黒色の緯糸を十分に被覆していることが分かる。これらのことにより、実施例1の遮光織物の遮光性が向上するだけでなく、外観の審美性も向上していることが分かる。
【0076】
これまで説明したように、本発明によれば、JIS遮光率1級の性能を安定して発揮し、且つ、中間層の糸が露出して外観を損ねることがなく、柔軟な風合いを発現する遮光織物を提供することができる。
【0077】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態及び実施例1に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記実施例1においては、飛数7の経二重織物を製織した。しかし、これに限定するものではなく、飛数を変化させて製織するようにしてもよい。
(2)上記実施例1においては、緯糸に黒色の原着糸を使用した。しかし、これに限定するものではなく、緯糸に他の色の原着糸や先染糸などを使用するようにしてもよい。
(3)上記実施例1においては、経糸に白色糸を使用した。しかし、これに限定するものではなく、経糸にも各色の原着糸や先染糸などを使用するようにしてもよい。
(4)上記実施例1においては、経糸に白色糸(酸化チタン含有による)を使用した。しかし、これに限定するものではなく、経糸に未染色の糸を使用して製織後に染色又は捺染するようにしてもよい。
【要約】
【課題】JIS遮光率1級の性能を安定して発揮し、且つ、中間層の糸が露出して外観を損ねることがなく、柔軟な風合いを発現する遮光織物を提供する。
【解決手段】表面層、中間層、及び、裏面層を構成する織物であって、経糸と緯糸に共にマルチフィラメント糸を使用し、表面層及び裏面層がいずれも主として経糸で構成され、中間層が主として緯糸で構成されている。織組織は、織物組織図における経糸番号Lと緯糸番号Mと、経糸がn本の緯糸の上下に浮き沈みする規則的な構成を採用することにより、表面層及び裏面層を構成する一連の経糸が中間層を外観上被覆すると共に、遮光性を発現する。
【選択図】図1
図1
図2
図3